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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/32 20180101AFI20241002BHJP
   F24F 11/63 20180101ALI20241002BHJP
   F24F 11/70 20180101ALI20241002BHJP
   F24F 11/80 20180101ALI20241002BHJP
   A47C 21/04 20060101ALI20241002BHJP
   F24F 110/10 20180101ALN20241002BHJP
   F24F 120/00 20180101ALN20241002BHJP
【FI】
F24F11/32
F24F11/63
F24F11/70
F24F11/80
A47C21/04
F24F110:10
F24F120:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022132618
(22)【出願日】2022-08-23
(65)【公開番号】P2024030062
(43)【公開日】2024-03-07
【審査請求日】2023-07-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 信明
(72)【発明者】
【氏名】黒井 聖史
(72)【発明者】
【氏名】堀 翔太
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-223374(JP,A)
【文献】特開平09-303842(JP,A)
【文献】特開2001-074292(JP,A)
【文献】特開2017-006359(JP,A)
【文献】特開2006-258314(JP,A)
【文献】特開平10-148371(JP,A)
【文献】特開2009-264704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
A47C 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間(S)を空調する空調システムであって、
人の年齢、性別、または代謝量に応じた生体リズムが記憶された記憶部(61)と、
対象空間(S)の対象者の年齢、性別、または代謝量を示す情報を受け付ける受付部(65)と、
前記受付部(65)が受け付けた対象者の情報に基づいて、記憶部(61)に記憶された生体リズムを選択し、かつ、選択された生体リズムに同調するように温熱環境を制御する制御部(C2)とを備える
ことを特徴とする空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人は、概日リズムなどの生体リズムを備えている。例えば概日リズムでは、約24時間の周期で体温やホルモンバランス等の生理現象が変化する。生体リズムの乱れが生活リズム(睡眠または活動)の乱れを招くことは、子供及び大人にも認識されている。
【0003】
生体リズムの乱れを調整する3つの要素として、光、食事及びメラトニンが着目されているが、近年では、温熱の重要性も指摘されている。特許文献1では、一日の生体リズムに基づいた温熱環境を創出する空調制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-148371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の空調制御システムは、放熱量変化に基づいて空調の温度制御を行っているが、空調対象の室内空間にいる人の生体リズムに基づいて行っているものではない。
【0006】
本開示の目的は、対象空間にいる対象者の生体リズムに基づいて温熱環境を制御する空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、
対象空間(S)を空調する空調システムであって、
前記対象空間(S)にいる対象者(E)の生理量を検知する検知部(54)と、
前記生理量に基づいて前記対象者(E)の生体リズムを推定する推定部(62)と、
前記推定部(62)により推定された生体リズムに同調して、前記対象空間(S)の温熱環境を制御する制御部(C2)とを備える空調システムである。
【0008】
第1の態様では、対象者(E)の生体リズムに基づいて、対象空間(S)の温熱環境を制御できる。例えば、対象者(E)が乳幼児である場合、該乳幼児の生体リズムに同調するように対象空間(S)の温熱環境を制御できる。このように温熱制御を行うことで、該乳幼児に快眠を与えることができる。
【0009】
第2の態様は、第1の態様において、
前記対象者(E)の年齢情報または月齢情報が入力される入力部(64)をさらに備える。
【0010】
第2の態様では、対象者(E)の年齢情報または月齢情報を温熱環境の制御に活用できる。
【0011】
第3の態様は、第2の態様において、
前記制御部(C2)は、前記対象者(E)の年齢情報または月齢情報に基づいて、前記推定部(62)が推定した生体リズムの異常判定を行う。
【0012】
第3の態様では、対象者(E)の生体リズムと、該対象者(E)の年齢または月齢の標準的な生体リズムとを比較して、対象者(E)の生体リズムの異常を判定できる。
【0013】
第4の態様は、第1~第3の態様において、
前記推定部(62)は、前記生理量に基づいて前記対象者(E)の睡眠の深さを推定し、
前記制御部(C2)は、前記対象者(E)の睡眠の深さに基づいて、前記対象空間(S)の温度幅を調節する。
【0014】
第4の態様では、例えば昼及び夜に睡眠をとる乳幼児において、昼と夜とで睡眠の深さは異なるため、このような睡眠の深さに応じて、対象空間(S)の温度幅を調節することで対象者(E)に快眠を与えることができる。
【0015】
第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、
前記推定部(62)は、所定期間における前記対象者(E)の体温変化に基づいて、前記対象者(E)の生体リズムを推定する。
【0016】
生体リズムは、周期的な生理量の変動を示す。第5の態様では、所定期間における複数周期分の生体リズムに基づいてより精度高く生体リズムを推定できる。
【0017】
第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つにおいて、
前記対象者(E)は、生後3年以下の子供である。
【0018】
第6の態様では、例えば乳児では生体リズムが24時間でないため、乳児固有の生体リズムを推定し、その生体リズムに基づいた温熱制御により乳児に快眠を与えることができる。
【0019】
第7の態様は、第1~第6の態様のいずか1つの空調システムを備える乳児用寝具である。
【0020】
第7の態様では、例えば本開示の空調システムを備える保育器やベビーベッドを提供できる。
【0021】
第8の態様は、
対象空間(S)を空調する空調システムであって、
前記対象空間(S)にいる対象者(E)の生理量を検知する検知部(54)と、
