(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ゴシポールおよびフェンホルミンを有効成分として含む膵臓癌予防および治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/11 20060101AFI20241002BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20241002BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20241002BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20241002BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20241002BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241002BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A61K31/11
A61K31/155
A61K31/337
A61K31/4745
A61K31/7068
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019541392
(86)(22)【出願日】2018-02-22
(86)【国際出願番号】 KR2018002172
(87)【国際公開番号】W WO2018155921
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-01-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0023406
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514039912
【氏名又は名称】ナショナル キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ス ヨル
(72)【発明者】
【氏名】ウ、サン ミョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ウ チン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク、サン チェ
(72)【発明者】
【氏名】イ、チュ ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ソン シク
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ウン キョン
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】石井 徹
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3111931(EP,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0094861(KR,A)
【文献】特表2010-529023(JP,A)
【文献】特表2016-516808(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0114676(US,A1)
【文献】特開2014-214093(JP,A)
【文献】Pancreas,2005年,Vol.31,No.4,pp.317-324
【文献】Oncotarget,2016年,Vol.7,No.31,pp.49397-49410
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAPlus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴシポール、フェンホルミン、ならびに抗癌剤、またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む膵臓癌予防および治療用薬学的組成物であって、
前記抗癌剤は、イリノテカン(irinotecan)、ゲムシタビン(Gemcitabine)およびパクリタキセル(paclitaxel)からなる群より選択されるいずれか1つ以上であり、
前記薬学的組成物は、ゴシポール、フェンホルミン、および抗癌剤を0.1~10:10~500:1のモル比率で混合して含む、薬学的組成物。
【請求項2】
前記ゴシポールは、下記化学式1の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の膵臓癌予防および治療用薬学的組成物:
【化1】
【請求項3】
前記フェンホルミンは、下記化学式2の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の膵臓癌予防および治療用薬学的組成物:
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年2月22日付で出願された大韓民国特許出願第10-2017-0023406号を優先権として主張し、前記明細書全体は本出願の参考文献である。
【0002】
本発明は、膵臓癌の治療においてシナジー効果を奏することができる、ゴシポールおよびフェンホルミンを含む薬学的組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
癌とは、個体の必要に応じて規則的で節制ある増殖と抑制が可能な正常細胞とは異なり、組織内で必要な状態を無視し無制限の増殖をする未分化細胞から構成された細胞塊であって腫瘍ともいう。このような無制限の増殖をする癌細胞は周りの組織に浸透し、さらに深刻な場合は、身体の他の器官に転移して深刻な苦痛を伴い、やがて死を招く難病である。
【0004】
癌は、血液癌と固形癌とに大きく分類され、膵臓癌、乳癌、口腔癌、肝臓癌、子宮癌、食道癌、皮膚癌など身体のほぼすべての部位で発生し、これらの治療方法として、最近、グリベックまたはハーセプチンのような少数の標的治療剤が特定の癌の治療に用いられているが、現在までは手術や放射線療法および細胞増殖を抑制する化学療法剤を用いた抗癌剤治療が主な方法である。しかし、標的治療剤ではないことから、既存の化学療法剤の最も大きな問題は細胞毒性による副作用と薬剤耐性であって、抗癌剤による初期の成功した反応にもかかわらず、結局は治療に失敗する主因である。したがって、このような化学療法剤の限界を克服するためには、抗癌作用機序が明確な標的治療剤の開発が持続的に必要である。
【0005】
