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特許7564781ふっ素およびその化合物の濃度の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-01
(45)【発行日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ふっ素およびその化合物の濃度の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20241002BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20241002BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G01N31/00 Q
G01N31/00 Y
G01N33/18 C
G01N21/78 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021115932
(22)【出願日】2021-07-13
(65)【公開番号】P2023012339
(43)【公開日】2023-01-25
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 曜輔
(72)【発明者】
【氏名】平岡 康之
(72)【発明者】
【氏名】古谷 智之
(72)【発明者】
【氏名】大丸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 昌範
(72)【発明者】
【氏名】海野 円
(72)【発明者】
【氏名】三野 香里
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 由布子
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特許第4185982(JP,B2)
【文献】特開昭52-029797(JP,A)
【文献】特開2006-281057(JP,A)
【文献】島田曜輔,ふっ素簡易分析の計測における考察,地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集,2021年06月,Vol.26th,Page.421-422
【文献】白石直典,アルフッソンを用いるアルミニウム共存におけるフッ素の定量,分析化学,1968年,17巻8号,Page.1027-1030
【文献】橋谷博,アセチルアセトンをデマスキング剤とする水中フッ素の直接定量,分析化学,1979年,28巻,Page.680-685
【文献】向井孝一,共存するアルミニウムおよびフッ素の迅速定量,分析化学,1959年,8巻,Page.523-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 33/18
G01N 21/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水中のふっ素およびその化合物の濃度を簡易的に分析する方法であって、
地下水にオキシンの固体粉末を添加し、水溶液を撹拌し、上澄み液を抽出し、フィルターでろ過し、ろ過された水をランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法によるふっ化物イオンの比色分析によって定量し、
地下水にオキシンの固体粉末を添加する前または後に、地下水をpH8~11に調整することを特徴とするふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
【請求項2】
地下水100mlに対するオキシン固体粉末の添加量が0.2g以上であることを特徴とする請求項1に記載のふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
【請求項3】
地下水にオキシンの固体粉末を添加する前または後に、地下水をpH9~11に調整することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
【請求項4】
水溶液を攪拌する時間が10分以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水中のふっ素およびその化合物の濃度の簡易的な分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場等において、土壌中のふっ素およびその化合物の濃度(以下、適宜「ふっ素化合物濃度」と記載する。)が高い場合には、掘削除去を行って良質土と置換する処置が行われる。この場合、ふっ素化合物を確実に除去できたことを確認するための品質管理として、地下水中のふっ素化合物濃度を測定することが必要となる。
地下水中のふっ素化合物濃度を公定法で分析するには、外部の分析機関に採取した試料を送付して分析を依頼することになる。外部の分析機関に依頼する場合、分析結果が得られるまでに、通常は10日~2週間程度の期間が必要となる。
ここで、公定法によるふっ素化合物の分析方法とは、JIS K 0102に準拠して行われる方法であり、主として、ランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法による定量方法が用いられる。
