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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】MT型ストラドルドビークル
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
F02D29/02 321A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022566902
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2021043601
(87)【国際公開番号】W WO2022118786
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/044598
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】日野 陽至
(72)【発明者】
【氏名】小杉 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤森 圭哉
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156346(JP,A)
【文献】特開平11-257120(JP,A)
【文献】特開平11-257122(JP,A)
【文献】特開2015-68222(JP,A)
【文献】特開2002-364404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MT型鞍乗型車両であって、
前記MT型鞍乗型車両は、
クランク軸を有するとともに、燃焼により生じる動力を、回転する前記クランク軸を介して出力するエンジンと、
前記エンジンから出力される動力を受け前記MT型鞍乗型車両を駆動する駆動輪と、
運転者の操作に応じて前記エンジンと前記駆動輪の間の変速比を、ニュートラル状態と非ニュートラル状態とを含む多段階に変更するマニュアル式変速機と、
前記運転者のクラッチ操作を受けるクラッチレバーと、
前記エンジンと前記マニュアル式変速機の間の動力伝達経路に設けられ、前記運転者による前記クラッチレバーへの操作に応じて、前記エンジンと前記マニュアル式変速機の間の動力伝達を断続するマニュアルクラッチと、
前記クランク軸と連動するようにクラッチを介さず前記クランク軸に接続され、前記エンジンの始動時に前記クランク軸を駆動することで前記エンジンを始動させ、前記エンジンの燃焼動作時に前記クランク軸に駆動され発電するクランク軸連動型始動発電機と、
下記(A)~(C)の一連の処理により、アイドリングストップ条件の充足により前記エンジンを停止し、前記エンジン始動した後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うように構成され、前記処理(A)~(C)は、
(A) 前記アイドリングストップ条件の充足により前記エンジンを停止する処理と、
(B) 前記処理(A)により前記エンジンが停止している時に、前記運転者による前記クラッチレバーへの操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記クランク軸連動型始動発電機により前記エンジンを始動させる処理と、
(C) 少なくとも前記処理(B)による前記エンジンの始動に続けて、前記マニュアル式変速機が前記非ニュートラル状態である状況下での前記運転者による車両発進のための前記クラッチレバーへの操作に応じた前記マニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因して前記エンジンがストールした場合に、前記非ニュートラル状態での前記運転者による前記クラッチレバーへの操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記クランク軸連動型始動発電機によりクラッチを介さずに前記クランク軸を回転させ、これにより、前記エンジンを再始動させる処理と
である、制御装置と
を備えるMT型鞍乗型車両
【請求項2】
請求項1に記載のMT型鞍乗型車両であって、
前記アイドリングストップ条件は、前記マニュアル式変速機がニュートラル状態であることをAND条件として含む
MT型鞍乗型車両
【請求項3】
請求項1又は2に記載のMT型鞍乗型車両であって、
前記処理(B)は、前記処理(A)により前記エンジンが停止している時に、前記マニュアル式変速機がニュートラル状態から前記非ニュートラル状態に遷移した後、前記運転者の操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記エンジンを始動する
MT型鞍乗型車両
【請求項4】
請求項1に記載のMT型鞍乗型車両であって、
前記アイドリングストップ条件は、前記マニュアル式変速機が前記非ニュートラル状態であることをAND条件として含む
MT型鞍乗型車両
【請求項5】
請求項1又は4の何れか1項に記載のMT型鞍乗型車両であって、
前記処理(B)は、前記マニュアル式変速機が前記非ニュートラル状態である状況下で、前記処理(A)により前記エンジンが停止している時に、前記運転者の操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記エンジンを始動する
MT型鞍乗型車両
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載のMT型鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として前記エンジンを再始動する回数を、再始動上限回数以下に制限する
MT型鞍乗型車両
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載のMT型鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記アイドリングストップ条件の充足により前記エンジンを停止し、前記アイドリングストップ条件の充足よって前記エンジンが停止している場合に前記マニュアルクラッチが切断状態に遷移することを契機として前記エンジンを始動するまでの間、
前記マニュアル式変速機がニュートラル状態又は前記非ニュートラル状態のいずれの状態であっても、前記エンジンの始動を行わない
MT型鞍乗型車両
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MT型鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
アイドリングストップを行うMT(マニュアル・トランスミッション)型鞍乗型車両において、アイドリングストップ条件を充足することによりエンジンが停止した場合、簡便な操作よりエンジンの再始動を行うことができる車両がある。例えば特許文献1のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップによりエンジンが停止した状態である時に、アイドリングストップ状態を示すフラグが記録されるとともにエンジンの再始動条件が満たされ、且つマニュアルクラッチを切断するようにクラッチレバーが操作された場合には、スタータモータによりエンジンを再始動させる。エンジンを再始動すると、アイドリングストップ状態を示すフラグが消去される。特許文献1のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップの状態である場合に、クラッチレバーの操作によりエンジンを始動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-156346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両では、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることが望まれている。本発明の目的は、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両において、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めたMT型鞍乗型車両を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両における、アイドリングストップ状態から発進する場合の操作について検討した。この検討において、本発明者は、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両の発進時の操作における手足の使い方が、アイドリングストップを行うMT型4輪自動車の発進時の操作における手足の使い方と異なることに着目した。本発明者は、このため、MT型鞍乗型車両の操作では、操作のタイミングによっては、エンジンがストールする場合があることに気づいた。
【0006】
例えばMT型4輪自動車では、マニュアルクラッチは、運転者が左足でクラッチペダルを操作することにより動作する。運転者は、クラッチペダルを左足で踏み込むことによりマニュアルクラッチを切断し、運転者がクラッチペダルから左足を離すことによりマニュアルクラッチを接続する。アクセルは、運転者が右足でアクセルペダルを操作することにより動作する。運転者はアクセルペダルを右足で踏み込むことによりエンジン回転数を上昇させる。ブレーキは、運転者が右足でブレーキペダルを操作することにより動作する。運転者は、ブレーキペダルを右足で踏み込むことによりブレーキを動作させる。従って、MT型4輪自動車では、アクセルとブレーキの双方を同時に操作することは容易でないため、一般の運転者は通常、アクセルとブレーキの双方を同時には操作しない。
