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特許7564504圧電デバイス、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電デバイスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】圧電デバイス、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241002BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20241002BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20241002BHJP
   H10N 30/079 20230101ALI20241002BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20241002BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20241002BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 301
B41J2/14 613
B41J2/16 301
H10N30/20
H10N30/079
H10N30/853
H10N30/30
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020182234
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022072669
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
(72)【発明者】
【氏名】板山 泰裕
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147331(JP,A)
【文献】特開2014-058169(JP,A)
【文献】特開2017-063138(JP,A)
【文献】特開2013-118232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0162779(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01- 2/215
H10N 30/00-39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凹部が形成された基板と、
前記基板の一方面側に設けられる振動板と、
前記振動板の前記基板とは反対面側に第1方向で積層される第1電極と、圧電体層と、
第2電極とを有する圧電アクチュエーターと、を備える圧電デバイスであって、
前記第2電極の前記第1方向と交差する第2方向における2つの領域のうち、前記第2電極の端部に遠い1つの領域を第1領域、前記第2電極の端部に近い1つの領域を第2領域としたとき、
前記第1領域の前記圧電体層は(100)面優先配向をしており、前記第2領域の前記圧電体層の(100)面配向率が前記第1領域の前記圧電体層の(100)面配向率よりも低く、
前記第1領域は、前記振動板が凹部と接する駆動領域および前記振動板が前記凹部と接しない非駆動領域にあり、
前記第2領域は、前記非駆動領域にあり、
前記第2方向における前記第1領域と前記第2領域の境目が、前記非駆動領域に位置する、
ことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記圧電アクチュエーターは、前記第1方向において前記第2電極の一部を覆うように上に積層され、前記第1方向および前記第2方向と交差する第3方向に延設される第3電極を有し、
前記第2方向における前記第1領域と前記第2領域の境目が、前記第2方向において、前記第3電極が設けられる領域に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記第1電極と前記圧電体層との間には、LaNi、SrRuyO、(Ba,Sr)Ti、(Bi,Fe)Tiから選択される少なくとも一つを含む配向層が設けられ、
前記第2領域における前記配向層の前記第1方向の長さが、前記第1領域における前記配向層の前記第1方向の長さよりも短い
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記配向層が、LaNiからなる
ことを特徴とする請求項3に記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記圧電体層は、前記第1領域と前記第2領域とでチタンの含有率が異なる表層部を前記第1電極側に有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記第2領域における前記表層部のチタン含有率は、前記第1領域における前記表層部のチタン含有率よりも高い
ことを特徴とする請求項5に記載の圧電デバイス。
【請求項7】
前記第2領域の前記圧電体層は、(110)面優先配向をしている
ことを特徴とする請求項6に記載の圧電デバイス。
【請求項8】
前記第2領域における前記表層部のチタン含有率は、前記第1領域における前記表層部のチタン含有率よりも低い
ことを特徴とする請求項5に記載の圧電デバイス。
【請求項9】
前記第2領域における前記圧電体層は、(111)面優先配向をしている
ことを特徴とする請求項8に記載の圧電デバイス。
【請求項10】
前記第2領域の前記圧電体層が、前記第2電極の端部の外側まで延在する
ことを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項11】
前記第2領域に近い前記第2電極の端部を覆う保護膜を有する
ことを特徴とする請求項1~10の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項12】
複数の凹部が形成された基板と、
前記基板の一方面側に設けられる振動板と、
前記振動板の前記基板とは反対面側に第1方向で積層される第1電極と、圧電体層と、
第2電極とを有する圧電アクチュエーターと、を備える液体噴射ヘッドであって、
前記第2電極の前記第1方向と交差する第2方向における2つの領域のうち、前記第2電極の端部に遠い1つの領域を第1領域、前記第2電極の端部に近い1つの領域を第2領域としたとき、
前記第1領域の前記圧電体層は(100)面優先配向をしており、前記第2領域の前記圧電体層の(100)面配向率が前記第1領域の前記圧電体層の(100)面配向率よりも低く、
前記第1領域は、前記振動板が凹部と接する駆動領域および前記振動板が前記凹部と接しない非駆動領域にあり、
前記第2領域は、前記非駆動領域にあり、
前記第2方向における前記第1領域と前記第2領域の境目が、前記非駆動領域に位置する、
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項13】
前記圧電アクチュエーターは、前記第1方向において前記第2電極の一部を覆うように上に積層され、前記第1方向および前記第2方向と交差する第3方向に延設される第3電極を有し、
前記第2方向における前記第1領域と前記第2領域の境目が、前記第2方向において、前記第3電極が設けられる領域に位置する、
ことを特徴とする請求項12に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
請求項12または13に記載の液体噴射ヘッドを具備する
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項15】
複数の凹部が形成された基板と、
前記基板の一方面側に設けられる振動板と、
前記振動板の前記基板とは反対面側に第1方向で積層される第1電極と、圧電体層と、
第2電極とを有する圧電アクチュエーターと、を備え、
前記第2電極の前記第1方向と交差する第2方向における2つの領域のうち、前記第2電極の端部に遠い1つの領域を第1領域、前記第2電極の端部に近い1つの領域を第2領域としたとき、
前記第1領域の前記圧電体層は(100)面優先配向をしており、前記第2領域の前記圧電体層の(100)面配向率が前記第1領域の前記圧電体層の(100)面配向率よりも低く、前記第1領域は、前記振動板が凹部と接する駆動領域および前記振動板が前記凹部と接しない非駆動領域にあり、前記第2領域は、前記非駆動領域にあり、前記第2方向における前記第1領域と前記第2領域の境目が、前記非駆動領域に位置する、圧電デバイスの製造方法であって、
前記基板に設けられた前記振動板の表面に、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極を積層して前記圧電アクチュエーターを形成する工程として、前記圧電体層の結晶配向を制御するための配向制御層を形成する工程を有し、
前記配向制御層を形成する工程では、
前記配向制御層を前記第1領域と前記第2領域とで異なる厚さに形成する
ことを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記配向制御層を形成する工程では、
前記第1電極の表面の前記第1領域と前記第2領域とを含む領域に前記配向制御層を形成した後、前記第2領域の前記配向制御層の少なくとも一部を除去して前記第2領域の前記配向制御層の厚さを前記第1領域の前記配向制御層の厚さよりも薄くする
ことを特徴とする請求項15に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記配向制御層を形成する工程では、
