(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】チッププロセスばらつき認識電力効率最適化
(51)【国際特許分類】
G06F 1/32 20190101AFI20241001BHJP
G06F 9/50 20060101ALI20241001BHJP
G06F 1/26 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G06F1/32
G06F9/50 120Z
G06F1/26
(21)【出願番号】P 2022533616
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 US2019064443
(87)【国際公開番号】W WO2021112837
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504161984
【氏名又は名称】ホアウェイ・テクノロジーズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133569
【氏名又は名称】野村 進
(72)【発明者】
【氏名】ジアンチ・ヘ
(72)【発明者】
【氏名】ジペン・ルオ
(72)【発明者】
【氏名】テ・ホン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ティアンミン・ジャン
【審査官】豊田 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-134324(JP,A)
【文献】特開2017-049652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0050039(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0077402(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0154066(US,A1)
【文献】庄司智昭,「最大450A制御が可能なデジタルPWMコントローラ」,[online],EE Times Japan,2016年11月07日,[令和5年8月28日検索], https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1611/07/news080.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/32
G06F 9/50
G06F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ間プロセスばらつき認識電力効率最適化方法であって、
システム内の処理ユニットの適応電圧スケーリング(AVS)モジュールによって、チッププロセスばらつきに基づいた最適電圧ID(VID)を決定する、ステップ
であって、VIDは、前記処理ユニットの最大電圧を決定する電圧IDであり、前記最適VIDは、前記処理ユニットの実際のチッププロセスばらつきに基づいて最大電圧を設定するVIDである、ステップと、
前記AVSモジュールによって、前記最適VIDを前記システムの電圧調整器に送信する、ステップと、
受信された前記最適VIDに基づいて、前記システムの電圧調整器が、直流(DC)負荷ライン設定値を更新する、ステップと、
前記システムの前記電圧調整器によって、前記更新されたDC負荷ライン設定値に基づいて、前記処理ユニットに供給される電圧を調整するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記AVSモジュールが、少なくとも1メガヘルツ(1MHz)のバス速度の高速インターフェースを介して、前記最適VIDを前記電圧調整器に出力する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記AVSモジュールが、AVSを有する電力管理バス(PMBus)のバージョン1.3以上を使用した高速インターフェースを介して、前記最適VIDを前記電圧調整器に出力する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記DC負荷ライン設定値が、(VID AVS-Vmin)/(Imax-Imin)に設定され、VID AVSは前記AVSモジュールによって決定された前記処理ユニットの前記最適VIDであり、Vminは前記処理ユニットの最小電圧設定値であり、Imaxは前記処理ユニットの最大電流設定値であり、Iminは前記処理ユニットの最小電流設定値である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記チップ間プロセスばらつき認識電力効率最適化方法が、前記処理ユニットのエージングによる前記DC負荷ライン設定値を調節するために、事前定義された間隔で周期的に実行される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記チップ間プロセスばらつき認識電力効率最適化が、前記システムの電源投入段階の間に実行される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
