(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ワーク搬送装置
(51)【国際特許分類】
B65G 27/24 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B65G27/24
(21)【出願番号】P 2020169817
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】前田 峰尚
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲行
(72)【発明者】
【氏名】大西 孝信
【審査官】大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-158256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを載置した状態で搬送する搬送面を有する振動体と、
前記振動体に、前記ワークの搬送方向に沿う方向の圧縮歪み及び引張歪みを含む疎密波を、少なくとも二つのモードで発生させることにより
、搬送部に楕円軌道を描く振動を発生させる振動発生部と、を備え、
前記振動発生部を、前記振動体の上面側および下面側に対して、物理的に略対称となる
よう、加振力が中立軸に作用するように加振源を配置し、かつ縦振動が生じた際の弾性力と慣性力の作用点が中立軸に凡そ一致するように構成したことを特徴とするワーク搬送装置。
【請求項2】
前記振動体の肉厚内に、当該振動体の中立軸に沿って加振源を配置している、請求項1に記載のワーク搬送装置。
【請求項3】
前記振動体を上側振動体と下側振動体で構成して
、加振源を挟むように上側振動体と下側振動体を配置している、請求項1又は2に記載のワーク搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送面に進行波を発生させることによりワークを搬送するワーク搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チップコンデンサなどの電子部品の微細化が進み、さらにその生産設備に対しては高速処理の要求が高まっている。パーツフィーダに対してもワークの高速搬送が求められているが、高速化のために振幅を増大させると、次工程設備とのインターフェース部においてワークの落下や詰まりなどの不具合が発生してしまう。そこで、駆動装置の周波数を上げ、変位振幅を小さくして搬送速度を上げることが検討されているが、人間の耳の感度が高い1kHz~4kHzに近づくため、騒音問題が発生する。また周波数を上げると、搬送路などに弾性変形が生じ易くなり、ワークの正常な搬送が妨げられてしまう。したがって、現状の板ばねで共振させる構造では、搬送速度の向上には限界がある。
【0003】
そこで、特許文献1に示すように、搬送部に超音波領域のたわみ進行波を生成し、搬送面を楕円振動させることでワークを搬送するパーツフィーダが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のワーク搬送装置は、トラック状であってワークを載置する搬送面と、この搬送面に周回する進行波を発生させる進行波発生手段とを備え、進行波発生手段が発生させた進行波により搬送面上のワークを搬送するよう構成されている。
【0005】
このようなワーク搬送装置では、搬送面に撓みが発生することで、進行波は撓み進行波
となる。撓み進行波が発生すると、搬送面の各位置に搬送方向基準の側面視における楕円
運動が発生することになり、搬送面に載置されたワークはこの楕円運動における水平方向
速度成分により、進行波の進行方向とは逆方向に搬送されていく。
【0006】
特許文献1では、搬送面に、幅方向に延びるスリットが周方向に複数形成されている構
成も提案されている(特許文献1の
図11、
図12)。このように搬送面にスリットを形
成することで、撓み進行波により搬送面に発生する楕円運動の、水平方向速度成分を大き
くできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の撓み進行波を利用したワーク搬送装置では、搬送面における楕円運動の垂直方向の振動に起因してワークの跳躍が発生する。したがって、ワークの跳躍を抑制するためには、楕円運動における垂直方向の振幅に対して水平方向の振幅を大きくすることが望ましい。スリット構造を用いた場合,水平方向の振幅を大きくする効果があるが,依然として不十分であり,また,スリット部においてワークの姿勢が乱れるなどの新たな問題が発生してしまう。
【0009】
水平方向に振幅の大きい振動を発生させるために、縦波進行波を利用することが考えられる。搬送面を有する振動体に、ワークの搬送方向に沿う方向の圧縮歪み及び引張歪みを含む疎密波を、少なくとも二つのモードで発生させれば、搬送面上の一点が側方視においてワーク搬送方向が長軸となる楕円軌道を描く振動を発生させることができる。ワーク搬送方向はすなわち進行波の進行方向であり、ボウルフィーダやリニアフィーダにあっては円環や長円の周方向である。
【0010】
このような縦波進行波を利用したパーツフィーダでは、搬送面の楕円振動の水平方向成分を大きくすることができるため、ワークの跳躍を引き起こす鉛直方向の振動振幅を抑えつつ、ワークを高速に搬送することが期待できる。
【0011】
この場合、縦波進行波を生成するための加振源(圧電素子)を、たわみ進行波を利用する装置と同様に振動体の底面(搬送面と反対側の面)か、側面に貼付する構造が考えられる。
【0012】
しかしながら、このような位置から圧電素子の伸縮動作を利用して振動体に圧縮、引っ張りによる疎密波を生成しようとすると、
図5に基づいて後述するように振動体に曲げを生じさせるような力(曲げモーメント)が加わるため、生成したい縦波以外にも、曲げを伴うような不要な振動を励起する場合がある。また、特に振動体の底面に加振素子を張り付ける構造では、上下非対称な構造となってしまうため、
図8(b)に基づいて後述するように縦波の振動モード自体がいびつな変形形状となってしまう場合がある。
【0013】
この結果、ワーク搬送速度のバラツキや、ワークの跳躍が発生してしまう。このような課題は、横波であるたわみ進行波を利用する装置では生じない、縦波に特有の課題である。
【0014】
本発明は、搬送面に進行波を発生させることでワークを搬送するワーク搬送装置において、ワークの跳躍を抑え、かつ振幅のバラツキが小さい安定した搬送を実現する、従来にはないワーク搬送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0016】
すなわち、本発明のワーク搬送装置は、ワークを載置した状態で搬送する搬送面を有する振動体と、前記振動体に、前記ワークの搬送方向に沿う方向の圧縮歪み及び引張歪みを含む疎密波を、少なくとも二つのモードで発生させることにより、搬送部に楕円軌道を描く振動を発生させる振動発生部と、を備え、前記振動発生部を、前記振動体の上面側および下面側に対して、物理的に略対称となるよう、加振力が中立軸に作用するように加振源を配置し、かつ縦振動が生じた際の弾性力と慣性力の作用点が中立軸に凡そ一致するように構成したことを特徴とする。
【0017】
ここで、「物理的に対称」とは、加振力が中立軸に作用するように加振源を配置し、かつ縦振動が生じた際の弾性力と慣性力の作用点が中立軸に凡そ一致するような構成をいう。「中立軸」とは、振動体を厚み方向から見たときに、曲げに対して引っ張りと圧縮が釣り合って応力が生じない軸をいう。このような軸が連なった面は中立面とも呼ばれる。
【0018】
このようにすれば、振動体に曲げを生じさせるようなモーメントが発生しないため、不要な振動の発生を抑制することができる。この結果、振幅のバラツキが小さく、進行波比が向上して、速度のバラツキの少ない安定した搬送を実現することが可能となる。また、振動発生部を底面に配置する構成では、加振源の厚み等の形状によっては、より非対称性が大きくなってしまうため、加振源の形状などの自由な設計が困難となるが、本発明によれば上下の対称性が得られるため、設計の自由度が高くなる。このため、例えば加振源を厚くして静電容量を大きくする、などの設計も行い易いものとなる。
