(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】キサゲ加工を行うロボット、ロボットシステム、方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B23D 79/06 20060101AFI20241001BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20241001BHJP
B25J 13/00 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
B23D79/06
B23Q11/00 M
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2022578286
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2022001833
(87)【国際公開番号】W WO2022163467
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2021010601
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 忠則
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-123921(JP,A)
【文献】特開平06-063817(JP,A)
【文献】特開平07-136843(JP,A)
【文献】特開平10-151522(JP,A)
【文献】特開2004-042164(JP,A)
【文献】特開2010-240809(JP,A)
【文献】特開2016-137551(JP,A)
【文献】特開2017-131974(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0159156(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0342125(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0250843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 79/02-79/06
B23Q 1/01-11/00
B24B 7/10-41/04
B25J 13/00-13/08
B26B 27/00
B26D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面を平坦にするために削るキサゲ加工を行うロボットであって、
ベース部と、
互いに対向するように前記ベース部に設けられた一対のスクレーパであって、前記ベース部に連結される基端、及び前記表面を削る先端を各々有し、該基端から該先端へ向かうにつれて互いに接近又は離反するように延在する、一対のスクレーパと、
前記一対のスクレーパの一方が他方よりも前記表面に近くなる第1の姿勢と、前記他方が前記一方よりも前記表面に近くなる第2の姿勢との間で前記ベース部を回動させる移動機構部と、を備える、ロボット。
【請求項2】
前記ベース部は、第1の軸線に沿って延在し、
前記一対のスクレーパは、前記第1の軸線の方向に互いに対向するように配置され、
前記移動機構部は、前記第1の軸線と直交する第2の軸線の周りに前記ベース部を回動させる、請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記一対のスクレーパは、前記第1の軸線及び前記第2の軸線と直交する第3の軸線を基準として互いに対称に配置される、請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記一対のスクレーパのうちの少なくとも一方は、該一対のスクレーパの間隔を可変とするように前記ベース部に可動に設けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項5】
前記一対のスクレーパのうちの少なくとも一方は、前記ベース部に回動可能に設けられる、請求項1~4のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のロボットと、
前記ロボットを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記ベース部を前記第1の姿勢に配置した状態で、前記一方の前記先端を前記表面へ押し付けて前記ベース部を第1の方向へ移動させることで、第1の前記キサゲ加工を実行し、
前記第1のキサゲ加工の後に、前記ベース部を前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に回動させ、
前記ベース部を前記第2の姿勢に配置した状態で、前記他方の前記先端を前記表面へ押し付けて前記ベース部を前記第1の方向とは反対の第2の方向へ移動させることで、第2の前記キサゲ加工を実行する
ように、前記移動機構部を制御する、ロボットシステム。
【請求項7】
前記一対のスクレーパの前記先端の間に配置された開口部を有し、前記キサゲ加工により生じた切屑を、前記開口部を通して吸引するか、又は前記開口部から噴射した流体によって吹き飛ばす清掃装置をさらに備える、請求項6に記載のロボットシステム。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のロボットを用いて、ワークの表面を平坦にするために削るキサゲ加工を行う方法であって、
プロセッサが、
前記ベース部を前記第1の姿勢に配置した状態で、前記一方の前記先端を前記表面へ押し付けて前記ベース部を第1の方向へ移動させることで、第1の前記キサゲ加工を実行し、
前記第1のキサゲ加工の後に、前記ベース部を前記第1の姿勢から前記第2の姿勢に回動させ、
前記ベース部を前記第2の姿勢に配置した状態で、前記他方の前記先端を前記表面へ押し付けて前記ベース部を前記第1の方向とは反対の第2の方向へ移動させることで、第2の前記キサゲ加工を実行する
ように、前記移動機構部を制御する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法を前記プロセッサに実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キサゲ加工を行うロボット、ロボットシステム、方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
キサゲ加工を行うロボットが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットによるキサゲ加工によって複数の凹部を形成する場合において、キサゲ加工のサイクルタイムを縮減することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様において、ワークの表面を平坦にするために削るキサゲ加工を行うロボットは、ベース部と、互いに対向するようにベース部に設けられた一対のスクレーパであって、ベース部に連結される基端、及び表面を削る先端を各々有し、該基端から該先端へ向かうにつれて互いに接近又は離反するように延在する、一対のスクレーパと、一対のスクレーパの一方が他方よりも表面に近くなる第1の姿勢と、他方が一方よりも表面に近くなる第2の姿勢との間でベース部を回動させる移動機構部とを備える。
【0006】
本開示の他の態様において、上記のロボットを用いて、ワークの表面を平坦にするために削るキサゲ加工を行う方法は、プロセッサが、ベース部を第1の姿勢に配置した状態で、一方の先端を表面へ押し付けてベース部を第1の方向へ移動させることで、第1のキサゲ加工を実行し、第1のキサゲ加工の後に、ベース部を第1の姿勢から第2の姿勢に回動させ、ベース部を第2の姿勢に配置した状態で、他方の先端を表面へ押し付けてベース部を第1の方向とは反対の第2の方向へ移動させることで、第2のキサゲ加工を実行するように、移動機構部を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ベース部を第1の姿勢と第2の姿勢との間で回動させることでスクレーパを切り換え、一方のスクレーパで1つの凹部を形成する一方、他方のスクレーパで次の凹部を形成できる。これにより、1つの凹部を形成する第1のキサゲ加工の終了時から、次の凹部を形成する第2のキサゲ加工の開始時までの時間を短縮することができるので、複数の凹部を表面に連続して効率的に形成することができる。その結果、キサゲ加工のサイクルタイムを縮減できるので、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係るロボットシステムの図である。
