(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】完全菜食主義者用ジャガイモ製エマルション
(51)【国際特許分類】
A23L 19/12 20160101AFI20241002BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20241002BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20241002BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A23L19/12 Z
A23F5/24
A23F3/16
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2021528463
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(86)【国際出願番号】 SE2019051192
(87)【国際公開番号】W WO2020112009
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-16
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】520110995
【氏名又は名称】ヴェグ オブ ルンド アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トーンベルク エヴァ
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】スウェーデン国特許発明第00534856(SE,C2)
【文献】国際公開第2000/022939(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/12
A23F 5/24
A23F 3/16
A23L 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全菜食主義者用ジャガイモ製エマルションであって、
原料ジャガイモが蒸発乾燥中に少なくとも100℃に加熱された、0.5~
5重量%の量
のジャガイモ
フレークと、
0~5重量%の量の少なくとも1つの糖類と、
0.09~1.0重量%の量の少なくとも1つの植物性乳化剤と、
0.50~6重量%の量の少なくとも1つの油と、
0.20~3重量%の量の少なくとも1つの添加植物性タンパク質と、
100重量%まで加える水と、を備
え、
前記少なくとも1つの植物性乳化剤は、植物レシチンから選択され、
前記少なくとも1つの添加植物性タンパク質は、ジャガイモタンパク質、エンドウ豆タンパク質または大豆タンパク質であり、
前記ジャガイモ製エマルションは油滴径D[3,2]が0.1~10μmである、ジャガイモ製エマルション。
【請求項2】
前記少なくとも1つの糖類は、単糖、二糖、及びポリオールからなる群から選択される、請求項1
に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項3】
前記植物レシチンは、ナタネレシチン、ヒマワリレシチン、及び大豆レシチンからなる群から選択される、請求項
1または2に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項4】
前記少なくとも1つの油は、ナタネ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、大豆油、ヤシ油、ラッカセイ油、ゴマ油、アマニ油、アボカド油、クルミ油、ピスタチオ油、及びヘーゼルナッツ油からなる群から選択される、請求項1から
3のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項5】
前記少なくとも1つの植物性乳化剤は、前記少なくとも1つの油を介して前記ジャガイモ製エマルションに添加される、請求項1から
4のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項6】
前記ジャガイモ製エマルションはさらにpH調整剤を備えている、請求項1から
5のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項7】
前記少なくとも1つの糖類は0~3重量%の量で存在している、請求項1から
6のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項8】
前記少なくとも1つの植物性乳化剤は0.09~0.5重量%の量で存在している、請求項1から
7のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項9】
前記少なくとも1つの油は0.5~3重量%の量で存在している、請求項1から
8のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項10】
前記少なくとも1つの添加植物性タンパク質は0.2~1重量%の量で存在している、請求項1から
9のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項11】
前記ジャガイモ製エマルションはD[3,2]の油滴径が0.2~5μmである、請求項1から1
0のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項12】
前記ジャガイモ製エマルションは白系色及び/または泡立て可能である、請求項1から1
1のいずれか1項に記載のジャガイモ製エマルション。
【請求項13】
前記ジャガイモ製エマルションは、飲料に加えられる、請求項1