なかでも、膵臓癌は世界的に癌死亡原因の7位を占めており、韓国国内では死亡原因5位と報告されている。膵臓癌は、子宮癌、乳癌、直腸癌、大腸癌、皮膚癌、肺癌、肝臓癌などの他の部位の癌疾患に比べて攻撃的な疾患であるが、これを診断することは非常に難しいという欠点がある。また、膵臓癌は急性に発症し、診断が遅れ、低い生存率を示す最も深刻な悪性腫瘍の一つである。よって、肺癌のような他の種類の癌は平均生存率が上昇するのに対し、膵臓癌は診断および治療が難しくて生存率がむしろ下落する傾向を示している。
【0006】
最も代表的な癌である肺癌と比較した時、膵臓癌は、他の臓器で癌が発症したという根本的な相違のみならず、異なる臨床病理学的特徴および分子生物学的特徴を示していて、治療に相違がある。分子生物学的に約90%の大部分の膵臓癌において癌遺伝子(oncogene)であるras遺伝子の変異が現れると報告されていて、ras癌遺伝子の変異が10%水準と低くなる肺癌などとは治療的観点が異なる。その他にも、大部分の膵臓癌患者では、肺癌患者に比べて非常に攻撃的な経過および生物学的特徴を示し、これによって悪い予後につながるという危険性を有する。膵臓癌患者は局所進行性であり、切除術を実施しにくい点が多く、転移性の疾患を一般的に示し、たびたび集中治療による副作用に敏感に反応する。患者のたった10~15%だけが手術的切除で治療できる形であり、手術で根本的な治療をした後にも再発の割合が非常に高い状態で残っている。
【0007】
したがって、膵臓癌をより効果的に治療できる抗癌剤の開発およびこれを用いる治療戦略に関する研究が持続的に行われているが、最近注目されているターゲット治療剤や免疫治療剤が臨床で実際に適用される範囲は、肺癌、乳癌、胃癌などのような代表的な癌疾患で適用される限界があり、これに比べて、膵臓癌でも同一の効果を奏し得ない場合が多く報告されている。したがって、膵臓癌に対する新たな治療戦略に対するニーズが高まっている。
【0008】
ゴシポールは、ワタ属(Gossypium sp.)から誘導される、天然に存在する二重ビフェノール性化合物である。生体内でAldehyde dehydrogenase(ALDH)の抑制剤として知られていて、これを用いた治療用途について研究されている。男性避妊剤としてのゴシポールの人体実験は、これら化合物の長期間投与の安全性を示すことが報告されている。
【0009】
フェンホルミン(Phenformin)は、メトホルミン(Metformin)のようなビグアニド(biguanide)系の薬物で糖尿病治療剤として知られている。しかし、フェンホルミンのようなビグアニド系の薬物が炭水化物代謝と脂質代謝を生理的に調節する核心酵素であるAMPK(AMP-activated protein kinase)を活性化させて、p53遺伝子が欠如した癌の治療に効果的と知られ始めるにつれ、フェンホルミン薬物の抗癌効果に関する研究が進められ、フェンホルミンの抗癌効果に対する可能性が裏付けられた。
【0010】
このように、ゴシポールおよびフェンホルミンに対するそれぞれの抗癌効果については知られているが、膵臓癌でこれらを併用処理した時の相乗効果についてはまだ研究されていない。
【0011】
したがって、本発明者らは、少ない用量でも相乗的抗癌効果を奏することができる膵臓癌治療剤を発掘するために努力した結果、膵臓癌細胞の生長抑制効果が、ゴシポールおよびフェンホルミンを混合して併用処理した時、それぞれの単独処理より有意に増加するシナジー効果を奏することができることを確認し、膵臓癌マウスモデルでも腫瘍の重量および体積の増加においてゴシポールおよびフェンホルミンの併用投与でシナジー効果を奏することができることを確認した。また、本発明者らは、ゴシポールおよびフェンホルミンにイリノテカン、ゲムシタビンまたはパクリタキセルを混合して、三重組み合わせ薬物として膵臓癌に処理した時、膵臓癌増殖抑制効果がより著しく増加できることを確認して、本発明のゴシポールおよびフェンホルミンを含む薬学的組成物が膵臓癌の治療においてそれぞれの薬物を少量投与してもシナジーの抗-膵臓癌効果を奏することができることを確認することにより、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、膵臓癌の治療効果において、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用投与した時、単独投与時より有意なシナジー効果を奏することができることを確認することにより、本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明の目的は、膵臓癌予防および治療用薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、ゴシポールおよびフェンホルミンを有効成分として含む膵臓癌予防および治療用薬学的組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、ゴシポールおよびフェンホルミンに、抗癌剤を追加的にさらに含む、膵臓癌予防および治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
また、本発明は、有効な量のゴシポールおよびフェンホルミンを必要な個体に投与する段階を含む、膵臓癌予防または治療方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、有効な量のゴシポールおよびフェンホルミンとともに、抗癌剤を追加的にさらに含むことで、必要な個体に投与する段階を含む、膵臓癌予防または治療方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、膵臓癌予防および治療に使用するための、ゴシポールおよびフェンホルミンを有効成分として含む薬学的組成物の用途を提供する。
【0019】
なお、本発明は、膵臓癌予防および治療に使用するための、ゴシポールおよびフェンホルミンとともに、抗癌剤を追加的にさらに含む薬学的組成物の用途を提供する。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態において、前記ゴシポールは、下記化学式1の化合物であってもよく、前記フェンホルミンは、下記化学式2の化合物であってもよい:
【化1】
;および
【化2】
【0021】
本発明の好ましい一実施形態において、前記ゴシポールおよびフェンホルミンは、1:10~1:500のモル比率で混合される。
【0022】
本発明の好ましい一実施形態において、前記追加的にさらに含む抗癌剤は、イリノテカン、ゲムシタビンおよびパクリタキセルからなる群より選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
