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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】温度推定装置及びコンバータシステム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H02M7/12 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023522102
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2021019067
(87)【国際公開番号】W WO2022244166
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】黒木 渉
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/170584(WO,A1)
【文献】特開2013-201870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源側の交流電力と直流側における直流電力との間で電力変換を行うコンバータに設けられたパワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する温度推定装置であって、
前記パワー半導体素子に流れる電流の値を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された前記電流の値に少なくとも基づいて算出したジャンクション温度暫定値と前記コンバータに接続される前記三相交流電源の不平衡率とに基づいて、前記パワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出するジャンクション温度推定部と、
を備える、温度推定装置。
【請求項2】
前記ジャンクション温度推定部は、
前記不平衡率を算出する不平衡率算出部と、
前記不平衡率に基づいて温度補償係数を算出する温度補償係数算出部と、
前記ジャンクション温度暫定値を算出する暫定値算出部と、
前記ジャンクション温度暫定値と前記温度補償係数とを乗算して得られる値を、前記ジャンクション温度推定値として出力する推定値算出部と、
を有する、請求項1に記載の温度推定装置。
【請求項3】
前記暫定値算出部は、前記電流検出部により検出された前記電流の値と前記パワー半導体素子の抵抗成分の値とに少なくとも基づいて、前記ジャンクション温度暫定値を算出する、請求項2に記載の温度推定装置。
【請求項4】
前記パワー半導体素子の周囲温度を検出する周囲温度検出部をさらに備え、
前記暫定値算出部は、前記電流検出部により検出された前記電流の値と前記周囲温度とに少なくとも基づいて、前記ジャンクション温度暫定値を算出する、請求項2または3に記載の温度推定装置。
【請求項5】
前記コンバータの三相交流電源側の端子間電圧の値を検出する電圧検出部をさらに備え、
前記不平衡率算出部は、前記電圧検出部によって検出された前記端子間電圧の値に基づいて前記不平衡率を算出する、請求項2に記載の温度推定装置。
【請求項6】
前記不平衡率算出部は、前記電流検出部によって検出された前記電流の値に基づいて前記不平衡率を算出する、請求項2に記載の温度推定装置。
【請求項7】
前記ジャンクション温度推定部は、前記電流検出部によって検出された前記電流の値と所定の電流閾値とを比較する電流比較部をさらに有し、
前記推定値算出部は、前記電流検出部により検出された前記電流の値が前記電流閾値以上である場合は、前記ジャンクション温度暫定値と前記温度補償係数とを乗算して得られる値を前記ジャンクション温度推定値として出力し、前記電流検出部により検出された前記電流の値が前記電流閾値未満である場合は、前記ジャンクション温度暫定値を前記ジャンクション温度推定値として出力する、請求項2~6のいずれか一項に記載の温度推定装置。
【請求項8】
前記ジャンクション温度推定部は、前記電流検出部によって検出された前記電流の値と所定の電流閾値とを比較する電流比較部と、前記不平衡率と所定の不平衡率閾値とを比較する不平衡率電流比較部と、をさらに有し、
前記推定値算出部は、前記電流検出部により検出された前記電流の値が前記電流閾値以上かつ前記不平衡率が前記不平衡率閾値以上である場合は、前記ジャンクション温度暫定値と前記温度補償係数とを乗算して得られる値を前記ジャンクション温度推定値として出力し、前記電流検出部により検出された前記電流の値が前記電流閾値未満である場合または前記電流検出部により検出された前記電流の値が前記電流閾値以上かつ前記不平衡率が前記不平衡率閾値未満である場合は、前記ジャンクション温度暫定値を前記ジャンクション温度推定値として出力する、請求項2~6のいずれか一項に記載の温度推定装置。
【請求項9】
前記電流検出部は、前記パワー半導体素子に流れる電流の値を、前記コンバータの各相ごとに検出し、
前記ジャンクション温度推定部は、前記電流検出部により検出された各相の前記電流の値のうちの最大値に少なくとも基づいて算出したジャンクション温度暫定値と前記不平衡率とに基づいて、前記最大値となる電流が流れる前記パワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する、請求項1~8のいずれか一項に記載の温度推定装置。
【請求項10】
前記ジャンクション温度推定部により算出された前記ジャンクション温度推定値と所定の温度閾値とを比較する温度比較部と、
前記ジャンクション温度推定値が前記温度閾値以上である場合、アラームを出力するアラーム出力部と、
をさらに備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の温度推定装置。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の温度推定装置と、
前記パワー半導体素子が設けられ、前記パワー半導体素子がオンオフ動作することにより三相交流電源側の交流電力と直流側における直流電力との間で電力変換を行う前記コンバータと、
を備え、
前記ジャンクション温度推定部は、前記パワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する、コンバータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度推定装置及びコンバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバータ及びインバータは、直流電力から交流電力への変換または交流電力から直流電力への電力変換を行う電力変換装置である。例えば工作機械、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、あるいは各種ロボット内のモータを駆動するモータ駆動装置においては、交流電源から供給される交流電力をコンバータにて直流電力に変換してDCリンクへ出力し、さらにインバータにてDCリンクにおける直流電力を交流電力に変換して、この交流電力を駆動軸ごとに設けられたモータに駆動電力として供給している。ここで、DCリンクとは、コンバータの直流出力側とインバータの直流入力側とを電気的に接続する回路部分のことを指し、「DCリンク部」、「直流リンク」、「直流リンク部」または「直流中間回路」などとも称されることもある。
【0003】
コンバータ及びインバータ内に設けられたパワー半導体素子に電流が流れると、コンバータ及びインバータは発熱する。特に、PWM制御方式のコンバータ及びインバータにおいては、パワー半導体素子の定常損失や、パワー半導体素子のスイッチング動作に起因するスイッチング損失と逆回復損失により、パワー半導体素子が発熱することで、パワー半導体素子の温度が上昇する。パワー半導体素子の温度が定格温度を超えて過熱状態になると、コンバータ及びインバータ内のパワー半導体素子の破損や寿命短縮をもたらす。このため、コンバータ及びインバータの運用にあたってはパワー半導体素子またはパワー半導体素子近傍の温度をできるだけ正確に把握し、パワー半導体素子を過熱から保護することが求められている。
【0004】
コンバータ及びインバータ内のパワー半導体素子またはパワー半導体素子近傍の温度を把握する方法として、パワー半導体素子のジャンクション温度を計算により推定する方法、パワー半導体素子のケース温度(モールド表面温度及びベースプレート表面温度)を測定する方法、パワー半導体素子と接触している放熱器の温度を測定する方法などがある。
【0005】
このうち、パワー半導体素子のジャンクション温度を計算により推定する方法は、パワー半導体素子に流れる電流値と熱等価回路とに基づいて、演算処理装置による計算処理により、パワー半導体素子のジャンクション部の温度であるジャンクション温度を推定するものである。
【0006】
例えば、交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧を交流電圧に変換しモータを駆動するインバータと、速度指令とモータ速度に基づいてトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令とモータ電流に基づいてPWM信号を生成しインバータを駆動するトルク制御部と、前記モータ電流を検出する電流検出部と、前記インバータの温度を検出しインバータ温度信号を生成するインバータ温度検出部と、モータ温度信号と前記インバータ温度信号と前記モータ電流と前記モータ速度に基づいてトルク制限信号を生成する過負荷保護部とを備えるモータ制御装置において、前記過負荷保護部は、前記モータ電流から前記インバータのパワー素子推定ロスを生成するパワー素子ロス推定部と、前記パワー素子推定ロスと前記インバータ温度に基づいてジャンクション温度を推定するジャンクション温度推定部と、前記モータ電流と前記モータ速度からモータロスを推定するモータロス推定部と、前記モータ推定ロスと前記モータ温度信号からコイル温度を推定するコイル温度推定部と、前記ジャンクション推定温度と前記コイル推定温度に基づいてトルク制限信号またはアラーム信号を生成する過負荷処理部と、を備えることを特徴とするモータ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
