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特許7564602金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B23K20/00 310H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024528180
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2022024965
(87)【国際公開番号】W WO2023248391
(87)【国際公開日】2023-12-28
【審査請求日】2024-07-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505290542
【氏名又は名称】株式会社MOLE’S ACT
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】北澤 敏明
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307237(JP,A)
【文献】特開2005-103556(JP,A)
【文献】特開昭60-37281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって前記第1接合予定面のチル層を残しつつ前記第1接合予定面に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって前記第2接合予定面のチル層を残しつつ前記第2接合予定面に残留応力を付与したものとを準備する金属部材準備工程と、
前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成する金属接合体形成工程とを含むことを特徴とする金属接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1ダイカスト部材は、前記第1接合予定面の表面を塑性変形させることで前記第1接合予定面に残留応力を付与したものであり、
前記第2ダイカスト部材は、前記第2接合予定面の表面を塑性変形させることで前記第2接合予定面に残留応力を付与したものであることを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1ダイカスト部材は、ショットブラストによる処理により前記第1接合予定面の表面を塑性変形させることで前記第1接合予定面に残留応力を付与したものであり、
前記第2ダイカスト部材は、ショットブラストによる処理により前記第2接合予定面の表面を塑性変形させることで前記第2接合予定面に残留応力を付与したものであることを特徴とする請求項2に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属部材準備工程においては、前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面がそれぞれ所定の面粗度を有する前記第1ダイカスト部材及び前記第2ダイカスト部材を準備し、
前記金属接合体形成工程においては、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面に表面微細構造の変化を発生させながら、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属接合体の製造方法。
【請求項5】
前記金属部材準備工程においては、前記第1ダイカスト部材として、内面の少なくとも一部が前記金属接合体形成工程における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部が形成されているものを準備し、前記第2ダイカスト部材として、側面の少なくとも一部が前記第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており前記接合用凹部に挿入したときに前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部を有するものを準備し、
前記第1傾斜面の少なくとも一部は前記第1接合予定面であり、
前記第2傾斜面の少なくとも一部は前記第2接合予定面であり、
前記金属接合体形成工程においては、前記接合用凹部に前記接合用凸部を挿入した状態で前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面に表面微細構造の変化を発生させながら、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属接合体の製造方法。
【請求項6】
前記金属接合体形成工程においては、少なくとも前記押圧方向に対して垂直な方向に前記第1ダイカスト部材が変形することを抑制する第1変形抑制部材と前記第1ダイカスト部材とを合体させた状態で、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することを特徴とする請求項5に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項7】
前記金属部材準備工程においては、前記第2ダイカスト部材として前記接合用凸部の内部に空間が形成されているものを準備し、
前記金属接合体形成工程においては、少なくとも前記押圧方向に対して垂直な方向に前記第2ダイカスト部材が変形することを抑制する第2変形抑制部材を前記接合用凸部の前記空間に挿入した状態で、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することを特徴とする請求項に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項8】
前記金属接合体形成工程においては、前記第1ダイカスト部材及び前記第2ダイカスト部材が拡散接合可能な温度条件の下で前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の金属接合体の製造方法。
【請求項9】
前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面のうち少なくとも一方には、前記金属接合体となった後も空間として残る空間形成用凹部が形成されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の金属接合体の製造方法。
【請求項10】
アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって前記第1接合予定面のチル層を残しつつ前記第1接合予定面に残留応力を付与したものにおける前記第1接合予定面と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって前記第2接合予定面のチル層を残しつつ前記第2接合予定面に残留応力を付与したものにおける前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とするダイカスト部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼部材を接合した金属接合体の製造方法として、2つの鉄鋼部材(金属部材)を準備する鉄鋼部材準備工程と、2つの鉄鋼部材における接合予定面を突き合わせた状態で、2つの鉄鋼部材を所定の圧力条件で押圧しながら2つの鉄鋼部材を接合可能な第1温度に加熱することにより、2つの鉄鋼部材を互いに接合して金属接合体を形成する接合体形成工程とを含む方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5198458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、広く用いられている金属の成型法の一つにダイカストがある。ダイカストによれば、溶湯を金型に圧入することで、寸法精度が高い金属部材を短時間(高サイクル)で製造することが可能である。
【0005】
ダイカストにより製造された金属部材(以下、ダイカスト部材という。)は、寸法精度の高さを活かして、そのまま又は簡単な加工や処理を施されるのみで最終的な製品として扱われることが多い。一方で、ダイカストも金型鋳造法の一つであるため、製造できる部材の形状には制限がある。例えば、金型から抜けない外部形状を有する部材や複雑な内部形状(例えば、熱交換媒体流路)を有する部材は、現在の技術ではダイカストのみで製造することは不可能である。
【0006】
このため、従来の金属接合体の製造方法のような複数の金属部材を接合して金属接合体を製造する方法をダイカスト部材に応用することで、様々な外部形状及び内部形状を有する部材(金属接合体)を製造することが可能となると考えられる。
【0007】
