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特許7564752プレス成形品の製造方法、プレス成形型、およびプレス成型品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法、プレス成形型、およびプレス成型品
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20241002BHJP
   B21D 24/04 20060101ALI20241002BHJP
   B21D 37/08 20060101ALI20241002BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
B21D24/04 Z
B21D37/08
B21D53/88 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021068524
(22)【出願日】2021-04-14
(65)【公開番号】P2022163527
(43)【公開日】2022-10-26
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓史
(72)【発明者】
【氏名】三井 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】深澤 雄
(72)【発明者】
【氏名】坂田 笙輔
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】岩田 龍祐
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/195591(WO,A1)
【文献】特開2017-030038(JP,A)
【文献】特表2007-512960(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102972(WO,A1)
【文献】特開2018-183786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 24/04
B21D 37/08
B21D 53/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の意匠面を構成する製品部と、しわ押さえ板により押さえられる周辺部と、前記製品部および前記周辺部を接続する余肉部とを有するブランク材を目標形状にプレス成形するプレス成形品の製造方法であって、
前記ブランク材をプレス成形して中間形状に成形し、
前記中間形状からさらにプレス成形して前記目標形状のプレス成形品に成形する
ことを含み、
前記目標形状の前記製品部は、曲率半径20mm以下であって曲げ角度が130度以上の第1稜線部および第2稜線部を前記意匠面上に有し、
前記目標形状の前記製品部は、前記第1稜線部または前記第2稜線部が延びる方向に垂直な特定断面において、前記製品部の一端から前記第1稜線部までの第1領域と、前記第1稜線部から前記第2稜線部までの第2領域と、前記第2稜線部から前記製品部の他端までの第3領域とを含み、
前記中間形状の前記製品部は、前記目標形状の前記第2領域に対応する中央領域において、前記目標形状と同一形状を有し、
前記中間形状の前記製品部は、前記特定断面において、前記中央領域から両側の前記余肉部に向かって曲率半径100mm以上の曲線形状または直線形状を有し、
前記中間形状の前記余肉部の高さは、前記周辺部を基準として、10mmより高く、前記目標形状の前記余肉部の高さよりも低い、プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
前記意匠面上の前記第1稜線部および第2稜線部は互いに交わらない、請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記ブランク材は、鋼板またはアルミニウム合金板である、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項4】
前記ブランク材の厚さは、0.5mm以上かつ1.2mm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
前記目標形状の前記製品部は、前記第1稜線部および前記第2稜線部に加えて別の1本以上の稜線部を前記意匠面上に有し、