例えば、エレベータかごを上下方向に運転する交流電動機を駆動制御するインバータ装置を有するエレベータ制御装置において、前記インバータ装置内半導体パワー素子のスイッチングする時の瞬時のスイッチングロスを演算するスイッチングロス演算器と、前記半導体パワー素子がオンし、一定電流が流れている時の瞬時のオンロスを演算するオンロス演算器と、を備え、これらスイッチングロス及びオンロスより瞬時のジャンクション温度上昇を推定し、このジャンクション温度に応じて前記パワー素子に対する負荷を軽減するようにしたことを特徴とするエレベータ制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
直流を所望の交流に変換するインバータを用いて、PWM制御によって負荷を駆動する駆動装置に備えられ、前記インバータを構成する複数のパワー素子の過熱を保護するパワー素子過熱保護装置において、前記複数のパワー素子を被装するケースの温度を検出する温度検出手段と、前記パワー素子毎のジャンクション温度と前記ケース温度との間の温度差の上昇分を演算し、得られる温度差の上昇分に前記ケースの温度を加算し、演算の結果により、前記パワー素子毎のジャンクション温度を推定する温度推定手段と、前記パワー素子毎のジャンクション温度と、前記パワー素子毎の許容動作温度とをそれぞれ比較演算し、演算の結果により、ジャンクション温度が許容動作温度に比べて高いとき、パワー素子が過熱状態であると判定し、過熱異常信号を出力する過熱異常判定手段と、前記過熱異常判定手段から少なくとも1つの過熱異常信号を入力した場合には、前記パワー素子のゲートを遮断する電力遮断信号を出力する電力遮断信号出力手段と、を備えることを特徴とするパワー素子過熱保護装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-261078号公報
【文献】特開平11-255442号公報
【文献】特開2008-131722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、コンバータに接続される三相交流電源が正常であれば電圧または電流の不平衡率が小さいことから、コンバータ内に存在する複数のパワー半導体素子の個々のジャンクション温度のばらつきは少ない。したがって、演算処理装置の演算処理においてジャンクション温度推定処理が占める割合(例えばCPU使用率)を軽減することを目的として1つの熱等価回路に基づいてパワー半導体素子のジャンクション温度を推定したとしても、算出されたジャンクション温度の推定値と各パワー半導体素子が有するジャンクション温度の真値との乖離は少ない。このように、コンバータに接続される三相交流電源の電圧または電流の不平衡率が小さい場合は、1つの熱等価回路に基づくパワー半導体素子のジャンクション温度の推定処理にて、演算処理装置の計算処理の負担の軽減と高精度の温度推定とを両立することができる。
【0011】
しかしながら、コンバータに接続される三相交流電源の電力品質が劣っている場合や三相交流電源に欠相などの異常が発生した場合は電圧または電流の不平衡率が大きくなるので、コンバータ内に存在する複数のパワー半導体素子の個々のジャンクション温度のばらつきも大きくなる。三相交流電源の不平衡率が大きい状況の下で1つの熱等価回路に基づいてパワー半導体素子のジャンクション温度を推定すると、算出されたジャンクション温度の推定値は、複数のパワー半導体素子のいくつかについてのジャンクション温度の真値から大きく乖離したものとなる。すなわち、算出されたジャンクション温度の推定値から大きく外れたジャンクション温度の真値を有するパワー半導体素子が出現してしまう。複数のパワー半導体素子の各々のジャンクション温度を正確に推定するために各パワー半導体素子ごとに熱等価回路を設定してジャンクション温度推定処理を実行することも考えられるが、この場合、演算処理装置の演算処理においてジャンクション温度推定処理が占める割合(例えばCPU使用率)が大きくなり、ジャンクション温度推定処理以外の他の演算処理に影響を与えてしまう可能性がある。また、他の演算処理への影響を抑えるために、高性能の演算処理装置を用いることが考えられるが、そのような演算処理装置は高価である。したがって、コンバータに接続される三相交流電源の不平衡率が高い場合においても、コンバータ内に設けられたパワー半導体素子のジャンクション温度推定値を高精度に算出することができる温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムの実現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様によれば、三相交流電源側の交流電力と直流側における直流電力との間で電力変換を行うコンバータに設けられたパワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する温度推定装置は、パワー半導体素子に流れる電流の値を検出する電流検出部と、電流検出部により検出された電流の値に少なくとも基づいて算出したジャンクション温度暫定値とコンバータに接続される三相交流電源の不平衡率とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出するジャンクション温度推定部とを備える。
【0013】
また、本開示の一態様によれば、コンバータシステムは、上記温度推定装置と、パワー半導体素子が設けられ、パワー半導体素子がオンオフ動作することにより三相交流電源側の交流電力と直流側における直流電力との間で電力変換を行うコンバータと、を備え、ジャンクション温度推定部は、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、コンバータに接続される三相交流電源の電力品質が劣っている場合や三相交流電源に欠相などの異常が発生した場合など三相交流電源の不平衡率が高い場合においても、コンバータ内に設けられたパワー半導体素子のジャンクション温度推定値を高精度に算出することができる温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムを実現することができる。すなわち、本開示の一態様によれば、演算処理装置の演算処理においてジャンクション温度推定処理が占める割合(例えばCPU使用率)を軽減されるので、当該演算処理装置において温度推定処理以外の他の演算処理への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の第1及び第4の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。
図2】本開示の第1の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける不平衡率算出部の変形例を示す図である。
図3】温度補償係数の第2の算出方法により算出された不平衡率kと温度補償係数Aとの関係を例示する図である。
図4】本開示の第1の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
図5】本開示の第2の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。
図6】本開示の第2の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
図7】本開示の第3の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。
図8】本開示の第4の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
図9】本開示の第4の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照して、温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムについて説明する。理解を容易にするために、図面は縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は実施するための一つの例であり、図示された形態に限定されるものではない。
【0017】
本開示の実施形態による温度推定装置を備えるコンバータシステムの直流側の負荷としては、インバータと交流モータとからなる組、及び、直流モータなどがある。交流モータまたは直流モータが設けられる機械には、例えば、工作機械、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、あるいは各種ロボットなどが含まれる。
【0018】
以下、一例として、本開示の実施形態による温度推定装置を備えるコンバータシステムの直流側の負荷として、インバータ及び交流モータが設けられる例について説明する。交流モータの種類は特に限定されず、例えば誘導モータであっても同期モータであってもよい。また、交流モータの相数は本開示の実施形態を特に限定するものではなく、例えば三相であっても単相であってもよい。なお、本開示の実施形態による温度推定装置を備えるコンバータシステムの直流側の負荷として直流モータが設けられる場合についても、以下の説明は同様に適用可能である。
【0019】
まず、本開示の第1の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムについて説明する。
【0020】
図1は、本開示の第1及び第4の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。図1に示す温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける各要素の接続関係は、後述する第4の実施形態にも適用可能である。
【0021】
コンバータシステム100は、本開示の第1の実施形態による温度推定装置1と、コンバータ2と、コンバータ制御装置3とを備える。コンバータ2の交流側には、例えば電磁接触器(MCC)及び三相交流リアクトルを介して、三相交流電源4が接続される。三相交流電源4の一例を挙げると、三相交流400V電源、三相交流200V電源、三相交流600V電源などがある。
【0022】
コンバータシステム100内のコンバータ2は、三相ブリッジ回路31と、平滑コンデンサ32と、DCリンクコンデンサ33と、予備充電回路34と、温度検出素子35とを備える。
【0023】
コンバータ2内の三相ブリッジ回路31は、交流電力を直流電力に変換することができるものであればよく、例えば、PWMスイッチング制御方式の整流回路、同期整流方式の整流回路、及びダイオード整流方式の整流回路などがある。図1に示す例では、一例として、三相ブリッジ回路31を、PWMスイッチング制御方式の整流回路または同期整流方式の整流回路としている。
