(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の回復方法及び非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20241002BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241002BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241002BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20241002BHJP
H01M 10/054 20100101ALN20241002BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2021040458
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】永谷 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】岡山 忍
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112490506(CN,A)
【文献】特開2022-89412(JP,A)
【文献】特開2020-102348(JP,A)
【文献】特開2011-165343(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111186(WO,A1)
【文献】特開2013-69659(JP,A)
【文献】特開2018-147669(JP,A)
【文献】特開2019-83154(JP,A)
【文献】特開2020-170608(JP,A)
【文献】特開2019-145449(JP,A)
【文献】特開2019-192374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/04
H01M 10/42-10/48
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンをキャリアイオンとする非水電解液二次電池の容量を回復させる回復方法であって、
前記非水電解液二次電池に対して、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、を含む溶液である回復剤を注入するとともに、定電圧印加により満充電電圧よりは低い所定電圧を維持し、前記非水電解液二次電池の容量を回復させる回復工程、を含む、
非水電解液二次電池の回復方法。
【請求項2】
前記回復工程では、前記還元状態の芳香族炭化水素化合物として式(1)の化合物の還元体及び式(2)の化合物の還元体のうちの1以上を含む前記回復剤を用いる、
請求項1に記載の非水電解液二次電池の回復方法。
【化1】
【請求項3】
前記回復工程では、前記所定電圧を3.0V以上4.0V以下とする、
請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池の回復方法。
【請求項4】
前記回復工程では、前記還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、テトラヒドロフラン及びジメトキシエタンのうちの1以上の溶媒と、を含む前記回復剤を用いる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の回復方法。
【請求項5】
前記回復工程では、前記還元状態の芳香族炭化水素化合物と前記キャリアイオンと同種の金属イオンとを含む回復剤原液と、電解液と、を含む前記回復剤を用いる、
請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の回復方法。
【請求項6】
金属イオンをキャリアイオンとする容量劣化した非水電解液二次電池を準備する電池準備工程と、
請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の回復方法で前記非水電解液二次電池の容量を回復させる回復工程と、