前記生理量に基づいて前記対象者(E)の生体リズムを推定する推定部(62)と、
前記推定部(62)により推定された生体リズムが異常である場合、前記対象者(E)の生体リズムを矯正するように前記対象空間(S)の温熱環境を制御する制御部(C2)とを備える空調システムである。
【0022】
第8の態様では、対象者(E)の生体リズムが乱れていても、該生体リズムを正常にすることができる。
【0023】
第9の態様は、第8の態様において、
前記制御部(C2)は、前記推定部(62)により推定された生体リズムの振幅の異常を判定する。
【0024】
第9の態様では、対象者(E)の生体リズムの振幅に基づいて、生体リズムの異常が判定される。
【0025】
第10の態様は、第9の態様において、
前記制御部(C2)は、前記推定部(62)により推定された生体リズムの振幅が異常であると判定すると、該振幅が生体リズムの所定の基準リズムに同調するように前記対象空間(S)の温熱環境を制御する。
【0026】
第10の態様では、対象者(E)の生体リズムの振幅を所定の基準リズムに同調するように矯正できる。
【0027】
第11の態様は、第8の態様において、
前記制御部(C2)は、前記推定部(62)により推定された生体リズムの周期の異常を判定する。
【0028】
第11の態様では、対象者(E)の生体リズムの周期に基づいて生体リズムの異常が判定される。
【0029】
第12の態様は、第11の態様において、
前記制御部(C2)は、前記推定部(62)により推定された生体リズムの周期が異常であると判定すると、該周期が生体リズムの所定の基準リズムに同調するように前記対象空間(S)の温熱環境を制御する。
【0030】
第12の態様では、対象者(E)の生体リズムの周期を所定の基準リズムに同調するように矯正できる。
【0031】
第13の態様は、第8の態様において、
前記制御部(C2)は、前記推定部(62)により推定された生体リズムの位相の異常を判定する。
【0032】
第13の態様では、対象者(E)の生体リズムの位相に基づいて生体リズムの異常が判定される。
【0033】
第14の態様は、第13の態様において、
前記対象者(E)は、前記対象空間(S)に同居する第1対象者(E1)、第2対象者(E2)及び第3対象者(E3)を含み、
前記制御部(C2)は、前記推定部(62)により推定された前記第2対象者(E2)及び前記第3対象者(E3)の生体リズムの位相に基づいて、前記推定部(62)により推定された前記第1対象者(E1)の生体リズムの位相の異常を判定する。
【0034】
第14の態様では、例えば同居する家族の生体リズムの位相と、対象者(E)の生体リズムの位相とを比較して、その位相のずれに基づいて対象者(E)の生体リズムの異常を判定できる。
【0035】
第15の態様は、第13または第14の態様において、
前記制御部(C2)は、異常と判定した前記対象者(E)の生体リズムの位相が時間的に前にずれていると判定した場合、前記対象空間(S)の温度を下げるように調節する。
【0036】
第15の態様では、対象空間(S)の温度を下げることで、末梢血管が収縮し、覚醒が維持される。このことで、対象者(E)の生体リズムの位相のずれを矯正できる。
【0037】
第16の態様は、第13または第14の態様において、
前記制御部(C2)は、異常と判定した前記対象者(E)の生体リズムの位相が時間的に後にずれていると判定した場合、前記対象空間(S)の温度を上げるように調節する。
【0038】
第16の態様では、対象空間(S)の温度を上げることで、代謝が上昇し抹消血管が拡張する結果、入眠が促進される。このことで、対象者(E)の生体リズムの位相のずれを矯正できる。
【0039】
第17の態様は、
対象空間(S)を空調する空調システムであって、
人の年齢、性別、または代謝量に応じた生体リズムが記憶された記憶部(61)と、
対象空間(S)の対象者(E)の年齢、性別、または代謝量を示す情報を受け付ける受付部(65)と、
前記受付部(65)が受け付けた対象者(E)の情報に基づいて、記憶部(61)に記憶された生体リズムを選択し、かつ、選択された生体リズムに同調するように温熱環境を制御する制御部(C2)とを備える。
【0040】
第17の態様では、対象空間(S)にいる対象者(E)の情報に基づいて、該対象者(E)の生体リズムに適した温熱環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、実施形態1に係る空調システムが適用される対象空間の内部を示す概略図である。
図2図2は、空調システムの空気調和装置の系統配管図である。
図3図3は、空調システムの制御装置と各種の機器との関係を示すブロック図である。
図4図4は、生体リズムについて説明する図である。
図5図5は、空気調和装置の制御を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態1の変形例に係る空調システムの制御装置と各種の機器との関係を示すブロック図である。
図7図7は、空気調和装置の制御を示すフローチャートである。
図8図8は、実施形態2に係る空調システムが適用される対象空間の内部を示す概略図である。
図9図9は、生体リズムの振幅を異常判定する場合の空気調和装置の制御を示すフローチャートである。
図10図10は、振幅異常の生体リズムと矯正後の生体リズムとの関係を示した図である。
図11図11は、生体リズムの周期を異常判定する場合の空気調和装置の制御を示すフローチャートである。
図12図12は、周期異常の生体リズムと矯正後の生体リズムとの関係を示した図である。(A)は、生体リズムの周期が基準リズムよりも短い場合を示す。(B)は、生体リズムの周期が基準リズムよりも長い場合を示す。
図13図13は、生体リズムの位相を異常判定する場合の空気調和装置の制御を示すフローチャートである。
図14図14は、位相異常の生体リズムと矯正後の生体リズムとの関係を示した図である。(A)は、生体リズムの位相が基準リズムの位相よりも時間的に前にずれている場合を示す。(B)は、生体リズムの位相が基準リズムの位相よりも時間的に後にずれている場合を示す。
図15図15は、実施形態2の変形例に係る制御装置と各種の機器との関係を示すブロック図である。
図16図16は、実施形態3に係る制御装置と各種の機器との関係を示すブロック図である。
図17図17は、空調システムの記憶部が有する対象者の情報と生体リズムの各パラーメータとの関係を示すテーブルである。
図18図18は、空気調和装置の制御を示すフローチャートである。
図19図19は、実施形態3の変形例に係る記憶部が有する生体リズムを示すテーブルである。
図20図20は、その他の実施形態にかかる周期異常の生体リズムと矯正後の生体リズムとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。また、以下に説明する各実施形態、変形例、その他の例等の各構成は、本発明を実施可能な範囲において、組み合わせたり、一部を置換したりできる。
【0043】
(1)空調システム
