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  • 特許-一酸化ケイ素ガス連続発生方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】一酸化ケイ素ガス連続発生方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/113 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
C01B33/113 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022550373
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026236
(87)【国際公開番号】W WO2022059316
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020155272
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 悠介
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-150049(JP,A)
【文献】特開2012-197207(JP,A)
【文献】特開2001-220122(JP,A)
【文献】特開2007-290890(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025194(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045333(WO,A1)
【文献】特開2001-220123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/113
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が0.6重量%以下である一酸化ケイ素(SiO)ガス発生原料に大気中の水分が吸着することを防止する水分吸着防止ステップと、
一酸化ケイ素ガスを発生させるための反応室に前記一酸化ケイ素ガス発生原料を連続的に投入する原料投入ステップとを備え
前記一酸化ケイ素ガス発生原料は、ケイ酸リチウムとケイ素(Si)とを含有する
一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【請求項2】
前記水分吸着防止ステップは、前記一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下で保管する保管ステップを含む
請求項1に記載の一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【請求項3】
前記水分吸着防止ステップは、前記一酸化ケイ素ガス発生原料を前記反応室に供給する原料供給ホッパに前記一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給するステップを含む
請求項1に記載の一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【請求項4】
前記水分吸着防止ステップは、前記保管ステップ後に、前記一酸化ケイ素ガス発生原料を前記反応室に供給する原料供給ホッパに前記一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給する供給ステップをさらに含む
請求項2に記載の一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【請求項5】
含水率が0.6重量%以下である一酸化ケイ素(SiO)ガス発生原料に大気中の水分が吸着することを防止する水分吸着防止ステップと、
一酸化ケイ素ガスを発生させるための反応室に前記一酸化ケイ素ガス発生原料を連続的に投入する原料投入ステップとを備える
一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【請求項6】
前記水分吸着防止ステップは、前記一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下で保管する保管ステップを含む
請求項5に記載の一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【請求項7】
前記水分吸着防止ステップは、前記一酸化ケイ素ガス発生原料を前記反応室に供給する原料供給ホッパに前記一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給するステップを含む
請求項5に記載の一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【請求項8】
前記水分吸着防止ステップは、前記保管ステップ後に、前記一酸化ケイ素ガス発生原料を前記反応室に供給する原料供給ホッパに前記一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給する供給ステップをさらに含む
請求項6に記載の一酸化ケイ素ガス連続発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化ケイ素(SiO)ガス発生原料に関する。また、本発明は、一酸化ケイ素ガス連続発生方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
