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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】バルブスプリング故障診断装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
F02D45/00 358
F02D45/00 345
F02D45/00 362
F02D45/00 364D
F02D45/00 368F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019176559
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021055557
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 敬史
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 13/00
F01L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気ポートを開閉する吸気バルブを閉弁側へ付勢するバルブスプリングの折損を検出するバルブスプリング故障診断装置であって、
前記エンジンの吸気ポートに接続される吸気管の内部圧力を検出する吸気圧センサと、
前記エンジンの燃料カット中における前記吸気管の内部圧力が前記エンジンの運転状態に基づいて設定される判定値よりも高い場合に前記バルブスプリングの折損を判定する故障判定部と
を備えることを特徴とするバルブスプリング故障診断装置。
【請求項2】
前記エンジンは複数の気筒を有し、
前記故障判定部は、前記内部圧力が周期的に高くなる時期に基づいて、前記バルブスプリングが折損した気筒を検出すること
を特徴とする請求項1に記載のバルブスプリング故障診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気バルブ又は排気バルブを閉弁方向に付勢するバルブスプリングの故障を診断する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
4ストロークのレシプロエンジンにおいては、燃焼室に新気(燃焼用空気)を導入する吸気ポート、及び、燃焼室から排ガス(既燃ガス)を排出する排気ポートを、クランクシャフトの1/2の回転速度で回転するカムシャフトにより駆動される吸気バルブ及び排気バルブにより所定のバルブタイミングで開閉している。
吸気バルブ及び排気バルブは、バルブステムの周囲に設けられた圧縮コイルばねであるバルブスプリングによって閉弁方向に付勢され、開弁時期以外には各ポートと燃焼室との間のガス流動を遮断するようになっている。
バルブスプリングに故障が生じ、バルブを閉弁方向に付勢する力が弱くなると、バルブシール性が悪化して燃焼状態が不安定になってしまう。また、バックファイアや、ロッカーアーム等のバルブ周辺部品の脱落、さらに脱落した部品の噛みこみなどの故障の発生も懸念される。
【0003】
吸排気バルブ及びその周辺部品の故障検出に関する従来技術として、例えば特許文献1には、ディーゼル機関のシリンダ内のガス成分が燃焼初期においてはCOが少なくOが多く、燃焼終期においてはCOが多くOが少なくなる現象に着目し、シリンダ出口に設けたサンプリング弁から圧縮行程中、及び、燃焼終了から排気弁が開くまでの間において排ガスを採取し、それぞれのサンプルを分析計で分析して得た分析値を用いて排気弁の故障判定を行うことが記載されている。
特許文献2には、ガス・コージェネレーションシステムで使用されるガスエンジンの故障予知診断装置において、排気圧センサにより計測される複数のシリンダからの排気圧力を所定の周期でサンプリングし、各シリンダの排気圧代表値のばらつきに基づいて吸気弁吹き抜け、排気弁吹き抜け等のエンジン故障を判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平 1-299436号公報
【文献】特開平 7-293311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術においては、エンジンの排気装置にサンプリング弁、成分分析計及び分析結果を処理するコンピュータ等を設ける必要があり、装置の構成が複雑である。また、診断の原理的に、一般的なガソリンエンジンのような予混合火花点火エンジンに適用することは困難である。
また、特許文献2に記載された技術においても、排気圧力を所定の周期でサンプリングして演算処理することが必要であり、やはり装置の構成が複雑となってしまう。
