(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】球状窒化ホウ素粒子、樹脂用充填剤、樹脂組成物及び球状窒化ホウ素粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20241001BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20241001BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C01B21/064 G
C08L63/00 C
C08K3/38
(21)【出願番号】P 2023541292
(86)(22)【出願日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2023004891
(87)【国際公開番号】W WO2023157817
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2022022210
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 絵梨
(72)【発明者】
【氏名】宮田 建治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道治
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/059806(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/193765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
C08L
C08K
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線光電子分光装置により測定したO
1sピーク強度から算出した半定量値とB
1sピーク強度から算出した半定量値のB
1s/O
1s比が90以下であり、
エポキシ樹脂に15体積%の球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物の、25℃における、せん断速度を0.01(1/s)から100(1/s)まで変化させて測定した粘度において、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1とせん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)により表されるチキソトロピーインデックス(T.I値)が2以下である、球状窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
X線光電子分光装置により測定したO
1sピーク強度から算出した半定量値とB
1sピーク強度から算出した半定量値のB
1s/O
1s比が90以下であり、
エポキシ樹脂に15体積%の球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物の、25℃における、せん断速度を0.01(1/s)から100(1/s)まで変化させて測定した粘度において、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1とせん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)により表されるチキソトロピーインデックス(T.I値)が2以下であり、
エポキシ樹脂に15体積%の球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物の、25℃における、せん断速度を100(1/s)から0.01(1/s)まで変化させ測定した粘度において、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1とせん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)により表されるチキソトロピーインデックス(T.I値)が6以下である、球状窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
前記B
1sピーク強度から算出した半定量値が48.4未満である、請求項1
または2に記載の球状窒化ホウ素粒子。
【請求項4】
ホモジナイザー処理をせずにレーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積径(D50)が35μm以下である、請求項1
または2に記載の球状窒化ホウ素粒子。
【請求項5】
平均円形度が0.80より大きい、請求項1
または2に記載の球状窒化ホウ素粒子。
【請求項6】
X線光電子分光装置により測定したO
1sピーク強度から算出した半定量値が0.6以上である、請求項1
または2に記載の球状窒化ホウ素粒子。
【請求項7】
請求項1
または2に記載の球状窒化ホウ素粒子を含む、樹脂用充填剤。
【請求項8】
樹脂と、請求項1
または2に記載の球状窒化ホウ素粒子とを含む、樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1
または2に記載の球状窒化ホウ素粒子の製造方法であり、
