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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び真空排気システム
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20241001BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20241001BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04C25/02 B
H01L21/302 101G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022093929
(22)【出願日】2022-06-09
(65)【公開番号】P2023180545
(43)【公開日】2023-12-21
【審査請求日】2023-06-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-012812(JP,A)
【文献】特表2022-522883(JP,A)
【文献】特開平10-252651(JP,A)
【文献】特開2004-003503(JP,A)
【文献】特開2006-318806(JP,A)
【文献】特表2014-512627(JP,A)
【文献】特開2006-342791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04C 25/02
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を堆積物の昇華温度以上に加熱する流体加熱手段と、
前記流体の流入口である流体流入口と、
前記流体の流れを制御する流れ制御手段と、を備えた真空ポンプであって、
前記流れ制御手段が、
前記真空ポンプの停止中又は低速運転中に前記真空ポンプ内へ定格運転中に排気可能な最大流量を超える前記流体が供給されるよう、前記流体の流れを制御すること
を特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記流体を前記真空ポンプへ供給可能な流体移送手段を備え、
記最大流量の少なくとも10倍の前記流体を前記真空ポンプへ供給可能であること
を特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記流体の流出口である流体流出口を備えた
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記流体流入口が、前記真空ポンプの排気の流れの経路において、前記流体流出口よりも下流に配設されたこと
を特徴とする請求項3に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記流体流出口と前記流体流入口を接続する前記流体の循環経路が形成され、
前記循環経路にトラップが設けられたこと
を特徴とする請求項3に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記流体流出口と前記流体流入口を接続する前記流体の循環経路が形成され、
前記循環経路にトラップが設けられたこと
を特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
流体を堆積物の昇華温度以上に加熱する流体加熱手段と、
前記流体の流入口である流体流入口を備えた真空ポンプと、
前記流体の流れを制御する流れ制御手段と、を備えた真空排気システムであって、
前記流れ制御手段が、
前記真空ポンプの停止中又は低速運転中に前記真空ポンプ内へ定格運転中に排気可能な最大流量を超える前記流体が供給されるよう、前記流体の流れを制御すること
を特徴とする真空排気システム。
【請求項8】
前記流体の流出口である流体流出口を備えたこと
を特徴とする請求項7に記載の真空排気システム。
【請求項9】
前記流体流出口と前記流体流入口を接続する前記流体の循環経路が形成され、
前記循環経路にトラップが設けられたこと
を特徴とする請求項8に記載の真空排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプ、及び真空排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子(ガス分子)を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある。
【0003】
また、半導体やフラットパネル等(以下では「半導体等」と称する)の製造装置に係る排気用の真空ポンプでは、半導体等の製造過程で生じる反応生成物が、真空ポンプ内に堆積する場合がある。堆積物への対策として、例えば、下記の技術が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-171766号公報
【文献】特開2020-063737号公報
【文献】特開2021-042722号公報
【文献】特開2021-179193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明は、ポンプ内部を流れる気体(凝縮性もしくは凝固性のガス)よりも高温に加熱した不活性気体(ガスバラストガス)を、ポンプ内部に導入する。特許文献1に開示された発明には、不活性気体により反応生成物を希釈することにより、ポンプ内部に反応生成物が堆積することを防ぐ効果がある。しかし、ターボ分子ポンプの場合、ポンプ内に加熱された多量のガスを供給すると、ポンプ内部が直ぐに過熱(オーバーヒート)してしまう。このため、ターボ分子ポンプにおいては、充分な流量や熱量のガスを供給できず、特許文献1に開示された発明と同様な技術を採用しても、充分な堆積防止の効果が得られないと考えられる。また、特許文献1が開示しているのは、反応生成物の堆積を防ぐ技術であり、内部の堆積物を除去する技術ではない。
【0006】
特許文献2に開示された発明は、所定の流量のガスをポンプ内部にパルス状に注入することにより、内部の堆積物を吹き飛ばす効果を発揮すると考えられる。しかし、特許文献2に開示された発明においては、ポンプ内部の壁面に強固に付着した堆積物の除去や、ガスを噴出するノズルから離れた部分の堆積物の除去は困難であると考えられる。
【0007】
特許文献3に開示された発明は、ヒータ(温度上昇手段)を設けて、真空ポンプの内部を加熱する。しかし、特許文献3に開示された発明においては、堆積物を昇華温度に加熱するのに多くの時間を要する。
【0008】
特許文献4に開示された発明は、真空ポンプの内部に昇華温度以上の不活性ガスを導入する。しかし、特許文献4に開示された発明は、堆積物の発生を防止するものであり、発生した堆積物の除去を目的としたものではない。
【0009】
本発明の目的とするところは、多量の高温流体により堆積物を除去することが可能な真空ポンプ、及び、真空排気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために本発明に係る真空ポンプは、
流体を堆積物の昇華温度以上に加熱する流体加熱手段と、
前記流体の流入口である流体流入口と、
前記流体の流れを制御する流れ制御手段と、を備えた真空ポンプであって、
前記流れ制御手段が、
前記真空ポンプの停止中又は低速運転中に前記真空ポンプ内へ定格運転中に排気可能な最大流量を超える前記流体が供給されるよう、前記流体の流れを制御すること
を特徴とする。
(2)上記目的を達成するために本発明に係る真空排気システムは、
