(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】省エネルギ支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20241001BHJP
【FI】
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2023186464
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2024-08-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500281752
【氏名又は名称】関電不動産開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392016650
【氏名又は名称】アイテック阪急阪神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土山 公平
(72)【発明者】
【氏名】川西 秀一
【審査官】佐藤 光起
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-143833(JP,A)
【文献】Homes show greatest seasonal variation in electricity use,[online],2022年11月15日,[検索日 2024.09.04], インターネット:<URL:https://web.archive.org/web/20221115025521/https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=10211>
【文献】Range Ratio (RR),[online],2021年04月28日,[検索日 2024.09.04], インターネット:<URL:https://web.archive.org/web/20210428034017/https://seer.cancer.gov/help/hdcalc/inference-methods/pre-calculated-statistics-1/measures-of-relative-disparity/range-ratio-rr>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
省エネルギ支援システムであって、
対象施設のそれぞれに対応して設けられ、前記対象施設の消費エネルギ量を計測する消費エネルギ計測部と、
前記消費エネルギ計測部によって計測された前記消費エネルギ量のデータを収集し、年間単位で記憶するデータ記憶部と、
前記消費エネルギ量をエネルギ効率指数に変換する変換処理を実行する変換部と、
前記変換部により変換された前記エネルギ効率指数に基づいて前記対象施設におけるエネルギ効率を評価する評価部と、を備え、
前記変換部は、前記変換処理において、
予め定められた日数を算出基準日数として、
前記消費エネルギ量が計測された期間のうち、前記算出基準日数での前記消費エネルギ量が最も低い低消費期間における低消費値を算出し、
前記消費エネルギ量が計測された期間のうち、前記算出基準日数での前記消費エネルギ量が最も高い高消費期間における高消費値を算出し、
前記高消費値を前記低消費値で除算することで、前記エネルギ効率指数を算出し、
前記評価部は、前記エネルギ効率指数が予め定められた基準値以上である場合に前記対象施設をエネルギ効率が低い低効率施設と評価する、省エネルギ支援システム。
【請求項2】
前記対象施設が複数設けられ、
前記消費エネルギ計測部は、複数の前記対象施設それぞれの前記消費エネルギ量を計測し、
前記データ記憶部は、複数の前記対象施設それぞれについて計測された前記消費エネルギ量を収集して記憶し、
前記変換部は、複数の前記対象施設のそれぞれについての前記消費エネルギ量を前記エネルギ効率指数に変換し、
前記評価部は、複数の前記対象施設毎の前記エネルギ効率指数を比較して、前記エネルギ効率指数が上位となる前記対象施設を前記低効率施設と評価する、請求項1に記載の省エネルギ支援システム。
【請求項3】
前記変換部は、異なる種類のエネルギを同一の単位に換算して、前記エネルギ効率指数を算出する、請求項1又は2に記載の省エネルギ支援システム。
【請求項4】
前記データ記憶部は、地域冷暖房施設から前記対象施設に供給される熱量のデータを収集して記憶し、
