(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ターボ分子ポンプ、真空ポンプシステム、及び真空チャンバを排気する方法
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20241001BHJP
F04B 37/04 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04D19/04 D
F04B37/04
(21)【出願番号】P 2021570362
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2020064964
(87)【国際公開番号】W WO2020239975
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-19
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507261364
【氏名又は名称】エドワーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】チュー アンドリュー ディヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ラム ピーター チャールズ
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/207706(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0207632(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ分子ポンプであって、
複数のロータブレード列を有するロータと、複数のステータブレード列を有するステータと、外側ケーシングと、
を備え、前記ロータは前記ステータ内に回転可能に取り付けられており、
前記ロータ及び前記ステータのうちの少なくとも一方の表面の少なくとも一部が、非蒸発性ゲッター材料を含み、
前記ターボ分子ポンプが更に、
圧力を検知する圧力センサーと、
前記非蒸発性ゲッター材料がその活性化温度を上回って加熱されるように、前記ターボ分子ポンプの少なくとも一部を加熱するように構成されたヒーターと、
前記ターボ分子ポンプの動作を制御するための制御回路であって、圧力が第1の所定値を下回ったことを示す前記圧力センサーからの信号に応答して、前記ヒーターを作動させるように構成されている制御回路と、
を備える、ターボ分子ポンプ。
【請求項2】
前記制御回路は、圧力が初期の所定値を下回ったことを示す前記圧力センサーからの信号に応答して、前記ポンプのロータの回転を作動するように更に構成され、前記第1の圧力は前記初期の圧力よりも低い、請求項1に記載のターボ分子ポンプ。
【請求項3】
前記制御回路は、所定の時間及び前記ターボ分子ポンプ内の温度が所定値以上であることを示す温度センサーのうちの1つに応答して、前記ヒーターを非作動にするように更に構成される、請求項1又は2に記載のターボ分子ポンプ。
【請求項4】
前記制御回路は、前記圧力が第2の所定レベルに達したことを検出することに応答して、前記ロータの回転を非作動にするためのロータ非作動信号を生成するように構成されている、請求項1~3の何れかに記載のターボ分子ポンプ。
【請求項5】
前記少なくとも一部が、前記ロータブレード列のサブセット及び前記外側ケーシングの内表面のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~4の何れかに記載のターボ分子ポンプ。
【請求項6】
前記ターボ分子ポンプから出力されるガスを排気するための排気導管を更に備え、前記排気導管の内面の少なくとも一部は、前記非蒸発性ゲッター材料でコーティングされている、請求項1~5の何れかに記載のターボ分子ポンプ。
【請求項7】
前記排気導管の前記少なくとも一部が、前記ターボ分子ポンプに着脱可能に取り付けられている、請求項6に記載のターボ分子ポンプ。
【請求項8】
ターボ分子ポンプであって、
複数のロータブレード列を有するロータと、複数のステータブレード列を有するステータと、外側ケーシングと、