原料球状窒化ホウ素粒子及び水を含む液体にキャビテーション気泡を発生させることを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状窒化ホウ素粒子、樹脂用充填剤、樹脂組成物及び球状窒化ホウ素粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(以下、「窒化ホウ素」という)は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有しており、固体潤滑剤、溶融ガスやアルミニウムなどの離形剤、及び放熱材料用充填材等に幅広く利用されている。
窒化ホウ素の特徴である潤滑性や高熱伝導性を生かした窒化ホウ素粒子として、特許文献1には、径/厚さ比(アスペクト比)の小さい鱗片形状のサブミクロンで高純度、高結晶性の球形度を球状窒化ホウ素微粒子が記載され、特許文献2には、球形度の高いサブミクロンの球状窒化ホウ素微粒子が記載されている。
【0003】
【文献】国際公開第2015/122378号
【文献】国際公開第2015/122379号
【発明の概要】
【0004】
一般的に、樹脂に無機充填剤を配合すると、樹脂組成物の流動性は低下する傾向にある。本発明者は、樹脂に配合した場合でも優れた流動性を実現できる窒化ホウ素微粒子について鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことに、所定の表面状態を有する球状窒化ホウ素粒子が、流動性に優れた樹脂組成物を与えることができることを見出した。
【0005】
本発明は、流動性に優れた樹脂組成物を与えることができる球状窒化ホウ素粒子、球状窒化ホウ素粒子を含む樹脂用充填剤及び樹脂組成物、並びに球状窒化ホウ素粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値とB1sピーク強度から算出した半定量値のB1s/O1s比が90以下である、球状窒化ホウ素粒子。
[2]エポキシ樹脂に15体積%の球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物の、25℃における、せん断速度を0.01(1/s)から100(1/s)まで変化させて測定した粘度において、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1とせん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)により表されるチキソトロピーインデックス(T.I値)が2以下である、[1]に記載の球状窒化ホウ素粒子。
[3]エポキシ樹脂に15体積%の球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物の、25℃における、せん断速度を100(1/s)から0.01(1/s)まで変化させ測定した粘度において、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1とせん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)により表されるチキソトロピーインデックス(T.I値)が6以下である、[1]又は[2]に記載の球状窒化ホウ素粒子。
[4]ホモジナイザー処理をせずにレーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積(D50)が35μm以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の球状窒化ホウ素粒子。
[5]平均円形度が0.80より大きい、[1]から[4]のいずれかに記載の球状窒化ホウ素粒子。
[6]X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値が0.6以上である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の球状窒化ホウ素粒子。
[7][1]から[6]のいずれか一項に記載の球状窒化ホウ素粒子を含む、樹脂用充填剤。
[8]樹脂と、[1]から[6]のいずれか一項に記載の球状窒化ホウ素粒子とを含む、樹脂組成物。
[9][1]から[6]のいずれか一項に記載の球状窒化ホウ素粒子の製造方法であり、
原料球状窒化ホウ素粒子及び水を含む液体にキャビテーション気泡を発生させることを含む、製造方法。
【0007】
本発明によれば、流動性に優れた樹脂組成物を与えることができる、球状窒化ホウ素粒子、球状窒化ホウ素粒子を含む樹脂用充填剤及び樹脂組成物、並びに球状窒化ホウ素粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0009】
[球状窒化ホウ素粒子]
本実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値とB1sピーク強度から算出した半定量値のB1s/O1s比(以下、単に「B1s/O1s比」ともいう)が90以下である。
X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値とB1sピーク強度から算出した半定量値のB1s/O1s比が90以下であることにより、本実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、樹脂に充填したときに流動性に優れた樹脂組成物を与えることができる。
【0010】
本明細書において、「球状」とは、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍で観察したときに円形状又は丸みを帯びた粒形状に観察されることを意味する。本明細書において、「X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値とB1sピーク強度から算出した半定量値のB1s/O1s比」とは、シャーリー法でバックグラウンドを取り、B1s及びO1sピーク強度から算出した半定量値を算出し、B1s/O1s比を算出することにより求められる値を意味する。