前記変換部は、前記地域冷暖房施設から前記対象施設に供給される前記熱量に基づく前記消費エネルギ量を、前記対象施設の前記エネルギ効率指数の算出に用いる、請求項3に記載の省エネルギ支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省エネルギ支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、地球環境に対する懸念なども相まって、企業の社会的責任がより強く求められている。企業が所有する施設などで消費されるエネルギの省エネルギ化への要求も、その1つである。省エネルギ化を実施するにあたっては、まず、施設のエネルギ効率を評価することが必要である。従来では、エネルギ原単位で施設のエネルギ効率を評価する手法が多く用いられている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各施設には固有の性格があり、施設内に存在する人の数、営業時間、施設に入っている企業の数およびその業務内容などが、施設毎に異なる。例えば、民間の商業施設では、役所などの行政機関の施設よりも、出入りする人の数が多く、営業時間も長い。そのため、必然的に消費エネルギも高くなる。しかしながら、このような商業施設において無駄にエネルギが消費されているというわけではなく、必要不可欠な消費も多い。従って、このような各施設固有の性格があるにもかかわらず、エネルギ原単位によって各施設のエネルギ効率を一律に評価することは適切とは言い難い。
【0005】
上記実状に鑑みて、施設のエネルギ効率を適切に評価することが可能なシステムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
省エネルギ支援システムであって、
対象施設のそれぞれに対応して設けられ、前記対象施設の消費エネルギ量を計測する消費エネルギ計測部と、
前記消費エネルギ計測部によって計測された前記消費エネルギ量のデータを収集し、年間単位で記憶するデータ記憶部と、
前記消費エネルギ量をエネルギ効率指数に変換する変換処理を実行する変換部と、
前記変換部により変換された前記エネルギ効率指数に基づいて前記対象施設におけるエネルギ効率を評価する評価部と、を備え、
前記変換部は、前記変換処理において、
予め定められた日数を算出基準日数として、
前記消費エネルギ量が計測された期間のうち、前記算出基準日数での前記消費エネルギ量が最も低い低消費期間における低消費値を算出し、
前記消費エネルギ量が計測された期間のうち、前記算出基準日数での前記消費エネルギ量が最も高い高消費期間における高消費値を算出し、
前記高消費値を前記低消費値で除算することで、前記エネルギ効率指数を算出し、
前記評価部は、前記エネルギ効率指数が予め定められた基準値以上である場合に前記対象施設をエネルギ効率が低い低効率施設と評価する。
【0007】
本構成によれば、年間で消費エネルギ量が最も高くなる高消費期間における高消費値を、年間で消費エネルギ量が最も低くなる低消費期間における低消費値で除算することで、エネルギ効率指数を算出し、このエネルギ効率指数に基づいて対象施設のエネルギ効率を評価する。低消費値は、低消費期間での消費エネルギ量に基づくものであるため、対象施設での必須のエネルギ消費量に基づく値となり易い。すなわち、対象施設の基礎活動量に基づいた値となる。一方、高消費値は、例えば空調設備の稼働率が上がり易い夏や冬などの高消費期間での消費エネルギ量に基づくものであるため、対象施設での必須のエネルギ消費量(基礎活動量)よりも高いエネルギ消費量に基づく値となり易い。そして、対象施設のエネルギ効率指数は、これら低消費値と高消費値との関係によって算出されるものであるため、対象施設の性格が考慮された指標となる。従って、本構成によれば、上記のようにして算出されるエネルギ効率指数を用いることで、対象施設のエネルギ効率を適切に評価することが可能となる。
【0008】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】省エネルギ支援システムが実行する処理手順を示すフローチャート
【
図4】対象施設の年間の消費エネルギ量を示すグラフ
【
図5】省エネルギ支援システムによる各対象施設のエネルギ効率の評価と従来の評価手法との対比図
【発明を実施するための形態】
【0010】
