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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ビームプロファイルモニタ
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/29 20060101AFI20241002BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G01T1/29 A
H01J37/244
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021111947
(22)【出願日】2021-07-06
(65)【公開番号】P2022027504
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020130269
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・日本物理学会第75回年次大会 ウェブサイトのアドレス:https://www.jps.or.jp/activities/meetings/annual/annual-index.php :開催日:令和2年3月17日(実際はオンライン開催) ・第16回日本加速器学会年会 ウェブサイトのアドレス:https://www.pasj.jp/dai16kainenkai/index.html 予稿発行日(公知日):令和1年7月31日 開催日:令和1年7月31日~8月2日 開催場所:京都市 ・J-PARC Symposium 2019 ウェブサイトのアドレス:https://j-parc.jp/symposium/j-parc2019/ 開催日:令和1年9月23日~9月26日 開催場所:つくば市
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】北村 遼
(72)【発明者】
【氏名】平野 耕一郎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-308611(JP,A)
【文献】特開2007-101367(JP,A)
【文献】特開2008-256526(JP,A)
【文献】特表2019-532889(JP,A)
【文献】特表2019-526016(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018444(WO,A1)
【文献】Akihiko MIURA et al.,Bunch Shape Measurement of 181 MeV Beam in J-PARC Linac,JPS Conf. Proc.,8,日本,2015年,011003-1-6,http://dx.doi.org/10.7566/JPSCP.8.011003
【文献】株式会社アライアンスバイオシステムズ / 高配向熱分解黒鉛(HOPG),日本,株式会社アライアンスバイオシステムズ,2019年03月30日,https://web.archive.org/web/20190330125957/https://alliance-bio.com/products/detail.php?product_id=105,URL: https://alliance-bio.com/products/detail.php?product_id=105 の、2019/03/30 12:59:57GMTにおけるWebArchive
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/29
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームの進行方向と交差する方向に延伸し、前記荷電粒子ビームに照射された際の特性によって前記荷電粒子ビームのビームプロファイルを測定するために用いられる導電性のプローブが用いられるビームプロファイルモニタであって、
前記プローブが、モザイクスプレッド値が10°以下である高配向性グラファイトで構成され
前記進行方向は、前記高配向性グラファイトを構成するグラフェンシートの面内方向とされたことを特徴とするビームプロファイルモニタ。
【請求項2】
前記プローブの延伸方向は、前記高配向性グラファイトを構成するグラフェンシートの面内方向とされたことを特徴とする請求項に記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項3】
荷電粒子ビームの進行方向と交差する方向に延伸し、前記荷電粒子ビームに照射された際の特性によって前記荷電粒子ビームのビームプロファイルを測定するために用いられる導電性のプローブが用いられるビームプロファイルモニタであって、
