(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B23K20/00 310B
(21)【出願番号】P 2024528787
(86)(22)【出願日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2023021385
(87)【国際公開番号】W WO2023248817
(87)【国際公開日】2023-12-28
【審査請求日】2024-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2022100671
(32)【優先日】2022-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505290542
【氏名又は名称】株式会社MOLE’S ACT
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】北澤 敏明
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-35955(JP,A)
【文献】特開昭57-134284(JP,A)
【文献】特開2010-94712(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081440(WO,A1)
【文献】特開2018-87381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K20/00 - 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材とを準備する金属部材準備工程と、
前記第1ダイカスト部材と前記第1ダイカスト部材の変形を抑制する第1変形抑制部材とを合体させ、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成する金属接合体形成工程とを含むことを特徴とする金属接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1変形抑制部材は、少なくとも前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧する押圧方向に対して垂直な方向に前記第1ダイカスト部材が変形することを抑制するものであることを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1変形抑制部材は、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させるときの温度において前記第1ダイカスト部材の形状に適合する形状からなり、
前記金属接合体形成工程においては、前記第1ダイカスト部材及び前記第1変形抑制部材が前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させるときの温度となってから、前記第1ダイカスト部材と前記第1変形抑制部材とを合体させることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属接合体形成工程においては、前記第2ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材の変形を抑制する第2変形抑制部材とを合体させた状態で、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項5】
前記第2変形抑制部材は、少なくとも前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧する押圧方向に対して垂直な方向に前記第2ダイカスト部材が変形することを抑制するものであることを特徴とする請求項4に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項6】
前記第2変形抑制部材は、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させるときの温度において前記第2ダイカスト部材の形状に適合する形状からなり、
前記金属接合体形成工程においては、前記第2ダイカスト部材及び前記第2変形抑制部材が前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させるときの温度となってから、前記第2ダイカスト部材と前記第2変形抑制部材とを合体させることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項7】
前記金属部材準備工程においては、前記第1ダイカスト部材及び前記第2ダイカスト部材として、前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面がそれぞれ所定の面粗度を有するものを準備し、
前記金属接合体形成工程においては、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面に表面微細構造の変化を発生させながら、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項8】
前記金属部材準備工程においては、前記第1ダイカスト部材として、内面の少なくとも一部が前記金属接合体形成工程における押圧方向に対して角度が付いた第1傾斜面となっている接合用凹部が形成されているものを準備し、前記第2ダイカスト部材として、側面の少なくとも一部が前記第1傾斜面に対応する角度が付いた第2傾斜面となっており前記接合用凹部に挿入したときに前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部を有するものを準備し、
前記第1傾斜面の少なくとも一部は前記第1接合予定面であり、
前記第2傾斜面の少なくとも一部は前記第2接合予定面であり、
前記金属接合体形成工程においては、前記接合用凹部に前記接合用凸部を挿入した状態で前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面に表面微細構造の変化を発生させながら、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項9】
前記金属接合体形成工程においては、前記第1ダイカスト部材及び前記第2ダイカスト部材が拡散接合可能な温度条件の下で前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項10】
前記第1接合予定面及び前記第2接合予定面のうち少なくとも一方には、前記金属接合体形成工程の後においても空間として残る空間形成用凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項11】
前記金属接合体形成工程は、空気存在下で実施することを特徴とする請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項12】
アルミニウム系金属からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材と前記第1ダイカスト部材の変形を抑制する第1変形抑制部材とを合体させ、前記第1接合予定面とアルミニウム系金属からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材の前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とするダイカスト部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼部材を接合した金属接合体の製造方法として、2つの鉄鋼部材(金属部材)を準備する鉄鋼部材準備工程と、2つの鉄鋼部材における接合予定面を突き合わせた状態で、2つの鉄鋼部材を所定の圧力条件で押圧しながら2つの鉄鋼部材を接合可能な第1温度に加熱することにより、2つの鉄鋼部材を互いに接合して金属接合体を形成する接合体形成工程とを含む方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、広く用いられている金属の成型法の一つにダイカストがある。ダイカストによれば、溶湯を金型に圧入することで、寸法精度が高い金属部材を短時間(高サイクル)で製造することが可能である。
【0005】
ダイカストにより製造された金属部材(以下、ダイカスト部材という。)は、寸法精度の高さを活かして、そのまま又は簡単な加工や処理を施されるのみで最終的な製品として扱われることが多い。一方で、ダイカストも金型鋳造法の一つであるため、製造できる部材の形状には制限がある。例えば、金型から抜けない外部形状を有する部材や複雑な内部形状(例えば、熱交換媒体流路)を有する部材は、現在の技術ではダイカストのみで製造することは不可能である。
【0006】
このため、従来の金属接合体の製造方法のような複数の金属部材を接合して金属接合体を製造する方法をダイカスト部材に応用することで、様々な外部形状及び内部形状を有する部材(金属接合体)を製造することが可能となると考えられる。
【0007】