しかしながら、現在ダイカスト部材を接合することは一般的ではない。その理由の一つとして、ダイカストで用いられる金属材料の性質がある。ダイカストでは比較的融点が低い金属材料が用いられ、一般的な材料としてアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、まとめて「アルミニウム系材料」という。)を挙げることができる。アルミニウム系材料には、鉄鋼材料と比較して軟らかく、表面に強固な酸化被膜が存在するといった特徴がある。これらの特徴は利点にもなるが、接合を実施する観点からは難点となり、接合強度を高くしにくい。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、アルミニウム系材料からなるダイカスト部材について、接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって前記第1接合予定面のチル層を残しつつ前記第1接合予定面に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって前記第2接合予定面のチル層を残しつつ前記第2接合予定面に残留応力を付与したものとを準備する金属部材準備工程と、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成する金属接合体形成工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって前記第1接合予定面のチル層を残しつつ前記第1接合予定面に残留応力を付与したものにおける前記第1接合予定面と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって前記第2接合予定面のチル層を残しつつ前記第2接合予定面に残留応力を付与したものにおける前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって第1接合予定面のチル層を残しつつ第1接合予定面に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって第2接合予定面のチル層を残しつつ第2接合予定面に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体を形成するため、後述するように、残留応力により第1接合予定面及び第2接合予定面において原子配列の乱れである格子欠陥(転移や空孔等)の発生を促進させ、第1接合予定面と第2接合予定面との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0012】
本発明のダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって第1接合予定面のチル層を残しつつ第1接合予定面に残留応力を付与したものとアルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって第2接合予定面のチル層を残しつつ第2接合予定面に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、後述するように、残留応力により第1接合予定面及び第2接合予定面において原子配列の乱れである格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面と第2接合予定面との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を説明するために示す図である。
図2】残留応力の付与及び格子欠陥について説明するために示す図である。
図3】実施形態1における金属接合体形成工程S20を説明するために示す図である。
図4】実施形態2における第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40を説明するために示す図である。
図5】実施形態2における金属接合体形成工程S21を説明するために示す図である。
図6】実施形態3における第1ダイカスト部材50及び第2ダイカスト部材60を説明するために示す図である。
図7】実施形態3における金属接合体形成工程S22を説明するために示す図である。
図8】実施形態4における第1変形抑制部材200を説明するために示す図である。
図9】実施形態4における金属接合体形成工程S23を説明するために示す図である。
図10】実施形態5における第2ダイカスト部材60a及び第2変形抑制部材300を説明するために示す図である。
図11】実施形態5における金属接合体形成工程S24を説明するために示す図である。
図12】実施形態6における第2ダイカスト部材60bを説明するために示す図である。
図13】実施形態6における金属接合体形成工程S25を説明するために示す図である。
図14】実施形態7における第1ダイカスト部材80及び第2ダイカスト部材90を説明するために示す図である。
図15】実施形態7における金属接合体形成工程S26を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法について、図に示す各実施形態に基づいて説明する。各図面は模式図であり、必ずしも実際の構造、構成、比率等を厳密に反映したものではない。以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。以下の説明においては実質的に同等とみなせる構成要素に関しては実施形態をまたいで同じ符号を用い、再度の説明を省略する。
【0015】
[実施形態1]
図1は、実施形態1における第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を説明するために示す図である。図1(a)は第1ダイカスト部材10の斜視図(等角図)であり、図1(b)は第1ダイカスト部材10の平面図であり、図1(c)は図1(b)のA1-A1断面図であり、図1(d)は第1接合予定面12の表面の様子を示す拡大断面図であり、図1(e)は第2ダイカスト部材20の斜視図であり、図1(f)は第2ダイカスト部材20の平面図であり、図1(g)は図1(f)のA2-A2断面図であり、図1(h)は図1(f)の第2接合予定面22の表面の様子を示す拡大断面図である。
図2は、残留応力の付与及び格子欠陥について説明するために示す図である。図2(a)は第1ダイカスト部材10及び第1接合予定面12に残留応力を付与する前の原子の並びを模式的に示す図であり、図2(b)は第1接合予定面12に残留応力を付与した後の原子の並びを模式的に示す図であり、図2(c)は格子欠陥である転移を説明するために示す模式図であり、図2(d)は格子欠陥である空孔を説明するために示す模式図である。図2(a)及び図2(b)は斜投影図的な図となっており、立方体状に並んだ丸いものは原子である。図2(c)は斜投影図的な図となっており、図2(d)は平面図的な図となっている。図2(c)及び図2(d)において白丸で示すのは原子である。図2はあくまで模式図であり、第1接合予定面12における具体的な結晶構造等を示すものではない。特に、図2においては原子が単純立方格子状の構造を取っているように図示されているが、これは図をわかりやすくするための便宜的なものであり、第1ダイカスト部材10における原子が実際にこのような構造を取っていることを示すものではない。
図3は、実施形態1における金属接合体形成工程S20を説明するために示す図である。図3(a)は第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、図3(b)は押圧時における第1接合予定面12及び第2接合予定面22の様子を示す拡大断面図であり、図3(c)は拡散接合により形成された金属接合体100を示す断面図であり、図3(d)は接合後における接合界面の様子を示す拡大断面図である。図3(a)における符号P及び太矢印は、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧していることを表すものである。符号P及び太矢印は、後述する「金属接合体形成工程を説明するために示す図」においても同様の意味を有する。図3(c)及び図3(d)における二点鎖線は接合界面を示すものであるが、当該表示は金属接合体100に接合界面が残存していることを示すものではなく、金属接合体100が2つの部材から製造されたことをわかりやすく示すためのものである。これは、後述する「金属接合体形成工程を説明するために示す図」においても同様である。
【0016】
実施形態1に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S10と金属接合体形成工程S20とを含む。また、実施形態1に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S20に相当する。以下、各工程について説明する。
【0017】
1.金属部材準備工程S10
金属部材準備工程S10は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面12を有する第1ダイカスト部材10と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面22を有する第2ダイカスト部材20とを準備する工程である(図1参照。)。第1ダイカスト部材10は、第1接合予定面12のチル層を残しつつ第1接合予定面12に残留応力を付与したものである。また、第2ダイカスト部材20は、第2接合予定面22のチル層を残しつつ第2接合予定面22に残留応力を付与したものである。第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とは、アルミニウム系材料からなるものであれば、同じ材料からなるものであってもよいし、違う材料からなるものであってもよい。
【0018】
なお、「第1接合予定面のチル層を残しつつ第1接合予定面に残留応力を付与したもの(第1ダイカスト部材)」については、「第1接合予定面にチル層が存在し、かつ、第1接合予定面に残留応力が付与されたもの(第1ダイカスト部材)」と言い換えることもできる。また、「第2接合予定面のチル層を残しつつ第2接合予定面に残留応力を付与したもの(第2ダイカスト部材)」についても、「第2接合予定面にチル層が存在し、かつ、第2接合予定面に残留応力が付与されたもの(第2ダイカスト部材)」と言い換えることもできる。
【0019】
本明細書における「ダイカスト部材」は、ダイカストにより製造された金属部材のことをいう。本明細書における「ダイカスト部材」には、全体の形状が大きく変わらない程度の後加工(例えば、バリ取りや穴開け加工)が施されたものを含む。
【0020】
