(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法、スケール生成量制御装置および加熱炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
F27D 7/06 20060101AFI20241002BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20241002BHJP
F27B 9/04 20060101ALI20241002BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
F27D7/06 C
F27D7/02 A
F27B9/04
C21D1/00 112D
C21D1/00 114Z
(21)【出願番号】P 2023139436
(22)【出願日】2023-08-30
【審査請求日】2024-07-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 雄太
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-184627(JP,A)
【文献】特開昭53-140212(JP,A)
【文献】特開平11-286718(JP,A)
【文献】特開2014-169465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 7/06
F27D 7/02
F27B 9/04
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法であって、
水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスを燃料に用いて前記金属材料をバーナ加熱し、
前記加熱炉の操業パラメータとして、前記バーナ加熱の燃料に用いる前記水素系ガスの流量を設定し、設定された水素系ガスの流量に基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する、
加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法。
【請求項2】
前記水素系ガスに、石炭ガスおよび炭化水素系ガスから選ばれる1種以上のガスを混合した混合ガスを燃料に用いて前記金属材料をバーナ加熱する、
請求項1に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法。
【請求項3】
前記加熱炉の操業パラメータとして、さらに前記加熱炉における金属材料の加熱時間及び加熱温度から選択される少なくとも一つを設定し、設定された操業パラメータに基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する、
請求項1又は2に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法。
【請求項4】
前記加熱炉は予熱帯、加熱帯及び均熱帯を含み、
水素系ガスを燃料に用いて、前記均熱帯でバーナ加熱し、
前記加熱炉の操業パラメータとして、前記均熱帯のバーナ加熱の燃料に用いる前記水素系ガスの流量を設定し、設定された水素系ガスの流量に基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する、
請求項1又は2に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法。
【請求項5】
金属材料のスケール生成量が予め設定された範囲になるように、加熱炉の前記操業パラメータに基づいて、スケール生成量を制御する、請求項1又は2に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法。
【請求項6】
金属材料のスケール生成量が予め設定された範囲になるように、加熱炉の前記操業パラメータに基づいて、スケール生成量を制御する、請求項3に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法。
【請求項7】
金属材料のスケール生成量が予め設定された範囲になるように、加熱炉の前記操業パラメータに基づいて、スケール生成量を制御する、請求項4に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法。
【請求項8】
加熱炉における金属材料のスケール生成量制御装置であって、バーナ加熱の燃料に用いる、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスの流量を含む加熱炉の操業パラメータを取得する取得部と、
取得した操業パラメータを用いて前記金属材料のスケール生成量を予測する予測部と、
予測したスケール生成量が予め設定された範囲であるか判定する判定部と、及び
予測したスケール生成量が予め設定された範囲にない場合に前記加熱炉の操業パラメータを設定する設定部と、
を含む制御部を備える、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御装置。
【請求項9】
前記水素系ガスに、石炭ガスおよび炭化水素系ガスから選ばれる1種以上のガスを混合した混合ガスの流量を含む加熱炉の操業パラメータを取得する取得部とする、
請求項8に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御装置。
【請求項10】
請求項5に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法を用いて鋼素材を加熱する加熱炉の操業方法。
【請求項11】
請求項6に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法を用いて鋼素材を加熱する加熱炉の操業方法。
【請求項12】
請求項7に記載の加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法を用いて鋼素材を加熱する加熱炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法、スケール生成量制御装置およびそのスケール生成量制御方法を用いた加熱炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鋼一貫製鉄所においては、鉄鉱石を還元して溶銑を製造する高炉の炉頂から排出される高炉ガスをはじめとして、転炉やコークス炉で発生する副生ガスを燃料ガス等として有効利用してきた。しかし、近年二酸化炭素の排出量削減の要求に伴い、これらの副生ガスの使用量を低減するための燃焼技術が求められるようになってきた。例えば、銑鋼一貫製鉄所の熱間圧延ラインで鋼材の加熱を行う加熱炉でも、副生ガスの使用量を低減し、二酸化炭素の排出量を削減することが求められるようになっている。この場合、加熱炉の燃料ガスとして、水素やアンモニアを利用する技術が着目される。すなわち、炭素元素を含まない水素やアンモニアは、燃焼しても主として水や窒素を発生するのみであるから二酸化炭素排出量の削減効果が大きく、加熱炉への適用が望まれている。
【0003】
ところで、加熱炉では、鋼材を加熱する過程で、鋼材の表面にスケール(酸化スケールとも呼ばれる。)が生成する。加熱炉で生成するスケールは1次スケールとも呼ばれ、熱間圧延ライン等に配置されるデスケーリング装置により除去される。そのため、加熱炉で生成するスケールの厚みが厚くなると、鋼板製品となる鋼材の重量が減少し、製品歩留まりが低下するという問題がある。
【0004】
一方で、加熱炉に装入される鋼材の表面近傍には、鋳造時に生成する不純物や鋳造時に混入するモールドパウダー等に起因した異物が存在することがある。加熱炉から抽出される鋼材の表面に不純物や異物が存在したまま熱間圧延が行われると、鋼材と圧延ロールとの間にこれらが噛み込まれ、鋼板の表面に欠陥が生じる。そのため、加熱炉で生成する鋼材のスケールをある程度の厚みまで生成させ、デスケーリング装置によって表面の不純物や異物をスケールと共に除去してから熱間圧延が行われる。
【0005】
つまり、鋼材の加熱炉では、過度なスケール生成を抑えることで製品歩留まりの低下を抑えると共に、所定量のスケールを積極的に生成させることにより表面欠陥の発生を抑制するために、適正な量にスケール生成を制御することが求められる。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するため、鋼材表面のスケール生成の制御技術が提案されている。
