(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】スポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/12 20060101AFI20241002BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C22B5/04
(21)【出願番号】P 2019119023
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-01-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 稔
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭59-42060(JP,B2)
【文献】特開2004-43872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製還元反応容器内で、金属マグネシウムを含む溶融浴に四塩化チタンを供給し、スポンジチタン塊を生成する還元工程を含む、スポンジチタンの製造方法であって、
前記還元工程で、四塩化チタンの供給量が、少なくとも、四塩化チタンの総供給量の50質量%に達するまでの間、
四塩化チタンを前記総供給量の10質量%供給する毎に、前記溶融浴の浴面の総移動距離を、金属製還元反応容器内の有効空間高さに対する比で、0.12以上とし、かつ、
高さ方向における前記浴面の位置での金属製還元反応容器の側壁の温度を、700℃~950℃の範囲内とし、
四塩化チタンの供給を開始したときから四塩化チタン50質量%を供給するまでの間の期間において、金属製還元反応容器内の有効空間高さ
Heと、前記浴面の高さの最高値Hsmaxと、前記浴面の高さの最低値Hsminとが、(Hsmax-Hsmin)/He≧0.15の関係を満たす、スポンジチタンの製造方法。
【請求項2】
前記還元工程で、金属製還元反応容器内で生成する塩化マグネシウムを、金属製還元反応容器から断続的に排出する、請求項1に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項3】
四塩化チタンを総供給量に対して7質量%~10質量%供給する間に1回の頻度で、前記塩化マグネシウムを排出する、請求項2に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項4】
1回当たりの前記塩化マグネシウムの排出量を、還元工程全体での塩化マグネシウム総排出量の5質量%~12質量%とする請求項2又は3に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項5】
前記還元工程で、金属製還元反応容器内に金属マグネシウムを断続的に供給する、請求項1~4のいずれか一項に記載のスポンジチタンの製造方法。
【請求項6】
前記還元工程で、金属製還元反応容器の円筒状の側壁の内面に、壁面生成スポンジチタンが、該内面から半径方向の内側に盛り上がって形成され、
前記壁面生成スポンジチタンの半径方向の最大厚みが200mm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のスポンジチタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製還元反応容器内で、金属マグネシウムを含む溶融浴に四塩化チタンを供給し、スポンジチタン塊を生成して、スポンジチタンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、工業的に広く利用されているクロール法によりスポンジチタンを製造するには、金属製還元反応容器内に予め溶融状態の金属マグネシウムを貯留させて溶融浴とし、その浴面上に四塩化チタンを滴下する還元工程を行う。還元工程では、金属マグネシウムが還元材として働いて四塩化チタンが金属チタンに還元され、金属製還元反応容器の内部で該金属チタンがスポンジチタン塊として成長する。