図1に示すように、本実施形態の空調システム(1)は、室内空間(S)にいる対象者(E)に適用される。対象者(E)は、例えば生後3年以内の子供である。本実施形態では、対象者(E)は、生後12か月未満の乳幼児である。生後12か月未満の乳幼児では、生体リズムが24時間になりきっていない。生体リズムの詳細は後述する。
【0044】
空調システム(1)は、対象者(E)の生体リズムに基づいて、室内空間(S)の温熱環境を制御する。室内空間(S)は、対象空間(S)の一例である。具体的に、本実施形態の空調システム(1)について以下説明する。
【0045】
(2)空気調和装置
図1及び図2に示すように、本実施形態の空調システム(1)は、室内空間(S)を空調する空気調和装置(10)を有する。空気調和装置(10)は、室内空間(S)の空調を行う。
【0046】
空気調和装置(10)は、室外ユニット(20)と室内ユニット(30)とを有する。室外ユニット(20)および室内ユニット(30)は、2本の連絡配管(液連絡配管(11)およびガス連絡配管(12))を介して互いに接続される。これにより、空気調和装置(10)では、冷媒回路(R)が構成される。冷媒回路(R)には、冷媒が充填される。冷媒回路(R)は、冷媒が循環することで冷凍サイクルを行う。
【0047】
(2-1)室外ユニット
室外ユニット(20)は、室外に配置される。室外ユニット(20)は、室外ファン(21)を有する。室外ユニット(20)は、冷媒回路(R)に接続される要素として、圧縮機(22)、室外熱交換器(23)、切換機構(24)、および膨張弁(25)を有する。
【0048】
圧縮機(22)は、吸入した冷媒を圧縮する。圧縮機(22)は、圧縮した冷媒を吐出する。圧縮機(22)は、インバータ式であって、圧縮機(22)の回転数(運転周波数)が調節される。
【0049】
室外熱交換器(23)は、フィンアンドチューブ式である。室外熱交換器(23)は、その内部を流れる冷媒と室外ファン(21)により搬送される室外空気とを熱交換させる。
【0050】
切換機構(24)は、空気調和装置(10)の冷房運転と暖房運転とを切り換えるように、冷媒回路(R)の流路を変更する四方切換弁である。切換機構(24)は、第1ポート(P1)、第2ポート(P2)、第3ポート(P3)、および第4ポート(P4)を有する。冷房運転では、第1ポート(P1)と第4ポート(P4)とが連通し、第2ポート(P2)と第3ポート(P3)とが連通する(図2の実線)。暖房運転では、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)とが連通し、第2ポート(P2)と第4ポート(P4)とが連通する(図2の破線)。
【0051】
膨張弁(25)は、室外熱交換器(23)の液側端部と室内熱交換器(33)の液側端部との間に配置される。膨張弁(25)は、その開度が調節可能な電子膨張弁である。
【0052】
(2-2)室内ユニット
室内ユニット(30)は、室内空間(S)に設置される。室内ユニット(30)は、例えば、壁掛け式の室内空調機である。室内ユニット(30)は、室内熱交換器(33)と室内ファン(32)とを有する。室内熱交換器(33)は、冷媒回路(R)に接続される。
【0053】
室内熱交換器(33)は、フィンアンドチューブ式である。室内熱交換器(33)は、室内ファン(32)により搬送される空気と冷媒とを熱交換させる。
【0054】
室内ファン(32)は、クロスフローファンである。室内ファン(32)の回転数は可変である。言い換えると、室内ファン(32)の風量は可変である。
【0055】
室内ユニット(30)は、吸込口(30a)と吹出口(30b)とを有する。吸込口(30a)で吸い込まれた空気(図1の矢印)は、室内熱交換器(33)により空調されて、吹出口(30b)から吹き出される(図1の矢印)。
【0056】
(2-3)センサ
空気調和装置(10)は、室内温度センサ(41)を有する。室内温度センサ(41)は、室内空間(S)の温度(室温)を検出する。室内温度センサ(41)は、室内ユニット(30)の吸込口(30a)に配置される。
【0057】
(2-4)生体センサ
本実施形態の空調システム(1)は、生体センサ(54)を有する。生体センサ(54)は、室内空間(S)にいる対象者(E)の皮膚温度を検知する。皮膚温度は、生理量の一例である。生体センサ(54)は、例えば、腕時計と一体に構成されるウェアラブルセンサである。生体センサ(54)は、対象者(E)の腕に装着される。生体センサ(54)は、検知した対象者(E)の皮膚温度を示す信号を後述する制御装置(C)に出力する。生体センサ(54)は、検知部(54)の一例である。
【0058】
(2-5)リモートコントローラ
空気調和装置(10)は、リモートコントローラ(35)を有する。リモートコントローラ(35)には、人(H)の操作に基づいて所定の情報が入力される。所定の情報は、暖房運転の開始、冷房運転の開始、運転の停止などである。リモートコントローラ(35)に入力された所定の情報は、室内ユニット(30)に出力される。リモートコントローラ(35)は、後述の制御装置(C)を構成する。
【0059】
(3)制御装置
図2及び図3に示すように、本実施形態の空調システム(1)は、制御装置(C)を有する。制御装置(C)は、第1制御装置(C1)、第2制御装置(C2)、及び第3制御装置(C3)を有する。第1制御装置(C1)は、室外ユニット(20)に設けられる。第2制御装置(C2)は、室内ユニット(30)に設けられる。第3制御装置(C3)は、リモートコントローラ(35)に設けられる。各制御装置(C)は、マイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータを動作させるためのソフトウェアを格納するメモリディバイスとを備える。
【0060】
制御装置(C)は、空気調和装置(10)の各種の機器の運転を制御する。制御装置(C)は、空気調和装置(10)の各種の機器と有線または無線により接続される。制御装置(C)は、記憶部(61)、推定部(62)及び運転計画部(63)を備える。本実施形態では、記憶部(61)、推定部(62)及び運転計画部(63)は、第2制御装置(C2)に設けられる。第2制御装置(C2)は、制御部(C2)の一例である。
【0061】
記憶部(61)は、生体センサ(54)が検知した対象者(E)の体温とその日時とを対応させて記憶する。
【0062】
推定部(62)は、生体センサ(54)が検知した皮膚温度に基づいて、対象者(E)の生体リズムを推定する。本実施形態の生体リズムは、対象者(E)の深部体温の周期的な変動または変化である。本実施形態の推定部(62)は、深部体温と皮膚温度との相関を示す所定の情報を用いて深部体温を推定する。所定の情報は、演算式であってもよい。
【0063】
図4に示すように、生体リズムは、横軸を時間とし縦軸を体温(深部体温)として、体温(深部体温)は徐々に上昇して最高温度(第1ピーク)に達した後、徐々に低下して最低温度(第2ピーク)に達して、再び上昇する。このように、生体リズムは周期的に変化する。以下の説明において、第1ピーク及び第2ピークを振幅と呼ぶ場合がある。例えば、振幅が比較的大きいとは、第1ピークが比較的高く、かつ、第2ピークが比較的低いことをいう。また、以下の説明において、深部体温を単に体温を呼ぶ場合がある。