熱伝導率において異方性をもち、熱伝導率が高い方向に沿った熱伝導率が1000W/(m・K)以上であるグラファイト材料で、前記プローブが構成され、
前記進行方向が前記熱伝導率が高い方向とされたことを特徴とするビームプロファイルモニタ。
【請求項4】
前記プローブが前記荷電粒子ビームに照射された際に前記プローブに誘起される電流が、前記進行方向及び前記プローブの延伸方向と交差する方向に沿った前記プローブの位置に応じて測定されることによって、前記荷電粒子ビームの前記進行方向と垂直な方向におけるビームプロファイルが測定されることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項5】
前記プローブが前記荷電粒子ビームに照射された際に前記プローブから発せられる二次電子の強度が、前記進行方向及び前記プローブの延伸方向と交差する方向に沿った前記プローブの位置に応じて測定されることによって、前記荷電粒子ビームの前記進行方向と垂直な方向におけるビームプロファイルが測定されることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項6】
前記プローブが前記荷電粒子ビームに照射された際に前記プローブから発せられる二次電子の強度が、周期的に発せられる前記荷電粒子ビームにおける周期内の位相に応じて測定されることによって、前記荷電粒子ビームの前記進行方向に沿った方向におけるビームプロファイルが測定されることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項7】
測定された前記荷電粒子ビームの前記進行方向と垂直な方向におけるビームプロファイルの、当該方向に沿った積分値より前記荷電粒子ビームの電流値を算出することを特徴とする請求項又はに記載のビームプロファイルモニタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器から発せられる荷電粒子ビームのビームプロファイル(ビーム強度の時空間分布)を計測するビームプロファイルモニタに関する。
【背景技術】
【0002】
線形加速器(LINAC)は電子、陽電子、各種イオン等の荷電粒子を高エネルギー、高強度のビームとして生成して発する。このビームにおいては、荷電粒子は一定の周期で縦方向に加速されると共に、横方向では収束され、一群の塊(バンチ)となって周期的に発せられる。出力されたビームは各種の物理実験や医療用に用いられるが、この際にこのビーム(バンチ)の3次元強度分布(3次元ビームプロファイル)を認識し、これを目的に応じて最適化することが要求される。この場合において測定される強度は、バンチ内の荷電粒子の分布に対応する。
【0003】
図8においては、バンチBが繰り返して発せられる状況が模式的に示されている。ここでは、荷電粒子ビーム(バンチB)の進行方向がz方向(縦方向)とされ、これと垂直方向(横方向)がx方向、y方向とされる。ここでは、例えばバンチBのx、y平面内の強度分布(横方向強度分布)と、バンチBのz平面内の強度分布(縦方向強度分布)を測定することが要求される。
【0004】
例えば、特許文献1等には、横方向のビームプロファイルを測定するためのビームプロファイルモニタの構成が記載されている。図9は、この原理を単純化して示す。ここでは、導電性のプローブ(ワイヤ)80と、これに誘起される電流を測定する電流測定系90とが用いられる。ここでは、ビーム(バンチB)の横方向の形状が単純な楕円形であるとする。
【0005】
この構成は、y方向に延伸するプローブ80がx方向に沿って移動することによって、x方向に沿ったビームプロファイルの測定が行われる。ここで、プローブ10に荷電粒子のビームが照射されると、二次電子が放出され、この二次電子の量に比例した電流が誘起され、この電流が電流測定系90によって測定される。この二次電子の量は、プローブ80に対する荷電粒子の照射量に比例するため、バンチB内における荷電粒子密度が一様であるとすると、図9においてはプローブ80におけるビームに照射された範囲の長さ、すなわちプローブ80が設置された位置におけるビームのy方向に沿った幅に比例し、例えばプローブ80がaの位置にある場合の電流強度をI、bの位置にある場合の電流強度をIとすると、I>Iとなる。
【0006】
このため、図9に示されるように、プローブ80を例えばx方向正側から負側に移動させ、これに応じてプローブ80に流れる電流(電流強度)を測定することができ、図中下側に示されたような、x方向のビームプロファイルが電流強度分布として測定される。なお、プローブ80を移動させる代わりにx方向に沿って複数のプローブ80を設け、それぞれにおける電流強度を測定することによりx方向に沿った電流強度分布を測定してもよい。また、x方向に延伸するプローブ80をy方向に沿って移動させる、又はy方向に沿って複数設けることによって、同様にy方向のビームプロファイルも測定される。プローブ80は測定の分解能を高めるためには細いことが好ましく、1mm以下の直径とされる。
