IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図1
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図2
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図3
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図4
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図5
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図6
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図7
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図8
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図9
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図10
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図11
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図12
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図13
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図14
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図15
  • 特許-接合構造及び接合構造の施工方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】接合構造及び接合構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/61 20060101AFI20241002BHJP
   E04B 5/32 20060101ALI20241002BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
E04B1/61 505A
E04B5/32 A
E04G21/12 105A
E04G21/12 105E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024537838
(86)(22)【出願日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2024010770
【審査請求日】2024-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2023050171
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】有田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一弁
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-266965(JP,A)
【文献】特開2008-208576(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0030759(KR,A)
【文献】特開昭63-268850(JP,A)
【文献】特許第6631679(JP,B1)
【文献】特許第7335540(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04B 5/16-5/40
E04G 21/12
E04B 1/16
E04C 5/02-5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RC造の支持部材と、前記支持部材に対して突合せ方向に突合せられて接合される床スラブと、を備える接合構造であって、
前記支持部材は、支持コンクリートを有し、
前記床スラブは、
床コンクリートと、
前記支持コンクリート及び前記床コンクリートに埋設された複数の折曲げ定着筋と、を有し、
それぞれの前記折曲げ定着筋は、
前記支持コンクリート内を上下方向に沿って延びる定着部と、
前記支持コンクリート及び前記床コンクリート内を、前記定着部の上端部から前記突合せ方向に沿って延びる延在部と、を有し、
前記複数の折曲げ定着筋のうち2本以上の前記折曲げ定着筋は、それらの前記定着部が互いに接して配置された束ね筋を形成し、
前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、一の前記延在部と、他の一の前記延在部とは、互いに上下方向に異なる位置に配置されている、接合構造。
【請求項2】
前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋の前記定着部は、前記突合せ方向において互いに同等の位置に配置されている、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、径が最も小さい前記折曲げ定着筋の前記延在部は、前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、最も上方に配置されている、請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記束ね筋を、前記突合せ方向及び上下方向にそれぞれ平行な仮想平面に交差する交差方向に互いに間隔を空けて複数備え、
前記束ね筋の等価鉄筋径dr,eqを、(1)式により規定したときに、
前記交差方向に隣り合う前記束ね筋間の前記交差方向の距離は、前記等価鉄筋径dr,eqの6倍以上である、請求項1又は2に記載の接合構造。
ここで、dr,iは、1つの前記束ね筋を構成するn本である前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、i本目の前記折曲げ定着筋の径である。
【数1】
【請求項5】
RC造の支持部材と、前記支持部材に対して突合せ方向に突合せられて接合される床スラブと、を備える接合構造を施工する接合構造の施工方法であって、
前記支持部材は、支持コンクリートを有し、
前記床スラブは、
床コンクリートと、
前記支持コンクリート及び前記床コンクリートに埋設された複数の折曲げ定着筋と、を有し、
それぞれの前記折曲げ定着筋は、
前記支持コンクリート内を上下方向に沿って延びる定着部と、
前記支持コンクリート及び前記床コンクリート内を、前記定着部の上端部から突合せ方向に沿って延びる延在部と、を有し、
前記複数の折曲げ定着筋のうち2本以上の前記折曲げ定着筋は、それらの前記定着部が互いに接して配置された束ね筋を形成し、
前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、一の前記延在部と、他の一の前記延在部とを、互いに上下方向に異なる位置に配置する、接合構造の施工方法。
【請求項6】
前記束ね筋を形成する前記複数の折曲げ定着筋の前記定着部を、前記突合せ方向において互いに同等の位置に配置する、請求項5に記載の接合構造の施工方法。
【請求項7】
前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、径が最も小さい前記折曲げ定着筋の前記延在部を、前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、最も上方に配置する、請求項5又は6に記載の接合構造の施工方法。
【請求項8】
前記束ね筋を、前記突合せ方向及び上下方向にそれぞれ平行な仮想平面に交差する交差方向に互いに間隔を空けて複数備えるように施工し、
前記束ね筋の等価鉄筋径dr,eqを、(2)式により規定したときに、