ふっ素化合物は、ふっ化物イオン、金属ふっ化物などの総称であり、ふっ化物イオンとして定量される。ランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法による公定法では、まず、ふっ素化合物を蒸留分離して、ふっ素化合物をふっ化物イオンとして分離する。その後、ランタン(III)とアリザリンコンプレキソンとの錯体を加え、これがふっ化物イオンと反応して生じる青い色の複合錯体の吸光度を測定して、ふっ化物イオンを定量する。
この方法は、陰イオンの妨害は少ないが、陽イオンによる妨害を受けやすい。特に、アルミニウム、カドミウム、コバルト、鉄、ニッケル、ベリリウム及び鉛などが妨害するので、あらかじめ蒸留してふっ化物イオンを分離する。
【0003】
建設現場等においては、分析結果待ちで工事が停滞しないよう、分析結果が速やかに得られる簡易分析法を採用する場合がある。
現場で簡便にふっ化物イオン濃度の測定ができる簡易分析法として、共立理化学研究所社製デジタルパックテスト(形式DPM2-F)がある。共立理化学研究所社製デジタルパックテストは、ランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法に基づいて、検水中のイオン状態のふっ素(F)のみを測定するものである。検水の色は、ふっ化物イオンの濃度に応じて、低濃度の場合は赤色を呈し、濃度が高まるにつれて青紫色に変色する。そのため、色の変化の度合いから、ハンディタイプのデジタル測色器によってふっ化物イオン濃度を定量することができる。ふっ化物イオン濃度として、0.40~1.50mg/lの測定が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】向井孝一他、「共存するアルミニウムおよびフッ素の迅速定量」、Japan Analyst、1959、vol.8、P.523-525
【文献】白石直典、京都大学工学博士学位論文、「無機フッ素化合物中のフッ素の系統的定量法に関する研究」、昭和50年1月23日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、同じ地下水について簡易分析法と公定法でふっ素化合物濃度を測定した結果、両者の数値が大きく乖離するケースが発生した。現場での簡易分析法では、公定法で行う蒸留による前処理を実施しないことから、検水中のアルミニウムイオン等の溶解性金属の影響で測定結果に負又は正の誤差を生じた可能性があると考えられた。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、現場において迅速かつ簡便に測定ができ、地下水中に共存するアルミニウムイオン等の影響を低減できるふっ素化合物濃度の分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ふっ素化合物分析における溶解性金属等の影響を低減させる目的で、簡易分析法による測定の前に行う前処理方法についての検討を行った。
非特許文献1には、フッ素の共存下において、アルミニウムがオキシンと定量的に沈殿することが開示されている。また、非特許文献2には、ランタン-アリザリンコンプレクソン比色定量法において妨害となるアルミニウムイオンを除く方法として、アルミニウムイオンをオキシンキレートとしてクロロホルムで抽出除去する方法が開示されている。
しかし、非特許文献1および非特許文献2に記載の方法はいずれも、オキシンをクロロホルムで抽出除去するという操作を含むものであり、地下水汚染を防止することが求められる現場では、実施することが困難な方法である。
【0007】
本発明者らは、オキシンがアルミニウムと錯体を形成することによって、ふっ素化合物分析における溶解性金属等の影響を除去できる可能性に着目した。そして、オキシンはわずかながらも水に溶け、オキシンを固体のまま添加してもアルミニウム等の影響を排除し得る機能があることを見出した。さらに、地下水にオキシンの固体粉末を添加し、撹拌後にオキシンの錯体をろ過し、ろ過後の水溶液をランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法で測定することによって、公定法に近い精度で、地下水中のふっ素化合物濃度を分析できることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見を基になされたものである。すなわち、本発明は、以下の様な構成を有している。
(1)地下水中のふっ素およびその化合物の濃度を簡易的に分析する方法であって、地下水にオキシンの固体粉末を添加し、水溶液を撹拌し、上澄み液を抽出し、フィルターでろ過し、ろ過された水をランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法によるふっ化物イオンの比色分析によって定量し、地下水にオキシンの固体粉末を添加する前または後に、地下水をpH8~11に調整することを特徴とするふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
