(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】一つ以上の検出促進強化を備える被検物質センサ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1473 20060101AFI20241001BHJP
A61B 5/1486 20060101ALI20241001BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20241001BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61B5/1473
A61B5/1486
G01N27/30 A
G01N27/416 338
(21)【出願番号】P 2022576114
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 US2021032180
(87)【国際公開番号】W WO2021252124
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-02-02
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500211047
【氏名又は名称】アボット ダイアベティス ケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT DIABETES CARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ゼンホァ
(72)【発明者】
【氏名】フォックス、ケイド ブライリー
(72)【発明者】
【氏名】マキャンレス、ジョナサン ディ.
(72)【発明者】
【氏名】フェルドマン、ベンジャミン ジェイ.
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506910(JP,A)
【文献】特表2012-519038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0072782(US,A1)
【文献】特開2013-121521(JP,A)
【文献】特表2005-502403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
G01N 27/30
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板を貫通する一つ以上の開口部であって、各開口部が前記誘電体基板の第1の面と第2の面との間に延在する炭素導体ピラーで充填される、前記一つ以上の開口部と、
前記誘電体基板の前記第1の面上に配置され各炭素導体ピラーと直接接触する炭素導体コーティングと、
前記炭素導体コーティング上に配置される誘電体コーティングと、
を備える炭素作用電極と、
前記誘電体基板の前記第2の面上に位置し、前記炭素導体ピラーの各々と電気的に導通し、被検物質に応答する一つ以上の活性領域と、
少なくとも前記一つ以上の活性領域を覆う物質移動制限膜と、を備える被検物質センサ。
【請求項2】
前記一つ以上の開口部は、前記誘電体基板を貫通する複数のビアを備える、請求項1に記載の被検物質センサ。
【請求項3】
各ビアは、その中に配置された前記炭素導体ピラー上に直接配置された活性領域を有する、請求項2に記載の被検物質センサ。
【請求項4】
前記誘電体基板の前記第2の面上に配置され、前記複数のビアを覆う炭素導体ストリップをさらに備え、前記一つ以上の活性領域は、前記炭素導体ストリップ上に直接配置される、請求項2に記載の被検物質センサ。
【請求項5】
前記一つ以上の開口部は、前記誘電体基板を貫通するスロットを備える、請求項1に記載の被検物質センサ。
【請求項6】
前記スロット内に配置された前記炭素導体ピラー上に複数の活性領域が直接配置される、請求項5に記載の被検物質センサ。
【請求項7】
前記一つ以上の活性領域は、一つ以上の被検物質応答性酵素を備える、請求項1に記載の被検物質センサ。
【請求項8】
前記物質移動制限膜は、光重合物質移動制限膜である、請求項1に記載の被検物質センサ。
【請求項9】
前記光重合物質移動制限膜は、前記一つ以上の活性領域上に選択的に形成される、請求項8に記載の被検物質センサ。
【請求項10】
前記物質移動制限膜は、アクリレートポリマー又はコポリマー、チオール-エンコポリマー、又はこれらの任意の組み合わせを備える、請求項9に記載の被検物質センサ。
【請求項11】
前記炭素作用電極は、組織内に挿入されるように構成されたセンサ尾部上に配置される、請求項1に記載の被検物質センサ。
【請求項12】
被検物質センサを形成するための方法であって、
誘電体基板を貫通し第1の面と第2の面との間に延在する一つ以上の開口部を有する前記誘電体基板を提供することと、
前記一つ以上の開口部を炭素導体で充填して炭素導体ピラーをその中に形成し、前記誘電体基板の前記第1の面上に炭素導体コーティングを堆積させ、前記炭素導体コーティングを各炭素導体ピラーに直接接触させることと、
前記炭素導体コーティング上に誘電体コーティングを堆積させることと、
前記一つ以上の開口部内の前記炭素導体ピラーと電気的に導通し、被検物質に応答する一つ以上の活性領域を前記誘電体基板の前記第2の面上に形成することと、
少なくとも前記一つ以上の活性領域上に物質移動制限膜を堆積させることと、を備える方法。
【請求項13】
前記一つ以上の開口部は、前記誘電体基板を貫通する複数のビアを備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
各ビアは、その中に配置された前記炭素導体ピラー上に直接配置された活性領域を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記誘電体基板の前記第2の面上に前記複数のビアを覆う炭素導体ストリップを堆積させることをさらに備え、前記一つ以上の活性領域が、前記炭素導体ストリップ上に直接配置される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記一つ以上の開口部は、前記誘電体基板を貫通するスロットを備える、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記スロット内に配置された前記炭素導体ピラー上に複数の活性領域が直接配置される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記物質移動制限膜は、ディップコーティングによって堆積される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記物質移動制限膜は、前記一つ以上の活性領域上にインサイチュ重合される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記物質移動制限膜は、光重合物質移動制限膜であり、前記一つ以上の活性領域と接触する前記誘電体基板の前記第2の面上に一つ以上のモノマーを堆積させ、前記一つ以上のモノマーを光重合させることによって形成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記光重合物質移動制限膜は、アクリレートポリマー又はコポリマー、チオール-エンコポリマー、又はこれらの任意の組み合わせを備える、請求項20に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物質センサに関する。
【背景技術】
【0002】
個人内の様々な被検物質の検出が、健康状態のモニタリングにとって重要な場合がある。正常な被検物質レベルからの逸脱が、多くの生理状態を示すことがあり得る。グルコースレベルは、例えば、糖尿病の個人における検出及びモニタリングにとって特に重要であり得る。糖尿病の個人は、十分な規則性でグルコースレベルをモニタリングすることにより、重大な生理的不都合が発生する前に矯正処置(例えば、グルコースレベルを下げるためにインスリンを注射することによって、又はグルコースレベルを上げるために食事をとることによって)を行うことができ得る。他の被検物質のモニタリングは、他の様々な生理学的状態に対して望ましい場合がある。いくつかの場合に、特に互いに組み合わせて二つ以上の被検物質の調節異常を同時にもたらす併発状態に対し、複数の被検物質のモニタリングが望ましいこともある。
【0003】
適切な検出化学物質を同定できる場合、多くの被検物質が生理的分析用の興味深い標的になる。この目的のために、様々な生理学的被検物質をアッセイするように構成された生体内被検物質センサが、近年開発及び改良されており、その多くは、検出特異性を向上するために酵素ベースの検出戦略を利用する。実際に、血糖値をモニタリングするためにグルコース応答性酵素を利用する生体内被検物質センサが、現在、糖尿病の個人の間で一般的に使用されている。他の被検物質のための生体内被検物質センサは、複数の被検物質をモニタリングすることができる生体内被検物質センサを含み、開発の様々な段階にある。少量の被検物質に対する感度が低いことは、特に干渉物質と炭素作用電極との相互作用から生じる過剰なバックグラウンド信号が原因となり、いくつかの被検物質センサにとって特に問題となり得る。
【0004】
生体適合性を向上するために、生体内被検物質センサは、センサの埋め込み式部分の上に配置される膜を、特に、少なくとも被検物質センサの活性領域(複数)を覆う膜を含み得る。生体適合性の促進に加えて、膜は、目的の被検物質に対して透過性又は半透過性でかつ被検物質センサの活性領域(複数)への全被検物質フラックスを制限してもよい。そのような物質移動制限膜は、活性領域内(複数)における検知成分の過負荷(飽和)を避けるのを補助することができ、それによりセンサ性能及び正確性を向上する。被検物質の物質移動を制限することによって、検知プロセスの化学反応速度論を、酵素制限型ではなくむしろ被検物質制限型にすることが可能であり、それによって、センサ出力が存在する被検物質の量と容易に相関されることを可能にする。
【0005】
被検物質モニタリングに関連する別の問題は、様々な被検物質が、所与の物質移動制限膜の通過に異なる透過性を示し得ることである。生体内被検物質センサにおいて使用される最も一般的な物質移動制限膜は、ポリビニルピリジン又はポリビニルイミダゾールポリマー及びコポリマーであり、これらは、ディップコーティング技術によって作用電極に容易に適用され得る。ポリウレタンはまた、物質移動制限膜を形成するために一般的に使用される。この限定された一連のポリマーの中で、特定の被検物質の十分な透過性を促進するための適切な膜化学物質を同定することは、時に困難であり得る。異なる被検物質透過性の問題は、複数の被検物質をアッセイするように構成された被検物質センサにおいてさらに複雑になる可能性があり、組成的に異なる物質移動制限膜が、各被検物質に対して十分な透過性及び/又は安定した応答を与えるためにセンサ尾部の異なる部分上に必要とされ得る。異なる膜透過性値は、二つの被検物質間に非常に異なる応答感度をもたらすことがあり、これは検出を複雑にし得る。被検物質センサ尾部上に組成的に異なる部分を有する物質移動制限膜を適用するためのディップコーティングプロセスは、実行可能であるが、製造の複雑さを著しく増加させ得る。さらに、ポリビニルピリジン又はポリビニルイミダゾールに基づくもの以外の膜化学物質は、ディップコーティングプロセスに容易に拡張可能ではない場合がある。複数の被検物質に対する異なる感度は、時として、異なるサイズの活性領域(例えば、高い感度/透過性を有する被検物質に対してより小さい活性領域、及びより低い感度/透過性を有する被検物質に対してより大きい活性領域)を使用することによって部分的に補償され得るが、本アプローチは、大きな製造課題を示すことがあり、全ての場合において適用可能とは限らない。従って、物質移動制限膜を形成するために利用可能な組成物の不足は、特定の被検物質の検出を複雑にし得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
以下の図は、本開示の特定の態様を示すために含まれており、排他的な実施形態と見なされるべきではない。開示される主題は、本開示の範囲から逸脱することなく、形態及び機能において多くの修正、変更、組合せ、及び均等物が可能である。
【0007】
【
図1】本開示の被検物質センサを組み込み得る例示的な検知システムの略図を示す。
【
図2A】単一の活性領域を備える被検物質センサの断面図を示す。
【
図2B】単一の活性領域を備える被検物質センサの断面図を示す。
【
図2C】単一の活性領域を備える被検物質センサの断面図を示す。
【
図3A】二つの活性領域を備える被検物質センサの断面図を示す。
【
図3B】二つの活性領域を備える被検物質センサの断面図を示す。
【
図3C】二つの活性領域を備える被検物質センサの断面図を示す。
【
図4】二つの作用電極を備え、各々がその上に存在する活性領域を有する被検物質センサの断面図を示す。
【
図5】上に活性領域を有する従来の炭素作用電極の上面図を示す略図である。
【
図6A】本開示の被検物質センサにおける使用に適した炭素作用電極の第1の構成の断面図を示す。
【
図7】炭素作用電極が誘電体基板内に製造され得る例示的なプロセスの略図を示す。
【
図8A】本開示の被検物質センサにおける使用に適した炭素作用電極の第2の構成の断面図を示す。
【
図9A】本開示の被検物質センサにおける使用に適した炭素作用電極の第3の構成の断面図を示す。
【
図10A】グルコースを検出するように構成された酵素系を示す。
【
図10B】グルコースを検出するように構成された酵素系を示す。
【
図10C】グルコースを検出するように構成された酵素系を示す。
【
図11A】ケトンを検出するように構成された酵素系を示す。
【
図11B】ケトンを検出するように構成された酵素系を示す。
【
図11C】ケトンを検出するように構成された酵素系を示す。
【
図12】クレアチニンを検出するように構成された酵素系を示す。
【
図13】様々な比率のHEMA:POMAから形成された物質移動制限膜に覆われたいくつかのグルコースセンサのセンサ応答のプロットを示す。