「平均組成がSiO(0.5<x<1.5)で表される酸化珪素粉末であって、XRD測定を行った際に、回折角2θ=10~60°の範囲において、半値幅が2°以上のブロードな結晶ピークが10~40°にのみ一つだけ検出され、そのブロードな結晶ピークの強度をP1とするとき、他の結晶ピークの強度P2がP2/P1<0.1を満足する負極材用粉末」が過去に提案されている(例えば、特開2019-67644号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-67644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ケイ素(Si)単体と二酸化ケイ素(SiO)等との混合粉末を加熱処理して一酸化ケイ素(SiO)ガスを発生させ、発生した一酸化ケイ素ガスを冷却し、析出した酸化ケイ素(SiO)を粉砕することで、特許文献1に記載のような酸化ケイ素粉末を得ることができる。このような混合粉末は、比較的湿度が高い環境等で長期保存されると空気中の水分を吸着する。そして、水分を吸着した(含水率(重量%)が高い)混合粉末を加熱処理して一酸化ケイ素ガスを発生させる場合、多量の水蒸気(H0)および多量の水素(H)ガス等も発生してしまう。多量の水蒸気および多量の水素ガス等が発生すると、反応室内の内部圧力が上昇し、一酸化ケイ素ガスが発生する反応が阻害されてしまう。
【0005】
本発明の課題は、一酸化ケイ素ガスが発生する反応が阻害されにくい一酸化ケイ素ガス発生原料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は、含水率が0.6重量%以下である一酸化ケイ素ガス発生原料に大気中の水分が吸着することを防止する水分吸着防止ステップと、一酸化ケイ素ガスを発生させるための反応室に一酸化ケイ素ガス発生原料を連続的に投入する原料投入ステップとを備える。また、一酸化ケイ素ガス発生原料は、ケイ酸リチウムとケイ素(Si)とを含有する。
【0007】
上述の通り、この一酸化ケイ素ガス連続発生方法では、一酸化ケイ素ガスを発生させるための反応室(つまり、一酸化ケイ素ガス発生原料を加熱処理するための反応室)に含水率が0.6重量%以下である一酸化ケイ素ガス発生原料が連続的に投入される。このため、一酸化ケイ素ガスが発生している際に水蒸気および水素ガス等の発生量を抑制することができる。したがって、この一酸化ケイ素ガス連続発生方法では、一酸化ケイ素ガスが発生する反応が阻害されることなく、一酸化ケイ素ガスを連続的に発生させることができる。また、本願発明者の鋭意検討の結果、ケイ酸リチウムとケイ素とを含有する一酸化ケイ素ガス発生原料を水と混合し、成形した後に乾燥させて造粒すると、ケイ酸リチウムとケイ素とが強固に接着されることが分かった。このため、この一酸化ケイ素ガス発生原料は、ケイ酸塩(ケイ酸リチウム)が含有される場合に機械的強度を有する。
【0008】
本発明の第2局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は第1局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法であって、水分吸着防止ステップは、一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下で保管する保管ステップを含む。
【0009】
本発明の第3局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は第1局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法であって、水分吸着防止ステップは、一酸化ケイ素ガス発生原料を反応室に供給する原料供給ホッパに一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給するステップを含む。
【0010】
本発明の第4局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は第2局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法であって、水分吸着防止ステップは、保管ステップ後に、一酸化ケイ素ガス発生原料を反応室に供給する原料供給ホッパに一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給する供給ステップをさらに含む。
【0011】
本発明の第5局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は、含水率が0.6重量%以下である一酸化ケイ素ガス発生原料に大気中の水分が吸着することを防止する水分吸着防止ステップと、一酸化ケイ素ガスを発生させるための反応室に一酸化ケイ素ガス発生原料を連続的に投入する原料投入ステップとを備える。
【0012】
上述の通り、この一酸化ケイ素ガス連続発生方法では、一酸化ケイ素ガスを発生させるための反応室(つまり、一酸化ケイ素ガス発生原料を加熱処理するための反応室)に含水率が0.6重量%以下である一酸化ケイ素ガス発生原料が連続的に投入される。このため、一酸化ケイ素ガスが発生している際に水蒸気および水素ガス等の発生量を抑制することができる。したがって、この一酸化ケイ素ガス連続発生方法では、一酸化ケイ素ガスが発生する反応が阻害されることなく、一酸化ケイ素ガスを連続的に発生させることができる。
【0013】
本発明の第6局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は第5局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法であって、水分吸着防止ステップは、一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下で保管する保管ステップを含む。
【0014】
本発明の第7局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は第5局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法であって、水分吸着防止ステップは、一酸化ケイ素ガス発生原料を反応室に供給する原料供給ホッパに一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給するステップを含む。
【0015】
本発明の第8局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法は第6局面に係る一酸化ケイ素ガス連続発生方法であって、水分吸着防止ステップは、保管ステップ後に、一酸化ケイ素ガス発生原料を反応室に供給する原料供給ホッパに一酸化ケイ素ガス発生原料を大気非暴露下または減圧下のまま供給する供給ステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る一酸化ケイ素ガス発生原料を用いた活物質粒体の製造装置の概略図である。