(2)地下水100mlに対するオキシン固体粉末の添加量が0.2g以上であることを特徴とする前記(1)に記載のふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
(3)地下水にオキシンの固体粉末を添加する前または後に、地下水をpH9~11に調整することを特徴とする前記(1)または前記(2)に記載のふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
(4)水溶液を攪拌する時間が10分以下であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれか1項に記載のふっ素およびその化合物の濃度の分析方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のふっ素化合物濃度の分析方法は、現場において迅速かつ簡便に測定ができ、地下水中に共存するアルミニウムイオン等の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】地下水中のふっ素化合物濃度を簡易的に分析する方法の基本的な操作手順を示すフロー図である。
図2】オキシン固体粉末の添加量に対して、公定法の分析値に対する簡易分析法の分析値の比率をプロットしたグラフである。
図3】pHに対して、簡易分析法によるふっ素化合物濃度の分析値をプロットしたグラフである。
図4】pHに対して、公定法によるふっ素化合物濃度の分析値をプロットしたグラフである。
図5】pHに対して、比率A/Bをプロットしたグラフである。
図6】pHに対して、アルミニウム濃度をプロットしたグラフである。
図7】pHに対して、アルミニウム除去率をプロットしたグラフである。
図8】pHに対して、簡易分析法によるふっ素化合物濃度の分析値をプロットしたグラフである。
図9】pHに対して、公定法によるふっ素化合物濃度の分析値をプロットしたグラフである。
図10】pHに対して、比率A/Bをプロットしたグラフである。
図11】撹拌時間に対して、簡易分析法によるふっ素化合物濃度の分析値をプロットしたグラフである。
図12】撹拌時間に対して、公定法によるふっ素化合物濃度の分析値をプロットしたグラフである。
図13】撹拌時間に対して、比率A/Bをプロットしたグラフである。
図14】撹拌時間に対して、アルミニウム濃度をプロットしたグラフである。
図15】撹拌時間に対して、アルミニウム除去率をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、以下詳細に説明する。但し、以下に記載する実施形態は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明者らは、簡易分析法で測定した数値と公定法で測定した数値とが大きく食い違う原因を検討したところ、検水中に共存するアルミニウムイオン等の溶解性金属が、ランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法によるふっ化物イオンの比色分析を阻害していることが判明した。具体的には、アルミニウム濃度が0.42mg/lであっても、簡易分析法(標準カラーサンプルを用いたパックテスト)において発色異常が発生した。
【0013】
そこで、本発明者らは、地下水中に共存するアルミニウムイオン等の溶解性金属の影響を遮蔽する手法について検討を進めた。その結果、オキシンが各種の金属イオンとキレートを形成して、水溶液中で沈殿物を生成すること、また、金属イオンが共存する系において、オキシンが金属イオンの除去剤として利用されてきたことを見出した。
オキシンとは、8-キノリノール、8-ヒドロキシキノリンとも称され、化学式がC9ONで表される白色結晶性の化合物である。水にはあまり溶けず、アセトン、アルコール、クロロホルムなどの有機溶媒、酢酸および無機酸に溶ける。
【0014】
しかし、従来のオキシンを用いた金属イオンの遮蔽方法は、必ずしも、現場において採用し得る前処理方法というものではなかった。
そこで、本発明者らは、ふっ素化合物の簡易分析法による測定の前に行う前処理方法として、地下水にオキシンの固体粉末を直接添加する方法について、その可能性を見極めるために、種々の検討を進めることとした。
【0015】
本発明者らによる地下水中のふっ素化合物濃度を簡易的に分析する方法の基本的な操作手順を示すフロー図を図1に示した。
(S1)操作1:地下水100mlをビーカーに分取する。
(S2)操作2:所定のpHになるようにpH調整を行う。
(S3)操作3:オキシンの固体粉末を所定量添加する。
(S4)操作4:水溶液を所定時間撹拌する。
(S5)操作5:水溶液の上澄み液を抽出する。
(S6)操作6:上澄み液をフィルターによってろ過する。
(S7)操作7:簡易分析装置を用いて、ろ過された水溶液のふっ化物イオンを比色分析によって定量する。
尚、操作2のpH調整を行う操作は、必要に応じて、操作3の後に行ってもよい。
【0016】
地下水にオキシンの固体粉末を添加する方法についての各種実験は、上記の基本的な操作手順に従って行った。
実験には、現場でも使用可能な簡易分析装置として、共立理化学研究所社製デジタルパックテスト(形式DPM2-F)を用いた。共立理化学研究所社製デジタルパックテストは、ランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法に基づいて、検水中のふっ化物イオンを比色分析によって定量することができる。
