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特許7564437中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法、中空部材用鋼管の設計装置及び中空部材用鋼管の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法、中空部材用鋼管の設計装置及び中空部材用鋼管の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20241002BHJP
   B21B 19/04 20060101ALI20241002BHJP
   B21C 37/08 20060101ALI20241002BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20241002BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20241002BHJP
   G01N 3/06 20060101ALI20241002BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20241002BHJP
   G06F 119/04 20200101ALN20241002BHJP
【FI】
G06F30/10
B21B19/04
B21C37/08 A
C21D9/08 E
C21D9/08 F
C21D9/50 101A
G01N3/06
G06F30/20
G06F119:04
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020203969
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091253
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】茂手木 優輝
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167565(JP,A)
【文献】特開2005-320575(JP,A)
【文献】国際公開第2007/004487(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/097216(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111368477(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
B21B 19/04
B21C 37/08
C21D 9/08
C21D 9/50
G01N 3/06
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部材の素材である中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法であって、
コンピュータシステムによって、前記中空部材の設計荷重及び設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測し、更に、前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める予測段階と、
コンピュータシステムによって、前記中空部材の予測疲労寿命と、前記中空部材に要求される要求疲労寿命とを比較する比較段階と、
コンピュータシステムによって、前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上になるか否かを判定する判定段階と、
コンピュータシステムによって、前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定された場合に、前記予測段階において前記予測疲労寿命の予測に用いた前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を、前記中空部材用鋼管の設計仕様として決定する決定段階と、を備え、
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合には、コンピュータシステムによって、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更して、前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定されるまで、前記予測段階、前記比較段階及び前記判定段階を行うことを特徴とする中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項2】
前記予測段階は、
前記中空部材の設計荷重及び前記要求疲労寿命を取得する取得ステップと、
前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定ステップと、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測ステップと、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測ステップと、を備える、請求項1に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項3】
前記予測段階は、
前記中空部材の設計荷重、前記要求疲労寿命及び前記中空部材用鋼管の鋼成分を取得する取得ステップと、
前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定ステップと、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測ステップと、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測ステップと、を備える、請求項1に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項4】
前記第2予測ステップは、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状と、前記中空部材の予測疲労寿命との関係を、予め、疲労試験結果または疲労き裂伝播則に基づき求めておき、その関係に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求めるステップである、請求項2または請求項3に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項5】
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更し、前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定されるまで、前記予測段階、前記比較段階及び前記判定段階を行う、請求項3に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項6】
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の鋼成分が、炭素量である、請求項1、請求項2または請求項4に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項7】
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件が、最終熱処理における熱処理温度である、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項8】
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の内面形状が、前記中空部材用鋼管の溶接部内面側のビードカット深さまたは前記中空部材用鋼管の内面の表面粗さのうちの大きい値である、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項9】
