IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ツール株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エンドミル 図1
  • 特許-エンドミル 図2
  • 特許-エンドミル 図3
  • 特許-エンドミル 図4
  • 特許-エンドミル 図5
  • 特許-エンドミル 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023525816
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2022021924
(87)【国際公開番号】W WO2022255299
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2021091625
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021107997
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 博斗
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 佑太
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-256412(JP,A)
【文献】特開平06-114621(JP,A)
【文献】特表2012-518550(JP,A)
【文献】中国実用新案第211360799(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0158095(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0090273(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端および後端を規定する回転軸を有するエンドミル本体と、前記エンドミル本体の先端側に形成された切刃部と、前記切刃部において前記回転軸に沿って捩れながら延びる複数の切屑排出溝と、前記切屑排出溝と外周逃げ面との回転方向前方側の交差稜線部に形成された複数の外周刃とを有するエンドミルであって、
前記切刃部は、前記外周刃を不連続にする複数の切欠部を有し、
すべての前記切欠部の中で最も後端側に配置される第1切欠部は、第1外周刃に設けられており、
前記切刃部の後端の軸直角断面において、すべての前記外周刃の分割角度が互いに異なり、前記第1外周刃の分割角度は最も小さいことを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
前記切欠部はそれぞれ前記外周刃の延長線上に非切削領域を有し、前記切刃部内のすべての前記非切削領域の周方向位置は互いに重なっていないことを特徴とする、
請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
前記切刃部内のすべての前記切欠部の周方向位置は互いに重なっていないことを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項4】
周方向位置が隣り合う2つの前記切欠部の回転方向前端間の周方向間隔のうち少なくとも1つの前記周方向間隔は、他の前記周方向間隔と異なっていることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項5】
前記外周刃の軸方向長さは、刃径の2倍以上であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項6】
前記外周刃は5つ以上設けられていることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項7】
すべての前記外周刃のねじれ角は、35°以上であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項8】
すべての前記外周刃のねじれ角は互いに等しいことを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項9】
前記外周刃の延在方向に連続する最大切刃長さが刃径の2.7倍以下となるように、前記切欠部は配置されていることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項10】
前記外周刃の延在方向に連続する最小切刃長さが刃径の0.6倍以上となるように、前記切欠部は配置されていることを特徴とする、
請求項1又は2記載のエンドミル。
【請求項11】
前記切欠部はそれぞれ、軸方向位置が最も近い前記切欠部と、周方向位置が最も近い前記切欠部とが異なるように配置されていることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項12】
前記外周刃は右ねじれであり、すべての前記切欠部は、軸方向位置が隣り合う2つの前記切欠部のうち、後端側に位置する前記切欠部が、先端側に位置する前記切欠部よりも回転方向前方に位置するように配置されていることを特徴とする、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周刃に切欠部(ニック)を設けた不等分割エンドミルに関する。
本願は、2021年5月31日に日本に出願された特願2021-091625号および、2021年6月29日に日本に出願された特願2021-107997号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