2に記載のジャガイモ製エマルション。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、加熱処理されたジャガイモ、糖類、植物性乳化剤、油、及び植物性タンパク質を備えており、油滴径D[3,2]が0.1~10μmである完全菜食主義者用ジャガイモ製エマルションに関する。ジャガイモ製エマルションは白系色であり、泡を形成する泡立て可能である。本エマルションは、ミルクと同じように摂取するミルクに代わる選択肢として使用したり、あるいはコーヒーや紅茶といった飲料に加えるものとして使用したりすることが可能である。
【0002】
[背景技術]
完全菜食主義(Veganism)は、世界中で着実に拡大してきており、動物性食品の使用や摂取を控えることを意味する。完全菜食主義者用食品には、動物由来成分も、動物性食品や副産物も全く含まれていない。よって完全菜食主義者用食品は、植物をベースとした成分だけを含有している。
【0003】
食事における完全菜食主義者(または厳格な菜食主義者)は、動物性食品、つまり肉類だけでなく、卵、乳製品、及び他の動物由来物質も摂取を控える。これは、食品産業にとっては既存する動物由来食品や飲料に代わる選択肢を用意する、挑戦であり好機でもある。牛乳等の乳製品は完全菜食主義者には摂取されない。完全菜食主義者の間では、牛乳と同じように摂取する、または様々な食品における補完として摂取する、牛乳に代わる選択肢が所望されている。乳製品が使用されることが多い分野としては、コーヒー等の飲料や紅茶が挙げられる。また、カプチーノやカフェラテ等といった飲料では、その飲料製品の表面や、飲料製品に残っているミルクの別の部分の表面に、安定したフォームミルクを施す風潮が広がっている。
【0004】
国際公開第2010/043332号では、脂肪、タンパク質、及び乳化剤で構成される起泡剤が開示されている。使用されるタンパク質はカゼイン酸ナトリウムや乳清タンパク質粉末でありどちらも乳タンパク質である。起泡剤は非植物性であり、好ましくは粉末として提供される。さらに、ジャガイモは使用されていない。
【0005】
国際公開第2016/049577号では、食物繊維、タンパク質、食品デンプン、乳化剤、ハイドロコロイド、脂肪、及び水で構成されている、泡立て可能な食品が開示されている。ハイドロコロイドは、食品の配合に用いられて保存性や品質を高める、周知の増粘剤でありゲル化剤である。本公開ではまた、乳化剤として乳タンパク質、例えば加水分解されたカゼインやAngel-type卵白が提案されている。
【0006】
国際公開第2018/085323号では、糖類、油、乳タンパク質濃縮物、カゼイン塩、安定剤、乳化剤、及び緩衝剤で構成されている、送達系内の圧縮組成物が開示されている。この組成物は、カゼイン塩と乳タンパク質濃縮物が存在しているので、完全菜食主義者用にはならない。
【0007】
国際特許出願PCT/SE2018/051007号では、植物油、加熱処理されたジャガイモ、果物及び野菜、並びに水を備えた、ジャガイモをベースとしたエマルションが開示されていて、エマルション中の油滴は直径(D[3,2])が90μm未満である。この出願で開示されているようなエマルションは、ミルクの代替物としては使用できない。
【0008】
この技術分野の中では、ミルクに代わる選択肢として、泡立て可能で、白系色であり、ミルクに代わる選択肢としてミルクと同じように、またはコーヒーや紅茶、例えばカプチーノ、カフェラテ、チャイラテに入れて使用可能である、完全菜食主義者用飲料を提供する必要性が依然として存在する。
【0009】
[発明の概要]
非常に優れたミルクの代替品である完全菜食主義者用ジャガイモ製エマルションが、本発明に従って提供されているのは驚くばかりである。ジャガイモ製エマルションはミルクと同等の特性を有し、ミルクと同じように摂取したり、あるいは紅茶やコーヒーといった飲料に加えるものとして使用することが可能である。
【0010】
本発明は完全菜食主義者用ジャガイモ製エマルションに関し、
0.5~20重量%の量の加熱処理されたジャガイモと、
0~5重量%の量の少なくとも1つの糖類と、
0.09~1.0重量%の量の少なくとも1つの植物性乳化剤と、
0.50~6重量%の量の少なくとも1つの油と、
0.20~3重量%の量の少なくとも1つの添加植物性タンパク質と、
100重量%まで加える水と、を備えているジャガイモ製エマルションであって、
エマルションは油滴径D[3,2]が0.1~10μmである、ジャガイモ製エマルションに関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、左から右へと見て、ナタネレシチン、ヒマワリレシチン、及び大豆レシチン(ジャガイモフレーク入りとジャガイモフレークなし)を0.18%の濃度で、ジャガイモタンパク質0.22%と一緒に乳化剤として用いているジャガイモ製エマルションを開示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[用語の定義]
「加熱処理されたジャガイモ」という用語を用いて、本明細書では、ジャガイモ原料が95℃以上に、例えば約98~100℃や115~121℃に加熱されていることを示している。
【0013】
「植物油」という用語を用いて、植物性の原料から得られた油を示している。好適な原料は以下でさらに説明する。
「ジャガイモ原料」及び「ジャガイモ」という用語を用いて、本明細書では、あらゆる形状及びあらゆる生産地のジャガイモを示している。ジャガイモは、例えば、フレーク状、丸ごとのジャガイモ、又は角切り状であってもよい。しかし、ジャガイモの形状は限定されていない。
【0014】
「ジャガイモフレーク」という用語を用いて、本明細書では、白系色のフレークであって、フレークの30~65%は大きさが1~3mmの範囲であるが、この範囲に限定はされないフレークを示している。
【0015】
