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特許7564522ミラーの設計方法、および該設計方法における設計式が成り立つ反射面を備えた非点収差制御ミラー
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  • 特許-ミラーの設計方法、および該設計方法における設計式が成り立つ反射面を備えた非点収差制御ミラー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ミラーの設計方法、および該設計方法における設計式が成り立つ反射面を備えた非点収差制御ミラー
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
G02B5/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021003117
(22)【出願日】2021-01-12
(65)【公開番号】P2022108208
(43)【公開日】2022-07-25
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 陽子
(72)【発明者】
【氏名】三村 秀和
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-73698(JP,A)
【文献】特表2005-530168(JP,A)
【文献】特開2014-163667(JP,A)
【文献】特表2005-530170(JP,A)
【文献】国際公開第2015/004934(WO,A1)
【文献】特開2002-221596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00- 5/136
G21K 1/00- 1/16
G02B17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の中空内周面または外周面に反射面を形成して作製されるミラーの設計方法であって、
前記基材の前記内周面または外周面の中心軸をz軸、これに直交する断面をxy平面とし、
入射ビームが、z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL1x変位した位置に、x軸方向の光源をもち、かつ前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL1y変位した位置に、y軸方向の光源をもち、
出射ビームが、x軸方向について前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL2x変位した位置に集光し、かつy軸方向について前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL2y変位した位置に集光し、
ミラーを経由するすべての入射光線が、x軸方向における前記光源の位置を通り該x軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第1の光源線、及びy軸方向における前記光源の位置を通り該y軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第2の光源線を通過し、
ミラーから放たれるすべての出射光線が、x軸方向における前記集光する位置を通り該x軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第1の集光線、及びy軸方向における前記集光する位置を通り該y軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第2の集光線を通過するとし、
ミラーの反射面上の任意の点をMとして、第1の光源線とM点への入射光線との交点、及び第2の光源線とM点への入射光線との交点の各座標を、前記L1x、L1yを用いて表わし、且つ、前記M点からの出射光線と第1の集光線との交点、及びM点からの出射光線と第2の集光線との交点の各座標を、前記L2x、L2yを用いて表わし、
これら座標、及び前記x軸方向及び前記y軸方向についてそれぞれ反射面上の任意の点に関して光源位置から集光位置までの光路長が一定であること、に基づき導かれる反射面の設計式を用いてミラーを設計することを特徴とする、ミラーの設計方法。
【請求項2】
前記第1の光源線、前記第2の光源線を、それぞれy軸方向に延びる直線S、x軸方向に延びる直線Sとし、
前記第1の集光線、前記第2の集光線を、それぞれy軸方向に延びる直線F、x軸方向に延びる直線Fとし、
前記x軸方向の光源位置からM点までの入射長は、前記第2の光源線Sとz軸との交点Py0を中心とし且つ第1の光源線Sとz軸との交点Px0を通ってx軸に直交する方向に延びる円弧を、第1の光源線Sを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A1xとして、前記入射光線と該等位相面A1xとの2つの交点のうち第2の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離として求め、
M点から前記x軸方向の集光位置までの出射長は、前記第2の集光線Fとz軸との交点Qy0を中心とし且つ第1の集光線Fとz軸との交点Qx0を通ってx軸に直交する方向に延びる円弧を、第1の集光線Fを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A2xとして、前記出射光線と該等位相面A2xとの2つの交点のうち第2の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離として求め、
前記y軸方向の光源位置からM点までの入射長は、前記第1の光源線Sとz軸との交点Px0を中心とし且つ第2の光源線Sとz軸との交点Py0を通ってy軸に直交する方向に延びる円弧を、第2の光源線Sを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A1yとして、前記入射光線と該等位相面A1yとの2つの交点のうち第1の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離として求め、
M点から前記y軸方向の集光位置までの出射長は、前記第1の集光線Fとz軸との交点Qx0を中心とし且つ第2の光源線Fとz軸との交点Qy0を通ってy軸に直交する方向に延びる円弧を、第2の集光線Fを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A2yとして、前記出射光線と該等位相面A2yとの2つの交点のうち第1の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離として求め、