したがって、本発明は、ゴシポールおよびフェンホルミンを有効成分として含む膵臓癌予防および治療用薬学的組成物を提供する。
【0024】
本発明のゴシポールは、ALDHの発現および活性阻害剤として細胞内ATPの欠乏が誘発されて癌細胞が死滅できる役割を果たし、フェンホルミンは、ミトコンドリア複合体Iの抑制剤としてミトコンドリア膜電位を減少させてATPの欠乏現象の相乗効果を奏することができるので、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用処理した時、それぞれの単独処理に比べて有意に増加した膵臓癌成長抑制効果を提供することができる。
【0025】
同時に、ゴシポールおよびフェンホルミンに加えて、イリノテカン、ゲムシタビンまたはパクリタキセルを混合した三重薬物を処理した時、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用処理することに比べてより有意に増加した膵臓癌成長抑制効果を提供することができる。
【0026】
したがって、本発明の膵臓癌予防および治療用薬学的組成物を用いて膵臓癌を治療する場合、低い濃度の薬物だけでも有意な膵臓癌細胞増殖抑制および腫瘍成長抑制効果を奏することができるので、正常細胞の生存には影響を及ぼすことなく特異的に膵臓癌のみを死滅することができて、効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、多様な膵臓癌細胞株におけるアルデヒド脱水素酵素(Aldehyde dehydrogenase、ALDH)の同型タンパク質の発現レベルの確認を示す。
【0028】
【
図2】
図2は、多様な膵臓癌細胞株におけるALDHの活性の確認を示す。
【0029】
【
図3】
図3は、多様な膵臓癌細胞株におけるゴシポールまたはフェンホルミンの単独投与による細胞増殖阻害効果を示す。
【0030】
【
図4】
図4は、Maiapaca2、Panc-1およびAspc-1の膵臓癌細胞株におけるゴシポールおよびフェンホルミンの併用処理による細胞増殖阻害のシナジー効果を示す:
【0031】
【
図4A】
図4Aは、5μMのゴシポールまたは100μMのフェンホルミンを単独処理したり、5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミンを併用処理した時の膵臓癌細胞株増殖抑制効果を確認した図であり;および
【0032】
【
図4B】
図4Bは、10μMのゴシポールまたは500μMのフェンホルミンを単独処理したり、10μMのゴシポールおよび500μMのフェンホルミンを併用処理した時の膵臓癌細胞株増殖抑制効果を確認した図である。
【0033】
【
図5】
図5は、正常細胞株であるIMR90におけるゴシポール、フェンホルミンまたはこれらの混合処理による細胞死滅の有無を確認した図である:
【0034】
【
図5A】
図5Aは、10μMのゴシポールまたは100μMのフェンホルミンを単独処理したり、10μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミンを併用処理した時間の経過による細胞死滅の有無をFITCアネキシンV細胞自殺検出分析により確認した結果であり;および
【0035】
【
図5B】
図5Bは、FITC V細胞自殺検出分析の結果を定量化した図である。
【0036】
【
図6】
図6は、膵臓癌細胞株におけるゴシポールおよびフェンホルミンの併用処理によるATPの欠乏効果を確認した図である。
【0037】
【
図7】
図7は、膵臓癌細胞株におけるゴシポールおよびフェンホルミンの併用処理によるミトコンドリア膜電位の減少効果を示す:
【0038】
【
図7A】
図7Aは、5μMのゴシポールまたは100μMのフェンホルミンを単独処理したり、5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミンを併用処理した時のミトコンドリア膜電位の減少効果を確認した図であり;および
【0039】
【
図7B】
図7Bは、5μMのゴシポールまたは1mMのフェンホルミンを単独処理したり、5μMのゴシポールおよび1mMのフェンホルミンを併用処理した時のミトコンドリア膜電位の減少効果を確認した図である。
【0040】
【
図8】
図8は、膵臓癌マウスモデルにおけるゴシポール単独投与、フェンホルミン単独投与、並びにゴシポールおよびフェンホルミンの併用投与(combination)群における体重変化を示す。
【0041】
【
図9】
図9は、膵臓癌マウスモデルにおけるゴシポール単独投与、フェンホルミン単独投与、並びにゴシポールおよびフェンホルミンの併用投与(combination)群における腫瘍成長減少効果を示す:
【0042】
【
図9A】
図9Aは、飼育日数による膵臓癌腫瘍の大きさ変化を確認した図であり;
【0043】
【
図9B】
図9Bは、飼育終了後の各薬物処理群における腫瘍重量を確認した図であり;および
【0044】
【
図9C】
図9Cは、飼育終了後の各薬物処理群における腫瘍の大きさを比較した図である。
【0045】
【
図10】
図10は、多様な膵臓癌細胞株におけるゴシポール、フェンホルミンおよびイリノテカンの併用処理による膵臓癌細胞増殖阻害のシナジー効果を示す:
【0046】
【
図10A】
図10Aは、2.5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは1μMのイリノテカンを単独処理したり、2.5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミン;または2.5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは1μMのイリノテカンを併用処理した時の膵臓癌細胞株増殖抑制効果を確認した図であり;および
【0047】
【
図10B】
図10Bは、5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは1μMのイリノテカンを単独処理したり、5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミン;または5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは1μMのイリノテカンを併用処理した時の膵臓癌細胞株増殖抑制効果を確認した図である。
【0048】
【
図11】
図11は、多様な膵臓癌細胞株におけるゴシポール、フェンホルミンおよび他の抗癌剤の併用処理による膵臓癌細胞増殖阻害のシナジー効果を示す:
【0049】
【
図11A】
