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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】プレスロール装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 31/07 20060101AFI20241001BHJP
   B30B 3/00 20060101ALI20241001BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20241001BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20241001BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B21B31/07 B
B30B3/00 B
F16C13/00 Z
F16C19/16
F16J15/447
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022109134
(22)【出願日】2022-07-06
(65)【公開番号】P2024007805
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦上 太一
(72)【発明者】
【氏名】石津 誠二
(72)【発明者】
【氏名】岩田 和俊
(72)【発明者】
【氏名】梅原 将一
(72)【発明者】
【氏名】森 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】岸本 尚也
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-196186(JP,A)
【文献】特開2000-233212(JP,A)
【文献】特開2001-303470(JP,A)
【文献】特開2014-126061(JP,A)
【文献】特開2022-045372(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073218(WO,A1)
【文献】米国特許第05697710(US,A)
【文献】米国特許第06287100(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0347704(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103883734(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00 - 35/14
B30B 1/00 - 15/34
F16C 13/00 - 15/00
19/00 - 19/56
33/30 - 33/66
F16J 15/40 - 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ第1方向に沿って延び、かつ、前記第1方向と直交する第2方向において互いに対向するように位置し、前記第1方向に並ぶ一対の端部と、2つの前記一対の端部の間に位置する中央円柱部とを有する、一対のプレスロール部と、
一対の前記プレスロール部の各々の前記一対の端部を、それぞれ回動可能に軸支する複数の軸受部とを備え、
前記複数の軸受部の各々は、
前記プレスロール部が挿通された環状の軸受本体部と、
前記軸受本体部から見て、前記軸受本体部に挿通された前記プレスロール部の側に位置して前記プレスロール部を軸支し、かつ、潤滑剤が塗布されている、転がり軸受けと、
前記転がり軸受けから見て前記第1方向における両側に位置して、前記軸受本体部に接続された一対のオイルシール部とを有し、
一対の前記オイルシール部は、前記軸受本体部に挿通された前記プレスロール部と0.25mm以下の離隔距離で離隔して位置しており、
一対の前記オイルシール部は、前記転がり軸受けから見て中央円柱部側に位置している第1オイルシール部と、前記転がり軸受けから見て前記中央円柱部側と反対側に位置している第2オイルシール部とで構成されており、
前記プレスロール部の回動軸中心から前記第1オイルシール部の内周面部までの距離は、前記回動軸中心から前記転がり軸受けの内周面部までの距離と比較して大きく、
一対の前記オイルシール部のそれぞれにおいて0.25mm以下の離隔距離で前記プレスロール部と離隔している部分の外周面側には、前記軸受本体部が位置していない、プレスロール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレスロール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2001-303470号公報(特許文献1)には、従来のプレスロール装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-303470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のプレスロール装置においては、軸受部内に転がり軸受けが設けられている場合がある。転がり軸受は、回動するプレスロール本体を軸支するとともに、潤滑剤が塗布される。そして、軸受部は、この潤滑剤をシールするためのオイルシール部材をさらに有している。オイルシール部材は、回動するプレスロール本体と摺接している。これにより、潤滑剤が軸受部の外部に漏出することを抑制できる。しかしながら、オイルシール部材とプレスロール本体との接触により、プレスロール本体が摩耗し、異物が発生するおそれがある。
