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特許7564636ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C12C5/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020069632
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021164433
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 千晶
(72)【発明者】
【氏名】谷川 篤史
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130486(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0122073(KR,A)
【文献】Saison de Lilah Farmhouse Ale,Mintel GNPD, [online], ID#:2781185,2014年11月,[検索日 2024年4月8日], Retrieved from the Internet: <URL: https://portal.mintel.com>
【文献】Forbidden Lavender Ale,Mintel GNPD, [online], ID#:3480229,2015年11月,[検索日 2024年4月8日], Retrieved from the Internet: <URL: https://portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
C12H
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
Mintel GNPD
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率(=リナロールの含有量[ppb]/カンファーの含有量[ppb])が1.00~18.00であり、
カンファーの含有量が200~2200ppbであるビールテイスト飲料。
【請求項2】
カンファーの含有量が350~700ppbである請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率(=リナロールの含有量[ppb]/カンファーの含有量[ppb])を1.00~18.00とし、カンファーの含有量を200~2200ppbとする工程を含むビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
ビールテイスト飲料の心地よい花の香りを増強させる香味向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料のカンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率(=リナロールの含有量[ppb]/カンファーの含有量[ppb])を1.00~18.00とし、カンファーの含有量を200~2200ppbとするビールテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の多様な嗜好に応えるべく、多くの種類のビールテイスト飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原材料に果皮を用いるビールテイスト飲料を製造する方法であって、糖液と果皮とを混合して得られた果皮含有糖液を55℃~99℃で加熱する加熱工程含む、製造方法が開示されている。
そして、特許文献1では、果実の風味が豊かなビールテイスト飲料を提供できると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-102243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、特許文献1に係る技術のように、ビールテイスト飲料については、多様なタイプの香味の開発が進められている。
このような状況において、本発明者らは、ビールの香味を邪魔することなくビールテイスト飲料に対して華やかな香りを付与し増強することができれば、消費者ニーズの多様化に適応できるだけでなく、これまでビールテイスト飲料に興味を持たなかった消費者に対しても訴求できるのではないかと考えた。
【0006】
そこで、本発明は、心地よい花の香りが増強されたビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率(=リナロールの含有量[ppb]/カンファーの含有量[ppb])が1.00~18.00であり、カンファーの含有量が200~2200ppbであるビールテイスト飲料。
)カンファーの含有量が350~700ppbである前記1に記載のビールテイスト飲料。
)カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率(=リナロールの含有量[ppb]/カンファーの含有量[ppb])を1.00~18.00とし、カンファーの含有量を200~2200ppbとする工程を含むビールテイスト飲料の製造方法。
)ビールテイスト飲料の心地よい花の香りを増強させる香味向上方法であって、前記ビールテイスト飲料のカンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率(=リナロールの含有量[ppb]/カンファーの含有量[ppb])を1.00~18.00とし、カンファーの含有量を200~2200ppbとするビールテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るビールテイスト飲料は、心地よい花の香りが増強されている。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、心地よい花の香りが増強されたビールテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の心地よい花の香りを増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0010】