前記交差方向に隣り合う前記束ね筋間の前記交差方向の距離が、前記等価鉄筋径dr,eqの6倍以上になるように施工する、請求項5又は6に記載の接合構造の施工方法
ここで、dr,iは、1つの前記束ね筋を構成するn本である前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、i本目の前記折曲げ定着筋の径である。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合構造及び接合構造の施工方法に関する。
本願は、2023年3月27日に、日本に出願された特願2023-050171号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、RC造の壁(支持部材)と合成梁の床スラブとが接合される接合構造においては、床スラブが有する公称径6~10mm程度、間隔200mm程度のひび割れ防止筋を壁に折曲げ定着することがあった。このような従来の構造は、折曲げ定着筋量が少なく、引抜き力に対する剛性も耐力も僅少であるため、合成梁とRC造の壁との接合部をピン接合(剛性とモーメント耐力がゼロ)とみなして設計していた。
なお、RC部材に対する折曲げ定着筋の引抜き耐力に関する従来技術は、RC造の柱梁接合部を対象とするものが殆どである。多くの場合には、折曲げ定着筋の径は16~36mmと比較的大きい。
【0003】
これに対し、本開示が対象とするRC造の壁と合成梁の半剛接合においては、接合部の剛性と耐力の確保のために、一般的な床スラブと比較して多量の鉄筋を用いて床スラブをRC造の壁に定着する必要がある。しかし、径の大きな鉄筋を浅いかぶりで用いる場合、コンクリート面にひび割れが発生しやすいことが知られている。床スラブはコンクリート厚が130mm~180mm程度の場合が多く、さらにデッキ合成スラブの場合はデッキの山上の正味コンクリート厚は80mm~130mm程度のため、鉄筋から床スラブ表面までのかぶり厚を大きくすることは難しい。すなわち、径の大きな鉄筋を床スラブの表面に近い位置に用いると、床コンクリートのひび割れを誘発しやすい。
【0004】
このような理由から、接合部の剛性と耐力を確保するには、一般的な床スラブと比較して多量の鉄筋を床スラブに配してこれらをRC造の壁に定着しつつ、床コンクリートのひび割れを防止するために、床スラブの鉄筋の径を、特に床コンクリート表層において抑制する必要がある。従って、床スラブの鉄筋の径を抑制して(径が6~16mm程度)複層配筋とし、鉄筋量を確保することが有効な策と考えられる。
【0005】
ところが、RC造の壁は、RC造の柱に比べてせい(床スラブの鉄筋の長さ方向の厚み)が小さく、せいの方向(突合せ方向)に床スラブの鉄筋をずらすと、浅い方の床スラブの鉄筋の定着長さが確保できず、床スラブの鉄筋の降伏耐力以下でコンクリートがコーン状に破壊する掻出し定着破壊が生じやすくなる。また、特許文献1では、複数の折曲げ定着筋を束ね筋にして定着した場合の定着耐力の評価方法は提案しているものの、実験等での検証が行われておらず、束ね筋を用いない実験結果に基づいて定められた既往の定着耐力計算式で算出される耐力が実際に得られるか不明である。
これに対し、非特許文献1では、前記せいの方向にずらして2段配筋された折曲げ定着筋の場合、1段配筋された場合の1本当たりの計算定着耐力の0.7倍の耐力しか得られないことが開示されている。束ね筋を用いずに千鳥配置にして、折曲げ定着筋からコンクリートへの圧縮力を分散することも対策として考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開平11-148172号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】村上、窪田、「2段配筋された90度折り曲げ定着耐力の推定方法及び耐力改善法」、コンクリート工学年次論文報告集、Vol.14、No.2、1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、RC造の壁には床スラブの鉄筋より太い径の壁鉄筋(支持鉄筋)が、例えば縦方向に延びる鉄筋(縦筋)はD25@150(直径25mmで150mmピッチ)と、ある程度密に配置されている。床スラブの鉄筋を千鳥配筋とした場合、壁鉄筋との干渉を避けて主筋のレイアウトを成立させるのは困難である。特に壁鉄筋と床スラブの鉄筋のピッチが異なる場合、干渉を避けるのはより難しい。
【0009】
本開示は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、折曲げ定着筋による床スラブのひび割れを防止しつつ、折曲げ定着筋が支持鉄筋と干渉しにくく、かつ柱梁接合部に用いる折曲げ定着筋と同等程度の耐力を得ることができる接合構造を提供すること、又は、折曲げ定着筋による床スラブ内のひび割れを防止しつつ、支持鉄筋と干渉しにくく、かつ柱梁接合部に用いる折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を得ることができる接合構造を施工する接合構造の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、この開示は以下の手段を提案している。
(1)本開示の態様1は、RC造の支持部材と、前記支持部材に対して突合せ方向に突合せられて接合される床スラブと、を備える接合構造であって、前記支持部材は、支持コンクリートを有し、前記床スラブは、床コンクリートと、前記支持コンクリート及び前記床コンクリートに埋設された複数の折曲げ定着筋と、を有し、それぞれの前記折曲げ定着筋は、前記支持コンクリート内を上下方向に沿って延びる定着部と、前記支持コンクリート及び前記床コンクリート内を、前記定着部の上端部から前記突合せ方向に沿って延びる延在部と、を有し、前記複数の折曲げ定着筋のうち2本以上の前記折曲げ定着筋は、それらの前記定着部が互いに接して配置された束ね筋を形成し、前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、一の前記延在部と、他の一の前記延在部とは、互いに上下方向に異なる位置に配置されている、接合構造である。
【0011】
(2)本開示の態様2は、RC造の支持部材と、前記支持部材に対して突合せ方向に突合せられて接合される床スラブと、を備える接合構造を施工する接合構造の施工方法であって、前記支持部材は、支持コンクリートを有し、前記床スラブは、床コンクリートと、前記支持コンクリート及び前記床コンクリートに埋設された複数の折曲げ定着筋と、を有し、それぞれの前記折曲げ定着筋は、前記支持コンクリート内を上下方向に沿って延びる定着部と、前記支持コンクリート及び前記床コンクリート内を、前記定着部の上端部から突合せ方向に沿って延びる延在部と、を有し、前記複数の折曲げ定着筋のうち2本以上の前記折曲げ定着筋は、それらの前記定着部が互いに接して配置された束ね筋を形成し、前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、一の前記延在部と、他の一の前記延在部とを、互いに上下方向に異なる位置に配置する、接合構造の施工方法である。
【0012】
これらの開示では、例えば、支持部材における突合せ方向の長さが比較的短い場合があっても、支持部材の支持コンクリート中に2本以上の定着部を少ないスペースで配置することができる。このため、2本以上の定着部を、例えば、支持部材が有する支持鉄筋と干渉しにくくすることができる。
【0013】
(3)本開示の態様3は、前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋の前記定着部は、前記突合せ方向において互いに同等の位置に配置されている、(1)に記載の接合構造であってもよい。
(4)本開示の態様4は、前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋の前記定着部を、前記突合せ方向において互いに同等の位置に配置する、(2)に記載の接合構造の施工方法であってもよい。