を備え、前記ロータは前記ステータ内に回転可能に取り付けられており、
前記ステータ及び前記外側ケーシングの少なくとも一方の少なくとも一部が、ガスを捕捉するためのガス捕捉構造を含み、前記ガス捕捉構造が、非蒸発性ゲッター材料を含む骨格フレームを含み、前記骨格フレームがエアロゲルから形成されている、ターボ分子ポンプ。
【請求項9】
前記少なくとも一部が、前記ポンプの入口に近接した前記ターボ分子ポンプの静止部分を含む、請求項8に記載のターボ分子ポンプ。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載のターボ分子ポンプを備え、前記ターボ分子ポンプの下流側で前記ターボ分子ポンプと直列に少なくとも1つの更なるポンプを備える、真空ポンプシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの更なるポンプが、更なるターボ分子ポンプを含む、請求項10に記載の真空ポンプシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つの更なるポンプが一次ポンプを含む、請求項10又は11の何れか1項に記載の真空ポンプシステム。
【請求項13】
チャンバを排気する方法であって、
請求項12に記載の真空ポンプシステムを前記チャンバに取り付けるステップと、
前記一次ポンプを用いて前記チャンバを第1の圧力まで排気するステップと、
前記ターボ分子ポンプのロータを回転させるステップと、
ヒーターを作動させて前記ターボ分子ポンプを加熱し、前記非蒸発性ゲッター材料を活性化するステップと、
前記ヒーターを非作動にするステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記ターボ分子ポンプの回転を停止し、前記非蒸発性ゲッター材料による捕捉を用いたポンプ送給プロセスの提供を継続するステップを更に含む、方法。
【請求項15】
前記加熱ステップが、前記真空チャンバ及び前記ターボ分子ポンプを加熱してガス放出を促進するベークアウトプロセスの一部である、ことを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、ターボ分子ポンプ、真空ポンプシステム、及び真空チャンバを排気する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプにより得られる最終圧力は、異なるガスの分圧とその圧縮比に依存する。水素などの軽量の分子ガスの圧縮比は小さく、これは、このガスをポンプ送給するポンプの能力を妨げる。混合ガスが存在する場合、水素などの軽量ガスは、ポンプ及びポンプ排気管内に集まり、軽量ガスの存在がポンプの到達可能な最終圧力を増大させる。
【0003】
WO2017/207706号は、真空と接触する部分を有し且つ非蒸発性ゲッター(NEG)材料によって少なくとも部分的にコーティングされた少なくとも1つの構成要素備えたポンプとすることができる真空装置を開示している。この材料は、真空の維持及び圧力を更に低減することに寄与する。本明細書では、ターボ分子ポンプの入口領域での使用を教示している。本明細書はまた、NEGコーティングは、ポンプを20℃に加熱することで活性化されること、又は使用前に80℃に加熱することで部分的に活性化させることができることを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ターボ分子ポンプ、特に軽量ガスがポンプ送給されているポンプにより得られる最終圧力を改善できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、複数のロータブレード列を有するロータと、複数のステータブレード列を有するステータと、外側ケーシングと、を備え、上記ロータは上記ステータ内に回転可能に取り付けられており、上記ロータ及び上記ステータのうちの少なくとも一方の表面の少なくとも一部が、非蒸発性ゲッター材料を含み、上記ターボ分子ポンプは更に、圧力を検知するための圧力センサーと、上記非蒸発性ゲッター材料がその活性化温度を上回って加熱されるように、上記ターボ分子ポンプの少なくとも一部を加熱するように構成されたヒーターと、上記ターボ分子ポンプの動作を制御するための制御回路であって、圧力が第1の所定値を下回ったことを示す上記圧力センサーからの信号に応答して、上記ヒーターを作動させるように構成された制御回路と、を備えたターボ分子ポンプを提供する。
