(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】アンダートレッド用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20241002BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241002BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20241002BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20241002BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08L9/00
B60C1/00 A
B60C11/00 D
B60C13/00 E
C08K3/36
(21)【出願番号】P 2023057958
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2024-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】郷原 櫻子
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 誠人
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-219224(JP,A)
【文献】特開2019-151738(JP,A)
【文献】特開2019-026757(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0021129(KR,A)
【文献】特開2013-177113(JP,A)
【文献】特開2023-069115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴム60質量%~90質量%と、未変性のブタジエンゴム10質量%~40質量%とを含むゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が60m
2/g~100m
2/gであるシリカが
25質量部~60質量部配合され、前記未変性のブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が2.8以下であることを特徴とするアンダートレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が40m
2/g~120m
2/gであるカーボンブラックが20質量部~70質量部配合されたことを特徴とする請求項1に記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記未変性のブタジエンゴムのシス-1,4結合含有率が95%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記未変性のブタジエンゴムは、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp〔単位:cps〕と100℃におけるムーニー粘度ML
1+4との比Tcp/ML
1+4が2.0~7.0の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のアンダートレッド用ゴ ム組成物。
【請求項5】
前記未変性のブタジエンゴムがネオジム系触媒により合成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
シランカップリング剤が配合され、前記シリカの配合量に対する前記シランカップリング剤の配合量の割合が3.0質量%~10.0質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部とを備え、前記トレッド部がタイヤ踏面を構成するキャップトレッド層とその内周側に配置されるアンダートレッド層とを積層して構成されたタイヤであって、前記アンダートレッド層が請求項1または2に記載のアンダートレッド用ゴム組成物で構成されたことを特徴とするタイヤ。
【請求項8】
前記アンダートレッド層を構成するアンダートレッドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力M100
UT〔単位:MPa〕と、前記サイドウォール部を構成するサイドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力M100
SW〔単位:MPa〕との比M100
UT/M100
SWが1.5~4.0であることを特徴とする請求項7に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてタイヤのアンダートレッド層に用いることを意図したアンダートレッド用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいては、環境負荷を低減するために走行時の燃費性能を向上することが求められている。そのため、空気入りタイヤの各部を構成するゴム組成物の発熱を抑制することが行われている。近年、燃費性能の更なる改善のために、例えば、空気入りタイヤのアンダートレッドゴム層を構成するゴム組成物(アンダートレッド用ゴム組成物)について発熱を抑制することが検討されている。
【0003】
ゴム組成物の発熱性の指標としては、一般に動的粘弾性測定による60℃におけるtanδ(以下、「tanδ(60℃)」という。)が用いられ、ゴム組成物のtanδ(60℃)が小さいほど発熱性が小さくなる。そして、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする方法として、例えば加硫剤の配合量を増加することや、カーボンブラック等の充填材の配合量を少なくすることが挙げられる(例えば特許文献1を参照)。しかしながら、これらの方法では、アンダートレッド用ゴム組成物として求められる破断伸びが十分に確保できず、タイヤにおいて操縦安定性や高速耐久性が必ずしも十分に得られない虞があった。