を含む、非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液二次電池の回復方法及び非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長期保存や充放電サイクルによって容量が劣化した非水電解液二次電池の容量を回復させる方法として、正極及び負極の他に第三極を設け、第三極と正極とを外部短絡させ、第三極から正極にキャリアイオンを供給する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、第三極を組み入れることにより、電池の構造が複雑になるなどの問題があった。このため、第三極を用いなくても容量を回復させることのできる、非水電解液二次電池の新規な回復方法が望まれていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、非水電解液二次電池の新規な回復方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、非水電解液二次電池のキャリアイオンと同種の金属イオンと、を含む溶液を非水電解液二次電池に注入すると、容量が回復することを見出した。特に、非水電解液二次電池に対して、上述の回復剤を注入するとともに、定電圧印加によって満充電電圧よりは低い所定電圧を維持すると、回復後の電池の容量及びサイクル容量維持率がより向上することを見出し、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する非水電解液二次電池の回復方法は、
金属イオンをキャリアイオンとする非水電解液二次電池の容量を回復させる回復方法であって、
前記非水電解液二次電池に対して、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、前記キャリアイオンと同種の金属イオンと、を含む溶液である回復剤を注入するとともに、定電圧印加により満充電電圧よりは低い所定電圧を維持し、前記非水電解液二次電池の容量を回復させる回復工程、
を含むものである。
【0008】
また、本明細書で開示する非水電解液二次電池の製造方法は、
金属イオンをキャリアイオンとする容量劣化した非水電解液二次電池を準備する電池準備工程と、
上述の非水電解液二次電池の回復方法で前記非水電解液二次電池の容量を回復させる回復工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
この非水電解液二次電池の回復方法では、非水電解液二次電池の新規な回復方法を提供できる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む回復剤は、非水電解液二次電池に注入するだけで正極に直接作用して、正極に電子と金属イオンを供給する回復反応を生じる。この回復反応の駆動力は正極と回復剤との電位差であると考えられる。回復剤を注入するだけで定電圧印加を行わない場合には、正極に電子と金属イオンが供給されるのに伴い正極の電位が低下して正極と回復剤との電位差が小さくなる。一方、回復剤を注入するとともに定電圧印加によって所定電圧を維持する場合には、正極に電子と金属イオンが供給されても正極の電位が高い状態に保たれ、正極と回復剤との電位差が高い状態に保たれる。それにより、回復反応の駆動力が高い状態に保たれるため、より多くの金属イオンを電池内に供給できるし、充放電サイクルを阻害することのある還元状態の芳香族炭化水素化合物の残留を抑制できる。その結果、回復後の電池の容量及びサイクル容量維持率がより向上すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】非水電解液二次電池20の一例を示す模式図。
【
図3】回復剤注入後開回路状態で放置した場合の正極と回復剤との電位差△E
recの変化を概念的に示す推定図。
【
図4】回復剤注入とともに定電圧印加により所定電圧を維持した場合の正極と回復剤との電位差△E
recの変化を概念的に示す推定図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で開示する非水電解液二次電池の回復方法は、非水電解液二次電池の容量を回復させる回復方法であって、回復剤を用いて非水電解液二次電池の容量を回復させる回復工程、を含む。非水電解液二次電池は、金属イオンをキャリアイオンとする非水電解液二次電池であれば特に限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの第1族イオンや、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどの第2族イオンをキャリアイオンとするものとしてもよい。また、非水電解液二次電池は、リチウムイオン二次電池などのイオン二次電池としてもよいし、リチウム金属二次電池などの金属二次電池としてもよい。以下では、一例として、非水電解液二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について主に説明する。
【0012】
(非水電解液二次電池)
非水電解液二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを備えている。正極は、リチウムイオンを吸蔵、放出しうる正極活物質を有するものとしてもよい。負極は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有するものとしてもよい。非水電解液は、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するものとしてもよい。