本明細書において、「シャーリー法」とは、バックグラウンドの原因となる非弾性散乱電子に対し、エネルギー依存性は無いこと、又、非弾性散乱する電子数はピーク強度に比例するということを仮定して、差し引かれるバックグラウンドの形状を決定する方法を意味する。
X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値とB1sピーク強度から算出した半定量値のB1s/O1s比が90以下である球状窒化ホウ素粒子は、水中での分散性に優れる表面状態を有する。更に、驚くべきことに、そのような球状窒化ホウ素粒子は、樹脂と混合された際に樹脂組成物の流動性を改善する。
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値とB1sピーク強度から算出した半定量値のB1s/O1s比が85以下であることが好ましく、85以下であることがより好ましく、80以下であることがさらに好ましく、75以下であることがよりさらに好ましく、70以下であることが特に好ましい。
B1s/O1s比の下限は特に限定されないが、10以上であってよく、15以上であってよく、20以上であってよい。
B1s/O1s比を90以下にする方法として、原料球状窒化ホウ素粒子を、水を含む液体中でキャビテーション処理する方法が挙げられる。原料球状窒化ホウ素粒子は、凝集しやすい性質を有しているが、水を含む液体中でキャビテーション処理されると、一次粒子の形状(球形状)を維持したまま凝集状態が解砕される。解砕された一次粒子の表面には水酸基が多く導入され、容易にB1s/O1s比を90以下にすることができる。B1s/O1s比を90以下にすることにより、解砕された球状窒化ホウ素粒子が樹脂中で再び凝集することを抑制できると考えられる。キャビテーション処理の詳細については後述する。
キャビテーション処理時間を長くすることで、B1s/O1s比をより小さくすることができる。
キャビテーション気泡が多い条件下で処理するか、キャビテーション処理時間を長くすることで、表面水酸基が増加し、B1s/O1s比を小さくすることができる。
本発明者の研究により、この方法で処理した球状窒化ホウ素粒子は、機械的粉砕によって解砕された微粒子よりも、樹脂の流動性をより高めることができることが分かった。
【0011】
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値が、0.6以上であることが好ましく、0.65以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。本明細書において、「X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値」とは、得られたスペクトルをシャーリー法でバックグラウンドを取り、O1sピーク強度から算出した半定量値である。なお、O1sピーク強度から算出した半定量値の上限値は特に限定されないが、5.0以下であってよく、4.0以下であってよく、3.0以下であってよく、2.0以下であってよい。
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、X線光電子分光法により測定したB1sピーク強度から算出した半定量値が、48.4未満であることが好ましく、48.35以下であることがより好ましく、48.3以下であることがさらに好ましい。本明細書において、「X線光電子分光法により測定したB1sピーク強度から算出した半定量値」とは、得られたスペクトルをシャーリー法でバックグラウンドを取り、B1sピーク強度から算出した半定量値である。
【0012】
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、エポキシ樹脂に15体積%の球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物の、25℃における、せん断速度を0.01(1/s)から100(1/s)まで変化させて測定した粘度において、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1とせん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)により表されるチキソトロピーインデックス(T.I値、以下「T.I値(0.01-100)」ともいう)が2以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.6以下であることがさらに好ましく、1.4以下であることがよりさらに好ましく、1.2以下であることが特に好ましい。
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子を含むエポキシ樹脂は、上記の低いチキソトロピーインデックス(T.I値)を有しているため、流動性に優れている。
T.I値(0.01-100)の下限値は、1に近い程好ましい。
【0013】
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、エポキシ樹脂に15体積%の球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物の、25℃における、せん断速度を100(1/s)から0.01(1/s)まで変化させ測定した粘度において、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1とせん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)により表されるチキソトロピーインデックス(T.I値、以下「T.I値(100-0.01)」ともいう)が6以下であることが好ましく、5.6以下であることがより好ましく、5.2以下であることがさらに好ましく、4.8以下であることがよりさらに好ましく、4.6以下であることが特に好ましい。
