(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】放射線撮像パネル、放射線撮像装置、放射線撮像システム、および、シンチレータプレート
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20241002BHJP
G21K 4/00 20060101ALI20241002BHJP
A61B 6/42 20240101ALI20241002BHJP
【FI】
G01T1/20 L
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G21K4/00 A
A61B6/42 500Q
(21)【出願番号】P 2020120869
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿田 尚志郎
(72)【発明者】
【氏名】長野 和美
(72)【発明者】
【氏名】野村 慶一
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/129428(WO,A1)
【文献】特開2006-052980(JP,A)
【文献】特開2014-167405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0181436(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16,1/167-7/12
G21K 4/00
A61B 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ光電変換素子を含む複数の画素が配された基板と、前記基板の上に配されたシンチレータと、前記シンチレータを覆うように配された保護層と、を含む放射線撮像パネルであって、
前記シンチレータは、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含む複数の柱状結晶を含み、
前記保護層は、金属酸化物の粒子が添加された樹脂を含む樹脂層と、前記樹脂層の前記シンチレータとは反対の側に配された基台と、前記樹脂層と前記基台との間に配された金属層と、を備え、
前記樹脂は、ホットメルト樹脂を含み、
前記樹脂層のうち前記複数の柱状結晶のそれぞれの頂部から前記樹脂層の上面までの厚さが、10μm以上、かつ、30μm未満であり、
前記樹脂層における前記粒子の濃度が、0.15vol%以上、かつ、7.5vol%未満であることを特徴とする放射線撮像パネル。
【請求項2】
前記粒子の平均粒度が、200nm以上、かつ、500nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の放射線撮像パネル。
【請求項3】
前記粒子の屈折率が、1.94以上、かつ、2.72以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線撮像パネル。
【請求項4】
前記粒子が、鉛白、酸化亜鉛、および、酸化チタンのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項5】
前記粒子が、ルチル型二酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項6】
前記ハロゲン化アルカリ金属化合物が、ヨウ化セシウムを含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項7】
前記樹脂層における前記粒子の濃度が、0.15vol%以上、かつ、4.5vol%以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項8】
請求項1乃至
7の何れか1項に記載の放射線撮像パネルと、
前記放射線撮像パネルを制御するための制御部と、
を含むことを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の放射線撮像装置と、
前記放射線撮像装置から出力される信号を処理する信号処理装置と、
を含むことを特徴とする放射線撮像システム。
【請求項10】
基板と、前記基板の上に配されたシンチレータと、前記シンチレータを覆うように配された保護層と、を含むシンチレータプレートであって、
前記シンチレータは、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含む複数の柱状結晶を含み、
前記保護層は、金属酸化物の粒子が添加された樹脂を含む樹脂層と、前記樹脂層の前記シンチレータとは反対の側に配された基台と、前記樹脂層と前記基台との間に配された金属層と、を備え、
前記樹脂は、ホットメルト樹脂を含み、