そのため、アンダートレッド用ゴム組成物において、良好な低発熱性(tanδ(60℃))を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善する更なる対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善し、これら性能をバランスよく高度に両立することを可能にしたアンダートレッド用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のアンダートレッド用ゴム組成物は、イソプレン系ゴム60質量%~90質量%と、未変性のブタジエンゴム10質量%~40質量%とを含むゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が60m2/g~100m2/gであるシリカが25質量部~60質量部配合され、前記未変性のブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が2.8以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物は、上述の配合からなることで、良好な低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善することができる。具体的には、ゴム成分としてイソプレン系ゴムと未変性のブタジエンゴムとを上述の配合比率で併用することで低発熱性と高速耐久性をバランスよく向上することができる。また、このゴム成分に対して大粒径のシリカ(CTAB吸着比表面積が60m2/g~100m2/g)を適度な量で配合しているので低発熱性を向上することができる。更に、未変性のブタジエンゴムとして分子量分布(Mw/Mn)が2.8以下であるものを用いているので低発熱性を良好に維持しながら、タイヤにした時の操縦安定性や高速耐久性を効果的に向上することができる。これらの協働により、良好な低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善しこれら性能をバランスよく両立することができる。
【0008】
本発明においては、ゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が40m2/g~120m2/gであるカーボンブラックが20質量部~70質量部配合されることが好ましい。前述の大粒径シリカに加えて、充填剤として特定の粒径のカーボンブラックを適度に配合することで加工性(ゴムのまとまり、他部材との粘着性など)を向上することができる。
【0009】
本発明においては、未変性のブタジエンゴムのシス-1,4結合含有率が95%以上であることが好ましい。更に、未変性のブタジエンゴムは、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp〔単位:cps〕と100℃におけるムーニー粘度ML1+4との比Tcp/ML1+4が2.0~7.0の関係を満たすことが好ましい。これに加えて、未変性のブタジエンゴムはネオジム系触媒により合成されたものであることが好ましい。このように特定の条件を満たす未変性のブタジエンゴムを用いることで、上述の低発熱性および高速耐久性を向上する効果を高めることができ、良好な低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善するには有利になる。
【0010】
本発明においては、シランカップリング剤を配合することができ、その際、シリカの配合量に対するシランカップリング剤の配合量の割合を3.0質量%~10.0質量%にすることが好ましい。これによりシリカの分散を良好にすることができ、低発熱性と高速耐久性を向上するには有利になる。
【0011】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物は、タイヤのアンダートレッド層に好適に用いることができる。具体的には、本発明のアンダートレッド用ゴム組成物を使用するタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部とを備え、トレッド部がタイヤ踏面を構成するキャップトレッド層とその内周側に配置されるアンダートレッド層とを積層して構成されているとよく、このようなタイヤにおいて、アンダートレッド層を本発明のアンダートレッド用ゴム組成物で構成することが好ましい。このようにして本発明のアンダートレッド用ゴム組成物からなるアンダートレッド層を備えたタイヤは、本発明のアンダートレッド用ゴム組成物の優れた物性により、良好な低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善することができる。
【0012】
このとき、アンダートレッド層を構成するアンダートレッドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力M100UT〔単位:MPa〕と、サイドウォール部を構成するサイドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力M100SW〔単位:MPa〕との比M100UT/M100SWが1.5~4.0であるが好ましい。このように本発明のアンダートレッド用ゴム組成物を用いるアンダートレッド層と、それに隣接するサイドウォール部(サイドゴム)との引張応力(M100)の関係を適正化することで、低発熱性および高速耐久性を向上するには有利になる。
【0013】
尚、本発明において、「CTAB吸着比表面積」は、ISO 5794に準拠して測定するものとする。「重量平均分子量Mw」と「数平均分子量Mn」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定するものとする。「シス-1,4結合含有率」は、ブタジエンの結合様式であるシス-1,4-結合、トランス-1,4-結合、および1,2-ビニル結合のうちの、シス-1,4-結合の割合であり、赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。「100℃におけるムーニー粘度ML1+4」は、JIS K6300-1:2001に準拠して、ムーニー粘度計にてL形ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃の条件で測定するものとする。「25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp」は、対象となるブタジエンゴムを5重量%含むトルエン溶液の粘度であり、キャノンフェンスケ型粘度計を使用して25℃で測定するものとする。「23℃における100%伸長時の引張応力」は、JIS K6251に準拠して3号型ダンベル試験片を用い、引張速度500mm/分、温度23℃の条件で測定した値である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のアンダートレッド用ゴム組成物を使用する空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明のアンダートレッド用ゴム組成物が使用される空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0017】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(ベルト層7の全幅を覆うフルカバー8aとベルト層7の端部を局所的に覆うエッジカバー8bの2層)が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0018】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層10が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配されている。トレッドゴム層11は、物性の異なる2種類のゴム層(トレッド部1の踏面を構成するキャップトレッド11と、その内周側に配置されたアンダートレッド12)をタイヤ径方向に積層した構造を有する。
