(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ノイズ低減シートおよびワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241001BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 L
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2022174041
(22)【出願日】2022-10-31
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一輝
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 香織
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 仁
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開平3-116094(JP,U)
【文献】国際公開第2006/129704(WO,A1)
【文献】特開2001-167933(JP,A)
【文献】特開2008-124197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体を含む可撓性のシートを備え、
前記シートにおける第一の面には、第一方向に延在する複数の第一溝と、第二方向に延在する複数の第二溝と、第三方向に延在する複数の第三溝と、が設けられており、
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝によって前記第一の面が複数の正三角形の領域に分割されており、
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝の断面形状は、溝の深さ方向に沿って開口部へ向かうに従って溝幅が大きくなる形状であ
り、
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝の各溝は、第一区間と、前記第一区間と比較して溝幅が狭い第二区間と、を有し、かつ前記第一区間および前記第二区間が交互に並んでおり、
前記第一区間は、前記第一の面がハニカム構造を構成する複数の正六角形の領域に分割されるように配置されている
ことを特徴とするノイズ低減シート。
【請求項2】
前記第二区間は、前記正六角形の領域における対角線の区間である
請求項
1に記載のノイズ低減シート。
【請求項3】
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝の断面形状は、溝幅方向の外側に向けて湾曲した形状である
請求項1
または2に記載のノイズ低減シート。
【請求項4】
ケーブルと、
前記第一の面を内側にして前記ケーブルに巻き付けられた請求項1
または2に記載のノイズ低減シートと、
を備え、
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝は、前記ノイズ低減シートが平板状である場合の溝幅が所定幅よりも狭い狭小部を有し、
前記狭小部は、溝の深さ方向における底から所定の範囲に設けられ、
前記所定幅は、前記ケーブルに流れる電流から発生するノイズの半波長である
ワイヤハーネス。
【請求項5】
ケーブルと、
第一の面を内側にして前記ケーブルに巻き付けられたノイズ低減シートと、
を備え、
前記ノイズ低減シートは、
軟磁性体を含む可撓性のシートを備え、
前記シートにおける前記第一の面には、第一方向に延在する複数の第一溝と、第二方向に延在する複数の第二溝と、第三方向に延在する複数の第三溝と、が設けられており、
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝によって前記第一の面が複数の正三角形の領域に分割されており、
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝の断面形状は、溝の深さ方向に沿って開口部へ向かうに従って溝幅が大きくなる形状であり、
前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝は、前記ノイズ低減シートが平板状である場合の溝幅が所定幅よりも狭い狭小部を有し、
前記狭小部は、溝の深さ方向における底から所定の範囲に設けられ、
前記所定幅は、前記ケーブルに流れる電流から発生するノイズの半波長である