前記第1稜線部および前記第2稜線部は、隣り合いかつ最も離れている2本として設定される、請求項1から4のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項6】
前記特定断面の前記第1領域および前記第3領域のそれぞれにおいて、前記目標形状の断面線長は、前記中間形状の断面線長以上である、請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項7】
前記目標形状のプレス成形を実行するプレス成形装置は、前記第2領域を押さえることができるように分離したダイスを有し、
前記目標形状のプレス成形において、前記しわ押さえ板によって前記ブランク材を押さえる前に、前記第2領域を前記分離したダイスで押さえる、請求項1または6に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法における前記中間形状のプレス成形に用いるプレス成形型であって、前記中間形状に対応する一対の成形面を有する、プレス成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の製造方法、プレス成形型、およびプレス成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の外板パネルのように意匠面を構成するプレス成形品では、キャラクターラインと称される稜線部が設けられることがある。キャラクターラインは、美観に大きく寄与するため、明確に形成することが求められる。
【0003】
特許文献1~3には、自動車などに用いられるプレス成形品の製造方法が開示されている。これらの方法では、プレス成形を2工程に分けて成形不良の抑制を図るとともに、成形パラメータを様々に調整することによりキャラクターラインの明確な形成を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-30038号公報
【文献】特開2019-18225号公報
【文献】国際公開2019-102972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先鋭な稜線部を持った製品をプレス成形する際に、ブランク材が成形中に稜線部直交方向にずれ、成形初期に稜線部に接触した部分に線ズレと呼ばれる外観不良が発生する恐れがある。上記線ズレ抑制のために、材料流入の調整や金型分割、工程分割などが実施されている。特に、第1工程で中間形状にプレス成形し、第2工程で目標形状に成形する場合のように、2工程に分けてプレス成形を行う場合、特許文献1~3のように稜線部の曲率半径を拡大し、上記中間形状と目標形状の断面線長差を小さくすることで、ブランク材のずれを抑え、線ズレを抑制している。しかし、線長差を小さくする方法では、稜線部に十分な張力が発生せず、設計形状と同等の形状、特に先鋭なキャラクターラインを得ることは難しい。
【0006】
本発明は、プレス成形品の製造方法、プレス成形型、およびプレス成型品において、線ズレを抑制し、キャラクターラインを明確に形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、製品の意匠面を構成する製品部と、しわ押さえ板により押さえられる周辺部と、前記製品部および前記周辺部を接続する余肉部とを有するブランク材を目標形状にプレス成形するプレス成形品の製造方法であって、前記ブランク材をプレス成形して中間形状に成形し、前記中間形状からさらにプレス成形して前記目標形状のプレス成形品に成形することを含み、前記目標形状の前記製品部は、曲率半径20mm以下であって曲げ角度が130度以上の第1稜線部および第2稜線部を前記意匠面上に有し、前記目標形状の前記製品部は、前記第1稜線部または前記第2稜線部が延びる方向に垂直な特定断面において、前記製品部の一端から前記第1稜線部までの第1領域と、前記第1稜線部から前記第2稜線部までの第2領域と、前記第2稜線部から前記製品部の他端までの第3領域とを含み、前記中間形状の前記製品部は、前記目標形状の前記第2領域に対応する中央領域において、前記目標形状と同一形状を有し、前記中間形状の前記製品部は、前記特定断面において、前記中央領域から両側の前記余肉部に向かって曲率半径100mm以上の曲線形状または直線形状を有し、前記中間形状の前記余肉部の高さは、前記周辺部を基準として、10mmより高く、前記目標形状の前記余肉部の高さよりも低い、プレス成形品の製造方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、中間形状の余肉部の高さを、周辺部を基準として、10mmより高く、目標形状の余肉部の高さよりも低く設計しているので、ブランク材が中間形状から目標形状に成形される際に余肉部が引き延ばされる。