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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】電力変換装置及び発電システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241002BHJP
【FI】
H02M7/48 R
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021512143
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014703
(87)【国際公開番号】W WO2020204010
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019067353
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 良和
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-244513(JP,A)
【文献】特開平10-042569(JP,A)
【文献】特開2009-219238(JP,A)
【文献】国際公開第2019/182161(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/051500(WO,A1)
【文献】特開2004-208494(JP,A)
【文献】特開2012-016104(JP,A)
【文献】特開2001-268798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 - 7/98
H02J 3/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連系インピーダンスを介して電力系統に接続された電力変換装置であって、
周波数13kHz以上のスイッチング周期でスイッチがスイッチングすることで、前記連系インピーダンスを介して前記電力系統に前記スイッチング周期で異なる幅のパルスの電力を出力する変換器と、
前記電力変換装置と前記電力系統の連系点の電圧を検出する電圧検出器と、
前記スイッチング周期に対応して所定期間移動平均した前記電圧検出器の出力電圧に基づいて、前記変換器を制御する制御装置と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記出力電圧に基づいて瞬時電圧を算出し、前記瞬時電圧から前記変換器の電圧指令値を生成する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記出力電圧の実数倍の値を有効電流指令値としている、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記出力電圧の実数倍の値を電流指令値とし、前記電流指令値に基づいて瞬時電圧を算出し、前記瞬時電圧から前記変換器の電圧指令値を生成する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
連系インピーダンスを介して交流電圧源として機能するシステムに接続された電力変換装置であって、
周波数13kHz以上の一定周期で異なる幅のパルスの電力を出力するようにスイッチングするスイッチを有し、所定交流電圧を出力する変換器と、
前記システムのシステム電圧を検出する電圧検出器と、
前記変換器を制御する制御装置とを備え、
前記電圧検出器は、前記変換器が接続された前記システムの所定箇所の電圧値を検出する検出手段と、前記検出手段の出力電圧を、前記一定周期の1周期分又は数周期分の期間、移動平均する又は移動平均の近似値を算出するフィルタリング手段を有することを特徴とする
電力変換装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記システム電圧に、有効電力を出力するための有効電力成分電圧指令値及び無効電力を出力するための無効電力成分電圧指令値の少なくとも1つ以上を加算して、電圧指令値を算出する電圧指令値生成手段を有する
請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
連系インピーダンスを介して電力系統に接続された電力変換装置であって、
所定交流電圧を出力する変換器と、
前記電力系統の系統電圧を検出する系統電圧検出装置と、
パルス幅変調制御により前記変換器を制御する制御装置とを備え、
前記系統電圧検出装置は、検出した電圧について前記パルス幅変調制御に用いる搬送波の1周期分又は数周期分の期間の移動平均を算出することで前記系統電圧を検出し、
前記制御装置は、移動平均により算出された前記系統電圧に基づいて、前記変換器の電圧指令値を算出する機能を有する
電力変換装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記系統電圧に、有効電力を出力するための有効電力成分電圧指令値及び無効電力を出力するための無効電力成分電圧指令値の少なくとも1つ以上を加算して、前記電圧指令値を算出する電圧指令値生成手段を有する
請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御装置は、
実数倍した前記系統電圧を前記無効電力成分電圧指令値とし、
前記系統電圧を電流指令値として有効電力成分電圧指令値を算出する機能を有する
請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記系統電圧を時間微分することで、前記有効電力成分電圧指令値を
算出する機能を有する
請求項8又は9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記有効電力成分電圧指令値は、前記系統電圧から1/4周期位相がずれている
請求項8~10のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記制御装置は、前記系統電圧を連系インピーダンス値で除算した電圧を時間微分することで前記有効電力成分電圧指令値を算出する微分演算手段を有する
請求項8~11のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記系統電圧に基づいて、ベクトル制御により前記電圧指令値を算出するベクトル制御手段である
請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記系統電圧のピーク値を算出し、前記電力系統の定格電圧と前記ピーク値との差分を前記系統電圧に加算することで、前記系統電圧と前記定格電圧との差分を補償する電圧補償部を備える
請求項7~12のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記制御装置は、前記系統電圧を時間微分することで、前記無効電力成分電圧指令値及び前記有効電力成分電圧指令値を算出する機能を有する
請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記制御装置は、実数倍した前記系統電圧に基づいて算出された有効電流指令実効値を時間微分することで前記有効電力成分電圧指令値を算出する有効分演算手段を備える
請求項8又は15に記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記有効分演算手段は、前記有効電流指令実効値を微分し、微分した前記有効電流指令実効値と前記連系インピーダンスのインダクタンス値の積と、前記有効電流指令実効値と前記連系インピーダンスの抵抗値の積とを加算して前記有効電力成分電圧指令値を算出する微分演算手段を有する
請求項16に記載の電力変換装置。
【請求項18】
前記制御装置は、三相二相変換した後に、回転行列を使って90度位相を回転させて、さらに二相三相変換を行うことで算出した90度位相が進んだ前記系統電圧に基づいて算出された無効電流指令実効値を時間微分することで前記無効電力成分電圧指令値を算出する無効分演算手段を備える
請求項8又は15に記載の電力変換装置。
【請求項19】
前記無効分演算手段は、前記無効電流指令実効値を微分し、微分した前記無効電流指令実効値と前記連系インピーダンスのインダクタンス値の積と、前記無効電流指令実効値と前記連系インピーダンスの抵抗値の積とを加算して前記無効電力成分電圧指令値を算出する微分演算手段を有する
請求項18に記載の電力変換装置。
【請求項20】
前記制御装置が、前記系統電圧と、前記電力系統の定格相電圧とに基づいて、前記有効電流指令実効値を補償する電圧補償値を算出する電圧補償値演算手段を備える
請求項16又は17に記載の電力変換装置。
【請求項21】
前記制御装置が、前記系統電圧と、前記電力系統の定格相電圧とに基づいて、前記無効電流指令実効値を補償する電圧補償値を算出する電圧補償値演算手段を備える
請求項18又は19に記載の電力変換装置。
【請求項22】
前記システム電圧の実数倍の値を電流指令値としている
請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項23】
実数倍した前記システム電圧の微分値又は不完全微分値と、前記連系インピーダンスのインダクタンス値との積を算出する微分演算手段を有する
請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項24】
実数倍し、位相を90度進めた又は90度遅らせた前記システム電圧の微分値又は不完全微分値と、前記連系インピーダンスのインダクタンス値との積を算出する微分演算手段を有する
請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項25】
前記系統電圧の実数倍の値を電流指令値としている
請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項26】
実数倍した前記系統電圧の微分値又は不完全微分値と、前記連系インピーダンスのインダクタンス値との積を算出する微分演算手段を有する
請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項27】
実数倍し、位相を90度進めた又は90度遅らせた前記系統電圧の微分値又は不完全微分値と、前記連系インピーダンスのインダクタンス値との積を算出する微分演算手段を有する
請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項28】
連系インピーダンスを介して電力系統に接続された電力変換装置であって、
所定のスイッチング周期でスイッチがスイッチングし、前記連系インピーダンスを介して前記電力系統に電力を出力する変換器と、
前記電力変換装置と前記電力系統の連系点の電圧を検出する電圧検出器と、
前記スイッチング周期に対応して所定期間移動平均した前記電圧検出器の出力電圧に基づいて、前記変換器を制御する制御装置と、
を備え、
前記出力電圧の実数倍の値を有効電流指令値としている電力変換装置。
【請求項29】
請求項1~2のいずれか1項に記載の電力変換装置を備える発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置及び発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーとして風力や太陽光などが注目されている。風力や太陽光を利用して発電する発電装置では、発電された直流電力を、パワーコンディショナーと呼ばれる電力変換装置を用いて交流電力に変換して電力系統に出力している。例えば、太陽光発電用の電力変換装置には、コンバータが備えられ、発電された直流電力を、電力変換装置の直流部に供給して、該直流電圧を所定の交流波形にコンバータで整形している。このとき、インピーダンスを介して系統に接続されたコンバータが、系統電圧と電力変換装置の出力電圧との間に所定の差電圧が生じるように当該出力電圧を制御することで、発電装置で発電された有効電力を電力系統に供給できる。