しかしながら、ダイカスト部材を接合することは一般的ではない。その理由の一つとして、ダイカストで用いられる金属材料の性質がある。ダイカストでは比較的融点が低い金属材料が用いられ、一般的な材料としてアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、まとめて「アルミニウム系材料」という。)を挙げることができる。アルミニウム系材料には、鉄鋼材料と比較して軟らかく、表面に強固な酸化被膜が存在するといった特徴がある。これらの特徴は利点にもなるが、接合を実施する観点からは難点となる。特にアルミニウム系材料の軟らかさは、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形の原因となる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、アルミニウム系材料からなるダイカスト部材について、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属接合体の製造方法は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材とを準備する金属部材準備工程と、前記第1ダイカスト部材の変形を抑制する第1変形抑制部材と前記第1ダイカスト部材とを合体させ、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成する金属接合体形成工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のダイカスト部材の接合方法は、アルミニウム系金属からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材と前記第1ダイカスト部材の変形を抑制する第1変形抑制部材とを合体させ、前記第1接合予定面とアルミニウム系金属からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材の前記第2接合予定面とを接触させた状態で、前記第1接合予定面と前記第2接合予定面とに圧力がかかるように前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、前記第1ダイカスト部材と前記第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属接合体の製造方法は、第1ダイカスト部材と第1ダイカスト部材の変形を抑制する第1変形抑制部材とを合体させた状態で第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成するため、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0012】
本発明のダイカスト部材の接合方法は、第1ダイカスト部材と第1ダイカスト部材の変形を抑制する第1変形抑制部材とを合体させた状態で第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを拡散接合させるため、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1における第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を説明するために示す図である。
【
図2】実施形態1における金属接合体形成工程S20を説明するために示す図である。
【
図3】実施形態1における第1変形抑制部材200を説明するために示す図である。
【
図4】実施形態1における第2変形抑制部材300を説明するために示す図である。
【
図5】実施形態2における第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40を説明するために示す図である。
【
図6】実施形態2における金属接合体形成工程S21を説明するために示す図である。
【
図7】実施形態2における第1変形抑制部材210を説明するために示す図である。
【
図8】実施形態2における第2変形抑制部材310を説明するために示す図である。
【
図9】実施形態3における第1ダイカスト部材50及び第2ダイカスト部材60を説明するために示す図である。
【
図10】実施形態3における金属接合体形成工程S22を説明するために示す図である。
【
図11】実施形態4における第2ダイカスト部材60a及び第2変形抑制部材320を説明するために示す図である。
【
図12】実施形態4における金属接合体形成工程S24を説明するために示す図である。
【
図13】実施形態5における第2ダイカスト部材60bを説明するために示す図である。
【
図14】実施形態5における金属接合体形成工程S25を説明するために示す図である。
【
図15】実施形態6における第1ダイカスト部材80及び第2ダイカスト部材90を説明するために示す図である。
【
図16】実施形態6における金属接合体形成工程S26を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法について、図に示す各実施形態に基づいて説明する。各図面は模式図であり、必ずしも実際の構造、構成、比率等を厳密に反映したものではない。以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。以下の説明においては実質的に同等とみなせる構成要素に関しては実施形態をまたいで同じ符号を用い、再度の説明を省略する。
【0015】
[実施形態1]
図1は、実施形態1における第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を説明するために示す図である。
図1(a)は第1ダイカスト部材10の斜視図(等角図)であり、
図1(b)は第1ダイカスト部材10の平面図であり、
図1(c)は
図1(b)のA1-A1断面図であり、
図1(d)は第1接合予定面12の表面の様子を示す拡大断面図であり、
図1(e)は第2ダイカスト部材20の斜視図であり、
図1(f)は第2ダイカスト部材20の平面図であり、
図1(g)は
図1(f)のA2-A2断面図であり、
図1(h)は
図1(f)の第2接合予定面22の表面の様子を示す拡大断面図である。
図2は、実施形態1における金属接合体形成工程S20を説明するために示す図である。
図2(a)は第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、
図2(b)は押圧時における第1接合予定面12及び第2接合予定面22の様子を示す拡大断面図であり、
図2(c)は拡散接合により形成された金属接合体100を示す断面図であり、
図2(d)は接合後における接合界面の様子を示す拡大断面図である。
図2(a)における符号P及び太矢印は、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧していることを表すものである。符号P及び太矢印は、後述する「金属接合体形成工程を説明するために示す図」においても同様の意味を有する。
図2(c)及び
図2(d)における二点鎖線は接合界面を示すものであるが、当該表示は金属接合体100に接合界面が残存していることを示すものではなく、金属接合体100が2つの部材から製造されたことをわかりやすく示すためのものである。これは、後述する「金属接合体形成工程を説明するために示す図」においても同様である。
図3は、実施形態1における第1変形抑制部材200を説明するために示す図である。
図3(a)は第1変形抑制部材200の斜視図であり、
図3(b)は第1変形抑制部材200の平面図であり、
図3(c)は
図3(b)のA3-A3断面図である。
図3(a)においては、内側の空間の形状のうち直接見えない部分を破線で示す。後述する各斜視図において、空間又は接合用凹部を有する部材を図示する場合も同様である。
図4は、実施形態1における第2変形抑制部材300を説明するために示す図である。
図4(a)は第2変形抑制部材300の斜視図であり、
図4(b)は第2変形抑制部材300の平面図であり、
図4(c)は
図4(b)のA4-A4断面図である。
【0016】
実施形態1に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S10と金属接合体形成工程S20とを含む。また、実施形態1に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S20に相当する。以下、各工程について説明する。
【0017】
1.金属部材準備工程S10
金属部材準備工程S10は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面12を有する第1ダイカスト部材10と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面22を有する第2ダイカスト部材20とを準備する工程である(
図1参照。)。第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料としては、任意の材料を用いることができる。なお、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とは、アルミニウム系材料からなるものであれば、同じ材料からなるものであってもよいし、違う材料からなるものであってもよい。
【0018】
本明細書における「ダイカスト部材」は、ダイカストにより製造された金属部材のことをいう。本明細書における「ダイカスト部材」には、全体の形状が大きく変わらない程度の後加工(例えば、バリ取りや穴開け加工)が施されたものを含む。第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料としては、種々の材料を用いることができる。具体例としては、鋳造用合金であるADC系の材料(特に、ADC12)を挙げることができる。本発明の方法によれば、ADC12からなるダイカスト部材について、接合強度が高い金属接合体が得られることが判明している。