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子を含むエポキシ樹脂は、高せん断から低せん断にせん断速度を変化させた時の粘度における上記の低いチキソトロピーインデックス(T.I値)を有しているため、流動性に優れている。
T.I値(100-0.01)の下限値は、1に近い程好ましい。
【0014】
本明細書において「チキソトロピーインデックス(T.I値)」の測定方法は、以下のとおりである。すなわち、エポキシ樹脂に、15体積%の球状窒化ホウ素粒子を公知の方法で充填し混合物(樹脂組成物)を得る。得られた混合物について、動的粘弾性測定装置を用いて、25℃において、
(1)せん断速度を0.01(1/s)から100(1/s)まで変化させて、又は(2)せん断速度を100(1/s)から0.01(1/s)まで変化させて、粘度を測定する。測定した粘度における、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1と、せん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)として、チキソトロピーインデックス(T.I値)を得る。
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物(樹脂組成物)は、低せん断から高せん断にせん断速度を変化させた時も、高せん断から低せん断にせん断速度を変化させた時も、その両方においてチキソトロピーインデックス(T.I値)が1に近く、すなわち流動性に優れている。
【0015】
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、特定の分散処理、例えばホモジナイザー処理をせずに(つまり外力を加えずに)レーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積(D50)が35μm以下であることが好ましく、33μm以下であることがより好ましく、32μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることがよりさらに好ましく、28μm以下であることが特に好ましい。なお、ホモジナイザー処理をせずに(つまり外力を加えずに)レーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積(D50)の下限は特に限定されないが、5μm以上であってよく、10μm以上であってよく、15μm以上であってよい。
本明細書において「体積基準累積(D50)」とは、レーザー回折散乱法(屈折率:1.7)により測定される体積基準の累積粒度分布において、累積値が50%に相当する粒子径のことを意味する。累積粒度分布は、横軸を粒子径(μm)、縦軸を累積値(%)とする分布曲線で表される。
ホモジナイザー処理をしていないにも関わらず、一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子はレーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積(D50)が30μm以下と小さい。すなわち、一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、ホモジナイザー処理のような処理をしなくても、本質的に粒子がより小さく、二次粒子よりも一次粒子の形態の割合が高いという特徴を有している。一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物(樹脂組成物)の流動性の改善に寄与する。B1s/O1s比が90を超える球状窒化ホウ素粒子は、このような体積基準累積(D50)を実現することは難しい。
本実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、さらにホモジナイザー処理することで、より小さい粒子にすることができる。一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、エタノール中でホモジナイザー処理(条件:300W、90sec)した後のレーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積(D50)が、0.6μm以下であることが好ましく、0.58μm以下であることがより好ましく、0.56μm以下であることがさらに好ましい。なお、ホモジナイザー処理(条件:300W、90sec)した後のレーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積(D50)の下限は特に限定されないが、0.1μm以上であってよく、0.2μm以上であってよく、0.3μm以上であってよい。
【0016】
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、平均円形度0.70より大きいことが好ましく、0.725以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらに好ましく、0.775以上であることがよりさらに好ましく、0.80以上であることが特に好ましい。なお、平均円形度の上限は特に限定されないが、上限は1以下であってよく、0,95以下であってよい。