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材の前記設計形状が、前記中空部材用鋼管の肉厚t、外径Dまたは外径Dに対する肉厚tの比(t/D)のいずれか1つまたは2つ以上である、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
【請求項10】
中空部材の素材である中空部材用鋼管の設計仕様装置であって、
前記中空部材の設計荷重及び設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測し、更に、前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める予測部と、
前記中空部材の予測疲労寿命と、前記中空部材に要求される要求疲労寿命とを比較する比較部と、
前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上になるか否かを判定する判定部と、
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定された場合に、前記予測部において前記予測疲労寿命の予測に用いた前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を、前記中空部材用鋼管の設計仕様として決定する決定部と、
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に、前記予測部に対して、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更させる再計算部と、を備えることを特徴とする中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項11】
前記予測部は、
前記中空部材の設計荷重及び前記要求疲労寿命を取得する取得部と、
前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定部と、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測部と、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測部と、を備える、請求項10に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項12】
前記予測部は、
前記中空部材の設計荷重、前記要求疲労寿命及び前記中空部材用鋼管の鋼成分を取得する取得部と、
前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定部と、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測部と、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測部と、を備える、請求項10に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項13】
前記第2予測部は、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状と、前記中空部材の予測疲労寿命との関係を、予め疲労試験結果または疲労き裂伝播則に基づき求めておき、その関係に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める、請求項11または請求項12に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項14】
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に、前記再計算部は、前記予測部に対して、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更させる、請求項12に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項15】
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の鋼成分が、炭素量である、請求項10、請求項11または請求項13に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項16】
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件が、最終熱処理における熱処理温度である、請求項10乃至請求項14の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項17】
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の内面形状が、前記中空部材用鋼管の溶接部内面側のビードカット深さまたは前記中空部材用鋼管の内面の表面粗さのうちの大きい値である、請求項10乃至請求項14の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項18】
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材の前記設計形状が、前記中空部材用鋼管の肉厚t、外径Dまたは外径Dに対する肉厚tの比(t/D)のいずれか1つまたは2つ以上である、請求項10乃至請求項14の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
【請求項19】
請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法によって決定された、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材用鋼管を製造する、中空部材用鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法、中空部材用鋼管の設計装置及び中空部材用鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、自動車の排気ガス規制が強化され、燃費向上のために自動車車体の軽量化が推進されている。車体の軽量化の一つの方法として、棒鋼を用いた中実部品を、鋼管を用いた中空部品(以下、中空部材という場合がある)に変更することが検討されている。
【0003】
例えば、コーナリング時に車体のローリングを抑制したり、高速時の走行安定性を向上させるスタビライザーや、ドライブシャフト、ラックバー、コイルばね等の足回り部品において、棒鋼を用いた中実部品から、鋼管を用いた中空部材への変更による、車体の軽量化が検討されている。
【0004】
中空部材に求められる主な基本特性は、耐久性、静的強度、剛性、加工性、耐食性等がある。特に耐久性(以下、疲労寿命、疲労特性とも言う)については、中空部材は鋼管内面にショットピーニング等の強化処理を施せないこと、内表面の軽微な凹みが存在すること等から、鋼管内面からの疲労き裂発生・伝播に耐久性が支配されるケースが多い。このため、中空部材の内表面の耐久性確保は中空部材特有の大きな課題となっている。
【0005】
このようなことを背景に、例えば、特許文献1や特許文献2では、疲労強度を確保するための一つの手段として、鋼管内表面の疵深さを規定し、疲労強度の優れた高強度ばね用中空シームレス鋼管が開示されている。
【0006】
特許文献1、2では、一定の疲労強度向上効果が得られるものの、部品設計(設計荷重、部品の設計形状)に応じて要求される疲労寿命を満足する鋼管の外径、肉厚、化学成分、内面粗さ等の鋼管仕様を決定することは困難である。そのため、部品設計に応じた最適な鋼管仕様を設定することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5324311号公報
【文献】特許第6018394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、部品設計に応じて要求される疲労寿命を満足する中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法、中空部材用鋼管の設計装置及び中空部材用鋼管の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、中空部材の疲労寿命と鋼管の設計仕様との関係に着目し、鋭意検討した。その結果、以下のことが分かった。
