IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アサヒグループホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-女性更年期症状の改善剤 図1
  • 特許-女性更年期症状の改善剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】女性更年期症状の改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20241002BHJP
   A61P 15/12 20060101ALI20241002BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241002BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P15/12
A23L33/135
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021009583
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113373
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-08-02
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11331
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】菅原 智詞
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-509989(JP,A)
【文献】特開2001-069946(JP,A)
【文献】特開2007-197334(JP,A)
【文献】特開2005-325108(JP,A)
【文献】LIM, E.Y. et al.,The Effect of Lactobacillus acidophilus YT1 (MENOLACTO) on Improving Menopausal Symptoms: A Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Clinical Trial,J Clin Med.,2020年07月09日,9(7):2173,<doi: 10.3390/jcm9072173>
【文献】NISHIDA, Kensei et al.,Daily administration of paraprobiotic Lactobacillus gasseri CP2305 ameliorates chronic stress-associated symptoms in Japanese medical students,Journal of Functional Foods,2017年,Volume 36, Pages 112-121,<DOI: 10.1016/j.jff.2017.06.031>
【文献】NISHIDA, Kensei et al.,Health Benefits of Lactobacillus gasseri CP2305 Tablets in Young Adults Exposed to Chronic Stress: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study,Nutrients,2019年08月10日,11(8):1859,<doi: 10.3390/nu11081859>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L 33/
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する女性更年期症状の改善剤。
【請求項2】
前記女性更年期症状が、精神症状及び/又は身体症状である請求項1に記載の改善剤。
【請求項3】
前記精神症状が、不眠、怒り、イライラ、憂うつからなる群から選択される1つ以上の症状である請求項2に記載の改善剤。
【請求項4】
前記身体症状が、冷え、頭痛、めまい、吐きけ、疲れ、肩こり、腰痛、及び手足の痛みからなる群から選択される1つ以上の症状である請求項2又は3に記載の改善剤。
【請求項5】
経口摂取されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の改善剤。
【請求項6】
ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する女性更年期症状改善用飲食品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、該乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する、女性更年期症状の改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