【0007】
アイドリングストップを行うMT型4輪自動車では、アイドリングストップによりエンジンが停止した後、運転者がクラッチペダルを踏み込む操作を行うことによりエンジンを始動する構成が考えられる。このようなMT型4輪自動車では、発進操作は以下のように行われると考えられる。アイドリングストップによりエンジンが停止した後、運転者がクラッチペダルを踏み込むことによりエンジンが始動する。次に、運転者は、エンジン回転速度を上げるために、右足をブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替える。この間、運転者の左足は、クラッチペダルを踏み込んでいる。次に、運転者は、アクセルペダルを踏み込むと同時に左足をクラッチペダルから離す方向に操作して半クラッチ状態を作り出す。このため、運転者のクラッチペダルの踏み込みに応じてエンジンが始動してから運転者が足をクラッチペダルから離す方向に操作するまでにタイムラグが生じる。この間、始動したエンジンの回転速度が上昇する。
【0008】
これに対し、MT型鞍乗型車両では、マニュアルクラッチは運転者が左手でクラッチレバーを操作することにより動作する。運転者は、左手でクラッチレバーを握ることによりマニュアルクラッチを切断し、クラッチレバーから左手を離すことによりマニュアルクラッチを接続する。アクセルは、運転者が右手でグリップを操作することにより動作する。運転者は、アクセルグリップを回転させることによりエンジン回転数を上昇させる。ブレーキは、例えば運転者が右足で後輪用ブレーキペダルを操作することにより動作する。運転者は、後輪用ブレーキペダルを右足で踏み込むことにより後輪ブレーキを動作させる。従って、MT型鞍乗型車両では、運転者は右手でアクセルグリップを操作し、右足で後輪用ブレーキペダルを操作するため、アクセルとブレーキ双方を同時に操作することができる。
【0009】
例えば特許文献1のMT型鞍乗型車両の場合、発進操作手順は、以下の通りである。アイドリングストップによりエンジンが停止したのち、運転者はクラッチレバーを握ることによりエンジンを始動する。この時、運転者は右手でアクセルグリップの操作をしながらエンジン回転速度を上昇させる。また同時に、運転者は左手でクラッチレバーを離す方向に操作してマニュアルクラッチの接続を行う。そして、運転者は右足で後輪用ブレーキペダルを操作する。MT型鞍乗型車両の運転者は、アクセルグリップの操作、クラッチレバーの操作、及びブレーキペダルの操作を同時に開始することができる。そのため、MT型鞍乗型車両では、エンジン始動から運転者がアクセル操作をしてクラッチ接続を行うまでのタイムラグを小さくすることができる。運転者はエンジン始動後短時間でマニュアルクラッチを接続する操作を行うことが可能である。このため、エンジンの始動後回転速度が十分に上昇する前にマニュアルクラッチが接続される場合がある。このため、エンジンがストールする場合がある。
【0010】
また、鞍乗型車両は、走行時に運転者の体重移動によって車両の姿勢が制御されるように構成されている。そのため、操作性及び走行性能の観点から、鞍乗型車両は、小型であることを求められる傾向がある。鞍乗型車両では、車両が比較的小さく、サイズに関して車両全体に占めるエンジンの割合が大きい。鞍乗型車両におけるエンジンも小型であることを求められる傾向がある。このため、鞍乗型車両のエンジンにおける出力トルク及びクランク軸のイナーシャは、例えば自動車のそれらよりも小さい傾向を有する。このため、MT型鞍乗型車両では、車両発進時のクラッチレバーの操作に起因してエンジンがストールする場合がある。
【0011】
また、例えば、発電機とは独立に設けられたスタータモータを有するMT型鞍乗型車両におけるエンジン始動では、ワンウェイクラッチ、及び減速ギアを介してスタータモータがクランク軸を駆動する。従って、このようなMT型鞍乗型車両では、エンジン始動の際にスタータモータ、ワンウェイクラッチ、及び減速ギア等の動作音を生じる。
これに対し、クランク軸との間でクラッチを介さず動力が伝達されるようにクランク軸に接続されるクランク軸連動型始動発電機を有するMT型鞍乗型車両では、クラッチを介さずクランク軸連動型始動発電機からクランク軸に動力が伝達される。従って、クランク軸連動型始動発電機を有するMT型鞍乗型車両における始動の際の動作音は、例えばスタータモータが発電機とは独立に設けられたMT型鞍乗型車両の場合と比べ、小さい。このため、運転者は、クランク軸連動型始動発電機を有するMT型鞍乗型車両のエンジンの始動状態を認識しにくい場合がある。この場合、運転者は、エンジン始動の動作の完了を確認せずに、エンジン始動の動作の開始後直ぐにマニュアルクラッチを接続する場合がある。そのため、クランク軸連動型始動発電機を有するMT型鞍乗型車両では、クラッチレバーの操作に起因してエンジンがストールする場合がある。
【0012】
このように、MT型鞍乗型車両は、操作に割り当てられる運転者の手足がMT型4輪自動車の場合とは異なり、また、車両の姿勢制御がMT型4輪自動車の場合とは異なり、また、クランク軸連動型始動発電機を有する。このことに起因して、MT型鞍乗型車両では、発進時の操作によっては、エンジンがストールする場合がある。
本発明者は、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両の発進時におけるエンジンのストールについてさらに検討した。この検討において、本発明者は、アイドリングストップにより停止していたエンジンが始動した後、運転者が発進操作を行う時にエンジンがストールした場合に、エンジンを始動することを考えた。
詳細には、MT鞍乗型車両の制御装置は、下記(A)~(C)の一連の処理により、アイドリングストップ条件の充足により前記エンジンを停止し、前記エンジン始動した後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うように構成される。処理(A)~(C)は、
(A) アイドリングストップ条件の充足によりエンジンを停止する処理と、
(B) 処理(A)によりエンジンが停止している時に、運転者によるクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、クランク軸連動型始動発電機によりエンジンを始動させる処理と、
(C) 少なくとも処理(B)によるエンジンの始動に続けて、マニュアル式変速機が非ニュートラル状態である状況下での運転者による車両発進のためのクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因してエンジンがストールした場合に、非ニュートラル状態での運転者によるクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、クランク軸連動型始動発電機によりエンジンを再始動させる処理と
である。
【0013】
前述のようにアイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両では、操作に割り当てられる手足がMT型4輪自動車の場合とは異なることに起因して、エンジン始動後に、発進時の操作によってエンジンがストールする場合がある。しかし、アイドリングストップにより停止したエンジンが始動した後、発進時の操作によりエンジンがストールしたとしても、クラッチレバーを握るという簡単な操作でエンジンを再始動できる。また、クラッチレバーを離す操作に起因してエンジンがストールする時、MT型鞍乗型車両のマニュアル式変速機は非ニュートラル状態の状況下にある。従って、離す操作の対象だったクラッチレバーを単に再び握って前の状態に戻す操作によって、非ニュートラル状態の状況下においてエンジンが再始動できる。マニュアル式変速機が非ニュートラル状態でエンジンを再始動できるため、運転者は一旦始動したエンジンがストールした状態から単にクラッチレバーを再び離す操作で変速操作を行わずに車両を発進させることができる。また、クランク軸連動型始動発電機によりエンジンを再始動するので、エンジンが再始動する時の音が小さい。従って、本発明のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップにより停止したエンジンが始動した後、運転者のクラッチレバーの操作に起因してエンジンがストールした時にエンジンの再始動を、静かに素早く簡単に行うことができる。これにより、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両において、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0014】
以上の目的を達成するために、本発明の一つの観点によれば、MT型鞍乗型車両は、次の構成を備える。
(1)MT型鞍乗型車両であって、
前記MT型鞍乗型車両は、
クランク軸を有するとともに、燃焼により生じる動力を、回転する前記クランク軸を介して出力するエンジンと、
前記エンジンから出力される動力を受け前記MT型鞍乗型車両を駆動する駆動輪と、
運転者の操作に応じて前記エンジンと前記駆動輪の間の変速比を、ニュートラル状態と非ニュートラル状態とを含む多段階に変更するマニュアル式変速機と、
前記運転者のクラッチ操作を受けるクラッチレバーと、
前記エンジンと前記マニュアル式変速機の間の動力伝達経路に設けられ、前記運転者による前記クラッチレバーへの操作に応じて、前記エンジンと前記マニュアル式変速機の間の動力伝達を断続するマニュアルクラッチと、