【0003】
このような電力変換装置では、系統事故などで電力系統の位相が変化すると、電力変換装置の出力電圧との差電圧が大きくなり、電力変換装置に過電流が流れ、故障する恐れがある。そのため、電力変換装置を故障することなく長時間運転させるためには、系統事故発生時に速やかに電力変換装置を電力系統から切り離すなど、何らかの施策が必要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、電力系統の電圧を検出し、検出した電力系統の電圧に基づいて、保護停止すべき系統事故か否か判断し、保護停止すべきと判断されたときに運転を停止する電力変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-268798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常の電力変換装置はパルス電圧もしくは、パルス電圧を合成した電圧を出力する。したがって、電力変換装置の出力には、振動成分(リプルともいう)が重畳する。その結果、電力系統にもリプルが重畳する。電力系統と電力変換器の連系点電圧などを検出して、それを電力変換器制御に活用する場合、検出値からリプル成分を除去するのが好ましい。例えば、電力変換装置に一次遅れのローパスフィルタを設け、連系点電圧を検出する電圧検出器の出力をフィルタに通すことで、電圧検出器の出力のリプルを除去できる。この場合、ローパスフィルタの時定数を小さく設定すると、ローパスフィルタの出力、すなわち、検出電圧に生じる検出遅れは小さいが、検出電圧にリプルが残る。一方でローパスフィルタの時定数を大きく設定すると、検出電圧のリプルは小さくなるが、検出遅れが大きくなる。
【0007】
そのため、一次遅れのローパスフィルタを用いた場合、時定数を小さくすると、検出遅れを小さくできるが、リプルを除去できず、時定数を大きくすると、リプルを除去できるが、検出遅れが大きくなる。特許文献1には、検出電圧のリプルを除去することについて言及されていない。そのため、時定数が大きく設定され、電力変換装置の電圧指令をゼロにしても電力変換装置から電流が流れたり、系統電圧の位相が大きく変換した場合には、急激な電圧の変化に追随できず、過電流が流れたりする恐れがある。また、時定数が小さく設定され、リプルが除去されておらず、リプルにより、電力変換装置を停止するか否かを誤検出する恐れがある。このように、一次遅れのローパスフィルタを用いた手法では、時定数の設定いかんで、過電流や誤動作の恐れがあり、検出した電圧の検出遅れ及びリプルを抑制できる電力変換装置が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、検出した電圧のリプル及び検出遅れを抑制できる電力変換装置及び発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電力変換装置は、連系インピーダンスを介して電力系統に接続された電力変換装置であって、所定のスイッチング周期でスイッチがスイッチングし、前記連系インピーダンスを介して前記電力系統に電力を出力する変換器と、前記電力変換装置と前記電力系統の連系点の電圧を検出する電圧検出器と、前記スイッチング周期に対応して所定期間移動平均した前記電圧検出器の出力電圧に基づいて、前記変換器を制御する制御装置と、を備える。
【0010】
本発明による電力変換装置は、連系インピーダンスを介して交流電圧源として機能するシステムに接続された電力変換装置であって、大略一定周期で異なる幅のパルスを出力するようにスイッチングするスイッチを有し、所定交流電圧を出力する変換器と、前記システムのシステム電圧を検出する電圧検出器と、前記変換器を制御する制御装置とを備え、前記電圧検出器は、前記変換器が接続された前記システムの所定箇所の電圧値を検出する検出手段と、前記検出手段の出力電圧を、一定周期の1周期分又は数周期分の期間、移動平均する又は移動平均の近似値を算出するフィルタリング手段を有することを特徴とする。
【0011】
本発明による電力変換装置は、連系インピーダンスを介して電力系統に接続された電力変換装置であって、所定交流電圧を出力する変換器と、前記電力系統の系統電圧を検出する系統電圧検出装置と、パルス幅変調制御により前記変換器を制御する制御装置とを備え、前記系統電圧検出装置は、検出した電圧について前記パルス幅変調制御に用いる搬送波の1周期分又は数周期分の期間の移動平均を算出することで前記系統電圧を検出し、前記制御装置は、移動平均により算出された前記系統電圧に基づいて、前記変換器の電圧指令値を算出する機能を有する。
【0012】
本発明による発電システムは、上記の電力変換装置を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検出した電圧のリプル及び検出遅れを抑制できる。とくに、パルス幅変調制御に用いる搬送波の1周期分の期間の移動平均を算出して電圧を検出することでよりリプル及び検出遅れを抑制できる。
また、パルス幅変調制御に用いる搬送波の数周期分の期間の移動平均を算出して電圧を検出することでよりリプル及び検出遅れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態の電力変換装置を備える発電システムの一例を示す概略図である。
図2図2Aは、アナログ演算による連系点電圧検出装置の構成を示す概略図であり、図2Bは、デジタル演算による連系点電圧検出装置の構成を示す概略図である。
図3】本発明の第1実施形態の電力変換装置の制御装置を示す概略図である。
図4】本発明の第2実施形態の制御装置を示す概略図である。
図5】本発明の第2実施形態の変形例の制御装置の一部を拡大して示す概略図である。
図6】本発明の第2実施形態の変形例の制御装置が備える電圧補償値演算ブロックを示す概略図である。
図7】本発明の第4実施形態の電力変換装置を備える発電システムの一例を示す概略図である。
図8】本発明の第4実施形態の電力変換装置の制御装置を示す概略図である。
図9】本発明の第5実施形態の電力変換装置を備える発電システムの一例を示す概略図である。
図10】本発明の第5実施形態の電力変換装置の電圧補償部を示す概略図である。
図11図11Aは、第1実施形態の電力変換装置のシミュレーションにより算出した、連系点電圧検出装置で検出した連系点電圧を示すグラフであり、図11Bは、第1実施形態の電力変換装置のシミュレーションにより算出した、連系点電圧のフィードフォワードのみの場合の電力変換装置の出力電流を示すグラフである。
図12】第2実施形態の変形例の電力変換装置の系統電圧の位相跳躍に対する動作のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)第1実施形態
(1-1)本発明の第1実施形態の電力変換装置を備える発電システムの全体構成
第1実施形態では、発電システムに用いる場合を例にして第1実施形態の電力変換装置を説明する。まず、発電システムの構成について説明する。図1に示すように、発電システム100は、電力系統50を介して交流電圧源55(3相交流の無限大母線とする)に連系されている。電力系統50は、交流電圧源として機能するシステムである。発電システム100は、有効電力源15と電力変換装置10とを備えており、有効電力源15が電力変換装置10に直流配線により接続されている。有効電力源15は、風力発電装置や太陽光発電装置などの発電装置である。電力変換装置10は、連系インピーダンスとしてのリアクトル17R、17S、17Tを介して、端子LPR、LPS、LPT(以下、連系点ともいう)で電力系統50の各相に連系されている。電力変換装置10の構成は後述する。なお、本実施形態では、交流電圧の周波数が50Hzの交流電圧源55及び電力系統50を想定している。
【0016】
発電システム100の動作について説明する。発電システム100では、有効電力源15が直流電力を発電し、直流電圧を電力変換装置10に出力する。発電システム100は、風力発電のように、交流で発電して、それを直流に電力変換するものや、電力を授受するバッテリシステムでも構わない。前者の場合、有効電力源15として、風力発電装置がAC-DCを介して電力変換装置10に接続され、後者の場合、有効電力源15として、例えば2次電池などの充放電可能なバッテリが電力変換装置10に接続される。このように、有効電力源15は有効電力を電力変換装置10に供給する。
【0017】
電力変換装置10は、有効電力源15から供給された直流電圧を交流電圧に変換し、変換した交流電圧を電力系統50へ出力する。これにより、電力変換装置10は、交流電圧源55との間で電力系統50を介して有効電力や無効電力を授受する。また、電力系統50は、電線などで構成されているため、実際にはインピーダンス成分を有している。そのため、図1では、電力系統50の各相のインピーダンス成分53R、53S、53Tを、抵抗成分51R、51S、51Tとリアクタンス成分52R、52S、52Tとして示している。
【0018】
(1-2)本発明の第1実施形態の電力変換装置の構成
次に、電力変換装置10の構成について説明する。図1に示すように、電力変換装置10は、変換器11と、リアクトル17R、17S、17Tと、連系点電圧検出装置20と、制御装置30と、コンデンサ電圧検出器43とを備えている。制御装置30の構成は後述する。
【0019】
まず、変換器11の構成を説明する。変換器11は、三相フルブリッジ回路構成の変換器である。変換器11は、R相変換部11Rと、S相変換部11Sと、T相変換部11Tと、コンデンサ(直流コンデンサ)14と、正側入力端子Pと、負側入力端子Nとを備えている。変換器11は、R相変換部11R、S相変換部11S、T相変換部11T及びコンデンサ14が、正側入力端子Pと負側入力端子Nの間で並列に接続された構成をしている。変換器11は、正側入力端子Pと負側入力端子Nとに有効電力源15が接続されている。コンデンサ14は直流コンデンサであり、コンデンサ14の定格電圧は出力したい有効電力や無効電力の大きさに基づいて適宜選定される。
【0020】
R相変換部11R、S相変換部11S及びT相変換部11Tは、ハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lが直列に接続され、ハイサイドスイッチ12H側が正側入力端子Pに接続され、ローサイドスイッチ12L側が負側入力端子Nに接続されている。R相変換部11Rは、ハイサイドスイッチ12Hとローサイドスイッチ12Lの間の接続点に出力端子13Rが設けられ、S相変換部11Sは、ハイサイドスイッチ12Hとローサイドスイッチ12Lとの間の接続点に出力端子13Sが設けられ、T相変換部11Tは、ハイサイドスイッチ12Hとローサイドスイッチ12Lとの間の接続点に出力端子13Tが設けられている。
【0021】
電力変換装置10は、R相変換部11Rの出力端子13Rがリアクトル17R、端子LPRを介して電力系統50のu相に接続され、S相変換部11Sの出力端子13Sがリアクトル17S、端子LPSを介して電力系統50のv相に接続され、T相変換部11Tの出力端子13Tがリアクトル17T、端子LPTを介して電力系統50のw相に接続され、電力系統50に連系されている。
【0022】
ハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lは、例えば、IGBTなどでなるスイッチング素子と、還流ダイオードとで構成される。第1実施形態では、ハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lは、スイッチング素子の正側(IGBTのコレクタ)と還流ダイオードの負側とが接続され、スイッチング素子の負側(IGBTのエミッタ)と還流ダイオードの正側とが接続された、スイッチング素子及び還流ダイオードが逆並列に接続された構成である。
