(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】二層チューブおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 1/08 20060101AFI20241002BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B32B1/08 B
B32B27/30 D
(21)【出願番号】P 2024095161
(22)【出願日】2024-06-12
【審査請求日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2023097304
(32)【優先日】2023-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 均
(72)【発明者】
【氏名】青山 高久
(72)【発明者】
【氏名】濱田 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 学
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/100420(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/142337(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/047747(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/108051(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/220850(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/095857(WO,A1)
【文献】特開2017-119750(JP,A)
【文献】特開2004-163715(JP,A)
【文献】特開2022-58292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/08
B32B 27/30
F16L 11/04
F17D 5/00
B29C 48/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層(A)と、内層(A)上に直接設けられた外層(B)と、を備える二層チューブであって、
内層(A)が、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する共重合体(a)を含有しており、
外層(B)が、クロロトリフルオロエチレン単位を少なくとも含有する重合体(b)を含有しており、
共重合体(a)の380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率が、0.05質量%以下であり、
内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))が、30.0/70.0~67.0/33.0である
二層チューブ。
【請求項2】
内層(A)および外層(B)の合計の厚さが、1.3mm以上である請求項1に記載の二層チューブ。
【請求項3】
内層(A)および外層(B)の合計の厚さが、1.56~1.64mmである請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項4】
共重合体(a)中のパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、4.0~6.5質量%である請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項5】
共重合体(a)の融点が、295~308℃である請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項6】
重合体(b)が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位およびこれらと共重合可能な単量体(α)に由来する単量体(α)単位を含む共重合体である請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項7】
重合体(b)が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む共重合体である請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項8】
共重合体(a)のゼロシェア粘度が、2.00×10
4Pa・S以上である請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項9】
共重合体(a)のMIT値が、260万回以上である請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項10】
塩酸、フッ酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有する酸水溶液を封入し、室温下で150日間以上放置した後の内層(A)に、長さが10μm以上のクラックが存在しない請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項11】
35質量%塩酸を封入し、80℃の温水中に90時間放置した後の内層(A)に、長さが10μm以上のクラックが存在しない請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項12】
共重合体(a)が、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)と共重合可能な単量体に由来する他の単量体単位を含有していてもよく、共重合体(a)中のパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、4.0~6.5質量%であり、共重合体(a)中のテトラフルオロエチレン単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、93.5~96.0質量%であり、共重合体(a)中の他の単量体単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、0~1.5質量%であり、
重合体(b)が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む共重合体であって、各単量体の含有割合(クロロトリフルオロエチレン単位/テトラフルオロエチレン単位/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位(モル%))が、(15.0~24.9)/(75.0~84.9)/(0.1~10.0)であり、