【0019】
金属部材準備工程S10においては、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20として、第1接合予定面12及び第2接合予定面22がそれぞれ所定の面粗度を有するものを準備する(
図1(d)及び
図1(h)参照。)。なお、
図1(d)及び
図1(h)は模式図であるため、表面の凹凸の大きさ、比率、形状等は図示したものに限られない。
【0020】
本明細書における「所定の面粗度」とは、後述する金属接合体形成工程において第1ダイカスト部材に対して第2ダイカスト部材を相対的に押圧したときに、第1接合予定面及び第2接合予定面の表面における凹凸の変形、破壊、滑り等の表面微細構造の変化を発生させやすい粗さのことをいう。材料の種類や必要な接合強度等によって所定の面粗度の好適な数値は異なってくるが、一般にRa=0.05μm以上とすることが好ましいと考えられる。なお、本明細書における「表面微細構造」とは、原子スケールの表面構造のことをいう。
【0021】
第1接合予定面12及び第2接合予定面22がそれぞれ所定の面粗度を有する第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20は、例えば、投射材(粒体)を衝突させる処理(いわゆるショットブラスト)を実施することにより準備することができる。投射材の材料、粒径や投射材を衝突させる速さ等の条件は、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類等に応じて任意に決定することができる。投射材の材料に関しては、例えば、アルミニウム系材料や鉄鋼材料からなる粒体を好適に用いることができる。なお、第1接合予定面12及び第2接合予定面22がそれぞれ所定の面粗度を有するようにするために、ショットブラスト以外の処理を実施してもよい。
【0022】
2.金属接合体形成工程S20
金属接合体形成工程S20は、第1接合予定面12と第2接合予定面22とを接触させた状態で、第1接合予定面12と第2接合予定面22とに圧力がかかるように第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより(
図2(a)参照。)、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させて金属接合体100を形成する(
図2(c)及び
図2(d)参照。)工程である。
【0023】
本明細書における「第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを相対的に押圧する」とは、第1ダイカスト部材を固定して第2ダイカスト部材に移動力をかけることにより押圧することのみをいうものではない。第2ダイカスト部材を固定して第1ダイカスト部材に移動力をかけることにより押圧することや、第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材との両方に移動力をかけることにより押圧することも含む。
【0024】
金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10と第1ダイカスト部材10の変形を抑制する第1変形抑制部材200とを合体させた状態で第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する(
図2(a)参照。)。
【0025】
第1変形抑制部材200は、少なくとも第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する押圧方向に対して垂直な方向に第1ダイカスト部材10が変形することを抑制する部材である(
図3参照。)。第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材10の少なくとも側面を覆うことができる部材であると表現することもできる。実施形態1における第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材10の底面も覆うことができる部材である。第1変形抑制部材200においては、第1ダイカスト部材10の側面及び底面の外形形状に対応する空間が形成されている。第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材10を構成する材料よりも変形しにくい材料から構成されている。このような材料としては、鉄鋼、超硬合金、セラミックスを例示することができる。
【0026】
第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度において第1ダイカスト部材10の形状(側面及び底面の外形形状)に適合する形状からなる。そして、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10及び第1変形抑制部材200が第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度となってから、第1ダイカスト部材10と第1変形抑制部材200とを合体させる。
【0027】
また、金属接合体形成工程S20においては、第2ダイカスト部材20と第2ダイカスト部材20の変形を抑制する第2変形抑制部材300とを合体させた状態で、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する(
図2(a)参照。)。
【0028】
第2変形抑制部材300は、少なくとも第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する押圧方向に対して垂直な方向に第2ダイカスト部材20が変形することを抑制する部材である(
図4参照。)。第2変形抑制部材300は、第2ダイカスト部材20の少なくとも側面を覆うことができる部材であると表現することもできる。実施形態1における第2変形抑制部材300は、第2ダイカスト部材20の上面も覆うことができる部材である。第2変形抑制部材300においては、第2ダイカスト部材20の側面及び上面の外形形状に対応する空間が形成されている。第2変形抑制部材300は、第2ダイカスト部材20を構成する材料よりも変形しにくい材料から構成されている。このような材料としては、第1変形抑制部材200の場合と同様に、鉄鋼、超硬合金、セラミックスを例示することができる。
【0029】
第2変形抑制部材300は、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度において第2ダイカスト部材20の形状に適合する形状からなる。そして、金属接合体形成工程S20においては、第2ダイカスト部材20及び第2変形抑制部材300が第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度となってから、第2ダイカスト部材20と第2変形抑制部材300とを合体させる。
【0030】
第1変形抑制部材200及び第2変形抑制部材300の形状は、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を製造したダイカスト用の金型の一部の形状を転用することで、比較的容易に設計することが可能である。ただし、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20並びに第1変形抑制部材200及び第2変形抑制部材300の、それぞれの接合時の温度における熱膨張の具合は考慮する必要がある。なお、
図1及び
図2においては、第1ダイカスト部材10の第1接合予定面12以外の面及び第2ダイカスト部材20の第2接合予定面22以外の面がごく単純な形状の面(平面)であるように図示しているが、例えば、機械的機能や電気的機能を発揮させるための凹凸構造等がこれらの面に存在してもよい。この場合、第1変形抑制部材200及び第2変形抑制部材300の形状も当該凹凸構造等に対応したものとなる。これは、後述する各実施形態における第1ダイカスト部材の第1接合予定面以外の面及び第2ダイカスト部材の第2接合予定面以外の面においても同様である。
【0031】
なお、
図2(a)においては、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧するときに第1変形抑制部材200と第2変形抑制部材300とが突き当たっているような図となっているが、本発明はこれに限定されるものではない。第1接合予定面12と第2接合予定面22とに十分な圧力がかかるようにするために、押圧時に第1変形抑制部材200と第2変形抑制部材300とが突き当たらないような構成としてもよい。
【0032】
第1変形抑制部材200及び第2変形抑制部材300は、拡散接合により金属接合体100が形成された後に除去する(
図2(c)参照。)。
【0033】
金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面12及び第2接合予定面22に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させて金属接合体100を形成する。表面微細構造の変化とは凹凸の変形、破壊、滑り等であり、これらにより拡散接合が促進される(
図2(b)参照。)。
【0034】