女性は平均的に50歳頃に閉経し、閉経前10年から閉経後10年までの期間(40歳~60歳)が更年期と言われている。女性の更年期には、卵巣機能の低下、心理的要因、環境的要因など、様々な要因が複雑に重なって、更年期症状(以下、「女性更年期症状」という)が現れることがある。女性更年期症状は、身体的及び/又は精神的な不快症状であり、一般的には、その症状が年単位で持続する。
【0003】
このような女性更年期症状を改善するために、様々技術が提案されている。例えば、特許文献1では、プエラリア・トムソニ(Pueraria thomsonii)抽出物を有効成分として含む女性更年期症状の改善用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2020-509989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、女性更年期症状を改善できる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、該乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を摂取することにより、女性更年期症状を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する女性更年期症状の改善剤。
[2] 前記女性更年期症状が、精神症状及び/又は身体症状である[1]に記載の改善剤。
[3] 前記精神症状が、不眠、怒り、イライラ、憂うつからなる群から選択される1つ以上の症状である[2]に記載の改善剤。
[4] 前記身体症状が、冷え、頭痛、めまい、吐きけ、疲れ、肩こり、腰痛、及び手足の痛みからなる群から選択される1つ以上の症状である[2]又は[3]に記載の改善剤。
[5] 経口摂取されることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の改善剤。
[6] ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(受託番号:FERM BP-11331)である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する女性更年期症状改善用飲食品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、女性更年期症状を改善できる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】SMIの変化値と時間(月経周期)の関係を示すグラフである。
図2】精神症状スコアの変化値と時間(月経周期)の関係を示すグラフ(図2(a))、及び身体症状スコアの変化値と時間(月経周期)の関係を示すグラフ(図2(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態は、女性更年期症状の改善剤(以下、単に「改善剤」ともいう)に関する。本実施形態の改善剤は、ラクトバチルス・ガセリ CP2305株(以下、単に「CP2305株」ともいう)である乳酸菌株、CP2305株の処理物、またはそれらの抽出物を含有する。
【0012】
まず、本実施形態の改善剤に用いられるCP2305株について具体的に説明する。なお、以下の説明では、CP2305株と、その処理物と、それらの抽出物を総称し、CP2305株等ともいう。
【0013】
本実施形態の改善剤に用いられるラクトバチルス・ガセリ CP2305株は、乳酸菌株の1種であり、ブダペスト条約の規定に基づく国際寄託機関である独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、2007年9月11日付で受託番号:FERM BP-11331として国際寄託されている。
【0014】
本実施形態の改善剤に用いられるCP2305株は、CP2305株が生育し得る培地であれば、どのような培地で培養されたものであってもよく、特に限定されるものではない。例えば、乳酸菌の培養において一般的に用いられる培地(例えば、MRS培地等の合成培地)で培養されたCP2305株が用いられてもよく、その改変培地で培養されたCP2305株が用いられてもよい。
【0015】
CP2305株を培養する培地で使用される栄養素も、CP2305株が生育し得るものであればよく、特に限定されるものではない。
【0016】
例えば、炭素の供給源(以下、「炭素源」ともいう)としては、通常の微生物の培養に利用されるグルコース、蔗糖、乳糖、糖蜜等を用いることができる。これらの炭素源は、2種類以上を併用してもよい。また、窒素の供給源(以下、「窒素源」ともいう)としては、例えば、ペプトン、カゼイン、カゼイン分解物、ホエー、ホエー分解物を用いることができる。これらの窒素源は、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