【0007】
異なるタイプの真空ポンプは異なる特性を有し、非蒸発性ゲッターポンプなどの一部のポンプは、ターボ分子ポンプの特性に相補的な特性を有しており、一部の状況ではこれら2つのポンプが共に使用されるようになる。しかしながら、この2つのポンプを併用することは、サイズ及びコストが増大するという欠点、及びコンダクタンスの低下をもたらす流体流路における障害物が追加されるという欠点を有する。本発明の発明者らは、ターボ分子ポンプの表面の少なくとも一部が、非蒸発性ゲッター材料を含み、この表面がこのような材料でコーティングされているか、ポンプの一部がこのような材料から形成されていれば、ポンプを組み合わせることによる欠点を克服又は少なくとも軽減できると認識していた。このようにして、ターボ分子ポンプ(TMP)は、ターボ分子ポンプの特性と非蒸発性ゲッターポンプの特性の少なくとも一部とを組み合わせて、これにより両タイプのポンプの利点の多くを提供することができる。
【0008】
詳細には、非蒸発性ゲッター材料は、水素などの軽量ガスを取り込むのに極めて有効であり、従って、従来のTMPにより得られる最終圧力を向上させるのに用いることができる。更に、低振動又は磁場中での動作の必要性に起因してTMPをしばらく停止する必要がある場合、NEG材料の存在は、チャンバ内の真空状態を維持し、圧力が過度に上昇するのを防ぐのに役立つことになる。
【0009】
加えて、ガス放出及び刺激脱離の影響に起因して上昇する可能性のあるガス量がポンプ送給されることに起因して、NEG材料が枯渇するという欠点は、同じ有限のポンプ容量を有していないTMPによって軽減される。ある一定の真空に達した後にのみNEG材料の活性化が起こる場合には、特に当てはまる。NEG材料は、初期状態では不活性であり、動作中に一定の温度を上回って加熱することによってのみ活性化することができる。このようにした材料の活性化の能力により、高圧下での排気の初期段階で活性化されることで、早期に使い尽くされることが抑制される。
【0010】
更に、NEG材料は、窒素などの幾つかの不活性分子の取り込みに有効ではない場合があるが、TMPは、これらを極めて効果的にポンプ送給することができる。このようにして、特性の組み合わせにより、特に効果的なポンプが得られ、TMPポンプ内の表面の少なくとも一部がNEG材料を含むことにより、流体流の追加の妨げがないか又は極めて小さい組み合わせ型のポンプが達成され、従って、コンダクタンス(conductance)が過度に低下することがない。
【0011】
幾つかの実施形態では、上記制御回路は、圧力が初期の所定値を下回ったことを示す圧力センサーからの信号に応答して、上記ポンプのロータの回転を作動するように更に構成され、上記第1の圧力は上記初期の所定値よりも低い。
【0012】
ターボ分子ポンプは、ある低圧力に到達するまで作動しないようにすることができ、次いで低圧力に到達したときに作動すると、ターボポンプを加熱してNEG材料を活性化することができる。
【0013】
幾つかの実施形態では、上記制御回路は、所定の時間、及び上記ターボ分子ポンプ内の温度が所定値以上であることを示す温度センサーのうちの1つに応答して、上記ヒーターを非作動にするように更に構成される。
【0014】
幾つかの実施形態において、上記制御回路は、上記圧力が第2の所定のレベルに達したことを検出したことに応答して、上記ロータの回転を非作動にするためのロータ非作動信号を生成するように構成される。
【0015】
場合によっては、ある低圧に達すると、ロータを停止し、NEG材料によって真空を維持することができる。このことは、振動に敏感なプロセスで使用される真空チャンバを排気するのにポンプが使用される場合に特に有利である。
【0016】
幾つかの実施形態では、上記少なくとも一部は変わる場合があるが、上記少なくとも一部は、上記ロータブレード列のサブセットの表面と上記外側ケーシングの内表面のうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