省エネルギ支援システムは、対象施設で消費されるエネルギ量のうち余剰のエネルギ量を抑制すること、すなわち、対象施設の省エネルギ化を支援するためのシステムである。具体的には、省エネルギ支援システムは、対象施設のエネルギ効率を評価する。この省エネルギ支援システムによる評価が、対象施設を所有または管理する企業や自治体が省エネルギ化を実施する際の助けとなる。また、この評価は、昨今取り上げられているゼロカーボン政策の助けともなり得る。以下、省エネルギ支援システムの実施形態について例示的に説明する。
【0011】
図1に示すように、省エネルギ支援システム100は、複数の対象施設A~Dから成る施設群を監視及び管理するための群監視システムの一部を構成することができる。詳細な説明は省略するが、群監視システムは、複数の対象施設A~Dを拠点施設Xから遠隔で監視するように構成されたシステムである。群監視システムは、リモートKVM(Keyboard、Video、Mouseの各装置にネットワークへのアクセス機能を付加したもの)を備え、これにより、各対象施設A~Dにおける機器9の稼働状況を遠隔で監視でき、場合によっては、機器9の制御を遠隔で行える。
【0012】
複数の対象施設A~Dは、システム構成上、互いに同等の構成となっている。以下では、複数の対象施設A~Dの構成を説明する場合には、対象施設Aの構成を代表して説明することがある。なお、
図1では、4つの対象施設A~Dを例示しているが、5つ以上の施設が対象とされていてもよい。或いは、1つの施設のみが対象とされていてもよい。
【0013】
本実施形態では、省エネルギ支援システム100は、拠点施設Xと、複数の対象施設A~Dと、管理サーバS(例えばクラウドサーバ)と、これらを接続するインターネット回線Nと、を備えている。
【0014】
本実施形態では、インターネット回線Nは、VPN(Virtual Private Network)で構築した閉域網である。この閉域網によって、拠点施設Xと、管理サーバSと、複数の対象施設A~Dと、が接続されている。
【0015】
拠点施設Xは、ルータRxを介してインターネット回線Nに接続されている。管理サーバSは、ルータRsを介してインターネット回線Nに接続されている。対象施設Aは、ルータRaを介してインターネット回線Nに接続されている。他の対象施設B~Dについても同様の態様でインターネット回線Nに接続されている。上述のように、本実施形態に係るインターネット回線NはVPNで構築した閉域網であるため、これらの各ルータRx、Rs、Raは、VPNルータとされる。但し、このような構成に限定されることなく、拠点施設Xと管理サーバSと複数の対象施設A~Dとは、ファイアウォール等のセキュリティ機器を介してオープンな回線に接続されていてもよい。
【0016】
省エネルギ支援システム100は、対象施設A~Dのそれぞれに対応して設けられ、対象施設A~Dの消費エネルギ量を計測する消費エネルギ計測部1を備えている。各消費エネルギ計測部1は、対応する施設の内部に設けられていてもよいし、外部に設けられていてもよい。消費エネルギ計測部1が施設外部に設けられている場合には、複数の対象施設A~Dで消費エネルギ計測部1が共用されていてもよい。対象施設Aには、各種機器9が設けられており、消費エネルギ計測部1は、各種機器9で消費されるエネルギ量を計測するように構成されている。
【0017】
各種機器9には、対象施設Aに供給されるエネルギや対象施設Aで生成されるエネルギを用いて稼働する全ての機器9が含まれる。例示すると、照明機器、空調機器、冷房機器、暖房機器、給排水機器、パソコンなどの精密機器、エスカレータやエレベータなどの運搬機器が、消費エネルギ計測部1による計測対象となる。消費エネルギ計測部1は、これらの各種機器9の消費エネルギ量を個別に計測してもよいし、これらの各種機器9の消費エネルギ量を合計した総消費エネルギ量を計測するようにしてもよい。
【0018】
本実施形態では、省エネルギ支援システム100は、地域冷暖房施設8を備えている。地域冷暖房施設8は、一定地域内の施設群に供給するための冷水、温水、蒸気などの熱媒を生成する施設である。図示のように、地域冷暖房施設8は、各対象施設A~Dとは異なる場所から各対象施設A~Dに熱媒を供給する。この熱媒は、熱量と見ることができ、供給先の各対象施設A~Dにおいて、機器9を動作するためのエネルギとして消費される。図示の例では、地域冷暖房施設8は、各対象施設A~Dに熱量を供給しているが、必ずしも全ての対象施設A~Dに熱量を供給するものでなくてもよい。
【0019】
