(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】サーボプレスの波形データ解析システム及びサーボプレスの波形データ解析プログラム
(51)【国際特許分類】
B30B 15/00 20060101AFI20241002BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20241002BHJP
B30B 15/28 20060101ALI20241002BHJP
B30B 15/26 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B30B15/00 B
G01L5/00 L
B30B15/28 K
B30B15/26
(21)【出願番号】P 2024088972
(22)【出願日】2024-05-31
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593118128
【氏名又は名称】コアテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風早 光弘
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-168412(JP,A)
【文献】特開2016-209885(JP,A)
【文献】特開2020-086842(JP,A)
【文献】特開2010-282541(JP,A)
【文献】特開2023-115476(JP,A)
【文献】特開2002-341909(JP,A)
【文献】特開2024-072733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/00 - 15/28
G01L 5/00
G05B 19/18
G05B 19/406
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実測した複数の波形データから、波形データの評価の基準となる基準波形を導出するための波形データ解析を行うサーボプレスの波形データ解析システムであって、
前記波形データは、前記サーボプレスのラムの位置に関する変位量と、前記ラムが受ける荷重との関係を示したものであり、
解析対象の波形データを保存する波形データ保存部と、
波形データを選択する入力手段と、
波形データを表示する表示手段と、
波形データから、設定範囲外の波形データを除外するフィルタ処理を行うフィルタと、
エンベーロープ作成部とを備えており、
前記フィルタは、前記入力手段で選択された仮基準波形を基準として、前記フィルタ処理を行い、
前記エンベーロープ作成部は、前記フィルタ処理後の波形データから、前記仮基準波形を基準として、上限波形、下限波形及び平均波形を作成し、
前記フィルタは、前記平均波形が新たな仮基準波形として設定されたときに、前記新たな仮基準波形を基準として新たな前記フィルタ処理を行い、
前記エンベーロープ作成部は、前記新たなフィルタ処理後の波形データから、前記新たな仮基準波形を基準として、新たに前記上限波形、前記下限波形及び前記平均波形を作成する再計算を行い、
前記再計算を繰り返して、前記基準波形を導出することを特徴とするサーボプレスの波形データ解析システム。
【請求項2】
前記入力手段で選択され、前記表示手段に表示された仮基準波形について、前記位置に関する変位量の選択範囲を設定可能にした請求項1に記載のサーボプレスの波形データ解析システム。
【請求項3】
実測した複数の波形データから、波形データの評価の基準となる基準波形を導出するための波形データ解析をコンピュータに実行させるためのサーボプレスの波形データ解析プログラムであって、
前記波形データは、前記サーボプレスのラムの位置に関する変位量と、前記ラムが受ける荷重との関係を示したものであり、
解析対象の波形データを保存する波形データ保存ステップと、
波形データを選択する入力ステップと、
波形データを表示する表示ステップと、
波形データから、設定範囲外の波形データを除外するフィルタ処理ステップと、
エンベーロープ作成ステップとを前記コンピュータに実行させ、
前記フィルタ処理ステップにおいて、前記入力ステップで選択された仮基準波形を基準として、フィルタ処理を行い、
前記エンベーロープ
作成ステップにおいて、前記フィルタ処理後の波形データから、前記仮基準波形を基準として、上限波形、下限波形及び平均波形を作成し、
前記フィルタ処理ステップにおいて、前記平均波形が新たな仮基準波形として設定されたときに、前記新たな仮基準波形を基準として新たな前記フィルタ処理を行い、
前記エンベーロープ作成ステップにおいて、前記新たなフィルタ処理後の波形データから、前記新たな仮基準波形を基準として、新たに前記上限波形、前記下限波形及び前記平均波形を作成する再計算を行い、
