(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】スキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/12 20060101AFI20241002BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241002BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241002BHJP
A63C 11/08 20060101ALI20241002BHJP
B05C 9/14 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
B05D3/12 Z
B05D7/00 K
B05D7/00 N
B05D7/24 301Q
A63C11/08
B05C9/14
(21)【出願番号】P 2020098046
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019115413
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515122653
【氏名又は名称】ジャイロテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120226
【氏名又は名称】西村 知浩
(72)【発明者】
【氏名】小向 裕道
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-370062(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208071(WO,A1)
【文献】特開昭62-102779(JP,A)
【文献】特開2017-176532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B05C5/00-21/00
A63C11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法であって、
振動部からの振動を前記滑走面に付与する振動工程と、
加熱部により潤滑剤を溶かす融解工程と、
前記滑走面を振動させながら、溶かした前記潤滑剤を前記滑走面の細孔に浸透させる浸透工程と、
を有し、
前記振動工程では、前記振動部が固定子を介して振動を付与するものである、スキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法。
【請求項2】
前記固定子が、前記加熱部である、請求項1に記載のスキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法。
【請求項3】
前記固定子が、前記スキー板又は前記スノーボードを支持する台部である、請求項1に記載のスキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法。
【請求項4】
前記振動工程では、前記振動部が取り付けられた取付部材を介して前記固定子に取り付けられるものであり、
前記振動部が前記取付部材を加振し、前記取付部材の固有の振動周波数に起因した共振状態を発生させて前記固定子の振幅を増幅する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法。
【請求項5】
前記振動部として、振動モータ又は振動素子を利用する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対して例えばワックスなどの潤滑剤を浸透させる方法として、ソール面の細孔に対して効果的に浸透させるために、遠赤外線と近赤外線の波長が異なる2種類の赤外線を利用して、細孔の内部まで深く浸透させていた(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-176532号公報
【文献】特開2016-135288号公報
【文献】特開2013-81612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、遠赤外線及び近赤外線を利用した潤滑剤浸透方法は、専用の機械が高価なものであり、一般の個人ユーザーには入手困難なものであった。
【0005】
また、上記専用の機械は、大型になる傾向があるため重量化し、操作性・取扱性が低下するものであった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、低コストで、確実かつ安定的に、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対して潤滑剤を浸透させることができる方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、簡易な方法で、確実かつ安定的に、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対して潤滑剤を浸透させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スキー板又はスノーボードの滑走面に対する潤滑剤浸透方法であって、振動部からの振動を前記滑走面に付与する振動工程と、加熱部により潤滑剤を溶かす融解工程と、前記滑走面を振動させながら、溶かした前記潤滑剤を前記滑走面の細孔に浸透させる浸透工程と、を有し、前記振動工程では、前記振動部が固定子を介して振動を付与するものである。
【0009】
振動部として、振動モータを用いることが好ましい。
【0010】
振動部として、振動素子を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、振動部からの振動がスキー板又はスノーボードの滑走面に付与されて当該滑走面を振動させながら、加熱部により溶かされた潤滑剤を滑走面の細孔に浸透させることにより、潤滑剤を滑走面の細孔に深くかつ均等に浸透させることができる。これにより、例えば遠赤外線と近赤外線の波長が異なる2種類の赤外線を利用して滑走面の細孔の内部まで深く浸透させるための専用の機械又は装置などを用いることなく、低コストで確実かつ安定的に、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対して潤滑剤を浸透させることができる。さらに、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対して潤滑剤を浸透させる方法が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対する潤滑剤浸透方法のフロー図である。
【
図2】第1実施例に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対する潤滑剤浸透方法の概念図である。
【
図3】第2実施例に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対する潤滑剤浸透方法の概念図である。
【
図4】第3実施例に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対する潤滑剤浸透方法の概念図である。
【
図5】振動部としての振動モータが固定子に直接取り付けられた構成を示した図である。
【
図6】振動部としての振動モータが取付部材を介して固定子に間接的に取り付けられた構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対する潤滑剤浸透方法について、図面を参照して説明する。
【0014】
なお、潤滑剤とは、潤滑油、ワックス、グリースなどを含む概念である。以下、潤滑剤としてワックスを例にとり説明する。
【0015】
図1に示すように、スキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対するワックス浸透方