特許文献1には、過度なスケール生成を抑える技術として、加熱炉内の鋼材まわりに、加熱中の鋼材温度以上または炉温と略等しい温度に予熱した高温無酸化性ガスを供給する鋼材の無酸化加熱方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、加熱炉の炉内へ高温の不活性ガスを供給する複数の蓄熱式加熱装置と、炉内へ燃焼ガスを供給する複数のガスバーナとを備え、しかも高温の不活性ガスの供給と燃焼ガスの供給が独立して行われるように制御される鋼材の加熱炉が開示されている。
これにより、高温の不活性ガスを複数の蓄熱式加熱装置から交互に供給することにより鋼材を無酸化で加熱できるとされている。
【0008】
一方、所定量のスケールを生成させる技術として、特許文献3には、熱間圧延に供する鋼材を加熱炉で加熱する際に、加熱炉内へ水分を供給し、加熱炉内の露点を調整する、鋼材の加熱方法が開示されている。これにより、鋼材表面の酸化が促進され、鋼材の表層から0.5mm程度の位置までに集中している鋳造欠陥を、スケールと共に除去できるので、鋼板製品の表面品質を向上させることができるとされている。
【0009】
また、スケール生成量を適正な範囲に制御する技術として、特許文献4には、熱間圧延用スラブの加熱方法として、加熱炉抽出時のスラブのスケール厚を予測し、スケール厚が所定の値となるようにスラブの加熱温度や加熱時間を設定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-20919号公報
【文献】特開2000-248314号公報
【文献】特開平5-331532号公報
【文献】特開平7-54036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、燃料ガスとして水素やアンモニアを使用する加熱炉において鋼材のスケール生成量を適正な範囲に制御する上で、従来技術を適用した場合には以下のような課題が生じる。
【0012】
特許文献1に記載された技術は、加熱炉内に装入された鋼材まわりに局所的な無酸化性雰囲気を作るために、高温無酸化性ガスを加熱炉内に供給する。
ところが、水素やアンモニアを燃料ガスとして加熱炉内で燃焼させると、燃料ガス中の水素と、燃焼用空気中の酸素とが結合して水蒸気が生成される。そのため、加熱炉内で無酸化雰囲気を形成したとしても、生成した水蒸気により鋼材表面のスケール成長が促進されるという課題がある。
【0013】
特許文献2に記載された技術は、蓄熱式加熱装置を用いて、燃料ガスを燃焼させた排ガスが有する顕熱を蓄熱体により回収し、続いて蓄熱体に不活性ガスを通過させることにより高温の不活性ガスを加熱炉内に供給することで、加熱炉内での鋼材のスケール成長を抑制しようとするものである。
しかし、燃料ガスとして水素やアンモニアを使用すると、蓄熱体が排ガス中の水蒸気も回収するため、蓄熱体を通過する不活性ガスが加湿されて加熱炉内に供給される。そのため、上記と同様に、加熱炉内に高温の不活性ガスを供給したとしても、水蒸気により鋼材表面のスケール生成が促進されるため、スケール生成量を適切な範囲に制御できないというという課題がある。
【0014】
特許文献3は、加熱炉内へ水分を供給することにより鋼材表面の酸化を促進して鋼板製品の表面品質を向上させる効果が期待できるものの、燃料ガスとして水素やアンモニアを使用する場合には、鋼材の酸化が一層促進されるため、スケールが過大に成長してしまい、スケール生成量を適切な範囲に制御できないという課題が生じる。
【0015】
特許文献4は、加熱温度や加熱時間を設定することにより、スケール生成量を制御するものである。しかし、鋼材の加熱炉は炉内容量が大きいため加熱温度を変更するには長時間を要する。また、加熱時間を変更する場合も、鋼材の加熱時間が長くなることがあり、いずれにしても加熱炉の生産能率が低下する点で改善の余地がある。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、金属材料を加熱する加熱炉の燃料ガスとして水素やアンモニアを使用することにより二酸化炭素の排出量を低減しようとする場合に、スケール生成量を適切な範囲に制御するための金属材料のスケール生成量制御方法、スケール生成量制御装置および加熱炉の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を有利に解決する本発明に係るスケール生成量制御方法は、以下のように構成される。
【0018】
[1]加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法であって、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスを燃料に用いて前記金属材料をバーナ加熱し、前記加熱炉の操業パラメータとして、前記バーナ加熱の燃料に用いる前記水素系ガスの流量を設定し、設定された水素系ガスの流量に基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法である。
[2]上記の[1]において、前記水素系ガスに、石炭ガスおよび炭化水素系ガスから選ばれる1種以上のガスを混合した混合ガスを燃料に用いて前記金属材料をバーナ加熱する、金属材料のスケール生成量制御方法である。
[3]上記の[1]又は[2]において、前記加熱炉の操業パラメータとして、さらに前記加熱炉における金属材料の加熱時間及び加熱温度から選択される少なくとも一つを設定し、設定された操業パラメータに基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法である。
[4]上記の[1]又は[2]において、前記加熱炉は予熱帯、加熱帯及び均熱帯を含み、水素系ガスを燃料に用いて、前記均熱帯でバーナ加熱し、前記加熱炉の操業パラメータとして、前記均熱帯のバーナ加熱の燃料に用いる前記水素系ガスの流量を設定し、設定された水素系ガスの流量に基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法である。
[5]上記の[1]又は[2]において、金属材料のスケール生成量が予め設定された範囲になるように、加熱炉の前記操業パラメータに基づいて、スケール生成量を制御する、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法である。
[6]上記の[3]において、金属材料のスケール生成量が予め設定された範囲になるように、加熱炉の前記操業パラメータに基づいて、スケール生成量を制御する、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法である。
[7]上記の[4]において、金属材料のスケール生成量が予め設定された範囲になるように、加熱炉の前記操業パラメータに基づいて、スケール生成量を制御する、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法である。
【0019】
上記課題を有利に解決する本発明に係るスケール生成量制御装置および加熱炉の操業方法は、以下のように構成される。
[8]加熱炉における金属材料のスケール生成量制御装置であって、バーナ加熱の燃料に用いる、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスの流量を含む加熱炉の操業パラメータを取得する取得部と、取得した操業パラメータを用いて前記金属材料のスケール生成量を予測する予測部と、予測したスケール生成量が予め設定された範囲であるか判定する判定部と、及び予測したスケール生成量が予め設定された範囲にない場合に前記加熱炉の操業パラメータを設定する設定部と、を含む制御部を備える、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御装置である。
[9]上記の[8]において、前記水素系ガスに、石炭ガスおよび炭化水素系ガスから選ばれる1種以上のガスを混合した混合ガスの流量を含む加熱炉の操業パラメータを取得する取得部とする、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御装置である。
[10]上記の[5]に記載の、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法を用いて鋼素材を加熱する加熱炉の操業方法である。
