(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241001BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20241001BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20241001BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 U
B32B7/025
B32B5/02 A
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2021537833
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019780
(87)【国際公開番号】W WO2021241567
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020091129
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 健史
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
(72)【発明者】
【氏名】西澤 英人
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111031776(CN,A)
【文献】特開2004-134604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H05K 7/20
B32B 7/025
B32B 5/02
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱材層1、導電性繊維シート、及び放熱材層2を含み、
放熱材層1、導電性繊維シート、放熱材層2の順に積層されており、
(A)非接触抵抗計による抵抗値が10~350Ω/□であり、
(B)積層方向の熱伝導率が3W/m・K以上であり、且つ
(C)積層方向の絶縁破壊電圧が2.5kV以上である、
電波吸収体。
【請求項2】
前記放熱材層1の熱伝導率が0.5W/m・K以上、4W/m・K以下である、請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記放熱材層1の厚みが1200μm以下である、請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記放熱材層1の厚みが300μm以上である、請求項1~3のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記放熱材層1の厚みが300μm未満である、請求項1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記導電性繊維シートが融点250℃以上の樹脂を含む繊維基材を有する、請求項1~5のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項7】
前記放熱材層1がセラミックスを含有する、請求項1~6のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項8】
前記放熱材層2が炭素材料を含有する、請求項1~7のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項9】
前記放熱材層1側が電波入射面になるように用いるための、請求項1~8のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項10】
請求項1~9に記載の電波吸収体を筐体内面に有する筐体。
【請求項11】
請求項1~9に記載の電波吸収体を筐体の開口部に有する筐体。
【請求項12】
請求項10又は11記載の筐体を有する電子デバイス。
【請求項13】
永久稿1~9に記載の電波吸収体が電波吸収対象物の周囲に配置された電波吸収成形体。
【請求項14】
請求項1~9に記載の電波吸収体の一方の面が電波吸収対象物と接するように配置された、電子デバイス。
【請求項15】
請求項1~9に記載の電波吸収体の一方の面が放熱部材と接するように配置された、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯通信機器、電子機器、家庭用電化製品では、電波の漏洩や侵入を防止するために、電波吸収材料を施した部材が用いられている。近年では、特に電波を利用した電子機器(情報通信機器)においては、他の電子機器の誤作動及び信号劣化の防止、並びに、人体への悪影響の防止の観点から、不要な電磁波を吸収する電波吸収体が広く採用されている。電波吸収体としては、各種ゴムや樹脂材料に磁性体金属粉を分散させてなるものが用いられている。また、例えば、布帛の表面上に金属が付着されたノイズ吸収布帛が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5722608号
【文献】特開2004-13464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
5GやIoTなど大容量・高速通信化していく中で、ノイズ対策に加え、ノイズの発生源のICチップから生じる熱への対策(放熱性・伝熱)も求められている。特許文献2では電波吸収性能と放熱性を上げるために磁性フィラーと放熱材を添加した電波吸収体が検討されている。しかし、磁性フィラーを含む電波吸収体は、磁性フィラーの含有量を確保するために一定の厚みが必要であり、電波吸収体自体の放熱性が不十分となることがあった。また、特許文献2記載のように磁性フィラーを含む電波吸収体に放熱材を添加すると、磁性フィラーの含有量が制御されるので、電波吸収性能が不十分となることがあった。つまり、このような系では、放熱性と電波吸収性能がトレードオフの関係であり、大容量・高速通信において生じる電波ノイズ及び発熱への対策として不十分であることが分かった。さらに、電波吸収体は、光トランシーバをはじめとする用途においてはICチップの近傍に設置されることがあり。回路短絡を防ぐため、一定の絶縁性を有することも求められる。
【0005】