高能率な切削を行なう場合、外周刃間の周方向間隔(分割角度)を変えることで、びびり振動の発生を抑制できることが知られている。また、外周刃に切欠部(ニック)を設けることで切屑の長さを短縮させ、切屑の噛み込みによる外周刃のチッピングを抑制することも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-000696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加工能率の更なる向上が求められる中、これらの技術を適用したとしても、外周刃のチッピングを抑えながら十分に長い時間切削を行なうことは難しい。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、高能率に切削を行うことができるとともに、耐欠損性を向上できるエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のエンドミルは、先端および後端を規定する回転軸を有するエンドミル本体と、前記エンドミル本体の先端側に形成された切刃部と、前記切刃部において前記回転軸に沿って捩れながら延びる複数の切屑排出溝と、前記切屑排出溝と外周逃げ面との回転方向前方側の交差稜線部に形成された複数の外周刃とを有するエンドミルであって、前記切刃部は、前記外周刃を不連続にする複数の切欠部を有し、すべての前記切欠部の中で最も後端側に配置される第1切欠部は、第1外周刃に設けられており、前記切刃部の後端の軸直角断面において、少なくとも1つの前記外周刃の分割角度が、他の前記外周刃の分割角度と異なり、前記第1外周刃の分割角度は最も小さいことを特徴とする。
【0007】
本明細書において「外周刃の分割角度θ」とは、ある外周刃と、その外周刃と回転方向前方にて隣り合う隣接外周刃との周方向間隔を意味する。より具体的には、軸直角断面において、ある外周刃と回転軸とを結ぶ直線と、その外周刃の隣接外周刃と回転軸とを結ぶ直線とがなす角度を意味する。
【0008】
切刃部は、後端側へ行くほど、工作機械に把持される部分に近くなるため、切削時に外周刃にかかる応力が分散されにくくなる。更に、切欠部は外周刃を切り欠いた部分であるため、切欠部の周辺は応力が集中しやすい。一方、本態様では、最も応力が分散されにくい最も後端側に位置するとともに、形状的にも応力が集中しやすい切欠部(第1切欠部)を、切削距離が最も短い外周刃(第1外周刃)に設ける。これにより、第1切欠部周辺の外周刃に作用する負荷自体を軽減させることで、外周刃の中でもとりわけチッピングが起きやすかった軸方向後端側におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。
【0009】
本発明の一態様では、前記切欠部はそれぞれ前記外周刃の延長線上に非切削領域を有し、前記切刃部内のすべての前記非切削領域の周方向位置は互いに重なっていない構成としてもよい。
【0010】
上記のように、切刃部内のすべての非切削領域の周方向位置が互いに重ならないように、非切削領域を配置することで、切削中、被削材は、同じタイミングで複数の非切削領域と面することはなく、1つの非切削領域と面しているか、あるいは非切削領域とまったく面していないかのいずれかとなる。そのため、切刃部が受ける切削中の切削抵抗の変化量は小さく、かつ切削抵抗が変化するタイミングも多数に分散され、切削抵抗の変動を小さく維持することができる。その結果、送り速度や切削速度を著しく大きくしたとしても、びびり振動が起きにくい。更に、軸方向の切り込み量を著しく大きくして、切欠部を多く設けたとしても、切欠部の数によらず、切削中の切削抵抗の変動を小さく維持することができ、びびり振動が起きにくい。これらの相乗効果により、切刃部内のすべての非切削領域の周方向位置が互いに重ならないように非切削領域を配置することで、外周刃のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。
【0011】
本発明の一態様では、前記切刃部内のすべての前記切欠部の周方向位置は互いに重なっていない構成としてもよい。
【0012】
このような構成とすることで、切削抵抗が変化するタイミングがより分散され、びびり振動の発生をより抑えることができる。その結果、外周刃のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。
【0013】
本発明の一態様では、周方向位置が隣り合う2つの前記切欠部の回転方向前端間の周方向間隔のうち少なくとも1つの前記周方向間隔は、他の前記周方向間隔と異なっている構成としてもよい。このような構成とすることで、切削抵抗が低下するタイミングの周期性を緩和させることができる。びびり振動が起きにくくなって、外周刃のチッピングを抑制しながら、より一層高能率な加工が可能となる。
【0014】
本発明の一態様では、前記外周刃の軸方向長さ(刃長)は、刃径の2倍以上である構成としてもよい。従来は刃長が長くなるほど、加工能率は向上するものの、エンドミル本体に作用する応力が増大する上、切刃部の中でも、特に工作機械の把持部に近い領域ほど(軸方向後端側ほど)、応力が分散されにくく、チッピングが起きやすくなる。更に、切欠部周辺には応力が集中しやすく、チッピングが起きやすくなる。
一方、本態様では、外周刃の刃長を刃径の2倍以上としつつ、最も後端側に位置する切欠部を、切刃部の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度(切削距離)を有する外周刃に設ける。これにより、刃長を長くして、軸方向の切り込み量を増大させたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部付近の切削負荷を軽減させることで、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0015】
本発明の一態様では、前記外周刃は5つ以上設けられている構成としてもよい。従来は刃数を増やし、送り速度を大きくするほど、加工能率は向上するものの、単位時間あたりの被削材との接触距離が増大するため、エンドミル本体に作用する応力も増大してしまう。特に、切刃部の中でも工作機械の把持部に近い領域ほど(軸方向後端側ほど)、応力が分散されにくく、チッピングが起きやすくなる。更に、切欠部には外周刃が存在していないため、切欠部周辺には応力が集中しやすく、チッピングが起きやすくなる。