図2図1に示される製造装置に乾燥機構を追加した概略図である。
【符号の説明】
【0017】
100 蒸着装置
110 ルツボ
120 ヒータ
130 蒸着ドラム
141 スクレーパ
143 粒体ガイド
150 チャンバ
151 チャンバ本体部
152 回収部
153 排気管
160 原料供給ホッパ
170 原料導入管
180 回収容器
190 回収管
200 乾燥機構
210 原料導入管
Gg ガスガイド
OP 開口
RM 析出室
Sr 一酸化ケイ素ガス発生原料
VL1 第1バルブ
VL2 第2バルブ
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、一酸化ケイ素(SiO)ガスを発生させるために用いられる。一酸化ケイ素ガス発生原料Srとして、例えば、「ケイ素(Si)と二酸化ケイ素(SiO)との混合粉末」や「ケイ素とケイ酸リチウム(LiSi等)等のケイ酸塩との混合粉末」が用いられる。「ケイ素と二酸化ケイ素との混合粉末」は、酸化ケイ素粒体を製造する場合に用いられ、加熱処理されることによって一酸化ケイ素ガスを発生する。「ケイ素とケイ酸リチウム等のケイ酸塩との混合粉末」は、金属元素含有酸化ケイ素粒体を製造する場合に用いられ、加熱処理されることによってリチウム(Li)等の金属元素入りの一酸化ケイ素ガスを発生する。なお、金属元素としては、リチウム以外にナトリウム(Na)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属といった、一酸化ケイ素を還元し酸素を安定化することのできる元素であってもよい。
【0019】
なお、本発明の実施の形態に係る一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、加熱処理される前に乾燥処理(後述)されている。この乾燥処理は、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr中の水分量を減らすために行われる。乾燥処理方法として、加熱乾燥や減圧乾燥等が挙げられる。
【0020】
そして、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srを所定温度まで加熱処理することで発生した一酸化ケイ素ガスから、後述する工程を経て、活物質粒体が製造される。このような活物質粒体としては、例えば、リチウムイオン二次電池の電極(特に、負極)の活物質として用いられる酸化ケイ素粒体や金属元素含有酸化ケイ素粒体等である。
【0021】
ところで、本発明の実施の形態に係る一酸化ケイ素ガス発生原料Srを用いて活物質粒体を最終的に製造するために、図1に示されるような蒸着装置100が用いられることが好ましい。蒸着装置100は製造費用抑制等の観点から優れている。以下、蒸着装置100について詳述する。
【0022】
蒸着装置100は、図1に示されるように、主に、ルツボ110、ヒータ120、蒸着ドラム130、スクレーパ141、粒体ガイド143、チャンバ150、原料供給ホッパ160、原料導入管170、回収容器180、第1バルブVL1および第2バルブVL2から構成されている。
【0023】
ルツボ110は、図1に示されるように天壁の中央部分が開口する耐熱容器であって、チャンバ150に設置されている。また、このルツボ110の天壁の周囲部の一箇所に貫通孔(図示せず)が形成されており、この貫通孔には原料導入管170が挿通されている。すなわち、原料供給ホッパ160内の乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、原料導入管170を通ってルツボ110に供給されている。また、このルツボ110の天壁の上側には、ガスガイドGgが配設されている。このガスガイドGgは、ルツボ110で発生する一酸化ケイ素ガスを蒸着ドラム130に導く部材であって、図1に示される通り、天壁の中央部分を囲むように天壁の上面に設置されている。
【0024】
ヒータ120は、ルツボ110を高温加熱するためのものであって、ルツボ110の外周を取り込むように配設されている。
【0025】
蒸着ドラム130は、例えば、円筒形状の水平ドラムであって、図1に示されるように、ルツボ110の天壁の開口OPの上方に配設されており、その下部がガスガイドGgに囲まれている。そして、この蒸着ドラム130は、図示されない駆動機構により一方向に回転駆動される。なお、この蒸着ドラム130には、外周面を一定温度に保つための温度調節器(図示せず)が設けられている。この温度調節器は、外部から供給される冷却媒体により、蒸着ドラム130の外周面温度を、蒸着源ガスの蒸着に適した温度に冷却する。また、蒸着ドラム130の外周面温度は、蒸着ドラム上に残った析出物の上に堆積する析出物の結晶性に影響を与え得る。この温度が低すぎると、析出物の組織構造が疎になりすぎるおそれがあり、反対に高すぎると不均化反応による結晶成長が進行するおそれがある。一酸化ケイ素ガスが蒸着する場合、この温度は、900℃以下であることが好ましく、150℃以上800℃以下の範囲内であることがより好ましく、150℃以上700℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0026】
スクレーパ141は、蒸着ドラム上に形成される薄膜を蒸着ドラム130から掻き取る役目を担う部材である。掻き落とされた薄膜片(活物質粒体)は、粒体ガイド143に落下する。また、このスクレーパ141の材質は活物質粒体の不純物汚染に影響する。その影響を抑制する観点から、スクレーパ141の材質はステンレス鋼やセラミックスであることが好ましく、セラミックスであることが特に好ましい。また、このスクレーパ141は、蒸着ドラム130の外周面に接触させないのがよい。回収される活物質粒体に、蒸着ドラム130とスクレーパ141との直接接触により生じ得る不純物汚染が混入することを防止することができるからである。
【0027】