本明細書における「チル層」とは、ダイカスト部材における特徴的な構造であって、ダイカスト部材の表面付近に形成される比較的高強度の構造のことをいう。ダイカスト部材は、溶湯を金型に高圧で注入することにより製造されるが、ダイカスト部材の表面となる部分は、金型との接触等の関係でダイカスト部材の内部となる部分と比較して急冷される。このため、ダイカスト部材の表面には内部と比較して高密度の(空隙が少ない)構造であるチル層が形成される。チル層は明確な境界を有するものではないが、表面から0.3mm程度の範囲をチル層として扱うことが妥当であると考えられている。
【0021】
本明細書における「残留応力」とは、物体内に存在(残存)する応力のことをいう。ダイカストで製造しただけでも部材内に応力は残留するが、本明細書における「接合予定面に残留応力を付与したもの」とするためには、ダイカストで製造した後に残留応力を付与する処理を実施する必要がある。すなわち、本明細書における「残留応力」とは、ダイカストで製造した後に付与される残留応力のことをいう。
【0022】
第1ダイカスト部材10は、ショットブラストによる処理により第1接合予定面12の表面を塑性変形させることで第1接合予定面12に残留応力を付与したものである。また、第2ダイカスト部材20も、ショットブラストによる処理により第2接合予定面22の表面を塑性変形させることで第2接合予定面22に残留応力を付与したものである。ショットブラストによる処理とは、対象の表面に投射材(粒体)を衝突させる処理のことをいう。投射材の材料、粒径や投射材を衝突させる速さ等の条件は、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類等に応じて任意に決定することができる。ただし、当該条件の設定に当たっては、第1接合予定面及び第2接合予定面の表面が削れてチル層が無くなってしまうことがないように留意する必要がある。投射材の材料に関しては、例えば、アルミニウム系材料や鉄鋼材料を好適に用いることができる。ショットブラストによる処理を実施すると、投射材の衝突により第1接合予定面12及び第2接合予定面22の表面に細かな凹凸が形成される(図1(d)及び図1(h)参照。)。なお、図1(d)及び図1(h)は模式図であるため、表面の凹凸の大きさ、比率、形状等は図示したものに限られない。
【0023】
なお、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20は、第1接合予定面12及び第2接合予定面22以外の面についてもショットブラストによる処理が実施されていてもよい。
【0024】
ここで、残留応力の付与について、第1ダイカスト部材10を例にとって説明する。第1接合予定面12に残留応力を付与することで、第1接合予定面12における原子レベルの構造(特に金属結晶構造)に影響を与え(図2(a)及び図2(b)参照。)、原子配列の乱れである格子欠陥の発生を促進させることができる。特に、第1接合予定面12の表面を塑性変形させることで第1接合予定面12に残留応力を付与することにより、原子配列が列単位でずれる線状の格子欠陥である転移d1(図2(c))を多く発生させることが可能となる。また、残留応力の付与により、点状の格子欠陥である空孔d2(図2(d)参照。)や面状の格子欠陥も発生し得る。なお、上記の事項は第2ダイカスト部材20においても同様である。
【0025】
また、金属部材準備工程S10においては、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20として、第1接合予定面12及び第2接合予定面22がそれぞれ所定の面粗度を有するものを準備する。実施形態1における、所定の面粗度を有する第1接合予定面12及び第2接合予定面22としては、ショットブラストによる処理を実施した第1接合予定面12及び第2接合予定面22をそのまま利用することができる。
【0026】
本明細書における「所定の面粗度」とは、後述する金属接合体形成工程において第1ダイカスト部材に対して第2ダイカスト部材を相対的に押圧したときに、第1接合予定面及び第2接合予定面の表面における凹凸の変形、破壊、滑り等の表面微細構造の変化を発生させやすい粗さのことをいう。材料の種類や必要な接合強度等によって所定の面粗度の好適な数値は異なってくるが、一般にRa=0.05μm以上とすることが好ましいと考えられる。なお、本明細書における「表面微細構造」とは、原子スケールの表面構造のことをいう。
【0027】
第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料としては、種々の材料を用いることができる。具体例としては、鋳造用合金であるADC系の材料(特に、ADC12)を挙げることができる。本発明の方法によれば、ADC12からなるダイカスト部材について、接合強度が高い金属接合体が得られることが判明している。
【0028】
2.金属接合体形成工程S20
金属接合体形成工程S20は、第1接合予定面12と第2接合予定面22とを接触させた状態で、第1接合予定面12と第2接合予定面22とに圧力がかかるように第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより(図3(a)参照。)、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させて金属接合体100を形成する(図3(c)及び図3(d)参照。)工程である。
【0029】
金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面12及び第2接合予定面22に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させて金属接合体100を形成する。表面微細構造の変化とは凹凸の変形、破壊、滑り等であり(図3(b)参照。)、これらと第1接合予定面12及び第2接合予定面22に付与された残留応力との組み合わせにより拡散接合が促進される。
【0030】
なお、残留応力を付与した第1接合予定面と第2接合予定面との間で拡散接合が促進される原理については、以下のとおりであると考えられる。第1接合予定面及び第2接合予定面に残留応力を付与することで、上記したように各接合予定面において格子欠陥の発生を促進させることができる。格子欠陥が増加することで、第1接合予定面及び第2接合予定面は原子が移動しやすい状態となる。その結果、第1接合予定面と第2接合予定面との間(接合界面)における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることが可能となる。
【0031】
本明細書における「第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを相対的に押圧する」とは、第1ダイカスト部材を固定して第2ダイカスト部材に移動力をかけることにより押圧することのみをいうものではない。第2ダイカスト部材を固定して第1ダイカスト部材に移動力をかけることにより押圧することや、第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材との両方に移動力をかけることにより押圧することも含む。
【0032】
金属接合体形成工程S20は、拡散接合を促進させるために第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を加熱し、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20をある程度の温度(ただし、融点以下の温度)に保ちながら実施することが好ましい。すなわち、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20が拡散接合可能な温度条件の下で(好ましくは拡散接合に適した温度条件の下で)第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することが好ましい。
【0033】
拡散接合に適した温度条件は、主に第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類により異なってくる。例えば、アルミニウム系材料がADC12である場合には、500~550℃程度の温度とすることができる。また、かけるべき圧力については、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20の形状、接合温度等により最適値が大きく変わってくるため適切な数値を挙げることは難しいが、おおむねMPaオーダーの圧力が必要となると考えられる。
【0034】
第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させ、高い接合力を得るためには、温度及び圧力をある程度保持する必要がある。当該時間は第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20の形状、接合温度、圧力等により異なってくるが、例えば、10分~3時間程度とすることができる。
【0035】
金属接合体形成工程S20は、真空中や不活性ガス中で実施することが好ましい。なお、金属接合体形成工程S20は、空気存在下で実施することも可能であると考えられる。
【0036】
3.実施形態1に係る金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法の効果