従って、断面線長差を小さくする方法に比べ、稜線部に発生する張力が大きくなる。これにより、ブランク材が金型になつくようになり、線ズレを抑制し、キャラクターラインをより明確に形成できる。また、プレス成形を2工程に分けているため、1工程のみでは困難な先鋭的な形状のプレス成形品を成形できる。特に、第1工程の中間形状の成形において、中央領域では既に目標形状と同一の形状が成形されている。従って、中央領域(第2領域)では、第2工程の目標形状の成形において、変形を伴わないため、第1稜線部および第2稜線部の形成に際しての位置ずれを抑制できる。また、キャラクターラインを構成する第1稜線部および第2稜線部はともに曲率半径20mm以下であって曲げ角度130度以上であるが、そのようなキャラクターラインは自動車の外板パネルなどの汎用のプレス成形品において採用され易いととともに、先鋭性が求められるものである。従って、上記方法において2工程のプレス成形はキャラクターラインの先鋭化の観点からも有効である。また、中間形状の製品部は、特定断面において、中央領域から両側の余肉部に向かって曲率半径100mm以上の曲線形状または直線形状を有している。即ち、中間形状では先鋭的な形状を回避してなだらかな形状をしているため、プレス成形での割れを抑制できる。なお、意匠面とは、プレス成形品の外観を構成する面である。
【0009】
前記意匠面上の前記第1稜線部および第2稜線部は互いに交わらなくてもよい。
【0010】
この方法によれば、キャラクターラインを構成する第1稜線部および第2稜線部はともに交わらないものであるが、そのようなキャラクターラインは自動車の外板パネルなどの汎用のプレス成形品において採用され易いととともに、先鋭性が求められるものである。従って、上記方法によって実現されるキャラクターラインの先鋭化を有効に機能させることができる。
【0011】
前記ブランク材は、鋼板またはアルミニウム合金板であってもよい。また、前記ブランク材の厚さは、0.5mm以上かつ1.2mm以下であってもよい。
【0012】
これらの方法によれば、自動車の外板パネルなどの汎用のプレス成形品に採用され易い材料や設計寸法において、キャラクターラインを明確に設計できる。
【0013】
前記目標形状の前記製品部は、前記第1稜線部および前記第2稜線部に加えて別の1本以上の稜線部を前記意匠面上に有し、前記第1稜線部および前記第2稜線部は、隣り合いかつ最も離れている2本として設定されてもよい。
【0014】
この方法によれば、稜線部が3本以上ある場合でも少なくとも2本(第1稜線部および第2稜線部)についてはキャラクターラインを明確に形成できる。
【0015】
前記特定断面の前記第1領域および前記第3領域のそれぞれにおいて、前記目標形状の断面線長は、前記中間形状の断面線長以上であってもよい。
【0016】
この方法によれば、目標形状における肉余りを抑制できる。仮に、第1領域および第3領域のそれぞれにおいて、中間形状の断面線長が目標形状の断面線長よりも長い場合、中間形状から目標形状に成形した際に断面線長の差分だけ目標形状において肉余りが生じる。従って、これを防止するために、目標形状の断面線長を中間形状の断面線長よりも長く設定している。なお、第2領域では、中間形状と目標形状は同一の形状を有するため、断面線長は等しい。
【0017】
前記目標形状のプレス成形を実行するプレス成形装置は、前記第2領域のみを押さえることができるように分離したダイスを有し、前記目標形状のプレス成形において、前記しわ押さえ板によって前記ブランク材を押さえる前に、前記第2領域のみを前記分離したダイスで押さえてもよい。
【0018】
この方法によれば、分離したダイスで第2領域のみを先に押さえることができるので、第2領域においてブランク材がずれることなく目標形状のプレス成形を実行できる。
【0019】
本発明の第2の態様は、前記プレス成形品の製造方法における前記中間形状のプレス成形に用いるプレス成形型であって、前記中間形状に対応する一対の成形面を有する、プレス成形型を提供する。
【0020】
本発明の第3の態様は、車両のフードパネルまたはドアパネルの意匠面を構成するプレス成型品において、前記フードパネルまたは前記ドアパネルは、車両取り付け時に車両前方から後方に向けて延びる曲率半径20mm以下であって曲げ角度が130度以上の第1稜線部および第2稜線部を有し、前記第1稜線部および前記第2稜線部は、同一の意匠面上に隣り合うように設けられる、プレス成型品を提供する。
