(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置、制御システム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/416 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
G05B19/416 E
(21)【出願番号】P 2022521952
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2021017994
(87)【国際公開番号】W WO2021230273
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020085293
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大西 庸士
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140482(JP,A)
【文献】特開2014-188665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/416
G05B 19/42 - 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークと工具を同時に回転させてワークの表面に多角形を形成するポリゴン加工を制御する制御装置であって、
前記ワークの角速度の指令を生成するワーク軸指令生成部と、
前記工具の角速度の指令を生成する工具軸指令生成部と、
前記工具に取り付けられた刃具の回転方向のずれに関する情報を取得するずれ取得部と、
前記ずれ取得部が取得した刃具の回転方向のずれに関する情報に基づき、該ずれによって生じた前記多角形
の形状の変化をなくす方向に工具軸又はワーク軸の何れか一方又は両方の位相を調整するパルスを生成する調整量生成部と、
前記ワークの角速度の指令又は前記工具の角速度の指令の何れか一方、又は、両方に上記パルスを重畳させる調整量重畳部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記調整量重畳部は、前記ポリゴン加工における前記工具の空転時に、前記パルスを重畳させる、請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記刃具の回転方向のずれに関する情報は、試し加工をしたときのワーク外形の角度である、請求項1記載の制御装置。
【請求項4】
前記刃具の回転方向のずれに関する情報は、前記ワークの切削時に前記工具にかかる負荷である、請求項1記載の制御装置。
【請求項5】
ワークと工具を同時に回転させてワークの表面に多角形を形成するポリゴン加工を制御する制御システムであって、
前記ワークの角速度の指令を生成するワーク軸指令生成部と、
前記工具の角速度の指令を生成する工具軸指令生成部と、
前記工具に取り付けられた刃具の回転方向のずれに関する情報を取得するずれ取得部と、
前記ずれ取得部が取得した刃具の回転方向のずれに関する情報に基づき、該ずれによって生じた前記多角形
の形状の変化をなくす方向に工具軸又はワーク軸の何れか一方又は両方の位相を調整するパルスを生成する調整量生成部と、
前記ワークの角速度の指令又は前記工具の角速度の指令の何れか一方又は両方に前記パルスを重畳させる調整量重畳部と、
を備える制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリゴン加工を行う工作機械の制御装置、制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工具とワークとを一定の比率で回転させることにより、ワークを多角形(ポリゴン:polygon)の形状に加工するポリゴン加工が存在する。ポリゴン加工において、工具刃先はワークに対して楕円軌道を描く。ワークと工具の回転比及び工具の本数を変更すると、楕円の位相や個数が変化し、ワークを四角形や六角形などの多角形に加工できる。
【0003】
図11Aは、ワーク中心を原点としたときの、ワークに対する工具刃先の移動経路を示す。この例では、ワークと工具との回転比は1:2で、工具本数は2本である。ワークに対する工具T1の移動経路は軌道1であり、ワークに対する工具T2の移動経路は軌道2である。ワークが1回転する間に、2本の工具T1、T2はワークの周囲で楕円軌道を描き、ワーク表面に四角形が形成される。