【0023】
このように、ハイサイドスイッチ12H、ローサイドスイッチ12Lは、スイッチング素子及び還流ダイオードを逆並列に接続することで、ハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lの負側から正側に電圧が印加されたとき、還流ダイオードに電流が流れるようにし、スイッチング素子であるIGBTのエミッタからコレクタに電流が流れることを防止して、IGBTを保護できる。また、ハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lは、例えばSiC(シリコンカーバイド)のMOS―FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:MOS型の電界効果トランジスタ)や、GaN(窒化ガリウム)でなるFET(電界効果型トランジスタ)やSi(シリコン)上に形成されたGaNでなるFETなどのスイッチング素子で構成されていてもよい。これらのスイッチは、大略一定周期で異なる幅のパルスを出力するようにスイッチングされる。
【0024】
次に、系統電圧検出装置としての連系点電圧検出装置20の構成を、図2Aを参照して説明する。図2Aに示すように、連系点電圧検出装置20は、電圧検出器(検出手段)41と、フィルタリング手段21とを備える。連系点電圧検出装置20は、電圧検出器41で電力系統50の各相の電圧を検出し、フィルタリング手段21で検出した各相の電圧を相毎に所定の期間移動平均し、移動平均した電圧を各相の系統電圧として、制御装置30に出力する。以下で、連系点電圧検出装置20の各部の構成を説明する。
【0025】
電圧検出器41は、電力系統50の所定箇所に設けられ、所定箇所の電圧を検出する。本実施形態では、電圧検出器41は、R相検出部、S相検出部及びT相検出部(図2Aには不図示)を有し、R相検出部、S相検出部及びT相検出部が測定端子41aを介して電力変換装置10のR相、S相及びT相と電力系統50のu相、v相及びw相との連系点にそれぞれ接続されている。測定端子41aは、2つの端子で構成されており、一方の端子が連系点に接続され、他方の端子が基準電位に接続されている。測定端子41aは、各相にそれぞれ1つずつ設けられているが、図2Aでは、便宜上、1つの測定端子41aのみを示している。電圧検出器41は、R相検出部、S相検出部及びT相検出部が、基準電位を基準とした端子LPR、LPS、LPT(以下、連系点ともいう)の電位をそれぞれ検出する。このように、電圧検出器41は、連系点の電圧を検出する。電圧検出器41が検出した電圧は、交流中性点を基準電位とした電圧であり、電力系統50の各相の相電圧に相当する電圧である。電圧検出は前記に限らず、線間電圧を検出してもよい。
【0026】
フィルタリング手段21は、変換器11のスイッチングに伴うリプル成分を除去することを目的として、電圧検出器41の出力の移動平均を行う。移動平均は、フィルタリング手段21のみで実施しても、後段の制御装置30との組合せで実行してもよい。また、フィルタリング手段21は、当該移動平均の近似値を算出してもよい。近似値は、例えば、移動平均の窓(期間)が制御装置の演算周期の整数倍でないことで、多少の誤差(例えば±3%)を含む場合など誤差を含む値を意味する。そのような場合でも、運転性能が若干下がるが、電力変換装置を運用することが可能である。
【0027】
変換器11の各スイッチングが三角波比較方式のPWM(パルス幅変調)制御にて駆動される場合、フィルタリング手段21の最も簡単な具現化手段としては、電圧検出器41の出力をアナログ回路で積分するのが好ましい。例えば、図2Aに示すように、オペアンプを用いた積分回路などにて積分することで移動平均を算出できる。図2Aに示すフィルタリング手段21は、2端子の入力端子21a、抵抗21b、コンデンサ21c、2端子の出力端子21d及びオペアンプ21eで構成されている。入力端子21aの一方は、抵抗21bを介してオペアンプ21eのマイナス端子に接続され、入力端子21aの他方は、オペアンプ21eのプラス端子と出力端子21dの一方に接続されている。オペアンプ21eの出力は、出力端子21dの他方に接続されると共に、コンデンサ21cを介してオペアンプのマイナス端子にフィードバックされている。このように、フィルタリング手段21は、積分回路に構成されており、検出電圧を積分することで、移動平均を算出している。フィルタリング手段21は、このような積分回路を相毎にそれぞれ1つずつ有しているが、図2Aでは便宜上、1つのみ示している。なお、抵抗21bの抵抗値、コンデンサ21cのキャパシタンス値、オペアンプ21eのゲインなどは、リプルの周波数などを考慮して適宜設定すればよい。
【0028】
続いて、コンデンサ電圧検出器43について説明する。コンデンサ電圧検出器43は、コンデンサ14の両端に接続されており、コンデンサ14のコンデンサ電圧を検出する。コンデンサ電圧検出器43は、検出結果を制御装置30に出力する。
【0029】
(1-3)本発明の第1実施形態の電力変換装置の動作
続いて、電力変換装置10の動作について説明する。電力変換装置10は、連系点電圧Vのフィードフォワードにより出力される電圧成分と、有効電力成分電圧指令値に基づいて出力される電圧成分と、無効電力成分電圧指令値に基づいて出力される電圧成分との和電圧を出力する。電力変換装置10の動作は、R相、S相、T相で同じであるので、R相を代表として説明する。まず、変換器11の動作について説明する。図1に示す変換器11は、ゲートパルス生成部37(図3参照)から、R相変換部11Rのハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lにゲートパルス信号が入力される。具体的には、例えば、ハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lを構成するIGBTのゲートに所定の電圧が入力される。
【0030】
R相変換部11Rは、スイッチをオン状態にするゲートパルス信号がハイサイドスイッチ12Hに入力され、スイッチをオフ状態にするゲートパルス信号がローサイドスイッチ12Lに入力されると、R相変換部11Rの出力端子13Rに、正のコンデンサ電圧を出力する。一方、R相変換部11Rは、スイッチをオフ状態にするゲートパルス信号がハイサイドスイッチ12Hに入力され、スイッチをオン状態にするゲートパルス信号がローサイドスイッチ12Lに入力されると、R相変換部11Rの出力端子13Rに、負のコンデンサ電圧を出力する。このように、変換器11は、R相変換部11Rのハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lのオン・オフが切り替えられることで、コンデンサ14の直流電圧を交流電圧に変換し、電力系統50のu相に交流電圧を出力する。変換器11は、各相が、同様の方法により、位相が互いに120度ずれた交流電圧を電力系統50に出力するように制御されて三相交流電圧を出力する。
【0031】
なお、変換器11の構成は、入力された直流電圧を三相の交流電圧に変換して電力系統に出力できれば特に限定されず、MMC(Modular Multilevel. Converter:モジュラーマルチレベル変換器)などマルチレベル変換器や、所定の3レベルの電圧を出力できる3レベル変換器、特に、いわゆるNPC3レベル変換器であってもよい。
【0032】
次に、連系点電圧検出装置20の動作について説明する。連系点電圧検出装置(電圧検出装置)20は、交流電圧源として機能するシステムのシステム電圧を検出する。具体的には、連系点電圧検出装置20は、電力系統50の系統電圧として、連系点の電圧、すなわち、連系点電圧Vを検出する。電圧検出器41は、各相の連系点LPR、LPS、LPTの電圧を検出し、検出した各相の電圧を検出端子41bからフィルタリング手段21へ出力する。フィルタリング手段21は、入力端子21aから入力された各相の検出電圧を積分回路で相毎に積分する。フィルタリング手段21は、検出電圧を時間積分することで、移動平均を算出している。フィルタリング手段21は、移動平均結果を各相の連系点電圧Vとして出力端子21dから制御装置30へ出力する。このように、各相の連系点の電圧が検出され、検出電圧が時間積分により移動平均されることで、各相の連系点電圧Vが検出される。フィルタリング手段21は、電圧検出器41の出力電圧を所定期間移動平均することで、連系点電圧Vをフィルタリングしている。
【0033】
第1実施形態では、その後、制御装置30にて、検出した連系点電圧V(移動平均の結果)の現在値と、PMWの三角波(搬送波)の1周期分の期間前に検出された連系点電圧Vの過去値との差分をとり、差分値の大きさを適宜調整(ゲイン調整)している。連系点電圧Vの現在値と過去値との差分をとることで、過去値を検出した時点と現在の間の期間が移動平均の期間に相当し、差分値がその期間に検出された連系点電圧Vの平均値となる。このように、第1実施形態では、パルス幅制御に用いる一定周期で変動する波である搬送波の1周期分(一定周期の1周期分)の期間の移動平均を算出するようにしている。なお、この作業を連系点電圧検出装置20で行い、差分値を連系点電圧Vとして出力するようにしてもよい。
【0034】
また、移動平均は、このようなアナログ演算的ではなく、下記のようなデジタル演算的に求めることもできる。この場合、図2Bに示す連系点電圧検出装置25を用いる。連系点電圧検出装置25は、電圧検出器41と、フィルタリング手段26とを備える。電圧検出器41の構成は同じであるので説明を省略する。フィルタリング手段26は、メモリ27と、演算部28とで構成され、電圧検出器41の出力電圧を所定期間移動平均することでフィルタリングする。メモリ27は、電圧検出器41が検出した各相の検出電圧を所定期間記憶する。メモリ27は、例えば、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ及びハードディスクドライブなどの公知の記憶装置である。演算部28は、メモリ27が相毎に記憶している検出電圧の平均値を算出し、算出結果を各相の連系点電圧Vとして制御装置30へ出力する。演算部28は、検出電圧の平均値を計算する専用のハードウェアであってもよく、汎用のプロセッサと組み込みソフトウェアによって実現されてもよく、PCを用いてプログラムによって実現されてもよい。
【0035】
連系点電圧検出装置25の動作を説明する。電圧検出器41は、各相の連系点LPR、LPS、LPTの電圧を検出し、検出電圧をフィルタリング手段26に出力する。フィルタリング手段26では、メモリ27が、入力された検出電圧を順次記憶し、後述の制御装置30における三角波比較方式のPWM制御に用いる一定周期で変動する波である三角波(搬送波)の1周期分の期間、記憶を保持する。メモリ27は、検出電圧を1周期分の期間経過後、記憶を保持した検出電圧を順次消去していく。すなわち、メモリ27では、記憶している検出電圧が時間の経過と共に更新され、メモリ27は、現在から搬送波の1周期分の期間前までの間に検出された検出電圧を記憶する。
【0036】
演算部28は、メモリ27が記憶している検出電圧を全て読み出し、読み出した検出電圧の平均値を算出し、算出した平均電圧を連系点電圧Vとして制御装置30に出力する。メモリ27が現在から搬送波の1周期分の期間前までの間に検出された検出電圧を記憶しており、当該検出電圧が時間の経過と共に更新されるので、演算部28は、メモリ27が記憶している全ての検出電圧を読み出して当該検出電圧の平均値を算出することで、搬送波の1周期分の期間で検出電圧の移動平均を算出していることになる。