【0021】
前記プレス成型品は、前記第1稜線部および前記第2稜線部とは別の第3稜線部を前記第1稜線部および前記第2稜線部と同一の意匠面上に有し、前記第3稜線部は、前記第1稜線部および前記第2稜線部と交わる方向に延びてもよい。
【0022】
前記プレス成型品は、前記第1稜線部および前記第2稜線部とは別の第3稜線部を前記第1稜線部および前記第2稜線部と同一の意匠面上に有し、前記第3稜線部は、前記第1稜線部および前記第2稜線部と交わらない方向に延びてもよい。
【0023】
前記第1稜線部および前記第2稜線部は、最も離れている2本の稜線部であってもよい。
【0024】
前記板材の厚さは、0.5mm以上かつ1.2mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、プレス成形品の製造方法、プレス成形型、およびプレス成型品において、線ズレを抑制し、キャラクターラインを明確に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係るプレス成形品の製造方法の第1工程の成形前を示す断面図。
図2】本発明の一実施形態に係るプレス成形品の製造方法の第1工程の成形後を示す断面図
図3】本発明の一実施形態に係るプレス成形品の製造方法の第2工程の成形前を示す断面図。
図4】本発明の一実施形態に係るプレス成形品の製造方法の第2工程の成形後を示す断面図。
図5】プレス成形品としてのフードパネルの平面図。
図6】ブランク材の変形過程を示す断面図。
図7】変形例に係るプレス成形品の製造方法の第2工程の成形前を示す断面図。
図8】変形例に係るプレス成形品の製造方法の第2工程の成形中を示す断面図。
図9】変形例に係るプレス成形品の製造方法の第2工程の成形中を示す断面図。
図10】変形例に係るプレス成形品の製造方法の第2工程の成形後を示す断面図。
図11】比較例のプレス成形品の製造方法の解析結果を示すコンター図。
図12】変形例のプレス成形品の製造方法の解析結果を示すコンター図。
図13】変形例に係るプレス成形品としてのフードパネルの平面図。
図14】変形例に係るプレス成形品としてのフードパネルの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0028】
図1~4を参照して、本実施形態のプレス成形品1の製造方法は、2工程でブランク材1をプレス成形品1へとプレス成形するものである。詳細には、図1,2を参照して第1工程でプレス成形型11を使用してブランク材1を中間形状のプレス成形品1に成形し、図3,4を参照して第2工程で別のプレス成形型21を使用して目標形状のプレス成形品1に成形する。ここで、ブランク材1(図1)、中間形状のプレス成形品1(図2)、および目標形状のプレス成形品1(図5)は、同じ部材の変形前、変形中、および変形後を表すため、同じ参照符号を使用する。また、各図において、Y方向はプレス方向(高さ方向)を示し、X方向はY方向に直交する方向(水平方向)を示す。なお、図示を明瞭にするため、図1~4において、ブランク材1に対するハッチングを省略している。これは以降の図においても同様である。
【0029】
図1,2を参照して、第1工程のプレス成形装置10は、プレス成形型11と、駆動装置12(模式的に示す)とを有している。プレス成形型11は、中間形状のプレス成形に用いるものであり、パンチ13と、ダイス14と、しわ押さえ板15とを有している。プレス成形型11(パンチ13とダイス14)は、詳細を後述する中間形状に対応する一対の成形面13a,14aを有している。ダイス14およびしわ押さえ板15は、駆動装置12にそれぞれ機械的に接続されている。パンチ13は固定されており、ダイス14およびしわ押さえ板15は駆動装置12によってパンチ13に対してY方向に可動する。
【0030】
図3,4を参照して、第2工程のプレス成形装置20もまた、プレス成形型21と、駆動装置22(模式的に示す)とを有している。プレス成形型21は目標形状のプレス成形に用いるものでありパンチ23と、ダイス24と、しわ押さえ板25とを有している。プレス成形型21(パンチ23とダイス24)は、詳細を後述する目標形状に対応する一対の成形面23a,24aを有している。ダイス24としわ押さえ板25は、駆動装置22にそれぞれ機械的に接続されている。パンチ23は固定されており、ダイス24およびしわ押さえ板25は駆動装置22によってパンチ23に対してY方向に可動する。