【
図14】グルコース濃度の関数としてのセンサ応答の対応するプロットを示す。
【
図15A】様々な比率のHEMA:POMAから形成された物質移動制限膜に覆われたいくつかのケトンセンサのセンサ応答のプロットを示す。
【
図15B】様々な比率のHEMA:POMAから形成された物質移動制限膜に覆われたいくつかのケトンセンサのセンサ応答のプロットを示す。
【
図16A】ケトン濃度の関数としてのセンサ応答の対応するプロットを示す。
【
図16B】ケトン濃度の関数としてのセンサ応答の対応するプロットを示す。
【
図17】様々な比率のチオール-エンポリマーから形成された物質移動制限膜に覆われたいくつかのケトンセンサのセンサ応答のプロットを示す。
【
図18】ケトン濃度の関数としてのセンサ応答の対応するプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は一般的に、生体内での使用に適した被検物質センサを記載し、より具体的には、改善された検出感度を促進するための一つ以上の強化を特徴とする被検物質センサ、並びにその製造方法及び使用方法を記載する。そのような強化は、炭素作用電極の表面上の外来炭素の量を減少させること、及び/又は物質移動制限膜の堆積に利用可能な膜化学物質の範囲を広げることを含み得る。特に、物質移動制限膜のために利用可能な化学物質の範囲は、作用電極の活性領域(複数)上へ選択的な膜堆積を提供するために、光重合のようなインサイチュ重合反応を通して拡大され得る。インサイチュ光重合によって提供される選択性は、異なる組成を有する物質移動制限膜が、作用電極の選択された領域上に堆積されることを可能にすることがあり、これは、複数の被検物質検出が可能な単一の被検物質センサを使用して複数の被検物質をアッセイするときに特に有益であり得る。強化の各種類の特定の詳細及びさらなる利点は、本明細書においてさらに詳細に記載される。特定の必要性に応じて、本開示の被検物質センサは、一つ以上の被検物質を同時に又はほとんど同時に検出するように構成され得る。
【0009】
酵素ベースの検出を用いる被検物質センサは、特定の基質又は基質のクラスに対する酵素の頻繁な特異性により、グルコースのような単一の被検物質をアッセイするために一般的に使用される。この目的のために、単一の酵素及び協調して作用する複数の酵素を備える酵素系の両方を採用する被検物質センサが使用され得る。本明細書で使用される場合、用語「協調して」は、第1の酵素反応の生成物が第2の酵素反応の基質になり、第2の酵素反応又は後続の酵素反応が被検物質の濃度を測定するための基礎として機能する、共役酵素反応を指す。検出を促進するために酵素又は酵素系を特徴とする生体内被検物質センサを使用することは、そうでなければ被検物質モニタリングを行うために必要とされ得る体液の頻繁な抜き取りの回避に特に有利であり得る。
【0010】
様々な被検物質をアッセイするために適した活性領域が現在知られているが、時に特定の被検物質又は被検物質の組合せの検出に関連する困難がある。例えば、少量の被検物質の場合、センサ感度が不十分となる場合があり得る。炭素作用電極は、いくつかの少量の被検物質の正確な検出を複雑にし得る比較的高いバックグラウンドシグナルを提供し得る。複数の被検物質をアッセイするときに、有意に異なる膜透過性値も問題となり得る。本開示は、以下でさらに詳細に説明されるように、単独又は組み合わせのいずれかで、単一の被検物質及び互いに組み合わせた複数の被検物質の両方に対する検出感度を向上し得る被検物質センサの強化を提供する。すなわち、本開示は、バックグラウンドシグナルを減少させ、かつ被検物質センサ上に選択的に堆積され得る適切な膜化学物質の範囲を拡大し得る炭素作用電極を有する被検物質センサを提供する。本開示の特定の態様は、炭素作用電極の強化を対象とするが、他の種類の電極が、本明細書の開示に従って同様に強化され得ることを理解されたい。本明細書の開示の使用を通して強化され得る電極の種類はまた、金、白金、及びPEDOT等を含む。
【0011】
本開示の被検物質センサ及びそれらの強化をさらに詳細に記載する前に、適切な生体内被検物質センサの構成及び被検物質センサを用いるセンサシステムの簡単な概要が最初に提供され、それにより本開示の実施形態がより良く理解され得る。
図1は、本開示の被検物質センサを組み込み得る例示的な検知システムの略図を示す。示すように、検知システム100は、有線又は無線、単方向又は双方向、及び暗号化又は非暗号化であり得る、ローカル通信経路又はリンク140を介して互いに通信するように構成される、センサ制御デバイス102及び読み取りデバイス120を含む。いくつかの実施形態によれば、読み取りデバイス120は、センサ104又はそれに関連付けられたプロセッサによって決定された被検物質濃度及び警告又は通知を見るための、並びに一つ以上のユーザ入力を可能にするための出力媒体を構成し得る。読み取りデバイス120は、多目的スマートフォン又は専用電子読み取り機器であり得る。一つの読み取りデバイス120のみが示されているが、複数の読み取りデバイス120が特定の例において存在し得る。読み取りデバイス120はまた、それぞれ通信経路(複数)/リンク(複数)141及び/又は142を介して遠隔端末170及び/又は信頼できるコンピュータシステム180と通信することができ、これらも有線又は無線、単方向又は双方向、及び暗号化又は非暗号化であり得る。読み取りデバイス120はまた、又は代わりに、通信経路/リンク151を介してネットワーク150(例えば、携帯電話ネットワーク、インターネット、又はクラウドサーバ)と通信し得る。ネットワーク150はさらに、通信経路/リンク152を介して遠隔端末170に、及び/又は通信経路/リンク153を介して信頼できるコンピュータシステム180に通信可能に接続され得る。代わりに、センサ104は、介在する読み取りデバイス120が存在することなく、遠隔端末170及び/又は信頼できるコンピュータシステム180と直接通信し得る。例えば、センサ104は、米国特許出願公開第2011/0213225号に記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれるように、いくつかの実施形態によれば、ネットワーク150への直接通信リンクを介して遠隔端末170及び/又は信頼できるコンピュータシステム180と通信し得る。任意の適切な電子通信プロトコルは、近距離無線通信(NFC)、無線自動識別(RFID)、BLUETOOTH(登録商標)又はBLUETOOTH(登録商標)低エネルギープロトコル、又はWiFi等のような通信経路又はリンクの各々のために使用され得る。遠隔端末170及び/又は信頼できるコンピュータシステム180は、いくつかの実施形態によれば、ユーザの被検物質レベルに関心を有するプライマリユーザ以外の個人によってアクセス可能であり得る。読み取りデバイス120は、表示部122及び任意の入力構成要素121を備え得る。表示部122は、いくつかの実施形態によると、タッチスクリーンインターフェースを備え得る。
【0012】
センサ制御デバイス102は、センサ104を作動させるための回路及び電源を収容し得るセンサハウジング103を含む。任意で、電源及び/又は能動回路は省略され得る。プロセッサ(図示無し)は、センサ104に通信可能に接続されてもよく、プロセッサは、センサハウジング103又は読み取りデバイス120内に物理的に位置する。センサ104は、センサハウジング103の下側から突出し、接着層105を貫通し、いくつかの実施形態によれば、それはセンサハウジング103を皮膚のような組織表面に接着するように適合される。
【0013】
センサ104は、皮膚の真皮層又は皮下層内のような対象の組織に少なくとも部分的に挿入されるように適合される。代わりに、センサ104は、表皮を貫通するように適合され得る。さらに代わりに、センサ104は、皮膚上の汗中の一つ以上の被検物質をアッセイするときのように、表面に配置され、組織を貫通しなくてもよい。センサ104は、所与の組織における所望の深さまで挿入するために十分な長さのセンサ尾部を備え得る。センサ尾部は、少なくとも一つの作用電極と、一つ以上の対象の被検物質をアッセイするように構成された酵素又は酵素系を備える活性領域と、を備え得る。適切な酵素及び酵素系は、本明細書においてさらに詳細に議論される。対電極は、少なくとも一つの作用電極と組み合わせて、任意で参照電極とさらに組み合わせて存在し得る。センサ尾部上の特定の電極の構成は、
図2Aから
図4を参照して以下により詳細に記載される。様々な実施形態によれば、活性領域(複数)内の一つ以上の酵素は、活性領域(複数)を備えるポリマーに共有結合され得る。代わりに、酵素は、カプセル化又は物理的エントレインメント等によって、活性領域(複数)内に非共有結合的に関連付けられ得る。一つ以上の被検物質は、皮膚液、間質液、血漿、血液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、気管支肺胞洗浄、又は羊水等のような対象の任意の体液においてモニタリングされ得る。特定の実施形態では、本開示の被検物質センサは、生体内の被検物質濃度を決定するために皮膚液又は間質液をアッセイするように適合され得る。
【0014】
一つ以上の物質移動制限膜が、活性領域(複数)を覆い得る。異なる種類の活性領域が存在するとき、物質移動制限膜は、各種類の活性領域において組成的に同じでもよく、又は組成的に異なってもよい。複数の被検物質の検出を容易にするために、必要に応じて、ディップコーティング技術を介して、各種類の活性領域上に異なる物質移動制限膜を組み込むためのセンサアーキテクチャが利用可能である。複数の被検物質の検出を容易にするために、異なる膜の厚さ又は膜アーキテクチャも使用され得る。本明細書にさらに記載されるように、一つ以上の活性領域において組成変化を有する物質移動制限膜はまた、インサイチュ光重合のようなインサイチュ重合によって調製され得る。活性領域上に物質移動制限膜を形成するために、リビング重合技術も使用され得る。単一の物質移動制限膜が、多数被検物質検出器によって検出可能な両方の被検物質に対して十分な透過性を提供する場合、より単純なセンサアーキテクチャが使用され得る。インサイチュ光重合はまた、適切な膜化学物質の範囲を、ディップコーティング技術による堆積にのみ適切であるものを超えて拡大し得る。いくつかの場合に、ディップコーティング技術と比較して、より良好な品質の膜も形成され得る。
【0015】
再び
図1を参照すると、センサ104は、読み取りデバイス120にデータを自動的に転送し得る。例えば、被検物質濃度データは、データが取得されるときに特定の頻度で、又は特定の期間が経過した後などに、自動的かつ定期的に通信されてよく、送信されるまで(例えば、1分ごと、5分ごと、又は他の所定の期間ごと)メモリに記憶される。異なる被検物質に関連付けられたデータは、同じ周波数又は異なる周波数で、及び/又は同じ又は異なる通信プロトコルを使用して転送され得る。他の実施形態では、センサ104は、非自動的にかつ設定されたスケジュールに従わないで、読み取りデバイス120と通信し得る。例えば、センサ電子機器が読み取りデバイス120の通信範囲内に持ち込まれるときに、RFID技術を使用してセンサ104からデータが通信され得る。読み取りデバイス120に通信されるまで、データはセンサ104のメモリに記憶されたままであり得る。従って、ユーザは、読み取りデバイス120に常に近接した状態を維持する必要はなく、代わりに都合のよい時間にデータをアップロードすることができる。さらに他の実施形態では、自動データ転送と非自動データ転送の組合せが実施され得る。例えば、データ転送は、読み取りデバイス120がセンサ104の通信範囲内からなくなるまで、自動的に継続し得る。
【0016】
センサ104の組織内への導入を促進するために、導入器が一時的に存在し得る。例示的な実施形態では、導入器は、針又は同様の鋭利物、又はそれらの組み合わせを備え得る。シース又はブレードのような他の種類の導入器が、代替の実施形態において存在し得ることは認識されたい。より具体的には、針又は他の導入器は、組織挿入の前にセンサ104の近くに一時的に存在し、その後引き抜かれ得る。針又は他の導入器は、存在する間、センサ104が従うためのアクセス経路を開くことによって、組織の中へのセンサ104の挿入を促進し得る。例えば、針は、一つ以上の実施形態によれば、センサ104の埋め込みが行われることを可能にするために、真皮へのアクセス経路として表皮の貫通を容易にし得る。アクセス経路を開いた後、針又は他の導入器は、それが鋭利な危険を示さないように引き抜かれ得る。例示的な実施形態では、適切な針は、中実又は中空、斜角又は非斜角、及び/又は断面が円形又は非円形であり得る。より特定の実施形態では、適切な針は、断面の直径及び/又は先端の設計において鍼治療の針に匹敵し、約250ミクロン(250μm)の断面直径を有し得る。しかし、適切な針が、特定の用途のために必要とされる場合、より大きい又はより小さい断面直径を有し得ることは認識されるべきである。例えば、約300ミクロン(300μm)から約400ミクロン(400μm)までの範囲の断面直径を有する針が使用され得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、針の先端(存在する間)は、センサ104の終端にわたって角度を付けられてもよく、それにより針は最初に組織を貫通し、センサ104のためのアクセス経路を開く。他の例示的な実施形態では、センサ104は、針の内腔又は溝内に存在してもよく、針は、同様にセンサ104のためのアクセス経路を開く。いずれの場合においても、針は、センサ挿入を容易にした後に続いて引き抜かれ得る。
【0018】
対応する単一の被検物質の検出のために構成された単一の活性領域を特徴とするセンサ構成は、
図2Aから
図2Cを参照して本明細書にさらに記載されるように、2電極又は3電極検出モチーフを使用し得る。別の作用電極上又は同じ作用電極上のいずれかで、別の被検物質の検出のための二つの異なる活性領域を特徴とするセンサ構成は、
図3Aから