【
図2】
図1に示すロボットシステムのブロック図である。
【
図3】
図1に示すエンドエフェクタの拡大図である。
【
図4】
図3に示すスクレーパの刃部を上側から見た拡大図である。
【
図5】スクレーパをワークの表面に押し付けている状態を示す。
【
図6】ベース部が第1の姿勢に配置されている状態を示す。
【
図7】一方のスクレーパでワークの表面に形成された第1の凹部を示す。
【
図8】ベース部が第2の姿勢に配置されている状態を示す。
【
図9】他方のスクレーパでワークの表面に形成された第2の凹部を示す。
【
図10】ワークの表面に並ぶように形成された複数の凹部を示す。
【
図11】キサゲ加工の他の例を説明するための図であって、ワークの表面の一方の端縁から他方の端縁まで延在するように形成された凹部を示す。
【
図12】一方のスクレーパで形成する凹部のためにワークの表面に設定された教示点の一例を示す。
【
図13】位置制御指令としての速度指令と、力制御指令としての速度指令を説明するための図である。
【
図14】キサゲ加工中に一方のスクレーパが実際に移動する軌道を示す。
【
図15】他方のスクレーパで形成する凹部のためにワークの表面に設定された教示点の一例を示す。
【
図16】キサゲ加工中に他方のスクレーパが実際に移動する軌道を示す。
【
図17】キサゲ加工中の押付力の時間変化特性の一例を示す。
【
図18】キサゲ加工中の押付力の時間変化特性の他の例を示す。
【
図19】複数列の凹部を形成するキサゲ加工を説明するための図である。
【
図20】複数列の凹部を形成するキサゲ加工を説明するための図である。
【
図21】複数列の凹部を形成するキサゲ加工を説明するための図である。
【
図22】複数列の凹部を形成するキサゲ加工を説明するための図である。
【
図23】他の実施形態に係るロボットシステムの図である。
【
図26】他の実施形態に係るエンドエフェクタの拡大図である。
【
図27】
図26に示すエンドエフェクタを用いたキサゲ加工を説明するための図である。
【
図28】さらに他の実施形態に係るエンドエフェクタの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する種々の実施形態において、同様の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明においては、図中のロボット座標系C1のx軸プラス方向を右方、y軸プラス方向を前方、z軸プラス方向を上方として言及することがある。
【0010】
まず、
図1~
図3を参照して、一実施形態に係るロボットシステム10について説明する。ロボットシステム10は、ワークWの表面Qを平坦にするために削るキサゲ加工を行うシステムである。キサゲ加工とは、ワークWの表面Qに形成された微小凹凸の、該ワークWの厚さ方向の寸法を予め定めた範囲内(例えば、μmオーダー)にするために、該表面Qを削る加工である。
【0011】
この微小凹凸は、摺動面として用いられる該表面Qに潤滑油を溜めるための、いわゆる「油溜り」として機能する。例えば、キサゲ加工は、ワークの表面をフライス盤等で加工したときに形成される微小凹凸を第1の寸法(例えば、10μm)以下とするための粗加工と、該粗加工の後に該微小凹凸を、第1の寸法よりも小さい第2の寸法(例えば、5μm)以下にする仕上げ加工とを含む。
【0012】
ロボットシステム10は、ロボット12、力センサ14、及び制御装置16を備える。本実施形態においては、ロボット12は、垂直多関節ロボットであって、移動機構部18、及びエンドエフェクタ20を有する。移動機構部18は、ロボットベース22、旋回胴24、下腕部26、上腕部28、及び手首部30を有する。ロボットベース22は、作業セルの床の上に固定されている。旋回胴24は、鉛直軸周りに旋回可能となるように、ロボットベース22に設けられている。
【0013】
下腕部26は、旋回胴24に水平軸周りに回動可能に設けられ、上腕部28は、下腕部26の先端部に回動可能に設けられている。手首部30は、上腕部28の先端部に、軸線A1の周りに回動可能となるように設けられた手首ベース30aと、軸線A2の周りに回動可能となるように該手首ベース30aに設けられた手首フランジ30bとを有する。軸線A2は、軸線A1と直交し、該軸線A1の周りに回転する。
【0014】
移動機構部18の各構成要素(ロボットベース22、旋回胴24、下腕部26、上腕部28、手首部30)には、サーボモータ32(
図2)が設けられている。これらサーボモータ32は、制御装置16からの指令に応じて、移動機構部18の各可動要素(旋回胴24、下腕部26、上腕部28、手首部30、手首フランジ30b)を駆動軸周りに回動させる。その結果、移動機構部18は、エンドエフェクタ20を移動させて任意の位置及び姿勢に配置することができる。
【0015】
エンドエフェクタ20は、力センサ14を介して、手首フランジ30bに着脱可能に取り付けられている。以下、
図3を参照して、エンドエフェクタ20の構成について説明する。エンドエフェクタ20は、ベース部34、取付フランジ36、一対のスクレーパ保持部38及び40、一対のスクレーパ42及び44を有する。
【0016】
ベース部34は、軸線A3に沿って真直ぐに延在する棒状部材である。軸線A3は、軸線A2と直交し、該軸線A2の周りに回転する。取付フランジ36は、軸線A2を中心とする円筒状部材であって、ベース部34の頂面34aの中心部に固設されている。本実施形態においては、取付フランジ36は、力センサ14の先端部に、例えば締結具(ボルト等)を用いて固定される。一対のスクレーパ保持部38及び40は、ベース部34の底面34bにそれぞれ固定され、軸線A3の方向に互いに離隔して配置されている。
【0017】
一対のスクレーパ42及び44は、軸線A3の方向に互いに対向するようにベース部34に設けられている。本実施形態においては、一対のスクレーパ42及び44は、軸線A2を基準として対称に配置されている。より具体的には、スクレーパ42は、柄部46及び刃部48を有する。柄部46は、その基端46aから先端46bまで、軸線A4に沿って略直線状に延びる可撓性部材であって、その基端46aで、例えば締結具(ボルト等)を用いて、スクレーパ保持部38に固定されている。
【0018】
刃部48は、その基端48aから先端48bまで軸線A4に沿って延びる鉄製部材であって、その基端48aが柄部46の先端46bに固定されている。
図4に示すように、刃部48の先端48bは、上側から見た場合に、その幅方向両端から中央に向かうにつれて外方へ膨出するように湾曲している。刃部48は、その先端48bで、ワークWの表面Qを削る。
【0019】
柄部46の基端46aは、スクレーパ42の基端を画定する一方、刃部48の先端48bは、スクレーパ42の先端を画定している。スクレーパ42は、その基端46aが、スクレーパ保持部38を介してベース部34に連結され、これにより該ベース部34に支持される。本実施形態においては、軸線A4は、軸線A3に対して角度θ1だけ傾斜しており、スクレーパ42は、その基端46aから先端48bへ向かうにつれてスクレーパ44へ接近するように延在している。
【0020】
スクレーパ44は、スクレーパ42と同じ構成を有する。具体的には、スクレーパ44は、柄部50及び刃部52を有する。柄部50は、その基端50aから先端50bまで、軸線A5に沿って略直線状に延びる可撓性部材であって、基端50aでスクレーパ保持部40に固定されている。
【0021】
刃部52は、その基端52aから先端52bまで軸線A5に沿って延び、その基端52aが柄部50の先端50bに固定されている。
図4に示すように、刃部52の先端52bは、刃部48と同様に、その幅方向両端から中央に向かうにつれて外方へ膨出するように湾曲している。刃部52は、その先端52bで、ワークWの表面Qを削る。
【0022】
柄部50の基端50aは、スクレーパ44の基端を画定する一方、刃部52の先端52bは、スクレーパ44の先端を画定している。スクレーパ44は、その基端50aが、スクレーパ保持部40を介してベース部34に連結され、これにより該ベース部34に支持される。