【0005】
本開示は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、異物の発生を抑制できる、プレスロール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に基づくプレスロール装置は、一対のプレスロール部と、複数の軸受部とを備えている。一対のプレスロール部は、それぞれ第1方向に沿って延びている。一対のプレスロール部は、第1方向と直交する第2方向において互いに対向するように位置している。複数の軸受部は、一対のプレスロール部の各々の両側の端部を、それぞれ回動可能に軸支している。複数の軸受部の各々は、軸受本体部と、転がり軸受けと、一対のオイルシール部とを有している。軸受本体部は環状であり、プレスロール部が挿通されている。転がり軸受けは、軸受本体部から見て、軸受本体部に挿通されたプレスロール部の側に位置してプレスロール部を軸支している。転がり軸受けは、潤滑剤が塗布されている。一対のオイルシール部は、転がり軸受けから見て第1方向における両側に位置している。一対のオイルシール部は、軸受本体部に接続されている。一対のオイルシール部は、軸受本体部に挿通されたプレスロール部と離隔して位置している。
【0007】
上記の構成によれば、オイルシール部との接触によりプレスロール部が摩耗することがない。このため、プレスロール部の摩耗による異物の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、異物の発生を抑制できるプレスロール装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るプレスロール装置を示す斜視図である。
図2図1のプレスロール装置をII-II線矢印方向から見た断面図である。
図3図2の領域IIIを拡大して示す部分的な断面図である。
図4図3の領域IVを拡大して示す部分的な断面図である。
図5】本開示の一実施形態に係るプレスロール装置を用いて圧縮加工されたワークの厚さを測定した結果を示すグラフである。
図6】比較例に係るプレスロール装置を示す断面図である。
図7】比較例に係るプレスロール装置を用いて圧縮加工されたワークの厚さを示すグラフである。
図8】圧縮加工終了時における比較例に係るプレスロール装置の一部とワークとを示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態に係るプレスロール装置について説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0011】
本開示の一実施形態に係るプレスロール装置は、具体的には、蓄電装置の源泉工程において、電極材の圧縮加工に用いられる。上記蓄電装置は、たとえば二次電池であり、より具体的にはリチウムイオン電池(LiB)であり、さらに具体的には電動車に搭載されるリチウムイオン電池である。電極材は、心材となる金属箔などの集電体シートと、その表面に形成した活物質とからなる。活物質は、ペーストの状態で塗工機により集電体シートに塗工された後、乾燥されることで、集電体シート上に配置される。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係るプレスロール装置を示す斜視図である。図1に示すように、本開示の一実施形態に係るプレスロール装置1は、一対のプレスロール部10と、複数の軸受部20とを備えている。
【0013】
一対のプレスロール部10は、それぞれ第1方向D1に沿って延びている。一対のプレスロール部10は、第1方向D1と直交する第2方向D2において互いに対向するように位置している。第2方向D2は、具体的には鉛直方向と平行な方向であるが、鉛直方向と交差する方向であってもよい。一対のプレスロール部10は、鉛直方向において上側に位置する第1プレスロール部10Aおよび下側に位置する第2プレスロール部10Bからなる。
【0014】
図2は、図1のプレスロール装置をII-II線矢印方向から見た断面図である。図1および図2に示すように、一対のプレスロール部10の各々は、一対の端部11と、第1方向D1において2つの端部11の間に位置する中央円柱部12とを有している。換言すれば、一対の端部11は、それぞれ、第1方向D1において中央円柱部12の両側から延出している。プレスロール部10は、両側の端部11において支持される。両側の端部11の少なくとも一方は、モータなどの駆動部(図示せず)と接続されている。両側の端部11のうちの一方は、駆動部により、第1方向D1を中心軸の軸方向として、回動させられる。中央円柱部12は、両側の端部11のうちの一方の回動に伴って回動する。
【0015】
それぞれ回動する一対のプレスロール部10(具体的には、第1プレスロール部10Aの中央円柱部12と第2プレスロール部10Bの中央円柱部12)の間に、ワーク100が侵入する。これにより、ワーク100は第2方向D2において圧縮される。ワーク100としては、具体的には上述の電極材である。