【0019】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物が使用されるタイヤは、上記のような空気入りタイヤ(その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体が充填されるタイヤ)であることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。非空気式タイヤの場合、本発明のアンダートレッド用ゴム組成物は、路面に当接する部分(空気入りタイヤにおけるキャップトレッド層11に相当する部位)の内周側に配置されたゴム層(空気入りタイヤにおけるアンダートレッド層12に相当する部位)に用いることができる。本発明が適用されるタイヤは、トレッド部1(トレッドゴム層10)がキャップトレッド11とアンダートレッド12とで構成されていれば、他の部位の基本構造は上述の構造に限定されるものではない。
【0020】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、イソプレン系ゴムおよび未変性のブタジエンゴムを必ず含む。このように、イソプレン系ゴムおよび未変性のブタジエンゴムを用いることで、破断伸びを良好に維持しながら、低発熱性を改善するには有利になる。
【0021】
イソプレン系ゴムとしては、各種天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、各種合成ポリイソプレンゴムを挙げることができる。これらイソプレン系ゴムの中でも、特に、天然ゴムを好適に用いることができる。イソプレン系ゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中、60質量%~90質量%、好ましくは65質量%~90質量%、より好ましくは70質量%~90質量%である。このような量のイソプレン系ゴム(特に天然ゴム)を含むことで、破断伸びや低発熱性をバランスよく向上することができる。イソプレン系ゴムの配合量が60質量%未満であると破断伸びが低下する。イソプレン系ゴムの配合量が90質量%を超えると低発熱性が悪化する。
【0022】
未変性のブタジエンゴムとしては、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が2.8以下、好ましくは2.5以下のものを用いる。このように、適度な分子量分布を有する未変性のブタジエンゴムを用いることで、ゴム物性がより良好になり、低発熱性を良好に維持しながら、タイヤにした時の操縦安定性や高速耐久性を効果的に向上することができる。未変性のブタジエンゴムの分子量分布(Mw/Mn)が2.8を超えるとヒステリシスロスが大きくなってゴムの発熱性が大きくなると共に、耐コンプレッションセット性が低下する。
【0023】
未変性のブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中、10質量%~40質量%、好ましくは15質量%~35質量%、より好ましくは20質量%~35質量%である。このように未変性のブタジエンゴムを適度に含有することで、破断伸びや低発熱性をバランスよく向上するには有利になる。未変性のブタジエンゴムの配合量が10質量%未満であると低発熱性が悪化する。未変性のブタジエンゴムの配合量が40質量%を超えると破断伸びが低下する。
【0024】
未変性のブタジエンゴムのシス-1,4結合含有率は好ましくは95%以上、より好ましくは96%~99%であるとよい。このようにシス-1,4結合含有率が大きいことで破断強度、破断伸びを向上するには有利になる。シス-1,4結合含有率が95%未満であると破断強度や破断伸びが低下する。尚、ブタジエンゴムのシス-1,4結合含有率の増減は、触媒等、通常の方法で適宜調製することができる。
【0025】
未変性のブタジエンゴムは、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp〔単位:cps〕と100℃におけるムーニー粘度ML1+4との比Tcp/ML1+4が好ましくは2.0~7.0、より好ましくは2.5~6.8の関係を満たすとよい。このように比Tcp/ML1+4を特定の範囲に設定することで、低発熱性、破断強度、破断伸びを両立するには有利になる。比Tcp/ML1+4が2.0未満であると低発熱性が悪化する。比Tcp/ML1+4が7.0を超えると加工性が悪化する。
【0026】
上述の比Tcp/ML1+4を設定するにあたって、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp自体の値は特に限定されないが、好ましくは50cps~200cps、より好ましくは80cps~180cpsに設定することができる。同様に、100℃におけるムーニー粘度ML1+4自体の値は特に限定されないが、好ましくは45~52、より好ましくは45~50に設定することができる。
【0027】
未変性のブタジエンゴムはネオジム系触媒により合成されたブタジエンゴム(以下、Nd‐BRと言う場合がある)であることが好ましい。他の触媒(例えばニッケルやコバルト)で重合されたブタジエンゴムを用いても所望の効果を得ることは出来るが、低発熱性、破断強度、破断伸びを両立するという観点においてはNd‐BRが好ましく用いられる。
【0028】
尚、ネオジム系触媒を用いて重合されたブタジエンゴム(Nd‐BR)は、公知の材料であり、ネオジム単体、ネオジムと他の金属類との化合物、有機ネオジム化合物等のネオジム系触媒を用いて重合されたブタジエンゴムである。これらネオジム系触媒によって合成されたブタジエンゴムは高分子量かつ分子量分布がシャープであるという特性を有する。Nd‐BRとしては、市販されているものを利用することができる。
