(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20241001BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20241001BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20241001BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20241001BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/23
B60J1/02 M
C03C27/12 K
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2023520346
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 CN2022086752
(87)【国際公開番号】W WO2022218367
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】202110397936.2
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516151818
【氏名又は名称】フーイャォ グラス インダストリー グループ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ツォ,ファイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘ,リシャン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,フェンツ
(72)【発明者】
【氏名】ヂュー ,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ルー,グオシュイ
(72)【発明者】
【氏名】福原 康太
【審査官】弓指 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-507868(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106094072(CN,A)
【文献】特表2019-525236(JP,A)
【文献】国際公開第2020/094422(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/181740(WO,A1)
【文献】特開2010-230771(JP,A)
【文献】特表2017-538141(JP,A)
【文献】独国実用新案第202020107202(DE,U1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0303604(US,A1)
【文献】特表2018-518713(JP,A)
【文献】特開2018-173437(JP,A)
【文献】特開2018-189969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
B60K 35/00-37/06
B60J 1/00- 1/20
C03C 15/00-23/00
G02B 5/20- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影光源、合わせガラス及び透明ナノフィルムを備えるヘッドアップディスプレイ(HUD)システムであって、
前記合わせガラスは外側ガラス板、内側ガラス板及び前記外側ガラス板と前記内側ガラス板との間に挟まれた中間接着層を含み、前記外側ガラス板は第1の表面及び第2の表面を有し、前記内側ガラス板は第3の表面及び第4の表面を有し、前記透明ナノフィルムは前記第2の表面と前記第3の表面との間に配置されており、前記透明ナノフィルムは少なくとも2つの金属層を含み、前記投影光源はP偏光を生成するために用いられ、前記P偏光は45°~72°の入射角で前記第4の表面に入射し、前記透明ナノフィルムは入射した前記P偏光の少なくとも一部を反射することができ、
前記透明ナノフィルムと前記第4の表面との間の距離は1.86mm以下であり、前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスは前記P偏光に対する反射率が6%以上であり、前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスは、45°~72°の入射角内に前記P偏光に対する最大反射率Rmax及び最小反射率Rminを有し、Rmax/Rminは1.0~2.0である、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項2】
前記中間接着層はくさび形の断面プロファイルを有し、前記くさび形の断面プロファイルのくさび角は0.01~0.18ミリラジアン(mrad)である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項3】
前記投影光源によって生成される偏光における前記P偏光の割合は100%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項4】
前記金属層のうちの少なくとも1つは厚さが4nm~8nmである、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項5】
前記透明ナノフィルムは少なくとも3つの金属層を含み、前記少なくとも3つの金属層の厚さの合計は30nmより大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項6】
前記金属層のうちの少なくとも1つは厚さが12nm以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項7】
前記透明ナノフィルムは熱可塑性ポリエステル層の少なくとも1つの表面に堆積され、前記熱可塑性ポリエステル層は前記外側ガラス板と前記内側ガラス板との間に配置されており、前記熱可塑性ポリエステル層の材料は、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートである、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項8】
前記外側ガラス板及び/又は前記中間接着層は、前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスの前記P偏光に対する吸収率が8%~30%となるように、前記P偏光を吸収することができる、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項9】
前記外側ガラス板及び/又は前記内側ガラス板として、フッ化物ガラス、シリカガラス又はホウケイ酸ガラスが選択される、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項10】
前記外側ガラス板は厚さが1.8mm以上の湾曲ガラス板であり、前記内側ガラス板は厚さが1.4mm以下の湾曲ガラス板である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項11】
前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスは、前記P偏光に対する反射率が10%以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項12】