【0064】
推定部(62)は、所定期間における対象者(E)の体温変化に基づいて対象者(E)の生体リズムを推定する。具体的に、推定部(62)は、記憶部(61)に保存されている所定期間における複数周期分の生体リズムの平均を対象者(E)の生体リズムと推定する。例えば、所定期間を10日間とし、その過去10日間において10周期分の生体リズムがあったとすると、推定部(62)は、その10周期分の生体リズムの平均を該対象者(E)の生体リズムと推定する。
【0065】
運転計画部(63)は、推定部(62)が推定した生体リズムに基づいて、空気調和装置(10)の運転計画を作成する。具体的に、本実施形態の運転計画部(63)は、対象者(E)の生体リズムに同調するように室内空間(S)を温度変化させる運転計画を作成する。例えば、推定された生体リズムにおいて第1ピークに向かって体温が上昇する期間では、室温を上昇させ、第2ピークに向かって体温が低下する期間では、室温を低下させるように運転計画が作成される。運転計画部(63)は、毎回推定される生体リズムに基づいて運転計画を作成する。言い換えると、運転計画部(63)は、毎回更新される生体リズムに基づいて、次の一周期分の期間の運転計画を作成する。このように、第2制御装置(C2)は、推定部(62)に推定された生体リズムに同調して、室内空間(S)の温熱環境である室温を制御する。
【0066】
(4)生体リズムに基づく空気調和装置の運転
次に、対象者(E)の生体リズムに同調して空気調和装置(10)が行う室内空間(S)の室温の制御について、図5を用いて説明する。
【0067】
ステップS11では、第2制御装置(C2)は、対象者(E)の複数日分の温度変化の情報に基づいて、該対象者(E)の生体リズムを推定する。
【0068】
ステップS12では、第2制御装置(C2)は、ステップS11で推定された生体リズムに基づいて、運転計画を作成する。室内空間(S)の温度がこの生体リズムに合わせて変化するように空気調和装置(10)の各種の機器の運転が計画される。具体的に、運転計画は、対象者(E)の生体リズムの周期、振幅、及び位相に同調するように室温が変化するように作成される。
【0069】
ステップS13では、第2制御装置(C2)は、ステップS12で作成された運転計画に従って、空気調和装置(10)の運転を実行する。例えば、第1ピークの時刻から第2ピークの時刻まで(体温が低下する間)は、空気調和装置(10)は室温を下げていく。このことで、対象者(E)の表面温度が放出され易くなる結果、体の深部から表面へ温度の放出が促され、深部体温が下がりやすくなる。深部体温が低下することで、対象者(E)はより心地よい睡眠を得ることができる。一方、第2ピークの時刻から第1ピークの時刻まで(体温が上昇する間)は、空気調和装置(10)は室温を上昇させていく。このことで、対象者(E)の体温(深部体温)が上昇するため対象者(E)は覚醒し易くなる。このように、対象者(E)の生体リズムの周期、振幅、及び位相がずれないように室温がコントロールされる。
【0070】
(5)特徴
(5-1)特徴1
本実施形態の空調システム(1)は、空気調和装置(10)と、室内空間(S)にいる対象者(E)の体温(生理量)を検知する検知部(54)と、体温(生理量)に基づいて対象者(E)の生体リズムを推定する推定部(62)と、推定部(62)により推定された生体リズムに同調するように室内空間(S)の室温を制御する第2制御装置(C2)(制御部)を備える。
【0071】
本実施形態の対象者(E)は、概日リズムが24時間未満の幼児である。ここで、体温は、早朝に比較的低く、夕方に高くなるようなサーカディアンリズムによって制御される。覚醒から睡眠に入ると、脳温や代謝率は低下し、熱産生量は減少する一方、発汗量は増加し皮膚血管拡張により皮膚温の上昇がみられる。これは、いずれも体温の下降に向けて調節反応である。このように、睡眠は、体温の下降期に始まり、体温の最低点に達し上昇期に入ったところで覚醒する。サーカディアンリズムは、このような概ね一定の周期を有する。
【0072】
ところで、体温のサーカディアンリズムは新生児期にはほとんど見られず、生後1か月ごろから変動し始める。近年では、乳幼児の睡眠異常が問題となっている。脳の発達期にあたる乳幼児期に睡眠覚醒リズムが正常に発達せず、体内時計にずれが生じると慢性睡眠不足に陥るおそれがある。慢性睡眠不足に陥ると、発育・発達障害へと発展する恐れがある。
【0073】
従って、一定のサーカディアンリズムが形成されるまでの乳幼児期において、乳幼児の生体リズムに合わせた温熱環境を提供することは重要である。
【0074】
本実施形態の空調システム(1)は、対象者(E)の生体リズムに同調するように室温(温熱環境)を制御する。例えば、夕方から早朝にかけて、室温を低下させていくと共に、早朝から夕方にかけて室温を上昇させていく。このように乳幼児(対象者(E))の生体リズムに応じた室温(温熱環境)を提供することで、その乳幼児に成長に適した睡眠を提供できる。このことにより、乳幼児は、正常なサーカディアンリズムを獲得することができ、慢性睡眠不足などに陥ることを抑制できる。
【0075】
特に、24時間または12時間を周期に空調制御する場合では、生体リズムがまだ24時間でない乳幼児の生体リズムとずれて室温が変化するところ、本実施形態の空調システム(1)は、個々の対象者(E)生体リズム(周期)を推定し、その生体リズムに合わせて空調制御するため、上述したような実際の乳幼児の生体リズムとずれて室温が変化することを抑制される。その結果、乳幼児に快適な睡眠を与えることができると共に、乳幼児の正常な発達阻害を抑制できる。
【0076】
(5-2)特徴2
本実施形態の空調システム(1)の推定部(62)は、所定期間における対象者(E)の体温変化に基づいて、対象者(E)の生体リズムを推定する。所定期間における複数の生体リズムの周期の平均をとることで、より精度の高い生体リズムを推定できる。
【0077】
(6)実施形態1の変形例
本例の空調システム(1)は、対象者(E)の年齢または月齢に基づいて、推定された生体リズムが異常であるかを判定する。以下では、上記実施形態1と異なる構成について説明する。
【0078】
本例の空調システム(1)の記憶部(61)には、各年齢及び各月齢に対応する標準の生体リズムが記憶されている。本例ではこの生体リズムを標準リズムと呼ぶ。標準リズムは、例えば各年齢及び各月齢における平均的な生体リズムである。この生体リズムは、全国の平均であってもよいし、一部の地域の平均であってもよい。
【0079】
図6に示すように、本例の空調システム(1)は、対象者(E)の年齢情報または月齢情報が入力される入力部(64)を備える。入力部(64)は、第2制御装置(C2)に設けられる。入力部(64)は、ユーザの操作に基づいてリモートコントローラ(35)から出力された対象者(E)の年齢または月年齢の情報を受け付ける。
【0080】