地下水は、実際に現場から入手した地下水(原水)を用いた。分析の結果、ふっ化物イオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、ニッケルイオンを含有するものであった。
オキシンは、林純薬工業(株)製の特級品を用いた。
フィルターは、ジーエルサイエンス社製カラム(SDB)Inert Sep PLS-2、細孔径6.0~8.0nmを用いた。
アルミニウムの定量分析は、アジレント・テクノロジー社製誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)7700xを用いて行った。
ふっ素化合物濃度を簡易的に分析する方法の比較の対象としての、公定法によるふっ素化合物の分析は、JIS K 0102に準拠して行った。
【0017】
(地下水に添加するオキシン固体粉末の添加量についての検討)
1.試験条件
pHを8.4に調整し、オキシンの固体粉末の添加量を地下水100mlあたり0.2g、1g、5g、20gの4種類とし、撹拌時間を人手による振とうで5分間とした以外は、基本的な操作手順に従って実験を行った。
【0018】
2.試験結果
試験結果を表1、図2に示した。オキシンの固体粉末の添加量に対して、公定法によるふっ素化合物濃度の分析値に対する簡易分析法によるふっ素化合物濃度の分析値の比率の関係を示した。
粉末オキシンの添加量0.2~20g間で、公定法に対する簡易分析法の比率は、約60~80%であった。
オキシンの添加量0.2gと20gとを比較すると、オキシンの添加量は100倍の差があるが、公定法に対する簡易分析法の比率は18%の差しかない。オキシンの添加量を多くしても公定法に対する簡易分析法の比率の増大は特に大きいものではなかった。
また、デジタルパックテストの検出範囲は0.40~1.5mg/lである。土壌汚染対策法の地下水基準のふっ素化合物濃度の基準値0.8mg/l以上を検出するには、0.4÷0.8×100=50%以上の比率で分析できれば、基準値を超過する地下水の分析が可能である。オキシンの添加量が0.2gのときに比率が59%であることから、オキシンの添加量が0.2g以上であれば、分析が可能である。
試験コストを考慮すると、オキシンの添加量は極力少ない方が望ましい。そこで、以降の実験では、オキシンの添加量を0.2gに固定して、検討を進めることにした。
【0019】
【表1】
【0020】
(pHが分析値に与える影響についての検討I)
1.試験条件
地下水(原水)のふっ素化合物濃度が低いため、地下水(原水)にふっ素標準液を添加した。具体的には、ふっ化物イオン1000ppm(F:1000mg/l)標準液を2ml分取し、2lの地下水(pH調整後)に添加して、ふっ素化合物濃度が1mg/lとなるようにした。pHを8、9、10、11の4種類に調整し、オキシンの固体粉末の添加量を地下水100mlあたり0.2gとし、撹拌時間を200往復/分×5分間とした以外は、基本的な操作手順に従って実験を行った。
【0021】
2.試験結果
試験結果を表2、図3~5に示した。
図3は、pHに対して、簡易分析法によるふっ素化合物濃度の分析値(デジタルパックテスト値A)をプロットしたグラフである。図4は、pHに対して、公定法によるふっ素化合物濃度の分析値(公定法の値B)をプロットしたグラフである。図5は、pHに対して、比率A/Bをプロットしたグラフである。
pH8~11の範囲でデジタルパックテスト値Aと公定法の値Bの比率A/Bは、約80~90%であり、50%以上であった。A/Bは、pH10付近にピークがあった。
デジタルパックテストによる分析値は、公定法による分析値にかなり近い良好な結果であった。ただし、原水のアルミニウム濃度は、0.66mg/lと低い値であった。
【0022】
【表2】
【0023】
(pHがアルミニウム除去に与える影響についての検討)
1.試験条件
pHが分析値に与える影響についての検討Iと同等の条件で実験を行った。
【0024】
2.試験結果
試験結果を図6~7に示した。
図6は、pHに対して、アルミニウム濃度をプロットしたグラフである。図7は、pHに対して、アルミニウム除去率をプロットしたグラフである。実線は、オキシンの固体粉末を添加したときの数値であり、破線は、オキシンの固体粉末を添加せず、ろ過もしないときの数値である。アルミニウム除去率は、オキシンの固体粉末を添加しないときに対するオキシンの固体粉末を添加したときのアルミニウムの除去率(減少率)を示している。
アルミニウムの除去率は、pHが8~10.8のときに、46~88%であり、pH9~11では80~88%であり、80%を超えていた。アルミニウムの除去率は、中性からpHが高くなるにつれて、増大する傾向にあり、pH10以上でさらに増大した。
オキシンの固体粉末を添加することによって、pH9~11のときには、地下水中のアルミニウムの80%以上が除去されたことが判明した。
【0025】
(pHが分析値に与える影響についての検討II)
1.試験条件
pHが分析値に与える影響についての検討Iを実施したが、原水のアルミニウム濃度が0.66mg/lと小さい値だったため、アルミニウムを人為的に添加して、再度検討Iと同じ試験を実施した。
