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特許7564727静電成膜装置およびこれを使用する全固体二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】静電成膜装置およびこれを使用する全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/025 20060101AFI20241002BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241002BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241002BHJP
   B05B 5/08 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B05B5/025 B
H01M10/0562
H01M10/0585
B05B5/08 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021019408
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122298
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健児
(72)【発明者】
【氏名】福井 英之
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-146468(JP,A)
【文献】特開2017-074568(JP,A)
【文献】特開2013-182842(JP,A)
【文献】特開2008-104894(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188737(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169567(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/034598(WO,A1)
【文献】特開2016-032937(JP,A)
【文献】特開2019-093690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/025
H01M 10/0562
H01M 10/0585
B05B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を供給する粉体供給器と、
前記粉体から粉体膜を形成する基板と、
前記粉体供給器と前記基板とに電圧を印加することで、当該粉体供給器からの粉体を静電力により前記基板に導く直流電源と、
前記粉体供給器と前記基板との間に配置されて、当該粉体供給器から当該基板に至る粉体を通過させる通過口を有するマスキング部材とを備える静電成膜装置であって、
前記マスキング部材が、形成される粉体膜に非接触の状態で配置され
前記直流電源が、前記マスキング部材にも前記基板と同極の電圧を印加するものであり、
前記粉体供給器と前記基板との間の電界が所定値未満になるまで、当該粉体供給器と前記基板とを離間させる移動機構と、
前記マスキング部材から分離した前記粉体が前記基板に形成された粉体膜に付着しないようにする粉体回避手段と、
前記粉体が前記基板に形成された粉体膜に付着しない状態で、前記直流電源による前記粉体供給器および前記マスキング部材への電圧の印加を遮断する電圧遮断機構とをさらに備えることを特徴とする静電成膜装置。
【請求項2】
前記粉体回避手段が、前記マスキング部材から分離した前記粉体が前記基板に形成された粉体膜に付着しない位置まで、前記マスキング部材を退避させる退避機構であり、
退避された前記マスキング部材から前記粉体を除去する清掃機構をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の静電成膜装置。
【請求項3】
前記マスキング部材と前記基板との間に配置されたスペーサをさらに備え、
前記スペーサが、前記基板に形成される粉体膜よりも外側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の静電成膜装置。
【請求項4】
前記スペーサが、絶縁体であることを特徴とする請求項に記載の静電成膜装置。
【請求項5】
前記スペーサが、弾性を有し、前記マスキング部材および前記基板に密着していることを特徴とする請求項3または4に記載の静電成膜装置。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の静電成膜装置を使用する、電極集電体および粉体膜を有する全固体二次電池の製造方法であって、
前記静電成膜装置の基板として前記電極集電体を準備する工程と、