ポンプ内の既存の表面にNEG材料を設けることで、流れを過度に妨げてコンダクタンスを低下させることなく、NEGポンプの特性がTMPポンプ内に提供される。
【0018】
幾つかの実施形態では、ポンプのNEG特性を更に向上させるために、NEGコーティングを有する材料の追加のストリップをポンプシステムに導入することができる。これはコンダクタンスに影響を及ぼすことになるが、材料の利用可能な表面が増えることになるので、実装によってはこれは有利とすることができる。しかしながら、他の実施形態では、NEG材料が、TMPの既存の表面とTMPと真空チャンバ及び/又は真空ポンプシステムの下流部分とを接続する導管又はパイプの表面にコーティングとしてのみ提供される場合に好ましい。
【0019】
幾つかの実施形態では、ターボ分子ポンプは、上記ターボ分子ポンプから出力されたガスを排気するための排気導管を更に備え、上記排気導管の内面の少なくとも一部は、非蒸発性ゲッター材料でコーティングされる。
【0020】
前述のように、TMPは、軽量分子を圧縮するにはあまり効果的ではなく、これらの分子は、ポンプ及びポンプ排気内で集中状態になる傾向がある。このため、排気内にNEG材料をコーティングとして設けることで、ポンプの送給能力を高め、最終的性能を向上させることができる。
【0021】
幾つかの実施形態では、上記排気導管の少なくとも一部は、上記ターボ分子ポンプに着脱可能に取り付けられている。
【0022】
排気導管をコーティングする更なる利点は、このような導管がTMP自体の一部よりも容易に交換可能であることであり、従って、好適な着脱可能設計により、NEG材料が枯渇又は使い尽くされたときに排気導管を簡単に交換することができ、NEG材料を補充することができ、その寿命にわたってポンプ性能を向上させることができる。
【0023】
幾つかの実施形態において、上記ターボ分子ポンプは、上記非蒸発性ゲッター材料がその活性化温度を上回って加熱されるように、上記ターボ分子ポンプの少なくとも一部を加熱するように構成されたヒーターを備える。
【0024】
NEG材料の利点の1つは、NEG材料の活性化には熱が必要であり、圧力が高い場所でポンプサイクルの開始時には、NEG材料が活性化されず、これによって高圧で動作することが回避され、その寿命を維持することができる。圧力が好適に低値にまで低下した後、TMPを加熱して、NEG材料を活性化させることができる。この点で、従来のTMPの多くは、加熱バンドを有し、真空チャンバのベークアウト時にTMPも加熱されて、温度差を回避又は低減する。ベークアウトは、材料を活性化する良好な機会であり、ベークアウト時の圧力がNEG材料の活性化に好適とすることができる。
【0025】
第2の態様は、複数のロータブレード列を有するロータと、複数のステータブレード列を有するステータと、外側ケーシングと、を備え、上記ロータは上記ステータ内に回転可能に取り付けられており、上記ステータ及び上記外側ケーシングの少なくとも一方の少なくとも一部は、ガスを捕捉するためのガス捕捉構造を含み、上記ガス捕捉構造は、非蒸発性ゲッター材料を含む骨格フレームを含み、上記骨格フレームがエアロゲルから形成されている、ターボ分子ポンプを提供する。
【0026】
ターボ分子ポンプに、ガス分子を捕捉するために利用可能な表面積を増加させる構造において非蒸発性ゲッター材料の形態で捕捉材料を提供することは、ポンプの性能と寿命を増大させる。ポンプのポンプ送給速度/容量は、低圧では捕捉材料の表面積に依存するので、表面積を増やすことでポンプ送給速度/容量を向上させることができる。
【0027】
エアロゲルは、極めて高い多孔率とそれに対応する高い表面積を有する物質であり、このため、かかるガス捕捉材料に特に効果的な構造を形成し、捕捉材料の単位体積及び単位質量当たりの極めて高い表面積を可能にする。
【0028】
エアロゲルとは、ゲルの乾燥した多孔質固体フレームワークである。超低密度では、固体様凝集性を提供するゲルの部分から形成される。この固体部分は、エアロゲルが形成されたときにゲルの液体成分から分離される。液体成分がゲルの体積の大部分を占めるので、結果として得られる構造は超多孔質であり、気体分子を取り込むのに利用可能な大きな表面積が得られる。このようにして、規定体積内で有意に増大した表面積を提供することができる。捕捉部位を提供するのは表面積であり、従って、従来の表面と比較して、所与の量の捕捉材料で所与のサイズのポンプのポンプ速度及び寿命を大幅に向上させることができる。