粒体ガイド143は、例えば、振動式の搬送部材であって、図1に示されるように、蒸着ドラム130の近傍からチャンバ150の回収部152に向かうに従って下方に傾斜するように配設されており、その上方に配設されるスクレーパ141により掻き落とされる薄膜片を受けてチャンバ150の回収部152へと送る。
【0028】
チャンバ150は、図1に示されるように、主に、チャンバ本体部151、回収部152および排気管153から形成されている。チャンバ本体部151は、図1に示されるように内部に析出室RMを有する箱状部位であって、ルツボ110、ヒータ120、蒸着ドラム130、スクレーパ141および粒体ガイド143を収容している。回収部152は、図1に示されるように、チャンバ本体部151の側壁から外方に突出する部位であって、チャンバ本体部151の析出室RMに連通する空間を有している。なお、上述の通り、この回収部152には、粒体ガイド143の先端部位が位置している。
【0029】
原料供給ホッパ160は、一酸化ケイ素ガス発生原料供給源であって、図1に示されるように出口が原料導入管170に接続されている。すなわち、原料供給ホッパ160に投入された乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、適当なタイミングで原料導入管170を介してルツボ110に連続的に供給される。なお、ルツボ110に供給された乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、一酸化ケイ素ガスとなる。
【0030】
原料導入管170は、原料供給ホッパ160に投入されている乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srをルツボ110に連続的に投入するための丸孔状のノズルであって、ルツボ110の天板部の中央部分において上方に口を向けるように配設されている。
【0031】
回収容器180は、第1バルブVL1および第2バルブVL2を通過してきた薄膜片を回収するための容器である。
【0032】
第1バルブVL1および第2バルブVL2は、開閉により回収容器180への薄膜片の回収量を調整するためのものであって、チャンバ150の回収部152と回収容器180とを繋ぐ回収管190に設けられている。
【0033】
以下、上述の蒸着装置100を用いて、一酸化ケイ素ガス発生原料Srからリチウムイオン二次電池用負極材に利用される酸化ケイ素粒体や金属元素含有酸化ケイ素粒体を最終的に製造する場合について説明する。
【0034】
まず、一酸化ケイ素ガス発生原料Srが乾燥処理(加熱乾燥、減圧乾燥等)される。ここで、一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、例えば加熱乾燥による乾燥処理される場合においては、1時間以上240時間以下の範囲内、100℃以上400℃以下の範囲内で乾燥処理されることが好ましく、4時間以上120時間以下の範囲内、200℃以上350℃以下の範囲内で乾燥処理されることがより好ましい。また、一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、例えば減圧乾燥による乾燥処理される場合においては、12時間以上120時間以下の範囲内、10Pa以上100Pa以下の範囲内となるように真空ポンプで圧力が管理された減圧下で乾燥処理されることが好ましく、12時間以上240時間以下の範囲内、0.1Pa以上100Pa以下の範囲内となるように真空ポンプで圧力が管理された減圧下で乾燥処理されることがより好ましい。これらの条件下で一酸化ケイ素ガス発生原料Srを乾燥処理する場合、一酸化ケイ素ガスを極力発生させずに一酸化ケイ素ガス発生原料Sr中の水分を除去することができる。そして、上述の通り、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srの含水率は0.6重量%以下であり、0.3重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることがより好ましい。また、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srは密封容器、もしくは減圧下で保管されることが好ましい。
【0035】
次に、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、原料供給ホッパ160に投入される。そして、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110連続的に投入される。
【0036】
次に、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srがルツボ110に投入されたら、析出室RM内を減圧しながらルツボ110がヒータ120によって加熱される。なお、一酸化ケイ素ガス発生原料Srの含水率(重量%)が高い場合、ヒータ120の加熱によって多量の水蒸気および多量の水素ガス等が発生してしまう。多量の水蒸気および多量の水素ガス等が発生すると、析出室RM内の圧力が上昇してしまう。そして、析出室RM内の圧力が高すぎると、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srから一酸化ケイ素ガスが発生する反応が起こりにくくなる。ここで、析出室RM内の圧力は、100Pa以下であることが好ましく、75Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。また、析出室RM内の温度は一酸化ケイ素の反応速度に影響し、同温度が低すぎると反応速度が遅くなり、同温度が高すぎると乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srの融解による副反応進行や、エネルギー効率低下などが懸念される。また、同温度がルツボ110の損傷も懸念される。この観点から、析出室RM内の温度は、1000℃以上1600℃以下の範囲内であることが好ましく、1100℃以上1500℃以下の範囲であることがより好ましく、1100℃以上1400℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0037】