【0003】
ここで、金属製還元反応容器内では、次のような反応が起こると考えられる。上方側から滴下された四塩化チタンは、浴面付近で金属マグネシウムと反応し、そこで金属チタン及び塩化マグネシウムが生成される。浴面付近で生成したこの塩化マグネシウムは金属マグネシウムとの比重の差に起因して浴面より深いほうに沈降する一方で、金属マグネシウムは浴面に向かって浮上する。この浴流れの結果、浴面には金属マグネシウムが存在することになり、当該浴面付近で金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応が継続して起こる。
【0004】
なお、還元工程の後は一般に、分離工程が行われる。分離工程では、金属製還元反応容器内の塩化マグネシウムや、残留する場合は金属マグネシウムを液抜きし、その後、たとえば金属製還元反応容器を高温に加熱しつつ、その内部の圧力を低下させる。分離工程により、金属製還元反応容器内に残留した金属マグネシウムや副生成物の塩化マグネシウム等は、金属製還元反応容器内のスポンジチタン塊から分離される。その後、スポンジチタン塊を金属製還元反応容器から取り出して破砕し、粒状のスポンジチタンとする。
【0005】
特許文献1、2には、還元工程での金属製還元反応容器からの塩化マグネシウムの排出、金属製還元反応容器内への金属マグネシウムの供給に着目した技術について記載されている。
具体的には、特許文献1は、「MgCl2のタップ操作及び溶融Mgのチャージ操作に起因する収量減少を阻止することにより、生産性の増大を可能にするスポンジチタン製造方法を提供すること」を目的として、「反応容器内に収容された溶融MgにTiCl4を滴下添加することによりスポンジチタンを製造する際に、副生するMgCl2を容器内から抜き取るタップ操作を間欠的に行うと共に、そのMgCl2のタップ量を反応後半で反応前半より少なくすることを特徴とするスポンジチタン製造方法」を開示している。
【0006】
また、特許文献2では、「本発明の目的は、還元操業途中にチャージされる溶融Mgの利用率を高めて生産性(チタン収率)の向上を図り、なおかつチャージによる品質低下を抑制できる高品質で経済的なスポンジチタン製造方法を提供することにある。」とし、「クロール法により還元反応容器内でスポンジチタンを製造する際に、還元反応途中にTiCl4の供給を一次停止し、その停止中に還元反応容器の上方から容器内に溶融Mgの追加投入を行うスポンジチタン製造方法」を提案している。
【0007】
他方、特許文献3には、「四塩化チタンのマグネシウム還元によるスポンジチタンの製造方法において、反応容器に溶融マグネシウムを満たし、上記還元反応が進行する溶融マグネシウム浴の反応面近傍と接する反応容器の壁面の平均温度を塩化マグネシウムの融点以下に保持し、上記四塩化チタンを上記溶融マグネシウム浴の反応面近傍に供給することを特徴とするスポンジチタンの製造方法」が記載されている。これによれば、「純度の高いスポンジチタンを効率よく製造でき、その結果、高純度チタンを歩留まり良く製造できる」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-43872号公報
【文献】特開2012-184476号公報
【文献】特開2008-190024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、還元工程では、還元反応の進行に伴い、
図4に示すように、金属製還元反応容器51内の底部53側でスポンジチタン塊TSが成長する他、側壁52の内面上方側で浴面Sbの位置付近に、該内面から盛り上がるほぼ環状の壁面生成スポンジチタンWSが形成される。
【0010】
この壁面生成スポンジチタンWSが、
図5に示すように大きく内側に盛り上がって形成されると、たとえば次のような問題がある。
金属製還元反応容器51内の浴面Sb付近は、還元反応の発熱で高温になることから、蓋体の損傷を低減する目的で、また容器内部を所期の温度域に制御する目的で金属製還元反応容器51の外部から空冷等により冷却されることがある。しかしながら、浴面Sb付近で側壁52の内面から内側に向かって厚い層として形成された壁面生成スポンジチタンWSは、浴面Sb付近のこの冷却の効果を低下させる。
