(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B28D 1/22 20060101AFI20241002BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20241002BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20241002BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241002BHJP
B26F 1/31 20060101ALI20241002BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B28D1/22
B23K26/382
B23K26/364
B23K26/00 N
B26F1/31
C03B33/09
(21)【出願番号】P 2020210014
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】523060622
【氏名又は名称】株式会社M―SFC
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】井上 修一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 宇航
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸司
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101610643(CN,A)
【文献】特許第4278389(JP,B2)
【文献】国際公開第2010/071128(WO,A1)
【文献】特開2012-086226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0192305(US,A1)
【文献】特開2011-104633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/22
B23K 26/382
B23K 26/364
B23K 26/00
B26F 1/31
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性基板に穴あけを行うレーザ加工方法であって、
前記脆性基板の第1表面において、前記穴あけを行うための加工線よりも第1距離だけ内側の位置から第1幅だけさらに内側までの領域に、
前記脆性基板の厚み方向に第1深さの範囲に第1強度を有する第1レーザ光を照射して第1溝を形成するステップと、
前記第1表面において、前記加工線から第2幅だけ内側の位置までの前記第1溝の前記加工線側の部分を含む領域に、
前記脆性基板の厚み方向に前記第1深さと同じ第2深さの範囲に前記第1強度よりも小さい第2強度を有する第2レーザ光を照射して第2溝を形成するステップと、
前記脆性基板の前記第1溝および前記第2溝の底面において、前記加工線から第3幅だけ内側の位置までの領域に、前記脆性基板の厚み方向に第3深さの範囲に前記第1強度よりも小さい第3強度を有する第3レーザ光を照射して第3溝を形成するステップと、
を備え
、
前記第3幅は、前記第3溝が前記第1溝の加工線側の一部と前記第2溝との直上に形成されるように設定され、
前記第3溝は、前記第3深さの範囲の内側に前記脆性基板を残した状態で形成されるレーザ加工方法。
【請求項2】
前記第2強度及び前記第3強度は、前記第1強度の0.5倍以下である、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第1距離は50μm以上である、請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第1溝及び前記第2溝の深さは150μm以上である、請求項1~3のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記第1幅は700μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記第2幅は50μm以上である、請求項1~5のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記第3幅は200μm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
脆性基板に穴あけを行うレーザ加工装置であって、
レーザ光を前記脆性基板に向けて出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置から出力された第1強度を有する第1レーザ光を、前記脆性基板の第1表面において、前記穴あけを行うための加工線よりも第1距離だけ内側の位置から第1幅だけさらに内側の位置までの領域に