これにより前記x軸方向及びy軸方向のそれぞれの集光に関して入射長と出射長の和である光路長を算出してなる、
請求項1記載のミラーの設計方法。
【請求項3】
前記入射光線と等位相面A1xとの2つの交点のうち第2の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離は、前記入射光線と前記第1の光源線Sとの交点Pから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Pから前記等位相面A1xを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求め、
前記出射光線と等位相面A2xとの2つの交点のうち第2の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離は、前記出射光線と前記第1の集光線Fとの交点Qから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Qから前記等位相面A2xを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求め、
前記入射光線と等位相面A1yとの2つの交点のうち第1の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離は、前記入射光線と前記第2の光源線Sとの交点Pから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Pから前記等位相面A1yを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求め、
前記出射光線と等位相面A2yとの2つの交点のうち第1の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離は、前記出射光線と前記第2の集光線Fとの交点Qから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Qから前記等位相面A2yを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求める、
請求項2記載のミラーの設計方法。
【請求項4】
前記設計式が、
前記x軸方向について光源点から集光点までの光路長が一定であることから導かれる第1の式f(x,y,z)=0と、前記y軸方向について光源点から集光点までの光路長が一定であることから導かれる第2の式f(x,y,z)=0とを重みづけした、下記式からなる、請求項1~3の何れか1項に記載のミラーの設計方法。
【数1】
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のミラーの設計方法における前記設計式が成り立つ反射面を有するミラーであって、
前記L1xとL1yの値が異なり、且つ前記L2xとL2yの値が一致しており、
非点収差をもつ入射ビームから一点に集光する出射ビームが得られる、非点収差制御ミラー。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載のミラーの設計方法における前記設計式が成り立つ反射面を有するミラーであって、
前記L1xとL1yの値が一致し、且つ前記L2xとL2yの値が異なっており、
一点から発散する入射ビームから非点収差をもつ出射ビームが得られる、非点収差制御ミラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の中空内周面または外周面に反射面を形成して作製されるミラーの設計方法、および該設計方法における設計式が成り立つ反射面を備えた非点収差制御ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
放射光軟X線ビームは、鉛直方向と水平方向とで特性が異なるという特徴がある。ビームサイズは、水平方向に比べて鉛直方向が小さくなる傾向にある。コヒーレント幅は、水平方向に比べて鉛直方向が大きくなる。さらに、軟X線ビームラインに広く普及している回折格子を用いた分光システムでは、ビームの鉛直方向の発散角が増大してしまう。また、使用される回折格子を含む分光器は、分光方向にのみ軟X線を集光させるため、光源位置が分光方向と集光させない方向とで異なる「非点収差」が生じる。
【0003】
従来、このような鉛直方向と水平方向とで特性の異なるビームを取り扱う光学系の手法としては、たとえば鉛直方向・水平方向の各方向を扱う2枚のミラーを配置した二段階集光光学系とし、鉛直方向と水平方向とで光源点を独立に設定して集光点を一致させる手法が用いられている。具体的には、2枚の楕円筒ミラーを鉛直・水平に配置する手法や、2枚のベントミラー(機械曲げ円筒ミラー)を配置することで近似形状を成立させる手法、ベントミラーとサジタルシリンダーミラーの2枚をいずれも水平方向に対向して配置する手法などが知られている。しかしながら、このような2枚のミラーを組み合わせる手法の場合、機構が複雑になるうえ、チャンバーが増えるのでコストアップとなり、調整も難しくなる。
【0004】
単一のミラーによって非点収差を除去できる可能性のあるものとしては、トロイダルミラーがある(非特許文献1)。しかしながら、トロイダルミラーは、既存の回転楕円ミラーを近似し、反射面の長手方向、短手方向それぞれに一様な曲率半径を設定することで作製を容易にしたミラーであり、非点収差を除去できたとしても、原理的に集光サイズが増大してしまうという欠点がある。
【0005】
トロイダルミラーよりも集光サイズを小さくでき、かつ鉛直・水平で独立した光源・集光点を設定可能なミラーとして、Astigmatic off-axis mirror(AOミラー)も提案されている(非特許文献2)。このミラーは、一点から発散するビームを別の点に集光させるためには楕円曲線を、一点から発散するビームを平行化するためには放物線を、一点に向かって集光するビームを別の点に向かって集光するビームに変換するためには双曲線を、それぞれ反射面の稜線として適用するとの原則のもと、長手方向と短手方向で異なる円錐曲線を設定し,それらを滑らかにつなぐ曲面を求める形状としたものである。
【0006】