【0024】
三相ブリッジ回路31は、三相の各相に対応する3つのレグを有する。各レグは、上アーム及び下アームを有する。コンバータ2がPWMスイッチング制御方式の整流回路または同期整流方式の整流回路で構成される場合、三相ブリッジ回路31の各上アーム及び各下アームには、半導体スイッチング素子とこの半導体スイッチング素子に逆並列に接続されたダイオードとからなるパワー半導体素子が設けられる。半導体スイッチング素子の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO、及びトランジスタなどがある。コンバータ2がダイオード整流方式の整流回路で構成される場合、三相ブリッジ回路31の各上アーム及び各下アームには、ダイオードからなるパワー半導体素子が設けられる。
【0025】
平滑コンデンサ32は、三相ブリッジ回路31の直流側に設けられ、三相ブリッジ回路31からの直流出力の脈動分を抑える機能を有する。平滑コンデンサ32の例としては、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサなどがある。
【0026】
DCリンクコンデンサ33は、平滑コンデンサ32とインバータ5の直流側との間に設けられ、直流電力を蓄積する機能を有する。DCリンクコンデンサ33の例としては、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサなどがある。
【0027】
インバータ5の動作開始前までにDCリンクコンデンサ33を予備充電(初期充電)するために、予備充電回路(初期充電回路)34が設けられる。予備充電回路34は、三相ブリッジ回路31とDCリンクコンデンサ33との間の電路を開閉するスイッチとスイッチに並列接続された充電抵抗とを有する。インバータ5の起動直後(電源投入直後)からインバータ5の通常動作開始前までの予備充電期間中、スイッチは開放(オフ)する。予備充電期間中は、スイッチは開状態を維持するので、三相ブリッジ回路31から出力される電流は充電抵抗を介して充電電流としてDCリンクコンデンサ33へ流れ込み、DCリンクコンデンサ33は充電(予備充電)される。予備充電期間中は、三相ブリッジ回路31から出力される電流は充電抵抗を流れるので、突入電流の発生を防ぐことができる。DCリンクコンデンサ33が所定の電圧まで充電されると、スイッチは開から閉に切り替えられ、予備充電回路34による予備充電を完了する。予備充電完了後は、三相ブリッジ回路31から出力される電流は、閉状態にあるスイッチを通じて、DCリンクに接続されたインバータ5及びDCリンクコンデンサ33へ向けて流れることになる。
【0028】
温度検出素子35は、パワー半導体素子の近傍に設けられ、温度検出素子35の温度変化に伴い出力が変化する素子である。温度検出素子35から出力された信号は、後述する温度推定装置1内の周囲温度検出部14に送られる。温度検出素子35の例としては、例えば、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、及び白金測温抵抗体などがある。
【0029】
コンバータシステム100内のコンバータ制御装置3は、スイッチング制御部41とDCリンク部電圧検出部42とを備える。
【0030】
DCリンク部電圧検出部42は、DCリンクコンデンサ33の両端の電位差であるDCリンクコンデンサ電圧値を検出する。このコンデンサ電圧値は、直流リンク電圧値に相当する。すなわち、三相ブリッジ回路31の直流出力側の正側端子に現れる正電位と三相ブリッジ回路31の直流出力側の負側端子に現れる負電位との間の電位差の値が、DCリンクコンデンサ電圧値である。DCリンク部電圧検出部42により検出されたDCリンクコンデンサ電圧値は、スイッチング制御部41に送られ、また、インバータ5を制御するための上位制御装置(図示せず)にも送られる。
【0031】
スイッチング制御部41は、上位制御装置(図示せず)から受信した駆動指令、DCリンク部電圧検出部42により検出されたDCリンクコンデンサ電圧値、後述する電流検出部11により検出されたコンバータ2に入力される電流の値(パワー半導体素子に流れる電流の値)、及び後述する電圧検出部13により検出されたコンバータ2の三相交流電源側の端子間電圧の値などに基づいて、三相ブリッジ回路31内の各パワー半導体素子の半導体スイッチング素子に対してオン及びオフを指令するスイッチング指令を生成する。生成されたスイッチング指令は、半導体スイッチング素子のドライブ回路(図示せず)に送られる。ドライブ回路は、スイッチング指令の内容に応じて半導体スイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各半導体スイッチング素子に印加する。
【0032】
なお、図1に示す例では、電流検出部11及び電圧検出部13については、温度推定装置1とコンバータ制御装置3とで共用している。この代替例として、温度推定装置1とコンバータ制御装置3とで別々に電流検出部及び電圧検出部を設けてもよい。
【0033】
コンバータ制御装置3内には演算処理装置(プロセッサ)が設けられる。この演算処理装置は、上述したスイッチング制御部41及びDCリンク部電圧検出部42を有する。演算処理装置が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。例えば、スイッチング制御部41及びDCリンク部電圧検出部42をコンピュータプログラム形式で構築する場合は、演算処理装置をこのコンピュータプログラムに従って動作させることで、各部の機能を実現することができる。スイッチング制御部41及びDCリンク部電圧検出部42の各処理を実行するためのコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録された形で提供されてもよい。またあるいは、スイッチング制御部41及びDCリンク部電圧検出部42を、各部の機能を実現するコンピュータプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。
【0034】
コンバータ2の直流側には、インバータ5が接続される。インバータ5は、スイッチング素子及びこれに逆並列に接続されたダイオードのフリッジ回路からなる。スイッチング素子の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO、及びトランジスタなどがあるが、その他の半導体素子であってもよい。図1に示す例では、モータ6を三相交流モータとしたので、インバータ5は三相ブリッジ回路で構成される。モータ6が単相交流モータである場合は、インバータ5は単相ブリッジ回路で構成される。インバータ5は、上位制御装置(図示せず)の指令に基づき内部のスイッチング素子のオンオフ動作がPWM制御されることで、DCリンクにおける直流電力を交流電力に変換して交流入出力側のモータ6へ供給するとともに、モータ6の減速により回生された交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ戻す。モータ6は、インバータ5から供給される交流電力に基づいて、速度、トルクまたは回転子の位置が制御される。インバータ5を制御する上位制御装置は、アナログ回路と演算処理装置との組み合わせで構成されてもよく、あるいは演算処理装置のみで構成されてもよい。インバータ5を制御する上位制御装置を構成し得る演算処理装置には、例えばIC、LSI、CPU、MPU、DSPなどがある。
【0035】
本開示の第1の実施形態による温度推定装置1は、コンバータ2内の三相ブリッジ回路31に設けられたパワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する。温度推定装置1は、電流検出部11と、ジャンクション温度推定部12と、電圧検出部13と、周囲温度検出部14と、温度比較部15と、アラーム出力部16とを備える。
【0036】
電流検出部11は、コンバータ2の三相ブリッジ回路31内に設けられたパワー半導体素子に流れる電流の値(コンバータ2に入力される電流の値)を検出する。電流検出部11により検出された電流の値は、ジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及びコンバータ制御装置3内のスイッチング制御部41に送られる。なお、電流検出部11は、コンバータ制御装置3に設けられる電流検出部と共用であってもよい。
【0037】
電圧検出部13は、コンバータ2の三相交流電源4側の端子間電圧(線間電圧)の値を検出する。電圧検出部13によって検出された端子間電圧の値は、ジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及び不平衡率算出部21並びにコンバータ制御装置3内のスイッチング制御部41に送られる。なお、電圧検出部13は、コンバータ制御装置3に設けられる電圧検出部と共用であってもよい。
【0038】
周囲温度検出部14は、パワー半導体素子の近傍に設けられた温度検出素子35から送られてきた信号に基づいてパワー半導体素子の周囲温度を検出する。周囲温度検出部14によって検出されたパワー半導体素子の周囲温度は、ジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23に送られる。
【0039】
ジャンクション温度推定部12は、電流検出部11により検出された電流の値に少なくとも基づいて算出したジャンクション温度暫定値とコンバータ2に接続される三相交流電源4の不平衡率とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する。このため、ジャンクション温度推定部12は、不平衡率算出部21と、温度補償係数算出部22と、暫定値算出部23と、推定値算出部24と、を有する。
【0040】
暫定値算出部23は、電流検出部11により検出された電流の値と電圧検出部13によって検出された端子間電圧の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。ジャンクション温度暫定値は、三相交流電源4が平衡である状態において推定されるジャンクション温度の値であり、すなわち三相交流電源4の不平衡率については考慮せずに推定される値である。
【0041】
パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値Tj1は、式1のように表すことができる。式1において、パワー半導体素子に電流が流れることにより生じる電力をWとする。また、式1において、予め規定されたパワー半導体素子の単位基準電力をW0とし、パワー半導体素子の単位基準電力W0当たりの温度上昇率を「ΔT/W0」(定数)と定義する。また、式1において、周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度をTa、熱時定数をτ、パワー半導体素子に電力が生じている時間(パワー半導体素子に電流が流れている時間)をtとしている。
【0042】
【数1】
【0043】
式1において、パワー半導体素子に生じる電力Wは、電流検出部11により検出された電流の値の二乗とパワー半導体素子の抵抗成分の値とを乗算することによって求めることができる。例えば、パワー半導体素子の抵抗をR、パワー半導体素子に流れる電流をIとしたとき、パワー半導体素子に生じる電力Wは、「W=R×I2」となる。よって、暫定値算出部23は、式1に従って、電流検出部11により検出された電流の値と電圧検出部13によって検出された端子間電圧の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。なお、例えばコンバータ2の設置場所の温度がほぼ一定であるような場合には、式1においてパワー半導体素子の周囲温度Taを定数(すなわちコンバータ2の設置場所の温度)とすることで、周囲温度検出部14及び温度検出素子35を省略してもよい。
【0044】
不平衡率算出部21は、三相交流電源4の不平衡率を算出する。図1に示す例では、不平衡率算出部21は、電圧検出部13により検出された端子間電圧(線間電圧)の値に基づいて、三相交流電源4の電圧の不平衡率を算出する。
【0045】
三相交流電源4の電圧の不平衡率は、公知の式に従って算出することができる。ここで、三相交流電源4の電圧の不平衡率の算出方法について、一例として2つ列記する。2つの算出方法の出典元は、公益社団法人日本電気技術者協会のホームページ(https://jeea.or.jp/course/contents/05102/)である。
【0046】
三相交流電源4の電圧の不平衡率の第1の算出方法について説明すると次の通りである。
【0047】
電圧検出部13により検出された三相RSTの端子間電圧(線間電圧)の値をERS、EST及びETRとすると、端子間電圧平均値Eavgは式2のように表すことができる。
【0048】
【数2】
【0049】
正相電圧E1は、式3のように表すことができる。
【0050】
【数3】
【0051】
逆相電圧E2は、式4のように表すことができる。
【0052】
【数4】
【0053】
よって、三相交流電源4の電圧の不平衡率の第1の算出方法によれば、式3に示す正相電圧E1及び式4に示す逆相電圧E2を用いて、三相交流電源4の電圧の不平衡率kは、式5のように表すことができる。
【0054】
【数5】
【0055】
三相交流電源4の電圧の不平衡率の第2の算出方法について説明すると次の通りである。
【0056】
電圧検出部13により検出された三相RSTの端子間電圧(線間電圧)の値をERS、EST、及びETRとすると、端子間電圧平均値Eavgは上述の式2のように表すことができる。このとき、各端子間電圧ERS、EST及びETRと端子間電圧平均値Eavgとの差の絶対値の最大値Ediffmaxは式6のように表すことができる。
【0057】
【数6】
【0058】
よって、三相交流電源4の電圧の不平衡率の第2の算出方法によれば、式2に示す端子間電圧平均値Eavg及び式6に示すEdiffmaxを用いて、三相交流電源4の電圧の不平衡率kは、式7のように表すことができる。
【0059】
【数7】
【0060】
不平衡率算出部21は、例えば、上述した式5または式7に従って、電圧検出部13により検出された端子間電圧の値に基づいて、三相交流電源4の電圧の不平衡率を算出する。
【0061】
なお、不平衡率算出部21は、三相交流電源4の不平衡率として、電流検出部11により検出された電流の値(コンバータ2に入力される電流の値)に基づいて、三相交流電源4の電流の不平衡率を算出してもよい。図2は、本開示の第1の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける不平衡率算出部の変形例を示す図である。電流検出部11により検出された電流の値は、不平衡率算出部21に送られる。不平衡率算出部21は、電流検出部11により検出された電流の値に基づいて、三相交流電源4の電流の不平衡率を算出する。三相交流電源4の電流の不平衡率を算出にあたっては、例えば、上述した式5または式7の「電圧の値」を「電流の値」に置き換えた式を用いればよい。図2において、不平衡率算出部21以外の回路構成要素については図1に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0062】
不平衡率算出部21により算出された三相交流電源4の不平衡率は、温度補償係数算出部22に送られる。温度補償係数算出部22は、不平衡率に基づいて温度補償係数を算出する。温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数は、推定値算出部24に送られる。推定値算出部24は、ジャンクション温度暫定値と温度補償係数とを乗算して得られる値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0063】
ここで、ジャンクション温度暫定値、温度補償係数、及びジャンクション温度推定値について、より詳細に説明する。
【0064】
上述したように、式1に従って暫定値算出部23によって算出されたジャンクション温度暫定値は、三相交流電源4が平衡である(不平衡ではない)状況において推定されるジャンクション温度の値である。三相交流電源4が平衡である(不平衡ではない)状況の下で電流検出部11により検出された電流の値及び電圧検出部13により検出された電圧の値に基づいて式1に従って算出されたジャンクション温度暫定値は、ジャンクション温度の真値に近い値であるので、当該ジャンクション温度暫定値をそのままパワー半導体素子のジャンクション温度と推定しても(すなわちジャンクション温度推定値として用いても)誤差は少ない。
【0065】
しかしながら、三相交流電源4の不平衡率が大きい状況の下で電流検出部11により検出された電流の値及び電圧検出部13により検出された電圧の値に基づいて式1に従って算出されたジャンクション温度暫定値は、複数のパワー半導体素子のいくつかについてのジャンクション温度の真値から大きく乖離したものとなる。そこで、本開示の第1の実施形態では、三相交流電源4の不平衡率が大きい状況の下で暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値とジャンクション温度の真値との乖離を小さくするためのパラメータとして三相交流電源4の不平衡率を反映した温度補償係数を算出し、ジャンクション温度暫定値と温度補償係数とを乗算して得られる値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として確定する。
【0066】
ここで、温度補償係数の算出方法について、一例として2つ列記する。
【0067】
温度補償係数の第1の算出方法について説明すると次の通りである。
【0068】
例えば、上述した三相交流電源4の電圧の不平衡率の第2の算出方法にて不平衡率kを算出する。このとき、式6において、端子間電圧ERS、EST及びETRのうち、最小値がERSであると仮定すると、式8が成り立つ。
【0069】
【数8】
【0070】
式8について式7を用いて変形すると、式9が得られる。
【0071】
【数9】
【0072】
三相交流電源4の電圧の不平衡時おいてR相とS相との間に電圧ERSが印加されるときにR相またはS相のパワー半導体素子に生じる電力WRSは、式10のように表すことができる。
【0073】
【数10】
【0074】
一方、三相交流電源4の電圧の平衡時おいてR相とS相との間に電圧ERSが印加されるときにR相またはS相のパワー半導体素子に生じる電力WRSは、式11のように表すことができる。
【0075】
【数11】
【0076】
式11に示す三相交流電源4の電圧の平衡時の電力WRSに式12に示す係数Aを乗算すれば、式10に示す三相交流電源4の電圧の不平衡時の電力WRSが得られることが分かる。
【0077】
【数12】
【0078】
式12に示す係数Aを、三相交流電源4の不平衡率が大きい状況の下で暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値とジャンクション温度の真値との乖離を小さくするための温度補償係数として用いる。例えば不平衡率kが0%のときは温度補償係数Aは1となる。温度補償係数算出部22は、式12に従って、不平衡率算出部21によって算出された不平衡率kを用いて温度補償係数Aを算出し、この温度補償係数Aを推定値算出部24へ送る。推定値算出部24は、例えば、式1で示されるジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数Aとを乗算して得られる値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0079】
温度補償係数の第2の算出方法について説明すると次の通りである。
【0080】
温度補償係数の第2の算出方法は、コンバータシステム100の実際の運用前の実験により、0%~100%の任意の不平衡率の線間電圧を出力することができる実験用三相交流電源を接続したコンバータシステム100を動作させて不平衡率と温度補償係数との関係式を求めるものである。実験では、実験用三相交流電源から0%~100%のうちの特定の不平衡率の線間電圧を出力させて三相ブリッジ回路31内の各パワー半導体素子のジャンクション温度を実測し、実測したジャンクション温度のうちの最大値を、式1に示すジャンクション温度推定値で除算することで、当該特定の不平衡率のときの温度補償係数Aを算出する。図3は、温度補償係数の第2の算出方法により算出された不平衡率kと温度補償係数Aとの関係を例示する図である。図3では、実験により得られた0%~30%の不平衡率kに対応する温度補償係数Aを黒丸で示している。実験により得られた不平衡率kと温度補償係数Aとの値から、不平衡率kと温度補償係数Aとの関係を示す近似式を求める。図3では、一例として、不平衡率kと温度補償係数Aとの関係を直線近似(1次関数)により求めたが、1次関数以外の関数を近似式に用いてもよい。また、不平衡率kと温度補償係数Aとの関係を示す近似式は、不平衡率0%から100%までを一区間とするものを求めてもよい。あるいは、不平衡率0%から100%までの間を複数の区間に分割し、区間ごとに不平衡率kと温度補償係数Aとの関係を示す近似式を求めてもよい。実験により求められた不平衡率kと温度補償係数Aとの関係を示す近似式は、温度補償係数算出部22に予め格納される。温度補償係数算出部22は、不平衡率算出部21によって算出された不平衡率kに対応する温度補償係数Aを当該近似式に従って算出し、この温度補償係数Aを推定値算出部24へ送る。推定値算出部24は、例えば、式1で示されるジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数Aとを乗算して得られる値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0081】