図11Aは、5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは1μMのゲムシタビン(gemcitabin)を単独処理したり;5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミン;5μMのゴシポールおよび1μMのゲムシタビン;または5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは1μMのゲムシタビンを併用処理した時の膵臓癌細胞株増殖抑制効果を確認した図であり;および
【0050】
【
図11B】
図11Bは、5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは20nMのパクリタキセル(paclitaxel)を単独処理したり;5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミン;5μMのゴシポールおよび20nMのパクリタキセル;または5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは20nMのパクリタキセルを併用処理した時の膵臓癌細胞株増殖抑制効果を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0052】
上述のように、膵臓癌は、他の部位の癌に比べて診断および治療に困難がある癌であることから、これに対する効果的な治療方法が必要で、少ない濃度の抗癌剤を併用投与してシナジー効果を得ようとする研究が進められている。
【0053】
本発明の膵臓癌予防および治療用薬学的組成物を用いて膵臓癌を治療する場合、低い濃度の薬物だけでも有意な膵臓癌細胞増殖抑制および腫瘍成長抑制効果を奏することができるので、正常細胞の生存には影響を及ぼすことなく特異的に膵臓癌だけを死滅することができて、効果的である。
【0054】
したがって、本発明は、ゴシポール(gossypol)およびフェンホルミン(phenformin)を有効成分として含む膵臓癌予防および治療用薬学的組成物を提供する。
【0055】
本発明で提供する組成物の「ゴシポール」は、細胞内でALDHの発現抑制剤および活性抑制剤として役割を有する。具体的には、ゴシポールは、細胞内serine-folate機序においてALDHがNDAHを生成し、これからATPが生成される細胞機序において、ゴシポールがALDHの発現および活性抑制剤として作用して細胞内ATPの欠乏を誘発することにより癌細胞が死滅できる。前記ゴシポールは、下記化学式1の構造を有する:
【化3】
【0056】
本発明で提供する組成物の「フェンホルミン」は、細胞内でミトコンドリア複合体Iの抑制剤の役割を果たす。具体的には、フェンホルミンは、ミトコンドリア複合体Iの活性抑制によりミトコンドリア膜電位を減少させることができ、結果的に、細胞内ATPの合成が低下するため、癌細胞が効果的に死滅できる。前記フェンホルミンは、下記化学式2の構造を有する:
【化4】
【0057】
本発明で提供する組成物の有効成分として含まれるゴシポールおよびフェンホルミンにおいて、薬学的に同一または類似の水準の効果を奏すると当業者に認められる、同等物および等価物の範囲をすべて含むことができる。具体的には、前記ゴシポールおよびフェンホルミンは、これらの薬学的に許容可能な塩、水和物または溶媒和物を選択して使用することができる。
【0058】
本発明の薬学的組成物において、前記ゴシポールおよび前記フェンホルミンを併用投与することにより、膵臓癌増殖抑制および死滅誘導効果において有意なシナジー効果を得ることができる。この時、ゴシポールおよびフェンホルミンは、1:10~1:500のモル比率で混合され、具体的には、1:10~1:200のモル比率で混合されることがより好ましい。本発明の薬学的組成物により少ない濃度の抗癌剤を用いて有意に膵臓癌予防および治療効果を得ようとする観点から、前記ゴシポールおよびフェンホルミンは、1:10~1:100のモル比率で混合されることがより好ましい。
【0059】
より具体的には、本発明の薬学的組成物は、ゴシポールを1~20μMの濃度で含むことができ、この時、フェンホルミンの濃度は、前述した混合比率で混合することができ、10μM~10mM、好ましくは、10μM~4mM、より好ましくは、10μM~2mMの濃度範囲で通常の技術者によって選択的に使用可能である。また、本発明の薬学的組成物は、フェンホルミンを50μM~1mMの濃度で含むことができ、この時、ゴシポールの濃度は、前述した混合比率で混合することができ、2μM~100μM、好ましくは、5μM~100μM、より好ましくは、10μM~100μMの濃度範囲で通常の技術者によって選択的に使用可能である。
【0060】
本発明の具体的な実施例において、本発明者らは、膵臓癌細胞におけるALDHの発現および活性レベルが増加した(
図1および
図2)。よって、ALDH抑制剤であるゴシポールを処理した時、膵臓癌細胞の増殖が有意に抑制されることを確認し、フェンホルミンの処理によっても膵臓癌細胞の増殖抑制効果が現れることを確認した(
図3)。よって、本発明者らは、ゴシポールおよびフェンホルミンを混合して膵臓癌細胞に併用処理した結果、単独処理した実験群に比べて著しく増加した膵臓癌細胞増殖抑制効果が現れることを確認した(
図4)。
【0061】
そこで、本発明者らは、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用処理した時、膵臓癌抑制効果の相乗効果が現れる原因を究明するために、細胞内ATPの生産レベルを確認した結果、ゴシポールまたはフェンホルミンを単独処理した群に比べて、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用処理した時、細胞内ATPの欠乏が増加することを確認し(
図6)、これと同じく、ミトコンドリア膜電位も有意に減少して、これによってもATPの欠乏効果が増加できることを確認した(
図7)。
【0062】
本発明のもう一つの具体的な実施例において、本発明者らは、生体内レベルでゴシポールおよびフェンホルミンの併用投与による膵臓癌治療効果を奏することができるかを確認すべく、膵臓癌細胞をマウスに異種移植し、ゴシポールおよびフェンホルミンを経口投与で注射して、ゴシポールおよびフェンホルミンの併用投与によって膵臓癌の重量および体積の増加レベルが著しく減少することを確認した(
図8および
図9)。
【0063】
本発明のもう一つの具体的な実施例において、本発明者らは、ゴシポールおよびフェンホルミンに加えてイリノテカンを併用する、三重薬物投与による膵臓癌治療効果を確認すべく、膵臓癌細胞に対する細胞増殖抑制効果を確認した結果、ゴシポールおよび/またはフェンホルミンを単独または併用投与する場合に比べて、ゴシポール、フェンホルミンおよびイリノテカンの組み合わせで三重併用投与する場合、より膵臓癌細胞増殖抑制活性が増加してシナジー効果を奏することができることを確認した(