しかし、このAOミラーは、曲面を得るために長手方向の円錐曲線プロファイルを短手方向の円錐曲線の焦点を結ぶ直線(長軸)を中心に回転させることで定義されるミラーであり、反射面を軸対称形状に近似していることから、当該近似に起因して集光サイズの抑制に限界が生じる。波長の長いテラヘルツ領域のビームであれば問題ないが、X線領域のビームには対応できない。また、設計式が座標変換を数回含むなど、非常に複雑であり、パラメータも複雑で理解しにくく使いにくい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】William A.Rense,T.Violett,「Method of Increasing the Speed of a Grazing-Incidence Spectrograph」,JOURNAL OF THE OPTICAL SOCIETY OF AMERICA,Vol.49,No2,1959年2月,p139-p141
【文献】A. Wagner-Gentner , U.U. Graf, M. Philipp, D. Rabanus、「A simple method to design astigmatic off-axis mirrors」、Infrared Physics & Technology 50、 2007年、p42-p46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、単一のミラーであって、鉛直方向と水平方向とで独立して光源位置及び集光位置を設定でき、これにより非点収差の自由な変換が可能であり、また、集光サイズをより小さく抑えてX線領域のビームにも対応することができ、設計式も単純で、応用の幅も広く、鉛直方向と水平方向とで特性が異なるビームを取り扱う光学系として好適に用いることができるミラーを作製できる、ミラーの設計方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる現況に鑑み、鋭意検討した結果、非点収差をもつビームの性質を幾何光学的に表現する方法として、鉛直方向と水平方向とでそれぞれ「光源線」および「集光線」を新たに定義し、ミラーの反射面を経由するすべての入射光線は鉛直方向および水平方向の各「光源線」を通り、ミラーの反射面から放たれるすべての出射光線が鉛直方向および水平方向の「集光線」を通るとし、これに光源位置から集光位置までの「光路長」が一定であるFermatの原理を適用することで、上記課題を解決できるミラーの設計方法を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 基材の中空内周面または外周面に反射面を形成して作製されるミラーの設計方法であって、前記基材の前記内周面または外周面の中心軸をz軸、これに直交する断面をxy平面とし、入射ビームが、z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL1x変位した位置に、x軸方向の光源をもち、かつ前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL1y変位した位置に、y軸方向の光源をもち、出射ビームが、x軸方向について前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL2x変位した位置に集光し、かつy軸方向について前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL2y変位した位置に集光し、ミラーを経由するすべての入射光線が、x軸方向における前記光源の位置を通り該x軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第1の光源線、及びy軸方向における前記光源の位置を通り該y軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第2の光源線を通過し、ミラーから放たれるすべての出射光線が、x軸方向における前記集光する位置を通り該x軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第1の集光線、及びy軸方向における前記集光する位置を通り該y軸方向とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第2の集光線を通過するとし、ミラーの反射面上の任意の点をMとして、第1の光源線とM点への入射光線との交点、及び第2の光源線とM点への入射光線との交点の各座標を、前記L1x、L1yを用いて表わし、且つ、前記M点からの出射光線と第1の集光線との交点、及びM点からの出射光線と第2の集光線との交点の各座標を、前記L2x、L2yを用いて表わし、これら座標、及び前記x軸方向及び前記y軸方向についてそれぞれ反射面上の任意の点に関して光源位置から集光位置までの光路長が一定であること、に基づき導かれる反射面の設計式を用いてミラーを設計することを特徴とする、ミラーの設計方法。
【0011】
(2) 前記第1の光源線、前記第2の光源線を、それぞれy軸方向に延びる直線S、x軸方向に延びる直線Sとし、前記第1の集光線、前記第2の集光線を、それぞれy軸方向に延びる直線F、x軸方向に延びる直線Fとし、前記x軸方向の光源位置からM点までの入射長は、前記第2の光源線Sとz軸との交点Py0を中心とし且つ第1の光源線Sとz軸との交点Px0を通ってx軸に直交する方向に延びる円弧を、第1の光源線Sを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A1xとして、前記入射光線と該等位相面A1xとの2つの交点のうち第2の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離として求め、M点から前記x軸方向の集光位置までの出射長は、前記第2の集光線Fとz軸との交点Qy0を中心とし且つ第1の集光線Fとz軸との交点Qx0を通ってx軸に直交する方向に延びる円弧を、第1の集光線Fを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A2xとして、前記出射光線と該等位相面A2xとの2つの交点のうち第2の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離として求め、前記y軸方向の光源位置からM点までの入射長は、前記第1の光源線Sとz軸との交点Px0を中心とし且つ第2の光源線Sとz軸との交点Py0を通ってy軸に直交する方向に延びる円弧を、第2の光源線Sを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A1yとして、前記入射光線と該等位相面A1yとの2つの交点のうち第1の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離として求め、M点から前記y軸方向の集光位置までの出射長は、前記第1の集光線Fとz軸との交点Qx0を中心とし且つ第2の光源線Fとz軸との交点Qy0を通ってy軸に直交する方向に延びる円弧を、第2の集光線Fを軸に回転させた回転円弧面を等位相面A2yとして、前記出射光線と該等位相面A2yとの2つの交点のうち第1の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離として求め、これにより前記x軸方向及びy軸方向のそれぞれの集光に関して入射長と出射長の和である光路長を算出してなる、(1)記載のミラーの設計方法。