このため、既存の一般的なエンジンに通常設けられるセンサの出力を用いて、装置の構成を複雑化することなくバルブスプリングの故障を適切に検出する技術が要望されている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡単な構成によりバルブスプリングの故障を検出可能なバルブスプリング故障判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、エンジンの吸気ポートを開閉する吸気バルブを閉弁側へ付勢するバルブスプリングの折損を検出するバルブスプリング故障診断装置であって、前記エンジンの吸気ポートに接続される吸気管の内部圧力を検出する吸気圧センサと、前記エンジンの燃料カット中における前記吸気管の内部圧力が前記エンジンの運転状態に基づいて設定される判定値よりも高い場合に前記バルブスプリングの折損を判定する故障判定部とを備えることを特徴とするバルブスプリング故障診断装置である。
吸気バルブのバルブスプリングに折損が発生してバルブシール性が悪化した場合には、燃料カットが行われた際にバルブスプリングの付勢力が筒内の負圧に負けて若干開いてしまう状態となり、筒内ガスの吸気管側への吹き戻しが生じることから、正常時に対して吸気管の内部圧力が増加する。
本発明によれば、吸気管の内部圧力がエンジンの運転状態に基づいて設定される判定値よりも高い場合にバルブスプリングの折損を判定することにより、一般的なエンジンに設けられている吸気圧センサを利用し、新規なセンサ類の追加を必要としない簡単な構成により、吸気バルブのバルブスプリングの折損を適切に検出することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記エンジンは複数の気筒を有し、前記故障判定部は、前記内部圧力が周期的に高くなる時期に基づいて、前記バルブスプリングが折損した気筒を検出することを特徴とする請求項1に記載のバルブスプリング故障診断装置である。
上述した吸気管内への筒内ガスの吹き戻しは、主にバルブスプリングの折損が生じている気筒が圧縮行程又は排気行程を迎えた際に周期的に発生することから、本発明によれば、吸気管の内部圧力が周期的に高くなる時期に基づいて、適切にバルブスプリングが折損した気筒を検出することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、簡単な構成によりバルブスプリングの故障を検出可能なバルブスプリング故障判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のバルブスプリング故障診断装置の実施形態が設けられるエンジンの構成を模式的に示す図である。
図2図1のエンジンのシリンダヘッドの模式的断面図である。
図3】実施形態のバルブスプリング故障診断装置における吸気バルブのバルブスプリング故障診断時の動作を示すフローチャートである。
図4】実施形態のバルブスプリング故障診断装置における排気バルブのバルブスプリング故障診断時の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用したバルブスプリング故障診断装置の実施形態について説明する。
実施形態のバルブスプリング故障診断装置は、例えば、乗用車等の自動車に走行用動力源として搭載されるエンジンの吸気バルブ、排気バルブを閉弁方向に付勢するバルブスプリングの故障を判別する機能を有する。
図1は、実施形態のバルブスプリング故障判定装置が設けられるエンジンの構成を模式的に示す図である。
エンジン1は、例えば乗用車等の自動車に走行用動力源として搭載される4ストローク水平対向4気筒の直噴(筒内噴射)ガソリンエンジンである。
エンジン1の出力は、後述する動力伝達機構を介して、車両の駆動輪に伝達される。
【0014】
エンジン1は、出力軸である図示しないクランクシャフトの前端部側(変速機と反対側・縦置き搭載時における前側・図1における上側)から、順次配列された第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40を有する。
エンジン1は、例えば、クランクシャフトが車両の前後方向に沿って縦置き配置される。
第1気筒10、第3気筒30は、車幅方向右側に配置された右側シリンダブロックRB、第2気筒20、第4気筒40は、車幅方向左側に配置された左側シリンダブロックLBに設けられている。
右側シリンダブロックRB、左側シリンダブロックLBの車幅方向外側(クランクシャフト側とは反対側)の端部には、右側シリンダヘッドRH、左側シリンダヘッドLHがそれぞれ設けられている。
【0015】
第1気筒10と第2気筒20、第3気筒30と第4気筒40は、各気筒のクランクピンのオフセット量だけずらした状態で、クランクシャフトを挟んで対向して配置されている。
エンジン1における点火順序(爆発順序)は、第1気筒10、第3気筒30、第2気筒20、第4気筒40の順に設定され、クランク角において180°毎に等間隔で点火(燃焼)するようになっている。
【0016】
第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40は、それぞれシリンダ、ピストン、燃焼室、吸排気ポート、吸排気バルブ、動弁駆動機構などの他、インジェクタ11,21,31,41、点火栓12,22,32,42等を有する。
