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  • 特許-歯科用光硬化性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】歯科用光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/60 20200101AFI20241002BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20241002BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20241002BHJP
   B29C 64/264 20170101ALN20241002BHJP
   B29C 64/106 20170101ALN20241002BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALN20241002BHJP
   A61C 13/15 20060101ALN20241002BHJP
   C08F 290/06 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/62
A61K6/887
B29C64/264
B29C64/106
B33Y70/00
A61C13/15
C08F290/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020023758
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021126854
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390038999
【氏名又は名称】デンケン・ハイデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】菱本 宗光
(72)【発明者】
【氏名】奥野 裕志
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/132472(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049426(WO,A1)
【文献】特表2016-509156(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107322(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/231583(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 70/00-70/10
A61C 13/00-13/38
C08F 290/06-290/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光造形に用いられる光硬化性組成物であって、
(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート61~72重量%と、
(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート20~32重量%と、
(C)フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド1.5~3重量%と、
(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテル0.05~3重量%と、を含有する歯科用光硬化性組成物。
【請求項2】
前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートが、二官能ビスフェノールAジメタクリレートであり、
前記(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートが、ウレタンジメタクリレートであり
記(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテルが、ハイドロキノンモノメチルエーテルである、請求項1に記載の歯科用光硬化性組成物。
【請求項3】
前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートおよび前記(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートを含有しない、請求項に記載の歯科用光硬化性組成物。
【請求項4】
前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートが、以下の式(2)で示される、請求項に記載の歯科用光硬化性組成物。
【化2】
(mおよびnは、繰り返し数の平均値を示しており、2≦(m+n)≦3である。)
【請求項5】
前記(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート100重量部に対して、30~50重量部である、請求項1に記載の歯科用光硬化性組成物。
【請求項6】
歯冠または人工歯の作製に用いられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯科用光硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、歯冠、人工歯などの材料として用いられる歯科用光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の立体形状を効率良く製造するために三次元造形技術が用いられている。例えば、特許文献1には、人工歯および義歯床に求められる機械的特性を実現することを目的とした、三次元造形に適した粘度および硬化速度を備えた組成物が記載されている。同文献に記載の組成物は、組成物の総重量に対して、ポリメチルメタクリレートがメチルメタクリレートモノマー溶媒に溶解している溶液、多官能性脂肪族(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、二官能性ビスフェノール-Aジメタクリレート、光開始剤、光安定剤、および着色顔料を各所定量で含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-525150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯冠や人工歯などを三次元造形する場合、硬化物が所定の物性(曲げ特性、硬度、吸水性等)および歯科用に適した外観を備えていること、ならびに三次元造形によって精密に造形でき造形精度がよいことが必要である。
近年、造形光源には熱発生が少ないUV-LED光源が用いられることが多く、発光波長である365~405nmに適した光重合開始材を選択する必要がある。一方、350nm以上の波長に有効な開始材を使用すると材料に残存した開始材や反応生成物による変色が問題になることが多い。歯冠や人工歯の場合、透明感がある繊細な歯の色調が求められるため、硬化物が所定の物性(曲げ特性、硬度、吸水性等)および歯科用に適した外観を備える光硬化性組成物を実現することは困難であった。
そこで、本発明は、歯科用として必要な物性および外観を備えた硬化物を精度良く造形できる歯科用光硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特定の成分を所定量配合することにより、必要な物性および外観を備えた硬化物を精度良く造形できる歯科用光硬化性組成物が得られるという知見に基づいたものであり、以下の構成を備えている。
【0006】
[1]光造形に用いられる光硬化性組成物であって、(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート61~72重量%と、(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート20~32重量%と、(C)フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド1.5~3重量%と、(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテル0.05~3重量%と、を含有する歯科用光硬化性組成物。
【0007】