【0012】
(3) 前記入射光線と等位相面A1xとの2つの交点のうち第2の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離は、前記入射光線と前記第1の光源線Sとの交点Pから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Pから前記等位相面A1xを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求め、前記出射光線と等位相面A2xとの2つの交点のうち第2の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離は、前記出射光線と前記第1の集光線Fとの交点Qから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Qから前記等位相面A2xを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求め、前記入射光線と等位相面A1yとの2つの交点のうち第1の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離は、前記入射光線と前記第2の光源線Sとの交点Pから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Pから前記等位相面A1yを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求め、前記出射光線と等位相面A2yとの2つの交点のうち第1の集光線Fに近い側の交点からM点までの距離は、前記出射光線と前記第2の集光線Fとの交点Qから前記M点までの距離を求めるとともに、該距離に、前記交点Qから前記等位相面A2yを定義している前記円弧までの距離を加算又は減算して求める、(2)記載のミラーの設計方法。
【0013】
(4) 前記設計式が、前記x軸方向について光源点から集光点までの光路長が一定であることから導かれる第1の式f(x,y,z)=0と、前記y軸方向について光源点から集光点までの光路長が一定であることから導かれる第2の式f(x,y,z)=0とを重みづけした、下記式からなる、(1)~(3)の何れかに記載のミラーの設計方法。
【0014】
【数1】
【0015】
(5) (1)~(4)の何れかに記載のミラーの設計方法における前記設計式が成り立つ反射面を有するミラーであって、前記L1xとL1yの値が異なり、且つ前記L2xとL2yの値が一致しており、非点収差をもつ入射ビームから一点に集光する出射ビームが得られる、非点収差制御ミラー。
【0016】
(6) (1)~(4)の何れかに記載のミラーの設計方法における前記設計式が成り立つ反射面を有するミラーであって、前記L1xとL1yの値が一致し、且つ前記L2xとL2yの値が異なっており、一点から発散する入射ビームから非点収差をもつ出射ビームが得られる、非点収差制御ミラー。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るミラーの設計方法によれば、単一のミラーであって、鉛直方向と水平方向とで独立して光源位置及び集光位置を設定でき、これにより非点収差の自由な変換が可能なミラーを作製できる。また、集光サイズをより小さく抑えてX線領域のビームにも対応することができる。さらに、設計式も単純で、応用の幅も広く、鉛直方向と水平方向とで特性が異なるビームを取り扱う光学系として好適に用いることができるミラーを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るミラーの設計方向における「光源線」、「集光線」を示す概念図。
図2】サジタル光源線S上の交点P近傍の等位相面A1xを示す概念図。
図3】メリディオナル光源線S上の交点P近傍の等位相面A1yを示す概念図。
図4】基材の中空内周面または外周面に反射面が形成されたミラーの模式図。
図5】円錐曲線を稜線として持つ回転体ミラーを用いてビームを集光する例を示す図。
図6】円錐曲線を稜線として持つ回転体ミラーを用いてビームを拡散する例を示す図。
図7】幾何光学に基づく光線追跡計算方法を説明する説明図。
図8】波動光学に基づく回折積分計算方法を説明する説明図。
図9】実施例1のミラーの光学系配置を示す模式図。
図10】実施例1の反射面の半径分布を示し、(a)は縦軸をz座標、横軸をφ座標に設定したときの半径r(z,φ)の二次元分布、(b)は(a)中において一点鎖線で示したφ=0°(z軸方向(長手方向))の反射面の半径プロファイル、(c)は(a)中の破線で表したz=0(周方向)における反射面の半径プロファイルを示す図。
図11】実施例1の集光性能のシミュレーション結果を示し、(a)は幾何光学に基づいて集光面における光線のばらつきを計算した結果、(b)は波動光学に基づいて計算された集光面における二次元強度分布を示す図。
図12】実施例2のミラーの光学系配置を示す模式図。
図13】実施例2の反射面の半径分布を示し、(a)は縦軸をz座標、横軸をφ座標に設定したときの半径r(z,φ)の二次元分布、(b)は(a)中において一点鎖線で示したφ=0°(z軸方向(長手方向))の反射面の半径プロファイル、(c)は(a)中の破線で表したz=0(周方向)における反射面の半径プロファイルを示す図。
図14】実施例2の集光性能のシミュレーション結果を示し、(a)は幾何光学に基づいてx軸方向集光面における光線のばらつきを計算した結果、(b)は波動光学に基づいて計算されたx軸方向集光面における二次元強度分布、(c)は幾何光学に基づいてy軸方向集光面における光線のばらつきを計算した結果、(d)は波動光学に基づいて計算されたy軸方向集光面における二次元強度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のミラーの設計方法は、基材の中空内周面または外周面に反射面を形成して作製されるミラーの設計方法である。以下、本発明にかかるミラーの設計方法を、代表的な実施形態を挙げながら説明する。
