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特許7564667無機粒子分散液の製造方法、複合粒子の製造方法、成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】無機粒子分散液の製造方法、複合粒子の製造方法、成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20241002BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20241002BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20241002BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20241002BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241002BHJP
   B01F 23/50 20220101ALI20241002BHJP
【FI】
B22F9/00 B
C09C1/00
C09D17/00
C09C3/10
B82Y40/00
B01F23/50
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020154039
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047967
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 兼司
(72)【発明者】
【氏名】峯村 淳
(72)【発明者】
【氏名】尾塩 岳治
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108277686(CN,A)
【文献】特開2014-055323(JP,A)
【文献】特開2017-182888(JP,A)
【文献】特開2018-039897(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170613(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026405(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/10
B22F 9/00
C09C 1/00
C09C 3/00
C09D 17/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム粒子を除く無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含み、
前記無機粒子の含有量(Wp)と前記バイオマスナノファイバーの含有量(Wf)との比(Wp/Wf)が0.5~30である混合液を加圧流体として前記無機粒子を分散処理する分散工程を含む無機粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記加圧流体とする際の圧力が100~250MPaである請求項1に記載の無機粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記無機粒子の平均粒子径(D50)が0.01~100μmである請求項1又は2に記載の無機粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記バイオマスナノファイバーの平均繊維径が10~100nmである請求項1~3のいずれか1項に記載の無機粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記混合液中の前記無機粒子の含有量が0.2~60質量%であり、前記バイオマスナノファイバーの含有量が0.2~2質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の無機粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
炭酸カルシウム粒子を除く無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体として前記無機粒子を分散処理する分散工程と、前記分散処理後の無機粒子分散液を熱風乾燥処理する乾燥工程とを順次含み、
前記無機粒子の含有量(Wp)と前記バイオマスナノファイバーの含有量(Wf)との比(Wp/Wf)が0.5~30である無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記熱風乾燥処理する際の温度が140~220℃である請求項に記載の無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子の製造方法。
【請求項8】
無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体として前記無機粒子を分散処理する分散工程と、前記分散処理後の無機粒子分散液を熱風乾燥処理する乾燥工程と、前記熱風乾燥処理して得た無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子を成形型に配置して成形処理する成形工程を含む成形体の製造方法。
【請求項9】
前記無機粒子の含有量(Wp)と前記バイオマスナノファイバーの含有量(Wf)との比(Wp/Wf)が0.5~30であり、