図4を参照して後に個別に記載される。各活性領域からのシグナル寄与が、各作用電極の別々の応答を通じてより容易に決定され得るので、複数の作用電極を有するセンサ構成は、同じセンサ尾部内に二つの異なる活性領域を組み込むのに特に有利であり得る。各活性領域は、物質移動制限膜に覆われてもよく、物質移動制限膜は、以下のさらなる開示に従って、ディップコーティングによって導入されてもよく、又はインサイチュ光重合によって生成されてもよい。
【0019】
単一の作用電極が被検物質センサ内に存在するとき、3電極センサ構成は、作用電極、対電極、及び参照電極を備え得る。関連する2電極センサ構成は、作用電極及び第2の電極を備えてもよく、第2の電極は、対電極及び参照電極の両方(すなわち、対/参照電極)として機能してもよい。様々な電極は、少なくとも互いに部分的に積み重ねられ(層状にされ)てもよく、及び/又はセンサ尾部上で互いに横方向に離間されてもよい。本明細書に開示されるセンサ構成のいずれかにおいて、様々な電極は、誘電体材料又は同様の絶縁体によって互いに電気的に絶縁され得る。
【0020】
複数の作用電極を特徴とする被検物質センサは、同様に、少なくとも一つの追加の電極を備え得る。一つの追加の電極が存在するとき、一つの追加の電極は、複数の作用電極の各々に対する対/参照電極として機能し得る。二つの追加の電極が存在するとき、追加の電極の一方は、複数の作用電極の各々の対電極として機能してもよく、追加の電極の他方は、複数の作用電極の各々の参照電極として機能してもよい。
【0021】
図2Aは、本明細書の開示における使用に適合する、例示的な2電極被検物質センサ構成の略図を示す。示すように、被検物質センサ200は、作用電極214と対/参照電極216との間に配置された基板212を備える。代わりに、作用電極214及び対/参照電極216は、誘電体材料を間に挟んで基板212の同じ側に配置され得る(構成は図示無し)。活性領域218は、作用電極214の少なくとも一部分の上に少なくとも一つの層として配置される。活性領域218は、本明細書においてさらに議論されるように、被検物質の検出のために構成された複数のスポット又は単一のスポットを備え得る。
【0022】
さらに
図2Aを参照すると、いくつかの実施形態によれば、膜220は、少なくとも活性領域218を覆い、任意で、作用電極214及び/又は対/参照電極216のいくつか又は全部、又は被検物質センサ200の全体を覆い得る。被検物質センサ200の片面又は両面は、膜220に覆われ得る。膜220は、活性領域218への被検物質フラックスを制限する能力を有する一つ以上のポリマー膜材料を備え得る(すなわち、膜220は、対象の被検物質に対していくつかの透過性を有する物質移動制限膜である)。膜220の組成及び厚さは、活性領域218への所望の被検物質フラックスを促進するように変化してもよく、それによって所望のシグナル強度及び安定性を提供する。被検物質センサ200は、クーロメトリー、アンペロメトリー、ボルタンメトリー、又はポテンショメトリーの電気化学的検出技術のいずれかによって被検物質をアッセイするように動作可能であり得る。
【0023】
図2B及び
図2Cは、例示的な3電極被検物質センサ構成の略図を示し、これらはまた、本明細書の開示における使用に適合する。3電極被検物質センサ構成は、被検物質センサ201及び202(
図2B及び
図2C)内に追加の電極217を含むことを除き、
図2Aの被検物質センサ200として示すものと同様であり得る。追加の電極217を用いると、対/参照電極216は、次に、対電極又は参照電極のいずれかとして機能してもよく、追加の電極217は、他に説明されない他の電極機能を果たす。作用電極214は、その本来の機能を果たし続ける。追加の電極217は、誘電体材料の分離層を間に挟んで、作用電極214又は電極216のいずれかの上に配置され得る。例えば、
図2Bに示すように、誘電体層219a、219b及び219cは、電極214、216及び217を互いに分離し、電気的絶縁を提供する。代わりに、電極214、216及び217の内の少なくとも一つは、
図2Cに示すように、基板212の反対面上に配置され得る。従って、いくつかの実施形態では、電極214(作用電極)及び電極216(対電極)は、基板212の反対面上に配置されてもよく、電極217(参照電極)は、電極214又は電極216の内の一つの上に配置され、誘電体材料によってそれから離間される。参照材料層230(例えば、Ag/AgCl)は、電極217上に存在してもよく、参照材料層230の位置は、
図2B及び
図2Cに示す場所に限定されない。
図2Aに示すセンサ200と同様に、被検物質センサ201及び202における活性領域218は、複数のスポット又は単一のスポットを備え得る。加えて、被検物質センサ201及び202は、同様に、クーロメトリー、アンペロメトリー、ボルタンメトリー、又はポテンショメトリーの電気化学的検出技術のいずれかによって被検物質をアッセイするように動作可能であり得る。
【0024】
被検物質センサ200と同様に、膜220はまた、被検物質センサ201及び202において、活性領域218並びに他のセンサ構成要素を覆ってもよく、それによって物質移動制限膜として機能する。追加の電極217は、いくつかの実施形態において、膜220に覆われ得る。膜220は、さらに、ディップコーティング又はインサイチュ光重合によって製造されてもよく、異なる位置で組成が変化してもよい。
図2B及び
図2Cは、電極214、216、及び217の全てが膜220に覆われているように示すが、いくつかの実施形態では、作用電極214又は活性領域218のみが覆われ得ることを認識されたい。さらに、電極214、216及び217の各々における膜220の厚さは、同じであってもよく、異なっていてもよい。2電極被検物質センサ構成(
図2A)におけるように、被検物質センサ201及び202の一方又は両方の面は、
図2B及び
図2Cのセンサ構成において膜220に覆われてもよく、又は被検物質センサ201及び202の全体が覆われてもよい。従って、
図2B及び
図2Cに示す3電極センサ構成は、本明細書に開示される実施形態の限定をしないものとして理解されるべきであり、代替の電極及び/又は層の構成は、本開示の範囲内に留まる。
【0025】
図3Aは、二つの異なる活性領域が上に配置された単一の作用電極を有するセンサ203の例示的な構成を示す。
図3Aは、作用電極214上に二つの活性領域、すなわち第1の活性領域218a及び第2の活性領域218bが存在することを除いて、
図2Aと同様であり、これらは異なる被検物質に応答し、作用電極214の表面上で互いに横方向に離間されている。活性領域218a及び218bは、各被検物質の検出のために構成された複数のスポット又は単一のスポットを備え得る。膜220の組成は、活性領域218a及び218bにおいて変化してもよく、又は組成的に同じであってもよい。第1の活性領域218a及び第2の活性領域218bは、以下でさらに議論されるように、互いに異なる作用電極電位においてそれらの対応する被検物質を検出するように構成され得る。
【0026】
図3B及び
図3Cは、それぞれセンサ204及び205のための例示的な3電極センサ構成の断面図を示し、各々は、上に配置された第1の活性領域218a及び第2の活性領域218bを有する単一の作用電極を特徴とする。
図3B及び
図3Cは、その他の点では
図2B及び
図2Cと同様であり、それらを参照することによってより理解され得る。
図3Aと同様に、膜220の組成は、活性領域218a及び218bにおいて変化してもよく、又は組成的に同じであってもよい。
【0027】
複数の作用電極、具体的には二つの作用電極を有する例示的なセンサ構成が、
図4を参照してさらに詳細に記載される。以下の説明は、主に、二つの作用電極を有するセンサ構成を対象とするが、本明細書の開示の拡張によって、二つより多くの作用電極が組み込まれ得ることを理解されたい。追加の作用電極は、第1の被検物質及び第2の被検物質だけでなく、被検物質センサに追加の検知能力を付与するように用いられ得る。すなわち、二つより多くの作用電極を含有する被検物質センサは、相応の数の追加の被検物質を検出するのに適し得る。
【0028】
図4は、本明細書の開示における使用に適合する、二つの作用電極、参照電極及び対電極を有する例示的な被検物質センサ構成の断面図を示す。示すように、被検物質センサ300は、基板302の反対面上に配置された作用電極304及び306を含む。第1の活性領域310aは、作用電極304の表面上に配置され、第2の活性領域310bは、作用電極306の表面上に配置される。対電極320は、誘電体層322によって作用電極304から電気的に絶縁されており、参照電極321は、誘電体層323によって作用電極306から電気的に絶縁されている。外側誘電体層330及び332は、それぞれ参照電極321及び対電極320上に配置される。膜340は、様々な実施形態によれば、少なくとも活性領域310a及び310bを覆ってもよく、被検物質センサ300の他の構成要素又は被検物質センサ300の全体も、任意で、膜340に覆われる。さらに、膜340は、必要に応じて、活性領域310a及び310bにおいて組成を変化させてよく、それぞれの位置における被検物質フラックスを別個に調節するための適切な透過性値を与える。
【0029】
複数の作用電極を有し、
図4に示す構成とは異なる代替的なセンサ構成は、別の対電極及び参照電極320,321の代わりに対/参照電極を特徴としてもよく、及び/又は明示的に示されるものとは異なる層及び/又は膜の配置を特徴としてもよい。例えば、対電極320及び参照電極321の位置は、
図4に示すものと反対であり得る。さらに、作用電極304及び306は、必ずしも
図4に示す位置のように基板302の反対面上に存在する必要はない。
【0030】
炭素作用電極は、本明細書に開示される被検物質センサのいずれかにおける作用電極(複数)を適切に備え得る。炭素作用電極は電気化学的検出において非常に一般的に使用されているが、電気化学的検知におけるその使用は困難がないわけではない。特に、活性領域が被検物質と相互作用し、電子を活性領域に隣接する炭素作用電極の部分に移動させるときにのみ、対象の被検物質に関する電流が生じる。対象の被検物質を含有する流体はまた、活性領域に覆われていない炭素作用電極の炭素表面と相互作用し、被検物質から作用電極への電子移動を促進する酵素又は酵素系がこれらの位置に存在しないため、被検物質シグナルに寄与しない。しかし、干渉物質は、活性領域を欠く作用電極部分において酸化され、シグナル全体に対するバックグラウンドに寄与し得る。アスコルビン酸は、炭素作用電極においてバックグラウンドシグナルを生成し得る体液中に一般に存在する干渉物質の一例である。従って、電極表面上に外来炭素領域を有する炭素作用電極は、被検物質シグナルに有意に寄与せず、場合によっては過剰なバックグラウンドをもたらし得る。対象の被検物質を直接検出しない過剰な表面積を有する他の電極は、同様の問題を経験する可能性があり、本明細書の開示の改良を通して強化され得る。
【0031】
図5は、上に複数のスポットとして配置された活性領域418を有する従来の炭素作用電極412の上面図を示す略図である。被検物質が活性領域418と相互作用するとき、活性領域418の下の炭素作用電極412の部分のみが、対象の被検物質に関連するシグナルに寄与する。外来炭素領域410は、活性領域418に直接覆われておらず、被検物質に関連するシグナルに寄与しないが、一つ以上の干渉物質に関連するバックグラウンドシグナルを生成し得る。
【0032】
本開示は、対象の被検物質に関連付けられたシグナルを生成するための機能性を依然として残しながら、炭素作用電極において外来炭素領域をどのように減少させられ得るかを示す。特に、本開示は、ポリマーブロックのような誘電体基板内に少なくとも部分的に形成された改良炭素作用電極を備える被検物質センサを提供し、誘電体基板は、活性領域に覆われていない電極表面上の外来炭素領域の大部分又は全てを置換する。より具体的には、本明細書に記載される炭素作用電極は、以下により詳細に記載されるように、炭素導体を用いて一つ以上の開口部を充填することによって得られ得る。金属又はPEDOTを備える代替電極は、本明細書の開示に従って誘電体基板内に同様に形成され得る。
【0033】
図6Aは、本開示の被検物質センサにおける使用に適した炭素作用電極の第1の構成の断面図を示す。
図6Aに示すように、炭素作用電極500は、誘電体基板510を貫通し第1の面514と第2の面516との間に延在する炭素導体ピラー512を有する誘電体基板510を含む。炭素導体ピラー512は、
図7を参照して以下により詳細に記載するように、炭素導体インクを用いてビア又は同様の開口部を充填し、続いて硬化することによって形成され得る。炭素導体コーティング520は、第1の面514上に配置され、炭素導体ピラー512の各々と直接接触し、それによって、炭素導体ピラー512の各々との間に電気的導通を確立する。誘電体コーティング522は、炭素導体コーティング520上に配置される。従って、電子を伝達するために利用可能な唯一の炭素表面は、炭素導体ピラー512が誘電体基板510を貫通する第2の面516上に位置する。活性領域530は、炭素導体ピラー512と直接接触する第2の面516上に配置される。
【0034】
炭素作用電極の代替物は、誘電体基板510を貫通する開口部内に同様の導電性インクを堆積させることによって形成され得る。例えば、金属含有インクは、金属導体ピラーを提供するために同様に堆積及び硬化され得る。金属導体コーティングは、金属導体ピラーを相互接続してもよく、金属含有インクから同様に形成されてもよい。従って、炭素作用電極に関連して本明細書に記載される任意の電極構造は、代替の導電性材料を用いて同様に形成され得る。
【0035】
図6Bは、
図6Aの炭素作用電極の対応する上面図を示す。示すように、活性領域530は、炭素導体ピラー512の露出表面(示された図では見えない)を覆い、それにより、干渉物質と相互作用する際に電気化学的シグナルを生成するために利用可能な外来炭素領域がほとんど残らない。
図6A及び