【0019】
この場合、振動体の肉厚内に、当該振動体の中立軸に沿って加振源を配置していることが好ましい。上側と下側が同一単一材料である場合は厚み方向中心付近が中立軸であり、ここに加振源を配置すれば物理的対称性が得られる。また、多少の非対称があっても、中立軸の位置が厚み方向にずらせば、物理的対称性が得られる。そして、厚み内に配置するので、加振源の両側が振動体で挟まれ、割れなどの故障が生じづらいものとなる。
【0020】
また、前記振動体を上側振動体と下側振動体で構成して、加振源を挟むように上側振動体と下側振動体を配置していることが好ましい。このような構成であれば、半割構造を利用して作り易く、電極も引き出し易いものとなる。
【0021】
また、前記上側振動体と下側振動体の素材又は形状の全部又は主要部が同一であり、前記加振源が略中立軸上に配置されていることが好ましい。このような場合には、上側と下側が同一単一材料である場合は厚み方向中心付近が中立軸であり、ここに加振源を配置すれば物理的対称性が得られるため、適切な構成を実現し易いものとなる。
【0022】
また、上側振動体と下側振動体との物理的な非対称性を、上側振動体又は下側振動体の一方に他方とは異なる形状を付与することによって補完していることが好ましい。上側振動体と下側振動体の形状に違いがあっても、或いは材質や厚みに違いがあっても、形状で補完することで比較的簡単、適切に物理的な対称性を確保することができる。
【0023】
また、前記加振源を、前記振動体の内部における上面側へ変位した位置と下面側へ変位した位置に対をなして配置していることが好ましい。このようにすれば、合成された加振力が中立軸上に作用するため、物理的対称性を確保しつつ、加振力の増大などを図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明した本発明によれば、疎密波により搬送方向を長軸とする一様な楕円振動による進行波を搬送面に発生させることができるので、ワークの跳躍を抑え、かつ振幅のバラツキが小さい安定した搬送を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本施形態に係るワーク搬送装置の概略構成を示す斜視図。
【
図3】ワーク搬送装置における振動体を加振するための構成を示す概要図。
【
図8】
図4及び
図5の加振源配置の下で振動体に現れる変形状態を表した図。
【
図9】ボウルフィーダの場合の中立軸と物理的対称性を説明する図。
【
図10】物理的対称性を形状によって補完する構成を説明する図。
【
図12】本発明の他の変形例を示す
図4に対応した図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0027】
図1に示す本実施形態に係るワーク搬送装置(パーツフィーダ)1は、ベース部2上に、円盤状のボウルフィーダ3と、ボウルフィーダ3の接線方向に延びるように接続されたリニアフィーダ4とを備える。
【0028】
ボウルフィーダ3は円盤状の部材であるボウルフィーダ側搬送部31を備える。このボウルフィーダ側搬送部31は、中央に位置する固定部32にてベース部2に固定されている。ボウルフィーダ側搬送部31の上面は、図示のように、中央側にワークが投入される凹部33を有し、凹部33の周囲にすり鉢状の斜面34を有しており、凹部33の周縁から斜面34の上縁部にかけて、ワークを搬送するための搬送トラックとしてらせんトラック35が形成されている。らせんトラック35は、らせんを描きながらせり上がる溝を有し、溝底が搬送面351となっている。この搬送面351が、進行波発生部3B(
図3参照)により波打つように変形することで、ワークが搬送される。
【0029】
リニアフィーダ4は平面視で長円形状であるリニアフィーダ側搬送部41を備える。このリニアフィーダ側搬送部41は、幅方向中央に位置する固定部42にてベース部2に固定されている。リニアフィーダ4における搬送トラックは、メイントラック43とリターントラック44とにより構成されている。メイントラック43は、リニアフィーダ側搬送部41の上面に長手方向に延びる直線状の溝を有し、溝底が搬送面431となっている。リターントラック44は、リニアフィーダ側搬送部41の上面においてメイントラック43の幅方向内側に位置する長円形の溝を有し、溝底が搬送面441となっている。これら搬送面431,441が、進行波発生部4B(
