(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】排水処理装置及び酸素透過膜ユニット
(51)【国際特許分類】
C02F 3/10 20230101AFI20241002BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20241002BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241002BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C02F3/10 Z
C02F3/34 101D
C02F3/34 101B
C02F1/44 A
C02F1/44 K
B01D65/02 520
(21)【出願番号】P 2021039020
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】吉田 忠広
(72)【発明者】
【氏名】井尻 智之
(72)【発明者】
【氏名】石山 明
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅彦
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-518661(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086410(WO,A1)
【文献】特開2019-005755(JP,A)
【文献】特開2020-151625(JP,A)
【文献】特開2008-221070(JP,A)
【文献】特開2021-010853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/10
C02F 3/28- 3/34
C02F 1/44
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を貯留する貯留槽と、
酸素を透過する酸素透過膜を含み、前記貯留槽に収容された酸素透過膜ユニットと、
前記酸素透過膜ユニットに酸素含有気体を供給する供給管と、
前記酸素透過膜ユニットから前記酸素含有気体に含まれる酸素濃度が減少した気体を排出する排出管と、を備え、
少なくとも1つの前記酸素透過膜ユニットは、全体が前記被処理水に浸漬されており、前記供給管及び前記排出管と夫々接続される複数の接続管を有しており、
前記供給管から供給された前記酸素含有気体が前記接続管を介して前記酸素透過膜ユニットに供給され、前記酸素透過膜ユニットにて前記酸素含有気体に含まれる酸素が消費されて生成された前記気体が前記接続管を介して前記排出管から排出され、
複数の前記接続管の夫々には、前記供給管から前記酸素透過膜ユニットへの前記酸素含有気体の流通及び前記酸素透過膜ユニットから前記排出管への前記気体の流通を許容すると共に前記酸素透過膜ユニットから前記供給管及び前記排出管への前記被処理水の浸入を遮断する止水弁が設けられて
おり、
前記酸素透過膜ユニットは、複数設けられており、
複数の前記酸素透過膜ユニットは、前記止水弁が設けられていない前記接続管が前記貯留槽の水面よりも上側に位置している第一の前記酸素透過膜ユニットと、前記止水弁が設けられている前記接続管が前記貯留槽の水面よりも下側に位置している第二の前記酸素透過膜ユニットとで構成されており、
前記第一の酸素透過膜ユニットと前記第二の酸素透過膜ユニットとが重力方向に沿って配置されている排水処理装置。
【請求項2】
前記第二の酸素透過膜ユニットの下方から気体を吹き付けて前記酸素透過膜を洗浄する洗浄機構を更に備え、
前記第一の酸素透過膜ユニットと前記第二の酸素透過膜ユニットとの重力方向の間隔が20cm以上200cm以下に設定されている請求項