図10)。イリノテカンを混合する場合、シナジー効果がより増加できるにあたり、イリノテカンの代わりにゲムシタビンまたはパクリタキセルを併用投与した時、ゴシポールおよびフェンホルミンのみを処理する場合に比べて膵臓癌細胞増殖抑制効果が増加することを確認した(
図10および
図11)。
【0064】
したがって、本発明のゴシポールは、ALDHの発現および活性阻害剤として細胞内ATPの欠乏が誘発されて癌細胞が死滅できる役割を果たし、フェンホルミンは、ミトコンドリア複合体Iの抑制剤としてミトコンドリア膜電位を減少させてATPの欠乏現象の相乗効果を奏することができるので、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用処理した時、それぞれの単独処理に比べて有意に増加した膵臓癌成長抑制効果を提供することができる。
【0065】
また、本発明で提供する濃度範囲でゴシポールおよびフェンホルミンを混合して膵臓癌の治療に適用すれば、ゴシポールまたはフェンホルミンを単独投与によって有意な膵臓癌治療効果が得られない濃度範囲でも、併用投与によって膵臓癌死滅効果が著しく増加して効果的な膵臓癌の治療が可能である。特に、膵臓癌ではALDHの発現および活性レベルが高いが、ゴシポールによりALDHの発現および活性を抑制して細胞内ATPの欠乏効果を増加させることができ、この時、フェンホルミンによるATPの欠乏効果が相乗作用を示すことができ、これによって膵臓癌治療効果を奏することができることから、本発明の薬学的組成物は、正常細胞の生存には影響を及ぼすことなく特異的に膵臓癌だけを死滅することができて、効果的である。
【0066】
また、本発明の膵臓癌予防および治療用薬学的組成物には、抗癌剤を追加的にさらに含んでもよい。この時、使用可能な抗癌剤は、ナイトロジェンマスタード、イマチニブ、オキサリプラチン、リツキシマブ、エルロチニブ、ネラチニブ、ラパチニブ、ゲフィチニブ、バンデタニブ、ニロチニブ、セマサニブ、ボスチニブ、アキシチニブ、セジラニブ、レスタウルチニブ、トラスツズマブ、ゲフィチニブ、ボルテゾミブ、スニチニブ、カルボプラチン、ソラフェニブ、ベバシズマブ、シスプラチン、セツキシマブ、ビスクムアルブム、アスパラギナーゼ、トレチノイン、ヒドロキシカルバミド、ダサチニブ、エストラムスチン、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、ヘプタプラチン、メチルアミノレブリン酸、アムサクリン、アレムツズマブ、プロカルバジン、アルプロスタジル、硝酸ホルミウムキトサン、ゲムシタビン、ドキシフルリジン、ペメトレキセド、テガフール、カペシタビン、ギメラシン、オテラシル、アザシチジン、メトトレキサート、ウラシル、シタラビン、フルオロウラシル、フルダラビン、エノシタビン、フルタミド、デシタビン、メルカプトプリン、チオグアニン、クラドリビン、カルモフール、ラルチトレキセド、ドセタキセル、パクリタキセル、イリノテカン、ベロテカン、トポテカン、ビノレルビン、エトポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、テニポシド、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ピラルビシン、アクラルビシン、ペプロマイシン、テムシロリムス、テモゾロミド、ブスルファン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、アルトレタミン、ダカルバジン、チオテパ、ニムスチン、クロラムブシル、ミトラクトール、ロイコボリン、トレトニン、エキセメスタン、アミノグルテチミド、アナグレリド、ナベルビン、パドラゾール、タモキシフェン、トレミフェン、テストラクトン、アナストロゾール、レトロゾール、ボロゾール、ビカルタミド、ロムスチンおよびカルムスチンからなる群より選択されたいずれか1つ以上であることが好ましいが、これに限定されず、ゴシポールのようなALDH抑制活性を有するか、フェンホルミンのようなビグアニド(biguanide)系の薬物であってもよい。具体的には、前記抗癌剤は、イリノテカン、ゲムシタビンおよびパクリタキセルからなる群より選択されるいずれか1つ以上であることがより好ましい。より具体的には、前記抗癌剤は、薬学的に同一または類似の水準の効果を奏すると当業者に認められる、同等物および等価物の範囲をすべて含むことができ、選択される抗癌剤に対して薬学的に許容可能な塩、水和物または溶媒和物を選択して使用することができる。
【0067】
本発明の薬学的組成物において、前記ゴシポール、前記フェンホルミンおよび前記抗癌剤を併用投与することにより、膵臓癌増殖抑制および死滅誘導効果において有意なシナジー効果を得ることができる。この時、ゴシポール、フェンホルミンおよび抗癌剤は、抗癌剤を0.1~10:10~500:1のモル比率で混合することができ、具体的には、1~7:50~200:1のモル比率で混合することがより好ましい。本発明の薬学的組成物により少ない濃度の抗癌剤を用いて有意に膵臓癌予防および治療効果を得ようとする観点から、前記ゴシポールおよびフェンホルミンは、2.5~5:100:1のモル比率で混合されることがより好ましい。
【0068】
より具体的には、本発明の薬学的組成物は、選択される抗癌剤を20nM~10μMの濃度で含むことができ、この時、ゴシポールおよびフェンホルミンの濃度は、前述した混合比率で混合することができる。すなわち、前記ゴシポールは、0.002μM~100μM、好ましくは、0.02μM~70μM、より好ましくは、0.05~50μMの濃度範囲で通常の技術者によって選択的に使用可能である。また、フェンホルミンも、前述した混合比率で混合することができ、0.2μM~5mM、好ましくは、1μM~2mM、より好ましくは、2μM~1mMの濃度範囲で通常の技術者によって選択的に使用可能である。
【0069】
本発明の組成物を医薬品として用いる場合、本発明の薬学的組成物は、臨床投与時に多様な下記の経口または非経口投与形態に製剤化されて投与されるが、これに限定されるものではない。
【0070】