【0037】
なお、検出電圧の移動平均を算出、もしくはその一部の演算を実施することができれば、連系点電圧検出装置20、25の構成は特に限定されない。
【0038】
制御装置30は、このようにして検出した連系点電圧Vなどに基づいて、変換器11の各スイッチのオン・オフ状態を制御し、変換器11の出力電圧を制御する。第1実施形態では、移動平均を行って検出した連系点電圧Vを電圧指令値にフィードフォワードして、変換器11の出力電圧を制御する。移動平均により検出した連系点電圧Vをそのままフィードフォワードして、すなわち、連系点電圧Vを用いて、三角波比較方式のPWMを実施すれば、変換器11は、理想的には連系点電圧Vと同じ電圧を出力するので、電圧変動に対するロバスト性をある程度確保できる。特に、電流ゼロのときの電圧変動に対するロバスト性はきわめて高い。但し、移動平均により信号の遅れが生じるので、信号遅れを小さくするには、変換器11の各スイッチング周波数が高い方が好ましい。そのため、変換器11の各スイッチには、スイッチング周波数の高いスイッチング素子を用いるのが好ましい。
【0039】
(1-4)第1実施形態の電力変換装置の制御装置の構成と動作
次いで、制御装置30の構成と動作を、図3を参照して説明する。最初に制御装置30の構成を説明する。図3に示すように、制御装置30は、無効電力成分電圧指令値生成部31と、電流算出部32と、有効電力成分電流指令値生成部33と、有効電力成分電圧指令値生成部34と、ゲイン制御部35と、電圧指令値生成部(電圧指令値生成手段)36と、ゲートパルス生成部37とを備えている。無効電力成分電圧指令値生成部31は、ゲインがq(実数)の乗算器で構成されている。
【0040】
電流算出部32は、連系インピーダンス値で除算する除算器で構成されている。有効電力成分電流指令値生成部33は、ゲインがd(実数)の乗算器で構成されている。有効電力成分電圧指令値生成部34は、微分演算手段として有効電力成分電流指令値に対して、
L・(dI/dt)+RI・・・(1)
という式(1)の演算を行うように構成されている。有効電力成分電圧指令値生成部34は、上記式を演算できる演算回路、例えば、微分器や加算器などを組み合わせて構成される。
【0041】
電圧指令値生成部36は、加算器で構成されている。ゲートパルス生成部37は、公知のPWM制御により変換器11の各スイッチのオン・オフを制御するゲートパルス信号を生成するように構成されている。ゲイン制御部35は、有効電力成分電流指令値生成部33のゲインdの値及び無効電力成分電圧指令値生成部31のゲインqの値を制御するように構成されている。
【0042】
続いて、制御装置30の動作について説明する。制御装置30は、有効電圧を出力するための連系点電圧に対して位相が90度進んだ電圧と無効電圧を出力するための連系点電圧と同位相の電圧とを加算し、さらに、連系点電圧Vをフィードフォワードして電圧指令値Vppを算出し、当該電圧指令値Vppに基づいて変換器11の出力電圧を制御する。以下では、その動作について具体的に説明する。
【0043】
制御装置30では、連系点電圧検出装置20で検出された連系点電圧Vが無効電力成分電圧指令値生成部31と、電流算出部32と、ゲイン制御部35と、電圧指令値生成部36とに入力される。無効電力成分電圧指令値生成部31は、入力された連系点電圧Vの検出値をq倍して無効電力成分電圧指令値Vqpを生成し、電圧指令値生成部36に出力する。電流算出部32は、連系点電圧Vの検出値を連系インピーダンス値、すなわち、リアクトル17Rの値(ωL、ωは連系点電圧Vの周波数、Lはリアクトル17のインダクタンス値。)で除算し、連系点電圧Vの検出値を電流値に変換し、変換した電流値を有効電力成分電流指令値生成部33に出力する。なお、リアクトル17Rは、理想的には、抵抗成分が0であるので、本実施形態では、リアクトル17Rの抵抗成分を無視している。有効電力成分電流指令値生成部33は、入力された電流値をd倍して有効電力成分電流指令値を生成する。有効電力成分電流指令値生成部33は、有効電力成分電流指令値を有効電力成分電圧指令値生成部34に出力する。
【0044】
有効電力成分電圧指令値生成部34は、有効電力成分電流指令値に対して上記式(1)の演算を行い、連系点電圧から算出された電流指令値から電圧指令値に変換し、有効電力成分電圧指令値Vdpを算出し、電圧指令値生成部36に出力する。なお、リアクトル17の抵抗成分は理想的には0なので、本実施形態では、リアクトル17の抵抗成分をゼロとしている。ここで、式(1)は、リアクトルを流れる電流からリアクトルでの電圧降下を算出する式であり、電流を時間微分し、リアクトルのインダクタンス値を乗算した値に、リアクトルの抵抗成分と電流の積を加算している(Lはリアクトルのインダクタンス値、Rはリアクトルの抵抗成分、Iはリアクトルを流れる電流を表す。)。また、リアクトルでの電圧と電流の関係は、電圧の位相に対して電流の位相が90度遅れている。
【0045】
そのため、式(1)で算出した電圧値(有効電力成分電圧指令値Vdp)は、演算に用いた電流値(有効電力成分電流指令値)に対して位相が90度進んでいる。その結果、有効電力成分電圧指令値Vdpは、有効電力成分電流指令値と同位相の連系点電圧Vに対しても90度進んでいる。このように、制御装置30は、連系点電圧Vを微分することで、連系点電圧Vより位相が90度進んだ電圧(有効電力を出力するための有効電力成分電圧指令値Vdp)を算出する機能を有する。なお、例えば制御周期毎に、前回の制御周期との時間の差分及び有効電力成分電流指令値の差分を算出し、有効電力成分電流指令値の差分を時間の差分で除することで、有効電力成分電流指令値の微分値を算出してもよい。
【0046】
電圧指令値生成部36は、入力された連系点電圧Vの検出値と、無効電力成分電圧指令値Vqpと、有効電力成分電圧指令値Vdpとを加算し、電圧指令値Vppを生成する。このように、制御装置30は、移動平均により算出された系統電圧に基づいて、変換器11の電圧指令値Vppを算出する機能を有する。電圧指令値生成部36は、生成した電圧指令値Vppをゲートパルス生成部37に出力する。ゲートパルス生成部37は、PWM制御のための搬送波(例えば、三角波)を生成し、入力された電圧指令値Vppを当該搬送波で変調する。具体的には、ゲートパルス生成部37は、電圧指令値Vppを規格化し、規格化された電圧指令値Vppと搬送波とを比較することで、ゲートパルス信号を生成する。ゲートパルス生成部37は、搬送波による電圧指令値Vppの変調により、変換器11のR相変換部11Rのハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lのオン・オフを制御するゲートパルス信号を生成する。ゲートパルス生成部37は、生成したゲートパルス信号を当該スイッチに出力する。制御装置30は、このようにして、R相変換部11Rのハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lのオン・オフを制御する。
【0047】
ゲイン制御部35は、有効電力成分電流指令値生成部33のゲインdの値及び無効電力成分電圧指令値生成部31のゲインqの値を制御する。ゲイン制御部35は、連系点電圧検出装置20で検出した連系点電圧Vや、連系点電圧Vから算出した電力系統50(交流電圧源55)の周波数、コンデンサ電圧検出器43で検出した変換器11のコンデンサ14のコンデンサ電圧に基づいて、ゲインq及びゲインdの値を決定し、電力変換装置10が出力する無効電力及び有効電力を制御する。
【0048】
例えば、コンデンサ電圧検出器43で検出したコンデンサ電圧が所定範囲より高い場合は、有効電力源15から電力変換装置10に流入する有効電力より、電力変換装置10から電力系統50に流出する有効電力を多くすることにより、コンデンサ電圧を低減できる。このように、ゲイン制御部35は、ゲインdの値を大きくし、電力変換装置10が出力する有効電力を大きくすることで、有効電力源15から電力変換装置10に流入する有効電力と、電力変換装置10から電力系統50に流出する有効電力とをバランスさせる。一方で、コンデンサ電圧が所定範囲より低い場合は、有効電力源15から電力変換装置10に流入する有効電力より、電力変換装置10から電力系統50に流出する有効電力を小さくすることにより、コンデンサ電圧を上昇できる。このように、ゲイン制御部35は、ゲインdの値を小さくし、電力変換装置10が出力する有効電力を小さくすることで、有効電力源15から電力変換装置10に流入する有効電力と、電力変換装置10から電力系統50に流出する有効電力とをバランスさせる。
【0049】
また、例えば、連系点電圧検出装置20で検出した連系点電圧Vが基準範囲より低い場合、ゲイン制御部35は、ゲインqの値を大きくし、連系点電圧V、すなわち、系統電圧を上昇させる。一方で、連系点電圧Vが基準範囲より高い場合、ゲイン制御部35は、ゲインqの値を小さくし、系統電圧を低下させる。
【0050】
さらに、連系点電圧Vから算出した電力系統50の周波数が基準範囲より低い場合、当該電力系統50は需要過多である。この場合、ゲイン制御部35は、ゲインdの値を大きくし、電力系統50への有効電力の供給量を増加させる。一方で、電力系統50の周波数が基準範囲より高い場合、当該電力系統50は需要不足である。ゲイン制御部35は、ゲインdの値を小さくし、電力系統50への有効電力の供給量を減少させて、周波数を低減させる。あるいは、ゲイン制御部35は、ゲインdの値を負の実数に設定し、電力系統50から電力変換装置10に有効電力を流入させる。
【0051】
(1-5)作用及び効果
以上の構成において、第1実施形態の電力変換装置10は、連系インピーダンス(リアクトル17R、17S、17T)を介して電力系統50に接続されており、所定交流電圧を出力する変換器11と、電力系統50の系統電圧(連系点電圧V)を検出する系統電圧検出装置(連系点電圧検出装置20)と、パルス幅変調制御により変換器11を制御する制御装置30とを備え、連系点電圧検出装置20が、検出した電圧(電圧検出器41で検出した検出電圧)についてパルス幅制御に用いる搬送波の1周期分の期間の移動平均を算出することで連系点電圧Vを検出し、制御装置30が、移動平均により算出された連系点電圧Vに基づいて、変換器11の電圧指令値を算出するように構成した。
【0052】
よって、第1実施形態の電力変換装置10は、連系点電圧検出装置20が、電圧検出器41で検出した検出電圧についてパルス幅制御に用いる搬送波の1周期分の期間の移動平均を算出することで連系点電圧Vを検出するので、検出した電圧のリプル及び検出遅れを抑制できる。そのため、電力系統50に位相跳躍が生じた場合も、電力変換装置10の出力電圧が電力系統50の電圧の変動に追従でき、電力変換装置10に過電流が流れることを抑制できる。
【0053】
さらに、第1実施形態の電力変換装置10は、検出した連系点電圧Vを時間微分することで、有効電力成分電圧指令値を算出するように構成することで、有効電力成分電圧指令値を素早く算出でき、電力変換装置10に過電流が流れることをさらに抑制できる。
【0054】
(2)第2実施形態
第2実施形態の電力変換装置では、系統電圧検出装置としての連系点電圧検出装置で検出した電力系統の系統電圧としての連系点電圧を電流指令値として扱う。より正確に説明すると、有効電流と連系点電圧の位相は同じなので、有効電流指令値を連系点電圧の実数倍として算出し、当該有効電流指令値から有効電圧指令値(有効電力成分電圧指令値)を算出する。第2実施形態では、連系点電圧を電流指令値1puとして、有効電流指令値を決める。
この点について、より詳細に説明すると、第2実施形態では、説明を容易にするために、連系点電圧を電流指令値1puとして、有効電流指令値を決める。有効電流指令値が連系点電圧に比例する値であれば、必ずしも1puでなくても構わない。