前記無機粒子が、炭酸カルシウム粒子でない請求項8に記載の成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子分散液の製造方法、複合粒子の製造方法、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子及び無機化合物粒子等といった無機粒子を含む無機粒子分散液は様々な用途の工業用材料として使用されている。無機粒子を分散させる溶媒としては、有機溶媒及び水性溶媒の両方があるが、環境への負荷低減の観点から、水性溶媒、特に水を用いることが好ましい。
【0003】
金属粒子及び無機化合物粒子は比重が大きいため、水に分散させても直ぐに沈殿してしまう。そのため、高圧ホモジナイザーで処理する場合、沈殿した金属や無機物(高濃度状態)が高圧ホモジナイザー中に入ることで配管や逆止弁、ノズル等で不具合を起こしたり、故障の原因になったりしている。
【0004】
上記のようなプロセス上の観点から、水を溶媒とした無機粒子分散液に対しては、長期間にわたって良好な分散安定性が求められる。
そこで、分散安定性を向上させるために、増粘多糖類等の増粘剤や分散剤を溶媒に添加し、無機粒子の沈殿を抑制することが考えられるが、その効果をより確実にするために多量の分散剤が添加されることがある。しかし、このような多量の分散剤は、無機粒子の表面性に少なからず影響を与える傾向があり、無機粒子が有する本来の機能の発揮が損なわれる懸念がある。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、優れた分散安定性を有する金属ナノ粒子水分散液として、金属ナノ粒子及び特定の有機化合物の複合体と、ポリビニルピロリドンとを含有する金属ナノ粒子水分散液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6269909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では種々の有機化合物を配合する必要があり、かつ製造プロセスも簡便とはいえず、より実用性の高い無機粒子分散液の製造方法が見いだせれば非常に有意である。
【0008】
以上から、本発明は上記に鑑みなされたものであり、優れた分散安定性を有する実用的な無機粒子分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、無機粒子とともにバイオマスナノファイバーを共存させて高圧分散処理を施すと、優れた分散安定性を有する実用的な無機粒子分散液が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0010】
[1] 無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体として前記無機粒子を分散処理する分散工程を含む無機粒子分散液の製造方法。
[2] 前記加圧流体とする際の圧力が100~250MPaである[1]に記載の無機粒子分散液の製造方法。
[3] 前記無機粒子の平均粒子径(D50)が0.01~100μmである[1]又は[2]に記載の無機粒子分散液の製造方法。
[4] 前記バイオマスナノファイバーの平均繊維径が10~100nmである[1]~[3]のいずれかに記載の無機粒子分散液の製造方法。
[5] 前記混合液中の前記無機粒子の含有量が0.2~60質量%であり、前記バイオマスナノファイバーの含有量が0.2~2質量%である[1]~[4]のいずれかに記載の無機粒子分散液の製造方法。
[6] 前記無機粒子の含有量(Wp)と前記バイオマスナノファイバーの含有量(Wf)との比(Wp/Wf)が0.5~30である[1]~[5]のいずれかに記載の無機粒子分散液の製造方法。
[7] 無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体として前記無機粒子を分散処理する分散工程と、前記分散処理後の無機粒子分散液を熱風乾燥処理する乾燥工程とを順次含む無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子の製造方法。
[8] 前記熱風乾燥処理する際の温度が140~220℃である[7]に記載の無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子の製造方法。
[9] 無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体として前記無機粒子を分散処理する分散工程と、前記分散処理後の無機粒子分散液を熱風乾燥処理する乾燥工程と、前記熱風乾燥処理して得た無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子を成形型に配置して成形処理する成形工程を含む成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた分散安定性を有する実用的な無機粒子分散液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例6の成形体の外観写真の図である。
図2】比較例6の成形体の外観写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)に係る無機粒子分散液の製造方法、無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子の製造方法、及び成形体の製造方法について説明する。
【0014】
[無機粒子分散液の製造方法]