経口投与用剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、硬質/軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤、エリキシル剤などがあるが、これらの剤形は、有効成分のほか、希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン)、滑沢剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸およびそのマグネシウムまたはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール)を含有している。錠剤はまた、マグネシウムアルミニウムシリケート、デンプンペースト、ゼラチン、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよび/またはポリビニルピロリジンのような結合剤を含有することができ、場合によって、デンプン、寒天、アルギン酸またはそのナトリウム塩のような崩壊剤または沸騰混合物、および/または吸収剤、着色剤、香味剤、および甘味剤を含有することができる。
【0071】
本発明の薬学的組成物は、非経口投与してもよいし、非経口投与は、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射を注入する方法による。この時、非経口投与用剤形に製剤化するために、ゴシポールおよびフェンホルミンを安定剤または緩衝剤とともに水に混合して溶液または懸濁液に製造し、これをアンプルまたはバイアル単位の投与型に製造することができる。前記組成物は、滅菌され/されるか、防腐剤、安定化剤、水和剤または乳化促進剤、浸透圧調節のための塩および/または緩衝剤などの補助剤、およびその他治療的に有用な物質を含有することができ、通常の方法である混合、顆粒化またはコーティング方法によって製剤化することができる。
【0072】
また、本発明の薬学的組成物の人体に対する投与量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態および疾患の程度に応じて異なり、体重が60kgの成人患者を基準とする時、一般的に、0.001~1,000mg/日であり、好ましくは、0.01~500mg/日であり、医師または薬剤師の判断によって、一定時間間隔で1日1回~数回分割投与してもよい。
【0073】
また、本発明は、ゴシポールおよびフェンホルミン、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、水和物または溶媒和物を有効成分として含む、経口投与製剤を提供する。
【0074】
さらに、本発明は、ゴシポールおよびフェンホルミン、またはこれらの薬学的に許容可能な塩、水和物または溶媒和物に、追加的に抗癌剤をさらに含む、経口投与製剤を提供する。
【0075】
本発明の経口投与製剤は、60日以上の相乗的治療効果を奏することができる。具体的には、ゴシポールまたはフェンホルミンを単独投与した時は、その薬理効果の持続期間が短くて繰り返し投与による抗癌効果を期待しなければならないのに対し、ゴシポールおよびフェンホルミン;またはゴシポール、フェンホルミンおよび追加の抗癌剤を併用投与する場合には、前記単独投与時に比べて腫瘍成長抑制および癌治療効果を持続的に示すことができ、繰り返しの薬物投与に比べて効果的であり得る。
【0076】
本発明の経口投与製剤は、徐放性または制御放出性製剤であってもよい。徐放性製剤の場合には、ゴシポールおよびフェンホルミンが同時放出されてもよいし、制御放出性製剤の場合には、ゴシポールおよびフェンホルミン、またはフェンホルミンおよびゴシポールが順次に放出できるように調節可能である。
【0077】
本発明の経口投与製剤において、追加的に含まれる前記抗癌剤は、イリノテカン、ゲムシタビンおよびパクリタキセルからなる群より選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0079】
[実施例1]
多様な膵臓癌細胞株におけるアルデヒド脱水素酵素(Aldehyde dehydrogenase、ALDH)の発現および活性レベルの確認
膵臓癌におけるALDHの発現および活性レベルの変化を確認するために、多様な膵臓癌細胞株から確認した。
【0080】
具体的には、Panc1、ASPC-1、Miapaca2、SNU-213、SNU-324、SNU-410、Capan1、Capan2またはBxpc-3を培養した後、細胞を破砕して細胞抽出物を得て、免疫ブロッティング分析を行った。抗-ALDH抗体をそれぞれ用いて多様な同型ALDHの発現レベルをそれぞれ確認した。
【0081】
その結果、
図1に示されるように、多様な膵臓癌細胞株におけるALDHの同型タンパク質の発現レベルが有意に増加することを確認した。多様な膵臓癌細胞株を比較した時、ALDH1A3、3A2および4A1のALDHの発現レベルが、他の同型ALDHに比べて有意に高いことを確認した。
【0082】
また、それぞれの細胞内ALDHの活性を確認するために、Aldefluor activity分析を行った。正常細胞であるIMR90または293細胞株;Kras変異膵臓癌細胞株であるMiapaca2、Panc1、SNU-213、SNU-324またはASPC-1細胞株;またはKras野生型膵臓癌細胞株であるBXPC-3細胞株を培養し、ALDHの基質(BODIPYTM-aminoacetaldehyde-diethyl acetate、BAAA-DA)を含むAldefluor分析緩衝溶液に懸濁し、37℃で45分間培養した。その後、流細胞分析器(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)のFL-1チャネルを介して細胞の蛍光強度を検出した。
【0083】
その結果、
図2に示されるように、正常細胞対照群と比較した時、全体的に多様な膵臓癌細胞株におけるALDHの活性が増加することを確認した。このような増加は、特にKRAS変異を有する膵臓癌で増加した。
【0084】
[実施例2]
ゴシポールまたはフェンホルミンによる膵臓癌細胞生長抑制効果の確認
ゴシポール(gossypol)またはフェンホルミン(phenformin)がそれぞれ膵臓癌に対して癌細胞生長抑制効果を奏することができるかを確認した。
【0085】
具体的には、多様な膵臓癌細胞株であるMiapaca-2、Panc-1、Aspc-1、SNU-410、SNU-324またはBxpc-3細胞をそれぞれ培養しながら、培養時間の増幅期に応じて、それぞれの細胞を5000~20,000細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに接種した。接種後、ゴシポールまたはフェンホルミンをそれぞれのウェルに添加し、24時間、CO2培養器で培養した。その後、それぞれのウェルに最終濃度が10%となるように冷却した50%(w/v)卜リクロロ酢酸(trichloroacetic acid、TCA)を加えて細胞を固定した。固定した細胞外の上層液を除去し、水道水で5回程度プレートを洗浄した後、空気で乾燥(air dry)した。乾燥後、それぞれのウェルに1%酢酸を含む0.4%(w/v)スルホローダミンB緩衝溶液(Sulforhodamine B solution)を加え、室温で10分間放置して細胞を染色した。細胞の染色後に1%酢酸で5回洗浄して着色されていない染色薬を除去した後、空気で乾燥した。着色された染色薬は10mMトリズマ塩基(trizma base)で固定化した後、プレートリーダーを用いて515nmにおける吸光度を測定した。
