(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】導波管スイッチ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/12 20060101AFI20241001BHJP
H01P 3/123 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01P1/12
H01P3/123
(21)【出願番号】P 2022183247
(22)【出願日】2022-11-16
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武元 佑紗
(72)【発明者】
【氏名】待鳥 誠範
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-116015(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0194861(US,A1)
【文献】特表2019-508945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0185829(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/12
H01P 3/123
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導波路(11)が形成された第1導波管(10)と、第2導波路(21)が形成された第2導波管(20)と、を備え、前記第1導波路と前記第2導波路との間の接続状態と非接続状態とを切り替えるための導波管スイッチ(1)であって、
前記第1導波管及び前記第2導波管に対して位置が固定された固定ブロック(30)と、
前記第1導波管、前記第2導波管、及び前記固定ブロックに対してスライド移動可能な可動ブロック(40)と、を備え、
前記固定ブロックは、
前記第1導波管の前記第2導波管に対向する側の端面(10b)に所定の隙間を開けて平行に対向する第1端面(31)と、
前記第2導波管の前記第1導波管に対向する側の端面(20a)に所定の隙間を開けて平行に対向する第2端面(32)と、
前記可動ブロックに対向する第3端面(33)と、
前記可動ブロックに対向し、前記第3端面の外側に設けられた2つの第4端面(34a,34b)と、
各前記第4端面に周期的に配置された複数の金属ピン(50)と、を有し、
前記可動ブロックは、
前記第1導波管の前記第2導波管に対向する側の前記端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第5端面(45)と、
前記第2導波管の前記第1導波管に対向する側の前記端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第6端面(46)と、
前記固定ブロックの前記第3端面及び前記第4端面に平行に対向する第7端面(47)と、
前記第7端面に配置され、隣り合う前記金属ピン間の隙間より小さい厚さの突起(55)と、を有し、
前記第7端面に所定の隙間を空けて対向する前記金属ピンと、前記第3端面と、前記第7端面とで囲まれた導波路(60)が形成され、
前記第3端面と前記第7端面との距離は、前記第1導波路及び前記第2導波路の長方形の開口の短辺方向の幅に等しく、
前記第3端面の幅は、前記第1導波路及び前記第2導波路の長方形の開口の長辺方向の幅に等しく、
前記可動ブロックは、前記第1導波管の前記第2導波管に対向する側の前記端面と、前記第2導波管の前記第1導波管に対向する側の前記端面と、前記第3端面と、前記第4端面に対して平行にスライド移動可能であり、
前記接続状態は、前記突起が、前記第4端面のうち前記金属ピンが設けられていない箇所と前記第7端面とに挟まれた格納領域(52a,52b)に配置されて、前記第1導波路と前記第2導波路との間の電磁波の透過を可能にする状態であり、
前記非接続状態は、前記突起が前記導波路の位置に配置されて、前記第1導波路と前記第2導波路との間の電磁波の伝搬の遮断を可能にする状態であることを特徴とする導波管スイッチ。
【請求項2】
前記金属ピンの形状は、直方体形状、円柱形状、又は多角柱形状のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の導波管スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管スイッチに関し、特に、金属壁で囲まれた導波路を有する導波管の伝搬経路を切り替えるための導波管スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
今後更なる増大が予想されるモバイルトラフィックに対応するため、数十Gbps級の伝送速度を実現することが可能なミリ波・テラヘルツ波帯を無線通信に利用することが強く求められており、例えばIEEE802.15.3dでは、252~325GHzの使用が検討されている。
【0003】