前記樹脂層のうち前記複数の柱状結晶のそれぞれの頂部から前記樹脂層の上面までの厚さが、10μm以上、かつ、30μm未満であり、
前記樹脂層における前記粒子の濃度が、0.15vol%以上、かつ、7.5vol%未満であることを特徴とするシンチレータプレート。
【請求項11】
前記基板が、前記シンチレータが発する光を透過する透明基板であることを特徴とする請求項
10に記載のシンチレータプレート。
【請求項12】
前記樹脂層における前記粒子の濃度が、0.15vol%以上、かつ、4.5vol%以下であることを特徴とする請求項10または11に記載のシンチレータプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮像パネル、放射線撮像装置、放射線撮像システム、および、シンチレータプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
医療画像診断や非破壊検査などで放射線撮影に用いられるフラットパネルディテクタ(FPD)として、被写体を通過した放射線をシンチレータで光に変換し、シンチレータが発した光を光電変換素子で検出する間接変換方式のFPDがある。放射線を光に変換するシンチレータには、放射線から変換された光を光電変換素子に効率よく伝達するために、ヨウ化セシウムなどのハロゲン化アルカリ金属化合物の柱状結晶が広く用いられている。ハロゲン化アルカリ金属化合物は、吸湿によって劣化してしまうため、シンチレータの上には防湿機能を有する保護層が配されうる。また、シンチレータで放射線から変換された光が光電変換素子で効率よく検出されるように、シンチレータの光電変換素子とは反対の側に、光反射機能を有する反射層が配されうる。特許文献1には、蛍光体層に対する防湿機能と光反射機能とを備えた光反射性微粒子を含有した樹脂からなる蛍光体保護層を備える放射線検出装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される光反射性微粒子の分散濃度には検討の余地がある。具体的には、光反射性微粒子の濃度が低すぎる場合、光を反射する効果が不十分となり、MTF(Modulation Transfer Function)の向上効果が不十分となりうる。一方、特許文献1には光反射性微粒子としてTiO2など臨界角以下で入射した光を透過する金属酸化物を使用することが示されているが、光反射性微粒子の濃度が高すぎる場合、光が光反射性微粒子に臨界角以下の狭角度で入射してしまう確率が高くなる。さらに、光反射性微粒子の濃度が高く光反射性微粒子同士が接触していた場合、一方の光反射性微粒子を透過した光は、他方の光反射性微粒子に入射し光が拡散しうる。結果として、光を反射する効果が不十分となり、MTFの向上効果が不十分となる可能性がある。
【0005】
また、光反射性微粒子を分散させた蛍光体保護層の厚さについても検討の余地がある。蛍光体保護層が厚すぎる場合、蛍光体保護層内で光が拡散してしまい、MTFの向上効果が不十分となりうる。また、保護層が薄すぎる場合、防湿機能が不十分となる可能性がある。
【0006】
本発明は、放射線撮像パネルにおいてMTFの向上に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明の実施形態に係る放射線撮像パネルは、それぞれ光電変換素子を含む複数の画素が配された基板と、前記基板の上に配されたシンチレータと、前記シンチレータを覆うように配された保護層と、を含む放射線撮像パネルであって、前記シンチレータは、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含む複数の柱状結晶を含み、前記保護層は、金属酸化物の粒子が添加された樹脂を含む樹脂層と、前記樹脂層の前記シンチレータとは反対の側に配された基台と、前記樹脂層と前記基台との間に配された金属層と、を備え、前記樹脂は、ホットメルト樹脂を含み、前記樹脂層のうち前記複数の柱状結晶のそれぞれの頂部から前記樹脂層の上面までの厚さが、10μm以上、かつ、30μm未満であり、前記樹脂層における前記粒子の濃度が、0.15vol%以上、かつ、7.5vol%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記手段によって、放射線撮像パネルにおいてMTFの向上に有利な技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る放射線撮像パネルの構成例を示す断面図。
【
図2】
図1の放射線撮像パネルの保護層の構成例を示す断面図。
【
図5】
図1の放射線撮像パネルの断面のSEM像を示す図。
【
図8】
図1の放射線撮像パネルを用いた放射線撮像装置および放射線撮像システムの構成例を示す図。
【
図9】
図1の放射線撮像パネルの樹脂層の課題について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