【0023】
本実施形態においては、軸線A5は、軸線A3に対して角度θ2だけ傾斜しており、スクレーパ44は、その基端50aから先端52bへ向かうにつれてスクレーパ42へ接近するように延在している。なお、スクレーパ42の軸線A4の軸線A3に対する傾斜角度θ1と、スクレーパ44の軸線A5の軸線A3に対する傾斜角度θ2とは、互いに略同じ(θ1=θ2)である。
【0024】
このように、一対のスクレーパ42及び44は、軸線A3の方向に互いに対向配置され、その基端46a及び50aから先端48b及び52bへ向かうにつれて互いに接近するように延在している。そして、スクレーパ42の先端48bと、スクレーパ44の先端52bとは、軸線A3の方向へ間隔δだけ離隔する。
【0025】
力センサ14は、移動機構部18がスクレーパ42又は44をワークWの表面Qに押し付ける押付力Fを検出する。例えば、力センサ14は、円筒状の本体部と、該本体部に設けられた複数の歪ゲージ(ともに図示せず)とを有する6軸力覚センサであって、手首フランジ30bとエンドエフェクタ20との間に介挿されている。本実施形態においては、力センサ14は、その中心軸が軸線A2と一致するように(換言すれば、手首フランジ30b及び取付フランジ36と同心状に)、配置されている。
【0026】
制御装置16は、ロボット12の動作を制御する。
図2に示すように、制御装置16は、プロセッサ60、メモリ62、I/Oインターフェース64、入力装置66、及び表示装置68を有するコンピュータである。プロセッサ60は、メモリ62、I/Oインターフェース64、入力装置66、及び表示装置68と、バス70を介して通信可能に接続されており、これらコンポーネントと通信しつつ、キサゲ加工を実行するための演算処理を行う。
【0027】
メモリ62は、RAM又はROM等を有し、プロセッサ60が実行する演算処理で利用される各種データ、及び演算処理の途中で生成される各種データを、一時的又は恒久的に記憶する。I/Oインターフェース64は、例えば、イーサネット(登録商標)ポート、USBポート、光ファイバコネクタ、又はHDMI(登録商標)端子を有し、プロセッサ60からの指令の下、外部機器との間でデータを有線又は無線で通信する。本実施形態においては、移動機構部18の各サーボモータ32及び力センサ14は、I/Oインターフェース64に通信可能に接続されている。
【0028】
入力装置66は、キーボード、マウス、又はタッチパネル等を有し、オペレータによるデータ入力が可能である。表示装置68は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等を有し、プロセッサ60からの指令の下、各種データを視認可能に表示する。なお、入力装置66又は表示装置68は、制御装置16の筐体に一体に組み込まれてもよいし、又は、制御装置16の筐体とは別体として該筐体に外付けされてもよい。
【0029】
図1に示すように、ロボット12には、ロボット座標系C1が設定されている。ロボット座標系C1は、移動機構部18の各可動要素の動作を制御するための座標系であって、ロボットベース22に対して固定されている。本実施形態においては、ロボット座標系C1は、その原点が、ロボットベース22の中心に配置され、そのz軸が、旋回胴24の旋回軸に一致するように、移動機構部18に対して設定されている。
【0030】
図3に示すように、スクレーパ42には、ツール座標系C2が設定されている。ツール座標系C2は、ロボット座標系C1におけるスクレーパ42の位置及び姿勢を規定する座標系であって、手首フランジ30bに対して既知の位置に配置されている。本実施形態においては、ツール座標系C2は、その原点(いわゆる、TCP)が、柄部46が撓んでいない状態における刃部48の先端48bの中心に配置され、そのz軸が、軸線A4(又は、先端48bの中心における、該先端48bの曲面の法線方向)と平行となるように、スクレーパ42に対して設定されている。
【0031】
スクレーパ42を移動させるとき、制御装置16のプロセッサ60は、ロボット座標系C1においてツール座標系C2を設定し、設定したツール座標系C2によって表される位置及び姿勢にスクレーパ42を配置させるように、移動機構部18の各サーボモータ32への指令(位置指令、速度指令、トルク指令等)を生成する。こうして、プロセッサ60は、ロボット座標系C1における任意の位置及び姿勢にスクレーパ42を位置決めできる。
【0032】
一方、スクレーパ44には、ツール座標系C3が設定されている。ツール座標系C3は、ロボット座標系C1におけるスクレーパ44の位置及び姿勢を規定する座標系であって、手首フランジ30bに対して既知の位置に配置されている。ツール座標系C3は、その原点(TCP)が、柄部50が撓んでいない状態における刃部52の先端52bの中心に配置され、そのz軸が軸線A5と平行となるように、スクレーパ44に対して設定されている。
【0033】
スクレーパ44を移動させるとき、プロセッサ60は、ロボット座標系C1においてツール座標系C3を設定し、設定したツール座標系C3によって表される位置及び姿勢にスクレーパ44を配置させるように、移動機構部18の各サーボモータ32への指令を生成する。こうして、プロセッサ60は、ロボット座標系C1における任意の位置及び姿勢にスクレーパ44を位置決めできる。
【0034】
力センサ14には、センサ座標系C4が設定されている。センサ座標系C4は、力センサ14に作用する力の方向を定義する座標系である。本実施形態においては、センサ座標系C4は、その原点が力センサ14の中心に配置され、そのz軸が軸線A2に一致するように、力センサ14に対して設定されている。
【0035】
図5に、移動機構部18がスクレーパ42(又は44)の先端48b(又は52b)をワークWの表面Qに押し付けている状態を示す。移動機構部18がスクレーパ42(44)の先端48b(52b)を表面Qに対し、該表面Qと直交する方向へ押付力Fで押し付けた場合、該押付力Fの反力F’が、該表面Qからスクレーパ42(44)を介して力センサ14に加えられる。
【0036】
力センサ14の歪ゲージの各々は、このときに力センサ14に作用する力に応じた検出データを制御装置16に送信する。プロセッサ60は、I/Oインターフェース64を通して力センサ14から受信した検出データに基づいて、このときに力センサ14に作用する、センサ座標系C4のx軸、y軸及びz軸の方向の力fと、x軸周り、y軸周り及びz軸周りの方向のトルクτとを求める。プロセッサ60は、力f及びトルクτと、このときのスクレーパ44(又は46)の状態データCDとに基づいて、先端48b(52b)に対し、表面Qと直交する方向に作用する反力F’の大きさを演算する。
【0037】
状態データCDは、例えば、軸線A4(軸線A5)と表面Qとの角度θ3、軸線A2(又は、センサ座標系C3の原点)とスクレーパ42(44)の先端48b(50b)との距離d1、軸線A2とスクレーパ42(44)の基端46a(50a)との距離d2、スクレーパ42(44)の基端46a(50a)と先端48b(50b)との距離d3、ロボット座標系C1におけるツール座標系C2(C3)の位置及び姿勢を示す位置データ、並びに、柄部46(50)の撓みデータ(例えば、撓み量又は弾性率)の少なくとも1つを含む。このように、力センサ14は、反力F’を押付力Fとして検出し、制御装置16は、力センサ14の検出データに基づいて押付力F(反力F’)の大きさを求めることができる。
【0038】
次に、ロボット12が実行するキサゲ加工について説明する。なお、ワークWは、その左端縁B1(
図10)が右端縁B2よりも移動機構部18(具体的には、ロボットベース22)に近くなるように、ロボット座標系C1の既知の位置に設置されてもよい。まず、プロセッサ60は、移動機構部18を動作させて、ベース部34(つまり、エンドエフェクタ20)を、第1の姿勢OR1に配置させる。ベース部34が第1の姿勢OR1に配置された状態を、
図6に示す。
【0039】
ベース部34が第1の姿勢OR1に配置されたとき、スクレーパ42の先端48bが、スクレーパ44の先端52bよりもワークWの表面Qに近くなる。また、ベース部34の軸線A3が、ロボット座標系C1のx-z平面と略平行に配置され、スクレーパ42の軸線A4が、表面Qに対して角度θ3_1で傾斜し、且つ、軸線A1、A2及びA3が互いに略直交する。
【0040】