、前記脆性基板の厚み方向に第1深さの範囲に照射して第1溝を形成し、
前記レーザ装置から出力された前記第1強度よりも小さい第2強度を有する第2レーザ光を、前記第1表面において、前記加工線から第2幅だけ内側の位置までの前記第1溝の前記加工線側の部分を含む領域に
、前記脆性基板の厚み方向に前記第1深さと同じ第2深さの範囲に照射して第2溝を形成し、
前記レーザ装置から出力された前記第1強度よりも小さい第3強度を有する第3レーザ光を、
前記脆性基板の前記第1溝および前記第2溝の底面において、前記加工線から第3幅だけ内側の位置までの領域に、前記脆性基板の厚み方向に第3深さの範囲に照射して第3溝を形成する、制御部と、
を備え、
前記第3幅は、前記第3溝が前記第1溝の加工線側の一部と前記第2溝との直上に形成されるように設定され、
前記第3溝を、前記第3深さの範囲の内側に前記脆性基板を残した状態で形成するレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。特に、脆性基板にレーザ光を照射して穴あけを行う装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光による脆性基板(例えば、ガラス基板)の加工装置としては、波長が532nm程度のグリーンレーザ光を脆性基板に照射する装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。グリーンレーザ光は、一般的には脆性基板を透過するが、レーザ光を集光し、その強度があるしきい値を越えると、脆性基板はレーザ光を吸収する。このような状態では、レーザ光の集光部にプラズマが発生し、これによりその部分の脆性基板は蒸散する。以上のような原理を利用して、脆性基板に穴あけを行う加工が可能である。
【0003】
また、上記のレーザ光の集光点を小半径で高速回転させながら加工線に沿って走査することによって、脆性基板に穴あけ加工する技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-118054号公報
【文献】特開2013-146780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法によるレーザ光による穴あけ加工では、脆性基板を蒸散させるために大きな強度を有するレーザ光が照射されるため、脆性基板の表面の穴の周囲にチッピングと呼ばれる欠損が発生する。このチッピングは、加工した部分に生じた微小な亀裂に起因するものと考えられ、強度低下の原因となり得る。したがって、チッピングはできる限り小さくすることが好ましい。
【0006】
上記のチッピングを小さくするために、強度の小さなレーザ光を照射して穴あけ加工をすることが考えられる。しかしながら、強度の小さなレーザ光を用いた場合には、穴あけ加工に時間がかかる。
【0007】
本発明の目的は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置において、穴あけ加工の際に脆性基板の表面に形成されるチッピングをできうる限り小さくしつつ、加工時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
【0009】
本発明の一見地に係るレーザ加工方法は、脆性基板に穴あけを行うレーザ加工方法である。レーザ加工方法は、以下のステップを備える。
◎脆性基板の第1表面において、穴あけを行うための加工線よりも第1距離だけ内側の位置から第1幅だけさらに内側までの領域に、脆性基板の厚み方向に第1深さの範囲に第1強度を有する第1レーザ光を照射して第1溝を形成するステップ。
◎第1表面において、加工線から第2幅だけ内側の位置までの領域に、脆性基板の厚み方向に第1深さと同じ第2深さの範囲に第1強度よりも小さい第2強度を有する第2レーザ光を照射して第2溝を形成するステップ。第2レーザ光が照射される上記領域には、第1溝の加工線側の部分が含まれる。
◎脆性基板の第1溝および第2溝の底面において、加工線から第3幅だけ内側の位置までの領域に、脆性基板の厚み方向に第3深さの範囲に、第1強度よりも小さい第3強度を有する第3レーザ光を照射して第3溝を形成するステップ。第3幅は、第3溝が第1溝の加工線側の一部と第2溝との直上に形成されるように設定され、第3溝は、第3深さの範囲の内側に脆性基板を残した状態で形成される。
【0010】