図3のボウルフィーダ3についての進行波発送部3Bと同様の構成)により波打つように変形することで、ワークが搬送される。
【0030】
各フィーダ3、4において、複数のワークは搬送面351、431、441上で隣り合って整列された状態で搬送されることもできるし、間隔を空けて搬送されることもできる。
【0031】
メイントラック43上のワークのうち姿勢等が不適切なワークは、図示しない移動手段(エアノズル等)によって、メイントラック43からリターントラック44に移動させられる。図の概略図ではリターントラック44が循環するように描かれているが、実際にはリターントラック44に移されたワークはボウルリーダ3に帰還されるか、メイントラック43に再度合流するなど、適宜の構成が採用されている。
【0032】
ボウルフィーダ3とリニアフィーダ4において、ワークを搬送させるための機構は共通するため、以下においてはボウルフィーダ3又はリニアフィーダ4の何れかを例に挙げて本実施形態の構成を説明する。
【0033】
先ず基本構成をボウルフィーダ3を例に挙げて説明すると、
図1~
図3に示すように、ボウルフィーダ3は振動体3Aと振動発生部3Bを備える。振動体3Aは前記ボウルフィーダ側搬送部31の一部であって、円環状のものとして表わしてある。振動体3Aは弾性体であって、波動を伝達する媒質となる材質で形成されている。本実施形態の振動体3Aは下面や側面に加振源を貼り付けた中実金属製のものではなく、内部に加振源である圧電素子36を埋め込んだ構造を有している。これについては後述する。
【0034】
振動発生部3Bは、振動体3Aに疎密波を発生させるべく、
図3に示すように加振源である圧電素子36に加振部37から交番電圧を印加して、圧電素子36に周方向(ワーク搬送方向、進行波の進行方向)への伸長動作と収縮動作を行わせる。この疎密波は、振動体3Aにおけるポアソン効果によって、
図4に示すようにワークの搬送方向に沿う方向(周方向)に図中矢印(実践)A1のような引張歪み、及び矢印(破線)A2のような圧縮歪みとともに、搬送方向と直交する厚み方向へ収縮する変位B1、及び膨張する変位B2を引き起こす。
【0035】
振動体3Aは、
図6に示すように、周方向に沿って引張歪みと圧縮歪みが交互に発生するような、疎密波である縦波の定在波モード(固有モード)を複数有する。本実施形態において、固有周波数がほぼ等しく、空間的な位相が90°ずれた二つの定在波である0°モードの定在波と90°モードの定在波とが合成されることで、
図7に示す山となる部分と谷となる部分が例えば矢印に示す時計回りに進行する進行波となる。なお、「定在波」とは、振動体3Aの周方向における一定の位置で発生する波(縦波)のことである。
【0036】
縦波の定在波における媒質の動きそれ自体のメカニズムについては既知であるため、詳細な説明は省略する。
【0037】
媒質は、
図6(a)、(b)の各々において、上側の図は疎密波によって振動体3Aが変形した様子を示し、下側の図は疎密状態を疎密を表わす縦線を使ってわかり易く併記したものである。これらの図からわかるように、
図6(a)、(b)では周方向に沿って疎の部分と密の部分が時間とともに周期的に入れ替わっている。
図6(a)において位置A及び位置Bは縦波の変位分布における「腹」の位置、位置C及び位置Dは「節」となる位置である。位置Cは引張歪みが発生したことで媒質は「疎」となっており、位置Dは圧縮歪みが発生したことで媒質は「密」となっている。
図6(a)と
図6(b)を比較すると、腹A、Bの位置の歪み状態は変わらず、節C、Dの疎密が反転している。
【0038】
振動体3Aは、周方向に伸縮することに伴い、ポアソン比に応じた変化量で厚み方向にも膨張、収縮する。ポアソン比の定義から、厚み方向の歪みは周方向の歪みと逆関係になる。つまり振動体3Aは、引っ張り位置Cでは厚み方向に収縮し、圧縮位置Dでは厚み方向に膨張している。90°位相の異なる変位が0°モードと90°モードの位置に生成されることで、