前記再計算を繰り返して、前記基準波形を導出することを特徴とするサーボプレスの波形データ解析プログラム。
【請求項4】
前記入力ステップで選択され、前記表示ステップで表示された仮基準波形について、前記位置に関する変位量の選択範囲を設定可能にした請求項
3に記載のサーボプレスの波形データ解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータでラムが駆動されるサーボプレスについて、ワークを加工した実行結果である波形データから基準波形を導出する波形データ解析システム及びサーボプレスの波形データ解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プレス機として、往復移動するラムをサーボモータで駆動するサーボプレスが知られている。サーボプレスにより、例えば金属部品のプレス成形、部品の圧入、部品の組付けを行うことができる。サーボプレスは、荷重や位置等の時系列的な変化をモニターすることができる。例えばラムの位置(ストローク)とラムが受ける荷重との関係について、数値データや波形データを取得可能となる。また、取得した波形データを基準波形を用いて評価し、プレスの実行結果を評価することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1記載のプレス機械の成形荷重測定装置は、正常成形時の波形に対し、上限リミットと下限リミットを設けて、成形加工時における成形荷重が正常であるか、異常であるかを監視できるようにしている。特許文献2記載のプレス装置は、実測波形が基準波形通りに正しく加圧されたかを確認できるようにしている。特許文献3には、波形の正常範囲を、過去の平均値をとった基本波形に対する確率範囲とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭58―125699号公報
【文献】特開2021-133418号公報
【文献】特開平11-218451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2においては、予め基準波形が用意されていることが前提になっており、基準波形の具体的な導出過程については開示が無かった。特許文献3においては、基本波形を過去の平均値から導出することが記載されているに留っていた。
【0006】
一方、基準波形があっても、適正なものでなければ、正確な評価は得られない。このため、如何にして適正な基本波形を導出するかが課題となる。
【0007】
本発明は前記のような背景に鑑み、ワークを加工した実行結果である多数の波形データから、適正な基本波形を導出することができるサーボプレスの波形データ解析システム及びサーボプレスの波形データ解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のサーボプレスの波形データ解析システムは、実測した複数の波形データから、波形データの評価の基準となる基準波形を導出するための波形データ解析を行うサーボプレスの波形データ解析システムであって、前記波形データは、前記サーボプレスのラムの位置に関する変位量と、前記ラムが受ける荷重との関係を示したものであり、解析対象の波形データを保存する波形データ保存部と、波形データを選択する入力手段と、波形データを表示する表示手段と、波形データから、設定範囲外の波形データを除外するフィルタ処理を行うフィルタと、エンベーロープ作成部とを備えており、前記フィルタは、前記入力手段で選択された仮基準波形を基準として、前記フィルタ処理を行い、前記エンベーロープ作成部は、前記フィルタ処理後の波形データから、前記仮基準波形を基準として、上限波形、下限波形及び平均波形を作成し、前記フィルタは、前記平均波形が新たな仮基準波形として設定されたときに、前記新たな仮基準波形を基準として新たな前記フィルタ処理を行い、前記エンベーロープ作成部は、前記新たなフィルタ処理後の波形データから、前記新たな仮基準波形を基準として、新たに前記上限波形、前記下限波形及び前記平均波形を作成する再計算を行い、前記再計算を繰り返して、前記基準波形を導出することを特徴とする。
【0009】