図11Bは回転比率1:2で工具が3つの場合の工具Tの移動経路である。この場合、3本の工具がワークの周囲で楕円軌道を描き、この軌道に沿ってワーク表面を切削すると六角形が形成される。
【0004】
ポリゴン加工を行うための工具は、ポリゴンカッタと呼ばれ、工具本体と工具本体に取り付けられる刃具から構成される。特許文献1には、ポリゴン加工用工具が、円環状をなすカッタ本体と、3つの切削インサートと、この3つのインサートのそれぞれを固定するよう設けられている3つの固定用ボルトと、さらに、インサートの刃先の位置決め調整用の位置決め用ボルトとから構成されていることが記載されている。
【0005】
前記特許文献1の加工用工具(ポリゴンカッタに相当)では、インサート(刃具に相当)をカッタ本体の空孔に配置、固定したとき、一方の切れ刃が工具本体の外周面から突出するように取り付けられる。固定用ボルトで切れ刃を固定すると、その締め付け力により、空孔内でのインサートの回転が止められる。
【0006】
特許文献1の加工用工具では、カッタ本体にインサートを装着する構成にしたことにより、工具機構を大きくすることなく、工具径を大径化し、ポリゴン加工の精度を高めている。また、位置決め用ボルトと、固定用ボルトを備えることにより、刃具の位置決め調整機能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の加工用工具では、位置決め用ボルトと、固定用ボルトとを備え、刃具の位置決め精度を高めているが、刃具の取付は手動で行うため、取付位置に多少のズレが生じることがある。また、ポリゴン加工において、それぞれの刃具は、回転しながら、切削と空転を繰り返すが、刃具と工具が接触した際の負荷により、取付位置のズレや工具変形を生じることもある。取付位置のズレや工具変形は加工形状の精度に影響を及ぼす。
【0009】
また、
図11A及び
図11Bで示したように、ポリゴン加工は、楕円の組合せで多角形を作るので、切削面が緩やかな曲線となり、高い平面度が必要とされるような高精度な加工には不向きである。ポリゴン加工は、フライス盤などによる多角形加工と比較して加工時間が短い。そのため、実用上高精度でなくとも支障のない部材(ボルトの頭部やドライバのビットなど)の加工に用いられている。
しかしながら、ポリゴン加工の精度を向上できれば、短い加工時間で高精度の加工が可能となる。
【0010】
ポリゴン加工の分野では、精度を向上する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一開示は、ワークと工具を同時に回転させてワークの表面に多角形を形成するポリゴン加工を制御する制御装置であって、ワークの角速度の指令を生成するワーク軸指令生成部と、工具の角速度の指令を生成する工具軸指令生成部と、工具に取り付けられた刃具の回転方向のずれに関する情報を取得するずれ取得部と、ずれ取得部が取得した刃具の回転方向のずれに関する情報に基づき該ずれによって生じた前記多角形の形状の変化をなくす方向に工具軸又はワーク軸の何れか一方又は両方の位相を調整するパルスを生成する調整量生成部と、ワークの角速度の指令又は工具の角速度の指令の何れか一方又は両方に上記パルスを重畳させる調整量重畳部と、を備える。
【0012】
本発明の他の態様は、ワークと工具を同時に回転させてワークの表面に多角形を形成するポリゴン加工を制御する制御システムであって、前記ワークの角速度の指令を生成するワーク軸指令生成部と、工具の角速度の指令を生成する工具軸指令生成部と、工具に取り付けられた刃具の回転方向のずれに関する情報を取得するずれ取得部と、ずれ取得部が取得した刃具の回転方向のずれに関する情報に基づき該ずれによって生じた前記多角形の形状の変化をなくす方向に工具軸又はワーク軸の何れか一方又は両方の位相を調整するパルスを生成する調整量生成部と、ワークの角速度の指令又は工具の角速度の指令の何れか一方又は両方にパルスを重畳させる調整量重畳部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、ポリゴン加工の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示における数値制御装置のハードウェア構成図である。
【
図2】本開示における制御システムのブロック図である。
【
図3】3本の刃具の調整量を算出する例を示す図である。
【
図4A】回転方向のずれが生じ
ていない工具の例(理想的な状態)を示す図である。
【