本実施形態に係る無機粒子分散液の製造方法は、無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体とし、無機粒子を分散処理する分散工程を含む。
【0015】
無機粒子としては、チタン粒子、ニッケル粒子、銀粒子、金粒子等の金属粒子、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、炭化ケイ素粒子、カーボン粒子等の無機化合物粒子が挙げられる。
【0016】
無機粒子の平均粒子径(メジアン径、D50)は、0.01~400μmであることが好ましく、0.1~100μmであることがより好ましい。D50は体積基準で、nmオーダーの場合は動的光散乱法で測定することができ、μmオーダーの場合はレーザー回折光散乱法により測定することができる。
【0017】
バイオマスナノファイバーとしては、生物由来の高分子で水に難溶性のナノファイバーで、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、シルクナノファイバー等が挙げられる。なかでも、化学的安定性、熱的安定性、コストの観点からセルロースナノファイバー(CNF)が好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、10~100nmであることが好ましく、10~40nmであることがより好ましく、10~25nmであることがさらに好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均長さは、0.5~100μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径や平均長さは、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真や原子間力顕微鏡像に基づいて測定した繊維径や長さ(n=20程度)から算出することができる。
【0018】
従来用いられている増粘多糖類等で比重の大きい金属粒子や無機化合物粒子を良好に分散させるためには、高濃度の添加が必要となる。また、増粘多糖類は、高圧ホモジナイザーで処理すると粘度が低下し、分散力が低下することがある。一方で、バイオマスナノファイバーは水中で三次元ネットワークを形成し、無機粒子はその三次元ネットワークに絡まることで分散安定化する。そのため、増粘多糖類等の分散剤に比べて低濃度で優れた分散安定性を示すことができる。その結果、トラブルなく高圧ホモジナイザーで処理が可能となる。そして、高圧ホモジナイザーで処理しても大きな粘度低下や分散性の低下が起きない。
【0019】
バイオマスナノファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあるが、なかでも機械解繊で製造された機械解繊バイオマスナノファイバーであることが好ましい。機械解繊バイオマスナノファイバーは、原料バイオマスをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0020】
他方、化学修飾バイオマスナノファイバーでは、原料バイオマスを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる。よって化学修飾バイオマスナノファイバーは、化学修飾される。例えば、TEMPO酸化CNFのような化学修飾CNFを用いると塩に含まれる金属イオンが不純物として働く可能性がある。金属イオンは、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀である。しかし、機械解繊バイオマスナノファイバーは微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、無機粒子に何らかの影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。したがって、機械解繊バイオマスナノファイバーと無機粒子との組み合わせによれば、当該無機粒子の有する機能をより有効に引き出すことができる。また、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊バイオマスナノファイバーは重合度の低下が起きにくい。
【0021】
ここで、機械解繊バイオマスナノファイバーは、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
また、当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができる。
【0022】
また、機械解繊バイオマスナノファイバーがセルロースナノファイバー(機械解繊セルロースナノファイバー)である場合、その重合度は好ましくは100~1500であり、より好ましくは、200~1000である。重合度が100~1500であることで、水中で三次元ネットワークを形成することができる。重合度は、セルロースの最小構成単位であるグルコース単位の連結数であり、鋼エチレンジアミン溶液を用いた粘度法によって求められる。
【0023】
上記のような機械解繊バイオマスナノファイバーとしては、例えば、(株)スギノマシン製のBiNFi-s(ビンフィス)、大王製紙(株)製のELLEX(エレックス)(登録商標)、モリマシナリー(株)製のセルフィム等を使用することができる。
【0024】
無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液として、媒体には水を主成分(例えば50質量%以上)とする水性媒体、好ましくは水を用いる。