流体を堆積物の昇華温度以上に加熱する流体加熱手段と、
前記流体の流入口である流体流入口を備えた真空ポンプと、
前記流体の流れを制御する流れ制御手段と、を備えた真空排気システムであって、
前記流れ制御手段が、
前記真空ポンプの停止中又は低速運転中に前記真空ポンプ内へ定格運転中に排気可能な最大流量を超える前記流体が供給されるよう、前記流体の流れを制御すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記発明によれば、多量の高温流体により堆積物を除去することが可能な真空ポンプ、及び、真空排気システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムの構成を模式的に示す説明図である。
図2】アンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5】第1実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムにおける加熱用流体の流れを模式的に示す説明図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムにおける加熱用流体の流れを模式的に示す説明図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムの第1流体移送手段(流路A)における加熱用流体の流れを模式的に示す説明図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムの第2流体移送手段(流路B)における加熱用流体の流れを模式的に示す説明図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムにおける加熱用流体の流れを模式的に示す説明図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムにおける加熱用流体の流れを模式的に示す説明図である。
図11】本発明の第5実施形態に係る真空ポンプ及び真空排気システムにおける加熱用流体の流れを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0014】
<<ターボ分子ポンプ100の基本構成>>
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0015】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0016】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0017】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0018】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク(「アーマチャディスク」ともいう)111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0019】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0020】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0021】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0022】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0023】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙(所定の間隔)を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0024】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0025】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0026】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)が形成された回転体本体103aの下部には回転体下部円筒部103bが垂下されている。この回転体下部円筒部103bの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。このように、ネジ付スペーサ131と、これに対向する回転体下部円筒部103bは、ホルベック型排気機構部204を構成する。ホルベック型排気機構部204は、ネジ付スペーサ131に対する回転体下部円筒部103bの回転により、排気ガスに方向性を与え、ターボ分子ポンプ100の排気特性を向上する。
【0027】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0028】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子(ガス分子)などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0029】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0030】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の回転体下部円筒部103bの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に回転体下部円筒部103bの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0031】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガス(保護ガス)にて所定圧に保たれる場合もある。
【0032】
この場合には、ベース部129にはパージガス導入用配管(「パージガスポート」ともいう、図示略)が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部(回転体下部円筒部103b)やベース部129との間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0033】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0034】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0035】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiClが使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0036】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状(リング状)の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;TemperatureManagement System)が行われている。第1実施形態のターボ分子ポンプ100では、多量の熱風(高温流体、加熱用流体)をターボ分子ポンプ100の内部に導入し、堆積物を加熱して気化させる(クリーニングする)ことが行われている。熱風による堆積物の気化については後述する。
【0037】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路の回路図を図2に示す。