【0011】
また、浴面Sb付近に大きな壁面生成スポンジチタンWSが形成された場合、それによって浴面Sbの面積が減少することから、上述した金属マグネシウムと塩化マグネシウムの浴流れが円滑に行われず、還元反応が阻害される。
そしてまた、側壁52の内面から内側に大きく盛り上がって形成された壁面生成スポンジチタンWSは、金属製還元反応容器51からのスポンジチタン塊TSの取出しを妨げるので、スポンジチタン塊TSの取出しの作業性を悪化させる。
【0012】
このような大きな壁面生成スポンジチタンWSの形成及び、それに起因する問題に対しては、有効な対処法ないし解決策が見つかっていないのが現状である。特許文献1~3でも、上記の壁面生成スポンジチタンWSについては何ら検討されていない。
【0013】
この発明の目的は、金属製還元反応容器の側壁の内面上への厚い壁面生成スポンジチタンの形成を抑制することができるスポンジチタンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は鋭意検討の結果、還元工程の序盤から中盤の所定の期間内に、溶融浴の浴面を特定の温度に維持しながら、溶融浴の浴面の高さをある程度大きく変動させることにより、壁面生成スポンジチタンの形成傾向を変化させることができることを見出した。
【0015】
このような知見の下、金属製還元反応容器内で、金属マグネシウムを含む溶融浴に四塩化チタンを供給し、スポンジチタン塊を生成する還元工程を含み、前記還元工程で、四塩化チタンの供給量が、少なくとも、四塩化チタンの総供給量の50質量%に達するまでの間、四塩化チタンを前記総供給量の10質量%供給する毎に、前記溶融浴の浴面の総移動距離を、金属製還元反応容器内の有効空間高さに対する比で、0.12以上とし、かつ、高さ方向における前記浴面の位置での金属製還元反応容器の側壁の温度を、700℃~950℃の範囲内とするというものである。
【0016】
前記還元工程では、金属製還元反応容器内で生成する塩化マグネシウムを、金属製還元反応容器から断続的に排出することが好ましい。
【0017】
また、前記還元工程では、金属製還元反応容器内に金属マグネシウムを断続的に供給することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のスポンジチタンの製造方法によれば、金属製還元反応容器の側壁の内面上方側での厚い壁面生成スポンジチタンの形成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一の実施形態に係るスポンジチタンの製造方法の還元工程で用いることのできる金属製還元反応容器の一例を、還元炉とともに示す縦断面図である。
【
図2】この発明の一の実施形態に係るスポンジチタンの製造方法の還元工程で生成される壁面生成スポンジチタンを模式的に示す拡大縦断面図である。
【
図3】
図3(a)及び(b)はそれぞれ、四塩化チタンの供給量に対する浴面高さの比(Hs/He)の変化の一部を表すグラフの一例である。
【
図4】従来の還元工程にて金属製還元反応容器内で生成されるスポンジチタン塊及び壁面生成スポンジチタンを示す、金属製還元反応容器の縦断面図である。
【
図5】従来の還元工程で生成される壁面生成スポンジチタンを模式的に示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るスポンジチタンの製造方法は、金属製還元反応容器内で、金属マグネシウムを含む溶融浴に四塩化チタンを供給し、スポンジチタン塊を生成する還元工程を含むものである。そして特に、還元工程では、四塩化チタンの供給量が、少なくとも、四塩化チタンの総供給量の50質量%に達するまでの間、四塩化チタンを前記総供給量の10質量%供給する毎に、前記溶融浴の浴面の総移動距離を、金属製還元反応容器内の有効空間高さに対する比で、0.12以上とし、かつ、高さ方向における前記浴面の位置での金属製還元反応容器の側壁の温度を、700℃~950℃の範囲内とする。