【0025】
混合液中の無機粒子の含有量は0.2~60質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。含有量が0.2~60質量%であることで生産量確保と装置トラブル回避の両立が可能となり、効率良く無機粒子を分散させることができる。
また、混合液中のバイオマスナノファイバーの含有量は0.2~2質量%であることが好ましく、0.3~1.0質量%であることがより好ましい。含有量が0.2~2質量%であるであることで無機粒子のより良好な分散安定性を確保することができる。
【0026】
無機粒子の含有量(Wp)とバイオマスナノファイバーの含有量(Wf)との比(Wp/Wf)は、0.5~30であることが好ましく、10~25であることがより好ましい。Wp/Wfが0.5~30であることで無機物の分散安定性の確保しつつ、コストアップや不純物の要因となるバイオマスナノファイバーの添加量を最小限にすることができる。
【0027】
上記混合液を加圧流体として無機粒子を分散処理する方法としては、高圧ホモジナイザーを用いた方法を採用することが好ましい。ビーズミルやボールミルのようなメディア式の微粒化装置(粉砕機)で微粒子化した場合、無機粒子を過剰に粉砕し、活性化させてしまうことで、逆に凝集や沈殿がしやすくなる場合がある。
一方で、高圧ホモジナイザーで処理すると、ビーズミルやボールミルのような過剰粉砕を起こすことはない。また、粒径分布をシャープ(粒径を揃える)にする効果が高いため、長期間再凝集・沈殿を抑制できる。さらに、バイオマスナノファイバーが存在することで、その再凝集・沈殿抑制効果が向上する。高圧ホモジナイザーの処理条件(噴射圧力や噴射回数)を制御することで、得られる無機粒子の粒径を制御できる点も大きなメリットである。
【0028】
好ましい処理方法としては、例えば、混合液を直径0.1~0.8mmの一つもしくは二つの噴射ノズルを介して、加圧流体とする圧力が100~250MPaの高圧噴射処理(より好ましい圧力は150~200MPa)により、衝突用硬質体に衝突させるもしくは流体同士を衝突させる処理が挙げられる。より高圧(例えば300MPa)で高圧噴射処理しても良い。この100~250MPaの高圧噴射処理は、市販されている高圧ホモジナイザーのような混合液を高圧低速で狭い流路を通過させ解放時に均質化させるせん断力だけではなく、衝突用硬質体もくしは流体同士を衝突させることによる衝突力や、キャビテーションを利用した、高圧での連続処理が可能である。このようなせん断力、衝突力、キャビテーションを利用した解繊手法をウォータージェット法(WJ法)と定義する。また、衝突処理を1回行うことを1パスとして、より均一な分散液とするには、好ましくは1~30パス、さらに好ましくは5~20パスの繰り返し衝突を行う。
市販されている高圧ホモジナイザーとしては、例えば、(株)スギノマシン製のスターバースト等を使用することが好ましい。
【0029】
以上のような処理により、優れた分散安定性を有する無機粒子分散液が得られる。また、使用する材料も無機粒子、バイオマスナノファイバー、水が主であって処理も複雑ではなく、不純物も極めて少ないため非常に実用的な無機粒子分散液が得られる。
特に、25℃における粘度が2000mPa・s以下、好ましくは100~1500mPa・sである無機粒子分散液が得られる。25℃における粘度が2000mPa・s以下であることで、乾燥等の次工程でのハンドリング性を向上させることができる。上記粘度は、B型粘度計(回転数60rpm)にて測定することができる。
【0030】
[無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子の製造方法]
本実施形態に係る無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子の製造方法は、無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体とし、無機粒子を分散処理する分散工程と、分散処理後の無機粒子分散液を熱風乾燥処理する乾燥工程とを順次含む。
分散工程は既述のとおりであるため、以下では、乾燥工程について説明する。
【0031】
分散工程を経た無機粒子分散液は、乾燥工程を経てより実用的な用途や工程に供される。乾燥方法としては、噴霧乾燥処理を採用することが好ましい。噴霧乾燥処理は、無機粒子分散液を気体中に噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉体を製造する手法であり、スプレードライやスプレードライングとも呼ばれる。
【0032】
乾燥方法の一つとして知られるオーブン加熱では、微粒子化された無機粒子が再凝集したり、パウダー状ではなく板状で得られたりする場合がある。しかしながら、スプレードライで乾燥することで、乾燥後に均一な粒子が得られる。そのため、金型成形等の後工程が実施しやすくなる。
【0033】
噴霧乾燥処理を行うスプレードライヤーは、無機粒子分散液をノズルやディスク型アトマイザー等の噴霧機により微小な液滴とし、熱風と接触させることによって短時間に乾燥させる。熱風温度(熱風乾燥処理する際の温度)は、効率性の観点から100~300℃であることが好ましく、140~220℃であることがより好ましい。
【0034】
噴霧機としてディスク型アトマイザーを用いる場合は、アトマイザーの回転数を10000~30000rpmとすることが好ましく、15000~25000rpmとすることがより好ましい。アトマイザーの回転数を上記範囲内とすることにより、無機粒子分散液を噴霧する際に、十分に微小な液滴化が可能となり、流動性に優れた粉粒物が得やすくなる傾向にある。