上記のレーザ加工方法では、脆性基板に穴あけを行うための加工線よりも第1距離だけ内側の第1幅を有する領域に強度の大きい第1レーザ光を脆性基板の第1表面に照射して第1溝を形成し、その後、同じ第1表面の加工線から第2幅だけ内側の位置までの第1溝の加工線側の部分を含む領域に強度の小さい第2レーザ光を照射して第2溝を形成している。さらに、加工線から第3幅だけ内側の位置までの領域に、脆性基板の厚み方向に第3深さの範囲に強度の小さい第3レーザ光を照射して第3溝を形成している。
【0011】
加工線から第2幅だけ内側の位置までの領域に第2レーザ光を照射して第2溝を形成することにより、強度の大きい第1レーザ光が照射されることにより第1溝の加工線側の端部に形成され加工線まで及んだチッピングを除去できる。
また、強度の小さい第3レーザ光により第3溝を形成する前に第1表面に第1溝及び第2溝が形成されることにより、脆性基板を穴あけ加工する時間を短縮できる。
【0012】
第2強度及び第3強度は、第1強度の0.5倍以下であってもよい。これにより、穴あけ加工後の脆性基板のチッピングをより小さくできる。
【0013】
第1距離は50μm以上であってもよい。これにより、第1溝の加工線側の端部に発生した大きなチッピングを第2溝の形成により確実に減少できる。
【0014】
第1溝及び第2溝の深さは150μm以上であってもよい。これにより、加工線に沿った全域に均一に第1溝と第2溝を形成できる。
【0015】
第1幅は700μm以下であってもよい。これにより、脆性基板を穴あけ加工する時間を短縮できる。
【0016】
第2幅は50μm以上であってもよい。これにより、第1溝の加工線側の端部に発生した大きなチッピングを確実に減少しつつ、脆性基板を穴あけ加工する時間を短縮できる。
【0017】
第3幅は200μm以上であってもよい。これにより、脆性基板を確実に穴あけできる。
【0018】
本発明の他の見地に係るレーザ加工装置は、脆性基板に穴あけを行うレーザ加工装置である。レーザ加工装置は、レーザ装置と、制御部と、を備える。
レーザ装置は、レーザ光を脆性基板に向けて出力する。
制御部は、レーザ装置から出力された第1強度を有する第1レーザ光を、脆性基板の第1表面において、穴あけを行うための加工線よりも第1距離だけ内側の位置から第1幅だけさらに内側の位置までの領域に、脆性基板の厚み方向に第1深さの範囲に照射して第1溝を形成する。
また、制御部は、レーザ装置から出力された第1強度よりも小さい第2強度を有する第2レーザ光を、第1表面において、加工線から第2幅だけ内側の位置までの第1溝の加工線側の部分を含む領域に、脆性基板の厚み方向に第1深さと同じ第2深さの範囲に照射して第2溝を形成する。
さらに、制御部は、レーザ装置から出力された第1強度よりも小さい第3強度を有する第3レーザ光を、脆性基板の第1溝および第2溝の底面において、加工線から第3幅だけ内側の位置までの領域に、脆性基板の厚み方向に第3深さの範囲に照射して第3溝を形成する。第3幅は、第3溝が第1溝の加工線側の一部と第2溝との直上に形成されるように設定され、第3溝を、第3深さの範囲の内側に脆性基板を残した状態で形成する。
【0019】
上記のレーザ加工装置では、脆性基板に穴あけを行うための加工線よりも第1距離だけ内側の第1幅を有する領域に強度の大きい第1レーザ光を脆性基板の第1表面に照射して第1溝を形成し、その後、同じ第1表面の加工線から第2幅だけ内側の位置までの第1溝の加工線側の部分を含む領域に強度の小さい第2レーザ光を照射して第2溝を形成している。さらに、加工線から第3幅だけ内側の位置までの領域に、脆性基板の厚み方向に第3深さの範囲に強度の小さい第3レーザ光を照射して第3溝を形成している。
【0020】
加工線から第2幅だけ内側の位置までの領域に第2レーザ光を照射して第2溝を形成することにより、強度の大きい第1レーザ光が照射されることにより第1溝の加工線側の端部に形成され加工線まで及んだチッピングを除去できる。
また、強度の小さい第3レーザ光により第3溝を形成する前に第1表面に第1溝及び第2溝が形成されることにより、脆性基板を穴あけ加工する時間を短縮できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るレーザ加工方法及びレーザ加工装置では、穴あけ加工の際に脆性基板の表面に形成されるチッピングをできうる限り小さくしつつ、加工時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】脆性基板への穴あけ加工工程を模式的に示す図。
【
図4】第1溝を形成するときの集光点の移動軌跡を示す図。
【
図5】第2溝を形成するときの集光点の移動軌跡を示す図。
【
図6】第3溝を形成するときの集光点の移動軌跡を示す図。
【
図7】穴あけ加工後の脆性基板の加工線近傍の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.第1実施形態
(1)全体構成
図1を用いて、レーザ加工装置1の全体構成を説明する。