【0016】
一般的に、ワーク100が電極材である場合、プレスロール装置1によって圧縮加工された電極材の厚さの製品公差は、数ミクロン以下であることが要求される。このため、プレスロール部10は、精度良く成型されていることが重要である。さらには、電極材の圧縮加工中に、プレスロール部10が変形しないことも重要となる。
【0017】
複数の軸受部20は、一対のプレスロール部10の各々の両側の端部11を、それぞれ回動可能に軸支している。具体的には、複数の軸受部20は、第1プレスロール部10Aの両側の端部11を軸支する第1軸受部20Aおよび第2軸受部20Bと、第2プレスロール部10Bの両側の端部11を軸支する第3軸受部20Cおよび第4軸受部20Dとからなる。なお、以下の軸受部20の説明において、軸受部20として図中の第1軸受部20Aのみを参照している場合があるが、それらの説明は第1軸受部20Aに限定されるものではない。
【0018】
図3は、図2の領域IIIを拡大して示す部分的な断面図である。図2および図3に示すように、複数の軸受部20の各々は、軸受本体部21と、転がり軸受け22と、一対のオイルシール部23とを有している。
【0019】
軸受本体部21は環状であり、プレスロール部10が挿通されている。第1方向D1から見て、軸受本体部21の内周面は円形状であり、軸受本体部21の外周面は略矩形状である。転がり軸受け22は、軸受本体部21から見て、軸受本体部21に挿通されたプレスロール部10の側に位置してプレスロール部10を軸支している。軸受部20は複数の転がり軸受け22を有しているが、軸受部20は1以上の転がり軸受け22を有していればよい。転がり軸受け22には、潤滑剤(グリース)が塗布されている。
【0020】
一対のオイルシール部23は、転がり軸受け22から見て第1方向D1における両側に位置している。一対のオイルシール部23は、軸受本体部21に接続されている。オイルシール部23は、転がり軸受け22に塗布された潤滑剤が軸受部20の外部に漏れ出ることを抑制する。一対のオイルシール部23は、転がり軸受け22から見てプレスロール部10の中央円柱部12側に位置している第1オイルシール部23Aと、転がり軸受け22から見てプレスロール部10の中央円柱部12側と反対側に位置している第2オイルシール部23Bとからなる。
【0021】
図4は、図3の領域IVを拡大して示す部分的な断面図である。図3および図4に示すように、一対のオイルシール部23は、軸受本体部21に挿通されたプレスロール部10と離隔して位置している。具体的には、オイルシール部23は、オイルシール部23の内面と対向するプレスロール部10の端部11と離隔して位置している。
【0022】
一対のオイルシール部23の各々は、内周面部231と、複数の溝部232とを有している。内周面部231は、オイルシール部23において、プレスロール部10に最も接近している部分である。内周面部231は、プレスロール部10の回動軸を中心とする径方向においてプレスロール部10と対向している。内周面部231とプレスロール部10との離隔距離Dは、たとえば、およそ0.25mmである。1つのオイルシール部23における溝部232の数は、たとえば、3つである。プレスロール部10の端部11のうち、オイルシール部23(具体的には内周面部231)と対向する部分は、第1方向D1に平行に延びている。
【0023】
複数の溝部232は、第1方向D1において互いに離隔しつつ並んで位置している。複数の溝部232の各々は、内周面部231において、対応するプレスロール部10の回動軸を中心とする径方向外側に向かって形成されている。溝部232は、プレスロール部10の回動軸を中心として周方向に延びている。溝部232の各々は、第1方向D1における寸法(幅寸法)が、たとえば、およそ3mmである。溝部232の各々は、対応するプレスロール部10の回動軸を中心とする径方向における寸法(深さ寸法)が、たとえば、およそ4mmである。
【0024】
なお、図4においては、第1オイルシール部23Aにおける、内周面部231と溝部232とを示しているが、第2オイルシール部23Bも、第1オイルシール部23Aと同様の内周面部231と溝部232とを有している。ただし、第1オイルシール部23Aと、第2オイルシール部23Bとでは、対応するプレスロール部10の回動軸中心から、内周面部231までの距離が互いに異なっている。
【0025】
本実施形態において、オイルシール部23は、上述のとおりいわゆる同心溝形の形状を有しているが、オイルシール部23は、軸受本体部21に挿通されたプレスロール部10と離隔して位置しているものであれば、上述の形状に限定されない。たとえば、オイルシール部23の形状は、いわゆる直線ギャップ型またはねじ溝型であってもよい。また、プレスロール部10の端部11のうち、オイルシール部23と対向する部分は、オイルシール部23の形状と適宜対応する形状を有していてもよい。オイルシール部23は、いわゆるスリンガ形または油切り形の形状を有していることで、潤滑剤をシールしていてもよい。さらに、オイルシール部23は、プレスロール部10の端部11とともに、いわゆるラビリンス形状によって潤滑剤のシールを実現していてもよい。ラビリンス形状の具体的な形状は特に限定されない。ラビリンス形状としては、たとえば、ラジアル・ラビリンス形、アキシアル・ラビリンス形、または、調心形ラビリンス形などが挙げられる。