【0021】
還元工程の後は、多くの場合、金属製還元反応容器内の液体状の塩化マグネシウム、金属マグネシウムを抜き取り、その後さらに、金属製還元反応容器内の圧力を低下させて、スポンジチタン塊から金属マグネシウム及び塩化マグネシウムを分離させる分離工程が行われる。スポンジチタン塊は、分離工程を経た後に金属製還元反応容器から取り出され、破砕により粒状のスポンジチタンになる。
【0022】
(還元工程)
還元工程では、
図1に例示するような金属製還元反応容器1を用いる。この金属製還元反応容器1は、円筒その他の筒状の側壁2と、側壁2の軸線方向の一端側(
図1では下端側)を密閉する底部3と、側壁2の軸線方向の他端側(
図1では上端側)の開口部に取り付けられた蓋体4とを備えるものである。側壁2には、側壁2の底部3寄りの部分に連結された副生成物排出管5が設けられ、また蓋体4には、原料供給管6が設けられている。金属製還元反応容器1内の底部3側には一般に、図示の例のように、金属製還元反応容器1からスポンジチタン塊TSを取り出す際にスポンジチタン塊TSを押し上げるべく作動するロストル7が配置される。金属製還元反応容器1は還元炉8内に配置されて、還元工程が行われる。図示は省略するが、還元炉8は高さ方向に沿って複数、それぞれ独立に制御可能な風冷口を備えており、該風冷口から側壁2に対し空気を吹き付けて金属製還元反応容器1を冷却できる。本実施の形態では、少なくとも、浴面Sbが存在する高さ部位では金属製還元反応容器1の冷却を行うことが好ましい。
【0023】
金属製還元反応容器1を用いて還元工程を行うには、たとえば、金属製還元反応容器1内に、還元材としての金属マグネシウムを溶融状態で貯留させて、金属製還元反応容器1内を溶融浴Bmとする。そして、還元炉8で金属製還元反応容器1を加熱しながら、局所的には冷却も併用し、蓋体4に設けた原料供給管6を介して上方側から、原料である四塩化チタン(TiCl4)を、溶融浴Bmの浴面Sb上に滴下して供給する。このようにして滴下された四塩化チタンは金属マグネシウムと接触し、式:TiCl4+2Mg→Ti+2MgCl2の反応に基いて金属マグネシウムにより四塩化チタンは還元される。
【0024】
ここで、副生成物としての塩化マグネシウム(MgCl2)は、金属マグネシウムに比して比重が大きいことに起因して、浴面Sbから下方側に沈降する。一方、浴中の金属マグネシウムは、相対的に小さな比重の故に、浴面Sbに向かって浮上する。このような塩化マグネシウムと金属マグネシウムとの間の比重差により、浴流れが生じて浴面Sbには金属マグネシウムが位置し、この金属マグネシウムと、滴下される四塩化チタンとの間で反応が継続して起こり、主として浴中でスポンジチタン塊TSが成長する。下方側に沈降した塩化マグネシウムは、金属製還元反応容器1の底部3側の副生成物排出管5を通じて、金属製還元反応容器1の外部に排出されることがある。
【0025】
なお、還元工程で用いる四塩化チタンは、たとえば、精留塔にて精製された後の液体状の精製四塩化チタンとすることができる。この精製四塩化チタンは、たとえば、チタン鉱石等の原料鉱石をコークス等の炭素源および塩素ガスと反応させて生成される粗四塩化チタンを、精留塔で精製して得られるものである。但し、還元工程で使用可能なものであれば、四塩化チタンは上記の精製四塩化チタンには限らない。
また、還元工程で生成される塩化マグネシウムは、電解槽内での溶融塩電解に供することで、金属マグネシウムと塩素ガスとに分解することができる。これにより得られる金属マグネシウムは再度、還元工程で用いることができる。
【0026】
このような還元工程が進行すると、金属製還元反応容器1内の底部3側でのスポンジチタン塊TSの成長とともに、側壁2の内面上方側で浴面Sb付近の高さ位置に、壁面生成スポンジチタンWSが、その内面から内側に盛り上がって形成されることがある。
浴面Sb付近の壁面生成スポンジチタンWSが厚く形成された場合、該壁面生成スポンジチタンWSの存在によって側壁2の周囲で行う空冷等による浴面Sbの冷却が不十分になり、還元反応の発熱による浴面Sbの温度上昇を良好に抑制できないことが懸念される。