このように、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値は、式1で示されるジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数Aとを乗算して得られる。すなわち、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値Tj2は、式13のように表すことができる。
【0082】
【数13】
【0083】
なお、式1に従ってジャンクション温度暫定値を算出する際は、パワー半導体素子に生じる電力Wを、電流検出部11により検出された電流を二乗した値とパワー半導体素子の抵抗成分の値とを乗算することによって求めている。代替方法として、パワー半導体の順方向電圧Vfやコレクタエミッタ間飽和電圧VCE(sat)を電流検出部11により検出された電流値に乗算して求めてもよい。パワー半導体素子の抵抗をR、パワー半導体素子に流れる電流をIとしたとき、パワー半導体素子に生じる電力Wは、「W=R×I2」であるので、式1は、式14のように変形することができる。
【0084】
【数14】
【0085】
式14において、温度上昇率ΔT、パワー半導体素子の抵抗R、及びパワー半導体素子の基準電力W0は演算の簡略化のために一定値とみなし、式15に示す定数Mを導入する。
【0086】
【数15】
【0087】
式14に式15を代入すると、式16で示されるジャンクション温度暫定値Tj1が得られる。
【0088】
【数16】
【0089】
暫定値算出部23は、式16に従って、電流検出部11により検出された電流の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出することができる。よって、ジャンクション温度推定値Tj2は、式17のように表すことができる。
【0090】
【数17】
【0091】
上述のように推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値は、例えば表示部(図示せず)に表示される。表示部の例としては、単体のディスプレイ装置、上位制御部に付属のディスプレイ装置、温度推定装置1に付属のディスプレイ装置、コンバータシステム100に付属のディスプレイ装置、コンバータシステム100を備えるモータ駆動装置に付属のディスプレイ装置、並びに、パソコン及び携帯端末に付属のディスプレイ装置などがある。またあるいは、表示部に代えて、温度推定装置1により算出されたジャンクション温度推定値を、音響機器(図示せず)により音声にて出力させてもよい。これにより、三相交流電源4の電力品質が劣っている場合や三相交流電源4に欠相などの異常が発生した場合など三相交流電源4の不平衡率が高い場合においても、作業者は、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値を正確かつに把握することができる。
【0092】
また、上述のように推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値は、温度比較部15へ送られる。
【0093】
温度比較部15は、ジャンクション温度推定部12内の推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値と所定の温度閾値とを比較する。温度比較部15による比較結果は、アラーム出力部16に送られる。温度閾値は、例えば、パワー半導体素子が過熱により破壊される温度よりも数十%程度低い温度、パワー半導体素子の過熱によりコンバータシステム100が破壊される温度よりも数十%程度低い温度、または、パワー半導体素子もしくはコンバータシステムについて予め規定された定格温度よりも数十%程度高い温度などに設定すればよい。ここで挙げた数値はあくまでも一例であって、これ以外の数値であってもよい。また、例えば実験もしくは実際の運用によりコンバータシステム100を動作させたりまたはコンピュータによるシミュレーションにより、コンバータシステム100の適用環境やアラーム出力部16によるアラームの出力の有無との関係性などを事前に求めたうえで、温度閾値を設定してもよい。設定された温度閾値は、記憶部(図示せず)に記憶される。なお、温度閾値を記憶する記憶部(図示せず)は外部機器によって書き換え可能とすることで、温度閾値を一旦設定した後であっても必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0094】
アラーム出力部16は、温度比較部15による比較結果がジャンクション温度推定値が温度閾値以上であることを示す場合は、アラームを出力する。アラーム出力部16から出力されたアラームは、例えば表示部(図示せず)に送られ、表示部は、例えば「パワー半導体素子の過熱」を作業者に通知する表示を行う。表示部の例としては、単体のディスプレイ装置、上位制御部に付属のディスプレイ装置、温度推定装置1に付属のディスプレイ装置、コンバータシステム100に付属のディスプレイ装置、コンバータシステム100を備えるモータ駆動装置に付属のディスプレイ装置、並びに、パソコン及び携帯端末に付属のディスプレイ装置などがある。またあるいは、アラーム出力部16から出力されたアラームは、例えば音響機器(図示せず)に送られる。また例えば、アラーム出力部16から出力されたアラームは、例えばLEDやランプなどの発光機器(図示せず)に送られ、発光機器はアラーム受信時に発光することで、作業者に「パワー半導体素子の過熱」を通知する。また例えば、アラーム出力部16から出力されたアラームは、例えば音響機器(図示せず)に送られ、音響機器はアラーム受信時に例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発することで、作業者に「パワー半導体素子の過熱」を通知する。これにより、作業者は、パワー半導体素子の過熱を、確実かつ容易に把握することができる。作業者は、例えば、コンバータシステム100を緊急停止させたり、パワー半導体素子を交換するといった対応をとることも容易となる。また、アラーム出力部16から出力されたアラームは、コンバータシステム100の保護動作に用いられてもよく、あるいはコンバータシステム100を備えるモータ駆動装置の保護動作に用いられてもよい。
【0095】
図4は、本開示の第1の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0096】
本開示の第1の実施形態による温度推定装置1及びこれを備えるコンバータシステム100におけるパワー半導体素子の温度推定処理は、コンバータシステム100が三相交流電源4に接続されて実際に運用されているときに周期的に実行される。
【0097】
ステップS101において、電圧検出部13は、コンバータ2の三相交流電源4側の端子間電圧の値を検出する。また、図4では図示を省略したが、電流検出部11は、コンバータ2の三相ブリッジ回路31に設けられたパワー半導体素子に流れる電流の値(コンバータ2に入力される電流の値)を検出し、周囲温度検出部14は、温度検出素子35から送られてきた信号に基づいてパワー半導体素子の周囲温度を検出する。
【0098】
ステップS102において、不平衡率算出部21は、三相交流電源4の不平衡率を算出する。算出する三相交流電源4の不平衡率は、電圧の不平衡率であっても電流の不平衡率であってもよい。
【0099】
ステップS103において、温度補償係数算出部22は、不平衡率算出部21によって算出された不平衡率を用いて温度補償係数を算出する。
【0100】
ステップS104において、暫定値算出部23は、電流検出部11により検出された電流の値と電圧検出部13によって検出された端子間電圧の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。
【0101】
ステップS105において、推定値算出部24は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値は、温度比較部15へ送られる。また、推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値については、例えば表示部(図示せず)に表示してもよく、音響機器(図示せず)により音声にて出力してもよい。
【0102】
ステップS106において、温度比較部15は、ジャンクション温度推定部12内の推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値と所定の温度閾値とを比較する。ステップS106において、ジャンクション温度推定値が温度閾値以上であると判定された場合はステップS107へ進み、ジャンクション温度推定値が温度閾値未満であると判定された場合はステップS101へ戻る。
【0103】
ステップS107において、アラーム出力部16は、アラームを出力する。
【0104】
上述したステップS101~S107の処理は、ステップS107においてアラーム出力部16によりアラームが出力されるまで、周期的に繰り返し実行される。
【0105】
続いて、本開示の第2の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムについて説明する。
【0106】
本開示の第2の実施形態は、パワー半導体素子に流れる電流の大きさに応じて、ジャンクション温度暫定値と温度補償係数とを乗算して得られる値をジャンクション温度推定値として出力するかあるいはジャンクション温度暫定値をそのままジャンクション温度推定値として出力するかを切り替えるものである。
【0107】
図5は、本開示の第2の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。