例えば、有効電流指令値(pu値)が0.2puの場合は、連系点電圧と0.2の積をとったものが有効電流指令値となる。一方、無効電流指令値に関しては、連系点電圧の位相を90度ずらしたものを電流指令値1puとする。有効電流指令値と同様に、連系点電圧から位相を90度ずらしたものを実数倍(無効電流指令値(pu値)倍)することにより、無効電流指令値を決定する。このように、連系点電圧Vの実数倍の値を電流指令値としている。第2実施形態の電力変換装置は、制御装置の構成が第1実施形態の電力変換装置10の制御装置30の構成と異なる。その他の構成は、第1実施形態の電力変換装置10と同じであるので説明を省略する。
【0055】
(2-1)本発明の第2実施形態の制御装置の構成と動作
図4は、第2実施形態の電力変換装置の制御装置4000を示す図である。制御装置4000は、位相補償ブロック4100と、90度位相進み演算ブロック4200と、無効分演算ブロック(無効分演算手段)4300と、有効分演算ブロック(有効分演算手段)4400と、電圧指令値生成ブロック4001(電圧指令値生成手段)と、PWMブロック4500とで構成される。このような制御装置4000の動作を以下で説明する。
【0056】
検出した連系点電圧Vは連系点電圧検出装置20を介してスムージングされた後に、制御装置4000に取り込まれる。制御装置4000に取り込まれた連系点電圧Vの信号は、位相補償ブロック4100に入力される。位相補償ブロック4100の出力は、有効分演算ブロック4400と、90度位相進み演算ブロック4200と、電圧指令値生成ブロック4001へ入力される。有効分演算ブロック4400では、位相補償ブロック4100から入力された連系点電圧Vと有効電流指令値(pu値)とが乗算器4401で積算された後に、乗算器4401の積算結果が電流変換部4402で有効電流指令実効値Iref_drに変換される。そして、有効分演算ブロック4400では、有効電流指令実効値Iref_drが電圧推定部4403に入力され、有効電流指令実効値Iref_drから、当該電流を通流させるために連系インピーダンス(リアクトル)に印加する必要がある電圧値(有効分電圧推定値Vi_d)が推定され、推定結果が有効電圧指令値として電圧指令値生成ブロック4001に出力される。具体的には、微分演算手段としての電圧推定部4403は、連系点電圧Vから算出された有効電流指令実効値Iref_drを時間微分し、微分した有効電流指令実効値Iref_drと連系インピーダンスのインダクタンス値の積と、有効電流指令実効値Iref_drと連系インピーダンスの抵抗値の積とを加算することで、有効分電圧推定値Vi_dが推定される。
【0057】
90度位相進み演算ブロック4200では、位相補償ブロック4100から入力された連系点電圧Vの位相が、回転行列を使って90度位相を回転されることで、90度進められて、無効分演算ブロック4300に入力される。無効分演算ブロック4300では、90度進み演算ブロックの出力と無効電力指令値(pu値)とが乗算器4301で積算された後に、乗算器4301の出力が電流変換部4302で無効電流指令実効値Iref_qrに変換される。そして、無効分演算ブロック4300では、無効電流指令実効値Iref_qrが電圧推定部4303に入力され、無効電流指令実効値Iref_qrから、当該電流を通流させるために連系インピーダンス(リアクトル)に印加する必要がある電圧値(無効分電圧推定値Vi_q)が推定され、推定結果が無効電圧指令値(無効電力成分電圧指令値)として電圧指令値生成ブロック4001に出力される。具体的には、微分演算手段としての電圧推定部4303は、位相が90度進められた連系点電圧Vから算出された無効電流指令実効値Iref_qrを微分し、微分した無効電流指令実効値Iref_qrと連系インピーダンスのインダクタンス値の積と、無効電流指令実効値Iref_qrと連系インピーダンスの抵抗値の積とを加算することで推定する。このように、電圧推定部4303、4403は、連系点電圧から算出された無効電流指令実効値Iref_qr及び有効電流指令実効値Iref_drを微分しており、これは連系点電圧Vを微分していることに相当する。このように制御装置は、連系点電圧Vを時間微分することで、無効電力成分電圧指令値及び有効電力成分電圧指令値を算出する機能をしている。
【0058】
電圧指令値生成ブロック(電圧指令値生成部)4001では、位相補償ブロック4100から入力された、位相が補償された連系点電圧Vと、有効分演算ブロック4400から入力された有効電圧指令値と、無効分演算ブロック4300から入力された無効電圧指令値とが加算され、電力変換装置の電圧指令値が生成される。このように制御装置4000は、移動平均により算出された系統電圧に基づいて、変換器の電圧指令値を算出する機能を有する。PWMブロック4500では、該電圧指令値が入力され、PWMブロック4500内にて、規格化される。PWMブロック4500では、規格化された電圧指令値が三角波比較方式のPWM制御によって変調されて変換器の各スイッチのゲートパルスが生成され、各スイッチにゲートパルスが出力されて各スイッチが駆動される。
【0059】
続いて、制御装置4000を構成する各ブロックの動作を説明する。まず、位相補償ブロック4100の動作を説明する。位相補償ブロック4100は、連系点電圧検出装置20にてスムージングしたことで遅れた連系点電圧Vの位相を補償する。具体的には、入力された連系点電圧Vの位相を連系点電圧検出装置20で遅れた位相分進める。より具体的には、移動平均算出する期間の半分の期間の時間に相当する位相分を進めるのが好ましい。位相を進める手段としては、後述する90度位相進み演算ブロック4200のように、三相二相変換した後、回転行列にて前記位相分位相を進め、二相三相変換すればよい。なお、位相補償ブロック4100を備える方が好ましいが、備えていなくてもよい。
【0060】
次に、90度位相進み演算ブロック4200の動作を説明する。90度位相進み演算ブロック4200は、位相補償ブロック4100から入力された各相の連系点電圧Vを三相二相変換部4201で三相二相変換し、三相二相変換された連系点電圧Vを位相回転部4202で回転行列にて位相を90度進める。90度位相進み演算ブロック4200は、位相が90度進んだ連系点電圧Vを二相三相変換部4203で二相三相変換し、90度位相が進んだ各相の連系点電圧Vを無効分演算ブロック4300に出力する。なお、90度位相進み演算ブロック4200は、90度位相を遅らせても構わない。ただし、この場合、無効電流指令値の符号が反対となる。
【0061】
次いで、無効分演算ブロック4300及び有効分演算ブロック4400について説明する。これらの2つのブロックは、動作がほぼ同じであるのでまとめて説明する。電流変換部4302及び電流変換部4402は、電圧値(乗算器4301又は乗算器4401の出力)を相電圧定格電圧で割って、電流定格値アンペア値に換算して有効電流指令実効値Iref_dr、無効電流指令実効値Iref_qrを算出する。
【0062】
電圧推定部4303及び電圧推定部4403は、有効電流指令実効値Iref_drから有効分電圧推定値Vi_dを算出し、無効電流指令実効値Iref_qr及び無効分電圧推定値Vi_qを算出する。この演算は、以下の式(2)(3)のような瞬時式により行われる。
Vi_d=(Ls+R)・Iref_dr・・・・(2)
Vi_q=(Ls+R)・Iref_qr・・・・(3)
ここで、Lは各相のインダクタンス値、Rは各相のリアクトルの抵抗値、sはラプラス演算子である。有効電流指令実効値Iref_dr(無効電流指令実効値Iref_qr)が微分されてインダクタンス値Lが乗算され、有効電流指令実効値Iref_dr(無効電流指令実効値Iref_qr)と抵抗値の積が乗算結果に加算されて有効分電圧推定値Vi_d(無効分電圧推定値Vi_q)が算出される。無効分演算ブロック4300は、算出した無効分電圧推定値Vi_qを無効電圧指令値として電圧指令値生成ブロック4001に出力し、有効分演算ブロック4400は、算出した有効分電圧推定値Vi_dを有効電圧指令値として電圧指令値生成ブロック4001に出力する。
【0063】
(2-2)作用及び効果
第2実施形態の電力変換装置は、第1実施形態の電力変換装置と同様の構成を有し、制御装置4000が、移動平均により算出された連系点電圧Vに基づいて、変換器11の電圧指令値を算出するように構成した。
【0064】
よって、第2実施形態の電力変換装置は、第1実施形態と同様に、パルス幅制御に用いる搬送波の1周期分の期間の移動平均を算出することで連系点電圧Vを検出する連系点電圧検出装置20を備えるので、検出した電圧のリプル及び検出遅れを抑制できる。そのため、電力系統に位相跳躍が生じた場合も、電力変換装置の出力電圧が電力系統の電圧の変動に追従でき、電力変換装置に過電流が流れることを抑制できる。
【0065】
第2実施形態の電力変換装置は、制御装置4000が電流指令を設定して、瞬時式から必要な電圧を演算するように構成することで、位相跳躍に対するロバスト性が高い。
【0066】
(2-3)第2実施形態の変形例
(第2実施形態の変形例1)
検出した連系点電圧Vにノイズが進入した際に、電圧推定部4303及び電圧推定部4403で算出するVi_d及びVi_qが大きく変動する。このような場合、電圧推定部4303及び電圧推定部4403は、式(2)(3)を、次式(4)(5)のように微分演算を不完全微分とした式で、有効分電圧推定値Vi_d及び無効分電圧推定値Vi_qを算出するのがよい。式(4)(5)のTは時定数で、任意に設定できる。
Vi_d=(Ls/(Ts-1)+R)・Iref_dr・・・・(4)
Vi_q=(Ls/(Ts-1)+R)・Iref_qr・・・・(5)
【0067】
(第2実施形態の変形例2)
さらに、不完全微分でもノイズの影響を避けられなかった場合を考慮して、無効分演算ブロック4300及び有効分演算ブロック4400の出力にリミッタをつけることが好ましい。例えば、無効分演算ブロック4300及び有効分演算ブロック4400の後段にリミッタブロックを設け、無効分演算ブロック4300及び有効分演算ブロック4400の出力が所定範囲外にあるとき、当該リミッタブロックにあらかじめ設定されたリミッタ値を出力するようにする。そのリミッタ値は、連系インピーダンスに定格電流が通流したときに、当該連系インピーダンスに印加される電圧(正負双方)と同じか、それに若干の余裕を持たせた程度、例えば前記電圧の1.5倍前後とすることが好ましい。
【0068】
(第2実施形態の変形例3)
なお、電力系統に高調波電圧が重畳すると、連系点電圧Vにも高調波が重畳する。第2実施形態のように、連系点電圧Vの検出値を電流指令値として扱う場合、高調波の重畳より系統電圧(連系点電圧V)が変動すると電流指令値も変動する。そのため、これらに対する対策をするのが好ましい。なお、ここでいう系統電圧(連系点電圧V)の変動とは、系統電圧の定格値と、連系点電圧の値との間に差が生じていることを意味する。
【0069】
まず、高調波に対する対策を述べる。低次高調波に対しては、例えば、検出した連系点電圧Vをノッチフィルタや所定の周波数の整数倍の周波数を減衰するフィルタに通すなどし、高次高調波に対しては、例えば、検出した連系点電圧Vをローパスフィルタに通すなどし、連系点電圧Vに重畳した高調波を減衰させ、電流指令値に重畳した高調波を減衰することが好ましい。有効電流指令実効値や無効電流指令実効値などをフィルタして高調波を減衰するようにしてもよい。
【0070】
なお、上記の式(4)(5)による不完全微分演算や高調波への対策として上記ローパスフィルタを用いると、有効電圧指令値や無効電圧指令値に位相遅れが発生する。この位相遅れを補償するには、電力変換装置から無効電流を通流させる際は、有効電流指令値をわずかに増加させ、無効電流に有効電流を加えることで当該位相遅れを補償することが好ましい。同様に電力変換装置から有効電流を通流させる際は、無効電流指令値をわずかに増加させ、有効電流に無効電流を加えることで当該位相遅れを補償することが好ましい。有効電流は、電力変換装置が有効電力を出力するための電流を意味し、無効電流は、電力変換装置が無効電流を出力するための電流を意味し、どちらも電力変換装置が出力する電流の成分である。