内層(A)および外層(B)の合計の厚さが、1.56~1.64mmであり、
内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))が、60.0/40.0~67.0/33.0である
請求項1または2に記載の二層チューブ。
【請求項13】
請求項1または2に記載の二層チューブの製造方法であって、
共重合体(a)に200~280℃の熱風を6時間以上吹き付ける熱処理を行った後、得られる共重合体(a)と重合体(b)とを積層して、二層チューブを得る製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二層チューブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、テトラフルオロエチレン/パーフルオロビニルエーテル共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる層(A)と、クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる層(B)とを有するクロロトリフルオロエチレン共重合体含有積層体であって、前記層(A)と前記層(B)とは、多層ダイ内において前記層(A)の材料(a)と前記層(B)の材料(b)とが接触する前における流路温度を前記材料(a)が流れる流路(pa)について300~400℃、前記材料(b)が流れる流路(pb)について250~350℃とする条件下に共押出成形することにより積層してなるものであることを特徴とするクロロトリフルオロエチレン共重合体含有積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、塩酸水溶液が封入された状態で、温水中に長期間放置された場合であっても、低い塩酸の透過性が維持される二層チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、内層(A)と、内層(A)上に直接設けられた外層(B)と、を備える二層チューブであって、内層(A)が、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する共重合体(a)を含有しており、外層(B)が、クロロトリフルオロエチレン単位を少なくとも含有する重合体(b)を含有しており、共重合体(a)の380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率が、0.05質量%以下であり、内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))が、30.0/70.0~67.0/33.0である二層チューブが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、塩酸水溶液が封入された状態で、温水中に長期間放置された場合であっても、低い塩酸の透過性が維持される二層チューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、比較例1で作製したチューブの断面画像である。
【
図2】
図2は、比較例2で作製したチューブの断面画像である。
【
図3】
図3は、実施例1で作製したチューブの断面画像である。
【
図4】
図4は、二層チューブの35質量%塩酸透過係数を測定するために用いた実験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
本開示は、内層(A)と外層(B)とを備える二層チューブに関する。
【0010】
特許文献1には、従来、半導体工場や液晶工場で使用される塩酸、フッ酸、硝酸等に代表される薬液を搬送する場合、PFA樹脂チューブ等の含フッ素樹脂チューブが多く使用されているが、チューブからの薬液透過によりチューブ自体が白化劣化し、工場内の酸濃度が上がり、装置の腐食や環境汚染等の問題があり、これを改善するにはチューブからの薬液透過係数が小さいものが望まれることが記載されている。
【0011】
そこで、特許文献1では、テトラフルオロエチレン/パーフルオロビニルエーテル共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いて層(A)を形成し、他方、クロロトリフルオロエチレン共重合体を用いて層(B)を形成し、層(A)と層(B)とを後述の特定範囲の流路温度とする条件下に共押出成形により積層することにより積層体を製造すると、得られる積層体の25℃における35質量%塩酸透過係数が小さかったことが記載されている。
【0012】
しかしながら、従来のチューブは、低温の水中では塩酸を透過させにくいものの、温水中に長期間放置された場合、内層にクラックが生じてしまったり、常温の水中に長期間放置された場合、十分に塩酸の透過を抑制できなかったりする問題があることが今や判明した。
【0013】
そこで、この問題の解決手段を鋭意検討したところ、二層チューブの内層を、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する共重合体であって、380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率が適切に調整された共重合体により形成し、さらには、内層と外層との厚さを極めて限定された範囲に調整することによって、塩酸水溶液が封入された状態で、温水中に長期間放置された場合であっても、内層にクラックが生じにくく、さらには、常温の水中に長期間放置された場合であっても、低い塩酸の透過性を維持できる二層チューブが得られることが見出された。本開示の二層チューブは、この知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0014】
次に、本開示の二層チューブの構成について、より詳細に説明する。
【0015】
本開示の二層チューブは、内層(A)と外層(B)とを備えており、内層(A)が、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)単位を含有する共重合体(a)を含有し、外層(B)が、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位を少なくとも含有する重合体(b)を含有する。
【0016】
<内層(A)>
内層(A)は、TFE単位およびPPVE単位を含有する共重合体(a)を含有する。共重合体(a)は、特定の重量減少率を有している。
【0017】
共重合体(a)の重量減少率は、0.05質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以上である。
【0018】