【0108】
本開示の第2の実施形態による温度推定装置1は、図1または図2に示す第1の実施形態による温度推定装置1内のジャンクション温度推定部12において電流比較部25を追加したものである。すなわち、ジャンクション温度推定部12は、電流比較部25をさらに有する。
【0109】
電流検出部11により検出された電流の値は、ジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及びコンバータ制御装置3内のスイッチング制御部41に加えて、電流比較部25にも送られる。
【0110】
電流比較部25は、電流検出部11により検出された電流の値と所定の電流閾値とを比較する。電流比較部25による比較結果は、推定値算出部24に送られる。電流閾値は、例えばパワー半導体素子の定格電流の60%に設定されるが、ここで挙げた数値はあくまでも一例であって、これ以外の数値であってもよい。また、例えば実験もしくは実際の運用によりコンバータシステム100を動作させたりまたはコンピュータによるシミュレーションにより、コンバータシステム100の適用環境やアラーム出力部16によるアラームの出力の有無との関係性などを事前に求めたうえで、電流閾値を設定してもよい。設定された電流閾値は、記憶部(図示せず)に記憶される。なお、電流閾値を記憶する記憶部(図示せず)は外部機器によって書き換え可能とすることで、電流閾値を一旦設定した後であっても必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0111】
パワー半導体素子に流れる電流が小さい場合は、三相交流電源4の不平衡率が及ぼす影響は小さいので暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値は真値に近いと考えられる。そこで、本開示の第2の実施形態では、パワー半導体素子に流れる電流が小さい場合は、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22は動作させずジャンクション温度暫定値をジャンクション温度推定部として確定することで、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22を構成する演算処理装置の計算負荷を軽減する。一方、パワー半導体素子に流れる電流が大きい場合は、三相交流電源4の不平衡率が及ぼす影響は大きいので、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値は真値から大きく乖離したものと考えられる。そこで、本開示の第2の実施形態では、パワー半導体素子に流れる電流が大きい場合は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値をジャンクション温度推定値として確定することで、計算負荷の軽減よりも温度推定処理の精度の向上を優先する。
【0112】
推定値算出部24は、電流比較部25による比較結果が電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値以上であることを示す場合は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値をジャンクション温度推定値として出力する。また、推定値算出部24は、電流比較部25による比較結果が電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であることを示す場合は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値をそのままジャンクション温度推定値として出力する。
【0113】
本開示の第2の実施形態による温度推定装置1及びこれを備えるコンバータシステム100において、電流検出部11、推定値算出部24及び電流比較部25以外の構成及び動作は、図1を参照して説明した構成及び動作と同様であるので、説明は省略する。
【0114】
図6は、本開示の第2の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0115】
本開示の第2の実施形態による温度推定装置1及びこれを備えるコンバータシステム100におけるパワー半導体素子の温度推定処理は、コンバータシステム100が三相交流電源4に接続されて実際に運用されているときに周期的に実行される。
【0116】
ステップS201において、電圧検出部13は、コンバータ2の三相交流電源4側の端子間電圧の値を検出する。また、図6では図示を省略したが、周囲温度検出部14は、温度検出素子35から送られてきた信号に基づいてパワー半導体素子の周囲温度を検出する。
【0117】
ステップS202において、電流検出部11は、コンバータ2の三相ブリッジ回路31に設けられたパワー半導体素子に流れる電流の値(コンバータ2に入力される電流の値)を検出する。
【0118】
ステップS203において、電流比較部25は、電流検出部11により検出された電流の値と所定の電流閾値とを比較する。ステップS203において、電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値以上であると判定された場合はステップS204へ進み、電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であると判定された場合はステップS208へ進む。
【0119】
ステップS204において、不平衡率算出部21は、三相交流電源4の不平衡率を算出する。算出する三相交流電源4の不平衡率は、電圧の不平衡率であっても電流の不平衡率であってもよい。
【0120】
ステップS205において、温度補償係数算出部22は、不平衡率算出部21によって算出された不平衡率を用いて温度補償係数を算出する。
【0121】
ステップS206において、暫定値算出部23は、電流検出部11により検出された電流の値とパワー半導体素子の抵抗成分の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。
【0122】
ステップS207において、推定値算出部24は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0123】
一方、ステップS203において電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であると判定された場合は、ステップS208において、暫定値算出部23は、電流検出部11により検出された電流の値とパワー半導体素子の抵抗成分の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。
【0124】
ステップS209において、推定値算出部24は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0125】
ステップS207及びステップS209において推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値は、温度比較部15へ送られる。また、推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値については、例えば表示部(図示せず)に表示してもよく、音響機器(図示せず)により音声にて出力してもよい。
【0126】
ステップS210において、温度比較部15は、ジャンクション温度推定部12内の推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値と所定の温度閾値とを比較する。ステップS210において、ジャンクション温度推定値が温度閾値以上であると判定された場合はステップS211へ進み、ジャンクション温度推定値が温度閾値未満であると判定された場合はステップS201へ戻る。
【0127】
ステップS211において、アラーム出力部16は、アラームを出力する。
【0128】
上述したステップS201~S211の処理は、ステップS211においてアラーム出力部16によりアラームが出力されるまで、周期的に繰り返し実行される。
【0129】
上述のように、ステップS203において電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であると判定された場合は、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22は動作せず、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22を構成する演算処理装置の計算負荷が軽減される。したがって、本開示の第2の実施形態は第1の実施形態に比べ、演算処理装置の演算処理においてジャンクション温度推定処理が占める割合(例えばCPU使用率)を軽減しつつ、ジャンクション温度推定値の精度を高めることができる。なお、ステップS206及びステップS208において、パワー半導体素子の抵抗成分として、パワー半導体の順方向電圧Vfやコレクタエミッタ間飽和電圧VCE(sat)に基づいてパワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出してもよい。
【0130】
続いて、本開示の第3の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムについて説明する。
【0131】
本開示の第3の実施形態は、パワー半導体素子に流れる電流の大きさ及び三相交流電源の不平衡率に応じて、ジャンクション温度暫定値と温度補償係数とを乗算して得られる値をジャンクション温度推定値として出力するかあるいはジャンクション温度暫定値をそのままジャンクション温度推定値として出力するかを切り替えるものである。
【0132】
図7は、本開示の第3の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。
【0133】
本開示の第3の実施形態による温度推定装置1は、図1または図2に示す第1の実施形態による温度推定装置1内のジャンクション温度推定部12において電流比較部25及び不平衡率比較部26を追加したものである。すなわち、ジャンクション温度推定部12は、電流比較部25及び不平衡率比較部26をさらに有する。
【0134】
電流検出部11により検出された電流の値は、ジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及びコンバータ制御装置3内のスイッチング制御部41に加えて、電流比較部25にも送られる。