一方、本態様では、外周刃を5つ以上設けるとともに、最も後端側に位置する切欠部を、切刃部の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度(切削距離)を有する外周刃に設ける。これにより、刃数を増やし、送り速度を大きくさせたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部付近の切削負荷を軽減させることで、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0016】
本発明の一態様では、すべての前記外周刃のねじれ角は、35°以上である構成としてもよい。
従来は、ねじれ角が大きくなるほど、送り速度を上げることができ、加工能率は向上するものの、被削材との接触距離が増大するため、エンドミル本体に作用する応力も増大してしまう。特に、切刃部の中でも工作機械の把持部に近くい領域ほど(軸方向後端側ほど)、応力が分散されにくく、チッピングが起きやすくなる。更に、切欠部には外周刃が存在していないため、切欠部周辺には応力が集中しやすく、チッピングが起きやすくなる。
一方、本態様では、最も後端側に位置する切欠部を、切刃部の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度(切削距離)を有する外周刃に設けているので、ねじれ角を大きくして、送り速度や切削速度を増大させたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部付近の切削負荷を軽減させることができる。これにより、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0017】
本発明の一態様では、すべての前記外周刃のねじれ角は互いに等しい構成としてもよい。
このような構成にすると、より簡便に製造することができる上、びびり振動も発生しにくい。これにより、外周刃のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
従来は外周刃間でねじれ角を異ならせるという複雑な構成にすることで、高能率な切削を行なったとしても、びびり振動の発生を抑制し、チッピングを起きにくくさせることが知られている。
一方、本態様では、最も後端側に位置する切欠部を、切刃部の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度を有する外周刃に設けているので、すべてのねじれ角を等しくしたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部付近の切削負荷を軽減させることができる。これにより、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、より簡便な構成で、外周刃のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0018】
本発明の一態様では、前記外周刃の延在方向に連続する最大切刃長さが刃径Dの2.7倍以下となるように、前記切欠部は配置されている構成としてもよい。
従来は、外周刃の最大切刃長さが刃径Dの2.7倍以下となるほど多くの切欠部を設けると、切刃部の中でより後端側にも切欠部が設けられるようになり、切刃部の後端側においてチッピング起きやすくなるおそれがあった。
一方、本態様は、最も後端側に位置する切欠部を、切刃部の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度を有する外周刃に設けているので、外周刃の最大切刃長さが刃径Dの2.7倍以下となるように、より後端側に切欠部を配置したとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部付近の切削負荷を軽減することができる。これにより、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。
【0019】
前記外周刃の延在方向に連続する最小切刃長さが刃径の0.6倍以上となるように、前記切欠部は配置されている構成であってもよい。
この構成によれば、切欠部の数が過多となることを防ぎ、びびり振動の発生をより抑制できるため、外周刃のチッピングをより抑制することができる。
【0020】
本発明の一態様では、前記切欠部はそれぞれ、軸方向位置が最も近い前記切欠部と、周方向位置が最も近い前記切欠部とが、異なるように配置されている構成としてもよい。
この構成によれば、切欠部の周方向の配置間隔を適度にあけることができる。切削中、切削抵抗の変動が局所的に大きい箇所がより現れにくくなり、びびり振動が起きにくくなる。
【0021】
本発明の一態様では、前記外周刃は右ねじれであり、すべての前記切欠部は、軸方向位置が隣り合う2つの前記切欠部のうち、後端側に位置する前記切欠部が、先端側に位置する前記切欠部よりも回転方向前方に位置するように配置されている構成としてもよい。
右ねじれエンドミルにおいて、外周刃のねじれの向きとは逆向きに、切欠部をこのような右下がり配置にすると、周方向位置が隣り合う切欠部8間の周方向間隔をより小さくすることができ、切欠部をより高密度に配置することができる。その結果、このような右下がり配置では、切刃部内のすべての切欠部(および非切削領域)の周方向位置が互いに重なることなく、より多くの切欠部を配置することができる。切刃部の軸方向長さが長くなるほど、切屑長さが長くならないように、切欠部の数を増やす必要があり、刃径が大きくなるほど、切欠部の寸法を大きくする必要があるため、これらのような場合に右下がり配置は特に好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、高能率に切削を行うことができるとともに、耐欠損性を向上できるエンドミルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態におけるエンドミルの構成を示す図である。
図2図2は、第1実施形態におけるエンドミルの構成を示す斜視図である。
図3図3は、第1実施形態におけるエンドミルの切刃部3の軸方向後端における軸直角断面図である。
図4図4は、第1実施形態の切欠部の周辺の拡大図である。
図5図5は、第1実施形態におけるエンドミルの切刃部の外周面全体を示す展開図である。