共重合体(a)の重量減少率は、後述するように、共重合体(a)に対する適切な熱処理により、0.05質量%以下まで低減することができる。
【0019】
共重合体(a)の重量減少率は、共重合体(a)を380℃で1時間加熱処理する前の重量および加熱した後の重量から、次式に従って算出することができる。
重量減少率(質量%)=[(加熱前の重量)-(加熱後の重量)]/(加熱前の重量)×100
【0020】
380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率が低い共重合体には、分子量が3000以下の高温揮発分がほとんど含まれないものと推測される。分子量が3000以下の高温揮発分は、結晶状態の共重合体(a)の成形品中において、非晶状態で存在し、非晶性で低密度の微細な相を形成している可能性がある。この相に、二層チューブ内部を流通する塩酸が滞留し、酸分子と水分子の会合熱によって、熱膨張応力が生じ、クラックの発生の原因となったり、クラックが生じなくても塩酸の透過を十分に抑制できなくなる原因となったりする可能性がある。重量減少率が0.05質量%以下の共重合体(a)により内層(A)を形成することによって、非晶性で低密度の相の形成を抑制して、内層(A)に生じ得る微小なクラックの発生が抑制され、二層チューブの優れた塩酸低透過性が維持されるものと推測される。
【0021】
共重合体(a)のゼロシェア粘度は、共重合体(a)の良好な成形性を維持しつつ、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、好ましくは2.00×104Pa・S以上であり、より好ましくは2.50×104Pa・S以上であり、さらに好ましくは3.00×104Pa・S以上であり、好ましくは10.00×104Pa・S以下であり、より好ましくは8.00×104Pa・S以下であり、さらに好ましくは5.00×104Pa・S以下である。
【0022】
共重合体(a)のゼロシェア粘度は、共重合体(a)のメルトフローレートおよびPPVE単位の含有量を調節するとともに、共重合体(a)を製造する際の重合開始剤の量、連鎖移動剤の量、重合圧力、重合時間などを調節することによって、調整することができる。
【0023】
共重合体(a)のゼロシェア粘度は、共重合体(a)の溶融粘弾性測定において、340℃に於いて、周波数が0.1rad/secになった時の粘度である。ゼロシェア粘度は、溶融粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0024】
共重合体(a)のMIT値は、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、好ましくは260万回以上であり、より好ましくは1000万回以下であり、さらに好ましくは500万回以下である。
【0025】
共重合体(a)のMIT値は、共重合体(a)のメルトフローレートおよびPPVE単位の含有量を調節することにより、調整することができる。
【0026】
共重合体(a)のMIT値は、共重合体(a)を圧縮成形して、幅12.7mm、長さ90mm、厚さ0.20~0.25mmの試験片を作製し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を測定することにより、特定することができる。
【0027】
共重合体(a)は、TFE単位およびPPVE単位を含有する。
【0028】
共重合体(a)のPPVE単位の含有量は、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、全単量体単位に対して、好ましくは4.0~6.5質量%であり、より好ましくは4.5質量%以上であり、さらに好ましくは5.0質量%以上であり、特に好ましくは5.5質量%以上である。
【0029】
共重合体(a)のTFE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは93.5~96.0質量%であり、より好ましくは95.5質量%以下であり、さらに好ましくは95.0質量%以下であり、特に好ましくは94.5質量%以下である。
【0030】
共重合体(a)は、TFEおよびPPVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有してもよい。
【0031】
TFEおよびPPVEと共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、CZ3Z4=CZ5(CF2)nZ6(式中、Z3、Z4およびZ5は、同一または異なって、HまたはFを表し、Z6は、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF2=CF-OCH2-Rf7(式中、Rf7は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0032】
TFEおよびPPVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位の含有量は、好ましくは0~1.5質量%であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0033】
共重合体(a)としては、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、TFE単位およびPPVE単位のみからなる共重合体、および、TFE/HFP/PPVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびPPVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0034】
本開示において、共重合体中の各単量体単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0035】
共重合体(a)の融点は、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、好ましくは295~308℃である。
【0036】
本開示において、共重合体(a)の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温(セカンドラン)したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0037】
共重合体(a)は、溶融加工性を有するフッ素樹脂であることが好ましい。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、後述する測定方法により測定されるメルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。
【0038】