以上の通りに乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srを減圧加熱処理することにより、ルツボ110内の乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srから一酸化ケイ素ガスが発生し、その一酸化ケイ素ガスがガスガイドGgを通って蒸着ドラム130に供給される。そして、この際、蒸着ドラム130が、駆動源によって回転駆動されている。なお、蒸着ドラム130の外周面の温度は、析出室RM内の温度より低く設定されている。より詳しくは、同温度は、一酸化ケイ素ガスの凝縮温度より低く設定されている。この設定により、ルツボ110から生じる一酸化ケイ素ガスが、回転する蒸着ドラム130の外周面に蒸着し析出して堆積する。そして、蒸着ドラム130上に薄膜が形成される。その後、蒸着ドラム130上の薄膜とスクレーパ141とが接触することで、蒸着ドラム130から薄膜が掻き取られる。なお、掻き取られた薄膜の欠片(活物質粒体)は蒸着ドラム130の外周面に沿って粒体ガイド143に落下していく。
【0038】
本実施の形態の蒸着装置100では、上述のように、一酸化ケイ素ガス発生原料Srから高品質な活物質粒体が最終的に製造される。
【0039】
なお、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srが原料供給ホッパ160に投入される際、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srを大気に暴露させないようにすることが好ましい。大気中の水分が乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srに吸着するおそれがあるからである。乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srが大気に暴露しないように、例えば、乾燥機構200および原料供給管210が蒸着装置100に構成されるとよい(図2参照)。この構成によると、まず、図2に示されるように、乾燥機構200に乾燥処理前の一酸化ケイ素ガス発生原料Srが投入される。そして、一酸化ケイ素ガス発生原料Srが乾燥機構200内で乾燥処理され、乾燥機構200の蒸気口(図示せず)から水蒸気が排出される。なお、ここで、上述の通り、一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、例えば加熱乾燥による乾燥処理される場合においては、1時間以上240時間以下の範囲内、100℃以上400℃以下の範囲内で乾燥処理されることが好ましく、4時間以上120時間以下の範囲内、200℃以上350℃以下の範囲内で乾燥処理されることがより好ましい。また、一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、例えば減圧乾燥による乾燥処理される場合においては、12時間以上120時間以下の範囲内、10Pa以上100Pa以下の範囲内となるように真空ポンプで圧力が管理された減圧下で乾燥処理されることが好ましく、12時間以上240時間以下の範囲内、0.1Pa以上100Pa以下の範囲内となるように真空ポンプで圧力が管理された減圧下で乾燥処理されることがより好ましい。そして、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srは、乾燥機構200から原料供給管210を介して原料供給ホッパ160に投入されることになる。この構成により、乾燥処理後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srが大気に暴露することを防止することができる。
【0040】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例および比較例を示すが、本発明がこの実施例には限定されることはない。
【実施例1】
【0041】
二酸化ケイ素(SiO)とケイ素(Si)とを含有する一酸化ケイ素(SiO)ガス発生原料Srを4時間、200℃で乾燥処理した。この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの重量は524gであった。また、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの含水率を加熱乾燥式水分計で計測したところ、含水率は0.05重量%であった。そして、図1に示される蒸着装置100を用いて、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを析出室RM内(圧力:10Pa、温度1300℃)のルツボ110に2時間かけて連続的に投入した。そして、一酸化ケイ素ガスを発生させ、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr投入完了の30分後に炉を停止した。その後上述の工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極材に使用される酸化ケイ素粒体(重量:487g)を最終的に製造した。このとき、析出室RM内の圧力は15Paに上昇し、反応率(粒体重量/原料投入量×100)は93%であった。
【実施例2】
【0042】
二酸化ケイ素とケイ素とを含有する一酸化ケイ素ガス発生原料Srを1時間、100℃で乾燥処理した。この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの重量は507gであった。また、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの含水率を加熱乾燥式水分計で計測したところ、含水率は0.29重量%であった。そして、図1に示される蒸着装置100を用いて、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを析出室RM内(圧力:10Pa、温度1300℃)のルツボ110に2時間かけて連続的に投入した。そして、一酸化ケイ素ガスを発生させ、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr投入完了の30分後に炉を停止した。その後上述の工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極材に使用される酸化ケイ素粒体(重量:446g)を最終的に製造した。このとき、析出室RM内の圧力は38Paに上昇し、反応率は88%であった。