また、本発明における放射線には、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども含みうる。
【0012】
図1(a)~9(b)を参照して、本実施形態による放射線撮像パネルの構成について説明する。
図1(a)は、本実施形態における放射線撮像パネル100の断面構造を示す図である。
図1(b)は、
図1(a)の部分111を拡大した図である。
【0013】
放射線撮像パネル100は、それぞれ光電変換素子を含む複数の画素が配された画素領域105を備える基板101と、基板101の上に配されたシンチレータ108と、シンチレータ108を覆うように配された保護層110と、を含む。シンチレータ108は、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含む複数の柱状結晶102を含む。保護層110は、金属酸化物の粒子106が添加された樹脂103を含む樹脂層104を備える。基板101とシンチレータ108との間には、画素領域105に配された画素を保護するための画素保護層107が配されていてもよい。
【0014】
画素領域105には、複数の画素が、2次元アレイ状に配されうる。例えば、550mm×445mmの基板101に対して、3300×2800の画素が配される。3300×2800画素のうち外周に配された10画素は、ダミー画素領域とし、ダミー画素の内側に配される3280×2780画素によって画素領域105のうち有効画素領域が構成されていてもよい。画素領域105に配される画素の数や、画素領域105のうち有効画素領域に配される画素の数は、基板101の大きさや撮像対象などに応じて適宜設定すればよい。
【0015】
画素領域105には、それぞれの画素で生成される信号を取り出すための列信号線や、画素領域105に配される画素を含むそれぞれの素子を駆動するための行信号線などが配されうる。列信号線や行信号線は、それぞれ読出回路基板や駆動回路基板とフレキシブル配線基板などを介して電気的に接続されうる。列信号線および行信号線と、読出回路基板および駆動回路基板と、の接続を行うために、基板101には、接続端子部(不図示)が設けられていてもよい。接続端子部を介して、画素領域105のそれぞれの画素で生成された信号が、放射線撮像パネル100から出力されうる。
【0016】
ここでは、読出回路および駆動回路が、放射線撮像パネル100の外部に配される例を示すが、読出回路および駆動回路が放射線撮像パネル100に配されていてもよい。この場合であっても、基板101には接続端子部(不図示)が配され、画素領域105のそれぞれの画素で生成された信号は、接続端子部(不図示)を介して放射線撮像パネル100から出力されうる。
【0017】
金属酸化物の粒子106が樹脂103中に分散された樹脂層104は、
図1(a)に示されるように、シンチレータ108の画素領域105とは反対の側に配される。これによって、シンチレータ108で生じた光を効率的に利用することが可能となり、放射線撮像パネル100の感度が向上しうる。
【0018】
また、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含む複数の柱状結晶102によって構成されるシンチレータ108は、吸湿によって劣化してしまう。そこで、金属酸化物の粒子106が樹脂103中に分散された樹脂層104は、シンチレータ108の防湿層の機能を兼ねていてもよい。シンチレータ108を被覆する樹脂層104が、防湿層の機能を備えることによって、シンチレータ108が吸湿によって劣化してしまうことを抑制することが可能となる。
【0019】
図1(b)は、金属酸化物の粒子106が樹脂103中に分散された樹脂層104の機能について説明する図である。
図1(b)に示されるように、シンチレータ108の柱状結晶から樹脂103の側に出射した光は、分散して存在する粒子106によって正反射、または、拡散反射される。粒子106で反射した光のうち一部は、出射した柱状結晶102に戻る。また、粒子106で反射した光のうち別の一部は、さらに別の粒子で反射を繰り返すことによって減衰する。つまり、樹脂層104内を拡散し、光が広がってしまうことを抑制できる。これによって、金属酸化物の粒子106が樹脂103中に分散された樹脂層104によって、高いMTF(Modulation Transfer Function)が得られることがわかる。
【0020】
しかしながら、
図9(a)に示されるように、金属酸化物の粒子106が少ない場合、粒子106での反射の効果が得られない可能性がある。また、一方、
図9(b)に示されるように、TiO