図1は、レーザ加工装置の全体構成を示す図である。レーザ加工装置1は、脆性基板Gにレーザ光を照射して穴あけを行うための装置である。脆性基板Gは、例えば、ガラス基板である。
レーザ加工装置1は、レーザ装置3を備えている。レーザ装置3は、脆性基板Gに向けてレーザ光を出力する。レーザ装置3は、レーザ発振器9と、伝送光学系11と、を有している。
レーザ発振器9は、脆性基板Gに出力するレーザ光を発生させる。レーザ発振器9は、例えば、532nmの波長を有するパルスレーザ光を出射するレーザ発振器である。
【0024】
伝送光学系11は、例えば、集光レンズ、複数のミラー、プリズム、ビームエキスパンダ等を有し、レーザ発振器9が発生したレーザ光を脆性基板Gに導くための光学系である。また、伝送光学系11は、例えば、レーザ発振器9及び他の光学系が組み込まれたレーザ照射ヘッド(図示せず)をx軸方向に移動させるためのx軸方向移動機構(図示せず)と、集光レンズを含む光学系をz軸方向に移動させるためのz軸方向移動機構(図示せず)とを有している。
【0025】
レーザ加工装置1は、機械駆動系5を備えている。機械駆動系5は、ベッド13と、脆性基板Gが載置される加工テーブル15と、加工テーブル15をベッド13に対して水平方向に移動させる移動装置17とを有している。移動装置17は、ガイドレール、移動テーブル、モータ等を有する機構である。
【0026】
レーザ加工装置1は、制御部7を備えている。制御部7は、CPU、記憶装置(RAM、ROM)、各種インタフェースを有するコンピュータシステムであって、記憶装置に保存されたプログラムによって各種制御及び計測を行う。
制御部7は、レーザ発振器9を制御して、レーザ発振器9から発生させるレーザ光の強度を調整する。以下、レーザ光の強度は、パルスレーザ光の単位パルスあたりのエネルギー量と定義する。また、制御部7は、移動装置17及び/又は伝送光学系11を制御して、レーザ光の脆性基板Gにおける照射位置を調整する。さらに、制御部7には、各種センサ及び入力スイッチが接続されている。
【0027】
(2)穴あけ加工動作
図2及び
図3を用いて、レーザ光を用いた脆性基板Gの穴あけ加工動作を説明する。
図2は、穴あけ加工動作を示すフローチャートである。
図3は、脆性基板への穴あけ加工工程を模式的に示す図である。
以下の説明では、脆性基板Gに閉じられた領域を描画する加工線WL(例えば、円形の加工線WL)を設定し、この加工線WLに沿ってレーザ光を照射することにより、加工線WLにより閉じられた領域をくり抜いて穴あけ加工する動作を説明する。
【0028】
(2-1)第1溝の形成
まず、ステップS1において、
図3の(1)に示すように、脆性基板Gの加工対象となる表面のうち一方(第1表面SU1と呼ぶ)において、第1表面SU1の加工線WLよりも第1距離DIS1だけ内側の位置から第1幅W1だけさらに内側までの領域に、脆性基板Gの厚み方向に第1表面SU1から第1深さD1までの範囲に、強度の大きい第1強度を有する第1レーザ光L1を照射して第1溝GR1を形成する。
なお、上記の「内側」とは、加工線WLを基準とした場合に穴あけ加工によりくり抜かれる領域側をいう。
【0029】
具体的には、まず、第1表面SU1とは反対側の表面(第2表面SU2と呼ぶ)が上に向くよう加工テーブル15に脆性基板Gを載置する。
次に、制御部7が、レーザ発振器9を制御して、第1強度を有するレーザ光(第1レーザ光L1と呼ぶ)を出力させる。その後、制御部7が、伝送光学系11のx軸方向移動機構(図示せず)によってレーザ照射ヘッド(図示せず)をx軸方向に移動させ、移動装置17によって加工テーブル15をy軸方向に移動させて、第1レーザ光L1の集光点Fの平面位置を第1溝GR1の形成のスタート位置に移動させる。第1溝GR1の形成のスタート位置は、第1溝GR1を形成する領域の内側の位置、すなわち、加工線WLよりも第1距離DIS1と第1幅W1との和だけ内側の位置である。
さらに、制御部7が、伝送光学系11のz軸移動装置によって集光レンズ(図示せず)を含む光学系のz軸方向の位置を制御することで、第1レーザ光L1の集光点Fを脆性基板Gの第1表面SU1に設定する。
【0030】
その後、制御部7が、移動装置17を駆動して脆性基板Gを移動させることで、
図4に示すように、第1レーザ光L1の集光点Fを水平面内(脆性基板Gの主面内)で第1溝GR1を形成する領域の内側において加工線WLに沿って移動させ一周させる。
図4は、第1溝を形成するときの集光点の移動軌跡を示す図である。
【0031】
集光点Fが加工線WLに沿って一周した後、制御部7は、
図4に示すように、集光点Fの水平面内での位置を、第1溝GR1を形成する領域の内側から外側方向(加工線WLに向かう方向)に、移動させる一方、集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させる。その後、制御部7は、移動後の集光点Fを、加工線WLに沿って移動させさらに一周させる。