図4B】回転方向のずれが生じた工具の例(ずれがある状態)を示す図である。
【
図5】回転方向のずれを補正するときの工具軸の角度の変化を示す図である。
【
図6A】本開示による刃具の軌道の変化を示す図である。
【
図6B】本開示による刃具の軌道の変化を示す図である。
【
図7A】刃具のずれによって生じる加工品の形状の変化を示す図である。
【
図7B】刃具のずれによって生じる加工品の形状の変化を示す図である。
【
図8】刃具のずれによって生じる加工品の形状の変化を示す図である。
【
図9】第3の開示における数値制御装置のブロック図である。
【
図10】負荷トルクの変化とずれ量の調整時間の関係とを示す図である。
【
図11A】従来のポリゴン加工を説明する図である。
【
図11B】従来のポリゴン加工を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ポリゴン加工の調整機能を備えた数値制御装置100の一例を示す。数値制御装置100は、
図1に示すように、数値制御装置100を全体的に制御するCPU111、プログラムやデータを記録するROM112、一時的にデータを展開するためのRAM113を備え、CPU111はバス120を介してROM112に記録されたシステムプログラムを読み出し、システムプログラムに従って数値制御装置100の全体を制御する。
【0016】
不揮発性メモリ114は、例えば、図示しないバッテリでバックアップされるなどして、数値制御装置100の電源がオフされても記憶状態が保持される。不揮発性メモリ114には、インタフェース115、118、119を介して外部機器72から読み込まれたプログラムや入力部30を介して入力されたユーザ操作、数値制御装置100の各部や工作機械200等から取得された各種データ(例えば、設定パラメータやセンサ情報など)が記憶される。
【0017】
インタフェース115は、数値制御装置100とアダプタ等の外部機器72とを接続するためのインタフェースである。外部機器72側からはプログラムや各種パラメータ等が読み込まれる。また、数値制御装置100内で編集したプログラムや各種パラメータ等は、外部機器72を介して外部記憶手段に記憶させることができる。PLC116(プログラマブル・ロジック・コントローラ)は、数値制御装置100に内蔵されたシーケンス・プログラムで工作機械200やロボット、該工作機械200や該ロボットに取り付けられたセンサ等のような装置との間でI/Oユニット117を介して信号の入出力を行い制御する。
【0018】
表示部70には、工作機械200の操作画面や工作機械200の運転状態を示す表示画面などが表示される。入力部30は、MDIや操作盤、タッチパネル等から構成され、作業者の操作入力をCPU111に渡す。
【0019】
サーボアンプ140は、工作機械200の各軸を制御する。サーボアンプ140は、CPU111からの軸の移動指令量を受け取ってサーボモータ150を駆動する。サーボモータ150は位置・速度検出器を内蔵し、この位置・速度検出器からの位置・速度フィードバック信号をサーボアンプ140にフィードバックし、位置・速度のフィードバック制御を行う。サーボモータ150には、工具軸が取り付けられている。工具本体にはポリゴン加工を行うための刃具Tが複数取り付けられている。
【0020】
スピンドルアンプ161は、工作機械200の主軸164への主軸回転指令を受け取って、スピンドルモータ162を駆動する。スピンドルモータ162の動力はギアを介して主軸164に伝達され、主軸164は指令された回転速度で回転する。主軸164にはポジションコーダ163が結合され、ポジションコーダ163が主軸164の回転に同期して帰還パルスを出力し、その帰還パルスはCPU111によって読み取られる。
【0021】
主軸164にはワークWが取り付けられている。主軸164と工具軸の軸方向は平行であり、主軸164と工具軸は所定の回転比で回転する。主軸164と工具軸が同時に回転すると、工具軸に取り付けられた工具Uがワーク表面を切削し、ワーク表面に多角形が形成される。
【0022】
[第1の開示]
図2は、第1の開示における制御システム1000のブロック図である。このブロック図内の機能は、数値制御装置100のCPU111がROM112などの記憶装置に記録されたプログラムを実行して実現する。
【0023】
数値制御装置100は、ポリゴン加工制御部10を備える。ポリゴン加工制御部10は、ワーク軸の回転指令を生成するワーク軸指令生成部11と、工具軸の回転指令を生成する工具軸指令生成部12とを備える。
【0024】