前記静電成膜装置により、前記電極集電体である基板に前記粉体膜を形成する工程とを備えることを特徴とする全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電成膜装置およびこれを使用する全固体二次電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電成膜装置では、通常、スクリーンなどの粉体供給器から粉体を帯電させながら落下させ、当該粉体とは反対の極に帯電させた基板で当該粉体を受けることにより、当該基板に粉体膜が形成される。静電成膜装置を使用する場合、粉体供給器から落下する粉体が静電力により基板に引き寄せられるので、粉体が飛散して基板から外れることを抑えられる、というメリットがある。
【0003】
従来の静電成膜装置では、粉体供給器として、粉体をスクリーンに上からローラで刷り込む構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、この特許文献1には、その段落[0014]および[0015]並びに図2に示されているように、粉体供給器(スクリーン10)から落下する粉体(機能性粉体13)を受ける基板(対象物1)にマスキング部材(マスキングシート15)が載置されている。これにより、基板(対象物1)には、粉体膜の形成されている箇所と形成されていない箇所との境界が明確になるので、粉体膜の輪郭がはっきりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-140016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に記載の静電成膜装置(静電スクリーン印刷装置)では、マスキング部材(マスキングシート15)の使用により粉体膜を形成した後、基板(対象物1)からマスキング部材(マスキングシート15)を取り外す際に、粉体膜の一部がマスキング部材(マスキングシート15)に付着して、当該粉体膜が欠損することもある。このように、前記特許文献1に記載の静電成膜装置(静電スクリーン印刷装置)では、形成された粉体膜が欠損することもあるので、高精度に粉体膜を形成できないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、高精度に粉体膜を形成し得る静電成膜装置およびこれを使用する全固体二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、第1の発明に係る静電成膜装置は、粉体を供給する粉体供給器と、
前記粉体から粉体膜を形成する基板と、
前記粉体供給器と前記基板とに電圧を印加することで、当該粉体供給器からの粉体を静電力により前記基板に導く直流電源と、
前記粉体供給器と前記基板との間に配置されて、当該粉体供給器から当該基板に至る粉体を通過させる通過口を有するマスキング部材とを備える静電成膜装置であって、
前記マスキング部材が、形成される粉体膜に非接触の状態で配置され
前記直流電源が、前記マスキング部材にも前記基板と同極の電圧を印加するものであり、
前記粉体供給器と前記基板との間の電界が所定値未満になるまで、当該粉体供給器と前記基板とを離間させる移動機構と、
前記マスキング部材から分離した前記粉体が前記基板に形成された粉体膜に付着しないようにする粉体回避手段と、
前記粉体が前記基板に形成された粉体膜に付着しない状態で、前記直流電源による前記粉体供給器および前記マスキング部材への電圧の印加を遮断する電圧遮断機構とをさらに備えるものである。
【0008】
また、第2の発明に係る静電成膜装置は、第1の発明に係る静電成膜装置における前記粉体回避手段が、前記マスキング部材から分離した前記粉体が前記基板に形成された粉体膜に付着しない位置まで、前記マスキング部材を退避させる退避機構であり、
退避された前記マスキング部材から前記粉体を除去する清掃機構をさらに備えるものである。
【0009】
さらに、第3の発明に係る静電成膜装置は、第1または第2の発明に係る静電成膜装置において、前記マスキング部材と前記基板との間に配置されたスペーサをさらに備え、
前記スペーサが、前記基板に形成される粉体膜よりも外側に配置されているものである。
【0010】
加えて、第4の発明に係る静電成膜装置は、第3の発明に係る静電成膜装置における前記スペーサが、絶縁体である。
【0011】
また、第5の発明に係る静電成膜装置は、第3または第4の発明に係る静電成膜装置における前記スペーサが、弾性を有し、前記マスキング部材および前記基板に密着しているものである。
【0014】
また、第の発明に係る全固体二次電池の製造方法は、第1乃至第の発明に係る静電成膜装置を使用する、電極集電体および粉体膜を有する全固体二次電池の製造方法であって、
前記静電成膜装置の基板として前記電極集電体を準備する工程と、
前記静電成膜装置により、前記電極集電体である基板に前記粉体膜を形成する工程とを備える方法である。
【発明の効果】
【0015】