金属接合体形成工程S20は、拡散接合を促進させるために第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を加熱し、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20をある程度の温度(ただし、融点以下の温度)に保ちながら実施することが好ましい。すなわち、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20が拡散接合可能な温度条件の下で(好ましくは拡散接合に適した温度条件の下で)第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することが好ましい。
【0035】
拡散接合に適した温度条件は、主に第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類により異なってくる。例えば、アルミニウム系材料がADC12である場合には、500~550℃程度の温度とすることができる。また、かけるべき圧力については、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20の形状、接合温度等により最適値が大きく変わってくるため適切な数値を挙げることは難しいが、おおむねMPaオーダーの圧力が必要となると考えられる。
【0036】
第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させ、高い接合力を得るためには、温度及び圧力をある程度保持する必要がある。当該時間は第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を構成するアルミニウム系材料の種類、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20の形状、接合温度、圧力等により異なってくるが、例えば、10分~3時間程度とすることができる。
【0037】
金属接合体形成工程S20は、真空中や不活性ガス中で実施することが好ましい。また、金属接合体形成工程S20は、空気存在下で実施することも好ましい。
【0038】
3.実施形態1に係る金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法の効果
実施形態1に係る金属接合体の製造方法は、第1ダイカスト部材10と第1ダイカスト部材10の変形を抑制する第1変形抑制部材200とを合体させた状態で第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させて金属接合体100を形成するため、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材(少なくとも第1ダイカスト部材10)の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0039】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、第1変形抑制部材200は、少なくとも第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する押圧方向に対して垂直な方向に第1ダイカスト部材10が変形することを抑制するものであるため、押圧中に第1ダイカスト部材10が押し広げられるように変形することを抑制することが可能となり、その結果、接合時における圧力の逃げを一層抑制することが可能となる。
【0040】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、第1変形抑制部材200は、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度において第1ダイカスト部材10の形状に適合する形状からなり、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10及び第1変形抑制部材200が第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度となってから、第1ダイカスト部材10と第1変形抑制部材200とを合体させるため、第1変形抑制部材200を用いることで第1ダイカスト部材10がかえって変形してしまうことを抑制することが可能となる。
【0041】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、金属接合体形成工程S20においては、第2ダイカスト部材20と第2ダイカスト部材20の変形を抑制する第2変形抑制部材300とを合体させた状態で、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧するため、接合時における圧力の逃げを一層抑制することが可能となり、かつ、第2ダイカスト部材20についても変形を抑制することが可能となる。
【0042】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、第2変形抑制部材300は、少なくとも第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する押圧方向に対して垂直な方向に第2ダイカスト部材20が変形することを抑制するものであるため、押圧中に第2ダイカスト部材20が押し広げられるように変形することを抑制することが可能となり、その結果、接合時における圧力の逃げをより一層抑制することが可能となる。
【0043】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、第2変形抑制部材300は、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度において第2ダイカスト部材20の形状に適合する形状からなり、金属接合体形成工程S20においては、第2ダイカスト部材20及び第2変形抑制部材300が第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるときの温度となってから、第2ダイカスト部材20と第2変形抑制部材300とを合体させるため、第2変形抑制部材300を用いることで第2ダイカスト部材20がかえって変形してしまうことを抑制することが可能となる。
【0044】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S10においては、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20として、第1接合予定面12及び第2接合予定面22がそれぞれ所定の面粗度を有するものを準備し、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面12及び第2接合予定面22に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させて金属接合体100を形成するため、第1接合予定面12及び第2接合予定面22の表面の凹凸を利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0045】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、金属接合体形成工程S20においては、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20が拡散接合可能な温度条件の下で(好ましくは拡散接合に適した温度条件の下で)第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧する場合には、押圧時に第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20が拡散接合しやすい条件となっているため、接合強度をより一層高くすることが可能となる。
【0046】
また、実施形態1に係る金属接合体の製造方法によれば、金属接合体形成工程S20を空気存在下で実施する場合には、当該工程を真空中や不活性ガス中で実施する場合と比較して、工程の簡易化及び低コスト化を達成することが可能となる。
【0047】
実施形態1に係るダイカスト部材の接合方法は、第1ダイカスト部材10と第1ダイカスト部材10の変形を抑制する第1変形抑制部材200とを合体させた状態で第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材10と第2ダイカスト部材20とを拡散接合させるため、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0048】
[実施形態2]
図5は、実施形態2における第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40を説明するために示す図である。
図5(a)は第1ダイカスト部材30の斜視図であり、
図5(b)は第1ダイカスト部材30の平面図であり、
図5(c)は
図5(b)のA5-A5断面図であり、
図5(d)は第2ダイカスト部材40の斜視図であり、
図5(e)は第2ダイカスト部材40の平面図であり、
図5(f)は
図5(e)のA6-A6断面図である。
図6は、実施形態2における金属接合体形成工程S21を説明するために示す図である。
図6(a)は第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、
図6(b)は拡散接合により形成された金属接合体110を示す断面図である。
図7は、実施形態2における第1変形抑制部材210を説明するために示す図である。