チップ間プロセスばらつきに基づいて電力効率を最適化するように構成されたシステムであって、
電圧調整器と、
適応電圧スケーリング(AVS)モジュールを有する処理ユニットであって、前記AVSモジュールは、チッププロセスばらつきに基づいて最適電圧ID(VID)を決定し、
VIDは、前記処理ユニットの最大電圧を決定する電圧IDであり、前記最適VIDは、前記処理ユニットの実際のチッププロセスばらつきに基づいて最大電圧を設定するVIDであり、前記電圧調整器に前記最適VIDを送信するように構成された、処理ユニットと
を備え、
前記電圧調整器は、受信された前記最適VIDに基づいて、直流(DC)負荷ライン設定値を更新し、前記更新されたDC負荷ライン設定値に基づいて、前記処理ユニットに供給される電圧を調整するように構成される、システム。
【請求項8】
前記AVSモジュールと前記電圧調整器との間に、少なくとも1メガヘルツ(1MHz)のバス速度を提供する高速インターフェースをさらに備え、前記AVSモジュールが、前記高速インターフェースを介して前記電圧調整器に前記最適VIDを出力する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
AVSを有する電力管理バス(PMBus)のバージョン1.3以上を実装する高速インターフェースをさらに備え、前記AVSモジュールが、前記高速インターフェースを介して前記電圧調整器に前記最適VIDを出力する、請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記DC負荷ライン設定値が、(VID AVS-Vmin)/(Imax-Imin)に設定され、VID AVSは前記AVSモジュールによって決定された前記処理ユニットの前記最適VIDであり、Vminは前記処理ユニットの最小電圧設定値であり、Imaxは前記処理ユニットの最大電流設定値であり、Iminは前記処理ユニットの最小電流設定値である、請求項7から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムが、チップ間プロセスばらつきに基づいて、前記処理ユニットのエージングによる前記DC負荷ライン設定値を調節するために、事前定義された間隔で周期的に電力効率を最適化するように構成される、請求項7から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記システムが、前記システムの電源投入段階の間に、チップ間プロセスばらつきに基づいて電力効率を最適化するように構成される、請求項7から11のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
なし
【0002】
本開示は一般に電力最適化に関し、チッププロセスばらつき認識電力効率最適化のシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
計算電力の需要がさらに大きくなるにつれて、電力効率は大手データセンター企業の最高技術責任者(CTO)にとって最も重要な決定要因の1つになっている。運営しているデータセンターの規模やサーバにかかる作業負荷を考慮すると、各システムで電力効率を1%改善するだけでも、かなりのコスト削減になる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、チッププロセスばらつき認識電力効率最適化のシステムおよび方法に適用する。本開示で提案する実施形態では、チップ間プロセスばらつきに基づいて最適な直流(DC)負荷ラインが設定され、その結果、システムは最大の電力効率で動作でき、電力消費およびコストの削減につながる。
【0005】
第1の態様は、チップ間プロセスばらつき認識電力効率最適化方法に適用する。本方法は、システムの処理ユニットの適応電圧スケーリング(AVS)モジュールを使用して、チッププロセスばらつきに基づく最適電圧ID(VID)を決定するステップを含む。本方法は、システムの電圧調整器にAVSモジュールから最適VIDを出力する。電圧調整器は、システムの処理ユニットの最適VIDに基づいてDC負荷ライン設定値を調節する。電圧調整器は、DC負荷ライン設定値に基づいて、処理ユニットに供給される電圧を調節する。
【0006】
第2の態様は、チップ間プロセスばらつきに基づいて、電力効率を最適化するように構成されたシステムに関する。このシステムは、電圧調整器と、AVSモジュールを有する処理ユニットとを含む。AVSモジュールは、チッププロセスばらつきに基づいて最適VIDを決定し、電圧調整器に最適VIDを出力するように構成される。電圧調整器は、システムの処理ユニットの最適VIDに基づいてDC負荷ライン設定値を調節し、DC負荷ライン設定値に基づいて、処理ユニットに供給される電圧を調整するように構成される。