1に記載の排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素透過膜にて排水を生物処理する排水処理装置及び酸素透過膜ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排水(被処理水)を貯留する貯留槽と、酸素を透過する酸素透過膜を含み、貯留槽に収容された酸素透過膜ユニットとを備えた排水処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の排水処理装置は、酸素透過膜ユニット(文献では酸素溶解膜モジュール)を貯留槽内部の水面より下に複数配置し、これら酸素透過膜ユニットを直列又は並列に接続した配管から酸素透過膜に空気を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の排水処理装置では、酸素透過膜が破れて穴が開いた場合、この穴から排水が流入して酸素透過膜に酸素含有気体を供給できないおそれがある。その結果、生物処理機能が損なわれてしまう。
【0006】
そこで、長期に亘って生物処理機能を維持できる排水処理装置及び酸素透過膜ユニットが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る排水処理装置の特徴構成は、被処理水を貯留する貯留槽と、酸素を透過する酸素透過膜を含み、前記貯留槽に収容された酸素透過膜ユニットと、前記酸素透過膜ユニットに酸素含有気体を供給する供給管と、前記酸素透過膜ユニットから前記酸素含有気体に含まれる酸素濃度が減少した気体を排出する排出管と、を備え、少なくとも1つの前記酸素透過膜ユニットは、全体が前記被処理水に浸漬されており、前記供給管及び前記排出管と夫々接続される複数の接続管を有しており、前記供給管から供給された前記酸素含有気体が前記接続管を介して前記酸素透過膜ユニットに供給され、前記酸素透過膜ユニットにて前記酸素含有気体に含まれる酸素が消費されて生成された前記気体が前記接続管を介して前記排出管から排出され、複数の前記接続管の夫々には、前記供給管から前記酸素透過膜ユニットへの前記酸素含有気体の流通及び前記酸素透過膜ユニットから前記排出管への前記気体の流通を許容すると共に前記酸素透過膜ユニットから前記供給管及び前記排出管への前記被処理水の浸入を遮断する止水弁が設けられており、前記酸素透過膜ユニットは、複数設けられており、複数の前記酸素透過膜ユニットは、前記止水弁が設けられていない前記接続管が前記貯留槽の水面よりも上側に位置している第一の前記酸素透過膜ユニットと、前記止水弁が設けられている前記接続管が前記貯留槽の水面よりも下側に位置している第二の前記酸素透過膜ユニットとで構成されており、前記第一の酸素透過膜ユニットと前記第二の酸素透過膜ユニットとが重力方向に沿って配置されている点にある。
【0008】
本構成における酸素透過膜ユニットでは、酸素透過膜の内側から供給される酸素が酸素透過膜を透過し、酸素透過膜の表面で被処理水中の窒素成分を硝化する硝化菌等の生物膜が形成され、窒素成分の硝化が行われて硝酸態窒素が生成される。この硝酸態窒素は、被処理水中の脱窒菌と脱窒菌の栄養となる有機物とにより還元されて窒素ガスが生成される。このように、酸素透過膜ユニットでは、硝化及び脱窒により、被処理水の窒素含有化合物が分解除去されて浄化される(生物処理)。
【0009】
本構成では、全体が被処理水に浸漬された酸素透過膜ユニットにおいて、供給管及び排出管と夫々接続される接続管全てに止水弁が設けられている。この止水弁は、酸素含有気体及び気体の流通を許容すると共に酸素透過膜ユニットから供給管及び排出管への被処理水の浸入を遮断する。このため、酸素透過膜ユニットに含まれる一部の酸素透過膜が破損したとしても、破損していない酸素透過膜又は他の酸素透過膜ユニットには酸素含有気体が適正に供給され続ける。その結果、酸素透過膜ユニットにおける生物処理機能の著しい低下を防止できる。また、本構成のように、複数の酸素透過膜ユニットを重力方向に沿って設ければ、生物処理機能を高めることができる。しかも、水面より上にある接続管には止水弁を設けていないため、必要最小限の製造コストで長期に亘って生物処理機能を維持できる。
【0010】
しかも、接続管に止水弁を設けるといった簡便な構成であるため、安価な装置構成となる。このように、長期に亘って生物処理機能を維持できる排水処理装置を提供できる。
【0013】