第2制御装置(C2)は、対象者(E)の生体リズムの異常判定を行う。具体的に、第2制御装置(C2)は、推定された対象者(E)の生体リズムと、該対象者(E)の同年齢または同月齢の標準リズムとを比較することにより異常判定を行う。例えば、標準リズムの振幅に対する対象者(E)の生体リズムの振幅のずれが所定の閾値内に収まっていなければ、異常と判定される。生体リズムの周期および位相のそれぞれについても同様に判定される。以下、本例の空調システム(1)の制御について、図7を参照して説明する。
【0081】
ステップS21では、第2制御装置(C2)は、対象者(E)の生体リズムを推定する。
【0082】
ステップS22では、第2制御装置(C2)は、入力部(64)に入力された年齢情報または月齢情報に基づいて、記憶部(61)から標準リズムを読み出す。
【0083】
ステップS23では、第2制御装置(C2)は、ステップS21で推定された生体リズムとステップS22で読み出した標準リズムとを比較して異常判定を行う。生体リズムが異常と判定された場合(ステップS23のYES)、ステップS24が実行される。生体リズムが異常と判定されなかった場合(ステップS23のNO)、ステップS25が実行される。
【0084】
ステップS24では、第2制御装置(C2)は、第1運転計画を作成する。第1運転計画は、推定された生体リズムが標準リズムとなるように室温を調節する運転計画である。
【0085】
ステップS25では、第2制御装置(C2)は、第1運転計画に基いて空気調和装置(10)を運転する。これにより、対象者(E)の生体リズムは、標準リズムとなるように矯正される。
【0086】
ステップS26では、第2制御装置(C2)は、第2運転計画を作成する。第2運転計画は、推定された生体リズムに同調するように温熱環境を制御する運転計画である。
【0087】
ステップS27では、第2制御装置(C2)は、第2運転計画に基いて、空気調和装置(10)を運転する。これにより、対象者(E)はより快適な睡眠を得ることができる。
【0088】
(7)実施形態2
実施形態2の空調システム(1)について、上記実施形態1及びその各変形例と異なる構成について以下説明する。
【0089】
本実施形態の空調システム(1)は、推定部(62)により推定された生体リズムが異常である場合、対象者(E)の生体リズムを矯正するように室内空間(S)の温熱環境を制御する。本実施形態では、温熱環境は室温を意味する。
【0090】
本例の第2制御装置(C2)は、推定部(62)により推定された生体リズムと所定の基準となる生体リズムとを比較して、対象者(E)の生体リズムの異常判定を行う。具体的には、対象者(E)の生体リズムの振幅、周期、及び位相のそれぞれについて異常判定される。
【0091】
図8に示すように、上記異常判定は、室内空間(S)の対象者(E)と、該対象者(E)と同居する家族とを比較することにより行われる。すなわち、本実施形態において、所定の基準となるリズムは同居する家族の生体リズムとなる。例えば、室内空間(S)にいる対象者(E)を、第1対象者(E1)、第2対象者(E2)及び第3対象者(E3)とする。第1対象者(E1)を、判定対象の対象者とし、第2対象者(E2)及び第3対象者(E3)を第1対象者(E1)の同居家族とする。第2制御装置(C2)は、推定部(62)により推定された第2対象者(E2)及び第3対象者(E3)の生体リズムに基づいて、推定部(62)により推定された第1対象者(E1)の生体リズムの異常を判定する。本実施形態において、同居家族の生体リズムを基準リズムと呼ぶ。
【0092】
具体的に、第1~第3対象者(E1~E3)は、それぞれ生体センサ(54)を装着しているとする。本例の記憶部(61)には、各対象者(E)の体温の情報が経時的に記憶される。これにより、推定部(62)は、各対象者(E)の生体リズムを推定する。第1対象者(E1)の推定された生体リズムを第1生体リズムとし、第2対象者(E2)の推定された生体リズムを第2生体リズムとし、第3対象者(E3)の推定された生体リズムを第3生体リズムとする。本実施形態においても、所定期間における各対象者(E)の体温変化に基づいて各生体リズムを推定してもよい。以下、本例の空調システム(1)の制御について説明する。
【0093】
<振幅の異常判定について>
振幅の異常判定と生体リズムの矯正を行う場合について、図9を参照して説明する。
【0094】
ステップS31では、第2制御装置(C2)は、推定部(62)により推定された第1~第3各対象者(E)の生体リズム(第1~第3生体リズム)を取得する。
【0095】
ステップS32では、第2制御装置(C2)は、第2生体リズム及び第3生体リズムに基づいて、基準リズムを決定する。本例では、第2生体リズム及び第3生体リズムの平均を基準リズムとする。
【0096】
ステップS33では、第2制御装置(C2)は、推定部(62)により推定された生体リズムの振幅が異常であるか判定する。具体的に、第1生体リズムの振幅が、基準リズムの第1ピークから所定の閾値を上回った場合、または第2ピークから所定の閾値を下回った場合、第1生体リズムの振幅は異常であると判定される。一方、第1生体リズムの振幅が、基準リズムの振幅から所定の閾値内に収まっている場合、第1生体リズムの振幅は正常であると判定される。第1生体リズムの振幅が異常であると判定された場合(ステップS33のYES)、ステップS34が実行される。第1生体リズムの振幅が異常と判定さなかった場合(ステップS33のNO)、ステップS36が実行される。
【0097】
ステップS34では、第2制御装置(C2)は、第3運転計画を作成する。第3運転計画は、第1生体リズムの振幅が、基準リズムの振幅に同調するように室温を調整する運転計画である。図4に示す生体リズムを基準リズムとして以下具体的に説明する。
【0098】
図10に示すように、第1生体リズム(図10の破線)の振幅が、基準リズムの振幅よりも小さい場合(生体リズムが平板化している場合)、第1ピークと第2ピークとの中間点から第2ピークに達するまでの間室温を下げ、第2ピークと第1ピークとの中間点から第1ピークに達するまでの間室温を上昇させるように空気調和装置(10)の第3運転計画が作成される。第3運転計画により、第1ピークから第2ピークに移行する間に、第1対象者(E1)の体表から熱の放出が促されると共に、体の深部から体表への熱の放出が促される。このことで、第1対象者(E1)の体温(深部体温)が低下しやすくなり、第2ピークの温度が以前よりも低下する(図10の実線)。また、第3運転計画により、第2ピークから第1ピークに移行する間に、第1対象者(E1)の体の深部が温められる結果、体温(深部体温)が上昇し、第1対象者(E1)は覚醒し易くなると共に、覚醒を維持できる。
【0099】
ステップS35では、第2制御装置(C2)は、第3運転計画に基いて空気調和装置(10)を運転する。生体リズムが平板化している状態では、第1対象者(E1)は、夜間の睡眠が浅く、また日中はうとうとしていると考えられる。そのため、上記運転計画により、夜間は睡眠を深くし、日中は覚醒を維持できる。このように、生体リズムを正常にできる。
【0100】
ステップS36では、第2制御装置(C2)は、第4運転計画を作成する。第4運転計画は、推定された第1生体リズムに同調するように室温を調節する運転計画である。