【0007】
前述の態様のいずれかによる第1の実装形態において、AVSモジュールは、少なくとも1メガヘルツ(1MHz)のバス速度の高速インターフェースを介して、最適VIDを電圧調整器に出力する。
【0008】
前述の態様のいずれかによる第2の実装形態、または前述の態様の前述したいずれかの実装形態において、AVSモジュールは、AVSを有する電力管理バス(PMBus)バージョン1.3以上、SVID、SVIなどの任意の高速インターフェースを介して、電圧調整器に最適VIDを出力する。
【0009】
前述の態様のいずれかによる第3の実装形態、または前述の態様の前述したいずれかの実装形態において、DC負荷ライン設定値は、(VID AVS-Vmin)/(Imax-Imin)に設定され、VID AVSはAVSモジュールによって決定された処理ユニットの最適VIDであり、Vminは処理ユニットの最小電圧設定値であり、Imaxは処理ユニットの最大電流設定値であり、Iminは処理ユニットの最小電流設定値である。
【0010】
前述の態様のいずれかによる第4の実装形態、または前述の態様の前述したいずれかの実装形態において、チップ間プロセスばらつき認識電力効率最適化方法は、処理ユニットのエージングによるDC負荷ライン設定値の調節のために、事前定義した間隔で周期的に実行される。
【0011】
前述の態様のいずれかによる第5の実装形態、または前述の態様の前述したいずれかの実装形態において、チップ間プロセスばらつき認識電力効率最適化は、システムの電源投入段階の間に実行される。
【0012】
明確にするために、前述の実施態様のいずれか1つは、他の前述の実施態様のいずれか1つまたは複数と組み合わされて、本開示の範囲内の新しい実施形態を作成する場合がある。
【0013】
上記その他の特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面および特許請求の範囲と併せて読めばより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態による、システムマザーボードを示す概略図である。
【
図2】本開示の一実施形態による、チッププロセスばらつき認識システムの電力効率最適化を実行するプロセスを示すフローチャートである。
【
図3】本開示の一実施形態による、省電力の一例を示すグラフである。
【
図4】本開示の一実施形態によるシステムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示をより十分に理解するために、次に、添付の図面および詳細な説明と関連して理解される以下の簡単な説明を参照する。添付の図面および詳細な説明において、類似の参照番号は類似の部分を表す。
【0016】
最初に、1つまたは複数の実施形態の例示的な実施態様が以下に提供されるが、開示されたシステムおよび/または方法は、現在知られているか存在するかにかかわらず、任意の数の技術を使用して実装され得ることを理解されたい。本開示は、本明細書において例示および説明される例示的な設計および実装形態を含む、以下に示される例示的な実装形態、図面、および技法にいかなる点においても限定されるべきではなく、それらの均等物の全範囲とともに添付の特許請求の範囲の範囲内で修正され得る。
【0017】
本開示の記述および特許請求の範囲で使用されているように、「含む(including)」および「備える(comprising)」という用語はオープンエンド様式で使用されるため、「含むが~に限定されない」を意味するものと解釈されるべきである。特に明示しない限り、本明細書全体で使用されているように、「or」は相互に排他的であることを求めるものではなく、文脈で特に明示しない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈で複数形をも包含することが意図されている。
【0018】
本明細書で参照されるモジュールは、これに限定されないが、データアクセス・オブジェクト、サービスコンポーネント、ユーザーインターフェース・コンポーネント、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)コンポーネントなどのソフトウェアコンポーネント、電気回路、プロセッサ、およびメモリなどのハードウェアコンポーネント、ならびに/あるいはこれらの組み合わせを備え得る。メモリは、データおよびコンピュータ実行可能命令を記憶する揮発性メモリまたは不揮発性メモリであってよい。コンピュータ実行可能命令は、これに限定されないが、任意のプログラミング言語で書かれたマシンコード、アセンブリコード、および高レベルプログラミングコードを含む、任意の形式であってよい。モジュールは、1つ以上の命令を実行して1つ以上のタスクを行うためにデータを使用するように構成され得る。
【0019】