対象施設Aは、消費エネルギ計測部1を制御する施設サーバSaを備えている。施設サーバSaは、例えばLAN(Local Area Network)を介して、有線又は無線によって消費エネルギ計測部1に接続されている。施設サーバSaは、消費エネルギ計測部1から取得した各種機器9の消費エネルギ量のデータを、インターネット回線Nを介して管理サーバSへ送信する。
【0020】
省エネルギ支援システム100は、消費エネルギ計測部1によって計測された消費エネルギ量のデータを収集し、年間単位で記憶するデータ記憶部2と、消費エネルギ量をエネルギ効率指数I(
図4参照)に変換する変換処理を実行する変換部3と、変換部3により変換されたエネルギ効率指数Iに基づいて対象施設Aにおけるエネルギ効率を評価する評価部4と、を備えている。
【0021】
上述のように、本実施形態では、複数の対象施設A~Dが設けられている。そのため、消費エネルギ計測部1は、複数の対象施設A~Dそれぞれの消費エネルギ量を計測する。本例では、複数の対象施設A~Dのそれぞれに消費エネルギ計測部1が設けられており、各消費エネルギ計測部1は、自らが設置された施設において消費エネルギ量を計測する。データ記憶部2は、複数の対象施設A~Dそれぞれについて計測された消費エネルギ量を収集して記憶する。また、データ記憶部2は、地域冷暖房施設8から各対象施設A~Dに供給される熱量のデータを収集して記憶する。
【0022】
詳細は後述するが、省エネルギ支援システム100は、各対象施設A~Dの消費エネルギ量から算出したエネルギ効率指数Iに基づいて、各対象施設A~Dのエネルギ効率を評価する。本実施形態では、エネルギ効率指数Iの算出、及び各対象施設A~Dのエネルギ効率の評価が、管理サーバSによって行われる。データ記憶部2、変換部3、及び評価部4の一部または全部が、拠点施設Xに設けられていてもよい。
【0023】
拠点施設Xは、管理サーバSで生成されたデータを取得するように構成されている。当該データは、拠点施設Xの拠点サーバSxによって取得され、例えば端末装置Pxを用いてモニタに表示されたり、操作されたりする。拠点施設Xが管理サーバSから取得するデータには、少なくとも、各対象施設A~Dの評価結果に関するデータが含まれる。但し、管理サーバSによる評価前のデータ、すなわち、各種対象施設A~Dの消費エネルギ量に関するデータなどが含まれていてもよい。
【0024】
以上説明した内容が、省エネルギ支援システム100のシステム構成の概要である。
【0025】
図2に示すように、省エネルギ支援システム100は、各対象施設A~Dの消費エネルギ量を計測し(ステップ#1)、計測した消費エネルギ量をエネルギ効率指数Iに変換する(ステップ#2)。消費エネルギ量の計測は、各対象施設A~Dに対応して設けられた消費エネルギ計測部1によって行われる。消費エネルギ量のエネルギ効率指数Iへの変換は、管理サーバSの変換部3によって行われる。上述のように本実施形態では、地域冷暖房施設8から供給される熱量も考慮される。そのため、変換部3は、地域冷暖房施設8から対象施設A~Dに供給される熱量に基づく消費エネルギ量を、対象施設A~Dのエネルギ効率指数Iの算出に用いる。そして、省エネルギ支援システム100は、各対象施設A~Dについてエネルギ効率指数Iに基づきエネルギ効率を評価する(ステップ#3)。この評価は、管理サーバSの評価部4によって行われる。評価部4が拠点施設Xに設けられている場合には、拠点施設Xにおいて上記評価が行われてもよい。
【0026】
ここで、対象施設A~Dで用いられるエネルギには、例えば、電力、ガス、油など、単位の異なる様々な種類のエネルギがある。本実施形態では、対象施設A~Dでは、地域冷暖房施設8から供給される熱量も用いられる(
図1参照)。
【0027】
図3に示すように、これら各種のエネルギは、それぞれ単位が異なるものである。例えば、電力の単位はkwh(キロワットアワー)とされ、ガスの単位はm
3(リューベ)とされ、油の単位はkL(キロリットル)とされ、熱量の単位はJ(ジュール)とされる。
【0028】
本実施形態では、変換部3は、異なる種類のエネルギを同一の単位に換算して、エネルギ効率指数Iを算出する。これにより、エネルギの種類によることなく、対象施設A~Dのエネルギ効率を適切に評価することが可能となる。
【0029】