【0031】
図5を参照して、本実施形態で製造されるプレス成形品1の一例として、自動車のフードパネル1を挙げることができる。フードパネル1は、自動車のボンネット部分に配置される外板パネルであり、自動車の前部のデザインに大きく寄与する部材である。従って、フードパネル1に形成されるキャラクターラインCL1,CL2には明瞭な美観が求められる。本実施形態の方法は、そのような要求を満たしてキャラクターラインCL1,CL2を明確に形成できるものである。
【0032】
図6は、プレス成形前の平板状のブランク材1、中間形状のプレス成形品1、および目標形状のプレス成形品1を上から順に並べて示している。
【0033】
ブランク材1は、例えば鋼板またはアルミニウム合金板である。また、ブランク材1の厚さは、例えば0.5mm以上かつ1.2mm以下である。
【0034】
ブランク材(プレス成形品)1は、意匠面2を構成する製品部3と、しわ押さえ板15,25(図1~4参照)により押さえられる周辺部4と、製品部3および周辺部4を接続する余肉部5とを有する。最終的に製品としてのフードパネル1(図5参照)として形成されるときには、製品部3以外が切り落とされる。なお、意匠面2は、フードパネル1の外観を構成する面であり、製品外観として視認されるボンネット面である。
【0035】
目標形状の製品部3は、曲率半径20mm以下であって曲げ角度130度以上の互いに交わらない第1稜線部CL1および第2稜線部CL2を意匠面上に有している。第1稜線部CL1および第2稜線部CL2は、フードパネル1においてキャラクターラインCL1,CL2(図5参照)を構成する。キャラクターラインCL1,CL2を構成する第1稜線部CL1および第2稜線部CL2は、ともに曲率半径20mm以下であって曲げ角度130度以上である。また、本実施形態では、稜線部CL1および第2稜線部CL2は、意匠面2上では互いに交わらないものである。
【0036】
目標形状の製品部3は、第1稜線部CL1(または第2稜線部CL2)が延びる方向に垂直な図6に示す特定断面において、製品部3の一端3aから第1稜線部CL1までの第1領域S1と、第1稜線部CL1から第2稜線部CL2までの第2領域S2と、第2稜線部CL2から製品部3の他端3bまでの第3領域S3とを含んでいる。詳細には、第1領域S1は、第1稜線部CL1を含んでおらず、第1稜線部CL1の湾曲形状の外端から外側の領域をいう。同様に、第2領域S2は、第1稜線部CL1と第2稜線部CL2のいずれも含んでおらず、第1稜線部CL1の湾曲形状の内端から第2稜線部CL2の内端までの領域をいう。同様に、第3領域S3は、第2稜線部CL2を含んでおらず、第2稜線部CL2の湾曲形状の外端から外側の領域をいう。
【0037】
中間形状の製品部3は、目標形状の第2領域S2に対応する中央領域S2において、目標形状と同一形状を有している。ここで、中央領域S2は、X方向において第2領域S2と同じ領域を示す。即ち、図6においては、第2領域S2と中央領域S2は破線で結んで示すように実質的に同じ領域を示すため、同じ符号(S2)を付している。同様に、中間形状の一端側領域S1と他端側領域S3は、目標形状の第1領域S1と第3領域S3に対応し、それぞれ同じ符号(S1,S3)を付している。
【0038】
中間形状の製品部3は、この特定断面において、中央領域S2から両側の余肉部5まで延びる肩部6,7を有している。本実施形態では、肩部6は、一端側領域S1に設けられ、曲率半径100mm以上の曲線形状を有する湾曲部6aを含んでいる。同様に、肩部7は、他端側領域S3に設けられ、曲率半径100mm以上の曲線形状を有する湾曲部7aを含んでいる。代替的には、肩部6,7は、湾曲部6a,7aに代えて直線形状の直線部を有してもよい。
【0039】
図6を参照して、中間形状の余肉部5の高さh[mm]は、周辺部4を基準として、10[mm]より高く、目標形状の余肉部5の高さH[mm]よりも低い(10<h<H)。なお、周辺部4は、しわ押さえ板15,25(図1~4参照)によって押さえられ、中間形状と目標形状のいずれにおいても水平面(図ではX方向に延びる線)として構成されている。
【0040】
また、上記特定断面の第1領域(一旦側領域)S1において、目標形状の断面線長Lg1は、中間形状の断面線長Lm1以上である(Lm1≦Lg1)。同様に、上記特定断面の第3領域(他端側領域)S3において、目標形状の断面線長Lg3は、中間形状の断面線長Lm3以上である(Lm3≦Lg3)。即ち、第1領域(一旦側領域)S1および第3領域(他端側領域)S3において、ブランク材1は中間形状から目標形状に成形される際に引き延ばされる。