[11]上記の[6]に記載の、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法を用いて鋼素材を加熱する加熱炉の操業方法である。
[12]上記の[7]に記載の、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法を用いて鋼素材を加熱する加熱炉の操業方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加熱炉の燃料ガスとして水素やアンモニアを使用することにより二酸化炭素の排出量を低減できると共に、スケール生成量を適切な範囲に制御して、金属材料の表面欠陥の発生を低減しながら、製品歩留まりの悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る、加熱炉の概略を示す構成図である。
【
図2】加熱炉におけるバーナ設備の配置を示す構成図である。
【
図4】一実施形態に係る、加熱炉の水素系バーナ設備の概略構成を示すブロック図である。
【
図6】鋼材の表面のスケール厚みと炉内の水蒸気量を変化させた場合の加熱時間の関係を示すグラフである。
【
図7】一実施形態に係るスケール生成量制御装置の構成図である。
【
図8】鋼材の表面のスケール厚みと炉内の被加熱材の表面温度を変化させた場合の炉内の水蒸気濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態に係る加熱炉における金属材料のスケール生成量制御装置について説明する。
【0023】
本実施形態に係るスケール生成量制御装置は、バーナ加熱の燃料に用いる、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスの流量を含む加熱炉の操業パラメータを取得する取得部と、取得した操業パラメータを用いて前記金属材料のスケール生成量を予測する予測部と、予測したスケール生成量が予め設定された範囲であるか判定する判定部と、予測したスケール生成量が予め設定された範囲にない場合に前記加熱炉の操業パラメータを設定する設定部と、を備える。
【0024】
まず、バーナ設備を備える加熱炉について説明する。
<加熱設備>
図1は、本発明の一実施形態に係る金属材料の加熱設備の断面図を模式的に示したものである。加熱設備は、内部に被加熱材を装入して所定の温度まで昇温させる設備である。被加熱材は金属材料を対象とするが、酸化により表面に酸化物(以下スケールという。)を生成する金属材料であれば、鉄系金属であっても非鉄系金属であってもよい。被加熱材の加熱温度は、500~1400℃である。以下では、金属材料として鋼材を対象に、鋼材を加熱する加熱設備について説明する。
【0025】
図1に示す加熱設備100は、例えば鋼板や鋼帯を製造する熱間圧延ラインに設置され、鋳造された鋼材を所定の加熱温度(1100~1300℃程度)に加熱する。ただし、被加熱材である鋼材は、鋼板素材となるスラブに限定されず、ビレットやブルームなど、形鋼、棒線、鋼管などの素材となる鋼材を含む。
加熱設備100は、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスを含む燃料ガスを用いたバーナ加熱により鋼材を加熱する加熱炉1を備える。加熱炉1で被加熱材である金属材料を加熱する工程を加熱工程と呼ぶ。
また、加熱設備100では、加熱工程の操業を制御するため、各種の操業パラメータのデータ解析を行う制御用計算機101が設置されるのが好ましい。
【0026】
<加熱炉>
加熱炉1は、鋼材Sを装入(以下搬入ともいう。)する装入部8と、鋼材Sを搬出(以下抽出ともいう。)する搬出部9と、を備える。例えば、連続鋳造ラインで製造された鋼材(スラブ)は、加熱炉1の装入側のヤードに搬送され、熱間圧延ライン等の生産スケジュールに従って装入部8から加熱炉1に装入される。
【0027】
加熱炉1の内部は複数の帯域に区切られており、鋼材の搬送方向の上流側から、1~3個の帯域に区切られた予熱帯3と、2~8個の帯域に区切られた加熱帯4と、1~3個の帯域に区切られた均熱帯5とから構成される。加熱炉1には、鋼材Sを装入部8から搬出部9に向けて順次搬送する搬送装置10が配置される。
加熱炉1の各帯域は異なる雰囲気温度に制御されており、搬送装置10が鋼材Sを予熱帯3、加熱帯4、均熱帯5の順に搬送することにより、加熱炉1に装入された鋼材Sの平均温度が徐々に昇温して加熱炉1における所定の加熱温度(目標加熱温度)まで加熱される。
【0028】
搬送装置10は、スキッドと呼ばれる鋼材Sの支持機構を備えており、鋼材Sを支持する固定スキッド10aと、鋼材Sを持ち上げて移動させる移動スキッド10bがある。移動スキッド10bは、加熱炉1内で昇降、前進、下降、後退を繰り返すことにより、鋼材Sを搬出部9に向けて搬送する。
【0029】
加熱炉1の内部には、鋼材Sの搬送方向に沿って複数のバーナ6が備えられている。バーナ6は、燃焼により加熱炉1の内部を昇温するために配置される。バーナ6により加熱炉1の内部が昇温されると、加熱炉1の炉壁からの輻射により鋼材Sの温度が上昇する。
また、加熱炉1の内部において雰囲気ガスの流動が生じ、対流により鋼材Sが昇温されることがある。さらに、バーナ6の火炎が直接鋼材Sに接触することにより鋼材Sが昇温されてもよい。いずれにしても、バーナ6は、加熱炉1の内部を昇温させることにより、加熱炉1内部の鋼材Sを加熱する。
【0030】
バーナ6は、加熱炉1内部の複数の帯域ごとに配置される。ただし、帯域の数とバーナの数とは必ずしも一致しなくてもよい。
図1に示す加熱炉1には、装入部8から搬出部9に向けて、鋼材Sの上面側に上部バーナ6aが配置され、鋼材Sの下面側に下部バーナ6bが配置されている。また、
図1に示す加熱炉1には、鋼材Sの搬送方向に対する一方の側壁面から対向する側壁面の方向に向けて火炎を噴射するサイドバーナを模式的に記載しているが、鋼材Sの搬送方向と同一の方向に火炎を噴射する軸流バーナや加熱炉の天井から内部に火炎を噴射するルーフバーナが用いられてもよい。
【0031】
図2は、加熱炉6を構成する一部の帯域を例として、加熱炉1に配置されるバーナ6の配管系統を示す。加熱炉1に配置されるバーナ6(上部バーナ6a、下部バーナ6b)は、燃料ガスGを供給する燃料ガス供給系統31および燃焼用空気Aを供給する燃焼用空気供給系統32と接続されている。燃料ガス供給系統31および燃焼用空気供給系統32は、ブロア(図示せず)などと接続されており、バーナ6に燃料ガスGおよび燃焼用空気Aを供給する。これによりバーナ6から燃料ガスGおよび燃焼用空気Aが噴射され、燃料ガスGが拡散することにより燃焼して火炎が加熱炉の内部に吹き込まれる。燃焼用空気Aは、大気から収集される空気を用いてよい。ただし、空気中の窒素を取り除いたり、純酸素を加えたりするなどして、改質した空気を燃焼用空気として用いてよい。燃焼用空気の酸素含有量を増加させることにより、燃料ガスGの酸化反応を促進し、燃焼用空気供給系統32から供給する燃焼用空気の流量を低減できるためポンプなどの消費電力を低減できる。また、燃焼用空気Aは、酸素に燃焼排ガスを混合した混合ガスを用いてもよい。燃焼用空気の酸素含有量を低下させることにより、加熱炉の炉内の雰囲気を還元性雰囲気にすることができ、アンモニア等の燃焼によって生成する窒素酸化物の還元が促進される。
【0032】
図3は、バーナ加熱を行うバーナ設備60の概略図を示す。なお、バーナとは、炉内に火炎を噴射する機器を意味し、特に炉内に火炎を噴射する部分を指す。また、バーナ設備とは火炎を噴射するための付帯機器を含めた装置全体をいう。
【0033】
バーナ設備60は、バーナ6により火炎を噴射するための燃料ガスGと燃焼用空気Aの流路を形成するバーナノズル7、バーナノズル7に燃料ガスGを供給する燃料ガス供給系統31と、バーナノズル7に燃焼用空気Aを供給する燃焼用空気供給系統32とを備える。
バーナノズル7は、例えば2重管のノズルであり、内側から燃料ガスGが炉内に向けて噴射され、外側は燃焼用空気Aが供給される。これにより、燃料ガスGと燃焼用空気Aが混合した可燃性混合体を形成して、バーナ6から加熱炉1内部に向けて火炎が噴射される。
【0034】
バーナ設備60には、燃料ガス供給系統31からバーナノズル7に供給する燃料ガスGの流量を調整するための燃料ガス流量調整弁33と、燃料ガスGの流量を計測するための燃料ガス流量計34を備えてよい。これにより、加熱炉1内に供給する燃焼エネルギーを調整できる。
また、バーナ設備60には、燃焼用空気供給系統32からバーナノズル7に供給する燃焼用空気Aの流量を調整するための燃焼用空気流量調整弁35と、燃焼用空気Aの流量を計測するための燃焼用空気流量計36を備えてよい。これにより、バーナ6において、燃料ガスの理論空気量に対する空気比を調整できる。