前記静電成膜装置およびこれを使用する全固体二次電池の製造方法によると、高精度に粉体膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態1に係る静電成膜装置の概略断面図であり、粉体膜が形成されている状態を示す。
図2】同静電成膜装置の概略断面図であり、粉体膜が形成された後の状態を示す。
図3】本発明の実施の形態2に係る静電成膜装置の概略断面図であり、粉体膜が形成されている状態を示す。
図4】同静電成膜装置の概略断面図であり、粉体膜が形成された後に基板を移動し、その後に基板への電圧の印加を遮断した状態を示す。
図5】同静電成膜装置の概略断面図であり、図4に示す状態の後に、粉体供給器およびマスキング部材への電圧の印加を遮断した状態を示す。
図6】本発明の実施の形態3に係る静電成膜装置の概略断面図であり、粉体膜が形成された後の状態を示す。
図7】同静電成膜装置の概略断面図であり、図6に示す状態の後に、マスキング部材が退避されて、マスキング部材の粉体が除去された状態を示す。
図8】同静電成膜装置の使用により製造される全固体二次電池の概略構成図である。
図9】同全固体二次電池の製造方法を示す概略断面図であり、正極集電体に正極層が形成された状態を示す。
図10】同全固体二次電池の製造方法を示す概略断面図であり、正極層に固体電解質層が形成された状態を示す。
図11】同全固体二次電池の製造方法を示す概略断面図であり、固体電解質層に負極層が形成された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態1~3に係る静電成膜装置について説明し、その後、当該静電成膜装置を使用する全固体二次電池の製造方法について説明する。
[実施の形態1]
【0018】
まず、本発明の実施の形態1に係る静電成膜装置について、図1および図2に基づき説明する。
【0019】
図1に示すように、この静電成膜装置1は、粉体Pを供給する粉体供給器2と、当該粉体Pから粉体膜Fを形成する基板5と、前記粉体供給器2と基板5とに電圧を印加する直流電源3とを備える。この直流電源3は、前記電圧を印加することで、前記粉体供給器2からの粉体Pを静電力により基板5に導くものである。また、前記静電成膜装置1は、前記粉体供給器2と基板5との間に配置されるマスキング部材4を備える。このマスキング部材4には、前記粉体供給器2から基板5に至る粉体Pを通過させる通過口40が形成されている。さらに、前記マスキング部材4は、形成される粉体膜Fに非接触の状態で配置されている。前記マスキング部材4が形成される粉体膜Fに非接触の状態とは、例えば、前記マスキング部材4が形成される粉体膜Fの厚さh以上に基板5から離れた位置(h≦D)のことである。勿論、前記マスキング部材4は、形成される粉体膜Fに非接触の状態であれば、形成されていく粉体膜Fの厚さに応じて基板5から離れていくものでもよい。また、前記マスキング部材4は、図1および図2には示さないが、保持手段により保持される。当該保持手段は、例えば、前記マスキング部材4を横から保持する保持具、および、実施の形態2および3で後述する、前記マスキング部材4と基板5との間に配置されて当該マスキング部材4を支持するスペーサ6(図3参照)などである。
【0020】
図1に示すように、前記粉体供給器2は、前記粉体Pを供給するものであれば特に制限されないが、例えば、スクリーン21が形成された静電スクリーン印刷板20と、この静電スクリーン印刷板20のスクリーン21に粉体Pを擦り込む擦込体22とを有する。
【0021】
前記基板5は、前記粉体供給器2からの粉体Pにより粉体膜Fを形成するものであれば特に制限されないが、前記マスキング部材4の通過口40を通過した粉体Pから粉体膜Fを形成するものであるから、前記基板5の縁が通過口40よりも外側に位置することが好ましい。
【0022】
前記直流電源3は、前記粉体供給器2からの粉体Pを静電力により基板5に導く電圧を当該粉体供給器2と基板5とに印加するものであれば特に制限されないが、前記粉体供給器2側および基板5側をそれぞれ負電圧および正電圧に印加することが好ましい。
【0023】
前記マスキング部材4は、その通過口40が、形成したい粉体膜Fに応じた形状にされている。前記マスキング部材4は、形成される粉体膜Fに非接触の状態(例えば、形成される粉体膜Fの厚さh以上に基板5から離れた位置(h≦D))で配置されていれば特に制限されない。このため、前記マスキング部材4と基板5との距離Dは、形成される粉体膜Fの厚さh以上であれば、固定でもよく、変動してもよい。前記マスキング部材4と基板5との距離Dが変動する場合、特に、前記粉体膜Fが形成されてから変動する場合を、後述する実施の形態2および3で説明する。
【0024】
以下、前記静電成膜装置1の作用について説明する。
【0025】
図1に示すように、静電スクリーン印刷板20の粉体Pは、擦込体22によりスクリーン21に擦り込まれて、直流電源3による負電圧の印加で負に帯電する。スクリーン21に擦り込まれて負に帯電した粉体Pは、直流電源3による正電圧の印加で正に帯電した基板5に、静電力により導かれる。スクリーン21からの粉体Pは、当該スクリーン21と基板5との間に配置されたマスキング部材4の通過口40を通過した後、基板5に堆積することで、粉体膜Fを形成する。この粉体膜Fは、通過口40を通過した粉体Pから形成されるので、当該通過口40に応じた形状に形成される。