実施形態1に係る金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面12を有する第1ダイカスト部材10であって第1接合予定面12のチル層を残しつつ第1接合予定面12に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面22を有する第2ダイカスト部材20であって第2接合予定面22のチル層を残しつつ第2接合予定面22に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体100を形成するため、残留応力により第1接合予定面12及び第2接合予定面22において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面12と第2接合予定面22との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0037】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、第1ダイカスト部材10は、第1接合予定面12の表面を塑性変形させることで第1接合予定面12に残留応力を付与したものであり、第2ダイカスト部材20は、第2接合予定面22の表面を塑性変形させることで第2接合予定面22に残留応力を付与したものであるため、塑性変形による残留応力の増加により、第1接合予定面12及び第2接合予定面22において原子配列の乱れである格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面12と第2接合予定面22との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることが可能となる。
【0038】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、第1ダイカスト部材10は、ショットブラストによる処理により第1接合予定面12の表面を塑性変形させることで第1接合予定面12に残留応力を付与したものであり、第2ダイカスト部材20は、ショットブラストによる処理により第2接合予定面22の表面を塑性変形させることで第2接合予定面22に残留応力を付与したものであるため、第1接合予定面12及び第2接合予定面22に投射材を次々に衝突させることで、第1接合予定面12及び第2接合予定面22の表面全体をおおむね均等に、かつ、実質的に方向性を有することなく塑性変形させて残留応力を付与することが可能となる。
【0039】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S10においては、第1接合予定面12及び第2接合予定面22がそれぞれ所定の面粗度を有する第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を準備し、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面12及び第2接合予定面22に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させて金属接合体100を形成するため、第1接合予定面12及び第2接合予定面22の表面の凹凸を利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0040】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20が拡散接合可能な温度条件の下で(好ましくは拡散接合に適した温度条件の下で)第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する場合には、押圧時に第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20が拡散接合しやすい状態、つまり、熱膨張により第1接合予定面12及び第2接合予定面22の表面において空孔等の格子欠陥が増加し、原子が一層拡散しやすい状態となるため、接合強度をより一層高くすることが可能となる。
【0041】
実施形態1に係るダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面12を有する第1ダイカスト部材10であって第1接合予定面12のチル層を残しつつ第1接合予定面12に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面22を有する第2ダイカスト部材20であって第2接合予定面22のチル層を残しつつ第2接合予定面22に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、残留応力により第1接合予定面12及び第2接合予定面22において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面12と第2接合予定面22との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0042】
[実施形態2]
図4は、実施形態2における第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40を説明するために示す図である。図4(a)は第1ダイカスト部材30の斜視図であり、図4(b)は第1ダイカスト部材30の平面図であり、図4(c)は図4(b)のA3-A3断面図であり、図4(d)は第2ダイカスト部材40の斜視図であり、図4(e)は第2ダイカスト部材40の平面図であり、図4(f)は図4(e)のA4-A4断面図である。図4(a)においては、接合用凹部32の形状のうち直接見えない部分を破線で示す。後述する各斜視図において、接合用凹部又は空間を有する部材を図示する場合も同様である。
図5は、実施形態2における金属接合体形成工程S21を説明するために示す図である。図5(a)は第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、図5(b)は拡散接合により形成された金属接合体110を示す断面図である。
【0043】
実施形態2に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S11と金属接合体形成工程S21とを含む。また、実施形態2に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S21に相当する。以下、各工程について説明する。
【0044】
1.金属部材準備工程S11
金属部材準備工程S11は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって第1接合予定面のチル層を残しつつ第1接合予定面に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって第2接合予定面のチル層を残しつつ第2接合予定面に残留応力を付与したものを準備する工程であるという点においては実施形態1における金属部材準備工程S10と同様であるが、以下の点において実施形態1における金属部材準備工程S10とは異なる。すなわち、金属部材準備工程S11においては、第1ダイカスト部材30として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S21における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部32が形成されているものを準備する(図4(a)~図4(c)参照。)。なお、接合用凹部32には底が存在せず、貫通穴のようになっている。また、金属部材準備工程S11においては、第2ダイカスト部材40として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部32に挿入したときに第1傾斜面と第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部42を有するものを準備する(図4(d)~図4(f)参照。)。
【0045】
実施形態2における第1傾斜面及び第2傾斜面は、テーパー面であるということもできる。第1傾斜面及び第2傾斜面のテーパー角は、第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40を構成するアルミニウム系材料の種類や製造すべき金属接合体110(又は金属接合体110を加工して製造される製品)の形状等に応じて任意の角度とすることができる。
【0046】
第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面34である。また、第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面44である。実施形態2に係る金属接合体の製造方法においては、第1傾斜面及び第2傾斜面のうち、接合用凸部42を接合用凹部32に挿入したときに突き当たる部分及び金属接合体形成工程S21において押圧により接触するようになる部分が第1接合予定面34及び第2接合予定面44である。なお、第1ダイカスト部材30は第1接合予定面34のチル層を残しつつ第1接合予定面34に残留応力を付与したものであり、第2ダイカスト部材40は第2接合予定面44のチル層を残しつつ第2接合予定面44に残留応力を付与したものであることは、実施形態1の場合と同様である。
【0047】
理由は後述するが、第1ダイカスト部材30における第1接合予定面34及び第2ダイカスト部材40における第2接合予定面44は、実施形態1における第1接合予定面12及び第2接合予定面22のように所定の面粗度を有していなくても差し支えない。
【0048】
2.金属接合体形成工程S21
金属接合体形成工程S21は、接合用凹部32に接合用凸部42を挿入した状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することにより(図5(a)参照。)、第1接合予定面34及び第2接合予定面44に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを拡散接合させて金属接合体110を形成する(図5(b)参照。)工程である。
【0049】