前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスの580nm~680nmの波長範囲内の近赤光反射率R1と、前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスの450nm~550nmの波長範囲内の青緑光反射率R2との比、R1/R2は1.0~1.7である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項13】
前記第4の表面に入射した前記P偏光における580nm~680nmの波長範囲内の近赤光の割合T1と、前記第4の表面に入射した前記P偏光における450nm~550nmの波長範囲内の青緑光の割合T2との比、T1/T2は0.1~0.9である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項14】
前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスの580nm~680nmの波長範囲内の近赤光反射率R1と、前記透明ナノフィルムを備える前記合わせガラスの450nm~550nmの波長範囲内の青緑光反射率R2との比、R1/R2は1.01~1.5であり、前記第4の表面に入射した前記P偏光における580nm~680nmの波長範囲内の近赤光の割合T1と、前記第4の表面に入射した前記P偏光における450nm~550nmの波長範囲内の青緑光の割合T2との比、T1/T2は0.4~0.8である、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項15】
前記HUDシステムに光フィルタリング素子及び/又はカラーフィルタリン
グアルゴリズムが増設され、前記光フィルタリング素子は前記P偏光の光路に位置し、前記光フィルタリング素子は前記P偏光に対する透過率が80%以上であり、前記HUDシステムは投影制御システムをさらに備え、前記投影制御システムは前記投影光源に前記P偏光を生成するよう制御するために用いられ、
前記カラーフィルタリン
グアルゴリズム
は前記投影制御システムに位置し、前記P偏光を処理するために用いられる、
ことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、発明の名称を「ヘッドアップディスプレイシステム」とする、2021年4月14日に出願された中国特許出願第202110397936.2号の優先権を主張し、そのすべての内容が引用として本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明はヘッドアップディスプレイ(head up display、HUD)技術分野に関し、特に透明ナノフィルムを利用して画像を表示するHUDシステムに関し、具体的に、極薄ガラスを備えるHUDシステムを提供する。
【背景技術】
【0003】
ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムは自動車にますます多く配置され、それによって、速度、エンジン回転数、燃費、タイヤ空気圧やナビゲーションなどの重要な走行情報及び外部のスマートデバイスの情報が、運転者の視野に入ったフロントガラス上にリアルタイムに表示されることができる。それで、運転者は頭を下げなくても走行情報を読むことができ、前方道路への注意力が分散することを回避することができる。同時に、運転者が遠くの道と近くの計器パネルとの間に視線を調整する必要がなくなるため、目の疲れを防ぐことができ、運転の安全性を大幅に向上させ、運転体験を改善することができる。
【0004】
HUDシステムは情報を投影して表示する際に、二重像(ゴースト)の課題が存在する。即ち、人間の目で観察される主画像に加えて、人間の目で認識されることができる副画像が現れる可能性がある。副画像をぼかし又は除去するために、従来の方法では、フロントガラスとしてくさび形の合わせガラスが利用される。例えば、特許CN105793033B、CN111417518A、CN110709359Aなどにおいて、合わせガラスの中間層としてくさび形のポリビニルブチラール(polyvinyl butyral、PVB)が利用され又は合わせガラスの1つのガラス板がくさび形断面を有することが開示されている。
【0005】
従来技術において、例えば、特許DE102014220189A1、及び中国特許CN110520782A、CN111433022A、CN111433023Aなどにも、P偏光及び導電性コーティングを利用してHUD画像を生成することが開示されている。それによって、HUD機能を実現すると同時に、断熱及び/又は電気加熱を実現することもできる。そのため、導電性コーティングの光学的及び電気的性能に対する要求が高い。より高品質なHUD画像を得るには、導電性コーティングの数及び厚さを増やすことができるが、その結果、導電性コーティングを有する合わせガラスの可視光反射率RL(8°)が大きすぎ、導電性コーティングを有する合わせガラスの可視光透過率が70%以上であるという要求を確保することが困難になる。
【発明の概要】
【0006】
従来技術において、導電性コーティングを有する合わせガラスは、P偏光反射率が高く、可視光透過率が高く、第4の表面の可視光反射率が低いという要求を同時に満たすことが困難である。本発明はその技術課題を解決しようとし、極薄ガラスを備えるヘッドアップディスプレイ(HUD)システムを提供する。
【0007】
本発明において、上記技術課題を解決するための技術的解決策は以下である。ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムが提供される。当該HUDシステムは投影光源、合わせガラス及び透明ナノフィルムを備える。合わせガラスは外側ガラス板、内側ガラス板及び外側ガラス板と内側ガラス板との間に挟まれた中間接着層を含み、外側ガラス板は第1の表面及び第2の表面を有し、内側ガラス板は第3の表面及び第4の表面を有し、透明ナノフィルムは第2の表面と第3の表面との間に配置されており、透明ナノフィルムは少なくとも2つの金属層を含む。投影光源はP偏光を生成するために用いられ、P偏光は45°~72°の入射角で第4の表面に入射し、透明ナノフィルムは入射したP偏光の少なくとも一部を反射することができる。透明ナノフィルムと第4の表面との間の距離は1.86mm以下であり、透明ナノフィルムを備える合わせガラスはP偏光に対する反射率が6%以上であり、透明ナノフィルムを備える合わせガラスは、45°~72°の入射角内にP偏光に対する最大反射率Rmax及び最小反射率Rminを有し、Rmax/Rminは1.0~2.0である。
【0008】
本発明において、HUDシステムがさらに提供される。当該HUDシステムは投影光源、合わせガラス及び透明ナノフィルムを備える。合わせガラスは外側ガラス板、内側ガラス板及び外側ガラス板と内側ガラス板との間に挟まれた中間接着層を含み、外側ガラス板は第1の表面及び第2の表面を有し、内側ガラス板は第3の表面及び第4の表面を有し、透明ナノフィルムは第2の表面と第3の表面との間に配置されており、透明ナノフィルムは少なくとも2つの金属層を含む。投影光源はP偏光を生成するために用いられ、P偏光は45°~72°の入射角で第4の表面に入射し、透明ナノフィルムは入射したP偏光の少なくとも一部を反射することができる。透明ナノフィルムと第4の表面との間の距離は1.86mm以下であり、透明ナノフィルムを備える合わせガラスはP偏光に対する反射率が6%以上である。外側ガラス板及び/又は内側ガラスの屈折率は1.35~1.49である。
【0009】
好ましくは、中間接着層はくさび形の断面プロファイルを有し、くさび形の断面プロファイルのくさび角は0.01~0.18ミリラジアン(mrad)である。