前記第1電極の表面の前記第1領域と前記第2領域とを含む領域に前記配向制御層を形成し、前記第1領域の前記配向制御層の少なくとも一部を除去して前記第2領域の前記配向制御層の厚さよりも薄くした後、前記第1電極の表面の前記第1領域及び前記第2領域とを含む領域に前記配向制御層を再度形成して前記第2領域の前記配向制御層の厚さを前記第1領域の前記配向制御層の厚さよりも厚くする
ことを特徴とする請求項15に記載の圧電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板と、第1電極、圧電体層及び第2電極を有する圧電アクチュエーターとを具備する圧電デバイス、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び圧電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電デバイスの一つである液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドとしては、例えばノズルに連通する圧力室が形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられた圧電アクチュエーターと、を具備し、圧電アクチュエーターによって圧力室内のインクに圧力変化を生じさせることで、ノズルからインク滴を噴射するものが知られている。
【0003】
また圧電アクチュエーターとしては、振動板上に形成された第1電極と、第1電極上に電気機械変換特性を有する圧電材料で形成された圧電体層と、圧電体層上に設けられた第2電極と、を具備するものが知られている。この構成の圧電アクチュエーターでは、圧電体層の撓み変形に起因して圧電体層にクラックや焼損等が発生する虞がある。このような不具合の発生を抑制することを目的として、圧電アクチュエーター(圧電素子)の様々な構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、圧電素子が圧力室空部の開口よりも外側まで延設され、圧電素子を構成する第1電極層の幅を、圧力室空部に対応する領域よりも、圧力室空部の外側で狭くすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-171809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧電アクチュエーターが圧力室の外側まで延設される構成では、上記のような圧電体層にクラックが発生するという問題はあるが、さらに、圧力室の外側まで延設された圧電体層は電圧印加時に撓み変形しないため、その際に流れる電流によって発熱する。圧電体層の性能向上に伴い、圧電体層の発熱は大きくなる傾向にあり、この発熱に起因して圧電アクチュエーターが損傷する虞がある。
【0007】
なお、このような問題は、インクを噴射するインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、その他の圧電デバイスにおいても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の一つの態様は、複数の凹部が形成された基板と、前記基板の一方面側に設けられる振動板と、前記振動板の前記基板とは反対面側に第1方向で積層される第1電極と、圧電体層と、第2電極とを有する圧電アクチュエーターと、を備える圧電デバイスであって、前記第2電極の前記第1方向と交差する第2方向における2つの領域のうち、前記第2電極の端部に遠い1つの領域を第1領域、前記第2電極の端部に近い1つの領域を第2領域としたとき、前記第1領域の前記圧電体層は(100)面優先配向をしており、前記第2領域の前記圧電体層の(100)面配向率が前記第1領域の前記圧電体層の(100)面配向率よりも低いことを特徴とする圧電デバイスにある。
【0009】
本発明の他の態様は、複数の凹部が形成された基板と、前記基板の一方面側に設けられる振動板と、前記振動板の前記基板とは反対面側に第1方向で積層される第1電極と、圧電体層と、第2電極とを有する圧電アクチュエーターと、を備える液体噴射ヘッドであって、前記第2電極の前記第1方向と交差する第2方向における2つの領域のうち、前記第2電極の端部に遠い1つの領域を第1領域、前記第2電極の端部に近い1つの領域を第2領域としたとき、前記第1領域の前記圧電体層は(100)面優先配向をしており、前記第2領域の前記圧電体層の(100)面配向率が前記第1領域の前記圧電体層の(100)面配向率よりも低いことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0010】
また本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0011】
さらに本発明の他の態様は、複数の凹部が形成された基板と、前記基板の一方面側に設けられる振動板と、前記振動板の前記基板とは反対面側に第1方向で積層される第1電極と、圧電体層と、第2電極とを有する圧電アクチュエーターと、を備え、前記第2電極の前記第1方向と交差する第2方向における2つの領域のうち、前記第2電極の端部に遠い1つの領域を第1領域、前記第2電極の端部に近い1つの領域を第2領域としたとき、前記第1領域の前記圧電体層は(100)面優先配向をしており、前記第2領域の前記圧電体層の(100)面配向率が前記第1領域の前記圧電体層の(100)面配向率よりも低くなっている圧電デバイスの製造方法であって、前記基板に設けられた前記振動板の表面に、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極を積層して前記圧電アクチュエーターを形成する工程として、前記圧電体層の結晶配向を制御するための配向制御層を形成する工程を有し、前記配向制御層を形成する工程では、前記配向制御層を前記第1領域と前記第2領域とで異なる厚さに形成することを特徴とする圧電デバイスの製造方法にある。

【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
図4】実施形態1に係る記録ヘッドの要部断面図である。
図5】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
図6】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す要部断面図である。
図7】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す要部断面図である。
図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図10】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図11】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図12】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図13】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図14】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図15】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図16】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図17】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図18】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図19】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図20】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法の他の例を示す断面図である。
図21】実施形態2に係る記録ヘッドの要部断面図である。
図22】実施形態2に係る記録ヘッドの要部断面図である。
図23】一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様についての説明であり、本発明の構成は、発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。またZ方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。さらに、正方向及び負方向を限定しない3つのX、Y、Zの空間軸については、X軸、Y軸、Z軸として説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。図2は、記録ヘッドの平面図である。図3は、図2のA-A′線断面図であり、図4は、図3における圧電アクチュエーター部分を拡大した図であり、図5は、図2のB-B´線断面図であり、圧電アクチュエーター部分を拡大した図である。
【0016】
図示するように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドとも言う)1は、第1方向であるZ軸方向、より具体的は+Z方向にインク滴を噴射するものである。
【0017】
インクジェット式記録ヘッド1は、基板の一例として流路形成基板10を具備する。流路形成基板10は、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板等からなる。なお、流路形成基板10は、(100)面優先配向した基板であっても、(110)面優先配向した基板であってもよい。
【0018】
流路形成基板10には、複数の圧力室12が、第1方向であるZ軸方向とは交差する第2方向であるX軸方向に2列配置されている。すなわち各列を構成する複数の圧力室12は、X軸方向とは交差する第3方向であるY軸方向に沿って配置されている。