本発明のサーボプレスの波形データ解析プログラムは、実測した複数の波形データから、波形データの評価の基準となる基準波形を導出するための波形データ解析をコンピュータに実行させるためのサーボプレスの波形データ解析プログラムであって、前記波形データは、前記サーボプレスのラムの位置に関する変位量と、前記ラムが受ける荷重との関係を示したものであり、解析対象の波形データを保存する波形データ保存ステップと、波形データを選択する入力ステップと、波形データを表示する表示ステップと、波形データから、設定範囲外の波形データを除外するフィルタ処理ステップと、エンベーロープ作成ステップとを前記コンピュータに実行させ、前記フィルタ処理ステップにおいて、前記入力ステップで選択された仮基準波形を基準として、フィルタ処理を行い、前記エンベーロープ作成ステップにおいて、前記フィルタ処理後の波形データから、前記仮基準波形を基準として、上限波形、下限波形及び平均波形を作成し、前記フィルタ処理ステップにおいて、前記平均波形が新たな仮基準波形として設定されたときに、前記新たな仮基準波形を基準として新たな前記フィルタ処理を行い、前記エンベーロープ作成ステップにおいて、前記新たなフィルタ処理後の波形データから、前記新たな仮基準波形を基準として、新たに前記上限波形、前記下限波形及び前記平均波形を作成する再計算を行い、前記再計算を繰り返して、前記基準波形を導出することを特徴とするサーボプレスの波形データ解析プログラム。
【0010】
前記本発明のサーボプレスの波形データ解析システムにおいては、前記入力手段で選択され、前記表示手段に表示された仮基準波形について、前記位置に関する変位量の選択範囲を設定可能にしたことが好ましい。前記本発明のサーボプレスの波形データ解析プログラムにおいては、前記入力ステップで選択され、前記表示ステップで表示された仮基準波形について、前記位置に関する変位量の選択範囲を設定可能にした請求項1に記載のサーボプレスの波形データ解析プログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な操作でフィルタ処理を行いながら、適正な基本波形を導出することができる。位置に関する変位量の選択範囲を設定可能にした構成によれば、荷重の立ち上がる付近やピーク荷重付近を、荷重計算範囲からを除外することができ、フィルタ処理を正しく機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るサーボプレスシステムの全体構成図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る波形データ解析システムの構成を示すブロック図。
【
図4】本発明の一実施形態において、基準波形の導出過程の概要を示すフローチャート。
【
図5】本発明の一実施形態において、波形データの選択画面の一例を示す図。
【
図6】本発明の一実施形態において、仮基準波形の選択画面の一例を示す図。
【
図7】本発明の一実施形態において、荷重計算範囲の設定画面の一例を示す図。
【
図8】本発明の一実施形態において、フィルタの詳細設定画面の一例を示す図。
【
図9】本発明の一実施形態において、エンベロープの確認画面の一例を示す図。
【
図10】本発明の一実施形態において、再計算後のエンベロープの確認画面の一例を示す図。
【
図11】本発明の一実施形態において、再計算後のエンベロープの確認画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、サーボプレスについて、ワークを加工した実行結果である波形データから基準波形を導出する波形データ解析システム及びサーボプレスの波形データ解析プログラムに関するものである。最初に
図1を参照しながら、サーボプレスについて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るサーボプレスシステムの全体構成図を示している。本実施形態では、サーボプレスシステムのうち、ワークを加工する機構部分をサーボプレス10という。サーボプレス10は、サーボプレスコントローラ20、モータ駆動部21及び操作端末22で構成される制御手段により制御される。
【0014】
サーボプレス10は、支持体14の支持台15に固定されている。支持体14は、下側の基台16と上側の支持台15との間に支柱17を介在させた構造体である。サーボプレス10は、シリンダケース5の内部にラム2及びボールねじ3が内蔵されている。ボールねじ3の回転により、ナット4がボールねじ3の軸方向にスライドし、これと一体にラム2がガイド(図示せず)に沿ってスライドする(矢印a及びb)。ボールねじ3は、サーボモータ6の回転がタイミングベルト7を介して減速機8に伝達されることにより回転駆動される。
【0015】
ラム2を下降させることにより(矢印a)、ラム2で対象物を押圧することができる。このことにより、サーボプレス10を用いれば、圧入、成形、カシメ、検査、溶接・接合、組付け、切断等の作業を行うことができる。
図1では、ラム2の先端にプラグ12が取り付をけられており、ラム2を下降させることにより、プラグ12を作業台18上のワーク13(成型品)の凹部に圧入することができる。
【0016】