【0071】
(第2実施形態の変形例4)
次に、変形例4では、連系点電圧Vの各種誤差に対する対策を述べる。まず、有効電流指令実効値Iref_dr及び無効電流指令実効値Iref_qrから連系インピーダンスに印加する電圧にそれぞれ換算する際に、微分ではなく、不完全微分演算を用いると位相が遅れる。その位相遅れに対する補償方法を説明する。変形例4の制御装置は、図4に示す第2実施形態の制御装置4000とは、無効分演算ブロック4300と有効分演算ブロック4400の構成が異なる。図5は、変形例4の制御装置の一部を拡大して示す図であり、図4に示す制御装置4000において、一点鎖線で囲まれた領域に相当する。図5に示す領域以外の制御装置の構成は、第2実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0072】
図5に示す無効分演算ブロック4300a及び有効分演算ブロック4400aの様に、位相遅れ補償を実施する際は、両ブロックを完全に分離できず、両ブロックが互いに干渉する。
【0073】
まず、無効分演算ブロック4300aの動作について説明する。第2実施形態と同様に、電流変換部4302で無効電流指令値から変換された各相の無効電流指令実効値Iref_qrは、乗算器4309で、後述の電圧補償値演算ブロックで算出された各相の電圧補償値と同じ相同士それぞれ乗算され、電圧変動が補償される。電圧変動が補償された無効電流指令実効値Iref_qrは、フィルタブロック4305に出力されて、高調波が減衰される。フィルタブロック4305は例えばローパスフィルタで構成される。
【0074】
高調波が減衰された無効電流指令実効値Iref_qrは、乗算部4307で、有効電流指令実効値Iref_drを乗算器4406で実数β倍して算出したフィルタブロック4305での位相遅れ補償用の電流が加算され、電圧推定部4303に入力される。そして、電圧推定部4303では、位相遅れ補償用の電流が加算された無効電流指令実効値Iref_qrに相当する電流を流すのに必要な連系インピーダンスの電圧である無効分電圧推定値Vi_qが上記の式(5)により算出され、無効電圧指令値として出力される。なお、式(5)のかわりに、式(3)を用いてもよい。
【0075】
なお、無効電圧指令値と有効電圧指令値には、過度な電流を流さぬようにリミッタを設けることが好ましい。そのため、変形例4では、無効分演算ブロック4300aの電圧推定部4303と電圧指令値生成ブロック4001の間にリミッタブロック4308を設け、有効分演算ブロック4400aの電圧推定部4403と電圧指令値生成ブロック4001の間にリミッタブロック4408を設けている。これらのリミッタブロック4308、4408では、リミッタ値を定格電流通流時に連系インピーダンスに印加される電圧の最小値と最大値に必要な余裕を持たせた値とすることが好ましい。
【0076】
リミッタブロック4038では、電圧推定部4303から入力された無効電圧指令値が所定範囲内にある場合、無効電圧指令値がそのまま電圧指令値生成ブロック4001に出力され、無効電圧指令値が所定範囲をはずれた場合、あらかじめ設定されたリミッタ値が無効分演算ブロック4300aの出力、すなわち無効電圧指令値として電圧指令値生成ブロック4001に出力される。また、無効分演算ブロック4300aでは、フィルタブロック4305で高調波を減衰した無効電流指令実効値Iref_qrが、乗算器4306で実数β倍されて、フィルタブロック4405での位相遅れ補償用の電流として、有効分演算ブロック4400aに出力される。
【0077】
次いで、有効分演算ブロック4400aの動作について説明する。第2実施形態と同様に、電流変換部4402で有効電流指令値から変換された各相の有効電流指令実効値Iref_drは、乗算器4409で、後述の電圧補償値演算ブロックで算出された各相の電圧補償値と同じ相同士それぞれ乗算され、電圧変動が補償される。電圧変動が補償された有効電流指令実効値Iref_drは、フィルタブロック4405に出力されて、高調波が減衰される。フィルタブロック4405は例えばローパスフィルタで構成される。
【0078】
高調波が減衰された有効電流指令実効値Iref_drは、無効電流指令実効値Iref_qrを乗算器4306で実数β倍して算出したフィルタブロック4305での位相遅れ補償用の電流が乗算部4407で加算され、電圧推定部4403に入力される。そして、電圧推定部4403では、位相遅れ補償用の電流が加算された有効電流指令実効値Iref_drに相当する電流を流すのに必要な連系インピーダンスの電圧である有効分電圧推定値Vi_dが上記の式(4)により算出され、有効電圧指令値としてリミッタブロック4408へ出力される。なお、式(4)のかわりに、式(2)を用いてもよい。
【0079】
リミッタブロック4408では、有効電圧指令値が所定範囲内にある場合、有効電圧指令値がそのまま電圧指令値生成ブロック4001に出力され、有効電圧指令値が所定範囲をはずれた場合、あらかじめ設定されたリミッタ値が有効分演算ブロック4400aの出力、すなわち有効電圧指令値として電圧指令値生成ブロック4001に出力される。また、有効分演算ブロック4400aでは、フィルタブロック4405で高調波を減衰した有効電流指令実効値Iref_drが、乗算器4306で実数β倍されて、フィルタブロック4305での位相遅れ補償用の電流として、無効分演算ブロック4300aに出力される。
【0080】
電圧指令値生成ブロック(電圧指令値生成部)4001では、位相補償ブロック4100から入力された位相補償された連系点電圧Vと、有効分演算ブロック4400から入力された有効電圧指令値と、無効分演算ブロック4300から入力された無効電圧指令値とが加算され、電力変換装置の電圧指令値が生成される。
【0081】
最後に、電圧変動を補償するための電圧補償値を算出する電圧補償値演算ブロックについて説明する。電圧補償値演算ブロックは、制御装置に設けられ、入力された各相の連系点電圧Vから相毎に電圧補償値を算出する。図6に、定常時において電圧変動したときに、電流指令値(無効電流指令実効値、有効電流指令実効値)を補償するための電圧補償値を算出する電圧補償値演算ブロック(電圧補償値演算手段)4700を示す。電圧補償値演算ブロック4700では、各相(u相、v相及びw相)の電圧補償値を算出する。電圧補償値の算出動作は、各相共に同じであるので、以下ではu相を代表として説明する。
【0082】
電圧補償値演算ブロック4700では、連系点電圧検出装置20でスムージングされたu相の連系点電圧Vの検出値が入力され、当該連系点電圧の2乗値が乗算器4701で算出される。連系点電圧の2乗値は、1/4周期遅延部4702と加算器4703とに出力される。1/4周期遅延部4702は、例えばメモリなどで構成されている。1/4周期遅延部4702は、連系点電圧Vの2乗値を1/4周期の期間メモリに保持し、1/4周期経過後に、連系点電圧Vの2乗値の1/4周期前の過去値として、加算器4703に出力する。加算器4703は、乗算器4701から入力された連系点電圧Vの2乗値(現在値)と、1/4周期遅延部4702から入力された連系点電圧Vの2乗値の過去値とを加算し、ルート演算部4704に出力する。
【0083】
ルート演算部4704は、加算器4703の出力をルート演算し、除算器4705に出力する。除算器4705は、ルート演算部4704の出力を√2で除算する。この除算結果は、u相の連系点電圧Vの実効値に相当する値である。除算器4705は、除算結果を連系点電圧Vの実効値としてu相電圧補償値算出部4706に出力する。u相電圧補償値算出部4706には、u相の定格相電圧の値も入力されている。u相電圧補償値算出部4706は、u相の定格電圧をu相の連系点電圧Vの実効値で除算することで、u相電圧補償値を算出する。
【0084】
なお、一般の電力系統では、定常時の電圧変動は小さいので、PCS(Power Conditioning Subsystem:パワーコンディショナー)用途では電圧変動を許容できることが多い。例えば、日本国内の定常時の配電系統の電圧変動は、わずか±10%である。
【0085】
また、系統事故時に電圧変動の電圧補償を行うと、不要な電流を流し込むことになる。したがって、連系点電圧値が定常範囲を超えた場合は、電圧変動補償をしない方が好ましい。電圧補償実施・不実施は、定常時電圧許容値又はそれにある程度の余裕分を持たせた電圧値を基準として、各相電圧補償値にリミッタを設けるのが好ましい。例えば、リミッタは、上述のリミッタブロック4308と同じ構成(リミッタ値は異なる)のリミッタブロックを電圧補償値演算ブロック4700と乗算器4309の間や電圧補償値演算ブロック4700と乗算器4409の間に挿入することで実施できる。
【0086】
なお、変形例4の様に、電圧補償演算(乗算器4309、4409での演算)を微分演算(電圧推定部4303、4403での演算)の前段に入れると、電圧変動補償あり・なしの切替直後の微分演算で大きな電圧指令値を出力してしまう可能性がある。そのため、電圧補償演算は、微分演算の後段に入れる方が好ましい。なお、前段に挿入する場合は、電圧補償値演算ブロック4700と乗算器4309、4409の間に、乗算器など実数倍できる乗算手段を挿入し、電圧補償を急に停止しないように、少しずつ当該乗算手段のゲインを小さくするような措置が必要となる。
【0087】
(3)第3実施形態
第3実施形態の電力変換装置は、第2実施形態の電力変換装置に対して、電力変換装置が出力する電流をフィードバックして電力変換器の出力を制御するようにしたものである。以下では、この電流フィードバック制御について説明する。
【0088】
電力変換器が出力する電流のフィードバック制御には、有効電流をフィードバックして電力変換装置が出力する有効電力を制御する場合と、無効電流をフィードバックして電力変換装置が出力する無効電力を制御する場合とがある。電力系統が三相平衡に近ければ、有効電力を制御する場合は瞬時有効電力をフィードバックし、無効電力を制御する場合は瞬時無効電力をフィードバックすればよい。これは、三相平衡では、瞬時有効電力は有効電流と連系点電圧Vの積の三相和であり、瞬時無効電力は無効電流と連系点電圧Vの積の三相和であるので、有効電流と瞬時有効電力は比例し、無効電流と瞬時無効電力も比例するからである。
【0089】
具体的には、例えば、制御装置4000において、電力変換装置が出力する瞬時有効電力と瞬時無効電力とを算出する瞬時電力演算ブロックと、ゲインを調整可能な乗算器と、電流指令値との差分を算出する減算器とを設けるようにする。そして、瞬時電力演算ブロックから出力された瞬時有効電力及び瞬時無効電力を、乗算器で所定ゲイン倍して大きさを調整し、減算器で、有効電流指令値と瞬時有効電力の差分と、無効電流指令値と瞬時無効電力の差分とを算出し、瞬時有効電力を有効電流指令値にフィードバックし、瞬時無効電力を無効電流指令値にフィードバックするようにする。この動作は電流フィードバック制御に相当する。
【0090】
第3実施形態の電力変換装置は、第2実施形態と同じ構成を有するので、同じ効果を奏し、さらに、上記のように電流(有効電力や無効電力)をフィードバックして電力変換器の出力を制御するようにすることで、より正確に電力変換器が出力する電流(すなわち、有効電力や無効電力)をコントロールできる。
【0091】
(4)第4実施形態
(4-1)第4実施形態の電力変換装置の全体構成