【0020】
本発明は、非点収差の自由な変換を目的とし,『光は光学的距離が最短となる経路を通る』というFermatの原理に基づいて,より精度の高いミラーの設計を行う。Fermatの原理は、集光(あるいは拡散)ミラーに限定した場合、『ミラー表面(反射面)の任意の点に関して,光源点からの距離と集光点までの距離の和は一定である』という表現に変換することが可能である。入射ビーム又は出射ビームが非点収差を持つ場合、光路長一定の法則を直ちに適用することはできなくなる。なぜならば,非点収差を持つビームはその名の通り単一の光源点あるいは集光点を持たないためである。本発明では、「光源線」と「集光線」を新たに定義することを着想し、非点収差を持つビームの性質を幾何光学的に表現することを可能にすることで実現した設計手法である。
【0021】
図1は、「光源線」、「集光線」を示す概念図である。基材の内周面または外周面の中心軸をz軸、これに直交する断面をxy平面とし、入射ビームが、z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL1x変位した位置に、x軸方向(本例では水平方向)の光源をもち、かつ前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL1y変位した位置に、y軸方向(本例では鉛直方向)の光源をもつとする。また、出射ビームは、x軸方向(水平方向)について前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL2x変位した位置に集光し、かつy軸方向(鉛直方向)について前記z軸上所定位置からz軸方向に沿ってL2y変位した位置に集光するとする。
【0022】
そして、ミラーを経由するすべての入射光線は、x軸方向(水平方向)における前記光源の位置を通り該x軸方向(水平方向)とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第1の光源線(S)、及びy軸方向(鉛直方向)における前記光源の位置を通り該y軸方向(鉛直方向)とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第2の光源線(S)を通過すると考える。このように第1の光源線(S)、第2の光源線(S)を定義する。
【0023】
さらに、ミラーから放たれるすべての出射光線は、x軸方向(水平方向)における前記集光する位置を通り該x軸方向(水平方向)とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第1の集光線(F)、及びy軸方向(鉛直方向)における前記集光する位置を通り該y軸方向(鉛直方向)とz軸方向の双方に直交する方向に延びる第2の集光線(F)を通過すると考える。このように第1の集光線(F)、第2の集光線(F)を定義する。
【0024】
なお、本例では、第1の光源線(Sx)、第2の光源線(Sy)、第1の集光線(Fx)、第2の集光線(Fy)をそれぞれ直線としているが、曲線であってもよい。また、図1では、L1x>L1y>0、かつL2x>L2y>0の場合を示しているが、L1xとL1yの大小関係が反転することや、L2xとL2yの大小関係が反転することも含まれ、これら定数が負の値をとることも可能である。L1xまたはL1yが負の値をとる場合、入射ビームは下流に向かって集光する途中でミラーの反射面によって反射される。L2xまたはL2yが負の値をとる場合、出射ビームはミラーよりも上流の位置から発散してきたような波面を持つ。
【0025】
上記のように「光源線」及び「集光線」を定義することで、ミラーの反射面の任意の点について、その点を通る入射光線及び出射光線を定義することができる。すなわち、ミラーの反射面上の任意の点をM(x,y,z)とし、第1の光源線(S)とM点への入射光線との交点(P)、及び第2の光源線(S)とM点への入射光線との交点(P)の各座標を、前記した変位L1x、L1yを用いて下記式(1)、式(2)で表わすことができる。同様に、前記M点からの出射光線と第1の集光線(F)との交点(Q)、及びM点からの出射光線と第2の集光線(F)との交点(Q)の各座標を、前記した変位L2x、L2yを用いて下記式(3)、式(4)で表わすことができる。
【0026】
【数2】
【0027】
【数3】
【0028】
そして、これらP、P、Q、Qの各座標、及び前記x軸方向及び前記y軸方向についてそれぞれ反射面上の任意の点に関して光源位置から集光位置までの光路長(入射長と出射長の和)が一定であることに基づき、反射面の設計式を導くことができる。
【0029】
本実施形態では、上記した光源線、集光線上の各交点P、P、Q、Qと反射面上の任意の点M(x,y,z)との距離をそのまま入射長または出射長とするのではなく、直線で定義した光源線、集光線の上記交点の座標を用いつつ、より正確な設計式が得られるように次のような光路長の補償を行っている。
【0030】
(光路長の補償)
通常の光源点と集光点が定義できる場合のFermatの原理を考える。光源点近傍の等位相面は光源点を中心とした球面であり、集光点近傍の等位相面は集光点を中心とした球面である。光線は常に等位相面に対して直交することを念頭に置くと、光路長一定の法則とは、光源点近傍の特定の等位相面上の任意の点と、それに対応する集光点近傍の特定の等位相面上の点を結ぶ光線の光学距離が一定であることと言い換えられる。本発明のような入射ビームに非点収差が含まれる場合にも、等位相面を考慮した補償を行うことで、より正確な設計式を導くことができる。
【0031】
まず、入射側について、光源線S上の上記した交点Pに対応する近傍の等位相面を考える。光源線Sでは、光源線Sに向けて収束する波面が観察されるはずである。このような仮定のもとS上の位相を定義することは厳密にはできないが、ここではSとz軸との交点をPy0とおき、S上にはPy0からの距離に応じた位相分布が存在するもの、すなわち、ミラー(反射面)に入射する前のビームは、y軸方向(鉛直方向)には光源線Sに集約する波面を持つとする。この考えに基づき、図2に示すように、第2の光源線Sとz軸との交点Py0を中心とし且つ第1の光源線Sとz軸との交点Px0を通ってx軸に直交する方向に延びる円弧B1xを、第1の光源線Sを軸に回転させることで構成される回転円弧面を等位相面A1xとする。x軸方向の光源位置からM点までの入射長は、入射光線と該等位相面A1xとの2つの交点のうち第2の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離として求めることがより正確である。