例えば、WR-3帯域(220~325GHz)の電磁波を伝搬させる伝搬経路としては、内寸が0.864mm×0.432mmの方形導波管が用いられる。このような方形導波管を用いた各種装置では、入出力の導波管の間に、少なくとも1つの導波路を備えた可動部を配置し、これをスライドさせて電磁波の伝搬経路を切り替えるようになっている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された従来のスライド式導波管スイッチにおいては、入出力の導波管と可動部との間に、機械的な摩耗を抑制するための間隙がそれぞれ設けられており、入出力の導波管の開口と可動部の導波路の開口には、これらの間隙からの電磁波の漏洩を低減するためのチョーク溝が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のスライド式導波管スイッチでは、広帯域のチョーク溝が設けられていても、可動部の導波路の位置が所定の停止位置からずれると、このずれに起因した意図しない反射点が生じてしまう。その結果、わずかな導波路の位置ずれによって反射特性及び透過特性が敏感に変化し、例えば透過特性に落ち込みが発生するなど、広帯域性が著しく損なわれ得るという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、広帯域性に優れた導波管スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る導波管スイッチは、第1導波路が形成された第1導波管と、第2導波路が形成された第2導波管と、を備え、前記第1導波路と前記第2導波路との間の接続状態と非接続状態とを切り替えるための導波管スイッチであって、前記第1導波管及び前記第2導波管に対して位置が固定された固定ブロックと、前記第1導波管、前記第2導波管、及び前記固定ブロックに対してスライド移動可能な可動ブロックと、を備え、前記固定ブロックは、前記第1導波管の前記第2導波管に対向する側の端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第1端面と、前記第2導波管の前記第1導波管に対向する側の端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第2端面と、前記可動ブロックに対向する第3端面と、前記可動ブロックに対向し、前記第3端面の外側に設けられた2つの第4端面と、各前記第4端面に周期的に配置された複数の金属ピンと、を有し、前記可動ブロックは、前記第1導波管の前記第2導波管に対向する側の前記端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第5端面と、前記第2導波管の前記第1導波管に対向する側の前記端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第6端面と、前記固定ブロックの前記第3端面及び前記第4端面に平行に対向する第7端面と、前記第7端面に配置され、隣り合う前記金属ピン間の隙間より小さい厚さの突起と、を有し、前記第7端面に所定の隙間を空けて対向する前記金属ピンと、前記第3端面と、前記第7端面とで囲まれた導波路が形成され、前記第3端面と前記第7端面との距離は、前記第1導波路及び前記第2導波路の長方形の開口の短辺方向の幅に等しく、前記第3端面の幅は、前記第1導波路及び前記第2導波路の長方形の開口の長辺方向の幅に等しく、前記可動ブロックは、前記第1導波管の前記第2導波管に対向する側の前記端面と、前記第2導波管の前記第1導波管に対向する側の前記端面と、前記第3端面と、前記第4端面に対して平行にスライド移動可能であり、前記接続状態は、前記突起が、前記第4端面のうち前記金属ピンが設けられていない箇所と前記第7端面とに挟まれた格納領域に配置されて、前記第1導波路と前記第2導波路との間の電磁波の透過を可能にする状態であり、前記非接続状態は、前記突起が前記導波路の位置に配置されて、前記第1導波路と前記第2導波路との間の電磁波の伝搬の遮断を可能にする状態である構成である。
【0008】
この構成により、本発明に係る導波管スイッチは、通常の入出力導波管に相当する第1導波管及び第2導波管と、ギャップ導波管本体を構成する固定ブロックとを所定の位置関係に固定し、突起が設けられた可動ブロックだけをスライド可能としている。この構成により、本発明に係る導波管スイッチは、周期的に並んだ金属ピンの隙間よりも薄い突起を金属ピン50a,50bが設けられていない格納領域とギャップ導波管の導波路とのいずれかに配置することが可能であるため、電磁波の透過及び遮断を切り替えるSPST(Single-Pole Single-Throw)スイッチとして機能することができる。
【0009】
また、本発明に係る導波管スイッチは、第1導波路と第2導波路を接続するギャップ導波管の導波路の位置が固定されているため、従来のスライド式導波管スイッチで見られたような、導波路同士のずれに起因した意図しない反射点が生じない。これにより、本発明に係る導波管スイッチは、広帯域性に優れた導波管スイッチとして機能することができる。
【0010】
また、本発明に係る導波管スイッチにおいては、前記金属ピンの形状は、直方体形状、円柱形状、又は多角柱形状のいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、広帯域性に優れた導波管スイッチを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る導波管スイッチを示す斜視図(その1)である。
【
図2】本発明の実施形態に係る導波管スイッチを示す斜視図(その2)である。
【