CP2305株を培養する培地には、上述した炭素源や窒素源の他に、他の栄養素の供給源を含有させてもよい。このような栄養素の供給源としては、例えば、コーンスティプリカー(CSL)、酵母エキス、肉エキス、肝臓エキス、トマトジュースを挙げることができる。これらの供給源等は、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
また、CP2305株を培養するための培地には、上述した栄養素の供給源の他に、還元剤や、生育促進因子や、緩衝能を付与し得る物質などの他の成分が含有されていてもよい。具体的な還元剤としては、例えば、L-システインを挙げることができる。また、具体的な生育促進因子としては、例えば、ビタミン、核酸関連物質、酢酸塩、クエン酸塩、脂肪酸エステル、ツイーン80を挙げることができ、これらの中でもツイーン80がより好ましい。具体的な緩衝能を付与し得る物質としては、例えば、リン酸塩を挙げることができる。
【0019】
CP2305株の培養法は、CP2305株が生育し得るものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、静置培養や、pHを一定にコントロールした中和培養を用いることができる。
【0020】
CP2305株を培地で培養した場合には、培養物からCP2305株を集菌し、これを本実施形態の改善剤に用いることができる。集菌方法は、特に限定されるものではないが、例えば、遠心分離や膜ろ過を用いることができる。
【0021】
本実施形態の改善剤には、上述したように、CP2305株や、CP2305株の処理物(以下、単に「処理物」ともいう)や、CP2305株及び/又はその処理物の抽出物(以下、単に「抽出物」ともいう)が含有される。即ち、本実施形態の改善剤には、CP2305株、処理物、及び抽出物のうち、少なくとも一つ以上が含有される。
【0022】
本実施形態の改善剤に含有され得るCP2305株には、例えば、CP2305株の生菌や、湿潤菌や、乾燥菌を用いることができる。
【0023】
本実施形態の改善剤に含有され得る処理物には、例えば、CP2305株に物理的処理を施した処理物や、CP2305株に化学的処理を施した処理物を用いることができる。具体的な処理物としては、例えば、CP2305株を含む発酵乳の濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状物、希釈物、破砕物が挙げられる。なお、乾燥物には、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、およびドラム乾燥物からなる群より選択される1種の乾燥物を用いることができる。
【0024】
処理物中のCP2305株は、生菌であってもよく、死菌であってもよい。死菌は、通常、菌体を加熱することにより得ることができる。加熱条件は、菌体が死滅する条件であればよく、特に限定されないが、一般的には、105℃、30分程度の加熱により菌体は死滅する。死菌を得る方法は、上述した加熱する方法に限定されず、放射線により菌体を死滅させる方法や、破砕により菌体を死滅させる方法を用いることができる。
【0025】
本実施形態の改善剤に含有され得る抽出物には、CP2305株を溶媒で抽出した抽出物を用いることができる。抽出に用いる溶媒は、特に限定されるものではないが、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、水、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。抽出温度や抽出時間などの抽出条件は、特に限定されるものではなく、菌体の抽出物を得るために一般的に用いられる条件を用いることができる。
【0026】
本実施形態の改善剤の剤型(形態)は、特に限定されるものではなく、医薬品、医薬部外品または飲食品などのあらゆる剤型とすることができる。なお、本実施形態の改善剤の摂取方法は、剤型に応じて適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、経口的に摂取することができる。
【0027】
本実施形態の改善剤は、CP2305株等に加えて、CP2305株等以外の他の成分が含有されていてもよい。例えば、本実施形態の改善剤を医薬品、医薬部外品、又は飲食品とする場合、本実施形態の改善剤には、CP2305株等に加えて、賦形剤、結合剤、安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、食品、飲料などの他の成分が含有されていてもよい。
【0028】