「ジャガイモの角切り」という用語を用いて、本明細書では、一辺が約10mmであるが、この長さに限定されないジャガイモの角切り、またはほぼ角切り形状をしたジャガイモを示す。
【0016】
[発明の詳細な説明]
具体的には、本発明は、完全菜食主義者用ジャガイモ製エマルションに関し、
0.5~20重量%の量の加熱処理されたジャガイモと、
0~5重量%の量の少なくとも1つの糖類と、
0.09~1.0重量%の量の少なくとも1つの植物性乳化剤と、
0.50~6重量%の量の少なくとも1つの油と、
0.20~3重量%の量の少なくとも1つの添加植物性タンパク質と、
100重量%まで加える水と、を備えているジャガイモ製エマルションであって、
エマルションは油滴径D[3,2]が0.1~10μmである、ジャガイモ製エマルションに関する。
【0017】
ジャガイモ製エマルションの技術的特徴を具体的に組み合わせることにより、フェザリングの回避、ジャガイモ製エマルションの泡立て時における安定した泡の形成、及び満足のいく味の提供といった有益な特徴を提供する。ジャガイモは特に北欧諸国において耕作地面積あたりの食糧が最多である農作物であるので、ジャガイモを使用することは持続可能性という観点からも有益である。
【0018】
本発明のエマルションは、エマルションに加える前に加熱処理されているジャガイモ原料を備えている。ジャガイモ原料は、下処理されてジャガイモフレーク状で供給され得るし、加熱処理された丸ごとのジャガイモ及び/またはジャガイモの角切りの形状でも供給され得る。
【0019】
本発明のある実施形態において、加熱処理されたジャガイモは、少なくとも100℃に加熱されたジャガイモフレークか、または、少なくとも98℃で殺菌されたか、または約115~121℃で高圧蒸気滅菌された丸ごとのジャガイモ及び/またはジャガイモの角切りから選択される。
【0020】
ジャガイモフレークを選択してエマルションに含有する場合、ジャガイモ原料は、蒸発乾燥中に少なくとも100℃に加熱された状態であることが分かっている。また、ジャガイモ原料が丸ごとのジャガイモ及び/またはジャガイモの角切り状である場合、98℃で25~30分間殺菌され、総加熱時間が68分であるか、または高圧蒸気滅菌により約115~121℃(圧力2bar)で32分間加熱され、総加熱時間が55~60分であるかのいずれかであることが分かっている。
【0021】
ジャガイモ原料は0.5~20重量%、例えば0.5~10重量%の量で存在している。例えば、加熱処理されたジャガイモは、1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5,5,6,8,10,12,14,16,18,または20重量%の量で存在している。
【0022】
少なくとも1つの糖類は、グルコース、フルクトース、またはガラクトース等の単糖、スクロースまたはマルトース等の二糖、及びマンニトール、ソルビトールまたはキシリトール等のポリオールつまり糖アルコールからなる群から選択される。本発明は選択された特定の糖類に限定されない。糖類は0~5重量%、例として1~5重量%、例えば1,2,3,4または5重量%の量で存在している。糖類を加えることで甘みが得られ、望ましくない恐れもあるじゃがいもの風味が隠される。
【0023】
少なくとも1つの乳化剤は、植物レシチン、例えば、ナタネレシチン、ヒマワリレシチン、及び大豆レシチンからなる群から選択される植物レシチンから選択されるが、ここでは特に脱脂ナタネレシチン、脱脂ヒマワリレシチン、及び脱脂大豆レシチンが使用可能である。少なくとも1つの乳化剤は、少なくとも1つの油を介してジャガイモ製エマルションに添加してもよい。異なるレシチン等の乳化剤からなる異なる組み合わせを選択してエマルション中に含有することもできることは理解されよう。少なくとも1つの乳化剤は0.09~1.0重量%の量で存在している。乳化剤は0.1,0.15,0.2,0.25,0.3,0.35,0.4,0.45,0.5重量%の量で存在していてもよい。乳化剤を含有する利点は、フェザリングの回避と、エマルションの泡立て時における安定した泡の形成である。
【0024】
少なくとも1つの油は、ナタネ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、大豆油、ヤシ油、ラッカセイ油、ゴマ油、アマニ油、アボカド油、クルミ油、ピスタチオ油、及びヘーゼルナッツ油からなる群から選択される。植物油の異なる組み合わせを選択してエマルション中に含有することもできることは理解されよう。少なくとも1つの油は0.5~6重量%、例えば1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5,5,5.5,または6重量%の量で存在している。
【0025】
少なくとも1つの添加植物性タンパク質は、ジャガイモタンパク質、エンドウ豆タンパク質、大豆タンパク質、または他の任意の植物性タンパク質から選択される。植物性タンパク質は液状で添加しても粉末として添加してもよい。植物性タンパク質は水相を介して添加してもよい。植物性タンパク質の異なる組み合わせも選択可能であることは理解されよう。よって、添加タンパク質は、本発明の飲用エマルションに使用されているように、ジャガイモ原料そのものから得られたものではない。少なくとも1つの添加植物性タンパク質は0.2~3重量%、例えば約0.5,0.7,1.0,1.5,2.0,2.5,または3重量%の量で存在している。植物性タンパク質は、エマルション中において乳化剤の働きをしている。
【0026】
本発明のある実施形態において、ジャガイモ製エマルションはさらに、pH値を通例では6.5~7.5、特に6.5~7.0に上げるために、少なくとも1つのpH調整剤を備えている。通常はpH値が4.5~5.5であるコーヒーに添加される場合に、ジャガイモ製エマルションのpH値を上げることは特に重要である。一般的に摂取される任意のpH調整剤を使用してもよく、pH調整剤の例としてはNa2HPO4-NaH2PO4及びK2HPO4-KH2PO4が挙げられる。これらのpH調整剤(本明細書では緩衝剤とも称される)は、ジャガイモミルク自体の苦みや飲料に加えた際の苦みを弱めることに寄与する。