次いで、プロセッサ60は、ベース部34を第1の姿勢OR1に配置した状態で、スクレーパ42の先端48bを表面Qへ押し付けて該ベース部34(エンドエフェクタ20)を右方へ移動させた後、該先端48bを表面Qから離反させる。その結果、
図7に示すように、表面Qに凹部R
1が形成される。この凹部R
1は、μmオーダーの深さを有し、上述の「油溜り」として機能する。こうして、スクレーパ42によって凹部R
1を形成する第1のキサゲ加工SC
1が実行される。
【0041】
第1のキサゲ加工SC
1の後、プロセッサ60は、移動機構部18を動作させて、ベース部34(エンドエフェクタ20)を、
図6に示す第1の姿勢OR1から、
図8に示す第2の姿勢OR2に回動させる。ベース部34が第2の姿勢OR2に配置されたとき、スクレーパ44の先端52bが、スクレーパ42の先端48bよりも表面Qに近くなる。また、ベース部34の軸線A3が、ロボット座標系C1のx-z平面と略平行に配置され、スクレーパ44の軸線A5が、表面Qに対して角度θ3
_2で傾斜し、且つ、軸線A1、A2及びA3が互いに略直交する。
【0042】
次いで、プロセッサ60は、ベース部34を第2の姿勢OR2に配置した状態で、スクレーパ44の先端52bを、凹部R
1の右方に離隔した位置で表面Qへ押し付け、該ベース部34(エンドエフェクタ20)を左方へ移動させた後、該先端52bを表面Qから離反させる。その結果、
図9に示すように、表面Qに凹部R
2が凹部R
1の右側に隣接して形成される。この凹部R
2は、凹部R
1と同様に、μmオーダーの深さを有する。こうして、スクレーパ44によって凹部R
2を形成する第2のキサゲ加工SC
2が実行される。
【0043】
その後、プロセッサ60は、ベース部34を第2の姿勢OR2から第1の姿勢OR1に回動させ、スクレーパ42の先端48bを表面Qに押し付けてベース部34を右方へ移動させることで凹部R
2m-1(mは正の整数)を形成し、ベース部34を第1の姿勢OR1から第2の姿勢OR2に回動させ、スクレーパ44の先端52bを表面Qへ押し付けてベース部34を左方へ移動させることで凹部R
2mを形成するという一連の動作を繰り返す。その結果、
図10に示すように、表面Qの左端縁B1の近傍位置から右端縁B2の近傍位置までロボット座標系C1のx軸方向へ並ぶ複数の凹部R
1~R
7を、表面Qに形成できる。
【0044】
図11に、キサゲ加工の他の例を示す。
図11に示す例では、プロセッサ60は、ベース部34を第1の姿勢OR1に配置した状態で、スクレーパ42の先端48bを、左端縁B1の近傍位置で表面Qに押し付け、該ベース部34を右端縁B2の近傍位置まで右方へ移動させた後、該先端48bを表面Qから離反させる。その結果、
図11に示すように、表面Qに、左端縁B1の近傍位置から右端縁B2の近傍位置まで延在する凹部R
1が形成される。こうして、スクレーパ42によって凹部R
1を形成する第1のキサゲ加工SC
1が実行される。
【0045】
第1のキサゲ加工SC1の後、プロセッサ60は、ベース部34を、第1の姿勢OR1から第2の姿勢OR2に回動させ、スクレーパ44の先端52bを、凹部R1の右端の後側の位置で表面Qへ押し付け、該ベース部34を右端縁B2の近傍位置から左端縁B1の近傍位置まで左方へ移動させた後、該先端52bを表面Qから離反させる。こうして、スクレーパ44によって凹部R2を形成する第2のキサゲ加工SC2が実行される。その結果、表面Qに、右端縁B2の近傍位置から左端縁B1の近傍位置まで延在する凹部R2が、凹部R1の後側に隣接して形成される。
【0046】
その後、プロセッサ60は、ベース部34を、第2の姿勢OR2から第1の姿勢OR1に回動させ、スクレーパ42の先端48bを表面Qに押し付けてベース部34を右方へ移動させることで凹部R2m-1を形成し、ベース部34を第1の姿勢OR1から第2の姿勢OR2に回動させ、スクレーパ44の先端52bを表面Qへ押し付けてベース部34を左方へ移動させることで凹部R2mを形成するという一連の動作を繰り返す。これにより、表面Qの左端縁B1から右端縁B2まで延在し、ロボット座標系C1のy軸方向へ並ぶ複数の凹部R1、R2・・・を、表面Qに形成できる。
【0047】
以上のように、
図10及び
図11に示す例では、プロセッサ60は、第2m-1のキサゲ加工SC
2m-1において、スクレーパ42を表面Qに押し付けて右方へ移動させることで凹部R
2m-1を形成する一方、第2mのキサゲ加工SC
2mにおいて、スクレーパ44を表面Qに押し付けて左方へ移動させることで凹部R
2mを形成している。
【0048】
こうして、プロセッサ60は、ベース部34を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で回動させることでスクレーパ42及び44を交互に切り換え、スクレーパ42で凹部R2m-1を形成する一方、スクレーパ44で凹部R2mを形成する。例えば、プロセッサ60は、上腕部28に対して手首部30を回動させるサーボモータ32を動作させて、該手首部30を軸線A1周りに回動させることで、ベース部34を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で回動させてもよい。
【0049】
次に、
図12~
図18を参照して、キサゲ加工におけるロボット12の制御について、さらに詳細に説明する。1つの凹部Rを形成するために、複数の教示点TP
nが、表面Qに対して設定される。
図12に、上述の凹部R
2m-1を形成するために設定される3つの教示点TP
n(n=1,2,3)を示す。なお、
図12に示す3つの教示点TP
nは、一例であって、如何なる数(例えば4つ以上)の教示点TP
nが設定されてもよい。
【0050】
これら教示点TPnは、凹部R2m-1を形成するためにスクレーパ42の先端48b(つまり、ツール座標系C2の原点:TCP)を位置決めすべきロボット座標系C1の座標を規定する。第2m-1のキサゲ加工SC2m-1を行うとき、プロセッサ60は、ベース部34を第1の姿勢OR1に配置するとともに、位置制御を開始し、移動機構部18によってスクレーパ42を教示点TPnに移動させるための位置制御指令PCnを生成する。
【0051】
プロセッサ60は、この位置制御指令PCnに従って移動機構部18の各サーボモータ32を動作させることによって、スクレーパ42を、教示点TP1→TP2→TP3の順に位置決めする。この位置制御により、プロセッサ60は、スクレーパ42(具体的には、先端48b)を、複数の教示点TPnによって規定される移動経路MPに沿って移動させる。
【0052】
なお、本実施形態においては、理解の容易のために、ワークWの表面Qは、ロボット座標系C1のx-y平面と略平行であり、移動経路MPの方向MDは、ロボット座標系C1のx-z平面と略平行であるとする。位置制御指令PCnは、スクレーパ42(又は、手首フランジ30b)を、教示点TPnまで移動させるときの速度VP_nを規定する速度指令PCV_nを有する。
【0053】
位置制御の開始後、プロセッサ60は、位置制御指令PC
1に従って移動機構部18を動作させて、スクレーパ42を教示点TP
1へ移動させる。スクレーパ42の先端48bが教示点TP
1に配置されたとき、
図13に示すように、該先端48bは、表面Qから上方へ離隔する。
【0054】
スクレーパ42が教示点TP1へ到達すると、プロセッサ60は、力制御を開始する。力制御の開始後、プロセッサ60は、力センサ14の検出データに基づいて、移動機構部18がスクレーパ42をワークWの表面Qに押し付ける押付力Fを所定の目標値φに制御するように、移動機構部18の手首フランジ30b(又は、ツール座標系C2の原点)の位置を制御する。
【0055】
具体的には、プロセッサ60は、力制御において、力センサ14の検出データに基づいて取得した押付力F(具体的には、反力F’)を目標値φに制御すべく、移動機構部18の手首フランジ30bの位置を制御するための力制御指令FCを生成する。そして、プロセッサ60は、該力制御指令FCを位置制御指令PCnに加えて、移動機構部18のサーボモータ32を動作させる。
【0056】
これにより、プロセッサ60は、位置制御指令PCnに従ってスクレーパ42(又は、手首フランジ30b)を、表面Qに沿って移動経路MPの方向MDに移動させるとともに、力制御指令FCに従ってスクレーパ42(手首フランジ30b)を表面Qに対して接近又は離反する方向(すなわち、ロボット座標系C1のz軸方向)へ移動させる。
【0057】