【0101】
ステップS37では、第2制御装置(C2)は、第4運転計画に基いて、空気調和装置(10)を運転する。
【0102】
<周期の異常判定について>
次に、振幅の異常判定と生体リズムの矯正とを行う場合について図11を参照して説明する。
【0103】
ステップS41~S42は、上記ステップS31~S32と同じであるため説明を省略する。
【0104】
ステップS43では、第2制御装置(C2)は、推定部(62)により推定された生体リズムの周期が異常であるか判定する。具体的に、第1生体リズムの周期が、基準リズムの周期から所定の閾値よりも長い場合、または短い場合、第1生体リズムの周期は異常であると判定される。一方、第1生体リズムの周期が、基準リズムの周期から所定の閾値内に収まっている場合、第1生体リズムの周期は正常であると判定される。第1生体リズムの周期が異常であると判定された場合(ステップS43のYES)、ステップS44が実行される。第1生体リズムの周期が異常と判定されなかった場合(ステップS43のNO)、ステップS46が実行される。
【0105】
ステップS44では、第2制御装置(C2)は、第5運転計画を作成する。第5運転計画では、空気調和装置(10)は、第1生体リズムの周期が、基準リズムの周期に同調するように室温を調節する。図4に示す生体リズムを基準リズムとして以下具体的に説明する。
【0106】
図12に示すように、第1生体リズムの周期が基準リズムよりも短い場合(図12(A)の破線)の第5運転計画では、以下のように室温がコントロールされる。まず、第1生体リズムの第1ピークの直前から一時的に室温を下げ、基準リズムの第1ピーク時に室温を上げ、一定時間経過後に室温を下げる。その後、第1生体リズムの第2ピーク時には低い室温を維持し、基準リズムの第2ピーク時に温度を上げる。
【0107】
第5運転計画により、第1生体リズムの第1ピークにおいて第1対象者(E1)の体温が下がるタイミングが遅れることで、第2ピークに達する時刻が遅れる。そして、第2ピークにおいて第1対象者(E1)の体温が上がるタイミングが遅れることで、第1ピークに達する時間が遅れる。その結果、第1生体リズムの周期を基準リズムに徐々に合わせることができる(図12(A)の実線)。
【0108】
一方、第1生体リズムの周期が基準リズムよりも長い場合(図12(B)の破線)の第5運転計画では、以下のように室温がコントロールされる。まず、基準リズムの第1ピーク前から一時的に室温を上げ、一定時間後に室温を下げる。その後、基準リズムの第2ピーク時には室温を上げる。
【0109】
第5運転計画により、第1ピークにおいて第1対象者(E1)の体温(深部体温)が下がるタイミングが早くなることで、第2ピークに達する時刻が早くなる。そして、第2ピークにおいて第1対象者(E1)の体温が上がるタイミングが早くなることで、第1ピークに達する時間が早くなる。その結果、第1生体リズムの周期を基準リズムに徐々に合わせることができる(図12(B)の実線)。
【0110】
ステップS45では、第2制御装置(C2)は、第5運転計画に基いて空気調和装置(10)を運転する。第1生体リズムの周期が基準リズムよりも短い場合とは、例えば、第1対象者(E1)の入眠時刻が日に日に早くなっている場合が考えられる。このような場合、第5運転計画に基いて空気調和装置(10)を運転することで、第1ピークから第2ピークにかけて体温が下がりにくくなり、入眠時間を遅らせることができる。また、第1生体リズムの周期が基準リズムよりも長い場合とは、例えば、第1対象者(E1)の入眠時刻が日に日に遅くなっている場合が考えられる。このような場合、第5運転計画に基いて空気調和装置(10)を運転することで、第1ピークから第2ピークにかけて体温が下がりやすくなり、入眠時間を早めることができる。
【0111】
ステップS46~S47は、上記ステップS36~S37と同じであるため説明を省略する。
【0112】
<位相の異常判定について>
次に、位相の異常判定と生体リズムの矯正とを行う場合について、図13を参照して説明する。
【0113】
ステップS51~S52は、上記ステップS31~S32と同じであるため説明を省略する。
【0114】
ステップS53では、第2制御装置(C2)は、推定部(62)により推定された生体リズム(第1生体リズム)の位相が異常であるか判定する。具体的に、第1生体リズムの位相が、基準リズムの位相から時間的にずれているかを判定する。第1生体リズムの位相が異常であると判定された場合(ステップS53のYES)、ステップS54が実行される。第1生体リズムの位相が異常でないと判定された場合(ステップS53のNO)、ステップS59が実行される。上記振幅または周期の異常判定と同様に、基準リズムに対する第1生体リズムの位相のずれが所定の閾値内であれば異常でないと判定されてもよい。
【0115】
ステップS54では、第2制御装置(C2)は、第1生体リズムの位相が、基準リズムの位相よりも時間的に前にずれているか判定する。第1生体リズムの位相が、基準リズムの位相よりも時間的に前にずれていると判定された場合(ステップS54のYES)、ステップS55が実行される。第1生体リズムの位相が基準リズムの位相よりも時間的に前にずれていると判定されなかった場合(ステップS54のNO)、第1生体リズムの位相は、基準リズムの位相よりも時間的に後にずれていると判断され、ステップS57が実行される。
【0116】
ステップS55では、第2制御装置(C2)は、第6運転計画を作成する。第6運転計画は、空気調和装置(10)は、第1生体リズムの位相が、基準リズムの位相に同調するように室温を調節する運転計画である。図4に示す生体リズムを基準リズムとして以下具体的に説明する。
【0117】
図14に示すように、第1生体リズムの位相は、基準リズムの位相よりも時間的に前にずれている(図14(A)の破線)。そのため、第1ピークに達する直前から一時的に室温を下げるように第6運転計画が作成される。第6運転計画により、第1ピークに達する直前から一時的に室温を下がると、血管が収縮し血流が抑制されるため、体温が低下しにくくなり、第2ピークに達するタイミングが以前よりも遅くなる。このことにより、第1ピークに達するタイミングも以前よりも遅くなる(図14(A)の実線)。
【0118】
ステップS56では、第2制御装置(C2)は、第6運転計画に基いて空気調和装置(10)を運転する。この運転は、第1生体リズムが基準リズムに同調するまで行われる。
【0119】
生体リズムの位相が時間的に前にずれる場合とは、入眠が早い場合が考えられる。このように、第1ピーク及び第2ピークが遅れることで、第1生体リズムの位相が時間的に後退する結果、入眠時刻を遅らせることができる。すなわち、第1生体リズムの位相を基準リズムの位相に合わせることができる。
【0120】
ステップS57では、第2制御装置(C2)は、第7運転計画を作成する。第7運転計画は、空気調和装置(10)は、第1生体リズムの位相が、基準リズムの位相に同調するように室温を調節する運転計画である。図4に示す生体リズムを基準リズムとして以下具体的に説明する。
【0121】