【0041】
本実施形態のプレス成形品1の製造方法の各工程の動作について説明する。
【0042】
第1工程では、図1を参照して、しわ押さえ板15およびダイス14によってブランク材1の周辺部4を挟持し、ブランク材1を固定する。次に、図2を参照して、駆動装置12によってダイス14およびしわ押さえ板15が駆動され、パンチ13およびダイス14によってブランク材1の製品部3および余肉部5を中間形状にプレス成形する。
【0043】
第2工程では、図3を参照して、しわ押さえ板25およびダイス24によってブランク材1の周辺部4を挟持し、ブランク材1を固定する。次に、図4を参照して、駆動装置22によってダイス24およびしわ押さえ板25が駆動され、パンチ23およびダイス24によってブランク材1の製品部3および余肉部5を目標形状にプレス成形する。
【0044】
本実施形態によれば、中間形状の余肉部5の高さを、周辺部4を基準として、10mmより高く、目標形状の余肉部5の高さよりも低く設計している(10<h<H)ので、ブランク材1が中間形状から目標形状に成形される際に余肉部5が引き延ばされる。従って、ブランク材1が中間形状から目標形状に成形される際に余肉部5から製品部3への材料流入が抑制され、製品部3における肉余りを抑制できる。これにより、しわの発生を抑制し、線ズレを抑制し、キャラクターラインCL1,CL2を明確に形成できる。また、プレス成形を2工程に分けているため、1工程のみでは困難な先鋭的な形状のプレス成形品1を成形できる。特に、第1工程の中間形状の成形において、中央領域S2では既に目標形状と同一の形状が成形されている。従って、中央領域S2(第2領域S2)では、第2工程の目標形状の成形において、変形を伴わないため、第1稜線部CL1および第2稜線部CL2の形成に際しての位置ずれを抑制できる。また、キャラクターラインCL1,CL2を構成する第1稜線部CL1および第2稜線部CL2は、ともに曲率半径20mm以下であって曲げ角度130度以上であり、意匠面2上では互いに交わらないものであるが、そのようなキャラクターラインCL1,CL2は自動車のフードパネル1において採用され易いととともに、先鋭性が求められるものである。従って、上本実施形態の2工程のプレス成形はキャラクターラインCL1,CL2の先鋭化の観点からも有効である。また、中間形状の製品部3は、特定断面において、中央領域S2から両側の余肉部5に向かって曲率半径100mm以上の曲線形状の湾曲部6a,7aを有している。即ち、中間形状では先鋭的な形状を回避してなだらかな形状をしているため、プレス成形での割れを抑制できる。
【0045】
また、特定断面の第1領域S1および第3領域S3のそれぞれにおいて、目標形状の断面線長Lg1,Lg3は、中間形状の断面線長Lm1,Lm3以上である(Lm1≦Lg1,Lm3≦Lg3)ため、目標形状における肉余りを一層抑制できる。仮に、第1領域S1および第3領域S3のそれぞれにおいて、中間形状の断面線長Lm1,Lm3が目標形状の断面線長Lg1,LG3よりも長い場合(Lg1<Lm1,Lg3<Lm3)、中間形状から目標形状に成形した際に断面線長の差分だけ目標形状において肉余りが生じる。従って、これを防止するために、目標形状の断面線長Lg1,Lg3を中間形状の断面線長Lm1,Lm3よりも長く設定している。なお、第2領域(中央領域)S2では、中間形状と目標形状は同一の形状を有するため、断面線長は等しい。
【0046】
(変形例)
図7~10を参照して、第2工程の変形例を説明する。
【0047】
本変形例では、プレス成形装置20は、第2領域(中央領域)S2のみを押さえることができるように分離したダイス24Aを有している。分離したダイス24Aは、他のダイス24Bから独立して可動するように駆動装置22と機械的に接続されている。
【0048】
本変形例では、特に図8に示すように、目標形状のプレス成形において、ブランク材1の位置を固定する前に、即ちしわ押さえ板25でブランク材1を押さえる前に、第2領域(中央領域)S2のみを分離したダイス24Aで押さえる。そして、その後に、図9に示すように、しわ押さえ板25およびダイス24によってブランク材1の周辺部4を挟持し、ブランク材1を固定する。そして最後に、図10に示すように、パンチ23およびダイス24によってブランク材1の製品部3および余肉部5を目標形状にプレス成形する。
【0049】
なお、本変形例のように第2領域S2全体を分離したダイス24Aで押さえてもよいし、第2領域S2の一部のみを分離したダイスで押さえてもよい。