第4実施形態の電力変換装置について、図1と同じ構成には同じ番号を付した図7を参照して説明する。図7に示すように、第4実施形態の電力変換装置10aは、第1実施形態と同様に、発電システム100aに用いられている。電力変換装置10aは、ベクトル制御を行う制御装置60を備えている点で、第1実施形態の電力変換装置10とは異なる。より具体的には、制御装置60は、第1実施形態の制御装置30(図3参照)とは異なり、系統電圧に基づいて、ベクトル制御により変換器11の電圧指令値を算出するベクトル制御手段である。制御装置60以外の構成は、第1実施形態の電力変換装置10と同じであるので、説明を省略する。
【0092】
(4-2)第4実施形態の電力変換装置の制御装置の構成及び動作
制御装置60は、公知のベクトル制御手法を用い、電力系統50の系統電圧としての連系点電圧に基づいて、変換器11の電圧指令値を生成する。本明細書では、一例として、特許第4373040号公報に開示されたベクトル制御手法を適用した制御装置として、制御装置60を説明する。
【0093】
まず、制御装置60の構成について説明する。自励式変換器の制御装置は高速制御が要求されるので、一般にdq変換により三相交流を有効成分と無効成分の二相直流分に変換し、非干渉ベクトル制御系で構成される。図8に示すように、制御装置60は、有効電流指令生成部61d、無効電流指令生成部61q、位相検出部68、qd変換部69(図8では、図中に丸印で表す出力端子のみ示している)、逆qd変換部66、ゲートパルス生成部67、演算増幅回路63d、63q、加算器62d、62q、65d、65q及び乗算器64dで構成される。
【0094】
有効電流指令生成部61dは、連系点電圧V、連系点電圧Vから算出した電力系統50の周波数及び変換器11のコンデンサ14のコンデンサ電圧などに基づいて、有効電流指令値Idpを生成する。無効電流指令生成部61qは、連系点電圧V、電力系統50の周波数及び変換器11のコンデンサ14のコンデンサ電圧などに基づいて、無効電流指令値Iqpを生成する。位相検出部68は、連系点電圧VからPLL(Phase Locked Loop:位相ロックループ)やDFT(Discrete Fourier transform:離散フーリエ変換)などの公知の演算手法を用いて連系点電圧Vの位相を検出する。qd変換部69は、位相検出部68で検出した位相を基準位相として、dq変換により三相交流を有効成分と無効成分の二相直流分に変換する。逆qd変換部66は、有効分電圧指令値と無効分電圧指令値を逆dq変換し、更に二相/三相変換して、三相出力電圧指令値(VRp、VSp、VTp)を生成する。ゲートパルス生成部67は、電圧指令値に基づいて、公知のPWM制御により、変換器11の各スイッチのオン・オフを制御するゲートパルス信号を生成する。
【0095】
次に、制御装置60の動作について説明する。制御装置60は、有効電力及び無効電力を指令値として、変換器11を制御する。制御装置60では、連系点電圧検出装置20で検出された連系点電圧Vが有効電流指令生成部61d、無効電流指令生成部61q及び位相検出部68に入力される。位相検出部68は、連系点電圧VからPLLにより連系点電圧Vの位相を検出し、検出した位相を基準位相としてqd変換部69と、逆qd変換部66とに出力する。
【0096】
qd変換部69は、各相の連系点電圧Vと図示しない電流検出器により検出された各相の電流とを2相変換し、有効電圧検出値Edfと、有効電流検出値Idfと、無効電圧検出値Eqfと、無効電流検出値Iqfとを算出する。
【0097】
制御装置60では、有効電力成分電圧指令値の演算と、無効電力成分電圧指令値の演算の非干渉制御を行っているので、これらの演算の動作を順に説明する。まず、有効電力成分電圧指令値の演算動作について説明する。有効電流指令生成部61dは、連系点電圧Vに加え、コンデンサ電圧検出器43からコンデンサ14のコンデンサ電圧が入力され、さらに、連系点電圧Vから電力系統50の周波数を算出し、これらに基づいて、所定の有効電力を出力するための有効電流指令値Idpを生成し、加算器62dに出力する。
【0098】
加算器62dは、有効電流指令値Idpと、qd変換部69における二相変換により得られた有効電流検出値Idfとの偏差を算出し、算出した偏差を演算増幅回路63dに出力する。演算増幅回路63dはこの偏差を演算増幅する。加算器62dと演算増幅回路63dでの演算により、有効電流がフィードバック制御される。演算増幅回路63dは、増幅した差分を加算器65dに出力する。このとき、有効電流検出値Idfは、ゲインが連系インピーダンス(この実施形態ではリアクトル)のインピーダンスXtである乗算器64dに入力され、ゲインXtを乗算されて、加算器65qに出力される。
【0099】
加算器65dは、入力された、演算増幅回路63dで増幅された差分と、qd変換部69における二相変換により得られた有効電圧検出値Edfと、Xtを乗算した無効電流検出値Iqfとを加算し、有効電力成分電圧指令値を生成する。制御装置60は、無効電流検出値IqfにインピーダンスXtを掛けた信号を加算することによって、無効電力成分電圧指令値の演算との非干渉制御を行っている。加算器65dは生成した有効電力成分電圧指令値を逆qd変換部66に出力する。
【0100】
次に、無効電力成分電圧指令値の演算動作について説明する。無効電流指令生成部61qは、連系点電圧Vに加え、コンデンサ14のコンデンサ電圧が入力され、さらに、連系点電圧Vから電力系統50の周波数を算出し、これらに基づいて、所定の無効電力を出力するための無効電流指令値Iqpを生成し、加算器62qに出力する。
【0101】
加算器62qは、無効電流指令値Iqpと、qd変換部69における二相変換により得られた無効電流検出値Iqfとの偏差を算出し、算出した偏差を演算増幅回路63qに出力する。演算増幅回路63qはこの偏差を演算増幅する。加算器62qと演算増幅回路63qでの演算により、無効電流がフィードバック制御される。演算増幅回路63qは、増幅した差分を加算器65qに出力する。このとき、無効電流検出値Iqfは、ゲインが連系インピーダンス(この実施形態ではリアクトル)のインピーダンスXtである乗算器64dに入力され、ゲインXtを乗算されて、加算器65dに出力される。
【0102】
加算器65qは、入力された、演算増幅回路63qで増幅された差分と、qd変換部69における二相変換により得られた無効電圧検出値Eqfと、Xtを乗算した有効電流検出値Idfとを加算し、無効電力成分電圧指令値を生成する。制御装置60は、有効電流検出値IdfにインピーダンスXtを掛けた信号を加算することによって、有効電力成分電圧指令値の演算との非干渉制御を行っている。加算器65dは生成した無効電力成分電圧指令値を逆qd変換部66に出力する。
【0103】
逆qd変換部66は、入力された有効電力成分電圧指令値と無効電力成分電圧指令値を逆dq変換し、更に二相/三相変換することによって変換器11の各相の電圧指令値VRp、VSp、VTpを生成し、ゲートパルス生成部67に出力する。ゲートパルス生成部67は、PWM制御のための搬送波(例えば、三角波)を生成し、入力された各相の電圧指令値VRp、VSp、VTpを当該搬送波で変調する。ゲートパルス生成部67は、電圧指令値の搬送波による変調により、変換器11のR相変換部11R、S相変換部11S及びT相変換部11Tそれぞれのハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lのオン・オフを制御するゲートパルス信号生成する。ゲートパルス生成部67は、生成したゲートパルス信号を各スイッチに出力する。制御装置60は、このようにして、変換器11のR相変換部11R、S相変換部11S及びT相変換部11Tそれぞれのハイサイドスイッチ12H及びローサイドスイッチ12Lのオン・オフを制御する。
【0104】
(4-3)作用及び効果
第4実施形態の電力変換装置10aは、第1実施形態の電力変換装置10と同じ構成を有するので、第1実施形態の電力変換装置と同じ効果を奏する。さらに第4実施形態の電力変換装置10aは、系統電圧(連系点電圧V)に基づいて、ベクトル制御により電圧指令値を算出するベクトル制御手段であるように構成した。よって、電力変換装置10aは、ベクトル制御を用いた場合も、移動平均によるフィルタリング手段を有する連系点電圧検出装置を設けることにより、リプルを減衰させ、且つ、検出遅れを小さく、連系点電圧を検出して、フィードフォワードでき、第1実施形態の電力変換装置と同じ効果を奏する。これまで、普及しているベクトル制御装置をそのままで、連系点検出部を入れ替えるだけでよいメリットがある。すなわち、既製品の改造が容易である。
【0105】
(5)第5実施形態
(5-1)第5実施形態の電力変換装置の全体構成
第5実施形態の電力変換装置について、図1と同じ構成には同じ番号を付した図9を参照して説明する。図9に示すように、第5実施形態の電力変換装置10bは、第1実施形態と同様に、発電システム100bに用いられている。電力変換装置10bは、検出した連系点電圧Vを補償する電圧補償部70を備えている点で、第1実施形態の電力変換装置10とは異なる。電圧補償部70は、電力系統50の定格電圧と系統電圧検出装置としての連系点電圧検出装置20により検出した系統電圧としての連系点電圧Vとの差分を補償する。より具体的には、検出した連系点電圧Vのピーク値Vpeakを算出し、定格電圧とピーク値Vpeakの差分を加算することで、他の構成は、第1実施形態の電力変換装置10と同じであるので、説明を省略する。
【0106】
(5-2)第5実施形態の電圧補償部の構成及び動作
まず、電圧補償部70の構成を説明する。図10に示すように、電圧補償部70は、ピーク値演算部71と、減算器72と、加算器73とを備えている。ピーク値演算部71は、下記式(6)により連系点電圧のピーク値Vpeakを算出できることを利用している。そのため、ピーク値演算部71は、2乗演算部75と、一時データ保持部76と、加算器77と、ルート演算部78とを備えている。
Vpeak=((Vp+(Vp)b))0.5・・・(6)
ここで、Vpは連系点電圧Vの検出値、(Vp)bは、連系点電圧Vの1/4周期の期間前の検出値の2乗値Vpの過去値である。
【0107】
2乗演算部75は、連系点電圧検出装置20(図10参照)からの信号線が2つに分岐され、2つの信号線が乗算器75aに接続された構成をしており、乗算器75aにより、連系点電圧Vの2乗値を算出する。なお、2乗演算部75の構成は、連系点電圧Vの2乗値を算出できれば特に限定されない。一時データ保持部76は、例えば、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ及びハードディスクドライブなどの公知のメモリを備えており、検出値の2乗値Vpをメモリに格納し、連系点電圧Vの1/4周期の期間保持した後、メモリに格納した2乗値を出力する。
【0108】
次に、電圧補償部70の動作を説明する。電圧補償部70では、連系点電圧Vの検出値Vpがピーク値演算部71と加算器73に入力される。ピーク値演算部71は、検出値Vpが入力されると、2乗演算部75が検出値Vpの2乗値Vpを算出し、2乗値を一時データ保持部76と加算器77とに出力する。一時データ保持部76は、検出値Vpの2乗値Vpを受け取ると、検出値の2乗値Vpをメモリに格納し、連系点電圧Vの1/4周期の期間保持した後、メモリに格納した2乗値Vpを過去値(Vp)bとして出力する。すなわち、一時データ保持部76は、検出値Vpの2乗値Vpより、1/4周期前に算出した2乗値Vpを過去値(Vp)bとして出力する。一時データ保持部76は、検出値の2乗値Vpを順次メモリに格納し、連系点電圧Vの1/4周期の期間保持した後、過去値(Vp)bを加算器77に順次出力する。
【0109】
加算器77は、検出値の2乗値Vpと、2乗値Vpの1/4周期前の過去値(Vp)bとを加算し、加算結果(Vp+(Vp)b)をルート演算部78に出力する。ルート演算部78は、加算結果(Vp+(Vp)b)を受け取ると、当該乗算結果の平方根を算出し、連系点電圧Vのピーク値Vpeak=(Vp+(Vp)b)0.5を算出する。ルート演算部78は、算出したピーク値Vpeakを減算器72に出力する。このようにして、ピーク値演算部71は、式(6)の演算を行い、連系点電圧Vのピーク値Vpeakを算出する。なお、連系点電圧Vのピーク値Vpeakは直流量である。