【0035】
また、バーナ設備60には、上記の2重管ノズルを用いたノズルだけでなく、燃料ガスと燃焼用空気をバーナノズルの途中で混合するノズルミックス型バーナを用いてよい。この場合、燃焼用空気が燃料ガスと混合する前に、燃焼用空気を排ガスなど利用して予熱するように構成してもよい。
【0036】
図2に示すバーナ設備は、バーナ6に燃焼用空気を供給する燃焼用空気供給系統32に、個々のバーナ6へ供給する燃焼用空気の流量を調整する燃焼用空気流量調整弁35と、燃焼用空気の流量を測定する燃焼用空気流量計36が配置されている。しかし、燃焼用空気流量調整弁35や燃焼用空気流量計36は、バーナ6ごとに設けられる必要はなく、複数のバーナを一つの群として、群単位で燃焼用空気の流量が調整されるようにしてよい。
【0037】
<石炭ガスを用いたバーナ加熱>
従来の鋼材の加熱炉は、バーナ設備に供給する燃料ガスとして、製鉄所等で生成される副生ガスが用いられてきた。副生ガスは、主として石炭から得られるガスであり、石炭の
不完全燃焼に起因して生成することから、石炭ガスとも呼ばれる。石炭ガスには、コークス炉ガス、高炉ガス、転炉ガス、電気炉ガスなどが含まれる。高炉ガスは、高炉で鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する際の副生ガスである。コークス炉ガスは、コークスを製造するために石炭を高温乾留して生成される副生ガスである。転炉ガスは、転炉における製鋼工程で生じる副生ガスである。電気炉ガスとは、電気炉において使用する補助燃料(加炭材)の不完全燃焼によって生じる副生ガスである。副生ガスは、生成する工程により種々の成分組成を有する。
【0038】
例えば、高炉ガスは可燃成分の一酸化炭素が21~30体積%、不燃成分の窒素が50~60体積%、二酸化炭素が10~22体積%が代表的な組成である。高炉ガスの低位発熱量は3.45MJ/Nm3程度である。コークス炉ガスは、水素46~60体積%、メタン20~35体積%、一酸化炭素5~10体積%、エチレンなどの炭化水素2~4体積%が代表的な組成である。コークス炉ガスの低位発熱量は18.0MJ/Nm3程度である。転炉ガスは、一酸化炭素が約75体積%程度、二酸化炭素が約13体積%程度であり、他に微量の酸素、窒素、水素が含有される。転炉ガスの低位発熱量は8.2MJ/Nm3程度である。電気炉ガスは、一酸化炭素10体積%程度、二酸化炭素22体積%程度、酸素5体積%程度、窒素56体積%程度が代表的な組成である。電気炉ガスの低位発熱量は2.8MJ/Nm3程度である。また、石炭ガスには、高炉ガス、コークス炉ガス、転炉ガスが適宜混合されたガス(Mガスと呼ばれることがある。)が含まれる。発熱量が異なる石炭ガスを混合することにより、被加熱材の加熱に必要な熱量を供給し、安定した加熱炉の操業を行うためである。
【0039】
<水素系バーナ設備>
本実施形態の加熱設備100は、加熱炉に配置されるバーナ設備のうち、少なくとも一つのバーナ設備は、燃料ガスとして、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスを用いる。以下では、加熱炉に配置されるバーナ設備の中で、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする燃料ガスを用いるバーナ設備を、水素系バーナ設備と呼ぶ。
また、燃料ガスに用いられる水素とアンモニアを水素系ガスと呼ぶ。
【0040】
まず、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量として含む水素系ガスを燃料に用いる実施形態を述べる。
【0041】
水素は、常温無色の気体であり、発火点は560℃、低位発熱量は10.5MJ/Nm3程度である。水素を燃焼させると、火炎温度が高く燃焼速度が速いことから、バーナノズルの先端部が高温になりやすい。そのため、水素を噴出した後に燃焼用空気と混合する形式のバーナノズルを用いるとよい。これにより、緩慢燃焼を実現でき、バーナノズルの熱負荷を軽減できる。水素を燃料ガスGに用いる水素系バーナ設備では、一例としてバーナから噴射する水素の流量185Nm3/hr、燃焼用空気の流量370~601Nm3/hrの操業条件で燃焼が行われる。
【0042】
アンモニアは、常温無色の気体であり、発火点は651℃、低位発熱量は14.1MJ/Nm3程度である。アンモニアを燃焼させると、比較的火炎温度が低く燃焼速度が遅いことから、アンモニアと燃焼用空気とを積極的に混合させる形式のバーナノズルを用いることにより、アンモニアの燃焼反応を安定させることができる。アンモニアを燃料ガスGに用いる水素系バーナ設備では、一例としてバーナから噴射するアンモニアの流量185Nm3/hr、燃焼用空気の流量370~601Nm3/hrの操業条件で燃焼が行われる。
【0043】
本実施形態に適用される水素系バーナ設備70は、
図3に示すバーナ設備60と同様の
ものを用いることができる。すなわち、水素系バーナ設備70は、燃料ガスとして石炭ガスを用いるバーナ設備と同一のバーナ設備であって、燃料ガスGとして水素系ガスHGを用いるバーナ設備である。水素系バーナ設備は、水素系ガスを燃料ガスに用いることで、二酸化炭素の生成が抑制されるため、加熱炉から排出される二酸化炭素の量を削減できる。
【0044】
図3を用いて、本実施形態に適用される水素系バーナ設備70の構成を説明する。水素系バーナ設備70は、水素系ガスHGを燃料ガスGとして燃焼用空気Aを用いて、炉内に火炎を噴射するバーナ加熱を行う。水素系バーナ設備70は、炉内に火炎を噴射するためのバーナノズル7と、燃料ガスGをバーナノズル7に供給する燃料ガス供給系統31と、燃焼用空気Aをバーナノズル7に供給する燃焼用空気供給系統32とを備えている。バーナノズル7は、例えば2重管のノズルであり、内側から燃料ガスGが炉内に向けて噴射され、外側は燃焼用空気Aが供給される。これにより、水素系ガスHGを燃料ガスGとして、燃焼用空気Aが混合した可燃性混合体を形成し、バーナ6から加熱炉1内部に向けて火炎が噴射される。
【0045】
水素系バーナ設備70は、燃料ガス供給系統31からバーナノズル7に供給する燃料ガスGの流量を調整するための燃料ガス流量調整弁33と燃料ガスGの流量を測定する燃料ガス流量計34を備えるのが好ましい。また、水素系バーナ設備70は、水素系ガスの流量を設定する流量設定部47を備えるのが好ましい。流量設定部47は、例えば制御用コントローラであり、予め設定される水素系ガスHGの流量設定値に対して、燃料ガス流量計34で測定される流量の実績値が、流量設定値に一致するように燃料ガス流量調整弁33の弁開度を調整する制御指令を与える。これにより、水素系バーナ設備70から加熱炉1内に噴射する火炎の燃焼エネルギーと、加熱炉1から排出される二酸化炭素の排出量を制御できる。
【0046】
水素系バーナ設備70は、流量設定部47に加えて、加熱炉1内の水蒸気量を予め設定した範囲に制御する水蒸気量制御部48を設けることが好ましい。水蒸気量制御部48は、例えばコンピュータにより構成される。
水蒸気量制御部48は、加熱炉1の炉内における水蒸気量を算出し、算出した炉内の水蒸気量が、予め設定した水蒸気量の目標範囲(水蒸気目標範囲)になるように、流量設定部47に対して水素系バーナ設備70に供給される水素系ガスHGの流量設定値の指令を送る。
加熱炉1内の水蒸気量は、鋼材Sの表面におけるスケール生成挙動に影響を与えるため、水蒸気量制御部48が流量設定部47に対して水素系ガスHGの流量設定値の指令を送ることにより、鋼材Sの表面におけるスケール生成挙動を制御することができる。
この場合、加熱炉1内に露点計49を設置して、露点計49が取得する露点情報に基づいて加熱炉1内の水蒸気量を推定するのが好ましい。加熱炉1内の水蒸気量の推定方法については後述する。
【0047】
図4は、加熱炉1のバーナ6として、燃料ガスGとして石炭ガスCGを用いるバーナ設備60と、燃料ガスGとして水素系ガスHGを用いる水素系バーナ設備70とを、炉内に配置する例を示す。この場合、バーナ設備60のバーナノズル7に燃料ガスGを供給する燃料ガス供給系統が、石炭ガスCGの供給源と接続されており、バーナ設備60は加熱炉1の内部に石炭ガスの燃焼による火炎を噴射する。
一方、水素系バーナ設備70のバーナノズル7に燃料ガスGを供給する燃料ガス供給系統が、水素系ガスHGの供給源と接続されており、水素系バーナ設備70は加熱炉1の内部に水素系ガスの燃焼による火炎を噴射する。この場合、バーナ設備60と水素系バーナ設備70に燃焼用空気Aを供給する燃焼用空気供給系統は、バーナ設備60と水素系バーナ設備70で共用してよい。