本発明は、電波吸収性、放熱性、及び絶縁性を全て備える電波吸収体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、放熱材層1、導電性繊維シート、及び放熱材層2を含み、放熱材層1、導電性繊維シート、放熱材層2の順に積層されており、(A)非接触抵抗計による抵抗値が10~350Ω/□であり、(B)積層方向の熱伝導率が3W/m・K以上であり、且つ(C)積層方向の絶縁破壊電圧が2.5kV以上である、電波吸収体であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 放熱材層1、導電性繊維シート、及び放熱材層2を含み、
放熱材層1、導電性繊維シート、放熱材層2の順に積層されており、
(A)非接触抵抗計による抵抗値が10~350Ω/□であり、
(B)積層方向の熱伝導率が3W/m・K以上であり、且つ
(C)積層方向の絶縁破壊電圧が2.5kV以上である、
電波吸収体。
項2. 前記放熱材層1の熱伝導率が0.5W/m・K以上、4W/m・K以下である、項1に記載の電波吸収体。
項3. 前記放熱材層1の厚みが1200μm以下である、項1又は2に記載の電波吸収体。
項4. 前記放熱材層1の厚みが300μm以上である、項1~3のいずれかに記載の電波吸収体。
項5. 前記放熱材層1の厚みが300μm未満である、項1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
項6. 前記導電性繊維シートが融点250℃以上の樹脂を含む繊維基材を有する、項1~5のいずれかに記載の電波吸収体。
項7. 前記放熱材層1がセラミックスを含有する、項1~6のいずれかに記載の電波吸収体。
項8. 前記放熱材層2が炭素材料を含有する、項1~7のいずれかに記載の電波吸収体。
項9. 前記放熱材層1側が電波入射面になるように用いるための、項1~8のいずれかに記載の電波吸収体。
項10. 項1~9に記載の電波吸収体を筐体内面に有する筐体。
項11. 項1~9に記載の電波吸収体を筐体の開口部に有する筐体。
項12. 項10又は11記載の筐体を有する電子デバイス。
項13. 永久稿1~9に記載の電波吸収体が電波吸収対象物の周囲に配置された電波吸収成形体。
項14. 項1~9に記載の電波吸収体の一方の面が電波吸収対象物と接するように配置された、電子デバイス。
項15. 項1~9に記載の電波吸収体の一方の面が放熱部材と接するように配置された、電子デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電波吸収性、放熱性、及び絶縁性を全て備える電波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】金属層及び繊維基材を含む導電性繊維シートの一例を示す概略断面図である。
【
図2】金属層、バリア層、及び繊維基材を含む導電性繊維シートの一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の電波吸収体の一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の電波吸収体が筐体の開口部及び筐体内壁に配置された場合の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の電波吸収体をチップ上に貼付し、ヒートスプレッダに貼りつける場合の一例を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の電波吸収体を電波ノイズの発生源を覆うようにして使用する場合の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
本発明は、その一態様において、放熱材層1、導電性繊維シート、及び放熱材層2を含み、放熱材層1、導電性繊維シート、放熱材層2の順に積層されており、(A)非接触抵抗計による抵抗値が10~350Ω/□であり、(B)積層方向の熱伝導率が3W/m・K以上であり、且つ(C)積層方向の絶縁破壊電圧が2.5kV以上である、電波吸収体(本明細書において、「本発明の電波吸収体」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0012】
<1.導電性繊維シート>
導電性繊維シートは、導電性を有する繊維シートである限り特に制限されない。導電性繊維シートは、好ましくは、繊維基材及び該繊維基材の少なくとも一方の面に配置されてなる金属層を含む。
【0013】
<1-1.繊維基材>
繊維基材は、繊維又は繊維束を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。繊維基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、繊維及び繊維束以外の成分が含まれていてもよい。その場合、繊維基材中の繊維及び繊維束の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0014】
繊維を構成する素材は、繊維状である又は繊維状に成形可能な素材である限り、特に制限されない。繊維の素材としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド(PPA)樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリメチルペンテン(PMP)樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)等の合成樹脂、天然樹脂、セルロース、ガラス等が挙げられる。繊維は、1種単独の繊維素材から構成されるものであってもよいし、2種以上の繊維素材が複数組み合わされたものであってもよい。
【0015】
繊維基材の目付(坪量)は、例えば1~500g/m2、好ましくは3~300g/m2、より好ましくは5~150g/m2である。
【0016】
繊維基材の厚みは、例えば1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。また、放熱性を向上させる観点から、繊維基材の厚みは例えば3000μm以下、好ましくは1500μm以下、より好ましくは800μm以下である。この理由については、特定の理論に束縛されないが、繊維基材の厚みを抑えることによって、放熱材層1及び放熱材層2の間を熱が移動しやすくなり、放熱性がより向上すると考えられる。