【0013】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV2O3などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。正極活物質は、酸化還元電位が、Li金属基準で3.5V以上のものとしてもよく、4.0V以上のものとしてもよく、4.5V以上のものとしてもよい。
【0014】
正極において、導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系のカルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリビニルアルコールなどの水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極合材の目付量は、特に限定されるものではないが、例えば、5mg/cm2超過としてもよく、6mg/cm2以上としてもよく、7mg/cm2以上としてもよい。正極合材の目付量は、例えば、20mg/cm2以下としてもよい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0015】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極活物質は、酸化還元電位が、Li金属基準で1.0V以下のものとしてもよく、0.5V以下のものとしてもよく、0.3V以下のものとしてもよい。負極合材の目付量は、例えば、3mg/cm2超過としてもよく、4mg/cm2以上としてもよい。負極合材の目付量は、例えば、15mg/cm2以下としてもよい。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0016】
非水電解液は、支持塩と有機溶媒とを含むものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4などの無機塩や、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2などの有機塩が挙げられる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度は、0.1~2.0Mであることが好ましく、0.8~1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。非水電解液は、例えば、被膜形成剤や難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0017】
非水電解液二次電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水電解液二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0018】
非水電解液二次電池は、正極、負極及び非水電解液を収容する電池ケースに、開閉可能な注液口を有していてもよい。注液口から容易に回復剤を注入できる。
【0019】
非水電解液二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図1は、非水電解液二次電池20の一例を示す模式図である。この非水電解液二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水電解液二次電池20では、正極22と負極23との間の空間に非水電解液27が満たされている。
【0020】
非水電解液二次電池は、容量劣化していない状態の電池(劣化前電池とも称する)において、内部抵抗が5Ωcm2超過であるものとしてもよく、7Ωcm2以上であるものとしてもよく、10Ωcm2以上であるものとしてもよい。電気自動車用の電池など、電極合材の厚みや目付量が大きく、内部抵抗が比較的大きい非水電解液二次電池では、回復剤を注入するだけでは、回復後の電池の容量及びサイクル容量維持率が低いことが多いため、本開示の非水電解液二次電池の回復方法を適用する意義が高い。なお、劣化前電池の内部抵抗は、50Ωcm2以下であるものとしてもよい。
【0021】
(回復剤)
回復剤は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、非水電解液二次電池のキャリアイオンと同種の金属イオンと、を含む溶液である。回復剤は、予め調製された回復剤でもよいし、回復剤を調製する調製工程で調製してもよい。回復剤において、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとは、解離していてもよいし、会合していてもよい。回復剤は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、非水電解液二次電池のキャリアイオンと同種の金属イオンと、を含む回復剤原液の他に、電解液を含むものとしてもよい。回復剤は、電解液を含まず、回復剤原液のままとしてもよい。