他の特徴構成は、前記第二の酸素透過膜ユニットの下方から気体を吹き付けて前記酸素透過膜を洗浄する洗浄機構を更に備え、前記第一の酸素透過膜ユニットと前記第二の酸素透過膜ユニットとの重力方向の間隔が20cm以上200cm以下に設定されている点にある。
【0014】
本構成のように、上下に配置された酸素透過膜ユニット同士の重力方向の間隔を20cm以上200cm以下とすれば、洗浄機構による洗浄効率を高めることができる。なお、酸素透過膜ユニット同士の間隔が20cm未満であれば、洗浄機構からの偏流の影響を受けて、酸素透過膜を均一に洗浄できないおそれがあり、酸素透過膜ユニット同士の間隔が200cm超であれば、洗浄機構からの気体が第一の酸素透過膜ユニットまで到達したときには流速が低下し、酸素透過膜を十分に洗浄できないおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】排水処理システムにおける処理系列の説明図である。
【
図5】
図3に示す酸素透過膜ユニットの詳細を示す概略斜視図である。
【
図6】変形例1における酸素透過膜ユニットを示す概略斜視図である。
【
図7】変形例2における酸素透過膜ユニットを示す概略斜視図である。
【
図8】変形例3における酸素透過膜ユニットを示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る排水処理装置及び酸素透過膜ユニットの実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態における排水処理装置は、排水処理システム100の一部を構成する嫌気処理装置1を一例として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0019】
〔全体構成〕
図1には、流入する排水(被処理水の一例)を浄化する排水処理システム100の概略構成を図示している。この排水処理システム100は、下水処理場等に設けられている。排水処理システム100は、上流から連続的に流入する排水を生物処理する処理槽Rを備えている。処理槽Rは、嫌気処理装置1(排水処理装置の一例)と、嫌気処理装置1よりも下流側の好気処理装置2とを有する。
【0020】
本実施形態においては、処理槽Rに流入する排水は、少なくともアンモニア性窒素などの窒素含有化合物(以下、「窒素成分」と記載する)と、有機物とを含んでいる。処理槽Rでは、窒素成分を亜硝酸態窒素や硝酸態窒素に酸化する硝化(好気性処理)や、亜硝酸態窒素や硝酸態窒素を還元して窒素ガスに還元する脱窒(嫌気性処理)が行われる。以下では、亜硝酸態窒素と硝酸態窒素とを包括して、単に「硝酸態窒素」と記載する。
【0021】
本実施形態の排水処理システム100は、処理槽Rの上流に最初沈殿池91、処理槽Rの下流に最終沈殿池99を含んでいる。排水処理システム100は、最初沈殿池91、処理槽R及び最終沈殿池99を有する複数の処理系列N1,N2,N3等を有する場合がある。これら処理系列N1,N2,N3は、いずれも等価である。以下では、処理系列N1について説明するが、処理系列N2,N3についても同様である。なお、本実施形態において処理槽Rに貯留されている排水の概念には、活性汚泥としての硝化菌や脱窒菌を含む浮遊物質(SS)が懸濁状態で存在している、いわゆる混合液の概念を含む。
【0022】
〔各部の説明〕
最初沈殿池91は、流入した排水に含まれる土砂や夾雑物、汚泥の一部を沈降させて除去するための槽である。最初沈殿池91で除去されなかった窒素成分と有機物とを含む排水が処理槽R(嫌気処理装置1)へ流入する。
【0023】
処理槽Rは、少なくとも1つの嫌気処理装置1と、嫌気処理装置1よりも下流に直列的に接続された少なくとも1つの好気処理装置2とを有する。嫌気処理装置1に流入した排水は、嫌気処理装置1で所定時間だけ滞留して好気処理装置2に流入する。好気処理装置2に流入した排水は、好気処理装置2で所定時間だけ滞留して流出する。好気処理装置2では、主として硝化が進行する。嫌気処理装置1では、主として脱窒が進行し、併せて硝化も進行する。好気処理装置2から流出した排水の一部は、返送流路9を介してポンプ(図示せず)などで送液されて嫌気処理装置1に返送(供給)される。以下では、返送流路9により嫌気処理装置1に返送される処理水を硝化液と記載する。