【0027】
本発明のある実施形態において、糖類に加えて、例えばココア等の他の任意の香味添加剤もジャガイモ製エマルションに添加して、ジャガイモの風味を隠したり、別の風味のジャガイモ製エマルションを供給したりしてもよい。
【0028】
本発明のジャガイモ製エマルションは、規定された大きさの油滴を備えている。油滴の大部分が直径D[3,2]が0.2~10μmであり、好ましくは直径が0.2~5μmまたは0.2~3μmの間隔以内であることによって、ジャガイモ製エマルションが白系色になるとともに触感も良くなることが分かっているが、これは実験で行った官能評価で経験したことである。さらに、油滴は凝集していないが、これは油滴にとってクリーム状にしないために重要なことである。実験項で開示したように、ジャガイモ製エマルションの工業生産によって、油滴の大部分が0.5~3μm(D[3,2])の範囲内であるエマルションが得られる。この工業的に生産されたジャガイモ製エマルションはまた、見た目がより白く、泡立て特性が良好で、満足のいく味を有している。
【0029】
本発明のある実施形態において、ジャガイモ製エマルションは、ミルクと同様の飲料として、またはコーヒーや紅茶への補完として摂取する、完全菜食主義者にとってミルクに代わる選択肢として使用されている。本発明のジャガイモ製エマルションを使用する利点は、あらゆる「フェザリング」(油滴の凝集及び/またはタンパク質凝集)を生じさせないことと、泡立て可能であり、コーヒーや紅茶と混ぜるとすぐにその一部はコーヒーや紅茶の表面で安定した泡として施され、また一部はコーヒーや紅茶の中に入り込むことによって、完全菜食主義者用のカプチーノ、カフェラテ、またはチャイラテが得られることである。
【実施例】
【0030】
限定するためではなく、一例として、以下に記す各例は、本発明の各実施形態に従った種々の飲料組成物を特定するものである。
エマルション中には、加熱処理されたジャガイモ原料が含有されている。
【0031】
[本発明の完全菜食主義者用ジャガイモミルクに用いられる方法の説明]
[粒度分布(PSD)の定義]
エマルション液滴D[3,2]及びデンプン粒D[4,3]の粒度分布(particle size distribution:PSD)を、レーザー回析分析装置(Malvern社製Mastersizer)を用いて測定した。平均粒度は、本明細書ではそれぞれd43(D[4,3]とも書かれる)とd32(D[3,2]とも書かれる)として表される粒子が占める体積又は面積に基づいて算出することができる。
【0032】
【0033】
【0034】
ここでniは直径Diである粒子の割合である。
[起泡実験]
本実験は、空気を有する給気管に管を接続して行われ、流量は調整されている。試料15mlをメスシリンダーに加え、底面に給気のついた管を挿入する。15秒おいてから管を外す。泡の高さ(ミルク表面から泡の頂点まで)を測定してから、泡が消えるまでに要した秒数を記録する。
【0035】
別の起泡試験を実施した。ここでは、同時に撹拌と加熱が可能であり、特にコーヒーに用いる通常のミルクを泡立てるように設計されているネプレッソ(nepresso)マシーン内に、用意したジャガイモ製エマルション130mlを加えた。加熱しながらの撹拌(onボタンを読む)を1分間続けた。泡を直接400mlビーカーに注ぎ込み、ビーカーから泡の量をml単位で読み取り、最初の量から差し引いた。この値が最初の泡の高さである。泡を5分間放置することによって泡のへたりを求めるが、ここで放置後の泡の高さを再び読み取った。ml/min単位の泡のへたりは、最初の泡の高さから5分後の泡の高さを引いた差を5分で割った値で得られる。
【0036】
[実験室でのエマルションの作成]
材料をハンドミキサーで2分間混ぜた。次にエマルションの均質化を、Tetra Pakホモジナイザーを用いて150barの圧力で、またはバルブ式ホモジナイザー(Panda)を用いて150~200barの圧力降下で行った。その後、全ての試料を殺菌した(90℃で30分間)。
【0037】
[工業でのエマルションの作成]
使用する水の60%の量をタンクに充填した。減圧を用いて乾燥材料をタンク内に吸引するが、タンク底面にはミキサーが置かれている。緩衝系の水性プレミックスをタンク内に導入した後、材料の混合を5分間行った。次に、油とレシチンからなる別のプレミックスを底面からタンク内に充填し、5分間高速で乳化を行った。最後に、残りの水を加えて、さらなる乳化を5分間高速で行った。その後、エマルションを加熱(UHT)設備に注入した。エマルションをプレート熱交換器内で95℃に予熱した後、142℃にして10秒間蒸した。減圧バルブを用いて試料の温度を急激に80℃に戻し、この温度で均質化(170bar/30 bar)した。その後、エマルションを熱交換器を用いて20℃に冷やした。
【0038】
[ジャガイモ原料の準備]
様々なジャガイモ原料を、国際特許出願PCT/SE2018/051007号に記載されているものと同じ方法に従って準備した。
【0039】
[実験1 ジャガイモフレークとタンパク質]
実験1では、材料はジャガイモベースと油であり、既にジャガイモタンパク質であるAVEBE製Solanic(登録商標)200が異なる2つの濃度、つまり0.5%と1%添加タンパク質で添加されている。別の選択肢として、ジャガイモタンパク質としてSolanic(登録商標)300を使用してもよい。ジャガイモフレーク(Ecological Kebelcoジャガイモフレーク)の量は5.8グラム(2.9%)、水の量は182.2グラム(91.1%)、油の量は12グラム(6%)であった。すべての試料は、PSD測定、官能分析、顕微鏡観察、及び起泡によって特徴が明確化されている。