力制御指令FCは、押付力Fを目標値φに到達させるべくスクレーパ42をロボット座標系C1のz軸方向へ移動させる速度を規定する速度指令FCVを有する。力制御において、プロセッサ60は、速度指令FCVに従って移動機構部18を動作させることで、スクレーパ42(手首フランジ30b)を、ロボット座標系C1のz軸方向へ移動させる。
【0058】
スクレーパ42が教示点TP
1に到達したとき、プロセッサ60は、スクレーパ42を教示点TP
2へ移動させるための位置制御指令PC
2として速度指令PC
V_2を生成するともに、力制御指令FCとして速度指令FC
V_0を生成する。
図13に、スクレーパ42が教示点TP
1に到達したときにプロセッサ60が生成する速度指令PC
V_2及び速度指令FC
V_0を模式的に示す。
【0059】
スクレーパ42が教示点TP1に到達した後、プロセッサ60は、速度指令PCV_2に従って移動機構部18を動作させて、スクレーパ42を教示点TP2へ向かって、速度指令PCV_2に対応する(具体的には、一致する)速度VP_2で、表面Qに沿って方向MDへ移動させる。
【0060】
これとともに、プロセッサ60は、押付力Fを目標値φに制御すべく速度指令FC
V_0を生成し、サーボモータ32への速度指令PC
V_2に加えることで、スクレーパ42を表面Qへ向かう方向(すなわち、下方)へ、該速度指令FC
V_0に対応する(具体的には、一致する)速度V
F_0で移動させる。その結果、移動機構部18は、スクレーパ42を、教示点TP
1を通過した後、
図13中の方向MD’へ移動させることになる。
【0061】
図14に、第2m-1のキサゲ加工SC
2m-1においてスクレーパ42(具体的には、先端48b)が実際に辿る軌道TRを実線で示す。スクレーパ42は、教示点TP
1を通過した後、表面Qに対して角度θ4(<90°)を形成するように傾斜した軌道TRで表面Qへ向かって移動し、位置P1で該表面Qに当接する。
【0062】
ここで、
図14中の教示点TP
1と位置P1との間の、ロボット座標系C1のx軸及びz軸方向の距離を、それぞれ、距離x1及びz1とすると、該距離x1及びz1、速度指令PC
V_2(速度V
P_2)、及び速度指令FC
V_0(速度V
F_0)は、以下の式(1)を満たす。
z1/x1=FC
V_0/PC
V_2=V
F_0/V
P_2 …(1)
【0063】
また、角度θ4、距離x1及びz1、速度指令PCV_2(速度VP_2)、及び速度指令FCV_0(速度VF_0)は、以下の式(2)を満たす。
θ4=tan-1(z1/x1)=tan-1(FCV_0/PCV_2)=tan-1(VF_0/VP_2) …(2)
【0064】
よって、仮に、キサゲ加工の加工条件MCとして、x1=10[mm]、z1=5[mm]に設定すると、式(2)より、角度θ4≒26.6°として決定できる。この場合において、加工条件MCとして、速度VP_2(すなわち、速度指令PCV_2)を100[mm/sec]に設定した場合、式(1)より、速度VF_0(すなわち、速度指令FCV_0)を、50[mm/sec]として決定できる。このように、加工条件MCとして、距離x1及びz1、速度指令PCV_2(速度VP_2)、及び速度指令FCV_0(速度VF_0)を適宜設定することで、角度θ4を所望の範囲(例えば、15°~35°)に制御できる。
【0065】
なお、プロセッサ60は、これらの加工条件MC(x1、z1、θ4、VP_2、PCV_2、VF_0、FCV_0)のうちの少なくとも1つのパラメータを、オペレータが入力した加工条件MCの他のパラメータに応じて自動で決定してもよい。例えば、オペレータが、入力装置66を操作して、加工条件MCとして、x1=10[mm]、z1=5[mm]、VP_2(PCV_2)=100[mm/sec]と入力したとする。この場合、プロセッサ60は、加工条件MCの入力データと、上述の式(1)及び(2)とから、加工条件MCの他のパラメータとして、θ4=26.6°、及び、VF_0(FCV_0)=50[mm/sec]に自動で決定できる。
【0066】
スクレーパ42が表面Qに当接している間、プロセッサ60は、位置制御指令PC2に従ってスクレーパ42を方向MDへ移動させるとともに、力制御によって押付力Fを目標値φに制御するための力制御指令FCとして速度指令FCV_1を生成する。この速度指令FCV_1により、移動機構部18の手首フランジ30bの位置を、ロボット座標系C1のz軸方向に、速度指令FCV_1に対応する(具体的には、一致する)速度VF_1で、変位させる。
【0067】
ここで、スクレーパ42が表面Qに当接している間に生成する速度指令FCV_1(すなわち、速度VF_1)の最大値は、スクレーパ42が表面Qに当接する前に生成する速度指令FCV_0(すなわち、速度VF_0)よりも、大きく設定され得る。こうして、プロセッサ60は、移動機構部18によってスクレーパ42を目標値φに対応する大きさの押付力Fで押し付けながら表面Qに沿って右方へ移動し、これにより、スクレーパ42の先端48bで表面Qを削るキサゲ加工SC2m-1を実行する。
【0068】
スクレーパ42(又は手首フランジ30b)が教示点TP2に対応する位置に到達すると、プロセッサ60は、力制御を終了する一方、スクレーパ42を教示点TP3へ移動させるための位置制御指令PC3を生成する。そして、プロセッサ60は、位置制御指令PC3に従ってロボット12を動作させることで、スクレーパ42を教示点TP3へ向かって右上方へ移動させる。
【0069】
その結果、スクレーパ42は、ワークWの表面Qに対して角度θ5(<90°)を形成するように傾斜した軌道TRで右上方へ移動し、該スクレーパ42の先端48bが、位置P2で表面Qから離反する。こうして、スクレーパ42によって表面Qを位置P1から位置P2まで距離x2に亘って削り、第2m-1のキサゲ加工SC2m-1が終了する。
【0070】
なお、本実施形態においては、ロボット座標系C1のx軸方向における位置P2の座標は、教示点TP2と略同じであるとする。その後、スクレーパ42は、教示点TP3(又はその直下の位置)へ到達する。このように実行される第2m-1のキサゲ加工SC2m-1によって、ロボット座標系C1のx軸方向の長さx2を有する凹部R2m-1が表面Qに形成される。
【0071】
プロセッサ60は、第2m-1のキサゲ加工SC
2m-1と同様の方法により、上述の凹部R
2mを形成するための第2mのキサゲ加工SC
2mを実行する。具体的には、
図15に示すように、凹部R
2mを形成するための3つの教示点TP
n(n=1,2,3)が表面Qに沿って設定される。本実施形態においては、
図15に示す凹部R
2mを形成するための教示点TP
nは、
図12に示す凹部R
2m-1を形成するための教示点TP
nと、ロボット座標系C1のy-z平面と平行な面を基準として対称となっている。
【0072】
そして、プロセッサ60は、第2mのキサゲ加工SC
2mにおいて、上述した第2m-1のキサゲ加工SC
2m-1と同様に位置制御及び力制御を実行する。具体的には、プロセッサ60は、第2m-1のキサゲ加工SC
2m-1においてスクレーパ42を
図14に示す教示点TP
3に到達させた後、ベース部34を第2の姿勢OR2に回動させるとともに、位置制御を開始し、移動機構部18によってスクレーパ44の先端52b(ツール座標系C3の原点:TCP)を、
図15に示す教示点TP
nに移動させるための位置制御指令PC
nを生成する。
【0073】
そして、プロセッサ60は、スクレーパ44が
図15に示す教示点TP
1に到達したときに、力制御を開始し、力センサ14の検出データに基づいて取得した押付力F(反力F’)を目標値φに制御すべく、移動機構部18の手首フランジ30bの位置を制御するための力制御指令FCを生成する。
【0074】
スクレーパ44が表面Qに当接している間、プロセッサ60は、位置制御指令PC
2に従ってスクレーパ44を方向MDへ移動させるとともに、力制御指令FCに従って移動機構部18の手首フランジ30bの位置を、ロボット座標系C1のz軸方向に変位させる。そして、スクレーパ44(又は手首フランジ30b)が
図15中の教示点TP
2に対応する位置に到達すると、プロセッサ60は、力制御を終了する一方、スクレーパ44を教示点TP
3へ移動させるための位置制御指令PC
3を生成する。
【0075】
この位置制御及び力制御によって、プロセッサ60は、スクレーパ44の先端52bを、
図16に示す軌道TRに沿って移動させる。これにより、スクレーパ44は、
図16中の位置P1から位置P2まで距離x2に亘って表面Qを削り、長さx2を有する凹部R