【0038】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0039】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0040】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0041】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0042】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0043】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0044】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0045】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0046】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0047】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0048】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0049】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0050】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133を構成する排気ポート15が図中の右側に突出するようベース部129に設けられた側)側が、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0051】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置200が組み込まれている。
【0052】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、回転体下部円筒部103bやネジ付スペーサ131等により構成されるネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)に分けて考えることができる。
【0053】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0054】
例えば、ベース部129の所定の部位(排気口133に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガスポート(図示略)を設ける。そして、このパージガスポートに対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0055】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0056】
なお、ターボ分子ポンプ100や回転体103の構造を示す図1では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0057】
<<熱風による堆積物の気化>>
前述したように、ターボ分子ポンプ100の内部にプロセスガスの析出物が堆積する場合がある。第1実施形態では、ターボ分子ポンプ100内部に高温の流体(例えば、200℃程度の熱風、高温になったパージガス)が導入(供給)される。熱風は、堆積物に接して堆積物を加熱し、気化させる。
【0058】
図1に符号210で示すのは熱風発生器であり、符号212で示すのはバルブ装置である。ターボ分子ポンプ100の外筒127には、管状のフランジ部品である加熱用流体導入ポート214が固定されている。加熱用流体導入ポート214は、加熱用流体に係る流体流入口(加熱用流体流入口)216を構成している。ここで、加熱用流体は、「加熱用パージガス」ともいう。加熱用パージガスは、後述するように、堆積物の気化のため熱風発生器210により加熱される点で、前述した保護ガスであるパージガスと異なる。一方で、加熱用パージガスは、前述した保護ガスを流用し、保護ガスを加熱して用いても良い。
【0059】
加熱用流体導入ポート214は、外筒127から半径方向に突出している。加熱用流体導入ポート214の先端部には、バルブ装置212が接続されており、バルブ装置212には、熱風発生器210が接続されている。ここで、各実施形態においては、フランジ部品同士がフランジを介して気密的に接続されているが、各図においては、フランジ部品の境界を明示するため、フランジ部品同士が分離して記載されている。
【0060】
外筒127の内側には、加熱用流体導入部217となる空間が、リング状に形成されている。加熱用流体導入部217は、ターボ分子ポンプ機構部と、ネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)との境界部に位置している。前述したように、ターボ分子ポンプ機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されている。ネジ溝ポンプ機構部は、回転体下部円筒部103bやネジ付スペーサ131等により構成されている。加熱用流体導入部217は、加熱用流体導入ポート214の加熱用流体流入口216に空間的に繋がっている。
【0061】
熱風発生器210は、ドライヤ方式(ドライヤタイプ)のものであり、図示を省略するファン部やヒータ部を内蔵している。ヒータ部には、例えば、所謂ニクロム線等の熱線を用いることが可能である。熱風発生器210は、ファン部(図示略)を回転させることにより、外部の加熱用流体を内部に取り込んで流動させる。外部の加熱用流体としては、常温の空気(乾燥空気)や、不活性ガス(N2ガス等)などを例示できる。また、熱風発生器210においては、ヒータ部が通電されて発熱している。熱風発生器210は、加熱用流体をヒータ部に通し、加熱用流体の温度を上昇させて、高温流体を生成する。以下では、昇温した加熱用流体を「高温流体」と称する場合がある。
【0062】
熱風発生器210の制御は、制御装置200(図1)により行ってもよく、又は、制御装置200以外の制御装置(熱風発生器制御装置、図示略)を設け、この制御装置により行ってもよい。
【0063】
また、図示は省略するが、熱風発生器210は、外部のファン装置に接続され、ファン装置から送られてきた流体を、内蔵されたヒータ部(図示略)により加熱するものであってもよい。また、熱風発生器210は、加圧ポンプや高圧ガスボンベ等に接続され、加圧ポンプや高圧ガスボンベ(例えばN2ガスボンベ)等から加熱用流体が供給されるものであってもよい。
【0064】
熱風発生器210で加熱された流体は、熱風(高温流体)となり、熱風発生器210から流出して、バルブ装置212へ向かう。バルブ装置212は、ON/OFFタイプのものであり、開閉制御されて高温流体の流路を開閉する。バルブ装置212の開閉制御は、制御装置200(図1)により行ってもよく、又は、制御装置200以外の制御装置(バルブ制御装置、図示略)を設け、この制御装置により行ってもよい。
【0065】
図5は、第1実施形態のターボ分子ポンプ100における加熱用流体の流れの経路を、矢印A~Eにより示している。バルブ装置212が開放状態に制御されている状況では、加熱用流体が、矢印Aで示すように、バルブ装置212、及び、加熱用流体導入ポート214を通り、矢印Bで示すように、外筒127の内部に位置する加熱用流体導入部217に導入される。
