(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】車両用防音部材
(51)【国際特許分類】
B60R 13/08 20060101AFI20241002BHJP
B32B 7/02 20190101ALI20241002BHJP
【FI】
B60R13/08
B32B7/02
(21)【出願番号】P 2019103660
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2021-11-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000182454
【氏名又は名称】寿屋フロンテ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 弘
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 統一
(72)【発明者】
【氏名】恩田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】島田 聡
【合議体】
【審判長】八木 誠
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0096381(US,A1)
【文献】特表2017-534521(JP,A)
【文献】特開平7-81007(JP,A)
【文献】特開2018-141914(JP,A)
【文献】特開2017-81103(JP,A)
【文献】特開2008-94231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/00 - 13/10
B32B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デカップリング層と質量層とが重ねられた車両用防音部材であって、
前記質量層は、
所定範囲の不均一な大きさの樹脂を含む部材が接着された樹脂含有層と、
前記樹脂含有層の前記デカップリング層側に接着された不織布と、
開孔部を備え、前記不織布の前記デカップリング層側に接着された通気層と
を有し、
前記質量層は、前記樹脂含有層、前記不織布及び前記通気層
により、所定の吸音特性を得るように予め設定された通気抵抗で通気することを特徴とする車両用防音部材。
【請求項2】
前記樹脂含有層と前記不織布とは、
樹脂が溶融することによって接着されていること
を特徴とする請求項1に記載の車両用防音部材。
【請求項3】
前記樹脂含有層は、
加熱成形された樹脂繊維層が細断された後に、さらに加熱されることによって接着されたものであること
を特徴とする請求項1又は2記載の車両用防音部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用防音部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、遮音材を使用して車両内の防音を行う技術が知られている。遮音材を形成する場合には、単純な動解析モデルとして、ばねと質量によりモデル化されたばねマス(質量)モデルを用いられることが多い。例えば、質量層を作製するためにフェルトや不織布を用い、ばね層(デカップリング層)をポリウレタンフォームによって形成した自動車用遮音トリム部品は公知である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来は、質量層に用いられるフェルトや不織布と、ばね層を形成するポリウレタンフォームとの間に、空気が不侵透であるバリア層が必要とされていた。すなわち、従来の質量層は、フェルトや不織布と、不侵透であるバリア層との組み合わせによってのみ構成されており、遮音性能が高められる代わりに、吸音性能を効率的に付与することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遮音性能と吸音性能のバランスをとられた車両用防音部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様にかかる車両用防音部材は、デカップリング層と質量層とが重ねられた車両用防音部材であって、前記質量層は、所定範囲の不均一な大きさの樹脂を含む部材が接着された樹脂含有層と、前記樹脂含有層の前記デカップリング層側に接着された不織布と、開孔部を備え、前記不織布の前記デカップリング層側に接着された通気層とを有し、前記質量層は、前記樹脂含有層、前記不織布及び前記通気層により、所定の吸音特性を得るように予め設定された通気抵抗で通気することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の一態様にかかる車両用防音部材は、前記樹脂含有層と前記不織布とは、樹脂が溶融することによって接着されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様にかかる車両用防音部材は、前記樹脂含有層が、加熱成形された樹脂繊維層が細断された後に、さらに加熱されることによって接着されたものであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態にかかる車両用防音部材の断面を模式的に示す図である。
【
図2】車両用防音部材に用いられる不織布及び通気層の特性例を示す図である。
【
図3】車両用防音部材が車室内に取り付けられる位置を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、車両用防音部材の一実施形態を、図面を用いて説明する。