【0007】
プローブ80は上記の態様で用いられ、かつ高エネルギーの荷電粒子に照射されるために、機械的、熱的負荷によって使用時に断線しやすい。このため、これを構成する材料に要求される特性としては、導電性が高いことの他に、機械的強度が高いこと、耐熱性が高いことがある。このような要求を満たす材料としては、例えばタングステン(W)がある。一方、Wは密度が高いためにビームのエネルギー損失(プローブの吸収するエネルギー)が大きく、かつ熱伝導率が低いため、ビーム強度が高い場合や、ビームが低速でプローブとの相互作用による熱負荷が大きくなる場合には、プローブであるW製ワイヤの断線を生ずる場合がある。このため、上記のような場合には、Wに代わる材料として、導電性であり、より低密度で同等に機械的強度、耐熱性の高いカーボンナノチューブ(CNT)が用いられている。これによって、Wを使用した場合よりも、よりビームからの熱負荷が大きな場合における測定が可能となる。
【0008】
一方、縦方向のビームプロファイルを測定する手法は、例えば非特許文献1に記載されている。図10は、その原理を単純化して示す。ここで、図8におけるz方向は上下方向とされている。この場合にも導電性のプローブ(ワイヤ)180が用いられるが、このプローブ180は図10において紙面垂直方向に延伸するため、図10においては点状に記載されている。前記と同様に荷電粒子の照射によってこのプローブ180から二次電子が発せられるが、この測定手法においては、プローブ180から外部に発せられた二次電子が測定される。
【0009】
このため、プローブ180には二次電子を放射させるための負電位が印加される。この二次電子は全方位に向けて発せられ、そのうちの一部である二次電子Sがコリメータ120を通過した後に、1組のRF(高周波)デフレクタ電極130間を通過する。RFデフレクタ電極130間には、この二次電子Sを下流のコリメータ140上に収束させるような静電レンズ電圧に対して加速器の加速周波数(バンチBの繰り返し周波数)で変化する交流電圧が重畳された電圧が印加される。このため、二次電子Sは、コリメータ140の面上を、加速時の位相に応じて走査される。これによって、特定の位相における二次電子Sのみがコリメータ140を通過し、これを電子検出器150で検出することができる。この位相は、図8におけるバンチB内のz方向(縦方向)に沿った位置に対応する。
【0010】
実際にはプローブ180から前記のように荷電粒子によって発生した二次電子の他に、本来は測定の対象とすべきでないバックグラウンド電子も同時に発せられる。このような電子のエネルギーは測定すべき二次電子Sのエネルギーとは大きく異なるため、図10においては、コリメータ140の下流に偏向電磁石160が設けられ、これによって紙面と垂直な直流磁場が印加される。この磁場によって、測定の対象外とすべき電子は電子検出器150に入射せず、測定対象とすべき二次電子Sのみが電子検出器150に入射する軌道をとるように設定することができる。
【0011】
これによって、特定の位相の二次電子の強度を電子検出器150で測定することができ、位相毎の二次電子の強度を認識することによって、荷電粒子ビーム(バンチB)の縦方向のビームプロファイルが測定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】実用新案登録第3105335号
【非特許文献】
【0013】
【文献】三浦昭彦、Alexander V.Feschenko、Alexander N.Mirzojan、宮尾智章、大内伸夫、小栗英知、長谷川和男、池上雅紀、「J-PARC リニアック用バンチ・シェイプ・モニタの開発」、Proceedings of the 10th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan、SAP088、2013年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、横方向、縦方向のどちらにおいても導電性のプローブが用いられるため、原理的には、図9のプローブ80と図10のプローブ180を共通とすることも可能であり、この場合には、共通のプローブ(測定機器)を用いて、荷電粒子ビームの3次元(横方向及び縦方向)ビームプロファイルを測定することができる。このため、ビームからの相互作用による熱負荷が低い場合には、前記のようにW製のプローブを図9のプローブ80及び図10のプローブ180として用いることができた。
【0015】