[ビールテイスト飲料]
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、リナロールとカンファーとを含有し、カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率が所定範囲内となる飲料である。そして、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、カンファーの含有量が所定範囲内となっていてもよい。
ここで、ビールテイスト飲料とは、ビール様(風)飲料とも呼ばれ、ビール様の香味を奏する飲料、言い換えると、ビール様の香味を奏するように調製された飲料である。そして、ビールテイスト飲料としては、例えば、酒税法(令和元年十二月四日公布(令和元年法律第六十三号)改正)で定義される「発泡性酒類」(ビール、発泡酒、その他の発泡性酒類)に分類されるものが挙げられる。なお、前記したその他の発泡性酒類としては、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」(第三のビール)や「リキュール(発泡性)(1)」(新ジャンルビール)がある。また、ビールテイスト飲料としては、ビール様の香味を奏していればよく、酒税法で定義される発泡性酒類には属さない飲料および清涼飲料水(例えばノンアルコールビールテイスト飲料など)も挙げることができる。
【0011】
(リナロール)
リナロール(linalool)とは、分子式C1018Oで表されるモノテルペンアルコールの一種である。
そして、本発明者らは、このリナロールが、ビールテイスト飲料において後記するカンファーと組み合わさることによって、「心地よい花の香り」と「苦味とえぐ味」と「口当たり」に大きな影響を及ぼすことを確認した。
具体的には、本発明者らは、後記するカンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率を所定範囲内に調整することによって、ビールテイスト飲料の「心地よい花の香り」を増強できるとともに、「苦味とえぐ味」を低減でき、更には「口当たり」も良好にできることを見出した。
【0012】
リナロールの含有量は、2成分の比率(リナロールの含有量/カンファーの含有量)が所定範囲内となれば特に限定されないものの、例えば以下のとおりである。
リナロールの含有量は、100ppb以上が好ましく、200ppb以上、225ppb以上、250ppb以上、300ppb以上、350ppb以上、500ppb以上、700ppb以上、800ppb以上、1000ppb以上、1105ppb以上、2000ppb以上がより好ましい。リナロールの含有量が所定値以上であることによって、心地よい花の香りの増強効果、苦味とえぐ味の低減効果、口当たりを良好にする効果をしっかりと発揮させることができる。
リナロールの含有量は、12000ppb以下が好ましく、11005ppb以下、8000ppb以下、7000ppb以下、6800ppb以下、6605ppb以下、5000ppb以下、3000ppb以下がより好ましい。リナロールの含有量が所定値以下であることによって、心地よい花の香りの増強効果、苦味とえぐ味の低減効果、口当たりを良好にする効果をしっかりと発揮させることができる。
なお、本明細書において「ppb」という単位は「μg/L」と同義である。
【0013】
リナロールの含有量、及び、後記するカンファーの含有量は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編、2013年増補改訂)の「8.22 低沸点香気成分」に記載されている方法(FID付ヘッドスペースガスクロマトグラフを用いる方法)によって測定することができる。
また、リナロールの含有量は、後記する発酵前工程(仕込み工程)で使用する原料によって制御することができるが、発酵後工程でのリナロールを含有する香料や植物原料等、さらにはリナロールそのものの添加によって制御することもできる。
【0014】
(カンファー)
カンファー(camphor)とは、分子式C1016Oで表されるモノテルペンケトンの一種である。
前記のとおり、本発明者らは、このカンファーが、ビールテイスト飲料において前記したリナロールと組み合わさることによって、「心地よい花の香り」と「苦味とえぐ味」と「口当たり」に大きな影響を及ぼすことを確認した。そして、本発明者らは、2成分の比率を所定範囲内に調整することによって、心地よい花の香りの増強効果、苦味とえぐ味の低減効果、口当たりを良好とする効果が発揮されることを見出した。
【0015】
カンファーの含有量は、2成分の比率(リナロールの含有量/カンファーの含有量)が所定範囲内となれば特に限定されないものの、例えば以下のとおりである。
カンファーの含有量は、100ppb以上が好ましく、200ppb以上、250ppb以上、300ppb以上、350ppb以上、500ppb以上、600ppb以上、650ppb以上がより好ましい。カンファーの含有量が所定値以上であることによって、心地よい花の香りの増強効果、苦味とえぐ味の低減効果、口当たりを良好にする効果をしっかりと発揮させることができる。
カンファーの含有量は、2200ppb以下が好ましく、2100ppb以下、2000ppb以下、1500ppb以下、1200ppb以下、1000ppb以下、800ppb以下、750ppb以下、700ppb以下がより好ましい。カンファーの含有量が所定値以下であることによって、心地よい花の香りの増強効果、苦味とえぐ味の低減効果、口当たりを良好にする効果をしっかりと発揮させることができる。