(i)溶接鋼管において、溶接ビードに対するビードカットの深さが大きいと、疲労特性が劣化する。また、シームレス鋼管及び溶接鋼管において、内面の表面粗さが大きいと、疲労特性が劣化する。以下、ビードカット深さまたは内面の表面粗さを内面形状という場合がある。
(ii)内面形状による疲労破壊は、中空部材の内面からのき裂の発生・伝播である。
(iii)鋼中に存在するMnSなどの延伸化した介在物によっても疲労破壊が助長されるが、このような介在物起点の破壊は鋼表面ではなく、内部からの破壊である。
(iv)上記の鋼内部からの介在物起点に由来する破壊は、内面形状(ビードカット深さまたは内面の表面粗さ)による中空部材内面からのき裂発生による破壊に比べて、疲労特性は優れていることから、疲労特性の向上は介在物制御よりも内面形状の制御が有効である。
(v)鋼中の炭素量(C量)と鋼の熱処理条件によって決まる鋼の降伏応力、引張強度、硬さは中空部材の疲労寿命に影響し、その中でも硬さが一定値を超えると疲労寿命が低下する。
これらのことから、本発明者らは、中空部材の素材である中空部材用鋼管の内面形状、肉厚または硬さが疲労寿命に大きく影響することを見出した。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] 中空部材の素材である中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法であって、
前記中空部材の設計荷重及び設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測し、更に、前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める予測段階と、
前記中空部材の予測疲労寿命と、前記中空部材に要求される要求疲労寿命とを比較する比較段階と、
前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上になるか否かを判定する判定段階と、
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定された場合に、前記予測段階において前記予測疲労寿命の予測に用いた前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を、前記中空部材用鋼管の設計仕様として決定する決定段階と、を備え、
前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合には、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更して、前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定されるまで、前記予測段階、前記比較段階及び前記判定段階を行うことを特徴とする中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[2] 前記予測段階は、
前記中空部材の設計荷重及び前記要求疲労寿命を取得する取得ステップと、
前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定ステップと、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測ステップと、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測ステップと、を備える、[1]に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[3] 前記予測段階は、
前記中空部材の設計荷重、前記要求疲労寿命及び前記中空部材用鋼管の鋼成分を取得する取得ステップと、
前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定ステップと、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測ステップと、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測ステップと、を備える、[1]に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[4] 前記第2予測ステップは、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状と、前記中空部材の予測疲労寿命との関係を、予め、疲労試験結果または疲労き裂伝播則に基づき求めておき、その関係に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求めるステップである、[2]または[3]に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[5] 前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更し、前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定されるまで、前記予測段階、前記比較段階及び前記判定段階を行う、[3]に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[6] 前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の鋼成分が、炭素量である、[1]、[2]または[4]に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[7] 前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件が、最終熱処理における熱処理温度である、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[8] 前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の内面形状が、前記中空部材用鋼管の溶接部内面側のビードカット深さまたは前記中空部材用鋼管の内面の表面粗さのうちの大きい値である、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[9] 前記判定段階において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材の前記設計形状が、前記中空部材用鋼管の肉厚t、外径Dまたは外径Dに対する肉厚tの比(t/D)のいずれか1つまたは2つ以上である、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法。
[10] 中空部材の素材である中空部材用鋼管の設計仕様装置であって、
前記中空部材の設計荷重及び設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測し、更に、前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める予測部と、
前記中空部材の予測疲労寿命と、前記中空部材に要求される要求疲労寿命とを比較する比較部と、
前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上になるか否かを判定する判定部と、
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命以上と判定された場合に、前記予測部において前記予測疲労寿命の予測に用いた前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を、前記中空部材用鋼管の設計仕様として決定する決定部と、
前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に、前記予測部に対して、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更させる再計算部と、を備えることを特徴とする中空部材用鋼管の設計装置。