【0027】
また、溶融浴Bmの浴面Sbの面積が大きいほど、金属マグネシウムと塩化マグネシウムの浴中での移動による浴流れが円滑になる。特に還元工程の中盤から終盤では、浴面Sbの温度が上昇しやすいだけでなく、溶融浴Bm中の金属マグネシウムの量が減少することから、円滑な浴流れが重要になる。また浴流れは、浴面Sbの温度上昇を抑制するという利点もある。しかし、浴面Sb付近に厚く形成された壁面生成スポンジチタンWSが存在すると、これは浴面Sbの表面積を低下させ、浴流れを阻害する。
【0028】
また、還元工程及び分離工程が終了した後、金属製還元反応容器1から蓋体4を取り外すとともにロストル7を上昇させて、スポンジチタン塊TSを金属製還元反応容器1から取り出す。この際に、壁面生成スポンジチタンWSが側壁2の内面から大きく盛り上がって形成されていると、スポンジチタン塊TSと壁面生成スポンジチタンWSとが干渉し、スポンジチタン塊TSの取出し作業を容易に行い得なくなる。
【0029】
このような問題に対処するため、この実施形態では、還元工程の少なくとも序盤から中盤辺りの所定の期間で、溶融浴Bmの浴面Sbの高さ及び浴面Sbの温度を、結果として壁面生成スポンジチタンWSが比較的広範囲に薄く形成されるように調整する。
具体的には、還元工程の全体で供給される四塩化チタンの総供給量の少なくとも50質量%に達するまでの間、四塩化チタンを総供給量の10質量%供給する都度、溶融浴Bmの浴面Sbの総移動距離を、金属製還元反応容器内の有効空間高さHeに対する比で、0.12以上とする。さらには、当該所定の期間中、高さ方向における浴面Sbの位置での金属製還元反応容器1の側壁2の温度を、700℃~950℃の範囲内とする。なおここでは、有効空間高さHeに対する浴面Sbの総移動距離の比を、浴面Sbの総移動距離の比ともいう。
【0030】
このことによれば、還元工程が開始されてから当該所定の期間中に、浴面Sbが特定の温度範囲内に維持されたまま高さ方向で大きく推移する。それにより、壁面生成スポンジチタンWSは、
図2に模式的に示すように、浴面Sb付近の側壁2の内面上方側で薄く析出して形成され、金属製還元反応容器1の内側への盛り上がりが抑制されることになる。
【0031】
その結果として、壁面生成スポンジチタンWSの厚みがある程度薄いことから、容器周囲からの空冷等により浴面Sb付近を有効に冷却することができる。また、壁面生成スポンジチタンWSの盛り上がりによる浴面Sbの面積の減少が抑えられるので、浴流れが円滑に行われる。そしてまた、厚みの薄い壁面生成スポンジチタンWSの存在は、分離工程後の金属製還元反応容器1からのスポンジチタン塊TSの取出しの作業性を向上させる。
【0032】
ここで、溶融浴の浴面Sbの総移動距離は、四塩化チタンの供給を開始する前の金属製還元反応容器1内の溶融塩浴Sbの初期の高さを基準とし、四塩化チタンの供給量(滴下量)と、金属製還元反応容器1の側壁2の内径と、還元工程で塩化マグネシウムの排出及び/又は金属マグネシウムの供給を行う場合はその塩化マグネシウムの排出量及び/又は金属マグネシウムの供給量とを用いて求めることができる。
例えば、塩化マグネシウムの排出及び金属マグネシウムの供給をいずれも行わない場合は、還元工程の間、溶融浴の浴面Sbは、四塩化チタンの供給に伴って継続的に上昇する。それ故に、この場合は、四塩化チタンの供給量と、金属製還元反応容器1の側壁2の内径とに基いて、溶融浴の浴面Sbが上昇する方向の浴面Sbの移動距離を求め、これを浴面Sbの総移動距離とする。
あるいは、塩化マグネシウムの排出及び/又は金属マグネシウムの供給を行う場合は、上述したような四塩化チタンの供給に伴う浴面上昇方向の移動距離だけでなく、塩化マグネシウムの排出による浴面下降方向の移動距離及び/又は、金属マグネシウムの供給による浴面上昇方向の移動距離を考慮して、溶融浴の浴面Sbの総移動距離を算出する。
【0033】