【0016】
また、カンファーの含有量は、後記する発酵前工程(仕込み工程)で使用する原料によって制御することができるが、発酵後工程でのカンファーを含有する香料や植物原料等、さらにはカンファーそのものの添加によって制御することもできる。
【0017】
(リナロールの含有量/カンファーの含有量)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のカンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率(=リナロールの含有量[ppb]/カンファーの含有量[ppb])は、以下のとおりである。
カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率は、1.00以上が好ましく、1.05以上、1.50以上、1.58以上、1.80以上、2.00以上、2.50以上、3.00以上、3.15以上がより好ましい。この比率が所定値以上であることによって、心地よい花の香りが増強されるとともに、苦味とえぐ味が低減され、更に、口当たりも良好とすることができる。
カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率は、18.00以下が好ましく、15.72以下、13.00以下、10.00以下、9.44以下、8.00以下、7.00以下、6.30以下がより好ましい。この比率が所定値以下であることによって、心地よい花の香りの増強効果、苦味とえぐ味の低減効果、口当たりを良好にする効果を十分に発揮させることができる。
【0018】
(アルコール度数)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、特に限定されないものの、例えば、1%(v/v%)以上、3%以上、4%以上であり、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、6%以下であってよい。
【0019】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、麦由来原料を発酵させて得られた飲料の値であってもよいが、当該飲料に対して、適宜、蒸留アルコールを添加して調整してもよいし、発酵を経ない場合(調合の場合)は、蒸留アルコールの添加のみで調整してもよい。
蒸留アルコールとしては、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられる。蒸留アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において「スピリッツ」とは、蒸留酒であるスピリッツを指し、酒税法上のスピリッツとは異なる場合もある。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。そして、ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0020】
(発泡性)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であるのが好ましい。
そして、本実施形態に係るビールテイスト飲料の20℃におけるガス圧は、特に限定されないものの、例えば、2.0kg/cm以上、2.2kg/cm以上、2.3kg/cm以上、2.4kg/cm以上であり、5.0kg/cm以下、4.0kg/cm以下、3.0kg/cm以下である。そして、ビールテイスト飲料のガス圧は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)8-3ガス圧に基づいて測定することができる。
【0021】
(その他)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、例えば、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0022】
(容器詰めビールテイスト飲料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にビールテイスト飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、例えば、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0023】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、「心地よい花の香り」が増強されている。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、「苦味とえぐ味」が低減されているとともに、「口当たり」が良好になっている。
【0024】
[ビールテイスト飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率を所定範囲内とする工程を含む。そして、詳細には、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、発酵前工程と、発酵工程と、発酵後工程と、を含む。
【0025】
(発酵前工程)
発酵前工程では、麦芽、麦、糖類、酵素、各種添加剤、副原料等を適宜混合して原料を糖化し、糖化液を得る。そして、糖化液を適宜ろ過して得られた麦汁に、適宜、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を調製する。
【0026】
発酵前工程において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる麦由来原料(麦芽や麦、又はそれらのエキス)を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。酵母が資化可能な窒素源とは、例えば、麦由来原料に含まれるアミノ酸及びペプチドのうちの少なくとも一つである。酵母が資化可能な炭素源とは、例えば、前記した糖類や麦由来原料に含まれる糖類である。