図6Bは、炭素導体ピラー512上の活性領域530の完全なオーバーレイを示しているが、活性領域530はまた、炭素導体ピラー512からわずかにオフセットされてもよく、及び/又は炭素導体ピラー512を完全に覆わなくてもよく、それによって、干渉物質に晒され得る少量の外来炭素領域を残すことを理解されたい。それにも関わらず、炭素作用電極500中に存在する外来炭素の量は、実質的に炭素導体で形成された面を有する従来の炭素作用電極中の量よりもはるかに少ないことが理解され得る。また、炭素導体ピラー512及び活性領域530の数及び間隔は例示的であり、非限定的であることを理解されたい。例示的な実施形態では、開口部(ビア)の数は、約1から約20個、又は約3から約15個、又は約2から約10個の範囲であってもよく、開口部の直径は、約25μmから約200μmの範囲であってもよい。非円形開口部も存在し得る。対応する数の活性領域が炭素導体ピラー上に存在してもよく、又は活性領域の数は炭素導体ピラーの数より少なくてもよい。炭素導体ピラーの全てよりも少ないものが活性領域に覆われている場合、いくつかの外来炭素が、干渉物質への潜在的な曝露のために存在したままである。
【0036】
図7は、炭素作用電極が誘電体基板内に製造され得る例示的なプロセスの略図を示す。まず、誘電体基板510には、それを貫通する複数のビア511が設けられる。誘電体基板510内にビア511を導入するために、穿孔、レーザ穿孔、又は当業者によく知られている同様の技法のような多数の方法が存在する。炭素導体インクは、次に、スクリーン印刷又は同様の堆積技術によって堆積されて、第1の面514上に炭素導体コーティング520を形成する。ビア511は、このプロセス中に少なくとも部分的に充填され得る。必要であれば、インク乾燥後に炭素導体ピラー512を提供するための炭素導体インクを用いたビア511の充填の完了は、第2の面516から行われ得る。適切な炭素導体インクは、当業者によく知られている。
【0037】
次に、誘電体コーティング522が炭素導体コーティング520上に堆積され、誘電体基板510の第2の面516上に露出した炭素導体ピラー表面528を残す。最後に、活性領域530が、露出した炭素導体ピラー表面528上に堆積されて、対象の被検物質に対する検知能力を有する炭素作用電極500を提供する。
図7はビア充填に関して記載されているが、他の種類の開口部が炭素導体インクで充填されて、その中に同様の種類の炭素導体ピラーを形成し得ることを理解されたい。
【0038】
従って、本開示の被検物質センサを形成するための方法は、誘電体基板を貫通し第1の面と第2の面との間に延在する一つ以上の開口部を有する誘電体基板を提供することと、一つ以上の開口部を炭素導体で充填して炭素導体ピラーをその中に形成し、誘電体基板の第1の面上に炭素導体コーティングを堆積させ、炭素導体コーティングを各炭素導体ピラーに直接接触させることと、炭素導体コーティング上に誘電体コーティングを堆積させることと、一つ以上の開口部内の炭素導体ピラーと電気的に導通し、被検物質に応答する一つ以上の活性領域を誘電体基板の第2の面上に形成することと、少なくとも一つ以上の活性領域上に物質移動制限膜を堆積させることと、を備え得る。
【0039】
図8Aは、本開示の被検物質センサにおける使用に適した炭素作用電極の第2の構成の断面図を示す。炭素作用電極501は、モノリシック炭素導体ピラー513が第1の面514と第2の面516との間で誘電体基板510を貫通し、それによって複数のより小さい炭素導体ピラー512に置き換わる点で、
図6A及び
図6Bに示す炭素作用電極500とは異なる。モノリシック炭素導体ピラー513は、
図7を参照して上述されたものと同様の方法で、炭素導体インクを用いてスロット又は同様の開口部を充填し、続いてインクを乾燥させることによって形成され得る。活性領域530の各々は、モノリシック炭素導体ピラー513と直接接触する第2の面516上に配置される。
【0040】
図8Bは、
図8Aの炭素作用電極の対応する上面図を示す。示すように、活性領域530は、モノリシック炭素導体ピラー513の露出面540を覆う。露出面540は、炭素作用電極501内の活性領域530によって完全には覆われていないが、外来炭素の量は、実質的に炭素導体で形成された面を有する従来の炭素作用電極中に存在する量よりもはるかに少ない。さらに、活性領域530の数及び間隔は例示的であり、非限定的であることを理解されたい。例示的な実施形態では、スロットは、幅約25μmから約200μm、長さ約100μmから約2000μmの範囲であり得る。
【0041】
図9Aは、本開示の被検物質センサにおける使用に適した炭素作用電極の第3の構成の断面図を示す。炭素作用電極502は、炭素導体ピラー512が、誘電体基板510の第2の面516上に配置された炭素導体ストリップ550によって相互接続されている点で、
図6A及び
図6Bに示された炭素作用電極500とは異なる。活性領域530は、炭素作用電極501内の個別の炭素導体ピラー512上ではなく、炭素ストリップ550上に直接配置される。炭素導体ストリップ550の使用は、活性領域530が全て炭素導体コーティング520に電気的に接続されることを保証する。例えば、製造上の問題により、炭素導体ピラー512の内の一つ以上を形成するときに不完全なビア充填が存在する場合、炭素導体コーティング520に対する所与の活性領域530の導電性は、炭素導体ストリップ550によって依然として維持され得る。さらに、炭素導体ストリップ550を使用する電極構成では、活性領域530は、各炭素導体ピラー512を直接覆う必要はない。
【0042】
図9Bは、
図9Aの炭素作用電極の対応する上面図を示す。炭素作用電極502の上面図は、第2の表面516上に外来炭素の全体を提供し、活性領域530のための堆積表面を提供するモノリシック炭素導体ピラー513ではなく、炭素導体ストリップ550が、個別の炭素導体ピラー512を覆う点を除き、
図8Bに示すような、炭素作用電極501の上面図と同様である。炭素作用電極501と同様に、炭素導体ストリップ550は、炭素作用電極502内の活性領域530によって完全には覆われていないが、外来炭素の量は、実質的に炭素導体で形成された面を有する従来の炭素作用電極中に存在する量よりもはるかに少ない。さらに、炭素導体ピラー512及び活性領域530の数及び間隔は例示的であり、非限定的であることを理解されたい。例示的な実施形態では、開口部(ビア)の数は、約1から約20個、又は約3から約15個、又は約2から約10個の範囲であってもよく、開口部の直径は、約25μmから約200μmの範囲であってもよい。炭素導体ピラーと相互接続する炭素導体ストリップは、幅約25μmから約200μm、長さ約100μmから約2000μmの範囲であり得る。
【0043】
従って、本開示は、誘電体基板と、誘電体基板を貫通しており、誘電体基盤の第1の面と第2の面との間で延在する炭素導体ピラーに充填される一つ以上の開口部と、各炭素導体ピラーに直接接触して誘電体基板の第1の面上に配置された炭素導体コーティングと、を有する炭素作用電極を備える被検物質センサを提供する。一つ以上の活性領域は、誘電体基板の第2の面上に配置され、炭素導体ピラーの各々と電気的に導通しており、一つ以上の活性領域は被検物質に応答する。物質移動制限膜は、少なくとも一つ以上の活性領域を覆い得る。
【0044】
誘電体基板を貫通する一つ以上の開口部は、誘電体基板を貫通する複数のビア又は誘電体基板を貫通するスロットの形態であり得る。炭素導体ピラーは、ビア又はスロット内に配置され、ビア又はスロットを完全に充填し得る。活性領域は、誘電体基板の第2の面上でいずれかの種類の開口部内に配置された炭素導体ピラー(複数)上に直接配置され得る。
【0045】
任意で、誘電体基板を貫通する複数のビアは、誘電体基板の第2の面上に配置され、複数のビアを覆う炭素導体ストリップを介して電気的に相互接続され得る。活性領域は、炭素導体ストリップ上に直接配置されてもよく、必ずしも対応するビアを覆う必要はない。炭素導体ストリップは、電極表面にいくつかの外来炭素を導入するが、製造信頼性の向上は、いくつかの場合においてセンサ性能の強化を上回り得る。炭素導体ストリップの層厚さは、例えば、約1ミクロン(1μm)から約20ミクロン(20μm)の範囲であり得る。
【0046】
本明細書に開示される被検物質センサのいずれかの中の活性領域は、単独で又は酵素系内で協調して作用する一つ以上の被検物質応答性酵素を備え得る。一つ以上の酵素は、活性領域内に位置する一つ以上の電子移動剤と同様に、活性領域を備えるポリマーに共有結合され得る。
【0047】
各活性領域内の適切なポリマーの例としては、ポリ(4-ビニルピリジン)及びポリ(N-ビニルイミダゾール)又はこれらのコポリマーを含んでもよく、例えば、四級化ピリジン及びイミダゾール基が電子移動剤又は酵素(複数)に対する結合部として機能する。活性領域(複数)に存在し得る他の適切なポリマーは、限定されないが、ポリ(アクリル酸)、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー(GANTREZポリマー)、ポリ(ビニルベンジルクロリド)、ポリ(アリルアミン)、ポリリジン、カルボキシペンチル基で四級化されたポリ(4-ビニルピリジン)、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)のような、米国特許第6,605,200号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているものを含む。
【0048】
被検物質検出を促進可能である活性領域においてポリマーに共有結合した酵素は、特に限定されないと考えられる。適切な酵素は、グルコース、乳酸、ケトン、又はクレアチニン等を検出可能である酵素を含み得る。これらの被検物質のいずれかが、複数の被検物質を検出することができる被検物質センサにおいて互いに組み合わせて検出され得る。これらの被検物質を検出するための適切な酵素及び酵素系は、以下に記載される。
【0049】
いくつかの実施形態では、被検物質センサは、センサ尾部上に配置されたグルコース応答性酵素を備えるグルコース応答性活性領域を備え得る。適切なグルコース応答性酵素は、例えば、グルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼ(例えば、ピロロキノリンキノン(PQQ)又は補因子依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ)を含み得る。グルコースオキシダーゼ及びグルコースデヒドロゲナーゼは、グルコースを酸化するときに電子受容体として酸素を利用するそれらの能力によって識別され、グルコースオキシダーゼは、電子受容体として酸素を利用し得るが、グルコースデヒドロゲナーゼは、酵素補因子のような天然又は人工の電子受容体に電子を移動させる。グルコースを分析するための例示的な酵素ベースの検出スキームは、
図10Aから10Cにさらに示され、これらは検出を促進するためにグルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼを利用する。グルコースオキシダーゼ及びグルコースデヒドロゲナーゼの両方は、グルコース応答性活性領域を備えるポリマーに共有結合されてもよく、電子移動剤(例えば、オスミウム(Os)錯体又は同様の遷移金属錯体)と電子を交換してもよく、これもポリマーに共有結合されてもよい。適切な電子移動剤は、以下にさらに詳細に記載される。グルコースオキシダーゼは、電子移動剤と電子を直接交換し得るが(
図10A)、グルコースデヒドロゲナーゼは、補因子を利用して、電子移動剤との電子交換を改善し得る(
図10B及び
図10C)。FAD補因子は、
図10Bに示すように、電子移動剤と電子を直接交換し得る。対照的に、NAD補因子は、
図10Cに示すように、ジアフォラーゼを利用して、補因子から電子移動剤への電子移動を促進し得る。グルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼを組み込むグルコース応答性活性領域、並びにそれによるグルコース検出に関するさらなる詳細は、例えば、共有の米国特許第8,268,143号に見出され得る。
【0050】
図11Aから
図11Cは、ケトンを検出するように構成された酵素系を示す。ケトンに応答する酵素系に関するさらなる詳細は、2020年1月28日に出願され、米国特許出願公開第 号として公開された、「Analyte Sensors and Sensing Methods Featuring Dual Detection of Glucose and Ketones」と題する共有の米国特許出願第16/774,835号に見出され得る。
図11Aに示す酵素系において、β-ヒドロキシ酪酸は、生体内で形成されるケトンの代用物として機能し、これは、β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(HBDH)及びジアフォラーゼを含む酵素系との反応を受けて、本明細書にさらに記載されるように、少なくとも一つの作用電極の表面上に配置されたケトン応答性活性領域内でのケトン検出を容易にする。ケトン応答性活性領域内で、β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼは、β-ヒドロキシ酪酸及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)を、それぞれアセト酢酸及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)に変換し得る。用語「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)」は、前述の酵素補因子のリン酸結合形態を含むことが理解されるべきである。すなわち、本明細書における用語「NAD」の使用は、NAD
+リン酸及びNADHリン酸の両方、具体的には、一方がアデニン核酸塩基を含有し、他方がニコチンアミド核酸塩基を含有する二つのヌクレオチドを結合する二リン酸を指す。NAD
+/NADH酵素補因子は、本明細書に開示される協調酵素反応の促進を補助する。一度形成されると、NADHは、ジアフォラーゼ媒介下で酸化を受けることがあり、このプロセスの間に移動した電子が、作用電極におけるケトン検出のための基礎を提供する。従って、作用電極に移動した電子の量と変換されたβ-ヒドロキシ酪酸の量との間には1:1のモル対応がある。作用電極への電子の移動は、以下にさらに詳細に記載されるように、オスミウム(Os)化合物又は同様の遷移金属錯体のような電子移動剤のさらなる媒介下で起こり得る。アルブミンは、活性領域内で安定剤としてさらに存在し得る。β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ及びジアフォラーゼは、ケトン応答性活性領域を備えるポリマーに共有結合され得る。NAD