図6図6は、第2実施形態におけるエンドミルの切刃部の外周面全体を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明における各実施形態のエンドミルの構成について図面を用いて説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態におけるエンドミル10の構成を示す図である。図2は、第1実施形態におけるエンドミル10の構成を示す斜視図である。
【0026】
図1に示す本実施形態のエンドミル10は、先端および後端を規定する回転軸(軸線O)を有するエンドミル本体1を有する。エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした外径略円柱状に形成されている。エンドミル本体1の後端部分(図1において上側部分であるシャンク部2)は、円柱状のままである。エンドミル本体1の先端部分(図1において下側部分である切刃部3)には、エンドミル本体1を研削することによって切屑排出溝4と外周逃げ面11とが形成されており、切屑排出溝4と外周逃げ面11との回転方向前方側の交差稜線部には外周刃7が形成されている。
【0027】
このようなエンドミル本体1は、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線Oの軸回りに沿ってエンドミル回転方向Tに回転させられることで、例えば、軸線Oに垂直な方向に送り出されて、被削材に切削加工を施していく。
【0028】
切屑排出溝4は、切刃部3の外周において、切刃部3の軸方向先端から後端に向かうに従って、エンドミル回転方向Tとは反対側に軸線回りに捩れて延びている。本実施形態では、5つの切屑排出溝4が周方向に間隔を開けて形成されている。
【0029】
切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tの前方を向く壁面であるすくい面12と、すくい面12に隣接する切刃部3の外周面である外周逃げ面11との回転方向前方側の交差稜線部には、外周刃7が形成されている。本実施形態において、切刃部3は、5つの外周刃7を有している。また、切刃部3は、外周刃7の延在方向において外周刃7を不連続にする複数の切欠部8を有している。本実施形態では、全ての外周刃7が切欠部8を1つ以上有している場合を例示したが、本発明の実施態様において、切刃部3が複数の切欠部8を有していればよく、切欠部8が設けられていない外周刃7が存在していてもよい。外周刃7は直線状に延在している。
【0030】
図2に示すように、各切屑排出溝4の先端部には、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tの前方側を向く壁面に沿って凹溝状のギャッシュ5がそれぞれ形成されている。エンドミル本体1は5つのギャッシュ5を有する。これらギャッシュ5のエンドミル回転方向Tを向く壁面の先端縁には、この壁面をすくい面とする底刃6が各外周刃7の先端から内周側に延びるように形成されている。
【0031】
本実施形態において、各外周刃7は、外周刃7の延在方向に沿って(言い換えると、軸方向先端から後端に向かって)一定のねじれ角を有する。また、切刃部3内のすべての外周刃7のねじれ角は互いに等しい。
【0032】
図3は、第1実施形態におけるエンドミルの切刃部3の軸方向後端における軸直角断面図である。本明細書においては、ある外周刃7の分割角度(切削距離)は、その外周刃7と軸線Oとを結ぶ直線と、その外周刃7と回転方向前方にて隣り合う外周刃7と軸線Oとを結ぶ直線とがなす角度を意味する。
【0033】
図3では、周方向に並ぶ5つの外周刃7を、エンドミル回転方向Tへ向かって、第1外周刃7A、第2外周刃7B、第3外周刃7C、第4外周刃7D、第5外周刃7Eと名付けている。また、第1外周刃7A~第5外周刃7Eと軸線Oとを結ぶ直線をそれぞれ、第1直線R1、第2直線R2、第3直線R3、第4直線R4、第5直線R5と名付けている。また、第1直線R1と第2直線R2とがなす角度を第1外周刃7Aの分割角度θ1、第2直線R2と第3直線R3とがなす角度を第2外周刃7Bの分割角度θ2、第3直線R3と第4直線R4とがなす角度を第3外周刃7Cの分割角度θ3、第4直線R4と第5直線R5とがなす角度を第4外周刃7Dの分割角度θ4、第5直線R5と第1直線R1とがなす角度を第5外周刃7Eの分割角度θ5と名付けている。
【0034】
図3に示すように、本実施形態においては、切刃部3の後端の軸直角断面において、すべての外周刃7の分割角度θが互いに異なっている。すなわち、エンドミル10は、不等分割エンドミルである。少なくとも1つの外周刃7の分割角度θを他の外周刃7の分割角度θと異ならせることによって、びびり振動の発生を抑制することができる。
【0035】
各外周刃7A~7Eの分割角度は、θ1<θ3<θ4<θ5<θ2の順番に大きくなっている。つまり、第1外周刃7Aの分割角度θ1は、すべての外周刃7の分割角度θの中で最も小さい。各外周刃7A~7Eの切削距離は、各外周刃の外周刃間隔(分割角度θ)に比例する。従って、第1外周刃7Aの切削距離は、すべての外周刃7A~7Eの中で最も短い。
【0036】
図4は、第1実施形態の切欠部8の周辺の拡大図である。
図4に示すように、切欠部8は外周刃7を外周刃7の延在方向において不連続にする箇所であり、外周刃7の延長線上に対応する箇所(線)である非切削領域9を有する。各切欠部8は、一方の切屑排出溝4から周方向に隣り合う他方の切屑排出溝4まで、外周逃げ面11を周方向に横断するように延びるとともに、径方向内側へ窪んだ凹溝である。切欠部8は、一方の切屑排出溝4と周方向に隣り合う他方の切屑排出溝4とを連通させる。切欠部8は、一方の切屑排出溝4の壁面を構成する、外周刃7のすくい面12にて開口し、一方の切屑排出溝4と周方向で隣り合う他方の切屑排出溝4を構成する壁面13にも開口し、逃げ面11にも開口する。各切欠部8は、エンドミル回転方向Tと平行に延びている。各切欠部8は、外周刃7のすくい面12における形状が互いに等しい形状をなしている。
【0037】