制御部7は、上記の(i)集光点Fを加工線WLに沿って移動させ一周させる、(ii)集光点Fの水平面内での位置を、第1溝GR1を形成する領域の外側方向に、移動させる、(iii)集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させる、(iv)集光点Fを加工線WLに沿って移動させさらに一周させる、との工程を、第1レーザ光L1による加工痕が第1溝GR1を形成する領域の外側(すなわち、加工線WLよりも第1距離DIS1だけ内側の位置)に到達するまで繰り返す。
【0032】
その後、制御部7は、
図4に示すように、(v)集光点Fの水平面内での位置を、第1溝GR1を形成する領域の外側から内側方向に、移動させ、(vi)集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させ、(vii)集光点Fを加工線WLに沿って移動させさらに一周させる、との工程を、第1レーザ光L1による加工痕が第1溝GR1を形成する領域の内側に到達するまで繰り返す。
【0033】
制御部7は、上記の(i)~(vii)の工程を、脆性基板Gの第1表面SU1側において、加工線WLよりも第1距離DIS1だけ内側の位置(第1溝GR1を形成する領域の外側)と、当該内側の位置から第1幅W1だけさらに内側までの位置(第1溝GR1を形成する領域の内側)との間の領域に、脆性基板Gの厚み方向に第1深さD1の範囲に第1レーザ光L1が照射され、第1溝GR1が形成されるまで繰り返し実行する。
【0034】
第1溝GR1を形成する際の条件として、穴あけ加工後の穴の縁に発生するチッピングをできうる限り小さくしつつ、後述する第2溝GR2及び第3溝GR3の形成を強度の小さいレーザ光で行った場合でも適切に穴あけ加工可能とするため、上記の第1距離DIS1は、50μm以上であることが好ましい。また、第1幅W1は、700μm以下であることが好ましい。
さらに、第1溝GR1を加工線WLの沿って均一に形成するため、第1深さD1は、150μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましい。
【0035】
(2-2)第2溝の形成
次に、ステップS2において、
図3の(2)に示すように、脆性基板Gの第1表面SU1において、第1表面SU1の加工線WLから第2幅W2だけ内側の位置までの第1溝GR1の加工線側の部分を含む領域に、第1強度よりも小さい第2強度を有する第2レーザ光L2を照射して第2溝GR2を形成する。
具体的には、制御部7が、レーザ発振器9を制御して、第2強度を有する第2レーザ光L2を出力させる。第2強度は、第1溝GR1を形成する第1レーザ光L1の第1強度よりも小さい。その後、制御部7が、第2レーザ光L2の集光点Fの平面位置を第2溝GR2の形成のスタート位置に、高さ方向の位置を脆性基板Gの第1表面SU1に設定する。第2溝GR2の形成のスタート位置は、加工線WLよりも第2幅W2だけ内側の位置である。第2幅W2は、第2レーザ光L2が、少なくとも第1溝GR1の加工線WL側の部分を含む領域に照射されるように設定される。
【0036】
その後、制御部7が、移動装置17を駆動して脆性基板Gを移動させることで、
図5に示すように、第2レーザ光L2の集光点Fを水平面内で第2溝GR2を形成する領域の内側(加工線WLから第2幅W2だけ内側の位置)において加工線WLに沿って移動させ一周させる。
図5は、第2溝を形成するときの集光点の移動軌跡を示す図である。
【0037】
集光点Fが加工線WLに沿って一周した後、制御部7は、
図5に示すように、集光点Fの水平面内での位置を、第2溝GR2を形成する領域の内側から、外側方向に移動させる一方、集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させる。その後、制御部7は、移動後の集光点Fを、加工線WLに沿って移動させさらに一周させる。
制御部7は、上記の(viii)集光点Fを加工線WLに沿って移動させ一周させる、(ix)集光点Fの水平面内での位置を、第2溝GR2を形成する領域の外側方向に、移動させる、(x)集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させる、(xi)集光点Fを加工線WLに沿って移動させさらに一周させる、との工程を、第2レーザ光L2による加工痕が第2溝GR2を形成する領域の外側(すなわち、加工線WL)に到達するまで繰り返す。
【0038】
その後、制御部7は、