前記クランク軸と連動するようにクラッチを介さず前記クランク軸に接続され、前記エンジンの始動時に前記クランク軸を駆動することで前記エンジンを始動させ、前記エンジンの燃焼動作時に前記クランク軸に駆動され発電するクランク軸連動型始動発電機と、
下記(A)~(C)の一連の処理により、アイドリングストップ条件の充足により前記エンジンを停止して前記エンジン始動した後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うように構成され、前記処理(A)~(C)は、
(A) 前記アイドリングストップ条件の充足により前記エンジンを停止する処理と、
(B) 前記処理(A)により前記エンジンが停止している時に、前記運転者による前記クラッチレバーへの操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記クランク軸連動型始動発電機により前記エンジンを始動させる処理と、
(C) 少なくとも前記処理(B)による前記エンジンの始動に続けて、前記マニュアル式変速機が前記非ニュートラル状態である状況下での前記運転者による車両発進のための前記クラッチレバーへの操作に応じた前記マニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因して前記エンジンがストールした場合に、前記非ニュートラル状態での前記運転者による前記クラッチレバーへの操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記クランク軸連動型始動発電機によりクラッチを介さずに前記クランク軸を回転させ、これにより、前記エンジンを再始動させる処理と
である、制御装置と
を備える。
【0015】
(1)のMT型鞍乗型車両は、エンジンと、駆動輪と、マニュアル式変速機と、クラッチレバーと、マニュアルクラッチと、クランク軸連動型始動発電機と、制御装置とを備える。
エンジンは、クランク軸を有する。エンジンは、燃焼により生じる動力を、回転するクランク軸を介して出力する。
駆動輪は、エンジンから出力される動力を受けMT型鞍乗型車両を駆動する。
マニュアル式変速機は、運転者の操作に応じてエンジンと駆動輪の間の変速比を、ニュートラル状態と非ニュートラル状態とを含む多段階に変更する。
クラッチレバーは、運転者のクラッチ操作を受ける。クラッチレバーは、運転者の手で操作される。
マニュアルクラッチは、エンジンとマニュアル式変速機の間の動力伝達経路に設けられる。マニュアルクラッチは、運転者によるクラッチレバーへの操作に応じて、エンジンとマニュアル式変速機の間の動力伝達を断続する。
クランク軸連動型始動発電機は、クランク軸と連動するようにクラッチを介さずクランク軸に接続される。クランク軸連動型始動発電機とクランク軸との間でクラッチを介さず動力が伝達されることにより、クランク軸連動型始動発電機は、クランク軸と連動する。クランク軸連動型始動発電機は、エンジンの始動時にクランク軸を駆動することでエンジンを始動させ、エンジンの燃焼動作時にクランク軸に駆動され発電する。
【0016】
制御装置は、下記(A)~(C)の一連の処理により、エンジン始動後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うことができるように構成される。
処理(A)は、アイドリングストップ条件の充足によりエンジンを停止する処理である。
処理(B)は、処理(A)によりエンジンが停止している時に、運転者によるクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、クランク軸連動型始動発電機によりエンジンを始動させる処理である。
処理(C)は、少なくとも処理(B)によるエンジンの始動に続けて、非ニュートラル状態で前記車両発進のためのクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因してエンジンがストールした場合に、エンジンを再始動する処理である。より具体的には、処理(C)において、制御装置は、処理(B)によるエンジンの始動に続けて、少なくともマニュアル式変速機が非ニュートラル状態である状況下での運転者によるクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因してエンジンがストールした場合に、クランク軸連動型始動発電機によりエンジンを再始動させる。この場合、制御装置は、非ニュートラル状態での運転者によるクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、クランク軸連動型始動発電機によりクラッチを介さずにクランク軸を回転させ、これにより、エンジンを再始動させる。
【0017】
MT型鞍乗型車両は、例えば4輪自動車の場合とは異なる手足の操作に応じてエンジン始動及び車両発進を行なう。MT型鞍乗型車両のマニュアルクラッチは、運転者の手によるクラッチレバーの操作に応じて動作する。エンジン始動の動作の開始後、短時間でマニュアルクラッチを接続する操作が行われる場合がある。また、MT型鞍乗型車両は、例えば4輪自動車の場合とは異なる車両の姿勢の制御に関して小型軽量化が求められ、エンジンのクランク軸のイナーシャが小さい。また、始動発電機を有するMT型鞍乗型車両は、例えばスタータモータが発電機とは独立に設けられたMT型鞍乗型車両と比べ、始動の際の動作音が小さい。このため、運転者は、エンジンの始動の動作の完了を確認せずにマニュアルクラッチを接続する場合がある。
そのため、クランク軸連動型始動発電機を有するMT型鞍乗型車両では、始動したエンジンが、発進時のクラッチレバーの操作に起因してストールする場合がある。
MT型鞍乗型車両の発進のためのマニュアルクラッチの接続操作によってエンジンがストールした場合、マニュアル式変速機は非ニュートラル状態にある。ここで、(1)のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップの後の運転者の発進操作によりエンジンがストールした後、非ニュートラル状態のままクラッチレバーを握ってマニュアルクラッチを切断状態にする操作によりエンジンを始動させることができる。即ち、(1)のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップにより停止したエンジンが始動した後、発進のためのクラッチレバーの操作によりにエンジンがストールした場合も、単にクラッチレバーを戻す操作で変速操作を行わずエンジンを再始動できる。エンジンは、クランク軸連動型始動発電機の動作により再始動することで、ストールしたエンジンが比較的小さい音で再始動できる。従って、(1)のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップにより停止したエンジンが始動した後、発進のためのクラッチレバーの操作に起因してエンジンがストールした場合に、エンジンの再始動を静かに素早く簡単に行うことができる。これにより、(1)の構成によれば、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両において、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0018】
本発明の一つの観点によれば、MT型鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(2) (1)のMT型鞍乗型車両であって、
前記アイドリングストップ条件は、前記マニュアル式変速機がニュートラル状態であることをAND条件として含む。
【0019】
(2)のMT型鞍乗型車両では、マニュアル式変速機がニュートラル状態であるときにアイドリングストップによりエンジンが停止する。アイドリングストップ状態から車両発進までの間に変速機のニュートラル状態が操作に応じて非ニュートラル状態になる。このように、アイドリングストップ状態から発進するまでの間の操作が増大する状況でも、エンジンがストールした場合に、エンジンを再始動するための操作を簡単にすることができる。このため、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性を高めることができる。
【0020】
本発明の一つの観点によれば、MT型鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(3) (1)又は(2)のMT型鞍乗型車両であって、
前記処理(B)は、前記処理(A)により前記エンジンが停止している時に、前記マニュアル式変速機がニュートラル状態から前記非ニュートラル状態に遷移した後、前記運転者の操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記エンジンを始動する。
【0021】
(3)のMT型鞍乗型車両では、マニュアル式変速機のニュートラル状態においてエンジンが停止した後、マニュアル式変速機が非ニュートラル状態に遷移した後、運転者の操作に応じたマニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、エンジンを始動する。エンジンが停止している時にマニュアル式変速機の状態が非ニュートラル状態に遷移する場合、この後でエンジン始動のための操作が行なわれる可能性が高い。(3)のMT型鞍乗型車両では、エンジン始動のための操作が行なわれる可能性が高い状態でエンジンが始動できる。またエンジン始動時に非ニュートラル状態であることによって、エンジン始動後に非ニュートラル状態にする操作を省略することができる。従って、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両において、アイドリングストップ状態からエンジンが始動した後、発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0022】