【0022】
回復剤において、芳香族炭化水素化合物は、ポリアセン又はポリフェニルであることが好ましい。ポリアセンは複数のベンゼン環が縮合した構造を有する化合物であり、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等が挙げられる。ポリフェニルは複数のフェニル基が単結合により連結した構造を有する化合物であり、ビフェニル、オルトターフェニル、メタターフェニル、パラターフェニル、パラクアテルフェニル、パラキンキフェニル等が挙げられる。ポリアセンやポリフェニルは、芳香環上に置換基を有していてもよいし、芳香環内にヘテロ原子を含んでいてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基等が挙げられる。ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄などが挙げられる。芳香環内にヘテロ原子を含むポリアセンとしては、キノリン、クロメン、アクリジンなどが挙げられる。芳香環内にヘテロ原子を含むポリフェニルとしては、ビピリジンなどが挙げられる。芳香族炭化水素化合物は、上述したもののうち、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、オルトターフェニル、パラターフェニルのうち1以上であることが好ましく、ナフタレン及びビフェニルのうちの1以上であることがより好ましい。芳香族炭化水素化合物は、例えば、式(1)及び式(2)のうちの1以上としてもよい。還元状態の芳香族炭化水素化合物は、例えば上述の芳香族炭化水素化合物が還元された状態のもの(還元体とも称する)であり、例えばラジカルアニオンである。還元状態の芳香族炭化水素化合物は、例えば、式(1)の化合物の還元体及び式(2)の化合物の還元体のうちの1以上としてもよい。
【0023】
【0024】
回復剤において、金属イオンは、非水電解液二次電池のキャリアイオンと同種であればよいが、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンのうち1以上であることが好ましい。
【0025】
回復剤は、式(3)及び式(4)のうちの1以上の化合物を含むものとしてもよい。式(3)及び式(4)の化合物において、ラジカルアニオンの部分が上述の還元状態の芳香族炭化水素化合物であり、金属カチオンの部分が上述の金属イオンである。
【0026】
【0027】
回復剤は、溶媒を含むものとしてもよく、有機溶媒を含むものとしてもよい。有機溶媒としては、エーテル骨格を有する溶媒が好ましく、環状エーテルでも鎖状エーテルでもよい。回復剤は、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、ジオキソラン(DOL)、ジオキサン(DOX)のうち1以上の溶媒を含むものとしてもよい。回復剤は、テトラヒドロフラン及びジメトキシエタンのうちの1以上の溶媒を含むことが好ましい。
【0028】
回復剤は、溶媒中に、芳香族炭化水素化合物と、イオン状態ではなく金属状態の金属とを投入して得られたものとしてもよい。例えば、式(5)及び式(6)のうちの1以上により得られたものとしてもよい。より具体的には、式(7)~(9)のように、THF溶媒中で、ナフタレン、ジフェニル、ターフェニルとLi金属とを反応させたものとしてもよい。また、式(7)~(9)に準じて、DME溶媒中で、ナフタレン、ジフェニル、ターフェニルとLi金属とを反応させたものとしてもよい。こうすれば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む回復剤を容易に調製できる。回復剤は、溶媒に芳香族炭化水素化合物を投入して得られた前駆体に、金属を投入して調製してもよい。回復剤は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気下で調製してもよい。回復剤は、露点が-20℃以下や、-40℃以下、-60℃以下などの低露点環境下で調製してもよい。回復剤は、溶媒と芳香族炭化水素化合物と金属とを撹拌して調製してもよく、その際、スターラーなどを用いてもよい。
【0029】
【0030】
【0031】
以上説明した回復剤を、回復剤原液とも称する。回復剤原液において、還元状態の芳香族炭化水素化合物及び金属イオンの濃度は、各々、0.05mol/L以上1.1mol/L以下としてもよく、0.1mol/L以上1.1mol/L以下としてもよく、0.5mol/L以上1.0mol/L以下としてもよい。また、この濃度は、溶解度以下としてもよい。また、回復剤に含まれる還元状体の芳香族炭化水素化合物のモル数MA(mol)と金属イオンのモル数MB(mol)との比MA/MBは、1/1とすることが好ましいが、1.1/1.0~1.0/1.1としてもよいし、1.2/1.0~1.0/1.2としてもよい。