図7(a)は第1変形抑制部材210の斜視図であり、
図7(b)は第1変形抑制部材210の平面図であり、
図7(c)は
図7(b)のA7-A7断面図である。
図8は、実施形態2における第2変形抑制部材310を説明するために示す図である。
図8(a)は第2変形抑制部材310の斜視図であり、
図8(b)は第2変形抑制部材310の平面図であり、
図8(c)は
図8(b)のA8-A8断面図である。
【0049】
実施形態2に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S11と金属接合体形成工程S21とを含む。また、実施形態2に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S21に相当する。以下、各工程について説明する。
【0050】
1.金属部材準備工程S11
金属部材準備工程S11は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材とを準備する工程であるという点においては実施形態1における金属部材準備工程S10と同様であるが、以下の点において実施形態1における金属部材準備工程S10とは異なる。すなわち、金属部材準備工程S11においては、第1ダイカスト部材30として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S21における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部32が形成されているものを準備する(
図5(a)~
図5(c)参照。)。なお、接合用凹部32には底が存在せず、貫通穴のようになっている。また、金属部材準備工程S11においては、第2ダイカスト部材40として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部32に挿入したときに第1傾斜面と第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部42を有するものを準備する(
図5(d)~
図5(f)参照。)。
【0051】
実施形態2における第1傾斜面及び第2傾斜面は、テーパー面であるということもできる。第1傾斜面及び第2傾斜面のテーパー角は、第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40を構成するアルミニウム系材料の種類や製造すべき金属接合体110(又は金属接合体110を加工して製造される製品)の形状等に応じて任意の角度とすることができる。
【0052】
第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面34である。また、第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面44である。実施形態2に係る金属接合体の製造方法においては、第1傾斜面及び第2傾斜面のうち、接合用凸部42を接合用凹部32に挿入したときに突き当たる部分及び金属接合体形成工程S21において押圧により接触するようになる部分が第1接合予定面34及び第2接合予定面44である。
【0053】
理由は後述するが、第1ダイカスト部材30における第1接合予定面34及び第2ダイカスト部材40における第2接合予定面44は、実施形態1における第1接合予定面12及び第2接合予定面22のように所定の面粗度を有していなくても差し支えない。
【0054】
2.金属接合体形成工程S21
金属接合体形成工程S21においては、接合用凹部32に接合用凸部42を挿入した状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することにより(
図6(a)参照。)、第1接合予定面34及び第2接合予定面44に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを拡散接合させて金属接合体110を形成する(
図6(b)参照。)。
【0055】
接合用凹部32に接合用凸部42を挿入した状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧すると、第1接合予定面34及び第2接合予定面44には、対向する方向への圧力だけでなく、ずれによる力もかかるようになる。このため、実施形態1の場合よりも第1接合予定面34及び第2接合予定面44には複雑な力がかかるようになり、表面微細構造の変化が促進される。このため、金属接合体形成工程S21においては、第1接合予定面34及び第2接合予定面44が所定の面粗度を有していなかったとしても、表面微細構造の変化が発生しやすくなる。
【0056】
また、金属接合体形成工程S21においては、第1ダイカスト部材30と第1変形抑制部材210とを合体させ、第2ダイカスト部材40と第2変形抑制部材310とを合体させた状態で、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧する(
図6(a)参照。)。
【0057】
第1変形抑制部材210は、基本的には実施形態1における第1変形抑制部材200と同様の構成を有するが、第1ダイカスト部材30の形状に対応し、
図7に示す形状からなる。また、第2変形抑制部材310は、基本的には実施形態1における第2変形抑制部材300と同様の構成を有するが、第2ダイカスト部材40の形状に対応し、
図8に示す形状からなる。
【0058】
なお、金属接合体形成工程S21においても、実施形態1における金属接合体形成工程S20と同様に、第1ダイカスト部材30及び第2ダイカスト部材40が拡散接合可能な温度になってから、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することが好ましい。
【0059】
3.実施形態2に係る金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法の効果
実施形態2に係る金属接合体の製造方法は、第1ダイカスト部材30と第1ダイカスト部材30の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを拡散接合させて金属接合体110を形成するため、実施形態1に係る金属接合体の製造方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材(少なくとも第1ダイカスト部材30)の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0060】
また、実施形態2に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S11においては、第1ダイカスト部材30として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S21における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部32が形成されているものを準備し、第2ダイカスト部材40として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部32に挿入したときに第1傾斜面と前記第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部42を有するものを準備し、第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面34であり、第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面44であり、金属接合体形成工程S21においては、接合用凹部32に接合用凸部42を挿入した状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面34及び第2接合予定面44に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを拡散接合させて金属接合体110を形成するため、押圧時に発生する第1接合予定面34と第2接合予定面44との間の圧力及びずれを利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0061】
なお、実施形態2に係る金属接合体の製造方法は、実施形態1に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0062】
実施形態2に係るダイカスト部材の接合方法は、第1ダイカスト部材30と第1ダイカスト部材30の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材30と第2ダイカスト部材40とを拡散接合させるため、実施形態1に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0063】
[実施形態3]
図9は、実施形態3における第1ダイカスト部材50及び第2ダイカスト部材60を説明するために示す図である。
図9(a)は第1ダイカスト部材50の斜視図であり、
図9(b)は第1ダイカスト部材50の平面図であり、
図9(c)は
図9(b)のA9-A9断面図であり、
図9(d)は第2ダイカスト部材60の斜視図であり、
図9(e)は第2ダイカスト部材60の平面図であり、
図9(f)は
図9(e)のA10-A10断面図である。
図10は、実施形態3における金属接合体形成工程S22を説明するために示す図である。