本明細書において「平均円形度」とは、以下のように算出された値を意味する。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した窒化ホウ素粒子の像(倍率:10,000倍、画像解像度:1280×1024ピクセル)について、画像解析ソフト(例えば、マウンテック社製、商品名:MacView)を用いた画像解析により、窒化ホウ素粒子の投影面積(S)及び周囲長(L)を算出する。投影面積(S)及び周囲長(L)を用いて、以下に式:
円形度=4πS/L2
に従って円形度を求める。任意に選ばれた100個の窒化ホウ素粒子について求めた円形度の平均値を平均円形度と定義する。
一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、平均円形度が高いという特徴を有している。平均円形度が高いことにより、一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子を充填した混合物(樹脂組成物)の流動性の改善に寄与する。
【0017】
(用途)
球状窒化ホウ素粒子は、流動性に優れた樹脂組成物を与えることができるため、樹脂の充填剤に好ましく用いることができる。
【0018】
[製造方法]
本実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子の製造方法は、原料球状窒化ホウ素粒子及び水を含む液体にキャビテーション気泡を発生させることを含む。
【0019】
(原料球状窒化ホウ素粒子)
原料球状窒化ホウ素粒子は、特許文献2に記載の方法で製造することが好ましい。すなわち、アンモニア/ホウ酸エステルのモル比1~10のホウ酸エステルとアンモニアとを不活性ガス気流中、750℃以上、30秒以内で反応させた後、アンモニアガス、又は、アンモニアガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下、1000~1600℃、1時間以上で熱処理後、さらに、不活性ガス雰囲気下、1800~2200℃、0.5時間以上で焼成することで得ることができる。
ホウ酸エステルとしては、例えば、ホウ酸トリメチルが挙げられる。
【0020】
原料球状窒化ホウ素粒子のレーザー回折散乱法(後述の段落〔0037〕、(粒度分布2)に記載の方法)にて評価した体積基準累積径(D50)は、0.01μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上、0.2μm以上、0.3μm以上、又は0.4μm以上であってもよく、放熱部材の絶縁破壊特性を向上させる観点から、1μm以下、0.9μm以下、0.8μm以下、又は0.7μm以下であってもよい。0.01~1.0μmであることが好ましく、0.3~0.8μmであることがより好ましい。
原料球状窒化ホウ素粒子の平均円形度は、0.8以上であることが好ましく、0.87以上であることがより好ましい。体積基準累積径(D50)及び平均円形度の測定方法は上記のとおりである。
【0021】
(キャビテーション気泡)
本実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子の製造方法において、上記原料球状窒化ホウ素粒子を、水を含む液体(好ましくは水中)に入れ、該液体にキャビテーション気泡を発生させる。
本明細書において、「キャビテーション気泡」とは、液体が低圧状態になった時に気化して発生する気泡を意味する。
球状窒化ホウ素粒子及び水を含む液体にキャビテーション気泡を発生させることにより、キャビテーションで発生した気泡の圧力差による膨張収縮力によって、球状窒化ホウ素粒子の二次粒子が一次粒子に解砕され、同時に、水酸基の存在割合の増加など粒子の表面状態が変化する。
キャビテーション気泡を発生させることは、減圧や超音波による液中の発泡現象よりキャビテーション気泡を生じさせる市販の装置を用いて行うことができる。市販の粉体吸引連続溶解分散装置を用いて行うことが好ましく、液体を循環して処理することが特に好ましい。粉体吸引連続溶解分散装置は一般に攪拌翼により流速を生じさせる機構を有しており、攪拌翼の回転数は、2000~10000rpmであることが好ましく、4000~9000rpmであることがより好ましく、4500~8000rpmであることがさらに好ましく、5000~8000rpmであることがさらよりに好ましく、6000~7200rpmであることが特に好ましい。
キャビテーションで発生した気泡の圧力差による膨張収縮力により、二次粒子が一次粒子に解砕され、同時に、水酸基の存在割合の増加など粒子の表面状態が変化する。
一実施形態において、キャビテーション気泡を発生させる処理は、装置の攪拌翼の回転数(rpm)及び吐出量から算出されたキャビテーション処理の回数として50回以上行うことが好ましく、100回以上行うことがより好ましく、150回以上行うことがさらに好ましい。キャビテーション気泡を発生させる処理は、キャビテーション気泡を発生させる処理を50回以上行うことで、B1s/O1s比を容易に90以下にすることができる。
X線光電子分光法により測定したO1sピーク強度から算出した半定量値とB1sピーク強度から算出した半定量値のB1s/O1s比が90以下である球状窒化ホウ素粒子が得られる。
【0022】
本実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子の製造方法において、製造に用いられる液体は、エタノール等有機溶媒のみからなる液体であってもよく、水と有機溶媒の混合溶液であってもよい。
水と有機溶媒の混合溶液の場合、混合溶液中の水の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、水のみからなることが特に好ましい。
【0023】