【0032】
回復剤が回復剤原液のほかに電解液を含む場合、電解液は、例えば、非水電解液二次電池の非水系電解液で例示した非水電解液としてもよく、非水系電解液で例示した有機溶媒と、非水系電解液で例示した支持塩と、を含むものとしてもよい。電解液の溶媒は、回復剤原液の溶媒と異なるものであればよいが、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステルのうちの1以上が好ましく、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1以上がより好ましい。電解液の溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートのうちの1以上としてもよい。電解液の支持塩は、回復剤原液の溶質と異なるものであればよいが、LiPF6などの無機塩としてもよい。電解液は、被膜形成剤や難燃剤等の添加剤を含んでもよい。電解液の組成は、回復対象の非水電解液二次電池の非水系電解液と同じでもよい。回復剤が電解液を含む場合、電解液の含有量は、30体積%以上70体積%以下としてもよく、30体積%以上60体積%以下としてもよく、30体積%以上50体積%以下としてもよい。電解液を含む回復剤を調製する際には、回復剤原液と電解液とを混合すればよく、回復剤原液と電解液とを撹拌してもよく、スターラーなどを用いて撹拌してもよい。
【0033】
回復剤は、酸化還元電位が負極の酸化還元電位よりも高く正極の酸化還元電位よりも低いものとしてもよい。回復剤の酸化還元電位は、例えばLi金属基準で0.5V以上2.5V以下としてもよいし、1.0V以上2.0V以下としてもよいし、1.2V以上1.9V以下としてもよい。
【0034】
(回復工程)
この工程では、非水電解液二次電池に対して、回復剤を注入するとともに、定電圧印加により満充電電圧よりは低い所定電圧を維持して、非水電解液二次電池の容量を回復させる。回復対象となる非水電解液二次電池は、容量劣化した状態の電池(劣化電池とも称する)であり、例えば、非水電解液二次電池の定格容量に対して容量劣化した状態の電池としてもよい。回復対象となる非水電解液二次電池は、未使用品でも使用済み品でもよい。未使用品でも、長期保存などによって容量劣化することがある。所定電圧は、満充電電圧よりは低い電圧であればよいが、正極の電位が回復剤の電位よりも高くなるような電圧であることが好ましい。満充電電圧は非水電解液二次電池(劣化前電池)に設定された充電上限電圧としてもよい。所定電圧は、回復対象電池の構成等に応じて適宜定めればよいが、例えば、3.0V以上4.1V未満としてもよく、3.5V以上4.0V以下としてもよく、3.7V以上4.0V以下としてもよい。
【0035】
この工程では、回復剤を注入するのに先立って、非水電解液二次電池を上述の所定電圧にする電圧調整を行ってもよい。その場合、例えば、定電流充電(CC充電)や定電流定電圧充電(CCCV充電)で充電して、非水電解液二次電池の電圧調整を行ってもよい。この電圧調整を行わなくてもよいが、回復対象の非水電解液二次電池の電圧は上述の所定電圧であることが好ましい。
【0036】
この工程では、回復剤を注入する際には、非水電解液二次電池を開封して回復剤を注入し開封部を塞いでもよいし、非水電解液二次電池に注射などで回復剤を注入し穿孔を塞いでもよい。回復剤を注入する際には、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気下で注入してもよい。回復剤は、少なくとも正極と接触するように注入すればよいが、非水電解液と混合させてもよい。回復剤の注入量は、非水電解液二次電池の構成や、劣化度合いなどに応じて適宜定めることができる。回復剤の注入量は、例えば、非水電解液二次電池に含まれる非水電解液の体積[mL]に対して、1%以上100%以下としてもよく、10%以上75%以下としてもよく、25%以上50%以下としてもよい。定電圧印加は、回復剤の注入前や回復剤の注入中から継続してもよいし、回復剤の注入後、正極への金属イオンの供給に伴う非水電解液二次電池の電圧低下が無視できる程度に小さいうち(例えば5分以内、好ましくは3分以内、より好ましくは1分以内)に開始してもよい。定電圧印加時間は、非水電解液二次電池の構成や、劣化度合い、回復剤の注入量などに応じて適宜定めることができる。例えば、回復剤の注入量は一定とし、非水電解液二次電池の構成や劣化度合いに応じて定電圧印加時間を調整してもよい。定電圧印加時間は、例えば、1時間以上48時間以下としてもよく、6時間以上36時間以下としてもよく、12時間以上24時間以下としてもよい。なお、回復剤の注入完了前から定電圧印加する場合には、回復剤の注入が完了してからの定電圧印加時間を定電圧印加時間とする。
【0037】
この工程で、回復剤を注入すると、例えば、
図2に示すような回復反応が生じると考えられる。