【0048】
図4に示す加熱炉は、すべてのバーナ設備が、燃料ガスGとして石炭ガスCGを用いる従来の加熱炉に比べて、燃料ガスGとして水素系ガスHGを用いる水素系バーナ設備を含むことから、加熱炉から排出される二酸化炭素の排出量が削減される。
【0049】
<水素系バーナ設備の他の実施形態>
水素系バーナ設備の他の実施形態として、水素系ガスに、石炭ガスおよび炭化水素系ガスから選ばれる1種以上のガスを混合した混合ガスを燃料ガスとする、他の実施形態について述べる。
ここで、混合ガスとは、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を含む水素系ガスに対して、石炭ガス(水素含む)又は炭化水素系ガス(メタン、エタン、プロパンなど)などを混合する場合をいう。
【0050】
水素系バーナ設備は、燃料ガスGとして水素系ガスHGを含み他の燃料と混合した混合ガスを用いてもよい。例えば、燃料ガスGとして水素系ガスと石炭ガスとの混合ガスを用いることができる。
【0051】
図5は、水素系バーナ設備の他の例として、燃料ガスGとして水素系ガスHGと石炭ガスCGとの混合ガスを用いた水素系バーナ設備71を示す。
図5に示す水素系バーナ設備71は、加熱炉内に火炎を放出するバーナノズル7、バーナノズル7に燃料ガスGを供給する燃料ガス供給系統31、バーナノズル7に燃焼用空気Aを供給する燃焼用空気供給系統32を備える点で、
図3に示す水素系バーナ設備70と同様である。また、燃焼用空気供給系統32からバーナノズル7に燃焼用空気Aが供給され、燃料ガスGと燃焼用空気Aが混合した可燃性混合体を形成して、バーナ6から加熱炉内部に向けて火炎が放出される点も同様である。
【0052】
一方、
図5に示す水素系バーナ設備71の燃料ガス供給系統31には、水素系ガス供給系統45を通じて供給される水素系ガスHGと石炭ガス供給系統46を通じて供給される石炭ガスCGとを混合する混合部40を備える。混合部40は、水素系ガスHGと石炭ガスCGとを混合した燃料ガスGを生成する。混合部40で生成された燃料ガスGは、燃焼用空気Aとさらに混合した可燃性混合体を形成し、バーナ6から加熱炉1内部に向けて火炎として噴射される。
【0053】
混合部40は、水素系ガスHGを供給する水素系ガス供給系統45と石炭ガスCGを供給する石炭ガス供給系統46とが合流する部分を指す。水素系ガスHGと石炭ガスCGはそれぞれの供給配管から供給され、合流することにより、特別な攪拌機構を設けなくても混合が行われる。したがって、混合部40はこれらの供給配管が交流する部分に一定の空間として構成すればよい。
【0054】
ただし、混合部40は、スタティックミキサなどの静的混合機器や、攪拌機能を備える動的混合器を備えてよい。これにより、水素系ガスHGと石炭ガスCGとがより均一に混合した混合ガスとなる点で好ましい。
【0055】
水素系バーナ設備71には、水素系ガス供給系統45を通じて混合部40に供給する水素系ガスHGの流量を調整するための水素系ガス流量調整弁41と水素系ガスHGの流量を計測するための水素系ガス流量計42を備えてよい。また、水素系バーナ設備71には、石炭ガス供給系統46から混合部40に供給する石炭ガスCGの流量を調整するための石炭ガス流量調整弁43と、石炭ガスCGの流量を計測するための石炭ガス流量計44を備えてよい。
【0056】
これらにより燃料ガスGに含まれる、水素系ガスHGと石炭ガスCGとの混合比率を調整できる。燃料ガスGに含まれ水素系ガスHGの混合比率が大きくなると、石炭ガスCGのみを燃料ガスとする従来のバーナ加熱に比べて加熱炉1から排出される二酸化炭素の排出削減効果が大きくなる。
【0057】
一方、水素系ガスとしてアンモニアを用いる場合には、アンモニアは難燃性燃料であり、一般の燃料ガスより着火しにくく燃焼速度も遅いため、燃料ガスGに含まれるアンモニアの混合比率が大きくなるとバーナ6での燃焼が不安定になることがある。燃料ガスGに含まれるアンモニアと石炭ガスとの混合比率を調整することで、二酸化炭素の排出量を削減しながらバーナ加熱の安定性を確保できる。
【0058】
水素系バーナ設備71には、さらに、混合部40に供給する水素系ガスHGの流量を設定する流量設定部47を備えるのが好ましい。流量設定部47は、例えば制御用コントローラであり、予め設定される水素系ガスHGの流量設定値に対して、水素系ガス流量計42で測定される流量の実績値が、流量設定値に一致するように水素系ガス流量調整弁41の弁開度を調整する制御指令を与える。これにより、水素系バーナ設備71から加熱炉1内に噴射する火炎の燃焼エネルギーと、加熱炉1から排出される二酸化炭素の排出量を制御できる。
【0059】
また、流量設定部47は、混合部40に供給する水素系ガスHGの流量を設定する機能に加えて、予め設定される石炭ガスCGの流量設定値に対して、石炭ガス流量計44で測定される流量の実績値が、石炭ガスCGの流量設定値に一致するように石炭ガス流量調整弁43の弁開度を調整する制御指令を与えるように構成してよい。これにより、混合部40に供給される、水素系ガスHGの流量と、石炭ガスCGの流量とを個別に設定でき、加熱炉1内に供給する燃焼エネルギーと、加熱炉1から排出される二酸化炭素の排出量を調整できる。
【0060】
水素系バーナ設備71は、流量設定部47に加えて、加熱炉1内の水蒸気量を予め設定した範囲に制御する水蒸気量制御部48を設けるとよい。水蒸気量制御部48の機能については、上述の
図3で説明した水蒸気量制御部48と同様である。
【0061】
石炭ガスであるMガスと水素系ガスである水素とを混合して燃焼する場合、水素の混合比率(Mガスと水素系ガス供給系統45を通じて供給する水素の流量に対する水素系ガス供給系統45を通じて供給する水素流量の比率)は任意に選択することができる。一例として、水素の混合比率を60%とすると、バーナから噴射する水素流量111Nm3/hr、Mガス流量74Nm3/hr、燃焼用空気の流量370~601Nm3/hrとする操業条件で燃焼が行われる。なお、Mガス組成は、一酸化炭素20体積%、二酸化炭素13体積%、水素24体積%、メタン13体積%、エチレンなどの炭化水素1.2体積%、窒素28.8体積%である。
Mガスとアンモニアを混合して燃焼する場合は、アンモニアの混合比率(Mガスと水素系ガス供給系統45を通じて供給するアンモニアの流量に対する水素系ガス供給系統45を通じて供給するアンモニア流量の比率)が高くなると燃焼が不安定となるので、アンモニアの混合比率は50%程度である。
また、一例として、アンモニアの混合比率を30%とすると、バーナから噴射するアンモニア流量50Nm3/hr、Mガス流量117Nm3/hr、燃焼用空気の流量は480~624Nm3/hrとする操業条件で燃焼が行われる。
【0062】
次に、本実施形態に係るスケール生成量制御装置について説明する。
<スケール生成量制御装置>
本実施形態に係るスケール生成量制御装置は、バーナ加熱の燃料に用いる、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスの流量を含む加熱炉の操業パラメータを取得する取得部と、取得した操業パラメータを用いて前記金属材料のスケール生成量を予測する予測部と、予測したスケール生成量が予め設定された範囲であるか判定する判定部と、及び予測したスケール生成量が予め設定された範囲にない場合に前記加熱炉の操業パラメータを設定する設定部と、を含む制御部を備える。
また、取得部は、前記水素系ガスに、石炭ガスおよび炭化水素系ガスから選ばれる1種以上のガスを混合した混合ガスの流量を含む加熱炉の操業パラメータを取得することが可能である。
【0063】
図7は、本実施形態に係るスケール生成量制御装置の構成を示す。
図7に示すスケール生成量制御装置51は、例えば、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータである。スケール生成量制御装置51は、制御部52と、入力部53と、出力部54と、記憶部55とを有する。制御部52は、例えば、CPU等であって、記憶部55に格納されている種々のプログラムを実行することにより、制御部52を取得部56、予測部57、判定部58および設定部59として機能させる。
【0064】
入力部53は、例えば、キーボード、ディスプレイと一体的に設けられたタッチパネル等である。
出力部54は、例えば、LCDまたはCRTディスプレイ等である。記憶部55は、例えば、更新記録可能なフラッシュメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、メモリーカード等の情報記録媒体およびその読み書き装置である。