【0029】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物を構成するゴム成分は、少なくとも上述のイソプレン系ゴム(特に天然ゴム)と未変性のブタジエンゴムの2種を含むが、任意で他のジエン系ゴムを含有することができる。他のジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に使用可能なゴムを用いることができる。例えば、未変性のスチレンブタジエンゴム等を例示することができる。また、イソプレン系ゴムとして天然ゴムを採用した場合、他のジエン系ゴムとしてイソプレンゴムを併用することもできる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0030】
本発明において、上述のゴム成分に対して充填剤としてシリカが必ず配合される。本発明で使用されるシリカとしては、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどのタイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカを使用することができる。但し、シリカのCTAB吸着比表面積は60m2/g~100m2/g、好ましくは70m2/g~90m2/g、より好ましくは75m2/g~85m2/gに限定される。このように粒径が大きいシリカを用いることで、低発熱性および耐摩耗性を向上することができる。シリカのCTAB吸着比表面積が60m2/g未満であると低発熱性が悪化する。シリカのCTAB吸着比表面積が100m2/gを超えると耐摩耗性が低下する。上述の条件を満たすシリカであれば、市販されているものの中から適宜選択して使用してもよく、通常の製造方法により得られたシリカを使用することもできる。
【0031】
シリカの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して3質量部~60質量部、好ましくは5質量部~50質量部、より好ましくは10質量部~50質量部である。このようにシリカを適度な量で配合することで、タイヤにしたときの低発熱性、操縦安定性、高速耐久性をバランスよく向上することができる。シリカの配合量が3質量部未満であると破断伸びが低下する。シリカの配合量が60質量部を超えると低発熱性が悪化する。
【0032】
本発明においては、充填剤として上述のシリカの他にカーボンブラックを配合することもできる。本発明で使用されるカーボンブラックとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるカーボンブラックのうち、CTAB吸着比表面積が好ましくは40m2/g~120m2/g、より好ましくは70m2/g~100m2/gであるカーボンブラックを使用するとよい。このようなカーボンブラックを用いることで、タイヤにしたときの低発熱性、操縦安定性、高速耐久性をバランスよく向上するには有利になる。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が40m2/g未満であると耐摩耗性が低下する。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が120m2/gを超えると低発熱性が悪化する。
【0033】
上記のようにシリカに加えてカーボンブラックを使用する場合、シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計は、上述のゴム成分100質量部に対して好ましくは40質量部~95質量部、より好ましくは45質量部~90質量部にするとよい。このようにシリカおよびカーボンブラックを適度な量で配合することで、タイヤにしたときの低発熱性、操縦安定性、高速耐久性をバランスよく向上するには有利になる。シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計が40質量部より少ない場合、破断強度が低下し、高速耐久性が悪化する。シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計が95質量部を超えると低燃費性が悪化し、破断伸びが低下する。
【0034】
更に、シリカおよびカーボンブラックを併用するにあたって、カーボンブラックの配合量Mcに対するシリカの配合量Msの比Ms/Mcを好ましくは0.05~0.7、より好ましくは0.1~0.6にするとよい。このようにシリカおよびカーボンブラックを適度なバランスで配合し、特に充填剤中のシリカ量を低く抑えることで、大粒径シリカを配合することによるtanδ(60℃)の悪化を抑制し、破断伸びや低発熱性をバランスよく向上することができる。カーボンブラックの配合量に対するシリカの配合量の比Ms/Mcが0.7を超えると加工性(ゴムのまとまり、他部材との粘着性など)が悪化する。
【0035】
本発明のゴム組成物は、シリカおよびカーボンブラック以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填剤としては、例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられる材料を例示することができる。
【0036】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物では、上述のシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤を配合することにより、ゴム成分(ジエン系ゴム)に対するシリカの分散性を向上することができる。シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。これらのなかでも、特に、分子中にテトラスルフィド結合を有するものを好適に用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し、好ましくは3.0質量%~10質量%、より好ましくは4.0質量%~9.0質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカの配合量の3.0質量%未満であると、配合量が微量であるため、シランカップリング剤を配合することによる効果が十分に見込めなくなる。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の10質量%を超えるとシランカップリング剤どうしが縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることが難しくなる。