2mが表面Qに形成される。
【0076】
なお、プロセッサ60は、第2m-1のキサゲ加工SC
2m-1を終了したとき(つまり、スクレーパ42を
図14中の教示点TP
3に到達させたとき)、ベース部34を第2の姿勢OR2に回動させた後に、第2mのキサゲ加工SC
2mの位置制御を開始し、スクレーパ44を、次の凹部R
2mのために設定された
図15中の教示点TP
1へ移動させる動作を開始してもよい。
【0077】
同様に、プロセッサ60は、第2mのキサゲ加工SC
2mを終了したとき(つまり、スクレーパ44を
図16中の教示点TP
3に到達させたとき)、ベース部34を第1の姿勢OR1に回動させた後に、次のキサゲ加工SC
2m-1の位置制御を開始し、スクレーパ42を、次の凹部R
2m-1のために設定された
図12中の教示点TP
1へ移動させる動作を開始してもよい。
【0078】
代替的には、プロセッサ60は、第2m-1のキサゲ加工SC
2m-1を終了したとき、第2mのキサゲ加工SC
2mの位置制御を開始し、スクレーパ44を
図15中の教示点TP
1へ移動させている間に、ベース部34を第1の姿勢OR1から第2の姿勢OR2に回動させてもよい。
【0079】
同様に、プロセッサ60は、第2mのキサゲ加工SC
2mを終了したとき、次のキサゲ加工SC
2m-1の位置制御を開始し、スクレーパ42を
図12中の教示点TP
1へ移動させている間に、ベース部34を第2の姿勢OR2から第1の姿勢OR1に回動させてもよい。この場合、プロセッサ60は、スクレーパ42又は44を次の教示点TP
nへ移動させる動作と、ベース部34を軸線A1周りに回動させる動作とを並行して実行する。
【0080】
図10に示す凹部R
1~R
7を形成するキサゲ加工SCにおいて力制御を実行したときの押付力Fの時間変化特性を、
図17に模式的に示す。
図17に示すように、プロセッサ60がスクレーパ42又は44を位置P1で表面Qに当接させた後、押付力Fは、急激に上昇してピーク値F
Pに到達する。その後、押付力Fは、スクレーパ42又は44が教示点TP
2に近づくにつれて急激に減少し、スクレーパ42又は44が位置P2で表面Qから離反したときにゼロとなる。
【0081】
ここで、
図10中の凹部R
1~R
7の長さx2は比較的短いので、教示点TP
1と教示点TP
2との距離(x1+x2)が、比較的短く設定される。この場合、プロセッサ60は、押付力Fが力制御の目標値φに到達する前に(又は、到達した時点で)、スクレーパ42又は44を上方へ移動させることになる。したがって、本実施形態においては、ピーク値F
Pは、目標値F
T以下となる。
【0082】
一方、
図11に示す凹部R
1及びR
2を形成するキサゲ加工SCにおいて力制御を実行したときの押付力Fの時間変化特性を、
図18に模式的に示す。
図18に示すように、プロセッサ60がスクレーパ42又は44を位置P1で表面Qに当接させた後、押付力Fは、急激に上昇して目標値φに到達する。
【0083】
その後、プロセッサ60は、力制御により押付力Fを目標値φに継続して維持するように手首フランジ30bの位置を制御しつつ、位置制御によりスクレーパ42又は44を方向MDへ移動させる。そして、押付力Fは、スクレーパ42又は44が教示点TP
2に近づくにつれて急激に減少し、スクレーパ42又は44が位置P2で表面Qから離反したときにゼロとなる。プロセッサ60は、力制御を実行することで、押付力Fを、
図17又は
図18に示す大きさとなるように、制御する。
【0084】
なお、プロセッサ60は、スクレーパ42又は44が教示点TP1を通過してから教示点TP3に到達するまで、位置制御と並行して、力制御を継続して実行してもよい。この場合、スクレーパ42又は44が教示点TP2に近づくにつれて、位置制御が力制御よりも優勢となり、プロセッサ60は、スクレーパ42又は44(手首フランジ30b)を、教示点TP2に対応する位置に到達させる前に、表面Qから離れる方向(すなわち、上方)へ移動させることになる。
【0085】
そして、プロセッサ60は、位置P2でスクレーパ42又は44を表面Qから離反させて、角度θ5を形成するように傾斜した軌道TRに沿って教示点TP
3へ向かって移動させる。この場合、位置P2は、教示点TP
2よりも教示点TP
3の側(つまり、
図14の右側、又は
図16の左側)へずれることになり、また、スクレーパ42又は44の先端48b又は52bの軌道TRの終点は、教示点TP
3の下方の位置となる。この場合においても、押付力Fを、
図17又は
図18に示すように制御できる。
【0086】
以上のように、本実施形態においては、ロボット12は、基端46a及び48aから先端48b及び52bへ向かうにつれて互いに接近するように延在する一対のスクレーパ42及び44と、第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間でベース部34を回動させる移動機構部18とを有している。
【0087】
この構成によれば、ベース部34を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で回動させることでスクレーパ42及び44を切り換え、スクレーパ42で凹部R2m-1を形成する一方、スクレーパ44で凹部R2mを形成できる。これにより、1つの凹部R2m-1を形成する第2m-1のキサゲ加工SC2m-1の終了時から、次の凹部R2mを形成する第2mのキサゲ加工SC2mの開始時までの時間を短縮することができるので、複数の凹部Rを表面Qに連続して効率的に形成することができる。その結果、キサゲ加工のサイクルタイムを縮減できるので、生産性を向上させることができる。
【0088】
また、本実施形態においては、ベース部34は、軸線A3(第1の軸線)に沿って延在し、一対のスクレーパ42及び44は、軸線A3の方向に互いに対向するように配置されている。そして、移動機構部18は、ベース部34を、軸線A3と直交するように配置された軸線A1(第2の軸線)の周りに回動させている。この構成によれば、ベース部34の姿勢ORを、第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で迅速且つ高精度に切り換えることができる。
【0089】
また、本実施形態においては、一対のスクレーパ42及び44は、軸線A1及びA3と直交する軸線A2(第3の軸線)を基準として互いに対称に配置されている。この構成によれば、ベース部34の姿勢ORを第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で切り換えるときに該ベース部34を軸線A1周りに回動させる角度を共通とすることができる。
【0090】
これにより、姿勢ORの切り換え時におけるベース部34の移動量を最小化することができるので、キサゲ加工のサイクルタイムを縮減できるとともに、姿勢ORを切り換えるための制御を簡単化できる。また、ベース部34の姿勢ORの切り換え時に手首部30に掛かるモーメントの大きさを揃えることができるので、エンドエフェクタ20の姿勢を高精度に制御できる。
【0091】
なお、プロセッサ60は、
図10に示す凹部R
7を形成した後、第1列の凹部R
1~R
7の後側に、第2列の凹部R
8~R
14を連続して形成してもよい。このようなキサゲ加工について、
図19を参照して説明する。プロセッサ60は、スクレーパ42で凹部R
7を形成した後、ベース部34を第1の姿勢OR1から第2の姿勢OR2に回動し、スクレーパ44によって、凹部R
7の後側に隣接するように凹部R
8を形成する。
【0092】
その後、プロセッサ60は、ベース部34の姿勢を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で切り換えつつ、スクレーパ42で凹部R
2m-1を形成する一方、スクレーパ44で凹部R
2mを形成する。これにより、
図20に示すように、第1列の凹部R
1~R
7の後側に、第2列の凹部R
8~R
14が、右端縁B2から左端縁B1へ向かって順に形成される。これら凹部R
1~R
14のうち、凹部R
2m-1には
図12に示す教示点TP
1~TP
3が設定される一方、凹部R
2mには
図15に示す教示点TP
1~TP
3が設定される。プロセッサ60は、上述の位置制御及び力制御を実行することで、凹部R
1~R
14を形成する。
【0093】
なお、
図21に示すように、凹部R
6が右端縁B2に隣接する場合は、プロセッサ60は、スクレーパ44で凹部R