【0019】
各列を構成する複数の圧力室12は、X軸方向の位置が同じ位置となるように、Y軸方向に沿った直線上に配置されている。Y軸方向で互いに隣り合う圧力室12は、隔壁11によって区画されている。もちろん、圧力室12の配置は特に限定されるものではない。例えば、Y軸方向に並ぶ複数の圧力室12の配置は、各圧力室12を1つ置きにX軸方向にずれた位置とする、いわゆる千鳥配置となっていてもよい。
【0020】
また本実施形態の圧力室12は、+Z方向からの平面視においてX軸方向の長さがY軸方向の長さよりも長い、例えば、長方形に形成されている。もちろん、+Z方向からの平面視における圧力室12の形状は、特に限定されず、平行四辺形状、多角形状、円形状、オーバル形状等であってもよい。なお、ここでいうオーバル形状とは、長方形状を基本として長手方向の両端部を半円状とした形状をいい、角丸長方形状、楕円形状、卵形状などが含まれるものとする。
【0021】
流路形成基板10の+Z方向側には、連通板15とノズルプレート20及びコンプライアンス基板45とが順次積層されている。
【0022】
連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。また連通板15には、複数の圧力室12が連通する共通液室となるマニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が設けられている。第1マニホールド部17は、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、連通板15をZ軸方向に貫通することなく、+Z方向側の面に開口して設けられている。
【0023】
さらに連通板15には、圧力室12のX軸方向の一方の端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と各圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを各圧力室12に供給する。
【0024】
連通板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、金属基板等を用いることができる。金属基板としては、例えば、ステンレス基板等が挙げられる。なお連通板15は、熱膨張率が流路形成基板10と略同一の材料を用いることが好ましい。これにより、流路形成基板10及び連通板15の温度が変化した際、熱膨張率の違いに起因する流路形成基板10及び連通板15の反りを抑制することができる。
【0025】
ノズルプレート20は、連通板15の流路形成基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に設けられている。ノズルプレート20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。
【0026】
本実施形態では、複数のノズル21は、Y軸方向に沿って一列となるように並んで配置されている。そしてノズルプレート20には、これら複数のノズル21が列設されたノズル列がX軸方向に2列設けられている。すなわち、各列の複数のノズル21は、X軸方向の位置が同じ位置となるように配置されている。なおノズル21の配置は特に限定されるものではない。例えば、Y軸方向に並んで配置されるノズル21は、1つ置きにX軸方向にずれた位置に配置されていてもよい。
【0027】
ノズルプレート20の材料としては、特に限定されず、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、金属基板を用いることができる。金属板としては、例えば、ステンレス基板等が挙げられる。さらにノズルプレート20の材料としては、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることもできる。ただし、ノズルプレート20は、連通板15の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。これにより、ノズルプレート20及び連通板15の温度が変化した際、熱膨張率の違いに起因するノズルプレート20及び連通板15の反りを抑制することができる。
【0028】
コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20と共に、連通板15の流路形成基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に設けられている。このコンプライアンス基板45は、ノズルプレート20の周囲に設けられ、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18の開口を封止する。コンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっている。このため、マニホールド100の一方面は、可撓性を有する封止膜46のみで封止されたコンプライアンス部49となっている。
【0029】
一方、流路形成基板10のノズルプレート20等とは反対側、すなわち-Z方向側の面には、詳しくは後述するが、振動板50と、この振動板50を撓み変形させて圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧電アクチュエーター300とが設けられている。なお図3は記録ヘッド1の全体構成を説明するための図であり、圧電アクチュエーター300の構成については簡略化して示している。
【0030】
流路形成基板10の-Z方向側の面には、さらに、流路形成基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接着剤等によって接合されている。保護基板30は、圧電アクチュエーター300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、Y軸方向に並んで配置された圧電アクチュエーター300の列毎に独立して設けられたものであり、X軸方向に2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、X軸方向に並んで配置された2つの保持部31の間にZ軸方向に貫通する貫通孔32が設けられている。
【0031】
また、保護基板30上には、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を流路形成基板10と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。
【0032】
このようなケース部材40は、流路形成基板10及び保護基板30を収容可能な深さの空間である収容部41を保護基板30側に有する。この収容部41は、保護基板30の流路形成基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、収容部41に流路形成基板10及び保護基板30が収容された状態で収容部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。
【0033】
またケース部材40には、X軸方向における収容部41の両外側に、第3マニホールド部42がそれぞれ画成されている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18と、第3マニホールド部42と、によって本実施形態のマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、Y軸方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、Y軸方向に並んで配置されている。
【0034】
また、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入口44が設けられている。さらにケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板120が挿通される接続口43が設けられている。
【0035】
このような本実施形態の記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段と接続した導入口44からインクを取り込み、マニホールド100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路121からの記録信号に従い、圧力室12に対応するそれぞれの圧電アクチュエーター300に電圧を印加する。これにより圧電アクチュエーター300と共に振動板50がたわみ変形して各圧力室12内の圧力が高まり、各ノズル21からインク滴が噴射される。
【0036】
以下、本実施形態に係る圧電アクチュエーター300の構成について説明する。上述のように圧電アクチュエーター300は、流路形成基板10のノズルプレート20とは反対側の面に振動板50を介して設けられている。
【0037】
図3図5に示すように、振動板50は、流路形成基板10側に設けられた酸化シリコンからなる弾性膜51と、弾性膜51上に設けられた酸化ジルコニウム膜からなる絶縁体膜52と、で構成されている。圧力室12等の液体流路は、流路形成基板10を+Z方向側の面から異方性エッチングすることにより形成されており、圧力室12等の液体流路の-Z方向側の面は、弾性膜51で構成されている。
【0038】
なお振動板50の構成は特に限定されるものではない。振動板50は、例えば、弾性膜51と絶縁体膜52との何れか一方で構成されていてもよく、さらには、弾性膜51及び絶縁体膜52以外のその他の膜が含まれていてもよい。その他の膜の材料としては、シリコン、窒化ケイ素等が挙げられる。
【0039】