共重合体(a)のメルトフローレート(MFR)は、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、好ましくは10.0g/10分以下であり、より好ましくは5.0g/10分以下であり、さらに好ましくは3.0g/10分以下であり、好ましくは0.01g/10分以上であり、より好ましくは0.1g/10分以上であり、さらに好ましくは1.0g/10分以上である。
【0039】
共重合体の(a)のMFRは、ASTM D1238に準拠して、直径2.1mmで長さが8mmのダイにて、荷重5kg、372℃で測定する。
【0040】
共重合体(a)の官能基数は、炭素原子106個あたり500個以下であってよく、好ましくは300個以下であり、より好ましくは200個以下であり、さらに好ましくは100個以下であり、尚さらに好ましくは50個以下であり、特に好ましくは10個以下である。
【0041】
上記官能基は、共重合体の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。上記官能基としては、-CF=CF2、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3、-CONH2および-CH2OHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0042】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0043】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、共重合体を340~350℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.05~0.25mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、共重合体における炭素原子1×106個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0044】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0045】
【0046】
-CH2CF2H、-CH2COF、-CH2COOH、-CH2COOCH3、-CH2CONH2の吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CF2H、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH3、-CONH2の吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
従って、たとえば、-COFの官能基数とは、-CF2COFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CH2COFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0047】
上記官能基数は、-CF=CF2、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3、-CONH2および-CH2OHの合計数であってよい。
【0048】
共重合体には、たとえば、共重合体を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、官能基が導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として-CH2OHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、共重合体の主鎖末端に-CH2OHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、官能基が共重合体の側鎖末端に導入される。
【0049】
このような官能基を有する共重合体を、フッ素化処理することによって、上述した範囲内の官能基数を有する共重合体を得ることができる。すなわち、共重合体(a)は、フッ素化処理されたものであってよい。また、共重合体(a)は、-CF3末端基を有してもよい。
【0050】
内層(A)は、本開示の目的を損なわない範囲で、たとえば、導電性フィラー、熱安定剤等の安定剤、補強剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を添加してなるものであってもよい。
【0051】
<外層(B)>
外層(B)は、CTFE単位を少なくとも含有する重合体(b)を含有する。
【0052】
重合体(b)としては、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕およびCTFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PCTFE、CTFE/TFE共重合体、および、エチレン/CTFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、CTFE/TFE共重合体がさらに好ましい。
【0053】
重合体(b)としては、CTFE共重合体が好ましい。CTFE共重合体としては、CTFE単位と、TFE、HFP、PAVE、ビニリデンフルオライド(VdF)、フッ化ビニル、へキサフルオロイソブテン、式:CH2=CX1(CF2)nX2(式中、X1はHまたはF、X2はH、FまたはCl、nは1~10の整数である)で示される単量体、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に由来する単位と、を含む共重合体が好ましい。
【0054】
CTFE共重合体としては、エチレン/CTFE共重合体、並びに、CTFE単位と、TFE、HFPおよびPAVEからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に由来する単位と、を含む共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0055】
エチレン/CTFE共重合体(ECTFE)は、エチレン単位とCTFE単位とを含む共重合体であって、エチレン単位とCTFE単位の合計に対して、エチレン単位が46~52モル%であり、CTFE単位が54~48モル%であることが好ましい。ECTFEは、エチレン単位とCTFE単位のみからなる二元共重合体であってもよいし、さらに、エチレンおよびCTFEと共重合可能な単量体(例えば、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)誘導体)に基づく重合単位を含むものであってもよい。
【0056】
エチレンおよびCTFEと共重合可能な単量体に基づく重合単位の含有量は、エチレン単位とCTFE単位と上記共重合可能な単量体に基づく重合単位との合計に対して、0.01~5モル%であることが好ましい。