【0037】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマーなど、一般的にタイヤ用ゴム組成物に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また、混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0038】
本発明のアンダートレッド用ゴム組成物は、上述のようにタイヤのアンダートレッド層に好適に用いることができ、本発明のアンダートレッド用ゴム組成物からなるアンダートレッド層を備えたタイヤは、本発明のアンダートレッド用ゴム組成物の優れた物性により、良好な低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善することができる。このように本発明のアンダートレッド用ゴム組成物がタイヤに用いられた際に、アンダートレッド層を構成するアンダートレッドゴム(つまり本発明のアンダートレッド用ゴム組成物の加硫物)の23℃における100%伸長時の引張応力M100UT〔単位:MPa〕と、サイドウォール部を構成するサイドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力M100SW〔単位:MPa〕との比M100UT/M100SWが好ましくは1.5~4.0、より好ましくは1.8~3.5であるとよい。このように本発明のアンダートレッド用ゴム組成物が使用されたアンダートレッド層と、それに隣接するサイドウォール部(サイドゴム)との引張応力(M100)の関係を適正化することで、低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善するには有利になる。比M100UT/M100SWが1.5未満であると低発熱性、操縦安定性、高速耐久性を改善する効果が限定的になる。比M100UT/M100SWが4.0を超えると低発熱性、操縦安定性、高速耐久性を改善する効果が限定的になる。
【0039】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
タイヤサイズが245/45R18であり、
図1に示す基本構造を有し、アンダートレッド用ゴム組成物の配合と、アンダートレッドゴムおよびサイドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力(M100
UT、M100
SW)およびその比M100
UT/M100
SWが表1~2のように設定された標準例1、比較例1~7、実施例1~8のタイヤ(試験タイヤ)を製造した。
【0041】
尚、アンダートレッド用ゴム組成物の配合について、すべての例で共通する配合は表3にまとめて示した。表1~2には、各例で使用したサイドゴムの種類を合わせて記載した。サイドゴムの種類は、表4に記載したサイドゴムA~Bの番号を記載し、これらサイドゴムA~Bの配合は表4に示した通りである。
【0042】
表1~2,4に示した引張応力(M100UT、M100SW)は、アンダートレッドゴムおよびサイドゴムを使用し、JIS K6251に準拠して3号型ダンベル試験片を作成し、引張速度500mm/分、温度23℃の条件で測定した値(単位:MPa)である。
【0043】
各試験タイヤを用いて、下記に示す方法により、操縦安定性、低転がり抵抗性、高速耐久性の評価を行った。
【0044】
操縦安定性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとし、排気量2000ccの試験車両に装着し、舗装路面からなるテストコースにて、操縦安定性についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、標準例1の結果を3点(基準)とする5段階で評価した。この点数が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0045】
低転がり抵抗性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、室内ドラム試験機(ドラム径:1707.6mm)を用いて、ISO28580に準拠し、空気圧210kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低く、低転がり抵抗性に優れることを意味する。
【0046】
高速耐久性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、空気圧340kPa、荷重5kN、ネガティブキャンバー角度3°の条件で室内ドラム試験機(ドラム径:1707.6mm)にて走行試験を実施した。具体的には、初期速度250km/hとし、20分毎に10km/hずつ速度を増加させ、タイヤに故障が発生するまで走行させ、その到達ステップ(速度)を測定した。評価結果は、標準例1の測定値(速度)を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、故障までの到達ステップ(速度)が大きく、キャンバー角度付きの高速耐久性に優れることを意味する。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
表1~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、RSS#3
・BR1:日本ゼオン社製 Nipol 1220(コバルト触媒により合成されたブタジエンゴム、シス-1,4結合含有率:98モル%、Mw/Mn=2.9、Tcp/ML1+4=1.4)
・BR2:日本ゼオン社製 Nipol 1250H(リチウム触媒により合成されたブタジエンゴム、シス-1,4結合含有率:35モル%、Mw/Mn=1.4)
・BR3:宇部興産社製 UBEPOL BR360L(コバルト触媒により合成されたブタジエンゴム、シス-1,4結合含有率:98モル%、Mw/Mn=2.2、Tcp/ML1+4=2.8)
・BR4:ARLANXEO社製 Buna CB22(ネオジム触媒により合成されたブタジエンゴム、シス-1,4結合の含有量:98モル%、Mw/Mn=2.3、Tcp/ML1+4=6.5)
・BR5:ARLANXEO社製 Buna CB24(ネオジム触媒により合成されたブタジエンゴム、シス-1,4結合の含有量:96モル%、Mw/Mn=2.0、)
・CB1:カーボンブラック(等級:ISAF)、東海カーボン社製 シースト6(CTAB吸着比表面積:109m2/g)
・CB2:カーボンブラック(等級:HAF)、東海カーボン社製 シースト3(CTAB吸着比表面積:82m2/g)
・CB3:カーボンブラック(等級:FEF)、東海カーボン社製 シーストF(CTAB吸着比表面積:47m2/g)
・シリカ1:Evonik社製 ULTRASIL VN3GR(CTAB吸着比表面積:175m2/g)
・シリカ2:Solvay社製 ZEOSIL 115GR(CTAB吸着比表面積:115m2/g)