[11] 前記予測部は、
前記中空部材の設計荷重及び前記要求疲労寿命を取得する取得部と、
前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定部と、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測部と、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測部と、を備える、[10]に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[12] 前記予測部は、
前記中空部材の設計荷重、前記要求疲労寿命及び前記中空部材用鋼管の鋼成分を取得する取得部と、
前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状を設定する設定部と、
前記中空部材の設計荷重及び前記設計形状に基づき前記中空部材の使用時における応力状態を予測する第1予測部と、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める第2予測部と、を備える、[10]に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[13] 前記第2予測部は、
前記応力状態、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状と、前記中空部材の予測疲労寿命との関係を、予め疲労試験結果または疲労き裂伝播則に基づき求めておき、その関係に基づき、前記中空部材の予測疲労寿命を求める、[11]または[12]に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[14] 前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に、前記再計算部は、前記予測部に対して、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更させる、[12]に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[15] 前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の鋼成分が、炭素量である、[10]、[11]または[13]に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[16] 前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管製造時の熱処理条件が、最終熱処理における熱処理温度である、[10]乃至[14]の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[17] 前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材用鋼管の内面形状が、前記中空部材用鋼管の溶接部内面側のビードカット深さまたは前記中空部材用鋼管の内面の表面粗さのうちの大きい値である、[10]乃至[14]の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[18] 前記判定部において前記予測疲労寿命が前記要求疲労寿命未満と判定された場合に変更する際の、前記中空部材の前記設計形状が、前記中空部材用鋼管の肉厚t、外径Dまたは外径Dに対する肉厚tの比(t/D)のいずれか1つまたは2つ以上である、[10]乃至[14]の何れか1項に記載の中空部材用鋼管の設計装置。
[19] [1]乃至[9]の何れか一項に記載の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法によって決定された、前記中空部材用鋼管の鋼成分、前記中空部材用鋼管の製造時の熱処理条件、前記中空部材用鋼管の内面形状及び前記中空部材の前記設計形状に基づき、前記中空部材用鋼管を製造する、中空部材用鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、部品設計に応じた中空部材用鋼管の仕様を設計することが可能となる。例えば軽量化率を重視する場合、要求疲労寿命を満たす最も薄肉の鋼管を提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態である中空部材用鋼管の設計装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態である中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法を説明するフローチャートである。
図3】部品に作用するトルクとせん断応力との関係を肉厚/外径比毎に示したグラフである。
図4】内面形状と疲労寿命との関係を肉厚/外径比毎に示したグラフである。
図5】肉厚/外径比と軽量化率を示したグラフである。
図6】内面形状と疲労寿命との関係を肉厚/外径比毎に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
例えば、スタビライザー、ドライブシャフト、ラックバー、コイルばね等の自動車の足回り部品として、中空部材が用いられる。中空部材には、これらの用途毎に、適切な疲労寿命を有することが要求される。中空部材は一般に、中空部材用鋼管を加工することによって製造される。そのため、所定の疲労寿命が保証された中空部材を得るためには、中空部材用鋼管の設計仕様を適切に決定する必要がある。
【0014】
ここで、中空部材用鋼管としては、溶接鋼管またはシームレス鋼管が挙げられる。溶接鋼管は、一般に、所定の鋼成分、板厚、表面粗さを有する鋼板を中空筒状に成形し、溶接することによって製造される。更に、溶接後に、強度若しくは硬度の調整のため、熱処理が行われる場合がある。溶接部には、溶融金属が盛り上がったまま凝固した凸状の溶接ビードが形成される場合がある。また、シームレス鋼管は、一般に、所定の鋼成分を有するビレットを加熱し、その中心を工具で押し広げて中空筒状に成形することによって製造される。更に、成形後に、強度若しくは硬度の調整のため、熱処理が行われる場合がある。
【0015】
ここで、特に溶接鋼管の内面に残された溶接ビードは、中空部材において疲労破壊の起点になり得る。そのため、中空部材用鋼管として溶接鋼管を製造する際には、溶接施工後にビードカット加工を行い、溶接ビードを除去して内面形状を整える必要がある。なお、ビードカット加工後の中空部材用鋼管の溶接部には、溶接ビードの除去に伴い凹部が形成される場合がある。
【0016】
また、中空部材用鋼管の内面の表面粗さが大きい場合にも、中空部材において疲労破壊の起点になり得る。そのため、溶接鋼管の場合は、素材である鋼板の表面粗さを小さくする必要があるが、そのためには鋼板を製造する際に用いる圧延ロールを適切に選択するか、あるいは、その他の製造条件を調整する必要があり、製造プロセスが複雑化してコストが増加する場合がある。また、シームレス鋼管の場合は、中空筒状に成形する際の工具の選択、成形方法の選択、成形後の内面処理等によって、表面粗さを小さくする必要があり、製造プロセスが複雑化してコストが増加する場合がある。従って、製造プロセスの複雑化を極力避けながらも、疲労寿命の要求水準に見合った表面粗さに調整する必要がある。
【0017】
更に、中空部材の疲労寿命は、中空部材用鋼管の肉厚や硬さにも左右される。硬さは、主に、鋼成分や、鋼に対する熱処理条件などに左右されるが、この場合も製造コストが増加することがある。また、肉厚が小さいほど、中空部材の軽量化に貢献する。従って、疲労寿命の要求水準に見合った肉厚や硬さに調整する必要がある。
【0018】
以上のように、所定の要求疲労寿命を満たす中空部材を得るために必要な、中空部材用鋼管の設計仕様としては、中空部材用鋼管の鋼成分、肉厚、鋼管内面の表面粗さ、鋼管内面のビードカット深さ(以下、表面粗さまたはビードカット深さの最大値を表面形状という場合がある。)が挙げられる。本実施形態の中空部材用鋼管の設計装置及び設計仕様の決定方法は、中空部材に対する要求疲労寿命に応じて、中空部材用鋼管の設計仕様を直ちに求めることを可能とするものである。また、決定した設計仕様を中空部材の製造者や需要者に速やかに提示できるようにするものである。