ことを特徴とするワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ低減シートおよびワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノイズを低減する技術がある。特許文献1には、切り込み加工が施された焼結フェライト板に、当該切り込みに沿って分離した小片の脱落を防止する保護層が形成されたフェライトプレートが開示されている。特許文献1のフェライトプレートでは、厚さ寸法が50μm~1.0mmの正方形の薄板状(シート状)に形成された焼結フェライト板の表裏面に、粘着剤層およびインキ層からなる保護層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正方形の焼結フェライト板を並べた構成では、曲げ方向が直交する二方向に限定されてしまいやすい。ノイズ低減シートにおいて、対象物に取り付けられる際の変形の自由度を向上できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、変形の自由度を向上できるノイズ低減シートおよびワイヤハーネスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のノイズ低減シートは、軟磁性体を含む可撓性のシートを備え、前記シートにおける第一の面には、第一方向に延在する複数の第一溝と、第二方向に延在する複数の第二溝と、第三方向に延在する複数の第三溝と、が設けられており、前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝によって前記第一の面が複数の正三角形の領域に分割されており、前記第一溝、前記第二溝、および前記第三溝の断面形状は、溝の深さ方向に沿って開口部へ向かうに従って溝幅が大きくなる形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るノイズ低減シートは、第一の面を複数の正三角形の領域に分割する三方向の溝を有する。本発明に係るノイズ低減シートは、三方向の溝を有することで、変形の自由度を向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係るノイズ低減シートの平面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るノイズ低減シートの断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の第一溝を示す平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の第二溝を示す平面図である。
【
図5】
図5は、実施形態の第三溝を示す平面図である。
【
図6】
図6は、実施形態の正六角形の領域を示す平面図である。
【
図7】
図7は、ケーブルに対するシートの巻き付けを説明する図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係るワイヤハーネスの断面図である。
【
図12】
図12は、実施形態の他の狭小部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係るノイズ低減シートおよびワイヤハーネスにつき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[実施形態]
図1から
図12を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、ノイズ低減シートおよびワイヤハーネスに関する。
図1は、実施形態に係るノイズ低減シートの平面図、
図2は、実施形態に係るノイズ低減シートの断面図、
図3は、実施形態の第一溝を示す平面図、
図4は、実施形態の第二溝を示す平面図、
図5は、実施形態の第三溝を示す平面図、
図6は、実施形態の正六角形の領域を示す平面図、
図7は、ケーブルに対するシートの巻き付けを説明する図、
図8は、実施形態の第一溝の断面図、
図9は、閉じた第一溝の断面図、
図10は、実施形態に係るワイヤハーネスの断面図、
図11は、実施形態の狭小部を示す断面図、
図12は、実施形態の他の狭小部を示す断面図である。
【0011】
本実施形態のノイズ低減シート1は、フェライト等の軟磁性体を含む可撓性のシート2を有する。シート2は、例えば、合成樹脂のシート内に軟磁性材料が分散して配置された部材である。シート2が有する軟磁性体は、多数の軟磁性体の薄片であってもよい。合成樹脂は、ゴムまたはPVC(ポリ塩化ビニル)であってもよく、その他の合成樹脂であってもよい。シート2の合成樹脂は、弾性変形可能な合成樹脂であり、シート状に成型された状態で可撓性を有する。
【0012】
図2に示すように、シート2は、第一の面21および第二の面22を有する。第一の面21は、ケーブル等のノイズ放出体に向けられる面である。第二の面22は、第一の面21とは反対側の面である。
【0013】
図1に示すように、第一の面21は、複数の溝3によって複数の正三角形の領域21tに分割されている。複数の溝3は、例えば、シート2を成型する金型によって形成される。この場合、第一の面21を形成する金型は、溝3に対応する突起を有する。複数の溝3は、複数の第一溝10、複数の第二溝20、および複数の第三溝30を有する。第一溝10は、第一方向D1に延在する。第二溝20は、第二方向D2に延在する。第三溝30は、第三方向D3に延在する。