6を形成した後、ベース部34を第2の姿勢OR1から第1の姿勢OR1に回動し、スクレーパ42によって、凹部R
6の後側に隣接するように凹部R
7を形成する。
【0094】
その後、プロセッサ60は、ベース部34の姿勢を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で切り換えつつ、スクレーパ42で凹部R
2m-1を形成する一方、スクレーパ44で凹部R
2mを形成する。これにより、
図22に示すように、第1列の凹部R
1~R
6の後側に、第2列の凹部R
7~R
12が、右端縁B2から左端縁B1へ向かって順に形成される。
【0095】
なお、プロセッサ60は、ベース部34の姿勢を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で切り換えつつ、スクレーパ44を左方へ移動することで凹部R2m-1を形成する一方、スクレーパ42を右方へ移動することで凹部R2mを形成することもできる。プロセッサ60は、上述したキサゲ加工SCをコンピュータプログラムPGに従って、自動で実行する。このコンピュータプログラムPGは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な記録媒体としてのメモリ62に記録された形で提供されてもよい。
【0096】
次に、
図23~
図25を参照して、他の実施形態に係るロボットシステム80について説明する。ロボットシステム80は、上述のロボットシステム10と、清掃装置82をさらに備える点で、相違する。清掃装置82は、流体装置84、及びホース86を有する。例えば、流体装置84は、流体(例えば、圧縮ガス)を供給又は吸引する電動ポンプである。ホース86は、一端が流体装置84に接続され、他端に開口部88を有する。流体装置84は、ホース86に流体を供給し、開口部88から該流体を外部へ噴射する。又は、流体装置84は、開口部88を通して外気を吸引する。
【0097】
一方、ロボット12には、
図25に示すように、取付部材90が設けられている。取付部材90は、ロッド92と、該ロッド92の先端部に固設された保持リング94とを有する。ロッド92は、その基端部が、移動機構部18の可動要素(例えば、上腕部28又は手首部30)、又は、エンドエフェクタ20(例えば、ベース部34)に固定されている。
【0098】
清掃装置82のホース86は、保持リング94の内部に挿通固定されている。保持リング94は、ホース86の開口部88が、一対のスクレーパ42及び44の先端48b及び52bの間に配置され、且つ、該先端48b及び52bの方向を向くように、ホース86を保持する。
【0099】
プロセッサ60は、スクレーパ42又は44でキサゲ加工SCを実行している間、流体装置84を動作させて、該キサゲ加工により生じた切屑を、開口部88から噴射した流体によって吹き飛ばすか、又は、開口部88から外気を吸引することで該開口部88を通してホース86内に吸引する。この清掃装置82により、キサゲ加工中に生じた切屑がスクレーパ42又は44に付着してしまうのを防止することができるので、加工品質を向上させることができる。
【0100】
次に、
図26を参照して、他の実施形態に係るエンドエフェクタ100について説明する。エンドエフェクタ100は、上述のエンドエフェクタ20の代わりに、力センサ14を介して手首フランジ30bに着脱可能に取り付けられ得る。エンドエフェクタ100は、上述のエンドエフェクタ20と、以下の構成において相違する。
【0101】
具体的には、エンドエフェクタ100においては、スクレーパ保持部38及び40の各々は、軸線A3の方向へ移動可能となるようにベース部34に設けられている。例えば、ベース部34の底面34bには、軸線A3の方向へ延在するレール(図示せず)が設けられ、スクレーパ保持部38及び40の各々は、その上面に、該レールと摺動可能に係合する係合部を有する。これにより、スクレーパ保持部38及び40は、軸線A3の方向へ摺動可能となるようにベース部34と係合する。
【0102】
また、スクレーパ42は、柄部46の基端46aが、軸線A6の周りに回動可能となるようにスクレーパ保持部38に保持されている。同様に、スクレーパ44は、柄部50の基端50aが、軸線A7の周りに回動可能となるようにスクレーパ保持部40に保持されている。軸線A6及びA7は、互いに平行であり、軸線A3と直交する。こうして、スクレーパ42は、スクレーパ保持部38を介してベース部34に回動可能に設けられ、また、スクレーパ44は、スクレーパ保持部40を介してベース部34に回動可能に設けられる。
【0103】
また、エンドエフェクタ100は、スクレーパ駆動部102、104及び106をさらに有する。スクレーパ駆動部102は、例えばサーボモータを有し、ベース部34に固定される。スクレーパ駆動部102は、制御装置16からの指令に応じて、スクレーパ保持部38及び40を、互いに接近及び離反するように同期して移動させる。
【0104】
より具体的には、ベース部34の内部には、ボールねじ機構(図示せず)が設けられ、スクレーパ駆動部102は、該ボールねじ機構を作動させることによって、スクレーパ保持部38及び40(すなわち、スクレーパ42及び44)を、互いに接近及び離反するように同期して移動させることができる。これにより、スクレーパ42の先端48bと、スクレーパ44の先端52bとの間隔δを変化させることができる。
【0105】
一方、スクレーパ駆動部104は、例えばサーボモータを有し、スクレーパ保持部38に固定されている。スクレーパ駆動部104は、制御装置16からの指令に応じて、スクレーパ42を軸線A6の周りに回動させ、これにより、軸線A3に対する軸線A4の角度θ1を変化させることができる。
【0106】
同様に、スクレーパ駆動部106は、例えばサーボモータを有し、スクレーパ保持部40に固定されている。スクレーパ駆動部106は、制御装置16からの指令に応じて、スクレーパ44を軸線A7の周りに回動させ、これにより、軸線A3に対する軸線A5の角度θ2を変化させることができる。
【0107】
一例として、オペレータは、入力装置66を操作して、加工条件MCとして間隔δを入力してもよい。この場合、プロセッサ60は、スクレーパ駆動部102を動作させて、スクレーパ保持部38及び40を、先端48b及び52bの間隔が入力された間隔δとなるように、自動で配置する。
【0108】
他の例として、オペレータは、入力装置66を操作して、加工条件MCとして、角度θ1及びθ2を入力してもよい。この場合に、プロセッサ60は、スクレーパ駆動部104及び106を動作させて、入力された角度θ1及びθ2となるように、スクレーパ42及び44をそれぞれ回動させる。
【0109】
さらに他の例として、オペレータは、入力装置66を操作して、加工条件MCのうち、角度θ1及びθ2、
図5に示す角度θ3(具体的には、
図6中の角度θ3
_1、及び
図8中の角度θ3
_2)、ベース部34を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で回動させる角度θ6、上述の間隔δ、スクレーパ42及び44の寸法DM(例えば、刃部48及び52の軸線A4及びA5の方向の長さ)の少なくとも1つのパラメータMC1を入力してもよい。
【0110】
そして、プロセッサ60は、加工条件MCのうち、入力されたパラメータMC1以外のパラメータMC2を、該パラメータMC1に応じて自動で決定してもよい。例えば、オペレータは、パラメータMC1として、角度θ3、及び寸法DMを入力する。プロセッサ60は、入力されたパラメータMC1に応じて、パラメータMC2としての角度θ1及びθ2、角度θ6、及び間隔δを自動で決定する。プロセッサ60は、決定した角度θ1、角度θ2、及び間隔δとなるように、スクレーパ駆動部102によってスクレーパ42及び44を移動させるとともに、スクレーパ駆動部104及び106によってスクレーパ42及び44を回動させる。
【0111】
この場合において、パラメータMC1(例えば、角度θ3、寸法DM)と、パラメータMC2(例えば、角度θ1又はθ2、角度θ6、間隔δ)とを互いに関連付けて格納したデータテーブルDT1が、メモリ62に予め格納されてもよい。プロセッサ60は、入力されたパラメータMC1に対応するパラメータMC2をデータテーブルDT1から検索することで、該パラメータMC2を自動で決定できる。
【0112】
