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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ホットスタンプ部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20241002BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20241002BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241002BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241002BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241002BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D9/46 G
C21D9/46 T
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301S
C22C38/00 301W
C22C38/38
C22C38/58
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020055878
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021155787
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】前田 大介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅之
(72)【発明者】
【氏名】森木 隆大
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314817(JP,A)
【文献】特開2013-224490(JP,A)
【文献】特開2007-211276(JP,A)
【文献】特開2010-047786(JP,A)
【文献】特開2017-043825(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105632(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/105631(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
C21D 9/00
C21D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.18%以上0.26%未満、
Si:0.001~2.0%、
Mn:0.001~3.0%、
P:0.1%以下、
S:0.0015%以下、
Nb:0.01~0.10%、
Cr:0.001~0.50%、
Al:0.0001~0.10%、
Ti:0.001~0.50%、
O:0.0030%未満、
B:0.0006~0.0030%、
N:0.010%以下、
残部:Feおよび不純物である、
塊または鋼片を1200~1350℃で1時間以上加熱後、1000~1150℃で粗圧延を完了し、Ae+50℃以上で仕上げ圧延を完了する圧延工程と、
600~750℃で巻き取る巻取工程と、
を含む工程を実施して、
金属組織が、フェライトおよびパーライトの混合組織であり、
板厚の1/4~3/4の深さ位置における10μm以上の長さを有するMnSの個数密度が1.50個/10000μm 未満であるとともに、
前記板厚の1/4~3/4の深さ位置における直径0.1μm以上のNbTi複合炭窒化物の個数密度が0.50個/10000μm 未満である鋼板を得た後、
前記鋼板にホットスタンプ処理を施して、引張強度が1.5GPa以上であるホットスタンプ部品を得る、ホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項2】
前記巻取工程の後に、脱スケールを実施して、冷間圧延する冷間圧延工程を含む工程を実施して、前記鋼板を得る、請求項に記載のホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項3】
前記冷間圧延工程の後に、焼鈍を施す焼鈍工程を含む工程を実施して、前記鋼板を得る、請求項に記載のホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項4】
前記巻取工程の後に、脱スケールを実施して、焼鈍を施す焼鈍工程を含む工程を実施して、前記鋼板を得る、請求項に記載のホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項5】
前記化学組成が、質量%で、
V:2.0%以下、
Ta:0.5%以下、および
W:3.0%以下
から選択される1種以上を有する、請求項1に記載のホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項6】
前記化学組成が、質量%で、
Ni:5.0%以下、
Cu:3.0%以下、および
Mo:0.5%以下
から選択される1種以上を有する、請求項1または請求項5のいずれかに記載のホットスタンプ部品の製造方法。
【請求項7】
前記化学組成が、質量%で、
Mg:0.003%以下、
Ca:0.003%以下、
La:0.03%以下、および
Ce:0.03%以下
から選択される1種以上を有する、請求項1、請求項5、または請求項6のいずれかに記載のホットスタンプ部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ部品用鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、使用する鋼材の高強度化を図ることにより自動車の重量を低減する努力が、自動車の燃費向上のために、強力に行われている。その結果、自動車に広く利用されている薄鋼板を冷間プレス成形して製造される部品(以下、「プレス成形部品」という)の製造において、複雑な形状を有するプレス成形部品を製造することが、鋼板の強度の増加に伴うプレス成形性の低下により、困難になっている。