【0010】
好ましくは、投影光源によって生成される偏光におけるP偏光の割合は100%である。
【0011】
好ましくは、少なくとも1つの金属層は厚さが4nm~8nmである。
【0012】
好ましくは、透明ナノフィルムは少なくとも3つの金属層を含み、少なくとも3つの金属層の厚さの合計は30nmより大きい。
【0013】
好ましくは、少なくとも1つの金属層は厚さが12nm以上である。
【0014】
好ましくは、透明ナノフィルムは熱可塑性ポリエステル層の少なくとも1つの表面に堆積され、熱可塑性ポリエステル層は外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置されており、熱可塑性ポリエステル層の材料は、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートである。
【0015】
好ましくは、外側ガラス板及び/又は中間接着層は、透明ナノフィルムを備える合わせガラスのP偏光に対する吸収率が8%~30%となるように、P偏光を吸収することができる。
【0016】
好ましくは、外側ガラス板及び/又は内側ガラス板として、フッ化物ガラス、シリカガラス又はホウケイ酸ガラスが選択される。
【0017】
好ましくは、透明ナノフィルムを備える合わせガラスの第4の表面は可視光反射率RL(8°)が15%以下である。
【0018】
好ましくは、外側ガラス板は厚さが1.8mm以上の湾曲ガラス板であり、内側ガラス板は厚さが1.4mm以下の湾曲ガラス板である。
【0019】
好ましくは、透明ナノフィルムを備える合わせガラスは、P偏光に対する反射率が10%以上である。
【0020】
好ましくは、透明ナノフィルムを備える合わせガラスの580nm~680nmの波長範囲内の近赤光反射率R1と、透明ナノフィルムを備える合わせガラスの450nm~550nmの波長範囲内の青緑光反射率R2との比、R1/R2は1.0~1.7である。
【0021】
好ましくは、第4の表面に入射したP偏光における580nm~680nmの波長範囲内の近赤光の割合T1と、第4の表面に入射したP偏光における450nm~550nmの波長範囲内の青緑光の割合T2との比、T1/T2は0.1~0.9である。
【0022】
好ましくは、透明ナノフィルムを備える合わせガラスの580nm~680nmの波長範囲内の近赤光反射率R1と、透明ナノフィルムを備える合わせガラスの450nm~550nmの波長範囲内の青緑光反射率R2との比、R1/R2は1.01~1.5であり、第4の表面に入射したP偏光における580nm~680nmの波長範囲内の近赤光の割合T1と、第4の表面に入射したP偏光における450nm~550nmの波長範囲内の青緑光の割合T2との比、T1/T2は0.4~0.8である。
【0023】
好ましくは、HUDシステムに光フィルタリング素子及び/又はカラーフィルタリングアルゴリズムが増設され、光フィルタリング素子はP偏光の光路に位置し、光フィルタリング素子はP偏光に対する透過率が80%以上であり、HUDシステムは投影制御システムをさらに備え、投影制御システムは投影光源にP偏光を生成するよう制御するために用いられ、カラーフィルタリングアルゴリズムは投影制御システムに位置し、P偏光を処理するために用いられる。
【0024】
本発明に係るHUDシステムは、視覚的二重像がないクリアなHUD画像を生成することができ、透明ナノフィルムを備える合わせガラスの可視光透過率を高めると同時に、P偏光の反射率を高め、P偏光反射率が高く、可視光透過率が高く、第4の表面の可視光反射率が低いという要求を同時に満たすことができ、さらに、HUD画像の赤みや黄色みなどの欠陥を解決し、HUD画像に中間色を呈させ、HUD画像の色をより豊かにしてフルカラー表示を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明に係る透明ナノフィルムが第3の表面に配置されたヘッドアップディスプレイ(HUD)システムの構造を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る透明ナノフィルムが第2の表面に配置されたHUDシステムの構造を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る熱可塑性ポリエステル層に配置された透明ナノフィルムの第1の例示の構造を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る熱可塑性ポリエステル層に配置された透明ナノフィルムの第2の例示の構造を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る熱可塑性ポリエステル層に配置された透明ナノフィルムの第3の例示の構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の内容についてさらに説明する。
【0027】
図1及び
図2に示されるように、本発明に係るヘッドアップディスプレイ(HUD)システムは、投影光源1、合わせガラス2及び透明ナノフィルム3を備える。合わせガラス2は外側ガラス板21、内側ガラス板23、及び外側ガラス板21と内側ガラス板23との間に挟まれた中間接着層22を含む。外側ガラス板21は第1の表面211及び第2の表面212を有し、内側ガラス板23は第3の表面231及び第4の表面232を有する。透明ナノフィルム3は第2の表面212と第3の表面231との間に配置されており、透明ナノフィルム3は少なくとも2つの金属層を含む。投影光源1はP偏光11を生成するために用いられる。P偏光11は45°~72°の入射角で第4の表面232に入射する。透明ナノフィルム3は入射したP偏光11の少なくとも一部を反射することができる。本発明において、P偏光が45°~72°の入射角で入射する場合に、ガラス-空気界面でのP偏光に対する反射率が低くひいてはゼロに近いが、透明ナノフィルム3のP偏光に対する反射率が高いという特性を利用して、合わせガラス上の反射画像を目視で観察する際に透明ナノフィルム上の反射像のみを主画像として観察し、視覚的二重像という現象を除去する。
【0028】
本発明において、第1の表面211は自動車外部に向かって配置されており、且つ中間接着層22から最も遠い。第2の表面212は中間接着層22に近く、第3の表面231は中間接着層22に近い。第4の表面232は自動車内部に向かって配置されており、且つ中間接着層22から最も遠い。外側ガラス板21と内側ガラス板23は、中間接着層22を介して接着されて合わせガラス2を形成する。
【0029】