本発明の一つの観点によれば、MT型鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(4) (1)のMT型鞍乗型車両であって、
前記アイドリングストップ条件は、前記マニュアル式変速機が前記非ニュートラル状態であることをAND条件として含む。
【0023】
(4)のMT型鞍乗型車両では、マニュアル式変速機が非ニュートラル状態であることがアイドリングストップ条件の一つとなる。これにより、(4)のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップによるエンジンの停止から、エンジンの始動及び発進までの間、非ニュートラル状態を維持することができる。このため、例えば上記の間、変速の操作を省略することができる。これにより、(4)のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0024】
本発明の一つの観点によれば、MT型鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(5) (1)又は(4)の何れか1つのMT型鞍乗型車両であって、
前記処理(B)は、前記マニュアル式変速機が前記非ニュートラル状態である状況下で、前記処理(A)により前記エンジンが停止している時に、前記運転者の操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、前記エンジンを始動する。
【0025】
(5)のMT型鞍乗型車両では、マニュアル式変速機が非ニュートラル状態である状況下で、処理(A)により前記エンジンが停止している時に、運転者の操作に応じた前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として、エンジンを始動する。(5)のMT型鞍乗型車両によれば、アイドリングストップによるエンジン停止の後に、マニュアル式変速機をニュートラル状態に変速することなく、エンジンを再始動することができる。これにより、(5)のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0026】
本発明の一つの観点によれば、MT型鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(6) (1)から(5)の何れか1つのMT型鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記マニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機として前記エンジンを再始動する回数を、再始動上限回数以下に制限する。
【0027】
MT型鞍乗型車両は、小型軽量であることが求められるため、例えば、クランク軸連動型始動発電機の電源であるバッテリについても、小型であることが求められる。(6)のMT型鞍乗型車両では、マニュアルクラッチが切断状態に遷移することを契機としてエンジンを再始動する回数が、再始動上限回数以下に制限される。これにより、(6)のMT型鞍乗型車両は、エンジンの再始動による電力の消費を抑制することができるため、小型のバッテリを採用することができる。また、(6)のMT型鞍乗型車両では、エンジンを再始動する回数が制限されるため、マニュアルクラッチの摩耗を抑制することができる。即ち、(6)のMT型鞍乗型車両では、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両において、小型のバッテリを採用しマニュアルクラッチの摩耗を抑制しつつ、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0028】
本発明の一つの観点によれば、MT型鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(7) (1)から(6)の何れか1つのMT型鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記アイドリングストップ条件の充足により前記エンジンを停止し、前記アイドリングストップ条件の充足よって前記エンジンが停止している場合に前記マニュアルクラッチが切断状態に遷移することを契機として前記エンジンを始動するまでの間、前記マニュアル式変速機がニュートラル状態又は前記非ニュートラル状態のいずれの状態であっても、前記エンジンの始動を行わない。
【0029】
(7)のMT型鞍乗型車両では、制御装置は、アイドリングストップ条件の充足によりエンジンを停止し、マニュアルクラッチが切断状態に遷移することを契機としてエンジンを始動するまでの間、エンジンの始動を行わない。(7)のMT型鞍乗型車両は、上述の状態において、マニュアル式変速機がニュートラル状態であるか非ニュートラル状態であるかに関わらず、エンジンの始動を行わない。これにより、(7)のMT型鞍乗型車両は、アイドリングストップ中における車体の挙動変化を抑制することができる。
【0030】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。本明細書にて使用される用語「及び/又は」は一つの、又は複数の関連した列挙された構成物のあらゆる又は全ての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」又は「有する(having)」及びその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/又はそれらのグループのうちの1つ又は複数を含むことができる。本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」及び/又はそれらの等価物は広く使用され、直接的及び間接的な取り付け、接続及び結合の両方を包含する。更に、「接続された」及び「結合された」は、物理的又は機械的な接続又は結合に限定されず、直接的又は間接的な電気的接続又は結合を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術及び工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、又は、場合によっては全てと共に使用することもできる。従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせを全て繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明及び請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
【0031】
本明細書では、新しいMT型鞍乗型車両について説明する。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細無しに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0032】
MT型鞍乗型車両は、マニュアル式変速機を有する鞍乗型車両である。鞍乗型車両(straddle vehicle)とは、運転者がサドルに跨って着座する形式のビークルをいう。鞍乗型車両としては、例えば、モペット型、オフロード型、オンロード型の自動二輪車が挙げられる。また、MT型鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されず、例えば、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよい。自動三輪車は、2つの前輪と1つの後輪とを備えていてもよく、1つの前輪と2つの後輪とを備えていてもよい。MT型鞍乗型車両の駆動輪は、後輪であってもよく、前輪であってもよい。また、鞍乗型車両の駆動輪は、後輪及び前輪の双方であってもよい。また、MT型鞍乗型車両は、リーン姿勢で旋回可能に構成されていることが好ましい。リーン姿勢で旋回可能に構成されたMT型鞍乗型車両は、カーブの中心に傾いた姿勢で旋回するように構成される。これにより、リーン姿勢で旋回可能に構成されたMT型鞍乗型車両は、旋回時にビークルに加わる遠心力に対抗する。リーン姿勢で旋回可能に構成されたMT型鞍乗型車両では、軽快性が求められるため、発進の操作に対する進行の応答性が重要視される。MT型鞍乗型車両では、例えば、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に、流体の力学的作用を利用したトルクコンバータが設けられていない。MT型鞍乗型車両では、例えば、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路に遠心クラッチが設けられていない。
【0033】
エンジンは、例えば、高負荷領域と低負荷領域とを有する。エンジンは、例えば、4ストロークエンジンである。4ストロークエンジンは、4ストロークの間に、高負荷領域と低負荷領域とを有する。高負荷領域と低負荷領域とを有する4ストロークエンジンは、例えば、単気筒エンジンである。高負荷領域と低負荷領域とを有する4ストロークエンジンは、例えば、2気筒エンジン、不等間隔燃焼型3気筒エンジン、又は、不等間隔燃焼型4気筒エンジンである。