+は、ポリマーに共有結合されてもよく、されなくてもよく、NAD
+が共有結合されない場合、ケトン応答性活性領域を覆い、ケトンに対しても透過性である物質移動制限膜などにより、NAD
+は、ケトン応答性活性領域内に物理的に保持されていてもよい。
【0051】
ケトンを酵素的に検出するための他の適切な化学物質を
図11B及び
図11Cに示す。両方の場合において、作用電極に移動した電子の量と変換されたβ-ヒドロキシ酪酸の量との間に1:1のモル対応が再び存在し、それによりケトン検出のための基礎を提供する。
【0052】
図11Bに示すように、β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(HBDH)は、再びβ-ヒドロキシ酪酸及びNAD
+をそれぞれアセト酢酸及びNADHに変換し得る。ジアフォラーゼ(
図11A参照)及び適切な酸化還元メディエータによって完了される作用電極への電子移動の代わりに、NADHオキシダーゼの還元型(NADHOx(Red))が反応を受けて、対応する酸化型(NADHOx(Ox))を形成する。次に、NADHOx(Red)は、分子酸素との反応を通して再形成されて、スーパーオキシドを産生することがあり、これは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)媒介下で、過酸化水素への次の変換を受け得る。次に、過酸化水素は、作用電極において酸化を受けて、最初に存在したケトンの量に相関され得るシグナルを提供し得る。SODは、様々な実施形態に従って、ケトン応答性活性領域中のポリマーに共有結合され得る。
図11Aに示す酵素系と同様に、β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ及びNADHオキシダーゼは、ケトン応答性活性領域中のポリマーに共有結合されてもよく、NAD
+は、ケトン応答性活性領域中のポリマーに共有結合されてもされなくてもよい。NAD+が共有結合されていない場合、それはケトン応答性活性領域内に物理的に保持されてよく、膜ポリマーがケトン応答性活性領域内でのNAD
+の保持を促進する。
【0053】
図11Cに示すように、ケトンのための別の酵素検出化学物質は、β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(HBDH)を利用して、β-ヒドロキシ酪酸及びNAD
+をそれぞれアセト酢酸及びNADHに変換し得る。この場合の電子移動サイクルは、NAD
+を再形成するための1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンによるNADHの酸化によって完了され、1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンは、その後、電子を作用電極に移動させる。1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンは、ケトン応答性活性領域内のポリマーに共有結合されてもよく、共有結合されなくてもよい。
図11Aに示す酵素系と同様に、β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼは、ケトン応答性活性領域中のポリマーに共有結合されてもよく、NAD
+は、ケトン応答性活性領域中のポリマーに共有結合されてもされなくてもよい。活性領域におけるアルブミンの含有は、応答安定性における驚くべき改善を提供し得る。適切な膜ポリマーは、ケトン応答性活性領域内でのNAD
+の保持を促進し得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、被検物質センサは、クレアチニンの検出を容易にするように協調して動作する酵素系を備えるクレアチニン応答性活性領域をさらに備え得る。本明細書に開示される被検物質センサにおいてクレアチニンを検出するために使用され得る適切な酵素系は、
図12に示され、以下でさらに詳細に記載される。クレアチニンに応答する酵素系に関するさらなる詳細は、2019年9月25日に出願され、米国特許出願公開第 号として公開された「Analyte Sensors and Sensing Methods for Detecting Creatine」と題する共有の米国特許出願第16/774,835号に見出され得る。
【0055】
図12に示すように、クレアチニンは、クレアチニンアミドヒドロラーゼ(CNH)の存在下で可逆的かつ加水分解的に反応してクレアチンを形成し得る。クレアチンは、次に、クレアチンアミドヒドロラーゼ(CRH)の存在下で触媒的加水分解を受けて、サルコシンを形成し得る。これらの反応のいずれも、クレアチニンの電気化学的検出のための基礎を提供する電子の流れ(例えば、酸化又は還元)を生成しない。
【0056】
図12をさらに参照すると、クレアチンの加水分解を介して生成されたサルコシンは、酸化型のサルコシンオキシダーゼ(SOX-ox)の存在下で酸化を受けてグリシン及びホルムアルデヒドを形成し、それによってプロセス中に還元型のサルコシンオキシダーゼ(SOX-red)を生成し得る。過酸化水素はまた、酸素の存在下で生成され得る。次に、サルコシンオキシダーゼの還元型は、酸化型の電子移動剤(例えば、Os(III)錯体)の存在下で再酸化を受けてもよく、それにより対応する還元型の電子移動剤(例えば、Os(II)錯体)を生成し、電子の流れを作用電極に送達する。
【0057】
酸素は、上記開示に従ってクレアチニンを検出するために使用される協調的な一連の反応に干渉し得る。具体的には、還元型のサルコシンオキシダーゼは、この酵素の対応する酸化型を再形成するように酸素との反応を受け得るが、電子移動剤と電子を交換することはない。酸素との反応が起こるとき、酵素は全て活性のままであるが、電子は作用電極に流れない。理論又は機構に束縛されるものではないが、酸素との競合反応は、速度論的効果に起因すると考えられる。すなわち、酸素による還元型のサルコシンオキシダーゼの酸化は、電子移動剤によって促進される酸化よりも速く起こると考えられる。過酸化水素も酸素の存在下で形成される。
【0058】
図12に示すクレアチニンの検出を容易にするための所望の反応経路は、酵素系に近接する酸素スカベンジャを含めることによって促進され得る。グルコースオキシダーゼのようなオキシダーゼ酵素を含む、様々な酸素スカベンジャ及びその配置は、適切であり得る。小分子酸素スカベンジャも適切であり得るが、それらは、センサ寿命が完全に尽きる前に完全に消費され得る。対照的に、酵素は、可逆的な酸化及び還元を受けることができ、それにより、より長いセンサ寿命をもたらす。酸素による還元型のサルコシンオキシダーゼの酸化を阻止することによって、電子移動剤とのより遅い電子交換反応が起こってもよく、それによって作用電極での電流の生成が可能になる。生成される電流の大きさは、最初に反応したクレアチニンの量に比例する。
【0059】
図12における所望の反応経路を促進するために使用される酸素スカベンジャは、本開示の任意の実施形態におけるオキシダーゼ酵素であり得る。酵素に適した基質も存在するという条件で、任意のオキシダーゼ酵素が酵素系に近接して酸素補足を促進するために用いられてもよく、それによって、オキシダーゼ酵素の存在下において酸素と反応するための試薬を提供する。本開示における酸素補足に適切であり得るオキシダーゼ酵素は、限定されないが、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、及びキサンチンオキシダーゼ等を含む。グルコースオキシダーゼは、様々な体液中のグルコースが容易に利用可能であるため、酸素補足を促進するのに特に所望のオキシダーゼ酵素であり得る。以下の反応1は、グルコースオキシダーゼにより促進され、酸素除去をもたらす酵素反応を示す。
【化1】
生体内で利用可能な乳酸の濃度はグルコースの濃度よりも低いが、それでも酸素補足を促進するのに十分である。
【0060】
グルコースオキシダーゼのようなオキシダーゼ酵素は、本明細書に開示される被検物質センサにおける酸素補足を促進するのに適した任意の位置に配置され得る。例えば、グルコースオキシダーゼは、グルコース検出を促進するためにグルコースオキシダーゼが機能的及び/又は非機能的であるように、センサ尾部上に配置され得る。グルコース検出を促進するために非機能的であるとき、グルコースオキシダーゼは、センサ尾部上に配置されてもよく、それによって、グルコース酸化中に生成される電子が、作用電極からグルコースオキシダーゼを電気的に絶縁する等により、作用電極に到達することを妨げられる。
【0061】
いくつかの実施形態では、被検物質センサは、センサ尾部上に配置された乳酸応答性酵素を備える乳酸応答性活性領域を備え得る。適切な乳酸応答性酵素は、例えば、乳酸オキシダーゼを含み得る。乳酸オキシダーゼ又は他の乳酸応答性酵素は、乳酸応答性活性領域を備えるポリマーに共有結合されてもよく、電子移動剤(例えば、オスミウム(Os)錯体又は同様の遷移金属錯体)と電子を交換してもよく、これもポリマーに共有結合されてもよい。適切な電子移動剤は、以下にさらに詳細に記載される。参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、共有の米国特許出願公開第20190320947号にさらに詳細に記載されるように、センサ応答を安定させるために、ヒト血清アルブミンのようなアルブミンが乳酸応答性活性領域内に存在し得る。乳酸レベルは、例えば、摂食、ストレス、運動、敗血症又は敗血症性ショック、感染、低酸素症、又は癌性組織の存在等を含む多数の環境的又は生理学的因子に応答して変化し得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、被検物質センサは、pHに応答する活性領域を備え得る。pHを決定するように構成された適切な被検物質センサは、参照により本明細書に組み込まれ、共有の米国特許出願公開第20200060592号に記載される。そのような被検物質センサは、第1の作用電極及び第2の作用電極を備えるセンサ尾部を備えてもよく、第1の作用電極上に位置する第1の活性領域は、pH依存性酸化還元化学を有する物質を備え、第2の作用電極上に位置する第2の活性領域は、pHに対して実質的に不変である酸化還元化学を有する物質を備える。第1のシグナルと第2のシグナルとの間の差を得ることにより、この差は、被検物質センサが曝露される流体のpHに相関され得る。
【0063】
二つの異なる種類の活性領域が、上述した炭素作用電極のように単一の作用電極上に配置され、互いに離間され得る。各活性領域は、酸化還元電位を有してもよく、第1の活性領域の酸化還元電位は、活性領域の内の一つからのシグナルの独立した生成を可能にするために、第2の活性領域の酸化還元電位から十分に分離される。非限定的な例では、酸化還元電位は、少なくとも約100mV、又は少なくとも約150mV、又は少なくとも約200mV異なり得る。酸化-還元電位間の分離の上限は、生体内の作用電気化学窓(the working electrochemical window)によって決定される。二つの活性領域の酸化還元電位を大きさにおいて互いに十分に分離することによって、二つの活性領域の内の一方(すなわち、第1の活性領域又は第2の活性領域)内で、他方の活性領域内での電気化学反応を実質的に含まなくても、電気化学反応が起き得る。従って、第1の活性領域又は第2の活性領域の内の一方からのシグナルは、その対応する酸化還元電位(より低い酸化還元電位)以上であるが、他方の活性領域の酸化還元電位未満で独立して生成され得る。差シグナルは、各被検物質からのシグナル寄与が分離されることを可能にし得る。
【0064】
本明細書に開示される被検物質センサのいくつか又は他の実施形態は、別の作用電極の表面上に配置された二つの異なる活性領域を特徴とし得る。そのような被検物質センサは、少なくとも第1の作用電極及び第2の作用電極と、第1の作用電極の表面上に配置された第1の活性領域と、第2の作用電極の表面上に配置され、異なる被検物質に応答する第2の活性領域と、を備えるセンサ尾部を備え得る。膜は、第1の活性領域及び第2の活性領域の内の少なくとも一つを覆い得る。膜は、物質移動制限膜であってもよく、膜が活性領域の内の少なくとも一つを覆う多成分膜を備え得る。多成分膜は、二つの異なる膜ポリマーの二重層、又は二つの異なる膜ポリマーの混合物を備えることができ、膜ポリマーの一方が他方の活性領域を覆う。そのような多成分膜は、非限定的な例において、ディップコーティング技術によって堆積され得る。
【0065】
他の適切な物質移動制限膜は、以下でさらに詳細に議論されるように、インサイチュ光重合のようなインサイチュ重合によって堆積され得る。
【0066】
電子移動剤は、本明細書に開示される活性領域のいずれかに存在し得る。適切な電子移動剤は、一つ以上の被検物質が対応する活性領域内で酵素的酸化還元反応を受けた後に、隣接する作用電極への電子の伝達を容易にすることができ、それによって特定の被検物質の存在を示す電子の流れを生成する。生成される電流の量は、存在する被検物質の量に比例する。使用されるセンサ構成に依存して、異なる被検物質に応答する活性領域内の電子移動剤は、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、二つの異なる活性領域が同じ作用電極上に配置されるとき、各活性領域内の電子移動剤は異なり得る(例えば、電子移動剤が異なる酸化還元電位を示すように化学的に異なる)。複数の作用電極が存在するとき、各作用電極が別々に検出され得るため、各活性領域内の電子移動剤は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0067】