変換部3は、複数のエネルギ単位毎の換算係数を記憶しており、これらの換算係数を用いてエネルギの単位を変換する。本実施形態では、変換部3は、異なる種類のエネルギの単位を電力の単位であるkwh(キロワットアワー)に変換する。具体的には、ガスの単位であるm3(リューベ)、油の単位であるkL(キロリットル)、熱量の単位であるJ(ジュール)のそれぞれを、電力の単位であるkwh(キロワットアワー)に変換する。
【0030】
図4は、1つの対象施設(例えば対象施設A)における、年間の消費エネルギ量の推移を示している。本実施形態では、対象施設Aで用いられるエネルギの単位がkwh(キロワットアワー)に統一された状態で、年間の消費エネルギ量のデータがデータ記憶部2に記憶されている。
【0031】
図4に示すように、年間の消費エネルギ量の推移は一定ではない。夏期及び冬期において消費エネルギ量が比較的高くなり、春期及び秋期において消費エネルギ量は比較的低くなる。この消費エネルギ量の推移は、基本的にはどの対象施設A~Dでも同様の傾向となる。これは、夏期では冷房のため、冬期では暖房のために、消費エネルギ量が高くなり易いことが一因として挙げられる。春期や秋期では、冷暖房に伴う消費エネルギが、夏期や冬期に比べて低くなり易い。もっとも、これは一因に過ぎず、他の要因によって消費エネルギ量が年間で増減することも考えられる。
【0032】
変換部3によって行われる変換処理、すなわち、省エネルギ量をエネルギ効率指数Iに変換する変換処理では、年間のうち一部の期間での消費エネルギ量に着目することで、エネルギ効率指数Iが算出される。ここでは、予め定められた日数を算出基準日数DRとして、算出基準日数DRでの消費エネルギ量に基づいてエネルギ効率指数Iを算出する。詳細には、算出基準日数DRの各日で計測された消費エネルギ量の平均値に基づいてエネルギ効率指数Iを算出する。
【0033】
例えば、算出基準日数DRは「各3日間」とされる。ここで、対象施設A~Dが実質的に稼働していない日やその翌日は、エネルギ消費の不確実性が高いため、消費エネルギ量の評価を行うのに適さない。そこで、本実施形態では、土日、祝日、及び、これらの翌日が含まれない普通日に、算出基準日数DRの対象各日が設定される。また、普通日には、各対象施設A~Dにおける特別な休日や、その翌日が含まれないようにしてもよい。本実施形態では、算出基準日数DRの各3日間は、連続する期間または不連続な期間から適宜選択される。例えば、後述する高消費期間THiにおける算出基準日数DRには、高消費期間THiにおける消費エネルギ量が比較的高い各3日間が選定される。また、後述する低消費期間TLoにおける算出基準日数DRには、低消費期間TLoにおける消費エネルギ量が比較的低い各3日間が選定される。
【0034】
変換部3は、変換処理において、消費エネルギ量が計測された期間のうち、算出基準日数DRでの消費エネルギ量が最も低い低消費期間TLoにおける低消費値VLoを算出する。また、変換部3は、消費エネルギ量が計測された期間のうち、算出基準日数DRでの消費エネルギ量が最も高い高消費期間THiにおける高消費値VHiを算出する。
【0035】
そして、変換部3は、高消費値VHiを低消費値VLoで除算することで、エネルギ効率指数Iを算出する。高消費値VHiは、高消費期間THiにおける消費エネルギ量であり、本例においてその単位はkwh(キロワットアワー)である。低消費値VLoは、低消費期間TLoにおける消費エネルギ量であり、その単位は高消費値VHiと同様のkwh(キロワットアワー)である。同一の単位であるこれら2つの値を除算することで、エネルギ効率指数Iは、単位を持たない無次元量として算出される。これにより、エネルギ効率指数Iに基づく対象施設A~Dの評価を行い易くなる。また、各対象施設A~Dでのエネルギ効率指数Iの比較を行う場合にも好適である。
【0036】
本実施形態では、変換部3は、複数の対象施設A~Dのそれぞれについての消費エネルギ量をエネルギ効率指数Iに変換する。
【0037】
図5中の「本実施例」に示すように、評価部4は、エネルギ効率指数Iが予め定められた基準値VR以上である場合に対象施設A~Dをエネルギ効率が低い低効率施設と評価する。基準値VRは、評価基準となる値であり、対象施設A~Dを所有または管理する企業の運用方針や、対象施設A~Dの所在地を管轄する自治体の要求などによって、適宜定められる値である。
図5に示す例では、対象施設F、対象施設A、及び対象施設Cにおけるエネルギ効率指数Iが、基準値VR以上となっている。従って、評価部4は、これら対象施設F、対象施設A、及び対象施設Cを、低効率施設と評価する。
【0038】