【0040】
官能評価では、2つのミルク様エマルションを評価した。1つは0.5%タンパク質で3%脂肪、もう1つは1%タンパク質で3%脂肪のエマルションである。タンパク質濃度が低い方のエマルションは味が落ちているが扱いやすく、泡も得られた。しかし、後者のエマルションでは、強烈に味が落ちていて、ミルク色もより茶色っぽい状態が観察されたが、良好な泡が得られた。
【0041】
PSD測定の結果は表1から分かるが、ここでは、面積加重粒度D[3,2]はエマルションの油滴径をほぼ反映していると考えられ、体積加重平均直径D[4,3]はデンプン粒径をほぼ反映している。タンパク質含有量が高いほど油滴が小さくなっているが、タンパク質濃度が低くても2.6μmと比較的小さい油滴径が得られている。
【0042】
表1:異なる2つのジャガイモミルクの油滴径D[3,2]とデンプン粒径D[4,3]
【0043】
【0044】
[実験2 ジャガイモフレークなし]
ジャガイモベースの影響を見るために、ジャガイモフレークを使用していないジャガイモ製エマルションを作成した。したがって、エマルション中に使用されているのは、水、油、及びSolanic200タンパク質のみである。ジャガイモタンパク質は90.5%タンパク質で構成されており、最終的な試料中において0.5%、1%、及び2%タンパク質を得るのに伴い、必要な量の粉末がそれぞれ算出された。その後、各試料を3バッチに分割し、1.5%フルクトースを1バッチ目に、3%スクロースを2バッチ目に添加して、3バッチ目は対照群として使用した。9試料は全て、PSD測定、官能分析、顕微鏡観察、及び起泡によって特徴が明確化されている。
【0045】
官能評価では、0.5%ジャガイモタンパク質が添加されたジャガイモミルクが最も良い結果であり、本実験で調査された全ジャガイモミルクの中で最も色が白っぽかった。味の劣化も管理できるものであった。このミルクに1.5%フルクトースを添加したが、必要な甘みは得られなかった。よってこのミルクに3%スクロースを添加すると、比較的良好な甘みが得られ、味が落ちた分を十分にカバーした。
【0046】
1%ジャガイモタンパク質が添加されたジャガイモミルクの場合、若干茶色がかった色が得られ、味は落ちていた。このミルクに1.5%フルクトースを添加すると、得られた甘みは物足りないものであった。しかし、3%スクロースを添加した状態では、その味は、味が落ちた分を相当にカバーする良好な甘みがあると特徴付けることができるが、それでもまだ味が落ちたことは感じ取れる。
【0047】
2%ジャガイモタンパク質が添加されたジャガイモミルクの場合、とても強烈に味が落ちたと感じ、色も他と比べると最も茶色がかっていた。1.5%フルクトースを添加することにより、十分な甘みは得られなかった。3%スクロースを添加しても、味が落ちた分をカバーできるだけの甘みは得られなかった。
【0048】
PSD測定の結果は表2からわかる。タンパク質濃度が1%と2%と高い方の2つを用いるとより小さい油滴が得られ、その大きさはD[3,2]が約0.5μmであって、両方ともD[3,2]が2.6μmである0.5%タンパク質添加のジャガイモミルクの場合よりかなり小さい。タンパク質濃度が高い方の2つでは、その油滴径が、比較対象として含まれていた牛乳及び植物性のオーツミルクを用いて得られた値と近かった。
【0049】
表2:ジャガイモフレークを使用していない種々のミルクの油滴径D[3,2]とデンプン粒径D[4,3]
【0050】
【0051】
起泡実験の結果は表3に示されている。これらの結果から、ジャガイモフレークを用いていない3つのジャガイモ製エマルションは、参照と比べて、最初の泡の高さが同じ高さに達しておらず、安定性にも欠けており、さらにこれらの値は、ジャガイモフレークを用いているジャガイモ製エマルションのものよりも劣っていると推察できる。明らかに、ジャガイモベースとして使用されたジャガイモフレークは、泡の高さと安定性の両方に寄与していると思われる。
【0052】
表3:異なるジャガイモ製エマルション及び参照を用いて、最初の泡の高さと泡が消えるまでに要した時間を測定した起泡実験
【0053】
【0054】
[実験3 植物由来乳化剤(脱脂大豆レシチン)]
本実験では、ジャガイモタンパク質の代わりに、別の乳化剤である脱脂大豆レシチンを使用している。材料は、2.9%ジャガイモフレーク、3%フルクトース、0.09/0.18%大豆レシチン、3%ナタネ油、及び91.01/90.02%の水である。
【0055】
大豆レシチンは油を介して添加された。つまり、水相中ではなく油相中に添加されており、これはジャガイモタンパク質を乳化剤として使用する場合の事例である。レシチンは異なる2つのレベルで添加された。1つは3%脂肪相の3%レシチン、もう1つは3%脂肪相の6%レシチンである。各レベルの大豆レシチンに対して2バッチずつ用意し、そのうち1つはバルブ式ホモジナイザー(150bar)を通過し、もう一つは対照試料として使用された。この後、4つの試料は全て特徴付けられている。
【0056】
4つのジャガイモ製エマルションの官能評価では、大豆レシチンでは味が落ちることは全くなく、これは添加されたジャガイモタンパク質を乳化剤として用いている場合の事例であった。見た目もよく、色もすばらしく、均質化すると粘稠性は滑らかであった。しかし、1日保管すると分離が見られた。
【0057】
添加した脱脂大豆レシチンの量が異なる2つのジャガイモ製エマルションに対して、バルブによる均質化(制御)を行ったものと行わなかったものをそれぞれPSD測定した結果は、表4から分かる。バルブにより均質化すると、D[3,2]は12μm前後であり、ジャガイモフレークのみを使用した場合よりは小さいが、ジャガイモタンパク質を添加した場合よりは大きい。ジャガイモタンパク質は比較した2つの乳化剤の中では最も効果的な乳化剤であることを意味するが、用いた結果、大豆レシチンよりも風味が落ちる。対照群のD[3,2]が45μmと大きいので、バルブ式ホモジナイザーを使用することは、より小さな油滴を得るためには非常に重要である。使用した大豆レシチンでは、異なる2つの濃度で油滴径に差はなかった。