圧電アクチュエーター300は、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段であり圧電素子とも言う。この圧電アクチュエーター300は、振動板50側である+Z方向側から-Z方向側に向かって順次積層された第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを具備する。つまり圧電アクチュエーター300は、振動板50に対して第1の方向であるZ軸方向沿って、本実施形態では-Z方向側に向かって順次積層された第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを具備する。
【0040】
ところで、圧電アクチュエーター300のうち、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非活性部320と称する。すなわち、圧電アクチュエーター300のうち、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分が活性部310であり、圧電体層70が第1電極60と第2電極とで挟まれていない部分が非活性部320である。また圧電アクチュエーター300を駆動させた際、実際にZ軸方向に変位する部分を可撓部と称し、Z方向に変位しない部分を非可撓部と称する。すなわち、圧電アクチュエーター300のうち、圧力室12にZ軸方向で対向する部分が可撓部となり、圧力室12の外側部分が非可撓部となる。
【0041】
一般的には、活性部310の何れか一方の電極を活性部310毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部310に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極60が個別電極を構成し、第2電極80が共通電極を構成している。
【0042】
具体的には、第1電極60は、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第1電極60は、Y軸方向において、圧力室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、Y軸方向において、第1電極60の端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。
【0043】
また第1電極60の+X方向の端部60a及び-X方向の端部60bは、それぞれ圧力室12の外側に配置されている。図4に示すように、第1電極60の+X方向の端部60aは、圧力室12の+X方向の端部12aよりも+X方向となる位置に配置されている。第1電極60の-X方向の端部60bは、圧力室12の-X方向の端部12bよりも-X方向となる位置に配置されている。
【0044】
第1電極60の材料は、特に限定されないが、例えば、イリジウムや白金といった金属、ITOと略される酸化インジウムスズといった導電性金属酸化物等の導電材料が用いられる。
【0045】
圧電体層70は、図2に示すように、X軸方向の長さを所定長さとして、Y軸方向に亘って連続して設けられている。すなわち圧電体層70は、所定の厚さで圧力室12の並設方向に沿って連続して設けられている。圧電体層70の厚さは特に限定されないが、1~4μm程度の厚さで形成される。また図4に示すように、圧電体層70のX軸方向の長さは、圧力室12の長手方向であるX軸方向の長さよりも長い。このため、圧力室12のX軸方向の両側では、圧電体層70は、圧力室12の外側まで延在している。このように、圧電体層70がX軸方向において圧力室12の外側まで延在していることで、振動板50の強度が向上する。したがって、活性部310を駆動させて圧電アクチュエーター300を変位させた際、圧電体層70にクラック等が発生するのを抑制することができる。
【0046】
また図4に示すように、圧電体層70の+X方向の端部70aは、第1電極60の端部60aよりも外側に位置している。すなわち、第1電極60の+X方向の端部60aは圧電体層70によって覆われている。一方、圧電体層70の-X方向の端部70bは、第1電極60の端部60bよりも内側に位置しており、第1電極60の-X方向の端部60bは、圧電体層70では覆われていない。
【0047】
なお圧電体層70には、図2及び図5に示すように、各隔壁11に対応して他の領域よりも厚さが薄い部分である溝部71が形成されている。本実施形態の溝部71は、圧電体層70をZ軸方向に完全に除去することで形成されている。すなわち、圧電体層70が他の領域よりも厚さの薄い部分を有するとは、圧電体層70がZ軸方向に完全に除去されたものも含む。もちろん、溝部71の底面に圧電体層70が他の部分よりも薄く形成されていてもよい。
【0048】
また、溝部71のY軸方向の長さ、つまり溝部71の幅は、隔壁11の幅と同一もしくは、それより広くなっている。本実施形態では、溝部71の幅は、隔壁11の幅よりも広くなっている。
【0049】
このような溝部71は、-Z方向側からの平面視において、矩形状となるように形成されている。もちろん、溝部71の-Z方向側からの平面視した形状は、矩形状に限定されず、5角形以上の多角形状であってもよく、円形状や楕円形状等であってもよい。
【0050】
圧電体層70に溝部71を設けることにより、振動板50の圧力室12のY軸方向の端部に対向する部分、いわゆる振動板50の腕部の剛性が抑えられるため、圧電アクチュエーター300をより良好に変位させることができる。
【0051】
この圧電体層70としては、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜(ペロブスカイト型結晶)が挙げられる。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等を用いることができる。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。本実施形態では、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた。
【0052】
また、圧電体層70の材料としては、鉛を含む鉛系の圧電材料に限定されず、鉛を含まない非鉛系の圧電材料を用いることもできる。非鉛系の圧電材料としては、例えば、鉄酸ビスマス((BiFeO)、略「BFO」)、チタン酸バリウム((BaTiO)、略「BT」)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)(NbO)、略「KNN」)、ニオブ酸カリウムナトリウムリチウム((K,Na,Li)(NbO))、ニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムリチウム((K,Na,Li)(Nb,Ta)O)、チタン酸ビスマスカリウム((Bi1/21/2)TiO、略「BKT」)、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi1/2Na1/2)TiO、略「BNT」)、マンガン酸ビスマス(BiMnO、略「BM」)、ビスマス、カリウム、チタン及び鉄を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物(x[(Bi1-x)TiO]-(1-x)[BiFeO]、略「BKT-BF」)、ビスマス、鉄、バリウム及びチタンを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物((1-x)[BiFeO]-x[BaTiO]、略「BFO-BT」)や、これにマンガン、コバルト、クロムなどの金属を添加したもの((1-x)[Bi(Fe1-y)O]-x[BaTiO](Mは、Mn、CoまたはCr))等が挙げられる。
【0053】
第2電極80は、図4及び図5に示すように、圧電体層70の第1電極60とは反対側である-Z方向側に設けられ、複数の活性部310に共通する共通電極を構成する。第2電極80は、X軸方向の長さを所定長さとして、Y軸方向に亘って連続して設けられている。この第2電極80は、溝部71の内面、すなわち圧電体層70の溝部71の側面上及び溝部71の底面である絶縁体膜52上にも設けられている。なお溝部71内に関しては、第2電極80は、溝部71の内面の一部のみに設けられていてもよく、溝部71の内面の全面に亘って設けられていなくてもよい。
【0054】
また図4に示すように、第2電極80の+X方向の端部80aは、圧電体層70で覆われている第1電極60の+X方向の端部60aよりも外側となるように配置されている。すなわち第2電極80の+X方向の端部80aは、圧力室12の+X方向の端部12aよりも外側で、第1電極60の端部60aよりも外側に位置している。本実施形態では、第2電極80の+X方向の端部80aは、圧電体層70の端部70aと実質的に一致している。このため、活性部310の+X方向の端部、すなわち活性部310と非活性部320との境界は、第1電極60の端部60aによって規定されている。
【0055】
一方、第2電極80の-X方向の端部80bは、圧力室12の-X方向の端部12bよりも外側に配置されているが、圧電体層70のX軸方向の端部70bよりも内側に配置されている。上述のように圧電体層70の-X方向の端部70bは、第1電極60の端部60bよりも内側に位置している。したがって第2電極80の-X方向の端部80bは、第1電極60の-X方向の端部60bよりも内側の圧電体層70上に位置している。このため、第2電極80の-X方向の端部80bの外側には、圧電体層70の表面が露出された部分が存在する。
【0056】
このように第2電極80の-X方向の端部80bは、圧電体層70及び第1電極60の-X方向の端部よりも+X方向側に配置されているため、活性部310の-X方向の端部、すなわち活性部310と非活性部320との境界は、第2電極80の-X方向の端部80bによって規定される。
【0057】
第2電極80の材料は、特に限定されないが、第1電極60と同様に、例えば、イリジウムや白金といった金属、酸化インジウムスズといった導電性金属酸化物などの導電材料が好適に用いられる。