【0026】
図2に示すように、基板5に形成された粉体膜Fがマスキング部材4に付着しないので、マスキング部材4を基板5から取り外しても、粉体膜Fが欠損しない。
【0027】
このように、前記静電成膜装置1によると、形成された粉体膜Fがマスキング部材4により欠損しないので、高精度に粉体膜Fを形成することができる。
[実施の形態2]
【0028】
以下、本発明の実施の形態2に係る静電成膜装置1について、図3図5に基づき説明する。本実施の形態2では、前記実施の形態1で説明しなかった構成に着目して説明するとともに、前記実施の形態1と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0029】
図3に示すように、本実施の形態2に係る静電成膜装置1は、前記マスキング部材4と基板5との間に配置されたスペーサ6を備える。当該スペーサ6は、前記基板5に形成される粉体膜Fよりも外側に配置され、言い換えれば、通過口40よりも外側に配置されている。これにより、粒径の小さい粉体Pに起こりがちな、形成したい粉体膜Fの外側への粉体Pの回り込みが防止される。前記スペーサ6は、内側に粉体膜Fが形成される開口60を有する開口型でもよい。開口型のスペーサ6は、その開口60の縁が、前記マスキング部材4の通過口40の外側に位置する。
【0030】
前記スペーサ6は、絶縁体であることが好ましい。これにより、当該スペーサ6の近傍の電界(電圧)が低くなることで、当該スペーサ6が粉体Pを引き寄せにくく、結果として、形成したい粉体膜Fの外側への粉体Pの回り込みがさらに防止される。
【0031】
前記スペーサ6は、前記マスキング部材4および基板5の両方に必ずしも接する必要は無く、いずれか一方(好ましくはマスキング部材4)に接していてもよい。前記スペーサ6は、前記マスキング部材4および/または基板5に接しなく(つまり隙間を有し)ても、当該隙間が十分に小さければ、形成したい粉体膜Fの外側への粉体Pの回り込みがさらに防止される。しかしながら、前記スペーサ6は、弾性を有し、前記マスキング部材4および基板5に密着していることが好ましい。これにより、前記マスキング部材4および基板5は、前記スペーサ6から弾性力による反力を受けることになる。結果として、前記マスキング部材4および基板5とスペーサ6とは、十分に密着することにより、粉体Pを通さないので、形成したい粉体膜Fの外側への粉体Pの回り込みがさらに防止される。前記スペーサ6は、例えば、スポンジまたはゴムなどである。
【0032】
前記直流電源3は、前記マスキング部材4にも基板5と同極の電圧を印加する。すなわち、前記直流電源3は、前記基板5に正電圧を印加するのであれば、前記マスキング部材4にも正電圧を印加する。これにより、前記通過口40を通過しなかった粉体Pがマスキング部材4に吸着されるので、前記基板5に形成された粉体膜Fに粉体Pが付着しない。なお、前記直流電源3は、アースEに接続されていることが好ましい。
【0033】
前記静電成膜装置1は、図3および図4に示すように、前記基板5を移動させる基板移動機構7(移動機構の一例)を備える。この基板移動機構7は、前記粉体供給器2と基板5との間の電界が所定値未満になるまで、前記粉体供給器2と基板5とを離間させる機構である。ここで、前記電界の所定値とは、仮に基板5への電圧の印加が遮断されても、当該基板5に形成された粉体膜Fが粉体供給器2からの静電力により形状を崩さない程度の電界の値であり、例えば、0.1kV/mm(粉体Pの材料により異なる)である。前記電界が所定値未満になる例としては、前記直流電源3による電圧の印加が2kVという条件で、前記粉体供給器2と基板5との距離が20mm以上の場合である。また、前記粉体供給器2と基板5との対向する面積は、10mm~100mmであることが好ましい。前記基板移動機構7により、移動された基板5に形成された粉体膜Fは、仮に基板5への電圧の印加が遮断されても、前記静電力により粉体Pが分離することなく、且つ、前記静電力により表面が荒れたりすることもない。
【0034】
前記静電成膜装置1は、前記マスキング部材4から分離した粉体Pが基板5に形成された粉体膜Fに付着しないようにする粉体回避手段8を備える。この粉体回避手段8は、図4および図5に示すように、例えば、前記粉体膜Fを覆うカバー80を張ることで、前記マスキング部材4からの粉体Pを受け止めるものである。
【0035】