【0024】
処理槽Rは上記構成に限定されるものでなく、好気槽から流出した排水の一部を無酸素槽へ返送して脱窒を行う嫌気無酸素好気法を行うような嫌気処理槽(排水処理装置の一例)、無酸素処理槽(排水処理装置の一例)、好気処理槽を有する構成としても良いし、ステップ流入式多段硝化脱窒法で嫌気無酸素好気法を行うような嫌気処理槽(排水処理装置の一例)、第一無酸素槽(排水処理装置の一例)、第一好気槽、第二無酸素槽(排水処理装置の一例)、第二好気槽、・・・第N無酸素槽(排水処理装置の一例)、第N好気槽を有する構成としても良いし、ステップ流入式多段硝化脱窒法を行うような第一無酸素槽(排水処理装置の一例)、第一好気槽、第二無酸素槽(排水処理装置の一例)、第二好気槽、・・・第N無酸素槽(排水処理装置の一例)、第N好気槽を有する構成としても良いし、嫌気槽及び好気槽別々に設けるのではなく、1つの槽内で上流側を嫌気,無酸素領域(排水処理装置の一例)、下流側を好気領域とする単一の生物反応槽としても良い。脱窒は何れの構成においても嫌気処理槽や無酸素槽で進行する。
【0025】
嫌気処理装置1は、排水が嫌気的な環境(溶存酸素の乏しい環境)に保たれた槽である。嫌気処理装置1では、主として脱窒を行い、併せて硝化も行う。嫌気処理装置1の貯留槽10内の排水には、酸素透過膜30を有する酸素透過膜ユニット3が浸漬されている(
図2参照)。
【0026】
嫌気処理装置1では、酸素透過膜30を介して排水に酸素が供給されており、酸素透過膜30の表面近傍で硝化が進行する。嫌気処理装置1における酸素透過膜30の表面近傍以外の領域は嫌気的な環境に保たれており、脱窒菌により脱窒が進行する。嫌気処理装置1の詳細は、後述する。
【0027】
好気処理装置2は、排水が好気的な環境(溶存酸素に富む環境)に保たれた槽である。好気処理装置2には、気泡発生部(不図示)が浸漬されている。好気処理装置2では、気泡発生部からバブリングにより空気が供給(散気)されており、気泡からの酸素の溶解により、排水に酸素が供給されている(いわゆる曝気)。これにより、好気処理装置2は好気的な環境に保たれる。好気処理装置2では、気泡発生部により供給される酸素を利用した硝化や有機物の分解が進行する。好気処理装置2から最終沈殿池99に排出される排水の一部、つまり、好気処理装置2で好気処理された排水の一部は硝化液として嫌気処理装置1に返送される。
【0028】
最終沈殿池99は、好気処理装置2から流出した排水を受け入れて、排水中の活性汚泥などを沈降させる沈降槽である。本実施形態では、最終沈殿池99において沈殿した汚泥が、返送流路9により嫌気処理装置1に返送される。
【0029】
〔嫌気処理装置〕
図2に示すように、嫌気処理装置1は、排水を貯留する貯留槽10と、酸素を透過する酸素透過膜30を含み、貯留槽10に収容された酸素透過膜ユニット3と、酸素透過膜ユニット3に空気(酸素含有気体の一例)を供給する供給管31と、酸素透過膜ユニット3から空気に含まれる酸素濃度が減少した気体を排出する排出管32と、を備えている。
【0030】
供給管31には、例えばファンやブロワなどで構成される送風機31bから20kPa以下の小さな送風圧力で空気が供給されており、この供給された空気に含まれる酸素を、酸素透過膜30を介して排水に供給する。排出管32は外部(大気)に連通している。
【0031】
酸素透過膜ユニット3は、供給された空気に含まれる酸素を、酸素透過膜30を介して排水に供給する。本実施形態では、複数の酸素透過膜ユニット3が連結されたモジュールが、複数(本実施形態では4つ)設けられている。複数の酸素透過膜ユニット3は、夫々、供給管31及び排出管32と接続される複数の接続管31a,32aを有している。これにより、供給管31から供給された空気が第一接続管31aを介して酸素透過膜ユニット3に供給され、酸素透過膜ユニット3にて空気に含まれる酸素が消費されて生成された気体が第二接続管32aを介して排出管32から排出される。
【0032】