本実施形態の改善剤の剤形は、特に限定されるものではなく、改善剤の剤型(形態)に応じて適宜設定できる。例えば、本実施形態の改善剤を医薬品、医薬部外品、又は飲食品とする場合、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等の剤形とすることができる。
【0029】
特に、本実施形態の改善剤を飲食品とする場合、通常の飲食品としてもよいが、特定保健用食品等の特別用途食品や、栄養機能食品としてもよい。飲食品の具体例としては、例えば、栄養補助食品(サプリメント)、牛乳、加工乳、乳飲料、清涼飲料、酒類、ノンアルコールビール、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、アイスクリーム、キャンディ、グミ、ガム、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品を挙げることができる。
【0030】
本実施形態の改善剤は、CP2305株等と必要に応じて含有される上述した成分とを適宜混合し、常法により製造することができ、その製造方法や製造条件について、特に限定されるものではない。
【0031】
本実施形態の改善剤におけるCP2305株等の配合量は、特に限定されるものではないが、成人の場合、例えば、1日当たり1億個~1000億個のCP2305株(又は、その量に相当するCP2305株の処理物や、その量に相当するCP2305株の抽出物)を摂取できる配合量にすることができる。本実施形態の改善剤の摂取期間は、特に限定されるものではないが、例えば、1回以上の月経周期(つまり、連続して4週以上)、2回以上の連続する月経周期(つまり、連続して8週以上)、または6回以上の連続する月経周期(つまり、連続して24週以上)とすることができる。
【0032】
以上説明した本実施形態の改善剤を、女性更年期症状を有する者が摂取することにより、女性更年期症状を改善することができる。なお、女性更年期症状を改善できるとは、本実施形態の改善剤を摂取することにより、本実施形態の改善剤を摂取していないときと比較して、女性更年期症状の程度(強さ)を軽減できることを指し、必ずしも、女性更年期症状を生じさせないことを指すものではない。
【0033】
本実施形態の改善剤を摂取することで改善される女性更年期症状は、精神症状、身体症状、及び血管運動症状からなる群から選択される少なくとも一つの症状であって、40歳~60歳(40歳以上60歳以下)の女性に現れる症状である。女性更年期症状は、通常、器質的変化に起因しない症状であり、その症状が年単位で(例えば、1年以上)持続する。女性更年期症状は、通常、その症状が年単位で持続することから、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)などのように、月経前にその症状が現れて月経期間中に減弱あるいは消失する症状とは区別されている。本実施形態の改善剤で改善する女性更年期症状は、より症状が改善されやすくなる観点から、精神症状及び/又は身体症状であることが好ましい。
【0034】
女性更年期症状のうちの精神症状は、精神的な症状であり、具体的な症状としては、不眠(入眠障害、熟眠障害など)、怒り、イライラ、憂うつ、不安感などの症状を例示することができる。より症状が改善されやすくなる観点からは、本実施形態の改善剤で改善する精神症状は、不眠、怒り、イライラ、憂うつからなる群から選択される1つ以上の症状であることが好ましい。
【0035】
なお、怒りは、公知文献(標準精神医学第6版(医学書院))によれば、感情の興奮性の亢進であり、些細なことで不機嫌になり深い感情が亢進した状態と定義できる。また、イライラは、日本女性心身医学会によれば、自分の思うようにならず、気が焦るさまと定義できる。また、憂うつは、抑うつ感と同義で、公知文献(標準精神医学第6版(医学書院))によれば、動機もないのに妙に気分が沈むことと定義できる。また、不安感は、公知文献(標準精神医学第6版(医学書院))によれば、対象のない恐れを感じることと定義できる。
【0036】
女性更年期症状のうちの身体症状は、血管運動症状を除いた、苦痛を伴う身体的な症状であり、具体的な症状としては、冷え、頭痛、めまい、吐きけ、疲れ、肩こり、腰痛、手足の痛み(関節の痛み)、のどの渇き、むくみ、しびれ、下痢、便秘などの症状を例示することができる。より症状が改善されやすくなる観点からは、本実施形態の改善剤で改善する身体症状は、冷え、頭痛、めまい、吐きけ、疲れ、肩こり、腰痛、及び手足の痛みからなる群から選択される1つ以上の症状であることが好ましい。なお、疲れは、疲労ともいい、日本疲労学会によれば、過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態と定義できる。
【0037】
女性更年期症状のうちの血管運動症状は、血管運動神経が関与する身体的な症状であり、代謝が亢進することなどにより現れる症状である。具体的な症状としては、のぼせ、ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、息切れ、動悸などの症状を例示することができる。