【0026】
次に、本実施形態に係るプレスロール装置1、および、後述する比較例に係るプレスロール装置を用いて、それぞれ、ワークを圧縮加工したときの実験例について説明する。下記の実験例においては、ワークを電極材とし、1つのワークを、第1方向D1および第2方向D2の両方に直交する搬送方向に一定速度で搬送しつつ連続的に圧縮加工したときの実験結果を示している。
【0027】
本実施形態に係るプレスロール装置1の実験例について説明する。本実験例においては、本実施形態に係るプレスロール装置1を用いて圧縮加工されたワーク100の厚さを測定した。ワーク100の厚さの測定は、ワーク100のうち圧縮加工開始時に圧縮加工された箇所、および、ワーク100の圧縮加工終了時(圧縮加工開始から約40分後)に圧縮加工された箇所で行った。本実験例においては、ワークの搬送方向における搬送速度を100m/分としたため、ワーク100の圧縮加工開始箇所および圧縮加工終了箇所は、互いにおよそ4000m離れていた。また、それぞれの箇所において、ワーク100の幅方向全体にわたって厚さを測定した。ワーク100の幅方向は、第1方向D1に対応する方向である。
【0028】
図5は、本開示の一実施形態に係るプレスロール装置を用いて圧縮加工されたワークの厚さを測定した結果を示すグラフである。図5においては、圧縮加工後のワーク100の幅方向における測定位置を横軸で示し、各測定位置でのワーク100の厚さを縦軸で示している。なお、横軸の原点はワーク100の幅方向における中央位置である。また、圧縮加工開始時に圧縮加工された箇所の測定結果を破線で示し、圧縮加工終了時に圧縮加工された箇所の測定結果を実線で示している。
【0029】
図5に示すように、圧縮加工開始時に圧縮加工された箇所、および、圧縮加工終了時に圧縮加工された箇所の両方において、ワーク100の厚さが64μm以上となっている測定位置(すなわち、活物質が集電体シートに十分配置されている部分)にて、ワーク100の厚さが、およそ64μm以上66μm以下となっていた。このように、本実施形態に係るプレスロール装置1においては、圧縮加工後のワーク100の厚さは、圧縮加工開始箇所と圧縮加工終了箇所とで、おおよそ等しくなったことがわかる。
【0030】
そしてさらに、上述の圧縮加工の際に、プレスロール装置1の各位置での温度も測定した。測定した位置は、図2に示すように、第1プレスロール部10Aの中央円柱部12の周面のうち、第1方向D1における、中央表面(第1中央表面SA1)および両端縁の近傍表面(第1端部近傍表面SA2,SA3)、第2プレスロール部10Bの中央円柱部12の周面のうち、第1方向D1における、中央表面(第2中央表面SB1)および両端縁の近傍表面(第2端部近傍表面SB2,SB3)、第1軸受部20A、第2軸受部20B、第3軸受部20C、および、第4軸受部20Dとした。各々の軸受部20の温度測定は、具体的には軸受本体部21の温度を測定した。各温度測定は、ワーク100の圧縮加工開始時と、ワーク100の圧縮加工終了時(圧縮加工開始から約40分後)に行った。各測定位置における、開始時温度To、終了時温度T、および、圧縮加工開始時から終了までの温度変化ΔT(=T-To)を、下記の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、各測定位置での温度変化ΔTは、1.9℃~2.4℃であった。この温度変化は、転がり軸受け22の発熱によるものと考えられる。
【0033】
また、第1中央表面SA1での温度変化ΔTと、第1端部近傍表面SA2,SA3でのそれぞれの温度変化ΔTとの差分が0.1℃および0.2℃、第2中央表面SB1での温度変化ΔTと第2端部近傍表面SB2,SB3でのそれぞれの温度変化ΔTとの差分が0.3℃および0.2℃であった。このように、プレスロール部10の中央円柱部12の周面のうち、第1方向D1における中央表面での温度変化ΔTと、端部近傍表面での温度変化ΔTとの差分は、0.1℃~0.3℃であり、比較的小さい値であった。
【0034】
なお、上記の実験後、目視にて、プレスロール部10と軸受部20との間を外側から確認した。この結果、異物の発生および潤滑剤の外部への漏れは認められなかった。
【0035】
次に、比較例に係るプレスロール装置の実験例について説明する。図6は、比較例に係るプレスロール装置を示す断面図である。図6に示すように、比較例に係るプレスロール装置9は、一対のオイルシール部93が、軸受本体部21に挿通されたプレスロール部10と接触するように位置している点で、本開示の一実施形態に係るプレスロール装置1と異なっている。比較例に係るプレスロール装置9におけるオイルシール部93は、プレスロール部と接するリップシール931を有している。リップシール931は、回動するプレスロール部10と摺接する。
【0036】
比較例においても、本実施形態に係るプレスロール装置1の実験例と同様にして、比較例に係るプレスロール装置9を用いて圧縮加工されたワーク100の厚さを測定した。図7は、比較例に係るプレスロール装置を用いて圧縮加工されたワークの厚さを示すグラフである。図7においては、圧縮加工されたワーク900の厚さの測定結果を示しており、具体的には、ワーク900について、圧縮加工開始時に圧縮加工された箇所の測定結果を破線で示し、圧縮加工終了時に圧縮加工された箇所の測定結果を実線で示している。