一方、ビームとの間の相互作用による熱負荷が大きな場合には、前記のように、横方向のビームプロファイルの測定のためには、プローブ80を構成する材料として、CNTが好ましく用いられた。しかしながら、CNTは電子源となる電子放出材料として知られ、真空中で電圧を印加することによって多くの電子を発する。このため、CNTを図10のプローブ180の材料として用い、プローブ180に負電圧を印加した場合には、荷電粒子ビームの照射による二次電子以外にも多くの電子がプローブ180から放出された。このような測定の対象となる二次電子以外の電子は、測定のバックグラウンド成分となるだけでなく、プローブ180と周囲との間に放電を発生させる原因ともなり、この放電によってプローブ180が過熱して破断する場合もあり、二次電子の測定が困難であった。
【0016】
このため、荷電粒子ビームとの間の相互作用によるプローブの熱負荷が大きな場合であっても、荷電粒子ビームのビームプロファイルを安定して測定することは困難であった。
【0017】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のビームプロファイルモニタは、荷電粒子ビームの進行方向と交差する方向に延伸し、前記荷電粒子ビームに照射された際の特性によって前記荷電粒子ビームのビームプロファイルを測定するために用いられる導電性のプローブが用いられるビームプロファイルモニタであって、前記プローブが、モザイクスプレッド値が10°以下である高配向性グラファイトで構成され、前記進行方向は、前記高配向性グラファイトを構成するグラフェンシートの面内方向とされたことを特徴とする
本発明のビームプロファイルモニタにおいて、前記プローブの延伸方向は、前記高配向性グラファイトを構成するグラフェンシートの面内方向とされたことを特徴とする。
本発明のビームプロファイルモニタは、荷電粒子ビームの進行方向と交差する方向に延伸し、前記荷電粒子ビームに照射された際の特性によって前記荷電粒子ビームのビームプロファイルを測定するために用いられる導電性のプローブが用いられるビームプロファイルモニタであって、熱伝導率において異方性をもち、熱伝導率が高い方向に沿った熱伝導率が1000W/(m・K)以上であるグラファイト材料で、前記プローブが構成され、前記進行方向が前記熱伝導率が高い方向とされたことを特徴とする。
本発明のビームプロファイルモニタは、前記プローブが前記荷電粒子ビームに照射された際に前記プローブに誘起される電流が、前記進行方向及び前記プローブの延伸方向と交差する方向に沿った前記プローブの位置に応じて測定されることによって、前記荷電粒子ビームの前記進行方向と垂直な方向におけるビームプロファイルが測定されることを特徴とする。
本発明のビームプロファイルモニタは、前記プローブが前記荷電粒子ビームに照射された際に前記プローブから発せられる二次電子の強度が、前記進行方向及び前記プローブの延伸方向と交差する方向に沿った前記プローブの位置に応じて測定されることによって、前記荷電粒子ビームの前記進行方向と垂直な方向におけるビームプロファイルが測定されることを特徴とする。
本発明のビームプロファイルモニタは、前記プローブが前記荷電粒子ビームに照射された際に前記プローブから発せられる二次電子の強度が、周期的に発せられる前記荷電粒子ビームにおける周期内の位相に応じて測定されることによって、前記荷電粒子ビームの前記進行方向に沿った方向におけるビームプロファイルが測定されることを特徴とする。
本発明のビームプロファイルモニタは、測定された前記荷電粒子ビームの前記進行方向と垂直な方向におけるビームプロファイルの、当該方向に沿った積分値より前記荷電粒子ビームの電流値を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は以上のように構成されているので、荷電粒子ビームとの間の相互作用によるプローブの熱負荷が大きな場合であっても、荷電粒子ビームのビームプロファイルを安定して測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係るビームプロファイルモニタの構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係るビームプロファイルモニタにおいて用いられるプローブの微細構造の典型的な2例を示す。
図3】高配向性グラファイトで構成されたプローブ(実施例)とCNTで構成されたワイヤ状プローブ(比較例)を真空中に設置した場合における圧力(a)、リーク電流(b)の印加電圧依存性を実測した結果である。
図4】実施例によって横方向(a)、縦方向(b)のビームプロファイルを実測した結果である。
図5】荷電粒子ビームの横方向のビームプロファイルを、プローブの誘起電流で測定した結果と、二次電子で測定した結果を比較した例である。
図6】従来の手法で測定した荷電粒子ビームの電流値と、本発明の実施の形態に係るビームプロファイルモニタを用いて測定した電流値とを比較した結果である。
図7】本発明の実施の形態に係るビームプロファイルモニタを用いて荷電粒子ビームの空間形状を測定した結果である。
図8】測定対象となる荷電粒子ビームが加速器から発せられる際の態様を模式的に示す図である。
図9】荷電粒子ビームの横方向のビームプロファイルをプローブを用いて測定する原理を示す図である。