記憶部55には、スケール生成量制御装置51によるスケール生成量の制御を実現するためのプログラムやデータが格納されている。また、記憶部55には、予め生成したスケール厚予測モデルが記憶されている。
【0065】
次に、本実施形態に係る加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法について説明する。
<スケール生成量制御方法>
本実施形態に係るスケール生成量制御方法は、水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスを燃料に用いて金属材料をバーナ加熱し、加熱炉の操業パラメータとして、バーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量を設定し、設定された水素系ガスの流量に基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する。
また、水素系ガスに、石炭ガスおよび炭化水素系ガスから選ばれる1種以上のガスを混合した混合ガスを燃料に用いて金属材料をバーナ加熱することが可能である。
【0066】
ここで、スケール生成量とは、被加熱材である金属材料の表面に生成するスケールの厚み又は量をいう。加熱炉の操業パラメータとは、加熱炉における被加熱材の加熱状態に影響を与える加熱炉の操業条件をいう。
【0067】
加熱炉1内では、水素系ガスHGを用いたバーナ加熱を行うので、燃料ガスGに含まれる水素やアンモニアの燃焼により水蒸気が生成する。その状況では、加熱炉1内の金属材料の表面から水が浸入して、水分子を構成する酸素が加熱炉1内の金属材料を酸化させると共に水素を放出する。水素は、金属材料の表面に生成した酸化物層の内部を拡散し、酸化物層と母材との界面において、酸化物層の酸素と結合し水蒸気を生成する。
そして、生成した水蒸気がさらに金属材料を酸化することにより、酸化物層の生成が促進される。
したがって、燃料ガスとして水素やアンモニアを使用する加熱炉では、燃焼ガスに含まれる水蒸気が金属材料の酸化物層との界面に侵入して金属材料の酸化を促進するため、加熱炉内を無酸化雰囲気に制御した場合であっても金属材料のスケール生成を抑制することが難しい。
【0068】
一方、加熱設備100に装入される前の金属材料の表面に、鋳造時に生成する不純物や鋳造時に混入するモールドパウダー等に起因した異物が存在している場合には、水素系ガスの燃焼により金属材料のスケール生成を促進させることができる。そこで、加熱設備100から搬出された後に、デスケーリング装置等により酸化物層を除去することで金属材料における表面欠陥の発生を抑制できる。
【0069】
本実施形態では、上記の水素系バーナ設備に流量設定部47を設け、水素系ガスHGの流量を制御するのが好ましい。水素系ガスHGの流量を変更することにより、加熱炉1内で発生する水蒸気量が変化するため、これにより金属材料の表面に生成する酸化物層の厚みを制御できる。
【0070】
さらに、加熱炉1内の水蒸気量を予め設定した範囲に制御する水蒸気量制御部48を設け、水蒸気量制御部48が算出する加熱炉1の炉内における水蒸気量に基づいて、流量設定部47に対して水素系バーナ設備70、71に供給する水素系ガスHGの流量設定値を設定するのが好ましい。この場合、水蒸気量制御部48は、加熱炉1内に設置した露点計49が取得する露点情報に基づいて、加熱炉1内の水蒸気量を推定し、推定した水蒸気量が予め設定した水蒸気量の目標範囲(水蒸気目標範囲)になるように、流量設定部47に対して水素系バーナ設備70、71に供給される水素系ガスHGの流量設定値の指令を送るのが好ましい。これにより、加熱工程において金属材料の表面におけるスケール生成量を制御することができる。
【0071】
水蒸気量制御部48が行う加熱炉1の炉内における水蒸気量の推定方法について説明する。先ず、水蒸気量制御部48は露点計49が取得する雰囲気ガスの露点の測定値を取得する。取得した露点の測定値から、飽和水蒸気量と温度の公知の関係を用いて、雰囲気ガスの水蒸気圧力を算出する。そして、算出した水蒸気圧力と雰囲気ガスの圧力(全圧)から雰囲気ガスに含まれる水蒸気の体積率を求め、これにより加熱炉1の炉内容積を用いて加熱炉1内の水蒸気量を算出できる。飽和水蒸気量と温度の公知の関係としては、例えばTenensの式やMurrayの式を適用してよい。
以上のようにして、水蒸気量制御部48において、加熱炉1の炉内における水蒸気量を推定できる。
【0072】
金属材料のスケール生成量制御方法として、鋼材を加熱する例について説明する。
本実施形態の金属材料のスケール生成量制御方法は、加熱工程として鋼材Sの表面温度が1000~1250℃となるよう加熱するのが好ましい。加熱工程では、炉内で水素系ガスHGを用いたバーナ加熱を行うので、水素系ガスHGの燃焼ガスに含まれる水蒸気によって鋼材Sの酸化が促進され、加熱工程が終了する段階までに所定のスケール厚みを生成させることができる。これにより、加熱工程に供する前の鋼材に鋳造時に生成した不純物や鋳造時に混入したモールドパウダー等に起因した異物が存在する場合でも、加熱工程が終了した後にデスケーリング装置等によりスケールを除去することによって表面欠陥の発生を抑制できる。
【0073】
ただし、加熱温度が1000℃未満の場合には、適正な厚みのスケールが生成されないことがあるため、加熱温度は1000℃以上とする。加熱温度は、より好ましくは1050℃以上である。一方、加熱温度が1250℃を超えると、加熱工程で生成するスケールの厚みが厚くなりすぎて製品歩留まりが低下するため、加熱温度は1250℃以下とする。加熱温度は、より好ましくは1200℃以下である。
【0074】
ここで、鋼材の加熱炉1内でのスケール成長は拡散律速であり、式(1)のように、表面温度に対して指数関数的に増加することが知られている。
【数1】
ここで、ξはスケール厚み(μm)、Aは頻度因子(1/s)、Qは活性化エネルギー(J/mol)、Tは鋼材の表面温度(K)、Rは気体定数(J/molK)、tは経過時間(s)である。頻度因子とは、単位時間当りに反応分子同士が衝突する回数を表す数値である。
頻度因子Aおよび活性化エネルギーQは、鋼材の成分組成によって変化するため、加熱工程を実行する鋼材の鋼種ごとに予め実験により決定しておく。
【0075】
なお、加熱炉1の内部で搬送される鋼材Sの温度を直接測定するのは難しいことがあり、鋼材Sの温度計算を行う温度モデルを用いて、加熱炉1内での鋼材Sの表面温度を推定し、推定した温度が目標加熱温度となるように加熱工程の操業条件を制御するのが好ましい。
この場合、加熱炉の炉内における鋼材の温度モデルは、加熱炉の炉壁から鋼材への輻射熱の影響を考慮したものが用いられ、加熱炉内の雰囲気温度の実測値や、鋼材の加熱炉内での位置情報(トラッキング情報)等に基づいて、鋼材の表面温度を計算する。鋼材の温度モデルは、制御用計算機(プロセスコンピューター)101に搭載して温度計算を実行するとよい。
温度計算の方法としては、鋼材を板厚方向および幅方向に有限に区切ったメッシュに置き換え、板厚方向位置および幅方向位置での温度を差分法または有限要素法を用いて熱伝導方程式を解く方法が適用できる。この場合、鋼材の表面温度は、板厚方向の最表層に位置するメッシュに対して算出された温度である。
【0076】
加熱工程は、さらにバーナ加熱に用いる水素系ガスHGの流量を設定することにより加熱炉1内の水蒸気量を10~30体積%に制御するのが好ましい。加熱工程を実行する加熱炉1内の水蒸気量が10体積%未満の場合には、鋼材の表面に生成するスケールの厚みが不十分となる場合がある。一方、加熱炉1内の水蒸気量が30体積%を超えると、鋼材の表面のスケールが成長しやすく、過度のスケールが生成される場合がある。
【0077】
図6は、加熱工程において鋼材Sの加熱温度を1050℃として、炉内の水蒸気を5体積%、15体積%および25体積%に制御しながら所定時間加熱した後、鋼材Sの表面に生成したスケールの厚みを調査した例である。
ここで、鋼材の表面に生成させるスケール厚みの目標厚を350μm以上として、加熱工程における加熱時間の基準値を60分(3600秒)とした場合に、
図6からは、加熱炉内の水蒸気が5体積%と低い場合には、鋼材の表面に生成するスケールの厚みが目標厚に達しないことが分かる。
この場合、加熱炉の操業条件としては加熱時間を基準値よりも延長する必要があり、これにより加熱設備100の生産能率が低下するという問題が生じる。