2など臨界角以下で入射した光を透過する金属酸化物の粒子106の濃度が高すぎる場合、光が粒子106に臨界角以下の狭角度で入射してしまう確率が高くなる。さらに、光反射性微粒子の濃度が高く光反射性微粒子同士が接触していた場合、一方の光反射性微粒子を透過した光は、他方の光反射性微粒子に入射し光が拡散してしまう。結果として、光を反射する効果が不十分となり、MTFの向上効果が不十分となる可能性がある。適切な金属酸化物の粒子106の濃度や樹脂層104の厚さについては、後述する。
【0021】
次いで、放射線撮像パネル100の製造方法について説明する。基板101として、例えば、550mm×445mm、厚さ500μmの無アルカリガラスを用いてもよい。ガラスの基板101に成膜工程、フォトリソグラフィ工程、エッチング工程などを繰り返し行うことによって、画素領域105が形成される。画素領域105には、シンチレータ108の発光に応じた電荷を生成する光変換素子と、生成された電荷に応じた信号を出力するスイッチング素子と、をそれぞれ含む複数の画素が配される。また、画素領域105には、画素を駆動し、また、得られた信号を外部回路に送り出すための接続端子部(不図示)などが形成される。
【0022】
画素領域105を形成した後、画素領域105に形成された画素の動作をチェックするためのアレイ検査が実施されてもよい。アレイ検査で動作が良好であり、欠損した画素が無い、または、僅かなことを確認した後、接続端子部(不図示)を保護する目的で基板101の周辺部をマスキングフィルムによりマスキングし、画素保護層107が形成されうる。画素保護層107は、例えば、基板101をスプレイスピンコーターに設置し、ポリイミド溶液をスプレーしつつ、約100rpmの回転でスピンさせ、その後、220℃の温度で乾燥、乾燥アニーリングさせることによって形成されうる。例えば、画素保護層107は、約2μmの厚さを有していてもよい。
【0023】
次いで、シンチレータ108を形成する。まず、画素保護層107が形成された基板101のうちシンチレータ108を形成しない領域に蒸着マスクをセットした後、画素保護層107が蒸着面となるように基板101を蒸着装置に載置する。その後、Tl濃度がCsIに対し1mol%となるようにヨウ化セシウム(CsI)とヨウ化タリウム(TlI)をそれぞれセル容器に充填し、加熱することによって共蒸着を行う。シンチレータ108は、例えば、380μmの厚さを有し、75%の膜充填率であってもよい。このとき、シンチレータ108の外縁は、画素領域105の外縁よりも外側に配されうる。また、シンチレータ108の蒸着を行う際に、蒸着装置を10-3Paまで排気したのち、基板表面が175℃になるようにランプヒーターで加熱を行ってもよい。
【0024】
保護層110は、以下のように作製してもよい。
図2は、保護層110の構成例を示す図である。本実施形態において、保護層110は、基台201の上にアルミニウムの金属層202を形成し、金属層202の上に金属酸化物の粒子106が添加された樹脂103を含む樹脂層104が形成されている。保護層110のうち樹脂層104が、シンチレータ108と接触しうる。保護層110は、
図2に示される3層構造に限られることはない。例えば、金属酸化物の粒子が添加されていない樹脂層など、保護層110に、さらに他の層が積層されていてもよい。また、例えば、保護層110が、樹脂層104のみであってもよいし、樹脂層104と金属層202との2層構造であってもよい。
【0025】
本実施形態において、樹脂層104を構成する樹脂103には、ポリオレフィン樹脂を主成分とするホットメルト樹脂が用いられる。ホットメルト樹脂とは、水や溶剤を含まず室温で固体であり、100%不揮発性の熱可塑性材料からなる接着性樹脂と定義されるものである(Thomas P. Flanagan,Adhesives Age,vol.9,No.3,pp.28(1966))。また、ホットメルト樹脂は、樹脂温度が上昇すると溶融し、樹脂温度が低下すると固化する性質を有しており、加熱溶融状態にて他の有機材料、および、無機材料に接着性を有し、反対に常温では固体状態となり接着性を有さない樹脂である。また、ホットメルト樹脂は極性溶媒、溶剤、及び水を含まないため、ハロゲン化アルカリの柱状結晶102を有するシンチレータ108に接触しても、シンチレータ108を溶解しないため、保護層の機能も併せもつことが可能である。
【0026】
ホットメルト樹脂として、主成分であるベースポリマー(ベース材料)の種類によって分類され、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系などを用いることができる。シンチレータ108の保護層110にホットメルト樹脂を用いる場合、防湿性が高く、また、シンチレータ108から発生する可視光線を透過する光透過性が高いことが重要である。
【0027】