図6(b)に示すように、進行方向を長軸とする扁平な楕円振動Rが形成される。
【0039】
この楕円振動Rの上側の部分でワークWが搬送面と接触して搬送力Mが発生する。縦波は横波に比べて楕円の長軸が搬送方向を向き、上下変位が小さいため、ワークWの跳躍が小さく、有効な搬送力Mが発現する。
【0040】
振動発生部3Bは、
図3に示すように、振動体3Aに前記圧縮歪み及び前記引張歪みを与える複数の加振源たる圧電素子36を有している。本実施形態では、
図5に示すように振動体3Aの下面(または側面)に圧電素子36が貼付されているのではなく、
図4に示すように振動体3Aの厚み内に圧電素子36を配置することによって振動体Aを構成している。各圧電素子36は、
図3に示すように、定在波モードの波長の1/2(λ/2)のピッチで分極方向(図示「+」「-」)が入れ替わるように配置された第1群(第1圧電素子群)36Aと、この第1群36Aとは1/4波長(λ/4)分周方向にずれた位置に配置されていて、第1群36Aと同じく定在波モードの波長の1/2のピッチで分極方向が入れ替わるように配置された第2群(第2圧電素子群)36Bから構成されている。つまり、複数の変位発生部36は、前記モードの数(本実施形態は二つ)に対応した数の群36A,36Bに分かれて属している。
【0041】
加振部37は
図3に示すように、圧電素子36に対して、疎密波が発生する固有モードに対応した周波数の正弦波を印加する制御部371を備え、制御部371は圧電素子36に接続されている。制御部371は、圧電素子36に対して、複数の群の各々36A,36Bにて異なる位相の正弦波を入力する。具体的には、交流電圧に係る正弦波を二系統に分け、一方の系統については、移相器371dにより時間的な位相をずらせる。図示していないが、制御部371では正弦波の周波数を増減させる調整が可能である。元の正弦波と移相された正弦波371aをそれぞれアンプ371b、371cで増幅した上、通電端37a、37bを介して各群36A,36Bに属する圧電素子36に印加する。本実施形態では、各群36A,36Bに属する圧電素子36に対し、0°モード、90°モードにおける固有周波数にほぼ一致する周波数で、かつ、0°モードと90°モードの定在波が時間的な位相で90°ずれて発生するように、移相器371dにおいて時間的な位相差を持った正弦波が印加される。
【0042】
各圧電素子36は、縦波定在波モードの変位分布における腹の位置に配置される。制御部371から圧電素子36に印加された正弦波により、空間的に位相が90°ずれた2つの定在波モードのうち、一方の定在波モードを一方の圧電素子群36Aによって加振し、もう一方の定在波モードをもう一方の圧電素子群36Bによって時間的に位相を90°ずらして加振する。
【0043】
これにより、
図6、
図7に示したように、振動体3Aに横波(撓み進行波の場合)ではなく縦波の定在波が発生する。そして、空間的、時間的に位相がずれた複数(本実施形態では二つ)の定在波モードにて定在波を発生させることで、進行波を周方向に進行させることができる。
【0044】
本実施形態において、
図4に示すように加振源である圧電素子36を振動体3Aの肉厚内に配置したのは、圧電素子36の位置を、振動体3Aの上面側および下面側に対して、物理的に略対称とするためである。すなわち、かかる配置構成は、縦振動が生じた際の弾性力と慣性力の作用点を中立軸Nに凡そ一致させることを目的としている。中立軸Nとは、前述したように、振動体3Aを厚み方向(縦断面方向)から見たときに、曲げに対して引っ張りと圧縮が釣り合って応力が生じない軸をいう。具体的に本実施形態は、加振源である圧電素子36を挟むように上側振動体3A1と下側振動体3A2を配置した構成、好ましくは半割によるサンドイッチ構造のもので、上側振動体3A1と下側振動体3A2の素材を同一、厚み等の形状を略同一とし、振動体3Aの中立軸Nに沿って加振源である圧電素子36を配置している。