【0017】
繊維基材の密度の下限は、好ましくは2.0×104g/m3であり、より好ましくは1.0×105g/m3であり、さらに好ましくは1.5×105g/m3である。繊維基材の密度の上限は好ましくは8.0×105g/m3であり、より好ましくは6.0×105g/m3である。前記繊維基材の密度であることによって、導電性繊維基材の電波吸収性を向上させることが可能である。この理由については、特定の理論に束縛されないが、特定範囲の密度の繊維基材を用いることで、金属が繊維基材表面にのみ付着するのではなく、繊維基材内部にまで入り込むため、電波吸収特性(特に吸収性)が向上すると考えられる。さらに、金属が繊維基材内部にまで入り込むことによって、金属を介して、放熱材層1及び放熱材層2の間を熱が移動しやすくなり、放熱性がより向上すると考えられる。
【0018】
繊維基材としては、例えば、不織布、メッシュ、織物、編物等が挙げられる。これらの中でも、柔軟性、追従性等の観点から、好ましくは不織布が挙げられる。
【0019】
繊維基材は、本発明の電波吸収体の耐熱性の観点から、融点250℃以上の樹脂を含むことが好ましい。当該樹脂は、繊維基材を構成する繊維の素材であってもよいし、繊維以外の成分であってもよい。このような樹脂としては、例えば各種LCP樹脂、PET樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン66)等が挙げられる。
【0020】
繊維基材の層構成は特に制限されない。繊維基材は、1種単独の繊維基材から構成されるものであってもよいし、2種以上の繊維基材が複数組み合わされた(積層された)ものであってもよい。
【0021】
なお、本明細書において、融点とは、JIS K7121に準拠して、示差走差熱量計(DSC;例えば、メトラー社製「TA3000」)を用いて測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、DSC装置にて測定する際、測定サンプルを10~20mg取り、アルミ製パンへ封入した後、キャリアガスとして窒素を流量100mL/minで流し、20℃/minで昇温したときの1st runの吸収ピークを測定する。ポリマーの種類により上記の1st runで明確な吸収ピークが出現しない場合には、50℃/minの昇温速度で予想される融解温度より50℃ 高い温度まで昇温し、その温度で3分間以上保持し、完全に溶解した後、80℃/minの速度で50℃まで冷却し、しかる後、20℃/minの昇温速度で2nd runの吸熱ピークを測定する。
【0022】
<1-2.金属層>
金属層は、繊維基材上に直接又は他の層を介して配置される、換言すれば繊維基材の有する2つの主面の少なくとも一方の表面上に配置される。積層関係について、導電性繊維シートの一例である
図1を用いて説明すると、本発明の一態様においては、繊維基材3の有する主面の一方の表面上に金属層1が配置される。
【0023】
金属層は、金属を素材として含む層である限り、特に制限されない。金属層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属層中の金属量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0024】
金属層を構成する金属としては、電波吸収特性を発揮できるものであれば特に制限されない。金属としては、例えばニッケル、モリブデン、クロム、チタン、アルミニウム、金、銀、銅、亜鉛、スズ、白金、鉄、インジウム、これらの金属を含む合金、及び、これらの金属又はこれらの金属を含む合金の金属化合物等が挙げられる。金属層は、導電性繊維シートの電波吸収特性の経時変化を抑制する(耐久性の)観点から、ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有することが好ましい。
【0025】
上記ニッケル、モリブデン、クロム、チタン、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含有する場合、その含有量は、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0026】
金属層としては、耐久性、シート抵抗の調整が容易である観点から、モリブデンを含有する金属層が好ましく用いられる。モリブデンの含有量の下限は特に限定されないが、より耐久性を高める観点から、5重量%が好ましく、7重量%がより好ましく、9重量%が更に好ましく、11重量%がより更に好ましく、13重量%が特に好ましく、15重量%が非常に好ましく、16重量%が最も好ましい。また、上記モリブデンの含有量の上限は、表面抵抗値の調整の容易化の観点から、70重量%が好ましく、30重量%がより好ましく、25重量%がさらに好ましく、20重量%が更に好ましい。
【0027】
金属層は、モリブデンを含有している場合、さらにニッケル及びクロムを含有することがより好ましい。金属層にモリブデンに加えてニッケル及びクロムを含有することでより耐久性に優れた導電性繊維シートとすることができる。ニッケル、クロム及びモリブデンを含有する合金としては、例えば、ハステロイB-2、B-3、C-4、C-2000、C-22、C-276、G-30、N、W、X等の各種グレードが挙げられる。
【0028】
金属層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、モリブデンの含有量が5重量%以上、ニッケルの含有量が40重量%以上、クロムの含有量が1重量%以上であることが好ましい。モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量が上記範囲であることで、より耐久性に優れた導電性繊維シートとすることができる。