樹脂層104は、例えば、樹脂103としてポリオレフィン樹脂をトルエン、キシレンの混合溶媒に溶解させ、さらに粘度を10cps程度になるよう調整する。また、予めブタノール、プロパノールの混合液中に金属酸化物の粒子106を分散剤と共に分散させる。トルエン、キシレンの混合溶液にポリオレフィン樹脂を溶解された材料を、ボールミルによって十分解砕させた分散液を、粒子106が樹脂層104において0-32vol%となるように加えたのち混合する。この分散液を、十分な攪拌の後、発泡に注意しつつ溶媒を揮発させることによって樹脂層104を得ることができる。
【0028】
金属酸化物の粒子106には、シンチレータ108よりも大きい屈折率の材料が用いられうる。例えば、ハロゲン化アルカリ金属化合物のシンチレータ108として、上述のCsI(屈折率(n):1.78~1.84(賦活剤の種類などによる))が用いられる場合、CsIよりも屈折率が大きな材料が用いられてもよい。例えば、金属酸化物の粒子106は、例えば、鉛白(2PbCo3・Pb(OH)2)(n:1.94~2.09)、酸化亜鉛(n:2.0)、酸化イットリウム(n:1.91)、酸化ジルコニウム(n:2.20)、および、酸化チタン(n:2.50~2.72)のうち少なくとも1つを含んでいてもよい。例えば、金属酸化物の粒子106の屈折率が、1.94以上、かつ、2.72以下であってもよい。本実施形態において、金属酸化物としては、酸化チタンの中でも屈折率が高い、ルチル型二酸化チタンの粒子を用いるとして説明する。
【0029】
また、金属酸化物の粒子106の平均粒度が、200nm以上、かつ、500nm以下であってもよい。一般的に、光電変換素子の感度特性は500nm~800nmにあるが、光の波長の1/2以下の粒子であればレイリー散乱の効果が現れるため、光の入射方向側に反射する確率が高くなるためである。本実施形態において、平均粒度が250nm、粒度分布が10%径D10=195μm、50%径(メジアン径)D50=245μm、90%径D90=275μmのルチル型二酸化チタン粒子が、金属酸化物の粒子106として用いられる。
【0030】
基台201にはPET基板などが用いられうる。厚さ30μmのPETの基台201上に厚さ12μmのアルミニウムの金属層202が形成されたフィルム上に、金属酸化物の粒子106が添加された樹脂層104を形成することによって、本実施形態の保護層110が得られる。保護層110は、例えば、ロールコーター装置に金属層202が形成された基台201をセットし、金属層202の側に、上述のように調製した粒子106が添加された樹脂103を塗工することによって形成できる。これによって、保護層110が、樹脂層104のシンチレータ108とは反対の側に配された基台201を備え、さらに、樹脂層104と基台201との間に配された金属層202を備えることとなる。
【0031】
発明者らが実際に保護層110を作製したところ、樹脂層104の厚さが10μm未満の場合、樹脂層104の膜厚の均一性を得ることが困難であった。つまり、樹脂層104は、10μm以上の厚さが必要となる。
【0032】
基台201上に、所望の濃度の金属酸化物の粒子106が分散した所望の厚さを有する樹脂層104が形成された保護層110を、シンチレータ108の上に貼り合わせることによって、放射線撮像パネル100を作成することができる。
【0033】
例えば、形成された保護層110を、基板101のシンチレータ108のサイズにあわせるように型抜きをした上で、真空熱転写装置にセットする。また、シンチレータ108が形成された基板101を、保護層110に対向するように真空熱転写装置にセットする。基台201と基板101とをアライメントマークによる位置合わせを行った後、まず30℃で基板101と保護層110とを接触させ、次いで、10-1Paまで減圧し気泡を取り除く。さらに、圧力下で基板101と保護層110とを共に70-100℃に加温し、適当な時間保持することによって、シンチレータ108が形成された基板101と保護層110とが貼り合わされる。
【0034】
次いで、保護層110が貼り合わされた基板101は、接続端子部(不図示)に異方性導電フィルムなどを介して駆動基板などが接続される。さらに、強度を補強するためのシートを基板101のシンチレータ108とは反対の側に貼り付けることによって、本実施形態の放射線撮像パネル100が得られる。
【0035】
次に、放射線撮像パネル100の金属酸化物の粒子106の濃度および樹脂層104の厚さと、MTFと、の関係について説明する。
図3、4は、金属酸化物の粒子106の濃度および樹脂層104の厚さを変化させて作製した放射線撮像パネル100の特性を示す図である。放射線撮像パネル100の特性の評価は、放射線撮像パネル100を駆動系にセットし、国際規格の線質RQA5に準じたX線を照射し、MTFとDQE(Detective Quantum Efficiency)の測定を行った。樹脂層104の金属酸化物の粒子106の体積比と樹脂層104の厚さtとの、2lp/mmでのMTF値とDQE値の測定結果が、