なお、プロセッサ60は、角度θ6が最小となるように、入力されたパラメータMC1に応じてパラメータMC2を決定してもよい。この構成によれば、キサゲ加工においてベース部34を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で回動させる移動量を小さくすることができるので、サイクルタイムを縮減できる。また、プロセッサ60は、オペレータが加工条件MCを入力するための入力画面の画像データを生成し、表示装置68に表示させてもよい。
【0113】
以上のように、本実施形態においては、一対のスクレーパ42及び44は、間隔δを可変とするようにベース部34に可動に設けられている。また、スクレーパ42及び44は、ベース部34に回動可能に設けられている。この構成によれば、加工条件MC(角度θ1及びθ2、間隔δ)を適宜設定することで、用途に応じてスクレーパ42及び44の配置を詳細に調整することができる。
【0114】
なお、プロセッサ60は、エンドエフェクタ100を用いてキサゲ加工SCを実行しているときに、スクレーパ42又は44をベース部34に対して回動させてもよい。この機能について、
図27を参照して説明する。
図27に示す例では、表面Qから上方へ突出する凸部Eが、該表面Qに形成されている。このような場合において、スクレーパ44で表面Qを左方へ削るキサゲ加工を実行しているとき、他方のスクレーパ42が凸部Eと干渉し得る。
【0115】
このような干渉を回避するために、プロセッサ60は、スクレーパ44でキサゲ加工を実行するときに、ロボット座標系C1における凸部Eの位置データに基づいてスクレーパ駆動部104を動作させてスクレーパ42を凸部Eから退避させるように回動させることで、該スクレーパ42と該凸部Eとの干渉を防止できる。
【0116】
なお、スクレーパ42及び44のいずれか一方がベース部34に可動に設けられる一方、他方がベース部34に固定されてもよい。例えば、スクレーパ42のみがベース部34に軸線A3に沿って可動に設けられた場合において、プロセッサ60は、スクレーパ44でキサゲ加工を実行するときに、ロボット座標系C1における凸部Eの位置データに基づいてスクレーパ駆動部102を動作させてスクレーパ42を凸部Eから退避させるように移動させることで、該スクレーパ42と該凸部Eとの干渉を防止してもよい。
【0117】
また、エンドエフェクタ100において、スクレーパ42及び44の一方が、ベース部34に回動可能に設けられる一方、他方がベース部34に回動不能に固定されてもよい。例えば、スクレーパ42がスクレーパ保持部38に回動可能に設けられる一方、スクレーパ44が、その軸線A5が軸線A3に対して角度θ2で傾斜した状態で、スクレーパ保持部40に回動不能に固定されてもよい。
【0118】
また、スクレーパ42の刃部48と、スクレーパ44の刃部52とは、互いに異なる寸法DMを有してもよい。例えば、軸線A4と直交する方向における刃部48の幅は、軸線A5と直交する方向における刃部52の幅よりも小さく(又は、大きく)てもよい。この場合、スクレーパ42で形成する凹部R2m-1の幅が、スクレーパ44で形成する凹部R2mの幅よりも小さく(又は、大きく)なる。
【0119】
また、プロセッサ60は、粗加工として、スクレーパ42によって
図10に示す凹部R
1~R
7を全て形成した後、仕上げ加工として、スクレーパ44を右端縁B2から左端縁B1まで凹部R
1~R
7の上を通過するように左方へ移動させることで、
図11に示す凹部R
2を、凹部R
1~R
7上に重ねて形成してもよい。
【0120】
この構成によれば、プロセッサ60は、スクレーパ42及び44を使い分けて、粗加工と仕上げ加工を連続的に実行することができる。また、粗加工を行うスクレーパ42の刃部48の幅を、仕上げ加工を行うスクレーパ44の刃部52の幅よりも小さく(又は、大きく)してもよい。
【0121】
なお、上述の実施形態においては、一対のスクレーパ42及び44が、基端46a及び50aから先端48b及び52bへ向かうにつれて互いに接近するように延在している場合について述べた。しかしながら、一対のスクレーパ42及び44が、基端46a及び50aから先端48b及び52bへ向かうにつれて互いに離反するように延在してもよい。
【0122】
このような形態を、
図28に示す。
図28に示すエンドエフェクタ20’は、上述のエンドエフェクタ20と、スクレーパ保持部38及びスクレーパ42の位置と、スクレーパ保持部40及びスクレーパ44の位置とが入れ替わっている点で、相違する。このエンドエフェクタ20’においては、一対のスクレーパ42及び44が、基端46a及び50aから先端48b及び52bへ向かうにつれて互いに離反するように延在する。
【0123】
一対のスクレーパ42及び44は、軸線A2を基準として互いに対称に配置されてもよい。このエンドエフェクタ20’においても、プロセッサ60は、移動機構部18を動作せることで、ベース部34を、スクレーパ42の先端48bがスクレーパ44の先端52bよりもワークWの表面Qに近くなる第1の姿勢OR1と、スクレーパ44の先端52bがスクレーパ42の先端48bよりもワークWの表面Qに近くなる第2の姿勢OR2との間で回動することができる。
【0124】
なお、エンドエフェクタ20’において、上述のエンドエフェクタ100と同様に、スクレーパ42及び44が、軸線A3の方向へ移動可能となるようにベース部34に設けられてもよいし、また、スクレーパ42及び44は、ベース部34に回動可能に設けられてもよい。この場合、エンドエフェクタ20’は、上述のスクレーパ駆動部102、104及び106をさらに有してもよい。
【0125】
なお、上述の実施形態においては、手首部30(つまり、エンドエフェクタ20)が、上腕部28の先端部に軸線A1周りに回動可能に設けられる場合について述べた。しかしながら、手首部30は、上腕部28の先端部に回動不能に固定されてもよい。この場合、プロセッサ60は、旋回胴24、下腕部26、及び上腕部28を動作させることで、ベース部34を第1の姿勢OR1と第2の姿勢OR2との間で回動させる。
【0126】
また、エンドエフェクタ20、20’又は100は、スクレーパ42及び44に加えて、さらなるスクレーパを有してもよい。例えば、エンドエフェクタ20、20’又は100は、第1対のスクレーパ42A及び44Aと、軸線A3及びA2と直交する方向に互いに対向配置された第2対のスクレーパ42B及び44Bとを有してもよい。
【0127】
また、上述したエンドエフェクタ20、20’、100の構造は一例であって、他の種々の構造が考えられる。例えば、ベース部34、スクレーパ42及び44は、共通の円弧軸に沿って延在するように構成されてもよい。この場合、ベース部34、スクレーパ42及び44の組立体は、略C字状の外形を有することになる。
【0128】
また、上述の実施形態においては、プロセッサ60が、キサゲ加工SCにおいて位置制御と力制御を並行して実行する場合について述べた。しかしながら、プロセッサ60は、位置制御のみを実行することでキサゲ加工SCを行うこともできる。この場合において、ワークWの表面Qに対し、複数の教示点TP
nを適宜設定することで、キサゲ加工中の押付力Fを、
図17又は
図18に示すように制御することができる。この場合、ロボットシステム10又は80から力センサ14を省略できる。
【0129】
力センサ14は、例えば、作業セルとロボットベース22との間に介挿されてもよいし、又は、ロボット12の如何なる部位に設けられてもよい。また、力センサ14は、ロボット12に限らず、ワークWの側に設けられてもよい。例えば、力センサ14を、ワークWと、該ワークWが載置される載置面との間に介挿することによって、押付力Fを検出できる。また、力センサ14は、6軸力覚センサに限らず、例えば、1軸又は3軸力センサであってもよいし、押付力Fを検出可能な如何なるセンサであってもよい。
【0130】
また、ロボット12は、垂直多関節ロボットに限らず、例えば、水平多関節ロボット、パラレルリンクロボット等、如何なるタイプのロボットであってもよいし、又は、複数のボールねじ機構を有する移動機械であってもよい。以上、実施形態を通じて本開示を説明したが、上述の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0131】
10,80 ロボットシステム
12 ロボット
14 力センサ
16 制御装置
18 移動機構部
20,20’,100 エンドエフェクタ
34 ベース部
42,44 スクレーパ
60 プロセッサ
82 清掃装置