[2]前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートが、二官能ビスフェノールAジメタクリレートであり、前記(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートが、ウレタンジメタクリレートであり、前記(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテルが、ハイドロキノンモノメチルエーテルである、[1]に記載の歯科用光硬化性組成物。
[3]前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートおよび前記(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートを含有しない、[1]に記載の歯科用光硬化性組成物。
【0009】
]前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートが、以下の式(2)で示される、[]に記載の歯科用光硬化性組成物。
【化2】
(mおよびnは、繰り返し数の平均値を示しており、2≦(m+n)≦3である。)
[5]前記(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、前記(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート100重量部に対して、30~50重量部である、[1]に記載の歯科用光硬化性組成物。
【0010】
[6]歯冠または人工歯の作製に用いられる、[1]~[5]のいずれか一項に記載の歯科用光硬化性組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用光硬化性組成物は、(A)~(C)の各成分を所定量で含んでいるから、光造形に適した粘度を備えた液体となり、歯科用の歯冠や人工歯として適した物性を備えた硬化物を精度よく造形することができる。また、(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテルにより硬化物の着色が抑えられるから、硬化物の色を調整することが容易な、歯冠や人工歯として好適な審美性の高い硬化物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】比較例1および実施例5~7の試料の色調を示す図面代用写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の歯科用光硬化性組成物(以下、適宜「組成物」という)は、(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、(C)光重合開始剤、および(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテルを含有している。以下、各成分について説明する。なお、(A)~(D)の各成分は、一種からなるものでも二種以上からなるものでもよい。
【0014】
(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
本発明の組成物は、ビスフェノール骨格(ベンゼン骨格)を備えたエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートを含有することにより、3Dプリンタを用いた光造形に適した粘度とするとともに、硬化時の架橋密度を上げている。これにより、高い硬度を備えた吸水量の小さい硬化物を製造することができる。
【0015】
歯科用の歯冠および人工歯に適した物性(曲げ強度、硬度、吸水量)を備えた硬化物を造形精度よく形成する観点から、組成物100重量%におけるエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの含有量は、50~72重量%が好ましく、61~70重量%がより好ましく、66~70重量%がさらに好ましい。なお、本明細書において「A~B重量%」は「A重量%以上B重量%以下」を示す。
【0016】
高い硬度を備えた硬化物を得る観点から、(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートとしては、上述した式(1)で示される二官能ビスフェノールAジメタクリレートが好ましく、式(2)で示される二官能ビスフェノールAジメタクリレートがより好ましい。式(2)で示されるもののうち、(m+n)が2.2以上2.8以下[2.2≦(m+n)≦2.8]のものがさらに好ましく、(m+n)が2.3以上2.6以下[2.3≦(m+n)≦2.6]のものが特に好ましい。
【0017】
(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート
本発明の組成物は、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートを含有することにより、表面硬化性を向上させている。エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートと脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートとを併用することにより、組成物を3Dプリンタ(三次元プリンタ)による光造形に適した粘度を備えた液体とすることができる。また、光造形により、歯冠、人工歯に適した物性(曲げ、硬度、吸水量)を備えた硬化物を製造することができる。
【0018】
歯科用に適した硬化物を得る観点から、組成物100重量%における脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、20~32重量%が好ましく、25~31重量%がより好ましい。
【0019】
硬度を高くするとともに吸水量の小さい硬化物とする観点から、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート100重量部に対して、20~250重量部が好ましく、25~100重量部がより好ましく、30~50重量部がさらに好ましい。
【0020】
脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートとしては、ウレタンジメタクリレート、ウレタンメタクリレートなどが挙げられ、ウレタンジメタクリレートが好ましい。なお、本発明において、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよびメタクリレートを含む。
【0021】
本発明の組成物は、(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートおよび(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートを含有しないものとして実施することができる。また、他のモノマーとして、(A)および(B)成分以外の(メタ)アクリレートを含有してもよい。他のモノマーとしてはジメタクリレートなどが挙げられ、ジメタクリレートを添加することにより、組成物の粘度の調整が容易になる場合がある。
【0022】
(C)光重合開始剤
光重合開始剤は、光を照射することでラジカルを発生するものであれば特に限定されないが、光造形の際に用いる光の波長でラジカルを発生するものが好ましい。光造形の際に用いる光の波長としては、一般的には365nm~500nmが挙げられるが、実用上好ましくは365nm~430nmであり、より好ましくは365nm~420nmである。
【0023】
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、α-アシロキシムエステル系化合物、フェニルグリオキシレート系化合物、ベンジル系化合物、アゾ系化合物、ジフェニルスルフィド系化合物、有機色素系化合物、鉄-フタロシアニン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、アントラキノン系化合物等が挙げられる。
【0024】
これらのうち、反応性等の観点から、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド系化合物が好ましい。組成物の造形精度が良くなることから、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0025】
造形精度のよい組成物とする観点から、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド等の光重合開示剤の配合量は、1~3重量%が好ましく、1.2~2.8重量%がより好ましく、1.5~2.5重量%がさらに好ましい。