【0057】
ECTFEのMFRは、好ましくは0.01~100g/10分である。ECTFEのMFRの測定は、温度230℃、荷重2.16kgで行われる。
【0058】
重合体(b)としては、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、CTFE単位、TFE単位およびこれらと共重合可能な単量体(α)に由来する単量体(α)単位を含むものが特に好ましい。
【0059】
単量体(α)としては、CTFEおよびTFEと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、エチレン、VdF、CF2=CF-ORf1(式中、Rf1は、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX3X4=CX5(CF2)nX6(式中、X3、X4およびX5は同一もしくは異なって、水素原子またはフッ素原子;X6は、水素原子、フッ素原子または塩素原子;nは、1~10の整数)で表されるビニル単量体、CF2=CF-OCH2-Rf2(式中、Rf2は、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体などがあげられ、なかでも、PAVE、上記ビニル単量体およびアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PAVEおよびHFPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PAVEがさらに好ましい。
【0060】
PAVEとしては、CF2=CF-ORf3(式中、Rf3は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が好ましく、たとえば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)などがあげられ、なかでも、PMVE、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PPVEがさらに好ましい。
【0061】
アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rf2が炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF2=CF-OCH2-CF2CF3がより好ましい。
【0062】
重合体(b)における、CTFE単位とTFE単位との比率は、好ましくは、CTFE単位が15~90モル%であり、TFE単位が85~10モル%であり、より好ましくは、CTFE単位が20~90モル%であり、TFE単位が80~10モル%である。また、CTFE単位15~25モル%と、TFE単位85~75モル%とから構成される共重合体も好ましい。
【0063】
重合体(b)は、CTFE単位とTFE単位との合計が90~99.9モル%であり、単量体(α)単位が0.1~10モル%であるものが好ましい。単量体(α)単位が0.1モル%未満であると、成形性、耐環境応力割れ性および耐燃料クラック性に劣りやすく、10モル%を超えると、燃料バリア性、耐熱性、機械物性に劣る傾向にある。
【0064】
重合体(b)としては、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、CTFE/TFE/PAVE共重合体が特に好ましい。
【0065】
CTFE/TFE/PAVE共重合体において、上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)などが挙げられ、なかでも、PMVE、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0066】
CTFE/TFE/PAVE共重合体において、PAVE単位は、全単量体単位の0.5モル%以上であることが好ましく、5モル%以下であることが好ましい。CTFE/TFE/PAVE共重合体の各単量体の含有割合(モル%)は、好ましくは(15.0~24.9)/(75.0~84.9)/(0.1~10.0)であり、より好ましくは(15.0~24.9)/(75.0~84.9)/(0.1~3.0)である。
【0067】
重合体(b)の融点は特に限定されないが、160~270℃であることが好ましい。
【0068】
重合体(b)の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0069】
重合体(b)は、溶融加工性を有するフッ素樹脂であることが好ましい。重合体(b)のMFRは、好ましくは0.5~100g/10分であり、より好ましくは1g/10分以上であり、さらに好ましくは2g/10分以上であり、より好ましくは50g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下である。
【0070】
重合体(b)のMFRは、ASTM D1238に準拠して、直径2.1mmで長さが8mmのダイにて、荷重5kg、フッ素ポリマー一般の成形温度範囲である約230~350℃の範囲の任意の温度(例えば、297℃)で測定する。CTFE/TFE/PAVE共重合体のMFRの測定温度は、297℃である。
【0071】
外層(B)は、本開示の目的を損なわない範囲で、たとえば、導電性フィラー、熱安定剤等の安定剤、補強剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を添加してなるものであってもよい。
【0072】
<チューブの層構成>
本開示の二層チューブは、内層(A)および外層(B)を備えており、外層(B)は内層(A)上に直接接着している。本開示の二層チューブにおいて、接している各層の境界は必ずしも明確である必要はなく、各層を構成するポリマーの分子鎖同士が接している面から相互に侵入し、濃度勾配がある層構造であってもよい。
【0073】
本開示の二層チューブにおいて、内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))は、30.0/70.0~67.0/33.0である。比((A)/(B))が小さすぎると、塩酸水溶液が封入された状態で、温水中に長期間放置された場合に、内層にクラックが生じやすくなったり、低い塩酸の透過性を維持できなくなったりする。比((A)/(B))が大きすぎると、塩酸の透過を十分に抑制することができない。
【0074】
内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))は、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができることから、好ましくは50.0/50.0以上であり、より好ましくは60.0/40.0以上である。また、比((A)/(B))が大きい方が、本開示の二層チューブと、継手などの他の部材との溶着が容易になる上、溶着部の機械的強度が高まる点でも有利である。