複数の酸素透過膜ユニット3は、接続管31a,32aが貯留槽10の水面よりも上側に位置している第一の酸素透過膜ユニット3Aと、接続管31a,32aが貯留槽10の水面よりも下側に位置している第二の酸素透過膜ユニット3Bとで構成されており、第一の酸素透過膜ユニット3Aと第二の酸素透過膜ユニット3Bとが重力方向に沿って配置されている。本実施形態では、第一の酸素透過膜ユニット3Aが複数(本実施形態では2つ)、左右方向に並列配置されていると共に、第二の酸素透過膜ユニット3Bが複数(本実施形態では2つ)、左右方向に並列配置されている。なお、第一の酸素透過膜ユニット3Aや第二の酸素透過膜ユニット3Bは、1つでも良いし、3つ以上並列配置されていても良い。
【0033】
図2~
図3に示すように、第一の酸素透過膜ユニット3Aは、一部が貯留槽10の水面よりも上側に位置しており、第二の酸素透過膜ユニット3Bは、全体が貯留槽10の水面よりも下側に位置している。第二の酸素透過膜ユニット3Bは、全体が排水に浸漬されているため、酸素透過膜30が破損したときに排水が逆流しないように、複数の接続管31a,32aの夫々に空気の流通を許容すると共に排水の浸入により流体の流通を遮断する止水弁Va,Vbが設けられている。換言すると、複数の接続管31a,32aの夫々には、供給管31から酸素透過膜ユニット3への空気の流通及び酸素透過膜ユニット3から排出管32への気体の流通を許容すると共に、酸素透過膜ユニット3から供給管31及び排出管32への排水の浸入を遮断する止水弁Va,Vbが設けられている。
【0034】
供給管31に接続された第一接続管31aに設けられる止水弁Vaは、空気の背圧を受けて開弁し、空気の流通方向とは反対方向の排水の流体圧を受けて閉弁する公知の逆止弁等で構成されている。排出管32に接続された第二接続管32aに設けられる止水弁Vbは、水位が低下したときには開弁し、水位が上昇したときにはフロートが浮き上がって閉弁する公知の空気抜き弁等で構成されている。
【0035】
図2に示すように、嫌気処理装置1は、第二の酸素透過膜ユニット3Bの下方から気体を吹き付けて酸素透過膜30を洗浄する洗浄機構4を備えている。洗浄機構4は、貯留槽10の底部に固定された気泡発生部41を有している。気泡発生部41は、供給された空気を吹き出すための複数の孔部が設けられた散気管(図示せず)などを有する。気泡発生部41は、酸素透過膜30に空気を供給する送風機31bの送風圧力よりも大きな所定の送風圧力で、例えばファンやブロワなどで構成される送風機42から送風管42aを介して酸素透過膜30に気泡を噴射する。なお、洗浄機構4に代えて、又は洗浄機構4に加えて、酸素透過膜ユニット3を機械的振動や超音波照射によりシェイキングする機構を設けても良い。
【0036】
洗浄機構4による洗浄効率を考慮して、第一の酸素透過膜ユニット3Aと第二の酸素透過膜ユニット3Bとの重力方向の間隔L1は、20cm以上200cm以下であることが好ましく、50cm以上150cm以下であることがより好ましい。その理由は、酸素透過膜ユニット3A,3B同士の間隔L1が20cm未満であれば、洗浄機構4からの偏流の影響を受けて、酸素透過膜30を均一に洗浄できないおそれがあり、酸素透過膜ユニット3A,3B同士の間隔L1が200cm超であれば、洗浄機構4からの気体が第一の酸素透過膜ユニット3Aまで到達したときには流速が低下し、酸素透過膜30を十分に洗浄できないおそれがあるからである。また、第一の酸素透過膜ユニット3Aと第二の酸素透過膜ユニット3Bとの並列方向(左右方向)の間隔L2は、20cm以上200cm以下であることが好ましく、50cm以上150cm以下であることがより好ましい。この範囲であれば、洗浄機構4からの気泡を十分に行き渡らせることができる。
【0037】
〔酸素透過膜ユニットの詳細〕
酸素透過膜ユニット3は、酸素透過膜30の内側から空気を供給することにより、排水に対して生物処理を行う。
図3に示すように、酸素透過膜ユニット3は、内部に空気を流通させる支持体35と、支持体35を包囲するように配置され、酸素を透過する平膜状に形成された一対の酸素透過膜30と、を有し、複数の酸素透過膜ユニット3が、フレーム体37に固定された複数の支持柱36に吊り下げられて、モジュールを構成している。これら複数の酸素透過膜ユニット3は、夫々がスペーサ38により、所定の間隔L3で並んでいる。この酸素透過膜ユニット3どうしの間隔L3(排水を挟んで対向する酸素透過膜30の間隔と同等)は、0.5cm以上20cm以下であることが好ましく、1cm以上10cm以下であることがより好ましい。この範囲であれば、洗浄機構4からの気泡を十分に行き渡らせることができる。