図1において、操作端末22はサーボプレスコントローラ20に種々の命令を指令する。サーボプレスコントローラ20は、操作端末22からの指令、ロードセル9による検出荷重情報及びエンコーダ11からのエンコーダパルスに基づいて、モータ駆動部21に指令する。このことにより、モータ電流が制御されてサーボプレス10が駆動制御される。エンコーダパルスはモータ駆動部21にも入力され、フィードバック制御によりモータ電流は適宜補正される。
【0017】
本実施形態において、ストロークとは、ラム2の下降の開始位置(原点位置)からの変位量である。また、荷重とは、ラム2に外部から加わる荷重のことである。ストロークは、エンコーダ11からのエンコーダパルスの累積により算出する。荷重は、ロードセル9による検出荷重情報により算出する。
【0018】
サーボプレスコントローラ20は、プログラムに従って、サーボプレス10を制御する。この制御の間、サーボプレスコントローラ20には、刻々と変化するラム2のストロークデータと、各ストロークにおけるラム2が受ける荷重データが入力される。これらのデータを用いれば、ストロークと荷重との関係を示す波形データを取得できる。
【0019】
多数の波形データは、エンベロープとして表示することができる。エンベロープとは、数百件を超えるような波形データを一つのグラフ上に重ねて描画したときに、波形データの線の重なりにより塗りつぶされることで浮かび上がる波形の形状のことである。換言すれば、エンベロープは複数の波形の最大値の包絡線と最小値の包絡線で囲まれた領域又は形状のことである。
【0020】
エンベロープは、波形データが正常か異常かの判定に活用することができる。
図2にエンベロープの一例を示している。
図2には、基準波形30、上限波形31、下限波形32及び測定波形33(判定対象の波形)を示している。基準波形30は、判定の基準となる波形であり、予め測定した多数の波形データに基づいて決定した波形である。上限波形31は、基準波形30に対して上限のしきい値を示す波形である。下限波形32は、基準波形30に対して下限のしきい値を示す波形である。
図2においては、測定波形33は基準波形30からはかい離があるが、上限波形31と下限波形32で囲まれる領域内にあるので、正常と判定されることになる。以下、本実施形態においては、少なくとも基準波形30、上限波形31、下限波形32が表示されたものをエンベロープという。
【0021】
上限波形31及び下限波形32は、基準波形30を基準として得られた波形であるので、基準波形30が適正なものでなければ、正確な判定を行うことができない。本実施形態に係るサーボプレスの波形データ解析システム(以下、「波形データ解析システム」という。)及びサーボプレスの波形データ解析プログラム(以下、「波形データ解析プログラム」という。)は、適正な基本波形を導出することができるようにしたものである。以下、具体的に説明する。
【0022】
図3は、波形データ解析システム1の構成を示すブロック図である。波形データ解析システム1は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータに波形データ解析プログラムをインストールしたものである。基準波形は、フィルタ25a及びエンベローブ作成部25bを備える解析手段25によって導出される。波形データを解析して基準波形を導出する際には、予め数百回程度の試し打ちを行って、波形データを取得しておく。取得当初の波形データは、
図1に示したサーボプレスコントローラ20に保存されている。これらの波形データは、波形データ保存部27に保存し直されるが、波形データ保存部27は、サーボプレスコントローラ20の波形保存部であってもよい。
【0023】
波形データは、1台のサーボプレス10の波形データに限らず、複数台のサーボプレス10の波形データの場合もある。サーボプレス10は、プログラムに従って制御され、ワークが異なればプログラムも異なる。また、プレス作業は、同一作業を複数回実施するのが通常である。このため、波形データ保存部27には、複数(多数)の波形データが保存され、これらは、複数台のサーボプレス10の波形データの場合もある。また、波形データ27の1つ分には、波形自体のデータだけでなく、軸番号(各サーボプレス10に付与された番号)、プログラム番号、実施日時のデータも含んでいる。
【0024】
図4は、基準波形の導出過程の概要を示すフローチャートである。
図4に示したフローチャートは、
図3に示した波形データ解析システム1を用いた基準波形の導出の流れを示すフローチャートである。波形データ解析システム1は、波形データ解析プログラムをコンピュータに実行させて使用される。したがって、波形データ解析システム1を用いた基準波形の導出の流れは、波形データ解析プログラムをコンピュータに実行させながら進行させる流れでもある。