【0032】
ここでは、この入射光線と等位相面A1xとの2つの交点のうち第2の光源線Sに近い側の交点からミラーの反射面上のM点までの距離は、まず入射光線と前記第1の光源線Sとの交点PからM点までの距離を求めるとともに、該距離に、交点Pから前記等位相面A1xを定義している前記円弧B1xまでの距離、つまりPから円弧B1xに下した垂線の足をH1xとしてP1x間の距離を加算又は減算(本図の例では減算)して求めている。すなわち、下記式(5)のH1xM間の距離をx軸方向の入射長とする。この式が近似である理由は,点H1xが直線PM上に存在する保証がないためである。ただし、このような近似式以外の計算で求めるようにしても勿論よい。本例では、上記のようにPから円弧B1xに下した垂線の足をH1xとしてP1x間の距離を加算/減算して近似的に求めているが、円弧B1xに下した垂線ではなく、Pから、入射光線と該等位相面A1xとの2つの交点のうち第2の光源線Sに近い側の交点までの距離を用いて、より正確に算出するようにしてもよい。
【0033】
【数4】
【0034】
続いて、同じく入射側について、光源線S上の上記した交点Pに対応する近傍の等位相面を考える。光源線Sでは、光源線Sから発散してきた波面が観察されるはずである。このような仮定のもとS上の位相を定義することは厳密にはできないが、ここではSとz軸との交点をPx0とおき、S上にはPx0からの距離に応じた位相分布が存在するもの、すなわち、ミラー(反射面)に入射する前のビームは,x軸方向には光源線Sから発散する波面を持つとする。この考え方に基づき、図3に示すように、第1の光源線Sとz軸との交点Px0を中心とし且つ第2の光源線Sとz軸との交点Py0を通ってy軸に直交する方向に延びる円弧B1yを、第2の光源線Sを軸に回転させることにより構成される回転円弧面を、等位相面A1yとする。y軸方向の光源位置からM点までの入射長は、入射光線と該等位相面A1yとの2つの交点のうち第1の光源線Sに近い側の交点からミラーの反射面上のM点までの距離として求まる。
【0035】
入射光線と等位相面A1yとの2つの交点のうち第1の光源線Sに近い側の交点からM点までの距離は、まず入射光線と前記第2の光源線Sとの交点PからM点までの距離を求めるとともに、該距離に、交点Pから前記等位相面A1yを定義している前記円弧B1yまでの距離、つまりPから円弧B1yに下した垂線の足をH1yとしてP1y間の距離を加算又は減算(本例では加算)して求める。すなわち、下記式(6)のH1yM間の距離をy軸方向の入射長とする。
【0036】
【数5】
【0037】
出射側についても、入射側と同様、第1の集光線F上の上記交点Qに対応する近傍の等位相面、第2の集光線F上の上記交点Qに対応する近傍の等位相面、をそれぞれ考える。第1の集光線Fでは、第2の集光線Fから発散する波面が観察されるはずである。このような仮定のもとF上の位相を定義することは厳密にはできないが、ここではFと光軸zの交点をQy0とおき,F上にはQy0からの距離に応じた位相分布が存在するものとみなす。また、第2の集光線Fでは、第1の集光線Fに向けて収束する波面が観察されるはずである。このような仮定のもとF上の位相を定義することは厳密にはできないが,ここではFと出射光軸zの交点をQx0とおき、F上にはQx0からの距離に応じた位相分布が存在するものとみなす。
【0038】
これらの考えに基づき、入射側と同様、より正確な出射長を求める。具体的には、図示は省略するが、上記と同様に交点Qから等位相面を定義する円弧B2xまでの距離、つまりQから円弧B2xに下した垂線の足をH2xとしたH2x間の距離や、交点Qから等位相面を定義する円弧B2yまでの距離、つまりQから円弧B2yに下した垂線の足をH2yとしたQ2y間の距離を用いて加算または減算して補償を行い、下記式(7)、式(8)のようにx軸方向、y軸方向についてより正確な出射長を求めることができる。
【0039】
【数6】
【0040】
(光路長の計算)
このようにして求めた入射長、出射長を用いて、x軸方向、y軸方向の各方向の集光についての光路長の計算を行う。まず、x軸方向の集光に着目した場合の入射長f1x(x,y,z)は,式(5)より下記式(9)~(11)のように計算される。
【0041】
【数7】
【0042】
同様に、同じくx軸方向の集光に着目した出射長f2x(x,y,z)は、式(7.9)より下記式(12)~(14)で表される。
【0043】
【数8】
【0044】
そして、x軸方向集光における光源点から集光点までの基準光路長をLと設定すると、x軸方向の集光に必要な条件式が、次の式(15)のように導かれる。
【0045】
【数9】
【0046】
次に、y軸方向の集光に必要な条件式についても、同様の手順で導かれる。すなわち、y軸方向の集光に着目した入射長f1y(x,y,z)は、式(6)より下記式(16)のように求まる。
【0047】
【数10】
【0048】
同様に、y軸方向の集光に着目した出射長f2y(x,y,z)は、式(8)より以下の式(17)で表される。
【0049】
【数11】
【0050】
そして、y軸方向集光における光源点から集光点までの基準光路長をLと設定すると、y軸方向の集光に必要な条件式が、次の式(18)のように導かれる。
【0051】
【数12】
【0052】
理想的には、式(15)のx軸方向の集光条件と、式(18)のy軸方向の集光条件とを同時に満たす点(x,y,z)の集合が、求めるミラーの反射面の形状となるが、このような連立方程式の解を設計式とすると、「L1x=L1yかつL2x=L2y」のような特殊な条件下でしか解が存在できなくなる。他の条件下でも成り立ち得る、より一般化した反射面の形状を表わす設計式を得るために、本発明者は、式(15)と式(18)を重みづけし、式(19)に示す新たな式f(x,y,z)を設計式とした。
【0053】
(設計式)
すなわち、設計式は、x軸方向について光源点から集光点までの光路長が一定であることから導かれる第1の式(x軸方向集光条件の式)であるf(x,y,z)=0(式(15))と、y軸方向について光源点から集光点までの光路長が一定であることから導かれる第2の式(y軸方向集光条件の式)であるf(x,y,z)=0(式(18))とを、α、βを用いて、下記(19)のように重みづけした式f(x,y,z)=0である。αは、x軸方向の集光に対する重みづけ係数、βは、y軸方向の集光に対する重みづけ係数である。
【0054】
【数13】
【0055】