別段の記載がない限り、本明細書に記載されている様々な方法またはプロセスは、プロセスを実施する命令を実行できるプロセッサを有する、任意の種類のシステムまたはデバイスで実行され得る。命令は、システムのデータ記憶コンポーネントまたはメモリユニットに記憶され得る。命令は任意の種類のプログラミング言語で記述されてよく、ソフトウェアアプリケーションにパッケージ化される、またはシステム機能として一体化され得る。
【0020】
本開示は、チッププロセスばらつき認識電力効率最適化のシステムおよび方法に適用する。チッププロセスばらつきは、マイクロプロセッサなどの集積回路が製造されるときに、トランジスタの属性(長さ、幅、酸化膜厚)において自然に発生するばらつきである。プロセスばらつきの量は、プロセッサのサイズが小さくなると、ばらつきがコンポーネントの全長または全幅に占める割合が大きくなるため、特に顕著になる。
【0021】
処理ユニットはシステムにおいて単独で最も電力を消費するコンポーネントであるため、多くの研究および技術開発が、処理ユニットの電圧を動的に制御することに注力してきた。採用されている技術の1つは、電圧調整器に対するDC負荷ラインの使用である。DC負荷ラインは、電力消費を抑えるために、処理ユニットが高負荷状態になっている間に、可能な限り低い電圧で動作することを可能にする。現行では、電圧調整器または電圧調整器サブシステムは、DC負荷ラインをワーストケースコーナーに合わせて設定するように構成されており、その結果、処理ユニットは、ワーストケースの動作条件下で、最も厳しいアプリケーションスループット要件に対応する。このため、公称またはベストコーナーケースのチップは、望まれていない保護帯域を含む傾向があり、これが電力の浪費につながっている。
【0022】
本開示で提案する実施形態では、電圧調整器または電圧調整器サブシステムが、チップ間プロセスばらつきに基づく最適なDC負荷ラインを使用し、その結果、システムは最大の電力効率で動作でき、これは電力を大量に消費する現代の電子デバイスにとって、大幅な省電力につながる可能性がある。例えば、開示されている実施形態を使用すれば、1%の電力効率向上であっても、大型のデータセンターであれば、潜在的に電力使用に関するコストを大幅に節減できる可能性がある。
【0023】
図1は、本開示の一実施形態による、システムマザーボード102を示す概略図である。システムマザーボード102は、ほとんどの電子デバイス/システムに見られる主プリント回路基板であり、システムの多くの重要な電子コンポーネント、例えば、これに限定されないが、中央処理ユニット(CPU)、メモリ、データ記憶装置、ビデオおよびネットワークインターフェース、ならびに他の周辺機器用の入力/出力コネクタ間の通信を可能にする。
【0024】
単に簡潔にするために、
図1のシステムマザーボード102は、本開示の一実施形態に従って、システムマザーボード102の処理ユニット112と電圧調整器124との間の相互作用のみが図示されている。処理ユニット112は、CPUなどの任意の種類の電子回路またはプロセッサにすることができ、命令によって指示された基本的な演算、論理、制御、および入力/出力動作を実行することによって、プログラム可能な命令を実施することができる。処理ユニット112は、特定の製造者、処理能力または性能、処理コアの数、またはキャッシュサイズに限定されない。例えば、いくつかの実施形態では、処理ユニット112は、大規模相補型金属酸化膜半導体(CMOS)特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、中央処理ユニット(CPU)、グラフィック処理ユニット(GPU)、ネットワーク処理ユニット、ニューラル処理ユニット、その他のデジタルシステムオンチップ(SoC)にすることができる。
【0025】
一実施形態では、電圧調整器124は、アナログ回路を使用した従来の電力アーキテクチャである。代替的な一実施形態では、電圧調整器124は、プロセッサに基づく電圧調整器として設計することができる。電圧調整器124は、処理ユニット112に、処理ユニット112に電力を与えるための適切な供給電圧を与えるように構成される。いくつかの実施形態では、電圧調整器124は、電圧要件が異なる複数のプロセッサに、適切な供給電圧を与えるように構成することができる。これにより、複数のプロセッサが同じシステムマザーボード102に搭載されることが可能になる。いくつかの実施形態では、電圧調整器124は、より大きい電圧調整器システムの電圧調整器サブシステムである。簡潔にするために、本開示で使用される電圧調整器という用語は、電圧調整器または電圧調整器サブシステムのいずれかを意味するものとする。
【0026】
図示されている実施形態では、処理ユニット112は、AVSを実行するように構成されたAVSモジュール114を含む。AVSは、処理ユニット112の実際の動作条件に基づいて電力消費を最適化するために使用できる、閉ループ動的電力制御技術である。AVSモジュール114は、処理ユニット112の正確なプロセスコーナーまたは動作条件を決定するように構成された、ハードウェア性能監視回路を含むことができる。AVSモジュール114は、システム全体の性能レベルを満たす最小エネルギー要件を維持する継続的な閉ループ動作を、リアルタイムで実行するように構成することができる。