中間接着層22としては、ポリカーボネート(Polycarbonate、PC)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)、ポリビニルブチラール(polyvinyl butyral、PVB)、エチレン酢酸ビニル(ethylene vinyl acetate、EVA)、ポリアクリレート(polyacrylate、PA)、ポリメチルメタクリレート(polymethyl methacrylate、PMMA)、イオノプラスト中間層(ionoplast interlayer)(セントリグラスプラス(sentry glass plus、SGP))、ポリウレタン(polyurethane、PU)などのうちの少なくとも1つが選択されることができる。中間接着層22は、単層構造又は多層構造であることができ、多層構造の例示としては、二層構造、三層構造、四層構造、五層構造などが挙げられる。中間接着層22は他の機能を備えることもでき、例示として、シャドウバンドとして少なくとも1つの着色領域を設けることによって太陽光の目への悪影響を減らすようになり、赤外線吸収剤を加えることによって日焼け止めや断熱機能を備えるようになり、紫外線吸収剤を加えることによって紫外線遮断機能を備えるようになり、又は多層構造を有する中間接着層22のうちの1層の可塑剤含有量を高めることによって遮音機能を備えるようになる。フロントガラス上で生じた車両外部環境における景物の透視二重像を除去するように、中間接着層22はくさび形の断面プロファイルを有することが好ましい。くさび形の断面プロファイルのくさび角は0.01~0.18ミリラジアン(milli-radian、mrad)であり、例えば、0.01mrad、0.02mrad、0.03mrad、0.04mrad、0.05mrad、0.06mrad、0.07mrad、0.08mrad、0.09mrad、0.10mrad、0.11mrad、0.12mrad、0.13mrad、0.14mrad、0.15mrad、0.16mrad、0.17mrad、0.18mradなどが挙げられる。このように、小さいくさび角を有する中間接着層22を利用するのみで、低コストで反射二重像及び透視二重像を同時に除去することができ、より高品質なHUD画像及び観察効果を得ることができる。
【0030】
図1及び
図2において、投影光源1によって生成されたP偏光11は、45~72°の入射角θで第4の表面232に入射する。入射角θはブリュースター角(約57°)に近いため、第4の表面232に入射したP偏光はほとんど反射されず、合わせガラス2の内部に入ったP偏光は透明ナノフィルム3に伝播する。少なくとも2つの金属層を含む透明ナノフィルム3はP偏光を反射することができ、それによって、第4の表面232から出射した反射光12を形成する。反射光12は観察者100の目に直接に入り、HUD主画像を形成する。透明ナノフィルム3と第4の表面232との間の距離は1.86mm以下であることが好ましい。透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2はP偏光への反射率が6%以上である。それによって、合わせガラス2の内部に入ったP偏光が観察者100の目に再び入る光は強度が低くひいてはゼロに近い。それで、観察者100は二重像の存在を感知しにくくなり、この場合のHUD画像はクリアで、視覚的二重像がなく表示効果が良好である。
【0031】
投影光源1は速度、エンジン回転数、燃費、タイヤ空気圧、動的ナビゲーション、ナイトビジョン、ライブマップなどの関連文字及び画像情報を合わせガラス2に出力するために用いられる。それによって、それらの情報は車内の観察者100に観察されることができ、HUDさらに拡張現実ヘッドアップディスプレイ(augmented reality-HUD、AR-HUD)が実現される。投影光源1は当業者に知られている素子であり、レーザー、発光ダイオード(light emitting diode、LED)、液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)、デジタル光処理(digital light processing、DLP)、エレクトロルミネセンス(electroluminescence、EL)、陰極線管(cathode ray tube、CRT)、真空蛍光表示管(vacuum fluorescent display、VFD)、コリメートレンズ(collimator lens)、球面補正レンズ、凸レンズ、凹レンズ、反射鏡及び/又は偏光子を含むが、それらに限定されない。また、投影光源1の位置及び入射角は、車両内の観察者100の異なる位置又は高さに合わせるように調整可能である。本発明において、投影光源1によって生成されたP偏光の割合が70%以上であり、90%以上であるとより好ましく、100%であるとさらに好ましい。
【0032】
HUD画像の最大限の中間色表示を実現し、より大きい視野角(angle of field of view、FOV)の要求を満たし、及びHUD画像全体の輝度均一性を実現するために、本発明において、好ましくは、透明ナノフィルムを備える合わせガラスは、45°~72°の入射角内にP偏光に対する最大反射率Rmax及び最小反射率Rminを有し、Rmax/Rminは1.0~2.0であり、具体的な例示として、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0などが挙げられる。透明ナノフィルムを備える合わせガラスはP偏光11が72°で入射する際に最大反射率Rmaxを有し、即ちRp(72°)は14%であり、また、透明ナノフィルムを備える合わせガラスはP偏光11が60°で入射する際に最小反射率Rminを有し、即ちRp(60°)は11%であると仮定し、Rmax/Rmin=Rp(72°)/Rp(60°)=1.27である。
【0033】
本発明において、透明ナノフィルム3は少なくとも2つの金属層を含む。金属層の膜層材料としては、P偏光を反射することができるいかなる金属又は金属合金が選択されることができ、例えば銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの金属又は金属合金が挙げられる。本発明において、その材料は金属銀又は銀合金であると好ましく、本発明において、銀合金としては、金、アルミニウム、銅、プラチナのうちの少なくとも1つと銀との合金であると好ましい。透明ナノフィルム3は少なくとも3つの媒体層をさらに含み、各金属層は2つの媒体層の間に位置する。実際のアプリケーションのニーズに基づいて、透明ナノフィルム3における金属層の数は、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれ以上であることができる。金属銀又は銀合金を例として、透明ナノフィルム3は二重の銀層、三重の銀層、四重の銀層、五重の銀層などを有することができる。媒体層の材料は亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)元素の酸化物、又はケイ素(Si)、Al、Zr、イットリウム(Y)、Ce、ランタン(La)元素の窒化物、窒素酸化物、及びそれらの混合物のうちの少なくとも1つから選択される。透明ナノフィルム3はその膜層材料及び厚さが最適に設計されることで、後続の高温熱処理又は他のベンディング成形工程に耐えることができ、しかも得られたHUDシステムの光学的性能は自動車ガラスに用いられる規格を満たすことができ、薄い金属層のみの場合に存在する耐久性の悪さ、光学的外観の不良などの欠点を完全に克服することができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、透明ナノフィルムを備える合わせガラスはP偏光反射率が高く、可視光透過率が高く、第4の表面の可視光反射率が低いという要求を同時に満たすように、少なくとも1つの金属層の厚さは4nm~8nmであり、又は少なくとも1つの金属層の厚さは12nm以上である。いくつかの実施形態において、透明ナノフィルムを備える合わせガラスはP偏光反射率が高く、可視光透過率が高く、第4の表面の可視光反射率が低いという要求を同時に満たすように、透明ナノフィルムは少なくとも3つの金属層を含み、少なくとも3つの金属層の厚さの合計は30nmより大きい。
【0035】
いくつかの実施形態において、透明ナノフィルム3は底部の金属層、中間金属層及び最外部の金属層を含む。底部の金属層は、透明ナノフィルム3の堆積基板に最も近い第1の金属層であり、最外部の金属層は、透明ナノフィルム3の堆積基板から最も遠い第3の金属層であり、中間金属層は底部の金属層と最外部の金属層との間にある第2の金属層である。透明ナノフィルムを備える合わせガラスはP偏光反射率が高く、可視光透過率が高く、第4の表面の可視光反射率が低いという要求を同時に満たすように、最外部の金属層の厚さは、底部の金属層の厚さ又は中間金属層の厚さの少なくとも1.5倍である。最外部の金属層の厚さは底部の金属層の厚さと中間金属層の厚さとの合計より大きいであると好ましい。底部の金属層の厚さと中間金属層の厚さとの差は2nm以下であるとより好ましい。