図2は、回復反応のスキームの一例を示す説明図であり、正極活物質がリチウム遷移金属複合酸化物である場合のスキームを示す説明図である。
図2に示すように、回復剤では、芳香族炭化水素化合物のラジカルアニオン(
図2ではAre・-)と金属イオン(
図2ではLi
+)とを含む化合物が、電子を供与する還元剤として機能するため、劣化した正極(
図2ではLi
n-yMeO
2)に作用させることで、還元剤から正極へ電子と金属イオンが供与され、容量を回復させることができる。ここで、仮に、回復剤を注入するだけで、定電圧印加を行わず開回路状態で放置した場合には、
図3に示すように、回復反応の進行とともに正極電位が低下するため、反応の駆動力となる正極と回復剤との電位差△E
recが、回復反応の進行とともに△E
rec.1>△E
rec.2>△E
rec.3と減少すると考えられる。このため、回復剤の効果は徐々に減衰すると考えられる。一方、回復剤を注入するとともに、定電圧印加により所定電圧を維持した場合には、
図4に示すように、電池電圧を一定にすることにより正極電位の低下が抑制されるため、反応の駆動力となる正極と回復剤との電位差△E
recが、回復反応が進行しても△E
rec.1≒△E
rec.2≒△E
rec.3と略一定に保たれると考えられる。このとき回復剤から正極に供与された電子は定電圧印加によって直ちに負極に送られ、それにともない正極に供給された金属イオンも負極に移動するため、正極では高い電位を保ったまま金属イオンや電子を受け入れる空の軌道が存在する。これにより、抵抗の比較的高い電極を用いた場合でも、電池容量を回復させながら(電池内の金属イオン量を増加させながら)も反応駆動力が高い状態を保つことができると考えられる。そのため、回復剤を有効に利用でき、回復後の電池の容量がより向上すると考えられる。また、定電圧印加によって芳香族炭化水素化合物のラジカルアニオンの活性が適度に抑えられたり、回復剤が有効に利用されることで芳香族炭化水素化合物のラジカルアニオンの残留が抑制されたりして、回復後の電池のサイクル容量維持率も向上すると考えられる。こうして、非水電解液二次電池の容量が回復し、容量が回復した非水電解液二次電池(回復電池とも称する)が得られる。
【0038】
以上詳述した非水電解液二次電池の回復方法では、所定の回復剤を注入することで、非水電解液二次電池の容量を回復させることができる。この回復方法は、第三極を必要としない新規な回復方法である。また、この非水電解液二次電池の回復方法では、回復剤を注入するとともに定電圧印加によって所定電圧を維持することで、回復後の電池の容量及びサイクル容量維持率をより向上させることができる。
【0039】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0040】
例えば、上述した実施形態では、非水電解液二次電池の回復方法について説明したが、この非水電解液二次電池の回復方法では、容量劣化した非水電解液二次電池を用い、容量が回復した新たな非水電解二次電池を製造することができる。このため、非水電解液二次電池の回復方法は、非水電解液二次電池の製造方法であるともいえる。上述の非水電解液二次電池の回復方法を用いて非水電解液二次電池を製造してもよい。非水電解液二次電池の製造方法は、金属イオンをキャリアイオンとする容量劣化した非水電解液二次電池を準備する電池準備工程と、上述した非水電解液二次電池の回復方法で非水電解液二次電池の容量を回復させる回復工程と、を含むものとしてもよい。電池準備工程で準備する非水電解液二次電池は、上述した実施形態で説明した劣化電池と同様とすることができる。
【実施例】
【0041】
以下には、本開示の非水電解液二次電池の回復方法でリチウムイオン電池の回復を行った例を実施例として説明する。なお、実験例1~3,5が実施例に相当し、実験例4,6が比較例に相当し、実験例7~14が参考例に相当する。本開示は以下の実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0042】
[実験例1]
(非水電解液二次電池(劣化前電池))
正極には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM、戸田工業製)を92wt%、アセチレンブラック(デンカ株式会社製)を5wt%、ポリフッ化ビニリデン(クレハ製)を3wt%の割合で含む正極合材を、目付量7mg/cm2となるようにアルミ集電箔の片面に形成したものを用いた。負極には、黒鉛(OMAC1.5s、大阪ガスケミカル製)を98wt%、カルボキシメチルセルロース(ダイセル製)を1wt%、スチレンブタジエンゴム(JSR製)を1wt%の割合で含む負極合材を、目付量4mg/cm2となるように銅集電箔の片面に形成したものを用いた。電解液には、エチレンカーボネートを30vol%、ジメチルカーボネートを40vol%、エチルメチルカーボネートを30vol%の割合で含む混合溶媒に、LiPF6を1.1Mの濃度となるように溶解させたものを用いた。正極と負極の間に、1mLの電解液を含侵させたポリプロピレンセパレータを挟み、ラミネートセルを作製した。これを劣化前電池とした。セルの電極面積は正極、負極ともに10cm2とした。劣化前電池の抵抗をデジタルマルチメータにて測定したところ、セル抵抗は10Ωcm2であった。この非水電解液二次電池において、電池構成に応じて定められる放電下限電圧は3.0Vであり充電上限電圧は4.1Vであった。