【0058】
また、第2電極80の-X方向の端部80bの外側、すなわち第2電極80の端部80bのさらに-X方向側には、第2電極80と同一層からなるが第2電極80とは電気的に不連続となる配線部85が設けられている。また配線部85は、第2電極80の-X方向の端部80bと接触しないように間隔を空けた状態で、圧電体層70上から圧電体層70よりも-X方向に延設された第1電極60上に亘って形成されている。この配線部85は、活性部310毎に独立して設けられている。すなわち、配線部85は、Y軸方向に沿って所定の間隔で複数配置されている。なお配線部85は、第2電極80とは別の層で形成されていてもよいが、第2電極80と同一層で形成することが好ましい。これにより、配線部85の製造工程を簡略化してコストの低減を図ることができる。
【0059】
また圧電アクチュエーター300を構成する第1電極60と第2電極80とには、個別リード電極91と駆動用共通電極である共通リード電極92とがそれぞれ接続されている。個別リード電極91及び共通リード電極92の圧電アクチュエーター300に接続された端部とは反対側の端部には、可撓性を有する配線基板120が接続されている。本実施形態では、個別リード電極91及び共通リード電極92は、保護基板30に形成された貫通孔32内に露出するように延設され、この貫通孔32内で配線基板120と電気的に接続されている。配線基板120には、圧電アクチュエーター300を駆動するためのスイッチング素子を有する駆動回路121が実装されている。
【0060】
個別リード電極91及び共通リード電極92は、本実施形態では、同一層からなるが、電気的に不連続となるように形成されている。これにより、個別リード電極91と共通リード電極92とをそれぞれ個別に形成する場合に比べて、製造工程を簡略化してコストを低減することができる。もちろん、個別リード電極91と共通リード電極92とを異なる層で形成するようにしてもよい。
【0061】
個別リード電極91及び共通リード電極92の材料は、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等を用いることができる。本実施形態では、個別リード電極91及び共通リード電極92として金(Au)を用いた。また、個別リード電極91及び共通リード電極92は、第1電極60及び第2電極80や振動板50との密着性を向上する密着層を有していてもよい。
【0062】
個別リード電極91は、活性部310毎、すなわち、第1電極60毎に設けられたものである。個別リード電極91は、圧電体層70の外側に設けられた第1電極60の-X方向の端部60b付近に配線部85を介して接続され、流路形成基板10上、実際には振動板50上まで-X向方向に引き出されている。
【0063】
一方、共通リード電極92は、Y軸方向の両端部において、圧電体層70上の共通電極を構成する第2電極80上から振動板50上にまで-X方向に引き出されている。また共通リード電極92は、圧力室12の-X方向側の端部12bに対応する領域にY軸方向に沿って延設される延設部93を有する。さらに共通リード電極92は、圧力室12の+X方向側の端部12aに対応する領域にY軸方向に沿って延設される延設部94を具備する。これら延設部93,94は、複数の活性部310に対してY軸方向に亘って連続して設けられている。上述のように共通リード電極92は、Y軸方向の両端部で振動板50上まで-X方向に引き出されている。
【0064】
また延設部93,94は、圧力室12の内側から圧力室12の外側のまで延設されている。本実施形態では、圧電アクチュエーター300の活性部310は、圧力室12のX軸方向の両端部において圧力室12の外側まで延設されており、延設部93,94は、この活性部310上を圧力室12の外側まで延設されている。
【0065】
ところで、このような本実施形態に係る圧電アクチュエーター300においては、第2電極80のX軸方向における2つの領域のうち、第2電極80の端部80bに遠い1つの領域を第1領域S1、第2電極80の端部80bに近い1つの領域を第2領域S2としたとき、第1領域S1の圧電体層70は(100)面優先配向をしており、第2領域S2の圧電体層70の(100)面配向率が第1領域S1の圧電体層70の(100)面配向率よりも低くなっている。
【0066】
言い換えれば、圧電体層70は、(100)面優先配向をする第1配向部75を第1領域S1に有すると共に、第1配向部75よりも(100)面配向率が低い第2配向部76を第2領域S2に有している。
【0067】
第1領域S1及び第2領域S2は、具体的には、次のような領域である。第1領域S1は、振動板50が凹部である圧力室12と接する駆動領域内に位置する領域である。第2領域S2は、振動板50が圧力室12と接しない非駆動領域内に位置する領域である。すなわち、第1領域S1は、圧力室12の内側、好ましくはX軸方向における圧力室12の中央部付近の領域であり、第2領域S2は、圧力室12の-X方向の端部12bの外側の領域である。
【0068】
すなわち圧電体層70は、圧力室12に対向する領域に、(100)面優先配向をする第1配向部75を有し、圧力室12の-X方向の端部12bの外側の領域に、第1配向部75よりも(100)面配向率が低い第2配向部76を有している。本実施形態では、圧電体層70は、主として、(100)面優先配向をする第1配向部75で構成されており、圧力室12の外側の領域の一部に、第1配向部75よりも(100)面配向率が低い第2配向部76を有している。
【0069】
なお本明細書において「優先配向する」とは、50%以上、好ましくは80%以上の結晶が、所定の結晶面に配向することを示すものとする。例えば「(100)面優先配向をしている」とは、全ての結晶が(100)面配向をしている場合だけでなく、半分以上の結晶(換言すると50%以上、好ましくは80%以上)が(100)面配向をしている場合、を含む。
【0070】
また第2配向部76は、第1配向部75よりも(100)面配向率が低ければよく、もちろん(100)面配向をしていてもよいが、(100)面配向をしていなくてもよい。本実施形態では、第2配向部76は(111)面優先配向をしている。すなわち第2領域S2の圧電体層70は(111)面優先配向をしている。また第2配向部76は、(110)面優先配向をしていてもよい。すなわち第2領域S2の圧電体層70は(110)面優先配向をしていてもよい。
【0071】
また詳しくは後述するが、圧電体層70が第1配向部75と第2配向部76とを有していることに伴い、圧電体層70の第1電極60側の表面付近には、第1配向部75と第2配向部76とでチタンの含有率が異なる表層部700が存在している。すなわち圧電体層70は、第1領域S1と第2領域S2とでチタンの含有率が異なる表層部700を少なくとも第1電極60側に有している。
【0072】
このように圧電体層70が第1配向部75と第2配向部76とを有することで、圧電アクチュエーター300の変形の阻害を抑えつつ、圧電体層70の発熱を抑制することができる。(100)面優先配向をする第1配向部75は、電圧を印加した際の圧電歪みが比較的大きい。一方、例えば、(111)面優先配向をしており第1配向部75よりも(100)面配向率が低い第2配向部76は、圧電アクチュエーター300に電圧を印加した際の圧電歪みが第1配向部75よりも小さくなる。したがって、圧電体層70が、圧力室12の外側の領域に第2配向部76を有することで、圧電アクチュエーター300の変形の阻害を抑えつつ、圧電体層70の発熱を抑制することができる。
【0073】
第2配向部76は、圧電アクチュエーター300の活性部310のうち非可撓部となる部分、すなわち圧力室12の外側に延在する部分に、極力広い範囲で形成されていることが好ましい。これにより、圧電体層70の発熱をより効果的に抑制することができる。
【0074】
また第2配向部76の-X方向側の端部76bは、第2電極80の-X方向側の端部80bよりも外側に位置していることが好ましい。すなわち、第1領域S1の圧電体層70よりも(100)配向率が低い第2領域S2の圧電体層70は、第2電極80の端部80bの外側まで延在することが好ましい。さらに第2配向部76の-X方向側の端部76bは、第2電極80の-X方向側の端部80bからある程度離れた位置とすることが好ましい。
【0075】
第2電極80の端部80bは、電圧印加時に圧電歪みが生じる活性部310と圧電歪みが生じない非活性部320との境界を規定している。このため、第2電極80の端部80b近傍においては、電圧印加時に圧電体層70にクラック等が生じやすい。しかしながら、第2配向部76が第2電極80の端部80bよりも外側まで延設されていることで、活性部310の圧電歪みも小さく抑えられる。したがって、第2電極80の端部80b近傍における圧電体層70のクラックの発生を抑制することができる。
【0076】
もちろん、第2配向部76の端部76bは、図6に示すように、第2電極80の端部80bよりも+X方向側に位置していてもよい。このような構成では、第2電極80の端部80b近傍における圧電体層70のクラックの発生を抑制する効果は低いかもしれないが、圧電体層70の発熱を抑えるという効果は得られる。
【0077】
一方、第2配向部76の+X方向側の端部76aの位置は、特に限定されないが、圧力室12の端部12bの近傍であることが好ましい。また電圧印加による圧電アクチュエーター300の変位量を確保できる範囲であれば、第2配向部76の+X方向側の端部76aは、図7に示すように、圧力室12内に位置していてもよい。このように第2配向部76の範囲を極力広くすることで、圧電体層70の発熱をさらに抑えることができる。
【0078】