ワーク軸指令生成部11は、主軸164の回転指令を生成する。ワーク軸指令生成部11は、主軸164を一定の角速度ωで回転させる指令を生成し、スピンドルアンプ161に出力する。スピンドルアンプ161は、ワーク軸指令生成部11からの指令に従いスピンドルモータ162を制御する。スピンドルモータ162は、主軸164を一定の角速度ωで回転させる。これにより主軸164に取り付けられたワークWが一定の角速度ωで回転する。
【0025】
工具軸指令生成部12は、工具Uの回転指令を生成する。工具軸指令生成部12は、工具Uを一定の角速度で回転させる指令を生成し、サーボアンプ140に出力する。サーボアンプ140は、工具軸指令生成部12からの指令に従いサーボモータ150を制御する。サーボモータ150は、サーボアンプ140の制御に従い工具Uを一定の角速度で回転させる。
【0026】
工具軸指令生成部12は、位相ずれ取得部13と、調整量生成部14と、調整量重畳部15とを含む。
【0027】
第1の開示による位相ずれ取得部13は、刃具Tの回転方向のずれに関する情報を取得する。刃具Tの回転方向のずれ量δは、実際の角度と理想的な角度との差分である。刃具Tの角度は、レーザ変位計や角度計、画像計測機などで計測できるが、計測方法は、特定しない。計測結果は位相ずれ取得部13に入力される。
【0028】
調整量生成部14は、各刃具Tiのずれ量δiに対する調整量γiを算出し、算出した調整量γiに対応するパルスを生成する。
【0029】
調整量重畳部15は、ポリゴン加工の空転タイミングに合わせて、調整量生成部14が生成したパルスを、工具軸指令生成部12が生成した回転指令に重畳させる。ポリゴン加工の空転タイミングとは、工具Uの刃具TがワークWを切削しておらず、空転している時間のことである。調整量重畳部15は、空転タイミングの間に、パルスを重畳させ、次の切削を行う刃具(Tiとする)の調整量γiだけ工具軸の位相を移動させ、位相合わせを行う。これにより、刃具Tiの回転方向のずれに応じた補正が為される。
【0030】
[調整量γの算出方法]
以下の式は、調整量γの算出式である。本開示では、以下の式を用いることにより、刃具Tの本数Nや刃具のずれ量δに関わらず調整量γを算出することができる。
反時計回りを正方向(プラス)としたとき、各刃具Tiのずれ量δiに対する調整量γiは以下の式となる。
γi=δi-
1-δi
但し、上の式で、γ1=δN-δ1(Nは刃具Tの本数)であり、また、 1削目の調整量γiは -δiである。
このように調整量γiを算出すると、最初の切削では、工具軸の位相を-δi調整すると、刃具Tiのずれ量+δi
による多角形形状の変化が相殺されてゼロになる。刃具Tiでの切削の終了時点では、工具軸の位相は-δiずれているので、工具軸の位相をδi-δi+1調整させると、工具軸の位相のずれが-δi+1となり、刃具Ti+1のずれ量+δi+1
による多角形形状の変化は相殺されてゼロになる。刃具Ti+1での切削の終了時点では、工具軸の位相は-δi+1ずれているので、工具軸の位相をδi+1-δi+2調整すると、工具軸の位相のずれが-δi+2となり、刃具Ti+2のずれ量+δi+2
による多角形形状の変化が相殺されてゼロになる。刃具Tiは回転しており、刃具Tiのずれ量δiに応じて調整量γiが周期的に変化する。
【0031】
具体例として、
図3を参照して、3本の刃具T
1、T
2、T
3のずれ量δ
1、δ
2、δ
3の調整量γ
1、γ
2、γ
3の算出方法を説明する。刃具Tが3本の場合、各刃具T
iの調整量(γ
1,γ
2,γ
3)は、上記式より(γ
1,γ
2,γ
3)=(δ
3-δ
1,δ
1-δ
2,δ
2-δ
3|1削目のみ-δ
i)となる。
図3の例では、1削目に刃具T
1で切削するものとする。この場合、1削目の調整量は-δ
1である。そのため、工具軸の位相を-δ
1ずらす。1削目以降は、切削する刃具T
iに応じて調整量γ
iが算出できる。
図3に示すように、調整量γ
iは、切削する刃具T
iに応じて、(γ
1,γ
2,γ
3)=(δ
3-δ
1,δ
1-δ
2,δ
2-δ
3)のように周期的に変化する。
【0032】
図4A及び
図4Bはずれが生じた工具U、
図5はずれを補正するときの工具軸の角度の変化、
図6A及び
図6Bはずれを補正したときの加工面の変化を示している。
図4A及び
図4Bの工具Uには、2本の刃具T
1、T
2が等間隔に取り付けられている。2本の刃具T
1,T
2を取り付ける場合、理想的には、
図4Aに示すように、一方の刃具T
1と他方の刃具T