【0037】
図7に示すように、圧縮加工開始箇所では、ワーク900の厚さが64μm以上となっている測定位置において、ワーク900の厚さがおよそ64μm以上66μm以下となっていた。しかしながら、圧縮加工終了箇所では、ワークの厚さが64μm以上となっている測定位置において、ワーク900の厚さが66μm超となっている部分が、ワーク900の幅方向中央にて確認できた。
【0038】
図8は、圧縮加工終了時における比較例に係るプレスロール装置の一部とワークとを示す模式的な断面図である。図8に示すように、比較例に係るプレスロール装置9においては、プレスロール部10の形状が圧縮加工中に鼓状に変形したものと考えられる。
【0039】
そしてさらに、比較例においても、本実施形態に係るプレスロール装置1の実験例と同様にして、プレスロール装置9の各位置での温度も測定した。各測定位置における、開始時温度To、終了時温度T、および、圧縮加工開始時から終了までの温度変化ΔT(=T-To)を、下記の表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、各測定位置での温度変化ΔTは、3.8℃~6.8℃であった。この温度変化は、転がり軸受け22の発熱およびリップシール931とプレスロール部10との摩擦熱によるものと考えられる。
【0042】
また、第1中央表面SA1での温度変化ΔTと、第1端部近傍表面SA2,SA3でのそれぞれの温度変化ΔTとの差分が1.5℃および0.5℃、第2中央表面SB1での温度変化ΔTと第2端部近傍表面SB2,SB3でのそれぞれの温度変化ΔTとの差分が1.7℃および1.4℃であった。このように、プレスロール部10の中央円柱部12の周面のうち、第1方向D1における中央表面での温度変化ΔTと、端部近傍表面での温度変化ΔTの差分は、0.5℃~1.7℃であり、比較的大きい値であった。
【0043】
上述の実験例が示すように、本実施形態に係るプレスロール装置1において圧縮加工されたワークの厚さの均一性は、比較例に係るプレスロール装置9において圧縮加工されたワークの厚さの均一性と比較して高くなった。
【0044】
そして、本実施形態に係るプレスロール装置1は、比較例に係るプレスロール装置9と比較して、各測定位置での温度変化ΔTが小さくなっていた。このため、本実施形態に係るプレスロール装置1における温度変化ΔTは、ワーク100の厚さに影響を与えるほどのプレスロール部10の熱変形を生じさせなかったものと考えられる。また、比較例に係るプレスロール装置9は、本実施形態に係るプレスロール装置1と比較して、プレスロール部10の中央円柱部12の周面のうち、第1方向D1における中央表面での温度変化ΔTと、端部近傍表面での温度変化ΔTの差分が大きくなっていた。このため、比較例においては、図8に示すようなプレスロール部10のような変形が温度変化によって生じ(すなわち、熱変形が生じ)、これにより、図7に示すようなワーク900の幅方向における厚みの違いが生じてしまったものと考えられる。
【0045】
以上の実験例の結果から、一対のオイルシール部23が、軸受本体部21に挿通されたプレスロール部10と離隔して位置している本開示の一実施形態に係るプレスロール装置1においては、プレスロール部10とオイルシール部23との摩擦熱の発生がないため、圧縮加工中のプレスロール部10の温度上昇が比較的抑制されたものと考えられる。ひいては、プレスロール部10の熱変形が比較的抑制されたものと考えられる。よって、本実施形態に係るプレスロール装置1は、圧縮加工されたワーク100の厚さの均一性が圧縮加工終了時まで保たれるため、電極材の圧縮加工装置として好適に使用できる。
【0046】
また、比較例に係るプレスロール装置9においては、上述したようにリップシール931が、回動するプレスロール部10と摺接する。このため、プレスロール部10は、リップシール931との接触箇所において摩耗する。プレスロール部10の表面が金属からなる場合、プレスロール部10の摩耗により金属異物が発生する可能性がある。
【0047】
しかしながら、上述のように、本開示の一実施形態に係るプレスロール装置1においては、一対のオイルシール部23が、軸受本体部21に挿通されたプレスロール部10と離隔して位置している。当該構成によれば、オイルシール部23との接触によりプレスロール部10が摩耗することがない。このため、プレスロール部10の摩耗による異物の発生を抑制できる。さらに、プレスロール部10が金属からなる場合、蓄電装置のショートの原因となり得る金属異物の発生が抑制される。このため、プレスロール装置1は、電極材の圧縮加工装置として好適に使用できる。
【0048】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1,9 プレスロール装置、10 プレスロール部、10A 第1プレスロール部、10B 第2プレスロール部、11 端部、12 中央円柱部、20 軸受部、20A 第1軸受部、20B 第2軸受部、20C 第3軸受部、20D 第4軸受部、21 軸受本体部、22 転がり軸受け、23,93 オイルシール部、23A 第1オイルシール部、23B 第2オイルシール部、231 内周面部、232 溝部、931 リップシール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8