図3】本発明の実施形態に係る導波管スイッチのON状態の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側面図であり、(c)は(a)のA-A線斜視断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る導波管スイッチのOFF状態の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側面図であり、(c)は(a)のA-A線斜視断面図である。
【
図5】(a)は、直方体形状の金属ピンが固定ブロックに無限周期配列されたシミュレーションモデルを示しており、(b)はこのシミュレーションモデルにおける直方体形状の金属ピンの1つ当たりのサイズを示している。
【
図6】
図5(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルにおいて、金属ピンの側面に垂直に電磁波を照射した際の分散特性を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態に係る導波管スイッチの反射特性及び透過特性のシミュレーション結果を示すグラフであって、(a)はON状態の反射特性及び透過特性を示しており、(b)はOFF状態の反射特性及び透過特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る導波管スイッチの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0014】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、第1導波管10と、第2導波管20と、固定ブロック30と、可動ブロック40と、駆動装置70と、を備える。第1導波管10、第2導波管20、固定ブロック30、及び可動ブロック40は、例えば、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。これらの金属材料のうち、アルミニウムは、加工がしやすくコストが安い上に表面粗さを小さくできるため、特に好ましい。
【0015】
第1導波管10には、金属壁で囲まれた所定口径の第1導波路11が、端面10aからその反対側の端面10bまで貫通するとともに、端面10a及び端面10bに直交する向きで形成されている。同様に、第2導波管20には、金属壁で囲まれた所定口径の第2導波路21が、端面20aからその反対側の端面20bまで貫通するとともに、端面20a及び端面20bに直交する向きで形成されている。第1導波路11と第2導波路21の口径は、同一である。第1導波路11は、第2導波路21の中心を通過する線上に形成されている。
【0016】
導波管スイッチ1は、第1導波路11と第2導波路21との間の電磁波の透過と遮断とを切り替えるためのSPSTスイッチである。例えば、第1導波路11及び第2導波路21は、内寸が0.864mm×0.432mmであり、WR-3帯域(220~325GHz)を透過帯域とするWR-3導波管を構成する。
【0017】
固定ブロック30は、第1導波管10及び第2導波管20に対して位置が固定されている。固定ブロック30は、第1導波管10の第2導波管20に対向する側の端面10bに所定の隙間を開けて平行に対向する第1端面31と、第2導波管20の第1導波管10に対向する側の端面20aに所定の隙間を開けて平行に対向する第2端面32と、可動ブロック40に対向する第3端面33と、可動ブロック40に対向し、第3端面33の外側に設けられた2つの第4端面34a,34bと、第4端面34a,34bの外側にそれぞれ設けられた2つの端面30a,30bと、を有する。
【0018】
固定ブロック30の複数の端面のうち、端面30a,30bが最も可動ブロック40に近く、第3端面33と第4端面34a,34bは、端面30a,30bに対して凹んだ形状を成している。端面30a,30bと、第3端面33と、第4端面34a,34bとは、互いに平行である。
【0019】
さらに、固定ブロック30は、第4端面34a,34bに周期的に配置された複数の金属ピン50を有する。複数の金属ピン50は、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。複数の金属ピン50は、例えば、半田付けや導電性の接着剤による接着により、第4端面34a,34bに取り付けられていてもよい。あるいは、複数の金属ピン50は、固定ブロック30の一部として一体形成されたものであってもよい。金属ピン50の形状は、任意の柱形状であってよく、例えば、直方体形状、円柱形状、又は、六角柱などの多角柱形状のいずれかであってよい。
【0020】
複数の金属ピン50は、一方の第4端面34aに設けられた金属ピン50aと、他方の第4端面34bに設けられた金属ピン50bと、に分類される。金属ピン50a間のピッチと、金属ピン50b間のピッチは等しい。なお、第3端面33には、複数の金属ピン50が設けられていない。通常、第3端面33は、後述する導波路60の高さ方向の幅に応じて、2つの第4端面34a,34bの高さとは、異なる高さを有する。ここで、「高さ」とは、導波管スイッチ1における電磁波の伝搬方向(z軸方向)に垂直な方向であって、図中に示したy軸方向の高さを指す。
【0021】
可動ブロック40は、第1導波管10の第2導波管20に対向する側の端面10bに所定の隙間を開けて平行に対向する第5端面45と、第2導波管20の第1導波管10に対向する側の端面20aに所定の隙間を開けて平行に対向する第6端面46と、固定ブロック30の端面30a,30b、第3端面33、並びに、第4端面34a,34bに平行に対向する第7端面47と、を有する。
【0022】