2との角度は180度であるが、何らかの原因により、
図4Bに示すように回転方向のずれが生じることがある。この図では左側の刃具T
1を基準(ずれ量δ
1=0)として、右側の刃具T
2が-δ(ずれ量δ
2)だけずれている。ずれ量(δ
1,δ
2)=(0,-δ)であれば、上記式により、調整量(γ
1,γ
2)=(δ
2-δ
1,δ
1-δ
2)=(-δ,+δ;但し、1削目の調整量は-δ
i)が算出できる。
【0033】
図5は、
図4Bのずれを補正したときの工具軸の角度と時間との関係を示している。点線は、従来のポリゴン加工、実線は本開示のポリゴン加工を示している。従来のポリゴン加工では、工具軸の角速度は一定である。
本開示のポリゴン加工では、刃具T
1で切削を開始する場合、1削目の調整量γ
1がゼロのため(時刻t1からt2)、位相ずれゼロの状態でワークWを切削する。次に刃具T
2で切削する場合、切削開始前の空転タイミング(時刻t2からt3)で、角速度を加速して位相を+δずらす。2削目(時刻t3からt4)では、位相が+δずれた状態で、ワークWを切削する。工具Uが1回転して、再び刃具T
1で切削する場合、切削開始前の空転タイミング(時刻t4からt5)で、角速度を減速して位相のずれをゼロに戻す。3削目(時刻t5からt6)では、位相のずれがゼロの状態で、ワークWを切削する。その後、数値制御装置100は、t2からt6の処理を繰り返し行う。
【0034】
図5のように位相を制御した場合、刃具Tの軌道は
図6A及び
図6Bのように変化する。2本の刃具T
1、T
2でワークWを切削したとき、刃具T
1、T
2が理想的な位置に取り付けられていれば、
図6Aの点線で示すように、ポリゴン加工で形成される四角形Sは、略正方形になる。2本の刃具T
1、T
2のうちの一方の刃具T
2が傾いていると、
図6Aの一点鎖線で示すように、傾いている方の刃具T
2の軌道が傾き、刃具T
2が形成する切削面も傾き、ひし形のようになる。
【0035】
図6Bの実線は、本開示のポリゴン加工における、2本の刃具T
1、T
2の軌道を示している。本開示のポリゴン加工では、刃具T
1、T
2が切削を行っていない空転タイミングで回転方向のずれを補正する。その結果、刃具T
1、T
2の切削時の軌道が理想的な軌道と一致する。これにより、刃具Tの回転方向のずれ
に応じた補正
が為され、ポリゴン加工で形成される四角形Sが、略正方形になる。
【0036】
[第2の開示]
[ずれ量δの測定方法1]
第2の開示では、試し加工の結果得られたワークWを用いて回転方向のずれ量δを算出する。
図6Aに示すように、ワークWの加工面は刃具Tのずれ分だけずれる。そのため、試し加工の結果得られたワークWの加工面のなす角θを用いて、刃具Tの回転方向のずれ量δが算出できる。
ワークWの計測は、例えば、オペレータが行う。計測機器には、レーザ変位計や角度計、画像計測機などがあるが限定しない。ワークWの角度を計測すると、オペレータは、入力部30を介して数値制御装置100にワークWの角度を入力する。ずれ量δの算出は、位相ずれ取得部13が行う。
【0037】
以下の式は、ずれ量δの算出式である。本開示では、以下の式を用いることにより、刃具の本数Nに関わらず、試し加工を行ったワークWの角度θからずれ量δを計測することができる。ワークWの角度θを用いたずれ量δの算出方法について説明する。
この例では、刃数Nの工具Uを使い、ワーク軸と工具軸との回転比1:2で回転させる。この条件でポリゴン加工を行うと、ワークの外形は正2N角形になる。厳密にいえば、ポリゴン加工は、楕円の組合せでワーク表面を加工するので、各面は緩やかな曲面となり、ワークの外径は完全な正2N角形にはならないが、ここでは正2N角形とみなす。加工面が正2N角形であるとみなした場合、正2N角形の対向する2辺は各刃具Tが描く楕円の長軸に平行である。刃具番号をn(=1,…,N)とし、刃具番号nの刃具Tnによって形成された切削面をSnとする。同一の刃具Tnによって対面する2面が形成されるが、ワーク軸方向からみた断面は線対称となるため、片側の面についてのみ説明する。
【0038】
正N角形の隣接する2面SnとSn+1の成す角をθnとする。n=NについてθNはSNとS1の成す角とする。刃具Tにずれがない場合は、全ての角が(180-180/N)°(=θ)となる。簡単のため、n=1の刃具T1を基準として各刃具Tnの回転方向のずれ量をδnとする。基準をn=1の刃具としたのでδ1=0である。刃具Tnのずれδnにより、刃具Tnが形成する加工面Snも角度δn傾くため、n(=1,…,N-1)についてθn=θ+δn-δn+1となる。n=Nについてはθn=θ+δN-δ1となる。θ、δ1は既知なので、基準となる刃具T1が形成した面S1と刃具TNが形成した面SNのなす角θNを計測すると、刃具TNのずれ量δNが算出できる。同様に、正N角形の角度θnを計測すると、上記式から各刃具Tnのずれ量δnを算出できる。