【0014】
第一溝10、第二溝20、および第三溝30は、第一の面21に複数の正三角形の領域21tを形成する。第一方向D1に対する第二方向D2の交差角度は、60[°]である。つまり、第一溝10と第二溝20とが交差する部分において、第一溝10に対する第二溝20の鋭角側の交差角度が60[°]である。同様に、第二方向D2に対する第三方向D3の交差角度は、60[°]である。つまり、第二溝20と第三溝30とが交差する部分において、第二溝20に対する第三溝30の鋭角側の交差角度が60[°]である。また、第三方向D3に対する第一方向D1の交差角度は、60[°]である。つまり、第三溝30と第一溝10とが交差する部分において、第三溝30に対する第一溝10の鋭角側の交差角度が60[°]である。第一溝10、第二溝20、および第三溝30は、同じ交点で交差するように配置される。
【0015】
図2には、溝3の断面形状が示されている。溝3の断面形状は、溝3の深さ方向Zに沿って開口部3aへ向かうに従って溝幅Wdが大きくなる形状である。例示された溝3は、湾曲壁3bおよび一対の直線壁3cを有する。湾曲壁3bは、断面形状が湾曲形状の壁部である。湾曲壁3bは、溝3における底側に設けられている。湾曲壁3bの断面形状は、例えば、円弧形状や双曲線の形状である。湾曲壁3bの断面形状は、連続した曲線形状であることが好ましい。湾曲壁3bは、溝幅方向Wの外側に向けて湾曲している。つまり、溝3は、溝幅方向Wの外側に向けて湾曲した断面形状を有している。
【0016】
直線壁3cは、溝3における開口部3aの側に設けられている。一対の直線壁3cは、溝幅方向Wにおいて互いに対向している。直線壁3cは、溝3の深さ方向Zに対して傾斜している。より詳しくは、一対の直線壁3cは、深さ方向Zに沿って開口部3aへ近づくに従って溝幅Wdが大きくなるように傾斜している。直線壁3cは、湾曲壁3bと連続している。直線壁3cの延在方向は、湾曲壁3bの端部の接線方向である。
【0017】
溝3は、シート2における深さ方向Zの中間線Zmよりも第二の面22の側まで設けられている。つまり、溝3の深さZ2は、シート2の厚さZ1の半分よりも大きい。シート2の厚さZ1は、所望のノイズ低減効果を実現できるように定められる。充電ケーブルに取り付けられるノイズ低減シート1では、シート2の厚さZ1が数mmとされてもよい。溝3の底から第二の面22までの厚さZ3は、シート2の曲げやすさと、シート2の強度と、ノイズ低減効果とのバランスを考慮して設定される。
【0018】
図3に示す第一の面21では、第一溝10のみが示されており、第二溝20および第三溝30の図示が省略されている。
図3に示すように、複数の第一溝10は、間隔G1で等間隔に並んでいる。間隔G1は、第一方向D1と直交する方向における線間距離である。線間距離は、一つの第一溝10の中心線から隣接する第一溝10の中心線までの距離である。
【0019】
第一溝10は、第一区間10aと、第二区間10bと、を有する。第一溝10には、第一方向D1に沿って第一区間10aおよび第二区間10bが交互に並んでいる。第二区間10bは、第一区間10aと比較して溝幅Wdが狭い幅狭部である。第一区間10aが有する溝幅WdをWd1とし、第二区間10bが有する溝幅WdをWd2とした場合、深さ方向Zの同じ位置において以下の式(1)が成立する。
Wd1>Wd2 (1)
【0020】
第一区間10aの長さL1は、正三角形の領域21tの一辺の長さである。第二区間10bの長さL2は、第一区間10aの長さL1の二倍の値である。また、第一溝10の第一区間10aは、隣り合う第一溝10の第二区間10bと対向する。つまり、第一方向D1と直交する方向において、第一区間10aと第二区間10bとが交互に並んでいる。
【0021】
図4に示す第一の面21では、第二溝20のみが示されており、第一溝10および第三溝30の図示が省略されている。
図4に示すように、複数の第二溝20は、間隔G1で等間隔に並んでいる。間隔G1は、第二方向D2と直交する方向における線間距離である。
【0022】
第二溝20は、第一区間20aと、第二区間20bと、を有する。第二溝20には、第二方向D2に沿って第一区間20aおよび第二区間20bが交互に並んでいる。第二区間20bは、第一区間20aと比較して溝幅Wdが狭い幅狭部である。第一区間20aが有する溝幅WdをWd1とし、第二区間20bが有する溝幅WdをWd2とした場合、深さ方向Zの同じ位置において上記の式(1)が成立する。
【0023】
第一区間20aは、第一溝10の第一区間10aと同じ長さL1を有し、第二区間20bは、第一溝10の第二区間10bと同じ長さL2を有する。また、第二溝20の第一区間20aは、隣り合う第二溝20の第二区間20bと対向する。つまり、第二方向D2と直交する方向において、第一区間20aと第二区間20bとが交互に並んでいる。
【0024】