ここで、式(19)に式(9)から式(18)までを代入することで、反射面の設計式は式(20)に示す方程式として導出される。
【0056】
【数14】
【0057】
式(20)から分かるように、x軸方向、y軸方向に対して対称性の良い方程式が得られたことを確認できる。これまでの導出で『L1x>L1y>0かつL2x>L2y>0』を仮定してきたが,この仮定がなくとも、すなわち大小関係の逆転やそれぞれの設定値が負の値をとったとしても式(20)に示す同じ方程式(設計式)が導かれる。ただし、L1x、L1y、L2x、L2yの4定数はいずれも、正か負の値であって、0にすることはできない。
【0058】
さらに、具体的な設計式は、基材の中空内周面または外周面から作製される反射面であることから基準点を設定し、その座標を代入することで、上記式(20)中の定数項「αL+βL」の設定を行うことで得られる。
【0059】
基材の中空内周面または外周面に反射面が形成されたミラーの模式図を図4に示す。座標系の定義は図1と同じである。基準点M0x(r,0,0)、M0y(0,r,0)を設定する。ここでrは基準半径を表す定数である。まずM0x(r,0,0)が集光ミラー形状の陰関数表現である式(20)を満足させると仮定して、式(20)に基準点M0x(r,0,0)の座標を代入することにより、下記式(21)を得る。
【0060】
【数15】
【0061】
この式(21)が重みづけ係数αの設定にかかわらず成立するためには、L、Lはそれぞれ式(22)、式(23)を満たす必要がある。
【0062】
【数16】
【0063】
同様に、基準点M0yの座標を式(20)に代入することにより、式(24)を得る。この式(24)から、同じくL、Lに対する制限が式(25)、式(26)のように導かれる。
【0064】
【数17】
【0065】
【数18】
【0066】
求めるL及びLは、上記したx軸方向の集光に対する重みづけ係数α、y軸方向の集光に対する重みづけ係数βを用いて、基準点M0xとM0yから導かれる値を重みづけ相加平均する。すなわち、L、Lは次の式(27)、(28)ように表される。
【0067】
【数19】
【0068】
式(27)及び式(28)を式(20)に代入することで、ミラー反射面の設計式が下記式(29)に示す方程式として導出される。
【0069】
【数20】
【0070】
(設計できるミラーの例)
式(29)の条件設定において、L1xとL1yの値を異なる値に設定し、且つL2xとL2yの値を一致する値(同じ値)に設定することで、非点収差をもつ入射ビームから一点に集光する出射ビームが得られる反射面を備える非点収差制御ミラーを設計することができる。逆に、L1xとL1yの値を一致する値に設定し、且つL2xとL2yの値を異なる値に設定することで、一点から発散する入射ビームから非点収差をもつ出射ビームが得られる反射面を備える非点収差制御ミラーを設計することができる。
【0071】
また、設計式(式(29))を用いることで、x軸方向、y方向の両方向の光源・集光位置が一致する反射面を備えるミラーも設計できる。たとえば設計式(式(29))にL1x=L1y=L>0、且つL2x=L2y=L>0を代入することで、次の式(30)に示すように回転楕円面ミラーの式を得ることができる。
【0072】
【数21】
【0073】
また、設計式(式(29))にL1x=L1y=L<0、且つL2x=L2y=L>0を代入すれば、次の式(31)に示すように回転双曲面ミラーの式を得ることができる。
【0074】
【数22】
【0075】
さらに上記式(30)または式(31)において、Lを正または負の無限大に設定することで、次の式(32)に示すように回転放物面ミラーの式を得ることができる。
【0076】
【数23】
【0077】
(設計限界)
まず、上述のとおり、L1x、L1y、L2xおよびL2yはいずれも0をとらない。また、例えばミラーの集光作用を鉛直方向のみに限定したとき、すなわち、L1x=+∞かつL2x=+∞のとき、L1y>0かつL1y>0かつα=0を与えた場合は、式(29)は次の式(33)の形になる。
【0078】
【数24】
【0079】
式(33)は明確に楕円柱面の式である。2枚の楕円柱面ミラーが鉛直方向から光軸を挟み込むように配置されていることが読み取れ、設計の破綻を示す。破綻の理由は、鉛直方向と水平方向の双方に正の集光性能を持たせなかったことに起因する。ここで述べる正の集光性能とは、「ビームをより収束する方向に変化させる」能力である。この条件は、入射長をL、出射長をLとして次の式(34)で表現される。
【0080】
【数25】
【0081】
式(34)は、上流から発散する波面の曲率を正として定義した場合にミラーによる反射を経て曲率が減少することを示している。このときミラーの形状は凹となる。図5に,円錐曲線を稜線として持つ回転体ミラーを用いてビームを集光する例を挙げる。これらはいずれも式(34)を満たしている。中空型内面を利用するミラーを設計するためには、鉛直方向・水平方向ともに式(34)を満たすことが必要十分条件である。
【0082】
円錐曲線は、同様に、その凸プロファイルを利用して波面の曲率を増大させることもまた可能である。図6に円錐曲線の回転体を用いて波面の曲率を増大させる例の一覧を示す。これらの例ではいずれも以下の式(35)を満たしている。鉛直・水平両方向について波面の曲率を増大させるミラーを本方式で設計すると、それは『柱状形状の外面を使用するミラー』となる。
【0083】
【数26】
【0084】
波面の曲率が変化しないとき、すなわち1/L=-1/Lが成立するとき、ミラーの稜線は曲率を持たない直線的なプロファイルとなり、設計が破綻する。まとめると、1/L1x>-1/L2x、かつ1/L1y>-1/L2yを満たすことが、中空内周面ミラーの設計式が成り立つ条件となり、1/L1x<-1/L2x、かつ1/L1y<-1/L2yを満たすことが、外周面ミラーの設計式が成り立つ条件となる。
【0085】
(断面プロファイル)
設計式(式(29))に、x=0またはy=0を代入することにより、反射面の断面プロファイルを確認することができる。たとえば、x=0、L1x>0、L1y>0、L2x>0、L2y>0のとき、yz平面とミラー反射面との交線(断面プロファイル)は次の式(36)、式(37)で表現される。式(36)は、y方向集光の光源点とy方向集光の集光点を焦点に持つ楕円関数を表している。式中のCは基準光路長を表す定数項である。
【0086】
【数27】
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。本実施形態では、光源線、集光線を直線として、直線とその近傍の等位相面間の距離を補償したが、このような補償は必ずしも必要ではない。また、円弧線やその他の曲線を光源線、集光線として、補償なしまたは上記補償以外の補償方法または近似方法で求めることも好ましい。反射面の設計式の原点の位置は異なる位置でもよい。座標変換しても勿論よい。