接合用凹部32に接合用凸部42を挿入した状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧すると、第1接合予定面34及び第2接合予定面44には、対向する方向への圧力だけでなく、ずれによる力もかかるようになる。このため、実施形態1の場合よりも第1接合予定面34及び第2接合予定面44には複雑な力がかかるようになり、表面微細構造の変化が促進される。このため、金属接合体形成工程S21においては、第1接合予定面34及び第2接合予定面44が所定の面粗度を有していなかったとしても、表面微細構造の変化が発生しやすくなる。
【0050】
なお、金属接合体形成工程S21においても、実施形態1における金属接合体形成工程S20と同様に、第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40が拡散接合可能な温度条件の下で(好ましくは拡散接合に適した温度条件の下で)第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することが好ましい。
【0051】
3.実施形態2に係る金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法の効果
実施形態2に係る金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面34を有する第1ダイカスト部材30であって第1接合予定面34のチル層を残しつつ第1接合予定面34に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面44を有する第2ダイカスト部材40であって第2接合予定面44のチル層を残しつつ第2接合予定面44に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体110を形成するため、実施形態1に係る金属接合体の製造方法と同様に、残留応力により第1接合予定面34及び第2接合予定面44において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面34と第2接合予定面44との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0052】
また、実施形態2に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S11においては、第1ダイカスト部材30として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S21における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部32が形成されているものを準備し、第2ダイカスト部材40として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部32に挿入したときに第1傾斜面と前記第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部42を有するものを準備し、第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面34であり、第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面44であり、金属接合体形成工程S21においては、接合用凹部32に接合用凸部42を挿入した状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面34及び第2接合予定面44に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを拡散接合させて金属接合体110を形成するため、押圧時に発生する第1接合予定面34と第2接合予定面44との間の圧力及びずれを利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0053】
なお、実施形態2に係る金属接合体の製造方法は、実施形態1に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0054】
実施形態2に係るダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面34を有する第1ダイカスト部材30であって第1接合予定面34のチル層を残しつつ第1接合予定面34に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面44を有する第2ダイカスト部材40であって第2接合予定面44のチル層を残しつつ第2接合予定面44に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、実施形態1に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、残留応力により第1接合予定面34及び第2接合予定面44において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面34と第2接合予定面44との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0055】
[実施形態3]
図6は、実施形態3における第1ダイカスト部材50及び第2ダイカスト部材60を説明するために示す図である。図6(a)は第1ダイカスト部材50の斜視図であり、図6(b)は第1ダイカスト部材50の平面図であり、図6(c)は図6(b)のA5-A5断面図であり、図6(d)は第2ダイカスト部材60の斜視図であり、図6(e)は第2ダイカスト部材60の平面図であり、図6(f)は図6(e)のA6-A6断面図である。
図7は、実施形態3における金属接合体形成工程S22を説明するために示す図である。図7(a)は第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、図7(b)は押圧により第1接合予定面58と第2接合予定面68とが接触した状態を示す断面図であり、図7(c)は拡散接合により形成された金属接合体120を示す断面図である。
【0056】
実施形態3に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S12と金属接合体形成工程S22とを含む。また、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S22に相当する。以下、各工程について説明する。
【0057】
1.金属部材準備工程S12
金属部材準備工程S12は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材であって第1接合予定面のチル層を残しつつ第1接合予定面に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材であって第2接合予定面のチル層を残しつつ第2接合予定面に残留応力を付与したものを準備する工程であるという点においては実施形態1における金属部材準備工程S10及び実施形態2における金属部材準備工程S11と同様であるが、以下の点においてこれらとは異なる。すなわち、金属部材準備工程S12においては、第1ダイカスト部材50として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S22における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部52が形成されているものを準備するが、接合用凹部52には底が存在する(図6(a)~図6(c)参照。)。第1ダイカスト部材50においても第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面54であるが、接合用凹部52の底面も第1接合予定面58となっている。
【0058】
また、金属部材準備工程S12においては、第2ダイカスト部材60として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部52に挿入したときに第1傾斜面と第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部62を有するものを準備する。第2ダイカスト部材60においても第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面64であるが、接合用凸部62の先端面も第2接合予定面68となっている(図6(d)~図6(f)参照。)。
【0059】
第1ダイカスト部材50における第1接合予定面54及び第2ダイカスト部材60における第2接合予定面64は、実施形態2における金属部材準備工程S11の場合と同様に所定の面粗度を有していなくても差し支えないが、第1接合予定面58及び第2接合予定面68は実施形態1における第1接合予定面12及び第2接合予定面22と同様に所定の面粗度を有する。
【0060】
なお、第1ダイカスト部材50は第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものであり、第2ダイカスト部材60は第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものであることは、実施形態1,2の場合と同様である。
【0061】
図示は省略するが、第1ダイカスト部材50における接合用凹部52や第2ダイカスト部材60の第2傾斜面には、必要に応じて空気抜き用の穴や溝が形成されていてもよい。
【0062】
2.金属接合体形成工程S22