【0003】
具体的には、鋼板の延性の低下に起因して、プレス成形部品における加工度が高い部位で破断したり、いわゆるスプリングバックおよび壁反りが大きくなってプレス成形部品の寸法精度が低下するといった問題が多発している。特に780MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板からなるプレス成形部品を製造することは容易なことではない。
【0004】
冷間プレス成形ではなくロール成形によれば、高強度鋼板からなるロール成形部品を容易に製造することができる。しかし、ロール成形では、長手方向へ一定の横断面を有するロール成形部品しか製造できず、複雑な横断面形状を有するプレス成形部品を製造することはできない。
【0005】
これに対し、加熱した鋼板をプレス成形するホットスタンプ法(熱間プレス成形法ともいう)では、成形時の高温の鋼板が軟質かつ高延性になっているため、複雑な形状を有するプレス成形部品を、破断およびスプリングバックさらには壁反りといった成形不良を生じることなく、寸法精度よく成形できる。
【0006】
その上、ホットスタンプ法によれば、鋼板をオーステナイト単相域の温度に加熱してからプレス成形し、プレス成形に用いる金型の内部で成形品を急速に冷却して焼入れることによって、鋼板の成形と同時に、マルテンサイト変態によるプレス成形部品の高強度化を図ることもできる。このように、ホットスタンプ法は、高強度のプレス成形部品の製造に適した優れた技術である。なお、以降の説明では、ホットスタンプ法により製造されたプレス成形部品を「ホットスタンプ部品」という。
【0007】
現在、ホットスタンプ部品の一例として、比較的単純な形状を有するバンパーレインフォースメントが知られている。引張強度が1.5GPa級のホットスタンプ部品は、既に、バンパーレインフォースメントなど、例えばBピラーレインフォースメントといったボディシェルの構造部材(骨格部材)に広く用いられている。
【0008】
近年、より高強度、特に引張強度が1.8GPa以上のホットスタンプ部品を製造することが検討されており、例えばBピラーレインフォースメントといった、衝突の際に衝撃荷重を主に負担することになるボディシェルの構造部材(骨格部材)にも、引張強度が1.8GPa以上のホットスタンプ部品を用いることが検討されている。
【0009】
ところが、ホットスタンプ部品の引張強度が1.8~2.0GPaという超高強度に達すると、ホットスタンプ部品の変形能が不足してホットスタンプ部品の耐破壊特性(例えば曲げ性)が低下し、衝突時に、ホットスタンプ部品の吸収エネルギーが低下したり、ホットスタンプ部品自体が破断したりするおそれが高まる。このため、引張強度が1.8~2.0GPaのホットスタンプ部品として実用化されているのは、1.8GPa級のバンパーレインフォースメントだけであり、実際、変形能の高い引張強さ1.8GPa以上のホットスタンプ部品を製造した例はこれまで報告されていない。
【0010】
このため、引張強さが1.8GPa以上のホットスタンプ部品を製造するためには、ホットスタンプ部品に、さらに焼戻し処理を施して変形能を高める必要がある。しかし、ホットスタンプ工程に焼戻し工程を追加することは、作業効率の低下および設備費の上昇により、ホットスタンプ部品の製造コストが著しく上昇する。
【0011】
特許文献1には、C:0.25~0.45%(本明細書では化学組成または濃度に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する)、Mn+Cr:0.5~3.0%、さらにSi:0.5%以下、Ni:2%以下、Cu:1%以下、V:1%以下およびAl:1%以下の1種または2種以上を含有する鋼板をAc点以上(Ac点+100℃)以下の温度域に5分間以下保持した後にプレス成形を行い、次いでMs点までの冷却速度が上部臨界冷却速度以上で、かつMs点から150℃までの平均冷却速度が10~500℃/sで、冷却を行うことによって、旧オーステナイト平均粒径が10μm以下である自動焼戻しマルテンサイトにより構成される鋼組織を有し、焼入れままで靱性に優れた引張強度が1.8GPa以上のホットスタンプ部品と、このホットスタンプ部品用鋼板が開示されている。
【0012】
特許文献2,3には、C:0.26~0.45%、Mn+Cr:0.5~3.0%、Nb:0.02~1.0%、3.42N+0.001≦Ti≦3.42N+0.5を満たす量のTi、さらにSi:0.5%以下、Ni:2%以下、Cu:1%以下、V:1%以下およびAl:1%以下の1種又は2種以上を含有する化学組成を有する鋼板をAc点以上(Ac点+100℃)以下の温度域に5分間以下保持した後にプレス成形を行い、次いでMs点までの冷却速度が上部臨界冷却速度以上で、かつMs点から150℃までの平均冷却速度が10~500℃/秒で、冷却を行うことによって、旧オーステナイト粒径10μm以下である自動焼戻しマルテンサイトを含む微細組織を有し、焼入れままで靱性に優れた引張強度が1.8GPa以上のホットスタンプ部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2006-152427号公報
【文献】国際公開第2007/129676号
【文献】特開2012-180594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1~3により開示された発明によれば、確かに、焼入れままで引張強度が1.8GPa以上のホットスタンプ部品が提供される。
【0015】
しかし、上述したように、ボディシェルの構造部材(骨格部材)にも引張強度が1.8GPa以上のホットスタンプ部品を用いるためには、ホットスタンプ部品には、高強度化(引張強度1.8~2.0GPa)のみならず、さらなる変形能の改善による耐破壊特性(例えば曲げ性)の向上が必要である。このような観点から、特許文献1~3により開示されたホットスタンプ部品の変形能および耐破壊特性には、まだ改善の余地がある。