本実施形態においては切欠部8を上記のように構成したが、切欠部8は、外周刃7を不連続にするものであれば、どのような形状、周方向長さを有していてもよい。例えば、切欠部8は外周逃げ面11全体を横断している必要はなく、他方の切屑排出溝4(壁面13)まで至っていなくてもよい。切欠部8のエンドミル回転方向T後方側の端部が、外周逃げ面11上に位置していてもよい。
【0038】
図5は、第1実施形態の切刃部3の外周面全体の展開図を模式的に図示したものである。図5の右端は図5の左端に連続する。また、図5の下側は切刃部3の先端側であり、図5の上側は切刃部3の後端側である。
本実施形態では、切刃部3は5つの外周刃7A~7Eを有しており、各外周刃7A~7Eにはそれぞれ少なくとも1つの切欠部8が設けられている。
【0039】
本実施形態では、切刃部3は8つの切欠部8を有しており、3つの外周刃7はそれぞれ2つの切欠部8を有し、2つの外周刃7はそれぞれ1つの切欠部8を有している。より具体的には、第1外周刃7Aは、先端側に位置する切欠部8Aaと後端側に位置する切欠部8Abとを有する。第2外周刃7Bは、先端側に位置する切欠部8Baと後端側に位置する切欠部8Bbとを有する。第3外周刃7Cは、先端側に位置する切欠部8Caと後端側に位置する切欠部8Cbとを有する。第4外周刃7Dは、切欠部8Dのみ有する。第5外周刃7Eは、切欠部8Eのみ有する。
【0040】
本実施形態において、切刃部3内のすべての切欠部8の中で最も軸方向後端側に位置する切欠部8Abは、切刃部3の軸方向後端の軸直角断面において最も小さい分割角度θ1を有する第1外周刃7Aに設けられている。言い換えると、切刃部3内のすべての切欠部8の中で最も軸方向後端側に位置する切欠部8Abは、切刃部3の軸方向後端において、切削距離が最も小さい外周刃7Aに設けられている。
【0041】
エンドミル10は、軸方向後端側ほど、工作機械に把持される領域に近いため、応力が分散されにくい。また、切欠部8は外周刃7が存在しない領域ゆえ、切欠部8近傍の外周刃には応力が集中しやすい。
しかしながら、本実施形態のように、すべての切欠部8の中で最も後端側に配置された切欠部8Abを、切刃部3の軸方向後端の軸直角断面において最も小さい分割角度θ1を有する外周刃7Aに設けることで、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に配置された切欠部8Ab付近の切削負荷を軽減させることができる。これにより、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、極めて高能率な加工においても、外周刃7のチッピングの発生を抑えることが可能となる。極めて高能率な加工とは、例えば軸方向の切り込み量(ap)が刃径(D)の2倍以上である切削条件、または切削速度(Vc)250m/min以上である切削条件、または切屑排出量(Q)250cm/min以上である切削条件、またはこれら3条件のうちの2つ以上を組み合わせた切削条件などを挙げることができる。
【0042】
本実施形態では、5つの外周刃7A~7Eの分割角度θ1~θ5が互いに異なっているが、本発明の実施態様において、少なくとも1つの外周刃7の分割角度θが、他の外周刃7の分割角度θと異なっていればよく、最も小さい分割角度θを有する外周刃7が複数あってもよい。最も小さい分割角度θを有する外周刃7が複数ある場合、最も後端側に配置される切欠部8は、その最も小さい分割角度θを有する外周刃7のいずれかに設けられればよい。
【0043】
本実施形態においては、各外周刃7は、外周刃7の延在方向に沿って一定のねじれ角を有するとともに、すべての外周刃7のねじれ角は互いに等しい。そのため、図3に示す軸方向後端における軸直角断面だけでなく、いずれの軸方向位置での軸直角断面においても、外周刃7A~7Eの分割角度θ1~θ5は、θ1<θ3<θ4<θ5<θ2の順番に大きくなっている。本実施形態においては、切刃部3の軸方向後端での軸直角断面において、少なくとも1つの外周刃7の分割角度が異なってさえいればよく、ねじれ角は外周刃7の延在方向に一定でなくても、外周刃7間でねじれ角が異なっていてもよい。
【0044】
図5に示すように、切刃部3内の各非切削領域9Aa~9Eの周方向位置CQは、回転方向後方へ向かって、非切削領域9Aa、9Bb、9E、9Ab、9Ca、9D、9Ba、9Cbの順で並んでいる。そして、切刃部3内のすべての非切削領域9の周方向位置CQは互いに重なっていない。
【0045】
本明細書において「切刃部3内のすべての各非切削領域9の周方向位置CRが重なっていない」とは、切刃部3内のすべての各非切削領域9を同一軸直角平面上に投影した場合に、各非切削領域9の占有する領域が互いに重なっていないことを意味する。また、本明細書において「重なっていない」配置とは、重複する配置は含まず、離間する配置と隣接する配置は含む。つまり、切削中、被削材は、同じタイミングで複数の非切削領域9と面することはなく、1つの非切削領域9と面しているか、あるいは非切削領域9とまったく面していないかのいずれかである。切欠部の周方向位置は、軸線を中心とし、外周面上の任意の場所を0°としたときの角度範囲で表すこともできる。例えば、ある切欠部の周方向位置は0°~5°、その切欠部と周方向に隣り合う切欠部の周方向位置は10°~15°というように、角度範囲で表わすこともできる。これによれば、バックテーパの有無にかかわらず周方向位置を表すことができる。
【0046】
非切削領域9は、外周刃7が存在していない領域であるため、切削抵抗を低下させる領域である。そこで、被削材と同じタイミングで面する非切削領域9の数が多ければ多いほど、切刃部3が受ける切削抵抗は小さくなる。つまり、切刃部3内に設ける切欠部8の数が同じ場合、被削材と同じタイミングで面する非切削領域9の数が多ければ多いほど、エンドミル10が受ける切削中の切削抵抗の変化量は大きくなりやすい。
【0047】