高負荷領域と低負荷領域とを有する4ストロークエンジンでは、低い回転速度における回転の変動が、他のタイプのエンジンと比べ大きい。高負荷領域とは、エンジンの1燃焼サイクルのうち、負荷トルクが1燃焼サイクルにおける負荷トルクの平均値よりも高い領域をいう。低負荷領域とは、1燃焼サイクルにおける高負荷領域以外の領域をいう。クランク軸の回転角度を基準として見ると、エンジンでの低負荷領域は、例えば、高負荷領域より広い。圧縮行程は、高負荷領域と重なりを有する。
エンジンは、特に限定されず、例えば、高負荷領域と低負荷領域とを有さないエンジンでもよい。
【0034】
アイドリングストップは、所定のアイドリングストップの充足によりエンジンを停止する機能である。アイドリングストップ条件とは、運転者がMT型鞍乗型車両の走行を停止させている際又は停止させる予定の際に行ういくつかの操作及びこれらの操作によるMT型鞍乗型車両の状態の1又は複数の組み合わせである。所定のアイドリングストップ条件として、メインスイッチ(エンジンキー)をOFFにすること以外の条件が設定される。
【0035】
クランク軸連動型始動発電機は、エンジンを始動する始動モータとして機能する。また、クランク軸連動型始動発電機は、エンジンによって駆動され発電する始動発電機である。クランク軸連動型始動発電機は、例えば永久磁石式の始動発電機である。クランク軸連動型始動発電機は、例えば永久磁石を使用しない始動発電機であってもよい。永久磁石式のクランク軸連動型始動発電機は、例えば、ブラシレスモータである。ブラシレスモータは、整流子を有さないモータである。クランク軸連動型始動発電機は、例えばクランク軸と常時連動する。具体的には、クランク軸連動型始動発電機は、例えば、ワンウェイクラッチといったクラッチを介さずに、クランク軸と直結される。但し、クランク軸連動型始動発電機は、ギア又はベルトを介してクランク軸と接続されていてもよい。
【0036】
マニュアルクラッチは、運転者によるクラッチレバーの操作に応じて動作するように構成されている。マニュアルクラッチは、車両の発進時及び変速段の変更の両方の場面で、接続又は切断の状態が変化するように動作するクラッチである。マニュアルクラッチとしては、湿式又は乾式の多板又は単板のマニュアルクラッチが挙げられる。操作に応じて動作しない遠心クラッチは、本発明のマニュアルクラッチに該当しない。マニュアルクラッチを接続状態へ遷移するためのクラッチレバーの操作は、クラッチレバーから手を離す操作である。クラッチレバーから手を離す方向への操作は、クラッチレバーから手を離す操作に含まれる。
【0037】
動力伝達経路は、エンジンのクランク軸から駆動輪までの、エンジンの動力を伝える経路における機械的な要素の総称である。動力伝達経路は、駆動軸、被駆動軸、駆動ギア、被駆動ギア、チェーンスプロケット、チェーン、駆動ベルトの少なくとも何れかを含む。例えば、動力伝達経路は、遠心クラッチを介在することなくエンジンから駆動輪に動力を伝達する。エンジンのストールは、遠心クラッチを有さないMT型鞍乗型車両において発生しやすい。
【0038】
マニュアル式変速機は、運転者の操作により、変速比を変更する。マニュアル式変速機は、シフトペダルの操作に応じて変速比を多段階に変更するように構成されている。マニュアル式変速機は、ニュートラル状態を含む複数のギア段を有する。つまり、マニュアル式変速機は、ニュートラル状態を含む多段階に変速比を変更することができる。マニュアル式変速機は、例えば、ニュートラル状態と非ニュートラル状態とを有する。非ニュートラル状態は、3段以上の段階を含んでいてもよい。ニュートラル状態は、入力軸から出力軸に動力が伝達されない状態である。マニュアル式変速機は、ニュートラル状態でない時は、入力軸から入力された回転動力を、シフトペダルの操作に応じた変速比で変更して、出力軸に伝達する。無段変速機は、マニュアル式変速機に該当しない。
【0039】
制御装置は、エンジンの燃焼動作を制御する。また、制御装置は、始動発電機の駆動及び発電動作を制御する。制御装置は、例えば複数の装置が互いに離れた位置に構成されてもよく、また、一体に構成されていてもよい。制御装置は、プログラムを実行するプロセッサを有していてもよく、また、電子回路でもよい。
【0040】
制御装置の一連の処理(A)~(C)について、次のことが言える。(A)~(C)の一連の処理は、エンジンの始動後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うことができるように構成されている。処理(C)におけるマニュアル式変速機が非ニュートラル状態である状況は、処理(B)においてエンジンが始動した後に開始してもよく、また、エンジンが始動する前に開始してもよい。またさらに、処理(C)におけるマニュアル式変速機が非ニュートラル状態である状況は、処理(A)においてエンジンが停止する前に開始してもよい。制御装置における処理(C)は、例えば処理(B)によるエンジンの始動、即ちアイドリングストップによるエンジンの停止の後のエンジンの始動に続けて、マニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因してエンジンがストールした場合に、エンジンを再始動する処理である。
ただし、制御装置は、特に限定されず、例えば処理(B)によらないエンジンの始動に続けて、マニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因してエンジンがストールした場合に、エンジンを再始動する処理を実行してもよい。また、処理(B)によるエンジンの始動に続けて、マニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因してエンジンがストールした場合に、制御装置は、運転者によるクラッチレバーへの操作に応じたマニュアルクラッチの切断状態への遷移を契機としたエンジンの再始動をする場合としない場合とがあってもよい。上記の再始動を行なわない時、制御装置は、例えばMT型鞍乗型車両に備えられたスタータスイッチの操作に基づいて、クランク軸連動型始動発電機によりエンジンを再始動させてもよい。
また、処理(B)における、エンジンの始動に続けてマニュアルクラッチの接続状態への遷移に起因してエンジンがストールする状況は、上記エンジンの始動によって、エンジンが動作中であること、且つ、その始動後に未だ走行していない状況である。また、「前記処理(B)による前記エンジンの始動に続けて」における「エンジンの始動」は、例えば、「エンジンの始動の完了」であってもよい。また、「前記エンジン始動後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシスト」は、エンジン始動できない場合におけるエンジン始動のためのアシストとは異なる。
【0041】
再始動上限回数は、例えば、予め定められた値である。再始動上限回数は、特に限定されず、例えば、バッテリの充電状態等に応じて変化してもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両において、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めたMT型鞍乗型車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】(a)は、第1実施形態に係るMT型鞍乗型車両を模式的に示す左側面図である。(b)は、(a)に示すMT型鞍乗型車両の一部を模式的に示す右側面図である。(c)は、(a)に示したMT型鞍乗型車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。(d)は、比較例であるMT型4輪自動車の構成を示す左側面図である。(e)は、(d)に示すMT型4輪自動車のペダル部分を拡大して示す図である。
図2】本発明の第2実施形態に係るMT型鞍乗型車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図3】本発明の第3実施形態に係るMT型鞍乗型車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図4】本発明の第4実施形態に係るMT型鞍乗型車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図5】本発明の第5実施形態に係るMT型鞍乗型車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図6】本発明の第6実施形態に係るMT型鞍乗型車両の構成を示す図である。(a)は、MT型鞍乗型車両を模式的に示す左側面図である。(b)は、MT型鞍乗型車両の一部を模式的に示す右側面図である。(c)は、MT型鞍乗型車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図7】本発明の第7実施形態に係るMT型鞍乗型車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を、図面を参照しつつ説明する。
【0045】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るMT型鞍乗型車両1の構成を比較例と対比しつつ示す図である。
図1(a)は、MT型鞍乗型車両1を模式的に示す左側面図である。図1(b)は、MT型鞍乗型車両1の一部を模式的に示す右側面図である。図1(c)は、MT型鞍乗型車両1の制御装置の動作を示すフローチャートである。図1(d)は、比較例であるMT型4輪自動車100の構成を示す左側面図である。図1(e)は、MT型4輪自動車100のペダル部分を拡大して示す図である。
【0046】
MT型鞍乗型車両1は、図1(a)に示すように、エンジン10と、駆動輪21と、マニュアル式変速機30と、クラッチレバー36と、マニュアルクラッチ35と、始動発電機40とを備える。