ただし、第2配向部76の+X方向側の端部76a、すなわち第1配向部75と第2配向部76との境界は、第2電極80上に形成されている延設部93に対向する領域内に位置することが好ましい。第1配向部75と第2配向部76とは電圧印加時の圧電歪みの大きさが異なるため、圧電アクチュエーター300に電圧を印加した際、第1配向部75と第2配向部76との境界である第2配向部76の端部76a付近において圧電体層70にクラックが発生し易くなる。しかしながら、第2配向部76の端部76aが、延設部93に対向する領域内にあれば、この延設部93によって第1配向部75と第2配向部76の境界付近における圧電アクチュエーター300の変位が規制されるため、圧電体層70に対するクラックの発生を抑制することができる。
【0079】
なお、圧電体層70の第2配向部76よりも外側、つまり-X方向側の部分は、本実施形態では第1配向部75となっている。ただし、圧電体層70のこの部分の配向は特に限定されない。圧電体層70の第2配向部76よりも-X方向側の部分は、第2電極80が形成されていない非活性部320であるため、電圧印加時に発熱することもない。したがって、この部分は、もちろん第2配向部76であってもよいし、(100)面配向率が第1配向部75及び第2配向部76とは異なっていてもよい。
【0080】
次に、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド1の製造方法の一例、特に、圧電アクチュエーター300の製造方法の一例について説明する。図8図19は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【0081】
まず、図8に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜51を形成する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハー110を熱酸化することによって二酸化シリコンからなる弾性膜51を形成した。もちろん、弾性膜51の材料は、二酸化シリコンに限定されず、窒化シリコン膜、ポリシリコン膜、有機膜(ポリイミド、パリレンなど)等にしてもよい。弾性膜51の形成方法は熱酸化に限定されず、スパッタリング法、CVD法、スピンコート法等によって形成してもよい。
【0082】
次いで、図9に示すように、弾性膜51上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜52を形成する。絶縁体膜52は、酸化ジルコニウムに限定されず、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミン酸ランタン(LaAlO)等を用いるようにしてもよい。絶縁体膜52を形成する方法としては、スパッタリング法、CVD法、蒸着法等が挙げられる。本実施形態では、この弾性膜51及び絶縁体膜52によって振動板50が形成されるが、振動板50として、弾性膜51及び絶縁体膜52の何れか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0083】
次いで、図10に示すように、絶縁体膜52上の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0084】
次いで、図11に示すように、第1電極60上に配向制御層としてのチタン(Ti)からなる結晶種層61を形成する。なお結晶種層61は、層状に形成されてもよいし、島状に形成されてもよい。
【0085】
その際、第1配向部75に対応する位置の結晶種層61aと、第2配向部76が形成される位置の結晶種層61bとを異なる厚さで形成する。すなわち、第1配向部75に対応する位置の結晶種層61aについては、第1配向部75が(100)面優先配向をするように、例えば、1~200nm程度の範囲の厚さを有するように形成し、好ましくは5~20nm程度の範囲内の所定厚さに形成し、第2配向部76が形成される位置の結晶種層61bについては、結晶種層61aとは異なる厚さに形成する。
【0086】
(111)面優先配向をする第2配向部76を形成する本実施形態の場合、第1電極60上に形成された結晶種層61をエッチング等によりパターニングして、図12に示すように、第2配向部76が形成される位置の結晶種層61bを除去するか、若しくは第2配向部76が形成される位置の結晶種層61bの厚さを、第1配向部75が形成される位置の結晶種層61aよりも薄くする。なお図12には、第1配向部75及び第2配向部76が形成される位置を仮想線で示す。本実施形態では、結晶種層61bを実質的に除去し、結晶種層61aを含むその他の領域の結晶種層61については所定の厚さのまま残している。結晶種層61のエッチング方法は特に限定されず、例えば、エッチング液によるものでも、イオンミリング等のドライエッチングであってもよい。
【0087】
所定の厚さで形成された結晶種層61aにおいては、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の優先配向方位を(100)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70の第1配向部75を得ることができる。一方、除去若しくは薄く残された結晶種層61bにおいては、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70が下地層である第1電極60の影響を受けて成長する。下地層である第1電極60は、例えば、白金等からなり(111)面優先配向をしているため、第2配向部76は、第1電極60の影響を受けて(111)面優先配向をする。
【0088】
ここで、結晶種層61は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には圧電体層70内に拡散するものである。このため、圧電体層70は、第1配向部75と第2配向部76とでチタンの含有率が異なる表層部700を第1電極60側の表面付近、例えば、20nm~30nm程度の範囲に有する。すなわち圧電体層70は、第1領域S1と第2領域S2とでチタンの含有率が異なる表層部700を第1電極60側に有する(図4参照)。
【0089】
具体的には、(111)面優先配向をする第2配向部76に形成される表層部700bのチタン含有率は、(100)面優先配向をする第1配向部75の表層部700aのチタン含有率よりも低くなっている。すなわち第2領域S2における表層部700bのチタン含有率は、第1領域S1における表層部700aのチタン含有率よりも低い。
【0090】
つまり第1配向部75は、(100)面優先配向をしている結果として、所定量のチタンを含有する表層部700aを有し、第2配向部76は、(111)面優先配向をしている結果として、第1配向部75の表層部700aよりもチタンの含有率が低い表層部700bを有する。なお「チタンの含有量が低い」とは相対的な規定であり、第2配向部76の表層部700bには必ずしもチタンが含まれていなくてもよい。
【0091】
ちなみに、本実施形態とは異なり、(110)面優先配向をする第2配向部76を形成する場合、第2配向部76に対応する位置の結晶種層61bの厚さを、第1配向部75に対応する位置の結晶種層61aの厚さよりも厚くする。例えば、第1電極60上に形成された結晶種層61をエッチング等によりパターニングして、第1配向部75に対応する位置の結晶種層61aを一旦除去する。その後、第1電極60上にチタン(Ti)からなる結晶種層61を所定の厚さで再度形成する。これにより、第1配向部75に対応する位置の結晶種層61aは適切な厚さとなり、第2配向部76に対向する位置の結晶種層61bは、結晶種層61aよりも厚くなる。
【0092】
この場合でも、所定の厚さで設けられた結晶種層61aの部分では、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の優先配向方位を(100)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70の第1配向部75を得ることができる。一方、結晶種層61aよりも厚く形成された結晶種層61bの部分では、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70が自由成長して第2配向部76は(110)面優先配向をする。
【0093】
またこの場合にも、圧電体層70は、第1配向部75と第2配向部76とでチタンの含有率が異なる表層部700を第1電極60側の表面付近に有する。そして(110)面優先配向をする第2配向部76の表層部700bのチタン含有率は、第1配向部75の表層部700aのチタン含有率よりも高くなる。すなわち第2領域S2における表層部700bのチタン含有率は、第1領域S1における表層部700bのチタン含有率よりも高くなる。
【0094】
言い換えれば、第1配向部75は、(100)面優先配向をしている結果として所定量のチタンを含有する表層部700aを有し、第2配向部76は、(110)面優先配向をしている結果として第1配向部75の表層部700aよりもチタンの含有率が高い表層部700bを有している。
【0095】
次に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。本実施形態では、金属錯体を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル-ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。圧電体層70の製造方法は、ゾル-ゲル法に限定されず、例えば、MOD法などの液相成膜法や、スパッタリング法、物理蒸着法(PVD法)、レーザーアブレーション法等の気相成膜法を用いてもよい。
【0096】
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図13に示すように、結晶種層61が形成された第1電極60上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜73を成膜する。すなわち、第1電極60(結晶種層61)が形成された流路形成基板用ウェハー110上に金属錯体を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を170~180℃で8~30分間保持することで乾燥することができる。