【0043】
(劣化電池)
作製したラミネートセルにおいて、電圧範囲3.0Vから4.1Vでのセルの電気容量の50%に相当する容量(SOC=50%)まで充電を行うことで、正極からLiを引き抜いて、模擬的に容量を減少させた状態の正極を得た(劣化正極とも称する)。その後セルを解体し、劣化正極を取り出した。そして、正極として劣化正極を用いた以外は劣化前電池の作製と同様にして、ラミネートセルを作製した。これを劣化電池とした。劣化電池について、4.1Vまで0.9mAにてCC充電を行った後、3.0Vまで0.9mAでCC放電を行い、そのときの放電容量を測定した。
【0044】
(回復剤)
不活性雰囲気下において、テトラヒドロフラン(THF)溶媒に対して1.0mol/Lになるようにナフタレンを溶解させ、その後、1.0mol/Lのリチウム金属を加えて撹拌し、上記式(7)に示す反応により、回復剤原液である濃緑色のラジカルアニオン液体組成物(リチウムナフタレニド+THF)を調製した。その後、回復剤原液と上記電解液を体積比で5:5となるように混合して、回復剤を調製した。
【0045】
(劣化電池の回復)
劣化電池を0.9mAでCC充電してセル電圧を3.7Vに調整し(調整処理)、劣化電池の一部をアルゴン雰囲気下で開封してピペットにて回復剤を0.5mL注入し、開封部を塞ぎ、直後に(実験例では回復剤の注入から3分以内に)劣化電池に3.7Vの定電圧印加を開始し、定電圧の印加を24時間継続した(回復処理)。こうして劣化電池の回復を行い、回復電池を得た。
【0046】
(回復電池の評価)
回復電池について、劣化電池と同様に放電容量を測定し、劣化電池の放電容量に対する回復電池の放電容量の比(容量比)を計算した。また、回復電池について、3.0Vから4.1Vの電圧範囲において、1.8mAにて充放電サイクルを20回行い、1サイクル目の容量に対する20サイクル目の容量維持率を計算した。
【0047】
[実験例2~4]
実験例2は、調整処理及び回復処理においてセル電圧及び印加電圧を3.9Vにした以外は実験例1と同じとした。実験例3は、調整処理及び回復処理においてセル電圧及び印加電圧を4.0Vにした以外は実験例1と同じとした。実験例4は、調整処理及び回復処理においてセル電圧及び印加電圧を4.1Vにした以外は実験例1と同じとした。
【0048】
[実験例5~6]
実験例5は、回復剤原液の溶媒をジメトキシエタン(DME)とした以外は、実験例3と同じとした。実験例6は、回復剤原液の溶媒をジメトキシエタン(DME)とした以外は、実験例4と同じとした。
【0049】
[実験例7]
実験例7は、劣化前電池として以下の劣化前電池を用い、回復剤として電解液を含まない回復剤原液をそのまま用い、劣化電池を0.9mAでCC充電してセル電圧を3.6Vに調整してから開回路状態で回復剤を注入し、定電圧を印加することなく開回路状態を24時間保持した以外は実験例1と同じとした。
【0050】
(劣化前電池)
正極には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM、戸田工業製)を85wt%、アセチレンブラック(デンカ株式会社製)を10wt%、ポリフッ化ビニリデン(クレハ製)を5wt%の割合で含む正極合材を、目付量5mg/cm2となるようにアルミ集電箔の片面に形成したものを用いた。負極には、黒鉛(OMAC1.5s、大阪ガスケミカル製)を98wt%、カルボキシメチルセルロース(ダイセル製)を1wt%、スチレンブタジエンゴム(JSR製)を1wt%の割合で含む負極合材を、目付量が3mg/cm2となるように銅集電箔の片面に形成したものを用いた。電解液には、エチレンカーボネートを30vol%、ジメチルカーボネートを40vol%、エチルメチルカーボネートを30vol%の割合で含む混合溶媒に、LiPF6を1.1Mの濃度となるように溶解させたものを用いた。正極と負極の間に、1mLの電解液を含侵させたポリプロピレンセパレータを挟み、ラミネートセルを作製した。これを実験例7の劣化前電池とした。セルの電極面積は正極、負極ともに10cm2とした。劣化前電池の抵抗をデジタルマルチメータにて測定したところ、セル抵抗は5Ωcm2であった。この非水電解液二次電池において、電池構成に応じて定められる放電下限電圧は3.0Vであり充電上限電圧は4.1Vであった。
【0051】
[実験例8]
実験例8は、回復剤として回復剤原液と上記電解液とを体積比で5:5となるように混合したものを用いた以外は実験例7と同じとした。