かかるスプレードライヤーとしては、市販されている機器を用いることができる。
【0035】
以上のようにして作製された無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子は、無機粒子とバイオマスナノファイバーとが一体、すなわち複合化しており、無機粒子とバイオマスナノファイバーとの比率にもよるが、無機粒子上に複数のバイオマスナノファイバーが付着していたり、バイオマスナノファイバー上に無機粒子が付着していたりする。
【0036】
無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子は、より実用的な観点から、平均粒子径D50が1.0~10μmであることが好ましく、2~7μmであることがより好ましい。
【0037】
また、機械解繊バイオマスナノファイバーを用いている場合は、無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子は、バイオマスナノファイバーにおけるナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、好ましくは0.01質量%以下となっている。
また、当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができる。
【0038】
[成形体の製造方法]
本発明実施形態に係る成形体の製造方法は、無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を加圧流体として無機粒子を分散処理する分散工程と、分散処理後の無機粒子分散液を熱風乾燥処理する乾燥工程と、熱風乾燥処理して得た無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子を成形型に配置して成形処理する成形工程とを含む。分散工程及び乾燥工程は既述のとおりであるため、以下では、成形工程について説明する。
【0039】
通常、成形処理の際には、成形対象の材料に有機高分子バインダーを添加するが、その場合、その後の焼成の前にバインダーを除去するための脱脂工程(焼成前に500~1000℃程度で熱処理)が必要となる。有機高分子バインダーの多くは石油由来であるため、CO排出の問題がある。また、多くの有機高分子バインダーを使用する場合は、成形体の強度が低くなりやすく、ハンドリング性や二次加工性に問題が生じることがある。
これに対し本実施形態では特に機械解繊バイオマスナノファイバーと用いることで無機粒子と複合化しているバイオマスナノファイバーがバインダーの機能を果たすことができるため、有機高分子バインダーが不要となる。また、ポリビニルアルコール(PVA)などの有機高分子バインダーよりも機械解繊バイオマスナノファイバーを用いた方が、成形体の強度は向上するため、ハンドリング性や二次加工性は向上する。
【0040】
成形処理としては、例えば、金型成形、冷間等方圧成形(CIP)、ホットプレス、熱間等方圧成形(HIP)、粉末押出成形、金属粉末射出成形(MIM)、粉末積層造形等といった処理を採用することができる。成形処理を経た成形体は、例えば、自動車部品、工具鋼、OA機器、医療機器部品、電磁部品、軸受け、圧粉磁心部品、金属磁石、摩擦材、集電材、電気接点、電極、フィルター、金型材料、タービンディスク等といった用途に好適である。
【実施例
【0041】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
[実験例1-1:無機粒子分散液(無機粒子=酸化チタン粒子)]
溶媒として水を使用し、下記表1に示す材料と配合(質量%)で、無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を作製した。
【0043】
【表1】
【0044】
使用した材料の詳細は下記のとおりである。
・酸化チタン粒子:石原産業(株)社製、商品名:ST-01(D50=4.8μm(メーカ公表一次粒子径:7nm))
・CNF A:(株)スギノマシン社製、商品名:BiNFi-s WFо-10002(平均繊維径=20nm)、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つの含有量0.01重量%以下(検出不可)
・TEMPO酸化CNF B:第一工業製薬(株)社製、商品名:レオクリスタ(登録商標)I-2SX(平均繊維径=3nm)
【0045】
各例で作製した混合液を(株)スギノマシン製のスターバーストを用いて圧力を120MPa又は200MPaとして、流体同士を衝突させるタイプの斜向衝突チャンバーを用いて、衝突回数5回の条件で無機粒子分散液を作製した。作製の際の作業性やトラブル発生頻度、処理後の粘度、分散安定性を下記表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
作製の際の作業性やトラブル発生頻度、処理後の粘度、分散安定性は下記のようにして測定若しくは評価した。
・作業性やトラブル発生頻度:
◎:水と酸化チタンと添加剤の混合(予備分散)が容易。1時間程度静置しても酸化チタンはほぼ沈殿しない。WJ法による処理中は軽微な撹拌でトラブルを起こさない。
〇:水と酸化チタンと添加剤の混合(予備分散)には、添加剤がだまになるため、ある程度の撹拌や加熱が必須。1時間程度静置しても酸化チタンはほぼ沈殿しないが、だまは発生している。WJ法による処理中は軽微な撹拌でトラブルを起こさない。