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が7重量%以上、ニッケル含有量が45重量%以上、クロム含有量が3重量%以上であることがより好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が9重量%以上、ニッケル含有量が47重量%以上、クロム含有量が5重量%以上であることが更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が11重量%以上、ニッケル含有量が50重量%以上、クロム含有量が10重量%以上であることがより更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が13重量%以上、ニッケル含有量が53重量%以上、クロム含有量が12重量%以上であることが特に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が15重量%以上、ニッケル含有量が55重量%以上、クロム含有量が15重量%以上であることが非常に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が16重量%以上、ニッケル含有量が57重量%以上、クロム含有量が16重量%以上であることが最も好ましい。また、上記ニッケルの含有量は、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、65重量%以下であることが更に好ましい。上記クロム含有量の上限は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
金属層は、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属を含有してもよい。そのような金属としては、例えば、鉄、コバルト、タングステン、マンガン、チタン等が挙げられる。金属層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の上限は、金属層の耐久性の観点から、好ましくは45重量%、より好ましくは40重量%、更に好ましくは35重量%、より更に好ましくは30重量%、特に好ましくは25重量%、非常に好ましくは23重量%である。上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の下限は、例えば1重量%以上である。
【0030】
金属層が鉄を含有する場合、金属層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は25重量%、より好ましい上限は20重量%、更に好ましい上限は15重量%であり、好ましい下限は1重量%である。金属層がコバルト及び/又はマンガンを含有する場合、金属層の耐久性の観点から、それぞれ独立して、含有量の好ましい上限は5重量%、より好ましい上限は4重量%、更に好ましい上限は3重量%であり、好ましい下限は0.1重量%である。上記金属層がタングステンを含有する場合、金属層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は8重量%、より好ましい上限は6重量%、更に好ましい上限は4重量%であり、好ましい下限は1重量%である。
【0031】
金属層は、ケイ素及び/又は炭素を含有してもよい。金属層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、それぞれ独立して、1重量%以下であることが好ましく0.5重量%以下であることがより好ましい。また、金属層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、0.01重量%以上であることが好ましい。
【0032】
金属層に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量は、後述のシート抵抗を満たし得るものである限り特に制限されない。金属層に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量は、例えば5~200μg/cm2、好ましくは10~100μg/cm2、より好ましくは20~50μg/cm2である。
【0033】
金属層に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量は、蛍光X線分析により求めることができる。具体的には、走査型蛍光X線分析装置(例えば、リガク社製走査型蛍光X線分析装置 ZSX PrimusIII+もしくは、同等品)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒として分析する。測定対象の成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度が算出できるようにする。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を付着量に換算することができる。同一のサンプルに5回分析を行い、その平均値を平均付着量とする。
【0034】
金属層の層構成は特に制限されない。金属層は、1種単独の金属層から構成されるものであってもよいし、2種以上の金属層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0035】
<1-3.バリア層>
導電性繊維シートは、金属層の少なくとも一方の面上(好ましくは両面上)にバリア層を有することが好ましい。積層関係について、導電性繊維シートの一例である
図2を用いて説明すると、本発明の一態様においては、繊維基材3の有する主面の一方の表面上にバリア層2が配置され、当該バリア層2(バリア層2a)の繊維基材3側とは反対側の表面上に金属層1が配置され、当該金属層1の繊維基材3側とは反対側の表面上に、バリア層2aとはべつのバリア層2(バリア層2b)が配置される。
【0036】
バリア層は、金属層を保護し、その劣化を抑えることができる層である限り、特に制限されないが、金属層とは異なる組成であることが好ましく、金属層を構成する金属の酸化物とは異なる層であることがより好ましい。バリア層の素材としては、例えば金属、半金属、合金、金属化合物、半金属化合物等が挙げられる。バリア層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、上記素材以外の成分が含まれていてもよい。その場合、バリア層中の上記素材量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0037】
バリア層に好適に用いられる金属としては、例えばニッケル、チタン、アルミニウム、ニオブ、コバルト等が挙げられる。バリア層に好適に用いられる半金属としては、例えばケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス等が挙げられる。
【0038】