【0050】
本変形例によれば、分離したダイス24Aで第2領域(中央領域)S2のみを先に押さえることができるので、第2領域(中央領域)S2においてブランク材1がずれることなく目標形状のプレス成形を実行できる。
【0051】
図11,12を参照して、本変形例の有効性を解析により確認した結果を説明する。
【0052】
図11,12の解析では、フードパネルの一部断面を元にした形状のプレス成形において、ブランク材の板厚減少幅をコンター図で示している。また、図11,12では、四角い枠で囲まれた部分が拡大して示されている。
【0053】
図11は、比較例のプレス成形品の製造方法の解析結果を示すコンター図である。比較例では、一般的な1工程でのプレス成形を模擬した解析を実行した。図11では、上記第2稜線部CL2に対応する稜線部CL0付近とその拡大図が示されている。
【0054】
図12は、本変形例のプレス成形品の製造方法の解析結果を示すコンター図である。本変形例では、プレス成形を2工程に分けるとともに中間形状および目標形状を前述の通り規定し、第2領域S2のみを分離したダイス24Aで押さえるプレス成形を模擬した解析を実行した。図12では、第2稜線部CL2付近とその拡大図が示されている。なお、比較例と本変形例では、物性値などの解析条件を同一のパラメータに設定した。
【0055】
比較例と本変形例の解析結果を比較すると、本変形例よりも比較例の方がキャラクターラインにおける板厚減少幅の分布が広くなっていることがわかる(D2<D1)。即ち、比較例では、本変形例に比べてブランク材の位置ずれが発生し、キャラクターラインの先鋭性が失われている。従って、比較例に比べて本変形例の方が、線ズレを抑制するとともに、キャラクターラインが明確に形成されている。
【0056】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0057】
例えば、意匠面2に形成される稜線部の本数は2本に限定されず、3本以上形成されてもよい。具体的には、第1稜線部CL1および第2稜線部CL2とは別の第3稜線部(キャラクターライン)CL3を第1稜線部CL1および第2稜線部CL2と同一の意匠面上に有してもよい(図13,14参照)。その場合、第1稜線部CL1および第2稜線部CL2は、隣り合いかつ最も離れている2本として設定されてもよい。これにより、稜線部が3本以上ある場合でも少なくとも2本(第1稜線部CL1および第2稜線部CL2)についてはキャラクターラインを明確に形成できる。例えば、第3稜線部CL3は、意匠面2上において、第1稜線部CL1および第2稜線部CL2と交わる方向に延びてもよい(図13参照)。また、例えば、第3稜線部CL3は、意匠面2上において、第1稜線部CL1や第2稜線部CL2と概略平行に形成され、第1稜線部CL1および第2稜線部CL2と交わらない方向に延びてもよい(図14参照)。また、第3稜線部CL3の曲げ角度は、130度以上であってもよい。第3稜線部CL3の曲率半径は、20mm以下であってもよく、第1稜線部CL1、第2稜線部CL2をより先鋭化させるときには20mm以上であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態および変形例では、プレス成形品としてフードパネル1を例示したが、これ以外にも、ドアパネル、ヘンダーパネル、またはサイドパネルなどの自動車の外板パネルを例示できる。さらに言えば、プレス成形品の対象は、自動車の外板パネルに限定されず、意匠面上にキャラクターラインが形成される任意のパネル部材であり得る。
【符号の説明】
【0059】
1 プレス成型品(ブランク材)(フードパネル)
2 意匠面
3 製品部
3a 一端
3b 他端
4 周辺部
5 余肉部
6 肩部
6a 湾曲部
7 肩部
7a 湾曲部
10 プレス成形装置
11 プレス成形型
12 駆動装置
13 パンチ
13a 成形面
14 ダイス
14a 成形面
15 しわ押さえ板
20 プレス成形装置
21 プレス成形型
22 駆動装置
23 パンチ
23a 成形面
24,24A,24B ダイス
24a 成形面
25 しわ押さえ板
CL1 キャラクターライン(第1稜線部)
CL2 キャラクターライン(第2稜線部)
CL3 キャラクターライン(第3稜線部)
S1 第1領域(一端側領域)
S2 第2領域(中央領域)
S3 第3領域(他端側領域)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14