図10】荷電粒子ビームの縦方向のビームプロファイルをプローブを用いて測定する際の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係るビームプロファイルモニタについて説明する。図1は、このビームプロファイルモニタ1の構成を模式的に示す図である。ここで、紙面垂直方向に延伸し内部が高真空又は超高真空とされたダクト20の内部を紙面垂直方向上向き又は下向きに荷電粒子ビームのバンチBが通過する。このバンチBがビームプロファイル(バンチB中の3次元荷電粒子分布)の測定対象となる。バンチBは線形加速器(LINAC)によって一定の発振周波数で発せられる。なお、図1においては便宜上x、y、z軸がダクト20(バンチB)から離間して示されているが、実際にはz軸はダクト20(バンチB)の紙面垂直な中心軸と一致する。
【0022】
ここでは、図9の構成と同様に、導電性のプローブ10A、10Bが用いられており、ビーム照射時において各々に誘起される電流が電流測定系90で測定可能とされる。ここで、y軸方向に沿って延伸するプローブ10Aはx方向で走査されることによってバンチBに照射され、この際の電流がモニターされることによってx方向のビームプロファイルが得られる。同様に、x軸方向に沿って延伸するプローブ10Bはy方向で走査されることによってバンチBに照射され、この際の電流がモニターされることによってy方向のビームプロファイルが得られる。この点については図9と同様である。ビームプロファイルを測定しない状態では、プローブ10Aはダクト20からみてx方向正側に、プローブ10Bはダクト20からみてy方向負側の真空中に待機している。これらの位置は、例えばmm単位で制御される。これによって、荷電粒子ビームの横方向(x方向、y方向)のビームプロファイルが測定される。
【0023】
一方、図1において、ダクト20よりも左側には、縦方向のビームプロファイルの測定のために、コリメータ30、RFデフレクタ電極40、コリメータ50、電子検出器60、偏向電磁石70が、それぞれ図10におけるコリメータ120、RFデフレクタ電極130、コリメータ140、電子検出器150、偏向電磁石160と同様に設けられている。縦方向のビームプロファイルの測定の際には、プローブ10A又はプローブ10Bは負電位が印加された状態で荷電粒子ビームに照射される位置に設置され、例えばプローブ10AによってバンチB内のx方向に沿った荷電粒子量の積分値に対応したビーム強度のz方向に沿った分布が測定される。同様にして、コリメータ30、RFデフレクタ電極40、コリメータ50、電子検出器60、偏向電磁石70をプローブ10Bに対向するよう配置することでバンチB内のy方向に沿った荷電粒子量の積分値に対応したビーム強度のz方向に沿った分布が測定される。この際の測定ポイントとなるバンチBのz方向に沿った位置は、図10の構成と同様に、RFデフレクタ電極130に印加される高周波の位相で調整される。すなわち、この構成によって二次電子Sの強度が電子検出器60で測定されることによって、荷電粒子ビームの縦方向(z方向)のビームプロファイルが測定される。この動作は、非特許文献1に記載されたとおりである。
【0024】
また、この際に、この二次電子Sの強度のプローブ10Aのx方向における位置依存性、プローブ10Bのy方向における位置依存性も測定することができる。これらは、それぞれ荷電粒子ビームのx方向のビームプロファイル、y方向のビームプロファイルに対応する。この際には、RFデフレクタ電極130に印加される高周波を調整することにより、これらの横方向のビームプロファイルを、z方向におけるある1点(ある位相)におけるものとすることができ、z方向における一定範囲(例えば1周期)における積分値とすることもできる。
【0025】
すなわち、図1のビームプロファイルモニタ1によって、横方向及び縦方向のビームプロファイルが、共通のプローブ10Aあるいはプローブ10Bを用いて測定される。ここで用いられるプローブ10A、10Bは荷電粒子ビームとの間の相互作用による熱負荷が特に大きな場合においても、このような測定が可能となるように構成されている。以下に、この点について説明する。
【0026】
プローブ10A、10Bは、高配向性グラファイトで構成される。高配向性グラファイトとは、グラフェンシートの層状構造に対応する配向性を強く有するグラファイトであり、一般的には、c軸方向の配向性が高いグラファイトである。具体的には、例えば特許第6364404号に記載されるように、X線回折におけるグラフェンのc軸ピークの半値幅に対応する角度(モザイクスプレッド)でこの配向性の度合いは表され、プローブ10A、10Bとして特に好ましいのは、モザイクスプレッドが10°以下である。このような配向性は、製造条件によって調整が可能である。
【0027】