【0016】
特に、引張強度が1.5GPa以上のホットスタンプ部品においては、さらなる変形能の改善による耐破壊特性を向上することにより板厚の低減および軽量化を図ることができる。
【0017】
本発明は、従来の技術が有するこの課題に鑑みてなされたものであり、焼入れ後の焼戻しを行わずに、変形能と衝突時の耐破壊特性に優れ、かつ引張強さが例えば1.5GPa以上のホットスタンプ部品を製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一般的に、ホットスタンプ部品の引張強度が高くなると、ホットスタンプ部品の曲げ性の確保が難しくなる。本発明者らは、衝突時におけるホットスタンプ部品の耐破壊特性の改善に着目して鋭意研究を重ねた結果、以下に列記の知見A~Cを得て、本発明を完成した。
【0019】
(A)ホットスタンプ部品用鋼板について三点曲げを行ったところ、その割れ部には延伸したMnSが存在し、このMnSに起因したディンプルが破面に多数確認された。すなわち、延伸したMnSが破壊の起点になる。このため、ホットスタンプ部品用鋼板では延伸したMnSを低減する必要がある。
【0020】
(B)変形能の低下を回避するためにNbを添加すると、Nb系炭化物が生成してボイドの生成の起点になる。ボイドの生成を抑制するためには、Nb含有量を適正化する必要がある。
【0021】
(C)すなわち、ホットスタンプ部品用鋼板およびホットスタンプ部品の製造過程において、鋼中の介在物および炭化物等の、衝突時のホットスタンプ部品の破壊の起点となる不純物をできるだけ低減することにより、ホットスタンプ部品の耐破壊特性を大きく改善することができ、これにより、引張強度が1.5GPa以上のホットスタンプ部品を、例えばボディシェルの構造部材(骨格部材)にも用いることが可能になる。
【0022】
本発明は以下に列記の通りである。
【0023】
(1)化学組成が、質量%で、C:0.18%以上0.26%未満、Si:0.001~2.0%、Mn:0.001~3.0%、P:0.1%以下、S:0.0015%以下、Nb:0.01~0.10%、Cr:0.001~0.50%、Al:0.0001~0.10%、Ti:0.001~0.50%、O:0.0030%未満、B:0.0006~0.0030%、N:0.010%以下、残部:Feおよび不純物であり、
金属組織が、フェライトおよびパーライトの混合組織であり、板厚の1/4~3/4の深さ位置における10μm以上の長さを有するMnSの個数密度が1.50個/10000μm未満であるとともに、前記板厚の1/4~3/4の深さ位置における直径0.1μm以上のNbTi複合炭窒化物の個数密度が0.50個/10000μm未満である、ホットスタンプ部品用鋼板。
【0024】
(2)化学組成が、質量%で、V:2.0%以下、Ta:0.5%以下、およびW:3.0%以下から選択される1種以上を有する、上記(1)に記載のホットスタンプ部品用鋼板。
【0025】
(3)化学組成が、質量%で、Ni:5.0%以下、Cu:3.0%以下、およびMo:0.5%以下から選択される1種以上を有する、上記(1)または(2)に記載のホットスタンプ部品用鋼板。
【0026】
(4)化学組成が、質量%で、Mg:0.003%以下、Ca:0.003%以下、La:0.03%以下、およびCe:0.03%以下から選択される1種以上を有する、上記(1)から(3)のいずれかに記載のホットスタンプ部品用鋼板。
【0027】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに記載のホットスタンプ部品用鋼板を製造する方法であって、
前記化学組成を有する鋼塊または鋼片を1200~1350℃で1時間以上加熱後、1000~1150℃で粗圧延を完了し、Ae+50℃以上で仕上げ圧延を完了する圧延工程と、
600~750℃で巻き取る巻取工程と、
を含む、ホットスタンプ部品用鋼板の製造方法。
【0028】
(6)前記巻取工程の後に、脱スケールを実施して、冷間圧延する冷間圧延工程を含む、上記(5)に記載のホットスタンプ部品用鋼板の製造方法。
【0029】
(7)前記冷間圧延工程の後に、焼鈍を施す焼鈍工程を含む、上記(6)に記載のホットスタンプ部品用鋼板の製造方法。
【0030】
(8)前記巻取工程の後に、脱スケールを実施して、焼鈍を施す焼鈍工程を含む、上記(5)に記載のホットスタンプ部品用鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、焼戻しを行わずに、ホットスタンプ成形とその際の焼入れのままで、超高強度(特に引張強度が1.5GPa以上)を有するとともに耐破壊特性が大きく改善されたホットスタンプ部品を製造することが可能になる。これにより、引張強度が1.5GPa以上のホットスタンプ部品の板厚の低減および軽量化を図ることができるとともに、引張強度が1.5GPa以上のホットスタンプ部品の製造コストの上昇を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を説明する。
【0033】
1.本発明に係るホットスタンプ部品用鋼板
(1)化学組成
はじめに、必須元素を説明する。
【0034】
(1-1)C:0.18%以上0.26%未満
Cは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を主に決定する非常に重要な元素である。特に、焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度1.5GPa以上を確保するために、C含有量は、0.18%以上であり、0.2%以上が好ましく、0.21%以上がさらに好ましい。一方、C含有量が0.26%以上であると、焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度が高くなり過ぎるために変形能の劣化が著しくなる。このため、C含有量は、0.26%未満であり、0.24%以下が好ましく、0.23%以下がさらに好ましい。
【0035】