【0039】
具体例として刃具が2本の場合と、刃具が3本の場合について説明する。
図4A及び
図4Bのように、2本の刃具T
1、T
2が取り付けられた工具Uをワーク軸と工具軸との回転比1:2で回転させると、ワークWの外形が正方形になる。
図4Aに示すように、理想的な位置に工具T
1、T
2が取り付けられている場合、
図7Aに示すように、正方形の4つの角の角度は90°である。しかしながら、
図4Bに示すように刃具T
2が回転方向にδ
2ずれていると、ずれた刃具T
2が形成する面S
2も角度δ
2傾き、
図7Bに示すように、対向する角の角度がθ
1=90-δ°及びθ
2=90+δ°のひし形となる。よって、試し加工の結果得られたワークWの各角度θ
1、θ
2を上記式に代入すると、刃具T
2のずれ量δ
2が算出でき、調整量γ
1、γ
2も算出できる。
【0040】
刃具が3本の場合もワークWの各角度からずれ量δを算出することができる。刃具T
2、T
3が回転方向にδ
2、δ
3ずれていると、それぞれの刃具T
2、T
3が形成する面S
2、S
3も角度δ
2、δ
3傾き、
図8に示すように、θ
1=120-δ
2°、θ
2=120+δ
2-δ
3°、θ
3=120+δ
3°となる。よって、試し加工の結果得られたワークWの各角度θ
1、θ
2、θ
3から刃具T
2、T
3のずれ量δ
2、δ
3が算出でき、調整量γ
2、γ
3も分かる。刃具が4本以上の場合も同様に算出が可能である。
【0041】
このように、第2の開示では、刃具の回転方向のずれに関する情報として、試し加工の結果得られた多角形の角度θを取得し、各刃具のずれ量δを算出する。
第2の開示の数値制御装置100では、試し加工の結果得られたワークWの角度θから刃具Tの回転方向のずれ量δを検出できる。
【0042】
なお、上述の記載では、オペレータがワークWの角度を計測し、数値制御装置100がずれ量δを算出する構成としたが、オペレータがずれ量を計算して数値制御装置100に入力する構成としてもよい。
【0043】
[第3の開示]
[ずれ量δの調整方法2]
第3の開示では、位相ずれ取得部13が、負荷トルクを用いてずれ量δの調整を行う。
図9は、第3の開示の制御システム1000のブロック図である。第3の開示の数値制御装置100は、回転方向のずれに関する情報を取得する位相ずれ取得部13と、負荷トルクの値に基づきずれ量δを補正するパルスを生成する調整量生成部14と、工具Uの空転タイミングに合わせてパルスを重畳させる調整量重畳部15と、負荷トルクを検出するトルク検出部16と、を有する。
【0044】
トルク検出部16は、工具軸にかかる負荷を検出し、負荷トルクの検出結果を位相ずれ取得部13に出力する。
【0045】
調整量生成部14は、位相ずれ取得部13が取得した負荷トルクの変化を基に、刃具T
1と刃具T
2との回転方向の位相のずれ量を検出し、ずれを補正するパルスを生成する。
図10は、刃具T
1でワークWを切削した後、刃具T
2でワークWを切削したときの負荷トルクの変化である。工具軸にかかる負荷は、刃具T
1がワークWに接触した時点A1において立ち上がり、刃具T
1がワークWを切削している間は高い状態が継続し、刃具T
1がワークWから離れた時点B1で立ち下がる。そして、次の刃具T
2がワークWに接触した時点A2で立ち上がり、刃具T
2がワークWを切削している間は高い状態が継続し、刃具T
2がワークWから離れた時点B2で立ち下がる。
【0046】
正多角形を形成する場合、同じ長さの辺を順次形成するため、負荷トルクの立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間が全て等しくなるはずである。
図10の例では刃具T
1の切削が開始してから刃具T
2の切削が開始するまでの期間Term1と、刃具T
2の切削が開始してから次の刃具T
1の切削が開始するまでの期間Term2とは、理想的には、Term1=Term2の関係になる。
逆に言えば、Term1≠Term2の場合、位相ずれが生じていることになるので、Term1とTerm2との差を求め、これを位相のずれ量として、この時間差を補正するパルスを生成する。
【0047】
