(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ガスノズル並びに燃焼装置
(51)【国際特許分類】
F23D 14/48 20060101AFI20241002BHJP
F23K 5/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
F23D14/48 A
F23K5/00 301B
(21)【出願番号】P 2021070766
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020107804
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】大稲 高裕
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-197971(JP,A)
【文献】特開平10-227415(JP,A)
【文献】特開2007-137039(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01355110(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23D 14/00 - 14/84
F23K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナに燃料ガスを供給する、板材料のプレス加工で成形されるガスノズルであって、燃料ガスが流入する内部空間を有する筒状のノズル本体と、燃料ガスの流入側であるノズル本体の基端とは反対側に位置する端壁部とを備え、端壁部に、ノズル本体の内部空間に流入した燃料ガスが噴出するノズル孔が形成されるものにおいて、
ノズル本体の内部空間側に位置するノズル孔の基部に、ノズル本体の内部空間に向けて孔径が次第に拡大する拡径部が設けられることを特徴とするガスノズル。
【請求項2】
前記拡径部は、前記ノズル本体の内部空間に向けて孔径の拡大率が次第に増加するように形成されることを特徴とする請求項1記載のガスノズル。
【請求項3】
前記ノズル本体の基端から端壁部までの距離は、1回のプレス加工で絞り成形可能な距離に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のガスノズル。
【請求項4】
バーナと、バーナからの燃焼ガスにより加熱される熱交換器とを備える燃焼装置であって、
バーナに燃料ガスを供給するガスノズルとして、請求項1~3の何れか1項記載のガスノズルが用いられることを特徴とする燃焼装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーナに燃料ガスを供給するガスノズル並びにこのガスノズルを用いた燃焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のガスノズルとして、板材料のプレス加工で成形されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このガスノズルは、燃料ガスが流入する内部空間を有する筒状のノズル本体と、燃料ガスの流入側であるノズル本体の基端とは反対側に位置する端壁部とを備えている。端壁部には、内部空間に流入した燃料ガスが噴出するノズル孔が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コストダウンのため、ガスノズルの素材となる板材料の板厚を薄くすると、プレス加工によるノズル本体の絞り深さを深くした場合、割れを生じやすくなる。そのため、板厚の薄い板材料のプレス加工でガスノズルを成形する場合は、ノズル本体の絞り深さを浅くせざるを得ない。
【0005】