(1-2)Si:0.001~2.0%
Siは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の高強度を安定して達成することに効果がある。この効果を得るために、Si含有量は、0.001%以上であり、0.05%以上が好ましく、0.1%以上がさらに好ましい。一方、Si含有量が2.0%を超えると脆化し、曲げ性が大きく低下する。このため、Si含有量は、2.0%以下であり、1.5%以下が好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。
【0036】
(1-3)Mn:0.001~3.0%
Mnは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の高強度を安定して得ることに非常に効果がある元素である。Mn含有量が0.001%未満ではこの効果を十分に得られない。このため、Mn含有量は、0.001%以上であり、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がさらに好ましい。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、MnS個数密度が増加し、曲げ性が劣化する。このため、Mn含有量は、3.0%以下であり、2.5%以下が好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。
【0037】
(1-4)P:0.1%以下
Pは焼入れ後のホットスタンプ部品の靱性を大きく劣化させるため、P含有量は少ないほど好ましいが、0.1%の含有は許容される。したがって、P含有量は、0.1%以下である。しかし、P含有量を0.001%未満に低減するには製鋼コストの上昇が避けられない。このため、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0038】
(1-5)S:0.0015%以下
Sは、少ないほど変形能と耐破壊特性が向上するため、S含有量は0.0015%以下とする。好ましくは0.001%未満である。ただし、S含有量を少なくするには脱Sコストがかかるため、S含有量は、0.0001%以上とすることが好ましい。S含有量は、0.0003%以上がさらに好ましい。
【0039】
(1-6)Nb:0.01~0.10%
Nbは、ホットスタンプ部品用鋼板をAc点以上に加熱したときに、再結晶を抑制し、かつ微細な炭化物を形成してオーステナイト粒を細粒にするため、ホットスタンプ部品の靱性を大きく改善する効果を有する。この効果を得るため、Nb含有量は、0.01%以上であり、0.02%以上が好ましく、0.04%以上がさらに好ましい。一方、Nb含有量が0.10%を超えても、上記効果は飽和し、逆に安定して引張強度を確保することが困難となる。このため、Nb含有量は、0.10%以下であり、0.08%以下が好ましく、0.06%以下がさらに好ましい。
【0040】
(1-7)Cr:0.001~0.50%
Crは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の高強度を安定して得ることに非常に効果がある元素である。この効果を得るために、Cr含有量は、0.001%以上であり、0.05%以上が好ましく、0.1%以上がさらに好ましい。一方、Cr含有量が0.50%を超えても、上記効果は飽和し、逆に安定して引張強度を確保することが困難となる。このため、Cr含有量は、0.50%以下であり、0.4%以下が好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0041】
(1-8)Al:0.0001~0.10%
Alは、溶鋼を脱酸し鋼板を健全化することに効果がある元素である。この効果を得るため、Al含有量は、0.0001%以上であり、0.01%以上が好ましく、0.02%以上がさらに好ましい。一方、Al含有量が0.10%を超えると、アルミナが粗大化することにより曲げ性が低下する場合がある。このため、Al含有量は、0.10%以下であり、0.06%以下が好ましく、0.04%以下がさらに好ましい。
【0042】
(1-9)Ti:0.001~0.50%
Tiは、Nと優先的に結合しTiNを生成し、BNの生成によるBの消費を抑制し、Bを有効に機能させる効果を有する。この効果を確実に得るために、Ti含有量は、0.001%以上であり、0.005%以上が好ましく、0.01%以上がさらに好ましい。一方、Ti含有量が0.50%を超えると、TiNが粗大化し、曲げ性を劣化させる。このため、Ti含有量は、0.50%以下であり、0.04%以下が好ましく、0.03%以下がさらに好ましい。
【0043】
(1-10)O:0.0030%未満
Oは、不純物として鋼中に存在する。Oが存在すると、酸化物を形成し耐破壊特性を低下させるために、O含有量は少ないほうが好ましいが、0.0030%程度の含有は許容される。このため、O含有量は0.0030%未満である。
【0044】
(1-11)B:0.0006~0.0030%
Bは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を安定して確保する効果を高めることに有効である。また、Bは、結晶粒界に偏析して粒界強度を高め、ホットスタンプ部品の靱性を向上させる点でも重要な元素である。さらに、Bは、ホットスタンプ部品用鋼板の加熱時のオーステナイト粒の成長を抑制する効果も高い。この効果を得るため、B含有量は、0.0006%以上であり、0.0010%以上が好ましく、0.0015%以上がさらに好ましい。一方、B含有量が0.0030%を超えると、B炭窒化物が生成し、固溶B量が低下することによって焼入れ性が低下し、強度が劣化する。このため、B含有量は、0.0030%以下であり、0.0025%以下が好ましく、0.0020%以下がさらに好ましい。
【0045】
(1-12)N:0.010%以下
Nは、不純物として鋼中に存在する。Nが存在すると、Bと結合しBNを生成し、Bの効果を減少させるため、N含有量は少ないほうが好ましいが、0.010%程度の含有は許容される。このため、N含有量は、0.010%以下であり、0.008%以下が好ましく、0.006%以下がさらに好ましい。