ビームプロファイルモニタにおけるプローブの材料として用いられる材料として、上記のような高配向性グラファイト、CNT、タングステン(W)の3種類における密度、熱伝導率、融点について表1に示す。なお、CNTの熱伝導率はナノチューブの長さ方向では高配向性グラファイトの面内方向と同等以上であることが知られているが、ここで用いられるワイヤ(プローブ)の形態とされたものとしては、CNT粉末が焼結された形態のものしか実現できないため、実際の熱伝導率は低くなっている。
【0028】
【表1】
【0029】
ここで示されるように、高配向性グラファイトにおいては、その配向性の高さに起因して各種特性の異方性が強く、積層構造の面内方向(グラフェンシートの積層方向であるc軸方向と垂直な方向)と積層方向では熱伝導率が大きく異なり、面内方向で特に熱伝導率が高い。このため、プローブ10A、10Bとしてこのような高配向性グラファイトを用いる場合には、その中のグラフェンの結晶方位はプローブ10A、10Bの態様に応じて、使用時に破断等が発生しにくいように設定することができる。
【0030】
図1においてプローブ10Aとプローブ10Bではその設置の向きが90°異なる点以外の差異はないため、以下では、プローブ10Aについてのみ説明する。高強度の荷電粒子ビームが照射される場合には、プローブ10Aは加熱されて高温のために破断しやすい。このような熱の影響を低減するためには、プローブ10Aの熱伝導率が高く放熱効率が高いことが好ましいが、この発熱は、荷電粒子ビームの入射方向(z方向)に沿って発生する。このため、z方向における熱伝導率が特に高いことが好ましい。
【0031】
前記のように、グラフェンシートの積層構造においては、グラフェンシートの面内方向に沿った熱伝導率が、その積層方向(c軸方向)に沿った熱伝導率よりも高い。このため、荷電粒子ビームの入射方向(z方向)をグラフェンの面内方向に一致させることが好ましい。
【0032】
この場合におけるプローブ10Aの典型的な微細構造を模式的に図2(a)(b)に示す。ここでは、単層のグラフェンシートGが積層された構造が模式的に示されている。ここでは、プローブ10Aが理想的なグラフェンの積層構造である(モザイクスプレッドが零である)ものとしている。どちらにおいても、グラフェンシートGの面と垂直な断面が示されている。グラフェンシートGが積層される方向がc軸方向であり、図2(a)においてはc軸方向はx方向(プローブ10Aの延伸方向及び荷電粒子ビームの進行方向と垂直な方向)となり、図2(b)においてはc軸方向はy方向(プローブ10Aの延伸方向)と一致する。
【0033】
一方で、グラフェンの積層構造においては、機械的強度にも大きな異方性がある。グラフェンシートGはその面内方向は炭素結合で構成されるために機械的強度が高いのに対して、c軸方向ではグラフェンシートGは分子間力によって結合されるため、機械的強度は低い。このため、図2(b)の構造では、プローブ10Aの延伸方向(y方向)における機械的強度が低くなり、プローブ10Aが折損しやすい。これに対して、図2(a)の構造では、延伸方向がグラフェンシートGの面内方向となるため、延伸方向に沿った機械的強度が高くなる。また、図1に示されるように、プローブ10Aは真空中で延伸方向(y方向)の両端を固定されて設けられるため、放熱効率を高めるためには、y方向における熱伝導率が特に高いことが好ましい。図2(a)の構造においては、y方向もグラフェンシートGの面内方向となるため、y方向に沿った熱伝導率を高くすることができる。
【0034】
このため、プローブ10Aとしては、図2(a)の構造が特に好ましい。なお、このような構造のプローブ10Aの具体的形状は、延伸方向の周りに対称な形状となる円柱形状である必要はなく、少なくとも一つの面がグラフェンシートGの表面と一致した細長い矩形体形状であってもよく、その加工方向は形状に応じて適宜設定される。高配向性グラファイトにおいては、配向性が高いためにこうした設定が可能となる。すなわち、プローブ10A、10Bとしては幅の狭い薄膜状のシートを用いることができる。
【0035】
図2においては、上記のようなプローブ10A、10Bを構成するグラファイトが理想的なグラフェンシートGの積層体であるものとして記載されており、これは前記のモザイクスプレッドが零である場合に対応する。一方、熱伝導率に異方性がない一般的なグラファイトの熱伝導率は100W/(m・K)であるのに対し、表1における高配向性グラファイトの熱伝導率は面内方向(z方向とすべき方向)ではこれよりも大幅に高く、かつ積層方向ではこれよりも大幅に低い。より一般的には、前記のように特定の方向(z方向とすべき方向)に沿った熱伝導率が高いグラファイトであれば、プローブ10A、10Bを構成する材料として同様に用いることができる。
【0036】