然し、この場合は、ノズル本体の内部空間で燃焼ガスの流れが十分に整流されなくなる。その結果、燃焼性能が安定しなくなったり、所謂笛吹き音が発生するといった不具合を生じやすくなる。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ノズル本体の絞り深さが浅くても、燃焼性能が安定すると共に笛吹き音の発生も抑制できるようにしたガスノズル並びにこのガスノズルを用いた燃焼装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願の第1発明は、バーナに燃料ガスを供給する、板材料のプレス加工で成形されるガスノズルであって、燃料ガスが流入する内部空間を有する筒状のノズル本体と、燃料ガスの流入側であるノズル本体の基端とは反対側に位置する端壁部とを備え、端壁部に、内部空間に流入した燃料ガスが噴出するノズル孔が形成されるものにおいて、ノズル本体の内部空間側に位置するノズル孔の基部に、ノズル本体の内部空間に向けて孔径が次第に拡大する拡径部が設けられることを特徴とする。
【0008】
また、本願の第2発明は、バーナと、バーナからの燃焼ガスにより加熱される熱交換器とを備える燃焼装置であって、バーナに燃料ガスを供給するガスノズルとして、上述した第1発明のガスノズルが用いられることを特徴とする。
【0009】
本発明(第1発明)によれば、ノズル本体の絞り深さが浅く、ノズル本体の内部空間で燃料ガスの流れが十分に整流されなくても、ノズル孔の基部の拡径部によって燃料ガスの流れが整えられる。その結果、燃焼性能が安定すると共に笛吹き音の発生も抑制できる。
【0010】
尚、本発明において、拡径部は、ノズル本体の内部空間に向けて孔径の拡大率が次第に増加するように形成されることが望ましい。これによれば、拡径部を孔径の拡大率が一定になるように形成したものに比し、ノズル孔から噴出した燃料ガスが速い速度のまま到達する距離が長くなり、更に、ノズル孔への外部からの空気の流れ込みが少なくなる。
【0011】
また、本発明においては、ノズル本体の絞り深さが浅くても性能が悪化しない。そのため、ノズル本体の絞り深さ、即ち、ノズル本体の基端から端壁部までの距離を、1回のプレス加工で絞り成形可能な距離に設定することが可能になる。これによれば、プレス加工の回数を減らして、コストを可及的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明(第2発明)の実施形態の燃焼装置の斜視図。
【
図3】実施形態の燃焼装置のマニホールドを分離した状態の斜め下方から見た斜視図。
【
図4】本発明(第1発明)の実施形態のガスノズルを備えるマニホールドの斜め後方から見た斜視図。
【
図5】
図4のマニホールドのマニホールド本体とカバーとを分離した状態の斜め前方から見た斜視図。
【
図6】
図4のVI-VI線で切断した本発明の第1実施形態のガスノズルの拡大断面図。
【
図7】本発明の第2実施形態のガスノズルの
図6に対応する拡大断面図。
【
図8】本発明の第1実施形態のガスノズルにおける燃料ガスの噴出速度分布を示す線図。
【
図9】本発明の第2実施形態のガスノズルにおける燃料ガスの噴出速度分布を示す線図。
【
図10】比較例のガスノズルにおける燃料ガスの噴出速度分布を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1、
図2を参照して、本発明(第2発明)の実施形態の燃焼装置は、燃焼筐1と、燃焼筐1内の下部に並設した複数のバーナ2と、これらバーナ2に燃料ガスを供給するマニホールド3と、燃焼筐1内の上部に配置した、バーナ2からの燃焼ガスにより加熱される熱交換器4とを備えている。
【0014】
バーナ2の並設方向を横方向として、各バーナ2は、横方向に直交する水平方向である前後方向に細長い炎口部を上端に有する偏平バーナである。各バーナ2の下部には、混合管部21が設けられている。混合管部21の前端には、前方に開口する流入口22が設けられている。そして、マニホールド3の後述する各ガスノズル31から噴出する燃料ガスが各バーナ2の流入口22に流入すると共に、一次空気が流入口22に流入して、混合管部21で燃料ガスと一次空気との混合気が生成され、この混合気がバーナ2の炎口部から噴出して燃焼するようにしている。
【0015】
図3も参照して、燃焼筐1の底板11の前部には、上方に立上る段差部111が形成されている。この段差部111には、各バーナ2の混合管部21の流入口22に臨む開口112が開設されている。本実施形態では、6個のバーナ2が並設されるため、開口112が横方向に6個並設されている。尚、底板11には、各バーナ2の下縁を横方向両側から挟む、上方への窪み113が複数形成されている。また、燃焼筐1の前板12には、バーナ2に点火するための点火電極51と、バーナ2の火炎検知のためのフレームロッド52とを有する電極部品5が装着されている。