【0097】
次に、乾燥した圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を300~400℃程度の温度に加熱して約10~30分保持することで脱脂した。なお、ここでいう脱脂とは、圧電体前駆体膜73に含まれる有機成分を、例えば、NO、CO、HO等として離脱させることである。
【0098】
次に、図14に示すように、圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜74を形成する(焼成工程)。この焼成工程では、圧電体前駆体膜73を700℃以上に加熱するのが好ましい。なお、焼成工程では、昇温レートを50℃/sec以上とするのが好ましい。これにより優れた特性の圧電体膜74を得ることができる。
【0099】
このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
【0100】
次に、図15に示すように、第1電極60上に1層目の圧電体膜74を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜74を同時にパターニングする。なお、第1電極60及び1層目の圧電体膜74のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
【0101】
ここで、例えば、第1電極60をパターニングしてから1層目の圧電体膜74を形成する場合、フォト工程・イオンミリング・アッシングして第1電極60をパターニングするため、第1電極60の表面が変質してしまう。そうすると変質した面上に圧電体膜74を形成しても当該圧電体膜74の結晶性が良好なものではなくなり、2層目以降の圧電体膜74も1層目の圧電体膜74の結晶状態に影響して結晶成長するため、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができない。
【0102】
それに比べ、1層目の圧電体膜74を形成した後に第1電極60と同時にパターニングすれば、1層目の圧電体膜74は第1電極60等に比べて2層目以降の圧電体膜74を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても2層目以降の圧電体膜74の結晶成長に大きな影響を与えない。
【0103】
次に、図16に示すように、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことにより複数層の圧電体膜74からなる圧電体層70を形成する。
【0104】
次いで、図17に示すように、圧電体層70を各圧力室12に対応してパターニングする。本実施形態では、圧電体層70上に所定形状に形成したマスク(図示なし)を設け、このマスクを介して圧電体層70をエッチングする、いわゆるフォトリソグラフィーによってパターニングした。なお、圧電体層70のパターニングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0105】
次に、図18に示すように、圧電体層70及び絶縁体膜52上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成し、この第2電極80を所定形状にパターニングする。さらに図19に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に個別リード電極91及び共通リード電極92を形成する。これにより圧電アクチュエーター300が形成される。
【0106】
その後の工程については図示は省略するが、流路形成基板用ウェハー110の圧電アクチュエーター300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハーを接合した後、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。また流路形成基板用ウェハー110を所定形状にパターニングされたマスク膜を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、隔壁11によって区画された圧力室12を形成する。
【0107】
さらに、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハーの外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110と保護基板用ウェハーとの接合体を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割する。そして、保護基板30と流路形成基板10との接合体に連通板15、ノズルプレート20、ケース部材40、コンプライアンス基板45等を接合することで、本実施形態の記録ヘッド1が製造される。
【0108】
以上説明したように本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド1では、第1領域S1の圧電体層70は(100)面優先配向をしており、第2領域S2の圧電体層70の(100)面配向率が第1領域S1の圧電体層70の(100)面配向率よりも低くなっている。より具体的には、記録ヘッド1は、圧電体層70が、(100)面優先配向をしている第1配向部75を第1領域S1に有し、(111)面優先配向している第2配向部76を第2領域S2に有している。これにより、圧電アクチュエーター300の変形の阻害を抑えつつ、圧電体層70の発熱を抑制することができる。
【0109】
また本実施形態では、圧電アクチュエーター300を形成する工程として、圧電体層70の結晶配向を制御するための配向制御層である結晶種層61を形成する工程を有し、この結晶種層61を形成する工程では、結晶種層61を第1領域S1と第2領域S2とで異なる厚さに形成する。すなわち結晶種層61を第1配向部75と第2配向部76とで異なる厚さに形成する。具体的には、上述のように第2配向部76に対応する位置の結晶種層61の厚さを、第1配向部75に対応する位置の結晶種層61の厚さよりも薄くする。これにより、第1配向部75を(100)面優先配向させ、第2配向部76を(111)面優先配向させることができる。
【0110】
ところで、本実施形態では、圧電体層70を形成する際、第1電極60上に形成する配向制御層としての結晶種層61の厚さを調整することで、圧電体層70の配向、すなわち第1配向部75及び第2配向部76の配向を制御するようにしたが、いわゆる中間結晶種層の厚さを調整することによっても、圧電体層70の配向を制御することができる。
【0111】
中間結晶種層62は、1層目の圧電体膜74と第1電極60とをパターニングした後(図15参照)、図20に示すように、絶縁体膜52上、第1電極60の側面、1層目の圧電体膜74の側面及び圧電体膜74上に亘って形成する。この中間結晶種層62は、結晶種層61と同様に、チタンが好適に用いられ、層状あるいは島状に形成する。その後は、上述の実施形態と同様に、2層目以降の圧電体膜74を形成する(図16図19参照)。
【0112】
そして2層目以降の圧電体膜74の配向は、この中間結晶種層62によっても制御することができる。上述した結晶種層61の場合と同様に、第2配向部76に対応する位置の中間結晶種層62bの厚さを、第1配向部75に対応する位置の中間結晶種層62aの厚さよりも薄くする(図20参照)。これにより、第1配向部75を(100)面優先配向させ、第2配向部76を(111)面優先配向させることができる。そして、中間結晶種層62を形成した場合、圧電体層70の第1電極60側の表面付近には、第1配向部75と第2配向部76とでチタンの含有率が異なる表層部700が存在することになる。
【0113】
なお中間結晶種層62を形成する場合、結晶種層61は形成しなくてもよいし、中間結晶種層62と共に結晶種層61を形成してもよい。中間結晶種層62と共に結晶種層61を形成する場合、結晶種層61の厚さは全体に亘って略均一とすればよい。
【0114】
(実施形態2)
図21は、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。なお同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0115】
上述の実施形態1では、圧電アクチュエーター300の製造時に、配向制御層としてのチタンからなる結晶種層61を形成し、その結果、圧電体層にチタンを含有する表層部700が存在していた。本実施形態では、圧電アクチュエーター300の製造時に結晶種層61を形成しないためチタンを含有する表層部700は存在していない。
【0116】
本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド1では、図21に示すように、第1電極60と圧電体層70との間に、配向制御層としての配向層150が設けられている。この配向層150は、LaNi、SrRu、(Ba,Sr)Ti、(Bi,Fe)Tiから選択される少なくとも一つを含んで構成され、好ましくは、LaNiからなる。
【0117】
また配向層150は、第2領域S2におけるZ軸方向の長さが、第1領域S1における配向層150のZ軸方向の長さよりも短くなっている。すなわち、圧電体層70の第1配向部75に対応する配向層150は所定の厚さで形成されており、第2配向部76に対応する位置の配向層150bの厚さは、第1配向部75に対応する位置の配向層150aの厚さよりも薄くなっている。
【0118】