これらの開示では、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を得ることができる複層配筋の折曲げ定着筋を備えることができる。発明者等は、床スラブが有する床コンクリート内における、束ね筋を形成する2本以上の折曲げ定着筋について、それぞれの定着部の位置、及びそれぞれの延在部の位置を鋭意検討した。その結果、2本以上の延在部のうち、一の延在部と、他の一の延在部とが、互いに上下方向に異なる位置に配置され(2本以上の延在部のうち、一の延在部と、他の一の延在部とを、互いに上下方向に異なる位置に配置する)、かつ、2本以上の定着部を突合せ方向において互いに同等の位置に配置することで、それぞれの折曲げ定着筋が柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を発現することを見出した。
従って、接合構造において、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を得ることができる複層配筋の折曲げ定着筋を備えることができる。また、接合構造の施工方法において、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を得ることができる複層配筋の折曲げ定着筋を備える接合構造を施工することができる。これらの開示では、複数の折曲げ定着筋を支持部材に、より確実に定着させ、定着部のコンクリート破壊耐力を向上させることができ、折曲げ定着筋の降伏を先んじて起こして、折曲げ定着筋の伸び変形による延性的な破壊を誘起させことができる。
【0014】
(5)本開示の態様5は、前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、径が最も小さい前記折曲げ定着筋の前記延在部は、前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、最も上方に配置されている、(1)又は(3)に記載の接合構造であってもよい。
(6)本開示の態様6は、前記束ね筋を形成する前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、径が最も小さい前記折曲げ定着筋の前記延在部を、前記2本以上の折曲げ定着筋の前記延在部のうち、最も上方に配置する、(2)又は(4)に記載の接合構造の施工方法であってもよい。
これらの開示では、床コンクリートにひび割れが生じるのを抑制することができる。
【0015】
(7)本開示の態様7は、前記束ね筋を、前記突合せ方向及び上下方向にそれぞれ平行な仮想平面に交差する交差方向に互いに間隔を空けて複数備え、前記束ね筋の等価鉄筋径dr,eqを、(1)式により規定したときに、前記交差方向に隣り合う前記束ね筋間の前記交差方向の距離は、前記等価鉄筋径dr,eqの6倍以上である、(1)、(3)、及び(5)のいずれか一に記載の接合構造であってもよい。
ここで、dr,iは、1つの前記束ね筋を構成するn本である前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、i本目の前記折曲げ定着筋の径である。
【0016】
【数1】
【0017】
(8)本開示の態様8は、前記束ね筋を、前記突合せ方向及び上下方向にそれぞれ平行な仮想平面に交差する交差方向に互いに間隔を空けて複数備えるように施工し、前記束ね筋の等価鉄筋径dr,eqを、(2)式により規定したときに、前記交差方向に隣り合う前記束ね筋間の前記交差方向の距離が、前記等価鉄筋径dr,eqの6倍以上になるように施工する、(2)、(4)、及び(6)のいずれか一に記載の接合構造の施工方法であってもよい。
ここで、dr,iは、1つの前記束ね筋を構成するn本である前記2本以上の折曲げ定着筋のうち、i本目の前記折曲げ定着筋の径である。
【0018】
【数2】
【0019】
これらの開示によれば、例えば、束ね筋や複層に配置した鉄筋の折曲げ定着筋に用いることを想定していない従来の耐力評価式を、束ね筋や複層に配置した鉄筋の折曲げ定着筋に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の接合構造によれば、束ね筋や複層に配置した鉄筋の折曲げ定着筋を用いて、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を有する折曲げ定着筋を備えることができる。また、本開示の接合構造の施工方法によれば、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を有する折曲げ定着筋を備える接合構造を施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の一実施形態である仕様1の接合構造が用いられる建築物の床組図である。
図2図1中の切断線A1-A1の断面図である。
図3図2中の切断線A2-A2の断面図である。
図4】定着筋による壁コンクリートの崩壊形式の一例を示す図である。
図5】定着筋による壁コンクリートの崩壊形式の他の例を示す図である。
図6】定着筋による壁コンクリートの崩壊形式の他の例を示す図である。
図7】定着筋による壁コンクリートの崩壊形式の他の例を示す図である。
図8】仕様2の接合構造が用いられる建築物における要部の断面図である。
図9】仕様3の接合構造が用いられる建築物における要部の断面図である。
図10】仕様4の接合構造が用いられる建築物における要部の断面図である。
図11】実験に用いた試験体の概要構成を示す図である。
図12図11におけるA5方向矢視図である。
図13】試験体を取付けた実験装置の正面図である。
図14図13中の切断線A8-A8の断面図である。
図15】予想最大荷重時鉄筋応力度に対する平均応力度の実験結果を示す図である。
図16】試験体による計算定着耐力の変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示に係る接合構造の一実施形態が用いられる建築物を、図1から図16を参照しながら説明する。
まず、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を得ることができる後述する床鉄筋(鉄筋)を検討するための接合構造について説明する。
【0023】
〔1.仕様1の接合構造が用いられた建築物の構成〕
図1及び図2に示すように、この建築物1は、コア壁10と、複数の柱20と、合成梁25と、を備える。なお、図1では、合成梁25を二点鎖線で示す。
コア壁10は、角筒状である。コア壁10は、一対の第1壁(支持部材)11と、一対の第2壁(支持部材)12と、を有する。
一対の第1壁11及び一対の第2壁12は、それぞれRC(Reinforced Concrete)造である。
【0024】
図2に示すように、第1壁11は、壁コンクリート(支持コンクリート)14と、複数の壁鉄筋(支持鉄筋)15と、ベースプレート16と、複数の頭付きスタッド17と、を有する。
壁コンクリート14は、自身の厚さ方向(突合せ方向X)に見たときに矩形となる板状である。壁コンクリート14は、自身の厚さ方向が水平面に沿うとともに、上下方向Zに延びた状態に配置されている。
複数の壁鉄筋15は、複数の縦筋15aと、複数の横筋15bと、を有する。複数の縦筋15a及び複数の横筋15bは、壁コンクリート14に埋設されている。複数の縦筋15aは、互いに離間するように配置されるとともに、上下方向Zに延びている。複数の横筋15bは、水平面に沿って延び、複数の縦筋15aにそれぞれ接合されている。
【0025】
図2及び図3に示すように、ベースプレート16は、壁コンクリート14の外面に配置されている。ベースプレート16は、外部に露出している。ベースプレート16は、壁コンクリート14の外面より壁コンクリート14側にオフセットして配置し、ベースプレート16の表面を壁コンクリート14が覆ってもよい。なお、図3では、後述する床スラブ28の概要構成のみ示している。