図5に示すように、第2レーザ光L2の照射を一旦停止し、伝送光学系11によってレーザ照射ヘッドを移動させ、及び/又は、移動装置17を駆動して脆性基板Gを移動させることで、第2レーザ光L2の集光点Fが第2溝GR2を形成する領域の内側の位置に配置されるよう、脆性基板Gに対するレーザ照射ヘッドの位置を調整する。その後、第2レーザ光L2の照射を再開し、上記の(viii)~(xi)の工程を、第2レーザ光L2による加工痕が第2溝GR2を形成する領域の外側に到達するまで繰り返す。
【0039】
制御部7は、第2溝GR2を形成する上記の工程を、脆性基板Gの第1表面SU1側において、加工線WL(第2溝GR2を形成する領域の外側)と加工線WLから第2幅W2だけ内側までの位置(第2溝GR2を形成する領域の内側)との間の領域に、脆性基板Gの厚み方向に第1深さD2の範囲に第2レーザ光L2が照射され、第2溝GR2が形成されるまで繰り返し実行する。
【0040】
本実施形態において、第2レーザ光L2は、
図5に示すように、第1溝GR1の加工線側の部分を含む領域にも照射されている。すなわち、第2レーザ光L2の照射幅である第2幅W2は、第1距離DIS1よりも大きく設定されている。これにより、強度が大きい第1レーザ光L1の照射により第1溝GR1の加工線側の端部に形成され加工線WLまで及んだチッピングを、第2レーザ光L2の照射により除去できる。
また、第2溝GR2は、加工線WLに強度の小さい第2強度を有する第2レーザ光L2を照射することで形成される。これにより、第2溝GR2の形成時に、第2溝GR2の外側の加工線WLに対応する部分に発生するチッピングのサイズを小さくできる。
【0041】
第2溝GR2を形成する際の条件として、第2溝GR2の外側の加工線WLに対応する部分に形成されるチッピングをできうる限り小さくしつつ、穴あけ加工を可能とするため、第2強度は、第1強度の0.5倍以下とすることが好ましい。また、第2レーザ光L2が第1溝GR1の加工線側の部分にも照射されるようにするため、第2幅W2は、少なくとも第1距離DIS1以上とすることが好ましく、50μm以上であることが好ましい。
また、穴あけ加工にかかる時間をできうる限り短縮しつつ、第2溝GR2を加工線WLに沿って均一に形成するため、第2溝GR2の深さ(第2深さD2)は、第1深さD1と同じとし、150μm以上であることが好ましい。
【0042】
(2-3)第3溝の形成
第1溝GR1及び第2溝GR2を形成後、ステップS3において、
図3の(3)に示すように、加工線WLから第3幅W3だけ内側の位置までの領域に、脆性基板Gの厚み方向に第3深さD3の範囲に、第3レーザ光L3を照射して第3溝GR3を形成する。
具体的には、制御部7が、レーザ発振器9を制御して、第3強度を有する第3レーザ光L3を出力させる。第3強度は、第1溝GR1を形成する第1レーザ光L1の第1強度よりも小さい。その後、制御部7が、第3レーザ光L3の集光点Fの平面位置を第3溝GR3の形成のスタート位置に、高さ方向の位置を第1表面SU1から第1深さD1又は第2深さD2だけ脆性基板Gの内部側に設定する。第3溝GR3の形成のスタート位置は、第3溝GR3を形成する領域の内側の位置、すなわち、加工線WLよりも第3幅W3だけ内側の位置である。
【0043】
その後、制御部7が、移動装置17を駆動して脆性基板Gを移動させることで、
図6に示すように、第2レーザ光L2の集光点Fを水平面内で第3溝GR3を形成する領域の内側において加工線WLに沿って移動させ一周させる。
図6は、第3溝を形成するときの集光点の移動軌跡を示す図である。
【0044】
集光点Fが加工線WLに沿って一周した後、制御部7は、
図6に示すように、集光点Fの水平面内での位置を、第3溝GR3を形成する領域の内側から外側方向(加工線WLに向かう方向)に、移動させる一方、集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させる。その後、制御部7は、移動後の集光点Fを、加工線WLに沿って移動させさらに一周させる。
制御部7は、上記の(xii)集光点Fを加工線WLに沿って移動させ一周させる、(xiii)集光点Fの水平面内での位置を、第3溝GR3を形成する領域の外側方向に、移動させる、(xiv)集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させる、(xv)集光点Fを加工線WLに沿って移動させさらに一周させる、との工程を、第3レーザ光L3による加工痕が第3溝GR3を形成する領域の外側(加工線WL)に到達するまで繰り返す。
【0045】
その後、制御部7は、
図6に示すように、(xvi)集光点Fの水平面内での位置を、第3溝GR3を形成する領域の外側から内側方向に移動させ、(xvii)集光点Fの深さ方向の位置を所定量だけ上昇させ、(xviii)集光点Fを加工線WLに沿って移動させさらに一周させる、との工程を、脆性基板Gの加工線WLに囲まれた部分が脆性基板Gから分離されるまで繰り返す。