【0046】
次に、任意元素を説明する。
【0047】
(1-13)V:2.0%以下
Vは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を安定して確保することに効果がある元素である。しかし、V含有量が2.0%を超えても上記効果は飽和し、コストが嵩むだけとなる。このため、V含有量は、2.0%以下であり、1.5%以下が好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、V含有量は、0.001%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.2%以上がさらに好ましい。
【0048】
(1-14)Ta:0.5%以下
Taは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を安定して確保することに効果がある元素である。しかし、Ta含有量が0.5%を超えると上記効果は飽和し、コストが嵩むだけとなる。このため、Ta含有量は、0.5%以下であり、0.4%以下が好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、Ta含有量は、0.001%以上が好ましく、0.005%以上がより好ましく、0.1%以上がさらに好ましい。
【0049】
(1-15)W:3.0%以下
Wは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を安定して確保することに効果がある元素である。しかし、W含有量が3.0%を超えると上記効果は飽和し、コストが嵩むだけとなる。このため、W含有量は、3.0%以下であり、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、W含有量は、0.01%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.1%以上がさらに好ましい。
【0050】
(1-16)Ni:5.0%以下
Niは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を安定して確保することに効果がある元素である。しかし、Ni含有量が5.0%を超えると上記効果は飽和し、コストが嵩むだけとなる。このため、Ni含有量は、5.0%以下であり、3.0%以下が好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、Ni含有量は、0.01%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.2%以上がさらに好ましい。
【0051】
(1-17)Cu:3.0%以下
Cuは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を安定して確保することに効果がある元素である。しかし、Cu含有量が3.0%を超えても上記効果は飽和し、コストが嵩むだけとなる。このため、Cu含有量は3.0%以下であり、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、Cu含有量は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。
【0052】
(1-18)Mo:0.5%以下
Moは、ホットスタンプ部品用鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後のホットスタンプ部品の引張強度を安定して確保することに効果がある元素である。しかし、Mo含有量が0.5%を超えても上記効果は飽和し、コストが嵩むだけとなる。このため、Mo含有量は0.5%以下であり、0.4%以下が好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、Mo含有量は、0.005%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.2%以上がさらに好ましい。
【0053】
(1-19)Mg:0.003%以下
Mgは、鋼中の介在物を微細化し、焼入れ後のホットスタンプ部品の靱性を向上させる効果を有する。しかし、Mg含有量が0.003%を超えるとこの効果は飽和し、コストが嵩む。このため、Mg含有量は、0.003%以下であり、0.0025%以下が好ましく、0.002%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、Mg含有量は、0.0005%以上が好ましく、0.001%以上がより好ましく、0.0015%以上がさらに好ましい。
【0054】
(1-20)Ca:0.003%以下
Caは、鋼中の介在物を微細化し、焼入れ後のホットスタンプ部品の靱性を向上させる効果を有する。しかし、Ca含有量が0.003%を超えるとこの効果は飽和し、コストが嵩む。このため、Ca含有量は、0.003%以下であり、0.0025%以下が好ましく、0.002%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、Ca含有量は、0.0005%以上が好ましく、0.001%以上がより好ましく、0.0015%以上がさらに好ましい。
【0055】
(1-21)La:0.03%以下
Laは、鋼中の介在物を微細化し、焼入れ後のホットスタンプ部品の靱性を向上させる効果を有する。しかし、La含有量が0.03%を超えるとこの効果は飽和し、コストが嵩む。このため、La含有量は、0.03%以下であり、0.02%以下が好ましく、0.01%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、La含有量は、0.001%以上が好ましく、0.003%以上がより好ましく、0.005%以上がさらに好ましい。
【0056】
(1-22)Ce:0.03%以下