図1は、一実施形態にかかる車両用防音部材1の断面を模式的に示す図である。
図1に示すように、車両用防音部材1は、少なくとも樹脂含有層2、不織布3、通気層4及びデカップリング層5が積層されることによって構成される。車両用防音部材1は、例えば自動車内のダッシュインシュレータなどとして用いられる。
【0011】
樹脂含有層2は、所定範囲の不均一な大きさの樹脂を含む部材が接着された部材である。例えば、樹脂含有層2は、15mm以下、より好ましくは12mm以下の不均一な大きさの樹脂を含む部材が加熱等によって接着されることによって形成される。
【0012】
より具体的には、樹脂含有層2は、PET(ポリエチレンテレフタレート)によって形成された不織布が細断等によって所定範囲の不均一な大きさにされた後に、加熱等によって接着される。また、樹脂含有層2は、PE(ポリエチレン)雑綿等の樹脂を含んでいてもよく、PEが溶融することによって接着性を高められていてもよい。
【0013】
また、樹脂含有層2は、加熱成形された樹脂繊維層が細断された後に、さらに加熱されることによって接着されたものであってもよい。すなわち、樹脂含有層2は、PET等によって形成された不織布をリサイクル使用することによって形成されるものであってもよい。
【0014】
また、樹脂含有層2のなかにPET(ポリエチレンテレフタレート)やPE(ポリエチレン)以外の天然繊維等を含む他の繊維材を混入させてもよい。
【0015】
不織布3は、樹脂含有層2のデカップリング層側に接着されている。例えば、不織布3は、表面にパウダー状のPE系接着剤を予め付着されて、他の部材に対する接着性を高められていてもよい。また、不織布3は、樹脂含有層2に含まれる樹脂の溶融によって樹脂含有層2に接着されるものでもよい。
【0016】
通気層4は、複数の開孔部40を備えたフィルム状の部材であり、不織布3のデカップリング層5側に接着されている。通気層4は、開孔部40の大きさ及び数が設定されることにより、通気量を所定値に設定可能とされている。
【0017】
そして、樹脂含有層2、不織布3及び通気層4は、車両用防音部材1における質量層として機能する。また、樹脂含有層2は、
図1に示すように、両面が不織布3によって覆われた構成であってもよい。両面を不織布で覆うことにより、樹脂含有層2を所定の厚さに成形する際に型に端材が付着することなく安定して成形ができる。
【0018】
この場合、車両用防音部材1における質量層は、不織布3、樹脂含有層2、不織布3及び通気層4が積層された構成となる。また、樹脂含有層2は、袋状に形成された不織布3に収容されるように構成されていてもよい。
【0019】
デカップリング層5は、例えばフェルト又はウレタン等によって構成され、上述したばね層として機能する。
【0020】
次に、車両用防音部材1の特性について説明する。
図2は、車両用防音部材1に用いられる不織布3及び通気層4の特性例を示す図である。車両用防音部材1は、不織布3及び通気層4が形成される条件によって通気抵抗が制御される。ここでは、不織布3の密度、通気層4における開孔部40の開口径及び接着材量の組合せを変えることによる通気抵抗の変化を示している。
【0021】
なお、サンプルNo.1は、比較例として、通気層4が存在しない場合の通気抵抗を示している。また、サンプルNo.2,3は、比較例として、不織布3が存在しない場合の通気抵抗を示している。サンプルNo.4~9は、実施例としての通気抵抗を示している。
【0022】
本願における発明者は、
図2に示したように、不織布3又は通気層4のいずれかが存在しない場合の通気抵抗に対し、不織布3及び通気層4が接着された場合には、通気抵抗が大幅に高くなることを見出した。例えば、不織布3のみの通気抵抗30Ns/m
3と、サンプルNo.2の通気層4のみの通気抵抗410Ns/m
3との和が500Ns/m
3未満であるのに対し、不織布3及びサンプルNo.2の通気層4が接着された場合には3000Ns/m
3以上となっており、通気抵抗が桁違いに大きくなっている。また、同様にサンプルNo.3の通気層4が接着されても通気抵抗が桁違いに大きくなっている。
【0023】
また、車両用防音部材1は、PETからなる不織布が細断後に接着されることにより樹脂含有層2が形成された場合のように、通気がランダムに制限されるため、樹脂含有層2による通気抵抗が大きい。よって、通気層4が設けられていても、質量層による通気が抑えられることにより所定の遮音特性を得ることができる。
【0024】
一方で、車両用防音部材1は、質量層による通気が零ではないため、通気層4の設定等により所定の吸音特性を得ることができる。また、車両用防音部材1は、通気層4が設けられることによってデカップリング層5による吸音も生じ得る。
【0025】
このように、車両用防音部材1は、設定に応じて通気を完全には遮断しないため、遮音性能と吸音性能のバランスをとることができるように構成されている。すなわち、車両用防音部材1は、遮音性能を維持しつつ、吸音性能を向上させられて遮音性能と吸音性能のバランスをとられている。
【0026】
図3は、車両用防音部材1が車室内に取り付けられる位置を例示する図である。例えば、
図1に示した車両用防音部材1は、前部座席50、後部座席52及びダッシュボード54が配置されている車室内の乗車空間と、エンジンルームなどとの間に設けられたダッシュインシュレータとして用いられる。
【符号の説明】
【0027】
1・・・車両用防音部材、2・・・樹脂含有層、3・・・不織布、4・・・通気層、5・・・デカップリング層