制御部7は、上記の工程(xii)~(xviii)を、脆性基板Gに、加工線WL(第3溝GR3を形成する領域の外側)と加工線WLから第3幅W3だけ内側の位置(第3溝GR3を形成する領域の内側)との間の領域に、脆性基板Gの厚み方向に第3深さD3の範囲に第3レーザ光L3が照射され、第3溝GR3が形成されるまで繰り返し実行する。第3溝GR3が形成されると、脆性基板Gから加工線WLの内側の部分が抜け落ちて、脆性基板Gに加工線WLに沿った穴が形成される。
【0046】
上記のように、第3溝GR3は、加工線WLに強度の小さい第3強度を有する第3レーザ光L3を照射することで形成される。これにより、第3溝GR3の形成時に、第3溝GR3の外側の加工線WLに対応する部分に発生するチッピングのサイズを小さくできる。
また、強度の小さい第3レーザ光L3により第3溝GR3を形成する前に、第1表面SU1に第1溝GR1及び第2溝GR2が形成されることにより、脆性基板Gを穴あけ加工する時間を短縮できる。
【0047】
第3溝GR3を形成する際の条件として、第3溝GR3の外側の加工線WLに対応する部分に形成されるチッピングをできうる限り小さくしつつ、穴あけ加工を可能とするため、第3強度は、第1強度の0.5倍以下とすることが好ましい。例えば、第2強度と第3強度とを同一とできる。
【0048】
脆性基板Gを確実に穴あけするために、第3深さD3は、300μm以上とすることが好ましい。また、第3幅W3は、第3溝GR3が第1溝GR1の加工線側の一部と第2溝GR2との直上に形成されるよう設定されることが好ましい。第3幅W3は、例えば、200μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましい。
【0049】
(3)実施例
以下、上記の構成を有するレーザ加工装置1により、上記のステップS1~S3を実行することで穴あけ加工を実際に行った実施例を説明する。
以下に説明する実施例では、厚さが1.3mmである化学強化用特殊ガラス基板を脆性基板Gとして用い、当該化学強化用特殊ガラス基板に直径26mmの円形の穴をあける加工を行った。穴あけ加工の条件は、以下の表1のようになる。なお、以下の表1において、第1溝の加工幅は第1幅W1に対応し、第2溝の加工幅は第2幅W2に対応し、第3溝の加工幅は第3幅W3に対応する。また、第1溝の加工深さは第1深さD1に対応し、第2溝の加工深さは第2深さD2に対応し、第3溝の加工深さは第3深さD3に対応する。
【表1】
【0050】
上記の条件で穴あけ加工したときの脆性基板Gの加工線WL近傍の拡大図を
図7に示す。
図7に示すように、上記の条件により、穴あけ加工後の脆性基板Gにおいて、加工線WL(すなわち、穴あけ加工により脆性基板Gに形成された穴の縁部分)に形成されるチッピングのサイズを、平均150μm程度まで低減できた。また、穴あけ加工の時間を25秒程度まで短縮できた。
【0051】
上記と同じ脆性基板G(化学強化用特殊ガラス)に、表1と同じ条件を用いてより大きな直径の穴(例えば、直径:29mm、50mm)をあけることも可能であった。大きな直径の穴をあけた場合に発生するチッピングのサイズも、平均で150μm~200μm程度と小さかった。また、穴あけ加工の時間は、直径が29mmのときには26秒程度、直径が50mmのときには50秒程度であった。
【0052】
また、脆性基板Gとして厚さが1.3mmであるソーダガラス基板、厚さが0.7mmである無アルカリガラス基板を用いて直径26mmの穴をあける加工をした場合も、上記の表1に示す条件を用いることで、穴の縁の部分に発生するチッピングのサイズを平均で150μm以下と小さくできた。
【0053】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、レーザ加工装置1に備わる各構成要素(例えば、レーザ装置3、機械駆動系5)の具体的な構成は、上記の第1実施形態にて説明された構成に限定されない。
上記にて説明した穴あけ加工の条件(例えば、穴あけ加工時の第1レーザ光L1、第2レーザ光L2、第3レーザ光L3の強度など)は、用いる脆性基板Gの性質等に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、レーザ光を照射して基板に穴あけを行うレーザ光による方法及び装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 レーザ加工装置
3 レーザ装置
5 機械駆動系
7 制御部
9 レーザ発振器
11 伝送光学系
13 ベッド
15 加工テーブル
17 移動装置
G 脆性基板
SU1 第1表面
SU2 第2表面
GR1 第1溝
GR2 第2溝
GR3 第3溝
WL 加工線
L1 第1レーザ光
L2 第2レーザ光
L3 第3レーザ光
F 集光点