このために要求される一般的な特性としては、このグラファイトにおいては熱伝導率に異方性があり、熱伝導率が高くなる方向(上記の面内方向に対応)での熱伝導率が1000W/(m・K)以上であることがある。例として、熱伝導率の高い金属材料である銅の熱伝導率には異方性がなく、その値は403W/(m・K)であり、1000W/(m・K)よりも大幅に低い。このため、こうした特性のグラファイト材料を、プローブ10A、10Bを構成する材料として用い、熱伝導率が高い方向を荷電粒子ビームの進行方向と整合させれば、モザイクスプレッドによらず、有効であることは明らかである。
【0037】
以下に、実際に上記のような高配向性グラファイトを用いたプローブを図1の構成において用いた際の特性について説明する。ここで用いられた高配向性グラファイトのモザイクスプレッドは約5°、平均粒径は500μm程度である。ここでは、前記のように高強度の荷電粒子ビームの横方向のビームプロファイルを測定する際のプローブの材料として特に好適であるCNTとの比較結果について説明する。ここで、プローブの両端はプローブよりも十分に広いタングステン板に固定され、これによってプローブに誘起された電流が測定された。
【0038】
図3(a)(b)は、これらの材料で構成されたプローブを真空中で保持し、負電圧を印加した際の圧力変化(a)と、リーク電流(b)を測定した結果である。ここでリーク電流は、プローブの両端間に流れる電流とは別の、放電に起因する電流である。ここでは、長さが50mmの高配向性グラファイト(HOPG)で構成されたプローブ(実施例)と、長さが16~125mmのCNTのプローブ(比較例)が用いられた。HOPGにおけるc軸の向きは荷電粒子ビームの入射方向とされた。
【0039】
図3(a)(b)より、CNTでは高電圧の印加時において特に圧力上昇及びリーク電流値の上昇が顕著となる。これは、電圧印加に伴うCNTからの電子放出(フィールドエミッション)に起因する。このため、CNT製のプローブでは例えば10kVの負電圧を印加することは困難である。これに対して、HOPG製のプローブにおいては、圧力上昇、リーク電流共に小さく抑えられ、放電を発生させずに10kV程度の電圧が印加可能である。
【0040】
図4は、実際に上記の高配向性グラファイトを用いたプローブ10Aを用いて、前記のように電流測定系90を用いてプローブ10Aに流れる電流を測定することによって横方向(x方向)のビームプロファイルを測定した結果(a)と、縦方向(z方向)のビームプロファイルを特定した結果(b)である。ここでは、図4(a)では、プローブ10Aの幅は1mmとされ、この幅に対応した位置分解能は、横方向で300μm程度となる。図4(b)では、プローブ10Aの幅は0.2mmとされ、縦方向のビームプロファイル測定時における印加電圧は-10kVとされた。荷電粒子ビームは、エネルギー3MeV、ピーク電流55mAの負水素イオンビームであり、線形加速器の発振周波数は324MHzである。
【0041】
横方向のビームプロファイルを示す図4(a)においては、高配向性グラファイト製のプローブによる測定結果(ビーム強度分布と標準偏差σ)と、CNT製のプローブによる測定結果が、シミュレーションによって得られた結果と共に示されている。この結果より、高配向性グラファイト製のプローブによる測定結果とCNT製のプローブによる測定結果は誤差範囲内で一致しており、これらの結果は実際のビームプロファイルを反映していると推定される。なお、この測定時においてはプローブに高電圧は印加されず、測定後においてはどちらのプローブにおいても異常は発生せず、この測定を繰り返し行うことができた。
【0042】
一方、縦方向のビームプロファイルを示す図4(b)においては、-10kVの電圧印加によってCNT製のプローブが破断して測定が不可能であったために、高配向性グラファイト製のプローブによる測定結果とシミュレーションによって得られた結果のみが示されている。ここで、前記の発振周波数に対応して、位相における1°の幅は8.6psの時間幅に対応する。縦方向の分解能はRFデフレクタ40による二次電子の偏向角、収束径等に依存して定まり、1°程度である。実測値とシミュレーション結果は高精度で一致しており、高配向性グラファイト製のプローブを用いて、横方向だけでなく縦方向のビームプロファイルの測定も可能であることが確認された。この条件における照射時のプローブ(幅0.2mm)の吸収エネルギーは、3ns毎に照射されるバンチの集合体(マクロバンチ)で、長さ50μsの単位マクロバンチあたり0.3Jである。
【0043】
このように、高配向性グラファイトを用いたプローブを用いたビームプロファイルモニタによって、荷電粒子ビームにおける横方向と縦方向のビームプロファイルを測定できる。電子、陽電子、中間子、ミュオン、陽子、各種のイオン(軽イオン、重イオン)等のビーム、及び同等の相互作用をする電磁波を測定対象とすることができ、ビーム強度が高い場合や低速でビーム相互作用による熱負荷が大きな場合でも、ビームプロファイルの測定を行うことができる。プローブの長さ、径(幅)等は、荷電粒子ビームの広がりや機器構成等に応じて適宜設定が可能である。
【0044】