具体的に、図14に示すように、第1生体リズムの位相は、基準リズムの位相よりも時間的に後にずれている(図14(B)の破線)。そのため、第1ピークに達する直前から一時的に室温を上げるように第7運転計画が作成される。第7運転計画により、第1ピークに達する直前から一時的に室温を上がると、血管が拡張し血流が促進されるため、体温(深部体温)が低下し易くなり、第2ピークに達するタイミングが以前よりも早くなる。このことにより、第1ピークに達するタイミングも以前よりも早くなる(図14(B)の実線)。
【0122】
ステップS58では、第2制御装置(C2)は、第7運転計画に基いて空気調和装置(10)を運転する。この運転は、第1生体リズムが基準リズムに同調するまで行われる。
【0123】
生体リズムの位相が時間的に後にずれる場合とは、入眠が遅い場合が考えられる。このように、第1ピーク及び第2ピークが早まることで、第1生体リズムの位相が時間的に前進する結果、入眠時刻を早めることができる。すなわち、第1生体リズムの位相を基準リズムの位相に合わせることができる。
【0124】
ステップS59~S60は、上記ステップS36~S37と同じであるため説明を省略する。
【0125】
(8)実施形態2の変形例
図15に示すように、上記第2実施形態の空調システム(1)は、所定の行動を対象者(E)に促す報知部(55)を有する。報知部(55)は、スピーカー(図示省略)または表示画面(図示省略)である。報知部(55)は、室内ユニット(30)に設けられる。
【0126】
第2制御装置(C2)が、空気調和装置(10)による対象者(E)の位相のずれを矯正しきれていないと判断した場合、報知部(55)は、位相のずれの矯正を補完するような行動を促すサインを対象者(E)に示す。
【0127】
例えば、対象者(E)の生体リズムの位相が、基準リズムよりも時間的に前にずれている場合において、該生体リズムを基準リズムまで空気調和装置(10)では矯正できていないと第2制御装置(C2)が判断した場合、報知部(55)は対象者(E)に対し仮眠を促す旨を音声または表示により報知する。対象者(E)は仮眠をとることで体温が低下し、生体リズムの位相を時間的に後ろにずらすことができる。
【0128】
また、対象者(E)の位相が、時間的に後ろにずれている場合において、該生体リズムを基準リズムまで空気調和装置(10)では基準リズムまで矯正できていないと第2制御装置(C2)が判断した場合、報知部(55)は対象者(E)に対しサウナを促す旨を音声または表示により報知する。対象者(E)はサウナに入ることで体温が上昇し、生体リズムの位相を時間的に前にずらすことができる。
【0129】
(9)実施形態3
図16に示すように、本実施形態の制御装置(C)は受付部(65)を有する。受付部(65)は、対象空間(S)の対象者(E)の年齢、性別、または代謝量を示す情報を受け付ける。第2制御装置(C2)は、受付部(65)が受け付けた対象者(E)の情報に基づいて、記憶部(61)に記憶された生体リズムを選択し、かつ、選択された生体リズムに同調するように室内空間(S)の温熱環境を制御する。以下、具体的に説明する。
【0130】
本実施形態の空調システム(1)は、室内空間(S)にいる対象者(E)に応じて、該対象者(E)の本来あるべき生体リズムとなるように室内空間(S)の室温を調節する。本来あるべき生体リズムは、年齢、性別及び代謝量のそれぞれの情報に基づいて設定された標準となる生体リズムである。
【0131】
受付部(65)には、ユーザの操作に基づいて対象者(E)の情報(年齢、性別、代謝量)が入力される。年齢については、子供または成人が入力される。子供は、就学児童としてもよい。代謝量については、例えばBMI、活動量、体重などに基づいて、「高い」または「低い」が選択される。
【0132】
記憶部(61)には、対象者(E)の年齢、性別、及び代謝量のそれぞれの情報に基づいて設定された生体リズムが記憶される。この生体リズムは、図17に示すように対象者(E)の情報(年齢、性別、代謝量)と生体リズムの各種のパラメータ(振幅、ピーク位置及びベースライン)との関係を示すテーブルに基づいて設定される。具体的に、標準となる生体リズムに基づいて、振幅、ピーク位置、及びベースラインが調整される。本実施形態のベースラインは、1周期の平均の体温を意味する。
【0133】
例えば、対象者(E)の情報が、「成人、男性、及び低代謝量」であるとする。この場合、生体リズムは、標準の生体リズムよりも、振幅が「大」、ピーク位置が「前置き」、かつ、ベースラインが「低値」となる。
【0134】
ここで、振幅が「小」とは、第1ピークが基準の生体リズムよりも1℃低くし、第2ピークが基準の生体リズムよりも1℃高くすることを意味する。振幅が「大」とは、第1ピークが基準の生体リズムよりも2℃高くし、第2ピークが基準の生体リズムよりも2℃低くすることを意味する。ピーク位置が「前置き」とは、ピークが基準の生体リズムよりも1.5時間前にすることを意味する。ベースラインが「低値」とは、基準の生体リズムよりも1℃低く設定することを意味する。ここで、ピーク位置は、1周期における生体リズム(例えばサーカディアンリズム)のピーク(第1ピーク及び第2ピーク)のタイミングまたはその時刻を意味する。
【0135】
以下に本実施形態の第2制御装置(C2)の制御について、図18を参照しながら説明する。
【0136】
ステップS61では、第2制御装置(C2)は、対象者(E)の各種の情報を受け付ける。
【0137】
ステップS62では、第2制御装置(C2)は、受け付けた情報に基づいて生体リズムを決定する。例えば、入力部(64)に「成人」、「男性」及び「低代謝量」と入力されたとする。この場合、標準の生体リズムから振幅が「大」、ピーク位置が「前置き」、かつ、ベースラインが「低値」に設定された生体リズムを記憶部(61)から読み出す。
【0138】
ステップS63では、第2制御装置(C2)は、ステップS61で選択した生体リズムに基づいて、空気調和装置(10)を制御する。空気調和装置(10)は、選択された生体リズムに合わせるように室温を調節する。言い換えると、空気調和装置(10)は、選択された同調するように室温を調節する。
【0139】
これにより、例えば、温熱変動の少ない室内空間で過ごす人に対して本来あるべき温熱環境を提供できる。
【0140】
(10)実施形態3の変形例
図19に示すように、本例の入力部(64)は、対象者(E)の情報に加えて、季節情報も受け付ける。ユーザの操作によって、冬、夏、またはその中間期(春、秋)が選択される。ベースラインは温熱環境評価指数(PMV:Predicted Mean Vote)に基づいて設定される。具体的に、ベースラインは、冬季はPMVが0.0~1.0(暖かめ)に設定され、中間期では、PMVが-1.0~1.0に設定され、夏季はPMVが-1.0~0.0に設定される。
【0141】
このように、対象者(E)の情報だけでなく、季節情報も考慮した生体リズムに基づいて、室内空間(S)を空調することで、各季節に適した生体リズムに合わせた温熱環境を、年間を通して提供できる。
【0142】
(11)その他の実施形態