【0135】
電流比較部25は、電流検出部11により検出された電流の値と所定の電流閾値とを比較する。電流閾値は、例えばパワー半導体素子の定格電流の60%に設定されるが、ここで挙げた数値はあくまでも一例であって、これ以外の数値であってもよい。電流比較部25による比較結果は、推定値算出部24に送られる。
【0136】
不平衡率算出部21により算出された不平衡率は、温度補償係数算出部22に加えて、不平衡率比較部26にも送られる。
【0137】
不平衡率比較部26は、不平衡率算出部21により算出された不平衡率と所定の不平衡率閾値とを比較する。不平衡率比較部26による比較結果は、推定値算出部24に送られる。不平衡率閾値は、例えば2%に設定されるが、ここで挙げた数値はあくまでも一例であって、これ以外の数値であってもよい。また、例えば実験もしくは実際の運用によりコンバータシステム100を動作させたりまたはコンピュータによるシミュレーションにより、コンバータシステム100の適用環境やアラーム出力部16によるアラームの出力の有無との関係性などを事前に求めたうえで、不平衡率閾値を設定してもよい。設定された不平衡率閾値は、記憶部(図示せず)に記憶される。なお、不平衡率閾値を記憶する記憶部(図示せず)は外部機器によって書き換え可能とすることで、不平衡率閾値を一旦設定した後であっても必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0138】
パワー半導体素子に流れる電流が小さい場合は、三相交流電源4の不平衡率が及ぼす影響は小さいので暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値は真値に近いと考えられる。そこで、本開示の第3の実施形態では、パワー半導体素子に流れる電流が小さい場合は、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22は動作させずジャンクション温度暫定値をそのままジャンクション温度推定値として確定することで、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22を構成する演算処理装置の計算負荷を軽減する。また、パワー半導体素子に流れる電流が大きい場合であっても三相交流電源4の不平衡率が小さい場合は、三相交流電源4の不平衡率が及ぼす影響は小さいので暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値は真値に近いと考えられる。そこで、本開示の第3の実施形態では、パワー半導体素子に流れる電流が小さくかつ三相交流電源4の不平衡率が小さい場合は、温度補償係数算出部22は動作させずジャンクション温度暫定値をそのままジャンクション温度推定値として確定することで、温度補償係数算出部22を構成する演算処理装置の計算負荷を軽減する。また、パワー半導体素子に流れる電流が大きくかつ三相交流電源4の不平衡率が大きい場合は、三相交流電源4の不平衡率が及ぼす影響は大きいので、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値は真値から大きく乖離したものと考えられる。そこで、本開示の第3の実施形態では、パワー半導体素子に流れる電流が大きい場合は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値をジャンクション温度推定値として確定することで、計算負荷の軽減よりも温度推定処理の精度の向上を優先する。
【0139】
推定値算出部24は、電流比較部25による比較結果が電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値以上であることを示しかつ不平衡率比較部26による比較結果が不平衡率算出部により算出された不平衡率が不平衡率閾値以上であることを示す場合は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値をジャンクション温度推定値として出力する。また、推定値算出部24は、電流比較部25による比較結果が電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であることを示す場合は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値をそのままジャンクション温度推定値として出力する。また、推定値算出部24は、電流比較部25による比較結果が電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値以上であることを示しかつ不平衡率比較部26により算出された不平衡率が不平衡率閾値未満であることを示す場合は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値をそのままジャンクション温度推定値として出力する。
【0140】
本開示の第3の実施形態による温度推定装置1及びこれを備えるコンバータシステム100において、電流検出部11、不平衡率算出部21、推定値算出部24、電流比較部25及び不平衡率比較部26以外の構成及び動作は、図1を参照して説明した構成及び動作と同様であるので、説明は省略する。
【0141】
図8は、本開示の第3の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0142】
本開示の第3の実施形態による温度推定装置1及びこれを備えるコンバータシステム100におけるパワー半導体素子の温度推定処理は、コンバータシステム100が三相交流電源4に接続されて実際に運用されているときに周期的に実行される。
【0143】
ステップS301において、電圧検出部13は、コンバータ2の三相交流電源4側の端子間電圧の値を検出する。また、図8では図示を省略したが、周囲温度検出部14は、温度検出素子35から送られてきた信号に基づいてパワー半導体素子の周囲温度を検出する。
【0144】
ステップS302において、電流検出部11は、コンバータ2の三相ブリッジ回路31に設けられたパワー半導体素子に流れる電流の値(コンバータ2に入力される電流の値)を検出する。
【0145】
ステップS303において、電流比較部25は、電流検出部11により検出された電流の値と所定の電流閾値とを比較する。ステップS303において、電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値以上であると判定された場合はステップS304へ進み、電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であると判定された場合はステップS309へ進む。
【0146】
ステップS304において、不平衡率算出部21は、三相交流電源4の不平衡率を算出する。算出する三相交流電源4の不平衡率は、電圧の不平衡率であっても電流の不平衡率であってもよい。
【0147】
ステップS305において、不平衡率比較部26は、不平衡率算出部21により算出された不平衡率と所定の不平衡率閾値とを比較する。ステップS305において、不平衡率算出部21により算出された不平衡率が不平衡率閾値以上であると判定された場合はステップS306へ進み、不平衡率算出部21により算出された不平衡率が不平衡率閾値未満であると判定された場合はステップS309へ進む。
【0148】
ステップS306において、温度補償係数算出部22は、不平衡率算出部21によって算出された不平衡率を用いて温度補償係数を算出する。
【0149】
ステップS307において、暫定値算出部23は、電流検出部11により検出された電流の値とパワー半導体素子の抵抗成分の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。
【0150】
ステップS308において、推定値算出部24は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0151】
一方、ステップS303において電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であると判定された場合またはステップS305において不平衡率算出部21により算出された不平衡率が不平衡率閾値未満であると判定された場合は、ステップS309において、暫定値算出部23は、電流検出部11により検出された電流の値と電圧検出部13によって検出された端子間電圧の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、パワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。
【0152】
ステップS310において、推定値算出部24は、暫定値算出部23により算出されたジャンクション温度暫定値を、パワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0153】
ステップS308及びステップS310において推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値は、温度比較部15へ送られる。また、推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値については、例えば表示部(図示せず)に表示してもよく、音響機器(図示せず)により音声にて出力してもよい。
【0154】
ステップS311において、温度比較部15は、ジャンクション温度推定部12内の推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値と所定の温度閾値とを比較する。ステップS311において、ジャンクション温度推定値が温度閾値以上であると判定された場合はステップS312へ進み、ジャンクション温度推定値が温度閾値未満であると判定された場合はステップS301へ戻る。
【0155】
ステップS312において、アラーム出力部16は、アラームを出力する。
【0156】
上述したステップS301~S312の処理は、ステップS311においてアラーム出力部16によりアラームが出力されるまで、周期的に繰り返し実行される。
【0157】