【0066】
外筒127に導入された加熱用流体の一部は、矢印Cで示すように、外筒127の周方向にリング状(又は「円筒状」ともいう)に流れ、外筒127の反対側(180度離間した側)にも流れる。図5では、図示が省略されているが、加熱用流体(高温流体)は、図5において図示されている側の裏側(「図示されていない側」や「図5において隠れている側」などともいう)にも回り込む。また、外筒127に導入された高温流体の一部は、矢印Dで示すように、ホルベック型排気機構部204を通って、ターボ分子ポンプ100の軸方向にも流れる。このように加熱用流体が、ターボ分子ポンプ100の内部で流動することにより、ターボ分子ポンプ100の内部が加熱される。
【0067】
外筒127の内部を流れた高温流体は、排気口133に到達し、矢印Eで示すように、排気口133を介して外筒127の外に導出される。図5(及び図1)の例では、排気口133が、排気ガスの排気のみでなく、高温流体の導出にも用いられている。
【0068】
ここで、排気口133の前段(上流)には、加熱用流体導出部218となる空間が形成されている。加熱用流体導出部218は、排気口133と空間的に繋がっており、排気ガスや高温流体は、加熱用流体導出部218と排気口133を経て、外筒127の外に導出される。
【0069】
前述したように、排気口133の後段(下流)には、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)が繋がっており、高温流体の導入が行われている間も、補助ポンプは作動している。図示は省略するが、排気口133と補助ポンプとの間には、バルブ装置(例えばON/OFFタイプのもの。図9では符号390で示す。)が設けられており、開閉制御されて高温流体の流路を開閉する。このバルブ装置(図9では符号390で示す)の開閉制御に関しても、制御装置200(図1)により行ってもよく、又は、制御装置200以外の制御装置(バルブ制御装置、図示略)を設け、この制御装置により行ってもよい。さらに、流入側のバルブ装置212と共通の制御装置により、流出側のバルブ装置(図9では符号390で示す)の制御を行ってもよい。
【0070】
前述したような高温流体の導入は、プロセスガス等(排気ガス)が排気されていない状況で行われる。さらに、高温流体の導入は、ターボ分子ポンプ100の(排気の)停止中、又は、低速運転中に行われる。つまり、高温流体の導入は、回転翼102を含むターボ分子ポンプ機構部が駆動されていない状況(停止中)、又は、回転翼102を含むターボ分子ポンプ機構部が、排気ガスに係る排気のための高速回転を行っていない状況(低速運転中)に行われる。高温流体の導入は、ターボ分子ポンプ100の停止中、又は、低速運転中の何れか一方で行われるようにしてもよく、両方で行われるようにしてもよい。
【0071】
「低速運転」に係る速度の上限は、必ずしも一律に決まるものではない。「低速運転」に係る速度の上限は、例えば、ターボ分子ポンプ100の定格運転時の回転数を基準(基準回転数)にして決めることが可能である。ターボ分子ポンプ100の定格運転時の回転数以上での運転を「高速運転」又は「非低速運転」とし、定格運転時の回転数未満での運転を「低速運転」として定めることが可能である。
【0072】
これに限らず、排気ガスの排気を行う場合の基準回転数としては、例えば、最大回転数や平均回転数などを用いることも可能である。この場合は、最大回転数や平均回転数などよりも低い回転数での運転を「低速運転」として定めることが可能である。
【0073】
高温流体を外筒127の内部に導入することにより、外筒127の内部に設けられた各種の部品が加熱される。そして、ターボ分子ポンプ100の高速運転中(定格運転中、最大回転数での運転中、平均回転数での運転中など)に、高温流体の供給を行うと、各種の部品が過熱され、各種の部品に対する熱の負荷が増大する。しかし、本実施形態のように、ターボ分子ポンプ100の「停止中」や「低速運転中」に高温流体の供給を行えば、高速回転中に比べて、各種の部品の過熱を防止することができる。各種の部品の過熱を防止は、ターボ分子ポンプ100の部品コストや、ターボ分子ポンプ100の内部のクリーニングに係る部品コストの削減に繋がる。
【0074】
ターボ分子ポンプ100の「低速運転中」や、部品の「過熱」に関しては、以下のように考えることが可能である。例えば、モータ121や回転翼102の回転数を、数万回転から数千回転に低下させ、回転数10分の1に低減した場合、各種の部品に供給される熱量は100分の1程度に減少する。このため、高速回転の状況から僅かに回転数を下げただけでも、各種の部品に作用する熱の負荷を大幅に低減し、定格運転時に排気可能な最大流量の数倍の流量を排気することができる。また、高温流体の供給に関しても、流量を大きく確保できるようになる。このように「低速運転」の状況の具体的な速度は、各種の部品に作用する熱の負荷を考慮して定めることが可能である。
【0075】
このように、ターボ分子ポンプ100は、流体を加熱する流体加熱手段と、流体流入口と、流体の流れを制御する流れ制御手段と、を備え、ターボ分子ポンプ100においては、流れ制御手段が、ターボ分子ポンプ100の(排気の)停止中又は低速運転中にターボ分子ポンプ100内へ流体が供給されるよう、流体の流れを制御する。
【0076】
流体加熱手段は、加熱される前の流体である加熱用流体を充分な温度に加熱できるものであればよい。流体加熱手段には、熱風発生器210、熱風発生器210のヒータ部(図示略)などのうちの少なくとも一部が含まれる。また、流体流入口は、加熱用流体(高温流体)の入口であればよい。流体流入口には、加熱用流体流入口216などが含まれる。
【0077】
流れ制御手段は、加熱用流体や、高温流体の流れを制御できるものであればよい。流れ制御手段には、例えば、熱風発生器210のファン装置(図示略)、熱風発生器210の制御手段(制御装置200又はその他の制御装置)、バルブ装置212、及び、バルブ装置212の制御手段(制御装置200又はその他の制御装置)などのうちの少なくとも一部が含まれる。
【0078】
第1実施形態のターボ分子ポンプ100においては、熱風発生器210、バルブ装置212、加熱用流体導入ポート214(加熱用流体流入口216を構成する)、外筒127内の高温流体が流動する部分、及び、排気ポート15(排気口133を構成する)のうちの少なくとも一部を含んで、流体移送手段220が構成されている。流体移送手段220は、流体をターボ分子ポンプ100へ供給可能である。流体移送手段220に、排気口133に繋がった補助ポンプ(バックポンプ、図示略)を含めることも可能である。
【0079】
加熱用流体導入ポート214により構成された加熱用流体流入口216は、ターボ分子ポンプ100の軸方向に関して、吸気口101と、排気ポート15により構成された排気口133との間の部位に配置されている。加熱用流体流入口216は、ターボ分子ポンプ100の排気方向(排気ガスの上流側から下流側の方向)に関して、排気口133よりも上流に位置している。換言すれば、加熱用流体流入口216が、ターボ分子ポンプ100の排気の流れの経路において、排気口133よりも上流に配設されている。
【0080】
ターボ分子ポンプ100は、前述の流体移送手段220を備え、定格運転中に排気可能な最大流量(例えば2(L/min)など)の、例えば10倍程度の流体を、ターボ分子ポンプ100へ供給可能である。流体の流量は、熱風発生器210として充分な出力(能力)を有するものを選定することにより、設定が可能である。
【0081】