また、本実施形態では、評価部4は、基準値VRを用いた評価に加えて、複数の対象施設A~D毎のエネルギ効率指数Iを比較して、エネルギ効率指数Iが上位となる施設を低効率施設と評価する。
図5の「本実施例」では、エネルギ効率指数Iが高いものから順番に(エネルギ効率が低いものから順番に)、対象施設C、対象施設A、対象施設F、対象施設B、対象施設E、対象施設Dとなっている。例えば、評価部4は、上位4つを低効率施設と評価する場合には、基準値VRは下回るが上位4番目のエネルギ効率指数Iとなる対象施設Bについても、低効率施設と評価することができる。
【0039】
低効率施設と評価された対象施設C、A、F、Bでは、他の対象施設D、Eと比べて、積極的な省エネ対策を実施することができる。例えば、施設の窓ガラスを複層式に変更することで断熱効果を高め、冷暖房機器によって生成された熱が外部へ漏れ難いようにすると共に外部からの熱の侵入を抑制し、冷暖房機器の省エネルギ化を図ることが考えられる。また、施設内の二酸化炭素濃度が所定の値(例えば法定基準値:1000PPM)を上回らない範囲で、施設内への新鮮空気の導入量を抑制し、空調機器の負担を軽減することが考えられる。或いは、照明機器をLEDに変更することで、照明機器の電力消費を軽減したり、照明機器の発熱量も抑えることができる。照明機器の発熱量を抑えることで、冷房負荷の軽減にも寄与することができる。さらには、これらの各機器を高性能のものに変更することで、省エネルギ化を図ると共に、ゼロカーボン化にも寄与する。
【0040】
図5では、エネルギ原単位によって対象施設A~Dのエネルギ効率を評価した従来の手法を「比較例」として示している。エネルギ原単位で評価した場合には、各対象施設A~Dでの消費エネルギ量の総量が大きい施設ほどエネルギ効率が低いと評価され、その総量が小さいほどエネルギ効率が高いと評価され得る。
【0041】
従来のエネルギ原単位に基づく評価手法によってエネルギ効率を算出した場合には、例えば図示のように、エネルギ効率が高いものから順番に(消費エネルギ量が低いものから順番に)、対象施設A、対象施設B、対象施設C、対象施設D、対象施設E、対象施設Fとなる。
【0042】
しかしながら、各対象施設A~Fには固有の性格があり、施設内に存在する人の数、営業時間、施設に入っている企業の数およびその業務内容などが、施設毎に異なる。例えば、民間の商業施設では、役所などの行政機関の施設よりも、出入りする人の数が多く、営業時間も長いため、必然的に消費エネルギ量も大きくなる。しかしながら、このような商業施設において無駄にエネルギが消費されているというわけではなく、必要不可欠な消費も多い。従って、
図5の「比較例」に示すように、エネルギ原単位に基づいた消費エネルギ量の総量でエネルギ効率を評価することは適切とは言い難い。
【0043】
本開示に係る省エネルギ支援システム100で、同様の各対象施設A~Fについて評価を行った場合には、例えば
図5の「本実施例」に示す通りとなる。「比較例」の場合とは異なり、最もエネルギ効率が高いのが対象施設Dと評価され、最もエネルギ効率が低いのが対象施設Cと評価される。これは、エネルギ効率指数Iに基づいて評価したためである。
【0044】
上述のように、エネルギ効率指数Iは、年間で消費エネルギ量が最も高くなる高消費期間THiにおける高消費値VHiを、年間で消費エネルギ量が最も低くなる低消費期間TLoにおける低消費値VLoで除算することで得られる。低消費値VLoは、低消費期間TLoでの消費エネルギ量に基づくものであるため、対象施設A~Fでの必須のエネルギ消費量に基づく値となり易い。一方、高消費値VHiは、例えば空調設備の稼働率が上がり易い夏や冬などの高消費期間THiでの消費エネルギ量に基づくものであるため、対象施設A~Fでの必須のエネルギ消費量よりも高いエネルギ消費量に基づく値となり易い。エネルギ効率指数Iは、これら低消費値VLoと高消費値VHiとの関係によって算出されるものであるため、各対象施設A~Fの性格が考慮された指標となる。すなわち、そこまで必要とは言い難いエネルギを消費している施設をあぶり出すことが可能となる。
【0045】
このように、本開示に係る省エネルギ支援システムによれば、施設のエネルギ効率を適切に評価することが可能となる。そして、省エネルギ支援システムを用いることによって、建物全体の電気使用量、ガス使用量、油使用量、地域冷暖房使用量をもとに、エネルギ効率を分析することが可能となり、高価なエネルギマネジメントシステムを必要とすることがない。
【0046】
〔その他の実施形態〕