上述のように、ステップS303において電流検出部11により検出された電流の値が電流閾値未満であると判定された場合は、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22は動作せず、不平衡率算出部21及び温度補償係数算出部22を構成する演算処理装置の計算負荷が軽減される。したがって、本開示の第3の実施形態は第1の実施形態に比べ、演算処理装置の演算処理においてジャンクション温度推定処理が占める割合(例えばCPU使用率)を軽減しつつ、ジャンクション温度推定値の精度を高めることができる。またステップS305において不平衡率算出部21により算出された不平衡率が不平衡率閾値未満であると判定された場合は、温度補償係数算出部22は動作せず、温度補償係数算出部22を構成する演算処理装置の計算負荷が軽減される。したがって、本開示の第3の実施形態は第2の実施形態に比べ、演算処理装置の演算処理においてジャンクション温度推定処理が占める割合(例えばCPU使用率)を軽減しつつ、ジャンクション温度推定値の精度を高めることができる。
【0158】
続いて、本開示の第4の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムについて説明する。
【0159】
本開示の第4の実施形態は、パワー半導体素子に流れる電流の値をコンバータの各相ごとに検出し、最大値の電流が流れるパワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出するものである。
【0160】
本開示の第4の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける各要素の接続関係は、図1に示す第1の実施形態による温度推定装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける各要素の接続関係と同じである。ただし、本開示の第4の実施形態における電流検出部11並びにジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及び推定値算出部24の各動作は、第1の実施形態における電流検出部11並びにジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及び推定値算出部24の各動作とは異なる。具体的には次の通りである。
【0161】
電流検出部11は、コンバータ2の三相ブリッジ回路31のパワー半導体素子に流れる電流の値を、前記コンバータの各相ごとに検出する。すなわち、電流検出部11は、三相ブリッジ回路31の、R相のパワー半導体素子に流れる電流の値、S相のパワー半導体素子に流れる電流の値、及びT相のパワー半導体素子に流れる電流の値を検出する。電流検出部11により検出された各相の電流の値は、暫定値算出部23に送られる。
【0162】
ジャンクション温度推定部12は、電流検出部11により検出された各相の電流の値のうちの最大値に少なくとも基づいて算出したジャンクション温度暫定値と不平衡率とに基づいて、最大値となる電流が流れるパワー半導体素子のジャンクション温度推定値を算出する。ジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及び推定値算出部24の動作をより詳細に説明すると次の通りである。
【0163】
暫定値算出部23は、電流検出部11が検出した各相の電流の中から、最大値となる電流の値を特定し、当該最大値となる電流の値と電圧検出部13によって検出された端子間電圧の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、最大値となる電流が流れるパワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。
【0164】
推定値算出部24は、暫定値算出部23により算出された最大値となる電流が流れるパワー半導体素子のジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値を、最大値となる電流が流れるパワー半導体素子のパワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。
【0165】
本開示の第4の実施形態による温度推定装置1及びこれを備えるコンバータシステム100において、電流検出部11並びにジャンクション温度推定部12内の暫定値算出部23及び推定値算出部24以外の構成及び動作は、図1を参照して説明した構成及び動作と同様であるので、説明は省略する。
【0166】
図9は、本開示の第4の実施形態による温度推定装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0167】
本開示の第4の実施形態による温度推定装置1及びこれを備えるコンバータシステム100におけるパワー半導体素子の温度推定処理は、コンバータシステム100が三相交流電源4に接続されて実際に運用されているときに周期的に実行される。
【0168】
ステップS401において、電圧検出部13は、コンバータ2の三相交流電源4側の端子間電圧の値を検出する。また、図9では図示を省略したが、周囲温度検出部14は、温度検出素子35から送られてきた信号に基づいてパワー半導体素子の周囲温度を検出する。
【0169】
ステップS402において、電流検出部11は、電流検出部11は、コンバータ2の三相ブリッジ回路31のパワー半導体素子に流れる電流の値(コンバータ2に入力される各相の電流の値)を、前記コンバータの各相ごとに検出する。電流検出部11により検出された各相の電流の値は、暫定値算出部23に送られる。
【0170】
ステップS403において、暫定値算出部23は、電流検出部11が検出した各相の電流の中から、最大値となる電流の値を特定する。
【0171】
ステップS404において、不平衡率算出部21は、三相交流電源4の不平衡率を算出する。算出する三相交流電源4の不平衡率は、電圧の不平衡率であっても電流の不平衡率であってもよい。
【0172】
ステップS405において、温度補償係数算出部22は、不平衡率算出部21によって算出された不平衡率を用いて温度補償係数を算出する。
【0173】
なお、ステップS403における処理とステップS404及びS405における処理とは、順序を入れ替えて実行してもよい。
【0174】
ステップS406において、暫定値算出部23は、ステップS403で特定した最大値となる電流の値とパワー半導体素子の抵抗成分の値と周囲温度検出部14により検出されたパワー半導体素子の周囲温度とに基づいて、最大値となる電流が流れるパワー半導体素子のジャンクション温度暫定値を算出する。
【0175】
ステップS407において、推定値算出部24は、暫定値算出部23により算出された最大値となる電流が流れるパワー半導体素子のジャンクション温度暫定値と温度補償係数算出部22により算出された温度補償係数とを乗算して得られる値を、最大値となる電流が流れるパワー半導体素子のパワー半導体素子のジャンクション温度推定値として出力する。ステップS407において推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値は、温度比較部15へ送られる。また、推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値については、例えば表示部(図示せず)に表示してもよく、音響機器(図示せず)により音声にて出力してもよい。
【0176】
ステップS408において、温度比較部15は、ジャンクション温度推定部12内の推定値算出部24により算出されたジャンクション温度推定値と所定の温度閾値とを比較する。ステップS408において、ジャンクション温度推定値が温度閾値以上であると判定された場合はステップS409へ進み、ジャンクション温度推定値が温度閾値未満であると判定された場合はステップS401へ戻る。
【0177】
ステップS409において、アラーム出力部16は、アラームを出力する。
【0178】
上述したステップS401~S409の処理は、ステップS408においてアラーム出力部16によりアラームが出力されるまで、周期的に繰り返し実行される。
【0179】
三相ブリッジ回路31において、最大の電流が流れる相に設けられるパワー半導体素子は発熱が最も大きくなり破損の可能性が高く寿命も短縮される可能性が高い。本開示の第4の実施形態によれば、最大値となる電流流れるパワー半導体素子のジャンクション温度推定値に基づいてアラームの出力の有無が決定されるので、より確実にパワー半導体素子を過熱から保護することができ、パワー半導体素子の破損及び寿命短縮の可能性を低減することができる。
【0180】
第1~第4の実施形態による温度推定装置1内には、演算処理装置(プロセッサ)が設けられる。この演算処理装置は、上述した電流検出部11、ジャンクション温度推定部12、電圧検出部13、周囲温度検出部14、温度比較部15、及びアラーム出力部16を有する。演算処理装置が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。例えば、電流検出部11、ジャンクション温度推定部12、電圧検出部13、周囲温度検出部14、温度比較部15、及びアラーム出力部16をコンピュータプログラム形式で構築する場合は、演算処理装置をこのコンピュータプログラムに従って動作させることで、各部の機能を実現することができる。電流検出部11、ジャンクション温度推定部12、電圧検出部13、周囲温度検出部14、温度比較部15、及びアラーム出力部16の各処理を実行するためのコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録された形で提供されてもよい。またあるいは、電流検出部11、ジャンクション温度推定部12、電圧検出部13、周囲温度検出部14、温度比較部15、及びアラーム出力部16を、各部の機能を実現するコンピュータプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。
【符号の説明】
【0181】
1 温度推定装置
2 コンバータ
3 コンバータ制御装置
4 三相交流電源
5 インバータ
6 モータ
11 電流検出部
12 ジャンクション温度推定部
13 電圧検出部
14 周囲温度検出部
15 温度比較部
16 アラーム出力部
21 不平衡率算出部
22 温度補償係数算出部
23 暫定値算出部
24 推定値算出部
25 電流比較部
26 不平衡率比較部
31 三相ブリッジ回路
32 平滑コンデンサ
33 DCリンクコンデンサ
34 予備充電回路
35 温度検出素子
41 スイッチング制御部
42 DCリンク部電圧検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9