法は、振動部からの振動をスキー板又はスノーボードの前記滑走面に付与する振動工程(S100)と、加熱部によりワックスを溶かす融解工程(S200)と、滑走面を振動させながら、溶かしたワックスを滑走面の細孔に浸透させる浸透工程(S300)と、を含む。
【0016】
なお、固体又は半流動体のワックスは、予めスキー板又はスノーボードの滑走面の表面に塗布されている。
【0017】
振動工程(S100)と融解工程(S200)の順序は、特に問われない。
【0018】
振動工程(S300)において用いられる振動部として、振動装置又は振動モータ(あるいは超音波振動モータ)を利用できる。さらに、振動部として、振動素子を用いることもできる。
【0019】
融解工程(S200)において用いられる加熱部として、例えば、ヒータやアイロンを利用することができる。
【0020】
本発明の一実施形態に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対するワックス浸透方法によれば、振動部からの振動がスキー板又はスノーボードの滑走面に付与されて、当該滑走面を振動させながら、加熱部により溶かされたワックスを滑走面の細孔に浸透させる。このとき、溶けて流動体となったワックスが滑走面の細孔の深部まで入り込むが、滑走面が振動することから、ワックス同士の粒子の隙間を塞ぐようにしてワックスが細孔に充填されていき、ワックスの充填むらが無くなる。これにより、ワックスを滑走面の細孔に深くかつ均等に浸透させることができる。
【0021】
この結果、例えば遠赤外線と近赤外線の波長が異なる2種類の赤外線を利用して滑走面の細孔の内部まで深く浸透させるための専用の機械を用いることなく、低コストで確実かつ安定的に、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対してワックスを浸透させることができる。また、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対してワックスを浸透させる作業が簡易かつ容易になる。
【0022】
本来ならスキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)に対してワックスを塗布する場合、塗布し易いように、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)を固定することが常識的な方法であった。ワックス塗布時に、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)が動くと、スキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)の正確な位置にワックスを均等に塗布することができないからである。しかしながら、本発明は、当業者の逆転の発想により、ワックス塗布時にスキー板又はスノーボードのソール面(滑走面)を敢えて振動させることにより、ソール面上でワックスに動的流れを与え(ワックスを躍らせ)、ソール面の細部にワックスを深くかつ均質に充填させることを可能にした発明である。
【0023】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0024】
[第1実施例]
第1実施例に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対するワックス浸透方法は、
図2に示すように、加熱部10に振動部12が取り付けられている構成である。スキー板又はスノーボード(以下、「ワーク1」という)は、滑走面(ソール面)3側を上面にした状態で、下面側から台部14に支持されている。
【0025】
ワーク1の上方から加熱部10が滑走面3に接触し、滑走面3上のワックス5を溶かすとともに、加熱部10に取り付けられた振動部12が振動して加熱部10を振動させ、加熱部10からワーク1に当該振動が付与される。このようにして、ワーク1が振動した状態で、ワーク1の滑走面3の細孔に対し、溶けたワックス5が深くかつ均等に浸透する。これにより、簡易な構成かつ低コストで、ワーク1の滑走面3に均等にワックス5を浸透させることができる。
【0026】
[第2実施例]
第2実施例に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対するワックス浸透方法は、
図3に示すように、スキー板又はスノーボードに振動部12が取り付けられている構成である。スキー板又はスノーボード(以下、「ワーク1」という)は、滑走面(ソール面)3側を上面にした状態で、下面側から台部14に支持されている。
【0027】
ワーク1の上方から加熱部10が滑走面3に接触し、滑走面3上のワックス5を溶かすとともに、ワーク1に取り付けられた振動部12が振動して、ワーク1に当該振動が付与される。このようにして、ワーク1が振動した状態で、ワーク1の滑走面3の細孔に対し、溶けたワックス5が深くかつ均等に浸透する。これにより、簡易な構成かつ低コストで、ワーク1の滑走面3に均等にワックス5を浸透させることができる。
【0028】
[第3実施例]
第3実施例に係るスキー板又はスノーボードの滑走面(ソール面)に対するワックス浸透方法は、
図4に示すように、台部14に振動部12が取り付けられている構成である。スキー板又はスノーボード(以下、「ワーク1」という)は、滑走面(ソール面)3側を上面にした状態で、下面側から台部14に支持されている。
【0029】
ワーク1の上方から加熱部10が滑走面3に接触し、滑走面3上のワックス5を溶かすとともに、台部14に取り付けられた振動部12が振動して、台部14を振動させ、台部14からワーク1に当該振動が付与される。このようにして、ワーク1が振動した状態で、ワーク1の滑走面3の細孔に対し、溶けたワックス5が深くかつ均等に浸透する。これにより、簡易な構成かつ低コストで、ワーク1の滑走面3に均等にワックス5を浸透させることができる。
【0030】
次に、振動部12の固定子に対する取付方法について説明する。なお、以下の説明では振動部として振動モータを採用した構成を示すが、当該振動モータに替えて振動装置又は振動素子を用いることも可能である。
【0031】
固定子とは、振動部12が取り付けられて加振される部材であり、第1実施例では加熱部10に該当し、第2実施例ではスキー板又はスノーボードなどのワーク1に該当し、第3実施例では台部14に該当する。
【0032】
図5は、振動部12としての振動モータ16が固定子18に直接取り付けられた構成を示す。これにより、振動モータ16の振動により、加熱部10、スキー板又はスノーボードなどのワーク1及び台部14をそれぞれ振動させることができる。
【0033】
図6は、振動部12としての振動モータ16が取付部材20を介して固定子18に間接的に取り付けられた構成を示す。振動モータ16と取付部材20との取付方法は、ボルト、ナット等の固着具又は両者を固定するための着脱可能なアタッチメント等(いずれも図示省略)により行われる。また、取付部材20と固定子18との取付方法は、両者を固定するための着脱可能なアタッチメント等(図示省略)により行われる。振動モータ16が取付部材20を介して固定子18に取り付けられることにより、振動モータ16が取付部材20を加振し、取付部材20の固有の振動周波数に起因した共振状態を敢えて発生させ、固定子18をより大きく振動させることができる。これにより、振動モータ16の振動により、加熱部10、スキー板又はスノーボードなどのワーク1及び台部14をそれぞれ効果的に振動させることができる。この結果、ワーク1の滑走面3の細孔にワックス5を深くかつ均質に浸透させることができる。
【0034】
なお、上記各実施例は、本発明の技術的思想を具現した一例に過ぎないものである。本発明は、当然ながらこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を利用した全ての態様を含むものである。
【符号の説明】
【0035】
1 ワーク(スキー板又はスノーボード)
3 滑走面(ソール面)
5 ワックス
10 加熱部
12 振動部
14 台部
16 振動モータ
18 固定子
20 取付部材