所定厚さの配向層150上に圧電体層70を形成することで、圧電体層70の優先配向方位を(100)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。したがって所定厚さの配向層150上には(100)面優先配向をする第1配向部75が形成される。一方、第1配向部75に対応する部分よりも薄く形成された配向層150上に圧電体層70を形成すると、下地層である第1電極60の影響を受けて成長する。下地層である第1電極60は、例えば、白金等からなり(111)面優先配向をしている。したがって第1配向部75に対応する部分よりも薄く形成された配向層150上には、(111)面優先配向する第2配向部76が形成される。
【0119】
なお配向層150は、結晶種層61と同様の手順で形成すればよい。具体的には、第1電極60上の全面に配向層150を形成後、この配向層150をエッチング等によりパターニングして、第2配向部76に対応する位置の配向層150bを除去するか、若しくは配向層150bの厚さを、第1配向部75に対応する位置の配向層150の厚さよりも薄くすればよい。配向層150のエッチング方法は特に限定されず、例えば、エッチング液によるものでも、イオンミリング等のドライエッチングであってもよい。
【0120】
また本実施形態に係る配向層150は、圧電体層70に拡散されることなく層として残存する。配向層150の厚さは特に限定されないが、5nm~20nm程度であることが好ましい。これにより、第1配向部75を良好に(100)面優先配向させることができる。
【0121】
(実施形態3)
図22は、本発明の実施形態3に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの断面図であり、圧電アクチュエーター300の構成を示す拡大図である。なお、実施形態1と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0122】
本実施形態に係る圧電アクチュエーター300は、図22に示すように、第2電極80の-Z方向側、つまり第2電極80に設けられる保護膜200を備えている。この保護膜200によって、第2領域S2に近い第2電極80の端部80bが覆われている。すなわち保護膜200は、圧電アクチュエーター300の活性部310と非活性部320との境界部分を覆うように設けられている。なお保護膜200以外の構成は、実施形態1と同様である。
【0123】
活性部310と非活性部320との境界付近の圧電体層70においては、例えば、圧電歪みの発生状態が不均一となることに起因して応力集中が生じることがあり、それに伴い、クラックやこのクラックに起因する焼損の発生が顕著となることがある。しかしながら、本実施形態では、活性部310と非活性部320との境界部分を覆うように保護膜200が設けられているため、この領域におけるクラック及び焼損の発生をより確実に低減することができる。
【0124】
また図22に示す例では、保護膜200は第2電極80の端部80b付近のみに設けられているが、保護膜200を形成する範囲は特に限定されない。例えば、保護膜200は、非活性部320の圧電体層70の表面が露出された部分を覆って設けられていてもよい。
【0125】
また保護膜200の材料は、特に限定されないが、例えば、ポリイミド(芳香族ポリイミド)等の有機材料を用いることができる。また保護膜200は、エポキシ系の接着剤やシリコン系の接着剤により形成されていてもよい。また保護膜200を接着剤により形成する場合、流路形成基板10に保護基板30を接着するための接着剤が保護膜200として機能するようにしてもよい。すなわち流路形成基板10の第2電極80の端部80bに対応する部分で保護基板30を接着剤によって接着し、第2電極80の端部80bがこの接着剤によって覆われるようにしてもよい。
【0126】
また保護膜200のヤング率は、第2領域S2において、第2電極80のヤング率よりも低くなっていることが好ましい。本実施形態では、保護膜200は、例えば、ポリイミド等の有機材料で形成されているため、保護膜200のヤング率は、イリジウムといった金属等で形成される第2電極80のヤング率よりも低くなっている。これにより、活性部310と非活性部320との境界部分における圧電体層70の圧電歪みがより発生しにくくなり、また振動も吸収され易くなるため、この領域におけるクラック及び焼損の発生をより確実に低減することができる。
【0127】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0128】
例えば、上述の実施形態では、配向制御層としての結晶種層61、中間結晶種層62又は配向層150の厚さを調整することで、第2配向部76の(100)配向率が第1配向部75の配向率よりも低くなるようにしたが、第1配向部75及び第2配向部76の(100)配向率を調整する方法、すなわち圧電体層70の(100)配向率を調整する方法は、特に限定されるものではない。例えば、圧電体層70を形成する際、第1電極60或いは1層目の圧電体膜74上に存在する不純物の付着量を調整することによって圧電体層70の(100)配向率を変化させることができる。より具体的には、有機物からなるマスクを用いて第1電極60或いは1層目の圧電体膜74をパターニングする際、第2配向部76が形成される部分にマスクのごく一部を残留させ、この状態で残りの圧電体層70を形成する。これにより、第2配向部76の(100)配向率を第1配向部75の配向率よりも低くすることができる。
【0129】
また、上述の実施形態では、第2電極80の-Y方向の端部80b近傍の構成を一例として本発明を説明したが、本発明は、勿論、第2電極80の+Y方向の端部80b近傍にも適用することができるものである。圧力室12の+Y方向外側に、第2電極80の端部80aで規定される圧電アクチュエーター300の活性部310と非活性部320との境界部が存在する場合には、第2電極80の+Y方向の端部80a側にも上述した本発明の構成を適用することができる。
【0130】
また、上述した各実施形態では、第1電極60が活性部310毎の個別電極を構成し、第2電極80が複数の活性部310の共通電極を構成するようにしたが、第1電極60が複数の活性部310の共通電極を構成し、第2電極80が活性部310毎の個別電極を構成するようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0131】
また、これら各実施形態の記録ヘッド1は、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置に搭載される。図23は、一実施形態に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0132】
図23に示すインクジェット式記録装置Iにおいて、記録ヘッド1は、インク供給手段を構成するカートリッジ2が着脱可能に設けられ、キャリッジ3に搭載されている。この記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5の軸方向に移動自在に設けられている。
【0133】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
【0134】
このようなインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1に対して記録シートSを+X方向に搬送し、キャリッジ3を記録シートSに対してY方向に往復移動させながら、記録ヘッド1からインク滴を噴射させることで記録シートSの略全面に亘ってインク滴の着弾、所謂、印刷が実行される。
【0135】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1がキャリッジ3に搭載されて主走査方向であるY方向に往復移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向であるX方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0136】
なお、上記実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0137】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドのみならず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー、焦電センサー等他の圧電デバイスにも適用することができる。
【符号の説明】
【0138】
S1…第1領域、S2…第2領域、I…インクジェット式記録装置(記録装置)、1…インクジェット式記録ヘッド(記録ヘッド)、2…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…搬送ローラー、10…流路形成基板(基板)、11…隔壁、12…圧力室(凹部)、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…収容部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…導入口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…弾性膜、52…絶縁体膜、60…第1電極、61…結晶種層、62…中間結晶種層、70…圧電体層、71…溝部、75…第1配向部、76…第2配向部、80…第2電極、81…第1層、82…第2層、83…第3層、85…配線部、91…個別リード電極、92…共通リード電極、93…延設部(第3電極)、94…延設部、100…マニホールド、120…配線基板、121…駆動回路、150…配向層、200…保護膜、300…圧電アクチュエーター、310…活性部、320…非活性部、700…表層部、S…記録シート
図1
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