本実施形態では、切刃部3内のすべての非切削領域9の周方向位置CQが互いに重なっていないため、切削中、被削材は、同じタイミングで複数の非切削領域9と面することはなく、1つの非切削領域9と面しているか、あるいは非切削領域9とまったく面していないかのいずれかである。そのため、エンドミル10が受ける切削中の切削抵抗の変化量は小さく、かつ切削抵抗が変化するタイミングも細かく分散され、切削抵抗の変動を小さく維持することができる。その結果、送り速度や切削速度を著しく大きくしたとしても、びびり振動が起きにくい。更に、軸方向の切り込み量を著しく大きくして、多くの切欠部8を設けたとしても、切欠部8の数によらず、切削中の切削抵抗の変動を小さく維持することができ、びびり振動が起きにくい。これらの相乗効果により、切刃部3内のすべての非切削領域9の周方向位置CQが互いに重ならないように非切削領域9を配置することで、外周刃7のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。
【0048】
更に、本実施形態では、切刃部3内のすべての切欠部8の周方向位置CRも重なっていない。
【0049】
本明細書において「切刃部3内のすべての切欠部8の周方向位置CRが重なっていない」とは、切刃部3内のすべての切欠部8を同一軸直角平面上に投影した場合に、各切欠部8の占有する領域が互いに重なっていないことを意味する。「重なっていない」配置とは、重複する配置は含まず、離間する配置と隣接する配置は含む。つまり、切削中、被削材は、同じタイミングで複数の切欠部8と面することはなく、1つの切欠部8と面しているか、あるいは切欠部8とまったく面していないかのいずれかである。切欠部の周方向位置は、軸線を中心とし、外周面上の任意の場所を0°としたときの角度範囲で表すこともできる。例えば、ある切欠部の周方向位置は0°~5°、その切欠部と周方向に隣り合う切欠部の周方向位置は10°~15°というように、角度範囲で表わすこともできる。これによれば、バックテーパの有無にかかわらず周方向位置を表すことができる。
【0050】
このような構成とすることで、切削抵抗が変化するタイミングがより分散され、びびり振動の発生をより抑えることができる。その結果、外周刃7のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。
【0051】
また、周方向位置が隣り合う2つの切欠部8の回転方向前端間の周方向間隔CSのうち、少なくとも1つの周方向間隔CSは、他の周方向間隔CSと異なっている。言い換えると、周方向位置が隣り合う2つの非切削領域9の回転方向前端間の周方向間隔CSのうち、少なくとも1つの周方向間隔CSは、他の周方向間隔CSと異なっている。例えば、切刃部3が切欠部8を8つ有している場合、周方向間隔CSは8つあり、8つの周方向間隔CSのうち少なくとも1つの周方向間隔CSが他の周方向間隔CSと異なっている。例えば、切欠部8Aaの回転方向前端と、切欠部8Bbの回転方向前端との周方向間隔CSは、切欠部8Bbの回転方向前端と、切欠部8Eの回転方向前端との周方向間隔CSと異なっている。このように少なくとも1つの周方向間隔CSが他の周方向間隔CSと異なるように構成することで、切削抵抗が低下するタイミングをより不規則にさせることができ、びびり振動が起きにくくなって、外周刃7のチッピングを抑制しながら、より一層高能率な加工が可能となる。
【0052】
本実施形態のエンドミル本体1は、切刃部3の先端における直径(D:刃径)が約10mm、外周刃7の軸方向長さ(外周刃7を軸線Oと平行な直線上に投影したときの長さ)(H:刃長)が約30mmである。刃径Dは、例えば6mm以上であってよい。本実施形態では、刃長H=3Dの場合を例示したが、刃長Hは2.5D以上であってよい。
【0053】
従来は、刃長Hが長くなるほど、加工能率は向上するものの、エンドミル本体1に作用する応力が増大する上、切刃部3の中でも、特に工作機械の把持部に近い領域ほど(軸方向後端側ほど)、応力が分散されにくく、チッピングが起きやすくなる。更に、切欠部8には外周刃7が存在していないため、切欠部8周辺には応力が集中しやすく、チッピングが起きやすくなる。
一方、本実施形態では、外周刃7の刃長Hを刃径Dの2.5倍以上としつつ、最も後端側に位置する切欠部8Abを、切刃部3の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度θ1(切削距離)を有する外周刃7Aに設ける。これにより、刃長Hを長くして軸方向の切り込み量を増大させたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部8Ab付近の切削負荷を軽減させ、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃7のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0054】
本実施形態では、外周刃7を5つ設けているが、外周刃7の数は5つに限らず6つ以上設けてもよい。
従来は、刃数を増やし、送り速度を大きくするほど、加工能率は向上するものの、エンドミル本体1に作用する応力も増大してしまう。その上、切刃部3の中でも特に工作機械の把持部に近くい領域ほど(軸方向後端側ほど)、応力が分散されにくく、チッピングが起きやすくなる。更に、切欠部8には外周刃7が存在していないため、切欠部8周辺には応力が集中しやすく、チッピングが起きやすくなる。
一方、本実施形態では、外周刃7を5つ以上設けるとともに、最も後端側に位置する切欠部8Abを、切刃部3の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度θ1(切削距離)を有する外周刃7Aに設ける。これにより、刃数を増やし、送り速度を大きくさせたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部8Ab付近の切削負荷を軽減させ、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃7のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0055】
本実施形態において、すべての外周刃7は、それぞれ外周刃7の延在方向に沿って一定のねじれ角を有し、40°である。ねじれ角は35°以上であることが好ましい。