【0036】
図1において、透明ナノフィルム3は内側ガラス板23の第3の表面231に堆積されており、P偏光11は内側ガラス板23のみを透過する。HUD画像の副画像の影響をさらに低減するために、外側ガラス板21及び/又は中間接着層22はP偏光を吸収できることが好ましい。それによって、透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2はP偏光11に対する吸収率が8%~30%となり、その吸収率は10%~20%となることがより好ましい。
図2において、透明ナノフィルム3は外側ガラス板21の第2の表面212に堆積されており、P偏光11は中間接着層22及び内側ガラス板23を透過する。より高品質なHUD画像を得るには、中間接着層22の屈折率と内側ガラス板23の屈折率との差は0.1以下であると好ましい。HUD画像の副画像の影響をさらに低減するために、外側ガラス板21はP偏光を吸収することができ、透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2はP偏光11に対する吸収率が8%~30%となることがより好ましく、その吸収率は10%~20%となることがより好ましい。
【0037】
図3、
図4及び
図5に示されるように、透明ナノフィルム3は、熱可塑性ポリエステル層(thermoplastic polyester layer)4の少なくとも1つの表面に堆積されることができる。熱可塑性ポリエステル層4は、外側ガラス板21と内側ガラス板23との間に配置されている。熱可塑性ポリエステル層4の材料は、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)、又はポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)であると好ましい。具体的に、
図3において、透明ナノフィルム3が堆積された熱可塑性ポリエステル層4は、中間接着層22と内側ガラス板23との間にある。透明ナノフィルム3は、熱可塑性ポリエステル層4と第3の表面231との間にある。
図4において、透明ナノフィルム3が堆積された熱可塑性ポリエステル層4は、外側ガラス板21と中間接着層22との間にある。透明ナノフィルム3は、
中間接着層22と熱可塑性ポリエステル層4との間にある。
図5において、透明ナノフィルム3が堆積された熱可塑性ポリエステル層4は、2つの中間接着層22の間にある。透明ナノフィルム3は、熱可塑性ポリエステル層4と第3の表面231の間にある。
【0038】
従来の合わせガラスに使用されているのは通常のソーダ石灰シリカガラス板であり、その具体的な構造は、通常のソーダ石灰シリカガラス板/PVB/通常のソーダ石灰シリカガラス板であり、通常のソーダ石灰シリカガラス板の屈折率nは1.51~1.52である。出願人は、外側ガラス板21と内側ガラス板23のうちの少なくとも1つは屈折率nが1.35~1.49であるガラス板を用いると、合わせガラス2の可視光透過率が70%以上であることを確保すると同時に、P偏光反射率を高め、第4の表面232の可視光反射率を下げることができる、ということを発見した。合わせガラスの具体的な構造の例示として、外側ガラス板(n=1.52)/PVB/内側ガラス板(n=1.47)、外側ガラス板(n=1.47)/PVB/内側ガラス板(n=1.51)、外側ガラス板(n=1.47)/PVB/内側ガラス板(n=1.47)などが挙げられることができる。透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2の第4の表面232の可視光反射率RL(8°)を15%以下にし、さらに10%以下にし、さらに6%以下にすることによって、車の内部の反射を減らすことができ、P偏光反射率が高く、可視光透過率が高く、第4の表面の可視光反射率が低いという要求を同時に満たすことがでる。屈折率nが1.35~1.49であるガラス板としては、フッ化物ガラス、シリカガラス又はホウケイ酸ガラスが選択されることができる。
【0039】
自動車ガラスの安全要求を満たすために、外側ガラス板21としては、厚さが1.8mm以上の湾曲ガラス板が選択される。より高品質なHUD画像の取得及び自動車の軽量化という観点から、内側ガラス板23は厚さが1.4mm以下の湾曲ガラス板であると好ましく、内側ガラス板23は厚さが0.3~1.2mmであるとより好ましい。湾曲ガラス板に対して、物理強化、化学強化又は本体強化が行われることができる。本発明に係る物理強化は主に、ガラス板に対して少なくとも560℃の高温熱処理及びベンディング成形工程を行うことである。本発明に係る化学強化は主に、異なるイオン半径を有するイオンがガラスの表面でイオン交換を行うことによって、応力層の深さをある程度に伴い、ガラスの表面に高い表面応力が発生し、それによって、ガラスの力学性能の強度を高めることである。本発明に係る本体強化されたガラスとは、物理強化を必要とせず、化学強化も必要とせず、自体が別のガラスと直接に合わせて合わせガラスを形成することができる原ガラス(raw glass)である。また、合わせガラスの品質は、中国の「GB9656-2016自動車安全ガラス」などの自動車合わせガラスの使用基準に適合する。
【0040】
透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2は、P偏光11に対する反射率が10%以上であると好ましい。より高い主画像の輝度/副画像の輝度を得るために、上記反射率が15%以上であるとより好ましい。透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2のP偏光11に対する反射率は、国際標準化機構(international organization for standardization、ISO)9050という規格に基づいて測定且つ計算されることができる。通常では、P偏光11の波長範囲は380nm~780nmである。HUD画像の赤みや黄色みなどの欠陥を解決するために、透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2の580nm~680nmの波長範囲内の近赤光反射率R1と、透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2の450nm~550nmの波長範囲内の青緑光反射率R2との比、R1/R2は1.0~1.7であると好ましい。具体的に、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7などが挙げられることができる。P偏光に対してより高い反射率を有し、より高品質なHUD画像を得るために、R1/R2は1.01~1.5であるとより好ましい。
【0041】
HUD画像の赤みや黄色みなどの欠陥を解決すると同時に、HUD画像に中間色を呈させ、HUD画像の色をより豊かにしフルカラー表示を実現する(例えば、HUD画像に赤色、緑色、青色、黄色、橙色及び白色など異なる色の標識又は符号を同時に表示する)ことができるように、本発明において、第4の表面232に入射したP偏光11における580nm~680nmの波長範囲内の近赤光の割合T1と、第4の表面232に入射したP偏光11における450nm~550nmの波長範囲内の青緑光の割合T2との比、T1/T2は0.1~0.9であると好ましく、具体的に、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8又は0.9などが挙げられることができ、T1/T2は0.4~0.8であるとさらに好ましい。色度理論(chromaticity theory)によると、所与の照明光源S(λ)のもとで、いかなる物