次に、その他の実施形態について説明する。
【0047】
(1)上記の実施形態では、変換部3は、異なる種類のエネルギの単位を電力の単位であるkwh(キロワットアワー)に変換する例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、変換部3は、異なる種類のエネルギの単位を電力以外の単位に変換してもよい。
【0048】
(2)上記の実施形態では、算出基準日数DRの各日で計測された消費エネルギの平均値に基づいてエネルギ効率指数Iを算出する例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、エネルギ効率指数Iの算出は、算出基準日数DRの各日で計測された消費エネルギの中央値に基づいて行われてもよい。或いは、算出基準日数DRの各日で計測された消費エネルギの合計値、最低値、または最高値に基づいて行われてもよい。
【0049】
(3)上記の実施形態では、算出基準日数DRが「各3日間」とされる例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、算出基準日数DRは、「1週間(各7日間)」、「1カ月(各30日間)」など、適宜設定することができる。
【0050】
(4)上記の実施形態では、土日、祝日、及び、これらの翌日が含まれない普通日に、算出基準日数DRの対象各日が設定される例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、「普通日」は、適宜設定することが可能である。例えば、対象施設が、一般的な業態の会社が入るような事務所ビルである場合には、普通日は、上述のように土日、祝日、及び、これらの翌日が含まれない日であってよい。しかしながら、対象施設が、一般消費者が土日などにも利用する商業施設である場合には、普通日には、土日や祝日が含まれるようにしてもよい。或いは、対象施設が工場である場合には、工場の操業状況に鑑みて普通日を設定することもできる。
【0051】
(5)上記の実施形態では、評価部4は、複数の対象施設A~D毎のエネルギ効率指数Iを比較して、エネルギ効率指数Iが上位となる施設を低効率施設と評価する例について説明した。しかし、このような例に限定されることなく、評価部4は、基準値VRを用いることにより、1つの対象施設のみについてエネルギ効率を評価してもよい。
【0052】
(6)高消費期間THiにおける高消費値VHiを低消費期間TLoにおける低消費値VLoで除算することによりエネルギ効率指数Iを算出する例について説明した。これらの高消費値VHiや低消費値VLoは、他の指標を算出する場合に用いるのも有効である。例えば、低消費値VLoに対して、上述した普通日の全日数を乗算することで、その対象施設の年間基礎活動量値を算出することができる。そして、対象施設における普通日の全日数での総消費エネルギ量に対して上記年間基礎活動量値で除算することで、その対象施設の年間を通じたエネルギ効率を評価することができる。
【0053】
(7)なお、上述した実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0054】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記実施形態の概要について説明する。
【0055】
省エネルギ支援システムであって、
対象施設のそれぞれに対応して設けられ、前記対象施設の消費エネルギ量を計測する消費エネルギ計測部と、
前記消費エネルギ計測部によって計測された前記消費エネルギ量のデータを収集し、年間単位で記憶するデータ記憶部と、
前記消費エネルギ量をエネルギ効率指数に変換する変換処理を実行する変換部と、
前記変換部により変換された前記エネルギ効率指数に基づいて前記対象施設におけるエネルギ効率を評価する評価部と、を備え、
前記変換部は、前記変換処理において、
予め定められた日数を算出基準日数として、
前記消費エネルギ量が計測された期間のうち、前記算出基準日数での前記消費エネルギ量が最も低い低消費期間における低消費値を算出し、
前記消費エネルギ量が計測された期間のうち、前記算出基準日数での前記消費エネルギ量が最も高い高消費期間における高消費値を算出し、
前記高消費値を前記低消費値で除算することで、前記エネルギ効率指数を算出し、
前記評価部は、前記エネルギ効率指数が予め定められた基準値以上である場合に前記対象施設をエネルギ効率が低い低効率施設と評価する。