インジェクタ11,21,31,41は、各気筒の燃焼室内に、直接霧化されたガソリンを噴射する噴射装置である。
インジェクタ11,21,31,41の燃料噴射量及び燃料噴射時期は、エンジン1の運転状態に応じてエンジン制御ユニット90によって制御されている。
インジェクタ11,21,31,41は、図示しない燃料ポンプによって加圧された燃料が導入され蓄圧されるとともに、エンジン制御ユニット90から与えられる噴射信号に応じて開弁し、燃料を噴射する。
【0017】
点火栓12,22,32,42は、各気筒内で形成された混合気に、電気的なスパークによって着火させるものである。
点火栓12,22,32,42の点火時期は、エンジン制御ユニット90によって制御されている。
【0018】
また、エンジン1は、吸気装置50、排気装置60、さらに図示しないバルブタイミング可変装置、冷却装置、潤滑装置、EGR装置等を有する。
吸気装置50は、各気筒に燃焼用空気を導入するものである。
吸気装置50は、外気(大気)を燃焼用空気として導入する図示しないインテークダクト、ダスト等の異物を濾過する図示しないエアクリーナ、さらにスロットルバルブ51、インテークマニホールド52、吸気圧センサ53等を有する。
【0019】
スロットルバルブ51は、エンジン1の出力調整のため空気流量を制御するものである。
スロットルバルブ51は、電動アクチュエータによって開閉されるバタフライバルブ(スロットルバルブ)を有する電動スロットルであり、ドライバのアクセル操作に応じて設定される要求トルクに応じてエンジン制御ユニット90によって開度を制御される。
インテークマニホールド52は、スロットルバルブ51を通過した空気を、各気筒の吸気ポートに導入する分岐管である。
吸気圧センサ53は、インテークマニホールド52内の圧力(吸気管負圧)を検出する圧力センサである。
吸気圧センサ53の出力は、逐次エンジン制御ユニット90に伝達される。
【0020】
排気装置60は、各気筒10,20,30,40の燃焼室から、排気ポートを経由して排出される排ガス(既燃ガス)を排出するものである。
排気装置60は、エキゾーストマニホールド61、エキゾーストパイプ62、触媒コンバータ63、サイレンサ64、空燃比センサ65、リアOセンサ66等を有して構成されている。
【0021】
エキゾーストマニホールド61は、各気筒10,20,30,40の排気ポートから出た排ガスを集合させる集合管である。
エキゾーストパイプ62は、エキゾーストマニホールド61において集合した排ガスを外部へ排出する管路である。
【0022】
触媒コンバータ63は、エキゾーストパイプ62の中間部に設けられた排ガス後処理装置である。
触媒コンバータ63は、例えばアルミナ等の担体に白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を担持させた三元触媒である。
触媒コンバータ63は、エンジン1の空燃比がストイキ近傍となる所定の活性領域において、排ガス中のHC、CO、NOを低減する機能を有する。
【0023】
サイレンサ64は、エキゾーストパイプ62における触媒コンバータ63の下流側(出口側)に設けられ、音響エネルギを低減させる消音器である。
【0024】
空燃比センサ65は、触媒コンバータ63の入口近傍に設けられ、エンジン1における空燃比に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
エンジン制御ユニット90は、空燃比センサ65の出力に応じて、エンジン1における空燃比が三元触媒の活性範囲内となるように燃料噴射量を設定する空燃比フィードバック制御を行う。
【0025】
リアOセンサ66は、触媒コンバータ63の出口近傍に設けられ、排ガス中のO濃度に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
リアOセンサ66の出力はエンジン制御ユニット90に伝達される。
【0026】
エンジン1は、さらに、クランク角センサ70、水温センサ80等を有する。
クランク角センサ70は、エンジン1の出力軸である図示しないクランクシャフトの角度位置(クランク角・CA)を検出する磁気式の角度センサである。
クランク角センサ70は、センサプレート71、ポジションセンサ72等を有して構成されている。
【0027】
センサプレート71は、クランクシャフトの後端部に固定された円盤状の部材であって、外周縁部には所定の角度間隔で複数のベーン(歯)が放射状に突き出して形成されたスプロケット状の形状となっている。
ポジションセンサ72は、センサプレート71の外周縁部に対向して配置された磁気ピックアップであり、マグネット、コア、コイル、ターミナル等を有する。
ポジションセンサ72は、直前をセンサプレート71のベーンが通過した際に、所定のパルス信号を出力するようになっている。