体の備える色の三刺激値X、Y、Zは以下の公式を満たす。
【数1】
【数2】
【数3】
【0042】
kは調整ファクタであり、R(λ)は物体の分光反射率であり、S(λ)は光源の相対的な分光パワー分布であり、
は国際照明委員会(international commission on illumination、CIE)標準観測者を用いて計算された分光三刺激値であり、dλは波長間隔である。上記公式から分かるように、本発明において、透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2の近赤光反射率R1と、透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2の青緑光反射率R2との比R1/R2に基づいて、第4の表面232に入射したP偏光11の相対的な分光パワー分布が改善される。また、本発明において、投影光源の合成光の割合を厳しく制御しなくてもフルカラー表示を実現することができ、より低コストでフルカラー表示を実現し、投影光源の使用コストを低減することができる。
【0043】
第4の表面232に入射したP偏光11の相対的な分光パワー分布を改善するために、本発明において、HUDシステムに光フィルタリング素子及び/又はカラーフィルタリングアルゴリズムが増設されることが好ましい。それによって、第4の表面232に入射したP偏光11における580nm~680nmの波長範囲内の近赤光の割合T1と、第4の表面232に入射したP偏光11における450nm~550nmの波長範囲内の青緑光の割合T2との比、T1/T2は0.1~0.9となる。光フィルタリング素子はP偏光の光路に位置し、光フィルタリング素子はP偏光に対する透過率が80%以上である。光フィルタリング素子の具体的な例として、光学フィルター、フィルター膜、フィルム、フィルターレンズ、マイクロナノアレイなどが挙げられることができる。光フィルタリング素子は投影光源1の内部に位置してもよく、又は投影光源1と合わせガラス2との間に位置する。HUDシステムは投影制御システムをさらに備える。投影制御システムは投影光源1にP偏光11を生成するよう制御するために用いられ、カラーフィルタリングアルゴリズムは投影制御システムに位置する。投影光源1によって生成されたP偏光11は、デジタル画像処理技術でカラーフィルタリングアルゴリズムにより処理され、カラーフィルタリングアルゴリズムの具体的な例として、線形法、非線形法、マスキング方法、色補償方法、色補正方法などが挙げられることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明のいくつかの実施例を挙げながらさらに説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0045】
以下、本発明の実施例1~15におけるHUDシステム及び比較例1~3におけるHUDシステムについて説明する。実施例1~15及び比較例1~3において、投影光源としては、LEDバックライトを使用した薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(thin film transistor LCD、TFT-LCD)投影機が選択される。TFT-LCD投影機は100%のP偏光を生成することができ、複数の反射鏡を含む。観察者によって観察されることができる表示画像が最もクリアになるように、投影光源の位置、出射光の入射方向が調整されることができる。本発明の実施例における透明ガラスは、可視光透過率が70%以上である。
【0046】
T1は第4の表面232に入射したP偏光11における580nm~680nmの波長範囲内の近赤光の割合であり、T2は第4の表面232に入射したP偏光11における450nm~550nmの波長範囲内の青緑光の割合であり、T1及びT2はそれぞれ、以下の公式に基づいて計算で得られる。
【数4】
【数5】
【0047】
kは調整ファクタであり
、S(λ)は光源の相対的な分光パワー分布であり、
は国際照明委員会(CIE)標準観測者を用いて計算された分光三刺激値であり、dλは波長間隔である。
【0048】
R1は透明ナノフィルム3を備える合わせガラスの580nm~680nmの波長範囲内の近赤光反射率であり、R2は透明ナノフィルム3を備える合わせガラスの450nm~550nmの波長範囲内の青緑光反射率であり、R1及びR2はISO9050という規格に基づいて測定且つ計算される。
【0049】
二重像無しの評価方法:暗室において、副画像の有無又は副画像が明らかであるか否かを目視で判定し、入射角に応じてHUD画像を目視で観察し、副画像がない場合又は副画像が明らかではない場合は二重像がないと定義し、逆に、二重像があると定義する。
【0050】
P偏光反射率:45°~72°の入射角範囲内に、透明ナノフィルム3を備える合わせガラス2のP偏光11に対する反射率(即ちRp(45°)、Rp(46°)、Rp(47°)、……、Rp(71°)、Rp(72°))を1°ごとに測定する。そのうちの最大反射率値がRmaxであり、最小反射率値がRminである。例えば、72°の入射角で入射する際の反射率が最も大きく、60°の入射角で入射する際の反射率が最も小さく、RmaxはRp(72°)であり、RminはRp(60°)である。
【0051】
可視光透過率(TL):ISO9050という規格に基づいて380~780nmの可視光透過率を計算する。
【0052】
<実施例1~5及び比較例1>
【0053】
本発明において、透明ナノフィルムの膜構造を設計し、及び内側ガラス板の厚さを調整し、外側ガラス板、内側ガラス板及び少なくとも1つの中間接着層を用意することによって、自動車ガラス生産工程に基づいて実施例1~5及び比較例1を得る。
【0054】
<実施例1>
【0055】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス)/PVB(0.76mm)/透明ナノフィルム/内側ガラス板(1.0mmの透明ガラス)。
【0056】
透明ナノフィルム:透明ガラス(1.0mm)/SiO2(15nm)/SiN(41.2nm)/AZO(10nm)/Ag(7.0nm)/NiCr(0.35nm)/AZO(5nm)/Ag(5.0nm)/AZO(10nm)/SiN(40nm)。
【0057】
<実施例2>
【0058】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス)。
【0059】
透明ナノフィルム:透明ガラス(2.1mm)/ZnSnOx(24.0nm)/TiO2(3.1nm)/AZO(10nm)/AgCuPt(5.0nm)/AZO(10nm)/TiN(2.0nm)/TiO2(8.6nm)/ZnSnOx(48.7nm)/AZO(10nm)/AgCu(5.0nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(56.7nm)/TiO2(17.4nm)/AZO(5nm)/AgCuPt(15.0nm)/AZO(5nm)/TiO2(16.9nm)/ZnSnOx(23.9nm)/SiN(5.0nm)。
【0060】
<実施例3>
【0061】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス)/PVB(0.76mm)/透明ナノフィルム/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス)。