【0038】
40歳~60歳の女性に前述した症状のうちの少なくとも一つがあれば女性更年期症状を有していると判断してよいが、好ましくは、簡略更年期指数(Simplified Menopausal Index(SMI))が26点以上であるときに女性更年期症状を有していると判断することができる。簡略更年期指数(SMI)の上限値は、100点以下であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、80点以下(26点以上80点以下)であるときに女性更年期症状を有していると判断してもよく、65点以下(26点以上65点以下)であるときに女性更年期症状を有していると判断してもよく、50点以下(26点以上50点以下)であるときに女性更年期症状を有していると判断してもよい。
【0039】
なお、上述した簡略更年期指数(SMI)は、更年期症状の有無や症状の程度を判断するための指数であり、精神症状、身体症状、及び血管運動症状に関する10個の症状の有無及び症状の程度を評価し、その評価結果をスコア化することで得られる。簡略更年期指数の詳細については、例えば、公知文献(女性医学ガイドブック 更年期医療編 2014年度版(日本女性医学学会))に記載されている。
【0040】
本実施形態の改善剤を摂取する者は、女性更年期症状を有する40歳~60歳の女性であればよく、閉経前の女性であっても閉経後の女性であってもよいが、閉経前の女性であることが好ましい。なお、閉経とは、日本産科婦人科学会によれば、卵巣の活動性が次第に消失し、ついに月経が永久に停止した状態と定義でき、月経が来ない状態が12か月以上続いた時に、1年前を振り返って閉経と判断することができる。閉経については、エストラジオール(E2)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の血中濃度を判断基準とすることもでき、例えば、卵胞期におけるE2の血中濃度が10pg/mlを超えているときに閉経前であると判断することができ(言い換えれば、E2の血中濃度が10pg/ml以下であるときに閉経後であると判断することができ)、また例えば、卵胞期におけるFSHの血中濃度が40mIU/mlを下回っているときに閉経前であると判断することができる(言い換えれば、FSHの血中濃度が40mIU/ml以上であるときに閉経後であると判断することができる)。
【0041】
上述した本実施形態の改善剤では、CP2305株等を、女性更年期症状の改善に使用したり、女性更年期症状の改善剤を製造したりするために使用している。すなわち、本実施形態の一様態には、女性更年期症状を改善するためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)や、女性更年期症状の改善剤を製造するためのCP2305株等の使用(ラクトバチルス・ガセリ CP2305株である乳酸菌株、前記乳酸菌株の処理物、またはそれらの抽出物の使用)が含まれる。なお、女性更年期症状を改善するために使用されるCP2305株等や、女性更年期症状の改善剤を製造するために使用されるCP2305株等は、上述した改善剤のCP2305株等と同一の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
[試験1(更年期症状)]
CP2305株の加熱死菌と、麦芽糖(賦形剤)と、デキストリン(結合剤)と、でんぷん(結合剤)と、植物油脂(滑沢剤)を混合し、得られた混合物を打錠(圧縮成形)して直径8mmの丸型錠剤(以下、「CP2305錠」ともいう)を得た。CP2305錠の1粒は、0.22gであり、約50億個のCP2305株の加熱死菌を含んでいた。
【0044】
また、CP2305株の加熱死菌を使用することなく、麦芽糖の量(加熱死菌と同量)を増加したこと以外は、CP2305錠と同様の方法で、直径8mmの丸型錠剤(以下、「Placebo錠」ともいう)を得た。Placebo錠の1粒は、CP2305錠と同様に、0.22gであった。
【0045】
CP2305錠とPlacebo錠(以下、これらを「錠剤」ともいう)を用いて、以下に示すように、二重盲検法による無作為化プラセボ比較試験(RCT)を行った。
【0046】
まず、被験者を選定するため、40~59歳の閉経前の健常な女性(ヒト)を対象に、簡略更年期指数(以下、単に「SMI」ともいう)を取得した。具体的には、公知文献(女性医学ガイドブック 更年期医療編 2014年度版(日本女性医学学会))に基づき、40~59歳の閉経前の健常な女性を対象に、下記表1に示す10個の更年期症状に関して、4段階(「無」、「弱」、「中」、「強」)で症状の程度を自己評価してもらい、その評価結果を下記表1に従ってスコア化し、その合計点としてSMIを取得した。自己評価は、月経による女性ホルモンの影響を避けるため、月経の開始日から6日目までの間(0回目の月経)に統一して行った。
【0047】