従来は、ねじれ角が大きくなるほど、加工能率は向上するものの、被削材との接触距離が増大するため、エンドミル本体1に作用する応力も増大してしまう。その上、切刃部3の中でも特に工作機械の把持部に近くい領域ほど(軸方向後端側ほど)、応力が分散されにくく、チッピングが起きやすくなる。更に、切欠部8には外周刃7が存在していないため、切欠部8周辺には応力が集中しやすく、チッピングが起きやすくなる。
一方、本実施形態では、ねじれ角は35°以上にするとともに、最も後端側に位置する切欠部8Abを、最も小さな分割角度θ1(切削距離)を有する外周刃7Aに設ける。これにより、ねじれ角を大きくして、送り速度や切削速度を増大させたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部8Ab付近の切削負荷を軽減させ、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃7のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0056】
本実施形態では、すべての外周刃7のねじれ角は互いに等しい。このような構成にすると、より簡便に製造することができる。
従来は、外周刃7間でねじれ角を異ならせるという複雑な構成にすることで、高能率な切削を行なったとしても、びびり振動の発生を抑制し、チッピングを起きにくくさせることが知られている。
本実施形態では、最も後端側に位置する切欠部8Abを、切刃部3の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度θ1を有する外周刃7Aに設けているので、すべてのねじれ角を等しくしたとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部8Ab付近の切削負荷自体を軽減させ、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、より簡便な構成で、外周刃7のチッピングの発生を抑えつつ、より一層高能率な加工が可能となる。
【0057】
また、図5に示すように、外周刃7の延在方向に連続する外周刃7の切刃長さL2は、切り屑長さに相当する。各外周刃7に設ける切欠部8の配置によって、切り屑長さを変更することが可能である。本実施形態において、切欠部8によって分断されることなく、外周刃7の延在方向に連続する外周刃7の切刃長さL2のうち、エンドミル本体1内において最大の切刃長さL2MAX(即ち、最大切り屑長さ)は、図5に示すように、第5外周刃7Eに設けられた非切削領域9Eの後端から第5外周刃7Eの後端までの距離である24.8mm(2.5D)である。尚、切欠部8によって分断されることなく、外周刃7の延在方向に連続する外周刃7の切刃長さL2のうち、エンドミル本体1内において最小の切刃長さL2MINは、第3外周刃7Cの先端から非切削領域9Caの先端までの距離である9.1mm(0.9D)である。
【0058】
このように、外周刃の最大切刃長さが刃径Dの2.7倍以下(2.7D以下)となるように切欠部8を配置する。このような構成にすると、切り屑の噛み込みが生じにくくなる。
従来は、外周刃7の最大切刃長さL2MAXが刃径Dの2.7倍以下となるほどに多くの切欠部8を設けると、より後端側にも切欠部8が設けられるようになり、チッピング起きやすくなるおそれがあった。
本実施形態では、最も後端側に位置する切欠部8Abを、切刃部3の後端の軸直角断面において最も小さな分割角度θ1を有する外周刃7Aに設けているので、外周刃7の最大切刃長さL2MAXが刃径Dの2.7倍以下(2.7D以下)となるように、より後端側に切欠部8を配置したとしても、応力が最も分散されにくく集中しやすい最も後端側に位置する切欠部8Ab付近の切削負荷を軽減することができ、チッピングが起きやすい領域におけるチッピングを効果的に抑制することができる。その結果、外周刃7のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。
【0059】
また、最小の連続切刃長さL2MINがエンドミル本体1の刃径Dの0.6倍以上の長さとなるように切欠部8を配置することが好ましい。この構成とすることで、切欠部の数が過多となることを防ぎ、びびり振動の発生をより抑制できるため、外周刃のチッピングをより抑制することができる。
【0060】
更に、最大の連続切刃長さL2MAXが刃径の2.7倍以下の長さであるとともに、最小の連続切刃長さL2MINが刃径の0.6倍以上の長さとなるように切欠部8を配置することで、エンドミル本体内における連続切刃長さL2を適度なばらつき具合にすることができ、外周刃7のチッピングを更に抑制することができる。
【0061】
切欠部8は、すくい面12上で、外周刃7に直交する方向に最も深い位置(以下、最深部P)において断面円弧状をなす。図5に示すように、軸方向位置が隣り合う2つの切欠部8の最深部P間の軸方向間隔L1の多くは等間隔な配置とされている。本実施形態では、軸方向で隣り合う2つの最深部P間の軸方向間隔L1が、1.5mmとされている。軸方向で隣り合う2つの切欠部8の配置間隔(ピッチ)を等しくすることで、エンドミル本体1の切削回転時において、外周刃7どうしの間で切削負荷の偏りが生じるのを防ぐことができる。
【0062】
各切欠部8にとって軸方向位置が最も近い切欠部8と、周方向位置が最も近い切欠部8とが、互いに異なるように配置されている。例えば、切欠部8Baにとって、軸方向位置が最も近い切欠部は8Aaおよび8Caであるが、周方向位置が最も近い切欠部は8Ebおよび8Abであり、両者は互いに異なっている。この構成によれば、周方向における切欠部8の配置間隔を適度にあけることができ、切削中、切削抵抗の変動が局所的に大きい箇所が現れにくくなり、びびり振動が起きにくくなる。
【0063】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態のエンドミルの構成について述べる。
図6は、第2実施形態のエンドミル本体21の切刃部3全体の展開図である。
第2実施形態のエンドミル本体21は、刃径D、刃長H、切欠部8の数、切欠部8の配置において第1実施形態と異なる。尚、第2実施形態においても、刃数、ねじれ角、各外周刃7の分割角度θは第1実施形態と同じである。また、第1実施形態と同様に、すべての切欠部8の中で最も後端側に位置する切欠部8Abは、切刃部3の後端の軸直角断面において最も小さい分割角度θ1を有する第1外周刃7Aに設けられている。