【0062】
透明ナノフィルム:透明ガラス(2.1mm)/ZnSnOx(24.0nm)/TiO2(3.1nm)/AZO(10nm)/AgCuPt(5.0nm)/AZO(10nm)/TiN(2.0nm)/TiO2(8.6nm)/ZnSnOx(48.7nm)/AZO(10nm)/AgCu(5.0nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(56.7nm)/TiO2(17.4nm)/AZO(5nm)/AgCuPt(15.0nm)/AZO(5nm)/TiO2(16.9nm)/ZnSnOx(23.9nm)/SiN(5.0nm)。
【0063】
<実施例4>
【0064】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.5mmの透明ガラス)。
【0065】
透明ナノフィルム:透明ガラス(2.1mm)/ZnSnOx(34.1nm)/AZO(10nm)/Ag(5.0nm)/AZO(10nm)/SiN(78.1nm)/AZO(10.0nm)/Ag(5.7nm)/AZO(10.0nm)/ZnSnOx(65.8nm)/AZO(10.0nm)/Ag(8.5nm)/AZO(10.0nm)/SiN(61.7nm)/AZO(10.0nm)/Ag(15.0nm)/AZO(10.0nm)/SiN(46nm)。
【0066】
<実施例5>
【0067】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス)/PVB(0.76mm)/PET(0.05mm)/透明ナノフィルム/PVB(0.38mm)/内側ガラス板(0.5mmの透明ガラス)。
【0068】
透明ナノフィルム:PET(0.05mm)/ZnSnOx(34.1nm)/AZO(10nm)/Ag(5.0nm)/AZO(10nm)/SiN(78.1nm)/AZO(10.0nm)/Ag(5.7nm)/AZO(10.0nm)/ZnSnOx(65.8nm)/AZO(10.0nm)/Ag(8.5nm)/AZO(10.0nm)/SiN(61.7nm)/AZO(10.0nm)/Ag(15.0nm)/AZO(10.0nm)/SiN(46nm)。
【0069】
<比較例1>
【0070】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス)/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(2.1mmの透明ガラス)。
【0071】
透明ナノフィルムはない。
【0072】
実施例1~5及び比較例1におけるHUDシステムは、投影光源によって生成されたP偏光を45°~72°の入射角で投影し、HUDシステムには光フィルタリング素子及び/又はカラーフィルタリングアルゴリズムが増設されておらず、HUD画像がクリアであるか否か且つ二重像の有無を目視で観察する。同時に、透明ナノフィルムを備える合わせガラスのP偏光に対する反射率を1°ごとに記録し、Rp(60°)及びRmax/Rminを取得し、その結果を表1に計上する。
【0073】
【0074】
表1から分かるように、透明ナノフィルムが配置されていない比較例1では、HUD機能を実現することができず、透明ナノフィルムが配置された実施例1~5では、HUD機能を実現することができ、HUD画像がクリアで且つ視覚的二重像が無く、よい表示効果を有する。また、実施例1~5では、Rmax/Rminは1.4~1.6であり、HUD画像の最大限の中間色表示を実現し、より大きい視野角(FOV)の要求を満たし、及びHUD画像全体の輝度均一性などをよりよく実現することができる。
【0075】
<実施例6~10及び比較例2>
【0076】
本発明において、外側ガラス板の屈折率nと厚さ及び内側ガラス板の屈折率nと厚さを調整し、外側ガラス板、内側ガラス板及び少なくとも1つの中間接着層を用意することによって、自動車ガラス生産工程に基づいて実施例6~10及び比較例2を得る。
【0077】
<実施例6>
【0078】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス、n=1.52)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス、n=1.47)。
【0079】
透明ナノフィルム:外側ガラス板/ZnSnOx(37.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.7nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(51.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.8nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(45nm)/AZO(10nm)/Ag(14.4nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(24nm)/SiN(5nm)。
【0080】
<実施例7>
【0081】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス、n=1.47)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス、n=1.47)。
【0082】
透明ナノフィルム:外側ガラス板/ZnSnOx(37.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.7nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(51.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.8nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(45nm)/AZO(10nm)/Ag(14.4nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(24nm)/SiN(5nm)。
【0083】
<実施例8>
【0084】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス、n=1.47)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス、n=1.52)。
【0085】
透明ナノフィルム:外側ガラス板/ZnSnOx(37.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.7nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(51.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.8nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(45nm)/AZO(10nm)/Ag(14.4nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(24nm)/SiN(5nm)。
【0086】
<実施例9>
【0087】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス、n=1.52)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス、n=1.40)。
【0088】