なお還元工程では、金属製還元反応容器1内の有効空間高さHeに対する溶融浴の浴面Sbの高さHsの比(Hs/He)の変化により、四塩化チタンの供給に際する浴面Sbの高さの変動を表すことができる。
【0034】
ここで、浴面Sbの高さHsは、還元工程で形成されるスポンジチタン塊TSの底面の位置から、浴面Sbの位置までの高さ方向(鉛直方向、
図1では上下方向)に沿う長さを意味する。図示の例では、スポンジチタン塊TSはロストル7の表面7a上に形成されて、スポンジチタン塊TSの底面はロストル7の表面7a上に位置することから、溶融浴の浴面Sbの高さHsは、ロストル7の表面7aの位置から、浴面Sbの位置までの高さ方向の長さになる。
浴面Sbの高さHsは、四塩化チタンを供給する前の金属製還元反応容器1内の溶融塩浴Sbの初期の高さから、四塩化チタンの供給量と、金属製還元反応容器1の側壁2の内径と、還元工程で塩化マグネシウムの排出及び/又は金属マグネシウムの供給を行う場合はその塩化マグネシウムの排出量及び/又は金属マグネシウムの供給量とを用いて求めることができる。
【0035】
またここで、金属製還元反応容器1内の有効空間高さHeは、鉛直方向で、スポンジチタン塊TSの底面が接触するロストル7の表面7aから、浴面Sbが上昇することができる最大の高さを意味する。図示の場合は、蓋体4から金属製還元反応容器1内のスペースに向けて原料供給管6が突出しているので、有効空間高さHeは、ロストル7の表面7aの位置(スポンジチタン塊TSの底面の位置)から原料供給管6の下端の位置までの高さ方向の長さになる。
【0036】
金属製還元反応容器1内に四塩化チタンを供給する間の、上述した浴面高さの比(Hs/He)を算出すると、
図3(a)及び(b)のそれぞれにその一部を例示するような、四塩化チタンの供給量に対する浴面高さの比(Hs/He)の変化を表すグラフが得られることがある。
図3(a)及び(b)のグラフではそれぞれ、四塩化チタンの総供給量の10質量%を供給した時点から30質量%を供給した時点までの、浴面高さの比(Hs/He)の変化を示している。ここでは、比較的短い期間が経過する度に、金属製還元反応容器1からの塩化マグネシウムの排出を断続的に行ったことや金属製還元反応容器1に金属マグネシウムを断続的に供給したこと等により、
図3(a)及び(b)に実線の折れ線で示すように、短いスパンで浴面高さの比(Hs/He)がある程度大きく上下に変動するものとなっている。なお、浴面Sbの総移動距離は、
図3に示す折れ線の縦軸方向の成分の大きさを合算したものに相当する。この総移動距離と有効空間高さを用いて、四塩化チタン総供給量に対して10質量%供給する毎に、溶融浴の浴面の総移動距離の、金属製還元反応容器内の有効空間高さに対する比を算出し、この比を0.12以上とする。
【0037】
四塩化チタンの供給量が総供給量の50質量%に達するまでの間、四塩化チタンを10質量%供給する毎の、浴面Sbの総移動距離の比が0.12を下回るときがある場合は、浴面Sbの変動が不足し、壁面生成スポンジチタンWSが高さ方向の比較的狭い範囲で金属製還元反応容器1の内側に大きく盛り上がって形成されるので、上述した問題が生じる。浴面Sbを適切かつ大きく動かす観点から、四塩化チタン10質量%を供給する度の浴面Sbの総移動距離の比は、0.16以上とすることが好ましい。なお、浴面Sbの総移動距離の比の好ましい上限値は特にないが、たとえば0.30以下になることがある。
【0038】
また、四塩化チタンの供給量が総供給量の50質量%に達するまでの間、浴面Sbの位置での側壁2の温度が700℃未満になると、TiCl4+2Mg→Ti+2MgCl2という所期した反応の他、例えばTiCl2等の低級塩化チタンが生成する反応が生じ、この反応の割合が増える傾向にある。また、マグネシウムの融点に浴面温度が近づきすぎる。一方、当該側壁2の温度が950℃を超える場合は、金属マグネシウムの蒸発が進み、気相での四塩化チタンの還元反応の割合が増える傾向にある。浴面Sbの位置での側壁2の温度を800℃~950℃とすることで、TiCl2等の低級塩化チタンが生成する反応をより低減できる。側壁2の温度は、側壁2の容器外側に設置した熱電対等の温度計により測定可能である。