【0026】
(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテル
組成物がハイドロキノンモノアルキルエーテルを含有することにより、組成物の光造形により得られる硬化物が赤褐色などに着色することを抑制できる。ハイドロキノンモノアルキルエーテルとしては、ハイドロキノンモノメチルエーテルが挙げられる。
【0027】
硬化物の変色を抑制しつつ、造形精度のよい組成物とするための観点から、組成物100重量%におけるハイドロキノンモノアルキルエーテルの含有量は、0.05~3重量%が好ましく、0.1~2重量%がより好ましい。また、赤褐色の着色を抑制するために必要かつ十分な配合量とする観点から、1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましい。
【0028】
硬化物の色を歯科用のクラウンや義歯に適した色に調整するため、例えば、組成物100重量%中に0.1~3重量%程度の着色顔料が用いられる。硬化物のベースとなる組成物の色にかかわらず、着色顔料を用いて硬化物の色を調整することが可能である。しかし、酸化チタンなどの着色顔料の配合量が多くなると、歯科用として好ましい適度な透明感を備えた硬化物とすることが困難になる。そこで、本発明の組成物は、着色顔料を含まない硬化物の着色を抑えるために、ハイドロキノンモノアルキルエーテルを含有している。これにより、硬化物を調色するために必要な着色顔料の配合量を少なくすることができる。例えば、組成物100重量%中の着色顔料の配合量を1.0重量%未満、0.3重量%未満、さらには、0.1重量%未満とすることが可能になる。したがって、多量の着色顔料を含有することによる不透明で不自然な色となることを防ぎ、審美性に優れた透明性の高い歯科用に適した硬化物とすることができる。
【0029】
本発明の組成物を光造形して得られる硬化物は、着色が少なく審美性に優れている。このため、歯科用の口腔内において用いられる補填物として好適である。歯科用の補填物としては、歯冠(クラウン)、人工歯(義歯)、インレー、義歯床、ブリッジなどが挙げられるが、特に、歯冠または人工歯の作製に用いられる組成物として有用である。
【0030】
本発明の組成物は、(A)~(D)の成分の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、ジメタクリレートなどの他のモノマー、無機充填剤、着色顔料などが挙げられる、
【0031】
3Dプリンタを用いた光造形の方式としては、SLA(StereoLithographyApparatus)方式、DLP(DigitalLightProcessing)方式、インクジェット方式などが挙げられる。
【実施例
【0032】
実施例によって本発明をより具体的に説明するが、実施例に本発明の技術的範囲を限定するものではない。以下の記載においては、「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示し、各工程における液の温度は室温(約23℃)を示す。
【0033】
実施例、比較例、および参考例で用いた原料の略称を以下に示す。
(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
EBDM-2.6:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(m+n=2.6)
EBDM-4:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(m+n=4)
(B)脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート
UDMA:ウレタンジメタクリレート
(C)光重合開始剤
PB :フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド
DP :ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド
(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテル
MEHQ:ハイドロキノンモノメチルエーテル
(A)(B)以外の(メタ)クリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
【0034】
(造型装置)
表1~表5に示す各成分を各配合量で含有する組成物を用いて、3DプリンタとしてRapidshape製「D30」により造形後、当該試料をポストキュア装置としてNextDent社製「LC-3D print box」を用いて最終硬化を行い測定用の試料とした。
曲げ強度、硬度、吸水量、色調の測定に用いた各試料は、JIS T 6517:2011に従ったサイズに調製した(曲げ強度用の試料:2mm×2mm×25mmの棒状体、硬度・吸水量・色調用の試料:φ15mm×1mmの円盤状)。色調は20mm×20mm×2mmサイズの板状の試料でも確認を行い、造形精度は隆起のある臼歯冠形状の試料を製造(造形)して確認した。
以下の評価方法を用いて評価した結果を表1~表5に示す。
【0035】
(評価方法)
実施例および比較例の性能評価において用いた試験方法は次のとおりである。
(1)曲げ強度、硬度
JIS T 6517:2011に従って、各試験を実施した。
歯冠用硬質レジンの規格である、曲げ強度80MPa以上、ビッカース硬度18以上(Hv0.2)を用いて、以下の基準により評価した。
〇:規格値を10%以上上回る(規格値の110%以上)
△:規格値以上(規格値の100%以上110%未満)
×:規格値に満たない(規格値の100%未満)
【0036】
(2)吸水量
歯冠用硬質レジンの規格である、吸水量40μg/mm3以下を用いて、以下の基準により評価した。
〇:規格値を10%以上上回る(規格値の90%以下)
△:規格値以上(規格値の90%を超え100%以下)
×:規格値に満たない(規格値の100%を超える)
【0037】
(2)色調
造形した試料の色を目視で確認し、以下の基準を用いて評価した。
〇:透明、白色、淡黄
△:淡橙
×:橙色、赤褐色
【0038】
(3)造形精度
造形した歯冠形状を目視により確認し、以下の基準を用いて評価した。
〇:造形データ通りの形状に造形できる
△:造形データよりも若干シャープに造形できないが、造形欠陥はない
×:造形データ通りの造形ができず、造形欠陥がある
【0039】
【表1】
(C)光重合開始剤として、PB:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイドを用いることにより、3Dプリンタを用いた場合に鋭角が形成できる造形精度の良好な組成物となった。
【0040】
【表2】
(A)エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートとして、式(2)で示されるEBDM-2.6を用いることにより、ビッカース硬度18以上の硬化物が得られた。この結果から、式(1)における(m+n)の数値が光造形により得られる硬化物の高度に影響することが分かった。ビッカース硬度18は、歯冠として要求される硬度であることから、特に、2≦(m+n)≦3である式(2)で示されるエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートが、歯冠として用いる硬化物とするために好ましいといえる。
【0041】
【表3】
(C)光造形剤としてPBを用いる場合、その配合量が造形精度に影響することが分かった。造形精度の良い組成物とする観点から、組成物100重量%中におけるPBの含有量は、1.2重量%以上が好ましく、1.5重量%以上がより好ましい。
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
図1は、比較例1および実施例3~5の試料の色調を示す図面代用写真である。図1、表4および表5に示すように、(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテルによって硬化物の変色を抑えることができた。(D)ハイドロキノンモノアルキルエーテルの量は、変色を抑える観点から、0.1重量%以上が好ましく、0.2重量%以上がより好ましい。また、造形精度の観点から、3重量%以下が好ましく、2重量%以下がより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の歯科用光硬化性組成物は、歯冠や人工歯を光造形により製造する材料として好適である。
図1