具体的には、塩化アルミニウム6水和物(AlCl・6HO)(関東化学社製)を蒸留水に溶解して、アルミニウム濃度1000mgAl/lとなるように、アルミニウム標準液を作成した。当該標準液を、地下水(原水)に添加して、アルミニウム濃度が10mg/lとなるようにした。その後、pHを調整した。pHによってアルミニウム濃度も変化した。pHとアルミニウム濃度を以下に示す。( )内はアルミニウム濃度を示す。
pH8.0(0.42mg/l)、pH9.0(1.6mg/l)、pH10.0(3.4mg/l)、pH11.0(7.6mg/l)
その他の条件については、pHが分析値に与える影響についての検討Iと同様にして、基本的な操作手順に従って実験を行った。
【0026】
2.試験結果
試験結果を表3、図8~10に示した。
図8は、pHに対して、簡易分析法によるふっ素化合物濃度の分析値(デジタルパックテスト値A)をプロットしたグラフである。図9は、pHに対して、公定法によるふっ素化合物濃度の分析値(公定法の値B)をプロットしたグラフである。図10は、pHに対して、比率A/Bをプロットしたグラフである。
pH8~11の範囲でデジタルパックテスト値Aと公定法の値Bの比率A/Bは、約50~70%であり、50%以上であった。pH9~11で約70%前後の値を示し、安定していた。
デジタルパックテストによる分析値は、公定法による分析値にかなり近い良好な結果であった。
【0027】
【表3】
【0028】
(撹拌時間が分析値に与える影響についての検討)
1.試験条件
地下水(原水)のふっ素化合物濃度およびアルミニウム濃度が低いため、地下水(原水)に対して、ふっ素標準液を添加してふっ素化合物濃度が1mg/lとなるようにし、アルミニウム標準液を添加してアルミニウム濃度が5mg/lとなるようにした。pHを10.1に調整し、オキシンの固体粉末の添加量を地下水100mlあたり0.2gとし、撹拌時間を1、3、5、10、20分間とした以外は、基本的な操作手順に従って実験を行った。
【0029】
2.試験結果
試験結果を図11~13に示した。
図11は、撹拌時間に対して、簡易分析法によるふっ素化合物濃度の分析値(デジタルパックテスト値A)をプロットしたグラフである。図12は、撹拌時間に対して、公定法によるふっ素化合物濃度の分析値(公定法の値B)をプロットしたグラフである。図13は、撹拌時間に対して、比率A/Bをプロットしたグラフである。
撹拌時間が1~20分でA/Bの値は60%強~70%強であり、50%以上の値であった。
撹拌時間が5分までの比較的短い時間で、A/Bの値は70%強で最高点を示した。撹拌時間を10分~20分としても必ずしもA/Bの値は上昇しておらず、むしろ5分までの値より若干低い値となった。
したがって、撹拌時間は、10分以下とすることが好ましく、5分以下とすることがより好ましいという結果であった。
【0030】
(撹拌時間がアルミニウム除去に与える影響についての検討)
1.試験条件
撹拌時間が分析値に与える影響についての検討と同等の条件で実験を行った。
【0031】
2.試験結果
試験結果を図14~15に示した。
図14は、撹拌時間に対してアルミニウム濃度をプロットしたグラフである。図15は、撹拌時間に対してアルミニウム除去率をプロットしたグラフである。アルミニウム除去率は、当初の地下水(原水)にアルミニウム標準液を添加し、調製したアルミニウムの分析値に対するオキシンの固体粉末を添加した地下水中のアルミニウムの分析値の比率(減少率)を示している。
アルミニウムの除去率は、撹拌時間が1~20分間のときに、87~97%であり、撹拌時間による大きな差は見られなかった。
【0032】
以上、簡易分析法による測定の前に行う前処理方法として、地下水にオキシンの固体粉末を添加する方法について、各種の実験検討を行ってきたが、それらの結果をまとめると以下のようになる。
(1)公定法による分析値に対する簡易分析法による分析値の再現性という観点から見ると、粉末オキシンの添加量0.2~20g間で、公定法に対する簡易分析法の比率が約60~80%となることが判明した。
したがって、地下水100mlに対するオキシン固体粉末の添加量が0.2g以上であれば、公定法に代わって簡易分析法が十分に有効であることが分かった。
(2)公定法による分析値に対する簡易分析法による分析値の再現性という観点から見ると、地下水にオキシンの固体粉末を添加する前に、地下水をpH8~11に調整することが好ましく、pH9~11がより好ましく、pH10前後がさらに好ましいことが判明した。
(3)公定法による分析値に対する簡易分析法による分析値の再現性という観点から見ると、地下水にオキシン固体粉末を添加した後の撹拌時間は、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましいことが判明した。撹拌操作は、撹拌装置を用いることができる。
(4)地下水にオキシンの固体粉末を添加することによって、pH9~11のときには、地下水中のアルミニウムの80%以上が除去されることが判明した。
したがって、オキシンの固体粉末の添加によって地下水中のアルミニウムの大部分が除去されたことが、簡易分析法による測定の精度向上に寄与していることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15