適切な電子移動剤は、標準カロメル電極(SCE)の酸化還元電位より数百ミリボルト高い又は低い酸化還元電位を有する電気還元可能及び電気酸化可能なイオン、錯体又は分子(例えば、キノン)を含み得る。いくつかの実施形態によれば、適切な電子移動剤は、米国特許第6,134,461号及び同第6,605,200号に記載されているもののような低電位オスミウム錯体を含むことができ、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。適切な電子移動剤の更なる例は、米国特許第6,736,957号、同第7,501,053号、及び同第7,754,093号に記載されているものを含み、これらのそれぞれの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。他の適切な電子移動剤は、ルテニウム、オスミウム、鉄(例えば、ポリビニルフェロセン又はヘキサシアノ鉄酸塩)、又はコバルトの金属化合物又は錯体(例えば、それらのメタロセン化合物を含む)を含み得る。金属錯体のための適切な配位子は、例えば、ビピリジン、ビイミダゾール、フェナントロリン、又はピリジル(イミダゾール)のような二座以上の配位子も含み得る。他の適切な二座配位子は、例えば、アミノ酸、シュウ酸、アセチルアセトン、ジアミノアルカン、又はo-ジアミノアレーンを含み得る。単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又はより高い座数の配位子の任意の組合せが、完全な配位圏を達成するように金属錯体中に存在し得る。
【0068】
本明細書に開示される被検物質のいずれかを検出するのに適した活性領域は、電子移動剤が共有結合されるポリマーを備え得る。本明細書に開示される電子移動剤のいずれかが、活性領域内のポリマーへの共有結合を促進するために適切な官能基を備え得る。適切なポリマー結合電子移動剤の例は、米国特許第8,444,834号、同第8,268,143号、及び同第6,605,201号に記載されるものを含むことができ、これらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。活性領域に含めるのに適切なポリマーは、限定されないが、ポリビニルピリジン(例えば、ポリ(4-ビニルピリジン))、ポリビニルイミダゾール(例えば、ポリ(1-ビニルイミダゾール))、又はこれらの任意のコポリマーを含み得る。活性領域に含めるのに適切であり得る例示的なコポリマーは、例えば、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミド、又はアクリロニトリルのようなモノマーユニットを含有するものを含む。二つ以上の異なる活性領域が存在するとき、各活性領域内のポリマーは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0069】
電子移動剤の活性領域内のポリマーへの共有結合は、共有結合した電子移動剤を有するモノマーユニットを重合させることによって行われてもよく、又はポリマーが既に合成された後に、電子移動剤が、ポリマーと別々に反応されてもよい。二官能性スペーサーは、電子移動剤を活性領域内のポリマーに共有結合させることができ、第1の官能基はポリマーに反応し(例えば、ピリジン窒素原子又はイミダゾール窒素原子を四級化することができる官能基)、第2の官能基は電子移動剤に反応する(例えば、金属イオンに配位する配位子に反応する官能基)。
【0070】
同様に、活性領域内の一つ以上の酵素は、活性領域を備えるポリマーに共有結合され得る。複数の酵素を備える酵素系が所与の活性領域に存在するとき、いくつかの実施形態では、複数の酵素の全てがポリマーに共有結合されてもよく、他の実施形態では、複数の酵素の一部分のみがポリマーに共有結合されてもよい。例えば、非共有結合酵素がポリマー内に物理的に取り込まれるように、酵素系を備える一つ以上の酵素がポリマーに共有結合されてもよく、少なくとも一つの酵素がポリマーに非共有結合されてもよい。所与の活性領域におけるポリマーへの酵素(複数)の共有結合は、適切な架橋剤と共に導入された架橋剤を介して行われ得る。酵素中の遊離アミノ基(例えば、リジン中の遊離側鎖アミン)との反応に適した架橋剤は、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDGE)又は他のポリエポキシド、塩化シアヌル、N-ヒドロキシスクシンイミド、イミドエステル、エピクロロヒドリン、又はそれらの誘導体化バリアントのような架橋剤を含み得る。酵素中の遊離カルボン酸基との反応に適した架橋剤は、例えば、カルボジイミドを含み得る。ポリマーへの酵素の架橋は、一般的に分子間であるが、いくつかの実施形態では分子内であり得る。特定の実施形態では、所与の活性領域内の酵素の全てが、ポリマーに共有結合され得る。
【0071】
電子移動剤及び/又は酵素(複数)は、共有結合以外の手段を介して活性領域においてポリマーに結合され得る。いくつかの実施形態では、電子移動剤及び/又は酵素(複数)はイオン的又は配位的にポリマーに結合され得る。例えば、荷電ポリマーは、反対に荷電した電子移動剤又は酵素(複数)にイオン的に結合され得る。さらに他の実施形態において、電子移動剤及び/又は酵素(複数)は、ポリマーに結合されることなく、ポリマー内に物理的に取り込まれ得る。物理的に取り込まれた電子移動剤及び/又は酵素(複数)は、依然として流体と適切に相互作用してもよく、活性領域から実質的に浸出することなく、被検物質の検出を促進する。
【0072】
活性領域(複数)内のポリマーは、ポリマーに共有結合していないNAD+又は別の補因子の外方拡散が制限されるように選択され得る。補因子の外方拡散の制限は、適度なセンサ寿命を促進し得る(数日から数週間)一方で、依然として、検出を促進するために十分な内方被検物質拡散を可能にする。
【0073】
本明細書に開示される被検物質センサにおける活性領域(複数)は、サイズが約0.01mm2から約1mm2又は約0.05mm2から約0.3mm2の範囲であり得る一つ以上の個別スポット(例えば、1個から約20個のスポット、又はさらに多くの個別スポット)を備えてもよいが、活性領域内のより大きい又はより小さい個々のスポットも本明細書において企図される。二つの異なる活性領域が存在するとき、個々のスポットの数及び/又はサイズは、活性領域の各種類について同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0074】
また、所与の被検物質又は被検物質の組み合わせに対する被検物質センサの感度(出力電流)は、活性領域の被覆率(面積又はサイズ)、互いに対する活性領域の面積比、活性領域を覆う物質移動制限膜の同一性、厚さ及び/又は組成を変更することによって変化し得ることを理解されたい。これらのパラメータの変更は、本明細書の開示の利益が与えられると、当業者によって容易に行われ得る。
【0075】
より具体的な実施形態では、本開示の被検物質センサは、組織内に挿入されるように構成されたセンサ尾部を備え得る。適切な組織は、特に限定されるとは考えられず、より詳細に上述されている。同様に、皮膚の真皮層のような所与の組織内の特定の位置にセンサ尾部を展開するための考慮事項は、上述される。
【0076】
本開示の特定の実施形態では、一つ以上の活性領域を覆う物質移動制限膜は、架橋ポリビニルピリジンホモポリマー又はコポリマーを備え得る。物質移動制限膜の組成は、異なる種類の活性領域を覆う物質移動制限膜と同じであってもよく、異なっていてもよい。膜組成が二つの異なる位置で異なるとき、膜は、二層膜又は二つの異なる膜ポリマーの均質混合物を備えることができ、その内の一つは、架橋ポリビニルピリジン又はポリビニルイミダゾールホモポリマー又はコポリマーであり得る。活性領域(複数)上に物質移動制限膜を堆積するための適切な技術は、例えば、スプレーコーティング、塗装、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ステンシル、ローラーコーティング、ディップコーティング等、及びそれらの任意の組み合わせを含み得る。ディップコーティング技術は、ポリビニルピリジン及びポリビニルイミダゾールポリマー及びコポリマーに特に望ましい場合がある。
【0077】
他の適切な物質移動制限膜は、一つ以上の作用電極の表面上でインサイチュ重合され得る。インサイチュで形成可能な物質移動制限膜の特定の例は、光重合(光硬化)物質移動制限膜を備え得る。複数の種類の活性領域が存在するとき、光重合物質移動制限膜は、各種類の活性領域上に選択的に形成され得る。すなわち、第1の部分を有する物質移動制限膜は、第1の種類の活性領域を覆うことができ、第1の部分とは組成が異なる第2の部分は、第2の種類の活性領域を覆い得る。物質移動制限膜は、二つ以上の活性領域の間で連続的であってもよく、連続的でなくてもよい。より詳細には、このような光重合物質移動制限膜は、一つ以上の活性領域と接触する第2の面上に一つ以上のモノマーを堆積させ、一つ以上のモノマーを光重合させることによって形成され得る。モノマーを堆積させるための適切な堆積技術は、例えば、噴霧、スクリーン印刷、又はこれらの任意の組み合わせを含む。光重合を通して得られ得る膜化学物質は、例えば、アクリレートポリマー及びコポリマー、チオール-エンコポリマー、又はそれらの任意の組み合わせを含む。これらの種類の膜の両方を形成するための重合は、活性領域における検知化学物質を妨げない条件下で起こり得る。さらなるインサイチュ架橋はまた、インサイチュで物質移動制限膜を形成する過程において、作用電極(複数)の表面上で生じ得る。
【0078】
非限定的な実施形態では、本開示の被検物質センサにおいて組み込むのに適した物質移動制限膜は、一つ以上のアクリレートモノマーを含むポリマー又はコポリマーを含み得る。用語「アクリレートモノマー」は、アクリル酸、メタクリル酸、又はそれらの誘導体を示す。アクリレート又はメタクリレートのいずれかであり得るモノマーは、本明細書では「(メタ)アクリレートモノマー」と示される。すなわち、「(メタ)アクリレート」としての特定のモノマーの指定は、特定のアクリレートモノマー及び対応するメタクリレートモノマー形態の両方を示す。本明細書の開示の物質移動制限膜中に存在し得る適切なアクリレートモノマーは、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレート、アルキルエーテルポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール)(メタ)アクリレート、アルキルエーテルポリ(プロピレングリコール)(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、2-(トリメチルシリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、又はこれらの任意の組み合わせを含む。グリシジル(メタ)アクリレートは、いくつかの場合において、さらに官能基化され得る。ジ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、又はそれらの任意の組み合わせのような架橋性アクリレートは、前述の(メタ)アクリレートモノマーのいずれかと組み合わせて存在し得る。十分な反応性の二つ以上のアルケン基を含有する任意の分子は、物質移動制限膜を形成するときに、架橋剤としても機能し得る。架橋性(メタ)アクリレートの量は、所望の架橋度、例えば、モノマーの総質量に対して最大約1重量%までの架橋性(メタ)アクリレートの重量百分率を与えるように選択され得る。特定の(メタ)アクリレートモノマー、架橋性(メタ)アクリレート又は同様のポリエン架橋剤、又はそれらの任意の組み合わせ、及びそれらの間の比率の選択は、所与の対象の被検物質に対する十分な透過性をもたらすように選択され得る。例えば、異なるレベルの親水性及び疎水性を有する二つ以上の(メタ)アクリレートモノマーが選択されてもよく、それらの比は、含水量及び被検物質の親水性又は疎水性に応じて特定の膜特性を与えるように変更されてもよい。グリシジル(メタ)アクリレートを含む膜はまた、ジオール又はトリオール架橋剤、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセロール、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、又はそれらの任意の組み合わせで架橋され得る。
【0079】
加えて、(メタ)アクリルアミド、アルキル又はジアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、又はアルキル(メタ)アクリレートエステルは、前述の(メタ)アクリレートモノマー又は架橋性アクリレートのいずれかと共重合され得る。他のオレフィン性不飽和モノマーもまた、上記(メタ)アクリレートモノマーのいずれかと共重合され得る。共重合され得る他のモノマーは、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン又はそれらの混合物のようなアルファオレフィンを含む。室温で液体であるアルファオレフィンが特に望ましい場合がある。このようなコモノマーは、得られる膜の物理的特性のさらなる調整を促進するために含まれ得る。例えば、一つ以上のアルファオレフィンモノマーは、膜の疎水性を増加させるために添加され得る。
【0080】
いくつかのアクリレートモノマーは、開始剤の非存在下で光重合又は熱重合を受け得る。他のアクリレートモノマーは、紫外線(例えば、水銀ランプからの)のような電磁放射線に曝露されたときにラジカル種を生成する適切な開始剤の存在下で光重合を受け得る。非限定的な実施形態において、適切な光開始剤は、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、アゾ化合物、及び過酸化物(例えば、N,N-ジメチルトルイジン促進剤を含む過酸化ベンゾイル)を含み得る。他の適切な光開始剤は、ノリッシュI型開始剤(例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、アミノアセトフェノン、及びアセトフェノンホスフィンオキシド等)、ノリッシュII型開始剤(例えば、ベンゾフェノン、ベンジルホルメート、及びチオキサントン等、場合によってはアミン相乗促進剤を含む)、フェノールグリオキサリックアシッドメチルエステル、アルファアミノケトン、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、又はこれらの任意の組み合わせを含み得るが、これらに限定されない。BASFからのCAROCUR、IRGACUR、及びLUCIRIN光開始剤が代表的な例である。適切な光開始剤は、モノマーの総質量に対して最大約1重量%までの量で存在し得る。