エンジン制御ユニット90は、クランク角センサ70の出力に基づいて、エンジン1の回転数(クランクシャフト回転速度)、及び、クランク角を演算可能となっている。
エンジン制御ユニット90は、エンジン1のクランクシャフト回転速度を検出する速度検出部としての機能を有する。
【0028】
水温センサ80は、シリンダヘッド及びシリンダに形成された冷却水流路であるウォータージャケット内を流れる冷却水(クーラント)の温度を検出するものである。
クランク角センサ70、水温センサ80の出力は、エンジン制御ユニット90に伝達される。
【0029】
エンジン制御ユニット(ECU)90は、エンジン1及びその補器類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット90は、例えば、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット90は、例えば、ドライバのアクセル操作等に基づいて設定される要求トルクに応じて、実際のトルクが要求トルクと実質的に一致するよう図示しないスロットルバルブの開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、バルブタイミング等を制御する。
また、エンジン制御ユニット90は、車両の走行状態が所定の燃料カット条件を充足した場合には、燃料噴射を一時的に停止する燃料カットを実行する。
また、エンジン制御ユニット90は、後述する吸気バルブスプリング160、排気バルブスプリング170のばね定数低下を伴う劣化や、折損等の破損を検出するバルブスプリング故障診断装置の故障判定部としての機能を有する。
この点については後に詳しく説明する。
【0030】
図2は、図1のエンジンのシリンダヘッドの模式的断面図である。
図2は、シリンダヘッドにおける第1気筒10の吸気バルブ、排気バルブのバルブステム軸心を含む平面で切った断面を図示するが、他の気筒においても同様の構成を有する。
シリンダヘッド100は、燃焼室110、吸気ポート120、排気ポート130、吸気バルブ140、排気バルブ150、吸気バルブスプリング160、排気バルブスプリング170、吸気カムシャフト180、排気カムシャフト190等を有して構成されている。
【0031】
燃焼室110は、図示しないピストンの冠面や、シリンダスリーブの内周面と協働して、混合気が点火され燃焼する空間部を構成する部分である。
燃焼室110は、例えば、シリンダヘッドにおける筒内側の面部を凹ませた凹部として形成されたペントルーフ型のものである。
【0032】
吸気ポート120は、インテークマニホールド52に接続され燃焼室110へ新気(空気)を導入する流路である。
排気ポート130は、燃焼室110からエキゾーストマニホールド61へ排ガス(既燃ガス)を排出する流路である。
吸気ポート120及び排気ポート130は、例えば二又に分岐して形成され、吸気バルブ140及び排気バルブ150は、気筒あたり2本ずつ設けられる。
【0033】
吸気バルブ140は、吸気ポート120を所定のバルブタイミングで開閉するものである。
吸気バルブ140は、通常は排気行程の終期から、吸気行程を経て、圧縮行程の初期まで開弁される。
吸気バルブ140は、バルブヘッド141、バルブステム142を有する。
バルブヘッド141は、吸気バルブ140の燃焼室110側の端部に設けられた円盤状の部分である。
バルブヘッド141は、吸気バルブ140の閉弁時に、吸気ポート120の燃焼室110側の端部を閉塞する弁体として機能する。
バルブステム142は、バルブヘッド141の燃焼室110側とは反対側の面部から突出して設けられた円柱状の部分である。
バルブステム142は、シリンダヘッド100に設けられた円筒状のステムガイドに挿入され、シリンダヘッド100に対して、その長手方向に沿って摺動可能に支持されている。
【0034】
排気バルブ150は、排気ポート130を所定のバルブタイミングで開閉するものである。
排気バルブ150は、通常は燃焼行程の終期から、排気行程を経て、吸気行程の初期まで開弁される。
排気バルブ150は、バルブヘッド151、バルブステム152を有する。
バルブヘッド151は、排気バルブ150の燃焼室110側の端部に設けられた円盤状の部分である。
バルブヘッド151は、排気バルブ150の閉弁時に、排気ポート130の燃焼室110側の端部を閉塞する弁体として機能する。
バルブステム152は、バルブヘッド151の燃焼室110側とは反対側の面部から突出して設けられた円柱状の部分である。
バルブステム152は、シリンダヘッド100に設けられた円筒状のステムガイドに挿入され、シリンダヘッド100に対して、その長手方向に沿って摺動可能に支持されている。
【0035】
吸気バルブスプリング160は、吸気バルブ140を閉弁側に付勢するばね要素である。
排気バルブスプリング170は、排気バルブ150を閉弁側に付勢するばね要素である。
吸気バルブスプリング160、排気バルブスプリング170は、例えば圧縮コイルばねであって、各バルブのバルブステム142,152の長手方向におけるカムシャフト側の部分は、その内径側に挿入されている。