ここで、ターボ分子ポンプ100が定格運転中に排気可能な最大流量は、ターボ分子ポンプ100の定格運転中における排気ガスの最大流量である。具体的には、排気ガスの最大流量として、2000(sccm;standard cc/min)程度を例示できる。2000(sccm)は、2(L/min)に相当する。しかし、発明者等の試算では、堆積物を気化するための高温流体の流量を、排気ガスの最大流量に合わせて2000(sccm)程度としただけでは、流量が足りず、堆積物の気化に充分な熱量を移送(供給)できない。
【0082】
そこで、高温流体の導入条件(注入条件)を以下のように定めることが考えられる。例えば、圧力が1気圧の下での流量を100[L/min](上記の排気ガス流量である2(L/min)の50倍)程度とする。高温流体の温度は200[℃]程度とする。流体への加熱のための熱風発生器210の出力は、350[W:ワット]程度とする。
【0083】
このように高温流体の導入条件を定めることにより、堆積物の気化(昇華)に充分な熱量を移送できる。高温流体の温度は、気化の対象とする成分の昇華温度以上の温度とする。同条件で流量を2[L/min]として試算を行うと、ターボ分子ポンプ100に導入できる熱量は7[W]程度にとどまる。
【0084】
また、高温流体の注入熱量は、以下のように計算することができる。
先ず、注入条件として、ガス種を、不活性ガスであるN2ガスとする。N2ガスについては、密度は1.176 [kg/m]であり、比熱は1,034 [J/kgK]である。ガス温度は200[℃]とし、ガス流量は100 [L/min](= 0.00167 [m/s])とし、 圧力は大気圧とする。
このような注入条件の下では、注入質量は以下のように計算される。
0.00167[m/s] × 1.176 [kg/m] = 0.00196 [kg/s]
注入熱量は以下のように計算される。
0.00196 [kg/s] × 1,034 [J/kgK] × (200-20) [℃]= 365 [W]
高温流体に用いられるガス種は、N2ガス以外の不活性ガスでもよく、不活性ガス以外のガスでもよい。高温流体に用いられるガス種は、クリーニングガスとして用いられるガスでもよい。
【0085】
また、ターボ分子ポンプ100は、流体流出口(ここでは排気口133)を備える。流体流入口(ここでは加熱用流体流入口216)から外筒127の内部に導入された高温流体は、外筒127の内部で流動し、堆積物を温度上昇(及び気化)させた後、流体流出口(ここでは排気口133)を経て、外筒127の外に導出される。
【0086】
以上説明した第1実施形態のターボ分子ポンプ100によれば、ターボ分子ポンプ100の内部に高温流体を導入することで、堆積物を加熱し、気化させてポンプ外へ除去できる。高温流体が堆積物の表面に直接触れるため、高温流体が供給された直後から、堆積物の温度が上昇し始める。したがって、高温流体の流路を構成する部品(流路構成部品)の温度上昇を待つ必要がなくなり、短時間で効率的に堆積物を除去できる。
【0087】
例えば、ヒータによりターボ分子ポンプ100の内部における部品の温度を上昇させ、温度上昇した部品を介して堆積物の過熱を行う場合、部品の温度を充分に上昇させるには、1~2時間程度を要する場合がある。しかし、ドライヤ方式の熱風発生器210により加熱用流体を温度上昇させることにより、即座に高温流体を生成できる。したがって、短時間で効率的に堆積物を除去できる。
【0088】
ここで、ホルベック型排気機構部204及びその周辺の部位は、堆積物が溜まり易い部位である。このため、ターボ分子ポンプ100のように、加熱用流体流入口216と排気口133との間に、堆積物が溜まり易い部位が位置するよう、加熱用流体流入口216と排気口133の位置を定めることにより、効果的に堆積物を気化させることが可能である。
【0089】
また、高温流体の流れは、ターボ分子ポンプ100の(排気の)停止中又は低速運転中に、高温流体が外筒127の内部に供給されるよう、制御される。このため、ターボ分子ポンプ100の各種の部品が過熱を防止しつつ、多量の高温流体を外筒127の内部に導入できる。そして、堆積物の気化に充分な熱量を供給可能となる。さらに、高温流体の供給は、ターボ分子ポンプ100の(排気の)停止中又は低速運転中に行われることから、半導体装置等のプロセスの後や、プロセスの間に行うことができる。
【0090】
高温流体の供給を、ターボ分子ポンプ100の(排気の)低速運転中に行うことにより、高温流体が、ネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)からターボ分子ポンプ機構部に逆流することを防止できる。また、排気口133に繋がった補助ポンプ(バックポンプ、図示略)を作動させながら(補助ポンプにより真空引きしながら)高温流体の供給を行うことによっても、高温流体が、ターボ分子ポンプ機構部に逆流することを防止できる。さらに、高温流体の逆流を防止することにより、ターボ分子ポンプ機構部の過熱を防止することが可能となる。
【0091】
また、排気口133に繋がった補助ポンプ(バックポンプ、図示略)を作動させながら(補助ポンプにより真空引きしながら)高温流体の供給を行うことにより、ターボ分子ポンプ内の圧力が下がり、堆積物の昇華温度を低下させることが可能となる。このため、高温流体の温度を下げて、堆積物を気化させることができる。
【0092】
なお、堆積物の気化のための機器(例えば、熱風発生器210などの流体加熱手段、バルブ装置212などの流れ制御手段等)をターボ分子ポンプ100の一部(真空ポンプ構成部品)とすることが可能である。
【0093】
また、堆積物の気化のための機器を、ターボ分子ポンプ100に含まれないものとすることも可能である。この場合は、ターボ分子ポンプ100に、堆積物の気化のための流体加熱手段(熱風発生器210など)や流れ制御手段熱(バルブ装置212など)等を付加した真空排気システムを構成することが可能である。図1及び図5において、括弧書きの符号230は、ターボ分子ポンプ100、熱風発生器210、及び、バルブ装置212等を備えた真空排気システムを示している。
【0094】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るターボ分子ポンプ310について、図6に基づき説明する。なお、第1実施形態と同様の部分については同一名称や同一符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0095】
第2実施形態に係るターボ分子ポンプ310においては、堆積物が溜まり易い部位に近い側(排気ガスの下流側)から高温流体の供給が行われる。また、ターボ分子ポンプ310は、排気口133以外に、加熱用流体(高温流体)の流出口(ここでは後述する加熱用流体流出口318)を備える。
【0096】
第2実施形態に係るターボ分子ポンプ310においては、排気ポート15に、バルブ装置312が接続されており、バルブ装置312に、熱風発生器210が接続されている。 バルブ装置312は、三方弁タイプのものであり、流路の切り換えが可能である。バルブ装置312の1つのポートは、熱風発生器210に繋がっており、1つのポートは、粗引きポンプ(前述した補助ポンプ(バックポンプ)に該当する、図示略)に繋がっている。
【0097】
バルブ装置312は、真空システムの粗引き時や、プロセスガス等の排気時には、ターボ分子ポンプ310から粗引きポンプにガスが流出するよう作動する。堆積物を気化させる際(クリーニング時)には、バルブ装置312は、熱風発生器210からの高温流体が、ターボ分子ポンプ310に流入するよう作動する。バルブ装置312の作動制御は、制御装置200(図1を援用する)により行ってもよく、又は、制御装置200以外の制御装置(バルブ制御装置、図示略)を設け、この制御装置により行ってもよい。