図3において、波形データ解析プログラムは、解析対象の波形データを解析対象の波形データ保存部24に保存する波形データ保存ステップと、入力手段23で波形データを選択する入力ステップと、表示手段26で波形データを表示する表示ステップと、波形データから、設定範囲外の波形データをフィルタ25aで除外するフィルタステップと、フィルタステップによる処理後の波形データから、エンベーロープ作成部25bにより、上限波形、下限波形及び平均波形を作成するエンベーロープ作成ステップとを前記コンピュータに実行させることになる。
【0025】
図4に沿って、基準波形の導出過程について説明する。最初に、
図3において、キーボード等の入力手段23により、表示手段26に表示された波形データの中から解析対象の波形データを選択する(
図4のステップ100)。
図5は、波形データの選択画面の一例を示している。
図5の画面は、表示手段26(
図3)における画面であり、以下の各種画面についても同様である。波形データ群表示郡34には、波形データの測定年月日で分類された4つの波形データ群が表示されている。この表示は一例であり、波形データ群の数には特に制限は無い。操作者は、表示された波形データ群から少なくとも一つを選択する。
【0026】
次に操作者は、軸番号表示部35から軸番号を選択し、プログラム番号表示部36からプログラム番号を選択する。軸番号の選択は、少なくとも1つを選択し、全ての軸番号を選択してもよい。基準波形は、プログラムが異なれば異なるので、プログラム番号は通常1つを選択する。選択された波形データの集合体は、
図3に示した解析対象の波形データ保存部24に保存される。
【0027】
波形データを選択した後は(
図4のステップ100)、仮基準波形を選択する(
図4のステップ101)。
図6は、仮基準波形の選択画面の一例を示している。本図は、
図5に示した軸番号表示部35から軸番号1を選択し、プログラム番号表示部36からプログラム番号1を選択した場合を示している。波形データ表示部37には、選択された波形データの一部が表示されており、画面をスクロールすることにより、選択された全ての波形データを表示させることができる。
【0028】
操作者は、波形データ表示郡37から1つの波形データを選択する。選択した波形データは、暫定的な仮の基準波形であるので、任意に1つの波形データを選択すればよい。
図6の例では、波形番号8を選択している(斜線部)。この選択により、波形表示部38には、波形番号8の波形が仮の基準波形として表示されている。波形表示部38に表示された波形は、
図1に示したサーボプレス10のラム2のストロークと、ラム2が受ける荷重との関係を示したものである。横軸はラム2の位置に関する変位量であればよく、サーボモータ6(
図1)の回転角度でもよい。
【0029】
仮基準波形を選択した後は(
図4のステップ101)、荷重計算範囲を設定する(
図4のステップ102)。以後の手順において、仮基準波形の荷重を基準として、上限波形と下限波形を設定してエンベロープを作成する。荷重計算範囲の設定により、上限波形や下限波形を設定する際の荷重の範囲を設定する。換言すれば、荷重計算範囲の設定により、時系列的に増加するストロークの選択範囲を設定する。
図7は、荷重計算範囲の設定画面の一例を示している。波形表示部40には、
図6の選択画面で選択した波形が表示されている。開始線41と終了線42との間が荷重計算範囲である。
【0030】
開始位置変更ボタン43をクリックした後に、開始線41近傍をクリックすることにより、開始線41の位置を変更可能である。同様に、終了位置変更ボタン44をクリックした後に、終了線42近傍をクリックすることにより、終了線42の位置を変更可能である。また、開始位置表示部45又は終了位置表示部46に直接数値を入力して開始位置と終了位置を設定してもよい。本実施形態では、前記のように、荷重計算範囲を任意に設定できることにより、荷重の立ち上がる付近やピーク荷重付近を、荷重計算範囲からを除外することができる。これらの近辺では荷重値が大きく変化するので、後述するフィルターが正しく機能しないおそれがあり、上限波形や下限波形の基準とするには適当でないためである。
【0031】
荷重計算範囲を設定した後は(
図4のステップ102)、
図3に示したフィルタ25aの詳細設定を行う(
図4のステップ103)。
図8は、フィルタの詳細設定画面の一例を示している。フィルタの設定表示部47には、フィルタ25aの各種設定項目と設定値の入力部が表示されている。フィルタ設定により、基準波形の導出に有用な波形データを抽出し、基準波形の導出に有用でない波形データは除外する。以下、各設定項目について説明する。
【0032】
「ピークストロークの許容範囲」を設定することにより、ピークストローク(ストロークの最大値)が、仮基準波形のピークストロークに対して設定範囲内の波形データを抽出する。同一種類のワークであれば、ピークストロークはほぼ一定となる。このため、設定範囲外の波形データを除外することにより、仮基準波形から見て異常波形データを除外することができる。