【0016】
熱交換器4は、横方向に積層した多数の吸熱フィン41と、これら吸熱フィン41を貫通する複数の吸熱パイプ42とを有するフィンアンドチューブ型熱交換器で構成されている。これら吸熱パイプ42は、燃焼筐1の上部外面のU字状に湾曲した複数の接続管43により直列に接続されている。そして、上流端の吸熱パイプ42に給水管44を接続し、下流端の吸熱パイプ42に出湯管45を接続している。
【0017】
燃焼筐1の上端には、排気フード6を介してファン7が接続されている。ファン7には、ファンモータ71が付設されている。熱交換器4を通過した燃焼ガスは、ファン7に吸引される。ファン7に吸引された燃焼ガスは、ファン7の出口72に接続される図示省略した排気筒を介して外部に排出される。また、
図3に示す如く、燃焼筐1の底板11には、多数の小孔114が形成されている。そして、ファン7の吸引力により各バーナ2に燃焼用空気が供給される。即ち、各開口112を介して流入口22から吸引される空気が各バーナ2に燃焼用の一次空気として供給されると共に、小孔114から吸引される空気が各バーナ2に燃焼用の二次空気として供給される。
【0018】
燃焼筐1の横方向両側の側板13の下部前端には、底板11の段差部111よりも前方に突出する舌片部131が設けられている。そして、マニホールド3を、横方向両側の端部に設けられた固定部34において、舌片部131にネジ34aで固定している。
【0019】
図4乃至
図6を参照して、マニホールド3は、各バーナ2の混合管部21の流入口22に向けて燃料ガスを噴出する、本発明(第1発明)の実施形態のガスノズル31が複数のバーナ2に対応して複数(本実施形態では6個)突設されたマニホールド本体3aと、マニホールド本体3aとの間に燃料ガスの分配室32を画成するカバー3bとで構成されている。カバー3bは、その周縁部において、マニホールド本体3aにシーム溶接されている。マニホールド3は、更に、流入口33を有している。上述した固定部34及び流入口33は、マニホールド本体3aに設けられている。流入口33には、これに接続したバルブユニット8を介して燃料ガスが流入する。そして、流入口33から流入した燃料ガスは、分配室32を介して各ガスノズル31に分配されて、各ガスノズル31から各バーナ2の混合管部21の流入口22に向けて噴出する。
【0020】
マニホールド本体3aは、板厚が比較的薄いステンレス鋼板等の板材料のプレス加工により形成されている。また、カバー3bも、マニホールド本体3aの素材よりも薄い板材料のプレス加工により形成されている。マニホールド本体3aに突設する各ガスノズル31は、当然のことながら、マニホールド本体3aの素材となる板材料のプレス加工で成形されることになる。各ガスノズル31は、
図6に示す如く、分配室32から燃料ガスが流入する内部空間311aを有する筒状のノズル本体311と、燃料ガスの流入側であるノズル本体311の基端とは反対側に位置する端壁部312とを備えている。端壁部312には、ノズル本体311の内部空間311aに流入した燃料ガスが噴出するノズル孔313が形成されている。
【0021】
ここで、コストダウンを図るために、ガスノズル31の素材、即ち、マニホールド本体3aの素材となる板材料の板厚を薄くすると、プレス加工によるノズル本体311の絞り深さを深くした場合、割れを生じやすくなる。そのため、板厚の薄い板材料のプレス加工でガスノズル31を成形する場合は、ノズル本体311の絞り深さを浅くせざるを得ない。特に、コストを可及的に削減するには、ノズル本体311の絞り深さ、即ち、ノズル本体311の基端から端壁部312までの距離Lを、1回のプレス加工で絞り成形可能な小さな距離に設定することが望まれる。例えば、マニホールド本体3aの素材である板材料が板厚1.2mmのステンレス鋼板(SUS304)である場合、1回のプレス加工で絞り成形可能な上記距離Lは4mm程度になる。然し、この場合は、ノズル本体311の内部空間311aで燃焼ガスの流れが十分に整流されず、燃焼性能が安定しなくなったり、所謂笛吹き音が発生するといった不具合を生じやすくなる。
【0022】
そこで、本実施形態では、ノズル本体311の内部空間311a側に位置するノズル孔313の基部に、ノズル本体311の内部空間311aに向けて孔径が次第に拡大する拡径部313aを設けている。ここで、