【0098】
排気ポート15は、真空システムの粗引き時や、プロセスガス等の排気時には、流体の排出に用いられ、堆積物を気化させる際には、流体の導入に用いられる。排気口133の前段(排気時の上流)に形成されている空間は、真空システムの粗引き時や、プロセスガス等の排気時には、第1実施形態と同様に、加熱用流体導出部218として機能する。しかし、堆積物を気化させる際には、排気口133は、加熱用流体導入部(高温流体導入部)として機能する。
【0099】
外筒127には、加熱用流体導出ポート316が接続されている。加熱用流体導出ポート316は、加熱用流体流出口318を構成している。加熱用流体導出ポート316は、排気口133(排気ポート15)に対してほぼ180度離れた位相の部位に配置されている。
【0100】
加熱用流体導出ポート316により構成された加熱用流体流出口318は、ターボ分子ポンプ310の軸方向に関して、吸気口101と、排気ポート15により構成された排気口133との間の部位に配置されている。加熱用流体流出口318は、ターボ分子ポンプ310の排気方向(排気ガスの上流側から下流側の方向)に関して、排気口133よりも上流に位置している。換言すれば、排気口133が、ターボ分子ポンプ310の排気の流れの経路において、加熱用流体流出口318よりも下流に配設されている。
【0101】
外筒127の内側には、加熱用流体導出部320となる空間が形成されている。加熱用流体導出部320は、第1実施形態における加熱用流体導入部217(図5)と同様に、ターボ分子ポンプ機構部と、ネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)との境界部に位置している。加熱用流体導出部320は、加熱用流体導出ポート316に空間的に繋がっている。
【0102】
熱風発生器210、バルブ装置312、排気ポート15(排気口133を構成する)、外筒127内の高温流体が流動する部分、及び、加熱用流体導出ポート316(加熱用流体流出口318を構成する)のうちの少なくとも一部を含んで、流体移送手段322が構成されている。流体移送手段322は、流体をターボ分子ポンプ310へ供給可能である。
【0103】
図6は、加熱用流体の流れの経路を矢印A、C~Eにより示している。バルブ装置312が、熱風発生器210と、ターボ分子ポンプ310の内部とを空間的に繋げている状況では、加熱用流体が、矢印Aで示すように、熱風発生器210、バルブ装置312、及び、排気ポート15を通り、ベース部129の内部に導入される。
【0104】
ベース部129の内部に導入された加熱用流体(高温流体)の一部は、矢印Cで示すように、ベース部129の周方向にリング状(又は「円筒状」ともいう)に流れ、ベース部129の反対側(180度離間した側)にも流れる。図6では、図示が省略されているが、加熱用流体(高温流体)は、図6において図示されている側の裏側(「図示されていない側」や「図6において隠れている側」などともいう)にも回り込む。また、ベース部129に導入された高温流体の一部は、矢印Dで示すように、ホルベック型排気機構部204を通って、外筒127の内側において、ターボ分子ポンプ310の軸方向にも流れる。
【0105】
外筒127の内部を流れた高温流体は、矢印Eで示すように、加熱用流体流出口318に到達し、加熱用流体流出口318を介して外筒127の外に導出される。第2実施形態においても、高温流体の導入は、第1実施形態と同様に、ターボ分子ポンプ310の(排気の)停止中、又は、低速運転中に行われる。
【0106】
以上説明した第2実施形態のターボ分子ポンプ310によれば、排気口133を加熱用流体導入部として利用し、高温流体を、ターボ分子ポンプ310の排気の流れの経路において、上流の側へ向けて逆向きに流すことが可能である。そして、堆積物が発生し易い(溜まり易い)部分の近くから高温流体を供給することができ、さらに、高温流体の温度が下がる前に、ホルベック型排気機構部204及びその周辺の部位の全体に、高温流体を行き届かせることが可能である。
【0107】
第1実施形態において前述したように、ホルベック型排気機構部204及びその周辺の部位には、堆積物が溜まり易いが、特に、排気ガスに関する下流側の部分(加熱用流体導出部218を含む)に、堆積物が溜まり易い。第2実施形態のターボ分子ポンプ310によれば、特に堆積物が溜まり易い部分の近くから高温流体を供給することができ、より効果的に堆積物を加熱することが可能となる。
【0108】
なお、堆積物の気化のための機器(例えば、熱風発生器210などの流体加熱手段、バルブ装置312などの流れ制御手段等)をターボ分子ポンプ310の一部(真空ポンプ構成部品)とすることが可能である。
【0109】
また、堆積物の気化のための機器を、ターボ分子ポンプ310に含まれないものとすることも可能である。この場合は、ターボ分子ポンプ310に、堆積物の気化のための流体加熱手段(熱風発生器210など)や流れ制御手段熱(バルブ装置312など)等を付加した真空排気システムを構成することが可能である。図6において、括弧書きの符号330は、ターボ分子ポンプ310、熱風発生器210、及び、バルブ装置312等を備えた真空排気システムを示している。
【0110】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係るターボ分子ポンプ360について、図7及び図8に基づき説明する。なお、他の実施形態と同様の部分については同一名称や同一符号を付し、その説明は適宜省略する。第3実施形態に係るターボ分子ポンプ360においては、加熱用流体(高温流体)に係る流路の切り換えが可能となっている。
【0111】
第3実施形態に係るターボ分子ポンプ360においては、ベース部129に、管状のフランジ部品である加熱用流体導入ポート362が固定されている。加熱用流体導入ポート362は、加熱用流体に係る流体流入口(加熱用流体流入口)364を構成している。
【0112】
加熱用流体導入ポート362は、ベース部129から半径方向に突出している。加熱用流体導入ポート362の先端部には、バルブ装置212が接続されており、バルブ装置212には、熱風発生器210が接続されている。加熱用流体導入ポート362としては、第1実施形態における加熱用流体導入ポート214と同様のものを採用できる。
【0113】
ベース部129の内側には、加熱用流体導入部366となる空間が形成されている。加熱用流体導入部366は、加熱用流体導入ポート362の加熱用流体流入口364に空間的に繋がっている。加熱用流体導入ポート362は、排気口133(排気ポート15)に対してほぼ180度離れた位相の部位に配置されている。
【0114】
加熱用流体導入ポート362により構成された加熱用流体流入口364は、ターボ分子ポンプ360の軸方向に関して、排気ポート15により構成された排気口133と同様の部位に配置されている。
【0115】
外筒127には、加熱用流体導出ポート368が接続されている。加熱用流体導出ポート368は、排気口133(排気ポート15)に対してほぼ真上の部位に配置されている。加熱用流体導出ポート368は、加熱用流体流出口370を構成している。
【0116】
加熱用流体導出ポート368により構成された加熱用流体流出口370は、ターボ分子ポンプ360の軸方向に関して、吸気口101と、排気ポート15により構成された排気口133との間の部位に配置されている。加熱用流体流出口370は、ターボ分子ポンプ360の排気方向(排気ガスの上流側から下流側の方向)に関して、排気口133よりも上流に位置している。換言すれば、加熱用流体流出口370は、ターボ分子ポンプ360の排気の流れの経路において、排気口133よりも上流に配設されている。
【0117】