吸気バルブスプリング160、排気バルブスプリング170の燃焼室110側の端部は、シリンダヘッド100に形成された座部と当接している。
吸気バルブスプリング160、排気バルブスプリング170のカムシャフト側の端部は、各バルブステム142,152の端部から外径側につば状に張り出したスプリングシート161,171と当接している。
【0036】
吸気カムシャフト180、排気カムシャフト190は、エンジン1のクランクシャフトの1/2の回転速度で回転する軸状の部材である。
吸気カムシャフト180、排気カムシャフト190は、クランクシャフトと平行な回転軸回りに回動可能にシリンダヘッド100に取り付けられている。
吸気カムシャフト180、排気カムシャフト190は、所定のバルブタイミングで吸気バルブ140、排気バルブ150をそれぞれ開弁するカム部を有する。
吸気カムシャフト180、排気カムシャフト190の端部には、図示しないカムスプロケットが設けられる。
カムスプロケットは、クランクシャフトに設けられた図示しないクランクスプロケット及びタイミングチェーンを介して、クランクシャフトと連動して回転駆動される。
カムスプロケットには、エンジン1の運転状態に応じてカムスプロケットに対する吸気カムシャフト180、排気カムシャフト190の位相を変化させ、バルブタイミングを変化させる可変バルブタイミング機構が設けられる。
可変バルブタイミング機構は、エンジン制御ユニット90により制御される。
【0037】
吸気カムシャフト180、排気カムシャフト190は、シリンダヘッド100に設けられた支軸回りに揺動するロッカーアーム181,191を介し、吸気バルブ140、排気バルブ150のバルブステム142,152の端部を押圧し、吸気バルブ140、排気バルブ150を開弁させる。
ロッカーアーム181,191には、バルブクリアランスの自動調整を行うハイドロリックラッシュアジャスタ182,192が設けられている。
【0038】
以下、実施形態のバルブスプリング故障診断装置の動作について説明する。
図3は、実施形態のバルブスプリング故障診断装置における吸気バルブのバルブスプリング故障診断時の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0039】
<ステップS01:燃料カット実行中判断>
エンジン制御ユニット90は、エンジン1の燃料噴射を一時的に停止する燃料カットを実行中であるか否かを判別する。
燃料カットを実行中である場合はステップS02に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0040】
<ステップS02:エンジン運転状態検出>
エンジン制御ユニット90は、現在のエンジン1の運転状態を示すパラメータを検出する。
例えば、クランク角センサ70により検出されるクランクシャフトの回転速度(いわゆるエンジン回転数)、スロットルバルブ51の開度、図示しないエアフローメータが検出する吸気装置50内の新気流量、バルブタイミング、EGR率、大気圧などに関する情報を取得する。
その後、ステップS03に進む。
【0041】
<ステップS03:インテークマニホールド内圧履歴取得>
エンジン制御ユニット90は、吸気圧センサ53が検出するインテークマニホールド52の内部圧力(吸気管圧力)を取得し、その履歴を所定の期間にわたって記録、蓄積する。
その後、ステップS04に進む。
【0042】
<ステップS04:バルブスプリング故障判定値設定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS02において取得したエンジン1の運転状態に基づいて、バルブスプリング故障判定値(吸気管圧力に基づく判定用のもの)を設定する。
バルブスプリング故障判定値は、例えば、吸気バルブスプリング160が正常である場合に、現在のエンジン1の運転状態において通常とり得る吸気管圧力に基づいて設定される。
その後、ステップS05に進む。
【0043】
<ステップS05:インテークマニホールド内圧を用いたバルブスプリング故障判定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS03において取得したインテークマニホールド52の内圧を、ステップS04において設定したバルブスプリング故障判定値と比較する。
ここで用いる内圧は、吸気脈動などにより瞬間的に発生するピーク値を排除するため、例えば所定期間の平均値や、ローパスフィルタ所定により高周波域を取り除いた値を用いることができる。
インテークマニホールド52の内圧がバルブスプリング故障判定値以上である場合はステップS06に進み、それ以外の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0044】
<ステップS06:バルブスプリング故障判定成立>
エンジン制御ユニット90は、吸気バルブスプリング160の故障判定を成立させる。