製造に用いられる液体は、球状窒化ホウ素粒子を5~30重量%含むことが好ましく、5~20重量%含むことがより好ましく、5~15重量%含むことがさらに好ましく、5~10重量%含むことがよりさらに好ましく、8~10重量%含むことが特に好ましい。
【0024】
[樹脂用充填剤]
本実施形態に係る樹脂用充填剤は、上記した球状窒化ホウ素粒子を含む。球状窒化ホウ素粒子については、上記のとおりである。
本実施形態に係る樹脂用充填剤が充填される樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられ、これらから選択される1以上を含む樹脂であることが好ましく、エポキシ樹脂であることがより好ましい。
本実施形態に係る樹脂用充填剤は、樹脂組成物中の球状窒化ホウ素粒子の含有量が、好ましくは5~80体積%となるように添加される。5~30体積%、より好ましくは10~25体積%、さらに好ましくは15~20体積%となるように添加される場合、より流動性の高い樹脂組成物が得られる。樹脂組成物中の球状窒化ホウ素粒子の含有量が、50~80体積%、より好ましくは60~80体積%、さらに好ましくは70~80体積%となるように添加される場合、より熱伝導性の高い樹脂組成物が得られる。一実施形態において、樹脂用充填剤は、樹脂組成物中の球状窒化ホウ素粒子の含有量が、5体積%を超え20体積%以下となるように添加される。
【0025】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂と、上記した球状窒化ホウ素粒子とを含む。
樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられ、これらから選択される1以上を含むことが好ましく、エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0026】
球状窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物中に、5~80体積%である。流動性の観点からは、球状窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物中に、好ましくは5~30体積%であり、より好ましくは10~25体積%であり、さらに好ましくは15~20体積%である。一実施形態において、球状窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物中に5体積%を超え20体積%以下である。熱伝導性の観点からは、球状窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物中に、50~80体積%、より好ましくは60~80体積%、さらに好ましくは70~80体積%である。一実施形態において、球状窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物中に70体積%を超え80体積%以下である。
【0027】
樹脂組成物には、次の成分を必要に応じてその他の添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、低応力化剤として、シリコーンゴム、ポリサルファイドゴム、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、スチレン系ブロックコポリマーや飽和型エラストマー等のゴム状物質、各種熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂状物質、更にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂の一部又は全部をアミノシリコーン、エポキシシリコーン、アルコキシシリコーンなどで変性した樹脂等、難燃助剤として、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5等、難燃剤として、ハロゲン化エポキシ樹脂やリン化合物等、着色剤として、カーボンブラック、酸化鉄、染料、顔料等が挙げられる。
【0028】
樹脂組成物の製造は、上記各材料の所定量を撹拌、溶解、混合、分散させることにより行うことができる。これらの混合物の混合、撹拌、分散等の装置としては、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0030】
以下の手順により、原料球状窒化ホウ素粒子を作製した。
(1)抵抗加熱炉内に設置された反応管(石英管)を加熱して、1150℃まで昇温した。窒素ガスをホウ酸トリメチルに通した上で反応管に導入することにより、ホウ酸トリメチルを反応管に導入した。続いて、アンモニアガスを反応管に直接導入した。ホウ酸トリメチルの導入量に対するアンモニアの導入量のモル比(アンモニア/ホウ酸トリメチル)は1.8とした。ホウ酸トリメチルとアンモニアとを反応させて、窒化ホウ素粒子の前駆体(白色粉末)を得た。
(2)得られた窒化ホウ素粒子の前駆体を、抵抗加熱炉内に設置された窒化ホウ素製ルツボに入れ、窒素ガス及びアンモニアガスをそれぞれ別々に10L/分及び15L/分の流量で反応管内に導入した。反応管を1500℃で5時間加熱し、第2の前駆体を得た。
(3)得られた第2の前駆体を窒化ホウ素製ルツボに入れ、誘導加熱炉において、窒素雰囲気下、2000℃で5時間加熱し、球状窒化ホウ素粒子を得た。
原料球状窒化ホウ素粒子のレーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積径(D50)は、0.62μmであり、平均円形度は0.87であった。
【0031】
[実施例1~4、比較例1]