【0075】
本開示の二層チューブの厚さ、すなわち、内層(A)および外層(B)の合計の厚さは、好ましくは1.3mm以上であり、より好ましくは1.5mm以上であり、好ましくは10.0mm以下であり、より好ましくは5.0mm以下であり、さらに好ましくは2.0mm以下である。本開示の二層チューブの厚さは、約1.6mm(たとえば、1.56~1.64mm)であってよい。本開示の二層チューブは、3/4インチチューブまたは1/2インチチューブであってよい。
【0076】
一実施形態に係る本開示の二層チューブは、塩酸、フッ酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有する酸水溶液を二層チューブ内に封入し、室温下で150日間以上放置した後の内層(A)に、長さが10μm以上のクラックが存在しないことにより特徴づけられる。クラックの有無は、顕微鏡を用いて、二層チューブの断面を観察することにより、確認することができる。
【0077】
一実施形態に係る本開示の二層チューブは、35質量%塩酸を封入し、80℃の温水中に90時間放置した後の内層(A)に、長さが10μm以上のクラックが存在しないことにより特徴づけられる。クラックの有無は、顕微鏡を用いて、二層チューブの断面を観察することにより、確認することができる。
【0078】
本開示の二層チューブは、たとえば、共重合体(a)に200~280℃の熱風を6時間以上吹き付ける熱処理を行った後、得られる共重合体(a)と重合体(b)とを積層して、二層チューブを得る製造方法により、製造することができる。
【0079】
熱風の温度は、好ましくは230℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、好ましくは270℃以下であり、より好ましくは260℃以下である。熱風の温度が低すぎると、共重合体(a)から高温揮発分を十分に除去することができない。熱風の温度が高すぎると、共重合体(a)が融着して塊が生じたり、熱処理に共重合体(a)のペレットを用いた場合には、ペレットが変形したりするおそれがある。
【0080】
熱風を吹き付ける時間は、6時間以上であり、好ましくは8時間以上であり、好ましくは30時間以下であり、より好ましくは20時間以下であり、さらに好ましくは15時間以下である。熱風を連続して吹き付けることで、共重合体(a)からの高温揮発分の除去を促進することができる。共重合体(a)を成形する際には、共重合体(a)を加熱して溶融させるが、成形時の短時間の加熱では、共重合体(a)から高温揮発分を十分に除去することはできない。
【0081】
共重合体(a)と接触した熱風には、高温揮発分が含まれていることがある。共重合体(a)からの高温揮発分の除去を促進するために、共重合体(a)に接触した後の熱風の一部または全部を排出しながら、共重合体(a)に熱風を吹き付けることが好ましい。共重合体(a)に吹き付けた熱風を循環させて、共重合体(a)に再び吹き付けたり、密閉系で共重合体(a)を高温の気体と接触させたりすると、高温揮発分の除去が進まず、共重合体(a)の重量減少率を上記した範囲内に調整できないおそれがある。
【0082】
共重合体(a)の処理方法として、共重合体(a)の官能基数を低減するためのフッ素化処理が知られている。フッ素化処理は、密封容器の中で、反応性の高いフッ素化剤と共重合体(a)とを接触させて行われることから、フッ素化処理が高温で長時間行われたとしても、共重合体(a)の重量減少率を上記した範囲内に調整できない。
【0083】
熱風として、加熱された空気、加熱された不活性ガスなどを用いることができる。熱風を強く吹き付けるほど、共重合体(a)からの高温揮発分の除去を促進することができるが、共重合体(a)が舞い上がらない程度の風量で行う必要がある。
【0084】
熱風を吹き付ける共重合体(a)の形状は特に限定されず、粉体、ペレット等であってよい。共重合体(a)の形状が粉体である場合は熱風により舞い上がる可能性が高まるので、共重合体(a)の形状は、ペレットであることが好ましい。
【0085】
共重合体(a)と重合体(b)とを積層する方法としては、
共重合体(a)と重合体(b)とを共押出成形することにより、層間を熱融着(溶融接着)させる方法、
押出機により、共重合体(a)を含有する層と、重合体(b)を含有する層とを別個に作製し、各層を重ね合せ、熱融着により層間を接着させる方法、
共重合体(a)を含有する単層チューブを作製し、単層チューブの表面上に、押出機により、重合体(b)を押し出す方法、
共重合体(a)を含有する単層チューブを作製し、単層チューブの表面上に、重合体(b)を静電塗装したのち、得られる塗装物を全体的にまたは塗装した側から加熱することにより、重合体(b)を加熱溶融する方法
などが挙げられる。
【0086】
上記共押出成形としては、マルチマニホールド法、フィードブロック法等の従来公知の多層共押製造法が挙げられる。
【0087】
本開示の二層チューブは、薬液を流通させるための薬液配管用チューブとして好適に用いることができ、半導体デバイス製造用高純度薬液を移送するために用いる薬液配管用チューブとして特に好適に用いることができる。本開示の二層チューブは、内層にクラックが生じにくく、薬液低透過性を長期間維持できることから、従来の二層チューブよりも交換頻度を低くすることができる。
【0088】
本開示の二層チューブは、薬液を流通させるための薬液配管用チューブであることが好ましい。上記薬液としては、半導体製造に用いる薬液が挙げられ、たとえば、アンモニア水、オゾン水、過酸化水素水、塩酸、硫酸、レジスト液、シンナー液、現像液などの薬液が挙げられる。上記薬液としては、特に、塩酸、フッ酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有する酸水溶液が好ましい。本開示の二層チューブは、このような酸水溶液中の酸であっても、透過を長期間抑制することができる。
【0089】
本開示の二層チューブは、たとえば、半導体製造用薬液供給ライン、半導体製造用薬液供給設備、半導体洗浄装置、コーターディベロッパーなどの半導体製造設備または半導体製造装置に用いるチューブとして利用することができる。
【0090】
また、本開示の二層チューブを低湿度の環境で使用することも好ましい。湿度が低い環境で二層チューブを使用することによって、内層におけるクラックの発生を一層抑制することができ、塩酸の透過を一層抑制することができる。使用環境の湿度としては、60%以下が好ましく、30%以下が好ましい。
【0091】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0092】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