外筒127の内側には、加熱用流体導出部372となる空間が形成されている。加熱用流体導出部372は、第1実施形態における加熱用流体導入部217(図5)と同様に、ターボ分子ポンプ機構部と、ネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)との境界部に位置している。加熱用流体導出部372は、加熱用流体導出ポート368の加熱用流体流出口370に空間的に繋がっている。
【0118】
第3実施形態においては、図7に示すように、熱風発生器210、バルブ装置212、加熱用流体導入ポート362(加熱用流体流入口364を構成する)、外筒127内の高温流体が流動する部分、及び、排気ポート15(排気口133を構成する)のうちの少なくとも一部を含んで、第1流体移送手段374が構成されている。
【0119】
また、第3実施形態においては、図8に示すように、熱風発生器210、バルブ装置212、加熱用流体導入ポート362(加熱用流体流入口364を構成する)、外筒127内の高温流体が流動する部分、及び、加熱用流体導出ポート368(加熱用流体流出口370を構成する)のうちの少なくとも一部を含んで、第2流体移送手段376が構成されている。
【0120】
図7に示す第1流体移送手段374においては、矢印A~E(流路A)で示すように、加熱用流体流入口364から排気口133へ向かう高温流体の流れが形成される。第1流体移送手段374においては、上述の「外筒127内の高温流体が流動する部分」は、矢印Cで示すように、主に、排気口133に近い側の部分である。
【0121】
第2実施形態において前述したように、ホルベック型排気機構部204及びその周辺の部位には、堆積物が溜まり易いが、特に、排気ガスに関する下流側の部分に、堆積物が溜まり易い。このため、第1流体移送手段374を介して高温流体を供給することにより、特に堆積物が溜まり易い部位に集中的に高温流体を供給することができる。
【0122】
図8に示すように、第2流体移送手段376においては、矢印A~E(流路B)で示すように、加熱用流体流入口364から加熱用流体流出口370へ向かう高温流体の流れが形成される。第2流体移送手段376においては、上述の「外筒127内の高温流体が流動する部分」は、矢印C、Dで示すように、主に、排気口133に近い側の部分から、ターボ分子ポンプ機構部と、ネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)との境界部までの範囲の部分である。
【0123】
第2流体移送手段376を介して高温流体を供給することにより、堆積物が溜まり易い部位に、全体的に高温流体を供給することができる。
【0124】
第1流体移送手段374(図7)による高温流体の供給と、第2流体移送手段376(図8)による高温流体の供給は、例えば、排気ポート15と加熱用流体導出ポート368との間に三方弁タイプのバルブ装置(図示略)と、1台の粗引きポンプ(補助ポンプ(バックポンプ)、図示略)を接続し、バルブ装置(図示略)により流路A/Bを切り換え制御することにより行うことが可能である。このバルブ装置(図示略)の制御は、制御装置200(図1を援用する)により行ってもよく、又は、制御装置200以外の制御装置(バルブ制御装置、図示略)を設け、この制御装置により行ってもよい。
【0125】
また、排気ポート15と加熱用流体導出ポート368のそれぞれに、例えばON/OFFタイプのバルブ装置(図示略)と、粗引きポンプ(補助ポンプ(バックポンプ)、図示略)を接続してもよい。この場合は、第1流体移送手段374(図7)による高温流体の供給の際には、排気ポート15に接続された粗引きポンプが作動する。また、第2流体移送手段376(図8)による高温流体の供給の際には、加熱用流体導出ポート368に接続された粗引きポンプが作動する。
【0126】
第3実施形態においても、高温流体の導入は、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、ターボ分子ポンプ360の(排気の)停止中、又は、低速運転中に行われる。そして、ホルベック型排気機構部204及びその周辺の部位に対して、特に堆積物が溜まり易い部位のクリーニングを目的とする場合は、図7に示すように、第1流体移送手段374により流路Aに高温流体が供給される。また、ホルベック型排気機構部204及びその周辺の部位について、全体的なクリーニングを目的とする場合には、図8に示すように、第2流体移送手段376により流路Bに高温流体が供給される。
【0127】
以上説明した第3実施形態のターボ分子ポンプ360によれば、流路A/B(図7図8)の切り換えにより、目的に応じたクリーニングが可能になる。さらに、流路A/Bのクリーニングを連続して(又は比較的短い間隔を空けて)行うことにより、効果の高いクリーニングを行うことが可能となる。
【0128】
なお、堆積物の気化のための機器(例えば、熱風発生器210などの流体加熱手段、バルブ装置212などの流れ制御手段等)をターボ分子ポンプ360の一部(真空ポンプ構成部品)とすることが可能である。
【0129】
また、堆積物の気化のための機器(例えば、熱風発生器210などの流体加熱手段、バルブ装置212などの流れ制御手段等)を、ターボ分子ポンプ360に含まれないものとすることも可能である。この場合は、ターボ分子ポンプ360に、堆積物の気化のための流体加熱手段(熱風発生器210など)や流れ制御手段熱(バルブ装置212など)等を付加して、真空排気システムを構成することが可能である。図7及び図8において、括弧書きの符号380は、ターボ分子ポンプ310、熱風発生器210、及び、バルブ装置212等を備えた真空排気システムを示している。
【0130】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る真空排気システム410について、図10に基づき説明する。なお、他の実施形態と同様の部分については同一名称や同一符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0131】
これまでに説明した各実施形態(第1実施形態~第3実施形態)では、加熱用パージガスの供給は、新たな加熱用パージガスを、順次ターボ分子ポンプ100、310、360に送り込むことにより行われていた。例えば、図9は、第1実施形態のターボ分子ポンプ100(図1及び図5)に係る加熱用パージガスの供給方法を模式化して示している。図9に示すように、真空排気システム230は、ターボ分子ポンプ100、熱風発生器210、流入側のバルブ装置212、及び、流出側のバルブ装置390を含んで構成されている。ここで、図1及び図5では、図9と異なり、流出側のバルブ装置390の図示は省略されている。
【0132】
第1実施形態において説明したように、熱風発生器210を通った加熱用パージガスは、熱風(高温流体)となり、矢印Aで示すように熱風発生器210から流出して、流入側のバルブ装置212へ向かう。流入側のバルブ装置212を通った高温流体は、矢印Bで示すようにターボ分子ポンプ100の内部に供給される。
【0133】
高温流体は、ターボ分子ポンプ100の内部を加熱し、堆積物を気化させて、矢印Eで示すように、ターボ分子ポンプ100から流出する。図9で示す、第1実施形態の真空排気システム230においては、ターボ分子ポンプ100から流出した高温流体は、流出側のバルブ装置390を通って排出される。流出側のバルブ装置390は、粗引きポンプ(前述した補助ポンプ(バックポンプ))に繋がっている。このように、ターボ分子ポンプ100の内部を加熱した使用済みの加熱用パージガスは、再利用されずに排出される。
【0134】