△:水と酸化チタンの混合(予備分散)が容易。1時間程度静置した場合、酸化チタンは沈殿する。WJ法による処理中は撹拌が必須。撹拌がない場合は、トラブルを起こす可能性がある。
【0048】
・粘度:
B型粘度計(ブルックフィールド製、HBDV-I Prime)を用いて、25℃、測定開始後3分後の粘度を計測した。
【0049】
・分散安定性:
◎:WJ法による処理後、2日間静置しても酸化チタンは沈殿しない。
〇:WJ法による処理後、2日間静置しても酸化チタンは沈殿しない。しかしながら、ゲル化する。
△:WJ法による処理後、2日間静置した場合、酸化チタンは若干沈殿する。
×:WJ法による処理後、2日間静置した場合、酸化チタンは沈殿する。
【0050】
[実験例1-2:無機粒子分散液(無機粒子=チタン粒子)]
溶媒として水を使用し、下記表3に示す材料と配合(質量%)で、無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含む混合液を作製した。
【0051】
【表3】
【0052】
使用した材料の詳細は下記のとおりである。
・チタン粒子:富士フイルム和光純薬(株)社製チタン粉末(D50=26.4μm)
・CNF A:(株)スギノマシン社製、商品名:BiNFi-s WFо-10002(平均繊維径=20nm)
・TEMPO酸化CNF B:第一工業製薬(株)社製、商品名:レオクリスタ(登録商標)I-2SX(平均繊維径=3nm)
【0053】
各例で作製した混合液を(株)スギノマシン製のスターバーストを用いて圧力を200MPaとして、流体同士を衝突させるタイプの斜向衝突チャンバーを用いて、衝突回数5回の条件で無機粒子分散液を作製した。作製の際の作業性やトラブル発生頻度、処理後の粘度、分散安定性を下記表4に示す。
なお、作製の際の作業性やトラブル発生頻度、処理後の粘度、分散安定性は、実験例1-1と同様にして測定若しくは評価した。
【0054】
【表4】
【0055】
[実験例2:無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子]
実施例1の無機粒子分散液を熱風乾燥処理して、実施例5に係る無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子を作製した。
また、比較例2無機粒子分散液を熱風乾燥処理して、比較例5に係る無機粒子-増粘多糖類複合粒子を作製した。
熱風乾燥処理は、(株)GF製のマイクロミストスプレードライヤー MDL-050M装置を用い、流量は、20mL/min、IN側の温度は200℃、OUT側の温度は103℃の条件で行った。
それぞれの無機粒子-バイオマスナノファイバーもしくは増粘多糖類複合粒子について、平均粒子径(D50)の測定と走査型電子顕微鏡観察の評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
[実験例3:成形体]
実施例5の無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子を用いて、これを成形型に配置して成形処理を行って高さ3mm×幅4mm×長さ36mmの形状の成形体を作製した(実施例6)。
同様に、比較例5の無機粒子-増粘多糖類複合粒子を用いて、これを成形型に配置して成形処理を行って高さ3mm×幅4mm×長さ36mmの形状の成形体を作製した(比較例6)。当該成形体の外観写真を図1(実施例6)及び図2(比較例6)に示す。なお、成形は圧粉成形で、20MPa,2分間の条件で行った。
各成形体について圧粉成形後の成形体による強度を評価したところ、実施例6では成形可能であったが、比較例6では、成形不良が生じた。
【0058】
以上のような本発明によれば、下記のような無機粒子分散液、無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子、成形体を提供することができる。
(1)無機粒子とバイオマスナノファイバーとを含み、前記無機粒子の平均粒子径が0.01~100μmであり、前記バイオマスナノファイバーの平均繊維径が10~100nmである無機粒子分散液。
(2)前記無機粒子の含有量(Wp)と前記バイオマスナノファイバーの含有量(Wf)との比(Wp/Wf)が0.5~30である上記(1)に記載の無機粒子分散液。
(3)25℃における粘度が2000mPa・s以下、好ましくは100~1500mPa・sである上記(1)又は(2)に記載の無機粒子分散液。
(4)ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有量が0.01質量%以下である上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の無機粒子分散液。
(5)平均粒子径が0.01~100μmである無機粒子と平均繊維径が10~100nmであるバイオマスナノファイバーとが複合化した複合粒子であり、この複合粒子の平均粒子径が1.5~10μmである無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子。
(6)バイオマスナノファイバーにおけるナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有量が0.01質量%以下である上記(5)に記載の無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子。
(7)上記(5)又は(6)に記載の無機粒子-バイオマスナノファイバー複合粒子を含む成形体。



図1
図2