図4(a)では、プローブ10Aに流れる電流を電流測定系90で測定することによってx方向に沿ったビームプロファイルが測定された。一方、前記のように、横方向(x方向)のビームプロファイルも、プローブ10Aに流れる電流を測定する代わりに、プローブ10Aから発せられる二次電子を電子検出器60で測定することによって測定することができる。図5は、このように横方向プロファイルを前記のようにプローブの誘起電流で測定した結果と、同じ横方向プロファイルを二次電子で測定した結果を比較した例である。この結果より、両者には有意な差はなく、どちらによっても横方向プロファイルを得ることができる。
【0045】
また、荷電粒子ビームの電流値は、例えば、大森千広、金澤光隆、「シンクロトロンの新ビームモニター」、放医研NEWS、No.135、2008年2月(https://www.nirs.qst.go.jp/publication/nirs_news/200802/hik08p.htm)に記載されるように、一般的には荷電粒子ビームによる電流によって発生した磁場を計測することによって測定される。しかしながら、例えば上記のように横方向、縦方向のビームプロファイルが測定できれば、これらの3次元積分量をビーム電流に対応させることができる。あるいは、前記のように横方向のビームプロファイルを1周期における積分値とすれば、この横方向のビームプロファイルの積分値が電流値に対応する。すなわち、上記のビームプロファイルモニタを、荷電粒子ビームの電流値測定にも用いることができる。
【0046】
図6は、従来の手法で測定した荷電粒子ビームの電流値と、上記のビームプロファイルモニタを用いてこのように算出した電流値の対応を示す。ここで、低電流では上記のビームプロファイルモニタを用いて測定した電流値の方が小さめの値となっている。この原因は、上記のビームプロファイルモニタを用いた場合には、図5に示されたように本来の荷電粒子ビームのビーム形状であるガウス分布の積分値として電流値が算出されるところ、従来の手法では、このようなガウス分布の成分以外の成分(ハロー成分)も区別なく測定されることに起因する。実際に加速器が用いられる際にはこのハロー成分は後で除去される、あるいはこの荷電粒子ビームが用いられる実験結果には寄与せず、ガウス分布の成分のみが重要となる。このため、上記のビームプロファイルモニタによって、このように実質的に有効となる成分のみの電流値が測定され、この点において従来の手法よりも実用上好ましい。
【0047】
また、前記のように、横方向(x方向、y方向)と縦方向(z方向)のビームプロファイルが共に測定されれば、最終的に荷電粒子ビームの空間形状が測定される。すなわち、高周波の位相を調整してz方向のビームプロファイルを取得する作業をx方向(あるいはy方向)の位置毎に取得すれば、この空間形状が測定できる。図7は、この測定結果であり、縦軸がx方向の位置に対応し、横軸は位相に対応した時間でありz軸の位置に対応する。この形状は単一バンチのxz平面内の形状に対応する。
【0048】
ここで、図1において、プローブ10Aが発した二次電子の電子検出器60までの走行距離にはx方向の位置依存性がある。この二次電子のエネルギーは荷電粒子ビームのエネルギーと比べて低いため、この走行距離が長い場合には走行距離が短い場合と比べて電子検出器60で有意に遅れて検出される。図7においては、この時間差の影響は補正されている。
【0049】
図5~7で示されたような測定結果は、図3で示されたように圧力上昇やリーク電流の増大を発生させないHOPGで構成されたプローブを用いた場合においてのみ得られた。
【0050】
また、上記の例では、荷電粒子ビームの進行方向、プローブの延伸方向、横方向のビームプロファイルを測定する際のプローブの走査方向が互いに垂直とされた。しかしながら、これらの間が厳密に垂直である必要はなく、これらが垂直でない角度で交差していても、同様に測定を行うことができる。すなわち、これらの関係も、同様にビームプロファイルの測定が行える限りにおいて、適宜設定が可能である。
【0051】
また、横方向のビームプロファイルを測定するためにプローブに誘起された電流を測定するための構成、縦方向のビームプロファイルを測定するためにプローブから発せられた二次電子を測定するための構成としては、それぞれ図1、9、10に記載されたものとは異なるものを用いることもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 ビームプロファイルモニタ
10A、10B プローブ
20 ダクト
30、50、120、140 コリメータ
40、130 RFデフレクタ電極
60、150 電子検出器
70、160 偏向電磁石
80、180 プローブ(ワイヤ)
90 電流測定系
B バンチ
G 単層グラフェンシート
S 二次電子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10