金属接合体形成工程S22は、第1接合予定面及び第2接合予定面に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成する工程であるという点においては実施形態2における金属接合体形成工程S21と同様であるが、以下の点において実施形態2における金属接合体形成工程S21とは異なる。すなわち、金属接合体形成工程S22においては、接合用凹部52に接合用凸部62を挿入した状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧する(図7(a)参照。)。その結果、第1接合予定面58と第2接合予定面68とが突き当たるようになる(図7(b)参照。)。このため、第1接合予定面54及び第2接合予定面64だけでなく、第1接合予定面58及び第2接合予定面68も拡散接合され、金属接合体120が形成される(図7(c)参照。)。なお、第1接合予定面58及び第2接合予定面68が拡散接合される原理は実施形態1の場合と同様である。
【0063】
3.実施形態3に係る金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法の効果
実施形態3に係る金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60であって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体120を形成するため、実施形態1,2に係る金属接合体の製造方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0064】
また、実施形態3に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S12においては、第1接合予定面58及び第2接合予定面68がそれぞれ所定の面粗度を有する第1ダイカスト部材50及び第2ダイカスト部材60を準備し、金属接合体形成工程S22においては、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面58及び第2接合予定面68に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを拡散接合させて金属接合体120を形成するため、第1接合予定面58及び第2接合予定面68の表面の凹凸を利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0065】
また、実施形態3に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S12においては、第1ダイカスト部材50として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S22における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部52が形成されているものを準備し、第2ダイカスト部材60として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部52に挿入したときに第1傾斜面と前記第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部62を有するものを準備し、第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面54であり、第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面64であり、金属接合体形成工程S22においては、接合用凹部52に接合用凸部62を挿入した状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面54及び第2接合予定面64に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを拡散接合させて金属接合体120を形成するため、押圧時に発生する第1接合予定面54と第2接合予定面64との間の圧力及びずれを利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0066】
なお、実施形態3に係る金属接合体の製造方法は、実施形態1,2に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0067】
実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60であって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、実施形態1,2に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0068】
[実施形態4]
図8は、実施形態4における第1変形抑制部材200を説明するために示す図である。図8(a)は第1変形抑制部材200の斜視図であり、図8(b)は第1変形抑制部材200の平面図であり、図8(c)は図8(b)のA7-A7断面図である。
図9は、実施形態4における金属接合体形成工程S23を説明するために示す図である。図9(a)は第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、図9(b)は押圧により第1接合予定面58と第2接合予定面68とが接触した状態を示す断面図であり、図9(c)は拡散接合により形成された金属接合体120を示す断面図である。
【0069】
実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、基本的には実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様の方法であるが、金属接合体形成工程において第1変形抑制部材を用いる点で実施形態3に係る金属接合体の製造方法の場合とは異なる。実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S12と金属接合体形成工程S23とを含む。また、実施形態4に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S23に相当する。実施形態4における金属部材準備工程S12は実施形態3における金属部材準備工程S12と同様の工程であるため、以下においては金属接合体形成工程S23について説明する。
【0070】
実施形態4における第1変形抑制部材200は、少なくとも押圧方向に対して垂直な方向(外側)に第1ダイカスト部材50が変形することを抑制する部材である。第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材50の少なくとも側面を覆うことができる部材であると表現することもできる。実施形態4における第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材50の底面も覆うことができる部材である。第1変形抑制部材200においては、第1ダイカスト部材50の側面及び底面の外形形状に対応する空間が形成されている(図8参照。)。第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材50を構成する材料よりも変形しにくい材料から構成されている。このような材料としては、鉄鋼、超硬合金、セラミックスを例示することができる。なお、第1変形抑制部材200は全体が1つの部品からなる部材であるように図示されているが、複数の部品からなる部材(分割及び合体可能な部材)であってもよい。
【0071】
実施形態4における金属接合体形成工程S23においては、第1変形抑制部材200と第1ダイカスト部材50とを合体させた状態(第1変形抑制部材200の空間に第1ダイカスト部材50をはめ込んだ状態)で、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧する(図9(a)及び図9(b)参照。)。第1変形抑制部材200は、拡散接合により金属接合体120が形成された後に除去する(図9(c)参照。)。
【0072】
実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60であって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体120を形成するため、実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0073】
また、実施形態4に係る金属接合体の製造方法によれば、金属接合体形成工程S23においては、第1変形抑制部材200と第1ダイカスト部材50とを合体させた状態で、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧するため、押圧中に第1ダイカスト部材50が膨らむ(押し広げられる)ように変形することを抑制することが可能となり、その結果、第1接合予定面54と第2接合予定面64との間の圧力低下を抑制することが可能となる。
【0074】
なお、実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、実施形態3に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0075】
実施形態4に係るダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60であって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0076】
[実施形態5]
図10は、実施形態5における第2ダイカスト部材60a及び第2変形抑制部材300を説明するために示す図である。図10(a)は第2ダイカスト部材60aの斜視図であり、図10(b)は第2ダイカスト部材60aの平面図であり、図10(c)は図10(b)のA8-A8断面図であり、図10(d)は第2変形抑制部材300の斜視図であり、図10(e)は第2変形抑制部材300の平面図であり、図10(f)は図10(e)のA9-A9断面図である。