【0029】
幾つかの実施形態では、上記骨格フレームワークは、上記ガス捕捉材料でコーティングされる。他の実施形態では、上記骨格フレームワークは、上記ガス捕捉材料を含み、上記エアロゲルは上記ガス捕捉材料から形成される。
【0030】
上述のように、エアロゲルは、その多孔質の性質の結果として、極めて高い表面積を有する構造を形成する。この表面積がガス捕捉材料を含む場合、ある一定体積により提供できるガス捕捉量が大幅に増加する。ガス捕捉材料は、別の材料で形成されたエアロゲル構造体上にコーティングすることができ、又は幾つかの実施形態では、エアロゲルは、ガス捕捉材料自体で形成することができる。ガス捕捉材料の構造を形成することで、別の支持構造の必要性がなくなり、ガス捕捉構造を形成するための効率的な手段となり得る。更に、エアロゲルにコーティングがない場合、最終製品の多孔率がより高くなることができる。
【0031】
幾つかの実施形態では、上記骨格フレームワークは、60%を上回る、場合によっては70%を上回る多孔率を有するオープンセルラー構造を含む。
【0032】
幾つかの実施形態において、上記少なくとも一部は、上記ポンプの入口に近接した上記ターボ分子ポンプの静止部分を含む。
【0033】
幾つかの実施形態では、上記少なくとも一部は、上記ターボ分子ポンプの入口に上記ロータを取り付けるためのスパイダーを含む。
【0034】
非蒸発性ゲッター材料を含む部分は、より低い圧力を生じる入口に近接していることが好ましいとすることができる。これはまた、エアロゲル材料から形成されている、入口のステータ、スペーサ、スパイダーなどの静的表面である場合に有利とすることができる。
【0035】
第3の態様では、第1又は第2の態様によるターボ分子ポンプを含み、上記ターボ分子ポンプの下流で上記ターボ分子ポンプと直列に少なくとも1つの更なるポンプを含む、真空ポンプシステムを提供する。
【0036】
ターボ分子ポンプの下流側でターボ分子ポンプと直列に1又は2以上の更なるポンプを有することが有利とすることができる。これらの更なるポンプは、チャンバの初期ポンプダウンのための一次ポンプであって、ターボ分子ポンプのためのバッキングポンプとして機能する一次ポンプを含むことができる。この点に関して、一次ポンプは、ターボ分子ポンプが作動する前に、チャンバ内及びターボ分子ポンプ内の圧力を低下させることができる。その後、ターボ分子ポンプを始動させ、一定時間期間後、ターボ分子ポンプを加熱して、非蒸発性ゲッター材料を活性化させることができる。
【0037】
幾つかの実施形態において、上記少なくとも1つの更なるポンプは、更なるターボ分子ポンプを含む。
【0038】
少なくとも1つの更なるポンプがターボ分子ポンプであることは、特に有効とすることができる。一実施形態のターボ分子ポンプは、効果的なポンプ送給を提供し、排気中の軽量ガスを低減し、更なるTMPがガスストリームの追加圧縮を提供することができる。また、これを用いて、第1のTMPにおいてゲッター材料を活性化する前に高真空を提供し、これによりゲッター材料の寿命を延ばすのを助けることができる。
【0039】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つの更なるポンプは、排気導管を介してターボ分子ポンプに接続される。
【0040】
第4の態様は、第1の態様による真空ポンプシステムを上記チャンバに取り付けるステップと、上記一次ポンプを用いて上記チャンバを第1の圧力まで排気するステップと、ターボ分子ポンプを始動させるステップと、ヒーターを作動させて上記ターボ分子ポンプを加熱し、上記非蒸発性ゲッター材料を活性化するステップと、上記ヒーターを非作動にするステップと、を含む、チャンバを排気させる方法を提供する。
【0041】
一実施形態による真空ポンプシステムを使用してチャンバを排気させるために、システムが真空チャンバに取り付けられ、チャンバは、一次ポンプを使用して第1の圧力まで排気される。第1の圧力に達すると、ターボ分子ポンプが始動され、圧力が更に低下する。ある特定の時点で、ヒーターが作動されて、ターボ分子ポンプを加熱し、これが非蒸発性ゲッター材料を活性化させる。ある特定の時点で、ゲッター材料が、これを活性化させるのに十分な温度に達すると、ヒーターがスイッチオフされてポンプがポンプ送給を続ける。システムは、ターボ分子ポンプのポンプ送給動作とゲッター材料のポンプ送給動作とを組み合わせてポンプ送給を継続し、水素などの何れかの軽量ガスを含むガスに効果的なポンプ送給を提供する。