可動ブロック40は、第1導波管10の第2導波管20に対向する側の端面10bと、第2導波管20の第1導波管10に対向する側の端面20aと、固定ブロック30の端面30a,30b、第3端面33、並びに、第4端面34a,34bに対して、平行にスライド移動可能に構成されている。
【0023】
可動ブロック40は、駆動装置70によって固定ブロック30に対してスライド移動可能に支持されている。駆動装置70の構造は任意であるが、可動ブロック40の位置と移動距離をセンサやエンコーダ等で検出して、後述するON状態及びOFF状態を実現する位置に可動ブロック40を選択的に移動できるように構成されていればよい。
【0024】
さらに、可動ブロック40は、電磁波の伝搬方向(z軸方向)に隣り合う金属ピン50間の隙間よりも小さい厚さの突起55を第7端面47に有する。ここで、「突起55の厚さ」とは、導波管スイッチ1における電磁波の伝搬方向(z軸方向)の厚さを指す。突起55は、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。突起55は、例えば、半田付けや導電性の接着剤による接着により、第7端面47に配置されていてもよい。あるいは、突起55は、可動ブロック40の一部として一体形成されることにより、第7端面47に配置されていてもよい。
【0025】
突起55は、例えば、直方体形状を成しており、導波管スイッチ1における電磁波の伝搬方向(z軸方向)に垂直な面の幅及び高さと、電磁波の伝搬方向(z軸方向)の厚さは、導波管スイッチ1において不要な共振モードが発生しない値に適宜設定可能である。
【0026】
ここで、固定ブロック30の第1端面31と第1導波管10の端面10bとの距離、固定ブロック30の第2端面32と第2導波管20の端面20aとの距離、可動ブロック40の第5端面45と第1導波管10の端面10bとの距離、並びに、可動ブロック40の第6端面46と第2導波管20の端面20aとの距離は、例えば20μm程度である。また、固定ブロック30の端面30a,30bと可動ブロック40の第7端面47との距離は、例えば40μm程度である。
【0027】
固定ブロック30の第1端面31と、可動ブロック40の第5端面45とは、同一平面内にある。また、固定ブロック30の第2端面32と、可動ブロック40の第6端面46とは、同一平面内にある。
【0028】
固定ブロック30と可動ブロック40とにより、いわゆるギャップ導波管(Gap Waveguide)が構成される。固定ブロック30と可動ブロック40とにより構成されたギャップ導波管は、
図3(a)に示すように、複数の金属ピン50と、固定ブロック30の第3端面33と、可動ブロック40の第7端面47とで囲まれて形成された導波路60を有する。複数の金属ピン50が周期的に配置された領域では、電磁波の伝搬が阻止され、電磁界エネルギーが閉じ込められるようになっている。一方、複数の金属ピン50が配置されていない導波路60においては、連続した導体面が続いているため、電磁波が伝搬できるようになっている。
【0029】
導波路60の口径は、第1導波路11と第2導波路21の口径と同一である。導波路60は、第1導波路11と第2導波路21の中心を通過する線上に形成されている。すなわち、固定ブロック30の第3端面33と、可動ブロック40の第7端面47との距離は、第1導波路11及び第2導波路21の長方形の開口の短辺方向の幅に等しい。また、複数の金属ピン50が設けられていない第3端面33の幅は、第1導波路11及び第2導波路21の長方形の開口の長辺方向の幅に等しい。ここで、「第3端面33の幅」とは、電磁波の伝搬方向(z軸方向)に垂直な方向であって、図中に示したx軸方向の幅を指す。
【0030】
本実施形態におけるギャップ導波管は、標準的な金属導波管の導波路の側面部が導体壁ではなく、周期的に配置された複数の金属ピン50に置き換わった構造を有している。金属ピン50の上面51は、導波路60上部と同様に空気ギャップを挟んで可動ブロック40の第7端面47と対向しているため、固定ブロック30と可動ブロック40との金属接触はない。
【0031】
すなわち、本実施形態の導波管スイッチ1は、固定ブロック30と可動ブロック40との金属接触を必要としないという特徴を有する。このため、通常の入出力導波管である第1導波管10及び第2導波管20と、ギャップ導波管の固定ブロック30を所定の位置関係に固定して、機械的摩耗なく可動ブロック40だけをスライドすることが可能となる。
【0032】
加えて、導波路60の電磁波の伝搬方向(z軸方向)に沿った管壁に相当する部分は、複数の金属ピン50が周期的に並んだ構造であるから、隣り合う金属ピン50間の隙間よりも薄い構造物である突起55を、その隙間を通して挿抜することが可能である。
【0033】
図3(a)~(c)は、固定ブロック30の第4端面34a,34bのうち金属ピン50が設けられていない箇所と第7端面47とに挟まれた格納領域52a,52bに、可動ブロック40の突起55が配置された状態を示している。
図3(a)は正面図であり、
図3(b)は側面図であり、
図3(c)は
図3(a)のA-A線斜視断面図である。
図3(a)~(c)に示す状態は、導波管スイッチ1が、第1導波路11と第2導波路21との間の電磁波の透過を可能にする接続状態(以下、「ON状態」とも呼ぶ)である。
【0034】
図4(a)~(c)は、導波路60の位置に突起55が配置されて、第1導波路11又は第2導波路21から入力された電磁波が突起55で反射される状態を示している。
図4(a)は正面図であり、