前記静電成膜装置1は、前記直流電源3による電圧の印加を遮断する電圧遮断機構9を備える。この電圧遮断機構9は、図4に示すように、前記基板移動機構7により基板5が移動された後、当該基板5への電圧の印加を遮断する。前記基板5への電圧の印加を遮断するタイミングは、前記粉体回避手段8によりマスキング部材4から分離した粉体Pが粉体膜Fに付着しない状態になる前でもよく、当該状態になっている時でもよい。また、前記電圧遮断機構9は、図5に示すように、前記粉体回避手段8によりマスキング部材4から分離した粉体Pが粉体膜Fに付着しない状態で、前記粉体供給器2およびマスキング部材4への電圧の印加を遮断する。前記粉体供給器2およびマスキング部材4への電圧の印加が遮断されると、前記粉体供給器2およびマスキング部材4から粉体Pが分離するが、前記粉体回避手段8により、当該粉体Pは基板5の粉体膜Fに付着しない。
【0036】
以下、前記静電成膜装置1の作用について説明する。
【0037】
図3に示すように、スクリーン21からの粉体Pは、基板5に粉体膜Fを形成するが、スペーサ6により、形成される粉体膜Fの外側に回り込まない。
【0038】
基板5に粉体膜Fが形成されると、図4に示すように、基板移動機構7により基板5が移動されて、粉体供給器2と基板5との間の電界が所定値未満になるまで、粉体供給器2と基板5とが離間する。その後、電圧遮断機構9により、基板5への電圧の印加が遮断される。直流電源3による粉体供給器2への電圧の印加が継続されていても、粉体供給器2と基板5との間の電界が所定値未満であるから、基板5に形成された粉体膜Fは形状が崩れない。すなわち、粉体膜Fは、その粉体Pが分離することなく、且つ、表面が荒れたりすることもない。一方で、粉体回避手段8により、前記粉体膜Fを覆うカバー80が張られる。これにより、粉体供給器2およびマスキング部材4から分離した粉体Pが粉体膜Fに付着しない状態になる。
【0039】
次に、図5に示すように、電圧遮断機構9により、粉体供給器2およびマスキング部材4への電圧の印加を遮断する。粉体供給器2およびマスキング部材4への電圧の印加が遮断されると、粉体供給器2およびマスキング部材4に残っていた粉体Pが、粉体供給器2およびマスキング部材4から分離する。これらの分離した粉体Pは、粉体回避手段8のカバー80で受け止められることにより、基板5の粉体膜Fに付着しない。
【0040】
このように、本実施の形態2に係る静電成膜装置1によると、前記実施の形態1での効果を奏する上に、スペーサ6により粉体膜Fの外側への粉体Pの回り込みが防止されるとともに、前記基板移動機構7、粉体回避手段8および電圧遮断機構9により、形成された粉体膜Fの形状が崩れず、且つ、粉体供給器2およびマスキング部材4からの粉体Pが粉体膜Fに付着しないので、さらに高精度に粉体膜Fを形成することができる。
[実施の形態3]
【0041】
以下、本発明の実施の形態3に係る静電成膜装置1について、図6および図7に基づき説明する。本実施の形態3では、前記実施の形態1および2で説明しなかった構成に着目して説明するとともに、前記実施の形態1および2と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
図6および図7に示すように、本実施の形態3に係る静電成膜装置1は、前記実施の形態2に係る静電成膜装置1において、前記粉体回避手段8が後述する退避機構81であり、さらに、後述する清掃機構41を備えるものである。
【0043】
前記静電成膜装置1の退避機構81は、前記マスキング部材4から分離した粉体Pが粉体膜Fに付着しない位置まで、前記マスキング部材4を退避させるものである。前記清掃機構41は、退避されたマスキング部材4から粉体Pを除去するものであり、例えば、スポンジ、ブラシまたはスクレーパなどである。なお、退避されたマスキング部材4とは、退避されている最中のマスキング部材4、および、退避された後のマスキング部材4のいずれも含む意味である。
【0044】
前記静電成膜装置1が複数の粉体膜Fを形成するものである場合、前記退避機構81および清掃機構41は、前記基板5に1つの粉体膜Fが形成される度に、前記マスキング部材4を退避させ、当該マスキング部材4から粉体Pを除去するものであることが好ましい。これにより、形成される複数の粉体膜Fに、前記マスキング部材4から粉体Pがさらに付着しなくなる。
【0045】
以下、前記静電成膜装置1の作用について説明する。
【0046】
基板5に粉体膜Fが形成されると、図6に示すように、基板移動機構7により基板5が移動され、電圧遮断機構9により基板5への電圧の印加が遮断される。一方で、図7に示すように、退避機構81により、マスキング部材4から分離した粉体Pが粉体膜Fに付着しない位置まで、当該マスキング部材4が退避される。退避されたマスキング部材4は、清掃機構41により粉体Pが除去される。なお、マスキング部材4の粉体Pが清掃機構41により除去されるタイミングは、電圧遮断機構9により、粉体供給器2およびマスキング部材4への電圧の印加を遮断する前でもよく、当該遮断した後でもよい。当該遮断した後でマスキング部材4の粉体Pを清掃機構41により除去する方が、当該清掃機構41を帯電させないためにも好ましい。
【0047】
このように、本実施の形態3に係る静電成膜装置1によると、前記実施の形態1および2での効果を奏する上に、前記退避機構81および清掃機構41により、前記マスキング部材4からの粉体Pが粉体膜Fにさらに付着しないので、極めて高精度に粉体膜Fを形成することができる。