内層(A)と、内層(A)上に直接設けられた外層(B)と、を備える二層チューブであって、内層(A)が、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する共重合体(a)を含有しており、外層(B)が、クロロトリフルオロエチレン単位を少なくとも含有する重合体(b)を含有しており、共重合体(a)の380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率が、0.05質量%以下であり、内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))が、30.0/70.0~67.0/33.0である二層チューブが提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
内層(A)および外層(B)の合計の厚さが、1.3mm以上である第1の観点による二層チューブが提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
内層(A)および外層(B)の合計の厚さが、1.6mmである第1または第2の観点による二層チューブが提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
共重合体(a)中のパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、4.0~6.5質量%である第1~第3のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
共重合体(a)の融点が、295~308℃である第1~第4のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
重合体(b)が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位およびこれらと共重合可能な単量体(α)に由来する単量体(α)単位を含む共重合体である第1~第5のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
重合体(b)が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む共重合体である第1~第6のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
共重合体(a)のゼロシェア粘度が、2.00×104Pa・S以上である第1~第7のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
共重合体(a)のMIT値が、260万回以上である第1~第8のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
塩酸、フッ酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有する酸水溶液を封入し、室温下で150日間以上放置した後の内層(A)に、長さが10μm以上のクラックが存在しない第1~第9のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
35質量%塩酸を封入し、80℃の温水中に90時間放置した後の内層(A)に、長さが10μm以上のクラックが存在しない第1~第10のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
共重合体(a)が、テトラフルオロエチレン単位、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位、ならびに、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)と共重合可能な単量体に由来する他の単量体単位を含有しており、共重合体(a)中のパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、4.0~6.5質量%であり、共重合体(a)中のテトラフルオロエチレン単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、93.5~96.0質量%であり、共重合体(a)中の他の単量体単位の含有量が、共重合体(a)を構成する全単量体単位に対して、0~1.5質量%であり、
重合体(b)が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む共重合体であって、各単量体の含有割合(クロロトリフルオロエチレン単位/テトラフルオロエチレン単位/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位(モル%))が、(15.0~24.9)/(75.0~84.9)/(0.1~10.0)であり、
内層(A)および外層(B)の合計の厚さが、1.56~1.64mmであり、
内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))が、60.0/40.0~67.0/33.0である
第1~第11のいずれかの観点による二層チューブが提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
第1~第12のいずれかの観点による二層チューブの製造方法であって、
共重合体(a)に200~280℃の熱風を6時間以上吹き付ける熱処理を行った後、得られる共重合体(a)と重合体(b)とを積層して、二層チューブを得る製造方法が提供される。
【実施例】
【0093】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0094】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0095】
(重合体の組成)
19F-NMR法により測定した。
【0096】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃または297℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を求めた。
【0097】
(重量減少率)
アルミカップを380℃で30分間加熱し、アルミカップから揮発分を除去した。共重合体のペレット約10gをアルミカップに入れ、ペレット入りアルミカップを精秤した。ペレット入りアルミカップを380℃で60分間加熱した。加熱後のペレット入りアルミカップを精秤した。次式に基づき、共重合体の重量減少率を求めた。
重量減少率(質量%)=[(加熱前の重量)-(加熱後の重量)]/(加熱前の重量)×100
【0098】
(ゼロシェア粘度)