図2に示すように、複数の頭付きスタッド17は、ベースプレート16における壁コンクリート14の内側となる主面16aに固定されている。複数の頭付きスタッド17は、ベースプレート16から壁コンクリート14の内側に向かって突出している。複数の頭付きスタッド17は、壁コンクリート14に埋設されている。ベースプレート16は複数の頭付きスタッド17を用いない方法で壁コンクリート14に固定されていてもよい。例えば後施工アンカーによって固定されてもよく、スタッドジベル(孔あき鋼板)や機械式定着を用いてもよい。
【0026】
図1に示すように、一対の第1壁11は、水平面に沿う方向に対向している。
図2に示すように、ベースプレート16における主面16aとは反対側の主面16bには、シアプレート18が溶接やボルト等により接合されている。シアプレート18は、第1壁11に接合されている。
シアプレート18には、図示しないボルト孔が形成複数されている。複数のボルト孔は、互いに上下方向Zに離間した状態で並べて配置されている。
【0027】
図1に示すように、一対の第2壁12は、一対の第1壁11と同様に構成される。
第2壁12は、自身の厚さ方向が水平面に沿うとともに、上下方向Zに延びた状態に配置されている。一対の第2壁12は、水平面に沿う方向に対向している。一対の第2壁12は、各第1壁11の幅方向の端部同士を連結している。
コア壁10内の空間には、図示しないエレベータのシャフトや、階段室等が配置される。
【0028】
柱20は、上下方向Zに沿って延びている。複数の柱20は、コア壁10の周囲に、互いに間隔を開けるとともに、コア壁10から離間した位置に配置されている。例えば、柱20は、RC造である。なお、柱は、鋼製、SRC(Steel encased Reinforced Concrete/ Steel framed Reinforced Concrete)造、CFT(Concrete-Filled steel Tube)造等でもよい。
【0029】
図1及び図2に示すように、合成梁25は、複数の第1鉄骨梁(鉄骨梁)26と、複数の第2鉄骨梁(鉄骨梁)27と、床スラブ28と、を有している。なお、第1壁11及び床スラブ28で、仕様1の接合構造29を構成する。同様に第2壁12及び床スラブ28で、仕様1の接合構造29を構成する。すなわち、本実施形態の仕様1の接合構造29には、壁11,12に突き合わされる第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27のいずれも用いることができる。
例えば、第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27は、それぞれ鋼製のH形鋼である。なお、第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27は、H形鋼でなくてもよい。例えば、H形鋼の上フランジがないT形鋼を用いてもよい。また、鉄筋コンクリート造の梁と床スラブ28が一体となったT字梁であってもよい。
第1鉄骨梁26は、隣り合うコア壁10と柱20との間、及び隣り合う柱20の間にそれぞれかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。
第2鉄骨梁27は、隣り合うコア壁10と第1鉄骨梁26との間、及び隣り合う第1鉄骨梁26の間にそれぞれかけ渡され、水平面に沿って延びている。
第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27の構成は、互いに同等であるため、以下では、隣り合うコア壁10と第1鉄骨梁26との間にかけ渡されている第2鉄骨梁27を例にとって説明する。
【0030】
図2及び図3に示すように、第2鉄骨梁27は、第1フランジ31と、第2フランジ32と、ウェブ33と、を備えている。第1フランジ31及び第2フランジ32は、それぞれ水平面に沿って配置され、互いに上下方向Zに対向している。第1フランジ31は、第2フランジ32よりも上方に配置されている。
ウェブ33は、第1フランジ31と第2フランジ32との間に配置されている。ウェブ33は、第1フランジ31の幅方向の中心及び第2フランジ32の幅方向の中心にそれぞれ接合されている。もしくは、ウェブ33は、第1フランジ31の幅方向の中心及び第2フランジ32の幅方向の中心に位置するように、第1フランジ31及び第2フランジ32と一体成形されている。
ウェブ33における突合せ方向Xの各端部には、図示しない複数のボルト孔が形成されている。複数のボルト孔は、互いに上下方向Zに離間した状態で並べて配置されている。
【0031】
図2に示すように、床スラブ28は、床スラブ28の厚さ方向が上下方向Zに沿うように配置されている。床スラブ28は、第1壁11に対して突合せ方向Xに突合せられて接合されている。以下では、床スラブ28に対する第1壁11側を、突合せ方向Xの第1側X1(単に、第1側X1とも言う)と言う。第1側X1とは反対側を、突合せ方向Xの第2側X2(単に、第2側X2とも言う)と言う。
図2及び図3に示すように、床スラブ28は、デッキプレート36と、床コンクリート37と、複数の束ね筋45と、を有している。
デッキプレート36は、鋼板を折り曲げること等により形成されている。デッキプレート36は、第2鉄骨梁27の第1フランジ31上に配置されている。
床コンクリート37は、平板状に形成され、デッキプレート36上に配置されている。 束ね筋45は、複数(2本以上)の折曲げ定着筋(折曲げ定着鉄筋)38と、番線(束ね部材)44と、を有する。複数の折曲げ定着筋38は、複数の第1定着筋42Aと、複数の第2定着筋42Bと、を有する。
【0032】
なお、図示はしないが、複数の折曲げ定着筋38(床スラブ28)は、突合せ方向Xに交差する方向の鉄筋を有してもよい。また、図示はしないが、複数の折曲げ定着筋38は、複数の第1定着筋42A及び複数の第2定着筋42B以外に、突合せ方向Xに沿って配置され壁コンクリート14に埋設(定着)されない鉄筋を有してもよい。
【0033】
本実施形態では、第1定着筋42Aの構成と第2定着筋42Bの構成とは、互いの径及び長さ以外は互いに同一である。このため、第1定着筋42Aの構成を、符号の数字、又は数字及び英小文字に英大文字「A」を付加することで示す。第2定着筋42Bのうち第1定着筋42Aに対応する構成を、第1定着筋42Aの符号と同一の数字、又は数字及び英小文字に英大文字「B」を付加することで示す。これにより、重複する説明を省略する。例えば、第1定着筋42Aの後述する定着部42aAと第2定着筋42Bの後述する定着部42aBとは、互いの径及び長さ以外は同一の構成である。
【0034】
第1定着筋42Aは、例えば、鉄筋を曲げ加工することにより形成される。第1定着筋42Aは、定着部42aAと、延在部42bAと、折曲げ部42cAと、を有する。なお、第1定着筋42Aは、折曲げ部42cAの代わりに第1定着筋42Aの抜け出しに抵抗する拡径部を有してもよい。
定着部42aAは、壁コンクリート14内を上下方向Zに沿って延びている。定着部42aAは、壁コンクリート14に埋設(定着)されている。
延在部42bAは、突合せ方向Xに沿って第2側X2に向かって延びている。延在部42bAにおける第1側X1の端部は、壁コンクリート14に埋設されている。
延在部42bAにおける前記端部以外の部分は、床コンクリート37に埋設されている。
【0035】
折曲げ部42cAは、四分円弧状に形成されている。折曲げ部42cAは、定着部42aAの上端部、延在部42bAにおける第1側X1の端部にそれぞれ接合されている。
なお、第1定着筋42Aは、延在部42bAの第2側X2の端部から下方に向かって延びる第2定着筋等を有してもよい。あるいは、第1定着筋42Aは、延在部42bAの第2側X2の端部において、中心角が180°のフックを介して第1側X1の方向に折り返す第2定着筋等を有してもよい。
【0036】
第2定着筋42Bの径は、第1定着筋42Aの径よりも大きい。すなわち、定着筋42A,42Bのうち、径が最も小さい折曲げ定着筋38は、第1定着筋42Aである。第2定着筋42Bは、第1定着筋42Aの定着部42aA、延在部42bA、折曲げ部42cAと同様に構成された定着部42aB、延在部42bB、折曲げ部42cBを有する。
なお、第1定着筋42Aと第2定着筋42Bとは、互いに同じ径であってもよい。第1定着筋42Aは、折曲げ部42cAの代わりに第1定着筋42Aの抜け出しに抵抗する拡径部を有してもよい。