【0039】
なお、四塩化チタンの供給量が四塩化チタンの総供給量の50質量%に達した後は、浴面Sbの総移動距離の比及び、側壁2の温度を、先に述べたように制御することを要しない。但し、四塩化チタンの供給量が四塩化チタンの総供給量の50質量%に達した後の一定期間内においても、浴面Sbの総移動距離の比の、及び/又は、側壁2の温度を同様に制御してもよい。
【0040】
四塩化チタンの供給を開始したときから四塩化チタン50質量%を供給するまでの間の期間は、当該期間中に最も高くなる浴面Sbの高さHs、すなわち最高値Hsmaxと、当該期間中に最も低くなる浴面Sbの高さHs、すなわち最低値Hsminとが、好ましくは(Hsmax-Hsmin)/He≧0.15の関係、より好ましくは(Hsmax-Hsmin)/He≧0.20の関係を満たすようにする。この場合、浴面Sbがより確実に高さ方向で大きく推移するので、壁面生成スポンジチタンWSが薄く形成される。なお、後述するように還元工程で金属マグネシウムを金属製還元反応容器1内に供給する場合は、四塩化チタンの供給開始時の浴面Sbの高さを低く設定することが可能になるので、(Hsmax-Hsmin)/Heが0.30を超えることもあり得る。
【0041】
上述したように、浴面Sbの総移動距離の比を制御するため、四塩化チタンの供給量が総供給量の少なくとも50質量%に達するまでの間に、たとえば、金属製還元反応容器1内に金属マグネシウムを供給する操作、及び、塩化マグネシウムを金属製還元反応容器1から排出する操作のうちの一つ以上の操作等を行うことができる。
【0042】
還元工程では、金属マグネシウムを、金属製還元反応容器1内に連続的又は断続的に供給することができる。これにより、金属製還元反応容器1内の金属マグネシウムの枯渇を抑制できて、生産性を高めることができる。またこの場合、金属マグネシウムの供給により、溶融浴の浴面Sbが上昇するので、四塩化チタンの供給開始前の浴面Sbの初期の高さを比較的低く設定することができる。その結果として、溶融浴の浴面Sbの総移動距離を増大させやすくなる。なお、四塩化チタンの供給と金属マグネシウムの供給を同時に行うことができない場合があるので、金属マグネシウムは、四塩化チタンの供給の合間に断続的に供給することがある。
【0043】
また還元工程で、金属製還元反応容器1から塩化マグネシウムを排出する場合、塩化マグネシウムの排出は連続的又は断続的のいずれであってもよい。塩化マグネシウムを断続的に排出するときは、溶融浴の浴面Sbの高さ方向の変動及び移動距離を調節しやすくなるという利点がある。たとえば、塩化マグネシウムの排出の時間間隔を長くして一回の排出時の排出量を多くすれば、その際に浴面Sbが高さ方向に大きく変動する。塩化マグネシウムの断続的な排出は、たとえば、四塩化チタンを総供給量に対して7質量%~10質量%供給する間に1回の頻度とすることができる。その際の1回当たりの排出量は、還元工程全体でのMgCl2総排出量の5質量%~12質量%とすることができる。
【0044】
(分離工程)
還元工程が終了した後は、金属製還元反応容器1の内部には、上記の還元工程で生成したスポンジチタン塊TS及び壁面生成スポンジチタンWSの他、還元反応に用いられずに残留した金属マグネシウムや、還元反応の副生成物として生成した塩化マグネシウムその他の不純物が存在する。分離工程は、このような不純物を液体の状態で抜き取った後、さらに、金属製還元反応容器1の内部の圧力を低下させてスポンジチタン塊TS等から当該不純物を分離させるために行われる。
【0045】
分離工程では、液抜き後に、たとえば、金属製還元反応容器1を1000℃程度に加熱しながら、金属製還元反応容器1内を減圧して真空雰囲気等にする。これにより、金属製還元反応容器1内に存在していた金属マグネシウムや塩化マグネシウム等の不純物は吸引されて、金属製還元反応容器1内から取り除かれる。
【0046】
なお、分離工程の後は、金属製還元反応容器1内の底部3側に設けたロストル7等を用いて、その上にあるスポンジチタン塊TSを、金属製還元反応容器1内から取り出す。そして、スポンジチタン塊TSを粒状に破砕し、スポンジチタンを得ることができる。