図11は、実施形態5における金属接合体形成工程S24を説明するために示す図である。図11(a)は第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、図11(b)は押圧により第1接合予定面58と第2接合予定面68とが接触した状態を示す断面図であり、図11(c)は拡散接合により形成された金属接合体130を示す断面図である。
【0077】
実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、基本的には実施形態4に係る金属接合体の製造方法と同様の方法であるが、第2ダイカスト部材の形状及び金属接合体形成工程において第2変形抑制部材を用いる点で実施形態4に係る金属接合体の製造方法の場合とは異なる。実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S14と金属接合体形成工程S24とを含む。また、実施形態5に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S24に相当する。以下、各工程について説明する。
【0078】
実施形態5における金属部材準備工程S14においては、第2ダイカスト部材60aとして接合用凸部62の内部に空間69aが形成されているものを準備する(図10(a)~図10(c)参照。)。第2ダイカスト部材60aは、空間69aが形成されていること以外については実施形態3,4における第2ダイカスト部材60と同様の構成を有する。なお、金属部材準備工程S14においては、第1ダイカスト部材50として実施形態3,4における第1ダイカスト部材50と同様のものを準備する。
【0079】
実施形態5における第2変形抑制部材300は、少なくとも押圧方向に対して垂直な方向(内側)に第2ダイカスト部材60aが変形することを抑制する部材である。具体的には、第2変形抑制部材300は、第2ダイカスト部材60aの内形形状(空間69a)に対応する箇所を有する部材である(図10(d)~図10(f)参照。)。第2変形抑制部材300は、第2ダイカスト部材60aを構成する材料よりも変形しにくい材料から構成されている。このような材料としては、鉄鋼、超硬合金、セラミックスを例示することができる。なお、第2変形抑制部材300は全体が1つの部品からなる部材であるように図示されているが、複数の部品からなる部材(分割及び合体可能な部材)であってもよい。
【0080】
実施形態5における金属接合体形成工程S24においては、第2変形抑制部材300を接合用凸部62の空間69aに挿入した状態で、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを相対的に押圧する(図11(a)及び図11(b)参照。)。第2変形抑制部材300は、第1変形抑制部材200と同様に、拡散接合により金属接合体130が形成された後に除去する(図11(c)参照。)。
【0081】
実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60aであって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体130を形成するため、実施形態4に係る金属接合体の製造方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0082】
また、実施形態5に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S14においては、第2ダイカスト部材60aとして接合用凸部62の内部に空間69aが形成されているものを準備し、金属接合体形成工程S24においては、第2変形抑制部材300を接合用凸部62の空間69aに挿入した状態で、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを相対的に押圧するため、押圧中に第2ダイカスト部材60aが潰れるように変形することを抑制することが可能となり、その結果、第1接合予定面54と第2接合予定面64との間の圧力低下を抑制することが可能となる。
【0083】
なお、実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、実施形態4に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0084】
実施形態5に係るダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60aであって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、実施形態4に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0085】
[実施形態6]
図12は、実施形態6における第2ダイカスト部材60bを説明するために示す図である。図12(a)は第2ダイカスト部材60bの斜視図であり、図12(b)は第2ダイカスト部材60bの平面図であり、図12(c)は図12(b)のA10-A10断面図である。
図13は、実施形態6における金属接合体形成工程S25を説明するために示す図である。図13(a)は第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60bとを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、図13(b)は押圧により第1接合予定面58と第2接合予定面68とが接触した状態を示す断面図であり、図13(c)は拡散接合により形成された金属接合体140を示す断面図である。
【0086】
実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、基本的には実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様の方法であるが、第2ダイカスト部材の形状が実施形態3に係る金属接合体の製造方法の場合とは異なる。実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S15と金属接合体形成工程S25とを含む。また、実施形態6に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S25に相当する。以下、各工程について説明する。
【0087】
実施形態6における金属部材準備工程S15においては、第2ダイカスト部材60bとして、第2接合予定面64に、金属接合体140となった後も(金属接合体形成工程S25の後においても)空間として残る空間形成用凹部69bが形成されている(図12参照。)。実施形態6における空間形成用凹部69bは、連続した溝状の形状からなる。なお、金属部材準備工程S15においては、第1ダイカスト部材50として実施形態3における第1ダイカスト部材50と同様のものを準備する。
【0088】
実施形態6における金属接合体形成工程S25は、基本的には実施形態3における金属接合体形成工程S22と同様の工程であるが、第2ダイカスト部材として上記した第2ダイカスト部材60bを用いる(図13(a)及び図13(b)参照。)。このようにして形成された金属接合体140には空間形成用凹部69bが空間として残る(図13(c)参照。)。このような空間形成用凹部69bは、例えば、熱交換媒体の流路として用いることができる。
【0089】
実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60bであって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体140を形成するため、実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0090】
また、実施形態6に係る金属接合体の製造方法によれば、第2接合予定面64には、金属接合体140となった後も空間として残る空間形成用凹部69bが形成されているため、複雑な内部形状を有する金属接合体を製造することが可能となる。
【0091】
なお、実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、実施形態3に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0092】
実施形態6に係るダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面54,58を有する第1ダイカスト部材50であって第1接合予定面54,58のチル層を残しつつ第1接合予定面54,58に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面64,68を有する第2ダイカスト部材60bであって第2接合予定面64,68のチル層を残しつつ第2接合予定面64,68に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、残留応力により第1接合予定面54,58及び第2接合予定面64,68において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面54,58と第2接合予定面64,68との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0093】
[実施形態7]