これに対して、図10は、第4実施形態に係る真空排気システム410を概略的に示している。第4実施形態に係る真空排気システム410は、使用した高温流体を回収し、気化した堆積物と高温流体に用いられていたガス(ここではN2ガス)を分離し、分離されたガスを再利用する。
【0135】
真空排気システム410は、ターボ分子ポンプ100、熱風発生器210、第1バルブ装置212、第2バルブ装置312、冷却トラップ(以下では「トラップ」と称する)412、及び、循環ポンプ414を含んで構成されている。第1バルブ装置212は、ON/OFFタイプのものであり、第2バルブ装置312は、三方弁タイプのものである。第2バルブ装置312は、粗引きポンプ(前述した補助ポンプ(バックポンプ))に繋がっている。真空排気システム410においては、これらの機器により、流体流出口(ここでは、図1を援用する排気口133)と、流体流入口(ここでは、図1を援用する加熱用流体流入口216)とを接続する流体の循環経路416が構成されている。
【0136】
トラップ412は、容器状に形成され、内部に多数のフィン(図示略)を備えている。トラップ412は、多数のフィン(図示略)により、冷却面積を大きく確保している。トラップ412は、例えば、冷却水を循環させるための冷却水管(図示略)を備えており、内部のフィンが冷却水により冷却される。
【0137】
ターボ分子ポンプ100から排出されたガス(堆積物の気化成分を含んだ高温流体)は、トラップ412内に流入し、フィン(図示略)に接して冷却された後、熱風発生器210に戻される。トラップ412は、ターボ分子ポンプ100から排出されたガスを冷却する。トラップ412に流入したガスが、気化(ガス化)した堆積物の昇華温度以下に冷却されると、気化していた堆積物の成分が固化し、トラップ412の内部のフィン(図示略)に付着する。この結果、ターボ分子ポンプ100内で、堆積物とN2ガスとが分離され、N2ガスが、トラップ412から排出される。
【0138】
トラップ412の出口にはフィルタ418が設置されており、フィン(図示略)に付着しなかった固体が、フィルタ418により捕捉される。このようにすることで、粉末状の堆積物が、トラップ412から排出されるのを防止できる。そして、トラップ412から排出された粉末が、循環ポンプ414内で噛み込まれるといった事態が生じるのを防止できる。フィルタ418は、トラップ412の内部に設けてもよい。
【0139】
以上説明した第4実施形態に係る真空排気システム410においては、流体流出口(ここでは、図1を援用する排気口133)と、流体流入口(ここでは、図1を援用する加熱用流体流入口216)を接続する流体の循環経路416が形成され、循環経路416にトラップ412が設けられている。この真空排気システム410によれば、加熱用流体(及び高温流体)を、使い捨てにすることなく再利用することが可能となる。そして、加熱用流体の消費量を少なく抑えることが可能である。これらの結果、ターボ分子ポンプ100の内部のクリーニングのための部品コストと、クリーニングのための運用コストの両方を少なく抑えることが可能となる。
【0140】
なお、第4実施形態に係る真空排気システム410の、ガスを再利用するための構成は、特に支障がない限り、第1実施形態~第3実施形態の各ターボ分子ポンプ100、310、360や、真空排気システム230、330、380にも適用が可能である。
【0141】
<第5実施形態>
次に、第5実施形態に係る真空排気システム430について、図11に基づき説明する。なお、他の実施形態と同様の部分については同一名称や同一符号を付し、その説明は適宜省略する。図11は、第5実施形態に係るターボ分子ポンプ420を概略的に示している。これまでに説明した各実施形態では、熱風発生器210が、ターボ分子ポンプ100、310、360の外側に配置されていた。しかし、第5実施形態に係る真空排気システム430においては、ターボ分子ポンプ420の内側に、ヒータ部422が設置されている。
【0142】
ヒータ部422としては、第1実施形態等における熱風発生器210に内蔵されたヒータ部(図示略)と同様のものを採用可能である。ヒータ部422は、第1実施形態と同様の加熱用流体導入部217に設置されている。ヒータ部422の制御は、制御装置200(図1を援用する)により行ってもよく、又は、制御装置200以外の制御装置(ヒータ部制御装置、図示略)を設け、この制御装置により行ってもよい。
【0143】
第5実施形態に係る真空排気システム430においては、ターボ分子ポンプ420の外側には、第1実施形態の熱風発生器210に代えて、ファン装置424が接続されている。ファン装置424は、ターボ分子ポンプ420に加熱用流体を供給し、供給された加熱用流体は、外筒127の内部の加熱用流体導入部217に導入され、ヒータ部422を通って昇温し、高温流体となる。
【0144】
なお、堆積物の気化のための機器(例えば、ファン装置424、ヒータ部422などの流体加熱手段、バルブ装置212などの流れ制御手段等)をターボ分子ポンプ420の一部(真空ポンプ構成部品)とすることが可能である。また、ヒータ部422を真空ポンプ構成部品とし、ファン装置424は、真空ポンプ構成部品に含まれないものとすることが可能である。
【0145】
さらに、ファン装置424のほか、ヒータ部422についても、真空ポンプ構成部品には含まれず、ターボ分子ポンプ420とともに真空排気システム430を構成する部品とすることも可能である。
【0146】
<変形例>
第1実施形態(図5)においては、加熱用流体導入ポート214により構成された加熱用流体流入口216は、排気ガスの排気経路(吸気口101から排気口133に到る経路)に関して1箇所のみ設けられていた。また、第3実施形態(図7)において、加熱用流体導入ポート362により構成された加熱用流体流入口364も、同様に、排気ガスの排気経路に関して1箇所のみ設けられていた。しかし、これらに限定されず、例えば、加熱用流体導入ポート214(及び加熱用流体流入口216)や、加熱用流体導入ポート362(及び加熱用流体流入口364)を、排気ガスの排気経路に複数設置してもよい。
【0147】
また、加熱用流体導入ポート214(及び加熱用流体流入口216)を外筒127に設けず、例えば、ターボ分子ポンプ100、310、360、420により排気される対象機器の真空チャンバや、真空チャンバとターボ分子ポンプ100、310、360、420を繋ぐ配管に設け、吸気口101から流入させてもよい。
【0148】
なお、本発明は、上述の各実施形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形や各実施形態の組合せをすることが可能である。
【符号の説明】
【0149】
15 :排気ポート
100、310、360、420:ターボ分子ポンプ
101 :吸気口
102 :回転翼
103 :回転体
113 :ロータ軸
121 :モータ
123 :固定翼
127 :外筒
129 :ベース部
133 :排気口
204 :ホルベック型排気機構部
210 :熱風発生器
212、312:バルブ装置
214、362:加熱用流体導入ポート
216、364:加熱用流体流入口
217、366:加熱用流体導入部
218、320、372:加熱用流体導出部
220 :流体移送手段
230、330、380、410、430:真空排気システム
316、368:加熱用流体導出ポート
318、370:加熱用流体流出口
322 :流体移送手段
374 :第1流体移送手段
376 :第2流体移送手段
412 :トラップ
414 :循環ポンプ
416 :循環経路
418 :フィルタ
422 :ヒータ部
424 :ファン装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11