【0033】
「ピーク荷重の許容範囲」を設定することにより、ピーク荷重が、仮基準波形のピーク荷重に対して設定範囲内の波形データを抽出する。「ピーク荷重の許容範囲」は、ピーク荷重が大きく変動するワークについては、有効なフィルターではないため、この設定は省く場合がある。
【0034】
「ストローク開始位置の許容範囲」を設定することにより、ストローク開始位置が、仮基準波形のストローク開始位置に対して設定範囲内の波形データを抽出する。ワーク種別毎にストロークの開始位置が異なる場合があり、この設定は、異種ワークの波形データを除外するのに有効になる。各波形データが同一種のワークを前提としている場合は、この設定は省くことになる。
【0035】
「各ストロークにおける荷重の許容範囲」を設定することにより、各ストロークにおける荷重が、仮基準波形の各ストロークにおける荷重に対して許容範囲内にある波形データを抽出する。
図8の例では下限値30%及び上限値300%が入力されている。この数値範囲は、100%(仮基準波形の値)を基準として、マイナス30%からプラス300%の範囲という意味である。
【0036】
この設定の対象区間は、
図7の荷重計算範囲の設定画面で設定した荷重計算範囲である。各ストロークにおける荷重のストローク間隔は、
図8のストローク間隔表示部46に表示されたストローク間隔である。ストローク間隔表示部48において、ストローク間隔を設定する。
図8の例ではストローク間隔表示部48に0.01mmが設定されており、0.01mm刻みで荷重の許容範囲が計算される。
【0037】
「戻り工程が含まれる波形を除外」を設定することにより、計算範囲内でストロークが戻っている波形を除外することができる。戻り工程が含まれる波形は、エンベロープ作成の邪魔になる場合があるからである。
【0038】
以上、フィルタの詳細設定について説明したが、これらは一例であり、適宜追加してもよい。例えば、
図7の波形のように、ピークストロークが底付きになる場合は、ピークストロークを基準としてストローク補正を行うと、波形の相関性が高くなる場合がある。このため、「ピークストローク値によるストローク補正」の設定項目を設けて、必要な場合はストローク補正を行うようにしてもよい。
【0039】
フィルタの詳細設定を行った後は(
図4のステップ103)、フィルタ25a(
図3)によりフィルタ処理が実施され(
図4のステップ104)、続いてエンベローブ作成部25b(
図3)により、エンベローブが作成される(
図4のステップ105)。
図9は、エンベロープの確認画面の一例を示している。
図9において、波形表示部49には、仮基準波形60、上限波形61、下限波形62及び平均波形63の4つの波形が表示されている。
【0040】
これらの4つの波形は、波形表示選択部50において、表示と非表示とを切り替えることができる。波形表示選択部50において、基準波形は仮基準波形60に対応し、エンベロープ(上限)は上限波形61に対応し、エンベロープ(下限)は下限波形62に対応し、平均値は平均波形63に対応する。
【0041】
波形表示部49において、仮基準波形60と平均波形63との間には乖離が有る。これは、仮基準波形60は、あくまでも選択波形の中から任意に選択した仮の基準波形であるためである。したがって、操作者が仮基準波形60と平均波形63とを比較したときに(
図4のステップ106)、通常は仮基準波形50と平均波形53は一致しないことになる。
【0042】
仮基準波形60と平均波形63が一致しないときは、平均波形63を仮基準波形50とした上で(
図4のステップ107)、改めてフィルタ処理が実施され(
図4のステップ104)、続いてエンベローブが作成される(
図4のステップ105)。すなわち、再計算が実施され、再計算は、
図9の再計算ボタン51をクリックすることにより、実行される。再計算の際には、平均波形63が新たな仮基準波形となる。
図10は、再計算後のエンベロープの確認画面を示している。再計算により、波形表示部49には新たな波形が表示されている。仮基準波形60aは、新たな仮基準波形であり、
図9の波形表示部49における平均波形63と同じ波形である。
【0043】
再計算の際には、新たな仮基準波形60aを基準として、フィルター処理及びエンベローブ作成が実施されるので(
図4のステップ104及び105)、
図10の波形表示部49における上限波形61a、下限波形62a及び平均波形63aは、
図9に示した初回の計算時の波形とは異なったものになる。特に、
図10の再計算時においては、仮基準波形60aと平均波形63aとの間の乖離の程度が、
図9の初回の再計算時に比べて小さくなっている。
【0044】
ただし、
図10の波形表示では、仮基準波形60aと平均波形63aが一致していないため、改めて平均波形63aを仮基準波形とする(