なお、評価対象とした下記表1の更年期症状は、血管運動症状(表1に示す症状1、2、4)、精神症状(表1に示す症状5~7)及び身体症状(表1に示す症状3、8乃至10)に関する10個の症状である。また、自己評価を行う前には、評価基準を統一するため、被験者には、症状の程度ついて、下記定義を提示した。
[定義]
症状の程度「無」:症状がない。
症状の程度「弱」:症状の自覚はあるが日常生活にはほとんど影響しない。
症状の程度「中」:症状がひどく、がまんできないことがある。
症状の程度「強」:症状が大変ひどく、日常生活に支障をきたす。
【0048】
【表1】
【0049】
上述した方法でSMIを取得した後、SMIが26~50点である女性94名を抽出し、この女性94名を、更年期症状(日常生活に支障を来たさない程度の更年期症状)がある被験者とした。なお、被験者は、いずれも、卵胞期のエストラジオール(E2)の血中濃度が10pg/mlを超えており、卵胞期の卵胞刺激ホルモン(FSH)の血中濃度が40mIU/mlを下回っていた。
【0050】
被験者(女性94名)を、CP2305錠を摂取させる群(以下、「CP2305群」ともいう)と、Placebo錠を摂取させる群(以下、「Placebo群」ともいう)の2つの群に分け、錠剤を1日2錠、連続する6回の月経周期の間に継続して摂取させた。なお、錠剤の摂取は、自己評価(SMI取得のための自己評価)の実施タイミングとした月経(0回目の月経)の開始日に統一して開始した。
【0051】
錠剤摂取の開始タイミングである月経から次の月経(1回目の月経)の開始日までの期間を月経周期の1周期目として、2周期目の終了直後、4周期目の終了直後、及び6周期目の終了直後の計3回、上述した方法と同様の方法でSMIを取得した。
【0052】
結果を図1に示す。なお、図1において、縦軸は、錠剤の摂取開始前のSMI(被験者の選定時に取得したSMI)を基準としたSMIの変化値(平均値)を表しており、SMIの変化値が0よりも低いことは、錠剤の摂取開始前と比較してSMIが低くなっていることを表す。また、横軸は、時間(月経周期)を示している。
【0053】
図1から理解できるように、CP2305群は、錠剤摂取後の連続する6回の月経周期の間継続してSMIの変化値が0よりも低かった。また、CP2305群は、Placebo群と比較しても、錠剤摂取後の連続する6回の月経周期の間継続してSMIの変化値が低く、反復測定分散分析(Repeated Measures ANOVA)を用いた統計解析からSMIの変化値が優位に低くなったことも確認された。この結果から、CP2305群は、更年期症状を改善できたことが確認できた。
【0054】
次に、2周期目の終了直後のSMI、4周期目の終了直後のSMI、及び6周期目の終了直後のSMIから、精神症状(表1に示す症状5~7)に関するスコアのみを抽出し、月経周期毎にこれらのスコアの合計値(以下、「精神症状スコア」ともいう)を求めた。同様に、2周期目の終了直後のSMI、4周期目の終了直後のSMI、及び6周期目の終了直後のSMIから、身体症状(表1に示す症状3、8乃至10)に関するスコアのみを抽出し、月経周期毎にこれらのスコアの合計値(以下、「身体症状スコア」ともいう)を求めた。
【0055】
精神症状スコアに関する結果を図2(a)に、身体症状スコアに関する結果を図2(b)に示す。
【0056】
なお、図2(a)では、縦軸は、錠剤の摂取開始前における精神症状スコア(被験者の選定時に取得したSMIから抽出した精神症状スコア)を基準としたスコアの変化値(平均値)を表しており、スコアの変化値が0よりも低いことは、錠剤の摂取開始前と比較して精神症状スコアが下がっていることを表す。また、図2(b)において、縦軸は、錠剤の摂取開始前における身体症状スコア(被験者の選定時に取得したSMIから抽出した身体症状スコア)を基準としたスコアの変化値(平均値)を表しており、スコアの変化値が0よりも低いことは、錠剤の摂取開始前と比較して身体症状スコアが下がっていることを表す。図2(a)及び図2(b)において、横軸は、時間(月経周期)を示している。
【0057】
図2(a)及び図2(b)から理解できるように、CP2305群は、錠剤摂取後の連続する6回の月経周期の間継続して精神症状スコア及び身体症状スコアの変化値が0よりも低かった。また、CP2305群は、Placebo群と比較しても、錠剤摂取後の連続する6回の月経周期の間継続して、精神症状スコア及び身体症状スコアの変化値が低く、反復測定分散分析(Repeated Measures ANOVA)を用いた統計解析からこれらの変化値が優位に低くなったことも確認された。これらの結果から、CP2305群は、更年期症状のうちの精神症状(症状5(不眠)、症状6(怒り、イライラ)、及び症状7(憂うつ))を改善できるとともに、更年期症状のうちの身体症状(症状3(冷え)、症状8(頭痛、めまい、吐きけ)、症状9(疲れ)、及び症状10(肩こり、腰痛、手足の痛み))を改善できたことが確認できた。
図1
図2