図14は、実施形態7における第1ダイカスト部材80及び第2ダイカスト部材90を説明するために示す図である。図14(a)は第1ダイカスト部材80の斜視図であり、図14(b)は第1ダイカスト部材80の平面図であり、図14(c)は図14(b)のA11-A11断面図であり、図14(d)は第2ダイカスト部材90の斜視図であり、図14(e)は第2ダイカスト部材90の平面図であり、図14(f)は図14(e)のA12-A12断面図である。
図15は、実施形態7における金属接合体形成工程S26を説明するために示す図である。図15(a)は第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、図15(b)は押圧により第1接合予定面84と第2接合予定面94との全体が接触した状態を示す断面図であり、図15(c)は拡散接合により形成された金属接合体150を示す断面図である。
【0094】
実施形態7に係る金属接合体の製造方法は、基本的には実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様の方法であるが、第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材の形状が実施形態3に係る金属接合体の製造方法の場合とは異なる。実施形態7に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S16と金属接合体形成工程S26とを含む。また、実施形態7に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S26に相当する。以下、各工程について説明する。
【0095】
実施形態7における金属部材準備工程S16においては、第1ダイカスト部材80として、略半球状の接合用凹部82が形成されているものを準備し(図14(a)~図14(c)参照。)、第2ダイカスト部材90として、略半球状の接合用凸部92を有するものを準備する(図14(d)~図14(f)参照)。
【0096】
第1ダイカスト部材80の接合用凹部82においては内面(半球状部分)全体が第1接合予定面84となる。接合用凹部82の頂点付近は実施形態3における第1接合予定面58(底面)に、辺縁付近は実施形態3における第1接合予定面54(第1傾斜面)に、それぞれ対応するものと考えることができる。このため、少なくとも接合用凹部82の半球の頂点付近は所定の面粗度を有する。
【0097】
第2ダイカスト部材90の接合用凸部92においても外面(半球状部分)全体が第2接合予定面94となる。接合用凸部92の頂点付近は実施形態3における第1接合予定面58(先端面)に、辺縁付近は実施形態3における第2接合予定面64(第2傾斜面)にそれぞれ対応するものと考えることができる。このため、少なくとも接合用凸部92の半球の頂点付近も所定の面粗度を有する。なお、接合用凸部92は、「接合用凹部82に挿入したときに第1傾斜面と第2傾斜面とが突き当たる形状からなる」という条件を満たすために、接合用凹部82よりもわずかに径が大きくなっている。
【0098】
実施形態7における金属接合体形成工程S26は、第1ダイカスト部材80及び第2ダイカスト部材90の形状の違いを除けば、基本的には実施形態3における金属接合体形成工程S22と同様である。すなわち、金属接合体形成工程S26においては、接合用凹部82に接合用凸部92を挿入した状態で第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを相対的に押圧する(図15(a)参照。)。その結果、第1接合予定面84の頂点付近と第2接合予定面94の頂点付近とが突き当たる(図15(b)参照。)。このため、第1接合予定面84及び第2接合予定面94の全面が拡散接合され、金属接合体150が形成される(図15(c)参照。)。
【0099】
実施形態7に係る金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面84を有する第1ダイカスト部材80であって第1接合予定面84のチル層を残しつつ第1接合予定面84に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面94を有する第2ダイカスト部材90であって第2接合予定面94のチル層を残しつつ第2接合予定面94に残留応力を付与したものとを準備し、これらを拡散接合させて金属接合体150を形成するため、実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様に、残留応力により第1接合予定面84及び第2接合予定面94において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面84と第2接合予定面94との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0100】
なお、実施形態7に係る金属接合体の製造方法は、実施形態3に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0101】
実施形態7に係るダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面84を有する第1ダイカスト部材80であって第1接合予定面84のチル層を残しつつ第1接合予定面84に残留応力を付与したものと、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面94を有する第2ダイカスト部材90であって第2接合予定面94のチル層を残しつつ第2接合予定面94に残留応力を付与したものとを拡散接合させるため、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、残留応力により第1接合予定面84及び第2接合予定面94において格子欠陥の発生を促進させ、第1接合予定面84と第2接合予定面94との間における原子の拡散や金属結合の確立を活発化させることで接合強度を高くすることが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0102】
以上、本発明を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0103】
(1)上記各実施形態における第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材の形状はあくまで例示であり、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて任意の形状とすることができる。
【0104】
(2)上記実施形態6においては、空間形成用凹部69bは連続した溝状の形状からなるものであったが、本発明はこれに限定されるものではない。空間形成用凹部は任意の形状とすることができる。
【0105】
(3)上記実施形態6においては、空間形成用凹部69bは第2接合予定面64に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。空間形成用凹部は、第1接合予定面に形成されていてもよく、第1接合予定面と第2接合予定面との両方に形成されていてもよい。
【0106】
(4)上記実施形態4~7における特徴は、阻害要因がない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0107】
(5)上記各実施形態においては、第1ダイカスト部材は第1接合予定面の表面を塑性変形させることで第1接合予定面に残留応力を付与したものであり、第2ダイカスト部材は第2接合予定面の表面を塑性変形させることで第2接合予定面に残留応力を付与したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材は、塑性変形以外の手段(例えば、急冷等の熱処理)により第1接合予定面及び第2接合予定面にそれぞれ残留応力を付与したものであってもよい。
【0108】
(6)上記各実施形態においては、第1ダイカスト部材はショットブラストによる処理により第1接合予定面に残留応力を付与したものであり、第2ダイカスト部材はショットブラストによる処理により第2接合予定面に残留応力を付与したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材は、ショットブラストによる処理以外の処理により第1接合予定面及び第2接合予定面をそれぞれ塑性変形させて残留応力を付与したものであってもよい。
【0109】
(7)上記実施形態1においては、金属接合体形成工程S20は、拡散接合を促進させるために第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を加熱し、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20をある程度の温度(ただし、融点以下の温度)に保ちながら実施することが好ましいとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、宇宙空間のような環境では拡散接合が進みやすいと考えられるため、このような環境で本発明の金属接合体形成工程を実施する場合には、第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材を必ずしも加熱しなくてもよい。これは、他の実施形態の金属接合体形成工程においても同様である。
【符号の説明】
【0110】
10,30,50,80…第1ダイカスト部材、12,34,54,58,84…第1接合予定面、20,40,60,60a,60b,90…第2ダイカスト部材、22,44,64,68,94…第2接合予定面、32,52,82,92…接合用凹部、42,62…接合用凸部、69a…空間、69b…空間形成用凹部、100,110,120,130,140,150…金属接合体、200…第1変形抑制部材、300…第2変形抑制部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15