図4のステップ106及び107)。すなわち、操作者が
図10の再計算ボタン51をクリックすることにより、再計算が実施され、新たな仮基準波形を基準として、フィルター処理及びエンベローブ作成が実施される(
図4のステップ104及び105)。
【0045】
図11は、再計算後のエンベロープの確認画面を示している。再計算により、波形表示部49には新たな波形が表示されている。仮基準波形60bは、新たな仮基準波形であり、
図10の波形表示部49における平均波形63aと同じ波形である。再計算の際には、新たな仮基準波形60bを基準として、フィルター処理及びエンベローブ作成が実施されるので(
図4のステップ104及び105)、
図11の波形表示部49における上限波形61b、下限波形62b及び平均波形63bは、
図10に示した1回目の再計算時の波形とは異なったものになる。
図11の2回目の再計算時においては、仮基準波形60bと平均波形63bとが一致している。両波形が一致又はほぼ一致した段階で、現在の平均波形63bを、最終的な基準波形とする。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、最初に任意に仮基準波形を選択して、フィルター処理及びエンベローブ作成を実施し、以後は平均波形を仮基準波形として再計算を行い、これを繰り返すことにより、最終的な基準波形が得られる。この構成では、仮基準波形を選択するだけで、
図8のフィルタの設定表示部47における設定値の基準が設定され、特に「各ストロークにおける荷重の許容範囲」の基準が設定されるので、簡単な操作でフィルター処理を行うことができる。
【0047】
本実施形態では、1回目のエンベローブ作成で得られた平均波形は、全波形の平均波形ではなく、フィルター処理後の平均波形である。また、再計算による平均波形は、新たな仮基準波形を基準としたフィルター処理後の平均波形である。このため、再計算を行う毎に、平均波形が適正な基準波形に近づくことになる。この構成では、再計算ボタン51のクリックを繰り返す簡単な操作で適正な基準波形が導出されることになる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり、適宜変更したものでもよい。例えば、対象波形を数値で評価してもよい。前記実施形態では、フィルタ処理により、基準波形の導出に有用な波形データは有効データとして残り、有用でない波形データは除外データとして除外されることになる。この場合、有効データ及び除外データについて、仮基準波形又は最終的な基準波形(以下、「仮基準波形等」という。)との類似の程度を数値で評価してもよい。
【0049】
例えば、任意のストローク値において、対象波形と仮基準波形等との荷重の差分を計算し、これを各ストローク値毎に行い、差分の総和をスコアに変換する。スコアは、当該差分の総和がゼロであれば(対象波形と仮基準波形等が一致)、最高値(例えば100)となる指標である。差分を計算するストローク間隔は、
図8のストローク間隔表示部46に表示されたストローク間隔とすればよい。
【0050】
スコアを算出することにより、対象波形をスコア順にソート(並び替え)でき、全データだけでなく有効データや除外データ毎にソートすることも可能になる。ソートされた波形データを、表示された波形と照らしながら検証すれば、スコアと波形との関係の傾向の把握が容易になり、検証が容易かつ具体的になる。
【符号の説明】
【0051】
1 波形データ解析システム
2 ラム
6 サーボモータ
10 サーボプレス
23 入力手段
24 解析対象の波形データ保存部
25 解析手段
25a フィルタ
25b エンベローブ作成部
26 表示手段
27 波形データ保存部
60,60a,60b 仮基準波形
61,61a,61b 上限波形
62,62a,62b 下限波形
63,63a 平均波形
63b 平均波形(基準波形)
【要約】 (修正有)
【課題】ワークを加工した実行結果である多数の波形データから、適正な基本波形を導出することができるサーボプレスの波形データ解析システム及びサーボプレスの波形データ解析プログラムを提供する。
【解決手段】波形データ保存部27と、入力手段23と、表示手段26と、フィルタ処理を行うフィルタ25aと、エンベーロープ作成部25bとを備えており、フィルタ25aは、仮基準波形を基準として、フィルタ処理を行い、エンベーロープ作成部25bは、フィルタ処理後の波形データから、仮基準波形を基準として、上限波形、下限波形及び平均波形を作成し、フィルタ25aは、新たな仮基準波形を基準として新たなフィルタ処理を行い、エンベーロープ作成部25bは、新たなフィルタ処理後の波形データから、新たな仮基準波形を基準として、新たに上限波形、下限波形及び平均波形を作成する再計算を行い、再計算を繰り返して、基準波形を導出する。
【選択図】
図3