【0037】
定着部42aA,42aBは、突合せ方向Xにおいて互いに同等の位置に配置されている。ここで言う定着部42aA,42aBは、突合せ方向Xにおいて互いに同等の位置に配置されているとは、例えば、定着筋42A,42Bの投影定着長さの差の絶対値が、第2定着筋42Bの径(複数の折曲げ定着筋38のうちの最大の径)の4倍以下であることを意味する。第1定着筋42Aの投影定着長さとは、第1定着筋42Aのうち壁コンクリート14に定着される部分の突合せ方向Xの長さを意味する(図2における投影定着長さLdhを参照)。第2定着筋42Bの投影定着長さについても、同様である。
【0038】
定着部42aA,42aBは、互いに接して配置されてもよい。定着部42aA,42aBをこのように配置することにより、壁コンクリート14に定着される定着筋42A,42Bの突合せ方向Xの長さが揃う。従って、定着筋42A,42Bの位置決めが容易になり、定着筋42A,42Bの施工性が向上する。
【0039】
複数の定着筋42A,42B(複数の折曲げ定着筋38)の投影定着長さの最小値は、第1壁11の突合せ方向Xの長さ(図2における長さDを参照)の1/2倍以上であることが好ましい。これは、壁コンクリート14の厚さ方向(突合せ方向X)の第2側X2の縁端には、合成梁25からRC造の第1壁11に作用する曲げモーメントによって、上下方向Zに引張応力が作用する。これにより、定着筋42A,42Bの引抜き力との複合応力によって2軸の引張応力が作用し、壁コンクリート14が破壊しやすくなるためである。
一般的には、RC造の壁11、12は、建築物1に作用する鉛直力(自重、積載荷重)を支持するため、常時高さ方向(Z方向)に圧縮力を受けるので、投影定着長さの最小値は、長さDの1/2倍以上あれば充分である。ただし、風荷重や地震力による水平力で壁11、12の上下方向Zに引張の付加応力が作用する場合、より確実に定着筋42A,42Bの引抜き耐力を得るには、投影定着長さの最小値は長さDの2/3倍以上であることが好ましい。一方、定着部42aA,42aBから壁コンクリート14の側面までの被り厚さは少なくとも20mm程度を確保することが好ましく、投影定着長さの最大値は(D-20mm)以下であることが好ましい。
【0040】
定着部42aA,42aBは、互いに番線44等により束ねられている。なお、束ね部材は、番線44に限定されず、結束バンドを用いてもよいし、溶接によって接合してもよい。また、束ね筋45を構成する複数の折曲げ定着筋38は、束ね部材によって束ねずとも、定着部42aA,42aBが互いに近接する(接する)ように位置を固定する他の手段を用いてもよい。
延在部42bAと延在部42bBとは、互いに上下方向Zに異なる位置に配置されている。延在部42bAと延在部42bBとは、互いに上下方向Zに異なる位置に配置されているとは、例えば、延在部42bAの中心軸と延在部42bBの中心軸とは、互いに上下方向Zに異なる位置に配置されていることを意味する。
【0041】
より詳しく説明すると、延在部42bA,42bBは、互いに上下方向Zに間隔を空けて配置されている。第1定着筋42Aの延在部42bAは、延在部42bA,42bBのうち、最も上方に配置されている。すなわち、延在部42bA,42bBのうち、最も上方に配置されている、径が小さい第1定着筋42Aの延在部42bAが、この第1定着筋よりも径が大きい第2定着筋42Bの延在部42bBよりも上方に配置されている。
なお、複数の折曲げ定着筋38は、定着筋42A,42Bの2層に限定されず、3層、4層の場合であっても上記と同様の構成に従って用いることができる。この場合、束ね筋45はそれぞれの場合において3本、4本の定着筋を束ねたものとなる。また、束ね筋が3本以上の折り曲げ定着筋を有している場合であっても、径が最も小さい、少なくとも1本の定着筋の延在部が最も上方に配置されることが好ましい。
【0042】
図2の構成によれば、壁コンクリート(支持コンクリート)14の破壊形態(後述する図4から図7)に対応する破壊耐力を向上する効果がある。なお、図4から図7では、例えば、鉄筋コンクリート造の柱100と床コンクリート101とが、複数の第1定着筋42Aにより接続されている。図4(B)から図7(B)は、図4(A)から図7(A)を平面視した断面図である。図4(B)から図7(B)では、床コンクリート101を示していない。
例えば、定着筋42A、42B(複数の折曲げ定着筋38)それぞれにおける延在部42bA,42bBと定着部42aA,42aBとの間の折曲げ部42cA、42cBから作用する支圧力に抵抗するコンクリートが掻出し破壊(Raking-out failure。図6を参照)する場合に、掻出される部分のコーン(略円錐状)破壊面の有効面積が、本実施形態(図2)の場合は図2の実線で囲まれる領域R1となり、後述する本開示とは異なる構成(図9及び図10)の場合は図9の実線で囲まれる領域R2となる。
【0043】
これらのコーン破壊面は、次の共通の考え方で得られる。まず、定着筋42A、42B(複数の折曲げ定着筋38)がそれぞれ単独で存在すると仮定した場合に掻出し破壊が生じるコーン破壊面(図2図9の点線で示す領域R3。ただし、実線と点線が重なる部分は領域R1及び領域R2がその破壊面の一部となる)を定着筋42A、42Bそれぞれについて仮定する。これらのコーン破壊面で囲まれる領域のうち、双方のコーン破壊面に含まれる領域(図2の領域R1、図9の領域R2)が、実際のコーン破壊面となる。
折曲げ部42cA、42cBの位置が、突合せ方向Xにおいて壁コンクリート14の梁側から遠いほど、突合せ方向Xにおいて深い位置からのコーン破壊となるため、図2の領域R1で示される有効面積は図9の領域R2で示される有効面積より大きく、破壊耐力が大きくなる。
【0044】
図3に示すように、突合せ方向X及び上下方向Zにそれぞれ平行な仮想平面S1に直交する方向を、直交方向(交差方向)Yと規定する。なお、交差方向は、仮想平面S1に交差する方向であってもよい。
複数の束ね筋45は、直交方向Yに互いに間隔を空けて並べて配置されている。
なお、床スラブ28が有する束ね筋45の数は限定されず、1つでもよい。
ここで、束ね筋45の等価鉄筋径dr,eq(mm)を、(5)式により規定する。
【0045】
【数3】
【0046】
ただし、dr,iは、1つの束ね筋45を構成するn本の複数の折曲げ定着筋38のうち、i本目の折曲げ定着筋38の径(mm)である。iは自然数であり、図2、3の例ではnは2である。
直交方向Yに隣り合う束ね筋45間の直交方向Yの距離Sは、等価鉄筋径dr,eqの6倍以上であることが好ましい。距離Sが等価鉄筋径dr,eqの6倍を下回る場合は、束ね筋45の引抜き力に抵抗する壁コンクリート14の領域が、互いに直交方向Yに隣り合う束ね筋間で重複し、壁コンクリート14が破壊しやすくなるためである。
なお、距離Sは、定着部の壁コンクリート14の破壊防止の観点からは大きい方がよく、上限は特に限定されないが、距離Sが大きいほど床スラブ28の有効幅内に配置できる折曲げ定着筋38の本数が少なくなり耐力・剛性ともに小さくなる。従って、距離Sは、等価鉄筋径dr,eqの20倍程度を上限とすることが好ましい。
【0047】
図2に示すように、第2鉄骨梁27の第1フランジ31には、複数の頭付きスタッド(シアコネクタ)48が固定されている。複数の頭付きスタッド48は、突合せ方向Xに互いに間隔を開けて配置されている。複数の頭付きスタッド48は、床スラブ28のデッキプレート36を通して、床コンクリート37に埋設されている。
なお、デッキプレート36が第1フランジ31の上で分割されていてもよく、この場合は複数の頭付きスタッド48は第1フランジ31に直接接合され、床コンクリート37に埋設される。
【0048】
図2及び図3に示すように、第2鉄骨梁27のウェブ33及びシアプレート18は、ボルト51及びナット52によりそれぞれ接合されている。より詳しく説明すると、ボルト51の軸部(符号省略)は、シアプレート18のボルト孔、及び第2鉄骨梁27のウェブ33のボルト孔にそれぞれ通されている。ボルト51の頭部(符号省略)は、シアプレート18に、ウェブ33とは反対側から係止している。