【0042】
幾つかの実施形態では、本方法は、上記ターボ分子ポンプの回転を停止し、上記非蒸発性ゲッター材料による捕捉を用いた上記真空チャンバのポンプ送給を継続するステップを更に含む。
【0043】
場合によっては、ターボ分子ポンプの回転を停止することが有利とすることができ、例えば、ターボ分子ポンプが分析装置で使用され、振動が分析ステップに有害である場合、又は磁気軸受の磁場が、このような分析装置に影響を与えるか、又は分析装置により影響を受ける可能性がある場合である。一実施形態によるターボ分子ポンプを停止すると、捕捉材料が依然として活性化しており、それ自体がポンプ送給を継続して提供するので、真空を許容程度まで維持することができるようになる。
【0044】
幾つかの実施形態では、上記加熱ステップは、ベークアウトプロセスの一部であり、その間、真空チャンバ及びターボ分子ポンプは、ガス放出を促すように加熱される。
【0045】
加熱ステップは、圧力が高いときに分子を捕捉することによりゲッター材料が使い尽くされないように、圧力が一定値を下回ったときにゲッター材料を単に活性化する別のステップとすることができ、一部の事例では、ガス放出を促すために真空チャンバ及びターボ分子ポンプが加熱されるベークアウトプロセスの一部とすることができる。この点に関して、真空チャンバは、ガス放出を促進し汚染を低減するために頻繁に加熱され、多くの場合、同時にターボ分子ポンプも加熱されて、チャンバからの高温ガスがターボ分子ポンプを介して排気されたときにターボ分子ポンプのブレード上で許容できないレベルの凝結が存在しないようにする。このようなベークアウトステップは、ゲッター材料を活性化するのに好都合な方法であり、このシステムの更なる利点を提供する。
【0046】
ゲッター材料が使い尽くされた場合、又は使い尽くされる寸前である場合、ポンプシステムは、従来のターボ分子ポンプとして依然として動作し、許容できる真空を提供することができる点に留意されたい。
【0047】
更なる特定の及び好ましい態様は、添付の独立請求項及び従属請求項に記載されている。従属請求項の特徴は、必要に応じて独立請求項の特徴と組み合わせることができ、請求項に明示的に記載されている以外の組み合わせることができる。
【0048】
装置の特徴が、機能を提供するように動作可能であると記載された場合、この記載は当該機能を提供する装置の特徴、又は当該機能を提供するように適応又は構成された装置の特徴を含むことを理解されたい。
【0049】
ここで、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】一実施形態による真空ポンプシステムを示す図である。
【
図2】更なる実施形態による真空ポンプシステムを示す図である。
【
図3】一実施形態による方法のステップを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
実施形態についてより詳細に検討する前に、最初に概要を説明する。
【0052】
ゼロフロー状態下でもターボ分子ポンプ(TMP)により達成される最終圧力は、水素の排気ラインの分圧と水素のTMPの圧縮比によって制限される。更に、TMPを停止すべき状況(例えば、振動に敏感な作業時又は高磁場印加時)では、真空レベルが急速に低下する可能性がある。
【0053】
本発明の実施形態は、HV/UHV(高真空及び超高真空)圧力で活性化されたNEGコーティングを使用することでこれらの問題に対処し、これによりTMPの最終及びH2ポンプ送給性能を大幅に向上させることができる。
【0054】
NEGは、H2の排気効率が高いことが知られている。しかしながら、TMPはH2のポンプ送給が劣っている。ブレード列及び上部エンベロープなど、TMPの内面の少なくとも一部をNEG材料でコーティングすることで、NEGとTMPのポンプ送給効率を組み合わせたポンプを提供する。真空システム及びTMPのベークアウトと同時に、NEGを活性化することができる。