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る中空部材用鋼管の設計装置、設計仕様の決定方法、および中空部材用鋼管の製造方法について、図1~6を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る設計装置(以下、単に「設計装置」と言う場合がある)の概略構成を示す図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る設計装置10は、予測部1と、比較部2と、判定部3と、決定部4と、再計算部5とを備える。更に、肉厚設計装置10には、表示部6が備えられていてもよい。予測部1には、取得部11と、設定部12と、第1予測部13と、第2予測部14が備えられていてもよい。以下、予測部1、比較部2、判定部3、決定部4及び再計算部5、表示部6の機能を説明する。
【0021】
なお、予測部1、比較部2、判定部3、決定部4及び再計算部5の各部の機能は、例えば、中央演算装置、入力装置、出力装置、記憶装置等が備えられたコンピュータシステムにおける、中央演算装置の機能として実現されてもよい。また、表示部6は、コンピュータシステムにおける、出力装置の機能として実現されてもよい。本実施形態の設計装置が実現されるコンピュータシステムは、更に上位のビジネスコンピュータシステムに接続されていてもよく、また、中空部材用鋼管の製造設備を制御するプロセスコンピュータに接続されていてもよい。更には、本実施形態の設計装置が実現されるコンピュータシステムに備えられる入力装置及び出力装置は、無線通信回線を介してコンピュータシステムに接続されていてもよい。
【0022】
(予測部1)
予測部1は、中空部材の設計荷重及び設計形状に基づき中空部材の使用時における応力状態を予測し、更に、応力状態、中空部材用鋼管の鋼成分、中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、中空部材用鋼管の内面形状及び中空部材の設計形状に基づき、中空部材の予測疲労寿命を求める機能を有する。この機能は、取得部11、設定部12、第1予測部13及び第2予測部14によって実現される。以下、これらを詳細に説明する。
【0023】
なお、予測部1において予測する応力状態は、中空部材の使用時における最大応力、最小応力または平均応力のいずれかをいう。疲労寿命は、最大応力、最小応力、平均応力に支配されるので、中空部材の予測疲労寿命を求める際には、これらの何れかを予測部1において予測する必要がある。
【0024】
取得部11は、中空部材の設計荷重及び要求疲労寿命を取得する機能を有する。また、取得部11は、中空部材の設計荷重及び要求疲労寿命に加えて、中空部材用鋼管の鋼成分を取得してもよい。
【0025】
取得11にて取得される中空部材の設計荷重及び要求疲労寿命は、例えば、中空部材の製造者または需要者から提供され、コンピュータシステムの入力装置を介して取得部11に入力されるか、あるいは、上位のビジネスコンピュータから取得部11に送信される。中空部材の設計荷重は、取得部11から第1予測部13に出力される。また、要求疲労寿命は、取得部11から比較部2に出力される。
【0026】
中空部材の設計荷重(以下、単に「設計荷重」と言う場合がある)とは、中空部材の使用時に中空部材の作用する荷重の設計値である。例えば、中空部材がドライブシャフトまたはスタビライザーである場合の設計トルク値や、中空部材がコイルばねである場合の耐荷重量などが挙げられる。
【0027】
また、中空部材の要求疲労寿命(以下、単に「要求疲労寿命」と言う場合がある)は、中空部材に求められる疲労寿命の保証値であり、中空部材の用途に応じて設定される。例えば、中空部材がドライブシャフト、スタビライザーまたはコイルばねである場合に要求されるねじり疲労寿命が挙げられる。
【0028】
更に、中空部材の製造者または需要者から、中空部材用鋼管の鋼成分(以下、単に「鋼成分」と言う場合がある)が指定される場合がある。特に、中空部材鋼管の硬さに影響する成分として、鋼の炭素量を指定される場合がある。従って、取得部11において鋼成分を取得させてもよい。鋼成分は、設計荷重及び要求疲労寿命と同様に、コンピュータシステムの入力装置を介して取得部11に入力されるか、あるいは、上位のビジネスコンピュータから取得部11に送信される。取得された鋼成分は、取得部11から第2予測部14に出力される。なお、入力対象となる鋼成分は炭素量に限らず、他の化学成分であってもよい。
【0029】
また、取得部11には、中空部材用鋼管の他の設計情報が入力されてもよい。他の設計情報としては、例えば、中空部材の適用部品(スタビライザー、ドライブシャフト等)に関する情報が挙げられる。
【0030】
次に、設定部12は、中空部材用鋼管の鋼成分、中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、中空部材用鋼管の内面形状及び中空部材の設計形状を設定する機能を有する。また、取得部11において中空部材用鋼管の鋼成分を取得する場合は、設定部12は、鋼成分以外の、中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、中空部材用鋼管の内面形状及び中空部材の設計形状を設定する機能を有する。
【0031】
これら、中空部材用鋼管の鋼成分、中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、中空部材用鋼管の内面形状は、初期値として、コンピュータシステムの入力装置を介して設定部12に入力されるか、あるいは、上位のビジネスコンピュータから設定部12に送信される。なお、中空部材用鋼管の鋼成分については、中空部材の製造者または需要者から指定されなかった場合に、設定部12に入力される。
【0032】
また、中空部材の設計形状は、中空部材の製造者または需要者から提供され、入力装置を介して設定部12に入力されるか、あるいは、上位のビジネスコンピュータから設定部12に送信される。
【0033】
設定部12に入力された熱処理条件、内面形状及び設計形状は、第2予測部14に出力される。
【0034】
中空部材用鋼管製造時の熱処理条件(以下、単に「熱処理条件」と言う場合がある)は、中空部材用鋼管の硬さに影響するパラメータであり、例えば、中空部材用鋼管の最終熱処理時の均熱温度(熱処理温度)が挙げられる。特に、均熱温度(熱処理温度)は、中空部材用鋼管の硬さに大きく影響するパラメータなので、これを熱処理条件としてもよい。また、均熱温度(熱処理温度)とともに、均熱時間を熱処理条件に含めてもよい。
【0035】
中空部材用鋼管の内面形状(以下、単に「内面形状」と言う場合がある)は、ビードカット加工によって溶接部に形成された凹部の深さまたは鋼管内面の表面粗さのうちの最大値である。表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaであってもよい。これらが大きくなると、中空部材の疲労起点になり得るので、中空部材用鋼管の設計仕様とする。なお、シームレス鋼管は製造時にビードカット加工を行わないため、中空部材用鋼管がシームレス鋼管の場合の内面形状は、内面の表面粗さとしてよい。
【0036】
溶接鋼管において、ビードカット加工による凹部の深さ(ビードカット深さ)は、ビードカット加工の条件によって設定できる。また、鋼管内面の表面粗さは、鋼板製造時の圧延ロールのロール面の表面粗さによって設定できる。従って、中空部材用鋼管の内面形状として、ビードカット加工時の条件または鋼板製造時の圧延ロールのロール面の表面粗さを用いてもよい。
【0037】
また、シームレス鋼管において、内面の表面粗さは、加熱したビレットを中空筒状に成形する際の工具の選択、成形方法の選択、成形後の内面処理等によって設定できる。従って、中空部材用鋼管の内面形状として、これらの条件を用いてもよい。
【0038】
中空部材の設計形状(以下、単に「設計形状」と言う場合がある)は、例えば、中空部材の肉厚t、外径D及びこれらの比t/Dのいずれか1種または2種以上である。