ナット52は、ウェブ33に、シアプレート18とは反対側から係止するとともに、ボルト51の軸部に嵌め合っている。なお、図示はしていないが、ボルト51の頭部とシアプレート18との間、ナット52とウェブ33との間にはワッシャが設置されている。
図2に示すように、第2鉄骨梁27の第2フランジ32と第1壁11のベースプレート16とは、連結部53により接合されている。連結部53はメタルタッチで応力を伝達する支圧部材(コンタクトプレート)を挿入してもよく、溶接によって接合してもよい。
【0049】
接合構造29において、複数の折曲げ定着筋38における第2側X2の端部は、第2鉄骨梁27の負曲げ領域まで延びていることが好ましい。すなわち、第2鉄骨梁27の両端が何らかの接合部で上下方向Zに支持されている場合、第2鉄骨梁27における突合せ方向Xの中央を含む範囲は、正曲げ領域となる。この範囲の床スラブ28は圧縮力を受けるため、ひび割れ防止筋のみが配筋されていればよい。従って、上層筋である複数の第1定着筋42Aをひび割れ防止筋として第2鉄骨梁27の全長にわたって配筋し、下層筋である複数の第2定着筋42Bは正曲げ領域には配置しなくてよい。ひび割れ防止筋は長さ方向に2つ以上に分割し、重ね継手を設けて複数の第1定着筋42Aと連続的に配筋してもよい。
さらに言えば、第2鉄骨梁27における第1側X1の負曲げ領域において、複数の折曲げ定着筋38は床スラブ28の引張力が大きくなる接合部近辺のみに配置されていればよい。負曲げ領域でも、正曲げ領域に近い範囲には、複数の第2定着筋42Bは設けなくてよい。
【0050】
例えば、第2鉄骨梁27の長さをLとした場合、第2定着筋42Bは接合部から0.15Lの範囲に配置されていればよく、接合部の回転剛性に応じて、第2定着筋42Bはさらに短い長さでもよい。ただし、床スラブ28に埋め込まれた頭付きスタッド48から複数の折曲げ定着筋38に引張力を伝達するためには、最も短い場合で複数の折曲げ定着筋38の径の40倍程度は、第2定着筋42Bの長さを確保することが好ましい。
【0051】
〔2.仕様1の接合構造の施工方法〕
仕様1の接合構造29の施工方法(以下では、単に施工方法とも言う)について説明する。
施工方法では、例えば、壁コンクリート14,床コンクリート37を打設する前に、定着筋42A,42Bの定着部42aA,42aBを、突合せ方向Xにおいて互いに同等の位置に配置する。
延在部42bAと延在部42bBとを、互いに上下方向Zに異なる位置に配置する。より詳しく説明すると、施工方法では、径が小さい第1定着筋42Aの延在部42bAを、延在部42bA,42bBのうち、最も上方に配置することが好ましい。
施工方法では、複数の定着筋42A,42Bの投影定着長さの最小値が、第1壁11の突合せ方向Xの長さの1/2倍以上、または2/3倍以上になるように、複数の定着筋42A,42Bを施工することが好ましい。
【0052】
施工方法では、壁コンクリート14及び床スラブ28が、直交方向Yに並べられた複数の束ね筋45を有するように施工してもよい。このとき、直交方向Yに隣り合う束ね筋45間の直交方向Yの距離が、等価鉄筋径dr,eqの6倍以上になるように施工してもよい。
ベースプレート16は、複数の頭付きスタッド17を有する状態で壁コンクリート14,床コンクリート37を打設する前に設置する。
続いて、壁コンクリート14を打設する。壁コンクリート14が硬化し、型枠を外したのち、第1鉄骨梁26及び第2鉄骨梁27をベースプレート16に設置したシアプレート18に接合し、デッキプレート36上に床コンクリート37を打設し、接合構造29を施工する。シアプレート18は壁コンクリート14の型枠取り外し後にベースプレート16に接合してもよい。この場合は、壁コンクリート14の型枠とシアプレート18が干渉しないため、壁コンクリート14の型枠の設置が容易である。あらかじめベースプレート16にシアプレート18が接合された状態で壁コンクリート14の型枠を設置してもよい。この場合は型枠とシアプレート18の干渉を避けるため型枠の一部に開口を設けるなどする必要があるが、型枠取り外し後のシアプレート18の設置工程を省略できる。
【0053】
〔3.本開示以外の接合構造(仕様2から仕様4)が用いられた建築物の構成〕
次に、本開示に係る接合構造との比較を行うため、本開示とは異なる接合構造について説明する。
図8に示す建築物1Aは、建築物1の各構成において、接合構造29に代えて、仕様2の接合構造60を備える。この仕様2の接合構造60は、本開示とは異なる接合構造である。接合構造60では、第1定着筋42Aの定着部42aAと第2定着筋42Bの定着部42aBとは接触しておらず、互いに突合せ方向Xに異なる位置に配置されている。より詳しく説明すると、定着部42aBは、定着部42aAよりも第1側X1に配置されている。
一方で、延在部42bAと延在部42bBとは、上下方向Zにおいて互いに同等の位置に配置されている。
図9に示す建築物1Bは、建築物1の各構成において、接合構造29に代えて、仕様3の接合構造65を備える。この仕様3の接合構造65は、本開示とは異なる接合構造である。接合構造65では、第1定着筋42Aの定着部42aAと第2定着筋42Bの定着部42aBとは接触しておらず、互いに突合せ方向Xに異なる位置に配置されている。また、延在部42bAと延在部42bBとは、上下方向Zにおいても互いに異なる位置に配置されている。
【0054】
また、図10に示す建築物1Cは、建築物1の各構成において、接合構造29に代えて、仕様4の接合構造70を備える。接合構造70では、第1定着筋42Aと第2定着筋42Bとは、互いに直交方向Yに間隔を空けて配置されている。すなわち、突合せ方向Xに見たときに、第1定着筋42Aの延在部42bAと第2定着筋42Bの延在部42bBとは、互いに接しておらず、且つ千鳥配置である。第1定着筋42Aと第2定着筋42Bとは、番線44により束ねられていない。この仕様4の接合構造70も、本開示とは異なる接合構造である。
【0055】
非特許文献1によれば、接合構造60(仕様2),65(仕様3)における折曲げ定着筋38の計算定着耐力は、1段配筋された鉄筋の計算定着耐力の0.7倍に低下していることになる。
一方、接合構造70(仕様4)では、図10の例では直交方向Yにおける折曲げ定着筋38の間隔が壁鉄筋の間隔と同じため干渉していない。しかし、折曲げ定着筋38の間隔と壁鉄筋の間隔が異なる場合は、大きい方の間隔が小さい方の間隔の整数倍でない限り、干渉しやすくなる。壁鉄筋との干渉を避けると折曲げ定着筋38の間隔が不均一になるため、定着部の引抜き耐力の予測が困難になる。
以下では、折曲げ定着筋38の計算定着耐力の実験結果について説明する。
【0056】
〔4.試験体を用いた実験〕
図11及び図12に示すように、第1壁11に複数の折曲げ定着筋38を定着させた試験体75を5体用いた。なお、図11及び図12では、番線44を示していない。
図11及び図12中に、試験体75の各構成の寸法を、「mm」の単位で示す。「@」の直後の数値は、ピッチを表す。
試験体75の諸元を、表1から表4に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
第1壁11のサイズは全て、幅800mm、高さ2000mmとした。折曲げ定着筋(定着筋)38を上下方向Z(床スラブ28の厚さ方向)にずらして2層配筋とした。RC造の第1壁11内の定着部42aA,42aBを番線44により束ねて複数の折曲げ定着筋38を配筋した試験体75を、No.1,2,4,5の4体製造した。
折曲げ定着筋38を上下方向Zにずらして2層配筋とし、かつ層状の複数の折曲げ定着筋38を直交方向Yにずらして千鳥配置した試験体75を、No.3の1体製造した。
No.3の試験体75(千鳥配置)は、No.2の試験体75(束ね筋)と同じ第1壁11の厚さ・鉄筋量であり、比較用の試験体である。
No.1からNo.5の全ての試験体75において、折曲げ定着筋38は、90°の折曲げフックとし、折曲げ内法半径は、折曲げ定着筋38の径の6倍とした。
【0062】
その他の実験パラメータは、折曲げ定着筋38の径及びピッチ、第1壁11の厚さとした。なお、試験体75のコンクリート打設時は、試験体75の第1壁11の高さ方向が、実際の第1壁11の上下方向Zと同じになるように試験体75を立てた。これにより、コンクリートの打設の方向が実際の建築物と同じになるようにした。