Ceは、鋼中の介在物を微細化し、焼入れ後のホットスタンプ部品の靱性を向上させる効果を有する。しかし、Ce含有量が0.03%を超えるとこの効果は飽和し、コストが嵩む。このため、Ce含有量は、0.03%以下であり、0.025%以下が好ましく、0.020%以下がさらに好ましい。上記効果を確実に得るためには、Ce含有量は、0.001%以上が好ましく、0.005%以上がより好ましく、0.01%以上がさらに好ましい。
【0057】
上記以外の残部は、Feおよび不純物である。不純物としては、鉱石、スクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0058】
(2)金属組織
(2-1)フェライトおよびパーライトの混合組織
本発明に係る鋼板は、ホットスタンプ用ブランクの加工性の観点、ホットスタンプ時の成形性および焼入性などの観点から、その金属組織は、フェライトおよびパーライトの混合組織を有する。フェライトおよびパーライトの混合組織は、面積率で、10~80%のフェライトと、20~90%のパーライトとを含み、フェライトおよびパーライトの面積率の和が、80~100%である金属組織を備えるものであることが好ましく、30~75%のフェライトと、15~70%のパーライトとを含み、フェライトおよびパーライトの面積率の和が、90~100%である金属組織を備えるものであることがより好ましい。フェライトおよびパーライト以外の残部の金属組織としては、ベイナイトなどが例示される。残部組織は、面積率で、20%まで許容される。残部組織は、面積率で、10%以下であることが好ましい。
【0059】
(2-2)板厚の1/4~3/4の深さ位置における10μm以上の長さを有するMnSの個数密度:1.50個/10000μm未満
連続鋳造により製造したスラブの中心部は偏析が多くなる。スラブを圧延し薄板としても偏析は引き継がれ、薄板の中央部には偏析が多くなる。このため、本発明では、板厚中心部(1/4~3/4t)の位置に着目する。
【0060】
MnSが割れの起点になることは知られている。本発明では、鋼中のS含有量を、0.0015%以下、好ましくは0.001%未満に減少させることによりMnSの生成を抑制する。
【0061】
しかしながら、それでもMnSの生成を充分に抑制することはできず、MnSを生成させないことにより曲げ割れ性の向上を図る。具体的には、MnSの個数密度を1.5個/10000μm未満とする。ただし、長さが10μm未満の極微細なMnSは曲げ割れ性に影響を与えない。このため、10μm以上の長さを有する延伸MnSの個数密度は、1.50個/10000μm未満であり、好ましくは、1.4個/10000μm以下であり、さらに好ましくは1.1個/10000μm以下である。
【0062】
(2-3)板厚の1/4~3/4の深さ位置における直径0.1μm以上のNbTi複合炭窒化物の個数密度:0.50個/10000μm未満
連続鋳造により製造したスラブの中心部は偏析が多くなる。スラブを圧延し薄板としても偏析は引き継がれ、薄板の中央部には偏析が多くなる。このため、本発明では、板厚中心部(1/4~3/4t)の位置に着目する。
【0063】
本発明では、NbとTiとを必須元素として含有するため、NbとTiとの複合炭窒化物NbTi(C,N)が生成する。スラブ段階でのNbTi(C,N)は粗大であり、これが圧延後の鋼板に残存すると曲げ割れの原因となる。本発明では、鋼中の粗大なNbTi(C,N)を残存させないことにより曲げ割れ性の向上を図る。
【0064】
具体的には、直径0.1μm以上のNbTi(C,N)の個数密度は、0.50個/10000μm未満であり、好ましくは0.4個/10000μm以下であり、さらに好ましくは0.3個/10000μm以下である。
【0065】
直径0.1μm未満のNbTi(C,N)が存在していても、曲げ割れは悪化しない。直径0.1μm未満のNbTi(C,N)が鋼中に分散することは、ピン止め作用による析出強化により鋼板の強度を高めることができるので、むしろ好ましい。
【0066】
なお、フェライトおよびパーライトの面積率、MnSの個数密度、ならびにNbTi複合炭窒化物の個数密度は、例えば、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0067】
(3)用途
本発明に係る鋼板は、ホットスタンプ部品に用いられるものである。対象とするホットスタンプ部品としては、バンパーレインフォースメントおよび自動車のボディシェルの構造部材(例えばAピラーレインフォースメント,Bピラーレインフォースメント,フロントサイドメンバ,リアーサイドメンバ,ルーフレール,各種クロスメンバ等)が例示される。
【0068】
2.本発明に係るホットスタンプ部品用鋼板の製造方法
次に、本発明に係るホットスタンプ部品用鋼板の製造方法を説明する。
(1)圧延工程
上述した化学組成を有する鋼塊または鋼片を、1200~1350℃で1時間以上加熱後、1000~1150℃で粗圧延を完了した後、Ae+50℃以上で仕上げ圧延を完了する。
スラブ加熱によりMnS,NbTi(C,N)が固溶する。冷却すれば、再度析出するが、固溶させた後に再析出させれば、これらの介在物は微細に分散し、10μm以上の長さのMnS,直径0.1μm以上のNbTi(C,N)は生成し難くなる。
【0069】
MnSは、1200~1250℃程度で固溶する。また、NbTi(C,N)は、1150℃以上でNbが優先的に固溶し、さらに温度を上げるとTiも固溶する。Nbが優先的に固溶すれば、その後の冷却過程においてNbTi(C,N)が微細に再析出する。このため、MnSとNbTi(C,N)の両方を固溶させ微細析出させるために、鋼塊または鋼片の加熱温度は、1200℃以上であり、好ましくは1250℃以上である。
【0070】
一方、鋼塊または鋼片の加熱温度を高くし過ぎると、エネルギーコストが嵩むことから、鋼塊または鋼片の加熱温度は、1350℃以下であり、好ましくは1300℃以下である。
【0071】
また、鋼塊または鋼片を十分に均熱化するためには、1時間以上の加熱が有効である。しかし、鋼塊または鋼片の加熱時間が2.0時間を超えるとエネルギーコストが嵩むことから、鋼塊または鋼片の加熱時間は、2.0時間以下であることが好ましい。