バリア層に用いられる金属化合物及び半金属化合物の具体例としては、SiO2、SiOx(Xは酸化数を表し、0<X<2)、Al2O3、MgAl2O4、CuO、CuN、TiO2、TiN、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0039】
バリア層は、好ましくはニッケル、ケイ素、チタン、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する。これらの中でも、好ましくはケイ素が挙げられる。
【0040】
バリア層に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量は、後述のシート抵抗を満たし得るものである限り特に制限されない。バリア層に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量は、例えば1~50μg/cm2、好ましくは2~20μg/cm2、より好ましくは4~10μg/cm2である。
【0041】
バリア層の層構成は特に制限されない。バリア層は、1種単独のバリア層から構成されるものであってもよいし、2種以上のバリア層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0042】
<2.放熱材層>
本明細書において、放熱材層1及び放熱材層2をまとめて、「放熱材層」と示すこともある。本発明の電波吸収体は、好適には、放熱材層1側が電波入射面になるように用いられる。
【0043】
放熱材層は、放熱材を含む層であり、本発明の電波吸収体における後述の本発明の特性(A)~(C)を充足させることができるものである限り、特に制限されない。放熱材層は、好ましくは、バインダー樹脂、及び放熱性粒子を含む。
【0044】
バインダー樹脂は、放熱性粒子を分散可能なものである限り、特に制限されない。バインダー樹脂としては、例えばシリコーン樹脂、架橋性ゴム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン、ポリイミドシリコーン、熱硬化型ポリフェニレンエーテル、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル、フッ素ゴム等が挙げられる。バインダー樹脂は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0045】
バインダー樹脂としては、加工が容易で、かつ、耐熱性及び絶縁性が高い観点から、シリコーン樹脂を好適に使用できる。シリコーン樹脂としては、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とから構成されるシリコーン樹脂であることが好ましい。そのようなシリコーン樹脂としては、例えば、付加反応型液状シリコーン樹脂、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0046】
バインダー樹脂の含有量は、放熱材層100質量%に対して、例えば1~70質量%である。該含有量は、加工性、熱伝導性、放熱材粒子の分散性が向上する観点から、好ましくは5~50質量%、より好ましくは15~30質量%である。
【0047】
放熱性粒子は、バインダー樹脂と共に放熱材層を構成した場合に、後述の本発明の特性(A)~(C)を充足させることができるものである限り、特に制限されない。
【0048】
放熱性粒子としては、例えば金属酸化物(アルミナ、酸化マグネシウム等)、金属窒化物(窒化アルミ、窒化ホウ素、窒化ケイ素等)、金属炭化物(炭化ケイ素等)等のセラミックス、バリウム類、マグネシウム類、カルシウム類、金類、銀、銅、鋼、酸化チタン、アルミニウム、錫、亜鉛、ジルコニウム、ジュラルミン、モリブデン、ベリリウムなどの金属及びその水酸化物、タルクなどの鉱物、炭素材料(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フィラー、グラフェン、グラファイト、ダイヤモンド等)等が挙げられる。
【0049】
放熱性粒子の形状としては、特に制限されず、例えば、繊維状、針状、鱗片状、球状、ペレット状などが挙げられる。
【0050】
放熱性粒子として、絶縁性に優れ、放熱材層1に好適に使用できるという観点から、好ましくはアルミナ等のセラミックス、より好ましくはアルミナ等が挙げられる。一方、放熱性に優れ、放熱材層2に好適に使用できるという観点から、好ましくは炭素材料、より好ましくは繊維状炭素材料(炭素繊維)等が挙げられる。
【0051】
放熱性粒子の粒子径(長径と短径の平均)は、特に制限されず、例えば0.1~50μm、好ましくは0.2~15μmである。該粒子径は、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)等によって測定し、任意に選択された複数(例えば50)のサンプルの粒子径の数平均値とすることができる。
【0052】
放熱性粒子は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0053】
放熱性粒子の含有量は、放熱材層100質量%に対して、例えば30~99質量%である。該含有量は、加工性、熱伝導性、観点から、好ましくは50~95質量%、より好ましくは70~85質量%である。
【0054】
放熱材層の厚みは、特に制限されない。放熱材層1側が電波入射面になるように用いられる場合、入射面側の放熱材層の厚みを大きくすることによって、絶縁性をより向上させることができることから、放熱材層1の厚みは好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、さらにより好ましくは300μm以上である。また、放熱材層1の厚みは、電波吸収性及び放熱性を向上させる観点から、好ましくは1500μm以下、より好ましくは1200μm以下である。放熱材層2の厚みは、特に制限されない。放熱性、取り扱い性の観点から、放熱材層2の厚みは、好ましくは100~3000μm、より好ましくは200~2000μmである。
【0055】
本発明の一態様においては、放熱材層1の厚みが300μm未満であることが好ましい。放熱材層1側が電波入射面になるように用いられる場合、入射面側の放熱材層の厚みを小さくすることによって、放熱性をより向上させることができ、さらに全体の厚みも抑制することができる。
【0056】