【0058】
表4:大豆レシチンを乳化剤として使用した場合の油滴径D[3,2]とデンプン粒径D[4,3]
【0059】
【0060】
[実験4 脱脂ナタネレシチン及び脱脂ヒマワリレシチン]
異なる2種類のレシチン、具体的には脱脂ナタネレシチンと脱脂ヒマワリレシチンを油相中に添加した2つの試料を用意した。添加したレシチンは全部で0.18%に上った。その後、両方の試料の特徴付けを行った。材料は、2.9%ジャガイモフレーク、3%フルクトース、0.18%レシチン、3%ナタネ油、及び90.92%の水である。
【0061】
0.18%ヒマワリレシチンが添加されたジャガイモ製エマルションの官能評価では、良好な白系色と粘稠性が得られた。多少味が落ちてしまい、しばらくすると一部が分離していた。しかし、コーヒーに加えてもフェザリングしなかった。
【0062】
0.18%ナタネレシチンが添加されたジャガイモミルクの場合は、ミルクでもコーヒーでも全体的に最も魅力的な色が得られたが、これも味の劣化は生じた。ミルクでは分離があったが、コーヒーに加えてもフェザリングしなかった。
【0063】
0.09%及び0.18%大豆レシチンが添加されたジャガイモミルクは、ナタネレシチンやヒマワリレシチンと比べると魅力的な色ではなかった。1日保管した後には分離が見られた。しかし、他のレシチンよりもわずかに味がよく、コーヒーの中でもフェザリングしなかった。
【0064】
ヒマワリレシチンとナタネレシチンをそれぞれ添加した2つのジャガイモ製エマルションのPSD測定の結果は、表5から分かる。この種のレシチンではD[3,2]は約7~8μmであり、大豆レシチンで安定化したエマルションで観察された12μm程度のD[3,2]よりも小さいことが示されたことは興味深い。D[4,3]は、試験を行った全てのレシチンで同じ範囲内であり、おそらくジャガイモフレークに由来するデンプン粒径にほぼ左右される。
【0065】
表5:ナタネ油レシチンとヒマワリ油レシチンを乳化剤として使用した場合の油滴径D[3,2]とデンプン粒径D[4,3]
【0066】
【0067】
ヒマワリレシチンとナタネレシチンを乳化剤として使用している2つのエマルションに対する起泡実験の結果は表6に集約している。試験を行ったレシチンの中で、ナタネレシチンが最も良好な泡が得られ、次が大豆レシチン、最後がヒマワリレシチンだと思われる。起泡の挙動は、0.5%ジャガイモタンパク質添加で安定化されたジャガイモ製エマルションの場合の方が、同様であるか、あるいはより良好である。
【0068】
表6:ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチンを0.18%で添加した場合の異なるジャガイモ製エマルションを用いて、最初の泡の高さと泡が消えるまでに要した時間を測定した起泡実験
【0069】
【0070】
[実験5 異なる種類のレシチン]
異なる3種類のレシチン、具体的には脱脂ナタネレシチン、脱脂ヒマワリレシチン、脱脂大豆レシチンを高めの濃度である0.5%で有する3つの試料を用意した。各レシチンは油相中に添加した。残りの材料(2.9%ジャガイモフレーク、3%フルクトース、0.5%レシチン、3%ナタネ油、及び90.65%の水)は水相中に混合した。
【0071】
官能評価では、レシチン濃度を0.5%まで増加させると試料がより良い白系色になることが分かり、全体的に奇妙で味が落ちることもなかった。試食中に試料が濃厚に感じられ、若干脂っこい味がしたこともあった。
【0072】
0.5%ヒマワリレシチンが添加されたジャガイモ製エマルションは全ての試料の中で最も味が良く、より牛乳に近い味がした。0.5%大豆レシチンが添加されたエマルションも味が良く、味が落ちてはいなかった。0.5%ナタネレシチンが添加されたエマルションは若干味が落ちていた。
【0073】
表7:ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチンを濃度0.5%で乳化剤として使用した場合の油滴径D[3,2]とデンプン粒径D[4,3]
【0074】
【0075】
ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチンをそれぞれ添加した3つのジャガイモ製エマルションのPSD測定の結果は、表7から分かる。D[3,2]の低下は比較的小さく、最初の2つのレシチンでは低めの濃度で7~8μmであったのが、この高めの濃度で約5~6μmとなっていることが示されたことは興味深い。しかし大豆レシチンの場合は、油滴径の低下はより大きく、低めの濃度である0.18%でのD[3,2]は12μm程度から、0.5%では7μmに低下した。D[4,3]は、試験を行った全てのレシチンで同じ範囲内であり、おそらくジャガイモフレークに由来するデンプン粒径にほぼ左右される。
【0076】
表8:ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチンを0.5%で添加した場合の異なるジャガイモ製エマルションを用いて、最初の泡の高さと泡が消えるまでに要した時間を測定した起泡実験
【0077】
【0078】
ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチンを濃度0.5%で乳化剤として使用している3つのエマルションに対する起泡実験の結果は表8に集約している。試験を行ったレシチンの中では、どちらかと言えばどれも同等であったが、ナタネレシチンが最も安定した泡が得られ、次が大豆レシチン、最後がヒマワリレシチンだと思われる。評価した全てのレシチンにおいて、高めの濃度である0.5%では、低めの濃度である0.18%と比べて、得られた泡の高さと安定性が幾分高かった。