球状窒化ホウ素粉末を10重量%となるようにイオン交換水1000ccに混合した。実施例1~4については、得られた水溶液に表1に示す条件で粉体吸引連続溶解分散装置(日本スピンドル社製、「ジェットペースタ-」、型番:JPSS)を用いてキャビテーション処理を行った。比較例1については、キャビテーション処理は行っていない。
表1において、「処理回数」とは、粉体吸引連続溶解分散装置の攪拌翼の回転数(rpm)及び1回転あたりの吐出量から算出された処理溶液が攪拌翼を通過する回数である。
キャビテーション処理の後、液体をろ過、乾燥を行い、球状窒化ホウ素粉末を回収した。
【0032】
[測定]
実施例1~4及び比較例1で得られた球状窒化ホウ素粉末について、以下に述べる各種物性を測定した。結果を表1に示す。
(B1s/O1s比)
実施例1~4及び比較例1に係る球状窒化ホウ素粉末を、X線光電子分光分析装置(サーモ社製、「K-Alpha型 X線光電子分析装置」、モノクロメータ付きAl-X線源、測定領域:400×200μm)を用い測定したスペクトルを、シャーリー法でバックグラウンドを取り、B1s及びO1sピーク強度から半定量値を算出し、B1s/O1s比を求めた。
【0033】
(粒度分布1)
実施例1~4及び比較例1に係る球状窒化ホウ素粒子について、0.1gを80mLのエタノールに分散させ、ホモジナイザーによる処理を行うことなく、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、商品名:LS-13 320)を使用)により体積基準の粒度分布を測定した。このときエタノールの屈折率には1.359を用い、また、窒化ホウ素粉末の屈折率については1.7の数値を用いた。得られた頻度粒度分布から、ホモジナイザー処理していない粒子のメジアン径D50(μm)を求めた。
【0034】
(粒度分布2)
実施例1~4及び比較例1に係る球状窒化ホウ素粒子について、0.01gを80mLのエタノールに分散させ、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、商品名:US-300Eを使用)によりAMPLITUDE(振幅)70~80%で超音波分散を1分30秒行ったあと、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、商品名:LS-13 320)を使用)により体積基準の粒度分布を測定した。得られた体積基準の粒度分布から、メジアン径を算出した。本メジアン径は、累積粒度分布の累積値50%の粒径である。このときエタノールの屈折率には1.359を用い、また、窒化ホウ素粉末の屈折率については1.7の数値を用いた。結果を表1に示す。
【0035】
(平均円形度)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した窒化ホウ素粒子の像(倍率:10,000倍、画像解像度:1280×1024ピクセル)について、画像解析ソフト(例えば、マウンテック社製、商品名:MacView)を用いた画像解析により、窒化ホウ素粒子の投影面積(S)及び周囲長(L)を算出する。投影面積(S)及び周囲長(L)を用いて、以下に式:
円形度=4πS/L2
に従って円形度を求める。任意に選ばれた100個の窒化ホウ素粒子について求めた円形度の平均値を平均円形度と定義する。
【0036】
(樹脂組成物の作製)
実施例1~4及び比較例1に係る球状窒化ホウ素粒子について、以下のようにエポキシ樹脂に配合して樹脂組成物を作製した。
エポキシ樹脂に分散剤(ビックケミージャパン社製、「DISPERBYK-111」、0.3重量%)、SC材(東京化成社製、「3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン」、1重量%)、実施例1~4及び比較例1に係る球状窒化ホウ素粒子(15重量%)を加え、ハイブリッドミキサー(シンキー製、「あわとり練太郎 AR-250」)を用いて、常温、公転速度2000rpm、自転速度800rpmで、3分間混練した。その後3本ロールミル(アイメックス社製、「BR-150VIII」、ギャップ:10μm、仕上げロール回転数:60rpm)で2回混練し、樹脂組成物を得た。
【0037】
(チキソトロピーインデックス(T.I値))
得られた樹脂組成物について、レオメータ(アントンパール社製、「MCR92」)を用いて、25℃において、(1)せん断速度を0.01(1/s)から100(1/s)まで変化させた時、(2)せん断速度を100(1/s)から0.01(1/s)まで変化させて測定した粘度における、せん断速度が1(1/s)の時に測定される粘度η1と、せん断速度が10(1/s)の時に測定される粘度η2との比(η1/η2)に求められる値からチキソトロピーインデックス(T.I値)を算出した。
【0038】
【0039】
表1に示すように、実施例1~4に係る球状窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物は、比較例1に係る球状窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物に比べ、流動性に優れている。驚くべきことに、低せん断から高せん断にせん断速度を変化させた時のみならず、高せん断から低せん断にせん断速度を変化させた時のいずれにおいてもチキソトロピーインデックス(T.I値)が低く、より1に近く、流動性が高いという特性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本実施形態の球状窒化ホウ素粒子は、流動性に優れた樹脂組成物を与えることができることができるため、球状窒化ホウ素粒子を含む樹脂用充填剤及び樹脂組成物等に好適に用いることができ、産業上の利用可能性を有している。