【実施例】
【0047】
次に、この発明のスポンジチタンの製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0048】
図1に示すような金属製還元反応容器及び還元炉を用いて、還元工程を行い、スポンジチタン塊を生成させた。金属製還元反応容器は、寸法形状として内径が1900mm、有効空間高さが4300mmの側壁部位円筒状のものを用いた。実施例1~4並びに比較例1~3では、還元工程で四塩化チタンの供給とともに、還元工程の全期間にわたって、塩化マグネシウムの断続的な排出を行った。四塩化チタンを総供給量に対して7質量%~10質量%供給する間に1回の頻度で塩化マグネシウムの排出を行い、その際の1回当たりの排出量は、還元工程全体でのMgCl
2総排出量の5質量%~12質量%の範囲内とした。実施例1~4及び比較例1~3の各条件を表1に示す。実施例5は、還元工程の間に塩化マグネシウムの排出を行わず、四塩化チタンの滴下が総供給量の50質量%に達するまで、総供給量の10質量%の四塩化チタンを供給する毎に浴面の総移動距離の比を0.12とするとともに、浴面位置の側壁温度を720℃とした。
【0049】
浴面の総移動距離の比は、四塩化チタンを10質量%滴下する度に、当該滴下量と、金属製還元反応容器の内径と、塩化マグネシウムの排出量とを用いて求め、実施例1~4及び比較例1~3はその結果を表1に示す。また、実施例1~4及び比較例1~3では、四塩化チタンの滴下開始から50質量%滴下までの間の期間の(Hsmax-Hsmin)/Heは0.15以上とした。実施例5では、上記四塩化チタン50質量%滴下までの(Hsmax-Hsmin)/Heを0.25以上とした。
なお、浴面位置の側壁温度を700℃未満になるようにすると、当該温度が金属マグネシウムの融点に近くなって還元反応を適正に行い得なくなることが懸念されたので、そのような低温での試験は行わなかった。
【0050】
実施例1~5及び比較例1~3のそれぞれについて、還元工程後に、金属製還元反応容器の側壁の内面上方側に生成した壁面生成スポンジチタンの金属製還元反応容器の半径方向の最大厚みを測定した。なおここで、壁面生成スポンジチタンの半径方向の最大厚みは、金属製還元反応容器の側壁の周方向に90°間隔で4点のそれぞれにて、付着厚みが最大の箇所を測定し、その4点の測定値を平均した値とした。そして、壁面生成スポンジチタンの半径方向の厚みが200mm以下であった場合を合格とし、それ以外の場合を不合格として評価した。その結果も表1に示す。また、実施例5は上記壁面生成スポンジチタンの厚み評価が合格であった。
【0051】
【0052】
表1に示すように、実施例1~4は、四塩化チタン滴下50質量%までの間、総供給量の10質量%の四塩化チタンを供給する毎に総移動距離の比を0.12以上とするとともに、浴面位置の側壁温度を700℃~950℃の範囲内としたことにより、壁面生成スポンジチタンが合格基準を満たすものであった。実施例5においても同様の結果を確認できた。
一方、比較例1は、上記総移動距離の比が0.12を下回ったことから、壁面生成スポンジチタンの評価結果が不合格であった。比較例2は、総供給量に対する四塩化チタン滴下40質量%から50質量%までの総移動距離の比が0.12より小さかったことから、不合格となった。比較例3は、総供給量に対する四塩化チタン滴下50質量%までの間の浴面位置の側壁温度が950℃を超えたことに起因して、不合格となった。
【0053】
以上より、この発明によれば、金属製還元反応容器の側壁の内面上への厚い壁面生成スポンジチタンの形成を抑制できることが解かった。
【符号の説明】
【0054】
1、51 金属製還元反応容器
2、52 側壁
3、53 底部
4 蓋体
5 副生成物排出管
6 原料供給管
7 ロストル
7a ロストルの表面
8 還元炉
TS スポンジチタン塊
WS 壁面生成スポンジチタン
Bm 溶融浴
Sb 浴面
Hs 溶融浴の浴面の高さ
He 金属製還元反応容器内の有効空間高さ