その後、ステップS07に進む。
【0045】
<ステップS07:故障気筒特定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS03において取得したインテークマニホールド52の内圧の履歴に基づいて、吸気バルブスプリング160の故障が発生した気筒を特定する。
例えば、インテークマニホールド52の内圧が周期的に高くなる時期に圧縮行程となっている気筒において吸気バルブスプリング160の故障が発生しているものと特定することができる。
その後、ステップS08に進む。
【0046】
<ステップS08:エンジン制御セーフモード・警告出力>
エンジン制御ユニット90は、エンジン1のダメージが進行することを防止するため、エンジン1の出力トルク及び回転数(クランクシャフト回転速度)を所定の上限値以下に制限するセーフモードのエンジン制御に切り替える。
また、エンジン制御ユニット90は、図示しないインストルメントパネルに設けられた警告灯や画像表示装置を用いて、バルブスプリングの故障が発生したことを示す警告を出力する。
その後、一連の処理を終了する。
【0047】
図4は、実施形態のバルブスプリング故障診断装置における排気バルブのバルブスプリング故障診断時の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0048】
<ステップS11:燃料カット実行中判断>
エンジン制御ユニット90は、エンジン1の燃料噴射を一時的に停止する燃料カットを実行中であるか否かを判別する。
燃料カットを実行中である場合は一連の処理を終了(リターン)し、その他の場合はステップS12に進む。
【0049】
<ステップS12:エンジン運転状態検出>
エンジン制御ユニット90は、現在のエンジン1の運転状態を示すパラメータを検出する。
その後、ステップS13に進む。
【0050】
<ステップS13:空燃比センサ出力履歴取得>
エンジン制御ユニット90は、空燃比センサ65が検出する空燃比の検出値を取得し、その履歴を所定の期間にわたって記録、蓄積する。
その後、ステップS14に進む。
【0051】
<ステップS14:クランク角センサ出力履歴取得>
エンジン制御ユニット90は、クランク角センサ70が検出するクランクシャフトの角度位置を取得し、その履歴を所定の期間にわたって記録、蓄積する。
その後、ステップS15に進む。
【0052】
<ステップS15:空燃比判定値設定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS12において取得したエンジン1の運転状態に基づいて、バルブスプリング故障判定値(空燃比に基づく判定用のもの)を設定する。
バルブスプリング故障判定値は、例えば、排気バルブスプリング170が正常である場合に、現在のエンジン1の運転状態において通常とり得る空燃比に基づいて設定される。
その後、ステップS16に進む。
【0053】
<ステップS16:回転変動判定値設定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS12において取得したエンジン1の運転状態に基づいて、バルブスプリング故障判定値(回転変動に基づく判定用のもの)を設定する。
バルブスプリング故障判定値は、例えば、排気バルブスプリング170が正常である場合に、現在のエンジン1の運転状態において通常発生し得る回転変動(例えば、各気筒の燃焼行程に相当するクランク角180度の範囲における平均回転速度の気筒別最高値と最低値との差)に基づいて設定される。
その後、ステップS17に進む。
【0054】
<ステップS17:空燃比を用いたバルブスプリング故障判定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS13において取得した空燃比センサ65の検出値を、ステップS15において設定したバルブスプリング故障判定値と比較する。
空燃比センサ65が検出した空燃比がバルブスプリング故障判定値よりもリッチ側である場合はステップS18に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0055】
<ステップS18:回転変動を用いたバルブスプリング故障判定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS14において取得したクランクシャフトの回転速度の変動を、ステップS16において設定したバルブスプリング故障判定値と比較する。
クランク角センサ70により検出された回転速度の変動の絶対値がバルブスプリング故障判定値以上である場合はステップS19に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0056】
<ステップS19:バルブスプリング故障判定成立>
エンジン制御ユニット90は、排気バルブスプリング170の故障判定を成立させる。
その後、ステップS20に進む。
【0057】