【0027】
一実施形態では、AVSモジュール114は、電圧調整器124に最適VID 116を出力する。VIDは、処理ユニット112の最大電圧を決定する電圧IDである。処理ユニット112のVID 128およびDC負荷ライン126は、処理ユニット112のレジスタ130に記憶することができる。VID 128は、処理ユニット112が全負荷で稼働している間に、処理ユニット112の製造者によって工場レベルに初期設定される。工場レベルのVID設定は、しばしばチップのストック電圧と呼ばれる。しかしながら、各処理ユニット112は、チップ間ばらつきのために、動作電圧がわずかに異なっている。最適VID 116は、処理ユニット112の実際のチップばらつきに基づいて最大電圧を設定するVIDである。電圧調整器124は、VID 128およびDC負荷ライン126を更新して処理ユニット112の供給電圧を調節するために、AVSモジュール114から得た最適VID 116を使用する。
【0028】
現行では、電圧調整器124は、DC負荷ライン126をワーストケースコーナーに合わせて設定するように構成されており、その結果、処理ユニット112は、ワーストケースの動作条件下で、最も厳しいアプリケーションスループット要件に対応する。このため、公称またはベストコーナーケースのチップは、望まれていない保護帯域を含む傾向がある。結果として、公称およびベストコーナーケースのチップには望ましくない電力損失が存在する。
【0029】
よって、一実施形態において、プロセスばらつき認識システムのための新しい電力効率最適化方法が開示される。一実施形態では、電圧調整器124は、処理ユニット112に対する電圧出力を制御するために、チップ間ばらつきに基づいてDC負荷ライン126の設定値を調節する。例えば、各システムにおける処理ユニット112の動作条件は、AVSモジュール114の監視回路を通じて、チップ間プロセスばらつきに応じて決定することができる。一実施形態では、電圧調整器124は、電力消費を最適化してシステムの電力効率を向上させるために、AVSモジュール114から得た最適VID 116に基づいて、DC負荷ライン126の設定値を調節する。
【0030】
よって、開示されている最適化方法は、処理ユニット112のチップ電力消費を削減するために、DC負荷ライン126の値をチッププロセス間の相違に従って柔軟に調節することができる。一例として、まず、処理ユニット112は、任意のケースの電圧が処理ユニット112のVmin値より低くならないようにするために、ワーストケースのプロセスに従ってDC 128を設定する。処理ユニット112のプロセスコーナーと、DC負荷ライン126と、DC電圧との間のマッピングは、処理ユニット112のレジスタ130に記憶することができる。レジスタ130でプロセスコーナー値を読み取った後で、処理ユニット112は、電圧調整器124に新しいDC負荷ラインおよびDC電圧要件(すなわち最適VID 116)を送信する。要件を受信した後で、電圧調整器124は、電圧が処理ユニット112のVmin値より低くならないように、DC電圧およびDC負荷ライン126の値を下げる。電圧調整器124は、新しいVID値128およびDC負荷ライン126の値を更新する。
【0031】
図2は、本開示の一実施形態による、チッププロセスばらつき認識システムの電力効率最適化を実行するプロセス200を示すフローチャートである。プロセス200は、プロセッサ、AVS監視回路またはモジュール、および電圧調整器システムまたはサブシステムを含む、任意の種類のデバイスまたはシステムで実行することができる。非限定的な例として、プロセス200は、
図4のシステム400によって実行することができる。
【0032】
プロセス200は、システムの処理チップの最適VIDを決定するステップ202から始まる。最適VIDは、チップ間プロセスばらつきに応じて変化する可能性がある。例えば、ワーストケースコーナーチップ(WCC)の最適VIDまたは動作電圧は、最適VIDの公称またはベストコーナーケースのチップより大幅に高くなる可能性がある。特定のチップの最適VIDが、システムの劣化またはコンポーネントの劣化のために経時的に変化する可能性もある。一実施形態では、最適VIDは、チップ動作条件を読み取るように構成された処理チップ内のAVS監視回路を使用して、AVSモジュールによってリアルタイムに決定される。その後AVSモジュールは、チッププロセスばらつきに基づいた動作電圧を出力することができる。
【0033】
ステップ204において、プロセス200は、システムの電圧調整器に最適VIDを送信する。一実施形態では、AVSモジュールは、PMBusバージョン1.3以上を使用した高速インターフェースを介して、最適VIDを電圧調整器に出力する。PMBusは、オープン標準の電力管理プロトコルである。一実施形態では、高速インターフェースは、少なくとも1MHzのバス速度を提供する。
【0034】