【0048】
以下、前記静電成膜装置1を使用する全固体二次電池の製造方法について図面に基づき説明する。なお、図面の上では前記実施の形態2または3に係る静電成膜装置1を使用する例を示すが、勿論、前記実施の形態1に静電成膜装置1を使用してもよい。
【0049】
図8に示すように、前記全固体二次電池100は、電極集電体5として、正極集電体51および負極集電体53を有する。また、前記全固体二次電池100は、前記正極集電体51および負極集電体53の間に配置された3層の粉体膜F1~F3を有する。これらの3層の粉体膜F1~F3のうち、前記正極集電体51に接している粉体膜F1が正極層F1であり、前記負極集電体53に接している粉体膜F3が負極層F3であり、前記正極層F1と負極層F3との間にある粉体膜F2が固体電解質層F2である。
【0050】
図9に示すように、前記全固体二次電池100の製造方法は、前記静電成膜装置1の基板5として正極集電体51(または負極集電体53)を準備する工程と、前記静電成膜装置1により、前記正極集電体51(または負極集電体53)である基板5に正極層F1(または負極層F3)の粉体膜F1(F3)を形成する工程とを備える。
【0051】
図10に示すように、前記全固体二次電池100の製造方法は、前記静電成膜装置1により、前記正極層F1(または負極層F3)に固体電解質層F2の粉体膜F2を形成する工程をさらに備えることが好ましい。
【0052】
図11に示すように、前記全固体二次電池100の製造方法は、前記静電成膜装置1により、前記固体電解質層F2に負極層F3(または正極層F1)の粉体膜F3(F1)を形成する工程をさらに備えることが好ましい。なお、前記負極層F3(または正極層F1)の粉体膜F3(F1)を形成する際に、当該粉体膜F3(F1)がマスキング部材4に付着しそうであれば、つまりスペーサ6の厚さが不十分であれば、当該スペーサ6に追加のスペーサ61を積層する。
【0053】
その後、図8に示すように、前記負極層F3(または正極層F1)に負極集電体53(または正極集電体51)が配置され、前記3層の粉体膜F1~F3が必要に応じて加圧されることにより、前記全固体二次電池100が製造される。
【0054】
このように、前記静電成膜装置1を使用する全固体二次電池100の製造方法によると、当該全固体二次電池100が有する粉体膜F1~F3を高精度に形成することができる。
【0055】
ところで、前記実施の形態1~3では、前記粉体供給器2、マスキング部材4および基板5がいずれも水平に配置されているとして図示したが、水平に限定されるものではなく、水平に対して傾斜してもよい。
【0056】
また、前記実施の形態2および3では、前記移動機構の一例として、前記基板5を移動させる基板移動機構7について説明したが、これに特に限定されない。前記移動機構は、前記粉体供給器2と基板5との間の電界が所定値未満になるまで、当該粉体供給器2と基板5とを離間させるものであれば、当該粉体供給器2を移動させる機構であっても、当該粉体供給器2および基板5を移動させる機構であってもよい。
【0057】
さらに、前記全固体二次電池100の製造方法では、図10に示す固体電解質層F2の粉体膜F2を形成する工程と、図11に示す負極層F3(または正極層F1)の粉体膜F3(F1)を形成する工程とで、前記静電成膜装置1を使用することが好ましいとして説明したが、他の成膜装置を使用してもよい。
【0058】
また、前記実施の形態2および3では、前記粉体回避手段8の一例として、図4および図5に示すカバー80を張るもの、並びに、図6および図7に示す退避機構81について説明したが、これらに特に限定されない。前記粉体回避手段8の他の例としては、前記マスキング部材4と基板5との間にカバーを挿入し、当該カバーでマスキング部材4を覆うものでもよい。また、前記退避機構81は、前記実施の形態3で説明した例の他に、前記マスキング部材4から分離した粉体Pが粉体膜Fに付着しない位置まで、前記基板5を退避させるものでもよく、前記マスキング部材4および基板5の両方を退避させるものでもよい。さらに、前記粉体回避手段8は、前記粉体膜Fに付着しようとする粉体Pを吸引または吹き飛ばしなどにより除去するものでもよい。
【0059】
加えて、前記実施の形態1~3は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態1~3で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
P 粉体
F 粉体膜
1 静電成膜装置
2 粉体供給器
3 直流電源
4 マスキング部材
5 基板
6 スペーサ
7 基板移動機構
8 粉体回避手段
9 電圧遮断機構
20 静電スクリーン印刷板
21 スクリーン
22 擦込体
40 通過口
41 清掃機構
81 退避機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11