【0039】
ここで、取得部11にて取得される設計荷重等のパラメータは、中空部材用鋼管の設計仕様を決定する際の前提条件に相当するパラメータである。従って、取得部11にて取得される設計荷重等のパラメータは、後述の再計算部5の指示によって変更されることはない。一方、設定部12にて取得される熱処理条件等のパラメータは、後述の再計算部5の指示によって変更され得るパラメータであるので、設定部12に入力されるパラメータは初期値として入力される。
【0040】
次に、第1予測部13は、取得部11に入力された設計荷重及び設計形状に基づき、中空部材の使用時における応力状態を予測する機能を有する。第1予測部13において予測された応力状態は、第2予測部14に出力される。第1予測部13の機能の説明は、中空部材の設計仕様の決定方法の説明において詳細に述べる。
【0041】
第2予測部14は、第1予測部13において予測した応力状態と、取得部11または設定部12において入力された鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状とに基づき、中空部材の予測疲労寿命を求める機能を有する。求めた予測疲労寿命は、比較部2に出力される。
【0042】
第2予測部14は、予測疲労寿命を求める機能として、予め求めた疲労試験結果または疲労き裂伝播則に基づいて、予測疲労寿命を求める機能であってもよい。これらの機能の説明は、中空部材の設計仕様の決定方法の説明において詳細に述べる。
【0043】
また、第1予測部13または第2予測部14のいずれか一方に、中空部材の肉厚tと外径Dとの比t/Dより、中空部材の軽量化率を求める機能が備えられてもよい。軽量化率(%)は、中空部材用鋼管と同一の長さ、外形を有する中実丸棒材の質量を100とした場合の、中空部材用鋼管の質量の割合であり、(中実丸棒材の質量-中空部材用鋼管の質量)/中実丸棒材の質量×100で計算される。計算させた軽量化率は、後述するように、表示部6に表示させてもよい。
【0044】
(比較部2)
比較部2は、第2予測部14において求められた中空部材の予測疲労寿命と、取得部11において取得された中空部材の要求疲労寿命とを比較する機能を有する。比較部2の機能の説明は、中空部材の設計仕様の決定方法の説明において詳細に述べる。
【0045】
(判定部3)
判定部3は、予測疲労寿命が要求疲労寿命以上になるか否かを判定する機能を有する。判定部3の機能は、中空部材の設計仕様の決定方法の説明において詳細に述べる。
【0046】
(決定部4)
決定部4は、判定部3において予測疲労寿命が、要求疲労寿命以上と判定された場合に、予測部1において予測疲労寿命の予測に用いた鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状を、中空部材用鋼管の設計仕様として決定する機能を有する。決定部4の機能の説明は、中空部材の設計仕様の決定方法の説明において詳細に述べる。
【0047】
(再計算部5)
再計算部5は、判定部3において予測疲労寿命が要求疲労寿命未満と判定された場合に、予測部1に対して、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更させる機能を有する。再計算部5の機能の説明は、中空部材の設計仕様の決定方法の説明において詳細に述べる。
【0048】
(表示部6)
表示部6は、決定部4において決定した中空部材用鋼管の設計仕様を表示させる。表示部6には、第1予測部13または第2予測部14において求めた軽量化率を表示させてもよい。
【0049】
(設計仕様の決定方法)
次に、本実施形態の中空部材用鋼管の設計仕様の決定方法(以下、単に「決定方法」と言う場合がある)について、図1及び図2を参照して説明する。
【0050】
本実施形態の決定方法は、図2に示すように、中空部材の予測疲労寿命を求める予測段階ST1~ST4と、中空部材の予測疲労寿命と中空部材に要求される要求疲労寿命とを比較する比較段階ST5と、予測疲労寿命が要求疲労寿命以上になるか否かを判定する判定段階ST6と、判定段階ST6において予測疲労寿命が要求疲労寿命以上と判定された場合に、中空部材用鋼管の設計仕様として決定する決定段階ST7とを備える。また、本実施形態の決定方法では、判定段階ST6において予測疲労寿命が要求疲労寿命未満と判定された場合には、再計算段階ST8に進み、予測疲労寿命が要求疲労寿命以上と判定されるまで、予測段階ST1~ST4、比較段階ST5及び判定段階ST6を繰り返し行う。以下、各段階について説明する。
【0051】
(予測段階ST1~ST4)
図2に示すように、予測段階では、取得ステップST1、設定ステップST2、第1予測ステップST3及び第2予測ステップST4を順次行うことにより、中空部材の予測疲労寿命を求める。以下、各ステップについて説明する。
【0052】
取得ステップST1は、図1の取得部11において、中空部材の製造者または需要者から提供された中空部材の設計荷重及び要求疲労寿命を取得する。具体的には、例えば、中空部材の設計荷重及び要求疲労寿命を、コンピュータシステムの入力装置を介して取得部11に入力するか、あるいは、上位のビジネスコンピュータから取得部11に送信させればよい。また、取得ステップST1では、中空部材用鋼管の他の設計情報、例えば、中空部材の適用部品(スタビライザー、ドライブシャフト等)に関する情報を、取得部11に入力してもよい。取得部11は、中空部材の設計荷重を第1予測部13に出力する。また、取得部11は、要求疲労寿命を比較部2に出力する。
【0053】
次に、設定ステップST2は、図1の設定部12において、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状を設定する。これらは、入力装置から設定部12に入力するか、あるいは、上位のビジネスコンピュータから設定部12に送信すればよい。
【0054】
中空部材用鋼管の鋼成分、中空部材用鋼管製造時の熱処理条件、中空部材用鋼管の内面形状は、初期値を入力すればよい。初期値は例えば、中空部材用鋼管の設計仕様として標準的な設計値を挙げることができる。また、中空部材の要求疲労寿命を満足するための設計仕様を予め予想可能な場合は、その予想値を初期値とすることができる。
【0055】
また、設定部12に入力する設計形状は、中空部材の製造者または需要者から提供されたものとする。設計形状としては、上述したように、中空部材の肉厚t、外径D及びこれらの比t/Dのいずれか1つまたは2つ以上を用いる。
【0056】
次に、第1予測ステップST3は、取得ステップST1及び設定ステップST2においてそれぞれ入力された中空部材の設計荷重及び設計形状に基づき、図1の第1予測部13において、中空部材の使用時における応力状態を予測する。応力状態は、中空部材の使用時における最大応力、最小応力または平均応力のいずれかであればよい。
【0057】
応力状態の予測方法は、具体的には、有限要素解析法や材料力学に基づく方法が挙げられる。また、これらに基づいて算出した応力状態を、t/D比の値に応じた、荷重と応力状態の関係としてデータベース化しておき、このデータベースに基づき予測する方法も挙げられる。応力状態の算出方法については種々あるが、特に制限はない。
【0058】
応力状態に関する上記のデータベースの例として、図3には、応力状態の一種としてせん断応力を求める場合に利用するグラフを示す。図4には、t/D比に応じた、内面欠陥と予測疲労寿命の関係を示している。中空部材の設計の一条件である設計荷重、ここでは中空部材がドライブシャフトである場合の設計トルク値を決めると、t/D毎に、中空部材におけるせん断応力(応力状態)を求めることができる。
【0059】
次に、第2予測ステップST4は、図1の第2予測部14において、第1予測ステップST3にて予測した応力状態と、設定ステップST2にて入力した鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状とに基づき、中空部材の予測疲労寿命を求める。予測疲労寿命の算出方法に特に制限はないが、例えば、予め実施した疲労試験結果に基づく算出方法や、疲労き裂伝播則に基づいた算出方法を用いることができる。
【0060】