【0072】
鋼塊または鋼片を以上のように加熱した後、粗圧延を開始し、1000~1150℃で粗圧延を完了する。粗圧延の終了温度が1000℃未満であると、後述する仕上げ圧延の完了温度を満足することができなくなる。一方、粗圧延の終了温度が1150℃を超えると、再結晶は進行するものの、結晶粒の粗大化が進行し、仕上げ圧延での結晶粒の粗大化につながる。
【0073】
この後、Ae+50℃以上で仕上げ圧延を完了する。Ae+50℃より低い温度で熱間圧延を施すと、焼入れ性が低下し、引張強度TSが低下するからである。本発明の化学組成系では、熱間圧延の完了温度がAe+50℃以上であれば、これらの問題は生じない。一方、熱間圧延完了温度が1050℃を超えると、スケール噛み込み等の表面欠陥を生じるおそれがある。したがって、熱間圧延の完了温度は1050℃以下であることが好ましい。
【0074】
なお、Ae点は下記式に従って算出する。
Ae(℃)=937-477C+56Si-20Mn-16Cu-15Ni-5Cr+38Mo+136Ti-19Nb+198Al+3315B
但し、上記式中の元素記号は、鋼板中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合には0を代入するものとする。
【0075】
(2)巻取工程
熱間圧延後には、600~750℃でコイルに巻取る。この温度域で巻取ることにより、組織をフェライトおよびパーライトからなる混合組織とすることができる。熱延コイルの放冷中にCr,Mnの拡散によってFeCに濃化し、FeCが安定化する。このため、安定化を抑制するためには、巻取温度を低くし、Cr,Mnの拡散速度を十分に低下させることが有効である。また、鋼板の引張強度も低下する。このため、本発明では、巻取温度は、750℃以下であり、好ましくは700℃以下である。
【0076】
一方、巻取温度が600℃を下回ると、ベイナイトなどの硬質相が生成しやすくなり熱間圧延に引き続いて行われる冷間圧延での圧延荷重が高くなり、生産性を阻害する。このため、巻取温度は、600℃以上であり、好ましくは620℃以上である。
【0077】
その後、必要に応じて、コイルに巻取られたコイル(鋼帯)を巻き戻してから、酸洗、ショットブラスト、研削等の1種または2種以上の処理により、表面に生成したスケールの除去処理(脱スケール)を行ってもよい。
【0078】
(3)冷間圧延工程
巻取り後、必要に応じて冷間圧延が行われる。冷間圧延は、上述した脱スケールを実施した後に行う。冷間圧延は、周知慣用の条件で行えばよく、冷間圧延温度は10~60℃とすることが好ましい。冷間圧延することにより、ホットスタンプ後の結晶粒径が微細化する、という効果がある。
【0079】
(4)焼鈍工程
冷間圧延の後に、必要に応じて焼鈍が行われる。巻取り後、酸洗などを行い脱スケール後に冷間圧延工程を行わず直接焼鈍を行ってもよい。焼鈍は600℃以上で行えばよく、オーステナイト相が析出する700℃以上が好ましい。一方、焼鈍温度が900℃を超えると、工業的にもエネルギーコストが増大する。
【0080】
焼鈍は、アンコイル状態で行う連続焼鈍でもよいし、コイルに巻取って行う箱焼鈍でもよい。
【0081】
焼鈍条件は、周知慣用の条件を採用すればよく、例えば、冷延鋼帯を連続焼鈍する場合には、730~900℃に加熱し、その温度域で10秒間以上保時した後、1~100℃/秒の平均冷却速度で300~500℃の温度域まで冷却し、さらに300~500℃の温度域に30秒間~10分間保持し、その後に1~50℃/秒の平均冷却速度で室温まで冷却することにより、焼鈍を行う。
【0082】
このようにして、本発明に係るホットスタンプ部品用鋼板が製造される。
【実施例
【0083】
実施例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。
【0084】
表1および表2に示す化学組成(表1および表2に示す以外の残部はFeおよび不純物)を有するスラブを、表3に示すスラブ加熱温度およびスラブ加熱時間で加熱した後に粗圧延を開始し、表3に示す粗圧延終了温度で粗圧延を完了し、さらに、表3に示す仕上圧延終了温度で仕上げ圧延を完了して板厚3.2mmとし、表3に示す巻取温度でコイルに巻取った。
【0085】
巻取ったコイルのうちいくつかのものについては、巻戻して脱スケールを行い、焼鈍を行った。また、別の一部のものについては、コイルを巻戻した後に酸洗を行って脱スケールを行い、その後、冷間圧延を施して板厚1.6mmとした。
【0086】
冷間圧延を施したもののうち一部のものについてはさらに焼鈍を行った。冷間圧延、焼鈍を行ったものについては表3に冷間圧延温度と焼鈍温度を示した。なお、表3中のRTは室温を示す。表2および表3における下線は本発明の範囲外であることを示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
製造したコイルについては、組織観察を行うとともに、ホットスタンプ処理を施し、ホットスタンプ部品用鋼板としての特性を有するか評価した。具体的には、No.1~34、x1~x15のホットスタンプ部品用鋼板を製造するとともに、下記(1)~(3)に示す組織観察を行った。
【0091】
(1)フェライトおよびパーライトの面積率
鋼板の一部から試料片を切り出し、試料L断面を鏡面研磨し、ナイタール溶液を用いて金属組織を腐食させる。そして、板厚の1/4t領域を倍率500倍の光学顕微鏡で観察し、それぞれの組織の面積率を測定した。
【0092】
(2)板厚の1/4~3/4の深さ位置における10μm以上の長さを有するMnSの個数密度
鋼板の一部から試料片を切り出し、試料L断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡にてMnSの大きさおよび個数密度を測定した。ここで、板厚の1/4~3/4t領域、すなわち、板厚1.6mmtの場合、中央部の0.8mmの範囲について20mm幅の領域(0.8mm×20mm=16mm)を測定領域とした。
【0093】