【0055】
TMPでは、1×10-7mbarを下回る圧力では、主なガス負荷が次第にH2になり、これがUHVにおけるTMPの最終性能の限界である。NEGコーティングのH2のポンプ送給速度は、@0.35 l/s/cm2である(例えば、金属ストリップは3l/scm2)。真性H2のポンプ送給速度が、およそ300l/sの、ISO160フランジTMPの場合、およそ200cm2のNEGコーティングの各断面積は、70l/sを提供する。
【0056】
およそ3ブレード列+1×内側エンベロープのコーティングは、およそ280l/sのNEG H2速度を提供することになる。
【0057】
以下の利点は、実施形態によって提供することができる。
1.同種の純粋TMPのH2ポンプ送給速度の効果的な倍増
2.TMPが停止した場合でもH2ポンプ送給を継続することができる
3.真空チャンバ、TMP、及びバッキングラインにおけるH2分圧を効果的に低下する。これにより、TMPのH2圧縮比が効果的に「増加」するか、又はバッキングラインのH2分圧が時間と共に上昇するTMPシステムにおいて現在発生しているように、最終圧力が低下するのではなく、時間と共に最終圧力が向上する。
【0058】
NEG/TMP組み合わせポンプは、チャンバの加熱中にNEGの活性化が実施され、ベークアウト中にTMPを作動するUHV及びXHV(超高真空)の状況に最も好適とすることができる。
【0059】
TMPのガス放出と刺激脱離の負荷に対する無限容量は、NEGの有限のポンプ送給容量の制限を克服する。
【0060】
図1は、一実施形態によるターボ分子ポンプ10として示している。このターボ分子ポンプは、ロータ12とステータ14とを備える。本実施形態では、上側ロータブレード表面とステータ14の内面が、非蒸発性ゲッター材料でコーティングされている。他の実施形態では、下側ロータブレードとステータブレードもまた、NEG材料でコーティングすることができる。
【0061】
ターボ分子ポンプ10は、真空チャンバに取り付けるためのフランジ15を有する。また、TMP10は、その上面の周囲に加熱バンド20を有し、これを用いて、NEG材料を活性化させ、真空チャンバのベークアウトプロセス中にスイッチオンされる。
【0062】
TMP10は、導管35を介してバルブ38に取り付けられ、更なる導管36を介して一次ポンプ30に取り付けられる。幾つかの実施形態では、導管35,36の1又は2以上もまた、NEG材料でコーティングされている。
【0063】
一次ポンプ30は、真空チャンバを第1の圧力まで排気させるよう機能し、TMP10が作動すると、真空チャンバを第2の圧力まで排気させる。一次ポンプ30は、稼働し続け、TMPのバッキングポンプとして動作する。第2の圧力に達すると、ヒーター20がオンになり、非蒸発性材料が活性化され、ターボ分子ポンプが分子ポンプとしても捕捉ポンプとしても作動する。
【0064】
この実施形態では、ターボ分子ポンプ10に関連する制御回路45は、圧力センサー42から信号を受け取り、上述の機能を実行するようにTMP10を制御する。詳細には、圧力センサー42が、TMP10内の圧力が第1の圧力まで低下したことを示すと、制御回路45は、ロータ12を作動させ、圧力が第2の圧力まで低下すると、制御回路は、ヒーターバンド20を作動させる。温度センサー(図示せず)が、ポンプ内の温度が非蒸発性ゲッター材料の活性化温度まで上昇したことを示すと、制御回路20はヒーターバンドをオフにする信号を送る。圧力センサー42が、幾つかの実施形態において更に低い圧力に達したことを示すと、制御回路は、ロータの回転を停止するように制御することができ、この時点で、真空チャンバ内の真空は、活性化されたNEG材料によって維持することができる。
【0065】
この実施形態では、2つのポンプを接続する導管36は、それ自体がゲッター材料でコーティングされており、このゲッター材料はまた、加熱によって活性化することができる。導管36はターボ分子ポンプ10に取り外し可能に接続されており、排気の非蒸発性ゲッター材料が枯渇したときには、排気導管36を新鮮な非蒸発性ゲッター材料を有するものと交換することができ、この材料は、加熱時に活性化され、追加の捕捉を提供することができるようになる。この点に関して、導管36は、バルブ機構38を介して取り付けられ、排気導管36の交換の際にチャンバ及びターボ分子ポンプ内の真空状態を維持することができる。