透明ナノフィルム:外側ガラス板/ZnSnOx(37.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.7nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(51.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.8nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(45nm)/AZO(10nm)/Ag(14.4nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(24nm)/SiN(5nm)。
【0089】
<実施例10>
【0090】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス、n=1.52)/PVB(0.76mm)/透明ナノフィルム/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス、n=1.47)。
【0091】
透明ナノフィルム:内側ガラス板/ZnSnOx(37.3nm)/AZO(10nm)/Ag(8.2nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(51.3nm)/AZO(10nm)/Ag(8.0nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(45nm)/AZO(10nm)/Ag(15.5nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(24nm)/SiN(5nm)。
【0092】
<比較例2>
【0093】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス、n=1.52)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス、n=1.52)。
【0094】
透明ナノフィルム:外側ガラス板/ZnSnOx(37.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.7nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(51.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.8nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(45nm)/AZO(10nm)/Ag(14.4nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(24nm)/SiN(5nm)。
【0095】
実施例6~10及び比較例2におけるHUDシステムは、投影光源によって生成されたP偏光を45°~72°の入射角で投影し、HUDシステムには光フィルタリング素子及び/又はカラーフィルタリングアルゴリズムが増設されておらず、HUD画像がクリアであるか否か且つ二重像の有無を目視で観察する。同時に、透明ナノフィルムを備える合わせガラスのP偏光に対する反射率を1°ごとに記録し、Rp(60°)及びRmax/Rminを取得し、透明ナノフィルムを備える合わせガラスの可視光透過率(TL)を計算し、その結果を表2に計上する。
【0096】
【0097】
表2から分かるように、透明ナノフィルムが配置された実施例6~10及び比較例2では、HUD機能を実現することができ、HUD画像がクリアで且つ視覚的二重像が無く、よい表示効果を有する。比較例2と比べると、屈折率nが1.35~1.49である外側ガラス板及び/又は内側ガラス板を用いて、合わせガラスの可視光透過率が70%以上であることを確保すると同時に、P偏光反射率を高め、第4の表面の可視光反射率を下げることができる。透明ナノフィルムが配置された実施例6~10では、Rmax/Rminは1.3~1.4であり、HUD画像の最大限の中間色表示を実現し、より大きい視野角(FOV)要求を満たし、及びHUD画像全体の輝度均一性などをよりよく実現することができる。また、実施例10における3つの銀層の厚さの合計は30nmより大きく、且つ実施例10における可視光透過率(TL)は依然として70%より大きい。それによって、GB9656という規格の要求を満たし、同時にRp(60°)を大幅に向上させることができる。
【0098】
<実施例11~15及び比較例3>
【0099】
本発明において、透明ナノフィルムの膜構造を設計し、及び第4の表面に入射したP偏光のT1/T2の値を調整することによって、実施例11~15及び比較例3を得る。
【0100】
合わせガラス:外側ガラス板(2.1mmの透明ガラス、n=1.52)/透明ナノフィルム/PVB(0.76mm)/内側ガラス板(0.7mmの透明ガラス、n=1.47)。
【0101】
透明ナノフィルム:外側ガラス板/ZnSnOx(37.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.7nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(51.3nm)/AZO(10nm)/Ag(6.8nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(45nm)/AZO(10nm)/Ag(14.4nm)/AZO(10nm)/ZnSnOx(24nm)/SiN(5nm)。
【0102】
測定及び計算によって、Rmax/Rminが1.4であることが取得される。
【0103】
実施例11:入射P偏光のT1/T2は0.8である。
【0104】
実施例12:入射P偏光のT1/T2は0.7である。
【0105】
実施例13:入射P偏光のT1/T2は0.6である。
【0106】
実施例14:入射P偏光のT1/T2は0.5である。
【0107】
実施例15:入射P偏光のT1/T2は0.4である。
【0108】
比較例3:入射P偏光は、光フィルタリング処理又はカラーフィルタリング処理がされない投影光源によって生成された白色光である。
【0109】
実施例11~15及び比較例3におけるHUDシステムは、投影光源によって生成されたP偏光を50°、55°、60°、65°、70°の入射角で投影し、入射角に対応する反射角の方向から呈される目標画像を観察し、目標画像が白色スポットであることを基準としてHUD画像が赤み又は黄色みを帯びるか否かを判断する。白色スポットの赤・緑・青(red-green-blue、RGB)値が(255、255、255)であり、観察結果が表3に計上される。
【0110】
【0111】
表3から分かるように、透明ナノフィルムを備える合わせガラスのR1/R2は1.16~1.33である。比較例3では、光フィルタリング処理又はカラーフィルタリング処理がされない投影光源を利用して生成された白色光が50°、55°、60°、65°、70°で入射する際に、目標画像はやや黄色みを帯び又はやや赤み、黄色みを帯びるが、それは目視による観察に顕著な影響を与えない。しかし、実施例11~15では、T1/T2が0.4~0.8である入射P偏光を利用し、目標画像が基準の白色スポットとなり、赤みや黄色みを帯びるという現象が発生せず、より高品質なHUD画像を得ることができる。
【0112】
上記では、本発明に記載のHUDシステムについて具体的に説明したが、本発明は上記した具体的な実施形態の内容に限定されないため、本発明の技術的要点に基づいて行われるいかなる改良、同等の修正及び置換などは、いずれも本発明の保護範囲に属する。