【0063】
No.1、2、4、5の試験体75が、仕様1に該当する。No.3の試験体75が仕様4の接合構造70に該当する。
なお、全ての試験体75において、折曲げ定着筋38は、90°の折曲げフックとし、折曲げ内法半径は、折曲げ定着筋38の径の6倍とした。
【0064】
図13及び図14に、試験体75を実験装置80に設置した状態を示す。
実験装置80は、門型載荷フレーム81と、一対のピンローラ支点82と、油圧ジャッキ83と、ロードセル84と、を備える。
試験体75は、第1壁11の高さ方向が水平面に沿う方向になるように寝かされている。試験体75の複数(この例では、3本)の折曲げ定着筋38の下端部は、門型載荷フレーム81の載荷桁81aに固定されている。一対のピンローラ支点82は、第1壁11の両端部が上下方向に移動しないように支持している。油圧ジャッキ83が載荷桁81aを下方に向かって押すと、第1壁11は、載荷桁81a及び一対のピンローラ支点82により、いわゆる3点曲げされる。そして、第1壁11から複数の折曲げ定着筋38が、下方に向かって引き抜かれる。
第1壁11の変位が一定になるように、下方に向かって油圧ジャッキ83による引抜き力Pを作用させた。ロードセル84は、油圧ジャッキ83に接続され、油圧ジャッキ83による圧縮荷重を測定する。
【0065】
予想される実験の最大荷重Pu,calcは、1段(単層)配筋された場合を前提とする折曲げ定着筋38の定着部コンクリート破壊耐力T図4又は図5を参照)、掻き出し定着破壊耐力Tcu図6を参照)、折曲げ定着筋38の断面降伏耐力Try、RC造の第1壁11の折曲げ定着筋38の接合部せん断破壊時定着筋引抜き力T図7を参照)の4つのうち、最も小さい耐力によって決まるものとした。すなわち、Pu,calc=min(T,Tcu,Try,T)とした。
断面降伏耐力Tryは、実験で用いた鉄筋の降伏強度と総断面積の積で定義した。定着部コンクリート破壊耐力T、掻き出し定着破壊耐力Tcu、接合部せん断破壊時定着筋引抜き力Tは、文献1に記載の算定方法に従った。
文献1:日本建築学会、「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説」、丸善株式会社、2001
【0066】
接合部せん断破壊時定着筋引抜き力Tについては、第1壁11に作用するせん断力が文献1記載のせん断ひび割れ強度Vとせん断信頼強度Vのうちの大きい方に等しくなる時の、折曲げ定着筋38の引抜き力(T=2×(max(V,V))とした。定着部コンクリート破壊耐力Tについては、束ね筋45を等価な1つの鉄筋とみなし、(5)式で定義する束ね筋45の等価鉄筋径dr,eqを用いて計算した、文献1に記載の折曲げ定着強度fに、定着筋の総断面積を乗じた値とした。
千鳥配置の場合の定着部コンクリート破壊耐力Tは、(8)式で計算される等価鉄筋径dr,eq(mm)を有する折曲げ定着筋38が、上層筋である第1定着筋42A及び下層筋である第2定着筋42Bの総本数と同じ数だけ、1層配筋されているものとして扱った。直交方向Yにおける折曲げ定着筋38の間隔は、第1定着筋42Aと第2定着筋42Bの間の直交方向Yにおける間隔とした。
【0067】
【数4】
【0068】
ここで、nは、第1定着筋42Aの本数である。dr,tは第1定着筋42Aの公称径(mm)、nは第2定着筋42Bの本数、dr,bは第2定着筋42Bの公称径(mm)である。定着部コンクリート破壊耐力T、掻き出し定着破壊耐力Tcu、及び接合部せん断破壊時定着筋引抜き力Tのいずれの計算においても、コンクリート強度は実験当日の実際の圧縮強度と割裂引張強度を用いた。
【0069】
予想最大荷重Pu,calc、各種破壊形態に対応する計算耐力T、Tcu、Try、T、予想される破壊形態と、実験で得られた最大耐力、実験で生じた破壊形態を、表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
図15に、予想最大荷重(計算定着耐力)Pu,calcを複数の折曲げ定着筋38の断面積の総和で除した予想最大荷重時鉄筋応力度fu,calcと、実験の最大荷重Tmaxを複数の折曲げ定着筋38の断面積の総和で除した折曲げ定着筋38の平均応力度fu,expとを比較した結果を示す。図15において、線L1上に○印がある場合には、平均応力度fu,expが、1段(単層)配筋された場合を前提とする予想最大荷重時鉄筋応力度fu,calcの0.7倍に低下することなく、柱梁接合部に用いるような1段(単層)配筋された場合と同等の耐力が得られたことを意味する。
いずれの試験体75も、fu,expはfu,calcと概ね同等の値を示した。すなわち、Tmaxは予想最大荷重Pu,calcと概ね同等の耐力を有し、ここで用いる提案方法によって精度よく定着耐力を予想できることを確認した。また、No.2及びNo.3の試験体75による結果から、本開示の構成であれば束ね筋でも千鳥配置と同等の耐力を有することが確認できた。すなわち、本開示の構成に従えば、折曲げ定着筋38が壁鉄筋15と干渉しにくいため、千鳥配置より施工しやすいうえ、千鳥配置と同様の耐力が得られることが示された。
【0072】
〔5.計算定着耐力の確認実験〕
前記No.1及びNo.2の試験体75を基本(実施例)として、それぞれの第2定着筋42Bの投影定着長さを第1定着筋42Aの投影定着長さより短くした場合を比較例(表6に示すNo.1’及びNo.2’)とし、計4ケースの計算定着耐力を計算により求めた。ここでの計算は、非特許文献1の知見に基づく。
【0073】
【表6】
【0074】
求めた結果を、図16に示す。
本開示の実施例であるNo.1及びNo.2に対し、比較例であるNo.1’及びNo.2’の計算定着耐力は低下することがわかる。
【0075】
〔6.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の接合構造29及び施工方法では、発明者等は、床スラブ28が有する床コンクリート37内における、束ね筋45を形成する定着筋42A,42Bにおける定着部42aA,42aBの位置、及び延在部42bA,42bBの位置を鋭意検討した。その結果、延在部42bAと延在部42bBとが、互いに上下方向Zに異なる位置に配置され、かつ、第1定着筋42Aの定着部42aAと第2定着筋42Bの定着部42aBとを互いに接した状態に配置することで、それぞれの定着筋42A,42Bが、柱梁接合部に用いるような1段(単層)配筋された折曲げ定着筋である場合と同等程度の引抜き耐力を発現することを見出した。
従って、接合構造29において、単層配筋された折曲げ定着筋である場合と同等程度の引抜き耐力を有する、複層配筋の定着筋42A,42Bを備えることができる。また、施工方法において、柱梁接合部に用いるような単層配筋された折曲げ定着筋である場合と同等程度の引抜き耐力を有する、複層配筋の定着筋42A,42Bを備える接合構造29を施工することができる。さらに、定着筋42A,42Bが束ねられた束ね筋45として配置されることで、第1壁11が有する壁鉄筋15と定着筋42A,42Bを干渉しにくくすることができる。
【0076】
定着部42aA,42aBは、突合せ方向Xにおいて互いに同等の位置に配置されている(施工方法では、定着部42aA,42aBを、突合せ方向Xにおいて互いに同等の位置に配置する)。これにより、例えば、第1壁11における突合せ方向Xの長さが比較的短い場合があっても、第1壁11の壁コンクリート14中に定着部42aA,42aBを配置することができる。
さらに、複層配筋された折曲げ定着筋38のうち、第1定着筋42Aに最も小さい径の鉄筋を用いる場合、第1定着筋42Aの延在部42bAは、延在部42bA,42bBのうち、最も上方に配置されている(施工方法では、第1定着筋42Aの延在部42bAを、延在部42bA,42bBのうち、最も上方に配置する)。従って、床コンクリート37にひび割れが生じるのを抑制することができる。
【0077】