【0081】
チオール-エンコポリマーはまた、本明細書に開示される被検物質センサにおける物質移動制限膜として適切に組み込まれ得る。有利なことに、チオール-エンポリマーは、十分な重合が起こるために不活性空気の使用を必要とし得る(メタ)アクリレートポリマーとは対照的に、大気中で形成され得る。チオール-エンポリマーは、二つ以上のチオール基を含有するモノマーを、二つ以上の非共役アルケン基を含有するモノマーと反応させることによって得ることができる。必要に応じて、上記光開始剤のいずれかを使用することができる。二つのチオール基又は二つの非共役アルケン基を有するモノマーは、線形ポリマーを与え得る。三つ以上のチオール基又は三つ以上の非共役アルケン基を有するモノマーは、様々な程度の架橋を与え得る。いずれの種類の非架橋性モノマーも、例えば、架橋密度を低下させるために使用され得る。本質的に三脚型又は四脚型であり得る架橋性モノマーは、中心原子と末端チオール基又は末端アルケン基との間に可変長スペーサーを有し得る。スペーサーの長さ及び架橋性モノマーの量は、架橋密度にも影響を与え得る。
【0082】
チオール基を含有する特に適切なモノマーは、四脚型構造の各アームがチオール基で終端している四脚型であってもよい。以下の化合物1及び2は、光重合によって物質移動制限膜を形成する際の使用に適切であり得る四脚型に配置されたチオール基を含有するモノマーの例示的な例である。
【化2】
以下の化合物3(ジチオール)は、チオール-エンポリマーに線形部分を導入することによって架橋密度を減少させるために使用され得る。エタンジチオール及びプロパンジチオールのような小さいジチオールも、化合物3より大きいポリエーテルジチオールと同様に、架橋密度を減少させるために同様に使用され得る。同様に、架橋密度を低下させるためにトリチオールが使用され得る。
【化3】
【0083】
特に適切なエンモノマーは、所望の架橋密度に応じて、二脚型、三脚型、又は四脚型であり得る。化合物4から6は、それぞれ、二脚型、三脚型、及び四脚型のエンモノマーの例示的な例であり、式中、Aは、構造が特に限定されず、任意で一つ以上のヘテロ原子を含有し得るスペーサー基である。
化合物4 化合物5 化合物6
以下の化合物7から10は、インサイチュ光重合によって物質移動制限膜を形成するために適切であり得る特定のエンモノマーの例示的な例である。
【化4】
【0084】
光重合物質移動制限膜は、上述の炭素作用電極を備える被検物質センサに存在してもよく、又は光重合物質移動制限膜は、従来の炭素作用電極又は任意の他の種類の作用電極を備える被検物質センサに存在してもよい。いずれの場合も、光重合物質移動制限膜は、特定の用途特有の必要性を満たすように容易に調整することができるので、有利であり得る。さらに、光重合物質移動制限膜は、容易に分配されるモノマーの堆積によって得られてもよく、このモノマーは、噴霧又はスクリーン印刷技術によって一つ以上の特定の位置に堆積され得る。堆積特異性の結果として、異なる組成を有する光重合物質移動制限膜は、異なる種類の活性領域を覆い得る。代わりに、光重合物質移動制限膜は、第1の種類の活性領域を覆ってもよく、一方、第2の種類の活性領域は、ディップコーティングによって堆積されたポリビニルピリジン又はポリビニルイミダゾールポリマー又はコポリマーに覆われてもよい。
【0085】
従って、本開示のいくつかの被検物質センサは、第1の作用電極と、第1の作用電極上に配置され、第1の被検物質に応答する一つ以上の第1の活性領域と、第1の作用電極上に直接形成され、一つ以上の第1の活性領域の内の少なくとも一つを覆う第1の光重合物質移動制限膜と、を備え得る。第1の作用電極は、より詳細に上述した炭素電極のような第1の炭素電極であり得る。従来の炭素作用電極も適切であり得る。非限定的な実施形態において、第1の活性領域は、被検物質応答性酵素又は酵素系を備え得る。上記でより詳細に議論された被検物質のいずれかが、第1の活性領域によってアッセイされ得る。
【0086】
被検物質センサはまた、第2の作用電極と、第1の被検物質とは異なる第2の被検物質に応答する、第2の作用電極上に配置された一つ以上の第2の活性領域と、を備え得る。第2の作用電極は、より詳細に上述された炭素電極のような第2の炭素電極であってもよく、又は従来の炭素作用電極も適切であり得る。第2の物質移動制限膜は、少なくとも一つ以上の第2の活性領域を覆ってもよく、第1の光重合物質移動制限膜とは組成が異なり得る。第2の物質移動制限膜は、ディップコーティングされたポリビニルピリジン又はポリビニルイミダゾールポリマー又はコポリマーを含んでもよく、より望ましくは、第2の光重合物質移動制限膜は第1の物質移動制限膜とは組成が異なり得る。第1の光重合物質移動制限膜及び/又は第2の光重合物質移動制限膜は、膜が所与の活性領域の隣接するスポットの間又は異なる被検物質を検出するように構成された二つの異なる活性領域の間に延在しないように、不連続であり得る。
【0087】
従って、光重合物質移動制限膜を備える被検物質センサを形成するための方法は、第1の被検物質に応答する一つ以上の第1の活性領域が上に配置された少なくとも一つの第1の作用電極を備える被検物質センサを提供することと、一つ以上の第1の活性領域と接触する第1の作用電極上に一つ以上の第1のモノマーを適用することと、少なくとも一つ以上の第1の活性領域を覆う第1の物質移動制限膜を形成するために、光重合などによって第1の作用電極上で一つ以上の第1のモノマーをインサイチュ重合することと、を備え得る。非限定的な実施形態において、光重合は、一つ以上の第1のモノマー(例えば、第1のモノマー及び第2のモノマーの混合物)を紫外線及び任意に光開始剤に曝露することを備え得る。被検物質センサが第2の作用電極をさらに備えるとき、方法は、一つ以上の第2の活性領域と接触する第2の作用電極上に一つ以上の第2のモノマーを適用することと、少なくとも一つ以上の第2の活性領域を覆う第2の物質移動制限膜を形成するために、光重合などによって、第2の作用電極上に一つ以上の第2のモノマーを重合することと、をさらに備え得る。第2の物質移動制限膜は、第1の物質移動制限膜と同じ組成を有してもよく、組成が異なってもよい。様々な実施形態において、第1の物質移動制限膜及び第2の物質移動制限膜は、両方とも光重合され得る。
【0088】
被検物質センサは、上に配置された複数の活性領域を有する電極材料(例えば、炭素)を使用して集合体として調製され得る。一つ以上の第1のモノマーを含む溶液のシリンジ堆積などによって、一つ以上の第1のモノマーが活性領域に適用されると、上述されたように重合が行われ得る。一つ以上の第1のモノマーを含む溶液は、非限定的な例において、約100から200nLで堆積され得る。365nm及び1から30mW/cm2の照射出力を最大5分間紫外線照射するなどして重合が行われた後、電極材料をレーザ切断し、場合によっては物質移動制限膜を切断することによって、個々の被検物質センサを単離し得る。
【0089】
本明細書に開示される実施形態は、以下を含む。
【0090】
A.炭素作用電極を有する被検物質センサ。被検物質センサは、誘電体基板と、誘電体基板を貫通しており、誘電体基板の第1の面と第2の面との間に延在する炭素導体ピラーでそれぞれ充填される一つ以上の開口部と、各炭素導体ピラーと直接接触して誘電体基板の第1の面上に配置される炭素導体コーティングと、炭素導体コーティング上に配置される誘電体コーティングと、を備える炭素作用電極と、誘電体基板の第2の面上に位置し、炭素導体ピラーの各々と電気的に導通し、被検物質に応答する一つ以上の活性領域と、少なくとも一つ以上の活性領域を覆う物質移動制限膜と、を備える。
【0091】
B.炭素作用電極を有する被検物質センサを製造するための方法。本方法は、誘電体基盤を貫通し第1の面と第2の面との間に延在する一つ以上の開口部を有する誘電体基板を提供することと、一つ以上の開口部を炭素導体で充填して炭素導体ピラーをその中に形成し、誘電体基板の第1の面上に炭素導体コーティングを堆積させ、炭素導体コーティングを各炭素導体ピラーに直接接触させることと、炭素導体コーティング上に誘電体コーティングを堆積させることと、一つ以上の開口部内の炭素導体ピラーと電気的に導通し、被検物質に応答する一つ以上の活性領域を誘電体基板の第2の面上に形成することと、少なくとも一つ以上の活性領域上に物質移動制限膜を堆積させることと、を備える。
【0092】
C.物質移動制限膜を有する被検物質センサ。被検物質センサは、第1の作用電極と、第1の作用電極上に配置され、第1の被検物質に応答する一つ以上の第1の活性領域と、第1の作用電極上に直接形成され、少なくとも一つ以上の第1の活性領域を覆う第1の光重合物質移動制限膜と、を備える。
【0093】
D.物質移動制限膜を有する被検物質センサを製造するための方法。本方法は、第1の被検物質に応答する一つ以上の第1の活性領域が上に配置された少なくとも一つの第1の作用電極を備える被検物質センサを提供することと、一つ以上の第1の活性領域と接触する第1の作用電極上に一つ以上の第1のモノマーを適用することと、少なくとも一つ以上の第1の活性領域を覆う第1の物質移動制限膜を形成するために、第1の作用電極上で一つ以上の第1のモノマーをインサイチュ重合することと、を備える。
【0094】
実施形態AからDの各々は、以下の追加要素の内の一つ以上を任意の組み合わせで有し得る。
【0095】
要素1:一つ以上の開口部は、誘電体基板を貫通する複数のビアを備える。
【0096】
要素2:各ビアは、中に配置された炭素導体ピラー上に直接配置された活性領域を有する。
【0097】
要素3:被検物質センサは、誘電体基板の第2の面上に配置され、複数のビアを覆う炭素導体ストリップをさらに備え、一つ以上の活性領域は、炭素導体ストリップ上に直接配置される。
【0098】
要素4:一つ以上の開口部は、誘電体基板を貫通するスロットを備える。
【0099】
要素5:複数の活性領域が、スロット内に配置された炭素導体ピラー上に直接配置される。
【0100】
要素6:一つ以上の活性領域は、一つ以上の被検物質応答性酵素を備える。
【0101】
要素7:物質移動制限膜が光重合物質移動制限膜である。
【0102】
要素8:光重合物質移動制限膜は、一つ以上の活性領域上に選択的に形成される。
【0103】
要素9:物質移動制限膜は、アクリレートポリマー又はコポリマー、チオール-エンコポリマー、又はこれらの任意の組み合わせを備える。
【0104】
要素10:炭素作用電極は、組織内に挿入されるように構成されたセンサ尾部上に配置される。
【0105】
要素11:本方法は、誘電体基板の第2の面上に複数のビアを覆う炭素導体ストリップを堆積させることをさらに備え、一つ以上の活性領域が、炭素導体ストリップ上に直接配置される。
【0106】
要素12:物質移動制限膜は、ディップコーティングによって堆積される。
【0107】
要素13:物質移動制限膜は、一つ以上の活性領域上にインサイチュ重合される。
【0108】
要素14:物質移動制限膜は、光重合物質移動制限膜であり、一つ以上の活性領域と接触する誘電体基板の第2の面上に一つ以上のモノマーを堆積させ、一つ以上のモノマーを光重合させることによって形成される。
【0109】
要素15:光重合物質移動制限膜は、アクリレートポリマー又はコポリマー、チオール-エンコポリマー、又はこれらの任意の組み合わせを備える。
【0110】
要素16:第1の光重合物質移動制限膜は、アクリレートポリマー又はコポリマー、チオール-エンコポリマー、又はこれらの任意の組み合わせを備える。
【0111】
要素17:被検物質センサは、第2の作用電極と、第2の作用電極上に配置され、第1の被検物質とは異なる第2の被検物質に応答する一つ以上の第2の活性領域と、少なくとも一つ以上の第2の活性領域を覆い、第1の光重合物質移動制限膜とは組成が異なる第2の物質移動制限膜と、をさらに備える。
【0112】
要素18:第2の物質移動制限膜は、第1の光重合物質移動制限膜とは組成が異なる第2の光重合物質移動制限膜である。
【0113】
要素19:第1の光重合物質移動制限膜は架橋される。
【0114】
要素20:第1の光重合物質移動制限膜は不連続である。
【0115】
要素21:第1の光重合物質移動制限膜は、実質的に一つ以上の活性領域上に配置される。
【0116】
要素22:一つ以上の第1の活性領域は、一つ以上の被検物質応答性酵素を備える。
【0117】
要素23:第1の作用電極は、組織内に挿入されるように構成されたセンサ尾部上に配置される。
【0118】
要素24:第1の物質移動制限膜は、一つ以上の第1のモノマーを光重合することによって形成された光重合物質移動制限膜である。
【0119】
要素25:一つ以上の第1のモノマーを適用することは、一つ以上の第1のモノマーをスクリーン印刷すること、一つ以上の第1のモノマーを噴霧すること、又はこれらの任意の組み合わせを備える。
【0120】
要素26:被検物質センサは、上に配置された一つ以上の第2の活性領域を有する第2の作用電極をさらに備え、一つ以上の第2の活性領域は、第1の被検物質とは異なる第2の被検物質に応答し、本方法は、一つ以上の第2の活性領域と接触する第2の作用電極上に一つ以上の第2のモノマーを適用することと、第1の物質移動制限膜とは組成が異なり、少なくとも一つ以上の第2の活性領域を覆う第2の物質移動制限膜を形成するために第2の作用電極上に一つ以上の第2のモノマーをインサイチュ重合させることと、をさらに備える。
【0121】
要素27:第2の物質移動制限膜は、一つ以上の第2のモノマーを光重合することによって形成された光重合物質移動制限膜である。
【0122】
要素28:第1の物質移動制限膜は不連続である。
【0123】
要素29:第1の物質移動制限膜は、一つ以上の第1の活性領域上に選択的に形成される。
【0124】