放熱材層の熱伝導率は、特に制限されないが、放熱材層の熱伝導率は例えば0.5W/m・K以上、好ましくは3W/m・K以上である。放熱材層の熱伝導率の上限は特に制限されないが、例えば、20W/m・K、10W/m・Kである。放熱材層1の熱伝導率は、好ましくは0.5W/m・K以上、より好ましくは1W/m・K以上である。放熱材層1の熱伝導率の上限は、特に制限されないが、絶縁性と放熱性を両立する観点から、好ましくは4W/m・K、より好ましくは2W/m・Kである。放熱材層2の熱伝導率は、好ましくは6W/m・K以上、より好ましくは10W/m・K以上である。放熱材層2の熱伝導率の上限は、特に制限されないが、例えば50W/m・K、25W/m・Kである。放熱材層の熱伝導率を制御する方法は特に限定されるものではなく、例えば、上述の放熱性粒子の種類、形状、含有量、放熱材層の厚み等によって調整することができる。尚、上記「放熱材層の熱伝導率」とは、電波吸収体に用いられる際の、電波吸収体の積層方向における熱伝導率であることが好ましい。
【0057】
放熱材層の層構成は特に制限されない。放熱材層は、1種単独の放熱材層から構成されるものであってもよいし、2種以上の放熱材層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0058】
<3.層構成>
本発明の電波吸収体は、放熱材層1、導電性繊維シート、及び放熱材層2を含み、放熱材層1、導電性繊維シート、放熱材層2の順に積層されている限りにおいて、特に制限されない。これら3つの層は、隣接して配置されていてもよいし、他の層(例えば接着剤層)を介して配置されていてもよいが、好ましくは隣接して(他の層を介さずに)配置されている。積層関係について、本発明の電波吸収体の一例である
図3を用いて説明すると、本発明の一態様においては、導電性繊維シート9の有する主面の一方の表面上に放熱材層1 10が配置され、導電性繊維シート9の有する主面の他方の表面上に放熱材層2 11が配置される。
【0059】
本発明の電波吸収体においては、放熱材層の材料の一部が導電性繊維シートの一部又は全部に浸透していてもよい。
【0060】
<4.特性>
本発明の電波吸収体は、(A)非接触抵抗計による抵抗値が10~350Ω/□であり、(B)積層方向の熱伝導率が3W/m・K以上であり、且つ(C)積層方向の絶縁破壊電圧が2.5kV以上である、という特性を備える。これらの特性と上述の層構成等が相まって、電波吸収性、放熱性、及び絶縁性を全て備えることが可能となる。
【0061】
特性(A)における抵抗値は、好ましくは10~350Ω/□、より好ましくは20~250Ω/□、さらに好ましくは40~150Ω/□である。抵抗値が上記範囲内であることによって、電波吸収体の吸収性能が優れたものとなる。
【0062】
抵抗値は、次のようにして測定することができる。非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製、EC-80P又はその同等品)を用いて渦電流法により、放熱材層1側にプローブを当てて測定することができる。
【0063】
上記抵抗値を制御する方法は特に限定されるものではない。上記抵抗値を制御する方法はとしては例えば、上述した金属層に由来する金属元素及び/又は半金属元素付着量を制御する方法等が挙げられる。
【0064】
特性(B)における積層方向の熱伝導率は、好ましくは3W/m・K以上、より好ましくは6W/m・K以上、さらに好ましくは8W/m・K以上である。特性(B)における積層方向の熱伝導率の上限は特に制限されないが、例えば20W/m・Kである。十分な絶縁性を有しつつ、放熱性にも優れるという観点から、好ましくは15W/m・K以下、より好ましくは10W/m・K以下である。
【0065】
熱伝導率は、ASTM-D5470に準拠し熱伝導率測定装置(Menteor Graphics社製、T3Ster DynTIM Tester、又はその同等品)を用いて測定することができる。
【0066】
上記熱伝導率を制御する方法は特に限定されるものではない。上記熱伝導率を制御する方法としては例えば、放熱材層の熱伝導率を調整する方法、繊維基材の厚みを調整する方法、繊維基材の密度を調整する方法等が挙げられる。
【0067】
特性(C)における絶縁破壊電圧は、絶縁性に優れる観点から、好ましくは2.5kV以上、より好ましくは3.0kV以上、さらに好ましくは4.0kV以上である。また、放熱性に優れる観点から、好ましくは15kV以下、より好ましくは10kV以下、さらに好ましくは8kV以下である。尚、本発明の一態様においては、積層方向の絶縁破壊電圧が2.5kV以上であることが好ましい。
【0068】
絶縁破壊電圧は、ASTM-D149に準拠し耐電圧試験器(EXTECH Electronics社製 7343 AC Withstand Voltage Tester、又はその同等品)を用い、サンプルを電極に接触させ、両電極に0.5kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加し、絶縁破壊した時点での電圧を測定する。
【0069】
上記絶縁破壊電圧を制御する方法は特に限定されるものではない。上記絶縁破壊電圧を制御する方法としては例えば、放熱材層の厚みを調整する方法、放熱材層が含む放熱性粒子の種類を調整する方法、放熱材層が含むバインダーの種類を調整する方法等が挙げられる。
【0070】
<5.製造方法>
本発明の電波吸収体は、繊維基材の表面に金属、バリア層構成成分等を付着させて導電性繊維シートを得る工程、及び導電性繊維シート及び放熱材層を含む各層を積層させる工程を含む方法により得ることができる。
【0071】
特に限定されないが、前記付着は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、パルスレーザーデポジション法等により行うことができる。これらの中でも、膜厚制御性、電波吸収特性等の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0072】
スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
【0073】
スパッタリング法により付着する場合、表面とその内部とにおける金属付着量の勾配は、スパッタ時のガス圧により調整することもできる。スパッタ時のガス圧を下げることで、繊維基材の内部、より深くまで金属を付着させることができ、緩やかな勾配で分布させることができる。これにより、電波吸収性がより向上する。