【0079】
[実験6 異なるレシチンとジャガイモタンパク質]
異なる3種類のレシチン、具体的には脱脂ナタネレシチン、脱脂ヒマワリレシチン、脱脂大豆レシチンを油中に添加した3つの試料を用意した。また、ジャガイモフレークが含まれていないこと以外は他の試料と同じ組成(2.9%ジャガイモフレーク、3%フルクトース、0.18%レシチン、3%ナタネ油、0.22%Solanic200、及び90.7%の水)で、大豆レシチンを用いて作成した第4の試料が存在する。全ての試料においてSolanic200の分量は水相中に添加され、全体で0.22%タンパク質含有量が得られるように算出された。
【0080】
官能評価では、全ての試料が白色で、良い触感を有していた。ジャガイモフレークが入っていると、より満足のいく豊かな口当たりが得られた。全ての試料とも味は良く、Solanic200を用いたにもかかわらず味が落ちたものはなかったのは、これまでの試料と比べて濃度が低かったからであると思われる。ジャガイモフレークが入っていない試料は他の3つの試料と比べてそれほど優れた味ではなかった。
【0081】
ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチン(ジャガイモフレークあり及びジャガイモフレークなし)をそれぞれ濃度0.18%で0.22%ジャガイモタンパク質と一緒に乳化剤として用いた4つのジャガイモ製エマルションのPSD測定の結果は、表9から分かる。レシチンのみを使用しているものと比べてD[3,2]はかなり低下しており、0.18%と低めの濃度において、最初の2つのレシチンでの約7~8μm、大豆レシチンでのD[3,2]12μm程度とは違い、ここでは、2~4μmの間で変化していることが示されたことは興味深い。さらに、D[3,2]は、0.5%ジャガイモタンパク質で安定化されたエマルションの油滴径に近かった。これらの観察結果はさらに、油球の界面におけるタンパク質とレシチンの間の錯形成の仮説を立証するものである。さらに、大豆レシチンを使用した場合、ジャガイモフレークが入っていないと油滴は小さくなることを観察したのは興味深い。これは連続相の粘性が低いことによって決まり、これにより乳化の進行がより容易になると考えられる。
【0082】
D[4,3]は、試験を行ったジャガイモフレークを添加したレシチンの全てで同じ範囲内であり、おそらくジャガイモフレークに由来するデンプン粒径にほぼ左右される。
【0083】
表9:ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチン(ジャガイモフレークあり及びジャガイモフレークなし)をそれぞれ濃度0.18%で0.22%ジャガイモタンパク質と一緒に乳化剤として用いた場合のジャガイモ製エマルションの油滴径D[3,2]とデンプン粒径D[4,3]。各試料とも測定値が2つあり。
【0084】
【0085】
ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチン(ジャガイモフレークあり及びジャガイモフレークなし)をそれぞれ濃度0.18%で0.22%ジャガイモタンパク質と一緒に乳化剤として用いた4つのエマルションに対する起泡実験の結果は表10に集約している。試験を行ったレシチンの中では、ナタネレシチンとヒマワリレシチンが最も安定した泡が得られ、次が大豆レシチンであったと思われる。表10に示す泡の高さは最高値であり、表3に示す牛乳と植物性オーツミルクの泡の高さに近づいている。
【0086】
表10:ヒマワリレシチン、ナタネレシチン、及び大豆レシチン(ジャガイモフレークあり及びジャガイモフレークなし)をそれぞれ濃度0.18%で0.22%ジャガイモタンパク質と一緒に乳化剤として用いた場合の異なるジャガイモ製エマルションを用いて、最初の泡の高さと泡が消えるまでに要した時間を測定した起泡実験
【0087】
【0088】
各エマルションのpH値も測定されている。pH値は、タンパク質を添加すると約5.7となり、タンパク質を添加しない場合の5.9と比べていっそう低くなるが、添加しない場合でも、牛乳のpH値である6.4から6.8の範囲よりはまだ低い。pH値は牛乳の値である7.0まで調整される。さらに、pH値が5程度であるコーヒーに添加する場合は、コーヒーの高めのpH値を調整するジャガイモ製エマルションに対して、緩衝剤をジャガイモ製エマルションミルク添加時に添加することにより、経験のあるコーヒーの苦みが低減できる。
【0089】
本実験で得られたジャガイモ製エマルションは、カフェラテを提供する実際のコーヒーショップで試用するのに足りるほどの味であるとみなされた。実験6において3つのレシチンとタンパク質を乳化剤として用いたジャガイモ製エマルションをラテに加えた結果、ヒマワリレシチンが最も高さがあって安定した泡ができ、次がナタネレシチンであったが、一方、大豆レシチンは泡の高さも安定性も最も劣っていることが示された。
【0090】
味に関しては、ナタネレシチンとヒマワリレシチンを添加したジャガイモ製エマルションは、大豆レシチン添加に比べてより良好な味が得られることが分かった。
【0091】
[実験7 タンパク質Solanic300の添加量、緩衝系、及びレシチンの削除が可能がどうかについての評価]
以下のレシピを用いて、5つの試料を各500g作成した。
【0092】
【0093】
ジャガイモミルク6~10の見た目、味、及びpH値を下表に示し、オーツ麦飲料と比較している。
【0094】
【0095】
それぞれのジャガイモミルクのpH値が7程度であることは問題ない。レシチンを材料から除外した場合、幾分白っぽくなる見た目が得られ、これはいいことである。甘く塩辛い味がまだ存在しているので、オーツ麦飲料の味よりも好ましかった。
【0096】