図5に示す第一の面21では、第三溝30のみが示されており、第一溝10および第二溝20の図示が省略されている。
図5に示すように、複数の第三溝30は、間隔G1で等間隔に並んでいる。間隔G1は、第三方向D3と直交する方向における線間距離である。
【0025】
第三溝30は、第一区間30aと、第二区間30bと、を有する。第三溝30には、第三方向D3に沿って第一区間30aおよび第二区間30bが交互に並んでいる。第二区間30bは、第一区間30aと比較して溝幅Wdが狭い幅狭部である。第一区間30aが有する溝幅WdをWd1とし、第二区間30bが有する溝幅WdをWd2とした場合、深さ方向Zの同じ位置において上記の式(1)が成立する。
【0026】
第一区間30aは、第一溝10の第一区間10aと同じ長さL1を有し、第二区間30bは、第一溝10の第二区間10bと同じ長さL2を有する。また、第三溝30の第一区間30aは、隣り合う第三溝30の第二区間30bと対向する。つまり、第三方向D3と直交する方向において、第一区間30aと第二区間30bとが交互に並んでいる。
【0027】
図1に示すように、第一溝10、第二溝20、および第三溝30は、第一の面21を複数の正六角形の領域21hに分割するように配置されている。複数の正六角形の領域21hは、ハニカム構造を構成する。
【0028】
図6に示すように、正六角形の領域21hは、一対の第一区間10aと、一対の第一区間20aと、一対の第一区間30aと、によって形成される。第二区間10b,20b,30bは、正六角形の領域21hの対角線の区間である。一つの正六角形の領域21hは、六個の正三角形の領域21tを含む。一つの正六角形の領域21hは、他の六個の正六角形の領域21hと隣接しており、かつ六個の正六角形の領域21hによって囲まれる。隣り合う二つの六角形の領域21hは、一つの第一区間10a、あるいは一つの第一区間20a、あるいは一つの第一区間30aによって仕切られている。
【0029】
図1から分かるように、第一の面21は、ハニカム構造を構成する複数の正六角形の領域21hに分割される。以下に説明するように、本実施形態のノイズ低減シート1は、対象物に対して取り付けられる際の変形の自由度が高い。
【0030】
図7には、ケーブル100に対して巻き付けられるノイズ低減シート1が示されている。ケーブル100は、例えば、車両に対して電力を供給する充電ケーブルである。充電ケーブルは、普通充電用のケーブルであってもよく、急速充電用のケーブルであってもよい。シート2は、第一の面21でケーブル100を覆うようにケーブル100に巻き付けられる。
【0031】
可撓性を有するシート2は、シート2がケーブル100に対して巻き付けられる際に弾性変形することができる。本実施形態のシート2は、更に、溝3が閉じるように変形することでシート2が曲がりやすくなっている。溝3は、異なる三つの方向に延在する第一溝10、第二溝20、および第三溝30を含む。よって、シート2がケーブル100に巻き付けられる際に、シート2の変形の自由度が高い。比較例として、正方形の薄板状(シート状)に形成された焼結フェライト板を並べたフェライトプレートについて検討する。比較例のフェライトプレートは、直交する二方向に曲がることができるが、他の方向に柔軟に対応することが困難である。
【0032】
本実施形態のノイズ低減シート1では、異なる三つの方向に延在する溝3を有することで、様々な方向に沿った曲げに柔軟に対応することができる。また、本実施形態のシート2は、ケーブル100に対して取り付けられた状態で、ケーブル100の変形に適切に追従することができる。例えば、本実施形態のシート2は、ケーブル100の曲げ伸ばし等に対して柔軟に追従することができる。三方向に延在する溝3がケーブル100の曲げ形状に応じて適宜変形することにより、シート2がケーブル100の変形に追従できる。また、三方向に延在する溝3が適宜変形することで、シート2において応力が分散される。
【0033】
また、本実施形態のノイズ低減シート1は、様々な径のケーブル100に対して柔軟に対応することができる。溝3の溝幅Wdは、想定される最小径のケーブル100に対して巻き付け可能なように設定されてもよい。この場合、大径のケーブル100にノイズ低減シート1が巻き付けられた状態で、溝3が閉じきらずに開口していてもよい。ただし、ケーブル100にシート2が巻き付けられた後の溝3の開口幅は、ケーブル100に巻き付けられる前の開口幅よりも狭くなっている。よって、ノイズ低減シート1は、大径のケーブル100に巻き付けられた際にも十分なノイズ低減効果を発揮する。
【0034】
本実施形態のノイズ低減シート1では、溝3が第一区間10a,20a,30aと、第二区間10b,20b,30bと、を有する。これにより、シート2における変形の偏りや応力集中が抑制される。一例として、
図8に示すように第一溝10を閉じるようなシート2の変形について説明する。この場合、シート2は、第一溝10の第一区間10aおよび第二区間10bを閉じながら曲がっていく。溝幅Wdが狭い第二区間10bは、第一区間10aよりも先に完全に閉じる。