図4(b)は側面図であり、
図4(c)は
図4(a)のA-A線斜視断面図である。すなわち、
図4(a)~(c)に示す状態は、導波管スイッチ1が、第1導波路11と第2導波路21との間の電磁波の伝搬の遮断を可能にする非接続状態(以下、「OFF状態」とも呼ぶ)である。
【0035】
以下、導波管スイッチ1において金属ピン50が設けられた領域の伝搬特性分布のシミュレーション結果について説明する。
図5(a)は、直方体形状の金属ピン50が固定ブロック30に無限周期配列されたシミュレーションモデルを示している。
図5(b)は、
図5(a)のシミュレーションモデルにおける直方体形状の金属ピン50の1つ当たりのサイズを示している。
【0036】
可動ブロック40の第7端面47と金属ピン50の上面51との隙間g、金属ピン50間のピッチp、金属ピン50の高さh、金属ピン50の幅wは、例えば以下のような値である。
【0037】
隙間g=λc/20=0.06245mm
ピッチp=λc/3=0.4163mm
高さh=λc/4=0.3123mm
幅w=λc/6=0.2082mm
ここで、λcは、理想とする伝搬阻止帯域の中心周波数に対応する自由空間波長であり、例えば中心周波数を240GHzとするとき、λc=1.249mmである。
【0038】
図6は、
図5(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルにおいて、上記の金属ピン50に関するパラメータを用いて、金属ピン50の側面に垂直に電磁波を照射した際の分散特性を示している。このシミュレーション結果は、146~366GHzの伝搬阻止帯域においては、いかなる伝搬モードも発生せず、電磁波の伝搬が遮断されることを示している。WR-3帯域はこの伝搬阻止帯域内に収まっているため、上記の金属ピン50に関するパラメータを用いれば、WR-3導波管として機能するギャップ導波管を構成できることが分かる。
【0039】
図7(a)は、
図3(a)~(c)に示したON状態の構成における第1導波路11と第2導波路21の間の反射特性S
11及び透過特性S
21のシミュレーション結果を示している。また、
図7(b)は、
図4(a)~(c)に示したOFF状態の構成における第1導波路11と第2導波路21の間の反射特性S
11及び透過特性S
21のシミュレーション結果を示している。これらのシミュレーションでは、第1導波路11から第2導波路21に向かって電磁波が伝搬するとしている。
【0040】
シミュレーション条件は以下のとおりである。なお、金属ピン50に関するサイズは、
図5(a)及び(b)に示したシミュレーションモデルと同一である。
・突起55の厚さ:0.1mm
・突起55の幅:0.4mm
・突起55の高さ:0.35mm
・突起55の上面56と第4端面34a,34bとの距離:0.0247mm
・第3端面33の幅:0.864mm
・第3端面33と第7端面47との距離:0.432mm
・端面30a,30bと第7端面47との距離:0.04mm
・第4端面34a,34bと第7端面47との距離:0.3747mm
【0041】
図7(a)及び(b)に示すように、ON状態で-2.5dBよりも高い透過特性S
21が得られたのに対し、OFF状態では-15dBよりも低い透過特性S
21が得られた。一方、ON状態で-18dBよりも低い反射特性S
11が得られたのに対し、OFF状態では-2.5dBよりも高い透過特性S
21が得られた。すなわち、
図7(a)及び(b)のシミュレーション結果から、本実施形態の導波管スイッチ1が、ON状態とOFF状態とで電磁波の透過及び遮断を切り替えられるSPSTスイッチとして機能することが確認できた。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、通常の入出力導波管に相当する第1導波管10及び第2導波管20と、ギャップ導波管本体を構成する固定ブロック30とを所定の位置関係に固定し、突起55が設けられた可動ブロック40だけをスライド可能としている。この構成により、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、周期的に並んだ金属ピン50の隙間よりも薄い突起55を金属ピン50a,50bが設けられていない格納領域52a,52bと導波路60とのいずれかに配置することが可能であるため、電磁波の透過(ON状態)及び遮断(OFF状態)を切り替えるSPSTスイッチとして機能することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、第1導波路11と第2導波路21を接続する導波路60の位置が固定されているため、従来のスライド式導波管スイッチで見られたような、導波路同士のずれに起因した意図しない反射点が生じない。これにより、本実施形態に係る導波管スイッチ1は、広帯域性に優れた導波管スイッチとして機能することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 導波管スイッチ
10 第1導波管
10a,10b 端面
11 第1導波路
20 第2導波管
20a,20b 端面
21 第2導波路
30 固定ブロック
30a,30b 端面
31 第1端面
32 第2端面
33 第3端面
34a,34b 第4端面
40 可動ブロック
45 第5端面
46 第6端面
47 第7端面
50,50a,50b 金属ピン
51 上面
52a,52b 格納領域
55 突起
56 上面
60 導波路
70 駆動装置