一方、加熱炉内の水蒸気が15、25体積%の条件では、鋼材の表面に生成するスケールの厚みが目標厚以上となり、鋼材の表面に存在する鋳造欠陥等を除去するために十分なスケールを生成できると考えられる。
【0078】
また、上記実施形態のバーナ加熱において、バーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量を設定することに加え、加熱炉の操業パラメータとして加熱炉における金属材料の加熱時間および加熱温度から選択される少なくとも一つを設定するのが好ましい。上記式(1)のとおり、鋼材の加熱炉1内でのスケール成長は拡散律速であり、加熱時間や加熱温度の影響を受けるからである。
例えば、バーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量が大きくなるように設定して加熱炉内でのスケール生成を促進しながら、加熱炉における金属材料の加熱時間を予め設定された時間よりも短くすることで、適切なスケール生成量を確保しながら加熱設備の生産能率を向上させることができる。
また、バーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量が大きくなるように設定して加熱炉内でのスケール生成を促進しながら、加熱炉における金属材料の加熱温度を予め設定された温度よりも低くすることで、適切なスケール生成量を確保しながら加熱設備の燃料原単位を向上させることができる。
【0079】
さらに、加熱炉が予熱帯、加熱帯および均熱帯を含む場合に、加熱炉の操業パラメータとして、均熱帯のバーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量を設定することにより金属材料のスケール生成量を制御するのが好ましい。加熱炉1の予熱帯3、加熱帯4および均熱帯5は異なる雰囲気温度に制御されることが多く、均熱帯5の雰囲気温度が最も高くなっている。
金属材料のスケール生成は、雰囲気温度が高い条件で促進されるため、水素系ガスの流量を変更することにより、金属材料のスケール生成量を大きく変化させることができる。
【0080】
スケール生成量制御方法の他の実施形態は、被加熱材の表面に生成するスケール生成量が予め設定された範囲になるように、加熱炉の操業パラメータを設定する。これにより、金属材料の表面欠陥の発生を防止し、製品歩留まりの低下を一層抑えることができる。ここでは、スケール生成量として、被加熱材の表面に生成するスケール厚みを例に説明する。
【0081】
他の実施形態では、加熱工程において金属材料の表面に生成するスケール(酸化物層)の厚みの目標厚み(以下、スケール目標厚という。)を予め設定する。スケール目標厚は、加熱工程を実行する前の金属材料の表面近傍に分布する鋳造時に生成した不純物や鋳造時に混入するモールドパウダー等に起因した異物が分布する表面からの厚みを予め特定しておき、そのような厚みと同等の厚みに設定するのが好ましい。例えば、加熱を行う金属材料のスケール目標厚を50~1000μm程度に設定するとよい。金属材料が鋼材である場合には、スケール目標厚を300~600μmで設定するとよい。鋳造時に生成した不純物や鋳造時に混入するモールドパウダー等に起因した異物は、鋼材の表面から概ね300~600μmの範囲に多く存在することが多いからである。
【0082】
加熱工程において金属材料の表面に生成するスケール厚みは、酸化物の成長挙動をモデル化した数式モデル(以下、スケール厚予測モデルという。)を用いて推定するとよい。
例えば、鋼材のスケール成長は、以下の式(2)を用いて推定できる。
【数2】
ただし、fは加熱炉内の酸素分圧PO
2および水蒸気分圧PH
2Oの関数として、予めオフラインの加熱実験により決定しておく。スケールの成長挙動に対して酸素分圧や水蒸気分圧が影響を与えることは知られているが、理論的に定式化することは難しい。そのため、酸素分圧と水蒸気分圧を変化させて金属材料を加熱する実験を予め行っておき、金属材料の表面に生成するスケール厚みが、上記式(2)を満足するように関数fを回帰分析により決定しておくとよい。
【0083】
以上のようにして予め決定しておいたスケール厚予測モデルは、加熱設備100の操業条件を設定する制御用計算機101に搭載しておき、加熱炉1から制御用計算機101が取得する情報に基づいて、金属材料の表面に生成するスケール厚みの予測値を算出するとよい。
【0084】
具体的には、制御用計算機101から加熱炉1の操業パラメータを取得する(取得ステップ)。次に、取得した加熱炉1の操業パラメータに基づいて、加熱工程を終了する段階でのスケール厚みを予測する(予測ステップ)。そして、予測したスケール厚み(スケール予測厚)が予め設定されたスケール目標厚の範囲にあるか否かを判定する(判定ステップ)。判定ステップにおいて、スケール予測厚がスケール目標厚の範囲にある場合には制御用計算機101に対して加熱炉1の現在の操業条件を維持する指令を出す。一方、判定ステップにおいて、スケール予測厚がスケール目標厚の範囲にない場合には制御用計算機101に対して加熱炉1の操業パラメータを変更する設定指令を出す(設定ステップ)。
【0085】
設定ステップにより、制御用計算機101に対して設定指令を出す加熱炉1の操業パラメータは、バーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量を用いる。また、水素系ガスの流量に加えて、加熱工程の加熱時間や加熱温度を用いてよい。加熱工程に用いられる水素系ガスHGの流量を変更すると、バーナ加熱により生成する水蒸気が変化するので、これにより金属材料のスケール生成量を制御できる。さらに、加熱工程の加熱時間を変更することにより、加熱工程で生成する金属材料の酸化物層の厚みが変化する。また、加熱工程の加熱温度(加熱炉内部の各帯域での雰囲気温度)を変更することにより加熱工程で生成する金属材料の酸化物層の厚みが変化する。この場合、加熱工程の加熱温度は、均熱帯の雰囲気温度を変更するとよい。
【0086】
次に、スケール生成量制御装置51によるスケール生成量制御の処理について説明する。取得部56は、制御用計算機101から加熱炉1の操業パラメータを取得する。取得部56は、加熱炉1の操業パラメータとして、加熱炉1の水素系バーナ設備70、71の燃料に用いる水素系ガスHGの流量を取得する。取得部56は、加熱炉1の操業パラメータとして、加熱炉1における金属材料の加熱時間、加熱温度の設定値を取得する。また、取得部56は、加熱炉1内の雰囲気ガスの温度および露点の測定値を取得してよい。
【0087】
予測部57は、取得部56から加熱炉1の操業パラメータを取得すると、記憶部55に格納されているスケール厚予測モデルを読み出す。予測部57は、スケール厚予測モデルに加熱炉1の操業パラメータを入力し、スケール厚みの予測値(スケール予測厚)を出力させることで、スケール生成量を予測する。予測部57は、予測したスケール予測厚を出力部54に表示させてもよい。これにより、オペレータは、当該出力部54を視認することで加熱工程におけるスケール生成量の予測値を確認できる。
【0088】
次に、スケール生成量制御装置51によるスケール予測厚の判定処理について説明する。予測部57は予測したスケール厚みを判定部58に出力する。判定部58は、予測部57から取得したスケール厚みの予測値がスケール目標厚の範囲内か否か判定する。なお、スケール目標厚は、制御用計算機101から取得して記憶部55に記憶されていてよい。また、スケール目標厚は、入力部53からオペレータによって入力されてもよく、予め、オペレータにより入力され、記憶部55に格納されていてもよい。判定部58は、スケール厚みの予測値がスケール目標厚の範囲内か否かの判定結果を設定部59に出力する。
【0089】
設定部59は、判定部58によりスケール予測厚がスケール目標厚の範囲内であるとの判定結果を取得した場合には、取得部56が取得した加熱炉1の操業パラメータにより所定のスケール目標厚の範囲に制御できることから、現在の加熱炉1の操業パラメータを維持する指令を制御用計算機101に出力する。一方、設定部59は、判定部58によりスケール予測厚がスケール目標厚の範囲内にないとの判定結果を取得した場合には、取得部56が取得した加熱炉1の操業パラメータを変更する。この場合、設定部59は、加熱炉1の操業パラメータを現在の設定値から変更した新たな設定値を仮定し、予測部57に出力する。予測部57は、新たな設定値を再度スケール厚予測モデルに入力し、スケール厚みを予測して、判定部58に出力する。判定部58は、新たに取得したスケール厚みの予測値がスケール目標厚の範囲か否か判定する。予測部57および判定部58はこの処理をスケール厚みの予測値がスケール目標厚の範囲内になるまで繰り返し実施する。そして、設定部59は、スケール厚みの予測値がスケール目標厚の範囲内となるための加熱炉1の操業パラメータを特定し、これを制御用計算機101に出力する。