【実施例
【0088】
次に、上記した本発明にかかる非点収差制御ミラーの設計例として、非点収差の解消を目的としたミラー(実施例1)と、非点収差の付加を目的としたミラー(実施例2)の2種類のミラーの設計を行い、各ミラーについて幾何光学、波動光学の双方を用いてシミュレーションにより性能を確認した結果について説明する。
【0089】
(シミュレーション手法)
実際の中空形状ミラーの使用例を鑑みて、図7に示すように、ミラー(反射面)の全周(360°)のうち一部のみを軟X線ビームが照明する部分照明条件下での集光性能を計算した。設置条件は水平(x軸方向)偏向とした。幾何光学に基づく光線追跡計算では,図1で示したx軸方向、y軸方向の光源線を通る光線群を定義し、ミラーの反射面に入射させる。光源線の太さ、すなわち光源の大きさは0とする。反射面の有効範囲全体に均一に光線を出射する。
【0090】
ミラーの反射面上の各位置における法線ベクトルn(x,y,z)は、式(29)で定義された関数f(x,y,z)の勾配ベクトルに対して平行な単位ベクトルである(式(38))。図7に示すように、入射光線はミラーの反射面の法線ベクトルに対称に反射し、集光面にまで伝搬する。このようにして集光面における光線のばらつきが評価される。
【0091】
【数28】
【0092】
波動光学に基づく回折積分計算では、ミラーの反射面に入射するビームの波面のx軸方向、y軸方向の曲率中心を,それぞれx軸方向集光の光源Sx、y軸方向集光の光源Sに一致させる。図8はその模式図である。太さの存在しない線光源を仮定し、反射面の有効領域全体に一様な強度をもってビームが入射するものとする。反射面上の点M(x,y,z)におけるビームの波動場U(x,y,z)は次の式(39)、式(40)になる。
【0093】
【数29】
【0094】
式(39)においてλはビームの波長を表す任意の定数、Iは入射強度を表す任意の定数である。ミラーの反射面上の複素波動場U(x,y,z)を、以下の式(41)、式(42)に従って集光面上の座標Q(x,y,z)まで伝搬させる。
【0095】
【数30】
【0096】
式(41)において、dSは反射面上の微小面積を表し、θ(x,y,z)は反射面上の各位置における斜入射角を表す。出力するのは、Q上の複素波動場U(x,y,z)の絶対値の二乗である強度分布である(式(43))。以上の手順により、波動光学に基づいて集光面における強度分布が計算される。
【0097】
【数31】
【0098】
(実施例1のミラー設計)
表1に実施例1のミラー設計に用いた定数の一覧を示す。入射長がx軸方向(水平方向)とy軸方向(鉛直方向)とで異なり、出射長はx軸方向とy軸方向とで同一である。斜入射角が10mrad程度となるように、基準半径を5mmに設定した。光源線及び集光線とミラー(反射面)の配置を図9に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
ミラーの反射面形状を得るためには、式(29)の設計式で示した陰関数を解く。円筒座標系を用いて式(29)の解集合を得る。ここで、円柱座標系(z,φ,r)とデカルト座標系(x,y,z)は、次の式(44)の対応関係を持つものとする。
【0101】
【数32】
【0102】
(実施例1の反射面の半径分布)
計算されたミラーの反射面の半径分布を図10に示す。図10(a)は,縦軸をz座標、横軸をφ座標に設定したときの半径r(z,φ)の二次元分布を示している。実施例1のミラーの反射面は、y軸方向(鉛直方向)とx軸方向(水平方向)とで直径が異なる潰れた中空型形状となる。
【0103】
また、図10(a)中において一点鎖線で示したφ=0°(z軸方向(長手方向))の反射面の半径プロファイルを図10(b)に示す。これはx軸方向(水平方向)集光に対応した楕円関数である。また、図10(a)中の破線で表したz=0(周方向)における反射面の半径プロファイルを図10(c)に示す。ミラーの潰れに起因して周方向に二山の分布がついていることが読み取れる。
【0104】
(実施例1の集光性能のシミュレーション結果)
次に、集光性能のシミュレーション結果を図11に示す。図11(a)は、幾何光学に基づいて集光面における光線のばらつきを計算した結果を示している。全光線が鉛直・水平ともに1nm以下の領域に集約されていることが確認できる。
【0105】
また、図11(b)は、波動光学に基づいて計算された集光面における二次元強度分布を示している。光子エネルギーは300eVに設定した。ビームは430nm(x軸方向(水平方向))×170nm(y軸方向(鉛直方向))(FWHM)の領域に集光されている。
【0106】
(実施例2のミラー設計)
表2に実施例2のミラー設計に用いた定数の一覧を示す。入射長がx軸方向(水平方向)とy軸方向(鉛直方向)とで同じであるのに対し、出射長はx軸方向とy軸方向とで異なる値をもつ。基準半径rは、反射面への斜入射角が10mrad程度となるように設定した。光源線及び集光線とミラー(反射面)の配置を図12に示す。実施例1と同様、円筒座標系を用いて式(29)の解集合を得る。
【0107】
【表2】
【0108】
(実施例2の反射面の半径分布)
計算されたミラーの反射面の半径分布を図13に示す。実施例1のミラーと同様、y軸方向(鉛直方向)とx軸方向(水平方向)とで直径が異なる潰れた中空型形状となり、ミラーの潰れに起因して周方向に二山の分布がついていることが読み取れる。
【0109】
(実施例2の集光性能のシミュレーション結果)
集光性能のシミュレーション結果を図14に示す。図14(a)は、幾何光学に基づいてx軸方向(水平方向)集光面(z=L2x)における光線のばらつきを計算した結果を示している。全光線がx軸方向(水平方向)幅1nm以下の領域に集約されていることが確認できる。
【0110】
また、図14(b)は、波動光学に基づいて計算されたx軸方向(水平方向)集光面における二次元強度分布を示している。光子エネルギーは300eVに設定した。ビームはx軸方向(水平方向)幅52μm(FWHM)の領域に集光されている。
【0111】
同様に、y軸方向(鉛直方向)集光面(z=L2y)における集光性能のシミュレーション結果を図14(c),(d)に示す。y軸方向(鉛直方向)の集光幅は,幾何光学で130nm,波動光学で7.4μm(FWHM)であった。
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