【0074】
本発明における放熱材層の成型方法は特に限定されない。例えばプレス成形、射出成形、押出成形、カレンダー成形、ロール成形、ドクターブレード成形、印刷、塗工等が挙げられる。
【0075】
導電性繊維シート及び放熱材層を含む各層の積層方法は、特に制限されない。例えば、硬化前の放熱材層材料を導電性繊維シートに含侵させてから放熱材層材料を硬化させる方法、接着剤層を介して積層する方法等が挙げられる。
【0076】
<6.用途>
本発明の電波吸収体は、好適には、放熱材層1側が電波入射面になるように用いられる。
【0077】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、不要な電磁波を吸収する性能を有するため、例えば、光トランシーバや、次世代移動通信システム(5G)における電波対策部材として好適に利用できる。また、その他の用途として自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)や自動車衝突防止システムに用いるミリ波レーダーにおいても、電波干渉抑制やノイズ低減の目的で用いることができる。本発明の電波吸収体が対象とする電波の周波数は、例えば1GHz以上150GHz以下、好ましくは1.5GHz以上85GHz以下、さらに好ましくは40GHz以下である。本発明の電波吸収体は、その一態様において、電波吸収体の一方の面を電波吸収対象物と接するように配置することが好ましく、他方の面が放熱部材と接するように配置することがより好ましい。積層関係について、本発明の電波吸収体の使用態様の一例である
図5を用いて説明すると、本発明の一態様においては、金属筐体4の内壁上に配置されたICチップ7の前記内壁とは反対側の表面上に、本発明の電波吸収体8の一方の放熱材層が接するように配置され、本発明の電波吸収体の他方の放熱材層の表面上にヒートスプレッダー12が配置される。電波吸収体の一方の面が電波吸収対象物と接するように配置された電子デバイスもまた、本発明の1つである。電波吸収体の一方の面が放熱部材と接するように配置された電子デバイスもまた、本発明の1つである。
【0078】
電波吸収対象物としては特に限定されない。電波吸収対象物としては例えば、LSI等の電子部品、ガラスエポキシ基盤及びFPC等の回路表面又はその裏面、部品間の接続ケーブル及びコネクター部、電子部品・装置を入れる筐体、保持体等の裏又は表、電源線、伝送線等のケーブル等が挙げられる。放熱部材としては、発生する熱を伝導して外部に放散させるものであれば特に限定されない。放熱部材としては、例えば、放熱器、冷却器、ヒートシンク、ヒートスプレッダ、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、金属カバー、筐体等が挙げられる。
【0079】
電波吸収対象物はノイズ発生源であるとともに、発熱が生じることが多い。本発明の電波吸収体は電波吸収性及び放熱性に優れるため、伝熱部材として好適に用いることができる。
【0080】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、電波吸収対象物の周囲を覆うことにより使用することができる。このため、対象物の形状に応じて、適宜成形される。成形されたものを、本明細書においては、「電波吸収成形体」と表す。電波吸収体が電波吸収対象物の周囲に配置された電波吸収成形体もまた、本発明の1つである。この場合について、本発明の電波吸収体の使用態様の一例である
図5を用いて説明すると、本発明の一態様においては、ICチップ7の周囲に、ICチップ7全体を覆うように本発明の電波吸収体8が配置される。
【0081】
本発明の電波吸収体は、電波ノイズの発生源から離れた位置に配置し、電波吸収対象物の周囲を覆うように用いられることで、不要な電波ノイズを吸収する性能をより効果的に発揮することができる。この場合について、本発明の電波吸収体の使用態様の一例である
図4を用いて説明すると、本発明の一態様においては、金属筐体4の内壁上にICチップ7が配置され、前記内壁に対向する内壁上に本発明の電波吸収体5が配置される。また、電波ノイズの発生源から離れた位置に配置することで、LSI等から発生する熱の放熱を妨げにくくなる。本発明の電波吸収体は電波吸収性の観点から、電波ノイズの発生源からλ/2π以上離れた位置に配置することが好ましい。なお、λは対象とする電波の波長を示す。また、筐体内部で電波ノイズが生じた場合、空洞共振現象により筐体自身も電波ノイズ源になりうる。本発明の電波吸収体を筐体内壁に配置することで、空洞共振現象を抑制し、筐体からのノイズ発生を抑制することもできる。本発明の電波吸収体を筐体内面に有する筐体、及び、該筐体を有する電子デバイスもまた、本発明の1つである。
【0082】
本発明の電波吸収体は、その一態様において、電子デバイス等を内蔵する筐体が開口部を有する場合、その開口部に貼付することにより、優れた電波吸収性を有する筐体を得ることができる。この場合について、本発明の電波吸収体の使用態様の一例である
図4を用いて説明すると、本発明の一態様においては、開口部を有する金属筐体4の内壁上にICチップ7が配置され、開口部に本発明の電波吸収体6が配置される。電子デバイス等を内蔵する筐体が開口部を有する場合、内部の電子デバイスから発生した電波ノイズが開口部から漏れ出たり、開口部がアンテナとして機能し電波ノイズを再放射したりする場合がある。このような場合に、筐体の開口部に本発明の電波吸収体を配置することで、筐体から発するノイズを低減することができる。本発明の電波吸収体を筐体の開口部に有する筐体、及び、該筐体を有する電子デバイスもまた、本発明の1つである。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0084】
(1)電波吸収体の製造
(実施例1)
繊維基材1を真空装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入しガス圧を0.5Paとして、DCマグネトロンスパッタリング法により、繊維基材1の片面に、ケイ素からなるバリア層1、ハステロイからなる金属層、及びケイ素からなるバリア層2をこの順に積層させ、導電性繊維シートを得た。
【0085】