【0027】
発酵前工程で使用する麦芽は、麦を発芽させ焙燥した後に根を除いたものであり、また、発酵前工程で使用する麦とは、発芽させていない状態の麦である。そして、麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
なお、麦芽比率(ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占める麦芽の重量の比率)は、特に限定されないものの、例えば、下限は1%以上、10%以上、25%以上、30%以上、50%以上であり、上限は100%以下、95%以下である。
【0028】
発酵前工程で使用する副原料は、酒税法施行規則(令和元年六月二十八日公布(令和元年財務省令第十三号)改正)の第4条第2項各号に掲げられている物品、さらには、果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)等が挙げられる。
【0029】
発酵前工程で使用するホップは、特に限定されず、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスが挙げられるとともに、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0030】
(発酵工程)
発酵工程は、発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う工程である。本実施形態においては、例えば、予め温度が所定の範囲内(例えば、0~40℃の範囲)に調製された発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製し、発酵を行う。
【0031】
発酵工程においては、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0032】
こうして発酵工程においては、酵母により生成されたエタノール及び各種成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度(アルコール度数)は、例えば、1~20%とすることができる。
【0033】
(発酵後工程)
発酵後工程は、発酵後液に所定の処理を施して最終的にビールテイスト飲料を得る工程である。発酵後工程としては、例えば、発酵工程により得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、さらに発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
なお、発酵後工程には、前記した容器に充填する工程も含まれる。
【0034】
発酵後工程によって得られたビールテイスト飲料の各成分の含有量を所定範囲内とする方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
具体的には、副原料として、ラベンダーを用いつつ、当該ラベンダーの添加量を調整することで、ビールテイスト飲料のカンファーの含有量を制御することができる。そして、リナロールの含有量については、副原料のラベンダーの添加量の調整によって制御することができ、ホップの添加量や添加するホップの種類によって制御することもできる。
加えて、ビールテイスト飲料の各成分の含有量は、発酵後工程において、カンファーやリナロール、又は、それらを含有する香料や植物原料等を添加することによって調整することもできる。
【0035】
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発酵工程を経ないで製造することもできる。つまり、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、非発酵飲料として製造されてもよい。
この場合、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、混合タンクに、水、リナロールやそれを含有する香料や植物原料等、カンファーやそれを含有する香料や植物原料等、添加剤、麦芽エキス、蒸留アルコールなどの原料を適宜投入する調合工程(混合工程)と、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を行う後処理工程と、を含むこととなる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、「心地よい花の香り」が増強されたビールテイスト飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、「渋味とえぐ味」が低減されているとともに、「口当たり」が良好となっているビールテイスト飲料を製造することができる。
【0037】
[ビールテイスト飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の心地よい花の香りを増強させる香味向上方法であって、カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率を所定範囲内とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「ビールテイスト飲料」において説明した値と同じである。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の「心地よい花の香り」を増強することができる。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の「渋味とえぐ味」を低減し、「口当たり」を良好なものとすることができる。
【実施例
【0039】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0040】