【0038】
図5に示すように、支持体35は、内部に重力方向に沿った複数の気体流路Afを有しており、一対の酸素透過膜30が密着する一対の側面全体に多数の微細孔部(不図示)を有する樹脂や不織布等で形成されている。また、一対の酸素透過膜30には、内部に支持体35を収容した状態で、夫々の気体流路Afに空気を均等に分配する上方空間35aを形成するように、周囲が溶着等で固定された密封部30aが形成されている。なお、第一の酸素透過膜ユニット3Aにおける一対の酸素透過膜30の上端は、開口していても良い。
【0039】
図6には、酸素透過膜ユニット3の変形例1が示されている。酸素透過膜ユニット3は、内部に空気を流通させる筐体33と、筐体33の一対の側面に配置(固定)され、酸素を透過する平膜状に形成された一対の酸素透過膜30と、を有し、複数の酸素透過膜ユニット3が、連結板(不図示)により一体化されてモジュールを構成している。筐体33は、上下方向に配置された複数の仕切板33aで区画されることにより蛇行した気体流路Afを内部に有する金属部材や樹脂部材で構成されている。また、筐体33のうち酸素透過膜30が固定される一対の側面全体には、多数の微細孔部33b(
図6では一部のみ図示)が形成されており、これら微細孔部33bから空気を酸素透過膜30に向けて均等に放出する。
【0040】
図7には、
図6に示す筐体33の変形例2が示されている。本実施例では、上下方向に配置された複数の仕切板33cにより、重力方向に沿った複数の気体流路Afが形成されている。また、筐体33には、接続管31a,32aと連通する合流管31c,32dに対して、夫々の気体流路Afに空気を均等に分配する複数の分配管31d,31dが接続されている。
図8には、
図6に示す筐体33の変形例3が示されている。筐体33は、左右方向に配置された複数の仕切板33dで区画されることにより蛇行した気体流路Afが形成されている。
【0041】
図3に示すように、酸素透過膜30は、筐体33の内部を流通する空気に含まれる酸素を透過させて酸素透過膜30外側の排水に供給する、酸素透過能を有する平膜材料で構成されている。この平膜材料は、内側から酸素を透過させると共に外側から内側に排水を透過させない特性を有する樹脂等で形成される微細多孔シートを含んでおり、この微細多孔シートの外側には微生物を保持する生物膜層が排水処理により形成される。本実施形態における支持体35又は筐体33に設けられた酸素透過膜30の平膜面は、貯留槽10内の排水の流通方向及び気泡発生部41から噴出される気泡の流通方向に対して、平行に設けられている。
【0042】
図4に示すように、酸素透過膜30の膜表面上には、生物膜Lが形成される。本実施形態における生物膜Lは、酸素透過膜30の膜表面に隣接して成長し、硝化菌を主として含む第一生物膜Laと、生物膜Lの外表面側で成長し、脱窒菌を主として含む第二生物膜Lbとを含んでいる。
【0043】
第一生物膜Laでは、硝化菌が、酸素透過膜30から供給される酸素により排水中の窒素成分(例えば、NH4
+)を酸化(硝化)して、硝酸態窒素(NOx
-)を生成する。第一生物膜Laでは、酸素透過膜30から供給される酸素は消費し尽くされる。なお、嫌気処理装置1では、第一生物膜Laにより、排水中の窒素成分の一部が硝化される。
【0044】
このように本実施形態における排水処理システム100は、好気処理装置2と、嫌気処理装置1における第一生物膜Laとで硝化することができるため、好気処理装置2のみで硝化する場合に比べて、好気処理装置2をコンパクト化できる。これにより、処理槽Rや、排水処理システム100全体をコンパクト化できる。
【0045】
第二生物膜Lb及び第二生物膜Lbの外部領域(酸素透過膜ユニット3及び生物膜L以外の排水中)では、脱窒菌が、排水中の有機物(BOD)を栄養源として硝酸態窒素(NOx