エンジン10は、クランク軸15を有する。エンジン10は、燃焼により生じる動力を、回転するクランク軸15を介して出力する。
駆動輪21は、エンジン10から出力される動力を受け、MT型鞍乗型車両1を駆動する。
マニュアル式変速機30は、MT型鞍乗型車両1の運転者の操作に応じてエンジン10と駆動輪21の間の変速比を、ニュートラル状態と非ニュートラル状態とを含む多段階に変更する。
クラッチレバー36は、MT型鞍乗型車両1の運転者のマニュアルクラッチ35のクラッチ操作を受ける。クラッチレバー36は、MT型鞍乗型車両1の運転者の手で操作される。
マニュアルクラッチ35は、エンジン10とマニュアル式変速機30の間の動力伝達経路31に設けられる。マニュアルクラッチ35は、運転者によるクラッチレバー36への操作に応じて、エンジン10とマニュアル式変速機30の間の動力伝達を断続する。動力伝達経路31は、エンジン10から駆動輪21に遠心クラッチを介在することなく動力を伝達する。
始動発電機40は、クランク軸15と連動するクランク軸連動型始動発電機である。始動発電機40は、クランク軸15との間でクラッチを介さず動力が伝達されるようにクランク軸15に接続される。始動発電機40は、エンジン10の始動時にクランク軸15を駆動することでエンジン10を始動させ、エンジン10の燃焼動作時にクランク軸15に駆動され発電する。
また、MT型鞍乗型車両1は、図1(b)に示すように、アクセルグリップ16を備える。アクセルグリップ16は、運転者によるアクセル操作を受ける。また、MT型鞍乗型車両1は、図1(a)の破線部として示すように、ブレーキペダル22を備える。ブレーキペダル22は、ブレーキ操作を受け、駆動輪21のブレーキを動作させる。
【0047】
また、MT型鞍乗型車両1は、制御装置51を備える。制御装置51は、エンジン10、マニュアル式変速機30のギアポジションセンサ301、クラッチレバー36のクラッチレバー位置センサ361、及び始動発電機40から信号を受信する。制御装置51は、受信した信号を基に、エンジン10の燃焼動作を制御し、また、ドライバ45を介して始動発電機40の動作を制御する。
制御装置51は、下記(A)~(C)の一連の処理により、エンジン10の始動後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うように構成される。処理(A)~(C)を、図1(c)のステップS101~S107に示す。
【0048】
処理(A)は、アイドリングストップ条件の充足によりエンジン10を停止する処理である。制御装置51は、ステップS101でアイドリングストップ条件が充足したと判断すると、ステップS102で、エンジン10の燃焼動作を停止する。
【0049】
処理(B)は、処理(A)によりエンジン10が停止している時に、運転者によるクラッチレバー36への操作に応じたマニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を契機として、始動発電機40によりエンジン10を始動させる。制御装置51は、ステップS103においてクラッチレバー位置センサ361からマニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を表わす信号を受信すると、ステップS104で、ドライバ45を介して始動発電機40にエンジン10を始動させる。
【0050】
処理(C)は、処理(B)によるエンジン10の始動に続けて、非ニュートラル状態で車両発進のためのマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因してエンジン10がストールした場合に、始動発電機40によりエンジン10を再始動させる処理である。より詳細には、制御装置51は、処理(B)によるエンジン10の始動に続けて、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下で、マニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因してエンジン10がストールした場合に、始動発電機40によりエンジン10を再始動させる。この場合、制御装置51は、非ニュートラル状態での運転者によるクラッチレバー36への操作に応じたマニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を契機として、始動発電機40によりエンジン10を再始動させる。
処理(B)によるエンジン10の始動に続けて、車両発進のための操作に起因したエンジンストールを検出した場合に、処理(B)における操作と同一の操作によりエンジン10を再始動することができる。
【0051】
制御装置51は、ステップS105でマニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下での運転者によるクラッチレバー36への操作に応じたマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因したエンジン10のストールを検出する。制御装置51は、ステップS105において、例えば、以下(i)~(iii)の条件を満たした場合にエンジン10がストールしたと判断する。ここで、(i)~(iii)の条件は、下の通りである。
(i)制御装置51が、ギアポジションセンサ301からマニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である旨の信号を受信している。
(ii)制御装置51が、クラッチレバー位置センサ361からマニュアルクラッチ35の接続状態へ遷移する旨の信号を受信する。
(iii)制御装置51が、エンジン10からエンジン10の燃焼動作が停止した旨の信号を受信する。
エンジン10は、例えば、クランク軸15の回転が停止した場合に燃焼動作の停止を表わす信号を出力する。なお、燃焼動作の停止を表わす信号は、例えば始動発電機40が出力してもよい。
制御装置51は、ステップS105でエンジン10のストールを検出した後、ステップS106において非ニュートラル状態でマニュアルクラッチ35が切断状態へと遷移した旨の信号を受信する。この信号の受信に応じて、制御装置51は、ステップS107で始動発電機40にエンジン10を再始動させる。
【0052】
次に、本実施形態のMT型鞍乗型車両1について、図1(d)及び図1(e)に示すアイドリングストップを行うMT型4輪自動車100と比較して説明する。
例えば、アイドリングストップを行うMT型4輪自動車100において、アイドリングストップによりエンジン110が停止した後、クラッチペダル136を踏み込む操作を行うことによりエンジン110を始動する構成が考えられる。このようなMT型4輪自動車100では、発進操作は以下のように行われる。
アイドリングストップによりエンジン110が停止した後、発進時に運転者はクラッチペダル136を踏み込むことによりエンジン110を始動する。次に、運転者は、エンジン110の回転速度を上げるために、右足をブレーキペダル122からアクセルペダル116に踏みかえる。この間において、運転者の左足は、クラッチペダル136を踏み込んでいる。次に、運転者は、アクセルペダル116を踏み込むと同時に左足をクラッチペダル136から離す方向に操作して半クラッチ状態を作り出す。このため、クラッチペダル136の踏み込みに応じてエンジン110が始動してから足をクラッチペダル136から離れる方向に操作するまでにタイムラグが生じる。このタイムラグの間、始動したエンジン110の回転速度が上昇する。
【0053】
これに対し、MT型鞍乗型車両1の運転者は、アクセルグリップ16の操作、クラッチレバー36の操作、及びブレーキペダル22の操作を短時間又は同時に行うことができる。従って、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両1は、エンジン10の始動からマニュアルクラッチ35を接続するまでの時間が短い場合がある。即ち、MT型鞍乗型車両1の運転者はエンジン10の始動後、短時間でマニュアルクラッチ35を接続する操作を行う場合がある。
【0054】
また、MT型鞍乗型車両1は、例えば自動車と比べて小型軽量であり、MT型鞍乗型車両1に搭載されるエンジン10のクランク軸15のイナーシャも小さい。そのため、エンジン10のマニュアルクラッチ35が接続状態になるとエンジン10がストールする場合がある。
【0055】
また、例えば発電機とは独立に設けられたスタータモータを有するMT型鞍乗型車両のエンジン始動では、スタータモータが、ワンウェイクラッチや減速ギア等の動力伝達部材を介してクランク軸を駆動する。従って、このようなMT型鞍乗型車両は、エンジン始動の際にワンウェイクラッチやギア等の動作音を生じる。
これに対し、図1(a)に示す始動発電機40を有するMT型鞍乗型車両1では、ワンウェイクラッチや減速ギア等を介さず始動発電機40からクランク軸15に動力が伝達される。従って、始動発電機40を有するMT型鞍乗型車両1は、スタータモータが発電機とは独立に設けられたMT型鞍乗型車両と比べ、始動の際の音が小さい。このため、運転者はエンジン10の始動状態を認識しにくい。この場合、運転者は、エンジン10の始動の動作の完了を確認せずに、エンジン10の始動開始後直ぐにマニュアルクラッチ35を接続する操作を行なう場合がある。そのため、始動発電機40を有するMT型鞍乗型車両1では、発進時の操作においてエンジン10がストールする場合がある。
【0056】