プロセス200は、ステップ206において、システムの処理ユニットの最適VIDに基づいてDC負荷ライン設定値を設定する。例えば、DC負荷ライン設定値は、VID(WCC)に基づく最大プロセッサ電圧を、VID(AVS)に基づく最大プロセッサ電圧に変更することができる。非制限的な例として、DC負荷ライン設定値は、VID(WCC)に基づく最大プロセッサ電圧である1.2ボルト(V)から、VID(AVS)に基づく最大プロセッサ電圧1.1Vに変更することができる。VID(AVS)に基づいた、最大プロセッサ電圧の変更に基づく省電力は
図3に図示されている。
【0035】
ステップ208において、プロセス200は、システムの電力効率を最適化するために、システムの電圧調整器を使用して、DC負荷ライン設定値に基づいて処理ユニットに供給される電圧を調整する。例えば、電圧調整器出力電流(Iout)が1アンペア(1A)で、電圧調整器出力と処理ユニット(Rpath)との間のパスの寄生抵抗が0.1オームであれば、パスでの電圧降下は1A*0.1ohm=0.1Vである。DC負荷ラインを調節する前の電圧調整器出力電圧(Vout)は、ワーストケースコーナーチップに合わせてVIDによって設定された電圧(VID(WCC))に0.1Vを加えたものと等しくなる。一例として、VID(WCC)=1Vであれば、DC負荷ラインを調節する前は、Vout=1.1Vである。しかしながら、一実施形態では、AVSによって決定された最適VIDに基づいてDC負荷ラインが調節されると、Vout=VID(AVS)+0.1Vになる。一例として、(VID(AVS))=0.9Vであれば、Vout=1Vになる。よって、所与の例では、VID(AVS)の使用は、VID(WCC)と比較して、処理ユニットへの供給が0.1V減少する結果になる。この減少はわずかに見えるかもしれないが、開示されている実施形態が、それぞれが1つ以上の処理コアを有する莫大な数のプロセッサに対して実行されれば(例えば、各マルチコアプロセッサが数十のコアを有している可能性がある)、電力削減による経費節減が極めて大きいものになる可能性がある。
【0036】
加えて、プロセス200は、チップ全体で単一電源電圧を使用する単一電圧プロセッサ、またはプロセッサの様々な部分に異なる電圧を使用可能な多電圧プロセッサに適用することができる(例えば、外部入力/出力(I/O)に高電圧を使用しながら、プロセッサコアに低電圧を使用することができる)。多電圧プロセッサの場合、プロセス200は、供給電圧を必要としている多電圧プロセッサの各部で実行することができる。様々な実施形態において、プロセス200は、処理ユニットのエージング、および/またはシステムの他のコンポーネントのエージングによるDC負荷ライン設定値の調節のために、システムの起動プロセスまたは電源投入段階の間に、事前定義した間隔で周期的に(例えば、90日ごとに)、呼び出されるか、または稼働するように構成でき、かつ/あるいはプロセス200は、システムの動作中はリアルタイムで常に稼働するように構成されてもよい。
【0037】
例えば、電圧調整器124は、電源投入後に、通常は事前定義されたVID 128(例えば、1.0 V)を処理ユニット112に供給するとする。処理ユニット112はプロセス、レジスタ130に記憶されている電圧、および温度(PVT)データを読み取って、電圧調整器124に動作電圧要件(最適VID 116)を送信する。電圧調整器124は、処理ユニット(0.95V)からの動作電圧要件を満たすようにVID 128を調節し、推奨VIDに基づいてDC LL 126(0.6 mohm)をさらに設定する。このプロセスは、リアルタイムで継続することができる。例えば、温度変化が生じると、処理ユニット112は、レジスタ130に記憶されたPVTデータを読み取って、電圧調整器124に動作電圧要件(最適VID 116)を再送信する。電圧調整器124は、処理ユニット112(0.9V)からの他の動作電圧要件を満たすようにVID 128を調節し、推奨VIDに基づいてDC LL 126(0.5 mohm)をさらに設定する。
【0038】
図3は、本開示の一実施形態による、省電力の一例を示すグラフ300である。グラフ300は、電流(I)に対する電圧(V)を表す。グラフ300は、開示されている実施形態による、VID(WCC)設定に基づくDC負荷ライン302の例、およびVID(AVS)設定に基づくDC負荷ライン304の例を示す。DC負荷ラインは、VID設定値によって決定された通りの最大電圧設定値Vmaxから、点306まで引かれた直線であり、最小電圧設定値(Vmin)は、最大電流(Imax)設定値と交差する。DC負荷ラインは、負荷電流に基づいて、正しいDC動作電圧を決定するために使用される。
【0039】
先に述べた通り、現行ではDC負荷ライン302はワーストケースコーナーVID(WCC)に基づいて設定されており、これが公称またはベストコーナーケースのチップの電力の浪費につながっている。DC負荷ライン302は、DC負荷ライン302=(VID(WCC)-Vmin)/(Imax-Imin)という公式を用いて計算することができる。
【0040】
開示されている実施形態を用いて、DC負荷ラインは、