【0045】
図4対して、
図5の構成は、圧電素子36の伸縮が振動体3Aの下面(又は側面)で起こり、この位置から振動体3A全体に対する搬送方向への圧縮、引っ張りが行われるため、同図に矢印で示すように、圧電素子36から遠い位置ほど曲げモーメントによる振動体3Aの曲げ方向の変位が大きくなる。
【0046】
図8(a)は、
図4に示した圧電素子配置の下で振動体3Aに現れる変形状態を表した図であり、
図8(b)は、
図5に示した圧電素子配置の下で振動体3Aに現れる変形状態を表した図である。
【0047】
図8(a)において、水平方向の圧縮、引っ張り状態は疎密を表わす縦線の間隔で表される。符号Pで示す箇所は水平方向の変位が小さい箇所、符号Qで示す箇所は水平方向の変位が大きい箇所である。水平方向の変位が小さい箇所Pでは逆に厚み方向の変位が大きくなり、水平方向の変位が大きい箇所Qでは厚み方向の変位が小さくなっている。これらのP、Qの位置において疎密を表わす縦線の間隔や縦線の形、延びている方向を見ると、P、Qの付近で中立軸Nを越えて上下に亘る縦線で描かれる疎密を表わす線が中立軸Nに対して略直交して対称的に延びている。上側の搬送面351を見ると、山となる位置と谷となる位置が所定周期で滑らかに連続しており、搬送面351に一様な楕円振動によって理想的な縦波進行波が形成されていることがわかる。
【0048】
これに対して、図(b)では、上記P、Qに対応する位置P´、Q´で中立軸Nを越えて上下に亘る縦線で描かれる疎密を表わす線が、曲げモーメントによって中立軸Nに対して直交方向から非対称に湾曲した方向に延び、また不規則に歪んでおり、上側の搬送面351´を見ると、山となる位置と谷となる位置がいびつで不連続であり、搬送面351´に滑らかな進行波が形成されていない。
【0049】
このことから、
図8(b)に比べて
図8(a)は、ワークの跳躍を抑え、かつ振幅のバラツキが小さい安定した搬送が実現できていることがわかる。
【0050】
なお、ボウルフィーダ3においては、
図2では振動体を円環状として説明したが、必要に応じて
図9(a)に示すように上面と下面の略中央位置にすり鉢状に中立軸Nが存する場合には、当該中立軸Nに沿って圧電素子を配する態様、或いは、
図9(b)に示すようにボウルフィーダ3の凹部34と物理的に等価なダミーの凹部34´を下面側に形成する場合には、平面的な中立軸Nに沿って圧電素子を配する態様などを、適宜採用することで物理的対称性を確保することができる。
【0051】
また、トラックについても、例えば
図10に示すように上側振動体3A1のトラック35と物理的対称性を確保できるようなダミーのトラック35´が、必要に応じて下側振動体3A2の下面側にも確保される。すなわち、
図9(b)の場合を含め、必要に応じて上側振動体3A2と下側振動体3A2との物理的な非対称性を、上側振動体3A1又は下側振動体3A2の一方に他方とは異なる形状を付与することによって補完することができる。このため、上側振動体3A1と下側振動体3A2の形状に違いがあっても、或いは材質や厚みに違いがあっても、形状的な補完を利用することで物理的な対称性を確保することができる。この意味でも、
図10に示すようにダミーのトラック35´の形状は、搬送部のトラック35と必ずしも同形状である必要はない。
【0052】
上記
図9(a)、(b)、
図10のごとき対策は、リニアフィーダ4においても同様に採用し得る。
【0053】
以上のように、本実施形態のワーク搬送装置は、ワークを載置した状態で搬送する搬送部31、41を有する振動体3A、4Aと、振動体3A、4Aに、ワークの搬送方向に沿う方向の圧縮歪み及び引張歪みを含む疎密波を、少なくとも二つのモードで発生させることにより、搬送部31、41に楕円軌道を描く振動を発生させる振動発生部3B、4Bと、を備え、振動発生部3B、4Bを、振動体3A、4Aの上面側および下面側に対して、物理的に略対称となる位置に振動発生部3B、4Bの加振源である圧電素子36、46を配置して構成したことを特徴とする。
【0054】