MT型鞍乗型車両1の発進のためのマニュアルクラッチ35の接続操作によってエンジン10がストールした場合、マニュアル式変速機30は非ニュートラル状態にある。この時、MT型鞍乗型車両1の運転者は、非ニュートラル状態のままクラッチレバー36を握ってマニュアルクラッチ35を切断状態にする操作によりエンジン10を始動させることができる。即ち、MT型鞍乗型車両1は、アイドリングストップにより停止したエンジン10が始動した後、発進のための操作に起因してエンジン10がストールした場合も、単にクラッチレバー36を握る操作でエンジン10を再始動できる。また、MT型鞍乗型車両1では、クラッチレバー36を離す操作のときにエンジン10がストールする場合がある。従って、離す操作の対象だったクラッチレバー36を再び握って前の状態に戻す操作で、非ニュートラル状態の状況下において変速操作を行わずにエンジン10が再始動できる。
また、始動発電機40は、ワンウェイクラッチや減速ギア等を介さずクランク軸15に動力を伝達する。従って、再始動の際の音が小さい。
このように、MT型鞍乗型車両1では、アイドリングストップにより停止したエンジン10が始動した後、発進操作を行なう時にエンジン10がストールした場合に、エンジン10を再始動するための操作を静かに素早く簡単に行うことができる。これにより、MT型鞍乗型車両1において、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0057】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係るMT型鞍乗型車両2の制御装置52の動作を示すフローチャートである。本実施形態において第1実施形態と同一の構成には、図1に示すMT型鞍乗型車両1と同じ符号を付する。
【0058】
本実施形態のMT型鞍乗型車両2は、制御装置52を備える。制御装置52は、アイドリングストップ条件が充足下場合にエンジン10を停止する(ステップS101-1及びS101-2)。本実施形態のアイドリングストップ条件は、マニュアル式変速機30がニュートラル状態であることを含む。即ち、制御装置52は、マニュアル式変速機30がニュートラル状態であるとき(ステップS101-1)に、マニュアル式変速機30の状態以外のアイドリングストップ条件を充足すると(ステップS101-2)、エンジン10を停止する(ステップS102)。
【0059】
本実施形態のMT型鞍乗型車両2では、アイドリングストップ状態から発進するまでの間にマニュアル式変速機30が、操作に応じて非ニュートラル状態になる。MT型鞍乗型車両2は、アイドリングストップ状態から発進するまでの間の操作が増大する状況でも、エンジン10がストールした場合に、エンジン10を再始動するための操作を簡単にすることができる。このため、MT型鞍乗型車両2は、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性を高めることができる。
【0060】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態について説明する。図3は、本発明の第3実施形態に係るMT型鞍乗型車両3の制御装置53の動作を示すフローチャートである。本実施形態において第1実施形態と同一の構成には、図1に示すMT型鞍乗型車両1と同じ符号を付する。また、本実施形態は第2実施形態と組み合わせてもよい。
【0061】
本実施形態のMT型鞍乗型車両3は、制御装置53を備える。制御装置53は、下記(A)~(C)の一連の処理により、エンジン10の始動後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うように構成される。(A)~(C)の一連の処理を、図3のステップS101~S107及びS301に示す。
【0062】
処理(A)は、アイドリングストップ条件の充足によりエンジン10を停止する処理である。制御装置53は、ステップS101でアイドリングストップ条件が充足したと判断すると、ステップS102で、エンジン10の燃焼動作を停止する。
【0063】
処理(B)は、処理(A)によりエンジン10が停止している時に、マニュアル式変速機30がニュートラル状態から非ニュートラル状態に遷移した後、マニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を契機として、始動発電機40によりエンジン10を始動させる処理である。制御装置53は、ステップS301において、マニュアル式変速機30のニュートラル状態から非ニュートラル状態への遷移を表わす信号を、ギアポジションセンサ301から受信する。その後、ステップS103においてクラッチレバー位置センサ361からマニュアルクラッチ35が切断状態へと遷移した旨の信号を受信すると、制御装置53は、ステップS104で、ドライバ45を介して始動発電機40にエンジン10を始動させる。
【0064】
処理(C)は、処理(B)によるエンジン10の始動に続けて、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下でマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因してエンジン10がストールした場合に、始動発電機40によりエンジン10を再始動させる処理である。制御装置53は、ステップS105でマニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下でマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因したエンジン10のストールを検出する。制御装置53は、ステップS105でエンジン10のストールを検出した後、ステップS106において非ニュートラル状態でマニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を表わす信号を受信する。信号の受信に応じて、制御装置53は、ステップS107で始動発電機40にエンジン10を再始動させる。なお、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下でマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因したエンジン10のストールは、第1実施形態と同一の条件により判断される。
【0065】
MT型鞍乗型車両3では、アイドリングストップによりエンジン10が停止し、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態に遷移した後、マニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を契機として、エンジン10を始動する。エンジン10が停止している時にマニュアル式変速機30が非ニュートラル状態に遷移する場合、この後でエンジン10の始動のための操作が行なわれる可能性が高い。MT型鞍乗型車両3は、エンジン10の始動のための操作が行なわれる可能性が高い状態でエンジン10を始動できる。またエンジン10の始動時に非ニュートラル状態であるため、エンジン10の始動後、非ニュートラル状態にする操作を省略できる。従って、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両3は、アイドリングストップ状態からエンジン10が始動した後、発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0066】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態について説明する。図4は、本発明の第4実施形態に係るMT型鞍乗型車両4の制御装置54の動作を示すフローチャートである。本実施形態において第1実施形態と同一の構成には、図1に示すMT型鞍乗型車両1と同じ符号を付する。
【0067】
本実施形態のMT型鞍乗型車両4は、制御装置54を備える。制御装置54は、アイドリングストップ条件の充足によりエンジン10を停止する(ステップS101-3及びS101-4)。本実施形態において、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態であることがアイドリングストップ条件に含まれる。即ち、MT型鞍乗型車両4の制御装置54は、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態であるとき(ステップS101-3)に、マニュアル式変速機30の状態以外のアイドリングストップ条件を充足すれば(ステップS101-4)、エンジン10を停止する(ステップS102)。
【0068】
MT型鞍乗型車両4では、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態であることがアイドリングストップ条件の一つとなる。これにより、MT型鞍乗型車両4は、アイドリングストップによるエンジン10の停止から、エンジン10の始動及び発進までの間、非ニュートラル状態を維持することができる。このため、例えばエンジン10の停止から発進までの間における変速の操作を省略できる。これにより、MT型鞍乗型車両4は、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0069】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態について説明する。図5は、本発明の第5実施形態に係るMT型鞍乗型車両5の制御装置55の動作を示すフローチャートである。本実施形態において第1実施形態と同一の構成には、図1に示すMT型鞍乗型車両1と同じ符号を付する。また、本実施形態は第2実施形態から第4実施形態の何れの実施形態と組み合わせてもよい。
【0070】