上記各実施形態およびその変形例において、生体リズムは、体温のリズム(深部体温、末梢皮膚温、中枢温)以外に、自律神経のリズム(血圧、心拍変動)、内分泌のリズム(ホルモン量)、免疫のリズム(抗体量、化学伝達物質量、免疫担当細胞の局在)、睡眠のリズム(脳波、筋電、眼球運動、呼吸数)、のうち、少なくとも1つを含む周期的な変動または変化としてもよい。生体リズムが自律神経のリズムである場合、生理量は、血圧や心拍数としてもよい。生体リズムが、内分泌のリズムである場合、生理量は、所定のホルモン量としてもよい。生体リズムが、免疫のリズムである場合、生理量は、所定の抗体または化学伝達物質の量や、所定の免疫細胞の局在であってもよい。生体リズムが睡眠のリズムである場合、生理量は、脳波、筋電、眼球運動、または呼吸数であってもよい。
【0143】
実施形態1、実施形態2及びそれらの変形例の空調システム(1)において、推定部(62)は、生理量に基づいて対象者(E)の睡眠の深さを推定してもよい。第2制御装置(C2)は、対象者(E)の睡眠の深さに基づいて、室内空間(S)の温度幅を調節する。生理量は、体温、脳波、筋電、眼球運動、または呼吸数である。これにより、例えば昼及び夜に睡眠をとる乳幼児において、昼と夜とで睡眠の深さは異なるため、このような睡眠の深さに応じて、室内空間(S)の温度幅を調節することで乳幼児に快眠を与えることができる。
【0144】
実施形態1及びその各変形例の空調システム(1)は、乳児用寝具に適用されてもよい。例えば、保育器(図示省略)またはベビーベッド(図示省略)が空調システム(1)を備えている。乳児を対象者(E)として、保育器は、該乳児の生体リズムに同調するように保育器内の温度を調節する。また、保育器は、保育器内の乳児の生体リズムを矯正するように保育器内の温度を調節する。
【0145】
実施形態1及びその変形例において、空調システム(1)は、生体リズムの周期及び振幅を考慮して室内空間(S)の室温を調節してもよい。例えば対象者(E)である乳幼児の生体リズムが12時間周期であった場合において、日中における生体リズムの振幅と夜間の生体リズムの振幅とに差が生じることが考えられる。この場合、夜間よりも日中の方が、睡眠が不安定(中途覚醒が多い)であると仮定する。第2制御装置(C2)は、生体センサ(54)から受信した対象者(E)の体温が、推定された生体リズムにおける体温よりも高い場合(すなわち、実際に測定された第2ピークが推定された生体リズムの第2ピークよりも高い場合)、対象者(E)の体温が十分に低下させることができていない判断して、室温を上昇させる。これにより、対象者(E)の体温は一時的に高くなる。このことで、血管が拡張し血流の増加が促されることで、深部体温が体表に放出される。第2制御装置(C2)は、対象者(E)の体温が一定より高くなったと判定すると、室温を下げるように空気調和装置(10)を制御する。このことで、深部体温が低下していき、対象者(E)に安定した睡眠を与えることができる。
【0146】
実施形態1の変形例において、入力部(64)には、年齢または月齢に加え、性別、身長、体重、および着衣量の少なくとも1つが入力されてもよい。これら複数のパラメータに基づいた標準リズムを設定することで、多種類の標準リズムを得ることができる。その結果、対象者(E)の生体リズムについてより精度高く異常判定を行うことができる。
【0147】
図20に示すように、上記実施形態2において推定された第1対象者(E1)の周期が、基準リズムの半分の周期であった場合(図20の破線)、次のように運転計画が作成されてもよい。第2制御装置(C2)は、最初の第1ピークの直後に室温を上げ、次の(2番目の)第1ピークの直前に室温を下げるように運転計画を作成する。最初の第1ピークの直後に室温が上がることで、体温の低下が抑制され、最初の第2ピークが以前よりも高くなる(図20の実線)。また、2番目の第1ピークの直前で室温が低下することで、体温の上昇が抑制され、2番目の第1ピークが以前よりも低くなる(図20の実線)。これを繰り返すことで、徐々に最初の第2ピーク及び2番目の第1ピークが小さくなることで、第1対象者(E1)の周期を基準リズムの周期に近づけることができる。
【0148】
第2実施形態及びその変形例において、基準リズムは同居する家族の生体リズムに基づかなくてもよい。基準リズムは、上記実施形態3のように年齢や性別等に応じた標準となる生体リズムとしてもよい。
【0149】
第3実施形態において、室内空間(S)には複数の対象者(E)がいてもよい。この場合、記憶部(61)は、室内空間(S)にいる対象者(E)全員に適した生体リズムを有する。対象者(E)全員に適した生体リズムとは、例えば各対象者(E)に最適な生体リズムの振幅、ピーク位置、ベースラインのそれぞれの平均を取ったリズムである。室内空間(S)は、学校の教室、オフィス、病院の病室などである。このことで、生徒、オフィスワーカー、入院患者に、本来あるべき生体リズムとなる温熱環境を提供できる。
【0150】
第3実施形態において、対象者(E)の情報は、筋肉量、妊娠の有無、授乳の有無、体表面積、人種、風土(生活している温熱環境)、代謝に係る疾患(代謝を上げる例として甲状腺・下垂体・副腎などの機能亢進症、本態性高血圧症、心不全、腎不全、白血病、多血症、発熱病などの疾患や、代謝を下げる例として、甲状腺・下垂体・副腎などの機能低下症、糖尿病などによる低栄養状態、重症貧血、自律神経失調症、統合失調症)の少なくとも1つであってもよい。
【0151】
第3実施形態において、対象者が「女性」である場合、ベースラインについて性周期を考慮してもよい。
【0152】
上述した各実施形態及びその各変形例において、空調システム(1)は、生体リズムに基づいて、室内空間(S)の温度及び湿度を調節してもよい。この場合、空気調和装置(10)は湿度センサ(図示省略)を備える。
【0153】
上述した各実施形態及びその各変形例において、空調システム(1)は、温熱環境を制御する装置として、照明装置(図示省略)、音響装置(図示省略)や香り発生器(図示省略)を有してもよい。空調システム(1)は、対象者(E)の生体リズムに基づいて、照度、音および香りを発生させてもよい。
【0154】
実施形態1の変形例、実施形態2、及びその変形例において、上記第2実施形態及びその変形例において、生体リズムの振幅、周期または位相の異常判定について、所定の閾値を設けなくてもよい。
【0155】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。以上に述べた「第1」、「第2」、…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0156】
以上説明したように、本開示は、空調システムについて有用である。
【符号の説明】
【0157】
1 空調システム
10 空気調和装置
54 生体センサ(検知部)
61 記憶部
62 推定部
64 入力部
65 受付部
C2 第2制御装置(制御部)
E 対象者
E1 第1対象者
E2 第2対象者
E3 第3対象者
S 室内空間(対象空間)
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