図10(a)は第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、
図10(b)は押圧により第1接合予定面58と第2接合予定面68とが接触した状態を示す断面図であり、
図10(c)は拡散接合により形成された金属接合体120を示す断面図である。
【0064】
実施形態3に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S12と金属接合体形成工程S22とを含む。また、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S22に相当する。以下、各工程について説明する。
【0065】
1.金属部材準備工程S12
金属部材準備工程S12は、アルミニウム系材料からなり第1接合予定面を有する第1ダイカスト部材と、アルミニウム系材料からなり第2接合予定面を有する第2ダイカスト部材とを準備する工程であるという点においては実施形態1における金属部材準備工程S10及び実施形態2における金属部材準備工程S11と同様であるが、以下の点においてこれらとは異なる。すなわち、金属部材準備工程S12においては、第1ダイカスト部材50として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S22における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部52が形成されているものを準備するが、接合用凹部52には底が存在する(
図9(a)~
図9(c)参照。)。第1ダイカスト部材50においても第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面54であるが、接合用凹部52の底面も第1接合予定面58となっている。
【0066】
また、金属部材準備工程S12においては、第2ダイカスト部材60として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部52に挿入したときに第1傾斜面と第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部62を有するものを準備する。第2ダイカスト部材60においても第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面64であるが、接合用凸部62の先端面も第2接合予定面68となっている(
図9(d)~
図9(f)参照。)。
【0067】
第1ダイカスト部材50における第1接合予定面54及び第2ダイカスト部材60における第2接合予定面64は、実施形態2における金属部材準備工程S11の場合と同様に所定の面粗度を有していなくても差し支えないが、第1接合予定面58及び第2接合予定面68は実施形態1における第1接合予定面12及び第2接合予定面22と同様に所定の面粗度を有する。
【0068】
なお、第1ダイカスト部材50の外形寸法は実施形態2における第1ダイカスト部材30と同様であり、金属接合体形成工程S22においては実施形態2における第1変形抑制部材210と同様の第1変形抑制部材210を用いることができるものとする(
図10(a)及び
図10(b)参照。)。また、第2ダイカスト部材60の外形寸法も実施形態2における第2ダイカスト部材40と同様であり、金属接合体形成工程S22においては実施形態2における第2変形抑制部材310と同様の第2変形抑制部材310を用いることができるものとする。
【0069】
図示は省略するが、第1ダイカスト部材50における接合用凹部52や第2ダイカスト部材60の第2傾斜面には、必要に応じて空気抜き用の穴や溝が形成されていてもよい。また、上記空気抜き用の穴と連結する穴が第1変形抑制部材210に形成されていてもよい。
【0070】
2.金属接合体形成工程S22
金属接合体形成工程S22は、第1接合予定面及び第2接合予定面に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とを拡散接合させて金属接合体を形成する工程であるという点においては実施形態2における金属接合体形成工程S21と同様であるが、以下の点において実施形態2における金属接合体形成工程S21とは異なる。すなわち、金属接合体形成工程S22においては、接合用凹部52に接合用凸部62を挿入した状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧する(
図10(a)参照。)。その結果、第1接合予定面58と第2接合予定面68とが突き当たるようになる(
図10(b)参照。)。このため、第1接合予定面54及び第2接合予定面64だけでなく、第1接合予定面58及び第2接合予定面68も拡散接合され、金属接合体120が形成される(
図10(c)参照。)。なお、第1接合予定面58及び第2接合予定面68が拡散接合される原理は実施形態1の場合と同様である。
【0071】
3.実施形態3に係る金属接合体の製造方法及びダイカスト部材の接合方法の効果
実施形態3に係る金属接合体の製造方法は、第1ダイカスト部材50と第1ダイカスト部材50の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを拡散接合させて金属接合体120を形成するため、実施形態1,2に係る金属接合体の製造方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材(少なくとも第1ダイカスト部材50)の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0072】
また、実施形態3に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S12においては、第1接合予定面58及び第2接合予定面68がそれぞれ所定の面粗度を有する第1ダイカスト部材50及び第2ダイカスト部材60を準備し、金属接合体形成工程S22においては、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面58及び第2接合予定面68に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを拡散接合させて金属接合体120を形成するため、第1接合予定面58及び第2接合予定面68の表面の凹凸を利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0073】
また、実施形態3に係る金属接合体の製造方法によれば、金属部材準備工程S12においては、第1ダイカスト部材50として、内面の少なくとも一部が金属接合体形成工程S22における押圧方向に対して角度がついた第1傾斜面となっている接合用凹部52が形成されているものを準備し、第2ダイカスト部材60として、側面の少なくとも一部が第1傾斜面に対応する角度がついた第2傾斜面となっており接合用凹部52に挿入したときに第1傾斜面と前記第2傾斜面とが突き当たる形状からなる接合用凸部62を有するものを準備し、第1傾斜面の少なくとも一部は第1接合予定面54であり、第2傾斜面の少なくとも一部は第2接合予定面64であり、金属接合体形成工程S22においては、接合用凹部52に接合用凸部62を挿入した状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧することにより、第1接合予定面54及び第2接合予定面64に表面微細構造の変化を発生させながら、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを拡散接合させて金属接合体120を形成するため、押圧時に発生する第1接合予定面54と第2接合予定面64との間の圧力及びずれを利用して表面微細構造の変化を発生させることで、接合強度を一層高くすることが可能となる。
【0074】
なお、実施形態3に係る金属接合体の製造方法は、実施形態1,2に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0075】
実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法は、第1ダイカスト部材50と第1ダイカスト部材50の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60とを拡散接合させるため、実施形態1,2に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0076】
[実施形態4]
図11は、実施形態4における第2ダイカスト部材60a及び第2変形抑制部材320を説明するために示す図である。
図11(a)は第2ダイカスト部材60aの斜視図であり、
図11(b)は第2ダイカスト部材60aの平面図であり、
図11(c)は
図11(b)のA11-A11断面図であり、
図11(d)は第2変形抑制部材320の斜視図であり、
図11(e)は第2変形抑制部材320の平面図であり、
図11(f)は
図11(e)のA12-A12断面図である。
図12は、実施形態4における金属接合体形成工程S24を説明するために示す図である。
図12(a)は第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、
図12(b)は押圧により第1接合予定面58と第2接合予定面68とが接触した状態を示す断面図であり、
図12(c)は拡散接合により形成された金属接合体130を示す断面図である。
【0077】