図6に示す第1実施形態のガスノズル31において、拡径部313aは、孔径の拡大率(孔径がRの箇所から孔軸方向に単位長さΔD離れた箇所での孔径をR+ΔRとして、ΔR/ΔDで表される値)が一定になるように、即ち、ノズル本体311の内部空間311aに向けて孔径が直線状に拡大するように形成されている。一方、
図7に示す第2実施形態のガスノズル31において、拡径部313aは、ノズル本体311の内部空間311aに向けて孔径の拡大率が次第に増加するように、即ち、内部空間311aに向けて孔径が曲線状に拡大するように形成されている。
【0023】
何れにしても、ノズル孔313の基部に拡径部313aを設ければ、ノズル本体311の内部空間311aで燃料ガスの流れが十分に整流されなくても、拡径部313aによって燃料ガスの流れが整えられる。その結果、燃焼性能が安定すると共に笛吹き音の発生も抑制できる。
【0024】
以上の効果を確認するために、流体解析ソフトによるシミュレーションを行った。条件は、ノズル本体311の基端から端壁部312までの距離Lを4mm、端壁部312の板厚を0.8mm、ノズル孔313の直径を1.5mm、ガスノズル31への供給ガス圧を1.0kPaとした。ノズル孔313の基部の0.2mmの範囲に、孔径が45°の角度で直線状に拡大する拡径部313aを設けた第1実施形態のガスノズル31では、燃料ガスの噴出速度分布が
図8に示すようになった。また、ノズル孔313の基部の0.55mmの範囲に、孔径が1.0mmの曲率半径の曲線状に拡大する拡径部313aを設けた第2実施形態のガスノズル31では、燃料ガスの噴出速度分布が
図9に示すようになった。一方、ノズル孔313の基部の拡径部を省略した比較例のガスノズル31´では、燃料ガスの噴出速度分布が
図10に示すようになった。尚、
図8~
図10において、a線の外側部分の速度は0~4.5m/秒、a線とb線との間の部分の速度は4.5~9.0m/秒、b線とc線との間の部分の速度は9.0~13.5m/秒、c線とd線との間の部分の速度は13.5~18.0m/秒、d線とe線との間の部分の速度は18.0~22.5m/秒、e線とf線との間の部分の速度は22.5~27.0m/秒、f線とg線との間の部分の速度は27.0~31.5m/秒、g線とh線との部分の速度は31.5~36.0m/秒、h線とi線との間の部分の速度は36.0~40.5m/秒、i線の内側部分の速度は40.5~45.0m/秒である。
【0025】
本発明(第1と第2の両実施形態)のガスノズル31では、ノズル孔313から噴出した燃料ガスが、比較例のガスノズル31´に比べて、速い速度のままより遠くまで到達している。このように噴出ガスの流速の速い領域が遠くまで到達すれば、一次空気をバーナ2の混合管部21の流入口22に送り込む力が大きくなり、燃焼性能が安定する。また、ノズル孔313の孔壁面とa線との間の部分は、ノズル孔313に外部から空気が流れ込む部分である。本発明のガスノズル31では、ノズル孔313の孔壁面とa線との間の部分が、比較例のガスノズル31´に比べて狭く、ノズル孔313への外部からの空気の流れ込みが少なくなる。ノズル孔313への外部からの空気の流れ込みが笛吹き音の発生原因となるため、本発明のガスノズル31では、笛吹き音の発生が抑制される。
【0026】
尚、ノズル孔313から噴出した燃料ガスが速い速度のまま到達する距離は、第2実施形態のガスノズル31のほうが第1実施形態のガスノズル31よりも長くなる。更に、
図9からは明らかでないが、ノズル孔313への外部からの空気の流れ込みは、第2実施形態のガスノズル31のほうが第1実施形態のガスノズル31よりも少なくなる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態は、マニホールド3に複数設けられるガスノズル31に本発明を適用したものであるが、単独で設けられるガスノズルにも同様に本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0028】
2…バーナ、31…ガスノズル、311…ノズル本体、311a…内部空間、312…端壁部、313…ノズル孔、313a…拡径部、L…ノズル本体の基端から端壁部までの距離、4…熱交換器。