調整量重畳部15は、ポリゴン加工の空転タイミングに合わせて、調整量生成部14が生成したパルスを、工具軸指令生成部12が生成した回転指令に重畳させる。ポリゴン加工の空転タイミングは、トルク負荷から検出できる。
図10の例では、トルク負荷が立ち下がった時点B1から次のトルクが立ち上がる時点A2までの間にTerm1とTerm2の時間差を補正するパルスを重畳させる。
【0048】
このように、第2の開示の数値制御装置100では、負荷トルクを用いて、刃具のずれを検出し、補正する。この方法では、工具UとワークWを工作機械に取り付けた状態で、自動的にずれを補正することができる。また、正多角形を形成する場合、負荷の立ち上がりから次の負荷の立ち上がりまでの時間を一定にすればよい。
なお、本開示では、負荷の立ち上がりから次の立ち上がりまでを補正の基準としたが、負荷の立ち下がりを補正の基準としてもよいし、他のタイミングを補正の基準としてもよい。
【0049】
以上説明したように、本開示1~3の数値制御装置100は、刃具Tの回転方向のずれ量δに応じたパルスを生成し、工具軸の回転指令にパルスを重畳させることにより、刃具Tの取付位置を調整することなしに刃具Tのずれに応じた補正をすることができる。
【0050】
第2の開示の数値制御装置100では、試し加工の結果得られたワークWの角度を用いて、ずれ量δを算出する。ワークWの角度は角度計などの器具で計測することが可能であるため、特別な計測機器は不要である。さらに、工具Uを工作機械から取り外すことなく、ずれを調整することができる。
【0051】
第3の開示の数値制御装置100では、負荷トルクを用いてずれ量を調整するため、ワークWや工具Uを工作機械に取り付けた状態で、ずれの補正を行うことができる。なお、第3の開示では、加工面の形状が正多角形のため、時間が一定になるように調整したが、加工面の形状が正多角形以外の場合は、加工面の形状に合わせて調整時間を変更してもよい。
【0052】
以上、一実施形態について説明したが、本発明は上述した開示のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
例えば、上述した実施例では工具軸の位相を調整して、刃具Tのずれ量を補正したがワーク軸の位相を調整して刃具Tのずれ量を補正してもよい。
上述した説明では、刃具Tのずれは取付誤差により生じるとして説明したが、本開示の数値制御装置100は、取付誤差以外の原因、例えば、刃物の摩耗やベアリングの摩耗などで生じたずれも補正することができる。
【0053】
調整量生成部14のずれ量δから調整量γを算出する手順は、上述したものに限らない。調整量γが少なくなるように基準の刃具Tを選択したり、各刃具Tの理想的な位置を算出すると、速やかに刃具Tの位相を合わせることができるようになり、効率的である。
【0054】
また、刃具Tの回転方向のずれの補正と径方向の補正とを組み合わせてもよい。
刃具Tのずれは、通常、回転方向だけでなく径方向でも生じる。そのため、両方を組み合わせて補正することが望ましい。
径方向のずれの補正では、まず、径方向のずれを測定する。径方向のずれは、試し加工した結果得られるワークWの対向する2辺の距離から算出できる。その他、レーザ変位計や角度計、画像計測機などを用いて工具Uを直接計測してずれ量δを検出することもできる。
径方向のずれ量σは、ワーク軸と工具軸との軸間距離を調整することにより補正できる。
すなわち、刃具Tが基準の位置より外側にずれている場合には、ワーク軸と工具軸との軸間距離を近づけてずれ量をゼロにする。また、刃具Tが基準の位置より内側にずれている場合には、ワーク軸と工具軸との軸間距離を遠ざけてずれ量をゼロにする。
回転方向のずれ量δは刃具Tごとに異なるので、刃具Tiの回転方向のずれ量をδiとすると、刃具Tiで切削する前の空転タイミングで、回転方向のずれ量δiと径方向のずれ量σiを同時に補正する。
以上説明したように、回転方向の補正と径方向の補正とを同時に行うと、刃具Tを付け替えることなく、ポリゴン加工の精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
100 数値制御装置
200 工作機械
10 ポリゴン加工制御部
11 ワーク軸指令生成部
12 工具軸指令生成部
13 位相ずれ取得部
14 調整量生成部
15 調整量重畳部
16 トルク検出部
111 CPU
112 ROM
113 RAM
140 サーボアンプ
150 サーボモータ
161 スピンドルアンプ
162 スピンドルモータ
164 主軸