【実施例3】
【0043】
二酸化ケイ素とケイ素とを含有する一酸化ケイ素ガス発生原料Srを100Paの減圧下で12時間減圧乾燥処理した。この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの重量は520gであった。また、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの含水率を加熱乾燥式水分計で計測したところ、含水率は0.33重量%であった。そして、図1に示される蒸着装置100を用いて、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを析出室RM内(圧力:10Pa、温度1300℃)のルツボ110に2時間かけて連続的に投入した。そして、一酸化ケイ素ガスを発生させ、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr投入完了の30分後に炉を停止した。その後上述の工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極材に使用される酸化ケイ素粒体(重量:447g)を最終的に製造した。このとき、析出室RM内の圧力は44Paに上昇し、反応率は86%であった。
【実施例4】
【0044】
ケイ酸リチウム(LiSi)とケイ素とを含有する一酸化ケイ素ガス発生原料Srを4時間、200℃で乾燥処理した。この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの重量は508gであった。また、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの含水率を加熱乾燥式水分計で計測したところ、含水率は0.05重量%であった。そして、図1に示される蒸着装置100を用いて、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを析出室RM内(圧力:10Pa、温度1300℃)のルツボ110に2時間かけて連続的に投入した。そして、一酸化ケイ素ガスを発生させ、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr投入完了の30分後に炉を停止した。その後上述の工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極材に使用される金属元素含有酸化ケイ素粒体(重量:477g)を最終的に製造した。このとき、析出室RM内の圧力は16Paに上昇し、反応率は94%であった。
【0045】
(比較例1)
二酸化ケイ素とケイ素とを含有する一酸化ケイ素ガス発生原料Sr(乾燥処理せず)(重量:530g)の含水率を加熱乾燥式水分計で計測したところ、含水率は0.96重量%であった。そして、図1に示される蒸着装置100を用いて、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを析出室RM内(圧力:10Pa、温度1300℃)のルツボ110に2時間かけて連続的に投入した。そして、一酸化ケイ素ガスを発生させ、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr投入完了の30分後に炉を停止した。その後上述の工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極材に使用される酸化ケイ素粒体(重量:360g)を最終的に製造した。このとき、析出室RM内の圧力は123Paに上昇し、反応率は68%であった。
【0046】
(比較例2)
二酸化ケイ素とケイ素とを含有する一酸化ケイ素ガス発生原料Srを1時間、100℃で乾燥処理した。この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの重量は511gであった。また、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを24時間大気に暴露させた。大気に暴露させた後の一酸化ケイ素ガス発生原料Srの重量は513gであった。そして、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srの含水率を加熱乾燥式水分計で計測したところ、含水率は0.68重量%であった。そして、図1に示される蒸着装置100を用いて、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを析出室RM内(圧力:10Pa、温度1300℃)のルツボ110に2時間かけて連続的に投入した。そして、一酸化ケイ素ガスを発生させ、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr投入完了の30分後に炉を停止した。その後上述の工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極材に使用される酸化ケイ素粒体(重量:393g)を最終的に製造した。このとき、析出室RM内の圧力は80Paに上昇し、反応率は74%であった。
【0047】
(比較例3)
ケイ酸リチウム(LiSi)とケイ素とを含有する一酸化ケイ素ガス発生原料Sr(乾燥処理せず)(重量:503g)の含水率を加熱乾燥式水分計で計測したところ、含水率は0.81重量%であった。そして、図1に示される蒸着装置100を用いて、この一酸化ケイ素ガス発生原料Srを析出室RM内(圧力:10Pa、温度1300℃)のルツボ110に2時間かけて連続的に投入した。そして、一酸化ケイ素ガスを発生させ、一酸化ケイ素ガス発生原料Sr投入完了の30分後に炉を停止した。その後上述の工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極材に使用される金属元素含有酸化ケイ素粒体(重量:312g)を最終的に製造した。このとき、析出室RM内の圧力は104Paに上昇し、反応率は62%であった。
図1
図2