図3のDC負荷ライン304で示されているように、VID(AVS)に基づいて調節または設定される。DC負荷ライン304は、DC負荷ライン304=(VID(AVS)-Vmin)/(Imax-Imin)という公式を用いて計算することができる。
図3に図示されているように、VID(AVS)設定値で調節されたDC負荷ライン304を使用すると、VID(WCC)設定値を用いたDC負荷ライン302に基づく電圧出力と比較して、同じ電流負荷に対して低い電圧が使用される。例えば、電流レベル308における、VID(WCC)設定値を用いたDC負荷ライン302の電圧出力は電圧312で示され、VID(AVS)設定値を用いたDC負荷ライン304の電圧出力は電圧314で示されている。電圧の差(電圧312-電圧314)*電流304が、開示した実施形態に基づいて節約される電力になる。よって、開示されている実施形態を使用すると、各システムは、電力を節約するために、AVSによって決定された最適VIDに基づいて、可能な最低電圧範囲で動作することができる。
【0041】
図4は、本開示の一実施形態によるシステム400を示すブロック図である。例えば、システム400は、
図1、
図2、および
図3に従って説明したプロセスを実行するために使用することができる。
【0042】
システム400は、処理手段402と、ネットワーキング手段404と、表示手段406と、電源手段408と、電圧調整器手段410と、メモリ手段412と、入力/出力(I/O)手段416と、データ記憶手段418と、AVS手段420とを含む。上記の各コンポーネントの1つのユニットのみが図示されているが、システム400は、各コンポーネントの複数のユニットを含むことができる。例えば、システム400は、プログラムされることが可能な、または本開示の実施形態を実施するための命令を実行することが可能な複数のプロセッサ、複数の処理コアを有する単一のプロセッサ、複数のマイクロプロセッサ、その他の回路などの、1つ以上の処理手段402を含むことができる。例えば、処理手段402は、本明細書で説明するチップ間プロセスばらつき認識電力効率最適化方法を行うための命令を実行することができる。加えて、いくつかの実施形態では、本開示の実施形態を実施するための命令は、プログラム命令の実行時に協働する複数の処理ユニットまたはサブユニットに分散されて実行されてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のデジタル信号プロセッサ(DSP)が、汎用CPUに代えて、またはこれに加えて、システム400の一部として含まれてもよい。開示されている実施形態によれば、処理手段402は、AVS手段420を含むことができる。AVS手段420は、メモリと、電気コンポーネントおよび回路と、チッププロセスばらつきおよび/または動作環境条件に基づいて最適VIDを決定するための、それ自身の処理コンポーネントとを含むことができる。いくつかの実施形態では、AVS手段420は、処理手段402とは別のコンポーネントであってもよい。
【0043】
ネットワーキング手段404は、システム400が、通信ネットワークまたはネットワークの集まり(図示せず)を介して、他のデバイス(図示せず)とデータを通信できるようにする。通信は、有線通信または無線通信の形態であってよく、特定のプロトコルに限定されない。ネットワーキング手段404は、ネットワークインターフェースカード、アンテナ、電力増幅器、無線周波数(RF)回路、送受信機、その他の通信回路を含み得る。
【0044】
表示手段406は、システム400の一体化された表示コンポーネントであってよい。あるいは、表示手段406は、外部モニタまたはディスプレイをシステム400に結合できるようにする、ディスプレイポートまたはグラフィックスカードであってもよい。電源手段408は、システム400の内部コンポーネント用に交流(AC)を低電圧調整DC電力に変換する、バッテリユニットまたは電源ユニットにすることができる。
【0045】
電圧調整器手段410は、処理手段402に適切な供給電圧を供給するように構成される。いくつかの実施形態では、電圧調整器手段410は、システム400の他のコンポーネントの電圧を調節する役割を担い得る。例えば、電圧調整器手段410は、複数の電圧調整器サブシステムを備えてよく、あるいは処理手段402などの特定のコンポーネントの電圧の調整を担う電圧調整器サブシステムであってもよい。いくつかの実施形態では、電圧調整器手段410は、第1の電圧を第2の電圧に(例えば、高電圧を低電圧に)変換するための電圧コンバータを含むことができる。
【0046】
メモリ手段412は、データおよび命令を一時的に記憶する手段を提供する。例えば、メモリ手段412は、これに限定されないが、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの揮発性メモリにすることができる。一実施形態では、メモリ手段412は、開示されている実施形態を実施する命令を記憶するために使用することができる。一実施形態では、メモリ手段412は、電圧調整器コントローラの内部に配置され、DC負荷ライン設定値を記憶するために使用される。