本実施形態のMT型鞍乗型車両5は、制御装置55を備える。制御装置55は、下記(A)~(C)の一連の処理により、エンジン10の始動後に車両発進に至らない場合における車両発進のためのアシストを行うように構成される。(A)~(C)の一連の処理を、図5のステップS101~S107及びS501に示す。
【0071】
処理(A)は、アイドリングストップ条件の充足によりエンジン10を停止する処理である。制御装置55は、ステップS101でアイドリングストップ条件が充足したと判断すると、ステップS102で、エンジン10の燃焼動作を停止する。
処理(B)は、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下で、処理(A)によりエンジン10が停止している時に、マニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を契機として、始動発電機40によりエンジン10を始動させる処理である。制御装置55は、ステップS501において、ギアポジションセンサ301からマニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である旨の信号を受信する。その後、ステップS103においてクラッチレバー位置センサ361からマニュアルクラッチ35が切断状態へと遷移した旨の信号を受信すると、制御装置55は、ステップS104で始動発電機40にエンジン10を始動させる。
【0072】
処理(C)は、少なくとも処理(B)によるエンジン10の始動に続けて、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下でのマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因してエンジン10がストールした場合に、始動発電機40によりエンジン10を再始動させる処理である。制御装置55は、ステップS105でマニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下でのマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因したエンジン10のストールを検出する。制御装置55は、ステップS105でエンジン10のストールを検出した後、ステップS106において非ニュートラル状態で、マニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を表わす信号を受信する。この信号の受信に応じて、制御装置55は、ステップS107で始動発電機40にエンジン10を再始動させる。マニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因したエンジン10のストールは、第1実施形態と同一の条件により判断される。
【0073】
MT型鞍乗型車両5では、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下で、処理(A)によりエンジン10が停止している時に、運転者の操作に応じたマニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を契機として、エンジン10を始動する。MT型鞍乗型車両5によれば、アイドリングストップによるエンジン10の停止の後に、マニュアル式変速機30をニュートラル状態にすることなく、エンジン10を再始動することができる。これにより、アイドリングストップを行うMT型鞍乗型車両5において、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0074】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態について説明する。図6は、本発明の第6実施形態に係るMT型鞍乗型車両6の構成を示す図である。ここで、図6(a)は、MT型鞍乗型車両6を模式的に示す左側面図である。図6(b)は、MT型鞍乗型車両6の一部を模式的に示す右側面図である。図6(c)は、MT型鞍乗型車両6の制御装置56の動作を示すフローチャートである。本実施形態において第1実施形態と同一の構成には、図1に示すMT型鞍乗型車両1と同じ符号を付する。また、本実施形態は第2実施形態から第5実施形態の何れの実施形態と組み合わせてもよい。
【0075】
本実施形態のMT型鞍乗型車両6は、始動発電機40に電力を供給するバッテリ42を備える。本実施形態のMT型鞍乗型車両6の制御装置56は、マニュアルクラッチ35の切断状態への遷移を契機としてエンジン10を再始動する回数を、再始動上限回数以下に制限する。制御装置56は、第1実施形態の処理(C)、即ちマニュアルクラッチ35の操作を契機とする再始動を行った回数Nをカウントする。処理(C)を行った回数が再始動上限回数Nmaxを超えたと判断すると、制御装置56は、マニュアルクラッチ35の操作を契機とするエンジン10の再始動の処理を停止する。この後、運転者が、車両発進のための操作に起因してエンジン10をストールさせた場合は、エンジン10の始動は、スタータスイッチ41(図6(b)参照)により行う。また、エンジン10の始動は、図示しないキックスタータにより行ってもよい。
【0076】
詳細には、図6(c)に示すように、制御装置56は、第1実施形態と同様の処理(A)~処理(C)(ステップS101~107)を行った後、ステップS601で、エンジン10を再始動した回数Nをカウントする。次に、制御装置56がステップS602でエンジン再始動回数Nが再始動上限回数Nmaxを超えたと判断した場合(ステップS602でYes)、動作はステップS603に進む。この場合、マニュアル式変速機30が非ニュートラル状態である状況下で、マニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因してエンジン10をストールさせた場合に、マニュアルクラッチ35の切断操作によりエンジン10を再始動することができなくなる。運転者は、マニュアルクラッチ35の切断状態への遷移以外の方法でエンジン10を再始動する。例えば、制御装置56は、ステップS603においてマニュアルクラッチ35の接続状態への遷移に起因したエンジン10のストールを検出した後、ステップS604において、スタータスイッチ41のON信号を受信する。スタータスイッチ41のON信号を受信すると、制御装置56は、ステップS605において、始動発電機40によりエンジン10を再始動させる。制御装置56が、エンジン再始動回数Nが再始動上限回数Nmaxを超えていないと判断した場合(ステップS602においてNo)、動作は、ステップS105に戻る。
【0077】
MT型鞍乗型車両6は、小型軽量であることが求められるため、MT型鞍乗型車両6に搭載するバッテリ42についても、小型であることが求められる。本実施形態のMT型鞍乗型車両6では、マニュアルクラッチ35が切断状態に遷移することを契機としてエンジン10を再始動する回数が再始動上限回数Nmaxに制限される。これにより、MT型鞍乗型車両6は、エンジン10の再始動による電力の消費を抑制することができるため、小型のバッテリ42を採用することができる。また、MT型鞍乗型車両6では、クラッチ操作に起因してエンジン10を再始動する回数が制限される。このため、マニュアルクラッチ35の摩耗を抑制することができる。即ち、本実施形態のMT型鞍乗型車両6によれば、アイドリングストップを行う車両において、小型のバッテリ42を採用しマニュアルクラッチ35の摩耗を抑制しつつ、アイドリングストップ状態から発進するための操作の利便性をより高めることができる。
【0078】
[第7実施形態]
本発明の第7実施形態について説明する。図7は、本発明の第7実施形態に係るMT型鞍乗型車両7の制御装置57の動作を示すフローチャートである。本実施形態では、制御装置57が、図7に示す動作を実施するように構成される。なお、本実施形態の制御装置57以外の要素は、第1実施形態と同一の構成である。また、本実施形態は第2実施形態から第6実施形態の何れの実施形態と組み合わせてもよい。
【0079】
本実施形態のMT型鞍乗型車両7の制御装置57は、アイドリングストップ条件の充足によりエンジン10を停止する(ステップS101)。制御装置57は、アイドリングストップ条件の充足よってエンジン10が停止している場合にマニュアルクラッチ35が切断状態に遷移することを契機としてエンジン10を始動する(例えばステップS102及びS103)までの間、エンジン10の始動を行わない。即ち、制御装置57は、ステップS102において、エンジン10の燃焼動作を停止した後、エンジン10の始動を禁止する(ステップS102-2)。この時、制御装置57は、マニュアル式変速機30がニュートラル状態又は非ニュートラル状態のいずれの状態であっても、エンジン10の始動を行わない。これにより、本実施形態のMT型鞍乗型車両7は、アイドリングストップ中における車体の挙動変化を抑制することができる。始動の禁止の解除条件は、マニュアルクラッチ35が切断状態へと遷移することである。即ち、ステップS102-2の後、ステップS103においてクラッチレバー位置センサ361からマニュアルクラッチ35が切断状態へと遷移した旨の信号を受信すると、ステップS103-2において、エンジン10の始動の禁止は解除される。
【符号の説明】
【0080】
1~7 MT型鞍乗型車両
10 エンジン
15 クランク軸
21 駆動輪
30 マニュアル式変速機
31 動力伝達経路
35 マニュアルクラッチ
36 クラッチレバー
40 始動発電機
51~57 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7