【0035】
図9には、閉じた第二区間10bの断面が示されている。本実施形態の溝3は、溝3が閉じるときに両側の壁面が密着するように構成されている。すなわち、溝3の形状は、例えば、溝3の底から溝3の開口部3aまでが隙間無く閉じるように設計される。または、溝3の形状は、少なくとも溝3の開口部3aが隙間無く閉じるように設計される。これにより、ノイズ低減シート1が十分なノイズ低減効果を発揮する。
【0036】
閉じた第二区間10bは、曲げの力F1に対して反力を発生する。つまり、第一溝10において、曲げの力F1に対する剛性が高くなる。この状態からシート2が更に曲がる場合、第一溝10では第一区間10aが更に閉じることができる。ただし、第一溝10の剛性が高くなっていることで、シート2における第一溝10以外の部分の曲げが促進される。つまり、シート2の全体が湾曲するような曲げが生じやすくなる。その結果、シート2の断面形状がケーブル100の断面形状に沿った形状となる。言い換えると、ケーブル100の外周面とシート2の第一の面21との間に隙間が生じにくい。よって、本実施形態のノイズ低減シート1は、ケーブル100に密着しやすく、ノイズ漏れを抑制することができる。
【0037】
第二溝20および第三溝30が閉じるようなシート2の変形についても同様の効果がある。よって、本実施形態のノイズ低減シート1は、対象物に対して取り付けられる際の変形の自由度が高く、かつ対象物の形状に対する追従性が高い。
【0038】
図10には、本実施形態のノイズ低減シート1が適用されたワイヤハーネスWHが示されている。ワイヤハーネスWHは、ケーブル100と、第一の面21を内側にしてケーブル100に巻き付けられたノイズ低減シート1と、を有する。ノイズ低減シート1は、ケーブル100に対して固定される。ケーブル100に対するノイズ低減シート1の固定手段は、結束バンド等の固定部材であってもよく、接着剤や接着シートであってもよく、その他の手段であってもよい。
【0039】
ノイズ低減シート1は、ケーブル100の全周を覆っている。ノイズ低減シート1は、端部を重ね合わせてケーブル100に巻き付けられてもよい。この場合、第二の面22の端部に対して第一の面21の端部が重ねられる。ノイズ低減シート1は、ケーブル100から外部へのノイズの放出を低減させることができるように構成されている。以下に説明するように、本実施形態の溝3の溝幅Wdは、低減対象とするノイズの波長(以下、単に「対象波長λ」と称する。)に応じて定められる。
【0040】
対象波長λは、例えば、ケーブル100に流れる電流に応じて定められる。ケーブル100に電流が流れる場合、ケーブル100からノイズが放出される。対象波長λは、放出されるノイズの波長から決定される。対象波長λは、例えば、放出されるノイズのうち最も周波数が大きいノイズの波長である。対象波長λは、ケーブル100に接続されたスイッチング回路の周波数に対応する波長であってもよい。
【0041】
図11に示すように、本実施形態の溝3は、狭小部3dを有する。狭小部3dは、溝幅Wdが対象波長λの半波長λ/2以下の部分である。狭小部3dは、溝3の底を含んでおり、溝幅方向Wに沿った所定の範囲に設けられる。狭小部3dは、シート2が
図11に示す平板状の状態において、対象波長λを有するノイズの透過を規制することができる。また、狭小部3dは、対象波長λよりも長い波長を有するノイズの透過を規制することができる。シート2が対象物に対して取り付けられた場合、狭小部3dの溝幅Wdが狭められる。つまり、溝3において、対象波長λのノイズ透過を規制できる部分が開口部3aに向けて広がる。よって、本実施形態のノイズ低減シート1は、波長が対象波長λ以上であるノイズを効果的に低減させることができる。
【0042】
溝3は、第一区間10a,20a,30aおよび第二区間10b,20b,30bの両方に狭小部3dを有していてもよい。この場合に、相対的に幅が狭い第二区間10b,20b,30bでは、全体が狭小部3dとなっていてもよい。全体が狭小部3dである第二区間10b,20b,30bでは、開口部3aの溝幅Wdが半波長λ/2以下となる。
【0043】
第一区間10a,20a,30aにおいて狭小部3dが設けられる範囲は、任意である。一例として、狭小部3dは、中間線Zmから溝3の底までの範囲に設けられてもよい。この場合、中間線Zmにおける溝幅Wdが半波長λ/2となる。狭小部3dは、中間線Zmを含まずに中間線Zmよりも溝3の底側に設けられてもよい。あるいは、狭小部3dは、溝3の深さZ2の半分の位置から底までの範囲に設けられてもよい。
【0044】
なお、溝3の断面形状は、例示された形状には限定されない。例えば、溝3は、直線壁3cを有していなくてもよい。この場合、溝3の全体が湾曲壁3bとされてもよい。また、溝3は、湾曲壁3bを有していなくてもよい。
図12には、湾曲壁3bを有していない溝3の断面形状の一例が示されている。