【0047】
I/OインターフェースなどのI/O手段416は、システム400が他のデバイスと通信可能に結合することを可能にする。例えば、I/O手段416は、これに限定されないが、ポインティングデバイスやキーボードなどの入力デバイスをシステム400で使用できるようにする。
【0048】
データ記憶手段418は、これに限定されないが、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ、およびソリッドステートドライブ(SSD)などの不揮発性メモリにすることができる。いくつかの実施形態では、データ記憶手段418は取り外し可能であってもよく、あるいは外付けドライブであってもよい。データ記憶手段418は、単一の記憶デバイスとして実装されてもよいが、互いに同じ場所にあるかまたは分散された、複数の記憶デバイスまたはサブシステムにわたって実装されてもよい。加えて、いくつかの実施形態では、データ記憶手段418は、様々な処理を実行するための命令を含むソフトウェア(例えば、非一時的媒体に記憶されたコンピュータプログラム製品)を記憶することが可能な、コンピュータ可読記憶媒体にすることができる。ソフトウェアは、オペレーティングシステムソフトウェア、データベース管理ソフトウェア、その他のアプリケーションソフトウェアなどの、追加の処理、プログラム、またはコンポーネントをさらに含み得る。ソフトウェアは、処理手段402によって実行可能なファームウェア、または他の何らかの形態の機械可読処理命令を含む場合もある。
【0049】
システム400の1つ以上のコンポーネントが、システムオンチップ(SoC)デバイスに含まれる場合があることに留意されたい。これらのコンポーネントは、これに限定されないが、処理手段402、データ記憶手段418の要素、およびネットワーキング手段の404要素も含み得る。システム400は、
図4で図示または説明されていない他のコンポーネントを含んでもよく、あるいはシステム400は、様々な実施形態の範囲に影響を与えることなく、
図4に図示されているいくつかのコンポーネントを除外できることが、当業者には理解されよう。
【0050】
したがって、本開示は、様々な新しいチッププロセスばらつき認識電力効率最適化のシステムおよび方法を提供する。具体的には、本開示で説明する実施形態では、チップ間プロセスばらつきに基づいて最適なDC負荷ラインが設定され、その結果、システムは最大の電力効率で動作でき、電力消費およびコストの削減につながる。
【0051】
本明細書に開示される実施形態以前は、これに限定されないが、処理ユニットのAVSモジュールと電圧調整器との間の高速インターフェースの必要性を含むいくつかの技術的問題のために、開示されている実施形態の利点を達成することは実現可能ではなく、実用的でもなかったであろう。このようなインターフェースは最近まで存在しなかった(例えば、AVSを有するPMBUS 1.3)。このようなインターフェースがなければ、DC負荷ラインの調節にAVS出力を使用することは可能にはならない。加えて、開示されている実施形態はシリコン面積コストを有し、用途によってはあまり節約にならない可能性がある。よって、近年になって大電力用途の需要が高まるまでは、恩恵はごくわずかなものであったろう。
【0052】
本開示ではいくつかの実施形態が提供されているが、開示のシステムおよび方法は、本開示の趣旨または範囲から逸脱することなく、多くの他の特定の形態で具現化されてもよいことが理解されよう。本開示の例は、限定ではなく例示とみなされるべきであり、その意図は、本明細書に与えられた詳細に限定されるべきではない。例えば、様々な要素またはコンポーネントが別のシステムにおいて結合もしくは統合されてもよく、または特定の機能が省略されるか、もしくは実装されなくてもよい。
【0053】
加えて、様々な実施形態において個別または別個のものとして記載および例示された技法、システム、サブシステム、および方法は、本開示の範囲から逸脱することなく、他のシステム、コンポーネント、技法、または方法と結合または統合されてもよい。変更、代用、および改変の他の例は当業者によって解明可能であり、本明細書に開示された趣旨および範囲から逸脱することなく行われてもよい。
【符号の説明】
【0054】
102 システムマザーボード
112 処理ユニット
114 AVSモジュール
116 最適VID
124 電圧調整器
126 DC負荷ライン
128 VID
130 レジスタ
200 チッププロセスばらつき認識システムの電力効率最適化を実行するプロセス
300 省電力の一例を示すグラフ
302 DC負荷ライン
304 DC負荷ライン
306 VminがImaxと交差する点
308 電流レベル
312 電圧
314 電圧
400 システム
402 処理手段
404 ネットワーキング手段
406 表示手段
408 電源手段
410 電圧調整器手段
412 メモリ手段
416 入力/出力手段
418 データ記憶手段
420 AVS手段