共重合体のゼロシェア粘度を、アントンパール社製の溶融粘弾性測定装置MCR-302に、測定治具としてパラレルプレート取り付けて測定した。測定温度は340℃、サンプル厚みは1mmとした。高周波側から低周波側に周波数を掃引し、周波数が0.1rad/secの時の粘度をゼロシェア粘度とした。
【0099】
(MIT値)
共重合体のMIT値を、ASTM D2176に準じて測定した。具体的には、共重合体を圧縮成形して、幅12.7mm、長さ90mm、厚さ0.20~0.25mmの試験片を作製し、試験片をMIT試験機(型番12176、(安田精機製作所社製))に装着し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を測定した。
【0100】
(融点)
共重合体(a1)および(a2)の融点(2nd run)は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温(セカンドラン)したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
重合体(b1)の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0101】
実施例および比較例では、次の材料を用いた。
【0102】
共重合体(a1)
TFE/PPVE共重合体
TFE/PPVE(質量比):96.5/3.5
MFR(372℃、5kg):2.0g/10分
380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率:0.25質量%
ゼロシェア粘度(340℃):2.85×104Pa・S
MIT値:80万回
融点:308℃
【0103】
共重合体(a2)
TFE/PPVE共重合体
TFE/PPVE(質量比):94.0/6.0
MFR(372℃、5kg):1.6g/10分
380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率:0.05質量%
ゼロシェア粘度(340℃):3.32×104Pa・S
MIT値:260万回
融点:300℃
【0104】
共重合体(a2)の重量減少率は、次の方法により調整した。上記した組成およびMFRを有するTFE/PPVE共重合体のペレット1~3kgをトレーに広げ、トレーを熱風循環式の電気炉内に設置した。熱風循環式電気炉内の温度が250℃となるように加熱しながら、熱風を加熱炉内に通過させ、トレー上のペレットを10時間熱処理した。ペレットから高温揮発分を円滑に除去するために、加熱炉内を通過した熱風の一部を加熱炉外に排気しながら、熱処理を行った。
【0105】
重合体(b1)
TFE/CTFE/PPVE共重合体
TFE/CTFE/PPVE(モル比):76.3/21.3/2.4
融点:245℃
MFR:3g/10分(297℃、5kg)
【0106】
比較例1
共重合体(a1)のペレットおよびチューブ製造装置を用いて、外径12.70mm、厚さ1.58mmの1/2インチチューブを製造した。
【0107】
比較例2
共重合体(a1)に代えて、共重合体(a2)を用いた以外は、比較例1と同様にして、1/2インチチューブを製造した。
【0108】
比較例3
マルチマニホールドを装着した2種2層のチューブ押出し装置を用いて、内層(A)を共重合体(a1)とし、外層(B)を重合体(b1)として、2台の押出し機にそれぞれ供給して、外径12.70mm、厚さ1.58mmの1/2インチチューブを製造した。内層(A)の厚さは1.05mmであり、外層(B)の厚さは0.53mmであった。
【0109】
実施例1
共重合体(a1)に代えて、共重合体(a2)を用いた以外は、比較例3と同様にして、1/2インチチューブを製造した。
【0110】
(チューブの評価)
比較例1~2および実施例1で作製したチューブに、35質量%塩酸を封入して、80℃の温水中に90時間放置した。温水中からチューブを回収し、デジタルマイクロスコープを用いて、チューブの断面を観察した。チューブの断面画像を
図1~3に示す。
【0111】
図3に示すチューブの断面画像から、重量減少率が適切に調整された共重合体(a)により形成される内層を備えるチューブには、内層にクラックが発生していないことが分かる。一方、
図1~2に示すチューブの断面画像から、単層のチューブには、長さが10μm以上のクラックが無数に発生していることが分かる。
【0112】
(35%塩酸透過係数の測定)
図4に示すように、比較例3および実施例1で作製したチューブの片末端を熱により溶封し、チューブ21内に52mlの35質量%塩酸を入れ、もう一方のチューブ末端も溶封した。塩酸の入ったチューブ21をガラス管22に挿入し、フッ素ゴム製のパッキン23を用いて固定した。ついで、サンプリング口24から純水を110ml仕込み、25℃の恒温槽内においた。このときパッキン23間のチューブが純水に接液しており、接液部分の長さは18.5cmであった。この状態で放置し、サンプリング口24から1mlほどサンプリングを行い、その純水中に含まれる塩素イオン濃度Y(ppm)をイオンクロマトグラフ(商品名:IC7000-E、横河電気社製)を用いて定量し、下記式を用いて、塩酸透過係数(X)(ng・cm/cm
2/days)を算出した。
式:X=[(β×膜厚)/断面積]/(8.64×10
7)
β(単位:μg/秒):Tに対しαをプロットすることにより描かれる透過カーブのうち、150~250日間(T=150~250)の透過カーブの接線の傾き
α:透過総量(単位:μg)=Y×W
Y:塩素イオン濃度(単位:ppm)
W:純水量(単位:ml)
T:透過開始(塩酸を二層チューブに投入した時点)からサンプリングまでの経過時間(単位:秒)
膜厚:チューブの肉厚(単位:cm、1.58mm(0.158cm))
断面積:
図4に示す実験装置において、二層チューブと純水とが接している部分の面積(単位:cm
2)
【0113】
比較例3および実施例1で作製したチューブの35%塩酸透過係数(150~250日間)は以下のとおりであった。
比較例3:20ng・cm/cm2/days
実施例1:7ng・cm/cm2/days
【要約】
【課題】塩酸水溶液が封入された状態で、温水中に長期間放置された場合であっても、低い塩酸の透過性が維持される二層チューブを提供すること。
【解決手段】内層(A)と、内層(A)上に直接設けられた外層(B)と、を備える二層チューブであって、内層(A)が、テトラフルオロエチレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する共重合体(a)を含有しており、外層(B)が、クロロトリフルオロエチレン単位を少なくとも含有する重合体(b)を含有しており、共重合体(a)の380℃で1時間加熱処理した後の重量減少率が、0.05質量%以下であり、内層(A)の厚さと外層(B)の厚さとの比((A)/(B))が、30.0/70.0~67.0/33.0である二層チューブを提供する。
【選択図】
図3