また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、切刃部3内のすべての非切削領域9の周方向位置CQは互いに重なっておらず、切刃部3内のすべての切欠部8の周方向位置CRも互いに重なっていない。
【0064】
まず、本実施形態における刃径Dおよび刃長Hは第1実施形態よりも大きく、刃径Dは約20mm、刃長Hは約60mmである。また、本実施形態の切刃部3内に設けられている切欠部8の数は、第1実施形態よりも多く、12個設けられている。第1外周刃7Aおよび第5外周刃7Eには、それぞれ3つの切欠部8が設けられており、第2外周刃7B、第3外周刃7Cおよび第4外周刃7Dには、それぞれ2つの切欠部8が設けられている。
【0065】
また、上記第1実施形態では図5に示すように、エンドミル本体1の切刃部3内のすべての切欠部8は、軸方向位置が隣り合う2つの切欠部8のうち、後端側に位置する切欠部8が、先端側に位置する切欠部8よりも回転方向後方に位置するように配置されている(右上がり配置)。
一方、本実施形態では、図6に示すように、エンドミル本体21の切刃部3内のすべての切欠部8は、軸方向位置が隣り合う2つの切欠部8のうち、後端側に位置する切欠部8が、先端側に位置する切欠部8よりも回転方向前方に位置するように、切刃部3内のすべての切欠部8は配置されている(右下がり配置)。言い換えると、すべての切欠部8は、図6中の矢印Fで示すように、エンドミル回転方向Tとは反対側へ向かうにしたがって刃先端へ近づく方向(外周刃7の傾斜方向とは逆になる傾斜方向)へ配置されている。右ねじれエンドミルにおいて、このような右下がり配置にすると、周方向位置が隣り合う切欠部8間の周方向間隔をより小さくすることができ、切欠部8をより高密度に配置することができる。その結果、このような右下がり配置は、切刃部3内のすべての切欠部8(および非切削領域9)の周方向位置が互いに重なることなく、より多くの切欠部8を配置することができる。
【0066】
また、刃長Hが長くなるほど、切屑長さL2が長くならないように、切欠部8の数を増やす必要がある。このような場合であっても、右下がり配置にすると、切欠部8を周方向により高密度に配置することができる。そのため、切欠部8の数を増やした場合であっても、切刃部3内のすべての切欠部8(および非切削領域9)の周方向位置を互いに重ならせることなく、必要な数の切欠部8を形成しやすくなる。その結果、びびり振動が起きにくくなり、外周刃7のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。右下がり配置は、刃長Hが刃径Dの2倍以上、特に3倍以上のエンドミルにおいて特に好ましい。
【0067】
また、刃径Dが大きくなるほど、切欠部8の寸法を大きくする必要がある。このような場合であっても、右下がり配置にすると、切欠部8を周方向により高密度に配置することができる。そのため、切欠部8の寸法を大きくした場合であっても、切刃部3内のすべての切欠部8(および非切削領域9)の周方向位置を互いに重ならせることなく、必要な数の切欠部8を形成しやすくなる。その結果、びびり振動が起きにくくなり、外周刃7のチッピングを抑制しつつ、より一層高能率な切削が可能となる。右下がり配置は、刃径Dが12mm以上のエンドミルにおいて特に好ましい。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。各実施形態の構成を適宜組み合わせてもよい。
【0069】
例えば、エンドミル本体1、21の外周刃7の数や、各外周刃7に設ける切欠部8の数は、刃径Dや刃長H、被削材の硬度や切削速度などの切削条件によって適宜設定することが好ましい。
【0070】
上述した各実施形態では、エンドミル本体1,21における全ての外周刃7が切欠部8を有しているが、切欠部8を有しない外周刃7が存在していてもよい。
【実施例
【0071】
第1実施形態の刃径10mmのラジアスエンドミルを用いて、DMG森精機社製(HSK-A63)の工作機械を使って、30HRCの被削材を下記の切削条件のトロコイド加工にて、120分間ポケット形状の加工を行なう切削試験を行なった。切削条件は下記のとおりである。
(切削条件)
・切削速度(Vc):300m/min
・回転数(n):9549min-1
・送り速度(vf):9549mm/min
・一刃送り量(fz):0.2mm/t
・軸方向切り込み量(ap):29mm
・径方向切り込み量(ae):1mm
・切屑排出量Q:277cm/min
【0072】
使用したエンドミルは第1実施形態のエンドミル10であり、上述したように5枚刃の不等分割エンドミルである。より具体的には、3つの外周刃7にはそれぞれ2つずつ切欠部8が設けられており、残り2つの外周刃7にはそれぞれ1つずつ切欠部8が設けられている。すべての切欠部8の中で最も軸方向後端側に位置する切欠部8は、切刃部3の後端の軸直角断面において最も小さい分割角度θ1を有する第1外周刃7Aに設けられている。また、すべての切欠部8の周方向位置CRは互いに重なっていない。また、すべて非切削領域9の周方向位置CQも互いに重なっていない。
【0073】
第1実施形態のエンドミル10は、上記のような著しく高能率な切削条件下において120分間切削を行なっても、外周刃にチッピングは起きなかった。また、加工後の加工面は均一でうねりなどは確認されず、びびり振動も十分に抑制されていることがわかった。
【符号の説明】
【0074】
1…エンドミル本体
4…切屑排出溝
7(7A,7B,7C,7D,7E)…外周刃
8(8Ab,8Ba,8Bb,8Ca,8Db,8Ea,8Eb)…切欠部
9…非切削領域
10…エンドミル
11…外周逃げ面
12…すくい面
CR…切欠部8の周方向位置
CS…周方向で隣り合う2つの切欠部8の回転方向前端間の間隔
D…刃径
H…刃長
L2…外周刃の延在方向に連続する外周刃の切刃長さ
P…最深部
O…軸線
T…エンドミル回転方向
θ…分割角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6