[サンプルの準備]
市販のビール(麦芽比率:50%以上、アルコール度数:5%、20℃におけるガス圧:2.3kg/cm、カンファー:含有せず、リナロールの含有量:5ppb)をベース液とした。
ベース液に対して、リナロール、カンファーを適宜添加し、表1、2に示すサンプルを準備した。
なお、サンプルを準備する際に添加した各物質は極微量であったため、各サンプルのアルコール度数やガス圧などは、市販のビール(ベース液)と同じ値と判断することができる。
【0041】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、選抜された識別能力のあるパネル4名が下記評価基準に則って「心地よい花の香り」、「渋味・えぐ味」、「口当たり」について、1~5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、各評価は、各サンプルを飲んで評価した。また、香りの評価については、各サンプルを飲んでいる最中に感じる香りだけでなく、立ち香(飲む前に感じる立ち昇る香り)も併せて総合的に評価した。
【0042】
(心地よい花の香り:評価基準)
心地よい花の香りの評価については、「心地よい花の香りが強い」場合を5点、「心地よい花の香りが弱い」場合を1点として5段階で評価した。なお、この評価は、サンプル1-1の1点を基準に設定し、相対評価を行った。そして、心地よい花の香りの評価については、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
【0043】
ここで「心地よい花の香り」とは、ビールの香味にポジティブなフラワリーな香りであり、詳細には、ビールの香味を邪魔しない華やかな花の香りである。
【0044】
(渋味・えぐ味:評価基準)
渋味・えぐ味の評価については、「渋味とえぐ味が強い」場合を5点、「渋味とえぐ味が弱い」場合を1点として5段階で評価した。なお、この評価は、サンプル1-1の5点を基準に設定し、相対評価を行った。そして、渋味・えぐ味の評価については、点数が低いほど、好ましいと判断できる。
【0045】
ここで「渋味・えぐ味」とは、ビールの香味にネガティブに作用する渋味とえぐ味であって、詳細には、ドリンカビリティ(もう一口、飲みたいという感覚)を低下させるような渋味とえぐ味である。なお、ドリンカビリティを低下させないような苦味、例えば、ホップ的なビールに適した爽やかな苦味は、この評価における苦味(ネガティブに作用する苦味)には該当しないため、点数を上昇させない。
【0046】
(口当たり:評価基準)
口当たりの評価については、「口当たりが良い」場合を5点、「口当たりが悪い」場合を1点として5段階で評価した。なお、この評価は、サンプル1-1の1点を基準に設定し、相対評価を行った。そして、口当たりの評価については、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
【0047】
ここで「口当たり」とは、フレッシュ感、複雑味、味の深み・厚み、心地よい余韻といった、飲料を口に含んだ際に感じるポジティブな香味であり、口当たりの評価は、総合的な香味の評価である。
【0048】
なお、前記した各評価において、枯草的、硫化物的なネガティブな香りを感じるほど、評価の点数が悪く(心地よい花の香りの評価と口当たりの評価については点数が低くなり、渋味・えぐ味の評価については点数が高くなる)なる。
【0049】
表1、2に、各サンプルの各評価結果を示す。そして、表におけるリナロールとカンファーの量は、含有量である。
なお、ベース液として使用した市販のビールは、カンファーを含有せず、リナロールの含有量が5ppbであった。よって、各サンプルのカンファーの添加量をカンファーの含有量とし、各サンプルのリナロールの添加量に5ppbを足し合わせた値をリナロールの含有量とした。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(結果の検討)
表1は、カンファーの含有量を固定した状態で、カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率がビールテイスト飲料の香味に与える影響を確認した結果である。
表1の結果から、2成分の比率が所定範囲内となると、心地よい花の香りが増強されるとともに、渋味・えぐ味が低減され、口当たりが良好になることが確認できた。
詳細には、「心地よい花の香り」については、サンプル1-1~1-6の中でも、サンプル1-3~1-6(特に、サンプル1-4~1-6)について好ましい結果(2.5点以上、より好ましくは3.3点以上)が得られた。
また、「渋味・えぐ味」については、サンプル1-1~1-6の中でも、サンプル1-3~1-5(特に、サンプル1-4~1-5)について好ましい結果(2.8点以下、より好ましくは2.5点以下)が得られた。
また、「口当たり」については、サンプル1-1~1-6の中でも、サンプル1-3~1-5(特に、サンプル1-4~1-5)について好ましい結果(2.5点以上、より好ましくは2.8点以上)が得られた。
【0053】
表2は、リナロールの含有量を固定した状態で、カンファーの含有量に対するリナロールの含有量の比率がビールテイスト飲料の香味に与える影響を確認した結果である。
詳細には、「心地よい花の香り」については、サンプル2-1~2-6の中でも、サンプル2-3~2-5(特に、サンプル2-3~2-4)について好ましい結果(2.5点以上、より好ましくは3.3点以上)が得られた。
また、「渋味・えぐ味」については、サンプル2-1~2-6の中でも、サンプル2-3~2-5(特に、サンプル2-3~2-4)について好ましい結果(2.8点以下、より好ましくは2.5点以下)が得られた。
また、「口当たり」については、サンプル2-1~2-6の中でも、サンプル2-3~2-5(特に、サンプル2-3~2-4)について好ましい結果(2.5点以上、より好ましくは2.8点以上)が得られた。