定着筋42A,42Bの投影定着長さの最小値は、第1壁11の突合せ方向Xの長さの1/2倍以上、又は2/3倍以上である場合がある(施工方法では、定着筋42A,42Bの投影定着長さの最小値が、第1壁11の突合せ方向Xの長さの1/2倍以上、または2/3倍以上になるように、複数の定着筋42A,42Bを施工する)。これにより、風荷重や地震力による水平力で壁11、12の上下方向Zに引張の付加応力が作用する場合であっても、複数の折曲げ定着筋38を第1壁11に、より確実に定着させ、定着部のコンクリート破壊に対して複数の折曲げ定着筋38の降伏を先んじて起こし、複数の折曲げ定着筋38の伸び変形による延性的な破壊を誘起させることができる。
直交方向Yに隣り合う束ね筋45間の直交方向Yの距離は、等価鉄筋径dr,eqの6倍以上である場合がある(施工方法では、直交方向Yに隣り合う束ね筋45間の直交方向Yの距離が、等価鉄筋径dr,eqの6倍以上になるように施工する場合がある)。この場合には、複数の折曲げ定着筋38を第1壁11に、より確実に定着させることができる。さらに、例えば、文献1等に開示された従来の設計式(柱梁接合部を想定した式)を、接合構造に当てはめやすくすることができる。
【0078】
〔7.付記事項〕
なお、本実施形態では、以下の条件を満足することが望ましい。
床スラブ28のひび割れを防止するためには、折曲げ定着筋38の径の最大値を抑制して小径の複数の折曲げ定着筋38を束ねて配置することが望ましい。例えば、折曲げ定着筋38の径の最大値は19mm以下、さらには16mm以下が望ましい。また、ひび割れを抑制し、かつ細かな多数のひび割れに分散して折曲げ定着筋38の腐食を防止する観点からは、最も上層の折曲げ定着筋38(以下では、最上層の折曲げ定着筋38と言う)は、最小径6mm以上13mm以下、折曲げ定着筋38の間隔を200mm以下とすることが望ましい。さらに、最上層の折曲げ定着筋38は、横筋を交差させたメッシュ筋とすることが望ましい。
【0079】
最上層の折曲げ定着筋38以外の折曲げ定着筋38の径や配置は特に限定しないが、最上層の折曲げ定着筋38と同等以上の径で、最上層の折曲げ定着筋38と同等かそれ以上の間隔を設けて配筋することが望ましい。例えば、最上層の折曲げ定着筋38は、φ6の丸鋼を用いた100mm四方のメッシュ筋とし、その下層にD16の折曲げ定着筋38を150mmピッチで配筋する方法が考えられる。
この場合、最上層の折曲げ定着筋38であるφ6の丸鋼とD16の折曲げ定着筋38は、最小公倍数である300mmごとに束ね筋を形成して定着される。残りの最上層の折曲げ定着筋38であるφ6の丸鋼は、単独で支持部材(壁コンクリート等)に定着してもよいし、定着しなくてもよい。
【0080】
床スラブ28の上部のコンクリート被り厚は、最上層の折曲げ定着筋38の径の2倍以上を確保することが好ましい。例えば、室外等の折曲げ定着筋38に対して過酷な環境の場合、床スラブ28の上部のコンクリート被り厚は、折曲げ定着筋38の径の3倍程度を確保することが好ましい。例えば、屋内の合成梁25において、最上層の折曲げ定着筋38は、D10の異形鉄筋を用いた200mm四方のメッシュ筋とし、その下層にD16の異形鉄筋を200mmピッチで配筋した場合、最上層の折曲げ定着筋38のD10の異形鉄筋の外周から上部に20mmコンクリートの被り厚を確保する。すなわち、床スラブ28の上面から25mmの深さに最上層の折曲げ定着筋38のD10の異形鉄筋の径の中心となるよう、床スラブ28の下方にスペーサーを配置して被り厚を確保する。
【0081】
加えて、床スラブ28の厚み内に、下層の折曲げ定着筋38が収まる必要がある。このため、下層の折曲げ定着筋38の深さ(最上層の折曲げ定着筋38からの距離)は、床スラブ28の厚さとデッキプレート36の厚さ(高さ)のパラメータで、おのずと上限が決まる。さらに、第2鉄骨梁27の第1フランジ31に設置された頭付きスタッド(シアコネクタ)48からのせん断力を突合せ方向Xに沿って延びる折曲げ定着筋38のうち第2鉄骨梁27から遠い折曲げ定着筋38に伝達するために横筋が配置されていることが好ましい。
横筋から折曲げ定着筋38に適切に力を伝達するためには、下層の折曲げ定着筋38も最上層の折曲げ定着筋38も横筋から距離が離れすぎないことが好ましい。具体的には、横筋に対して上下方向Z(床スラブ28の厚さ方向)で最上層の折曲げ定着筋38又は下層の折曲げ定着筋38の各々の径の2~3倍以内に、横筋を配筋することが好ましい。
【0082】
例えば、床スラブ28が150mm厚のデッキ合成スラブであり、デッキプレート36の山高さが50mmの場合、床スラブ28の床コンクリート37の厚さの最小値は、100mmとなる。この床スラブ28に、最表層はD13の異形鉄筋を用いた200mm四方のメッシュ筋を配し、その下層にD16の異形鉄筋を200mmピッチで配筋する。この場合、最表層のD13の異形鉄筋の外周から上部に26mmの床コンクリート37の被り厚を確保する。
さらにD13の横筋が最表層のD13の直下になるようにメッシュ筋を配置すると、被り厚26mm+最表層筋13mm+横筋13mm=52mmとなる。従って、横筋の直下の床コンクリート37の厚さは、最小で100mm-52mm=48mmである。さらに、D16の下層の折曲げ定着筋38をデッキプレート36の山直上に配すると、上下方向Zにおける下層の折曲げ定着筋38と横筋の間隔は、48mm-16mm=32mmとなる。32mmは、下層の折曲げ定着筋38の径の2倍となるため、前述の好ましい条件に合致する。
【0083】
実施例において折曲げ定着筋38は90度に折曲げたフックであるが、この折曲げ角度は、90~180度の範囲で任意の角度としてもよい。いずれの場合も、折曲げ定着筋38の抜け出しによる破壊を防ぐため、折曲げ部(定着部)の先の端部側の折曲げ余長部長さLdvは各々の折曲げ定着筋38の径の10倍以上の長さとすることが好ましい。折曲げ部の内法直径は、局所的なコンクリートの支圧破壊を防止する観点から、折曲げ定着筋38の径の6倍以上とすることが好ましい。
【0084】
以上、本開示の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、支持部材は、RC造の第1壁11であるとした。しかし、支持部材はこれに限定されず、RC造の柱、RC造の梁であってもよい。
複数の床鉄筋は、3層以上に配置されてもよい。
合成梁25は、デッキプレート36を備えなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
接合構造は、束ね筋や複層に配置した鉄筋の折曲げ定着筋を用いて、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を有する折曲げ定着筋を備えることができる。また、接合構造の施工方法は、柱梁接合部に用いるような単層配筋の折曲げ定着筋と同等程度の引抜き耐力を有する折曲げ定着筋を備える接合構造を施工することができる。よって、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0086】
11 第1壁(支持部材)
12 第2壁(支持部材)
14 壁コンクリート(支持コンクリート)
28 床スラブ
29 接合構造
37 床コンクリート
38 折曲げ定着筋
42aA,42aB 定着部
42bA,42bB 延在部
45 束ね筋
S1 仮想平面
X 突合せ方向
Y 直交方向(交差方向)
Z 上下方向
【要約】
この接合構造は、RC造の支持部材と、支持部材に対して突合せ方向に接合される床スラブとを備える接合構造であって、支持部材は、支持コンクリートを有し、床スラブは、床コンクリートと、支持コンクリート及び床コンクリートに埋設された複数の折曲げ定着筋とを有し、各折曲げ定着筋は、支持コンクリート内を上下方向に沿って延びる定着部と、支持コンクリート及び床コンクリート内を、定着部の上端部から突合せ方向に沿って延びる延在部とを有し、複数の折曲げ定着筋のうち2本以上の折曲げ定着筋は、それらの定着部が互いに接して配置された束ね筋を形成し、束ね筋を形成する2本以上の折曲げ定着筋の延在部のうち、一の延在部と、他の一の延在部とは、互いに上下方向に異なる位置に配置されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16