【0090】
制御用計算機101は、設定部59から取得した情報に基づき、設定された加熱炉1の操業パラメータを実現するように加熱設備100を制御する。
【実施例】
【0091】
以下、本実施形態の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0092】
本発明の実施例として、上記の加熱工程を模擬した試験装置を用いて、鋼材のスケール生成量制御を行った例について説明する。本実施例に用いた試験装置は、バーナ加熱を行う燃焼ガス加熱炉である。
【0093】
加熱工程を実行する燃焼ガス加熱炉は、炉内のサイズが、高さ800mm×幅500mm×長さ1000mmのものである。燃焼ガス加熱炉には、炉内に装入する試験片の上面と下面にバーナが配置されており、燃料ガス供給系統から水素系ガスと石炭ガスとの混合ガスを供給するように構成した。混合ガスに用いた水素系ガスはアンモニアであり、石炭ガスは製鉄所で発生する副生ガスを混合したMガスを使用した。
【0094】
実施例に用いた燃焼条件として、バーナに供給されるアンモニア流量を50Nm3/hr、Mガス流量を117Nm3/hrとして、混合ガス中のアンモニア体積比率を30%、Mガス体積比率を70%とした。なお、使用したMガスは、完全燃焼する条件において、排ガス中に13体積%の二酸化炭素が排出される組成となっていた。
一方、実施例では、アンモニアの混合比率を調整することにより、加熱工程における排ガス中の二酸化炭素濃度が9体積%となるようにバーナ加熱条件を設定した。
【0095】
実施例では、被加熱材となる金属材料として、板厚220mm×板幅300mm×板長500mmの炭素鋼を用いた。被加熱材は、鋳造後のスラブから機械加工により採取し、板幅と板長の中央部に表面から2mm深さの位置にΦ0.5mmのKシース熱電対を取り付けた。これにより、加熱工程における被加熱材の昇温挙動を測定し、測定結果に基づき被加熱材の表面温度を推定した。
【0096】
ここでは、予め燃焼ガス加熱炉における加熱条件を変更し、加熱温度と被加熱材の表面に生成するスケール厚みとの関係を事前に調査した。
図8に、燃焼ガス加熱炉内の水蒸気濃度と被加熱材のスケール厚みとの関係を、加熱温度ごとに示す。なお、加熱時間は60分とした。スケール厚みについては、燃焼ガス加熱炉において設定された表面温度に到達した時点で、被加熱材を燃焼ガス加熱炉から取り出して、直ちに水冷した。これにより以降のスケール成長を防止した。そして、被加熱材から機械加工により評価サンプルを採取して、被加熱材の断面を光学顕微鏡によって観察し、スケール厚みを求めた。
【0097】
図8からは、加熱温度に応じて燃焼ガス加熱炉内の水蒸気濃度を変化させることにより被加熱材のスケール厚みを制御できることが分かる。
【0098】
次に、
図8の事前実験結果に加え、加熱時間を変更した調査結果に基づいて、スケール厚予測モデルを生成した。スケール厚予測モデルには式(2)に示す酸化物の成長挙動をモデル化した数式モデルを用いた。生成したスケール厚予測モデルは、スケール生成量制御装置51の記憶部55に格納し、加熱炉の操業パラメータとして、バーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量を設定することにより金属材料のスケール生成量を制御した。
【0099】
ここでは、被加熱材に使用した炭素鋼のスケール目標厚を350~600μmの範囲に設定した。被加熱材に用いた炭素鋼は、鋳造時に生成した不純物や鋳造時に混入するモールドパウダー等に起因した異物が存在する範囲が予め特定されており、スケール目標厚をこの範囲に設定した。
つまり、被加熱材から採取した評価サンプルに生成されるスケール厚みが350μm未満の場合には、スケール厚みが不十分となって熱間圧延等に供される場合に表面欠陥が発生するおそれがある。一方、スケール厚みが600μmを超えると、過剰なスケール生成により製品歩留まりの低下をもたらすおそれがある。
以上から、被加熱材から採取した評価サンプルに生成されるスケール厚みが、スケール目標厚350~600μmの範囲内である場合を合格(〇)と判定した。一方、被加熱材から採取した評価サンプルに生成されるスケール厚みが、スケール目標厚350~600μmの範囲外となる場合を不合格(×)と判定した。
【0100】
加熱条件および試験結果を表1に示す。表1の「加熱温度」、「水素系ガス」、「水素系ガスの混合比率」は、予め設定された加熱炉の操業パラメータについての初期条件を表す。「設定変更する加熱炉の操業パラメータ」は、判定部58によりスケール厚みの予測値がスケール目標厚の範囲内にないと判定された場合に、設定部59が再設定する操業パラメータを示す。この場合、条件5、6は、設定部59が再設定する操業パラメータとして水素系ガス流量に加えて、加熱時間または加熱温度を再設定することを意味する。
一方、「水蒸気量」は、加熱炉の操業パラメータが設定部59により設定された後の炉内水蒸気量濃度を示す。「スケール厚み」は、上記と同様に評価サンプルを採取して被加熱材の断面を光学顕微鏡によって観察して得られたスケール厚みを示す。
【0101】
【0102】
表1から分かるように、発明例である条件1~8では、被加熱材から採取した評価サンプルに生成されるスケール厚みが、スケール目標厚350~600μmの範囲内であることから、合格(〇)と判定した。特に、条件3、4では、加熱温度が1100℃と比較的高く設定されているにも関わらず、炉内の水蒸気量が低くなるように制御が行われたため、被加熱材のスケール厚みがスケール目標厚の範囲に入った。
一方、条件8では、加熱温度が1050℃と比較的低く、水素系ガスの混合比率が低いことから、スケール生成が促進されにくい加熱条件であったが、水素系ガス流量を制御することにより被加熱材のスケール厚みがスケール目標厚の範囲に入った。
【0103】
これに対して、比較例である条件9、10は、判定部58によりスケール厚みの予測値がスケール目標厚の範囲内にないと判定された場合であっても、予め設定された初期条件のまま加熱が行われたため、被加熱材のスケール厚みがスケール目標厚の範囲とはならなかった。
【0104】
以上から、本実施例により、加熱炉の燃料ガスとして水素やアンモニアを使用することにより二酸化炭素の排出量を低減できると共に、スケール生成量を適切な範囲に制御して、金属材料の表面欠陥の発生を低減させることが可能であることが分かった。
【符号の説明】
【0105】
100 加熱設備
101 制御用計算機
S 鋼材
D 鋼材の搬送方向
A 燃焼用空気
G 燃料ガス
CG 石炭ガス
HG 水素ガス
1 加熱炉
3 予熱帯
4 加熱帯
5 均熱帯
6 バーナ
6a 上部バーナ
6b 下部バーナ
7 バーナノズル
8 装入部
9 搬出部
10 搬送装置
10a 固定スキッド
10b 移動スキッド
13 排気ダクト
31 燃料ガス供給系統
32 燃焼用空気供給系統
33 燃料ガス流量調整弁
34 燃料ガス流量計
35 燃焼用空気流量調整弁
36 燃焼用空気流量計
37 炉壁
38 炉内
40 混合部
41 水素系ガス流量調整弁
42 水素系ガス流量計
43 石炭ガス流量調整弁
44 石炭ガス流量計
45 水素系ガス供給系統
46 石炭ガス供給系統
47 流量設定部
48 水蒸気量制御部
49 露点計
51 スケール生成量制御装置
52 制御部
53 入力部
54 出力部
55 記憶部
56 取得部
57 予測部
58 判定部
59 設定部
60 バーナ設備
70、71 水素系バーナ設備
【要約】
【課題】金属材料を加熱する加熱炉の燃料ガスとして水素やアンモニアを使用することにより二酸化炭素の排出量を低減しようとする場合に、スケール生成量を適切な範囲に制御するための金属材料のスケール生成量制御方法、スケール生成量制御装置および加熱炉の操業方法を提供する。
【解決手段】水素及びアンモニアのいずれか一方若しくは両方を全量とする水素系ガスを燃料に用いて金属材料をバーナ加熱し、加熱炉の操業パラメータとして、バーナ加熱の燃料に用いる水素系ガスの流量を設定し、設定された水素系ガスの流量に基づいて金属材料の表面に生成するスケール生成量を制御する、加熱炉における金属材料のスケール生成量制御方法である。また、加熱炉の操業パラメータとして、さらに加熱炉における金属材料の加熱時間および加熱温度から選択される少なくとも一つを設定することが好ましい。
【選択図】
図1