・シリカ3:Solvay社製 Zeosil 1185GR(CTAB吸着比表面積:80m2/g)
・シランカップリング剤:Evonik industries AG社製 Si69
・ステアリン酸:日新理化社製 ステアリン酸50S
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・老化防止剤:NOCIL LIMITED社製 PILFLEX 13
・タッキファイヤー:日立化成社製 ヒタノール1502Z
・硫黄:四国化成工業社製 ミュークロンOT‐20
・加硫促進剤:三新化学工業社製 サンセラーNS‐G
【0051】
【0052】
表4において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、天然ゴム、RSS#3
・BR:日本ゼオン社製 Nipol 1220
・CB:カーボンブラック(等級:FEF)、東海カーボン社製 シーストF(CTAB吸着比表面積:47m2/g)
・タッキファイヤー:日立化成社製 ヒタノール1502Z
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・老化防止剤:NOCIL LIMITED社製 PILFLEX 13
・ステアリン酸:日新理化社製 ステアリン酸50S
・アロマオイル:ENEOS社製、アロマックス T-DAE
・硫黄:鶴見化学工業社製 サルファックス5
・加硫促進剤:三新化学工業社製 サンセラーNS‐G
【0053】
表1~2から明らかなように、実施例1~8は、標準例1に対して、操縦安定性、低転がり抵抗性、高速耐久性を向上し、これら性能をバランスよく両立した。一方、比較例1は、シリカのCTAB比表面積が大きいため、低転がり抵抗性が悪化した。比較例2は、シリカのCTAB比表面積が大きいため、低転がり抵抗性が悪化した。比較例3は、変性ブタジエンゴムが用いられているため、高速耐久性が低下した。比較例4は、シリカの配合量が少ないため、高速耐久性が低下した。比較例5は、シリカの配合量が多いため、操縦安定性が低下した。比較例6は、イソプレン系ゴム(天然ゴム)の配合量が多く、未変性のブタジエンゴムの配合量が少ないため、低転がり抵抗性が悪化した。比較例7は、イソプレン系ゴム(天然ゴム)の配合量が少なく、未変性のブタジエンゴムの配合量が多いため、操縦安定性および高速耐久性が低下した。
【0054】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] イソプレン系ゴム60質量%~90質量%と、未変性のブタジエンゴム10質量%~40質量%とを含むゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が60m2/g~100m2/gであるシリカが3質量部~60質量部配合され、前記未変性のブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が2.8以下であることを特徴とするアンダートレッド用ゴム組成物。
発明[2] 前記ゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が40m2/g~120m2/gであるカーボンブラックが20質量部~70質量部配合されたことを特徴とする発明[1]に記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
発明[3] 前記未変性のブタジエンゴムのシス-1,4結合含有率が95%以上であることを特徴とする発明[1]または[2]に記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
発明[4] 前記未変性のブタジエンゴムは、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp〔単位:cps〕と100℃におけるムーニー粘度ML1+4との比Tcp/ML1+4が2.0~7.0の関係を満たすことを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
発明[5] 前記未変性のブタジエンゴムがネオジム系触媒により合成されたものであることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
発明[6] シランカップリング剤が配合され、前記シリカの配合量に対する前記シランカップリング剤の配合量の割合が3.0質量%~10.0質量%であることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれかに記載のアンダートレッド用ゴム組成物。
発明[7] タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部とを備え、前記トレッド部がタイヤ踏面を構成するキャップトレッド層とその内周側に配置されるアンダートレッド層とを積層して構成されたタイヤであって、前記アンダートレッド層が発明[1]~[6]のいずれかに記載のアンダートレッド用ゴム組成物で構成されたことを特徴とするタイヤ。
発明[8] 前記アンダートレッド層を構成するアンダートレッドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力M100UT〔単位:MPa〕と、前記サイドウォール部を構成するサイドゴムの23℃における100%伸長時の引張応力M100SW〔単位:MPa〕との比M100UT/M100SWが1.5~4.0であることを特徴とする発明[7]に記載のタイヤ。
【符号の説明】
【0055】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
10 トレッドゴム層
11 キャップトレッド層
12 アンダートレッド層
20 サイドゴム層
30 リムクッションゴム層
CL タイヤ赤道
【要約】
【課題】良好な低発熱性を確保しながら、操縦安定性や高速耐久性を改善し、これら性能をバランスよく高度に両立することを可能にしたアンダートレッド用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】イソプレン系ゴム60質量%~90質量%と、未変性のブタジエンゴム10質量%~40質量%とを含むゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が60m
2/g~100m
2/gであるシリカを3質量部~60質量部配合し、未変性のブタジエンゴムとして重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が2.8以下のものを用いる。
【選択図】
図1