導電性繊維シートにおける元素付着量を、蛍光X線分析により求めた。具体的には、走査型蛍光X線分析装置(リガク社製走査型蛍光X線分析装置 ZSX PrimusIII+)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒として分析した。測定対象の成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度が算出できるようにした。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を付着量に換算した。同一のサンプルに5回分析を行い、その平均値を平均付着量とした。
【0086】
熱伝導性充填剤として酸化アルミニウム(昭和電工株式会社製 AS40)を85%wt%充填した液状の付加反応型シリコーン(Siltech社 Silmer G102、以下調製例1)をドクターブレード成形によりシーティングし、その片面に上記の導電性繊維シートを積層し、加熱硬化させ放熱材層1と導電性繊維シートとを積層した。次に作製した放熱材層1と導電性繊維シートとの積層シートの不織布面側に放熱材層2として積水ポリマテック株式会社製MANION-D3を液状のシリコーン(Siltech社 Silmer G102)を10μmの接着剤層として接着積層し、電波吸収体(放熱材層1/導電性繊維シート/放熱材層2)を得た。
【0087】
(実施例2~14及び比較例1~5)
繊維基材の種類、元素付着量、スパッタにより形成させる層の層構成、放熱材層の材料、放熱材層の厚み、放熱材層の有無等を下記表に記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にして電波吸収体を得た。比較例3においては、放熱材層1を形成せず、電波吸収体(すなわち、導電性繊維シート/放熱材層2からなる積層体)を得た。
【0088】
なお、使用した繊維基材の種類は以下の通りである。
繊維基材1:メルトブロー不織布、材質LCP(融点350℃) 、目付6g/m2、厚み24μm
繊維基材2:メッシュ、材質PET(融点255℃)、目付19g/m2、厚み100μm。
【0089】
バリア層に使用した合金は以下の通りである。
モネル(CuNi):Ni65%、Cu33%、Fe2%。
【0090】
放熱材層2の種類は以下の通りである。
・積水ポリマテック株式会社製MANION-D3 厚み2000μm 熱伝導率19W/m・K 炭素繊維含有
・積水ポリマテック株式会社製PT-V 厚み2000μm 熱伝導率12W/m・K 炭素繊維含有
・積水ポリマテック株式会社製MANION-50α 厚み2000μm 熱伝導率17W/m・K 炭素繊維含有
・積水ポリマテック株式会社製MANION-D5 厚み2000μm 熱伝導率17W/m・K 炭素繊維含有
・積水ポリマテック株式会社製MANION-ST 厚み200μm 熱伝導率25W/m・K 炭素繊維含有
【0091】
(2)物性の測定
得られた電波吸収体の各種物性を測定した。
【0092】
(2-1)抵抗値の測定
ナプソン株式会社製非接触式抵抗測定器EC-80Pを用いて、放熱材層1側にプローブを当てて渦電流法により測定した。
【0093】
(2-2)熱伝導率の測定
熱伝導率測定装置(Menteor Graphics社製、T3Ster DynTIM Testerを用いてASTM-D5470に準拠し、電波吸収体の積層方向の熱伝導率を測定した。
【0094】
(2-3)絶縁破壊電圧の測定
耐電圧試験器(EXTECH Electronics社製 7343 AC Withstand Voltage Tester)を用い、ASTM-D149に準拠して測定した。具体的には電波吸収体を電極に接触させ、両電極に0.5kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加し、電波吸収体が積層方向に絶縁破壊した時点での電圧を測定した。なお比較例3については、表面が導電性を有する構成であり、測定可能範囲よりも低い電圧で絶縁破壊したため、測定不能であった。
【0095】
(3)性能の評価
得られた電波吸収体の各種性能を評価した。
【0096】
(3-1)電波吸収特性の評価
得られた電波吸収体について、IEC62333規格に準拠したマイクロストリップライン法に従って測定した。具体的には、インピーダンスが50Ωであるマイクロストリップライン上に10cm角に切り出した電波吸収シートを載置し、試料の上から500gの荷重をかけた。次いで、マイクロストリップライン上に、ネットワークアナライザ(Hewlett-Packard製 E8361A)より0.1GHz~10.0GHzの高周波信号を入射し、Sパラメータを測定した。測定された試料の積載位置からの反射量:S11および透過量:S21を用いて、以下の式(A)よりloss率を算出した。
loss率(Ploss/Pin)=1-(S112+S212)/1 式(A)
【0097】
電波吸収性の評価(loss率)
電波吸収性について、各周波数におけるloss率を基に、以下の基準で評価した。
◎:loss率が0.7以上
○:loss率が0.50以上、0.7未満。
×:loss率が0.5未満。
【0098】
電波反射性の評価(S11)
電波反射性について、各周波数におけるS11を基に、以下の基準で評価した。
◎:S11が、0.10以下。
○:S11が、0.10を超えて、0.20以下。
×:S11が0.20を超える。
【0099】
(3-2)放熱性の評価
10×10mmにカットした電波吸収体を同じサイズのマイクロセラミックヒーター上に設置した。更に、その電波吸収体の他方の面上に40×54×25mmのヒートシンクを100g荷重で積層した。なお、マイクロセラミックヒーターはメラミン断熱材上に設置してあり、マイクロセラミックヒーターの裏側には熱電対を取り付けた。放熱性はチップヒーターが23℃になるように調整した状態から、12Vの電圧を加え24秒後の温度を測定し評価した。24秒後の到達温度が50℃以下の場合◎、50℃を超え55℃以下の場合○、55℃を超える場合×とした。
【0100】
(4)結果
結果を表1~2に示す。
【0101】
【0102】
【符号の説明】
【0103】
1 金属層
2 バリア層
3 繊維基材
4 金属筐体
5 本発明の電波吸収体(金属筐体内壁に配置)
6 本発明の電波吸収体(開口部に配置)
7 ICチップ
8 本発明の電波吸収体
9 導電性繊維シート
10 放熱材層1
11 放熱材層2
12 ヒートスプレッダー