疲労試験結果に基づく算出方法では、応力状態、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状と、中空部材の予測疲労寿命との関係を、予め、疲労試験の結果に基づき求めておき、その関係に基づき、予測疲労寿命を求める。疲労試験では、応力状態、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状を様々に変化させた場合の中空部材の疲労寿命を測定しておく。そして、応力状態、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状と、中空部材の疲労寿命との関係をデータベースを構築しておく。構築したデータベースは、例えば、設計装置を構成するコンピュータシステムの記憶装置に格納しておく。そして、予測疲労寿命を求める際には、第1予測ステップST3にて予測した応力状態と、設定ステップST2にて入力した鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状とに対応する疲労寿命を、予め作成し格納したデータベースに基づいて求め、求められた疲労寿命を予測疲労寿命とする。
【0061】
また、疲労き裂伝播則に基づいた算出方法では、応力状態、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状と、中空部材の予測疲労寿命との関係を、予め、疲労き裂伝播則に基づき求めておき、その関係に基づき、予測疲労寿命を求める。疲労き裂伝播則については特に制限はなく、Paris則やParis-Elber則を用いることができる。
【0062】
予測疲労寿命の推定にParis-Elber則を用いる場合は、下記(A)式に示すように、有効応力拡大係数範囲ΔKeff、材料パラメータC,m、初期き裂長さa0、最終き裂長さafを用いる。有効応力拡大係数範囲ΔKeffは、中空部材に作用する応力状態、き裂開口応力およびき裂伝播形態から求まる。材料パラメータC,mは、鋼成分及び熱処理条件から予測される中空部材の硬さで決まる。初期き裂長さa0は、内面形状で決まる。また、最終き裂長さafは肉厚tで決まる。Nfは予測疲労寿命である。
【0063】
Nf=F(ΔKeff,C,m,a0,af) …(A)式
【0064】
図4には、t/D比毎に、予測疲労寿命と内面形状との関係を、上記(A)式に基づいて導出したグラフの一例を示す。図4に示すグラフは、中空部材の設計の一条件である設計荷重として、中空部材がドライブシャフトである場合の設計トルク値が1000000Nmmであり、中空部材の硬さがビッカース硬度で500HVである場合のグラフである。図4より、設計形状(t/D比)、内面形状、設計荷重(トルク値)及び硬さ(鋼成分及び熱処理条件)から、予測疲労寿命が求められる。
【0065】
また、第1予測ステップST3または第2予測ステップST4のいずれか一方において、中空部材の肉厚tと外径Dの比t/Dから、中空部材の軽量化率を求めることが好ましい。軽量化率(%)は、上述したように、第1予測部13または第2予測部14の機能によって求められる。図5に、軽量化率とt/Dの関係を示す。軽量化率は、外径Dを一定とした場合、肉厚tが小さくなるにつれて大きな値になる。中空部材の製造者または需要者からは、中空部材の軽量化率の目標値が示される場合がある。この場合は、軽量化率を達成できる程度の肉厚tを設定することが好ましい。例えば、軽量化率を約15%と設定する場合、図5から、鋼管の肉厚tと外径Dとの比t/Dが0.30程度になるように設計形状を設定することができる。
【0066】
(比較段階ST5)
次に、比較段階ST5は、図1の比較部2において、先の第2予測ステップST4において求めた予測疲労寿命と、取得ステップST1において取得した要求疲労寿命とを比較する。具体的には、予測疲労寿命の長さと要求疲労寿命の長さとを比較する。
【0067】
(判定段階ST6)
次に、判定段階ST6は、図1に示す判定部3において、先の比較ステップST5において予測疲労寿命の長さと要求疲労寿命の長さとを比較した結果が、予測疲労寿命が要求疲労寿命以上になるかどうかを判定する。予測疲労寿命が要求疲労寿命以上と判定した場合は決定段階ST7に進み、予測疲労寿命が要求疲労寿命より短い判定した場合は再計算段階ST8に進む。
【0068】
(決定段階ST7)
先の判定段階ST6において予測疲労寿命が要求疲労寿命以上と判定された場合に、決定段階ST7に進む。決定段階ST7は、図1に示す決定部4において、先の予測段階ST1~ST4において予測疲労寿命の予測に用いた鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状を、中空部材用鋼管の設計仕様として決定する。先の取得ステップST1及び設定ステップST2では、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状を初期値として扱っていたが、この決定段階ST7において、これらの初期値を中空部材用鋼管の設計仕様とする決定を行う。
【0069】
決定段階ST7において決定された中空部材用鋼管の設計仕様は、図1の表示部6において表示させてもよい。これにより、決定された中空部材用鋼管の設計仕様を、中空部材の製造者や需要者に速やかに提示することが可能になる。
【0070】
(再計算段階ST8)
先の判定段階ST6において、予測疲労寿命が要求疲労寿命より短いと判定された場合は、再計算段階ST8に進む。再計算段階ST8では、図1に示す再計算部5において、設定部12に入力されたパラメータ(鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状)のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更するように、予測部1に指示を発する。指示を受けた予測部1では、設定部12に入力された鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更した上で、予測段階ST1~4、比較段階ST5及び判定段階ST6を順次行う。なお、再計算段階ST8に続いて行う予測段階では、取得ステップST1を省略してもよい。
【0071】
再計算段階ST8において、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更するように、予測部1に指示を発する場合は、設定部12に対してより予測疲労寿命がより長くさせるようにパラメータを再設定させる。設定部12において、例えば、鋼管の肉厚tと外径Dとの比t/Dが0.30になるように外径、肉厚の初期値が設定されていた場合には、t/D比が0.35になるように再設定する。これは、図4に示すように、t/D比が高いほど予測疲労寿命が長くなる傾向にあるためである。また、硬さを高めるために、化学成分の炭素等量を上げて熱処理温度を低くすることを指示してもよく、内面形状を小さくすることを指示してもよい。
【0072】
再計算部5の指示によって設定部12において鋼成分等のパラメータの再設定を行う場合は、例えば、再設定内容を予めプログラムしておき、そのプログラムに沿ってパラメータの再設定を自動的に行わせてもよい。また、設計装置10の操作者に対して、設計装置10の表示部6に再設定が必要である旨を表示することで操作者によるパラメータの再設定を促し、操作者によってパラメータを再入力させてもよい。
【0073】
以上説明した決定方法では、取得ステップST1において設計荷重及び要求疲労寿命を取得し、設定ステップST2において鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状を設定したが、本発明はこれに限らず、取得ステップST1において設計荷重及び要求疲労寿命に加えて鋼成分を取得し、設定ステップST2において熱処理条件、内面形状及び設計形状を設定してもよい。この場合は、再計算段階ST8における再設定の変更対象から鋼成分を外し、熱処理条件、内面形状及び設計形状のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更すればよい。
【0074】
以下、図1図6を参照しつつ、本実施形態の設計方法の具体例を説明する。
この具体例では、要求疲労寿命が30万回である中空部材用の鋼管の設計仕様の決定方法を例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0075】