図3には一覧として、
図4にはそれぞれをプロットしたグラフとして示されている。樹脂層104の厚さtは、実際には蛍光体の高さが柱により異なるため、複数のSEM像を観察した上で範囲として示している。
【0036】
ここで、樹脂層104の厚さtは、
図1(b)に示されるように、樹脂層104のうち複数の柱状結晶102のそれぞれの頂部から樹脂層104の上面までの厚さである。柱状結晶102の頂部は、柱状結晶102のそれぞれのうち基板101から最も遠い部分でありうる。樹脂層104の厚さtは、放射線撮像パネル100を作製後、小片を切り出し、ケミカルポリッシング装置にて切断した断面を露出させ、SEM像を撮影することによって測定可能である。
図5には、シンチレータ108の柱状結晶102と保護層110のうち樹脂層104とのSEM像が示される。樹脂層104の厚さtは、保護層110を形成する際の樹脂103の厚さや、真空熱転写装置における加温温度、維持時間によって制御することが可能である。
【0037】
図3、4から、樹脂層104の厚さtが30μm未満の場合、金属酸化物の粒子106の体積比に対して、MTFが向上する傾向が変化していることがわかる。さらに、樹脂層104の厚さが30μm未満の場合、樹脂層104における金属酸化物の粒子106の濃度が、0.15vol%以上、かつ、7.5vol%未満の場合、より高いMTFを呈していることがわかる。また、
図3から、作製した樹脂層104の厚さ、および、金属酸化物の粒子106の濃度の範囲において、DQE値は、樹脂層104の厚さ、金属酸化物の粒子106の濃度の何れにも、ほぼ影響を受けていないことがわかる。
【0038】
以上のことから、樹脂層104のうち複数の柱状結晶102のそれぞれの頂部から樹脂層104の上面までの厚さtが、10μm以上、かつ、30μm未満であり、樹脂層104における金属酸化物の粒子106の濃度が、0.15vol%以上、かつ、7.5vol%未満とする。これによって、放射線撮像パネル100において、DQE特性を保ちつつ、MTF特性の向上が実現できる。
【0039】
上述の実施形態では、樹脂層104に用いる樹脂103としてホットメルト樹脂を用いる場合について説明したが、樹脂103は、ホットメルト樹脂に限られることはない。樹脂層104に用いる樹脂103には、例えば、分子間力による加圧性接着作用を有する樹脂、いわゆる粘着材と呼ばれる樹脂が用いられてもよい。この場合、樹脂103はシンチレータ108よりも屈折率が低い材料が用いられてもよい。例えば、樹脂103が、ウレタン樹脂(n:1.49)、および、アクリル樹脂(n:1.49~1.53)のうち少なくとも1つを含んでいてもよい。つまり、例えば、樹脂103の屈折率が、1.49以上、かつ、1.53以下であってもよい。例えば、樹脂103として、アクリル樹脂のうちポリメタクリル酸メチル樹脂(n:1.491)が用いられてもよい。
【0040】
図6、7に、上述の
図3、4と同様に、金属酸化物の粒子106の濃度および樹脂層104の厚さを変化させて作製した放射線撮像パネル100の特性を示す図である。
図6、7に特性を示す放射線撮像パネル100は、樹脂103にホットメルト樹脂の代わりにアクリル樹脂を用いた以外、上述の放射線撮像パネル100と同様である。樹脂103にアクリル樹脂を用いる場合、例えば、ロールラミネート装置を用いて、金属層202の形成された基台201の上に樹脂層104を転写することによって、保護層110が形成できる。また、ロールラミネート装置を用いて基板101上のシンチレータ108の上に保護層110を貼り合わせ、加圧脱泡処理を行うことによって、放射線撮像パネル100が作製できる。
【0041】
図6、7に示されるように、樹脂103にアクリル樹脂を用いた場合であっても、樹脂層104の厚さtが30μm未満の場合、金属酸化物の粒子106の体積比に対して、MTFが向上する傾向が変化していることがわかる。さらに、樹脂層104の厚さが30μm未満の場合、樹脂層104における金属酸化物の粒子106の濃度が、0.15vol%以上、かつ、7.5vol%未満の場合、より高いMTFを呈していることがわかる。また、
図6から、作製した樹脂層104の厚さ、および、金属酸化物の粒子106の濃度の範囲において、DQE値は、樹脂層104の厚さ、金属酸化物の粒子106の濃度の何れにも、ほぼ影響を受けていないことがわかる。
【0042】
このように、樹脂層104のうち複数の柱状結晶102のそれぞれの頂部から樹脂層104の上面までの厚さtが、10μm以上、かつ、30μm未満であり、樹脂層104における金属酸化物の粒子106の濃度が、0.15vol%以上、かつ、7.5vol%未満とする。これによって、放射線撮像パネル100において、DQE特性を保ちつつ、MTF特性の向上が実現できる。
【0043】