【0056】
本構成によれば、年間で消費エネルギ量が最も高くなる高消費期間における高消費値を、年間で消費エネルギ量が最も低くなる低消費期間における低消費値で除算することで、エネルギ効率指数を算出し、このエネルギ効率指数に基づいて対象施設のエネルギ効率を評価する。低消費値は、低消費期間での消費エネルギ量に基づくものであるため、対象施設での必須のエネルギ消費量に基づく値となり易い。すなわち、対象施設の基礎活動量に基づいた値となる。一方、高消費値は、例えば空調設備の稼働率が上がり易い夏や冬などの高消費期間での消費エネルギ量に基づくものであるため、対象施設での必須のエネルギ消費量(基礎活動量)よりも高いエネルギ消費量に基づく値となり易い。そして、対象施設のエネルギ効率指数は、これら低消費値と高消費値との関係によって算出されるものであるため、対象施設の性格が考慮された指標となる。従って、本構成によれば、上記のようにして算出されるエネルギ効率指数を用いることで、対象施設のエネルギ効率を適切に評価することが可能となる。
【0057】
前記対象施設が複数設けられ、
前記消費エネルギ計測部は、複数の前記対象施設それぞれの前記消費エネルギ量を計測し、
前記データ記憶部は、複数の前記対象施設それぞれについて計測された前記消費エネルギ量を収集して記憶し、
前記変換部は、複数の前記対象施設のそれぞれについての前記消費エネルギ量を前記エネルギ効率指数に変換し、
前記評価部は、複数の前記対象施設毎の前記エネルギ効率指数を比較して、前記エネルギ効率指数が上位となる前記対象施設を前記低効率施設と評価する、と好適である。
【0058】
本構成によれば、複数の対象施設のエネルギ効率を比較して、それぞれの対象施設について相対的にエネルギ効率を評価することが可能となる。従って、企業が複数の対象施設を所有している場合には、相対的にエネルギ効率の低い対象施設を中心に省エネルギ化を進め易く、複数の対象施設全体として省エネルギ化をバランス良く実施し易い。
【0059】
前記変換部は、異なる種類のエネルギを同一の単位に換算して、前記エネルギ効率指数を算出する、と好適である。
【0060】
対象施設で用いられるエネルギには、例えば、電気、ガス、油など、単位の異なる様々な種類のエネルギがある。本構成によれば、これら種類の異なるエネルギが同一の単位に換算され、エネルギ効率指数が算出される。従って、エネルギの種類によることなく、対象施設のエネルギ効率を適切に評価することができる。
【0061】
前記データ記憶部は、地域冷暖房施設から前記対象施設に供給される熱量のデータを収集して記憶し、
前記変換部は、前記地域冷暖房施設から前記対象施設に供給される前記熱量に基づく前記消費エネルギ量を、前記対象施設の前記エネルギ効率指数の算出に用いる、と好適である。
【0062】
対象施設が、対象施設外にある地域冷暖房施設で生成された熱量の供給を受けて、当該熱量を運用する場合には、この熱量の消費も加味してエネルギ効率を評価することが好ましい。本構成によれば、地域冷暖房施設から供給された熱量に基づく消費エネルギ量がエネルギ効率指数の算出に用いられるため、より適切なエネルギ効率の評価が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示に係る技術は、省エネルギ支援システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
100 :省エネルギ支援システム
1 :消費エネルギ計測部
2 :データ記憶部
3 :変換部
4 :評価部
8 :地域冷暖房施設
A~F :対象施設
DR :算出基準日数
I :エネルギ効率指数
THi :高消費期間
TLo :低消費期間
VHi :高消費値
VLo :低消費値
VR :基準値
【要約】
【課題】施設のエネルギ効率を適切に評価することが可能なシステムを実現する。
【解決手段】変換部は、変換処理において、予め定められた日数を算出基準日数DRとして、消費エネルギ量が計測された期間のうち、算出基準日数DRでの消費エネルギ量が最も低い低消費期間TLoにおける低消費値VLoを算出し、消費エネルギ量が計測された期間のうち、算出基準日数DRでの消費エネルギ量が最も高い高消費期間THiにおける高消費値VHiを算出し、高消費値VHiを低消費値VLoで除算することで、エネルギ効率指数Iを算出する。評価部は、エネルギ効率指数Iが予め定められた基準値以上である場合に対象施設をエネルギ効率が低い低効率施設と評価する。
【選択図】
図4