実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、基本的には実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様の方法であるが、第2ダイカスト部材及び第2変形抑制部材の形状が実施形態3に係る金属接合体の製造方法の場合とは異なる。実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S14と金属接合体形成工程S24とを含む。また、実施形態4に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S24に相当する。以下、各工程について説明する。
【0078】
実施形態4における金属部材準備工程S14においては、第2ダイカスト部材60aとして接合用凸部62の内部に空間69aが形成されているものを準備する(
図11(a)~
図11(c)参照。)。第2ダイカスト部材60aは、空間69aが形成されていること以外については実施形態3における第2ダイカスト部材60と同様の構成を有する。なお、金属部材準備工程S14においては、第1ダイカスト部材50として実施形態3における第1ダイカスト部材50と同様のものを準備する。
【0079】
実施形態4における第2変形抑制部材320は、基本的には実施形態2,3における第2変形抑制部材310と同様の構成を有するが、実施形態2,3における第2変形抑制部材310が有する形状に加え、第2ダイカスト部材60aの内形形状(空間69a)に対応する箇所を有する(
図11(d)~
図11(f)参照。)。
【0080】
実施形態4における金属接合体形成工程S24においては、第2ダイカスト部材60aと第2変形抑制部材320とを合体させた状態とすると、第2変形抑制部材320を接合用凸部62の空間69aに挿入した状態となる。この状態で、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを相対的に押圧する(
図12(a)及び
図12(b)参照。)。第2変形抑制部材320は、第1変形抑制部材210と同様に、拡散接合により金属接合体130が形成された後に除去する(
図12(c)参照。)。
【0081】
実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、第1ダイカスト部材50と第1ダイカスト部材50の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを拡散接合させて金属接合体130を形成するため、実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材(少なくとも第1ダイカスト部材50)の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0082】
なお、実施形態4に係る金属接合体の製造方法は、実施形態3に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0083】
実施形態4に係るダイカスト部材の接合方法は、第1ダイカスト部材50と第1ダイカスト部材50の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60aとを拡散接合させるため、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0084】
[実施形態5]
図13は、実施形態5における第2ダイカスト部材60bを説明するために示す図である。
図13(a)は第2ダイカスト部材60bの斜視図であり、
図13(b)は第2ダイカスト部材60bの平面図であり、
図13(c)は
図13(b)のA13-A13断面図である。
図14は、実施形態5における金属接合体形成工程S25を説明するために示す図である。
図14(a)は第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60bとを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、
図14(b)は押圧により第1接合予定面58と第2接合予定面68とが接触した状態を示す断面図であり、
図14(c)は拡散接合により形成された金属接合体140を示す断面図である。
【0085】
実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、基本的には実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様の方法であるが、第2ダイカスト部材の形状が実施形態3に係る金属接合体の製造方法の場合とは異なる。実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S15と金属接合体形成工程S25とを含む。また、実施形態5に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S25に相当する。以下、各工程について説明する。
【0086】
実施形態5における金属部材準備工程S15においては、第2ダイカスト部材60bとして、第2接合予定面64に、金属接合体形成工程S25の後においても(金属接合体140となった後も)空間として残る空間形成用凹部69bが形成されている(
図11参照。)。実施形態6における空間形成用凹部69bは、連続した溝状の形状からなる。なお、金属部材準備工程S15においては、第1ダイカスト部材50として実施形態3における第1ダイカスト部材50と同様のものを準備する。
【0087】
実施形態5における金属接合体形成工程S25は、基本的には実施形態3における金属接合体形成工程S22と同様の工程であるが、第2ダイカスト部材として上記した第2ダイカスト部材60bを用いる(
図14(a)及び
図14(b)参照。)。このようにして形成された金属接合体140には空間形成用凹部69bが空間として残る(
図14(c)参照。)。このような空間形成用凹部69bは、例えば、熱交換媒体の流路として用いることができる。
【0088】
さらに詳しく説明すると、金属接合体140のように内部に熱交換媒体の流路として用いることができる空間が存在する金属接合体は、それ自体及び近接している物の温度を調節可能な製品又はこのような製品の材料とすることができる。例えば、内部に空間を有する金属接合体又は当該金属接合体から製造された製品に、動作中に熱を発する物(例えば、半導体装置)を載置し、内部の空間に熱交換媒体を流通させることで、放熱フィン等のかさばる構造を用いることなく載置した物の冷却を行うことができる。また、例えば、ロボットアームの関節を上記のような金属接合体の製造方法を用いて製造し、内部の空間に熱交換媒体を流通させることで、動作中の温度変化に起因する動作精度の低下を抑制することが可能となる。
【0089】
また、上記のような製品は、熱を外部環境に無駄に捨てることなく、離れた場所に存在する物に熱を届けるシステムに用いることもできる。このようなシステムとしては、例えば、熱源となる物(内燃機関を備える自動車であればエンジン等、電気自動車であればモーター、インバーター、コンバーター、バッテリー等)に近接させて上記製品を配置し、熱を必要とする物(寒冷条件におけるバッテリー、空調機、デフロスター等)に熱交換媒体を介して吸収した熱を届けるものが考えられる。
【0090】
本発明の金属接合体の製造方法により製造できる金属接合体は、変形抑制部材を用いてダイカスト部材を接合したものであるため、公知の他の製造方法(例えば、切削加工により形成した部材を接合する方法や3Dプリンターを用いて全体を製造する方法)により製造した同形状品と比較して、生産性、形状の精度、コストといった面で有利となり、量産化に適したものとなる。
【0091】
実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、第1ダイカスト部材50と第1ダイカスト部材50の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60bとを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60bとを拡散接合させて金属接合体140を形成するため、実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材(少なくとも第1ダイカスト部材50)の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0092】
また、実施形態5に係る金属接合体の製造方法によれば、第2接合予定面64には、金属接合体140となった後も空間として残る空間形成用凹部69bが形成されているため、複雑な内部形状を有する金属接合体を製造することが可能となる。
【0093】
なお、実施形態5に係る金属接合体の製造方法は、実施形態3に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0094】
実施形態5に係るダイカスト部材の接合方法は、第1ダイカスト部材50と第1ダイカスト部材50の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60bとを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材50と第2ダイカスト部材60bとを拡散接合させるため、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0095】