まず、前提として、鋼管の設計仕様に応じた予測疲労寿命を導出しておく。例えば、図6に示すような、予測疲労寿命と内面形状との関係を求めておく。この関係は、設計装置10の記憶装置に格納しておくとよい。図6は、図4の場合と同様に、中空部材の設計の一条件である設計荷重として、中空部材がドライブシャフトである場合の設計トルク値が10Nmmであり、中空部材の硬さがビッカース硬度で500HVである場合のグラフである。このようなグラフを、設計荷重毎及び硬さ毎に多数用意しておく。
【0076】
まず、予測段階の取得ステップST1として、図1に示す設計装置10の取得部11において、中空部材の設計荷重(本例ではトルク値として10Nmm)及び要求疲労寿命(本例では30万回)を取得させる。
【0077】
次に、予測段階の設定ステップST2として、図1に示す設計装置10の設定部12において、鋼成分、熱処理条件、内面形状、設計形状(外径D、肉厚t)を設定する。本実施例では、鋼管の肉厚tと外径Dとの比t/Dが0.20になるように外径、肉厚の初期値を設定する。例えば外径が40mmであれば肉厚は8mmとする。
【0078】
次に、予測段階の第1予測ステップST3として、第1予測部13において、中空部材用鋼管の外径D及び肉厚tと、中空部材の設計荷重(トルク値)に基づき、中空部材用鋼管に作用するせん断応力(応力状態)を算出するとともに、軽量化率を求める。図3に示すように、トルク値を10Nmmとすると、t/D=0.20より、せん断応力は約440MPaとなる。
【0079】
次に、予測段階の第2予測ステップST4として、第2予測部14において、予測疲労寿命を求める。外径Dが40mm、t/D比が0.20、内面形状が30μmの条件では、予測疲労寿命は図6の点Aの位置となり、これは、要求疲労寿命30万回よりも小さな値になる。
【0080】
次に、比較段階ST5及び判定段階ST6として、比較部2及び判定部3において、予測疲労寿命と要求疲労寿命とを比較し、予測疲労寿命が要求疲労寿命以上になるかどうかを判定する。本例の予測疲労寿命は、図6の点Aの位置となり、これは、要求疲労寿命(30万回)未満となる。よって、再計算部5における再計算段階ST8に進む。
【0081】
上述のように、初期値として設定された鋼管の設計仕様では、予測疲労寿命が要求疲労寿命未満になる。そこで、再計算部5における再計算段階ST8では、予測部1に対して、疲労寿命が向上するように設計仕様の変更を指示する。本例においては、鋼管の肉厚tと外径Dとの比t/Dが0.25になるように肉厚を再設定するように再計算部5が設定部12に指示する。外径が40mmであることから、肉厚は10mmとなる。
【0082】
そして、再び、第1予測部13において第1予測ステップST3を行い、変更された外径D及び肉厚tに基づき、中空部材用鋼管のせん断応力を再計算するとともに、軽量化率を求める。この時のせん断応力は340MPaとなる。
【0083】
次に、第2予測部14においてにおいて第2予測ステップST4を行い、予測疲労寿命を求める。外径Dが40mm、t/D比が0.25、内面形状が30μmの条件では、予測疲労寿命は図6の点Bの位置となり、これは、要求疲労寿命(30万回)よりも大きな値になる。
【0084】
次に、比較段階ST5及び判定段階ST6として、比較部2及び判定部3において、予測疲労寿命と要求疲労寿命とを比較し、予測疲労寿命が要求疲労寿命以上になるかどうかを判定する。予測疲労寿命は、図6の点Bの位置であり、要求疲労寿命(30万回)よりも大きな値である。よって、決定部4における決定段階ST7に進む。
【0085】
決定部4における決定段階ST7では、再計算部5によって再設定された鋼管仕様によって要求疲労寿命を満たすことができるとして、当該設計仕様を中空部材用鋼管の設計仕様に決定する。
【0086】
なお、図6には、t/Dを0.20のまま、内面処理条件を変更して、内面形状を30μmから10μmに変更した場合の予測疲労寿命を、点Cとして示している。このように、要求疲労寿命を満たす仕様は様々であり、部品設計で得られる様々な情報を考慮することで最適な仕様を決めることができる。具体的には、軽量化率を重視する場合は、t/Dを変えずに内面処理条件の変更により内面欠陥を小さくすればよく、内面処理条件を変更しない場合は、t/Dを上げて厚肉化すればよい。
【0087】
また、本例においては、t/Dの値が0.05ずつ増加するように肉厚を再設定しているが、0.1ずつ増加させてもよいし、肉厚が0.1mmずつ増加するように設定してもよい。
【0088】
次に、本実施形態の中空部材用鋼管の製造方法を説明する。本実施形態の中空部材用鋼管の製造方法では、先の決定段階ST7において決定された中空部材用鋼管の設計仕様に基づいて、中空部材用鋼管を製造する。中空部材用鋼管として溶接鋼管を製造する場合は、まず、設計仕様通りの鋼成分を有する鋼板を製造する。鋼板の表面は、設計仕様通りの表面形状が得られる表面粗さとする。また、鋼板の板厚は、設計仕様における肉厚tに対応する板厚とする。この鋼板を筒状に成形し、溶接することによって素管を製造する。素管の外径Dは設計仕様通りとする。
【0089】
溶接部には、溶融金属が盛り上がったまま凝固した凸状の溶接ビードが形成される場合がある。そこで、設計仕様通りの表面形状となるように、ビードカット加工を行う。更に、設計仕様通りの熱処理条件によって熱処理を行う。これにより、要求疲労寿命を満足する中空部材用鋼管が製造される。
【0090】
また、中空部材用鋼管としてシームレス鋼管を製造する場合は、設計仕様通りの鋼成分を有するビレットを製造し、このビレットを加熱し、その中心を工具で押し広げて中空筒状に成形して素管を製造する。成形後の素管の外径D、肉厚t及び内面の表面粗さは設計仕様通りとする。更に、素管に対して、強度若しくは硬度の調整のため、熱処理を行う。
これにより、要求疲労寿命を満足する中空部材用鋼管が製造される。
【0091】
以上説明したように、本実施形態の設計装置及び設計仕様の決定方法によれば、予測段階において中空部材の予測疲労寿命を求め、比較段階を経た後の判定段階において予測疲労寿命が要求疲労寿命以上になるか否かを判定し、判定段階において予測疲労寿命が要求疲労寿命以上と判定された場合に、予測段階において予測疲労寿命の予測に用いた鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状を中空部材用鋼管の設計仕様として決定し、予測疲労寿命が要求疲労寿命未満と判定された場合には鋼成分等のうちの何れか1つまたは2つ以上を変更して予測段階、比較段階及び決定段階を行うことで、中空部材に対する要求疲労寿命に応じて、中空部材用鋼管の設計仕様を直ちに求めることができる。
また、中空部材用鋼管の設計仕様を表示部6に表示させることで、決定された中空部材用鋼管の設計仕様を、中空部材の製造者や需要者に速やかに提示できる。
【0092】
また、予測段階において、取得ステップ、設定ステップ、第1予測ステップ及び第2予測ステップを行うことで、中空部材の予測疲労寿命を比較的高い精度で予測することができる。
【0093】
更に、第2予測ステップにおいて、鋼成分、熱処理条件、内面形状及び設計形状と、予測疲労寿命との関係を、予め、疲労試験結果または疲労き裂伝播則によって求めておき、この関係に基づいて中空部材の予測疲労寿命を求めるので、中空部材の予測疲労寿命をより高い精度で求めることができる。
【0094】
また、本実施形態の中空部材用鋼管の製造方法によれば、要求疲労寿命を満足する中空部材用鋼管を製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上のように、本発明によれば、部品設計に応じた中空部材用鋼管の仕様を設計することが可能となる。例えば軽量化率を重視する場合、要求疲労寿命を満たす最も薄肉の鋼管を提案できる。
【符号の説明】
【0096】
1…予測部、2…比較部、3…判定部、4…決定部、5…再計算部、10…中空部材用鋼管の設計仕様装置、11…取得部、12…設定部、13…第1予測部、14…第2予測部、ST1…取得ステップ(予測段階)、ST2…設定ステップ(予測段階)、ST3…第1予測ステップ(予測段階)、ST4…第2予測ステップ(予測段階)、ST5…比較段階、ST6…判定段階、ST7…決定段階、ST8…再計算段階。
図1
図2
図3
図4
図5
図6