本実施形態において、金属酸化物の粒子106として、ルチル型二酸化チタンの粒子を用いたが、上述の金属酸化物(例えば、鉛白、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム。)を用いた場合であっても、上述の金属酸化物の粒子106の濃度、および、樹脂層104の厚さにすることによって、放射線撮像パネル100において、DQE特性を保ちつつ、MTF特性の向上が実現されうる。
【0044】
また、本実施形態において、複数の画素が配された画素領域105を備える基板101を使用する場合を説明したが、これに限られることはない。例えば、基板101が、画素領域105を備えていなくてもよい。この場合、符号100は、シンチレータプレートと呼ばれうる。例えば、複数の画素が配された画素領域を備えるセンサ基板の上に、このシンチレータプレートを搭載することによって、放射線撮像パネルとして機能しうる。このため、基板101が画素領域105を備えていない場合、基板101は、シンチレータ108が発する光を透過する透明基板であってもよい。
【0045】
以下、上述の放射線撮像パネル100が組み込まれた放射線撮像装置、および、放射線撮像パネル100が組み込まれた放射線撮像装置を用いた放射線撮像システム800について
図8を用いて説明する。
【0046】
放射線撮像システム800は、放射線で形成される光学像を電気的に撮像し、電気的な放射線画像(すなわち、放射線画像データ)を得るように構成される。放射線撮像システム800は、例えば、放射線撮像装置801、曝射制御部802、放射線源803、コンピュータ804を含む。
【0047】
放射線撮像装置801に放射線を照射するための放射線源803は、曝射制御部802からの曝射指令に従って放射線の照射を開始する。放射線源803から放射された放射線は、不図示の被険体を通って放射線撮像装置801に照射される。放射線源803は、曝射制御部802からの停止指令に従って放射線の放射を停止する。
【0048】
放射線撮像装置801は、上述の放射線撮像パネル100と、放射線撮像パネル100を制御するための制御部805と、放射線撮像パネル100から出力される信号を処理するための信号処理部806と、を含む。信号処理部806は、例えば、放射線撮像パネル100から出力される信号のA/D変換し、コンピュータ804に放射線画像データとして出力してもよい。また、信号処理部806は、例えば、放射線撮像パネル100から出力される信号に基づいて、放射線源803からの放射線の照射を停止させるための停止信号を生成してもよい。停止信号は、コンピュータ804を介して曝射制御部802に供給され、曝射制御部802は、停止信号に応答して放射線源803に対して停止指令を送る。
【0049】
制御部805は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、または、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、または、プログラムが組み込まれた汎用コンピュータ、または、これらの全部または1部の組み合わせによって構成されうる。
【0050】
また、本実施形態において、信号処理部806は、制御部805の中に配される、または制御部805の一部の機能であるように示されているが、これに限られるものではない。制御部805と信号処理部806とは、それぞれ別の構成であってもよい。さらに、信号処理部806は、放射線撮像装置801とは別に配されていてもよい。例えば、コンピュータ804が、信号処理部806の機能を有していてもよい。このため、信号処理部806は、放射線撮像装置801から出力される信号を処理する信号処理装置として、放射線撮像システム800に含まれうる。
【0051】
コンピュータ804は、放射線撮像装置801および曝射制御部802の制御や、放射線撮像装置801から放射線画像データを受信し、放射線画像として表示するための処理を行いうる。また、コンピュータ804は、ユーザが放射線画像の撮像を行う条件を入力するための入力部として機能しうる。
【0052】
一例として、曝射制御部802は、曝射スイッチを有し、ユーザによって曝射スイッチがオンされると、曝射指令を放射線源803に送るほか、放射線の放射の開始を示す開始通知をコンピュータ804に送る。開始通知を受けたコンピュータ804は、開始通知に応答して、放射線の照射の開始を放射線撮像装置801の制御部805に通知する。これに応じて、制御部805は、放射線撮像パネル100において、入射する放射線に応じた信号を生成させる。
【0053】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0054】
100:放射線撮像パネル、101:基板、102:柱状結晶、103:樹脂、104:樹脂層、106:粒子、108:シンチレータ、110:保護層