<ステップS20:故障気筒特定>
エンジン制御ユニット90は、ステップS13において取得した空燃比の履歴に基づいて、排気バルブスプリング170の故障が発生した気筒を特定する。
例えば、空燃比が周期的にリッチとなる時期に排気行程となっている気筒において排気バルブスプリング170の故障が発生しているものと特定することができる。
その後、ステップS21に進む。
【0058】
<ステップS21:エンジン制御セーフモード・警告出力>
エンジン制御ユニット90は、エンジン1のダメージが進行することを防止するため、エンジン1の出力トルク及び回転数(クランクシャフト回転速度)を所定の上限値以下に制限するセーフモードのエンジン制御に切り替える。
また、エンジン制御ユニット90は、図示しないインストルメントパネルに設けられた警告灯や画像表示装置を用いて、バルブスプリングの故障が発生したことを示す警告を出力する。
その後、一連の処理を終了する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)インテークマニホールド52の内部圧力がエンジン1の運転状態に基づいて設定される判定値よりも高い場合(通常時の吸気管圧力よりも異常に高い場合)に、吸気バルブスプリング160の故障を判定することにより、一般的なエンジンに設けられている吸気圧センサ53を利用し、新規なセンサ類の追加を必要としない簡単な構成により、吸気バルブスプリング160の故障を適切に検出することができる。
(2)インテークマニホールド52の内部圧力が周期的に高くなる時期に基づいて吸気バルブスプリング160が故障した気筒を検出することにより、簡単な構成により適切に故障発生気筒を特定することができる。
(3)空燃比がエンジン1の運転状態に基づいて設定される判定値よりもリッチ側である場合(通常時の空燃比に対して異常にリッチである場合)に、排気バルブスプリング170の故障を判定することにより、一般的なエンジンに設けられている空燃比センサ65を利用し、新規なセンサ類の追加を必要としない簡単な構成により、排気バルブスプリング170の故障を適切に検出することができる。
(4)空燃比のリッチ化に加えて、所定以上のクランクシャフトの回転速度変動(回転変動)が生じた場合にのみ排気バルブスプリング170の故障を判定することにより、判定精度を向上することができる。
(5)空燃比が周期的にリッチ側へ推移する時期に基づいて排気バルブスプリング170が故障した気筒を検出することにより、簡単な構成により適切に故障発生気筒を特定することができる。
【0060】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)バルブスプリング故障診断装置及びエンジンの構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、エンジンのシリンダレイアウト、気筒数、燃料噴射方式、過給機の有無などは、上述した実施形態の構成に限らず、適宜変更することができる。
(2)実施形態においては、空燃比及びクランクシャフトの回転変動をそれぞれ設定されたバルブスプリング故障判定値と比較して、排気バルブスプリングの故障診断を行っているが、空燃比を用いた判定のみにより故障判定を成立させてもよい。
(3)実施形態においては、空燃比の変動を利用して排気バルブスプリングの故障が発生した気筒を特定しているが、これに限らず、クランクシャフトの回転速度の履歴に基づいて排気バルブスプリングの故障が発生した気筒を特定してもよい。例えば、周期的に回転速度が低下している時期に燃焼行程である気筒を故障発生気筒として特定してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 エンジン 10 第1気筒
11 インジェクタ 12 点火栓
20 第2気筒 21 インジェクタ
22 点火栓 30 第3気筒
31 インジェクタ 32 点火栓
40 第4気筒 41 インジェクタ
42 点火栓 50 吸気装置
51 スロットルバルブ 52 インテークマニホールド
53 吸気圧センサ 60 排気装置
61 エキゾーストマニホールド 62 エキゾーストパイプ
63 触媒コンバータ 64 サイレンサ
65 空燃比センサ 66 リアOセンサ
70 クランク角センサ 71 センサプレート
72 ポジションセンサ 80 水温センサ
90 エンジン制御ユニット(ECU)
100 シリンダヘッド 110 燃焼室
120 吸気ポート 130 排気ポート
140 吸気バルブ 141 バルブヘッド
142 バルブステム 150 排気バルブ
151 バルブヘッド 152 バルブステム
160 吸気バルブスプリング 161 スプリングシート
170 排気バルブスプリング 171 スプリングシート
180 吸気カムシャフト 181 ロッカーアーム
182 ハイドロリックラッシュアジャスタ
190 排気カムシャフト 191 ロッカーアーム
192 ハイドロリックラッシュアジャスタ
図1
図2
図3
図4