図12に示す溝3の断面形状は、V字形状である。溝3は、一対の直線壁3cを有する。溝3の底は、中間線Zmよりも第二の面22の側に設けられてもよい。溝3は、溝幅Wdが半波長λ/2以下である狭小部3dを有する。狭小部3dは、中間線Zmから溝3の底までの範囲に設けられてもよい。
【0045】
以上説明したように、本実施形態のノイズ低減シート1は、軟磁性体を含む可撓性のシート2を有する。シート2における第一の面21には、第一方向D1に延在する複数の第一溝10と、第二方向D2に延在する複数の第二溝20と、第三方向D3に延在する複数の第三溝30と、が設けられている。第一溝10、第二溝20、および第三溝30によって第一の面21が複数の正三角形の領域21tに分割されている。第一溝10、第二溝20、および第三溝30の断面形状は、溝3の深さ方向Zに沿って開口部3aへ向かうに従って溝幅Wdが大きくなる形状である。本実施形態のノイズ低減シート1は、三方向に延在する複数の溝3を有することで、対象物に取り付けられる際の変形の自由度を向上させることができる。
【0046】
本実施形態のノイズ低減シート1は、従来のフェライトコアと比較して安価で製造可能である。また、対象物に対する取り付けの際に専用治具等が不要である。よって、本実施形態のノイズ低減シート1は、コスト削減の面で高い効果を有する。また、本実施形態のノイズ低減シート1は、軽量化による商品性の向上を実現できる。また、本実施形態のノイズ低減シート1は、顧客からのニーズ(EMC対策、生産性向上によるコスト削減)にも応えることができる。
【0047】
本実施形態の第一溝10、第二溝20、および第三溝30の各溝は、第一区間10a,20a,30aと、第二区間10b,20b,30bと、を有する。第二区間10b,20b,30bは、第一区間10a,20a,30aと比較して溝幅Wdが狭い。各溝において、第一区間10a,20a,30aおよび第二区間10b,20b,30bが交互に並んでいる。第一区間10a,20a,30aは、第一の面21がハニカム構造を構成する正六角形の領域21hに分割されるように配置されている。このように構成されたシート2は、応力集中を抑制しつつ柔軟に変形することができる。
【0048】
本実施形態の第二区間10b,20b,30bは、正六角形の領域21hにおける対角線の区間である。正六角形の領域21hが対角線の溝を有することで、シート2の変形の自由度が向上する。例えば、正六角形の領域21hが曲面に対して柔軟にフィットする。
【0049】
本実施形態の第一溝10、第二溝20、および第三溝30の断面形状は、溝幅方向Wの外側に向けて湾曲した形状である。このような形状の溝3では、溝3が閉じるときに開口部3aが閉塞されやすくなる。
【0050】
本実施形態のワイヤハーネスWHは、ケーブル100と、上記のノイズ低減シート1と、を有する。ノイズ低減シート1は、第一の面21を内側にしてケーブル100に巻き付けられる。第一溝10、第二溝20、および第三溝30は、ノイズ低減シート1が平板状である場合の溝幅Wdが所定幅よりも狭い狭小部3dを有する。狭小部3dは、溝3の深さ方向Zにおける底から所定の範囲に設けられる。所定幅は、ケーブル100に流れる電流から発生するノイズの半波長λ/2である。ノイズ低減シート1を有するワイヤハーネスWHは、ケーブル100から放射されるノイズを効果的に低減させることができる。
【0051】
なお、第一溝10、第二溝20、および第三溝30の具体的な構成は、実施形態で例示された構成には限定されない。例えば、正六角形の領域21hが含む正三角形の領域21tの個数は、六個には限定されない。正六角形の領域21hには、六個よりも多くの正三角形の領域21tを含んでいてもよい。
【0052】
溝3の深さZ2は、第一区間10a,20a,30aと第二区間10b,20b,30bとで異なっていてもよい。この場合、第二区間10b,20b,30bの深さは、第一区間10a,20a,30aの深さよりも小さくてもよい。これにより、第二区間10b,20b,30bは、第一区間10a,20a,30aと比較して曲げの力F1に対して高い剛性を有する。
【0053】
第一溝10、第二溝20、第三溝30は、第二区間10b,20b,30bを有していなくてもよい。この場合、溝幅Wdは、溝3の延在方向に沿って一定となる。
【0054】
上記の実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:ノイズ低減シート
2:シート
3:溝、 3a:開口部、 3b:湾曲壁、 3c:直線壁、 3d:狭小部
10:第一溝、 10a:第一区間、 10b:第二区間
20:第二溝、 20a:第一区間、 20b:第二区間
30:第三溝、 30a:第一区間、 30b:第二区間
21:第一の面、 21h:六角形の領域、 21t:三角形の領域
22:第二の面22
D1:第一方向、 D2:第二方向、 D3:第三方向
G1:間隔
L1:第一区間の長さ、 L2:第二区間の長さ
W:溝幅方向
Wd:溝幅、 Wd1:第一区間の溝幅、 Wd2:第二区間の溝幅
Z:深さ方向
λ:対象波長、 λ/2:半波長