【0110】
減算器72は、電力系統50の定格電圧とピーク値Vpeakとが入力され、定格電圧とピーク値Vpeakの差分を補償電圧として算出する。減算器72は、補償電圧を加算器73に出力する。加算器73は、補償電圧と連系点電圧Vとが入力され、連系点電圧Vに補償電圧を加算し、補償した連系点電圧Vを制御装置30へ出力する。このように、電圧補償部70は、定格電圧と連系点電圧Vのピーク値Vpeakの差分を補償電圧として算出し、算出した補償電圧を連系点電圧Vに加算することで、連系点電圧Vと定格電圧のずれを補償する。
【0111】
(5-3)作用及び効果
第5実施形態の電力変換装置10bは、第1実施形態の電力変換装置10と同じ構成を有するので、第1実施形態の電力変換装置と同じ効果を奏する。さらに第5実施形態の電力変換装置10bは、系統電圧(連系点電圧V)と電力系統50の定格電圧との差分を補償する電圧補償部70を備え、電圧補償部70が、連系点電圧Vのピーク値Vpeakを算出し、定格電圧とピーク値Vpeakとの差分を連系点電圧Vに加算することで、連系点電圧Vを補償するように構成した。よって、第5実施形態の電力変換装置10bは、連系点電圧Vと、連系点電圧Vのフィードフォワードにより出力される電圧成分との差電圧を小さくすることができ、連系点電圧Vの変動により追従できる。さらに、有効電力成分電圧指令値及び無効電力成分電圧指令値がゼロのときに、電力変換装置10bから電流が出力されることを抑制できる。
【0112】
(6)変形例
(変形例1)
第1実施形態の電力変換装置10では、検出した連系点電圧Vを時間微分することで、連系点電圧Vから位相が1/4周期進んだ有効電圧成分電圧指令値を算出した場合について説明したが、本発明はこれに限られない。この場合、例えば、検出した連系点電圧Vを1/4周期の期間、メモリなどに保持して、連系点電圧Vより1/4周期遅れた電圧を生成し、当該1/4周期遅れた電圧に-1を乗算することで、連系点電圧Vより1/4周期進んだ電圧を生成する。そして、この連系点電圧Vより1/4周期進んだ電圧に基づいて、連系点電圧Vから位相が1/4周期進んだ有効電圧成分電圧指令値を算出するようにする。
【0113】
(7)検証実験
(検証実験1)
検証実験1として、図1に示した電力変換装置10をシミュレーションし、連系点電圧検出装置20の出力を算出し、検出した連系点電圧Vのリプル状態を確認した。また、無効電力成分電圧指令値生成部31のゲインqと、有効電力成分電流指令値生成部33のゲインdとをゼロに設定して電力変換装置10が連系点電圧Vと大略等しい電圧を出力するようにする、すなわち、連系点電圧Vのフィードフォワードのみの場合に、電力変換装置10から出力される電流を算出し、連系点電圧Vの検出遅れの状態を確認した。
【0114】
ここで、電力変換装置10を連系点電圧Vのフィードフォワードのみとし、電力変換装置10の出力電流を算出することで、連系点電圧Vの検出遅れの状態を調べられる理由について説明する。連系点電圧Vに検出遅れがない場合、電力変換装置10から連系点電圧Vに大略等しい電圧が出力され、電力変換装置10の出力電圧と電力系統50の系統電圧との間の差電圧がほぼゼロとなり、電力変換装置10の出力電流もほぼゼロとなる。一方で、連系点電圧Vに検出遅れがある場合、連系点電圧Vの検出遅れの分だけ電力変換装置10の出力電圧と電力系統50の系統電圧との間の差電圧が生じ、電力変換装置10から電流が出力される。そのため、電力変換装置10が連系点電圧Vに大略等しい電圧を出力するようにし、電力変換装置10の出力電流を算出することで、連系点電圧Vの検出遅れの状態を調べることができる。
【0115】
以下で、検証実験1の結果について説明する。図11Aは、横軸が時間(s)、縦軸が電圧値(P.U.)であり、連系点電圧検出装置20で検出された連系点電圧Vの検出値の算出結果を示している。図11A中の実線711はR相の連系点電圧Vの検出値を示し、破線712はS相の連系点電圧Vの検出値を示し、点線713はT相の連系点電圧Vの検出値を示す。図11Aを見ると、各相の連系点電圧Vの検出値にリプルがなく、搬送波の1周期分の期間に検出された検出電圧の移動平均を算出して連系点電圧Vの検出値とすることで、リプルを抑制できることを確認できた。
【0116】
図11Bは、横軸が時間(s)、縦軸が電流値(P.U.)であり、連系点電圧Vのフィードフォワードのみの場合の電力変換装置10の出力電流の算出結果を示している。図11B中の実線711はR相の電流の算出値を示し、破線712はS相の電流の算出値を示し、点線713はT相の電流の算出値を示す。図11Bを見ると、各相の出力電流が小さく、連系点電圧Vの検出値が連系点電圧Vに追従しており、連系点電圧Vの検出遅れが抑制されていることが確認できる。よって、本発明の電力変換装置が検出した電圧のリプル及び検出遅れを抑制できることが確認できた。
【0117】
(検証実験2)
検証実験2では、実施例として、図5に示す制御装置4000を有する第2実施形態の変形例4の電力変換装置をシミュレーションし、シミュレーションにおいて連系点電圧Vに位相跳躍を起こさせ、電力変換装置の出力電圧、出力電流、有効電力及び無効電流の変化を調べ、電力変換装置のロバスト性を調べた。同時に、比較例として、従来のベクトル制御のみで出力を制御する電力変換装置をシミュレーションし、実施例と同様に、連系点電圧の位相跳躍に対する電力変換装置の出力電圧、出力電流、有効電力及び無効電力の変化を調べ、ロバスト性を評価した。その結果を図12に示す。
【0118】
図12中の(a)は系統電圧の時間変化を示し、実線1201がu相、破線1202がv相、点線1203がw相の電圧である。図12中の(b)は位相角の時間変化を示す。図12中の(c)は実施例の制御結果、すなわち、実施例の電力変換装置の出力電流の時間変化を示し、実線1211がu相への出力電流、破線1212がv相への出力電流、点線1213がw相への出力電流を示す。図12中の(d)は比較例の電力変換装置の出力電流の時間変化を示し、実線1204がu相への出力電流、破線1205がv相への出力電流、点線1206がw相への出力電流を示す。図12中の(e)は実施例の電力変換装置と比較例の電力変換装置の有効電力の出力の時間変化を示しており、点線が実施例、実線が比較例を示している。図12中の(f)は実施例の電力変換装置と比較例の電力変換装置の無効電力の出力の時間変化を示しており、点線が実施例、実線が比較例を示している。
【0119】
(a)を見ると、0.075秒付近で、系統電圧に位相の跳躍が起きていることがわかる。それに伴い、位相角も変化している((b)参照)。(c)を見ると、実施例の電力変換装置では、系統電圧の位相跳躍に出力電流が追随して小さくなり、その後、過電流が流れることがなく復旧していることがわかる。一方(d)を見ると、比較例の電力変換装置では、位相跳躍が生じても、位相跳躍に追従して出力電流が変化しておらず、0.01秒程度経過後に、各相に制御目標よりも大きな電流が流れており、電力変換装置に過電流が流れてしまっていることがわかる。
【0120】
(e)(f)を見ると、比較例と比べて実施例の方が、位相跳躍によって変化した有効電力と無効電力の出力の変化量が小さく、より早く出力が制御目標量に戻っていることがわかる。このように、第2実施形態の変形例4の電力変換装置が、従来のベクトル制御と比べて、ロバスト性が高いことがわかる。
【0121】
なお、上述した実施形態においては、電圧検出装置となる電圧検出器にて、検出手段の出力電圧を、一定周期の1周期分の期間、移動平均する、又は、移動平均の近似値を算出する、フィルタリング手段21を設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、電圧検出装置となる電圧検出器にて、検出手段の出力電圧を、一定周期の数周期分(すなわち、一定周期の1周期分超)の期間、移動平均する、又は、移動平均の近似値を算出する、フィルタリング手段を設けてもよい。
【0122】
また、上述した実施形態においては、連系点電圧検出装置20(系統電圧検出装置)は、検出した電圧についてパルス幅変調制御に用いる搬送波の1周期分の期間の移動平均を算出し、これを系統電圧として検出する場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、連系点電圧検出装置20(系統電圧検出装置)は、検出した電圧についてパルス幅変調制御に用いる搬送波の数周期分(すなわち、搬送波の1周期分超)の期間の移動平均を算出し、これを系統電圧として検出するようにしてもよい。
【0123】
また、上述した実施形態においては、所定のスイッチング周期でスイッチがスイッチングし、前記連系インピーダンスを介して前記電力系統に電力を出力する変換器として、大略一定周期で異なる幅のパルスを出力するようにスイッチがスイッチングし、所定交流電圧を出力する変換器11について説明したが、変換器のスイッチング周期(パルス幅変調制御に用いる搬送波の周期)としては、種々の周期を適用してもよい。
但し、変換器のスイッチング周期は可聴域を超える周波数13kHz以上がより好ましい。
【0124】
以上、説明したように本実施形態では、所定のスイッチング周期でスイッチがスイッチングし、連系インピーダンス(リアクトル17R、17S、17T)を介して電力系統50に電力を出力する変換器11と、この電力変換装置10と電力系統50の連系点(端子LPR、LPS、LPT)の電圧を検出する電圧検出器(連系点電圧検出装置20)と、スイッチング周期に対応して所定期間移動平均した前記電圧検出器の出力電圧に基づいて、変換器11を制御する制御装置30,4000,60と、を備える電力変換装置10,10aである。このような構成とすることで、検出した電圧のリプル及び検出遅れを抑制できる電力変換装置及び発電システムを実現できる。
【0125】
また、このような電力変換装置の制御装置4000では、スイッチング周期に対応して所定期間移動平均した前記電圧検出器の出力電圧の実数倍の値を有効電流指令値とし、当該有効電流指令値に基づいて算出した電圧指令値により変換器11を制御するようにしてもよい。
【0126】
また、このような電力変換装置の制御装置4000では、スイッチング周期に対応して所定期間移動平均した前記電圧検出器の出力電圧に基づいて、上記の式(2)(3)の瞬時式や、上記の式(4)(5)の瞬時式から、瞬時電圧(有効分電圧推定値Vi_d、無効分電圧推定値Vi_q)を算出し、前記瞬時電圧から変換器11の電圧指令値を生成するようにしてもよい。
【0127】
また、このような電力変換装置の制御装置4000では、上記構成を組み合わせ、例えば、スイッチング周期に対応して所定期間移動平均した前記電圧検出器の出力電圧の実数倍の値を電流指令値とし、前記電流指令値に基づいて、上記の式(2)(3)の瞬時式や、上記の式(4)(5)の瞬時式から、瞬時電圧(有効分電圧推定値Vi_d、無効分電圧推定値Vi_q)を算出し、前記瞬時電圧から変換器11の電圧指令値を生成するようにしてもよい。
また、連系点電圧で測定すると述べたが、変換器からのインピーダンスが推定できれば、連系点でない電力系統の他の個所でも構わない。
また、連系点電圧は直接測定せずに、他の個所、例えば連系インピーダンスの電圧を測定し演算等で求めても良い。
【符号の説明】
【0128】
10、10a、10b 電力変換装置
11 変換器
15 有効電力源
17R、17S、17T リアクトル
20、25 連系点電圧検出装置
30、60、4000 制御装置
50 電力系統
55 交流電圧源
70 電圧補償部
100、100a、100b 発電システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12