(3)板厚の1/4~3/4の深さ位置における直径1.0μm以上のNbTi複合炭窒化物の個数密度
鋼板の一部から試料片を切り出し、試料L断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡にて直径1.0μm以上NbTi複合炭窒化物の個数密度を測定した。ここで、板厚の1/4~3/4t領域、すなわち、板厚1.6mmtの場合、中央部の0.8mmの範囲について5mm幅の領域(0.8mm×5mm=4mm)を測定領域とし、EDXにて組成分析を行いNbTi複合炭窒化物であるかを確認するとともに、個数密度を測定した。
【0094】
一方、ホットスタンプ部品の特性に関し、下記(4)および(5)に示す方法により評価した。
【0095】
(4)強度(TS,YS),伸びEL
JIS Z 2201に規定される5号試験片をホットスタンプ部品より採取し、JIS Z 2241に準拠した引張試験を行い、強度(TS,YS)および伸びELを評価した。
【0096】
(5)限界曲げR
曲げ性評価に関しては、ホットスタンプ部品から30mm×100mmの試験片を採取し、先端Rが2.0~5.0のパンチにて90度曲げ試験を行い、曲げ部に割れが発生しない最大Rを求めた。割れが発生する最大Rは板厚tにも依存するため、得られた最大Rを板厚tで除算して、限界R/tとして、R/tが2.0未満のものを曲げ性が良好なものとして評価した。なお、先端Rが5.0でも割れが発生したものについては、表5中に“-”で示した。
【0097】
表4に、組織観察の結果を示す。また、表ホットスタンプ部品の板厚および機械特性の結果を示す。表4における下線は本発明の範囲外であることを示し、表5における下線は機械特性が芳しくない値であることを示す。
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
表5におけるNo.1~No.34は本発明の規定を全て満足する本発明例であり、No.x1~x15は本発明の規定を満足しない比較例である。
【0101】
表5に示すように、No.1~No.34の本発明例は、板厚の1/4~3/4の深さ位置における10μm以上の長さを有するMnSの個数密度:0.42~1.47(個/10000μm),板厚の1/4~3/4の深さ位置における直径1.0μm以上のNbTi複合炭窒化物の個数密度:0.06~0.49(個/10000μm),直径0.1μm以上を得られ、焼戻しを行わずにホットスタンプ成形とその際の焼入れのままで、TS:1514~1705(MPa),YS:1038~1227(MPa),EL:9.0~12.0(%),限界R/t:0.9~1.9の機械特性を有しており、超高強度(特に引張強度が1.5~1.8GPa)を有するとともに耐破壊特性が大きく改善されたホットスタンプ部品を製造できることが分かる。
【0102】
これに対し、No.x1は、S含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、MnSの個数密度が本発明の範囲の上限を超え、限界R/tが芳しくない値であった。
【0103】
No.x2は、S含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、MnSの個数密度が本発明の範囲の上限を超え、先端Rが5.0のパンチで90度曲げ試験を行っても割れが発生した。
【0104】
No.x3は、スラブ加熱温度が本発明の範囲の下限を下回るため、MnSの個数密度およびNbTi複合炭窒化物の個数密度がいずれも本発明の範囲の上限を超え、限界R/tが芳しくない値であった。
【0105】
No.x4は、スラブ加熱時間が本発明の範囲の下限を下回るため、MnSの個数密度およびNbTi複合炭窒化物の個数密度がいずれも本発明の範囲の上限を超え、先端Rが5.0のパンチで90度曲げ試験を行っても割れが発生した。
【0106】
No.x5は、粗圧延終了温度が本発明の範囲の下限を下回り、その結果として仕上圧延終了温度も本発明の範囲の下限を下回ったため、焼入性が低下し、引張強度TSが不足した。
【0107】
No.x6は、巻取温度が本発明の範囲の上限を超えるため、焼入性が低下し、引張強度TSが不足した。
【0108】
No.x7は、C含有量が本発明の範囲の上限を超え、仕上圧延終了温度も本発明の範囲の下限を下回ったため、限界R/tが芳しくない値であった。
【0109】
No.x8は、Si含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、先端Rが5.0のパンチで90度曲げ試験を行っても割れが発生した。
【0110】
No.x9は、Mn含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、MnSの個数密度が本発明の範囲の上限を超え、限界R/tが芳しくない値であった。
【0111】
No.x10は、Cr含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、引張強度TSが不足した。
【0112】
No.x11は、Ti含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、NbTi複合炭窒化物の個数密度が本発明の範囲の上限を超え、限界R/tが芳しくない値であった。
【0113】
No.x12は、B含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、引張強度TSが不足した。
【0114】
No.x13は、Al含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、先端Rが5.0のパンチで90度曲げ試験を行っても割れが発生した。
【0115】
No.x14は、N含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、引張強度TSが不足した。
【0116】
さらに、No.x15は、O含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、限界R/tが芳しくない値であった。