カフェラテの試験を、コーヒー内におけるフェザリングと泡の高さに関して実施した。この試験結果は下表から分かる。
【0097】
【0098】
まず、レシチンなしのエマルション(エマルション6及び7)はレシチンありのエマルション(エマルション8~10)と比べて明らかなフェザリングがあったことが確認できたので、この成分を省くことはできない。したがって、レシチンをより多く、0.4%と0.5%まで添加したものがあり、これが最適であることがわかった。また、0.7%とタンパク質含有量が高いエマルション7及び9で良好な泡の高さが得られる傾向がある。
【0099】
[実験8 ジャガイモ含有量の低減]
この一連の実験において、ジャガイモ製エマルション中において、ジャガイモ含有量を1.0%、1.5%、及び2.0%ジャガイモフレークに低下させた。
【0100】
以下のレシピを用いて、5つの試料を各500g作成した。
【0101】
【0102】
ジャガイモミルク5.3,2,2a,2b,及び2cの油滴径分布(D[4,3]及び[D3,2])、見た目、味、及びpH値は下表から分かる。
【0103】
【0104】
ジャガイモフレーク含有量を3.08~1.0%に減らすと、粘度とジャガイモの風味は両方とも明らかに減少していた。3.0%油の入ったジャガイモミルクの場合、まだ少しジャガイモの風味があるクリーム状のミルクが選択肢であり得る、おそらく含有量が1.5%のジャガイモフレークであろう。ジャガイモフレーク含有量が低下するにしたがってD[4,3]も低下していることが示されたのは興味深く、これよりジャガイモ粒子がD[4,3]を高くすることに寄与していることが予想できる。しかし、D[3,2]は、ジャガイモフレーク含有量に応じた変化はそれほどなかった。
【0105】
[実験9 液体タンパク質と乾燥タンパク質との比較、及び完全菜食主義者用ジャガイモ製エマルションの実験室作成品と工業生産品との比較]
以下の実験では、ジャガイモ製エマルション(本明細書ではジャガイモミルクと称することもある)について、実験室で作成したものと工業的に生産したもの(2トン)との比較を行った。1.5%ジャガイモミルク及び3.0%ジャガイモミルク、つまりエマルション5.3及び2bのレシピとして、共通のジャガイモタンパク質であるSolanic300を液体に変更する以外は同じレシピを用いた。よって、これらのエマルションをそれぞれエマルション5.3L及びエマルション2bLと呼ぶ。タンパク質含有量に関しては、粉末タンパク質と比べて、液体タンパク質は量が4.78倍多い。これは粉末中ではTS含有量が高いためである。
【0106】
比較対象として、ジャガイモミルク1.5%及び3.0%を2トン、工業的に生産した。そのレシピは下表の6列目と7列目から分かる(ジャガイモミルク-Ind.1.5%及びジャガイモミルク-Ind.3.0%として開示している)。
【0107】
表11:粉末タンパク質及び液体タンパク質を用いた実験室作成ジャガイモミルクと工業生産ジャガイモミルクのレシピ
【0108】
【0109】
[ジャガイモ製エマルションの特徴付け]
ジャガイモミルク5.3lab、5.3liquid、5.3Ind.、2blab、2bliquid、及び2bInd.の見た目、味、及びpH値は、下記の表12から分かる。
【0110】
表12
【0111】
【0112】
工業生産ジャガイモミルクは、低脂肪含有量と高脂肪含有量の2つの実験室作成エマルションと比べると、油滴径(D[3,2]及びD[4,3])に顕著な差が存在しており、工業生産ジャガイモミルクの方が非常に良く、このように油滴径が小さいので、ミルクに匹敵し得るものである。これが、工業生産ジャガイモミルクの見た目がより白い主な理由である。工業生産ジャガイモミルクの場合、pH値も最高であり、味も最も新鮮に感じられている。工業生産の1.5%ジャガイモミルクで、最小の油滴径D[3,2]である0.56μmが得られた。実験室作成の2つのミルクは挙動がより類似していて、液体タンパク質は多少好ましさに欠ける味であった。
【0113】
[カフェラテ試験]
用意したエマルションに対してカフェラテ試験を行った。その結果は下記の表13から分かる。
【0114】
表13
【0115】
【0116】
最初の泡の高さは、工業生産ジャガイモミルクの場合が270~300mlと非常に良く、一方、2つの実験室作成ジャガイモミルクはわずかに低く、200~250mlである。5分へたらせた後の泡の高さは工業生産ジャガイモミルク、特に1.5%ジャガイモミルクが最も高い。ml/minあたりのへたりは工業生産ジャガイモミルクでは20以上であり、この値は本物のミルクやオーツ麦飲料、及び豆乳により似ているが、一方、実験室作成ジャガイモミルクは20以下である。これらの評価された特性に関しては、液体タンパク質と粉末タンパク質との間には差がないようであり、このことは見た目や味に関しても同様であると思われる。しかし、工業生産ジャガイモミルクはより高密度な泡が生じ、フェザリングは発生しなかった。評価された全ての試料を比較して、コーヒーのpH値の違いはなかった。
【0117】
結論として、このようなジャガイモミルク(ジャガイモ製エマルション)の工業生産は、大きな成功を収めた。
[品質保持期間]
本明細書に記載されているように、工業生産され、UHT(ultra heat treated:超高温処理)されたジャガイモ製エマルションは、特性をほぼ維持できている品質保持期間が18か月である。
【0118】
以上より、本発明によれば、ジャガイモ製エマルションは、安定した泡を提供することができる、牛乳または他のあらゆる植物系飲料に代わる選択肢として提供され、これにより、ジャガイモ製エマルションが、牛乳と同様に飲用する、または、コーヒーや紅茶等の飲料に加えられる、完全菜食主義の選択肢としての使用に適用できるのである。さらに、ジャガイモ製エマルションは白系色であり、エマルション中の油滴は凝集していない。