[実施形態6]
図15は、実施形態6における第1ダイカスト部材80及び第2ダイカスト部材90を説明するために示す図である。
図15(a)は第1ダイカスト部材80の斜視図であり、
図15(b)は第1ダイカスト部材80の平面図であり、
図15(c)は
図15(b)のA14-A14断面図であり、
図15(d)は第2ダイカスト部材90の斜視図であり、
図15(e)は第2ダイカスト部材90の平面図であり、
図15(f)は
図15(e)のA15-A15断面図である。
図16は、実施形態6における金属接合体形成工程S26を説明するために示す図である。
図16(a)は第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを相対的に押圧している状態を示す断面図であり、
図16(b)は押圧により第1接合予定面84と第2接合予定面94との全体が接触した状態を示す断面図であり、
図16(c)は拡散接合により形成された金属接合体150を示す断面図である。
【0096】
実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、基本的には実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様の方法であるが、第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材の形状が実施形態3に係る金属接合体の製造方法の場合とは異なる。実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、金属部材準備工程S16と金属接合体形成工程S26とを含む。また、実施形態6に係るダイカスト部材の接合方法は、金属接合体形成工程S26に相当する。以下、各工程について説明する。
【0097】
実施形態6における金属部材準備工程S16においては、第1ダイカスト部材80として、略半球状の接合用凹部82が形成されているものを準備し(
図15(a)~
図15(c)参照。)、第2ダイカスト部材90として、略半球状の接合用凸部92を有するものを準備する(
図15(d)~
図15(f)参照)。
【0098】
第1ダイカスト部材80の接合用凹部82においては内面(半球状部分)全体が第1接合予定面84となる。接合用凹部82の頂点付近は実施形態3における第1接合予定面58(底面)に、辺縁付近は実施形態3における第1接合予定面54(第1傾斜面)に、それぞれ対応するものと考えることができる。このため、少なくとも接合用凹部82の半球の頂点付近は所定の面粗度を有する。
【0099】
第2ダイカスト部材90の接合用凸部92においても外面(半球状部分)全体が第2接合予定面94となる。接合用凸部92の頂点付近は実施形態3における第1接合予定面58(先端面)に、辺縁付近は実施形態3における第2接合予定面64(第2傾斜面)にそれぞれ対応するものと考えることができる。このため、少なくとも接合用凸部92の半球の頂点付近も所定の面粗度を有する。なお、接合用凸部92は、「接合用凹部82に挿入したときに第1傾斜面と第2傾斜面とが突き当たる形状からなる」という条件を満たすために、接合用凹部82よりもわずかに径が大きくなっている。
【0100】
なお、第1ダイカスト部材80の外形寸法は実施形態3における第1ダイカスト部材50と同様であり、金属接合体形成工程S26においては実施形態3における第1変形抑制部材210と同様の第1変形抑制部材210を用いることができるものとする(
図16(a)及び
図16(b)参照。)。また、第2ダイカスト部材90の接合用凸部92を除いた部分の外形寸法も実施形態3における第2ダイカスト部材60と同様であり、金属接合体形成工程S26においては実施形態3における第2変形抑制部材310と同様の第2変形抑制部材310を用いることができるものとする。
【0101】
実施形態6における金属接合体形成工程S26は、第1ダイカスト部材80及び第2ダイカスト部材90の形状の違いを除けば、基本的には実施形態3における金属接合体形成工程S22と同様である。すなわち、金属接合体形成工程S26においては、接合用凹部82に接合用凸部92を挿入した状態で第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを相対的に押圧する(
図16(a)参照。)。その結果、第1接合予定面84の頂点付近と第2接合予定面94の頂点付近とが突き当たる(
図16(b)参照。)。このため、第1接合予定面84及び第2接合予定面94の全面が拡散接合され、金属接合体150が形成される(
図16(c)参照。)。
【0102】
実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、第1ダイカスト部材80と第1ダイカスト部材80の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを拡散接合させて金属接合体150を形成するため、実施形態3に係る金属接合体の製造方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材(少なくとも第1ダイカスト部材80)の変形を抑制することが可能な金属接合体の製造方法となる。
【0103】
なお、実施形態6に係る金属接合体の製造方法は、実施形態3に係る金属接合体の製造方法が有する効果のうち該当する効果も有する。
【0104】
実施形態6に係るダイカスト部材の接合方法は、第1ダイカスト部材80と第1ダイカスト部材80の変形を抑制する第1変形抑制部材210とを合体させた状態で第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを相対的に押圧することにより、第1ダイカスト部材80と第2ダイカスト部材90とを拡散接合させるため、実施形態3に係るダイカスト部材の接合方法と同様に、接合時における圧力の逃げやダイカスト部材の変形を抑制することが可能なダイカスト部材の接合方法となる。
【0105】
以上、本発明を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0106】
(1)上記各実施形態における第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材の形状はあくまで例示であり、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて任意の形状とすることができる。
【0107】
(2)上記実施形態5においては、空間形成用凹部69bは連続した溝状の形状からなるものであったが、本発明はこれに限定されるものではない。空間形成用凹部は任意の形状とすることができる。
【0108】
(3)上記実施形態5においては、空間形成用凹部69bは第2接合予定面64に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。空間形成用凹部は、第1接合予定面に形成されていてもよく、第1接合予定面と第2接合予定面との両方に形成されていてもよい。
【0109】
(4)上記実施形態4~6における特徴は、阻害要因がない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0110】
(5)上記各実施形態においては、第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材との両方を変形抑制部材と合体させて金属接合体形成工程を実施することとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。第1ダイカスト部材と第2ダイカスト部材とのうち一方のみを変形抑制部材と合体させて金属接合体形成工程を実施することとしてもよい。
【0111】
(6)上記実施形態1においては、金属接合体形成工程S20は、拡散接合を促進させるために第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20を加熱し、第1ダイカスト部材10及び第2ダイカスト部材20をある程度の温度(ただし、融点以下の温度)に保ちながら実施することが好ましいとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、宇宙空間のような環境では拡散接合が進みやすいと考えられるため、このような環境で本発明の金属接合体形成工程を実施する場合には、第1ダイカスト部材及び第2ダイカスト部材を必ずしも加熱しなくてもよい。これは、他の実施形態の金属接合体形成工程においても同様である。
【0112】
(7)上記各実施形態においては、各第1変形抑制部材及び各第2変形抑制部材は全体が1つの部品からなる部材であるように説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第1変形抑制部材及び第2変形抑制部材は、複数の部品からなる部材(分割及び合体可能な部材)であってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10,30,50,80…第1ダイカスト部材、12,34,54,58,84…第1接合予定面、20,40,60,60a,60b,90…第2ダイカスト部材、22,44,64,68,94…第2接合予定面、32,52,82,92…接合用凹部、42,62…接合用凸部、69a…空間、69b…空間形成用凹部、100,110,120,130,140,150…金属接合体、200,210…第1変形抑制部材、300,310,320…第2変形抑制部材