【0052】
[実験例9~10]
実験例9は、回復剤原液の溶媒をジメトキシエタン(DME)とした以外は、実験例7と同じとした。実験例10は、回復剤原液の溶媒をジメトキシエタン(DME)とした以外は、実験例8と同じとした。
【0053】
[実験例11~14]
実験例11は、回復処理を開回路状態で行った以外は実験例1と同じとした。実験例12は、回復処理を開回路状態で行った以外は実験例2と同じとした。実験例13は、回復処理を開回路状態で行った以外は実験例3と同じとした。実験例14は、回復処理を開回路状態で行った以外は実験例4と同じとした。
【0054】
[結果と考察]
実験例1~14の結果を表1にまとめた。まず、回復剤原液への電解液の添加について検討した。回復剤原液に電解液を加えなかった実験例7,9では、回復剤原液に電解液を加えた実験例8,10よりも、回復電池において、劣化電池に対する容量比やサイクル容量維持率が低かった。この理由は以下のように推察された。例えば、THF溶媒を用いて調製したリチウムナフタレニド液体組成物は、Li金属基準で0.64Vと高い還元力を示す(参考文献:Electrochimica Acta 180(2015) 629-635)。リチウムナフタレニド液体組成物と電解液を5:5で混ぜた場合、Li金属基準で1.2V~1.9Vを示し、還元力は緩和される。回復剤原液に電解液を加えなかった実験例7,9では、リチウムナフタレニド液体組成物を還元力の強い状態で注入したことで、容量回復を阻害する反応が生じたものと推察された。一方、回復剤原液に電解液を加えた実験例8,10では、リチウムナフタレニド液体組成物の還元力が電解液によって緩和され、容量回復や回復後の容量維持を阻害する反応が抑制されたため、容量回復の効果や回復後の容量維持の効果が十分に得られたものと推察された。なお、実験例8~11では、開回路状態で回復剤を注入したが、定電圧状態で回復剤を注入した場合には、回復剤原液に電解液を添加しなくても、定電圧印加によって、リチウムナフタレニド液体組成物の還元力がある程度は抑制されると推察された。
【0055】
回復剤原液の調製に用いる溶媒について検討した。回復剤原液の調製にDMEを用いた実験例10では、THFを用いた実験例8よりも、回復電池において、劣化電池に対する容量比はやや劣るものの、サイクル容量維持率は高く、両者のバランスがよかった。このことから、回復剤原液の調製に用いる溶媒はDMEがより好適であると推察された。
【0056】
劣化前電池の内部抵抗の影響について検討した。非水電解液二次電池の内部抵抗が比較的小さい実験例10では、開回路状態でも、回復電池は、劣化電池に対する容量比やサイクル容量維持率が高かった。一方、劣化前電池の内部抵抗が比較的大きい実験例11~14では、開回路状態では、劣化電池に対する容量比やサイクル容量維持率が実験例10よりも低かった。以上より、劣化前電池の内部抵抗が大きいほど、容量回復の効果や回復後のサイクル容量維持の効果が得られにくいことがわかった。これは、内部抵抗が大きいほど、内部抵抗(R)により生じる過電圧(E=RI)が高いため、回復反応の駆動力である回復剤と正極との電位差が減少して、
図3に示したように反応駆動力が低下しやすいためと推察された。
【0057】
定電圧印加により所定電圧を維持した場合について検討した。定電圧印加により満充電状態のセル電圧(4.1V)よりは低い所定電圧を維持した実験例1~3及び実験例5では、開回路状態とした実験例11~14よりも、回復電池の容量比が大きく、サイクル容量維持率も大きかった。これは、実験例1~3,5では、定電圧を維持することにより、回復反応における反応駆動力が高い状態に保たれたためと推察された。なかでも、回復剤原液の調製にDMEを用いた実験例5では、THFを用いた以外は同じ実験例3よりも、回復電池において、劣化電池に対する容量比やサイクル容量維持率が高かった。なお、回復剤原液の調製にTHFを用いると、サイクル容量維持率が大きく低下することが実験例7~10から予測されたが、定電圧印加により所定電圧を維持した実験例1~3では、サイクル容量維持率も良好であった。一方で、定電圧印加により満充電状態のセル電圧(4.1V)と同じ電圧を維持した実験例4,6の回復電池では、劣化電池よりも容量が低下し、サイクル容量維持率も低かった。特に実験例6では、回復剤の注入と同時に電池が動作しなくなった。これは、満充電電圧では、実質的に全ての金属イオンが負極に供給されることになり、正極の容量回復に寄与しなかったためと推察された。以上より、回復剤を注入するとともに、定電圧印加により満充電状態のセル電圧よりは低い所定電圧を維持することで、回復電池において、劣化電池に対して容量及びサイクル容量維持率を高めることができることがわかった。
【0058】
【符号の説明】
【0059】
20 非水電解液二次電池、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 非水電解液。