【0086】
その結果、
図3に示されるように、それぞれの膵臓癌細胞にゴシポールまたはフェンホルミンを添加した時、癌細胞の増殖が有意に抑制されて薬物処理48時間後に完全に細胞増殖が抑制される効果を示した。これによって、ゴシポールおよびフェンホルミンは、それぞれ膵臓癌細胞に対して細胞増殖抑制効果を奏することができることを確認した。
【0087】
[実施例3]
ゴシポールおよびフェンホルミンの並行処理による癌細胞生長抑制効果の確認
<3-1>ゴシポールおよびフェンホルミンの並行処理による膵臓癌細胞生長抑制効果の確認
ゴシポールおよびフェンホルミンがそれぞれ膵臓癌細胞に対して増殖抑制効果を示すが、ゴシポールおよびフェンホルミンを混合した時、膵臓癌の増殖を抑制する効果が増加できるかを確認しようとした。
【0088】
具体的には、Miapaca2、Panc-1またはAspc-1細胞を培養した。培養した細胞に5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミン;または10μMのゴシポールおよび500μMのフェンホルミンを混合した混合薬物をそれぞれの細胞に処理して同一に培養した後、前記実施例2と同様の方法でSRB分析により膵臓癌細胞で細胞生長が抑制されるにあたり、ゴシポールおよびフェンホルミンの混合投与によるシナジー効果が現れるかを確認した。
【0089】
その結果、
図4に示されるように、ゴシポールまたはフェンホルミンを単独で処理した時には、薬物の処理濃度が低くて有意に細胞の生長を抑制することができなかった。これに対し、ゴシポールおよびフェンホルミンを混合して細胞に処理した時、細胞増殖抑制効果が著しく増加して、5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミン;または10μMのゴシポールおよび500μMのフェンホルミンを混合した混合薬物を膵臓癌細胞に処理した時、薬物処理48時間後に完全に細胞増殖が抑制される効果を示した。
【0090】
<3-2>ゴシポールおよびフェンホルミンの並行処理による正常細胞死滅の有無の確認
ゴシポールおよびフェンホルミンを並行処理した時、膵臓癌細胞に対して有意な細胞生長抑制効果を確認したので、膵臓癌細胞でない正常細胞株に対して細胞死滅の活性を示すか否かも併せて確認した。
【0091】
まず、正常上皮細胞株IMR90を培養した後、培養した細胞に10μMのゴシポールまたは100μMのフェンホルミンの単独薬物またはこれらを混合した混合薬物を細胞に処理し、計24、48および72時間培養した。培養した細胞は培地を除去して、冷PBSで2回洗浄し、1,400rpmで3分間遠心分離した後、1×106細胞/mLdmlの濃度で結合緩衝溶液を加えた。そして、100μMの緩衝溶液を5-mL培養チューブに移して、アネキシンV-FITCおよびプロピジウムヨード(PI)をそれぞれ5μlずつ加えた。チューブをゆっくりボルテックスして混合した後、室温の暗室で15分間培養した。培養後、結合緩衝溶液(400μl)を加え、流細胞分析器により細胞死滅の増加程度を確認した。
【0092】
その結果、
図5に示されるように、ゴシポール、フェンホルミンまたはこれらの混合を処理したIMR90細胞において時間が経過しても有意な細胞死滅が増加しないことを確認した。これによって、本発明のゴシポールおよびフェンホルミンは、正常細胞に対しては癌細胞に比べて有意な細胞死滅効果を示しておらず、癌細胞標的の薬物として使用できると判断した。
【0093】
[実施例4]
ゴシポールおよびフェンホルミンの並行投与によるATP生産阻害効果の確認
膵臓癌細胞生長抑制効果においてゴシポールおよびフェンホルミンを並行投与によるシナジー効果が現れることを確認したので、このようなシナジー効果がどのような原因によって現れるかを確認しようとした。ゴシポールはALDHの抑制剤として知られているので、ゴシポールおよびフェンホルミンを処理した時、膵臓癌細胞内におけるATPの生産レベルを確認した。
【0094】
具体的には、Miapaca2、Panc-1またはAspc-1細胞を培養した。培養した細胞に5μMのゴシポールおよび500μMのフェンホルミンを混合した混合薬物をそれぞれの細胞に処理して同一に培養した後、ATP Colorimetric/Fluorometric分析キット(BioVision、Milpitas、CA、USA)を用いて、製造会社の提供するプロトコルに従い、細胞内ATPのレベルを確認した。前記培養した細胞を1×106細胞に分けて100μlのATP分析緩衝溶液を加えて細胞を溶解した後、4℃で15,000×gで2分間遠心分離して上層液のみを分離した。分離した上層液2~50μlを96ウェルプレートに移した後、最終体積がウェルあたり50μlとなるようにATP分析緩衝溶液を加えた。その後、44μlのATP分析緩衝溶液、2μlのATPプローブ、2μlのATPコンバーターおよび2μlの展開剤混合物を含むATP反応混合物を、前記96ウェルプレートの各ウェルあたり50μlずつ加えて混合した。混合後、暗室で30分間プレートを室温放置した後、マイクロプレートリーダーを用いて570nmにおける吸光度を測定した。測定した値において相対的なATPのレベルを比較するために、ゴシポールおよびフェンホルミンを添加しない膵臓癌細胞に対する吸光度値を基準とし、それぞれの薬物を処理した場合の相対的な吸光度値を比較して、細胞内ATPのレベルを比較した。
【0095】
その結果、
図6に示されるように、ゴシポールまたはフェンホルミンをそれぞれ単独で処理した場合でも、薬物未処理対照群に比べて細胞内ATPのレベルが減少したが、ゴシポールおよびフェンホルミンを混合して併用処理した膵臓癌細胞においてATPのレベルがより有意に減少して、細胞内ATP阻害効果において薬物の併用処理によるシナジー効果が現れることを確認した。
【0096】
[実施例5]
ゴシポールおよびフェンホルミンの並行投与によるミトコンドリア膜電位の減少効果の確認
前記実施例4において、ゴシポールおよびフェンホルミンの並行投与によってATP生産抑制効果がシナジー効果を奏することができることを確認したので、フェンホルミンの活性において変化があるか否かをさらに確認しようとした。フェンホルミンは、ミトコンドリア複合体Iの抑制剤として知られているので、ゴシポールおよびフェンホルミンの並行投与によってミトコンドリア膜電位レベルに変化があるかを確認した。
【0097】