このようにすれば、振動体3A、4Aに曲げを生じさせるようなモーメントが発生しないため、不要な振動の発生を抑制することができる。この結果、振幅のバラツキが小さく、進行波比が向上して、速度のバラツキの少ない安定した搬送を実現することが可能となる。
【0055】
また、加振源である圧電素子36を底面に配置する構成では、圧電素子36の厚み等の形状によっては、より非対称性が大きくなってしまうため、圧電素子36の形状などの自由な設計が困難であったが、本実施形態によれば上下の対称性が得られるため、設計の自由度が高くなる。このため、例えば圧電素子36を厚くして静電容量を大きくする、などの設計も行い易いものとなる。
【0056】
また、振動体3A、4Aの肉厚内に、振動体3A、4Aの中立軸Nに沿って加振源である圧電素子36を配置している。このため、厚み内に配置するので、圧電素子36の両側が振動体で挟まれ、割れなどの故障が生じづらいものとなる。
【0057】
さらに、振動体3A、4Aを上側振動体3A1(4A1)と下側振動体3A2(4A2)で構成して、加振源である圧電素子36、46を挟むように、上側振動体3A1(4A1)と下側振動体3A2(4A2)を配置している。このため、半割構造を利用して作り易く、電極も引き出し易いものとなる。
【0058】
また、上側振動体3A1(4A1)と下側振動体3A2(4A2)の素材又は形状の全部が同一であり、加振源が略中立軸N上に配置されている。このため、シンプルな構造で物理的対称性を得ることができる。
【0059】
さらに、上側振動体3A1(4A1)と下側振動体3A2(4A2)との物理的な非対称性を、上側振動体3A1(4A1)又は下側振動体3A2(4A2)の一方に他方とは異なる形状を付与することによって補完することもできる。これにより、上側振動体3A1(4A1)と下側振動体3A2(4A2)の形状に違いがあっても、或いは材質や厚みに違いがあっても、形状で補完することで、比較的簡単、適切に物理的な対称性を確保することができる。
【0060】
以上を通じて本実施形態のワーク搬送装置は、疎密波により搬送方向を長軸とする楕円振動に基づく進行波を搬送面に進行波を発生させることができ、ワークの跳躍を抑え、かつ振幅のバラツキが小さい安定した搬送を実現することが可能になる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0062】
例えば、振動体の上側と下側が単一材料である場合は厚み方向中心付近が中立軸であり、ここに加振源を配置すれば物理的対称性が得られるが、多少の非対称があっても、中立軸の位置を厚み方向にずらすことで、物理的対称性が得られるように調整することができる。
【0063】
また、
図11に示すように、上側振動体3A1又は下側振動体3A2の何れかの表面に、例えば樹脂などの密度およびヤング率が十分小さい材料、或いはコーティング等の薄い材料からなる表面層30が設けられていても、中立軸Nの位置や、弾性力、慣性力にほとんど寄与しない場合は、物理的な対称性を保つことができる。勿論、上述したように、必要に応じて中立軸Nをずらし、或いは下側振動体3A2(4A2)等に形状による補完を行って、物理的な対称性を高めてもよい。
【0064】
さらに、
図11に示すように、加振源である圧電素子36を、振動体3Aの内部における上面側へ変位した位置と下面側へ変位した位置に上下対称な位置関係に対をなして配置してもよい。このようにすれば、合成された加振力が中立軸N上に作用するため、物理的対称性を確保しつつ、加振力の増大などを図ることができる。
【0065】
その他、圧電素子を多層構造にしたり、加振源を圧電素子以外で構成するなど、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0066】
また、上側弾性体と下側弾性体とで剛性などの特性に起因して多少厚みが異なっても、上側弾性体と下側弾性体で材質を異ならせることで、その物理的対称性のアンバランスを吸収することができる。
【符号の説明】
【0067】
3A、4A…振動体
31、41…搬送部
3B、4B…振動発生部
3A1、4A1…上側振動体
3A2、4A2…下側振動体
36、46…加振源(圧電素子)
N…中立軸