【0066】
他の実施形態では、NEG材料は、エアロゲルのコーティングとするか、又はエアロゲルから形成することができ、このエアロゲル構造は、TMP10の静止部分の一部、特にポンプの入口に隣接する部分を形成することができる。幾つかの実施形態では、ステータ、ブレードスペーサ、及び/又はスパイダーの一部が、エアロゲルで形成することができる。
【0067】
図2は、
図1のものと類似しているが、ターボ分子ポンプ10の下流側に配置された追加のターボ分子ポンプ40を有する、更なる実施形態を示す。ターボ分子ポンプ40はまた、一次ポンプ30によってバックアップされる。
【0068】
複数のバルブ38a、38b、38cがあり、異なるポンプを異なる配置で共に接続することができる。本実施形態では、2つのターボ分子ポンプ10,40間の導管37は、NEG材料でコーティングされており、真空システムに着脱可能に接続されて交換が可能となる。導管37の交換時には、バルブ38aを閉じることができ、幾つかの実施形態では、TMP10は、一次ポンプ30によってバックアップされるように動作を続けることができる。導管37の交換後、バルブ38cを開き、38bを閉じて、TMP40及び導管37の圧力を低下させることができ、TMP40をオンにし、ある特定の時点で、導管37を加熱し、バルブ38aを開くことができる。追加のTMP40は、更に圧力を低下させるのに役立ち、TMP10及び37のNEG材料の結果として、軽量ガスが実質的に除去されたガスを主にポンプ送給し、より良好な圧縮が可能になる。
【0069】
図3は、本発明の一実施形態によるチャンバを排気する方法のステップを示す図である。ステップS10で、チャンバの排気が、一次ポンプがポンプダウンすることで始まる。ステップD05で、圧力が第1の圧力に達したことを圧力センサーが感知すると(第1の圧力は0.1から10
-3mbarの間とすることができる)、TMPはステップS20で作動し、チャンバを第2の圧力にポンプダウンする。ステップD15で、圧力が第2の圧力まで低下したことを圧力センサーが感知すると(第2の圧力は、10
-7から10
-9mbarの領域とすることができる)、ステップS30でヒーターが作動する。ゲッター材料は、TMPを材料の活性化温度まで加熱することにより活性化され、これは真空チャンバのベークアウトと同時に行うことができる。
【0070】
NEG材料が活性化され、D25で活性化温度以上の温度に達したことを温度センサーが示すと、ステップS40でヒーターがスイッチオフされ、ポンプは、D35でより低い圧力に達したことが感知されるまでポンプ送給し続ける。真空ポンプが分析装置のチャンバを排気するのに使用される幾つかの実施形態では、この第3の圧力が分析に必要な圧力となる。このような分析装置は、電子顕微鏡又は質量分析計とすることができる。分析に必要な圧力に達すると、幾つかの実施形態では、
図1のバルブ38を使用してTMPと真空チャンバを分離し、ステップS50でTMPと一次ポンプのスイッチをオフにすることができる。これは、分析装置が振動に敏感な場合に起こる可能性がある。その後、ステップS60で分析装置のスイッチがオンにされ、分析を行い、完了すると、ポンプを再びオンにし、バルブ38を開くことができる。TMPが回転していない間、ポンプ内のNEG材料にガス分子が捕捉されることで、幾らかのポンプ送給を提供することになる。
【0071】
真空システムは、
図1の制御回路45によってこの方法のステップを実行するように制御することができることに留意されたい。
【0072】
本発明の例示的な実施形態について、添付図面を参照しながら本明細書で詳細に開示されたが、本発明は、厳密な実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、当業者によって様々な変更及び修正を実施可能であることは理解される。
【符号の説明】
【0073】
10 ターボ分子ポンプ
12 ロータ
14 ステータ
15 フランジ
20 ヒーター
30 一次ポンプ
35, 36, 39 導管
38, 38a-c バルブ
40 ターボ分子ポンプ
42 圧力センサー
45 制御回路