-)を還元(脱窒)して窒素ガス(N2)を放出する。なお、嫌気処理装置1で脱窒される硝酸態窒素は、第一生物膜Laにより生成されたものと、好気処理装置2から嫌気処理装置1に返送された硝化液に含まれるものとの両方である。嫌気処理装置1では、嫌気処理装置1に流入した硝酸態窒素成分のほぼ全部が窒素ガスに還元(脱窒)される。
【0046】
生物膜Lは、過度に成長すると(膜の厚みが厚くなりすぎると)膜内部(酸素透過膜30から酸素の供給が可能な領域)へのアンモニア性窒素や硝酸態窒素の供給が阻害され、効率的に硝化が進行しない場合がある。そのため、上述したように、嫌気処理装置1には、過度に成長した生物膜Lを酸素透過膜30から脱落させる洗浄機構4を設けている(
図2参照)。
【0047】
本実施形態では、全体が排水に浸漬された第二の酸素透過膜ユニット3Bにおいて、供給管31及び排出管32と夫々接続される複数の接続管31a,32a全てに止水弁Va,Vbが設けられている。この止水弁Va,Vbは、空気の流通を許容すると共に排水の浸入により流体の流通を遮断する。このため、酸素透過膜ユニット3に含まれる一部の酸素透過膜30が破損したとしても、破損していない酸素透過膜30又は第一の酸素透過膜ユニット3Aには空気が適正に供給され続ける。その結果、酸素透過膜ユニット3における生物処理機能の著しい低下を防止できる。しかも、接続管31a,32aに止水弁Va,Vbを設けるといった簡便な構成であるため、安価な装置構成となる。
【0048】
また、本実施形態のように、複数の酸素透過膜ユニット3を重力方向に沿って設ければ、生物処理機能を高めることができる。しかも、第一の酸素透過膜ユニット3Aは、水面より上にある接続管31a,32aに止水弁Va,Vbを設けていないため、必要最小限の製造コストで長期に亘って生物処理機能を維持できる。しかも、上下に配置された酸素透過膜ユニット3同士の間隔L1を20cm以上200cm以下とすれば、洗浄機構4による洗浄効率を高めることができる。
【0049】
[その他の実施形態]
(1)上述した酸素透過膜ユニット3は、平膜状の酸素透過膜30に限定されず、当分野で公知の酸素透過膜を利用することができる。例えば、複数の筒状体で形成して、この筒状体の内部に空気を流通させても良い。
(2)上述した実施形態では、複数の酸素透過膜ユニット3を上下左右に整列して配置させたが、例えば千鳥配置する等しても良い。
(3)上述した実施形態では、第一の酸素透過膜ユニット3Aの一部が貯留槽10の水面よりも上側に位置しており、第二の酸素透過膜ユニット3Bの全体が貯留槽10の水面よりも下側に位置していたが、第一の酸素透過膜ユニット3Aの全体を貯留槽10の水面よりも下側に位置しても良い。その場合、第一の酸素透過膜ユニット3Aにも接続管31a,32aに止水弁Va,Vbを備えると良い。また、第一の酸素透過膜ユニット3Aの一部が貯留槽10の水面よりも上側に位置している場合、上側に位置する第一の酸素透過膜ユニット3Aの容積は、例えば半分にしても良く、特に限定されない。
(4)上述した実施形態では、複数の酸素透過膜ユニット3を支持柱36又は連結板で連結してモジュールを形成したが、1つの酸素透過膜ユニット3でも良いし、複数の酸素透過膜ユニット3を連結することなく個別に設置しても良い。また、複数のモジュールを設けても良く、全体が貯留槽10の水面よりも下側に位置しているモジュール単位で、止水弁Va,Vbを設けても良い。
(5)上述した実施形態では、酸素透過膜30の平膜面を排水の流通方向に平行に設けたが、酸素透過膜30の平膜面を排水の流通方向に対して交差させても良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、酸素透過膜にて排水を生物処理する排水処理装置及び酸素透過膜ユニットに利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 :嫌気処理装置(排水処理装置)
3 :酸素透過膜ユニット
3A :第一の酸素透過膜ユニット
3B :第二の酸素透過膜ユニット
4 :洗浄機構
10 :貯留槽
30 :酸素透過膜
31 :供給管
31a :第一接続管
32 :排出管
32a :第二接続管
L1 :間隔
Va :止水弁
Vb :止水弁