具体的には、Miapaca2、Panc-1またはAspc-1細胞を培養した。培養した細胞に5μMのゴシポールおよび100μMのフェンホルミン;または5μMのゴシポールおよび1mMのフェンホルミンを混合した混合薬物をそれぞれの細胞に処理して同一に24時間培養した後、それぞれの細胞培養液をチャンバスライド(蛍光顕微鏡分析用)または6-ウェルプレート(流細胞分析器分析用)に分注した。分注した培養液に、蛍光プローブである100nMのテトラメチルローダミンエステル(tetramethylrhodamine ester、TMRE)を処理し、20分間反応した。反応後、冷却したPBSで細胞を洗浄し、a Zeiss LSM510蛍光顕微鏡(Carl Zeiss、Oberkochen、Baden-Wurttemberg、Germany)で細胞の蛍光発色度を測定した。これとともに、585nm(FL-2)チャネルを用いて流細胞分析器で蛍光強度を分析した。
【0098】
その結果、
図7に示されるように、24時間薬物を処理して細胞を培養した結果、5μMのゴシポール、100μMのフェンホルミンまたは1mMのフェンホルミンで単独処理した場合では、ミトコンドリア膜電位が薬物未処理対照群により増加するか、類似の水準で現れた。これに対し、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用処理した膵臓癌細胞の場合、ミトコンドリア膜電位が著しく減少したことを確認した。
【0099】
[実施例6]
膵臓癌モデルにおけるゴシポールおよびフェンホルミンの併用投与による抗癌効果の確認
ゴシポールおよびフェンホルミンを併用処理する方が、それぞれを単独処理することに比べて、シナジーで上昇した癌細胞生長抑制効果を奏することができることを細胞レベル(In vitro)で確認したので、この後、生体内(In Vivo)レベルでも膵臓癌抑制効果を奏することができるかを確認した。
【0100】
まず、膵臓癌マウスモデルを作るために、6~8週齢のBalb/c-nuマウス(Central Lab.Animal、Highland Heights、KY、USA)を用意した。また、5.0×106のMiapaca2膵臓癌細胞株を培養し、前記用意したマウスに1mlのシリンジで皮下注射した。2週間マウスを飼育して、それぞれ6匹ずつ、計4つの群に分けて、これらをそれぞれ溶媒対照群(10%DMSO、40%PEG、50%PBS)、40mg/kg/100μlのゴシポール単独投与群、100mg/kg/100μlのフェンホルミン単独投与群およびゴシポール+フェンホルミン併用投与群として使用した。それぞれのマウス群には溶媒または薬物を毎日1回ずつ経口投与し、計61日間、同じ環境で飼育した。飼育しながら、毎3日ごとに、マウス群の体重および腫瘍の大きさを確認して平均を求めた。膵臓癌細胞の注入後、初期腫瘍の大きさはキャリパー(calliper)を用いて特定した。腫瘍の体積は下記数式1を用いて求めた。
【0101】
【0102】
その結果、
図8および
図9に示されるように、膵臓癌腫瘍が成長するマウスモデルの体重は、各実験群間の有意な差を示していないが、腫瘍の体積および重量において薬物処理によって有意な差を示すことを確認した。膵臓癌細胞株の注入により膵臓癌腫瘍を移植したマウスモデルのうち、薬物を投与しなかった溶媒対照群において持続的に腫瘍の体積が増加した。これに対し、ゴシポールまたはフェンホルミンをそれぞれ単独で投与した群では、腫瘍の体積増加の大きさがやや減少する傾向を示した。しかし、このような腫瘍の体積増加が抑制される効果は、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用投与した場合でよりシナジー効果を示して、計60日間の膵臓癌マウスモデルの飼育後にも有意に腫瘍が増加しないことを確認した。飼育終了後、マウスを犠牲にして腫瘍の大きさおよび重量を比較した時にも、ゴシポールまたはフェンホルミンを単独で投与したモデル群より、ゴシポールおよびフェンホルミンを併用投与したモデル群の腫瘍の重量および大きさの増加レベルが著しく減少することを確認した。
【0103】
[実施例7]
ゴシポール、フェンホルミンおよび抗癌剤の並行処理による癌細胞生長抑制効果の確認
ゴシポールおよびフェンホルミンを混合した時、有意に膵臓癌に対する抗癌効果を奏することができることを確認して、ゴシポールおよびフェンホルミンに加えてイリノテカン(irinotecan)を混合して、3つの薬物を同時に処理すること(triple combination)により、抗癌活性のシナジー効果を奏することができるかを確認しようとした。
【0104】
具体的には、Miapaca2、Panc-1、CAPAN1、CAPAN2、ASPC-1、SNU-213、SNU-324またはBXPC-3細胞を培養した。それぞれ培養した細胞にゴシポール、フェンホルミンおよびイリノテカンを単独または混合した薬物をそれぞれの細胞に処理した。薬物を処理した後、細胞を48時間培養した後、前記実施例2と同様の方法でSRB分析により膵臓癌細胞における細胞生長が抑制されるにあたり、ゴシポール、フェンホルミンおよびイリノテカンの混合投与によるシナジー効果が現れるかを確認した。対照群(control)として薬物を処理しない未処理群を用い、前記対照群に比べてそれぞれの薬物処理群の相対的な細胞増殖の程度を示して百分率で計算した。
【0105】
その結果、
図10に示されるように、ゴシポールまたはフェンホルミンを単独投与した群に比べると、イリノテカンを1μMの濃度で処理した実験群における膵臓癌細胞の増殖程度が有意に減少することを確認した(
図10Aおよび
図10B)。ゴシポールおよびフェンホルミンを並行処理した二重薬物処理群においては、単独投与群に比べてより膵臓癌細胞の増殖レベルが減少することを確認し、ゴシポール、フェンホルミンおよびイリノテカンを並行処理した三重薬物処理群において膵臓癌細胞増殖抑制効果が著しく増加して、膵臓癌細胞の増殖が抑制されるだけでなく、死滅効果まで同時に現れることを確認した。
【0106】
これとともに、ゴシポールおよびフェンホルミンと並行処理する抗癌剤として、イリノテカンの代わりにゲムシタビン(Gemcitabine)またはパクリタキセル(paclitaxel)を処理した後、SRB分析を同一の方法で行って膵臓癌細胞の増殖レベルを確認した。
【0107】
その結果、
図11に示されるように、ゴシポール、フェンホルミンおよびゲムシタビンを並行処理した実験群、およびゴシポール、フェンホルミンおよびパクリタキセルを並行処理した実験群ともにおいて、ゴシポールおよびフェンホルミンの二重薬物を並行処理した実験群に比べて膵臓癌細胞の増殖レベルが有意に減少して、膵臓癌細胞に対する抗癌活性においてシナジー効果を示すことを確認した(
図11Aおよび
図11B)。