非限定的な例として、Aに適用可能な例示的な組み合わせは、限定されないが、1及び2、1及び3、1から3、1及び6、1及び7、1及び8、1及び9、1及び10、4及び5、4及び6、4から6、4及び7、4と5及び7、4及び8、4と5及び8、4及び9、4と5及び9、4及び10、及び4と5及び10を含む。Bに適用可能な例示的な組合せは、限定されないが、1及び2、1及び11、1と2及び11、1及び6、1及び7、1及び8、1及び9、1及び10、4及び5、4及び6、4から6、4及び7、4と5及び7、4及び8、4と5及び8、4及び9、4と5及び9、4及び10、4と5及び10、1及び12、1と2及び12、1及び13、1と2及び13、1と2と11及び13、4及び12、4と5及び12、4及び13、4と5及び13、1と13及び14、4と13及び14、1及び13から15、及び4及び13から15を含む。Cに適用可能な例示的な組合せは、限定されないが、16及び17、16から18、16及び19、16及び20、16及び21、16及び22、16及び23、17及び18、17及び19、17及び20、17及び21、17及び22、17及び23、20及び21、20及び22、20及び23、21及び22、21及び23、及び22及び23を含む。Dに適用可能な例示的な組合せは、限定されないが、16及び24、16と24及び25、24及び25、16と24及び26、24及び26、24と26及び27、16と24及び28、24及び28、16と24と26及び27、24及び29、16と24及び29、26及び27、26及び28、26から28、26及び29、26と27及び29、及び28及び29を含む。
【0125】
本明細書に記載される実施形態のより良い理解を容易にするために、様々な代表的な実施形態の以下の例が与えられる。以下の実施例は、本発明の範囲を限定又は定義するために読まれるべきではない。
【0126】
実施例
センサ製造のための一般的な手順。適切な検知層化学物質を、最初に、約0.05から0.3mm2の面積を有する一群の別のドット又はスロットとして作用電極(例えば、炭素作用電極)上に堆積した。検知層化学物質の堆積は、通常、圧電堆積デバイスを用いて行った。次に、マイクロシリンジを使用して、約1.5mm×2.5mmの作用電極面積にわたって、モノマー(複数)、架橋剤、及び開始剤を含有する約100から200nLのモノマー溶液を手動で堆積させた。次に、得られた構築物を、365nmで放射するUVランプを含有するアルゴン充填チャンバー内に移した。次に、物質移動制限膜を1から30mW/cm2のUV出力で5分間まで光重合させた。次に、個々のセンサをレーザ切断によって単離した。
【0127】
様々な被検物質のための活性領域は、電子移動剤として以下の化学式11に示す構造を有するポリ(ビニルピリジン)結合遷移金属錯体を利用した。この遷移金属錯体及びそれを用いた電子移動に関するさらなる詳細は、共有の米国特許第6,605,200号に提供され、これは、上記で参照により組み込まれる。各モノマーの下付き文字は、例示的な原子比率を示し、任意の特定のモノマー順序を示すものではない。
【化5】
【0128】
実施例1:光重合膜に覆われたグルコースセンサ。グルコース応答性活性領域を以下の表1に示される配合物を使用して堆積させ、10mM HEPES緩衝液(pH=8.05)中に配合した。
【表1】
合計12nLの表1の配合物を、圧電分注システムを使用して炭素作用電極上に堆積させ、約0.1mm
2の面積を有するグルコース応答性活性領域を形成した。次に、200nL体積の2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及びポリ(プロピレングリコール)メタクリレート(POMA)を活性領域上に堆積させ、1重量%の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン光開始剤及び1重量%のジ(エチレングリコール)ジメタクリレート架橋剤の存在下で様々なモル比率のモノマーで重合させた。重合及び架橋は、アルゴン下で5分間、365nmのUV照射波長及び6mW/cm
2の出力において行った。次に、光重合膜をレーザ切断することによってセンサを単離し、0.7mm幅の尾部を形成した。
図13は、33℃におけるPBS中のグルコース濃度の範囲を達成するために、様々な量の1Mグルコースストック溶液の添加後に、様々な比率のHEMA:POMAから形成された物質移動制限膜に覆われたいくつかのグルコースセンサのセンサ応答のプロットを示す。
図14は、グルコース濃度の関数としてのセンサ応答の対応するプロットを示す。HEMA:POMA膜を有する被検物質センサは、14日間にわたって10%未満の平均ドリフトを示したが、HEMAのみを備える膜は、ほとんど100%ドリフトした(データ図示無し)。2:1及び4:1のHEMA:POMA比率は、シグナル、応答直線性及び延長された応答安定性の良好なバランスをもたらした。
【0129】
実施例2:HEMA-POMA膜に覆われたケトンセンサ。ケトン応答性活性領域を以下の表2に示される配合物を使用して堆積させ、10mM MES緩衝液(pH=5.5)中に配合した。
【表2-1】
【表2-2】
合計12nLの表2の配合物を、圧電分注システムを使用して炭素作用電極上に堆積させ、約0.1mm
2の面積を有するケトン応答性活性領域を形成した。次に、200nL体積の2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及びポリ(プロピレングリコール)メタクリレート(POMA)を活性領域上に堆積させ、1重量%の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン光開始剤及び1重量%のジ(エチレングリコール)ジメタクリレート架橋剤の存在下で様々なモル比率のモノマーで重合させた。重合及び架橋は、アルゴン下で5分間、365nmのUV照射波長及び6mW/cm
2の出力において行った。次に、光重合膜をレーザ切断することによってセンサを単離し、0.7mm幅の尾部を形成した。次に、PVP-コ-スチレン層を、センサ尾部をディップコーティングすることによってHEMA-POMAコポリマー上に形成した。
図15A及び
図15Bは、33℃におけるPBS中のケトン濃度の範囲を達成するために、様々な量の1Mケトンストック溶液の添加後に、様々な比率のHEMA:POMAから形成された物質移動制限膜に覆われたいくつかのケトンセンサのセンサ応答のプロットを示す。
図16A及び
図16Bは、ケトン濃度の関数としてのセンサ応答の対応するプロットを示す。4:6のHEMA:POMA比率は、シグナル及び応答直線性の良好なバランスをもたらした。ディップコーティングされたPVP/PVP-コ-スチレン物質移動制限膜対照に匹敵するセンサ性能が達成され、これは、ケトンをアッセイするときに良好な性能をもたらす(上記で参照された米国特許出願第16/774,835号)。センサ応答は、このHEMA:POMA比率において二週間の測定にわたって約2.4%変化した(データ図示無し)。
【0130】
実施例3:チオール-エンポリマーシステム内の架橋密度変動。2,2’-(エタン-1,2-ジイルビス(オキシ))ビス(エタン-1-チオール)(EDDEE)及び2-(5-メルカプト-3-オキソペンチル)-2-(((3-メルカプトプロパノイル)オキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイルビス(3-メルカプトプロパノエイト)(PETMP)を様々なモル比率で組み合わせ、以下の表3に示すように、トリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル(TEGDVE)と光重合させた。二つのチオール対TEGDVEのモル比率は、全ての場合において1:1に維持した。重合は、モノマー混合物を365nmのUV光に6mW/cm
2の出力密度で5分間、空気下で曝露することによって行った。表3はまた、得られたポリマー特性をまとめたものである。
【表3】
表1の項目1から12は、最低から最高の架橋密度のおおよその順序でランク付けされている。架橋密度は、ポリマーの外観によって定性的に、並びにポリマーによって吸収された水の量によって半定量的に評価した。含水率は、一つのポリマーを水中に8時間浸漬した後の乾燥ポリマー質量と湿潤ポリマー質量との差の湿潤ポリマー質量に対する比率によって測定した。表3に示すように、四官能性チオールPETMPが多いほど、より高い架橋密度値をもたらした。この実施例は、異なる被検物質のサイズを説明するためにチオール-エンポリマーシステムの透過性を調節することが可能であることを実証する。含水システムについては、ポリマーの含水量が高いほど、通常、より高い透過性値を示す。
【0131】
実施例4:チオール-エン膜に覆われたケトンセンサ。ケトンセンサを実施例2のように製造し、表3の項目6、8、11及び12からのチオール-エンコポリマーを用いて覆った。光重合を実施例3と同様に行った。次に、光重合膜をレーザ切断することによってセンサを単離し、0.7mm幅の尾部を形成した。次に、PVP-コ-スチレン層を、センサ尾部をディップコーティングすることによってチオール-エンコポリマー上に形成した。
図17は、33℃におけるPBS中のケトン濃度の範囲を達成するために、様々な量の1Mケトンストック溶液の添加後に、様々な比率のチオールーエンポリマーから形成された物質移動制限膜に覆われたいくつかのケトンセンサのセンサ応答のプロットを示す。
図18は、ケトン濃度の関数としてのセンサ応答の対応するプロットを示す。一般に、粘着性膜であった項目6から形成された膜を除いて、架橋密度が減少するにつれてセンサ応答は増加した。
【0132】
別段の指示がない限り、本明細書及び関連する特許請求の範囲における量などを表す全ての数字は、全ての場合において用語「約」によって修飾されることが理解されるべきである。従って、反対のことが示されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載の数値パラメータは、本発明の実施形態によって得ようとする所望の性質に応じて変わり得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲の範囲に均等論を適用することを制限するための試みではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効数字の数を考慮して通常の丸め技術を適用することにより解釈されるべきである。
【0133】
様々な特徴を組み込んだ一つ以上の例示的な実施形態が、本明細書に提示される。物理的実施の全ての特徴が、明確にするために、本出願において記載され又は示されるわけではない。本発明の実施形態を組み込んだ物理的実施形態の開発において、例えば、システムに関する、ビジネスに関する、政府に関する及び他の制約の遵守のような開発者の目標を達成するために、多数の実施固有の決定を行う必要があり、それは実施によって及び場合によって変化することは理解される。開発者の努力は時間がかかるかもしれないが、そのような努力は、それでもなお、当業者において日常的な取り組みであり、本開示の利益を有するであろう。
【0134】
様々なシステム、ツール及び方法が、様々な構成要素又は工程について「備える」という観点で本明細書に記載される一方で、システム、ツール及び方法はまた様々な構成要素及び工程について「から本質的になる」又は「からなる」とできる。
【0135】
本明細書で用いられるように、一連の項目より先にあり、項目のいくつかを隔てる「及び」又は「又は」という用語とともに「の内の少なくとも一つ」という句は、リストの各メンバー(すなわち、各項目)よりむしろリスト全体を修飾する。「の内の少なくとも一つ」という句は、項目の任意の一つの内の少なくとも一つ、及び/又は項目の任意の組み合わせの内の少なくとも一つ、及び/又は項目のそれぞれの内の少なくとも一つを含む意味を許容する。例として、「A、B及びCの内の少なくとも一つ」又は「A、B、又はCの内の少なくとも一つ」という句はそれぞれ、Aのみ、Bのみ、又はCのみ;A、B、及びCの任意の組み合わせ;及び/又はA、B、及びCのそれぞれの内の少なくとも一つを示す。
【0136】
従って、開示されたシステム、ツール及び方法は、言及された目的及び利点並びにそれらに固有の目的及び利点を達成するために十分に適用される。本開示の教示は、本明細書の教示の利益を有する当業者には明らかに、異なるが同等の態様で修正及び実施されてもよく、上記で開示された特定の実施形態は、一例に過ぎない。さらに、以下の特許請求の範囲において説明される以外に、本明細書に示される構成又は設計の詳細は、いかなる制限も意図されていない。従って、上記で開示された特定の例示的な実施形態は、変更、組み合わせ、又は修正されてもよく、そのような全ての変形は、本開示の範囲内であると考慮されることは明らかである。本明細書に例示的に開示されているシステム、ツール及び方法は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素及び/又は本明細書に開示された任意選択の要素がない状態において、適切に実行され得る。システム、ツール及び方法は、様々な構成要素又は工程を「備える」、「含有する」、又は「含む」という観点で記載されているが、システム、ツール及び方法はまた、様々な構成要素及び工程「から本質的になる」又は「からなる」とできる。上記に開示された全ての数及び範囲は、ある量だけ変化し得る。下限及び上限を有する数値範囲が開示されるときはいつでも、その範囲内に入る任意の数及び任意の含まれる範囲が具体的に開示される。特に、本明細書に開示される値の全ての範囲(「約aから約b」、又は同等に「およそaからb」、又は同等に「およそaからb」の形態)は、より広い値の範囲に含まれる全ての数及び範囲を記載することが理解されるべきである。また、特許請求の範囲において、用語は、特許権者によって明示的にかつ明確に規定されない限り、平易で通常の意味を有する。さらに、特許請求の範囲において用いられる、不定冠詞「a」又は「an」は、それが導入する要素の一つ以上を意味することが本明細書で定義される。本明細書及び、参照によって本明細書に組み込まれ得る一つ以上の特許文献又は他の文献において、単語又は用語の使用方法にいくつかの矛盾が生じた場合、本明細書と一貫している定義が、採用されるべきである。